弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成11年(行ケ)第352号 特許取消決定取消請求事件
平成12年7月18日口頭弁論終結
         判      決
    原      告    ユキワ精工株式会社
    代表者代表取締役    【A】
    訴訟代理人弁理士    【B】
同       【C】
    被      告    特許庁長官 【D】
    指定代理人       【E】
    同           【F】
    同           【G】
    同           【H】
         主      文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
  特許庁が平成9年異議第75388号事件について平成11年9月13日に
した取消決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
  主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、発明の名称を「工具用チャック」とする特許第2654731号の
特許発明(昭和63年2月29日に出願した特願昭63-47315号を原出願と
する分割出願であって、平成4年5月18日特許出願、平成9年5月30日設定登
録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
 本件発明の特許について、ジャコブス チャック マニュファクチュアリン
グ カンパニーから特許異議の申立てがあり、その申立ては、平成9年異議第75
388号事件として審理された。この審理の過程で、原告は、願書に添付した明細
書(以下、願書に添付した図面をも加えて「本件明細書」という。)の訂正(以下
「本件訂正」という。)を請求したが、特許庁は訂正を認めず、平成11年9月1
3日に「特許第2654731号の特許を取り消す。」との決定をし、平成11年
10月6日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面1参照)
(1) 本件訂正前(以下、この発明を「訂正前発明」という。)
操作筒7について「合成樹脂製の」という限定条件がない点以外は、後記
本件訂正後の特許請求の範囲(以下、この発明を「訂正後発明」という。)と同じ
である。
(2) 本件訂正後
 チャック本体1に複数個のジョー2を設け、該ジョー2を回動ナット3の
回動により互いの螺合作用で拡縮傾斜摺動可能に設け、回動ナット3の回動を握持
環12と操作筒7とを両手で握持して回動させるハンドタイト方式により工具Cを
締め付けする工具用チャックにおいて、上記チャック本体1の後端側に握持環12
をチャック本体1と回り止め状態に設け、チャック本体1の前部外周面にチャック
本体1の外周面と略平行なストレート外周面を有する合成樹脂製の操作筒7を回動
ナット3を覆い包む状態で回動可能に被嵌し、この操作筒7のストレート外周面に
滑り止め部8を設け、かつこの操作筒7のストレート外周面の長さを握持可能な長
さに形成し、この操作筒7と回動ナット3が共動するように回動ナット3を操作筒
7と一体的に設け、組み付けのため分割した前記回動ナット3に保形環4を被嵌
し、チャック本体1の中程にフランジ部9をチャック本体と一体的に突設し、この
フランジ部9の前側と回動ナット3の背側との間にベアリング体11を介在せしめ
たことを特徴とする工具用チャック。
3 決定の理由
  別紙決定書の理由の写しのとおり、①訂正後発明は、登録実用新案第362
231号公報(決定の「引用文献1」、以下「引用例1」という。別紙図面2参
照)及び米国特許第3934891号明細書(決定の「引用文献2」、以下「引用
例2」という。別紙図面3参照)各記載の発明並びに周知慣用技術に基づき容易に
発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定に該当し特許出願の
際に独立して特許を受けることができないものであるから、訂正は認められない、
②訂正前発明は、引用例1及び引用例2各記載の発明並びに周知慣用技術に基づき
容易に発明をすることができたものであると認定判断した。
第3 原告主張の決定取消事由の要点
  決定の理由1(手続の経緯)は認める。同2(訂正の適否)は、相違点2に
ついての判断のうち13頁4行ないし16行、全体構成における効果についての判
断(14頁15行ないし18行)、及び結論部分(14頁19行ないし15頁10
行)を争い、その余は認める。同3(特許異議申立てについての判断)は争う。
  決定は、訂正後発明と引用例1記載の発明との対比において、相違点2につ
いての判断を誤り(取消事由1)、全体構成における効果についての判断を誤った
(取消事由2)ものであって、この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らか
