弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁が原告に対し平成18年9月22日付けでしたa医院b分院を併せて
管理する旨の医療法12条2項に基づく許可申請を不許可とした処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告肩書地所在の診療所(名称「a医院」。以下「a医院」という。)
の開設者兼管理者であり医師の資格を有する原告が,愛知県半田保健所長(処分行
政庁。以下「半田保健所長」という。)に対し,愛知県知多郡α1××−3所在
の診療所(名称「a医院b分院」。以下「b分院」という。)を併せて管理する旨
の医療法12条2項の許可を申請したところ(以下,1人の医師等が2か所以上の
診療所等を管理することを単に「2か所管理」という。),半田保健所長から同申
請を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)を受けたため,本件不
許可処分の取消しを求める抗告訴訟である。
1前提事実(争いがないか,証拠上明らかである。)
(1)当事者
原告(昭和▲年▲月▲日生)は,昭和61年に医師免許を受けた医師であり,肩
書地において病床数9のa医院を開設,管理している(a医院は別紙図面の「a医
院(本院)」と記された場所に位置する。)。
半田保健所長は,愛知県半田市及び知多郡の区域を所管する愛知県半田保健所の
長であり,愛知県知事の委任を受けて医療法12条2項の許可を行う権限を有する
ものである(愛知県行政機関設置条例《平成13年愛知県条例第52号》2条4項,
愛知県事務委任規則《昭和40年愛知県規則第68号》2条,別表第1)。
(2)a医院及びb分院の開設の経緯
ア原告の父cは,昭和26年ころから,原告肩書地において,主として外科,
皮膚科,内科の診療を行う病床数10のa医院を開設,管理し,医師として診療を
行ってきた。
イcは,b分院の所在地において開設されていた診療所「d医院」が閉鎖さ
れた後,遅くとも昭和42年2月1日にb分院を開設して,2か所管理の許可を申
請し,同年3月25日,その許可(期間2年)を得た(b分院は別紙図面の「a医
院b分院」と記された場所に位置する。)。cは,その後,平成8年4月21日ま
での間,繰り返し2か所管理の許可(期間1年)を得てきた。
ウ原告は,平成6年ころからcと共にa医院等で診療を行っていたが,平成
8年1月ころから,b分院の開設者兼管理者となってb分院で診療を行うようにな
り,cは引き続きa医院の開設者兼管理者であったから,c及び原告はこの時点以
降2か所管理の許可を得ていない。
エcは,平成▲年▲月ころ死亡し,その後,他の医師がa医院の開設者兼管
理者となって診療を行い,原告は,引き続きb分院の開設者兼管理者として診療を
行っていた。そのころ,a医院の病床数は10から9に減少した。
オ原告は,平成16年6月から,a医院の開設者兼管理者となって診療を行
うようになり,そのころからe医師がb分院の開設者兼管理者となって診療を行う
ようになった。
カe医師は,平成18年7月31日付けで,愛知県知事に対し,b分院を廃
止する旨の届出をした。
(3)本件不許可処分及び本件訴訟に至る経緯
ア原告は,平成18年8月7日,半田保健所長に対し,現に管理するa医院
に加えて,新たにb分院の管理者となるため2か所管理の許可を求める申請(以下
「本件許可申請」という。)をするとともに,同許可がされた場合には,b分院を
開設する旨の開設届を提出した。
イ半田保健所長は,同年9月22日,愛知県の審査基準に照らし,近隣の医
療機関の配置状況等から,2か所管理により二つの診療所を運営しなければ地域住
民の医療の確保ができない場合に相当するとは判断できないこと,原告が現在管理
している診療所が有床であり,2か所の診療所を管理する業務を適正に遂行するこ
とが可能であるとは判断できないこと,以上を理由として,本件許可申請を不許可
とする本件不許可処分をした。
ウ原告は,同年11月1日付けで,愛知県知事に対し本件不許可処分につき
審査請求をしたが,同知事は,平成19年4月27日付けで,これを棄却する旨の
裁決をした。
エ原告は,同年5月25日,本件不許可処分の取消しを求める本件訴えを提
起した。
2関連法令等
(1)医療法(ただし,平成18年法律第84号による改正前のもの。以下,この
改正を「18年改正」という。)
1条の5第2項この法律において,「診療所」とは,医師又は歯科医師が,公
衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であつて,患者を人院させる
ための施設を有しないもの又は19人以下の患者を人院させるための施設を有する
ものをいう。
7条1項病院を開設しようとするとき,医師法(中略)第16条の4第1項の
規定による登録を受けた者(以下「臨床研修修了医師」という。)及び歯科医師法
(中略)第16条の4第1項の規定による登録を受けた者(以下「臨床研修修了歯
科医師」という。)でない者が診療所を開設しようとするとき,又は助産師でない
者が助産所を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事(診療所又は助産所
にあつては,その開設地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合におい
ては,当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。第8条から第9条まで,
第12条,第15条,第18条,第24条及び第27条から第30条までの規定に
