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平成30年9月19日判決言渡
平成30年(行ケ)第10006号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年9月3日
判決
原告株式会社ドクター中松創研
被告特許庁長官
同指定代理人前川慎喜
小野忠悦
井上博之
樋口宗彦
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2016-14940号事件について平成29年11月22日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,進歩性の判断の当否である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「ローコスト・イージー衛生ウォッシュトイレ」とする発明につ
き,平成26年9月24日に特許出願し(特願2014-194376号。甲4。
以下「本願」という。),平成27年11月16日,手続補正をした(甲7)が,平
成28年6月7日付けで拒絶査定を受けた(甲8)。
原告は,同年10月5日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2016-149
40号。甲9)が,特許庁は,平成29年11月22日,「本件審判の請求は,成り
立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同審決謄本は,原告に送
達された。
2本願発明の要旨
本願の補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとお
りである(甲4,7)。
「便座に座った時の両足の便座前方先端に水平方向に押すボタンを設けたことを
特徴とするシンプル操作ローコスト・イージー衛生ウォッシュトイレ」
3本件審決の理由の要点
(1)主引用発明の認定
本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭60-164346号(実開昭
62-72373号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)には,以下
の発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「用便後の人体の局部を温水洗浄したり温風乾燥することができる温水洗浄便座
本体2を付設した便器1であって,
便座本体2は,便座本体2の略垂直方向の壁面となる周側壁8の面上に,温水洗
浄便座Aの諸機能の操作スイッチ3,即ち,洗浄ノズル7を使用姿勢から格納姿勢
に姿勢変更させる操作スイッチ3a,洗浄温水を噴出させる操作スイッチ3b,洗
浄温水温度の温度調整用の操作スイッチ3c,温水吹出圧調整用の操作スイッチ3
d,温風吹出用の操作スイッチ3e,温風温度調整用のスイッチ3f,便座本体2
の暖房用の操作スイッチ,この暖房温度調整用の操作スイッチ等の操作スイッチ
3・・・類を設けてある,
便座本体2を付設した便器1」
(2)本願発明と刊1発明との対比
ア一致点
「便座に操作スイッチを設けたウォッシュトイレ」
イ相違点1
便座に設けた「操作スイッチ」の配置について,本願発明では,「便座に座った時
の両足の間の便座前方先端」と特定されているのに対し,刊1発明では,そのよう
に特定されていない点
ウ相違点2
「操作スイッチ」の態様について,本願発明では,「水平方向に押すボタン」と特
定されているのに対し,刊1発明では,そのように特定されていない点
エ相違点3
「ウォッシュトイレ」について,本願発明は,「シンプル操作ローコスト・イージ
ー衛生」と特定されているのに対し,刊1発明では,そのように特定されていない

(3)相違点についての判断
ア相違点1について
刊行物1の「[考案の目的]本考案は,・・・全体構成を簡素にしながらその操作
性を高めることができる温水洗浄便座を提供することにある。」,「[考案の開示]便
座本体2に座った状態での操作性を向上させることができ」との記載から,刊1発
明は,温水洗浄便座における操作スイッチについて,全体構成を簡素にしながらそ
の操作性を高めることを目的とし,また,便座本体2に座った状態での操作性を向
上させるとの課題を有しているといえる。
そして,一般的に,操作スイッチの配置は当業者が適宜に決定し得る設計事項で
あるところ,本願の出願日前に頒布された特開2002-250070号公報(以
下「刊行物2」という。)には,「便座の中央部先端付近で人体の内股で挟まれる便
座の位置に」「洗滌,水量,温度調節,など操作用ボタン」「を設け」,「体をねじる
ことなくそのままボタンを直視し操作し得るので極めて便利でトラブルがない」よ
うにした構成が記載され,また,本願の出願日前に頒布された特開昭59-828
22号公報(以下「刊行物3」という。)には,「操作部(3)」を「便座(2)に座
った時の両足の間」である「便座(2)前部に洗浄水水量調節つまみ,乾燥スイッ
チ,便座の温度調節つまみ等の各種の操作部(3)を取り付け」,「後ろ向きに振り
向く必要はなく,手前部分で容易に操作できる」ようにした構成が記載されている。
このように,便座に座った時の両足の間の便座前方に操作スイッチを置いた構成が
公知であって,このような構成では,体をねじったり後ろを向いたりする必要がな
く操作できるので操作性が向上するから,当業者であれば,刊1発明の「便座本体
2の略垂直方向の壁面となる周側壁8に」設ける「操作スイッチ3・・・類」につ
