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平成14年(行ケ)第207号 特許取消決定取消請求事件(平成15年6月18
日口頭弁論終結)
          判           決
       原      告   A
       訴訟代理人弁理士   内山充
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人   前田健男
       同          村山 隆
       同          大野克人
       同          宮川久成
       同          伊藤三男
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が異議2000-74007号事件について平成14年3月7日にし
た決定を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,名称を「ゴルフウッドクラブ」とする特許第3037642号発明
(平成8年特許願第245511号〔平成8年8月28日特許出願〕,平成8年特
許願第303600号〔平成8年10月29日特許出願〕,平成8年特許願第33
8999号〔平成8年12月4日特許出願〕及び平成9年特許願第26024号
〔平成9年1月24日特許出願〕に基づく優先権を主張して平成9年7月28日特
許出願,平成12年2月25日設定登録,以下「本件発明」といい,この特許を
「本件特許」という。)の特許権者である。
   本件特許につき特許異議の申立てがされ,異議2000-74007号事件
として特許庁に係属したところ,原告は,平成13年8月27日付け訂正請求書に
より,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲等
の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
   特許庁は,同特許異議の申立てについて審理した上,平成14年3月7日,
「特許第3037642号の請求項1,請求項4,請求項5,及び請求項6に係る
特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同
月30日,原告に送達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載(以下,この【請求項1】~【請求項1
0】を「訂正前請求項1」~「訂正前請求項10」,これらの請求項に係る発明を
「本件発明1」~「本件発明10」という。)
【請求項1】ロフト角度16度以下であって,フェース面の高さが40mm以
上で,ヘッドの容積Vが270~450mlであり,ヘッド重量Gが160~19
0gであり,シャフトの長さSが120cm以上であって,シャフトの長さSが下
記不等式(A)の範囲にあることを特徴とするゴルフウッドクラブ。
298-1.023G≦S<315.8-1.023G(A)
【請求項2】シャフト長さ125cm以上で,ヘッド容積270~450ml
であり,ヘッド重量Gが160~180gである請求項1記載のゴルフウッドクラ
ブ。
【請求項3】シャフト長さ130cm以上で,ヘッド容積300~450ml
であり,ヘッド重量Gが160~175gである請求項1記載のゴルフウッドクラ
ブ。
【請求項4】シャフトの長さSが下記不等式(B)の範囲にあることを特徴とす
る請求項1,請求項2又は請求項3記載のゴルフウッドクラブ。
299.5-1.023G≦S<315.8-1.023G(B)
【請求項5】シャフトの長さSが下記不等式(C)の範囲にあることを特徴とす
る請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4記載のゴルフウッドクラブ。
S≦170(V/200)
1/3
-55(C)
【請求項6】シャフトのグリップエンド側から30センチ分を除去したシャフ
トの重量が70g以下であることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3,請
求項4又は請求項5記載のゴルフウッドクラブ。
【請求項7】ロフト角度が13~21度の範囲であって,フェース面の高さが
30~40mmであり,ヘッドの容積Vが150~300mlであり,ヘッド重量
Gが160~200gであり,シャフトの長さSが120cm以上であって,シャ
フトの長さSが下記不等式(D)の範囲にあることを特徴とするゴルフウッドクラ
ブ。