おいて同じ。)の許可を受けなければならない。
10条1項病院又は診療所の開設者は,その病院又は診療所が医業をなすもの
である場合は臨床研修修了医師に,歯科医業をなすものである場合は臨床研修修了
歯科医師に,これを管理させなければならない。
12条1項病院,診療所又は助産所の開設者が,病院,診療所又は助産所の管
理者となることができる者である場合は,自らその病院,診療所又は助産所を管理
しなければならない。但し,病院,診療所又は助産所所在地の都道府県知事の許可
を受けた場合は,他の者にこれを管理させて差支ない。
2項病院,診療所又は助産所を管理する医師,歯科医師又は助産師は,その
病院,診療所又は助産所の所在地の都道府県知事の許可を受けた場合を除くほか,
他の病院,診療所又は助産所を管理しない者でなければならない。
13条診療所の管理者は,診療上やむを得ない事情がある場合を除いては,同
一の患者を48時間を超えて入院させることのないように努めなければならない。
ただし,療養病床に入院している患者については,この限りでない。
(18年改正により,同条は「患者を入院させるための施設を有する診療所の管理
者は,入院患者の病状が急変した場合においても適切な治療を提供することができ
るよう,当該診療所の医師が速やかに診療を行う体制を確保するよう努めるととも
に,他の病院又は診療所との緊密な連携を確保しておかなければならない。」と改
正された。同改正部分の施行日は平成19年1月1日)
(2)医療法施行規則
9条病院,診療所又は助産所の開設者が,法第12条第2項の規定による許可
を受けようとするときは,左に掲げる事項を記載した申請書をその病院,診療所又
は助産所所在地の都道府県知事に提出しなければならない。
一当該医師,歯科医師又は助産師が現に管理する病院,診療所又は助産所及
び当該医師,歯科医師又は助産師に新たに管理させようとする病院,診療所又は助
産所の名称,所在の場所,診療科名,病床数及び従業者の定員
二当該医師,歯科医師又は助産師に,当該病院,診療所又は助産所を管理さ
せようとする理由
三現に管理する病院,診療所又は助産所と,新たに管理させようとする病院,
診療所又は助産所との距離及び連絡に要する時間
(3)昭和53年4月1日作成の愛知県の「病院開設許可等事務処理要領」(乙2。
以下「本件処理要領」という。)第5章第2
ア病院等の管理者が,他の病院等を同時に管理することは,原則として認め
られないが,次のような場合に限り許可するものとする。
(ア)特定の者を診療対象として開設した無床の診療所であって,診療時間など
からみて管理者として,その業務が遂行できると認められるとき。
(イ)地域住民の医療の確保の上から,診療所の設置が必要不可欠と認められる
場合であって,管理者としてその業務が遂行できると認められるとき。
イ許可期間は1年以内とし,やむを得ないと認められるときに限り,更新さ
せるものとする。
ウ申請書には,2箇所以上管理を行う医師,歯科医師の免許証の写し及び地
区医師会の意見書を添付させること。
3争点
(1)本件処理要領の合理性
(2)本件不許可処分の違法性
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)について
(原告の主張)
(1)半田保健所長は本件処理要領に準拠して本件不許可処分をしたものであると
ころ,本件処理要領は,2か所管理の許可をするのは,①特定の者を診療対象とし
て開設した無床の診療所であって,診療時間などからみて管理者として,その業務
が遂行できると認められるとき(以下「本件基準①」という。),②地域住民の医
療の確保の上から,診療所の設置が必要不可欠と認められる場合であって,管理者
としてその業務が遂行できると認められるとき(以下「本件基準②」という。)の
いずれかの要件を満たす場合に限ることを規定している。
(2)本件基準①においては,診療所が「特定の者」のみを診療対象とすることを
要件として挙げているが,医師は医師法19条1項の応招義務を負うから,基準と
しての適格を欠いている。被告は,本件基準①の「特定の者」を診療対象とする例
として,特定の会社の従業員や特定の学校の学生といった特定の集団を対象とする
診療所を挙げるが,これらの集団が何万人にも達することもあるから,「特定の者
を診療対象」とする旨の要件はそれ自体合理性を欠く。
また,本件基準①は「無床」の診療所であることを挙げているが,有床であって
も実質的に2か所の診療所を管理することが可能な場合はあり得るのであり,その
ような場合があるにもかかわらず,これをすべて除外してしまうのは,極めて失当
である。
以上のように考えると,「特定の者を診療対象として開設した無床の診療所」と
は,管理者としてその業務が遂行できる場合の例示にすぎないものであって,それ
が許可の条件そのものと解するべきではない。もし,これが例示ではなく,許可に
不可欠の要件を定めているとするなら,それはあまりにも不合理であって,許可基
準として不適切なものといわざるを得ない。
(3)本件基準②においては,「地域住民の医療の確保の上から,診療所の設置が
必要不可欠」という要件を挙げているが,これは病院,診療所等の開業の自由,開
設の自由つまりは職業選択の自由(憲法22条1項)を著しく制限するものとして
機能するものであり,許可基準の要件とするのは妥当でない。
医業選択の自由は,診療所等の医療機関を自らの好む時期,場所において選択す
る自由を含むことはいうまでもない。この自由は公共の安全等に対する重大で明ら
かな侵害が及ぶことが充分に予想される場合を除いて,基本的に尊重されるべきも