いても同様に,「便座に座った時の両足の間の便座前方」の「周側壁8」への配置を
試みる,すなわち便座の前方先端に配置することは容易に想到できる。
イ相違点2について
操作スイッチとして押しボタンは本願出願前から周知慣用であるところ,刊行物
2の「【0006】・・・図1は従来のウオッシュレット1の側方に設けた上面図で
ありウオッシュレット操作ボタン盤2には洗滌,水量,温水調節,など操作用ボタ
ン3を取り付けてある。」との記載のとおり,ウオッシュレット(人体の局部洗浄装
置)の「洗滌,水量,温水調節」などの操作スイッチにボタンのスイッチを用いる
ことは本願出願前から周知である。したがって,当業者は,この周知技術を採用し
て,刊1発明の「操作スイッチ3・・・類」の「洗浄温水を噴出させる操作スイッ
チ3b」,「洗浄温水温度の温度調整用の操作スイッチ3c」,「温水吹出圧調整用の
操作スイッチ3d」等をボタンとすることは容易に想到できる。
本願発明で,ボタンを「水平方向に押す」と特定している点については,「ボタン」
という語の「機械などを作動させるために指で押す,突出した部分」という意味(広
辞苑第六版)からみて,ボタンは「押す」ものであるところ,刊1発明の「操作ス
イッチ3・・・類」は,「略垂直方向の壁面となる周側壁8の面上に」設けられてい
るものであるから,操作スイッチとしてボタンを採用すると,そのボタンを押す方
向が水平方向となることは明らかである。
以上のとおり,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が刊1発明及び上記周
知技術に基づいて容易に想到し得るものである。
ウ相違点3について
「シンプル操作ローコスト・イージー衛生」という発明特定事項は,単に,本願
発明の「便座に座った時の両足の間の便座前方先端に水平方向に押すボタンを設け
た」「ウォッシュトイレ」という構成の性質,作用又は効果を記載したものに過ぎず,
前記ア,イのとおり,本願発明の相違点1及び2に係る構成は,当業者が容易に想
到できるものであり,構成が同じであれば同様の性質,作用又は効果を奏するとい
えるので,相違点3は実質的な相違点とはいえない。
(4)以上のとおり,本願発明は,当業者が刊1発明及び刊行物2,3に記載さ
れた技術並びに周知技術に基づいて容易に発明をすることができたのであるから,
特許法29条2項により特許を受けることはできない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)
(1)刊1発明は,公知の旧式なウォッシュトイレであり,操作スイッチ3は便
器2の右側方にあるのに対し,本願操作スイッチ5の配置は前方である。これによ
り刊1発明は身体をひねる不便さや安全性が本願発明と相違する。
(2)本願発明は,以下のとおり,刊行物2に記載された発明(以下「刊2発明」
という。)が有する11点の欠点をすべて解決した発明であるが,これには特別の発
明力を必要とするから,当業者が容易に想到することはできない。
ア刊2発明では便座に座る際に上からスイッチを押してしまう誤動作が起
きるのに対し,本願発明はボタン21,22,23を便座の前方水平に設けた。
イ刊2発明ではスイッチに上から掃除水や尿が浸入するのに対し,本願発
明はボタン21,22,23を前方水平にし,従ってボタン孔が垂直となり尿や掃
除の水が入り込まないようにした。
ウ刊2発明では便座に装置を入れるため便座の製造が難しいのに対し,本
願発明では装置は便器内に設けず,ボタン21,22,23のみを設け,装置25
は便器外に設計,配線24でつないだ。
エ刊2発明では装置を入れるため便座の幅(縦と横)が広くなるのに対し,
本願発明ではボタン21,22,23のみを設け,装置25は便器外に設計,配線
24でつないだ。
オ刊2発明では便座が通常より厚くなるのに対し,本願発明ではボタン2
1,22,23のみを設け,装置25は便器外に設計,配線24でつなぎ,便座が
通常の厚みになるようにした。
カ刊2発明ではコストアップ,格納場所を取る,輸送費アップとなるのに
対し,本願発明はコストダウン,コンパクト化で格納場所が少なくてすみかつ輸送
費も少なくなるようにした。
キ刊2発明では重い装置が便座の手前に設けられるため便座の手前が重く
なるのに対し,本願発明では装置25は便座と切り離し,便座にはボタン21,2
2,23のみを配置し便座の手前を軽くした。
ク刊2発明では上部にボタンを設け上から操作を行うのに対し,本願発明
では横一列に配置したので操作が容易となった。
ケ刊2発明では便座を立てた時に操作ボタンが裏にかかり操作できないの
に対し,本願発明では操作ボタン21,22,23が直立し横一列に配置されてい
るので操作できる。
コ刊2発明では装置が便座の前面にあるので掃除が難しく衛生が保たれな
いのに対し,本願発明では装置を便座と分離して後部に設けた。
サ刊2発明では操作部を便器の上に載せるので通常の便座の幅や厚み内に
収容できず,かつボタンを水平方向にできないのに対し,本願発明は通常の便座の
幅や厚みとし,ボタンを水平方向とした。
(3)本願発明は,「ウォッシュトイレ」であるが,刊行物3に記載された発明
(以下「刊3発明」という。)は,「ウォッシュ」するボタンの配置がなく,「水平方
向に押す操作スイッチ配置」の思想も全くなく,本願発明とは全く別物であるから,
刊3発明から,本願発明を容易に想到することはできない。
(4)したがって,相違点1についての本件審決の判断は誤りである。
2取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)
