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平成18年11月16日判決言渡
平成17年(行ウ)第22号厚生年金保険遺族給付不支給処分無効確認等請求事件
口頭弁論終結日平成18年8月7日
判決
主文
1原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,補助参加によって生じた分を含め,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1社会保険庁長官が,原告に対し,平成13年4月16日付けでした,厚生年
金保険遺族給付不支給処分は無効であることを確認する。
2社会保険庁長官が,原告に対し,平成13年4月16日付けでした,厚生年
金保険未支給給付不支給処分は無効であることを確認する。
3社会保険庁長官が,原告に対し,平成13年4月16日付けでした,共済年
金未支給年金不支給処分は無効であることを確認する。
4被告日本鉄道共済組合が,原告に対し,平成13年7月5日付けでした,遺
族共済年金不支給処分は無効であることを確認する。
第2事案の概要
本件は,民営化前の日本国有鉄道(国鉄)に勤務し,次いで厚生年金保険の
適用を受ける事業所に順次勤務した後退職し,国鉄共済組合(国鉄の民営化に
伴う名称変更後は被告日本鉄道共済組合)の組合員及び厚生年金保険の被保険
者の地位にあったAの重婚的内妻であった原告が,Aの死後,社会保険庁長官
に対し,Aが受給していた厚生年金及び共済年金の未支給分の支給並びに厚生
年金保険の遺族給付を請求し,また,被告日本鉄道共済組合に対し,遺族共済
年金の支給を請求したところ,いずれも不支給とする処分を受けたため,これ
ら処分の無効確認を求めた抗告訴訟である。
1前提事実等(関係当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかな事実等。)
()当事者等1
アAは,明治42年1月10日生まれの男性で,大正12年8月から昭和
39年3月まで国鉄に勤務し,同年4月から昭和51年6月まで厚生年金
保険法の適用を受ける事業所に勤務していたが,平成12年8月16日に
死亡した。
Aは,上記の経過で,厚生年金保険の被保険者の地位と被告日本鉄道共
済組合の組合員の地位を有していた。
イAは,昭和11年6月8日,妻Bと死別し,その後,Cと再婚し,昭和
15年2月26日,同人との間にDをもうけたが,昭和20年6月15日,
Cとも死別した(甲7号証,弁論の全趣旨)。
ウAは,昭和22年5月6日,被告ら補助参加人(大正8年5月27日
生)と再婚し,昭和24年10月30日,同人との間にEをもうけた。
エAは,昭和39年3月,補助参加人と別居し,同年4月1日,それまで
補助参加人と居住していた静岡県d市(その後,e市に合併)から愛知県
f郡a町(その後市制施行によりa市に名称変更)に転居し,当時交際を
始めていた原告(昭和11年1月3日生)と同居を開始し,昭和41年4
月9日,原告との間にFをもうけ,同年12月5日,Fを認知した。
原告は,平成12年8月16日にAが死亡するまで,同人の内縁の妻と
して同居していた。
オ被告国は,処分行政庁である社会保険庁長官の所属する行政主体である。
カ社会保険庁長官は,厚生労働省の外局である社会保険庁の機関であり,
上記請求欄1ないし3記載の各処分がなされた当時,遺族厚生年金,未支
給の厚生年金給付,未支給の共済年金給付(ただし,昭和60年法律第1
05号による改正前の国家公務員等共済組合法に基づき被告日本鉄道共済
組合が支給していた年金たる給付であって,平成9年4月1日以降政府が
支給することとされたもの)について裁定ないし決定する権限を有するも
のである(厚生年金保険法33条,厚生年金保険法等の一部を改正する法
律(平成8年法律第82号)附則16条2項,3項)。
キ被告日本鉄道共済組合は,平成8年法律第82号による改正前の国家公
務員等共済組合法3条1項に規定する国家公務員等共済組合としてなお存
続する法人であり,上記請求欄4の処分がなされた当時,昭和31年7月
1日前の組合員期間を計算の基礎とする遺族共済年金の給付について決定
する権限を有するものである(平成8年法律第82号附則32条1項,2
項1号,3項,31条2号,平成8年法律第82号による改正後の国家公
務員共済組合法41条1項)。
()Aの各年金の受給状況2
Aは,遅くとも昭和51年ころには,国鉄での勤務期間について公共企業
体職員等共済組合法に基づく退職年金の支給を,厚生年金保険法適用事業所
での勤務期間について昭和60年法律第34号による廃止前の通算年金通則
法及び昭和60年法律第34号による改正前の厚生年金保険法に基づく通算
老齢年金の支給を受けていた(弁論の全趣旨)。
昭和59年4月1日,国家公務員及び公共企業体職員に係る共済組合制度
の統合等を図るための国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律(昭和
58年法律第82号)により,公共企業体職員等共済制度は,国家公務員共
済組合制度に統合されたことから,Aは,同日以後,国鉄での勤務期間につ
いて国家公務員等共済組合法上の退職年金の支給を受けるものとみなされた
(昭和58年法律第82号附則6条)。
平成9年4月1日,厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成8年法
律第82号)の施行により,恩給公務員等の期間(非現業職員につき昭和3
1年7月1日前の期間)等を除き,日本鉄道共済組合は厚生年金制度に統合
され(平成8年法律第82号附則4条,5条),公務員等共済組合法等の一
部を改正する法律(昭和60年法律第10号)による改正前の国家公務員等
共済組合法に基づく年金たる給付は,恩給公務員等の期間も含み,原則とし
て従前の例により,厚生年金保険制度の管掌者たる政府が支給することとさ
れた(平成8年法律第82号附則16条2項,3項)。そのため,Aは,平
成9年6月以降,政府から,上記通算老齢年金のほかに,厚生年金保険法に
基づく老齢厚生年金,国家公務員等共済組合法等の一部を改正する法律(昭
和60年法律第10号)による改正前の国家公務員等共済組合法に基づく退
職年金の支給を受けることとなった。
Aは,平成12年8月15日,同年7月分までの通算老齢年金,老齢厚生
年金及び退職年金の支給を受けたが,同年8月16日に死亡したため,同月
分の通算老齢年金,老齢厚生年金及び退職年金の支給を受けなかった(甲2
1号証,22号証)。
()各制度における配偶者に関する規定(以下の各給付又は年金を併せて「本3
件各遺族給付」,それらの支給を受けることができる配偶者としての要件を
「配偶者要件」ということがある。)
ア厚生年金保険遺族給付
老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合並びに通算年金通則法及び厚生
年金保険法に基づく通算老齢年金の受給権者が昭和61年4月以降に死亡
した場合,厚生年金保険遺族給付(遺族厚生年金)は,その死亡当時,同
人により生計を維持していた「配偶者」が,第1順位で受給権を取得する
(国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則7
2条1項,国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関
する政令(昭和61年政令第54号)88条1項5号,89条,厚生年金
保険法58条1項柱書,59条1項柱書,同条2項)。
また,平成8年法律第82号附則16条3項の規定により厚生年金保険
の管掌者たる政府が支給するものとされた昭和60年法律第105号によ
る改正前の国家公務員等共済組合法による退職年金の受給権者が平成9年
4月1日以降に死亡した場合,厚生年金保険遺族給付(遺族厚生年金)は,
その死亡当時,同人により生計を維持していた「配偶者」が,第1順位で
受給権を取得する(平成8年法律第82号附則11条1項,厚生年金保険
法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(平成9年
政令第85号)17条1項3号ニ,18条,厚生年金保険法58条1項柱
書,59条1項柱書,同条2項)。
そして,これらにいう「配偶者」には,婚姻の届出をしていないが,事
実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む(厚生年金保険法3条2項)。
イ厚生年金保険未支給給付
厚生年金保険未支給給付(老齢厚生年金並びに昭和60年法律第34号
による廃止前の通算年金通則法及び昭和60年法律第34号による改正前
の厚生年金保険法に基づく通算老齢年金の未支給給付)は,年金受給権者
が死亡した場合,同人と生計を同じくしていた「配偶者」が,第1順位で,
その保険給付の支給を請求することができる(厚生年金保険法37条1項,
4項,昭和60年法律第34号附則63条1項によりなおその効力を有す
るものとされた通算年金通則法11条1項,3項)。
そして,ここにいう「配偶者」には,婚姻の届出をしていないが,事実
上婚姻関係と同様の事情にある者を含む(厚生年金保険法3条2項,昭和
60年法律第34号附則63条1項によりなおその効力を有するものとさ
れた通算年金通則法4条2項1号)。
ウ共済年金未支給年金
厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成8年法律第82号)によ
る改正に伴い,被告日本鉄道共済組合の長期年金事業のうち昭和31年7
月1日以降の期間を計算の基礎とする部分について厚生年金保険制度に移
行した。しかし,昭和60年法律第105号による改正前の国家公務員等
共済組合法による年金たる給付のうち昭和31年7月1日前の期間分につ
いては,厚生年金保険の管掌者たる政府が支給するなど一部の例外を除き,
なお従前の例によることとされた(平成8年法律第82号附則16条2項
3項)。
したがって,昭和60年法律第105号による改正前の国家公務員等共
済組合法による年金たる給付について,年金受給権者が支給を受けないま
ま死亡した場合には,同人の収入により生計を維持していた配偶者が第1
順位でその支給を受けることができる(昭和60年法律第105号による
改正前の国家公務員等共済組合法45条,2条1項3号,43条1項)。
そして,ここにいう「配偶者」には,届出をしていないが,事実上婚姻
関係と同様の事情にある者を含む(昭和60年法律第105号による改正
前の国家公務員等共済組合法2条1項2号イ)。
エ国家公務員遺族共済年金
日本鉄道共済組合の長期年金事業のうち,昭和31年7月1日より前の
期間を計算の基礎とする年金については,厚生年金保険制度に移行されな