のである。それがなければ地域医療の確保ができない場合においてしか許可しない
というのは,職業選択の自由を極度に侵害するものであって,失当というほかはな
い。
しかも,「地域住民の医療の確保の上から,診療所の設置が必要不可欠と認めら
れる場合」という要件は,それ自体が抽象的準則であり,地域医療確保の見地から
の必要不可欠性を具体化すべき細則や取扱内規は定められておらず,その判断の客
観性や妥当性を担保する措置は何ら採られておらず,許可権者の広範な裁量にゆだ
ねてしまっているのであり,恣意や濫用のおそれが多分にある。
したがって,同要件は,診療所の開設を要望する者があり,かつ,同診療所の存
在が地域医療の向上のために有益であると認められるときと解すべきである。
(4)以上に述べたとおり,半田保健所長が準拠した本件処理要領は,合理的理由
に欠けるものであり,かつ,医業選択の自由に対する過度の規制を及ぼすものであ
って,医療法12条2項の趣旨及び内容に適合せず,審査基準そのものが医療法に
違反しているから,本件処理要領に従ってされた本件不許可処分の違法性は明白で
ある。
(被告の主張)
(1)医療法12条2項が,診療所等の2か所管理を知事の許可にかからしめた趣
旨は,1人の医師が2か所以上の診療所等の管理者となることは,診療所等の運営
の円滑を欠き,ひいては医療内容の適正を欠くおそれがあるのみならず,人の生命
・身体に関わる種々の重大な弊害が予想されるため,無制限に行われることがない
よう,1人の医師が2か所以上の管理者になることを大原則として禁止し,ただし,
こうした弊害が生じないことが客観的に担保されている等の特段の事情がある場合
にのみ,例外的に2か所管理を許容する趣旨であって,こうした医療法12条2項
の趣旨目的が,医療の性質上極めて正当であることは明らかである。
(2)本件基準①における「特定の者」とは,医療法1条の5第2項にいう「特定
多数人」と同義であり,特定の会社の従業員や特定の学校の学生といった特定の集
団を指しており,一般外来を受け付けないという点で一般の診療所と明確に区別さ
れるものである。このように一般外来を受け付けず,かつ,無床の診療所であれば,
管理者である医師が別の診療所の管理者を兼ねていても,別の診療所と診療時間が
重複しない等の事情があれば,医療法12条2項が想定しているような弊害が生じ
るおそれがないことは明らかである。
(3)本件基準②は,無医地区のような地域では必要やむを得ない場合があること
を想定した基準であり,しかも,「管理者としてその業務が遂行できると認められ
るとき」という要件にも示されているとおり,こうした地域であれば無制限に2か
所管理を認めているわけではなく,あくまで客観的な業務遂行能力を条件としてお
り,合理的な基準である。
(4)医療法12条2項及びこれを受けて定められた本件基準①,②は,あくまで
1人の医師が診療所等の2か所以上の管理者を兼ねる場合に適用されるものであっ
て,1人の医師が管理者として1か所の診療所を開設することは何の問題もなく,
また,医療法人を設立して2か所の診療所等を設置することも可能である。こうし
た点からいうと,医療法12条2項及び本件基準①,②が職業選択の自由(憲法2
2条1項)を侵害しているか否かは疑問である上,百歩譲ったとしても,国民の生
命・健康を保護するための規制として,公共の福祉に基づく必要かつ合理的なもの
であることは明らかである。
2争点(2)について
(原告の主張)
(1)本件基準①の適合性について
アb分院は,α2地区だけでなく同地区外に居住している者も診療の対象と
しているが,実際には,他地区からb分院に受診に来る患者は絶無とはいえないも
ののほとんどいない状況である。したがって,b分院は,事実上α2地区の住民の
みを対象としており,実質的に特定の者を対象とした診療所といえるものである。
半田保健所長は,本件許可申請をめぐる事前の折衝の中で,α3の保健センター
は特定の者を診療の対象としているため,そこの管理者となっている者が他で有床
の診療所の管理者となっていても何ら支障はなく,法の要件を満たしている等と述
べ,本件との差異を正当化していたが,保健センターは,特定の者のみを診療の対
象としているものではなく,同センターが管轄する地域の住民の診療を行うもので
あって,仮に,特定の地域に居住する者のみを診療の対象とするという意味で特定
されていると解するのであれば,専らα2地区に居住している者を原則として診療
するb分院においても対象者が特定されているといわなければならない。
イa医院とb分院間は自動車で10分以内の短距離にあること,b分院の診
療日は月,水,金の週3回であり,その診療時間も1日当たり2時間であること,
原告は携帯電話を常時携行し何時でも連絡が取れる体制にあること,したがって,
a医院で緊急の事態が生ずれば直ちにa医院に急行し診療を行うことができること,
等々の事情からすれば,a医院での管理が困難と見るべき事情は全くない。
ウしたがって,半田保健所長が本件許可申請について本件基準①を満たして
いないと判断してこれを不許可とした本件不許可処分は違法である。
(2)本件基準②の適合性について
アb分院は,α4のα5地区とα6地区の中間点であるα2地区にあるが,
α2地区には病院,診療所は皆無であり,いわば無医地区となっている。α2地区
は東に急峻な山をひかえ,西は海に面した南北に細長い地域である。このような地
理的特性から,地域住民が医療機関での診療を受けるには,α5地区かα7地区
(α8漁港及びα6中心街周辺の地域)へ赴く以外には方法がない。
イ近年α2地区を含む周辺地域の過疎化,高齢化,核家族化は一段と進行し