であるから、決定は違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)
  決定は、相違点1についての判断において、引用例1記載の発明における金
属製の操作筒を、引用例2記載の発明における金属製の帯及び合成樹脂製の操作筒
に置き換えること(以下「第1の置換え」という。)自体は容易であると認定した
うえ、この置換えを行うことを前提に、上記金属製の帯及び合成樹脂製の操作筒が
ともにスラスト(推進)方向の締付反力を伝えるには不適切であると認定したう
え、このことを考慮すれば、第1の置換えに続いて、この反力をチャック本体に伝
える部分が回動ナットに固着される操作筒である引用例1記載の発明の構成を、そ
の部分が回動ナット自体である引用例2記載の発明の構成に置き換えることとし
(以下「第2の置換え」という。)、フランジ部の前側と回動ナットの背側との間
にベアリング体を介在せしめることは、当業者にとって容易なことであると認定し
たが、誤りである。
(1) 決定も認めるとおり、第1の置換えはそれ自体不適切であるため、この第
1の置換えは不能となり、それに伴い引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を
組み合わせることもまた不能となるのが筋である。ところが、決定は、第1の置換
えを不適切としながら第2の置換えを行っている。この点において、決定は誤りで
ある。
 原告が相違点1についての判断を認めている趣旨は、軽量化を目的とし
て、引用例1の金属製の操作筒を引用例2の保形環及び合成樹脂製の操作筒に置き
換えること自体は容易であるという限度にとどまるものである。すなわち、どの部
分でスラスト方向の締付反力を受けるかということを考慮しないなら、引用例1の
金属製の操作筒を引用例2の保形環及び合成樹脂製の操作筒に置き換えることは容
易であるが、どの部分でスラスト方向の締付反力を受けるかを考慮すれば、決定も
認めるとおり強度的に不適という問題が生じ、結局、第1の置換えは不適当であっ
て不能ということになるのである。
(2) 引用例2記載の発明における「金属製の帯及び合成樹脂製の操作筒」と
「スラスト方向の締付反力を回動ナットの背側と摺動可能に接触する本体と一体的
に突設したフランジ部の前側で支持する構造」とは、前者は分割した回動ナットを
保形するための構造であるのに対し、後者はスラスト方向の締付反力を受けるため
の構造であって、全く別異のものである。このような別異な両者を関係があるかの
ように、一連の置換え操作により処理することはできない。
(3) 仮に、第1の置換えを無理に行い、続いて、第2の置換えをしたとして
も、導かれるのは回動ナットでボールが受けられ、回動ナットに金属製の帯と合成
樹脂製の操作筒が被嵌された構造までである。決定は、唐突にチャック本体にフラ
ンジ部を設けることまで持ち込んでくるが、そのようなことは導かれない。 した
がって、第2の置換えにより「フランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベア
リング体を介在せしめることは、当業者にとって容易なことである」(決定13頁
13行ないし16行)との結論は導けないのである。
2 取消事由2(全体構成における効果についての判断の誤り)
(1) 訂正後発明のようなハンドタイト方式のチャック装置は、ハンドルタイト
方式のチャック装置に比べて、締付力が弱いため、ドリル等の工具が高速回転して
いるときに、ドリル刃が硬い節に当たったりして制動がかかると、速度落差が大き
いため、回転の慣性モーメントにより回動ナットが緩み、締付力が弱まることが生
じ得る。そこで、慣性モーメントを小さくするために、回動する部材を軽量にしな
ければならない。ハンドタイト方式のチャック装置にあっては、この点からも軽量
化は重要な技術的事項である。訂正後発明が操作筒を合成樹脂にしているのは、合
成樹脂にしたから軽くなって持ち運びが便利である、というような単純なものでは
ない。
 このほかに、訂正後発明には、操作筒のストレート外周面の長さを握持可
能な長さに形成しているという構成要件がある。この構成要件もハンドタイト方式
のチャック装置を実現するための重要な構成要件である。さらに、訂正後発明に
は、フランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング体を介在せしめたと
いう構成があり、これも手で良好に操作筒を回動せしめられるようにするための構
成である。
 訂正後発明は、このようにすべてハンドタイト方式のチャック装置の小型
化、軽量化を達成するに重要な構成要件を結合させたものであるから、各構成要件
を個々に分解し、相違点を独立に判断するという、決定の判断手法は誤りである。
(2) 訂正後発明の出願前には、高速化に適するチャック装置、すなわち、高速
化を企図したチャック装置は存在しなかった。しかし、高速化に最適なチャック装
置は、前記のように、高速回転しているときに制動がかかると、その反動で回動ナ
ットが緩むという問題が生じた。そこで、訂正後発明の発明者は、この問題の解決
