弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2被告は,原告に対し,27万3387円及びこれに対する平成25年12月
31日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成26年1月から本
判決確定の日まで,毎月末日限り33万9000円及びこれに対する各支払日5
の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
とする。
5この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。10
事実及び理由
第1請求
1主文第1項,第2項同旨
2被告は,原告に対し,660万円及びこれに対する平成25年12月6日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。15
第2事案の概要等
1本件事案の概要
本件は,被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた原告が,被
告に対し,原告が被告から平成25年12月6日付けで解雇されたこと(以下
「本件解雇」という。)について,本件解雇が違法無効である旨主張して,①20
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認,②労働契約に基づき,本件
解雇の日の翌日から本判決確定の日まで毎月末日限り33万9000円の賃金
及びこれに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払,③不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料及び
弁護士費用の合計660万円及びこれに対する不法行為日である平成25年125
2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
それぞれ求める事案である。
2前提事実(争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認定できる事実)
当事者等
ア被告は,パナソニック株式会社の子会社であり,コンピュータ関連シス5
テム及びソフトウェアの研究・開発・製造・販売等を目的とする株式会社
である。
被告は,昭和60年6月21日に設立され(当時の名称は,株式会社松
下ソフトリサーチ),平成19年4月1日,株式会社松下電器情報システ
ム名古屋研究所及び株式会社松下電器情報システム広島研究所を吸収合併10
し,現在の名称となった。
(甲1,119・181頁)
イ原告は,昭和63年4月1日,被告に入社し,以降,平成25年12月
6日に本件解雇をされるまで,被告においてソフトウェアの設計・開発等
の業務に従事していた。15
本件和解について
ア原告は,平成19年3月9日,原告が同月6日の就業時間中に労働組合
活動を行ったことについて,当時の被告の社長であったA社長らと面談し
た。
A社長は,上記面談において,原告に対し,「しばき倒すぞ」,「殺す20
ぞしまいに」,「お前,殴ったるで」等の脅迫的言辞や,「アホ」,「汚
い男やなぁ。ほんま汚いわお前。」,「君ゼロや完全に」,「人間力ゼロ」
等の侮辱的発言をした。
(甲3の①②)
イ原告及び被告は,平成19年12月12日,被告が上記アの面談時にA25
社長らに不適切な行為があったことを認め,使用者として遺憾の意を表明
するとともに,解決金として300万円を原告に支払う旨等を合意する和
解(以下「本件和解」という。)をした(甲7)。
原告の通院及び長期休業等
ア原告は,平成19年9月21日,Bクリニックを受診し,以後,①同日
から同年11月10日まで,②平成21年6月6日から同年11月13日5
まで,③平成22年5月11日から少なくとも平成26年9月16日まで
の間にわたり,Bクリニックに通院している(甲92,118)。
イ原告は,平成21年7月4日以降,次のとおり3回にわたり被告を長期
休業した。
平成21年7月4日から同年8月17日まで10
平成22年7月2日から平成24年3月31日まで
平成24年11月6日から平成25年1月31日まで(年休及び自宅
待機命令による自宅待機の期間を含む。)
(甲12の①ないし⑩,甲16ないし19)
ウなお,原告は,平成23年10月6日,北大阪労働基準監督署長(以下15
「北大阪労基署長」という。)に対し,上記イのうち一部の期間
に係る休業が,被告の業務に起因して発症した精神疾患に基づくものであ
るとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づ
く休業補償給付の支給を請求した(以下「本件労災申請①」という。)。
北大阪労基署長は,本件労災申請①に対し,平成24年4月13日,原告20
の精神障害が業務上の事由によるものとは認められないとして,不支給と
する処分を行ったため,原告は,審査請求及び再審査請求を経た上,上記
処分の取消訴訟を提起した。大阪地方裁判所は,平成29年4月26日,
原告の請求を棄却した123号事件)が,原告が同
判決に対し控訴をして,同事件は大阪高等裁判所に係属している(大阪高25
等裁判所平成2
(甲45ないし47,119,乙144)
原告の労働組合への加入等
ア原告は,被告に入社して以降,被告とユニオンショップ協定を結んでい
るパナソニックアドバンストテクノロジー労働組合(以下「PAD労働組
合」という。なお,平成19年3月時点では,松下電器産業労働組合研究5
所連合支部R&D支部の傘下組織であるMSR分会がこれに相当した。)
に加入している(甲41,乙140,弁論の全趣旨)。
イ原告は,平成24年4月25日,企業外労働組合である電機・情報ユニ
オン(以下「本件組合」という。)に加入した(乙59,原告)。
出勤停止の懲戒処分10
ア被告は,平成25年5月13日,原告に対し,同月20日から同月28
日まで7日間の出勤停止を命じる懲戒処分(以下「本件出勤停止処分」と
いう。)をした。
本件出勤停止処分に関し,被告から原告に交付された通知書には,おお
むね次の内容の懲戒処分対象事実等(以下,総称して「本件出勤停止処分15
事由」という。)が記載され,原告に対し同月17日までに始末書を提出
するよう命じる旨が記載されていた。
担当業務に関する指示命令違反
a平成24年10月25日,同月31日,同年11月2日及び同月5
日20
上司から指示されたgstreamerのAndroidへの搭載
を中心とする調査の業務指示に対して,指揮命令系統・業務指示内
容・業務範囲境界の確認中でありペンディングする,待機すると日報
等で報告して,指示された業務を行わなかった(就業規則94条1項
18号に該当)。25
b平成25年2月8日