ている。fバスを利用してα2地区からg医院,h医院へ行くとしても,平日受診
時刻に間に合う便は午前中のわずか3便のみである。また,愛知県i病院の運行す
るマイクロバスがα2地区を通っているが,このバスは,農協の組合員や同病院の
関係者が診療を受けたり業務を行うのに利用するために運行されており,それ以外
の者がそれ以外の目的で利用することはできない。
したがって,α2地区から他地区への移動は自動車を利用する以外にはなく,自
ら運転することができない高齢者は,他の人の運転する自動車に同乗させてもらっ
て通院するしか方法がないが,家族がない者や高齢者ばかりの家族であれば,それ
もかなわないという実情である。
ウこのような状況から,b分院は,長年にわたり,地域住民にとって必要不
可欠の診療所としてその役割を果たしてきた。
近年における一層の高齢化・過疎化の進行により,α2地区に常設の医療機関が
存在すべき必要性がより増しており,地域住民のb分院に寄せる期待は,高まりこ
そすれ弱まることはない状況にある。
地域住民が手軽に,困難を伴うことなく,しかもタクシー等を利用することもし
ないで通院し得るb分院の存在は,健全な地域医療の向上に資するものであり,地
域住民の健康の維持・増進の上からも極めて重要で不可欠のものであると考えられ
る。
エα4は,前記の地理的特性から従前より分院が存在し,α9地区には本院
をα10に置くj医院の分院が,α11地区には本院をα5地区に置くk医院の分
院が,α12には本院をα13に置くl医院の分院が,それぞれ開設されていた。
平成6年にk医院の分院が閉鎖され,α7地区の医療機関が南方へ移動したため,
α2地区の医療過疎は一段と進行しており,α2地区住民は以前にも増して遠方の
医療機関へ通院せざるを得なくなってきており,分院の必要性が一層高まっている
ことは明らかである。
オb分院は,昭和29年に開設者の転居に伴いd医院が閉鎖されたのを機に,
原告の父cが開設したものであり,以降a医院と共に地域の医療向上に貢献してき
た。cが2か所管理の許可を得ていた時期もかなり長期にのぼっている。
カb分院は,従前から少なからぬ患者のかかりつけの医院となっており,地
域住民が時間も労力も金もかけずに気安く手軽に受診し得るα2地域における唯一
の診療所である。地域住民約1800人のうち約1300人もがb分院の存続を求
める嘆願書に署名した実績もある。
b分院の開設者e医師が愛知県知事に対し平成18年7月31日付けで突如廃止
届を提出したため,b分院での診療を受けることができなくなった少なからぬ患者
は現在途方に暮れており,適正な治療を受ける機会を奪われた。b分院の存続は,
長年にわたる地域住民の願いであり,これを平然と無視する本件不許可処分には一
片の正当性もない。
キしたがって,半田保健所長が本件許可申請について本件基準②を満たして
いないと判断してこれを不許可とした本件不許可処分は違法である。
(被告の主張)
(1)本件基準①の適合性について
アb分院が「特定の者」を診療対象としている施設でないことは明白である。
原告は,b分院の診療対象は事実上α2地区の住民のみに限定されている旨主張す
るが,そもそも地域住民というだけでは「不特定」であることは明らかである上,
b分院は一般外来を想定した診療所であり,原告自身もα2地区以外の住民の患者
を受け付けることは認めているから,本件許可申請が本件基準①を満たさないこと
は明らかである。
原告は,α3の保健センターの管理者について2か所管理の許可がされているこ
とを指摘するが,保健センターは,地域保健法18条1項により設置された施設で
あり,同条2項により特定された管轄の地域住民を対象とし,特定された時間にあ
らかじめ特定された住民の健康相談,保健指導及び健康診査その他地域保健に関し
必要な事業のみを行っているものであり,一般公衆・不特定多数を診療対象とする
診療所とは比較の対象となるものではない。
イ本件基準①は,「診療時間などからみて管理者として,その業務が遂行で
きると認められるとき」という要件も定めているが,原告が管理者を務めるa医院
は,病床数に従って最大9人の患者の入院が想定され,1人の医師(原告)と2人
の看護師という体制でこれに対応しなければならないから,分院の管理まで適正に
行うことができるほどの余裕があるとは認め難い。
原告は,いわゆる診療所における48時間規制(18年改正前の医療法13条)
があるため,それほど重傷の入院患者はいないとも述べるが,18年改正後の医療
法13条においては,48時間規制は削除され,診療所において長期入院も可能と
なり,入院施設のある診療所は,入院患者の病状が急変した場合においても適切な
治療を提供することができるよう,当該診療所の医師が速やかに診療を行う体制を
確保するよう努めることとされている。したがって,有床の診療所であるa医院は,
長期の入院患者も想定した診療体制にしておかねばならないし,重傷の入院患者は
いないという原告の供述も,確実な裏付けがあるものではない。
a医院は,消防法2条9項,救急病院等を定める省令(昭和39年厚生省令第8
号)1条1項に規定する「救急診療所」の認定を受けているから,救急車で患者が
搬送されてきた場合,他に救急患者がいて対応できないなどの特段の事由がない限
り救急業務に協力する義務を負っている。また,地区医師会は当番制で休日診療を
実施しており,a医院が休日当番となった場合,診療所として開設している以上,
患者に対して医師法19条1項の応招義務を負う。さらに,a医院は,在宅療養支
援診療所(診療報酬の算定方法《平成18年厚生労働省告示第92号》別表第1第
2章第1部区分B004,特掲診療料の施設基準等《平成18年厚生労働省告示第