(1)刊行物1の便座本体2は,略垂直方向の壁面(周側壁8の面)を有するた
めに肉厚な非一般的な便座である(第2図参照)のに対し,本願発明は,便座カバ
ーとして一般的な厚さ(肉薄)の便座を採用しているため,肉薄の部分に操作ボタ
ンを設けることの困難さがある。そこで,本願発明は,操作に必要な機構としてボ
タン以外は省き,かつ,ボタンを便座前部に横一列に配することで解決した。
したがって,刊1発明のような肉厚で非一般的な便座におけるスイッチ態様を一
般的な便座に適用することは,当業者であっても容易に想到することはできず,仮
に適用したとしても,本願発明のような態様でボタンを設けることはできない。
(2)刊2発明では,操作盤を便器の上に乗せるのせるため,便座全体の厚みを
増し,また,操作盤は幅広のものであるため,本願発明のように,便座の幅や厚み
の内に収容できず,ボタンを水平方向に配置することができない。また,前記1の
とおり,本願発明は,刊2発明と11点もの差異がある。
したがって,刊2発明から本願発明を容易に想到することはできない。
(3)前記1のとおり,刊3発明は,本願発明とは全く別物であり,かつ,操作
部が使用するたびに出入りする構造のため,複雑,高価であり,故障しやすく,ま
た,操作が煩雑である。
(4)したがって,相違点2についての本件審決の判断は誤りである。
3取消事由3(相違点3についての容易想到性の判断の誤り)
本願発明は,横一列に配備されたボタンを脚間部を触るだけで操作できる「シン
プル操作」であること,構造が簡単でローコストであること,ボタンが上にないた
め尿等が入らないこと,メンテナンスも容易であることから,イージーで衛生的で
ある。
これに対し,刊1発明は,体をひねり,手を後ろにまわすため,シンプル操作は
できない。また,構造が複雑で,ローコストではない。さらに,場所が後ろにあり,
構造が複雑なため,掃除がし難く,衛生上悪く,イージーで衛生的ではない。
また,刊2発明は,前記1のとおり,本願発明と11点もの差異があり,「シンプ
ル操作ローコスト・イージー衛生」ではない。
さらに,刊3発明は,出し入れの操作が必要であるから,「シンプル操作」,「ロー
コスト」ではなく,また,尿等が移動部の隙間から入り込むため,「イージー衛生」
でもない。
したがって,相違点3についての本件審決の判断は誤りである。
4取消事由4(対比方法の誤り)
本件審決では,本願発明の進歩性を判断するに当たり,本願発明を三つに分解し
て公知の3件と比較しているが,これはあたかも新しい三角形を三本の棒に分解し,
普通の棒と比較して進歩性がないという論法である。すなわち,本件審決は,発明
の構成要件の「AND条件」を否定する方法で判断しており,この方法によって審
査すると,万物が公知となり,すべての発明が発明でなくなってしまう。
また,本件審決では,本願発明と刊行物を比較するに当たり,似ている点のみを
ピックアップし,異なる新しい点を故意に無視するというアンフェアな方法によっ
ている。
したがって,本件審決の対比方法は誤りである。
第4被告の主張
1取消事由1について
(1)原告は,操作スイッチの配置について,刊1発明は便器の右側方であるのに
対し,本願発明は前方であると主張する。
しかし,本件審決は,原告が主張する上記内容に関連した点について,相違点1
を認定している。
そして,刊行物1には,刊1発明が,操作スイッチ類を設ける場所を収納ケース
ではなく便座本体とすることによって操作性の向上等を図るものである(甲1の4
頁下から2行~5頁6行)旨記載されている。そうすると,刊1発明において,便
座本体の「周側壁8」に操作スイッチを設ける具体的な場所を,周側壁8のうちの,
便座前方先端の部位にすることが排除されることはないというべきである。
(2)原告は,本願発明と刊2発明とは11点の差異があり,これら11項目のす
べてを解決するのは容易ではなく特別の発明力を必要とする旨を主張する。
しかし,本件審決は,相違点1に係る本願発明の構成は,当業者が刊1発明及び
刊行物2,3に記載された技術に基づいて容易に想到し得るものであると判断した
のであって,刊2発明に基づいて容易に想到し得るものであると判断したのではな
い。
なお,原告は,本願発明が便座に「ボタン21,22,23」のみを「横一列」
に配置したものである旨を主張している。
しかし,本願発明の発明特定事項には,便座に設けられた操作スイッチの(スイ
ッチとしての)種別が「ボタン」のみからなることや,便座に設けられた「ボタン」
の配置が「横一列」であることを限定する旨の記載はない。
しかも,本願明細書の記載からみても,本願発明は,原告が主張するように限定
的に解されるものではない。すなわち,本願明細書には,「【発明を実施するための
形態】【0010】・・・21~23は操作つまみ又は押しボタンスイッチである。
例えば真ん中の22を温水温度調整つまみにし,両端の21をスタートボタン,2
3をストップボタンとすることができる。ボタン21と23は逆であってもよい。
これらつまみ22又は押しボタン21,23と・・・【0015】このような一連の
操作において,スタート,ストップボタンや温水温度調整つまみ22の操作は体を
曲げなくても,座った位置のままでこれらボタンを操作することができる。・・・上
述の実施例では,つまみ又はスイッチを3個便座に設けた場合を例にとったが,本
発明はこれに限るものではなく,必要に応じて任意の数のつまみ又はスイッチを設
けることができ,これらも本発明に含まれるものである。」と記載されている。この
記載からみると,本願発明の便座に設けられた操作スイッチは,「ボタン」以外に,
「つまみ」を含んでいてもよいことが明らかである。さらに,本願明細書には,便