に最も影響のある操作筒側を軽量化して慣性モーメントを小さくするとともに高速
化に最適な構成を備えた訂正後発明を完成させたのである。この「ドリルに急激な
制動がかかってもその制動の反動で回動ナットが緩まないようにする」という思想
は、前述した一連の発明完成の過程において初めて生まれるもので、この種の工具
用チャックにおいては、極めて独自性に富み予測不可能なことである。したがっ
て、この「高速化に最適なチャック装置の提供」という目的は、予測不可能であ
り、同様に、訂正後発明の「高速化に最適なチャック装置の提供」という作用効果
も予測不可能である。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について
  引用例1記載の発明の金属製の操作筒を引用例2記載の発明の金属製の帯及
び合成樹脂製の操作筒で置き換えること(第1の置換え)が、当業者にとって容易
であることは、決定が相違点1についての判断において述べているとおりであり、
この点は、原告も認めている。
  そして、上記第1の置換えは、それ自体が不適切なのではなく、不適切なの
は、置き換えられる金属製の帯及び合成樹脂製の操作筒が、回動ナットに加わるス
ラスト方向の締付反力をチャック本体に伝える部分として強度的にみて不十分であ
る、という点のみなのである。
  引用例1記載の発明は、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力を回動
ナットに固着される操作筒の端面とベアリング体を介して接触するチャック本体の
裾の下向き段部で支持しており、引用例2記載の発明は、上記スラスト方向の締付
反力を回動ナットの背側と摺動可能に接触する本体と一体的に突設したフランジ部
の前側で支持しているから、引用例1記載の発明も引用例2記載の発明も、機能を
同じくする回動ナットを有し、スラスト方向の締付反力がもともと回動ナットに生
じ、最終的にこれを支持するのがチャック本体である点で共通している。また、摺
動可能に接触する部材間にベアリング体を介在せしめることは、周知慣用の技術手
段である。
  以上のことから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み合わせる
際に、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力を支持するための構成に関し
て、金属製の帯及び合成樹脂製の操作筒が、回動ナットに加わるスラスト方向の締
付反力をチャック本体に伝える部分として強度的にみて不適切であることに照らし
て、締付反力を伝える部分が回動ナットに固着される操作筒であって、ベアリング
体を介して伝えられた前記締付反力を支持する部分がチャック本体の裾の下向き段
部である引用例1記載の発明の構成を、締付反力を伝える部分が回動ナット自体で
あって、伝えられた前記締付反力を支持する部分が本体と一体的に突設したフラン
ジ部の前側である引用例2記載の発明の構成に置き換え、その際に、上記周知慣用
技術を考慮することにより、フランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリ
ング体を介在せしめる構成とすることは、当業者にとって容易になし得たこととい
うことができるのである。
2 取消事由2(全体構成における効果についての判断の誤り)について
  工具用チャックに要求される締め付け力は、当該チャックに固定される工具
の加工対象の種類性質や加工の態様等により工具の受ける加工抵抗が異なり、その
抵抗に対向するために必要とされる締め付け力が異なることは明らかである。それ
ばかりではなく、その力は、手で操作筒を回動させる場合には、回動ナットのピッ
チ、両手の力、操作筒の表面構造や直径、スラスト反力を受ける構造などに影響さ
れ、また、道具を用いて回動させる場合であっても、回動ナットのピッチ、道具の
構造や大きさ、道具に加える手の力、スラスト反力を受ける構造などに影響される
ことは明らかである。それ故、工具用チャックにおけるハンドタイト方式及びハン
ドルタイト方式の区分は曖昧であって、技術的意義に乏しいものであり、原告主張
の作用効果をハンドタイト方式のチャック装置に特有なものとすることはできな
い。
  したがって、訂正後発明を全体としてみても、引用例1記載の発明、引用例
2記載の発明及び周知慣用技術の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するもの
とは認められない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 甲第4号証(引用例1)、第5号証(引用例2)によれば、引用例1記載
の発明は、金属製の操作筒により回動ナットを保形して回動ナットに加わるラジア
ル(半径)方向の締付反力を支持し、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力
は、回動ナットに固着される操作筒の端面とベアリング体を介して接触するチャッ
ク本体(母體)の裾の下向段部で支持するものであること、引用例2記載の発明