94号》第3の5参照)にも指定されているから,在宅療養支援を受けている患者
から要請があれば,24時間対応できるよう体制を整えておく必要がある。
以上のようなa医院の状況を考慮すれば,本件におけるa医院とb分院に係る2
か所管理の本件許可申請が「診療時間などからみて管理者として,その業務が遂行
できると認められるとき」という要件を満たしていないことは明らかである。
ウしたがって,本件許可申請は本件基準①を満たしていないことが明らかで
ある。
(2)本件基準②の適合性について
アα2地区は,b分院の周辺地区としてα2地区から範囲を広げてみても,
無医地区ではなく,厚生労働省が平成16年12月に実施した無医地区等調査の結
果によっても,α4には無医地区に指定されている地区はない。
b分院から,原告のいう「東に急峻な山」を迂回したとしても,約2㎞の距離に
g医院が,約2.5㎞の距離にh医院がある。また,α5地区にはk医院,m医院,
h医院がある。これらは,バスを利用すればb分院から10分前後,バスを降りて
からの距離も200∼500mの距離にあり,α2地区の地域住民も十分利用可能
である。α2地区からg医院やh医院までは,バス等の公共交通機関が運行されて
いるほか,日常的に診療所を利用する患者は自家用車を利用することが多いと考え
られる(なお,g医院やh医院には駐車場が整備されているのに対し,b分院は駐
車場が整備されているとはいい難い。)。
以上の事実関係によれば,α2地区は「地域住民の医療の確保の上から,診療所
の設置が必要不可欠」であるとは認められないし,本件基準②は「管理者としてそ
の業務が遂行できると認められるとき」という客観的な業務遂行能力を要求してい
るところ,前記(1)で述べたa医院の実情を考慮すれば,原告にはb分院における
管理者としての業務遂行能力があるとは認め難い。
イ原告は,cが昭和42年3月25日以降b分院における2か所管理の許可
を得ていた点を指摘するが,それは,当時の社会状況や医療水準を踏まえた地域医
療確保の観点からの許可と思われる。
昭和42年当時は,医療法12条2項の許可に係る審査基準が具体的に定められ
ていなかったようであり,自家用車が普及していなかったこと,乳幼児数が多かっ
たこと,訪問看護等の在宅医療サービスがほとんどなく在宅医療を支援する在宅療
養支援診療所制度もなかったことなど,約40年前は医療をめぐる状況が現在とは
全く異なっていたため,診療所の必要性はより高かったものと考えられる。そして,
半田保健所長は,cに対していったん2か所管理を許可した後は,特段の変化がな
いとして,そのままcに対する2か所管理の許可を繰り返してきたものと思われる
が,現行の本件基準①,②に照らせば,cに対して許可すべきではなかったもので
あるから,cに対して過去に2か所管理を許可していた事実をもって,本件許可申
請についても同様に許可すべきであるとはいえない。
ウ原告は,地域住民がb分院の開設を要望している旨主張し,その要望を示
すものとして嘆願書(甲8)を提出するが,同嘆願書はその署名者1人1人の真意
を示すものかどうかの確証がない上,同嘆願書はa医院が平成7年に保険医療機関
の指定を取り消されそうになった際に作成されたものであるから,地域住民がb分
院の開設を要望しているという原告の主張には多大な疑問が残る。
エしたがって,本件許可申請は本件基準②を満たしていないことが明らかで
ある。
第4争点に対する判断
1争点(1)について
(1)医療行為は生命・健康という国民の重大な法益に関わり,患者の病状によっ
ては速やかな対応が求められることから,医療法は,医業を行う診療所等の管理者
を医療に関する知識,経験を備えた臨床研修修了医師に限るとともに(10条1
項),管理者の果たすべき義務として,その診療所等に勤務する医師その他の従業
者を監督し,その業務遂行に欠けるところのないよう必要な注意をしなければなら
ないこととするほか(15条1項),他の病院等との連携の確保等(13条),医
療の安全確保のための措置(6条の10),退院する患者の療養環境の配慮(1条
の4),診療所等に係る報告(6条の3),入院中の治療計画書の作成等(6条の
4)等を定め,管理者に対し当該診療所等が良質かつ適切な医療を提供する体制の
確保を図る責務を課している。
ところで,医療法は,病院,診療所又は助産所を管理する医師,歯科医師又は助
産師は,その病院,診療所又は助産所の所在地の都道府県知事の許可を受けた場合
を除くほか,他の病院,診療所又は助産所を管理しない者でなければならないと規
定して(12条2項),原則として1人の医師が管理する診療所等は1か所とする
こととし,例外として都道府県知事の許可がされた場合にのみ2か所以上の診療所
の管理を認める旨規定している。これは,診療所等の管理者の上記責務の内容等に
照らし,医師が同時に2か所以上の診療所等の管理者となることは,診療所等の業
務遂行に支障を来し,ひいては良質かつ適切な医療の提供が困難となるおそれがあ
るため,原則として医師が同時に2か所以上の診療所等の管理者となることを禁止
した上で,このような弊害が生ずるおそれがないと客観的に認められる特段の事情
がある場合においてのみ,医師が同時に2か所以上の診療所等の管理者となること
を許容する趣旨に出たものと解される。そして,医療法12条2項が単に「知事の
許可」とのみ規定し,許可の要件を具体的に規定していないことにもかんがみると,
2か所管理を許可するか否かについては,上記法の趣旨を踏まえた知事及びその委
任を受けた保健所長の合理的な裁量にゆだねられたものと解するのが相当である。