座に設けられた「ボタン」の配置が「横一列」であると限定する旨の記載はなく,
図4に係る記載も実施例にすぎないものである。
また,原告は,本願発明が便座にボタンのみを設け,装置は便器外に設計,配線
でつないだものである旨を主張する。
しかし,本願発明の発明特定事項には,装置本体の配置や配線について限定する
旨の記載はなく,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(3)原告は,本願発明と刊3発明との相違を主張する。
しかし,本件審決は,相違点1に係る本願発明の構成は,当業者が刊1発明及び
刊行物2,3に記載された技術に基づいて容易に想到し得るものであると判断した
のであって,刊3発明に基づいて容易に想到し得るものであると判断したのではな
い。
なお,原告は,刊3発明は「操作部(3)」に「ウオッシュ」ボタンは配置されて
いないのに対して,本願発明は「ウオッシュトイレ」であるから,両者は別物であ
るとも主張している。
しかし,刊3発明も「ウオッシュトイレ」であるといえる。すなわち,刊行物3
の第3図の「洗浄水水量調節つまみ(5)」の(スイッチとしての)種別は,スライ
ドスイッチであると解され,そうであるならば,「ボタン」ではないけれども,当該
「洗浄水水量調節つまみ(5)」が「ウオッシュトイレ」の「ウオッシュ」を操作す
るものであることに変わりはないからである。
2取消事由2について
(1)原告は,刊1発明の便座は肉厚であるのに対し本願発明は一般的な厚さ(肉
薄)の便座であると主張する。
しかし,本願発明は,一般的な厚さ(肉薄)の便座に限定されていない。すなわ
ち,本願発明の発明特定事項には便座の厚さについての限定はない上,本願明細書
を参照しても,便座を肉薄にすることについての記載はない。さらにいえば,本願
明細書には,「【0015】・・・上述の実施例では,つまみ又はスイッチを3個便座
に設けた場合を例にとったが,本発明はこれに限るものではなく,必要に応じて任
意の数のつまみ又はスイッチを設けることができ,これらも本発明に含まれるもの
である。」と記載されているところ,「つまみ又はスイッチ」の数を増やせばそれに
応じてそれらを収容するスペースもより多く必要なことは明らかであるから,本願
発明が,便座の寸法について制限しているとは解されない。
(2)原告は,刊2発明の操作部のボタンを水平方向にすることが容易に想到し
得るものではないと主張する。
しかし,本件審決は,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が刊1発明及び
周知技術に基づいて容易に想到し得るものであると判断したのであって,刊2発明
の操作部のボタンを水平方向にすることが容易に想到し得るものであると判断した
のではない。
3取消事由3について
原告は,刊行物1~3それぞれに記載された発明が「シンプル操作ローコスト・
イージー衛生」ではない旨を主張する。
しかし,本件審決は,本願発明の「便座に座った時の両足の間の便座前方先端に
水平方向に押すボタンを設けた」「ウォッシュトイレ」という構成は当業者が容易に
想到できるものであり,構成が同じであれば,同様の性質,作用あるいは効果を奏
するといえるので,相違点3は相違点1及び2に比して独立した相違点とはいえな
い旨判断したものであって,刊行物1~3それぞれに記載された発明が「シンプル
操作ローコスト・イージー衛生」であると判断したものではない。そして,本願発
明の「便座に座った時の両足の間の便座前方先端に水平方向に押すボタンを設けた」
「ウォッシュトイレ」という構成は当業者が容易に想到できるとした本件審決の判
断に誤りはない。
4取消事由4について
本件審決は,相違点を総合的に勘案した検討を行っており,その上で,本願発明
は,当業者が刊1発明及び刊行物2,3に記載された技術並びに周知技術に基づい
て容易に発明することができたものであると判断したものであり,また,その判断
に誤りもない。
第5当裁判所の判断
1本願発明
本願発明の明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)には,以下の記載があ
る(甲4)。
【技術分野】【0001】本発明はお尻を洗うことができるローコスト・イージ
ーウォッシュトイレに関する。
【背景技術】【0002】従来のウォッシュトイレは,操作部が図1に示すよう
に座る位置の側面に設けられている。図1は従来のウォッシュトイレの構成例を示
している。図において,1は便座でその内部には温水を噴射するノズル2が設けら
れている。3は便座1の側面に設けられた制御部である。4は制御部3に設けられ
た操作部である。操作部4において,5は温水温度調節つまみ,6はオンスイッチ,
7はストップスイッチである。このようなウォッシュトイレを使用する場合,人は
便座1に腰かけた後,操作部4内のつまみ又はスイッチを使用して,ノズル2から
温水を出射させて肛門を洗浄する。
【0003】図2は他の公知例を示す図である。図1と同一のものは,同一の符
号を付して示す。この例は操作部8を引出すか,回転させて引出すようにしたもの
である。操作部8には温水温度調整つまみ9や,温水を噴射させるスタートボタン
9a,噴射を停止させるストップボタン9b等が設けられている(特許文献1参照)。
この例では,操作部8を便座1の前方に引出して操作するので,操作性が比較的よ
い。
図3は他の公知例を示す図である。この公知例は,便座1の股をまたぐ中央近辺
に操作部10を設けたものである。操作部10において,12は温水温度調整つま
