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平成29年(受)第1496号各損害賠償請求事件
平成30年10月11日第一小法廷判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人大川原栄ほかの上告受理申立て理由第8について
1本件は,東京証券取引所に上場されていた被上告人の株式を募集等により取
得した上告人らが,被上告人が提出した有価証券届出書に参照すべき旨を記載され
た半期報告書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり,それにより損害を被
ったなどと主張して,被上告人に対し,金融商品取引法(以下「金商法」とい
う。)23条の2により読み替えて適用される同法18条1項に基づく損害賠償等
を求める事案である。
2所論は,金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において,裁判所は,
民訴法248条の類推適用により,金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害
の額として相当な額を認定することができるとした原審の判断には,同条及び民訴
法248条の解釈の誤りがある旨をいうものである。
3金商法18条1項本文は,有価証券届出書のうちに,重要な事項について虚
偽の記載があり,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必
要な重要な事実の記載が欠けているときは,当該有価証券届出書の届出者は,当該
有価証券を募集又は売出しに応じて取得した者に対し,損害賠償の責めに任ずる旨
を規定する。同法19条は,同条1項において,同法18条1項の規定により賠償
の責めに任ずべき額を,請求権者が当該有価証券の取得について支払った額から同
法19条1項各号に掲げる額を控除した額としつつ,同条2項において,同法18
条1項の規定により賠償の責めに任ずべき者は,当該請求権者が受けた損害の額の
全部又は一部が,当該有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があ
り,又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事
実の記載が欠けていたこと(以下「虚偽記載等」という。)によって生ずべき当該
有価証券の値下がり以外の事情により生じたことを証明した場合においては,その
全部又は一部については賠償の責めに任じない旨を規定する。これらの規定は,虚
偽記載等のある有価証券届出書の届出者に無過失損害賠償責任を負わせるととも
に,請求権者において損害の立証が困難であることに鑑みて,その立証の負担を軽
減することにより,請求権者への損害塡補と併せて不実開示の抑止による証券市場
の公正の確保を目的として政策的に設けられたものであって,請求権者にとって容
易に立証することができる一定の額を賠償の責めに任ずべき額として法定した上
で,その額から,有価証券届出書の虚偽記載等と相当因果関係のある当該有価証券
の値下がり以外の事情により生じたことが賠償の責めに任ずべき者によって証明さ
れたものを減ずるという方式を採用することにより,その目的を実現しつつ,事案
に即した損害賠償額を算定しようとするものであると解される。
そうすると,金商法18条1項の請求権者が受けた損害につき,有価証券届出書
の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたこ
とが認められるものの,当該事情により生じた損害の性質上その額を立証すること
が極めて困難である場合に,同法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額を全
く認めないというのは,当事者間の衡平の観点から相当でなく,上記の趣旨にも反
するというべきである。
そして,民訴法248条は,損害が生じたことが認められる場合において,損害
の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに,その損害の額を全く認
めないというのは,当事者間の衡平の観点から相当でないため,このような場合に
は,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認
定することができるとしたものと解される。
以上によれば,金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において,請求権者
の受けた損害につき,有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券
の値下がり以外の事情により生じたことが認められる場合に,当該事情により生じ
た損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所は,民訴
法248条の類推適用により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,金
商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することが
できると解するのが相当である。なお,同法21条の2第6項のような規定が同法
19条に置かれていないことは,以上の解釈を左右するものではない。
4所論の点に関する原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして,是認するこ
とができる。論旨は採用することができない。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の
決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官深山卓
也の補足意見がある。
裁判官深山卓也の補足意見は,次のとおりである。
私は,金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において,裁判所は,民訴法
248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額とし
て相当な額を認定することができるとした法廷意見に賛同するものであるが,この
法廷意見の採る解釈と同法21条の2第6項(平成26年法律第44号による改正
前(以下「改正前」という。)の同条5項)との関係について補足して意見を述べ
ておきたい。
金商法18条1項は,有価証券届出書に虚偽記載等があった場合に,当該届出書