上司から指示された「Webアプリケーション構築入門(第2版)」
第5章「ウェブの通信方式Twitterのパブリックタイムライン」
の読解,課題実施という業務指示に対して,次のような上司宛のメー
ルで業務指示を拒否し,指示命令された業務を行わなかった。
「本業務命令は,お断りします。理由は下記等です。5
円滑な業務復帰のための段階的な支援がなされていない。
プロジェクトと同様の組織的な活動が許可されていない。
主治医意見書で「トラブルのあった人と離すこと」とあ
り,現状は,それまでの暫定的な体制であること。
2月1日に約束したストレス要因の話もさせて頂けない。10
話し合いは主治医,健康管理センター精神科医,産業医な
どの意見に基づくもの。
これまで,提示されている業務命令は広く浅くキーワードを知
るための入門書の独習です。いきなり,未経験業務で実業務と
しての対応を求められるのは合理的な業務命令とは思えません。15
適切な業務命令が示されるまで待機いたします。」
(就業規則94条1項18号に該当)
上記以外の指示命令違反等
a勤怠管理手続違反関係
⒜平成25年3月11日20
午後3時に早退したにもかかわらず,所定の手続である勤務管理
システムへの早退届の入力を怠った。
⒝平成25年3月12日
会社に無断で,勤務管理システムの勤務形態を通常勤務からフレ
ックスタイム制勤務に変更した。25
⒞平成25年3月15日,同月21日,同月26日,同月27日及
び同月29日
上司から再三にわたって,上記⒜については早退届の入力を行い,
上記⒝については通常勤務に訂正するよう指示するも,訂正しなか
った。
(以上につき,就業規則92条1号,94条1項18号に該当)5
b帰宅命令違反
平成25年3月22日,終業後,上司の帰宅指示に従わず,約1時
間にわたって会社のパソコンを使ってメールを作成した(就業規則9
4条1項18号に該当)。
c情報セキュリティ事故に関する事情聴取拒否10
平成25年3月22日,情報セキュリティ責任者による情報セキュ
リティ事故に関する事情聴取の最中に激昂して大声を上げて反発し,
事情聴取を拒否した(就業規則94条1項18号に該当)。
職場離脱等
a平成25年3月22日及び同月25日15
上司の許可なく職場を離脱し,健康管理室で延べ約2時間にわたり,
産業医,保健師に対して詰問した。
b平成25年3月26日,同月27日及び同月29日
職場内で職場の電話を使い,延べ約45分にわたり業務と関係のな
い話を大声で行ったため,周囲の社員から業務の妨げになるとの苦情20
が出ており,職場の風紀秩序を乱し,就業環境を悪化させた。
(以上につき,就業規則92条3号,6号,8号に該当)
他者を誹謗・中傷したり,激昂して大声を出すなどして,他者に不利
益を与えるとともに,職場の風紀を乱したこと
a平成24年10月29日及び同月30日25
職場内において,上記aにおいて原告に指示をする立場となった
社員に対し,厚生労働省のパワーハラスメントに関するパンフレット
を示しながら労災で訴えると言って謝罪を迫り,職場の風紀秩序を乱
した(就業規則93条10号に該当)。
b平成25年3月25日及び同月26日
健康管理室で産業医及び保健師と話をした際,両名を犯罪者呼ばわ5
りして警察に電話すると誹謗中傷したり,他の社員もいる前で激昂し
て大声を出し,カウンターを叩いたりして健康管理室の業務遂行を阻
害するとともに,両名に恐怖感を感じさせるなど,職場の風紀秩序を
乱した(就業規則93条3号,10号に該当)。
情報セキュリティ違反10
平成24年10月11日及び平成25年3月13日,会社に許可なく
ICレコーダーをBゾーンである食堂及び健康管理室に持ち込んだ。ま
た,健康管理室で保健師との会話を携帯電話で一部録音した。
(就業規則92条1号,14号,93条1号に該当)
(以上につき,甲23の①②)15
イ原告は,本件出勤停止処分に対して異議を申し出たが,被告は,平成2
5年5月17日に懲戒委員会を開催し,同日,同月20日から同月28日
までの出勤停止を決定した(甲24,25)。
本件解雇
ア被告は,平成25年10月25日,原告に対し,後記記載の各懲戒事20
由が存在し,懲戒解雇が妥当である旨等を記載した通知書(甲135。以
下「本件通知書」という。)を交付し,懲戒委員会を開催する旨通知した
(甲29,135)。
イ被告が設置した懲戒委員会は,平成25年10月31日,同年11月1
4日及び同月20日の3回にわたり委員会を開催し,同月21日,被告に25
対し,原告について懲戒解雇とするのが妥当であり,原告の弁明を最大限
斟酌するとしても普通解雇が相当である旨答申した(甲38,乙151な
いし153)。
ウ被告は,平成25年11月27日,原告に対し,原告を同年12月6日
付けで普通解雇(本件解雇)とし,平均賃金の21日分に相当する解雇予
告手当を支給する旨通知した(甲37,38)。5
本件通知書に記載された懲戒事由(本件解雇事由)
本件通知書に記載された原告の懲戒事由(以下,総称して「本件解雇事由」
という。)は,おおむね次のとおりである。
ア上司等の上位者や会社に対する誹謗・中傷を行い,職場の風紀秩序を乱
すとともに,業務遂行を阻害し,また,個人や会社に不利益を与え,名誉10
信用の毀損を行ったこと。
平成24年10月11日に,Cの行為によって会社の食堂で「左側胸
部打撲症」(以下「本件傷害」という。)を負ったとの事実に反する内
容で,平成25年5月27日に,門真警察署へCを加害者とする被害届
を提出した(就業規則93条3号,10号,94条1項11号,15号15
に該当。以下「解雇事由①」という。)。
平成25年2月7日,D及びE宛てに,「2012年10月の業務で
のFから虚偽説明と情報隠蔽」という件名のメールを送り,原告自身が
作成した「gstreamer調査.ppt」というファイルを添付し
て,Fから虚偽説明,情報隠蔽を受けていると訴えた(就業規則93条20
10号,94条1項11号,15号に該当。以下「解雇事由②」とい
う。)。
平成25年9月25日及び同月26日,G及びHに,「出るところへ
出る,既に出るところへ出たこともある。」,「外でGさんを訴え
る。」,「警察にも行っている。警察に入ってもらう。」等との発言を25
行った(就業規則93条10号に該当。以下「解雇事由③」という。)。
上記の発言について,平成25年9月27日にIが事情聴取を行お
うとしたが,それに応じなかった(就業規則93条3号,94条1項1
8号に該当。以下「解雇事由④」という。)。
平成25年9月27日,Iに脅迫されたということを職場内で大声で
発し,また,職場内で大きな声で警察に電話をかけ,会社内に警察官を5
呼び,J社長に対してIから脅迫を受けた旨のメールを送信した(就業
規則93条3号,10号,94条1項11号,15号に該当。以下「解
雇事由⑤」という。)。
平成25年10月2日,K所長が自宅待機命令の通知を行うために会
議室に来るよう指示したが,会議室に入ることを拒否し,原告の席まで10