298-1.023G≦S<315.8-1.023G(D)
【請求項8】シャフトの長さSが下記不等式(E)の範囲にあることを特徴とす
る請求項7記載のゴルフウッドクラブ。
299.5-1.023G≦S<315.8-1.023G(E)
【請求項9】シャフトの長さSが下記不等式(G)の範囲にあることを特徴とす
る請求項7又は請求項8記載のゴルフウッドクラブ。
S≦170(V/200)1/3
-40(G)
【請求項10】シャフトのグリップエンド側から30センチ分を除去したシャ
フトの重量が70g以下であることを特徴とする請求項7,請求項8又は請求項9
記載のゴルフウッドクラブ。
3 本件訂正の内容
(1)訂正事項a
 特許請求の範囲に係る記載を次のとおり訂正する(訂正部分には下線を付
す。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】ロフト角度16度以下であって,フェース面の高さが40mm
以上で,ヘッドの容積Vが270~450mlであり,ヘッド重量Gが160~1
90gであり,シャフトの長さSが125cm以上であって,シャフトの長さSが
下記不等式(A)の範囲にあることを特徴とするゴルフウッドクラブ。
298-1.023G≦S<315.8-1.023G   (A)
【請求項2】シャフト長さ125cm以上で,ヘッド容積270~450m
lであり,ヘッド重量Gが160~180gである請求項1記載のゴルフウッドク
ラブ。
【請求項3】シャフト長さ130cm以上で,ヘッド容積300~450m
lであり,ヘッド重量Gが160~175gである請求項1記載のゴルフウッドク
ラブ。
【請求項4】シャフトの長さSが下記不等式(B)の範囲にあることを特徴
とする請求項1,請求項2又は請求項3記載のゴルフウッドクラブ。
299.5-1.023G≦S<315.8-1.023G (B)
【請求項5】シャフトの長さSが下記不等式(C)の範囲にあることを特徴
とする請求項1,請求項2,請求項3又は請求頃4記載のゴルフウッドクラブ。
S≦170(V/200)1/3
-55          (C)
【請求項6】シャフトのグリップエンド側から30センチ分を除去したシャ
フトの重量が70g以下であることを特徴とする請求項1,請求項2,請求項3,
請求項4又は請求項5記載のゴルフウッドクラブ。
【請求項7】ロフト角度が13~21度の範囲であって,フェース面の高さ
が30~40mmであり,ヘッドの容積Vが150~300mlであり,ヘッド重
量Gが160~200gであり,シャフトの長さSが120cm以上であって,シ
ャフトの長さSが下記不等式(D)の範囲にあることを特徴とするゴルフウッドク
ラブ。
298-1.023G≦S<315.8-1.023G   (D)
【請求項8】シャフトの長さSが下記不等式(E)の範囲にあることを特徴
とする請求頃7記載のゴルフウッドクラブ。299.5-1.023G≦S<31
5.8-1.023G (E)
【請求項9】シャフトの長さSが下記不等式(G)の範囲にあることを特徴
とする請求項7又は請求項8記載のゴルフウッドクラブ。
S≦170(V/200)1/3
-40         (G)
【請求項10】シャフトのグリップエンド側から30センチ分を除去したシ
ャフトの重量が70g以下であることを特徴とする請求項7,請求項8又は請求項
9記載のゴルフウッドクラブ。」
(2)訂正事項b
 明細書段落0005の(イ)ドライバー型ウッドクラブの(1)の項の
「・・・160~190gであり,シャフトの長さSが120cm以上」の記載を
「・・・160~190gであり,シャフトの長さSが125cm以上」に訂正す
る。
(3)訂正事項c
 明細書段落0011の記載「131cm(約49インチ)が非力なゴルフ
ァー」を「131cm(約52インチ)が非力なゴルファー」に訂正する。
3 本件決定の理由
   本件決定は,別添決定謄本写し記載のとおり,本件訂正は,特許法120条
の4第3項において準用する同法126条2項の規定に適合しないから認められ
ず,本件発明1,4,5は,平成9年特許願第26024号の願書に最初に添付し
た明細書又は図面にのみ記載された発明であるから,これらの発明についての同法
29条の規定の適用の時は平成9年1月24日となり,本件発明6は,先の出願の
いずれの願書に最初に添付した明細書又は図面にも記載されていないから,この発
明についての同条の規定の適用の時は,本件特許に係る現実の特許出願の日である
平成9年7月28日となるところ,本件発明1,4,5,6は,いずれも平成8年
10月30日学習研究社発行の「ゴルフクラブチューンアップカタログ VOL.