かった。すなわち,昭和31年7月1日前も日本鉄道共済組合の組合員で
あった者が死亡した場合,厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成
8年法律第82号)附則32条2項1号,31条2号,33条1項に基づ
き,被告日本鉄道共済組合が,同法による改正後の国家公務員共済組合法
の長期給付に関する規定を適用して,同人の遺族に対して遺族共済年金を
支給する。
その際,当該遺族共済年金は,組合員であった者が死亡した場合,第1
順位で,同人の収入により生計を維持していた「配偶者」が受領すること
になる(平成8年法律第82号による改正後の国家公務員共済組合法88
条1項4号,43条1項,2条1項3号)。
そして,ここにいう「配偶者」には,婚姻の届出をしていないが,事実
上婚姻関係と同様の事情にある者を含む(平成8年法律第82号による改
正後の国家公務員共済組合法2条1項2号イ)。
()各種通達の関係部分の抜粋4
ア事実婚関係の認定について(昭和55年5月16日庁保発第15号都道
府県知事あて社会保険庁年金保険部長通知。乙4号証,以下「年金保険部
長通知」ということがある。)
厚生年金保険法の保険給付,国民年金法の給付及び船員保険法の保険給
付(老齢,障害,脱退及び死亡に関するもの(葬祭料を除く。)に限
る。)を受ける権利に関して,これらの法律にいわゆる「婚姻の届出をし
ていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」(以下「事実婚関係
にある者」という。)の認定を,今後次により行うこととしたので通知す
る。
(略)
三重婚的内縁関係の取扱い
届出による婚姻関係にある者が重ねて他の者と内縁関係にある場合の
取扱いについては,婚姻の成立が届出により法律上の効力を生ずること
とされていることからして,届出による婚姻関係を優先すべきことは当
然であり,従つて,届出による婚姻関係がその実態を全く失つたものと
なつているときに限り,内縁関係にある者を事実婚関係にある者として
認定するものとすること。
(以下略)
イ事実婚関係の認定事務について(昭和55年5月16日庁保険発第13
号都道府県民生主管部(局)保険課(部)長・国民年金課(部)長あて社
会保険庁年金保険部厚生年金保険課長・国民年金課長・業務第一課長・業
務第二課長通知。乙5号証,以下「各所管課長通知」ということがあ
る。)
事実婚関係の認定については,本日庁保発第15号をもつて社会保険庁
年金保険部長から各都道府県知事あて通知されたところであるが,届出に
よる婚姻関係と内縁関係が重複しているいわゆる重婚的内縁関係に係る事
務については,今後次により行うこととしたので,遺憾のないようにされ
たい。
一重婚的内縁関係に関し,上記年金保険部長通知の三にいわゆる「届出
による婚姻関係がその実態を全く失つたものとなつているとき」には,
①当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止している
と認められるが戸籍上離婚の届出をしていないときや,②一方の悪意の
遺棄によつて夫婦としての共同生活が行われていない場合であつて,そ
の状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し,当事者双方の生活
関係がそのまま固定していると認められるとき等が該当するものとして
取扱うこととすること。
なお,夫婦としての共同生活の状態にないといい得るためには,次に
掲げるすべての要件に該当することを要するものとすること。
(一)当事者が住居を異にすること。
(二)当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと。
(三)当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して
存在しないこと。
二重婚的内縁関係にある者を「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関
係と同様の事情にある者」として認定するには,届出による婚姻関係が
その実態を全く失つたものとなつていることを確認することが必要であ
り,このため,次の調査を行い,その結果を総合的に勘案して事実婚関
係の認定を行うものとすること。
(略)
(一)戸籍上の配偶者に対して,主として次の事項について,婚姻関係の
実態を調査する。
なお,戸籍上の配偶者の住所は,戸籍の附票(略)により確認する
こととする。
ア別居の開始時期及びその期間
イ離婚についての合意の有無
ウ別居期間中における経済的な依存関係の状況
エ別居期間中における音信・訪問等の状況
(二)(一)による調査によつても,なお不明な点がある場合には,いわゆ
る内縁関係にある者に対しても調査を行う。
(以下略)
()裁定請求の経緯5
ア原告による遺族給付の裁定請求等
原告は,平成12年9月4日,社会保険庁長官に対し,遺族厚生年金の
裁定の請求,共済年金未支給年金の請求及び厚生年金保険未支給保険給付
の請求をした。
また,原告は,そのころ,被告日本鉄道共済組合に対し,遺族共済年金
の請求をした(弁論の全趣旨)。
イ補助参加人による遺族給付の裁定請求等
補助参加人は,平成12年9月14日,Aを被保険者とする遺族給付の
裁定請求をした。
また,補助参加人は,そのころ,被告日本鉄道共済組合に対し,遺族共
済年金の支給を請求した(弁論の全趣旨)。
社会保険庁長官は,平成13年4月12日,補助参加人に対し,遺族基
礎年金及び遺族厚生年金を支給する旨の裁定をした。
被告日本鉄道共済組合は,平成13年7月19日,補助参加人に対し,
遺族共済年金を支給する旨の決定をした(弁論の全趣旨)。
ウ原告に対する不支給裁定等
社会保険庁長官は,平成13年4月16日,Aと補助参加人との婚姻関
係は実体を失っておらず,原告は遺族厚生年金等を受ける配偶者と認めら
れないとして,原告に対して,遺族厚生年金,共済年金未支給年金及び厚
生年金未支給保険給付を支給しない旨の裁定をし(上記請求欄1ないし3
の処分),そのころこれを通知した。
被告日本鉄道共済組合は,平成13年7月5日,原告が国家公務員共済
組合法2条1項3号に規定する遺族に該当しないとして,原告に対して,
遺族共済年金を支給しない旨を決定し(上記請求欄4の処分),そのころ
これを通知した。
()本訴提起6
原告は,被告らのした()ウ記載の各処分(本件各処分)を不服として,5
平成17年5月13日,本件各処分の無効確認を求める本訴を提起した。
なお,原告は,本件各処分に対して審査請求をしていない。
2争点
本件各処分には重大かつ明白な瑕疵があって無効か否か。
これに関する具体的な争点は次のとおりである。
()重婚的内縁関係の事案における本件各遺族給付の支給対象者としての配偶1
者の認定のあり方
()本件各処分は,原告がAの上記配偶者ではない旨の認定に誤りがあり,重2
大かつ明白な瑕疵があるとして無効か。
()本件各処分は,補助参加人の本件各遺族給付の給付対象者の認定基準に関3
する生計要件該当性等の取扱いに誤りがあり,無効か
()本件各処分は,上記配偶者の認定について,原告側の調査が尽くされてお4
らず,手続上重大かつ明白な瑕疵があって無効か。
3争点に関する当事者の主張
()争点()重婚的内縁の事案における上記配偶者の認定の方法について11
(原告の主張)
上記配偶者の認定については,法律上の婚姻関係が実体を失って修復の余
地がないまでに形がい化しており,かつ重婚的内縁関係にある者について事
実婚の成立が認められる場合は,戸籍上の配偶者であっても配偶者には該当
しないと判断され,重婚的内縁関係にある者のみが配偶者と認定されること
になる。
これは,配偶者に内縁関係にある者をも含めた上記法令の趣旨,すなわち
「労働者(中略)の遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」(厚生
年金保険法1条)等の実現と,他方における法律婚を尊重すべき要請との双
方を利益衡量した結果,前者を優先し,被保険者等(被保険者又は被保険者
であった者をいう。以下同じ。)と共同生活を構築し,対外的にも配偶者と
して遇され,その死亡により生活と福祉を害される者に対し,その生活の安
定を図り,また,過去の労苦に報いる等の観点からその福祉の向上を図るた
めに法的保護を与えるべき者の保護をまず指向した上で,いずれの者につい
ても法的保護が要請される場合には,法律婚を尊重する建前から戸籍上の配
偶者を優先するものと理解される。
婚姻関係の形がい化を判断するに当たっては,共同生活の長短,戸籍上の
配偶者との別居の動機,戸籍上の配偶者との反復・継続的な交渉の有無,戸
籍上の配偶者への経済的支援の有無とその趣旨,戸籍上の配偶者との婚姻関
係修復へ向けた努力,重婚的内縁関係にある者の対内的対外的配偶者として
の活動の有無,被保険者等の認識といった諸要素を検討し,その上で総合的
かつ実質的に判断するべきである(最高裁判所昭和58年4月14日第一小
法廷判決・民集37巻3号270ページ,同裁判所平成17年4月21日第
一小法廷判決・集民216号597ページ参照)。
なお,被告らは,配偶者要件の有無を判断するについて,内縁関係にある
者と比較して相対的に決すべきものではなく,戸籍上の配偶者の生活実態に
即して独自に判断すべきものと主張する。しかし,上記の平成17年の最高
裁判決は,内縁側配偶者が共済保険加入者と同居して夫婦同然の生活をする
ようになって同人の収入によって生計を維持していたこと,及び同人の死亡
の際に内縁側配偶者が最期までその看病をしたことなどを判示しており,最
高裁が相対的な判断手法を採用していることは明白である。法律婚主義を尊
重すべきとの要請は,法律上の婚姻関係が実体を失って修復の余地がないま
でに形がい化していたといえない限り戸籍上の配偶者に配偶者要件該当性を
認めるという最高裁法理により十分満たされているのであり,それ以上に配
偶者要件を戸籍上の配偶者の生活実態に即して独自に判断することまでを導
き出す理由になるとはいえない。
原告も,被告らの主張するように,結論において法律上の婚姻関係の修復
可能性を判断すべきであると考えているが,その際の事実認定において,重
婚的内縁関係の強度を考えなければ,どの程度重婚的内縁関係が解消しやす
く法律上の婚姻関係が修復しやすいか,逆に重婚的内縁関係が解消しにくく
法律上の婚姻関係が修復しにくいかは分からないはずである。重婚的内縁関
係にある者が一時的な浮気のつもりであるのか,永続的な関係を指向してい
るのかによって,法律上の婚姻関係の修復可能性はおのずと異なるのであり,
これは事実認定上の経験則として極めて常識的な理解である。
(被告国の主張)
遺族厚生年金の支給を受けることができる遺族は,被保険者等の配偶者,