み,11はオンスイッチ,13はストップスイッチである。
【発明が解決しようとする課題】【0006】前述したように,従来のウォッシュ
トイレでは,操作するために便座に座ってから体を捻じ曲げてつまみ等を操作する
必要があり,また便座の股の間にある制御部を操作する方法では,便座に座ってか
ら体を曲げてつまみ等を操作する必要があり,操作性が良くなかった。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって,簡単な操作でかつロー
コストのローコスト・イージーウォッシュトイレを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】【0007】前記した課題を解決する本発明は,
便座の股でまたぐ部分の便座の前方向先端部の側面にウォッシュトイレの動作を制
御するボタン又はつまみを設けたものである。
【発明の効果】【0008】本発明によれば,操作部を操作するために,体を捩
じったり,体を前に曲げたりすることのないローコスト・イージーウォッシュトイ
レを提供することができる。
【発明を実施するための形態】【0010】以下,図面を参照して本発明の実施
例を詳細に説明する。図4は本発明の構成例を示す図である。図1と同一のものは,
同一の符号を付して示す。図において,21~23は操作つまみ又は押しボタンス
イッチである。例えば真ん中の22を温水温度調整つまみにし,両端の21をスタ
ートボタン,23をストップボタンとすることができる。ボタン21と23は逆で
あってもよい。これらつまみ22又は押しボタン21,23と,後述する制御部と
を接続するために便座1の内部に沿って配線24が設けられている。
【0011】配線24は便座1の裏側に這わせられており,便器の後ろに設けら
れた制御部25に接続されている。制御部25には,お尻とビデの切り替えや,そ
の他の初期状態の設定部(図示せず)が設けられている。更に,水道から吸入した
水を温めるためのヒーターや温水と冷水の切り替えを行う弁等が組み込まれている。
【0015】このような一連の操作において,スタート,ストップボタンや温水
温度調整つまみ22の操作は体を曲げなくても,座った位置のままでこれらボタン
を操作することができる。スイッチボタンの操作になれてくると,どのボタンがス
タート用であるかどうか等が分かるようになるので,操作性は問題ない。本発明に
よれば,体を捩じったりする必要もない。従って本発明によれば,ローコストの操
作性のよいイージーなウォッシュトイレを提供することができる。
上述の実施例では,つまみ又はスイッチを3個便座に設けた場合を例にとったが,
本発明はこれに限るものではなく,必要に応じて任意の数のつまみ又はスイッチを
設けることができ,これらも本発明に含まれるものである。
図4
2取消事由1(相違点1についての容易想到性の判断の誤り)について
(1)刊行物1には,次のとおりの記載がある(甲1)。
[技術分野]本考案は,用便後の人体の局部を温水洗浄したり温風乾燥すること
ができる温水洗浄便座に関し,詳しくはその操作性を高めるとともに全体構成も簡
素にしようとする技術に関する。(1頁11行~15行)
[背景技術]従来,用便後の人体の局部を温水洗浄したり温風乾燥等を行うこと
ができる温水洗浄便座にあっては,その操作スイッチ類は種々の機能部品を収めて
ある収納ケ一スに設けてあり,このように操作スイッチ類を収納ケ-スに設ける場
合には,便座上に座った状態での操作性が悪く,そこで操作性を良くするのに,収
納ケ-スの形状を変更する等するのであり,かかる場合には全体が大型化し,構成
も複雑になる等の問題があった。(1頁16行~2頁6行)
[考案の目的]本考案はこのような問題に鑑みてなされたものであり,その目的
とするところは,全体構成を簡素にしながらその操作性を高めることができる温水
洗浄便座を提供することにある。(2頁7行~11行)
[考案の開示]本考案の温水洗浄便座は,便器1に付設された便座本体2に局部
洗浄用温水の吐出及びその温度調整並びに洗浄温水吐出圧調整,そして乾燥用温風
温度調整等の温水洗浄便座機能の操作スイッチ3・・・類を設けてなることを特徴
とするものであり,このように構成することによって,上記目的を達成したもので
ある。つまり,操作スイッチ3…類を便座本体2に設けることによって,便座本体
2に座った状態での操作性を向上させることができながら,従来のように収納ケー
スを延出させなくてもよく,その構成もシンプルにしたものである。(2頁12行~
3頁3行)
以下本考案の実施例を図面に基づいて詳述する。(3頁4行)
温水洗浄便座Aは第1図のように,水道水を貯留しているロータンク4からこの
ロータンク4内に収めたポンプ(図示せず)により水道水を本体ケース5の下部に
形成したタンク6内に供給し,タンク6内の水道水をヒータ(図示せず)により適
宜温度に加熱し,この加熱された温水をその使用に際して格納姿勢から使用姿勢へ
と姿勢変更される洗浄ノズル7から適宜圧力にて噴出させて,局部洗浄を行うこと
ができるようにしてある。又,温水洗浄便座Aの本体ケース5内にはヒータとファ
ン等からなる温度吹出装置(図示せず)を備えていて,温水洗浄後において適宜温
度の温風をその吹出口(図示せず)から吹き出して温風乾燥を行うことができるよ
うにしてある。更に,便器1に回動自在に枢着された便座本体2にはヒータのよう
な暖房具(図示せず)を付設してあって,暖房具により便座本体2を適宜温度に暖
めることができるようにしてある。そして温水洗浄便座Aの諸機能の操作スイッチ
3,即ち,洗浄ノズル7を使用姿勢から格納姿勢に姿勢変更させる操作スイッチ3