呼びに来たK所長に対して,自席で,「過去に監禁された」等の内容を
大声で発した(就業規則93条3号,10号に該当。以下「解雇事由⑥」
という。)。
イ上司が繰り返し業務指示を行い,業務内容を丁寧に説明したにもかかわ
らず,上司の説明を理解しようとせず,指示された業務ができないと主張15
し,業務指示に従わなかったこと。
ターゲットプランでの目標設定に従い,管理面のトレーニングのために
週間計画を立てるように繰り返し指示したが,根拠のない理由を並べ立て,
業務指示に従わなかった(就業規則94条1項18号に該当。以下「解雇
事由⑦」という。)。20
ウ就業規則93条3号及び10号は,平成25年5月13日付けの本件出
勤停止処分(上記)の対象となった事由であり,かつ,本件でも複数回
挙げられていることから,就業規則94条1項1号にも該当する(以下
「解雇事由⑧」という。)。
(以上につき,甲135)25
本件に関連する規定等
ア就業規則
被告の社員就業規則(以下,単に「就業規則」という。)には,次の各
規定が存在する。
第8条(入門禁止)
次の各号の一に該当する社員に対しては入門を禁止し,または事業場5
から退場を命じることがある。
1.風紀秩序をみだし,またはそのおそれがあると認められる者。
第64条(解雇)
社員が次の各号の一に該当する場合は解雇する。
1.第94条による懲戒解雇の処分をしたとき10
2.労働協約第2条(ショップ制)適用により雇用契約を打切るとき
3.事業縮小・閉鎖・設備変更などにより剰員となったとき
4.業務能力または勤務成績が著しく不良のとき
5.見習社員で,業務能力または勤務成績が社員として不適当と認め
られたとき15
第91条(懲戒の種類)
懲戒は,その程度により次のとおり区分する。
区分処分内容
けん責始末書をとり,将来を戒める。
減給始末書をとり減給する。ただし,減給額は1回につ
き平均賃金の半日分,総額において1賃金支払期の
賃金総額の1/10を超えることはない。
出勤停止始末書をとり,出勤を停止する。ただし10日を超
えて停止することはない。
降職・降格けん責した上で役職・資格を下げ又は免ずる。
諭旨退職けん責した上で退職させる。
解雇決定後ただちに解雇する。
第92条(けん責)
社員が次の各号の一に該当する場合はけん責する。
ただし,特に情状しゃく量の余地があるか,もしくは改しゅんの情が
明らかに認められるときには懲戒を免じ,訓戒にとどめることがある。
1.身上または勤務に関し会社を欺き,もしくは所定の手続きを怠っ5
たとき
3.会社の情報機器・ネットワーク,資材・設備等を私用に供したと
き。また,これらを利用して私物を作成,または許可なく修理し,
あるいは他人にさせたとき
6.労働時間中許可なく職場を離れ,もしくは自己の職責を怠る等業10
務怠慢の行為があったとき
8.本人の不注意のため業務に支障を起したとき
14.その他前各号に準ずる程度の行為があったとき
第93条(減給・出勤停止)
社員が次の各号の一に該当する場合は減給または出勤停止に処する。15
ただし,特に情状しゃく量の余地があるか,もしくは改しゅんの情が明
らかに認められるときはけん責等にとどめることがある。
1.前条各号の行為が再度におよびもしくは情状が重いとき
3.故意または過失により著しく業務を阻害したとき
10.誹謗・中傷やそれに類する言動を行い,他者に不利益を与えたと20
き,または職場の風紀秩序をみだしたとき
第94条(懲戒解雇)
社員が次の各号の一に該当する場合は懲戒解雇する。ただし,特に情
状しゃく量の余地があるか,もしくは改しゅんの情が明らかに認められ
るときは,降職・降格または諭旨退職等の解雇以外の懲戒にとどめるこ25
とがある。
1.前条各号の行為が数度におよんだとき
11.会社または会社内の個人の名誉信用を著しく毀損したとき
15.誹謗・中傷やそれに類する言動を行い,他者に著しい不利益を及
ぼしたとき,または,会社の名誉信用を著しく毀損したとき5
18.正当な事由なく職務上の指示命令に従わなかったとき
(以上につき,甲22)
イ労働協約の定め
被告とPAD労働組合との間で締結された労働協約(以下,単に「労働
協約」という。)には,次の各規定が存在する。10
第2条(ショップ制)
会社の従業員は第3条に定める者を除き,組合員でなければならない。
したがって,会社は従業員を雇傭する際には試傭期間終了後組合に加入
することを条件とする。
組合が除名した者のうち会社が雇傭関係を打切ることを不適当と認め15
た者については,会社は組合と協議する。その他の除名者は雇傭関係を
打切る。
第12条(解雇基準)
組合員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
1.第27条(懲戒解雇)適用のとき20
2.第2条(ショップ制)適用により雇用契約を打ち切るとき
3.事業縮小,閉鎖,設備変更等により剰員となったとき
4.業務能力または勤務成績が著しく不良のとき
第28条(懲戒手続)
①組合員が第25条ないし第27条に定める懲戒基準に該当すると認25
められるときは,懲戒委員会にはかった上,懲戒する。
ただし,第25条又は第26条の場合は,本人または組合が異議を
申出たときに懲戒委員会にはかるものとする。
②懲戒委員会には組合の代表が参加するものとし,必要の都度これを
設置する。
③懲戒委員会の運営に関する細部は,別に定める。5
(以上につき,甲41)
第3本件の争点
1本件解雇の有効性について
本件解雇に係る客観的合理的理由の存否(争点1)
本件解雇が社会通念上相当であるか否か(争点2)10
原告主張に係る本件解雇のその他の無効事由(信義則違反,不当労働行為)
の有無(争点3)
2本件解雇に係る不法行為の成否及び損害額(争点4)
第4争点に対する当事者の主張の概要
1争点1(本件解雇に係る客観的合理的理由の存否)について15
【被告の主張】
はじめに
就業規則に掲げた解雇事由は例示列挙と解すべきであり,それ以外の理由
により解雇が許されなくなると解するのは相当でない。そして,労働者につ
いて懲戒解雇処分に該当する事由がある場合には,それよりも軽い普通解雇20
とすることは,契約解釈上許容されるものと解すべきである。
原告については,以下のとおり懲戒解雇処分に相当する事由が存在するこ
とから,本件解雇について客観的合理的理由が存在する。
解雇事由①について
ア原告は,平成25年5月27日,門真警察署に対し,Cを加害者として,25
平成24年10月11日にCの行為により会社の食堂で左側胸部打撲傷
(本件傷害)を負った旨の被害届(以下「本件被害届」という。)を提出
した。
しかしながら,①Cは,同日,食堂から立ち去ろうとした原告に対し,
背後から腰のあたりに両腕を回して,その後ろをついて回ったにすぎず,
原告がCの行為により本件傷害を負うことは考えられないこと,②仮に打5