以上の観点から,本件基準①,②の合理性について検討する。
なお,本件処理要領が,「次のような場合に限り許可するものとする」と定めて
いることに照らすと,愛知県においては,本件基準①,②に該当する場合及びこれ
に準ずるような場合(上記弊害が生ずるおそれがないと客観的に認められる特段の
事情のある場合)に限って許可することとしたものと解される。
(2)本件基準①について
ア本件基準①は,「特定の者を診療対象として開設した無床の診療所であっ
て,診療時間などからみて管理者として,その業務が遂行できると認められると
き」において2か所管理を認める旨を規定する。
新たに管理する診療所等が「特定の者」を診療対象とし,かつ,「無床」であれ
ば,診療対象者が限定され一般外来に備えた体制や入院患者の病状の急変等に対応
する体制を採る必要もないことから,現在管理している診療所等と新たに管理する
診療所等の双方における業務を両立し,診療所等の円滑・適正な運営を確保するこ
とが担保されていると考えられ,本件基準①はこうした趣旨に基づいて規定された
ものと解される。
イ原告は,本件基準①において新たに管理することになる診療所が「特定の
者」のみを診療対象とすることを要件として挙げていることについて,「特定の
者」のみを診療対象とすることは,医師が負う医師法19条1項の「応招義務」に
反するものであり,また,特定の集団が何万人にも達することもあるから,当該要
件は合理性がない旨主張する。
医療法は,診療所等の開設・管理等の医療体制の確保に関する事項を定め,1条
の5第2項において特定多数人のために医業を行う診療所の開設を許容している。
一方,医師法は,19条1項において「診療に従事する医師は,診察治療の求があ
つた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない。」と規定してい
るところ,これは医師自身が果たすべき義務等を定めたものであるから,特定の者
のみを対象とした診療所に従事する医師であっても,緊急の治療を要する患者があ
る場合において,その近辺に他の診療に従事する医師がいない場合等においては,
当該医師の応招義務がないとはいえないと解される。そして,医療法は,医師が応
招義務を負うことを前提としつつ,医療体制の確保という観点から,特定の会社の
従業員,特定の学校の学生等の特定の集団のための診療所の設置を認めることの必
要性,合理性を認めて,「特定の者」を対象とする診療所の設置を認めたものと解
すべきであって,医療法が「特定の者」のみを対象とする診療所の設置を認めてい
ることと,医師法が医師の応招義務を定めていることは相反するものとはいえない。
したがって,本件基準①において診療所が「特定の者」を診療対象としているこ
とを要件とすること自体が合理性を欠くということはできないし,また,「特定の
者」の集団が何万人にも達することがあったとしても,本件基準①は「診療時間な
どからみて管理者として,その業務が遂行できると認められるとき」という要件を
満たすことをも求めているから,「特定の者」の集団が何万人にも達するような事
例が存することをもって,本件基準①が合理性を欠くということもできない。
ウ原告は,本件基準①において新たに管理することになる診療所が「無床」
であることを要件としていることについて,有床であっても2か所管理が可能な場
合があり得る旨主張する。
しかし,18年改正後の医療法13条は,入院施設を有する診療所の管理者に,
入院患者の病状が急変した場合においても適切な治療を提供することができる診療
体制の確保を義務付けており(本件許可申請が許可を求める2か所管理の期間中
《許可期間は1年》の平成19年1月1日に18年改正後の医療法が施行され,し
かも本件不許可処分の時点で18年改正法が公布されていたから,本件許可申請の
許否の判断に際しては18年改正後の医療法を踏まえて判断すべきである。),1
8年改正前の医療法13条は,入院施設を有する診療所の管理者に,原則として4
8時間を超えて入院させることのないように努めることを求めていたが,そうした
入院時間の制限があった時点においても,入院患者の病状が急変した場合に速やか
な対応が求められることに変わりはない。
このように,新たに管理することとなる診療所が「有床」である場合には,管理
者が,現在管理している診療所等の管理と両立させて,入院患者に対する適切な治
療提供を含めた診療所の円滑・適正な運営を確保することは,一般に困難であると
認められる。
エ以上によれば,本件基準①の「特定の者を診療対象として開設した無床の
診療所であって,診療時間などからみて管理者として,その業務が遂行できると認
められるとき」との要件を満たす場合においては,医師が同時に2か所以上の診療
所等の管理者となったとしても,診療所等の業務遂行に支障を来し,ひいては良質
かつ適切な医療の提供が困難になるおそれがないと客観的に認められる特段の事情
があるということができるから,合理的な基準であると認められる。
(3)本件基準②について
ア本件基準②は,「地域住民の医療の確保の上から,診療所の設置が必要不
可欠と認められる場合であって,管理者としてその業務が遂行できると認められる
とき」において2か所管理を認めることを規定する。
無医地区においては地域住民にとって診療所等の設置が必要不可欠な場合があり,
そのような場合においても,1人の医師が当該地域の診療所等のみの管理者となる
という原則を貫くことは,無医地区において医療施設を確保する途を閉ざすことに
もなりかねない。本件基準②は,そのような無医地区における医療施設を確保する
必要性から,「管理者としてその業務が遂行できると認められるとき」という前提