a,洗浄温水を噴出させる操作スイッチ3b,洗浄温水温度の温度調整用の操作ス
イッチ3c,温水吹出圧調整用の操作スイッチ3d,温風吹出用の操作スイッチ3
e,温風温度調整用の操作スイッチ3f,便座本体2の暖房用の操作スイッチ(図
示せず),この暖房温度調整用の操作スイッチ(図示せず)等の操作スイッチ3・・・
類を便座本体2の周側壁8に設けてある。しかして,操作スイッチ3・・・類は便
座本体2に設けることによって,便座本体2に座った状態での操作性を向上させる
ことができながら,従来のように収納ケースを延出させなくてもよく,その構成も
シンブルにできるものである。(3頁5行~4頁17行)
「考案の効果]以上要するに本考案は,便器に付設された便座本体に局部洗浄用
温水の吐出及びその温度調整並びに洗浄温水吐出圧調整,そして乾燥用温風温度調
整等の温水洗浄便座機能の操作スイッチ類を設けてあるから,便座本体に座った状
態での操作性を向上させることができながら,従来のように収納ケースを延出させ
なくてもよく,その構成もシンプルにできるという利点がある。(4頁18行~5頁
6行)
第1図第2図
(2)本件発明と引用発明との対比
ア刊1発明の認定
前記(1)の認定からすると,刊行物1には,次のとおりの刊1発明が記載されてい
ると認められる。
「用便後の人体の局部を温水洗浄したり温風乾燥することができる温水洗浄便座
本体2を付設した便器1であって,
便座本体2は,便座本体2の略垂直方向の壁面となる周側壁8の面上に,温水洗
浄便座Aの諸機能の操作スイッチ3,即ち,洗浄ノズル7を使用姿勢から格納姿勢
に姿勢変更させる操作スイッチ3a,洗浄温水を噴出させる操作スイッチ3b,洗
浄温水温度の温度調整用の操作スイッチ3c,温水吹出圧調整用の操作スイッチ3
d,温風吹出用の操作スイッチ3e,温風温度調整用のスイッチ3f,便座本体2
の暖房用の操作スイッチ,この暖房温度調整用の操作スイッチ等の操作スイッチ
3・・・類を設けてある,
便座本体2を付設した便器1」
イ本件発明と刊1発明との一致点及び相違点
したがって,本件発明と刊1発明とは,「便座に操作スイッチを設けたウォッシュ
トイレ」の点で一致し,次の点で相違する。
(ア)相違点1
便座に設けた「操作スイッチ」の配置について,本願発明では,「便座に座った時
の両足の間の便座前方先端」と特定されているのに対し,刊1発明では,そのよう
に特定されていない点
(イ)相違点2
「操作スイッチ」の態様について,本願発明では,「水平方向に押すボタン」と特
定されているのに対し,刊1発明では,そのように特定されていない点
(ウ)相違点3
「ウォッシュトイレ」について,本願発明は,「シンプル操作ローコスト・イージ
ー衛生」と特定されているのに対し,刊1発明では,そのように特定されていない

(3)相違点1の容易想到性
ア(ア)刊行物2には,次のとおりの記載がある(甲2)。
【0001】【発明が属する利用分野】本発明は操作が容易なトイレットに関する。
【0002】【従来の技術】従来のウオッシュレットは,洗滌などのボタンが側方
にあり,洗滌等の操作のためには必要ボタンが側方に設けてあるため,体を捻って
使用しなければならなかった。
【0003】【発明が解決しようとする課題】従来のウオッシュレットでボタン操
作をするためには体をねじらなければならす,操作し難かった。また操作がやりに
くく,また,暗い時,ボタンの位置が分り難くしばしば不潔となった。このような
操作が困難なトイレットに対し,本発明は操作が容易で衛生的なトイレットを提供
しようとするものである。
【0004】【課題を解決するための手段】本発明は大腿間で操作し得る事を特徴
とするトイレットであり,また便座の中央部先端付近で人体の内股で挟まれる便座
の位置に洗滌等の調節ボタンを設けたことを特徴とするトイレットである。
【0005】【発明の実施の形態】・・・本発明トイレットは,図4にそのトイレ
ットの便座上面図の例を示す。図5にはそのトイレの側面図を示す。図6は本発明
トイレットの他の側面図例を示す。
【0006】以下,本発明を図面に基づき説明する。図1は従来のウオッシュレ
ット1の側方に設けた上面図でありウオッシュレット操作ボタン盤2には洗滌,水
量,温度調節,など操作用ボタン3を取付けてある。・・・
【0007】図4は本発明の上面図,図5は図4の操作ボタン部の拡大部分図,
図6・・・は本発明トイレット側面図を示す。本発明トイレットは便槽5上の便座
6の手前中央付近に設けた操作部7上に操作用ボタン8を設けてある。なお,図4
の点線9は使用に際し,便座上の人体の位置を示し,操作用ボタン8は便座手前中
央部付近で,人体の大腿部10の開く空間位置にある。
【0008】ここで,本発明操作用ボタンの取付け状態を図4と図6に示す。図
4と図6から明らかなように従来の操作ボタンに対し取付け方向が90℃回転した
位置関係となっている。その結果,調節用ボタンの位置は人体の正面に正対するこ
ととなり,何ら体を捻る必要はなく極めて容易に調節用ボタンの文字の確認も可能
となったものである。なお,本発明操作ボタンは図6・・・の如く便座に直接取付
けられるので,従来の裾が不要となり,小型,軽量,ローコストになり,せまい便
所で使用出来る。
【0010】本発明トイレットの使用に際し,洗滌等の操作用ボタンが目の前に
あるためボタンの操作が容易である。男性が小便をする場合は,操作ボタンが手前
にあるので便座を持ち上げて使用する事を従来以上にする様になるので便座が従来
よりも清潔になる。本発明操作用ボタンは必要に応じ有線又は無線で洗滌ノズルや
フラッシュコントロールを作動させることも本発明に含まれる。・・・
