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平成29年(わ)第1516号,第1677号暴行,傷害致死被告事件
平成30年9月20日千葉地方裁判所刑事第3部判決
主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,千葉県市川市内の生活保護受給者向け居住支援施設の管理人
をしていたものであるが,
第1平成29年6月16日午後8時30分頃,同施設脱衣所において,
その入居者であるA(当時65歳)に対し,その右脇腹付近を数回突
き飛ばす暴行を加え,
第2同年8月4日午後7時30分頃,同施設食堂において,その入居者
であるB(当時84歳)に対し,その顔面を平手で数回殴り,その身
体を突き飛ばすなどして押し倒し,その身体を足で数回蹴るとともに,
同人に馬乗りになってその顔面を平手で数回殴った上,その鼻口部を
タオルで塞ぐなどの暴行を加え,
第3同月27日午後6時過ぎ頃,同施設台所において,Bに対し,その
顔面を平手で数回殴り,その腹部等を足で数回蹴るなどし,引き続き,
同施設B方居室において,Bに対し,その鼻口部に布団をかぶせてそ
の上から手で押さえつけるとともに,その胸部等を拳で数回殴るなど
の暴行を加え,よって,同人に頭部,顔面,頸部,前胸部,腹部,四
肢等の皮下出血及び筋肉内出血等の傷害を負わせ,同日,同所におい
て,同人を前記傷害による外傷性ショック,窒息のいずれか又は競合
により死亡させ
たものである。
(量刑の理由)
本件は,女性の生活保護受給者向け居住支援施設の管理人をしていた被
告人が,入居者(84歳)に対し,殴る蹴る,布団の上から鼻口部を手で
押さえつけるなどの暴行を加えて死亡させた傷害致死(判示第3)のほか,
約3週間余り前の同人に対する類似の態様の暴行(判示第2)及び約2か
月余り前の別の入居者に対する暴行(判示第1)の各事案である。
量刑の中心となる傷害致死について検討すると,被告人は,被害者に対
し,顔面を平手で殴る,腹部等を足で蹴るなどし,その後,倒れた被害者
に対し,布団をかぶせて馬乗りになり,鼻口部を布団の上から手で押さえ
つけたり,胸部等を拳骨で殴ったりしている。施設内の台所から被害者の
居室へと場所を変えながら,相応に長い時間を掛けて,多数回にわたり加
えた暴行は,相当に執拗である上,遺体の全身各所に筋肉内出血等が認め
られたことからすると,強度も相応に強く,高齢の被害者をショック死な
いし窒息死させる危険性の高い犯行であったといえる。また,被告人は,
他の入居者らに指示をして,ボウルに用意させた水を掛けたり,足を押さ
えつけさせたりしながら,強度の暴行を加え続けており,攻撃の意思が強
かったと認められる。死の結果はもちろんのこと,長時間にわたり暴行を
加えられた被害者の身体的,精神的苦痛も大きく,書面による意見陳述を
行った弟,妹ら遺族の処罰感情は厳しい。そうすると,凶器は用いていな
いものの,行為の悪質性は,傷害致死の事案の中で高い部類と認められる。
なお,被告人は,冷静かつ意図的に被害者を苦しめ続ける態様をとってい
たわけではなく,興奮の余り暴行をエスカレートさせていったと認められ
るから,犯行態様が常軌を逸して陰湿,残酷であるとまではいえない。
次に,傷害致死の動機・経緯をみると,被告人は,施設の入居者から住
み込みの管理人の立場になり,入居者らの中で,ルール違反を繰り返し,
指導に従わない被害者らに対して強いストレスを感じ,些細なルール違反
をきっかけとして,判示第1,第2の暴行に及んだ上で,更に判示第3の
傷害致死事件を起こすに至っている。複数の入居者に対し,複数の日にわ
たって暴行を行っており,態様もエスカレートさせていることは非難に値
する。他方で,被告人は,ルール違反をする入居者らを厳しく叱責し,入
居者らから怖れられてはいたものの,各犯行以外に悪質な暴行はほとんど
認められず,本件が恒常的犯行であったとはいえない。また,各犯行のき
っかけは,些細なルール違反であるものの,傷害致死事件の前には,被害
者がゴミの処理をしなかっために部屋で虫がわくなど,被害者が問題行動
を繰り返し,指導に従わないという事情があったことから,本件は,被告
人が,自分の気に入らない入居者に対し,理不尽に虐待を繰り返した上で
その延長でされた犯行であるともいい難い。むしろ,10数名の入居者の
生活指導や施設管理をほぼ1人で担うという厳しい労働環境において,ス
トレスを溜め込み,ルールを守れない入居者に対する怒りが爆発し,突発
的に過剰な暴行に至ったという面も否定できない。そうすると,これらの
動機・経緯は,被害者を死に至らしめた強い暴行を正当化する事情とはな
り得ないものの,傷害致死の事案の中で,他に比べて特に強い非難に値す
るとはいえない。
事件後の状況についてみると,被告人は,傷害致死の暴行を終えた後,
被害者の身体を何ら気遣うことなく,部屋に外から南京錠で施錠して,事
件の発覚を遅らせようとするなどしており,犯行後の情状は芳しくない。
また,起訴後に公訴事実を認めるに至り,当公判廷では被告人なりに反省
の姿勢を示したものの,謝罪文の作成等の遺族への対応が何も行われてい
ないなど,反省が深まっているとは認められない。他方で,被告人には前
科がなく,これまで粗暴な傾向は認められず,母親が被告人の帰りを待っ
ていると述べ,被告人も服役後は母親の下で更生すると誓っていることな
どからすると,再犯の可能性は低い。
以上の事情を前提にして,同種の傷害致死事案(単独犯・凶器等なし・
被害者が知人,勤務先関係・前科なし)の量刑傾向を参考にして検討する
と,本件は,経緯・動機が特に強い非難に値するとまではいえないことか
ら,検察官の主張するように量刑傾向の中で最も重い部類であるとはいえ
ないが,傷害致死の犯行態様の悪質性が高いことや,暴行事件が他に2件
あることを考慮すると,中央値よりやや重く位置付けるべき事案であると
いえ,主文のとおりの判断をした。
(裁判長裁判官楡井英夫裁判官髙橋正幸裁判官清水拓二)

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