の下で,当該地域における診療所等の開設に伴う2か所管理を許可することとした
ものであって,本件基準②は合理的なものと認められる。
イ原告は,本件基準②が,職業選択の自由(憲法22条1項)を極度に侵害
するものである上,当該要件が抽象的準則であってその判断において恣意や濫用の
おそれが多分にある旨主張する。
しかし,1人の医師による2か所管理が制限されたとしても,1か所の診療所等
の管理者となること自体は制限されるものではなく,また,医療法人を設立して2
か所の診療所等を開設し他の医師に管理してもらうことも可能である。また,医療
法は,前記(1)で述べたとおり,生命・健康という国民の重大な法益を保護するた
め,1人の医師による2か所管理を制限する規定を設けているものであって,この
趣旨に照らせば,本件基準②も公共の福祉に基づく必要かつ合理的な規制内容であ
ると認められ,また,本件基準②は,その規定文言に照らして,恣意や濫用のおそ
れが多分にあるものとは直ちに認められない。
(4)以上のとおり,本件基準①,②は,医療法12条2項の2か所管理の許可に
係る具体的審査基準として合理的なものと認められ,これに準ずるような場合を含
めて審査基準とした本件処理要領の定めは,同法12条2項の趣旨に沿った合理的
なものということができる。
2争点(2)について
前記1で述べたとおり,本件基準①,②はいずれも2か所管理の許可の審査基準
として合理的な内容であると認められるから,以下,a医院とb分院の2か所管理
に係る本件許可申請が本件基準①,②の具体的審査基準を満たしているか否かを検
討する。
(1)本件基準①について
アb分院は,特定の会社の従業員,特定の学校の学生等の特定の集団を診療
対象とするものではないから,「特定の者を診療対象として開設された」という要
件を満たしていない。原告は,b分院の診療対象は事実上α2地区の住民に限定さ
れている旨主張するが,そもそも地域住民というだけでは「特定の者」と認められ
ないことは明らかである上,原告自身が本人尋問の際にb分院においてα2地区以
外の住民の患者を受け付けることを認めているように,b分院は一般外来を想定し
た診療所であって「特定の者を診療対象」とするものではないことは明らかである。
原告は,α3の保健センターの管理者について2か所管理の許可がされているこ
とを指摘するが,保健センターは,地域保健法18条1項により設置された施設で
あり,同条2項により特定された管轄の地域住民を対象とし,特定された時間にあ
らかじめ特定された住民の健康相談,保健指導及び健康診査その他地域保健に関し
必要な事業のみを行っているものであるから,保健センターにおいて2か所管理の
許可がされているからといって,b分院に関して2か所管理の許可をしないことが,
不合理な差別的取扱いであるとは到底認められない。
イまた,本件基準①は,「診療時間などからみて管理者として,その業務が
遂行できると認められるとき」という要件も定めているので,この要件の充足性に
ついて検討する。
原告が管理者を務めるa医院は,1人の医師(原告)と2人の看護師という体制
で診療を行っていることが認められるところ(原告本人),病床数9で最大9人の
患者の入院が想定され,これらの入院患者に対する適切な治療提供を1人の医師
(原告)と2人の看護師で行わなければならず,前記1(2)ウで述べたとおり,入
院患者の病状が急変した場合に速やかな対応が求められることもあり得るのである
から,原告がa医院に加えてb分院の管理まで適正に行うことができるほどの余裕
があるとは認め難い。
しかも,a医院は,消防法2条9項,救急病院等を定める省令1条1項に規定す
る「救急診療所」の認定を受けていること,在宅療養支援診療所に関する診療報酬
の適用を受けるための届出をしていることが認められるから(原告本人),救急診
療所として,救急車で患者が搬送されてきた場合,他に救急患者がいて対応できな
いなどの特段の事由がない限り救急業務に協力する義務を負うとともに,在宅療養
支援診療所として,在宅療養支援を受けている患者から要請があれば,24時間往
診が可能な体制等を整えておく必要がある。
以上のようなa医院の状況に照らせば,a医院とb分院間は自動車で10分以内
の短距離にあること,b分院の診療日は月,水,金の週3回でありその診療時間も
1日当たり2時間であること,原告は携帯電話を常時携行し何時でも連絡が取れる
体制にあることなどの原告主張の事実関係を踏まえても,a医院とb分院の2か所
管理に係る本件許可申請が「診療時間などからみて管理者として,その業務が遂行
できると認められるとき」という要件を満たしているとは認められない。
ウしたがって,本件許可申請は本件基準①を満たしていない。
(2)本件基準②について
ア厚生労働省は「無医地区等調査実施要領」(平成17年3月3日付け厚生
労働省医政局長通知)を定め,無医地区等の状況,最寄医療機関までの交通事情及
び無医地区等の内情等の調査を実施しているが,同調査において,無医地区とは
「医療機関のない地域で,当該地区の中心的な場所を起点として,おおむね半径4
㎞の区域内に50人以上が居住している地区であって,かつ容易に医療機関を利用
することができない地区をいう。」と定められており,平成16年12月現在で愛
知県は5町3村23地区が無医地区とされているが,α4には無医地区に指定され
ている地区は存しない(乙3,4)。
イb分院から最も近い診療所であるα6地区のg医院及びh医院は,別紙図
面の「g医院」,「医療法人h医院」と記された場所に位置し,b分院の東に位置
する山を迂回(別紙図面に記載された道路に沿って迂回)したとしても,約2∼2.