子等であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持したもの
であることを要するところ(厚生年金保険法59条1項),ここにいう配偶
者には法律上の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を
含むとされている(同法3条2項)。
ところで,法律上の届出による婚姻関係のある者が重ねて他の者と事実上
の婚姻関係にある重婚的内縁関係が存する場合,我が国では法律婚主義が採
られていることから,原則として,法律上の届出による婚姻関係にある者を
優先し,この戸籍上の配偶者を遺族厚生年金の受給を受ける配偶者とすべき
である。ただし,厚生年金保険法3条2項が事実上婚姻関係にある者を配偶
者とみなしているのは,遺族に対する給付の目的が,死亡した被保険者等の
収入によって生計を維持していた遺族の生活保障にあることから,婚姻の実
体を有しながら届出がない者についても保護する必要を認めたものである。
そこで,このような法の趣旨からすれば,法律上の婚姻関係が,その実体を
失って形がい化し,かつ,その状態が長期間継続し,当事者双方の生活関係
がそのまま固定化して,近い将来解消される見込みがなく,いわば事実上の
離婚状態にあると判断されるときに限り,戸籍上の配偶者であっても,遺族
厚生年金の受給を受ける配偶者に該当しないと解すべきである(前掲最高裁
判所昭和58年4月14日判決参照)。前記年金保険部長通知もこの趣旨に
基づくものである。
しかし,事実上の離婚状態にある場合とはいかなる状態をいうかを一義的
に定めることは困難であり,具体的事案について個々に認定するほかないと
ころ,例えば,①当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃
止していると認められるが,戸籍上の届出をしていないときや,②一方の悪
意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって,そ
の状態が長期間継続し,双方の生活関係がそのまま固定していると認められ
るとき等には,事実上の離婚状態にあるといい得る。そして,夫婦としての
共同生活の状態にないといい得るためには,①当事者が住居を異にすること,
②当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと,③当事者間
に意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこ
と等の事情が考慮されるべきである。前記各所管課長通知も,事実上の離婚
状態といい得るのは,上記①ないし③を満たす場合をいうとしている。
また,上記のとおり,我が国の民法が法律婚主義を採用していることから
すれば,原則として法律上の婚姻関係を優先すべきであるから,配偶者要件
の有無を判断するに当たっても,内縁関係にある者と比較して相対的に決す
べきものではなく,あくまで,戸籍上の配偶者の生活実態に即して独自に判
断されるべきものである。
(被告日本鉄道共済組合の主張)
国家公務員共済組合法は,遺族共済年金の受給権者を組合員又は組合員で
あった者(以下「組合員等」という。)の遺族と定め(同法88条),遺族
とは組合員等の配偶者,子,父母,孫及び祖父母で,組合員等の死亡の当時
その者によって生計を維持していたものをいうと定める(同法2条1項3
号)。さらに,配偶者には届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事
情にある者を含むと規定している(同項2号イ)。
ところで,国家公務員共済組合法等の運用方針(昭和34年10月1日蔵
計2927)は,「遺族及び退職共済年金等の加給年金額対象者に係る生計
を維持することの認定に関しては,厚生年金保険における生計維持関係等の
認定基準及び認定の取扱いの例によるものとする」と規定し,この方針に基
づき,被告日本鉄道共済組合は,社会保険庁の遺族認定に関する通達を準用
して,国家公務員共済組合法上の遺族に該当するかを認定している。
そこで,被告日本鉄道共済組合は,被告国の主張を援用する。
(補助参加人の主張)
法律上の婚姻関係にある者が,重ねて他の者と事実上の婚姻関係にある重
婚的内縁関係が存在する場合において,我が国が法律婚主義を採用している
ことからして,原則として法律上の届出による婚姻関係にある者が遺族厚生
年金等の受給資格を有する配偶者と認められるべきことは当然である。
上記原則にもかかわらず,事実上の婚姻関係にある者が配偶者要件を満た
すと認められるのは,前掲最高裁判所昭和58年4月14日判決の判示にあ
るように,法律上の婚姻関係が全く実体を失って形がい化,すなわち文字通
り名前だけのものとなり,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される
見込みがなく,事実上,離婚状態にあるのと同視できる場合のように極めて
例外的な場合に限られる。
()争点()原告がAの配偶者ではない旨の本件各処分の認定に重大かつ明白22
な瑕疵があるかについて
(原告の主張)
下記のとおり,Aの死亡当時,同人と補助参加人の婚姻関係は実体を失っ
て修復の余地がないまでに形がい化しており,他方,Aと原告とは極めて強
固な事実婚状態にあったのであるから,原告の配偶者該当性を否定すること
は誤りである。
ア両人が婚姻当初から不仲であったこと
Aは社交的であるのに対し,補助参加人は大人しく内気であるなど,両
者は性格が合わず,Aは自ら部屋の掃除をすることを余儀なくされたり,
趣味の音楽に文句を言われるなど愛情のない生活を送っており,両者の婚
姻生活は当初から不安定な要素をはらんでいた。
イ別居期間が36年以上に及んでいたこと
補助参加人は,昭和22年から昭和39年までの16年間Aと同居生活
を送り,一女Eをもうけたものの,昭和39年以降Aの死亡まで36年間
以上Aと別居していた。すなわち,補助参加人のAとの同居期間は,原告
のAとの同居期間の半分にも満たない。
ウ別居の理由
Aが補助参加人と別居するに至った理由は,専ら補助参加人のわがまま
によるものである。
すなわち,Aが退職の際,知人が多く生活しやすい出身地の愛知県内に
戻りたいと希望したのに,補助参加人は,あんな寒いところには行きたく
ないから,一人で行ったらなどと述べてこれを拒否した。
仮にも16年間連れ添った妻であれば,相当の理由がない限り引っ越し
を理由に別居に踏み切るということはないと思われるが,補助参加人には
特に住居がd市内でなければならないという理由もないから,両名が別居
に至ったのは専ら補助参加人のわがままによるものである。
なお,Aと原告とが別居以前に交際していたことはなく,別居の理由は
原告とAとが生活を始めたことによるものではない。
エ別居後の反復的・継続的交流の不存在
(ア)別居後,補助参加人とAとが会っている事実,例えば相互の家庭を訪
問している事実はない。また,電話や手紙による安否の連絡等も,別居
当初からその後までなく,両者の間に反復的・継続的交流は全く存在し
ない。
なお,被告らは,Aは,別居後も平成2年ころまでは2か月に1度,
補助参加人を訪問していると主張するが,かかる事実は存在しない。
また,Aが補助参加人の母親の葬儀,Eの結婚式,Dの娘の結婚式,
Dの妻の葬儀などの冠婚葬祭に出席した事実,及びEの成人の際,Aが
京都まで着物を作りに同行したことはあるが,これらは昭和年間から平
成2年までの事情ばかりであって,Aと補助参加人との婚姻関係の修復
可能性を判断する上での間接事実としての価値は低い。そのほか,Aの,
その子や孫の冠婚葬祭への出席は,子の親,孫の祖父としての役割を果
たしたものとみるべきであるから,補助参加人の夫としての責任を果た
す趣旨であったとはいえない。
さらに,補助参加人の提出した丁5号証の家計簿の記載を精査しても,
離婚問題に関する電話の多かった平成6年を除くと,電話・手紙による
連絡は多くても2か月に1回であり,少ない場合には半年に1回にとど
まる。
(イ)被告らの主張は,乙10号証(補助参加人がP社会保険事務所に提出
した補助参加人作成名義の平成12年11月7日付け回答書),13号
証(GがQ社会保険事務所に提出したG作成の回答書),14号証(補
助参加人がP社会保険事務所に提出した補助参加人作成名義の平成12
年10月5日付け回答書)を基礎としているところ,これらの書証の信
用性等は極めて疑わしい。
すなわち,乙14号証は,補助参加人作成名義となっているが,Eの
筆跡であるのでその成立の真正を争う。仮に,乙14号証が真正に成立
したものであるとしても,Aの体調の悪化等の客観的事情に照らすと,
昭和39年から平成2年まで2か月に1回くらい音信・訪問があったな
どとする乙14号証は全く信用できない。
また,乙10号証は,乙14号証の後に作られていること,その内容
は乙14号証とほぼ同一であること,補助参加人の老化との関係でかか
る回答が困難であろうこと,客観的事実と反する点があることに照らす
と,全く信用できない。
そして,乙13号証も,Aの体調の悪化等の客観的事情等に照らして
信用できない。
オ別居後の婚姻関係の修復に向けられた努力の不存在
補助参加人とAとの間で,婚姻関係の修復に向けた動きは全くみられず,
むしろ,Aは補助参加人との別居を余儀なくされるや原告を後添えとして
迎え,対内的対外的に同人を妻として遇していたし,補助参加人の側でも
Aが健康を害しようと入院しようとそれに関心すら持たず,両者には遅く
とも別居後数年後には,離婚の黙示の合意すら見て取れる。
また,Aが,補助参加人と正式な離婚に踏み切らなかったのは,補助参
加人との子供であるEの存在を気に掛け,あるいは気に病んでいたからで
ある。
なお,Aと補助参加人とが,昭和39年,その関係について話し合った
ことはあるが,昭和39年当時の事情は本件処分当時のAと補助参加人と
の婚姻関係の修復可能性を判断する上で参酌すべきではない。
カ離婚合意の不存在について
補助参加人が離婚意思を有していなかったことは知らない。また,Aが,
平成6年ころ,原告に対し離婚しない旨言い渡したことはない。
補助参加人が離婚不受理届を提出するなど強硬な反対によって,Aに対
し法律上の婚姻関係の解消を断念させたにすぎないのであり,両名の婚姻
関係の形がい化を論じるに当たっては全く無意味である。
ちなみに,平成6年当時,補助参加人とAとの別居期間は30年にも及
び,両者間には未成熟子はおらず,離婚により補助参加人が経済的に過酷
な状態に置かれるとはいえないから,補助参加人とAとの間の離婚要件は
具備されていた。
キ別居後の配偶者としての対内的・対外的活動の不存在
原告は,Aの重要財産を管理し,また,その入通院時の看護付添いや日
常介護に当たっていたが,補助参加人は一切このようなことに関与しなか