【0011】【発明の効果】本発明は大腿間に調節用ボタンを設けてあるので体を
ねじることなくそのままボタンを直視し操作し得るので極めて便利でトラブルがな
い。操作用ボタンの位置は照明なしでも手探りでも認識可能であるので夜でも容易
に使用可能である。手前に操作ボタンがあるのでこれを汚さないように小便時に従
来以上に便座を上げるので便座が従来より清潔になる。いずれにしても常に本発明
トイレットは清潔を保つことが出来る。また構造が簡単となるので小型,軽量,安
価となり,小さいスペースに便器を設置出来,その利益は大きい。
図4図5
図6
(イ)刊行物2の前記(ア)の記載からすると,刊行物2には,人体の局部洗浄
装置付きトイレにおいて,便座の側方に設置されていた洗浄等の調節ボタンを便座
本体の中央部に設置することにより,同調節ボタンを操作する際に,体を捻る必要
がなくなるという効果を奏するという技術事項が記載されていると認められる。
イ検討
(ア)前記2(2)アの刊1発明の構成からすると,刊1発明は,人体の局部洗
浄装置付きトイレに係る発明であることが認められ,また,前記アの刊行物2の記
載からすると,刊行物2には,人体の局部洗浄装置付きトイレに関する技術が記載
されているものと認められるから,刊1発明及び刊行物2に記載された事項は,い
ずれも,人体の局部洗浄装置付きトイレに関するものであり,その技術分野が同一
である。また,前記2(1)の刊行物1の記載及び前記アの刊行物2の記載からすると,
刊行物1及び刊行物2は,いずれも,人体の局部洗浄装置付きトイレの便座に座っ
た状態での操作性の向上を課題としているものと認められる。
したがって,刊1発明及び刊行物2に記載された事項を適用する動機付けは認め
られる。
(イ)そして,前記(2)のとおり,刊1発明は,便座本体2の略垂直方向の壁
面となる周側壁8の面上に,温水洗浄便座Aの諸機能の操作スイッチ3が設けられ
ている構成を有するが,同操作スイッチの配置について,「便座に座った時の両足の
間の便座前方先端」と特定されていない点で本願発明と相違する(相違点1)とこ
ろ,前記アのとおり,刊行物2には,人体の局部洗浄装置付きトイレにおいて,便
座本体の中央部に洗浄等の調節ボタンを設置した構成,及び同構成を採用すること
により,調節ボタンを操作する際に体を捻る必要がなくなる旨記載されていること
から,刊1発明に,刊行物2に記載された上記事項を適用して,便座本体2の略垂
直方向の壁面となる周側壁8の面上に設置された操作スイッチ3の設置位置を,便
座中央部に変更することにより,操作スイッチ3を便座本体2の中央部の略垂直方
向の壁面上に設ける構成とすることは,当業者が容易に想到することができるとい
うべきである。
(ウ)したがって,刊1発明に,刊行物2に記載された技術事項を適用して,
相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たというべ
きである。
3取消事由2(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について
前記2(2)のとおり,刊1発明は,便座本体2に温水洗浄便座Aの諸機能の操作ス
イッチ3が設置されている構成を有するが,同操作スイッチの態様について,「水平
方向に押すボタン」と特定していない点で本願発明と相違する(争点2)ところ,
前記2(3)アのとおり,刊行物2では,人体の局部洗浄装置付きトイレにおける洗浄
等の操作をするスイッチを「ボタン」としていること,及び前記1のとおり,本願
明細書でも,公知例の説明において,洗浄等の操作用スイッチをボタンと表記して
いる(【0003】)ことを考慮すると,人体の局部洗浄装置付きトイレの洗浄等の
操作のためのスイッチをボタンとすることは周知技術であると認められ,刊1発明
に,上記周知技術を適用して,操作スイッチ3をボタンとする構成とすることは,
当業者が容易に想到することができるというべきである。
そして,前記2(2)のとおり,刊1発明においては,操作スイッチ3は,便座本体
2の略垂直方向の壁面となる周側壁8の面上に設けられているのであるから,同操
作スイッチ3をボタンとすれば,当然に,同操作スイッチ3は,水平方向に押され
ることになるから,刊行物1に上記周知技術を適用すると,相違点2に係る構成と
なる。
したがって,刊1発明に,上記周知技術を適用して,相違点2に係る本願発明の
構成とすることは,当業者が容易に想到し得たというべきである。
4取消事由3(相違点3についての容易想到性の判断の誤り)について
前記1の本願明細書の記載によると,相違点3の「シンプル操作ローコスト・イ
ージー衛生」という構成は,相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を具備す
ることによって達成される機能を特定したものと認められる。したがって,刊1発
明が,相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用することにより,相違点
3の上記構成を有するものと認められるところ,前記2及び3のとおり,刊1発明
に刊行物2に記載された事項及び周知技術を適用して,刊1発明について,相違点
1及び2に係る本願発明の各構成とすることは容易に想到できるのであるから,同
様に,刊1発明に刊行物2に記載された事項及び周知技術を適用して,刊1発明の
構成を相違点3に係る本願発明の構成とすることも,当業者が容易に想到し得たと
いうべきである。
5取消事由4(対比方法の誤り)について
本件審決は,本願発明と刊1発明とを対比して,両構成の一致点と三つの相違点