は、保形環(金属製の帯)により回動ナットを保形して回動ナットに加わるラジア
ル方向の締付反力を支持し、回動ナットに加わるスラスト方向の締付反力は、回動
ナットの背側と摺動可能に接触する本体と一体的に突設したフランジ部の前側で支
持するものであること、以上のことは、引用例1、2から自明な事項であることが
認められる。
(2) そうすると、引用例1記載の発明も引用例2記載の発明も、機能を同じく
する回動ナットを有し、スラスト方向の締付反力がもともと回動ナットに生じ、最
終的にこれを支持するのがチャック本体である点で共通であることに照らせば、引
用例1記載の発明の金属製の操作筒を引用例2記載の発明の金属製の帯及び合成樹
脂製の筒に置き換えること(第1の置換え)に伴い、その金属製の帯及び合成樹脂
製の筒が、スラスト方向の締付反力をチャック本体に伝えるものとしては、とも
に、強度が不足するため不適切であることを考慮して、この反力をチャック本体に
伝える部分が回動ナットに固着される操作筒である引用例1記載の発明の構成を、
この反力をチャック本体に伝える部分が回動ナット自体である引用例2記載の発明
の構成に置き換えることは、当業者にとって容易なことであったものと認められ
る。
 また、摺動可能に接触する部材間にベアリング材を介在させることは、本
件出願前に周知慣用の技術的手段であったことは当事者間に争いがないから、上記
置換えの際に、引用例2記載の発明の構成である、摺動可能に接触するチャック本
体のフランジ部の前側と回動ナットの背側との間にベアリング材を介在させること
も、当業者にとって容易であったことも明らかである。
 以上のとおりであるから、相違点2に係る本件発明の構成を得ることは、
容易なことであったものというべきである。
(3) 原告は、第1の置換えは不適切であるため不能となり、引用例1記載の発
明に引用例2記載の発明を組み合わせることもまた不能となるのが筋であると主張
する。
 しかし、第1の置換えは、それ自体が不適切なのではなく、不適切なの
は、前示のとおり、これを単独でした場合、置き換えられる金属製の帯及び合成樹
脂製の筒が、スラスト方向の締付反力をチャック本体に伝える部分として強度が不
足するということであるにすぎない。そうである以上、当業者は、引用例1記載の
発明に適用するために引用例2記載の発明の構成から選択する部分を、金属製の帯
及び合成樹脂製の筒のみに限定しないで、引用例2記載の発明が有する他の構成を
も併せて選択することを考慮することは当然である。換言すれば、引用例2記載の
発明に、引用例1記載の発明と同じ機能を有し置換え可能な構成がある場合に、ど
の範囲で置換えを行うかは、当業者が適宜決定し得る事項というべきであって、引
用例2記載の発明の「回動ナットに金属製の帯を被嵌し、この環状の金属製の帯付
きの回動ナットの外周に一連の溝を形成した合成樹脂製の筒を、内側の回動ナット
が共動するように回動ナットを筒と一体的に設け、チャック本体の中程にフランジ
部をチャック本体と一体的に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側と
を摺動可能に接触させた」(決定6頁17行ないし7頁4行)との構成
(以下「構成A」という。)がある以上、そのうちの一部である「回動ナットに金
属製の帯を被嵌し、この環状の金属製の帯付きの回動ナットの外周に一連の溝を形
成した合成樹脂製の筒を、内側の回動ナットが共動するように回動ナットを筒と一
体的に設け」との構成に限定して採用した場合には、強度が不足するため不適切な
ものにしかならないことを理由として、構成A全部を採用することが不可能となる
などということはできないのである。
(4) 原告は、引用例2記載の発明における「金属製の帯及び合成樹脂製の操作
筒」と「スラスト方向の締付反力を回動ナットの背側と摺動可能に接触する本体と
一体的に突設したフランジ部の前側で支持する構造」とは、前者は分割した回動ナ
ットを保形するための構造であるのに対し、後者はスラスト方向の締付反力を受け
るための構造であって、全く別異のものであるから、一連の置換え操作により処理
することはできないと主張する。
 しかし、引用例2記載の発明には、構成Aが存在するのであるから、この
構成のうち、「金属製の帯・・・合成樹脂製の筒」が分割した回動ナットを保形す
るための構造であり、「チャック本体の中程にフランジ部をチャック本体と一体的
に突設し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた」
ことがスラスト方向の締付反力を受けるための構造であって、それぞれ別の機能を
有するとしても、これを全体として引用例1記載の発明に適用することが可能であ
ることは明らかである。
 のみならず、前記(1)認定に係る事実によれば、引用例1、2各記載の発明
において、回動ナットにはラジアル方向の締付反力とスラスト方向の締付反力が生
じており、これらの力を受け止める構造を必要としていることが認められ、上記2
つの締付反力は、いずれも回動ナットと連繋した構造で受け止めなければならない