6 パーゴルフ特別編集」に記載された発明であるから,同法29条1項3号の規
定に違反してされたものであり,同法113条2号に該当し,取り消されるべきも
のであるとした。
第3 原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定は,本件訂正を認めなかった誤り(取消事由)があり,違法として
取り消されるべきである。
 2 取消事由(本件訂正を認めなかった誤り)
(1)本件決定が,対応関係のある一群の数値を対応関係のないところで記載さ
れていた数値で置換することはできないとして,本件訂正を認めなかったのは,本
件明細書の記載の趣旨を誤って認定したことによるものである。本件明細書(甲
2)の段落【0003】には,「本発明は,一定の設計思想に基づき,非力のゴル
ファーに対するドライバーを製作すると,120cm(約47インチ)以上,好ま
しくは125cm(49インチ)以上」が望ましいと記載されている。ここにいう
「本発明」とは,訂正前請求項1を意味し,「一定の設計思想に基づき製作する」
とは,訂正前請求項1に示されている一定の技術的思想であり,そこには「125
cm以上」がさらに好ましい態様と記載されている。また,本件発明1の改善方法
として,①シャフトの長さを「120cm以上」から「125cm以上」とするこ
と,②ヘッド重量を「160~190g」から「160~180g」とすること,
の二つがあり,上記①,②の双方を採用したものが本件発明2であり,①のみを採
用したものが本件訂正に係る請求項1記載の発明である。そして,「125㎝以
上」は,「120cm以上」に含まれ,本件訂正に係る請求項1は,訂正
前請求項1と訂正前請求項2の中間に存在するウッドクラブであるから,文理上,
論理的に本件明細書に記載されていることとなり,訂正前請求項1の技術的範囲に
あることは明らかである。したがって,訂正前請求項1には,「125cm以上」
の構成は明白に記載されている。
(2)本件決定は,本件発明のウッドクラブの理論を,シャフトが長くなって
も,同じヘッドスピードで振り切れることを前提にしたものとして考察している。
確かに,本件発明はこの理論を基礎として成立しており,その理論は訂正前請求項
1記載の実験式(A)で示される。そして,図2(8頁)で説明するシャフトの長
さとヘッド重量の関係は,訂正前請求項1の実験式(A)の関係を説明するもので
ある。しかしながら,本件訂正に係るシャフトの長さ125cm以上とヘッド重量
160~190gは,実験式(A)を適用できるシャフトの長さとヘッド重量の領
域の範囲を特定したものであって,両者の関係を示したものではない。もともと,
訂正前請求項1のシャフトの長さ120cm以上とヘッド重量160~190gの
範囲に直接の関係はなく,両者の数値範囲の間には一体的関係はない。実際のウッ
ドクラブの利点は,正確度のみで評価されるものではなく,多少正確度が狂って
も,飛距離増大は望ましいとするのが一般的ゴルファーの傾向である。この需用者
の要求を加味して,本件明細書の段落【0003】では,本件発明1での設計思想
に基づく場合であっても,125cm以上が好ましい実験式(A)の範囲
となることを示したものである。
(3)本件決定は,「一定の設計思想」の内容は,「シャフトの長さとヘッド容
積及びヘッド重量とを一定の関係にすること」(決定謄本7頁下から第3段落)で
あるとした。しかし,本件訂正に係る請求項1記載の「ヘッドの容積Vが270~
450ml」,「ヘッド重量Gが160~190g」及び「シャフトの長さSが1
25cm以上」との特定は,実験式(A)が適用できる範囲を示したものであっ
て,三者の関係を示したものではない。シャフトの長さ120cm以上を125c
m以上へ変更したのは,単なる実験式の適用範囲を好ましい範囲に変更したもので
あって,本件明細書(甲2)の段落【0003】の記載によって,飛距離増大の観
点からヘッド重量と関係なく独立に好ましい範囲に変更できる数値である。本件決