撲傷を負ったとすると,受傷直後から痛みが生じるのが通常であるが,原
告は,職場に戻ってから痛みが生じた旨述べていること,③受傷部位及び
具体的症状並びにその原因であるとするCの行為態様等に関する原告の供
述が不合理に変遷していること,④原告は,受傷したとする当日に被告の
健康管理室から紹介された病院を受診せず,その翌日に異なる病院を受診10
したこと,⑤本件被害届に係る事件を担当した検察官は,Cに係る受理罪
名の「傷害」を「暴行」と変更した上で不起訴処分としたこと,⑥本件傷
害を理由とする療養補償給付の請求(以下「本件労災申請②」という。)
に対し,北大阪労基署長,労働者災害補償保険審査官及び労働保険審査会
のいずれもが,Cの行為によって原告が主張する傷害を負ったとはいえな15
い旨判断していること,⑦原告が本件傷害を負ったとする医師の診断は,
原告の主訴に基づくものにすぎず信用できないこと,以上の点に照らすと,
Cが原告に本件傷害を負わせたという事実はない。
イこのように,原告が事実に反する被害届を提出したことにより,Cは,
捜査機関の取調べを受けた上,傷害事件の被疑者と扱われることによる精20
神的苦痛を受けたために業務に支障が生じたほか,被告のその他の従業員
も,事情聴取を受けたことにより著しく業務が阻害された。また,このよ
うな事実に反する被害届を提出することは,誹謗・中傷やそれに類する言
動に該当し,これによって,職場の風紀秩序が乱されるとともに,C及び
被告の名誉信用が著しく毀損された。25
したがって,原告の上記行為は,就業規則93条3号,10号,94条
1項11号,15号に該当する。
解雇事由②について
ア原告は,平成25年2月7日,Fの上司であるD及び人事責任者である
Eに対し,①Fが,平成24年10月5日,原告に対して,gstrea
merについては未着手で誰も手をつけておらず,原告に調査を依頼して5
いるので,gstreamerの資料が無くても当然であると説明したが,
実際にはFが同年5月7日に作成した「gstreamer調査」と題す
る資料があるので,Fの説明は虚偽説明であること,②Fは,上記資料が
あるにもかかわらず,それを隠蔽したこと等を記載したメール(以下「本
件メール」という。)を送信した。10
しかしながら,本件メールに添付された「gstreamer調査」と
題する資料は,Fが同月22日に作成したもの(gstreamerの資
料ではないもの)をベースに原告が同年10月5日に作成したものであり,
同日時点では,原告が作るもの以外にgstreamer調査の資料は存
在しなかったのであるから,Fが原告に対して虚偽の説明や情報の隠蔽を15
した事実はない。
イこれに対し,原告は,①原告は別の資料を送付しようとしていたが,誤
ったファイルを本件メールに添付したにすぎない,②gstreamer
のAndroidへの搭載は不可能な業務であり,本来は,gstrea
merを「AndroidonPro4TV」上でビルドするよう命20
じるべきであった等と主張する。
しかしながら,①原告が本来添付すべきであったと主張するファイルは,
Fが平成24年5月22日に作成した資料であり,これはgstream
erの資料ではない上,Fが原告に対して当該ファイルの保存場所を伝え,
原告も既にコピーして利用していたものである。また,②gstream25
erをAndroid上に搭載することは技術的に可能であり,Fの指示
に誤りはない。そのほか,解雇事由②に関する原告の弁解はいずれも不合
理である。
ウこのように,原告が,Fの上司及び人事責任者に対し,原告が自作した
ファイルを添付して,Fが虚偽の説明や情報の隠蔽をしたとする本件メー
ルを送信したことは,Fに対する誹謗・中傷やそれに類する言動に該当す5
る。そして,Fは,事情聴取を受け,身の潔白を証明するために事実関係
の調査を行うなど,その業務に支障が生じた上,名誉信用を著しく害され,
著しい不利益を受けた。また,原告が,このような事実に反する訴えを行
うことにより,職場の風紀秩序が乱れたといえる。
したがって,原告の上記行為は,就業規則93条10号,94条1項110
1号,15号に該当する。
解雇事由③について
ア原告は,平成25年9月25日及び同月26日,G及びHに対し,「出
るところへ出る,既に出るところへ出たこともある。」,「外でGさんを
訴える。」「警察にも行っている。警察に入ってもらう。」等との発言を15
行った。
原告の上記発言は,G及びHが刑法等に違反する行為を何ら行っていな
いにもかかわらず,そのような違法な行為を行っているので警察に届け出
るという趣旨のものであり,誹謗・中傷やそれに類する言動であり,かつ,
正常な上司・部下関係の構築を著しく妨げて,その後の業務遂行に大きな20
支障を生じさせ,職場の風紀秩序を乱したといえるから,就業規則93条
10号に該当する。
イこれに対し,原告は,上記発言は,G及びHのことを団体交渉で取り上
げる旨を述べたに過ぎないと主張するが,その具体的発言内容や,直後の
事情聴取において原告がそのような弁解をしていないこと等に照らすと,25
原告の上記弁解は不合理である。
解雇事由④について
アIは,平成25年9月27日,原告に対し,上記の発言について事情
聴取を行おうとしたが,原告は,警察を呼んで下さいと述べたり,団体交
渉で行う旨述べたりして,Iの事情聴取に応じなかった。
この点,原告は,Iが原告に対する事実確認をすることもなく,原告の5
発言を暴言と決めつけ,その人格を否定した発言を繰り返していたので,
正当な事情聴取とはいえないと主張するが,Iは,まずは原告に対して事
実関係の確認をしようとしていたのであって,原告の主張はその前提を欠
く。また,団体交渉の場でなければ事情聴取に応じられないというのは,
会社の事情聴取に応じない正当な理由とはならない。10
イこのように,原告がIによる事情聴取に応じなかったことは,職務上の
指示に反するものであるし,Iの事実調査及び職場管理に関する業務を著
しく阻害したといえるから,就業規則93条3号,94条1項18号に該
当する。
解雇事由⑤について15
ア原告は,平成25年9月27日,上記の事情聴取後,Iに脅迫された
ということを職場内で大声で発し,また,職場内で大きな声で,警察に電
話をかけ,会社内に警察官を呼び,さらにJ社長に対してIから脅迫を受
けた旨のメールを送信した。
イ原告の上記行為は,誹謗・中傷やそれに類する言動であり,これにより,20
Iは,被告から事情聴取を受けた上,J社長や周囲の従業員から原告に脅
迫を行ったのではないかと思われるなどし,その名誉信用を著しく毀損さ
れ,著しい不利益を受けた。また,原告が,事実に反する通報を警察に行
ったことから,被告の名誉信用も著しく毀損された。さらに,原告が職場
内で公然と上記のような行為をしたことにより,周囲の従業員の業務遂行25
が著しく阻害されたほか,職場の風紀秩序が乱された。