のであるから、ラジアル方向の締付反力を受け止めるための構造とスラスト方向の
締付反力を受け止めるための構造の間には、関係があることは明らかである。そう
である以上、引用例2記載の発明の構成を引用例1記載の発明に適用することを考
慮するに当たっては、ラジアル方向の締付反力を受け止める構造である「金属製の
帯・・・合成樹脂製の筒」に限定せず、スラスト方向の締付反力を受け止めるため
の構造である「チャック本体の中程にフランジ部をチャック本体と一体的に突設
し、このフランジ部の前側と回動ナットの背側とを摺動可能に接触させた」ことを
も併せて採用することを考慮することの方が、むしろ自然ということができるとこ
ろである。
(5) 原告は、決定は、置換えによって、唐突にチャック本体にフランジ部を設
けることまで持ち込んでくるが、そのようなことは導かれないと主張する。
 しかし、引用例2記載の発明には、「チャック本体の中程にフランジ部を
チャック本体と一体的に突設し、」との構成があるのであるから、これを引用例1
記載の発明に適用して置換えれば、置換えられた工具用チャックにおいては、チャ
ック本体の中程にフランジ部を設けることになるのは当然である。原告の主張は、
採用することができない。
2 取消事由2(全体構成における効果についての判断の誤り)について
(1)原告が訂正後発明の予測不可能の効果と主張するものは、訂正後発明の全
体の構成から当然に予測されるものである。さらに、訂正後発明の作用効果とし
て、本件明細書に記載されているもの(甲第3号証(平成11年7月13日付手続
補正書(訂正請求書))により認められる。)全体をみても、訂正後発明の全体の
構成から当然に予測されるものばかりである。他に、訂正後発明が、その全体の構
成から予測できない顕著な作用効果を奏するものと認めるに足りる証拠はない。
(2) 原告は、訂正後発明は、すべてハンドタイト方式のチャック装置の小型
化、軽量化を達成するに重要な構成要件を結合させたものであるから、各構成要件
を個々に分解し、相違点を独立に判断するという、決定の判断手法は誤りであると
主張する。
 しかし、各相違点に係る構成を得ることが容易である以上、その相違点相
互に、組合せを妨げる事情がある等の特段の事情がない限り、訂正後発明の全体の
構成を得ることも、また、容易であるというほかはない。そして、上記特段の事情
に該当する事実は本件全証拠によっても認めることはできない。決定の判断手法に
誤りはない。
 原告は、「ハンドタイト方式のチャック装置の小型化、軽量化を達成す
る」という技術的課題がなければ、各相違点を集めて一つの構成とすることが困難
であると主張するものとも解されるが、訂正後発明と引用例1記載の発明の相違点
は4点にすぎず、それぞれについて訂正後発明の構成とすることが容易であるのみ
ならず、各相違点相互に組合わせを妨げる事情も認められない以上、これを集めて
一つの構成とすることが困難ということはできないところである。のみならず、引
用例1記載の発明も、「加工対象の種類や加工の態様によっては、締め付けに道具
を用いず、工具を最終的に固定する締め付けまでを手による回動操作で行うような
使い方も可能であると認められるので、いわゆるハンドタイト方式によりドリール
を締め付けるものであるとすることができる。」(決定書5頁17行ないし6頁2
行)ところのドリールチャックであって(この点は、当事者間に争いがない。)、
そのような物の小型化、軽量化ということは、特段新規な技術的課題とも認められ
ないから、この技術的課題を持つことが困難ということもできない。原告の主張
は、この点でも採用することができない。
(3) 原告は、訂正後発明の「ドリルに急激な制動がかかってもその制動の反動
で回動ナットが緩まないようにした」という思想は、この種の工具用チャックにお
いては、極めて独自性に富み予測不可能なことであるから、「高速化に最適なチャ
ック装置の提供」という目的は、予測不可能であり、同様に、訂正後発明の「高速
化に最適なチャック装置の提供」という作用効果も予測不可能であると主張する。
 しかし、訂正後発明の構成を得ることが容易である以上、仮に、訂正後発
明の発明者の目的ないし動機が独自のものであったとしても、訂正後発明が想到困
難となる筋合いのものではない。また、訂正後発明が、その全体の構成から予測で
きない顕著な作用効果を奏するものとは認められないことは、前示のとおりであ
る。原告の主張は、失当である。
3 以上のとおりであるから、原告主張の決定取消事由は、すべて理由がなく、
その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
第6 結論
  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
        
          裁判官  山  田  知  司
 
          裁判官 阿  部  正  幸
別紙図面1 
別紙図面2 
別紙図面3 

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