5㎞の距離にある。
fバスのα14線は,α5発で,b分院から一番近いバス停のα15を経由して,
α2,α16,α17,α6を経由し,α18港に着くもの,及びその逆方向の走
行経路を通るものであり,α15とα6間の所要時間は約4分,平日のα5発α1
8港着の便は,α15の経由時刻が午前7時27分,午前9時15分,午前10時
15分,午前11時55分,午後0時55分,午後2時55分,午後3時55分,
午後4時50分,午後5時50分であり,α18港発α5着の便は,α15の経由
時刻が午前7時54分,午前9時49分,午前10時49分,午後0時29分,午
後1時29分,午後3時29分,午後4時29分,午後5時24分,午後6時24
分である(甲3添付の時刻表)。このα14線(α5発α18港行)の午前中の3
便を利用すれば,バスの所要時間は約4分で,α6のバス停からg医院までの距離
が約100m,h医院までの距離が約600mであり(α6のバス停でfバスのα
19線に乗り換えてα20のバス停まで行くと,同医院までの距離は約200m),
α2地区の住民がこれらの診療所で診療を受けることが可能である(甲6,乙1,
弁論の全趣旨)。
ウb分院の北西のα5地区には,h医院,k医院及びm医院が,別紙図面の
「h医院」,「k医院」,「m医院」と記された場所に位置し,α2地区の住民が
上記のfバスのα14線を利用してこれらの診療所で診療を受けることも可能であ
る(なお,α15とα5間の所要時間は約15分である。)。
エi病院のマイクロバスが,平日は,①午前8時30分に同病院を出発し,
α5,α11,α21を経由し,午前8時57分にα2,午前9時5分にα6を経
由し,α22,α23を経由して,午前9時25分に同病院に到着するもの,②午
前10時45分に同病院を出発し,α23,α22を経由し,午前11時4分にα
6,午前11時10分にα2を経由し,α21,α11,α5を経由して,午前1
1時35分に同病院に到着するもの,③午後1時に同病院を出発し,α23,α2
2を経由し,午後1時19分にα6,午後1時25分にα2を経由し,α21,α
11,α5を経由して,午後1時55分に同病院に到着するもの,の3便が運行さ
れている(甲3添付の時刻表)。なお,i病院はへき地医療拠点病院に指定されて
いる(乙4)。
オそうすると,α2地区は,厚生労働省による「無医地区等調査実施要領」
が定める「無医地区」には該当しない上,α2地区の住民は,約2∼2.5㎞の距
離にあるα6地区のg医院及びh医院,α5地区のh医院,k医院及びm医院に,
自家用車,タクシー又はfバスを利用して通院することが可能であり(fバスの便
数は多くはないが,通院すること自体に支障を来すとはいえない。),へき地医療
拠点病院に指定されているi病院のマイクロバスを利用して同病院に通院すること
も可能であると認められるから,本件許可申請が本件基準②の「地域住民の医療の
確保の上から,診療所の設置が必要不可欠と認められる場合」との要件を満たすも
のとはいえない。
また,本件許可申請が本件基準②の「管理者としてその業務が遂行できるとき」
との要件を満たすとはいえないことは,前記(1)イで述べたとおりである。
カなお,原告は,cが従前b分院における2か所管理の許可を得ていた点を
指摘する。
前記前提事実記載のとおり,cが昭和42年3月25日から平成8年4月21日
までの間b分院に係る2か所管理の許可を得ていたことが認められるが,昭和42
年当時は,乳幼児数が現在よりも多かったこと,訪問看護等の在宅医療サービスが
ほとんどなく,現在のような24時間在宅医療を支援する在宅療養支援診療所制度
もなかったこと,自家用車も現在ほど普及していなかったこと(愛知県内の昭和4
2年度の自家用車数は平成17年度の約20分の1にすぎない。乙8の1・2)な
ど,医療をめぐる状況が現在とは全く異なっていたため,診療所の必要性は現在よ
りも高かったものと推認できること,愛知県衛生部長が昭和45年8月29日に医
療法12条2項の2か所管理の許可に関し本件基準①,②とほぼ同内容の審査基準
を策定したが(乙7),それ以前の昭和42年当時は医療法12条2項の許可に係
る審査基準が具体的に定められていなかったこと,また,cの受けた2か所管理の
許可が平成8年4月21日に失効して以降原告が本件許可申請をした平成18年8
月7日まで10年以上にわたりa医院とb分院に係る2か所管理の許可はされてい
ないこと,以上の諸事情に照らせば,近時における高齢化等の事情を考慮しても,
cが昭和42年から平成8年まで繰り返し2か所管理の許可を得ていた事実から,
平成18年にされた本件許可申請に係る2か所管理が本件基準②の要件を備えたも
のであると直ちに認めることはできない。
また,原告は,地域住民がb分院の開設を要望している旨主張し,その要望を示
すものとして嘆願書(甲8)を提出するが,同嘆願書からα2地区が「地域住民の
医療の確保の上から,診療所の設置が必要不可欠と認められる場合」に当たるとは
直ちに認められない(なお,同嘆願書は,本件許可申請の10年以上前である平成
7年にa医院が保険医療機関の指定を取り消されそうになった際に作成されたもの
である。原告本人)。
キしたがって,本件許可申請は本件基準②を満たしていない。
(3)そうすると,a医院とb分院の2か所管理に係る本件許可申請は,本件基準
①,②を満たしていないし,また,上記のとおり,「管理者としてその業務が遂行
できると認められるとき」との要件を満たしていないことにかんがみると,これら
の具体的審査基準に準じて2か所管理を許可すべき特段の事情があるものとも認め
られないから,これを不許可とした本件不許可処分は,知事及びその委任を受けた
保健所長の合理的な裁量の範囲内にあるものと認められ,適法なものと認められる。
3結論
以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり
判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
松並重雄裁判長裁判官
前田郁勝裁判官
裁判官片山博仁は転補のため署名押印することができない。
松並重雄裁判長裁判官

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