定が,これらの特定におけるシャフトの長さ125cm以上の構成及びヘッド重量
160~190gの構成を,両者の関係を示すものと認定したことは,実験式
(A)の趣旨と,実験式の適用範囲を示す数値範囲とを混同したものであり,明白
な事実誤認である。
第4 被告の反論
 1 本件決定の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本件訂正を認めなかった誤り)について
(1)本件明細書(甲2)の段落【0003】の「本発明は,一定の設計思想に
基づき,非力のゴルファーに対するドライバーを製作すると,120cm(約47
インチ)以上,好ましくは125cm(49インチ)以上,さらに好ましくは12
9.5cm(51インチ)以上の長さ」との記載は,「シャフト長さの下限値」以
外の対応する諸条件を,「一定の設計思想に基づき」と概括するとともに,「シャ
フト長さの下限値」のみを列挙した段落【0006】の記載と同様に,概括,捨象
しての表現としか理解し得ない。したがって,段落【0003】記載の「本発明」
は,特定の請求項に係る発明を表しているとはいえず,列挙されたシャフト長さの
下限値は,ここに列挙されていることを根拠として,本件訂正前の対応する諸条件
の中での組合せを無視し,特定の請求項に係る発明の下限値とすることはできず,
段落【0003】の上記記載を根拠に,同記載の「本発明」が訂正前請求項1記載
の発明を意味しているとする原告の主張は失当である。また,原告主張の中間の発
明と称するもの(C線から出てE線に至るG軸に平行なS=125cmの下限線)
(本件訂正の請求項1に係る効果段階の区画線)が本件明細書に開示
されていないことはもとより,一般的法則の態様での中間の発明が明細書に開示さ
れているということもない。
(2)原告は,訂正前請求項1の120cm以上とヘッド重量160g~190
gの範囲に直接関係はなく,一体的関係はないと主張する。しかしながら,これら
シャフトの長さの下限規定と,ヘッド重量の下限及び上限規定は,共に組み合わせ
て実験式(A)が適用できる領域の範囲を特定しているものであるから,これら相
互に組み合わせられる諸数値間には,直接関係し,一体的関係があるというべきで
ある。
(3)本件決定に,原告主張の誤認混同はない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本件訂正を認めなかった誤り)について
(1)原告は,本件明細書(甲2)の段落【0003】の「本発明は,一定の設
計思想に基づき,非力のゴルファーに対するドライバーを製作すると,120cm
(約47インチ)以上,好ましくは125cm(49インチ)以上」にいう「本発
明」とは,訂正前請求項1を意味し,「一定の設計思想に基づき製作する」とは,
訂正前請求項1に示されている一定の技術的思想であり,そこには「125cm以
上」がさらに好ましい態様と記載されていると主張する。
 しかしながら,本件明細書(甲2)の段落【0005】には,「本発明
は,下記各項に示される発明よりなるものであり」と記載され,項は項(1)から
項(10)まであり,いずれも「ゴルフウッドクラブ」に係るものであるが,内容
的に特許請求の範囲の請求項1から請求項10に項番ごとに対応し(注,項(7)
のヘッド重量Gの重量範囲「160~190g」は「160~200g」の誤記と
解される。),ここで,請求項1に対応する項(1)には,シャフトの長さについ
て,「シャフトの長さSが120cm以上」と一つの下限値が記載されているのみ
である。これに対し,原告主張に係る段落【0003】は,【発明が解決しようと
する課題】として記載され,その記載中の「本発明は」は,「ドライバーを提供す
るものである」に係り,また,「フェアウエーゴルフウッドクラブを提供するもの
である」にも係っているから,「本発明」の対象は「ドライバー」及び「フェアウ
エーゴルフウッドクラブ」であり,同段落の「本発明は,一定の設計思想に基づ
き,非力のゴルファーに対するドライバーを製作すると,120cm(約47イン