したがって,原告の上記行為は,就業規則93条3号,10号,94条
1項11号,15号に該当する。
解雇事由⑥について
ア原告は,平成25年10月2日,K所長が自宅待機命令の通知を行うた
めに会議室に来るよう指示したが,会議室に入ることを拒否し,原告の席5
まで呼びに来たK所長に対して,自席で,「過去に監禁された」等の内容
を大声で発した。
この点,原告は,平成24年4月24日にK所長らが原告と面談したこ
とをもって過去に監禁されたことがあると主張するが,K所長らが上記面
談において原告を監禁した事実はない。10
イこのように,原告が自席で「過去に監禁された」等の内容を大声で発し
たことにより,周囲の従業員の業務が著しく阻害された上,原告の上記言
動は,誹謗・中傷やそれに類する言動に該当し,かつ,職場の風紀秩序を
乱したということができる。
したがって,原告の上記行為は,就業規則93条3号,10号に該当す15
る。
解雇事由⑦について
ア原告は,Hが,原告のターゲットプランにおける目標設定に従い,管理
面のトレーニングのために週間計画を立てるように繰り返し指示したが,
根拠のない理由を並べ立て,これに従わなかった。20
当時の原告の業務は,商品開発ではなく通信分野の技術習得であって,
その習得については,Hが都度指示しており,原告は,指示された内容に
対して,一週間の計画を立てて,その計画どおり実施したか否かを報告す
ればよいというものであり,上記業務指示は何ら難しいものではなかった。
これに対し,原告は,①Hから7年前の資料を渡されたことや,②マス25
タースケジュールを渡されていなかったことから,週間計画を立てられな
かったと主張するほか,③Hは上司ではないとも主張する。しかしながら,
①Hが原告に対して渡した資料は,単体テストに関するものであるが,H
は,単体テストよりも先にリリーステストを実施するよう指示しており,
単体テストの資料が古かったとしても,リリーステストを実施しない理由
にはならず,②原告は,スケジュール管理ができるようになるためのトレ5
ーニングとして,実際には存在しない仮のプロジェクトにおける作業に従
事し,その作業のスケジュール管理を実施するように指示されていたので
あるから,原告が主張する「マスタースケジュール」というものはそもそ
も存在しない。また,③原告は,上司であるGから,Hの指示に従うよう
に指示されており,Hの指示に従わないのは業務命令違反である。10
イこのように,原告が,上司からの再三にわたる指示に正当な理由なく従
わなかったことは,就業規則94条1項18号に該当する。
解雇事由⑧について
原告は,本件出勤停止処分において就業規則93条3号,10号に該当す
る事由を指摘されていたところ,同条3号については解雇事由①,④,⑤,15
⑥,同条10号については解雇事由①,②,③,⑤,⑥がそれぞれ該当する
ことから,原告の行為は就業規則94条1号にも該当する。
【原告の主張】
普通解雇事由の不存在について
労働基準法(以下「労基法」という。)89条3号の趣旨に鑑みると,就20
業規則に列挙された解雇事由は制限列挙であると解すべきところ,被告が本
件において主張する本件解雇事由は,いずれも被告が就業規則64条及び労
働協約12条において列挙した事由には該当しない。
また,懲戒解雇と普通解雇とは,本来的に異質なものであり,これらを連
続的なものととらえることは相当でないから,仮に懲戒解雇事由があるとし25
ても,直ちに普通解雇の事由があるということはできない。
したがって,本件において,普通解雇の事由があるということはできない
が,その上で,被告が主張する解雇事由①ないし⑧については,以下のとお
りいずれも本件解雇の客観的合理的理由には該当しない。
解雇事由①について
ア原告は,Cの行為により左側胸部打撲傷(本件傷害)を負って,本件被5
害届を提出したのであり,本件被害届は事実に反するものではない。
すなわち,原告は,平成24年10月11日,食堂から立ち去ろうとす
るところを,Cに背後から両腕を回されて抱きかかえるように引き留めら
れたため,「暴力はやめてくれ」と言いながら右向きに振り返った際に,
左脇腹がCの左手で締め上げられるようになり,肋骨付近に力が加わった10
結果,左脇腹付近を負傷した。原告は,同月12日になっても痛みがひか
なかったため,L整形外科を受診し,各種検査を受けた上で左側胸部打撲
傷と診断されたのであり,同診断は信用できる。
その後,原告は,Cの上記行為について,被告自身による適切な対応が
なされず,かえって,被告の健康管理室から原告に係る医療情報が不当に15
流出していることが判明したことから,守口保健所の助言により門真警察
署に相談し,本件被害届を提出した。結果的に,刑事事件においてCが不
起訴となり,本件労災申請②に対して不支給処分がされたからといって,
原告の被害申告自体が虚偽であったということはできない。
イこのように,Cによる不当な暴行行為があったのは明らかであるから,20
関係者が一定の事情聴取等を受けるのはやむを得ないというべきであり,
Cやその他の被告従業員が,本件被害届の提出により著しく業務を阻害さ
れたとはいえない。また,本件被害届の提出によって,Cが名誉信用を著
しく毀損されたとか,著しい不利益を受けたとはいえず,職場の風紀秩序
が乱されたということもない。25
原告の行為は,公的機関への被害申告であり,誹謗・中傷やそれに類す
る言動ではなく,このような正当な権利行使をしたことをもって解雇の客
観的合理的事由とすることは相当でない。
解雇事由②について
ア原告は,平成24年10月,被告の指示に従いgstreamerをA
ndroid上で動作させるための調査をしていたところ,資料の不足に5
より作業が行き詰まったため,Fに対して助言を求めたが,Fの指示どお
りに対応しても業務を遂行できず,質問を重ねると逆に叱責され,Fから
原告の存在を否定するようなメールを送付されるなどし,必要な情報を与
えられなかった。
そして,原告は,同年11月5日,他の社員からの情報により,①当時10
の技術では,gstreamerを一般的なAndroidに搭載するこ
とは不可能であって,gstreamerを,被告のプロジェクトにより
拡張されたAndroidonPro4TVに搭載することが原告の
本来行うべき業務であったこと,②実際には,上記業務の遂行に必要な情
報(gstreamer周辺の情報)が存在するにもかかわらず,Fから15
当該情報を与えられていなかったこと等が判明し,Fから嫌がらせを受け
ていると感じた。原告は,その後,病状が悪化して,長期休業をしていた
が,復職後の平成25年2月7日に,上記経緯を理解してもらうためにD
及びEに本件メールを送信したものであり,添付ファイルについては,体
調不良の中で本件メールを作成したために,結果として添付すべきファイ20
ルを誤ったにすぎない。
このように,原告は,本件メールの添付ファイルを過失により誤ったに