った(なお,補助参加人が平成12年8月にAを見舞った事実は認め
る。)。その徹底した無関心・無関与振りは,あたかも赤の他人に対する
ようであった。また,補助参加人は,Aが愛知県f郡a町内に転居して間
もなく,同人の本や鉢植えなどの残置物を同所に郵送してきており,補助
参加人はAとの共同生活を再開する意思を喪失していたことが見て取れる。
また,補助参加人が,Aの妻として公私の別を問わず何らかの行動をと
った事実は,Aの葬儀も含め全くない。補助参加人は,Aの葬儀の際,葬
儀の設営等の努力,親族対応等に一切寄与せず,単に参列したにとどまる。
そして,Aも,補助参加人を妻として意識・認識していなかった。
なお,Aの墓地については,当初原告がこれを設置する予定であったが,
経済的事情からあきらめたにすぎない。
このように,別居後,補助参加人には,配偶者に求められる対内的活動
・対外的活動のいずれも認められない。
ク経済的交流の趣旨
Aは,補助参加人との別居後しばらくの間,補助参加人がAの年金が振
り込まれる口座(年金口座)から一定額の金員を引き出すことを認めてい
たが,昭和52年ころ以降は,原告がAの年金口座を管理するようになり,
Aが補助参加人に対して月8万円(昭和54年ころ以降は月10万円)を
送金していた。
しかし,反復的な経済的依存関係なるものも,結局は,法律上の婚姻関
係が実体を失って修復の余地がないまでに形がい化していたか否かを推認
するための資料なのであるから,単に被保険者等から戸籍上の配偶者へ金
員の送付があったか否かではなく,そのような行為が,婚姻関係の修復な
いし維持に向けられているのか,あるいは慰謝ないし清算を念頭に置いた
ものであるのかを把握しなければならない。この点で,前記「事実婚関係
の認定事務について」記載の「当事者間に経済的な依存関係が反復して存
在していないこと」の要件は,法の趣旨に反している。
Aは,補助参加人に対する慰謝ないしEの養育のために送金を開始し,
Eの成人後は,同人に気兼ねし,あるいは気後れして送金をやめられなか
っただけであり,少なくとも,Aが補助参加人との婚姻関係の維持ないし
修復を念頭に送金を継続していたことはあり得ない。
また,生活保障のための金員送付であれば,Aとしては補助参加人の生
活実態に関心を向け,それに応じた送金を検討するはずであるが,Aはそ
のようなことを全くしておらず,ただ機械的に金員を送付しているのみで
ある(昭和54年に送金額が2万円増加したのは,Aが70歳に達し,年
金額が増加したためであり,やはり機械的になされたものである。)。
仮に,生活保障のための金員送付であったとしても,それは離婚後の生
活保障等に向けられたものであって,婚姻関係を維持し,修復の余地を残
す意味合いで送金されたのではない。
よって,Aが補助参加人に毎月送金していた事実はあるものの,それは
婚姻関係の修復ないし維持を念頭に置いたものではなく,それゆえ,重婚
的内縁関係の問題を解決するに当たり重視できるものではない。
ケ補助参加人の,原告とAとの関係の容認
戸籍上の配偶者が,重婚的内縁関係にある者の存在を知りながら,これ
を解消させる動きに出るどころか,かえってその存在を容認ないし黙認し
ている場合,それは法律上の婚姻関係が実体を失って修復の余地がないま
でに形がい化していたことの重要な資料となる。
この点,補助参加人は,Aと原告とが同居する前,原告に会い「本当に
Aと一緒になって生活する覚悟があるのか」などと問いただし,原告は
「一緒にhに行きます」と答えており,このとき補助参加人が原告の存在
を知り,Aの妻としての地位をあきらめたことが明らかである。
また,補助参加人は,Aから送金を受けると,Aと原告とを連名のあて
先とした礼状を送付した事実もあり,補助参加人がAと原告との関係を黙
認していたことは明白である。
さらに,Aの葬儀においても,原告がAの妻として振る舞い,補助参加
人は他の一般の親族と同様に参列しただけであることからも,補助参加人
がAと原告との関係を黙認していたことは明白であるといえる。
そして何より,補助参加人は,原告という内妻の存在を知りながら,こ
れを解消させるための積極的措置には何ら出ていない。
以上から,補助参加人は,重婚的内縁関係にある者の存在を知りながら,
これを解消させる動きに出るどころか,かえってその存在を容認している
ことが明らかである。
コ原告とAとの重婚的内縁関係が極めて強固な実質を伴っていたこと
以下のとおり,原告とAとの重婚的内縁関係は,極めて強固な実質を伴
うものであったところ,重婚的内縁関係の実体が強固であればあるほど,
法律上の婚姻関係の実体は希薄化し,形がい化し,その修復見込みは失わ
れる。
(ア)両人の重婚的内縁関係が,Aが補助参加人との離婚を前提に申し入れ
たものであること
Aは,補助参加人から愛知県内への転居を拒まれたため,勤務先で知
り合った原告に対し,補助参加人とは離婚すること,原告の生活を間違
いなく保障すること,遺族年金によりAの死後の心配もないこと,これ
らを誓約して,Aと愛知県内で婚姻生活を送ってくれるよう申し入れた。
原告は,父親にAを引き合わせ,上記誓約を確認した上で,親族了解の
もと,Aとともに愛知県で婚姻生活を送ることを決意し,愛知県内で同
居生活を開始した。
原告としては,Aとの年齢差や,補助参加人及びEの存在等の問題が
あり,容易には承諾し難かったが,Aが補助参加人からつれなく扱われ
ていたことと,何より,Aが原告とその父親に対し,補助参加人との離
婚を誓約するなどしたことから,Aとの同居生活に踏み切ったものであ
る。
このように,原告とAの同居生活は,極めて真しに始まった。
(イ)同居期間が36年以上に及んでいたこと等
原告とAは,昭和39年4月から平成12年8月まで36年以上の長
きにわたって同居生活を続け,共同生活を営んでいた。その間,Aは,
原告との間にFをもうけて同人を認知し,家族3人で旅行するなどし,
その間には真しな夫婦生活が存在した。
(ウ)同居後,原告には配偶者に求められる対内的活動が認められること
原告は,Aが大けが等をするたびに,妻として当然のこととして看病
等の身の回りの世話を献身的に続けてきた。また,原告は,Aの重要な
財産(実印や銀行届出印,預金通帳類の一切)を管理し,補助参加人へ
の送金も任されていた。
原告は,Aの両親,先々妻,先妻及び先妻とAの間の夭逝した子の永
代供養も行っていた。
このように,原告は,妻に求められる役割を十二分に果たしてきた。
(エ)原告には配偶者に求められる対外的活動が認められること
原告は,Aのすべての兄弟と面識を持ち,その自宅を訪問するなどし,
Aの親族からもAの妻として認知されていた。また,Aは,知人らにも
原告を妻として紹介しており,原告をめかけ扱いした知人をしかったこ
ともある。
原告は,Aの子であるD,FとともにAの葬儀を取り仕切って行って
いる。DがAの嫡男であり,原告は内妻であることから,世間体をおも
んぱかって,喪主や死亡届出はいずれもDの名義で行ったが,葬儀屋の
手配や葬儀会場の選定,親族らへの連絡等はいずれも上記3名が協力し
て行い,特にAの親族への連絡は原告に任されていた。また,原告は,
参列した各親族らにあいさつ回りもしている。
このように,Aは,対外的にも原告を妻として遇し,原告もそのよう
に振る舞い,周囲もそのことを認知していた。
(オ)原告はAと生計を共にし,経済的に同人に依存していたこと
原告は,Aが補助参加人に毎月8万円ないし10万円を送金していた
ことから,内職等をして生計の足しにしていたが,基本的にはAの収入
や年金に依存して生活をしていた。
(被告国の主張)
以下のAと補助参加人間の諸事情にかんがみると,いずれの観点からも,
Aと補助参加人が事実上の離婚状態にあるというべき事情は見いだせず,む
しろそれを否定すべき事情が認められるから,補助参加人は配偶者要件を満
たしている。
アAが補助参加人に対し定期的に送金をしていたこと
Aは補助参加人に対し,別居後から死亡する直前の平成12年2月まで
1,2か月に1度は7万円ないし28万円を送金しているところ,補助参
加人の生活費は月12万円から13万円であるから,上記の送金が補助参
加人の生活費の大半を占めていることは明らかである。したがって,Aは
補助参加人らの生活費を援助し,その生活を支えていたと認められる。
そうすると,Aと補助参加人の間においては,前記各所管課長通知一の
「夫婦としての共同生活の状態にない」といえるための要素の一つである,
「当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していない」こと(同課長
通知一(二))を認めることはできず,むしろ両名の間には経済的な依存関
係が反復して存在したと認められる。
イAが補助参加人に対し,手紙,電話,訪問による連絡をしていたこと
Aは,補助参加人に対し,別居後も定期的に連絡をしたり訪問するなど
し,補助参加人らの生活状況を気に掛けていることや,また,娘の結婚式
などの冠婚葬祭にも出席していることにかんがみると,Aは,補助参加人
に対してはもちろんのこと,その親族や親族以外の者に対しても,補助参
加人の夫としての責任を果たす趣旨で上記行動をとったものと考えるのが
自然である。
とすると,Aと補助参加人の間においては,上記「夫婦としての共同生
活の状態にない」と認めるための要素の一つである,「当事者間に意思の
疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと」
(同課長通知一(三))を認めることはできず,むしろ両者の間には意思の
疎通をあらわす音信及び訪問等の事実が存在していたことが認められる。
ウAと補助参加人ともに離婚手続をとった事情はないこと
補助参加人は,昭和39年から2年ほど仲人や兄弟等に依頼してAとの
別居生活の解消に努めたことがあり,A及び補助参加人ともに離婚手続を
進めようとした経緯はない。したがって,事実上の離婚状態を示す場合の
一つである,「当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃
止していると認められるが戸籍上離婚の届出をしていないとき」(同課長
通知一①)には該当しない。
エ別居に至る経緯
なお,補助参加人は,Aとの同居生活を望んでいたにもかかわらず,A
と補助参加人は,昭和39年4月1日に,Aが愛知県f郡a町で原告と生
活を始めたことにより別居したものである。
(被告日本鉄道共済組合の主張)
被告国の主張を援用する。
(補助参加人の主張)
ア補助参加人とAとの婚姻関係の形がい化が認められないことは,以下の
事情から明らかである。
(ア)Aから補助参加人への定期的な送金(経済的な依存関係の存在)
Aは,昭和39年の別居開始直後から死亡直前の平成12年2月まで,
補助参加人に対し,2か月に1度定期的に生活費を送金していた。しか