チ)以上,好ましくは125cm以上,さらに好ましくは129.5cm
(51インチ)の長さ」との記載は,「シャフト長さの下限値」以外の対応する諸
条件を,「一定の設計思想に基づき」と概括するとともに,「シャフト長さの下限
値」のみを列挙したものにほかならない。そうすると,上記「本発明」は,本件発
明全体を表すものと解するのが相当であり,これが,訂正前請求項1に係る発明を
表しているものと解することはできない。したがって,原告の上記主張は採用する
ことができない。
(2)原告は,また,本件発明1の改善方法として,①シャフトの長さを「12
0cm以上」から「125cm以上」とすること,②ヘッド重量を「160~19
0g」から「160~180g」とすること,の二つがあり,上記①,②の双方を
採用したものが本件発明2であり,①のみを採用したものが本件訂正に係る請求項
1記載の発明であるところ,「125㎝以上」は,「120cm以上」に含まれ,
本件訂正に係る請求項1は,訂正前請求項1と訂正前請求項2の中間に存在するウ
ッドクラブであるから,文理上,論理的に本件明細書に記載されていることとなる
と主張するので,この点について検討する。本件明細書(甲2)の訂正前請求項1
には,シャフトの長さSとヘッド重量Gの関係について,
「298-1.023G≦S<315.8-1.023G」という不等式
で表わされ,その組合せについて,「非力の男性ゴルファー S=315-1.0
23G(注,図2のA線)」「女性ゴルファー S=301-1.023G(注,
図2のB線)」としている(段落【0011】)。上記の両式を一般化すると,
「S=-1.023G+a」となり,「非力の男性ゴルファー」にはaの値として
315を,「女性ゴルファー」にはaの値として301を与えていることになる
が,個々のプレーヤーの「力」の程度がこのように2極分化することはあり得ない
から,それぞれ典型的なモデルを想定したものとして理解される。次に,段落【0
012】には,ヘッド重量180gのドライバーNについて,「このドライバーN
を121cmの長さでスイングできる人の場合」として,ヘッド重量180g,シ
ャフトの長さ121cmで,図2のP点をとり,P点を通るD線を引くことが記載
されているが,D線のaの値を上記の式「S=-1.023G+a」から求めれ
ば,305.14となり,この値は非力の男性ゴルファー(A線)のaの値315
とも,女性ゴルファー(B線)のaの値301とも相違するから,非力の男
性ゴルファーと女性ゴルファーの「力」の程度の間に中間の「力」の程度のプレー
ヤーが存在することを指摘するものであり,aの値は連続的に変化し存在するもの
と認めることができる。したがって,個々のプレーヤーの「力」の程度に応じた,
適当なゴルフクラブのシャフトの長さとヘッド重量の関係式は,
S=-1.023G+a(298≦a<315.8) (A’)
となる。すなわち,個々のプレーヤーにとって適当なゴルフクラブのシャ
フトの長さとヘッド重量の関係は,図2において,傾きが-1.023の直線であ
り,個々のプレーヤーの「力」の程度によって適当なaの値が「非力」の範囲(2
98≦a<315.8)で定められる。そして,図2のD線上にP点,R点及びS
点が記載され,これらの点について,段落【0012】には,「例えば,このドラ
イバーNを121cmの長さでスイングできる人の場合,すなわち,図2のPの場
合,そのままそのドライバーNを使用するよりも,点Pから直線Dを左に辿り,1
65gのヘッド重量の位置Rの長さ135cmにした方が,30ヤード以上の飛距
離が得られることになる。また,P点のドライバーを使用した場合も,190gの
S点のドライバーを使用するよりも,25ヤード程度飛距離が増加することにな
る。同様に,S点のドライバーは,通常のドライバー200gで41インチの女性
用ドライバーよりも約20ヤード飛距離が増加することになる」と記載され,シャ
フトの長さとヘッド重量の組合せが,図2のD線上の右下の点よりも左上の点の方