すぎず,Fを貶める意図があったわけではない。また,本件メールの内容
及び添付ファイルの誤りについて,懲戒委員会による事情聴取までの間,
被告から事実確認や問合せを受けることはなかった。25
イこのように,本件メールの送信は,原告が長期休業に至った経緯につい
て上司であるDらに調査を求めるために行ったものであり,誹謗・中傷や
それに類する言動ではない。また,本件メールについて原告に対して何ら
の事実確認もなされなかったことからすると,被告は本件メールの内容を
信用していなかったというべきであり,本件メールの送信により,職場の
風紀秩序が乱されたとか,Fが,名誉信用を著しく毀損され又は著しい不5
利益を受けたということはできない。
解雇事由③について
アG及びHは,平成25年9月25日及び同月26日,予め会話を録音す
る準備をして原告との面談に臨んでいることからすると,上記面談は,原
告の問題行動を記録するために実施されたものであり,原告の発言は,G10
やHに誘発されたものであったといえる。
これらの面談において,原告は,GやHに対し,個別の話合いではらち
があかないと考えて,団体交渉による解決を求める趣旨で「外でやりまし
ょうよ」と述べたにすぎないし,原告が「警察」に言及した時も含めて,
GやHが,原告の発言により動揺することはなく,現場が混乱することも15
なかった。
イ上記両日における原告の発言は,誹謗・中傷やそれに類する言動には当
たらず,原告の言動により,職場の風紀が乱されたとか,被告の業務遂行
に支障が生じたということはできない。
解雇事由④について20
ア原告は,平成25年9月27日,Iに呼ばれて会議室まで出向き,Iか
らの事情聴取に応じた。その際,原告が,GやHに対して「警察へ出る」
等と発言したことを否定したにもかかわらず,Iは,原告がこのような発
言をして脅迫したと決めつけていたため,原告は,上司からそのように言
われることを脅迫と感じ,団体交渉を通じることを求めたところ,Iの方25
から会話を打ち切った。
イこのように,原告は,Iによる事情聴取に応じており,職務上の指示命
令に従わなかったということはできないし,原告の対応により被告の業務
を著しく阻害したということもない。
解雇事由⑤について
ア原告は,上記のIとのやりとりの中で,Iから原告が脅迫的発言をし5
たと決めつけられたために,Iに対し,「警察を呼んだらわかるじゃない
ですか」と述べたところ,Iが「じゃあ呼んで下さい」と述べたため,I
の同意を得たという認識で警察に通報をした。
また,原告は,上記のとおり,Iから決めつけられたことにより,Iか
ら脅迫を受けたと感じ,パニック状態で通常よりも声が大きくなったこと10
はあったが,意図的に大声を出していたわけではないし,J社長に対して
も,上記認識に従ってメールを送信したにすぎない。
イこのように,原告の言動は,Iの許可を得て,又はIに誘発されて行わ
れたものであり,これを懲戒事由に該当する行為とするのは相当でない。
また,原告が警察に通報し,パトカーや警察官が被告の構内に入場したか15
らといって,直ちに被告の名誉信用が著しく毀損されたということはでき
ず,原告の通報やJ社長へのメール送信等によって,被告の業務に著しい
支障が生じたとか,Iが名誉信用を毀損され又は著しい不利益を受け,職
場の風紀秩序が乱されたということはできない。
解雇事由⑥について20
ア原告が,平成25年10月2日,K所長から会議室に呼び出された。原
告は,その際,平成24年4月24日に,K所長を含む多人数から,昼休
みも含めて8時間半にわたり叱責を受けたことや,同年10月11日にC
から暴行を受けたこと等を思い出して動揺し,「過去に監禁された」等と
述べて会議室への入室を渋ったものの,最終的には会議室に出向いた。25
イこのように,原告の発言には相応の根拠が存在し,誹謗・中傷やそれに
類する言動とはいえず,また,原告の言動によって,被告の業務が著しく
阻害されたとか,職場の風紀秩序が乱されたということはできない。
解雇事由⑦について
アHは,原告の上司ではないから,解雇事由⑦の前提である「上司からの
再三の指示」は存在しない。5
また,GやHは,原告に対し,7年前の古い資料を提供したり,原告が
要求しても原告のトレーニング計画(マスタースケジュール)を示さなか
ったりした上,原告が業務遂行上の課題を訴え続けたにもかかわらず必要
な資料等を提供しなかったのであるから,被告による業務指示は実現困難
であった。10
イこのように,原告は,再三にわたり上司に指示を仰いでいたにもかかわ
らずそれを無視され,不適切な指示により業務が実施できなかったのであ
るから,正当な理由なく職務命令を拒絶したわけではないし,原告が業務
命令に反したとしても,これにより被告の事業に支障は生じていない。
解雇事由⑧について15
以上のとおり,解雇事由①ないし⑦は,いずれも懲戒事由に該当するもの
でない上,本件出勤停止処分事由についても,事実又は評価に誤りがある。
2争点2(本件解雇が社会通念上相当であるか否か)について
【被告の主張】
処分内容の相当性20
被告は,原告に対し,様々な配慮をした上で,注意指導を繰り返してきた
が,原告は,本件出勤停止処分を受けてもなお,上記1【被告の主張】のと
おり同種の問題行動を繰り返した。そして,原告は,本件出勤停止処分の際
に命じた始末書の提出を行わず,本件解雇事由についても不合理な弁解を繰
り返していること等を踏まえると,原告には改しゅんの情が見られず,反25
省・改善する意思がないものと評価せざるを得ない。
これらの事情に照らすと,本件解雇は社会通念上相当といえる。
ア原告は,本件における原告の一連の行動は,原告が平成19年3月頃に
被告の業務に起因して発症した適応障害の影響に基づくものである旨主張
する。
イしかしながら,まず,①原告について,適応障害を引き起こすような大5
きなストレスや,そのストレスと関連した内容の重篤な症状が認められな
いこと,②主治医であるM医師による診断及び治療の経過等,③平成19
年3月頃以降の原告の言動等に照らすと,原告が適応障害を発症していた
という事実は存在しない。
したがって,本件における原告の一連の行動は,適応障害に基づくもの10
ではなく,広汎性発達障害の可能性を想定し得るほど顕著な性格的な偏倚
又は妄想性人格障害に起因するものにすぎない。
ウ仮に,原告が平成19年3月頃に適応障害を発症していたとしても,原
告が適応障害の発症原因と主張する一連の出来事(①同月以前からの上司
との対立,②同月9日の本件面談におけるA社長らの言動,③その前後の15
被告の対応等)は,そのような事実自体が存在しないか,存在するとして
も精神障害を発症するほどの強度の心理的負荷を与えるものであったとは
認められないから,原告が被告の業務に基づいて精神障害を発症したもの
とはいえない。
エまた,原告が平成19年3月頃に適応障害を発症していたとしても,M20