を認定し,同相違点それぞれについて,本願発明の構成の容易想到性の検討をして,
本願発明は進歩性を欠けると判断したのであり,同判断手法は相当である。
原告は,本願発明を三つに分解して進歩性の判断をした点が不当である旨主張す
るが,本件審決が認定した本願発明と刊1発明との相違点は,前記第2の3(2)で判
示したとおりであるところ,前記2のとおり,本願発明と刊1発明との相違点は上
記三つの点であると認定できること,及び同相違点は,別個独立の技術的事項であ
ることは明らかであるから,これらをそれぞれ別個の相違点として認定したことは
相当であることからすると,原告の上記主張は理由がない。
また,原告は,本件審決は,本願発明と刊行物とを比較するに当たり,似ている
点のみをピックアップし,異なる点を無視している旨主張するが,前記第2の3で
判示した本件審決の内容及び前記1及び2で判示した本願明細書,刊行物1及び刊
行物2の記載からすると,原告の上記主張が理由がないことは明らかである。
6原告の主張について
(1)原告は,刊1発明は,公知の旧式なウォッシュトイレであり,操作スイッ
チ3は便器2の右側方にあるのに対し,本願操作スイッチ5の配置は前方であって,
これにより刊1発明は身体をひねる不便さや安全性が本願発明と相違すると主張す
る。
しかし,前記2で判示したとおり,上記の点は,相違点1として認定した上で,
その相違点が容易想到であるかどうかを判断しており,原告が主張する上記の相違
点があることは,本願発明を容易に想到し得た旨の前記判断を左右するものではな
い。
(2)原告は,本願発明は刊2発明の11点の欠点を解決したものであり,同解
決には特別の発明力が必要であるから,当業者が本願発明を容易に想到することは
できない旨主張する。
しかし,原告が刊2発明の欠点を改良した点として指摘する11点は,本願発明
に係る特許請求の範囲に記載がないもの(装置を便器外に設け,ボタンと装置を配
線でつないだ点,ボタンを横一列に配置した点,便座の幅や厚みを通常のものとし
た点),上記特許請求の範囲及び本願明細書に記載のない機能に係るもの(コンパク
ト化をした点),又は刊1発明に刊行物2に記載された事項若しくは周知技術を適
用することにより容易に想到することができた相違点1~3に係る本願発明の構成
に含まれるものであるから,原告の上記主張は,前記の進歩性の判断を左右しない。
(3)原告は,刊1発明のような肉厚で非一般的な便座におけるスイッチ態様を
一般的な便座に適用することは,当業者であっても容易に想到することはできない
旨主張する。
しかし,本願発明に係る特許請求の範囲及び本願明細書には,便座の厚さについ
て限定した記載はなく,かえって,本願明細書には,「・・・上述の実施例では,つ
まみ又はスイッチを3個便座に設けた場合を例にとったが,本発明はこれに限るも
のではなく,必要に応じて任意の数のつまみ又はスイッチを設けることができ,こ
れらも本発明に含まれるものである。」(【0015】)と記載されており,「つまみ又
はスイッチ」の数を増やすことにより,それらを収容するためのスペースが増大す
ることを許容しているのであるから,本願発明が,便座の厚さについて制限してい
るとは解されない。
したがって,本願発明の便座が,肉薄の一般的な便座に限定されていることを前
提に,容易想到性を否定する原告の上記主張は理由がない。
(4)原告は,刊2発明では,操作盤を便器の上に乗せるため,便座全体の厚み
を増し,また,操作盤は幅広のものであるため,本願発明のように,便座の幅や厚
みの内に収容できず,ボタンを水平方向に配置することができない旨主張する。
しかし,前記2及び3のとおり,刊1発明に,刊行物2に記載された事項及び周
知技術を適用して,操作スイッチを,便座上ではなく,便座本体の中央部の略垂直
方向の壁面上に設ける構成とすること,及び操作スイッチを水平方向に押すボタン
とすることは,当業者が容易に想到することができるのであるから,操作盤を便器
の上に乗せる構成を前提として,容易想到性を否定する原告の上記主張は理由がな
い。
(5)原告は,本願発明は,横一列に配備された操作ボタンを触るだけで操作で
きるから「シンプル操作」を実現できるところ,刊1発明及び刊2発明は,そのよ
うな構成を有していないから,相違点3の構成とすることは容易想到とはいえない
旨主張する。
しかし,本願発明に係る特許請求の範囲には,操作ボタンの配置について,横一
列であると限定した記載はなく,かえって,本願明細書には,「・・・上述の実施例
では,つまみ又はスイッチを3個便座に設けた場合を例にとったが,本発明はこれ
に限るものではなく,必要に応じて任意の数のつまみ又はスイッチを設けることが
でき,これらも本発明に含まれるものである。」(【0015】)と記載されているこ
とから,本願発明が,操作ボタンの配置について横一列とする構成に限定している
と解することはできない。
したがって,本願発明は,操作ボタンを横一列に配置したものであることを前提
に,容易想到性を否定する原告の上記主張は理由がない。
また,原告は,刊1発明及び刊2発明は「イージーで衛生的でない」とも主張す
るが,前記4のとおり,相違点3は容易に想到することができるものであって,そ
のことは,刊1発明及び刊2発明が「イージーで衛生的でない」ことによって左右
されることはないというべきである。
7以上より,取消事由1~4は,いずれも理由がない。
第6結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
熊谷大輔

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