が,「飛距離が増加する」ことを示している。これは,D線(S=-1
.023G+a,a=305.14)に限らず,上記式(A’)のすべてのaにつ
いて同様と考えられる。そして,本件発明1が,「ヘッド重量Gが160~190
gであり,シャフトの長さSが120cm以上」とし,本件発明2が,「シャフト
長さ125cm以上・・・ヘッド重量Gが160~180g」とし,本件発明3
が,「シャフト長さ130cm以上・・・ヘッド重量Gが160~175g」とし
たのは,図2において,右下の部分は,飛距離が出ない部分であるから,すべての
aについて,期待する効果がないとして,効果段階の第1番目の下限値を設け,そ
の右下の部分を排除し,次に,すべてのaについて,1段階上の効果が認められる
箇所に第2番目の効果段階の下限値を設け,さらに,すべてのaについて,もう1
段階上の効果が認められる箇所に第3番目の効果段階の下限値を設けたものである
と認めることができる。
 そこで,別紙図面(本件明細書〔甲2〕の図2の横軸をヘッド重量gを
表すG軸とし,縦軸をシャフト長さcmを表すS軸とし,便宜,E線〔上記式
(A’)においてaが上限値315.8の場合〕等を付記したもの)に基づき,効
果段階の下限値の規定について検討するに,本件発明1のヘッド重量Gの範囲規定
は「160~190g」であり,本件発明2のヘッド重量Gの範囲規定は「160
~180g」であり,本件発明3のヘッド重量Gの範囲規定は「160~175
g」であるが,ヘッド重量の上限の値のみが問題となるので,それぞれ「190g
以下」,「180g以下」及び「175g以下」となる。また,本件発明1のシャ
フトの長さSの規定は,「120cm以上」であり,本件発明2のシャフトの長さ
Sの規定は,「125cm以上」であり,本件発明3のシャフトの長さSの規定
は,「130cm以上」である。したがって,これらのヘッド重量の上限及びシャ
フト長さの下限は,別紙図面に,「請求項1」のヘッド重量G=190(g),シ
ャフト長さS=120(cm),「請求項2」のヘッド重量G=180(g),シ
ャフト長さS=125(cm),「請求項3」のヘッド重量G=175(g)
,シャフト長さS=130(cm)の直線として表される。そして,これらの交点
は,「請求項1」のa=(190,120),「請求項2」のa=(180,12
5),「請求項3」のa=(175,130)となり,この交点を通る傾き-1.
023の直線のaの値を求めれば,「請求項1」は,a=314.37,「請求項
2」はa=309.14,「請求項3」はa=309.025となり,これらのa
の値について,シャフトの長さSとヘッド重量Gの関係式である上記(A’)式の
aの下限値(a=298)とaの上限値(a<315.8)との関係を見ると,
「請求項1」については,298<314.37<315.8,「請求項2」につ
いては,298<309.14<315.8,「請求項3」については,298<
309.025<315.8であるから,各交点は,すべてS=-1.023G+
315.8(E線)と,S=-1.023G+298 (C線)が作る「幅」の内
側にある。そうすると,「請求項1」では,298≦a≦314.37の範囲で
は,右下の区画がS=120(cm)で規定され,314.37≦a<315.8
の範囲では,右下の区画がG=190(g)で規定されることになる。ま
た,「請求項2」では,298≦a≦309.14の範囲では,右下の区画がS=
125(cm)で規定され,309.14≦a<315.8の範囲では,右下の区
画がG=180(g)で規定されることになる。さらに,「請求項3」では,29
8≦a≦309.025の範囲では,右下の区画がS=130(cm)で規定さ
れ,309.025≦a<315.8の範囲では,右下の区画がG=175(g)
で規定されることになる。すなわち,S=-1.023G+315.8(E線)
と,S=-1.023G+298(A線)が作る「幅」の右下の区画線は,「請求
項1」から「請求項3」のいずれの場合においても,シャフトの長さSの下限値