医師が,同年10月27日に「終了」と診断し,原告は,同年11月11
日から平成21年6月5日までの約1年7か月弱の間,Bクリニックへ通
院していないこと等に照らすと,原告の適応障害は平成19年11月頃に
は治癒していたというべきである。
さらに,M医師は,平成21年11月13日,原告が同日をもって治癒25
したと診断し,原告は,同月14日から平成22年5月10日までの約6
か月弱の間,Bクリニックに通院していなかったこと等に照らすと,原告
の適応障害は遅くとも平成21年11月頃には治癒していた。
オもとより,原告の一連の言動が精神疾患に基づくものであったとしても,
被告は職場環境の設定等において十分な配慮を行っていたのであるから,
本件解雇の社会通念上相当性は否定されない。5
なお,本件解雇は普通解雇であり懲戒処分ではないが,本件解雇に先行し
て,原告に対して本件解雇事由を通知して事情聴取の機会を与え,更に懲戒
委員会の手続内でも,代理人の同席のもとに原告の弁解を聴取していたもの
であり,本件解雇に手続的な瑕疵は存在しない。
【原告の主張】10
本件解雇事由は,上記1【原告の主張】のとおり,事実として認められる
としても,それによって被告やその従業員の業務に著しい支障が生じるとか,
名誉信用が著しく毀損された等とはいえないことからすると,本件解雇事由
は,いずれも解雇に値するほどの重大な非違行為とはいえない。
ア原告は,平成19年3月頃,本件面談におけるA社長らの暴言や,その15
前後の被告の対応等によるストレスから,適応障害を発症した。
原告の適応障害は,PTSD症状(トラウマ反応)を伴うものであり,
原告は,物事の是非を認識・判断する能力及びその認識・判断に従って行
動を制御する能力のいずれにも障害があり,特に,ストレス状況下では感
情及び行動を制御できなくなるというものであって,本件解雇事由に該当20
する行為は,いずれもそのような原告の症状に起因するものであった。
イ被告は,使用者として,精神不調者に対する安全配慮義務を負うととも
に,障害者に対する合理的配慮義務を負っており,原告に対しては,主治
医であるM医師の意見等も踏まえて,①業務上の指示を抽象的なものでは
なく具体的にすること,②安心して就業できる職場環境を設定すること,25
③処遇等は本人とよく相談して決定すること等の配慮をする義務を負って
いた。
しかるに,被告は,原告を長期休業から復職させる際に,主治医等の意
見を十分に斟酌せず,原告のストレス要因の除去を怠り,また,個別の業
務指示においてもこれを具体的にする等の配慮を怠ったことから,原告の
症状の悪化及び本件解雇事由に該当する行為をもたらしたものといえる。5
上記1【原告の主張】のとおり,本件解雇は,普通解雇事由がないにも
かかわらず,懲戒解雇として行われているものであり,労働契約法15条に
基づいてその有効性が判断されるべきである。
そして,本件解雇に先立って開催された懲戒委員会は,公正な委員で構成
されておらず,また,普通解雇を相当とすることは懲戒委員会の権限を越え10
る無効な判断であり,かかる懲戒手続には重大な瑕疵がある。
以上のとおり,本件解雇に係る原告の行為は解雇を相当とするほどの重大
なものではない上,本件解雇は,原告の精神疾患に対する十分な理解や配慮
がないままになされたものであり,社会通念上相当とはいえない。
3争点3(原告主張に係る本件解雇のその他の無効事由〔信義則違反,不当労15
働行為〕の有無)について
【原告の主張】
信義則違反
上記2【原告の主張】のとおり,本件解雇事由とされた原告の言動は,
いずれも原告の適応障害に基づくものであるところ,原告の適応障害は被告20
の業務により生じたものであるから,被告が本件解雇事由に基づき原告を解
雇することは信義則に反する。
不当労働行為
被告は,A社長の頃から,原告の労働組合内における活動を敵視して,原
告に対する不利益な取扱いをしていたところ,原告が本件組合に加入してか25
らは,原告に対する組織的な秘密録音や,上位者による暴言,暴行等が行わ
れるようになり,本件組合加入後の事実を理由に本件出勤停止処分が行われ
るなど,被告には不当労働行為意思が顕著に存在する。
本件解雇は,原告が本件組合に加入したことを理由に,原告を企業外に放
逐することを目的として行われたものであり,違法無効である。
【被告の主張】5
信義則違反との点について
上記2【被告の主張】のとおり,本件解雇事由は原告の適応障害に基づ
くものではなく,また,原告が仮に適応障害を発症していたとしても,それ
は被告の業務に起因するものではなく,又は本件解雇事由に該当する行為ま
でに治癒していたのであるから,本件解雇が信義則に反するとはいえない。10
不当労働行為との点について
被告が,原告の組合活動を理由に原告に対して不利益な取扱をした事実は
存在せず,また,被告に本件組合に対する不当労働行為意思はない。被告が
原告との会話を録音したのは,原告が,事実に反することを述べて他者を論
難することがあるため,記録化が必要であったからにすぎない。15
本件出勤停止処分及び本件解雇は,いずれも原告の非違行為を理由とする
ものであって,不当労働行為意思に基づくものではない。
4争点4(本件解雇に係る不法行為の成否及び損害額)について
【原告の主張】
本件解雇は,上記のとおり無効なものであることに止まらず,原告に対す20
る不法行為を構成する。
適応障害を発症している原告は,本件解雇により甚大な精神的苦痛を受け
ており,これを慰謝する額として600万円,弁護士費用は60万円が相当
である。
【被告の主張】25
原告の主張は,いずれも否認ないし争う。
第5当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認
められる。
平成24年4月の復職から同年9月頃までの原告の就労状況等5
ア原告は,平成24年4月2日,2回目の長期休業から復職し,被告の大
阪開発センター開発第三グループ開発第四チームに配属された。
当時,K所長は大阪開発センターの所長,Dは開発第三グループのグル
ープマネージャー,Cは開発第四チームのチームリーダーであり,Fは同
チームのメンバーであり,Eは,被告人事グループのグループマネージャ10
ーであった。
(乙5の⑪)
イD,C及び被告人事グループのNは,上記復職に先立つ平成24年3月
28日,原告と面談し,原告が過去のことを振り返らず新しい気持ちで仕
事に取り組むため,被告が新しく購入したパソコン(以下「新PC」とい15
う。)で業務を行うことを説明し,原告はこれを了承した(乙147,証
人D)。
ウ原告は,上記復職後,新PCを貸与され,Androidで静止画や動
画を再生することをテーマとし,既存資料や参考書を読むなどして開発内
容を学習する作業に従事していたが,平成24年4月3日以降,再三にわ20
たり,被告に対して,記憶回復のために過去の情報が必要である等として,