も,Aは,補助参加人と一緒に暮らしていた静岡県d市の官舎から出て
いく時,補助参加人に対して生活費を毎月送るからこれで生活するよう
にと告げている。すなわち,Aから補助参加人に対する送金は,補助参
加人及びEの生活費として送金されたものである。
Aは,昭和60年にEが結婚し,補助参加人と生計が別になった後も
同様に補助参加人に対して送金をしている。したがって,この送金は,
原告の主張のようにEへ迷惑を掛けたことに対するものというよりも補
助参加人の生活費という趣旨であったというべきである。
他方,補助参加人は,Aと別居を開始した当時,仕事をしておらず貯
金もなかったので,Aからの送金のみによって生活していた。なお,補
助参加人は,その妹のGが経営する洋品店で働いたこともあったが,そ
れによる収入は少額であり,別居後の生活費の大半はAからの送金によ
っていた。したがって,補助参加人とAとの間に経済的な依存関係があ
ったことは明らかである。
(イ)Aと補助参加人との継続的な音信関係
Aは,補助参加人と別居後,2,3か月に1回くらいの割合で補助参
加人の住居を訪問しており,その際には手みやげを持参し,泊まってい
くことも多く,Eも連れて一緒に家族で近くの海岸に行ったりした。
補助参加人は,Aと別居後,住居を何度か変わっているが,Aはそれ
ぞれの住居を訪問しているし,Eが東京の学校へ行くようになってから
も,gの補助参加人のもとを訪れたり,東京のEを訪問したりしている。
また,補助参加人とEが,Aの愛知県の住居を訪れたこともある。
Aは,昭和45年にEが成人を迎えるに当たり,補助参加人に声をか
けて京都まで着物を作ってもらいに行った。また,昭和61年ないし昭
和62年ころ,iの国鉄の保養所にA,補助参加人,D及びEで泊まり
がけで行ったり,平成元年3月12日には,Aの80歳の祝いを補助参
加人,D,Eの3人でしたこともある。
また,電話による連絡も1か月か2か月に1回くらいの割合であった。
その上,昭和46年12月の補助参加人の母の葬儀,昭和60年3月
17日のEの結婚式,平成2年11月11日のDの娘の結婚式,平成2
年12月のDの妻の葬儀などの冠婚葬祭に際し,Aと補助参加人は夫婦
として出席している。
さらに,Aと補助参加人との間では,定期的に食品類を中心とする物
のやりとりがあった。ただの連絡に止まらない物のやりとりはそれなり
に親しい間柄になければすることではない。
そのほか,補助参加人は,Aが病気ないしけがをしたと聞き,少なく
とも3回,愛知県に見舞いに行っている。
このように,Aは定期的に補助参加人のもとを訪ねたり,電話で話し
たりして意思の疎通を保っており,音信状態が認められるばかりか,冠
婚葬祭に夫婦として出席するなど外形的にも夫婦としての存在が認めら
れる。
(ウ)離婚合意の不存在
Aが,静岡県d市の官舎を出ていく時,Aから離婚の話が出ることは
なかった。補助参加人も,相談に乗ってくれていた知人から,そのうち
帰ってくるだろうなどと言われ,Aが帰ってくるのを待っており,離婚
の意思はなかった。
別居後も,Aと補助参加人は定期的に音信を持っているが,離婚につ
いての話は出ていないし,Eも両親の口から離婚を考えているなどとい
う話を聞いたことがない。
平成5年ないし6年ころ,Aから補助参加人に対し離婚を求める話が
あったが,前後の状況からして原告がAに働きかけたものと思われ,補
助参加人がこれに応じなかったことにより,Aも本心を取り戻し,その
後,原告に対して「離婚はしない」旨告げている。
このように原告の働きかけによりAも離婚を考えたことがあったかも
しれないが,まさに一時的なもので,平成6年10月ころには離婚話は
なくなり,Aからの送金は従前のとおり定期的になされていた。
なお,この時も,補助参加人には離婚の意思はなく,そのことは補助
参加人が市役所に離婚不受理届を半年ごとに提出していたことからも明
らかである。
(エ)Aの死亡前後の事情
補助参加人は,平成12年8月12日,DからAの体調が不良である
旨を聞くや,速やかにEと病院に見舞いに行っており,同月16日にA
が亡くなった後も,葬儀に妻として出席している。なお,原告が,Aの
葬儀の際,妻としてあいさつをした事実はない。
また,Aの墓地は静岡県g市bに補助参加人名義で申し込み,その後
の供養もしている。
イ乙14号証の作成経緯
乙14号証の補助参加人名義の回答書は,Eが記載したものである。た
だ,これは,社会保険庁から補助参加人あてに照会が来たのに対し,高齢
で字を書くのがおっくうになっている補助参加人がEに代筆を依頼し,こ
れを受けたEが自ら知っていた事情はそのまま,知らない事情は改めて補
助参加人に確認して,補助参加人の目の前で同人に代わって記載したもの
で,この文書は補助参加人の意思に基づくものである。
また,当時,補助参加人やEは,この照会文書が年金に関係するもので
あることは分かっていたが,年金の支給の可否をめぐって本件のような裁
判ざたになるなどとは認識していなかったし,年金支給の要件についての
法的知識などは皆無であった。
()争点()補助参加人の生計要件該当性等について33
(原告の主張)
ア重婚的内縁関係における生計要件
本件各遺族給付を,被保険者等ないし組合員等の配偶者が受給するため
には,被保険者等ないし組合員等と生計を同じくしていたもの(生計同一
関係)あるいは被保険者等ないし組合員等の収入により生計を維持してい
たもの(生計維持関係)であることを満たす必要がある。
重婚的内縁関係において,戸籍上の配偶者が生計同一関係ないし生計維
持関係を満たしていない場合には,戸籍上の配偶者が上記各年金を受給す
る余地はない。その結果,重婚的内縁関係にある者と戸籍上の配偶者との
競合関係は解消されるから,重婚的内縁関係にある者が各要件を満たして
いる限り,各年金の受給権者となると解する。
イ補助参加人の生計同一関係について
補助参加人は,Aと36年以上にわたり完全に別居していたのであり,
しかも,Aが暮らしていた愛知県a市と,補助参加人が暮らしていた静岡
県g市は遠隔地というべきであるから,補助参加人とAとの生計が全く別
個であることは明らかである。
被告国は,補助参加人につき後述のように
「単身赴任,就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票
上異なつているが,次のような事実が認められ,その事情が消滅したとき
は,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると認められるとき,
ア生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること。
イ定期的に音信,訪問が行われていること。」
が認められると主張する。
しかし,上記の「止むを得ない事情」とは,本来希望する同居を妨げる
客観的物理的な事情に限られると解すべきであるから,Aと補助参加人の
別居の原因が,A又は補助参加人のわがままであったとしても,それは止
むを得ない事情には当たらない。
また,別居期間が36年以上に及んでいること,Aは別居の際未だ14
歳のEを残してきており,相当の決意の上で別居に踏み切っていること,
Aの大けが等での入院等の際にAの看護は専ら原告が行い,補助参加人は
全く関与しなかったことにかんがみると,仮にAが原告と同居できなくな
ったとしても,Aが補助参加人と起居を共にし,消費生活上の家計を一つ
にすると認められるとは到底いえない。
さらに,Aの送金の趣旨は補助参加人の生活費ではなく,Aと補助参加
人との間で定期的な音信,訪問が行われていたこともない。
よって,被告国主張の判断枠組みに従ったとしても,補助参加人の生計
同一関係は認められない。
ウ補助参加人の生計維持関係について
補助参加人は,Aと別居した後,仕事をして収入を得ているから,補助
参加人がAの送金によって「生計を維持」していたとも考え難い。
なお,被告国は,生計維持関係の認定に当たっては,上記イで検討した
生計同一関係を充足する必要があると主張していると理解すべきであると
ころ,上記イのとおり,補助参加人が生計同一関係を充足しているとは認
められないから,生計維持関係も認められない。
エ小括
したがって,補助参加人は生計同一関係及び生計維持関係を満たしてい
ないといえるから,原告に対する本件各処分において,補助参加人と原告
との競合関係を考慮した点に重大かつ明白な違法がある。
(被告国の主張)
ア生計同一関係・生計維関係の認定方法
厚生年金保険法59条4項は,同条1項の適用上,被保険者等によって
生計を維持していたことの認定に関し,必要な事項は政令で定めると規定
している。これを受けて,厚生年金保険法施行令3条の10が,厚生年金
保険法59条1項に規定する「被保険者又は被保険者であつた者の死亡当
時その者によつて生計を維持し」ていた配偶者とは,「当該被保険者又は
被保険者であつた者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であつ
て厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたつて有すると認めら
れる者以外の者,その他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者と
する」旨規定している。そして,厚生労働大臣の定める金額は,平成6年
11月9日以降に受給権が発生したものについては850万円とされてい
る(平成6年11月9日庁保発第36号都道府県知事あて社会保険庁運営
部長通知。乙7号証)。なお,その他これに準ずる者については,厚生労
働大臣の定めはされていない。
厚生年金保険法59条1項所定の生計維持関係及び同法37条1項所定
の生計同一関係の該当性の判断基準として,「生計維持関係等の認定基準
及び認定の取扱いについて」(昭和61年4月30日庁保険発第29号都
道府県民生主管部(局)保険主管課(部)長・国民年金主管課(部)長あ
て社会保険庁年金保険部国民年金課長・業務第一課長・業務第二課長通知。
ただし平成6年11月9日庁文発第3235号による改正後のもの。乙8
号証,これを「生計認定基準」という。)が発せられている。
これによれば,生計維持関係の認定については,原則として,生計同一
要件及び収入要件を満たす場合に生計維持関係があるものと認定するもの
としており(生計認定基準の別添一(一)),
生計同一関係の認定については,同認定基準別添二(一)①で,「ア住
民票上同一世帯に属しているとき
イ住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき
ウ住所が住民票上異なつているが,次のいずれかに該当するとき
(ア)現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると
認められるとき
(イ)単身赴任,就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が
住民票上異なつているが,次のような事実が認められ,その事情が
消滅したときは,起居を共にし,消費生活上の家計を一つにすると
認められるとき
<ア>生活費,療養費等の経済的な援助が行われていること。
<イ>定期的に音信,訪問が行われていること。」
に該当するときには,生計同一要件を満たすとしている。
同認定基準別添二(一)①ウ(イ)の「止むを得ない事情」とは,「単身
赴任,就学又は病気療養等」との例示があるように,当該配偶者の意思に
よらない事情により住民票上住所を異にするに至った場合をいうものと理
解される。
また,収入に関する認定要件については,前年の収入が年額850万円
未満であることに該当する場合などには,「厚生労働大臣の定める金額以
上の収入を将来にわたつて有すると認められる者以外の者」として収入要
件を満たすとしている(同認定基準別添三(一))。
イ本件におけるあてはめ
(ア)生計同一要件
補助参加人は,Aとの同居生活を望んでいたにもかかわらず,昭和3
9年4月1日,Aが原告と愛知県f郡a町で同居生活を始めたため,A
と別居したのであるから,その別居は補助参加人の意思によらず,Aの
一方的な行為によるものであって,「止むを得ない事情」により別居し
たものというべきである。
また,Aは,補助参加人に対して,別居後から死亡する直前の平成1
2年2月まで定期的に7万円ないし28万円を送金しているが,補助参
加人の生活費は月12万円か13万円であるから,前記送金額によって
補助参加人の生活費が賄われていたことは明らかである。したがって,
Aと補助参加人の間には,経済的な依存関係が反復して存在していたと
認められる。
さらに,Aは,補助参加人と別居した後も,平成2年ころまでは2か
月に1度は補助参加人を訪問しており,平成2年以降も月に1回程度電
話での音信があったのであるから,両名の間には意思の疎通をあらわす
「定期的」な「音信,訪問」の事実があったものと認められる。
そして,A及び補助参加人の上記の行動等からすれば,両名の別居の
原因であるAと原告の同居という事情が消滅すれば,A及び補助参加人
の別居生活は解消される可能性も否定できないから,補助参加人は上記
通知の生計同一要件(同認定基準別添二(一)①ウ(イ))に該当する。
(イ)収入要件
補助参加人の平成12年度市民税・県民税所得証明書により,平成1
1年分における補助参加人の収入は年額850万円未満と認められるか
ら,上記通知の収入要件(同認定基準別添三(一)ア)に該当する。
(ウ)小括
以上により,補助参加人は,本件各遺族給付の給付要件であるAとの
生計維持関係等の要件を満たしている。
(被告日本鉄道共済組合の主張)
被告国の主張を援用する。
()争点()本件各処分は,Aの配偶者の認定について前提となる調査を尽く44
していない点で,原告がAの配偶者ではない旨の認定に手続上重大かつ明白
な瑕疵があって無効であるかについて
(原告の主張)
重婚的内縁関係にある者を「配偶者」と認定するについては,前記課長通
知により一定の運用が定められており,それによると,戸籍上の配偶者に対
し,主として,(ア)別居の開始時期及びその期間,(イ)離婚についての合意
の有無,(ウ)別居期間中における経済的な依存関係の状況,(エ)別居期間中
における音信・訪問等の状況の各事項を調査し,それによっても,同人の婚
姻関係の実態について「なお不明な点がある場合には,いわゆる内縁関係に
ある者に対しても調査を行う」とされている。国家公務員共済組合法におけ
る認定事務についても,条理上同旨が妥当すると解される。
本件においては,被告らは,法律上の妻である補助参加人に対し,十分な
調査を行っておらず,同人に対する調査のみでは,同人とAとの婚姻関係が
実体を失って修復の余地がないまでに形がい化していなかったかどうか不明
であったにもかかわらず,内縁の妻である原告に対しては,本件各処分に至
るまで何ら調査を行っていない。原告が年金支給裁定等を申し立てた後,何
ら事情を説明する機会が与えられなかったことから,簡単な説明資料を提出
した経緯はあるが,少なくとも被告らが原告に対し,専門的見地から事情聴
取をした事実はない。
被告らは「配偶者」要件の認定のため,原告からその内縁の実態及び補助
参加人の主張についての真偽を確認できるだけの事情を聴取すべき義務があ
ったのであり,この容易に行える事情聴取によって,原告の配偶者該当性は
容易に判明したといえるのである。したがって,本件各処分は手続的に無効
であり,全く事実の基礎を欠いてなされたものであって,重大かつ明白な違
法がある。
仮に,被告らの主張のとおり,戸籍上の配偶者の生活実態に対する調査判
断を行い,法律上の婚姻関係について事実上の離婚状態にないと認めた場合
には重婚的内縁関係にある者の実態調査を行う必要はないという見解をとっ
たとしても,その調査資料とされた乙10号証の補助参加人の筆跡と乙14
号証の回答書の筆跡は明らかに別人のものであり,その記載内容の不自然さ
に加え,Aと原告の居住地が遠隔地にあることや,Aの年齢等の諸事情から
両者の交流の有無や婚姻関係の実態については当然疑問を抱いてしかるべき
であったことなどに照らすと,戸籍上の配偶者である補助参加人らの生活実
態に対する調査の段階では,法律上の婚姻関係の実態について職務上当然に
要求される調査義務を尽くしたものとはいえず,それによって容易に判明す
る重要な処分要件の存否を誤認したのであるから,本件各処分には重大かつ
明白な瑕疵があって無効である。
(被告国の主張)
上記保険給付等の受給資格としての配偶者要件は,我が国の民法が法律婚
主義を採用していることから,まず法律上の婚姻関係について,その実態に
即して配偶者性を検討すべきものであって,戸籍上の配偶者と重婚的内縁関
係にある者のいずれがより実質的な婚姻関係を営んでいるかという観点から,
これを相対的に比較して検討した上で決すべき問題ではない。そのため,重
婚的内縁関係にある者から遺族厚生年金等の給付の裁定請求があったとして
も,重婚的内縁関係にある者の生活実態に対する調査判断に先行して,まず
戸籍上の配偶者の生活実態に対する調査判断を行い,法律上の婚姻関係が事
実上の離婚状態にあるといえるかどうかが検討されるべきであり,それによ
って事実上の離婚状態にあると認められなければ,事実上の婚姻関係の実態
のいかんにかかわらず,重婚的内縁関係にある者に受給資格を認めることは
できない。
本件においても,上記のとおり,Aと補助参加人が事実上の離婚状態にあ
ると認めることはできず,補助参加人が配偶者要件を満たしている以上,原
告に対する調査のいかんによって原告が受給資格を有すると認められるか否
かが変わるものではない。それゆえ,無効原因として調査手続の瑕疵をいう
原告の主張も失当である。
(被告日本鉄道共済組合の主張)
被告国の主張を援用する。
第3当裁判所の判断
1争点()重婚的内縁関係の事案における本件各遺族給付の支給対象者として1
の配偶者の認定のあり方について
厚生年金保険法上の配偶者には,戸籍上の届出をした妻のほか,重婚的内縁
関係にある者がいる場合については,法律婚主義を採用している我が国の法制
にかんがみて,原則として,戸籍上の配偶者が遺族厚生年金の受給権者として
の「配偶者」に該当するものと解すべきであり,戸籍上の配偶者との婚姻関係
が全く実体を失って形がい化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消さ
れる見込みがないと認められるときには,上記「配偶者」には該当しないと解
すべきである。そして,この場合には,重婚的内縁関係にある者が,遺族厚生
年金の受給権者としての「届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情
にある者」に該当し得るというべきである(昭和46年法律第85号による改
正前の農林漁業団体職員共済組合法24条1項の配偶者に関する最高裁判所昭
和58年4月14日第一小法廷判決・民集37巻3号270ページ参照)。
また,この理は,国家公務員共済組合法の配偶者,通算年金通則法の配偶者
の解釈についても異なるところはないと解される。
そして,この婚姻関係の形がい化等の事情の有無については,婚姻当事者の
別居の経緯,別居期間,婚姻関係を維持する意思の有無ないし婚姻関係を修復
するための努力の有無,離婚の意思の有無ないし離婚のための努力の有無,別
居後における相互の間の経済的依存の状況,別居後における婚姻当事者間の音
信・訪問等の状況,重婚的内縁関係の固定性等を総合的に考慮して判断すべき
である。
なお,原告は,上記の配偶者要件該当性を判断する際に,法律上の婚姻関係
の生活実態と重婚的内縁関係の生活実態とを比較して相対的に判断すべきであ
る旨を主張しているが,上述したとおり,法律婚主義をとる我が法制度並びに
厚生年金保険法等の上記各規定の趣旨及び解釈に照らしてみると,戸籍上の配
偶者の配偶者要件該当性は,まずもって,当該配偶者自身のそれについて検討
し,決定すべきものであって,重婚的内縁関係のそれとの対比において相対的
に判断すべきものとは解されない。したがって,原告の上記主張は,採用でき
ない。
2争点()原告がAの配偶者ではない旨の本件各処分の認定に重大かつ明白な2
瑕疵があるかについて
()前提事実等欄記載の事実のほか各項記載の証拠等により認定できる事実は1
以下のとおりである。
ア別居の経緯
(ア)Aは,昭和22年5月6日,補助参加人と結婚し,h市c区所在の国
鉄の寮で補助参加人及び死別した前妻との子であるDとの生活を開始し,
昭和24年10月30日,Aと補助参加人の間にEが出生した。
A,補助参加人,D及びEは,昭和25年,Aの転勤のため,静岡県
d市内の国鉄官舎に転居した。Dは,昭和33年,大学進学のため上京
して別居した。
Aは,昭和39年3月の定年退職をひかえて,再就職先について補助
参加人に相談した際,出身地のhに帰って生活したい旨を告げた。これ
に対して補助参加人は,hは寒く,Eも高校受験であるとして,Aの上
記の希望に賛同せず,Aがd市方面で就職することを希望した(丁1号
証,補助参加人,弁論の全趣旨)。
(イ)Aは,以前,静岡県g市所在の国鉄の寮を訪れた際,その寮に勤務し
ていた原告と知り合い,交際をするようになっていたが,上記のとおり
退職後はhに帰郷したいとの希望が補助参加人に容れられなかったこと
から,原告にhで一緒に生活して欲しいと申し入れた。原告は,この申
出にちゅうちょしたが,Aが原告に対し,補助参加人と離婚すること,
生活は保障することを約束し,これらを原告の父親にも申し述べたこと
から,Aの上記申し入れを受け入れることにした(甲17号証,原告本