と,ヘッド重量Gの上限値の,その双方の組合せによって,段階的に規定されてお
り,シャフトの長さの下限規定と,ヘッド重量の下限及び上限規定は,共に組み合
わせて実験式(A)が適用できる領域の範囲を特定しているものというべきであ
る。そして,原告主張の訂正前請求項1と訂正前請求項2の中間に存在するウッド
クラブが本件明細書に記載されているというためは,上記「請求項1」の区画線と
「請求項2」の区画線との中間に,これらとは別の区画線が存在することが本
件明細書に開示されていなければならない。しかしながら,本件明細書には,その
ような区画線を引くべき手段についての何らの開示もない。このことは,仮に,
「請求項1」~「請求項3」の効果段階を表す区画線にならって,C線からG軸と
平行に出る区画線を引いたとしても,そのまま真っ直ぐE線まで達するのか,それ
とも,「請求項1」~「請求項3」の効果段階を表す区画線と同様に,途中で折り
上げてS軸に平行な区画線となるのか,そして,この場合,折り上げる位置はどこ
なのかが不明であることからすれば,容易に理解されるところである。
 したがって,訂正前請求項1と訂正前請求項2の中間に存在するウッド
クラブが本件明細書(甲2)に記載されているとする原告の上記主張は,採用の限
りではない。
(3)なお,この点について,原告は,本件訂正に係るシャフトの長さ125c
m以上とヘッド重量160~190gは,実験式(A)を適用できるシャフト長さ
とヘッド重量の領域の範囲を特定したものであって,両者の関係を示したものでは
ないと主張する。しかしながら,上記(2)において検討したとおり,シャフトの長さ
の下限規定と,ヘッド重量の下限及び上限規定は,共に組み合わせて実験式(A)
が適用できる領域の範囲を特定しているものであるから,これら相互の値が関連性
を有することは明らかであり,原告の上記主張は採用することができない。
(4)原告は,さらに,「一定の設計思想」の内容は,「シャフトの長さとヘッ
ド容積及びヘッド重量とを一定の関係にすること」(決定謄本7頁下から第3段
落)であるとした本件決定の認定は,実験式(A)の趣旨と,実験式の適用範囲を
示す数値範囲とを混同したものであって,誤りであると主張する。しかしながら,
本件明細書(甲2)の「【発明が解決しようとする課題】本発明は,一定の設計思
想に基づき,非力のゴルファーに対するドライバーを製作すると・・・ドライバー
を提供するものである。また,同じ設計思想に基づく・・・フェアウエーゴルフウ
ッドクラブを提供するものである」(段落【0003】),「本発明者らは・・・
力学的及び幾何学に鋭意研究の結果,クラブ設計に際しシャフトの長さとヘッド容
積及びヘッド重量との一定の関係にすれば,シャフトを長くして飛距離を増大させ
ても再現性が良いドライバーが得られることを見いだし,この知見に基づき本発明
ドライバー型ウッドクラブを完成した。ついで・・・フェアウエーウッドクラブ
に,本発明ドライバーの技術思想を応用する場合に・・・フェース面の高さ並びに
シャフトの長さとヘッド容積及びヘッド重量との関係式をドライバーと相
違するものに訂正する必要があることを見いだして,この知見に基づいて本発明フ
ェアウエー用ウッドクラブを完成した」(段落【0004】)との記載によれば,
段落【0003】の「一定の設計思想」の内容は,段落【0004】にいう「シャ
フトの長さとヘッド容積及びヘッド重量とを一定の関係にすること」と認められる
から,これと同旨の本件決定の上記認定に,原告主張の誤りがあるということはで
きない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件決定を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠原勝美
    裁判官 岡本 岳
    裁判官 早田尚貴
(別紙)
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