の届出者が,当該有価証券を発行市場で取得した者(募集又は売出しに応じて取得
した者)に対して負う損害賠償責任について規定しているが,他方,同法21条の
2第1項は,有価証券報告書等の書類に虚偽記載等があった場合に,当該書類の提
出者が,その発行に係る有価証券を流通市場で取得した者(募集又は売出しによら
ないで取得した者)に対して負う損害賠償責任について規定する。
そして,金商法21条の2第3項(改正前の同条2項)は,虚偽記載等の事実が
公表されたときに,公表日前1年以内に当該有価証券を取得して公表日まで引き続
き所有する者は,公表日前後1か月間における当該有価証券の市場価額の平均額の
差額をもって,当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる旨
を,同条5項(改正前の同条4項)は,この場合において,当該書類の提出者は,
請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が,当該書類の虚偽記載等によって生ず
べき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことを証明したときは,その
全部又は一部については,賠償の責めに任じない旨をそれぞれ規定する。これらの
規定のうち同条3項は,同条1項に基づく損害賠償請求訴訟における請求権者の立
証の負担を軽減するため,当該書類の虚偽記載等の事実が公表されたことなどの一
定の前提事実が存在する場合に,当該書類の虚偽記載等と損害の発生との因果関係
及び損害の額を法律上推定する趣旨の規定であり,また,同条5項は,この推定が
用いられる場合であっても,賠償の責めに任ずべき者が推定を覆す反対事実,すな
わち,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情
による損害の発生及びその額を証明したときは,その額について推定される損害額
からの減額を認める趣旨の規定であると解される。
さらに,金商法21条の2第6項(改正前の同条5項)は,同条3項の推定が用
いられる場合において,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値
下がり以外の事情による損害の発生の事実は認められるものの,当該事情により生
じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは,裁判所は,口
頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,賠償の責めに任じない損害の額とし
て相当な額の認定をすることができる旨を規定する。
金商法18条,19条と同法21条の2は,民法709条の一般不法行為責任の
特則として,金商法が規定する開示義務に違反して開示書類に虚偽記載等をした者
が有価証券を取得した者に対して負う損害賠償責任について規定する点で共通の性
格を有しており,また,同法19条2項と同法21条の2第5項(改正前の同条4
項)は,いずれも,有価証券の取得者が提起した損害賠償請求訴訟における損害額
の減免の抗弁を規定したものであって,その文言も極めて類似している。そうする
と,平成16年法律第97号による証券取引法の改正により金商法21条の2(改
正当時は証券取引法21条の2)が新設された際に,金商法21条の2第1項に基
づく損害賠償責任については,同条5項(改正前の同条4項)の減免の抗弁を前提
として同条6項(改正前の同条5項)の規定が設けられたにもかかわらず,その当
時既に存在していた同法19条2項の減免の抗弁については,同法21条の2第6
項(改正前の同条5項)のような規定が設けられなかったことの意味をどのように
理解するかが問題となる。
この点は,次のように考えるべきであろう。すなわち,金商法19条1項と2項
は,1項において,同法18条の損害賠償責任に基づく賠償責任額を法定した上
で,2項において,賠償の責めに任ずべき者が有価証券届出書等の虚偽記載等によ
って生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情による損害の発生及びその額を証
明したときは,その額を法定の賠償責任額から減額して具体的な損害賠償額を算定
するという構造になっており,法廷意見が述べるとおり,賠償の責めに任ずべき者
が,有価証券届出書等の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外
の事情による損害の発生は証明したものの,当該事情により生じた損害の性質上そ
の額の証明が極めて困難である場合には,民訴法248条の類推適用により,裁判
所は,減額すべき損害の額として相当な額を認定することができると解される(同
条の趣旨の理解に関わるが,この場合に,同条を類推適用するまでもなく,同条が
適用されるとする見解もあり得よう。)。これに対し,金商法21条の2第3項と
5項は,上記のとおり,3項において,一定の前提事実が存在する場合に当該書類
の虚偽記載等と損害の発生との因果関係及び損害の額を推定した上で,5項におい
て,賠償の責めに任ずべき者が推定を覆す反対事実を証明したときは,証明された
額を推定された損害額から減額するという構造になっているので,法律上の事実推
定を覆すための反対事実の証明は,反対事実の存在について裁判所に確信を抱かせ
る本証によらなければならないという一般的な考え方を踏まえると,賠償の責めに
任ずべき者が,当該書類の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以
外の事情による損害の発生は証明したものの,当該事情により生じた損害の性質上
その額の証明が極めて困難である場合に,民訴法248条を類推適用してその立証
の負担を軽減することは許されないと解される余地がある。
そこで,この場合に,民訴法248条の類推適用がされたのと同様の取扱いがさ
れることを明らかにするために金商法21条の2第6項(改正前の同条5項)が設
けられたものと考えられるのである。
したがって,金商法19条に同法21条の2第6項(改正前の同条5項)のよう
な規定が置かれていないことは,同法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額
の認定について民訴法248条の類推適用を認める解釈の妨げになるものではない
というべきである。
(裁判長裁判官池上政幸裁判官小池裕裁判官木澤克之裁判官
山口厚裁判官深山卓也)

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