人,弁論の全趣旨)。
(ウ)補助参加人は,そのころ,知人からAが女性と一緒にeの街を歩いて
いるのを何度も見たことなどを聞き,また,Aが時々夜に外出したり,
休日に泊まりがけで出かけたりすることが何度かあったことから,Aが
その女性と交際しているのではないかと考え,昭和39年3月ころ,A
に問いただした。これに対し,Aは,その女性(原告)とhへ行って生
活することにした旨を告げ,知人が間に入って説得したが翻意せず,補
助参加人に対して,生活費を毎月送るからそれで生活するようにと告げ
て,同年4月ころ補助参加人との別居に踏み切った(丁1号証,補助参
加人)。
イ別居期間
その後,Aと補助参加人の別居期間は,Aが死亡した平成12年8月ま
での約36年間に及んだ。
ウ婚姻関係を維持又は解消する意思及びそれらの努力
(ア)補助参加人はAが上記の経過で別居するに至った際,Aと離婚する意
思はなく,Aも補助参加人に対して離婚を申し入れることはなかった。
Aと補助参加人の結婚の際の仲人,補助参加人の兄,Aの国鉄勤務時
代の同僚等は,別居後約2年間にわたり,Aに補助参加人のもとへ戻っ
て家族一緒に暮らすように説得をし,補助参加人も,Aに対して戻って
くるよう伝えたが,いずれの説得も功を奏しなかった。
なお,補助参加人は,別居後Aの死亡まで,婚姻関係調整等の家事調
停を申し立てるなどしたことはなかった(丁1号証,補助参加人,弁論
の全趣旨)。
(イ)一方,原告は,Aに対して,補助参加人と離婚してくれるよう幾度と
なく要請していたが,Aは「Eが中学を卒業するまで待ってくれ」,
「高校を卒業するまで待ってくれ」,「大学を卒業するまで待ってく
れ」などと言って離婚話を先送りにし,時には離婚話を持ちかけられる
と怒り出すこともあった(甲17号証,原告本人)。
(ウ)原告は,平成5年3月から同年8月までの間,Aが肺結核等のためH
病院に入院したことを契機に,Aに対し,補助参加人と離婚するよう頼
んだところ,Aは,平成6年ころ,補助参加人との離婚を決意し,同年
1月26日ころ,補助参加人に対し離婚届を送付した。
これに対し,補助参加人は,原告との電話により上記の動きを察知し,
同月14日,g市役所に離婚届不受理の申出書を提出した。
その後,Aは,平成6年4月7日,同年5月28日,同年6月18日,
補助参加人に電話をして,早く離婚届を送るように要請し,これに応じ
ないと生活費を送らないと告げた。原告も,補助参加人に対し,早く離
婚するよう要請し,Aの指示で原告が行っていた補助参加人に対する送
金も,従前の約半分の2か月当たり10万円程度に減額した。しかし,
補助参加人は,A及び原告に対し,Aと離婚する意思はなく,離婚届を
送ることはできない旨返答した。
Aは,同年10月ころ以降は,補助参加人に対して離婚を要請するこ
とを止め,離婚調停を申し立てることもなく,同年12月以降はほぼ従
前どおりの送金額に戻し,同年10月ないし12月ころには,補助参加
人との離婚を断念した。
なお,補助参加人は,平成11年10月5日までの間,年1回ないし
2回,離婚届不受理の申出書の提出を継続しており,Aと離婚する意思
を抱いたことはなかった(甲17号証,乙9号証の1・2,丁1号証,
5号証の6ないし5号証の11,原告本人,補助参加人,弁論の全趣
旨)。
エ補助参加人の経済的依存の状況
Aは,別居直後から約2か月に1回の割合で補助参加人に生活費を送金
していた。Aは,年金を受給するようになった際,その振込先を補助参加
人の管理する預金口座に指定し,補助参加人はこれを生活費にあてていた。
しかし,昭和52年7月,Aが庭木から落ちてけがをし,同年12月に
くも膜下出血で入院・治療をした約5か月の間,補助参加人がAの看病に
従事したり,手伝ったりしたことはなく,専ら原告がAの看病に当たった
ことから,原告は,Aに対し,補助参加人が年金の管理をするのはおかし
いのではないかと問いつめた。そこで,Aは,年金の振込先を原告の管理
するA名義の預金口座に変更した上,原告に指示して,約2か月に1回の
割合で,補助参加人の預金口座に生活費を振り込ませるようにした。補助
参加人への送金は,平成12年2月18日まで続いた。補助参加人名義の
預金口座の通帳が残存している期間の,Aから補助参加人への送金の額は,
別紙記載のとおりであり,1月平均7万円から10万円であるが,平成6
年の離婚協議中もおおむね2か月ごとに10万円ずつ送金されていた。
補助参加人は,Aとの別居後しばらくは勤めに出ていなかったが,Eが
上京した昭和43年4月ころから昭和62年ころまでの間,補助参加人の
妹のGが経営する洋品店に勤務し,月額2万5000円の給与を得ており,
食費・電気代・家賃合計3万円をGが負担していた。昭和62年ころに,
Gが洋品店を閉店して以降は,補助参加人が勤めに出たことはない。
補助参加人の生活費は,月平均で12万円ないし13万円であった(甲
17号証,乙9号証の1・2,10号証,13号証,丁1号証,原告本人,
補助参加人)。
オ別居後の音信,訪問等の状況
(ア)Aは,昭和46年12月の補助参加人の母の葬儀,昭和60年3月1
7日のEの結婚式,平成2年11月11日のDの娘の結婚式及び同年1
2月のDの妻の葬儀に,いずれも補助参加人とともに出席した。また,
Aと補助参加人は,昭和45年にEが成人を迎えるに当たり,Eの着物
を作ってもらうため京都まで出向いた(争いがない。)。
(イ)また,Aは,年に1度戦友会の旅行に出かけたが,昭和54年の飛騨
高山旅行の際にはEと,昭和61年又は昭和62年のi旅行の際にはD,
E及び補助参加人と,現地で合流して旅行をした(丁1号証,2号証,
4号証,原告本人尋問の結果,補助参加人)。
(ウ)上記別居後の昭和47年10月,A,D,補助参加人,Eらが,補助
参加人宅に集まったことがあるほか,平成元年3月12日,A,D,補
助参加人及びEは,hでAの80歳を祝う食事会を行った(丁4号証,
5号証の2)。
(エ)補助参加人は,昭和63年から平成8年までの間は,年に1,2回,
Aと電話で話をすることがあり,原告が留守の時などには,子供の話や,
畑の話,国鉄時代のAの職場の同僚の話や,再就職後の職場の同僚の話
などで長電話になることもあった。また,補助参加人は,平成9年から
平成11年までの間,年に1,2回,Aに手紙を出していた(丁5号証
の1ないし11,補助参加人)。
(オ)Aは,昭和63年から平成5年1月までの間,年に数回,補助参加人
に対し,家庭菜園で作った野菜類等(タマネギ,じゃが芋,漬物)やカ
レンダーなどを送っていた。補助参加人も,年に1度,Aにみかんなど
を送っていたほか,Aの要請に応じて地球儀やいちじくの苗を届けたこ
とがある(丁5号証の1ないし5,補助参加人)。
カAの看病と補助参加人の言動等
昭和52年7月,Aが背骨を骨折して入院した際,原告は補助参加人に
対し,戸籍上の妻であり,生活費を送っているので,主人の看護を手伝っ
てほしいと頼んだが,補助参加人は「好きで一緒になったのだから,子供
を連れて泊まって看護するか,家政婦でも頼んだらいいでしょう。お金が
なかったら,借りたらいいでしょう」と返答して,看病の手伝いを断った。
原告は,その後も,Aが入院する都度,その状況を補助参加人に連絡し
たが,補助参加人がAの看病や介護に訪れることはなかった。補助参加人
がAの見舞いに訪れたことが証拠上認められるのは,昭和52年12月の
くも膜下出血の際と,Aが死亡する4日程前の平成12年8月12日ころ
の2回にとどまる。
Aの死後,補助参加人は,通夜,葬儀に出席し,補助参加人の名義で墓
所利用許可を取得し,Aの一周忌等の供養を行った。
(甲17号証,丁1号証,3号証,4号証,原告本人,補助参加人)
キ重婚的内縁関係の固定性
原告は,昭和39年4月ころからAが死亡するまで約36年間にわたっ
てAと同居した。原告は,昭和41年4月,Aとの子であるFを出産し,
同年12月AはFを認知した。
原告は,Aの兄弟(I,J,K,L)の自宅を訪問したりして交際し,
Aの親族や周囲の人からもAの妻として扱われた。
Aは,昭和52年7月から約40日間,骨折,頭部出血等のためO外科
に,昭和52年12月に約14日間,くも膜下出血,硬膜下血腫の手術の
ためM病院に,平成5年3月15日から約5か月半,肺結核等のためH病
院に,平成8年3月25日から約2週間,急性膵炎のためH病院に,平成
9年4月20日から約3か月間,交通事故による右大腿骨頸部外側骨折等
のためH病院に,平成12年3月17日から約2週間,リハビリのためN
クリニックに,平成12年8月8日から同月16日死亡した日まで,肺炎
のためNクリニック及びH病院にそれぞれ入院していたが,原告は,これ
らの入院期間中や自宅での療養,通院などAの日常生活全般について看病,
介護に当たり,Aの葬儀に際しても,D,Fとともに,葬儀屋の手配や葬
儀会場の選定,親族らの連絡,参列者へのあいさつを行うなどした(甲1
4号証,15号証,17号証,原告本人)。
()上記の事実認定に関する補足説明2
ア書証の成立及び信用性について
原告は,乙14号証(補助参加人作成名義の回答書)の成立の真正を争
い,乙10号証(補助参加人作成名義の回答書)及び乙13号証(Gの回
答書)の信用性を否定するが,補助参加人の供述によれば,乙14号証は,
Eの代筆にかかるものであるが,補助参加人の意思に基づき真正に成立し
たものと認められ,乙10号証及び乙13号証とともに,補助参加人側の
立場を反映した文書であることを考慮しつつ,それらの信用性を考慮すれ
ば足るものと解される。
イ昭和39年4月1日の別居に至る経緯について
原告は,昭和39年4月1日の同居以前に,Aと交際をしていた事実は
なく,単なる職場の知り合いであったと主張するが,原告は,Aが28歳
も年長で定年を迎える年代であり,しかも妻子があることを知りつつ同居
を開始しており,結婚歴もない女性にとって,そのようなことは容易に決
断できることではないこと,一方,Aと補助参加人の夫婦仲は円満ではな
く,Aのh方面への帰郷の意向を巡って悪化した状態にあったと認められ
ること,これらに照らしてみれば,原告とAは,昭和39年4月1日の同
居開始以前から交際関係にあったと推認するのが相当である。
ウAの補助参加人への送金の趣旨
原告は,Aが,補助参加人に送金を継続していた趣旨は,その生活を保
障するためではなく,慰謝料ないしEの養育費の趣旨によるものであると
主張する。
しかし,離婚を前提とした慰謝料等は,一括ないしそれに準じた短期間
の内に支払われるのが通例であること,原告は,別居当時,Aの給与の他
には格別の収入を得ておらず,前判示のとおり,Aも別居に踏み切る際,
補助参加人に対し,生活費を毎月送る旨を告げていること,この送金はE
が昭和60年4月に結婚した後も継続されたこと,これらの諸事情に照ら
せば,Aの補助参加人に対する送金の趣旨は,補助参加人に対する生活費
の趣旨によるものと認めるのが相当である。
エAの訪問等の有無・頻度
原告は,補助参加人とAが別居後会っていたことはない旨主張するのに
対し,補助参加人は,Aが平成2年ころまでは,補助参加人宅を2,3か
月に1回くらいの割合で訪れていた旨主張している。
しかし,Aが昭和54年に高山でEと,昭和61年ないし62年にはi
で補助参加人及びEとそれぞれ会っていたこと,また補助参加人宅を訪れ
たことがあることは証拠(丁4号証)上明らかであり,Aの健康状態に問
題がなかった平成2年までの間は,Aが原告には内緒で補助参加人らに会
うなどしたことがあったと認めるのが相当である。
もっとも,Aが補助参加人宅を訪れた頻度などについては,補助参加人
がその証拠として提出した家計簿(丁5号証の1ないし5号証の7)の記
載に照らしても,さほどの回数に及ぶものであったとはうかがわれない。
()被告らが補助参加人とAとの婚姻関係が事実上の離婚状態にあると判断し3
なかったことに重大かつ明白な瑕疵があるか。
上記認定の諸事情に照らしてみると,Aと補助参加人の別居の期間は36
年余の長期間に及んでいること,その間に形成された原告とAとの重婚的内
縁関係は固定化し,Aが死亡するまで継続したこと,補助参加人は,別居直
後のころを除いて,Aとの同居生活の回復など,実質的な婚姻関係を維持す
るための働きかけをした経緯が見受けられず,Aが入院した際の見舞いなど
にも2回ほどしか赴かなかったこと,Aは平成6年ころ,補助参加人に対し
て離婚を申し出たことがあることなど,Aと補助参加人との婚姻関係は,実
質的な夫婦としての交流や精神的な依存関係が希薄化し,現実的な修復が困
難な状況になっていたものと解すべき余地がある。
しかしながら,一方において,Aは補助参加人に対し,生活費の定期的な
送金を継続し,補助参加人の生活はこれに依存していたこと,Aは,別居後
も補助参加人と一緒に親族らの冠婚葬祭に出席し,限られた機会ではあるが
補助参加人らと旅行をしたり,補助参加人宅を訪れたこともあり,電話や手
紙,また野菜等の送付など,折にふれて音信や連絡を継続していたこと,こ
れらの状況,経緯も認められる。
そして,補助参加人は,Aとの離婚に応じる意向を持ったことはなく,平
成6年にAから離婚を求められた際にもこれを断り,役所に離婚届の不受理
願いを提出し,Aも,こうした補助参加人の意向を押し切ってまで法的な離
婚手続に及んだり,これを準備したような経緯はなく,むしろ,上記の離婚
の要請の際にいったん減額した送金を,まもなく従前と同額に回復させてい
ること,これらの経緯をも併せ考えると,Aは補助参加人との離婚を望みつ
つも,それまでの経緯や補助参加人の意向などの諸事情一切を考慮して,少
なくとも法的な婚姻関係を維持,継続し,補助参加人への生活費の送金を続
けてその生計を維持する意思であったものと解される。
以上の諸事情によってみれば,被告らにおいて,Aと補助参加人との婚姻
関係が全く形がい化し,事実上の離婚状態にあるものと判断せず,補助参加
人を本件各遺族給付の給付対象者たる配偶者と認めて,原告を上記配偶者と
認めなかったことについて,重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。
3争点()補助参加人の生計要件該当性等について3
原告は,補助参加人がAと生計を同じくし,Aによって生計を維持していた
とは認められないから,原告と補助参加人との間の競合関係は解消され,原告
のみを配偶者として扱うべきであると主張するが,上述したとおり,Aと補助
参加人との婚姻関係は,全く形がい化して事実上の離婚状態にあったと認定す
ることはできない経緯,情況にあり,補助参加人がAからの送金によって生計
を維持している状態にあることは明らかであったから,被告らが補助参加人に
ついて生計要件該当性を認めて各遺族給付の給付対象者と認め,その反面とし
て原告を上記給付対象者と認めなかったことに過誤や違法は認められない。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
4争点()本件各処分が,Aの配偶者の認定の前提となる調査を尽くしておら4
ず,原告をAの配偶者と認めなかったことに手続上重大かつ明白な瑕疵があっ
て無効かについて
()法律婚主義を原則とする我が法制度の下においては,重婚的内縁関係にあ1
る者が,厚生年金保険法,国家公務員共済組合法及び通算年金通則法にいう
配偶者に該当し得るのは,戸籍上の配偶者に関する婚姻関係が実体を全く失
って形がい化し,かつ,その状態が固定化して近い将来解消される見込みが
ないとして配偶者要件を満たさないと認められる場合に限られ,その配偶者
要件該当性を,法律上の婚姻関係の実態と重婚的内縁関係の実態とを比較し
て決すべきものではないと解するのが相当であって,前記年金保険部長通知
もこの趣旨を定めるものとしてその合理性を認めることができる。そして,
遺族年金等の給付が遺族の生活保障のための性格を有していることに照らす
と,その支給に関する決定は速やかになされる必要があると解される。
これらの事情に照らしてみると,重婚的内縁関係が問題となる事案におい
て,その認定事務の方法を定めた前記各所管課長通知の示す調査方法,すな
わち,戸籍上の配偶者に対して,主として別居の開始時期及びその期間,離
婚についての合意の有無,別居期間中における経済的な依存関係の状況,別
居期間中における音信・訪問等の状況について,婚姻関係の実態を調査し,
なお不明な点がある場合には,内縁関係にある者に対しても調査を行うとし
ていることは,合理性を有するものと解される。
()証拠(乙9号証の1,2,10号証ないし14号証,17号証)及び弁論2
の全趣旨によれば,被告国は,上記各所管課長通知に従って調査を進めてお
り,原告からの本件各遺族給付の支給申請に対して,社会保険庁長官の下級
行政機関であるP社会保険事務所は,補助参加人に対し,夫の氏名,別居時
期,音信・訪問等の有無・時期・頻度・方法・相手方・用件,送金の有無・
時期・回数・金額・方法・理由,離婚の合意の有無,別居生活の解消の話合
い等の有無,葬儀の状況などを問い合わせる文書を送って回答書(乙14号
証)を受け取り,なお不明な点について,別居の理由,音信・訪問の方法・
時期・頻度・相手方・用件,見舞いの有無,冠婚葬祭の出席状況,送金の理
由・金額,補助参加人の生活費,Aの病気療養中の生活費,離婚意思の有無,
別居生活の解消の話合いの有無等,葬儀への出席の有無などを問い合わせる
文書を送って回答書(乙10号証)を受け取った。そして,なお不明な点を
確認するため,同事務所ないしQ社会保険事務所において,補助参加人の預
金通帳,結婚式の写真などを入手した上,補助参加人の妹Gあてに,補助参
加人の勤務期間,給与収入,Aの訪問の有無,頻度,訪問場所,経済的援助
等を問い合わせる文書を送って回答書を受け取り(乙9号証の1・2,11
号証ないし13号証),さらに,補助参加人の家主や近所の美容院の主人か
ら事情聴取を行った(乙17号証,弁論の全趣旨。)ことが認められる。
()このような調査の経緯に照らすと,被告国の担当者らが,それによって,3
Aと補助参加人の婚姻関係が全く実体を失って形がい化し,事実上離婚状態
にあるとは認められないと判断し,それ以上原告に対する調査を行わなかっ
たことについて,その調査手続上重大かつ明白な瑕疵があったとはいえない
し,また,その調査結果が誤りであったともいえないことは前判示のとおり
である。
()また,被告日本鉄道共済組合は,原告が被告国の不支給決定の通知を受け4
て2か月を経過しても社会保険審査官に対して審査請求をしなかったことか
ら,原告に対する遺族共済年金の不支給決定をしたものと推認され,そこに
重大かつ明白な瑕疵があったとはいえないし,その判断結果が誤っていたと
はいえないことも被告国についてと同様である。
5結論
以上のとおりであって,原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないか
ら棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,66
条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官中村直文
裁判官前田郁勝
裁判官尾河吉久
(別紙)
Aの補助参加人への送金一覧
補助参加人への送金日送金額
昭和60年6月14日28万円
昭和60年9月19日28万円
昭和60年12月18日25万円
昭和61年3月17日25万円
昭和61年5月14日20万円
昭和61年8月13日27万円
昭和61年11月14日27万円
昭和62年5月14日20万円
昭和62年8月14日27万円
昭和62年11月16日27万円
昭和63年2月17日27万円
昭和63年5月13日27万円
(昭和63年6月9日から平成3年8月16日までの入金状況は,補助参加人の預
金通帳が現存していないため不明である。)
平成3年10月15日20万円
平成3年12月16日20万円
平成4年2月17日20万円
平成4年4月15日20万円
平成4年6月16日20万円
平成4年8月17日20万円
平成4年10月15日20万円
平成4年12月16日20万円
平成5年2月16日20万円
平成5年4月15日20万円
平成5年6月16日20万円
平成5年8月16日20万円
平成5年10月19日20万円
平成5年12月17日20万円
平成6年2月23日10万円
平成6年4月28日10万円
平成6年6月24日10万円
平成6年7月4日10万円
平成6年9月8日10万円
平成6年10月19日10万円
平成6年12月15日16万円
平成7年2月16日16万円
平成7年4月20日10万円
平成7年6月15日16万円
平成7年8月21日16万円
平成7年10月16日16万円
平成7年12月15日16万円
平成8年3月5日10万円
平成8年4月18日10万円
平成8年6月20日14万円
平成8年8月16日14万円
平成8年10月15日15万円
平成8年12月16日17万円
平成9年2月17日18万円
平成9年4月17日20万円
平成9年7月31日7万円
平成9年8月18日17万円
平成9年10月17日18万円
平成9年12月1日7万円
平成9年12月16日18万円
平成10年2月17日18万円
平成10年4月16日19万円
平成10年6月18日18万円
平成10年8月17日18万円
平成10年10月19日18万円
平成10年12月17日19万円
平成11年2月18日18万円
平成11年4月22日18万円
平成11年6月29日17万円
平成11年8月17日17万円
平成11年10月18日18万円
平成11年12月16日18万円
平成12年2月18日18万円
以上

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