休業前に使用していたパソコン(以下「旧PC」という。)を使用させる
よう求めるようになった。
これに対し,被告は,①原告が過去のことを振り返らずに心機一転して
新しい仕事に取り組めるように,配慮として新PCを用意したこと,②現25
在の業務には旧PCの情報は必要ないこと,③必要なデータがあれば申し
出ること等を説明し,旧PCの使用を認めなかった。
原告及び被告は,旧PCの使用の可否について,複数回にわたり,長時
間に及ぶ面談を行ったが,双方が上記のとおり主張して合意には至らなか
った。そして,これらのやりとりの中で,原告は,Cから人格否定された,
Dから暴行を受けた,旧PCを返還しないのはパワーハラスメントである5
等と大声で怒鳴ることがあり,また,休日に,原告が,DやNに対し,電
話で自殺をほのめかしながら旧PCの使用を求めたり,Cの自宅に電話を
かけて,一家心中をする,Cの自宅前で焼身自殺する等と発言したりする
こともあった。
(乙57,58,147,証人D,原告)10
エ被告は,平成24年4月24日,上記ウのような原告の状態を踏まえて,
原告が就労可能であるか否かを確認することとし,健康管理室において,
O産業医,D及びNが原告と面談した。
同日の面談は,午前8時30分頃に開始され,午前10時頃からはK所
長も加わり,午後5時頃まで継続して行われ,K所長は,最終的に,原告15
に対して,就業規則8条に基づき入門禁止とする旨を申し渡した。
(甲214,乙147,157,証人D)
この点,原告は,上記面談において,被告から8時間半にわたり監禁さ
れた旨主張するが,証拠(甲214,乙157,証人D)によれば,上記
面談において,①K所長は,正午頃には原告に対し入門禁止とする旨伝え20
て面談を終えようとしたが,原告が,その後も興奮状態で話を続けていた
こと,②午後3時頃には,保健師によりコーヒーや茶菓子が差し入れられ
ていたこと,以上の事実が認められ,これらの点を踏まえると,長時間に
わたり面談が継続したことについては,原告が同種の話を繰り返し,面談
を終えようとしなかったことに主たる原因があると認められ,原告の上記25
主張は採用できない。
オK所長は,平成24年4月25日,社外の喫茶店において原告及び原告
の妻と面談し,原告の妻に対し,上記入門禁止措置の経緯等を説明し,原
告に対し,同月26日も入門禁止とする旨伝えた。
原告及び原告の妻は,上記面談において,K所長に対し,改めて旧PC
の返還を求めたが,K所長は,旧PCの使用を認めないことは被告による5
配慮であること,現在の業務に旧PCは必要ないこと等を説明した上,本
件労災申請①に係る調査が終了するまでは旧PCを返還することはできな
い旨返答した。
原告は,上記面談の後,本件組合に加入した。
(甲206の②,215,237,乙147,原告)10
カ原告は,平成24年4月26日,上記入門禁止措置にもかかわらず被告
に出勤したため,K所長は,原告に対し,同日から5月の連休(同年5月
6日)まで入門禁止とする旨通知した。
原告は,同年5月7日も入門禁止とされ,同月8日及び同月9日は欠勤
し,同月10日から勤務を再開した。15
原告は,勤務再開後,同年9月頃までは,職務上,顕著な問題を起こす
ことはなかった。
(甲13,乙147,証人D)
キなお,旧PCの使用について,K所長は,平成24年5月23日,原告
に対し,①過去を振り返らず,心機一転して現在の業務に専念すること,20
②過去のメールや資料を見て,現在の業務に関係ないことでメールや会話
をして業務に支障を生じさせないこと,③労働基準監督署の調査等で会社
が必要とした時は,速やかに旧PCの情報を閲覧させることの3点を条件
に,旧PCの使用を認める旨メールにより伝えたが,原告は,同日,K所
長に対し,団体交渉を申し入れているため回答を保留する旨返信した。25
その後,原告は,しばらくの間,旧PCの使用を求めることはなく,2
回にわたり開催された団体交渉においても旧PCの使用については協議さ
れなかったが,同年8月31日,原告が再び旧PCの使用を求めたため,
被告は,本件組合と調整をした上,同年10月15日,原告に対し旧PC
の使用を認めることとした。
(甲210,乙38の①②,乙109ないし111,131の①②,乙15
46,証人E)
平成24年10月11日の出来事に至る経緯等
ア被告は,原告の勤務状況が安定してきたこと等を踏まえて,平成24年
10月1日から,原告を「STB向けAndroidベース開発」という
プロジェクトに参画させ,同プロジェクトの「gstreamerを搭載10
し,OpenMAXを介してHWアクセラレーションを用いたメディア再
生を実現する。」という開発項目を原告に担当させることとした。
なお,gstreamerとは,マルチメディアのフレームワーク(シ
ステム構築するための基盤又はサービスを提供するための基盤となるソフ
トウェア)であり,音声や動画の再生,フォーマットの変換,録音・録画15
等の基本的な機能に加えて,ネットワーク経由での再生などのサービスを
提供するものである。
(乙147,証人D)
イC及びFは,平成24年10月3日,原告と打合せを行い,サブプロジ
ェクトの概要を説明した上で,原告の具体的業務内容として,gstre20
amerをAndroid上で動作するようにビルドすることを指示した。
上記説明の際,原告が,Fに対し,マルチメディアの知識がないので不
安である旨を訴えたため,Fは,具体的な作業手順を示して,それらの作
業を行うためにはマルチメディアの知識が不要であることを説明し,原告
も,少なくともビルドについてマルチメディアの知識は不要である旨の認25
識を示した。
Fは,同日,原告に対し,「GStreamerforAndro
id」と題するホームページのURLをメールで送信した。
(乙60,147,155の①②,証人D,証人C)
ウ原告は,平成24年10月4日,Cに対し,今回命じられた業務にはA
V技術が必要であり,AVの知識がないと進められない等と訴え,さらに,5
原告は,同月5日,D及びCに対し,同月1日に命じられたAV分野業務
は,個人的要望として担当したくない旨等を記載したメールを送信し,口
頭でも同旨の内容を述べた。
そこで,Cは,同月5日,原告に対し,gstreamerをAndr
oidに搭載することが原告の業務内容であることについて再度確認した10
上で,業務の具体的内容はFに聞くよう指示した。
また,Fも,同日,原告に対し,送付済みのURLからAndroid
用のgstreamerを入手し,Android上でビルドするよう指
示し,原告が懸念しているOpenMAXやAVコアについて先行理解す
る必要はないこと等を記載したメールを送信した。なお,上記メールにお15
いて,Fは,gstreamer周辺の情報等について,「gstrea
merについては未着手で誰も手をつけていないので,Xさんに調査を依
頼している状態ですので,無くて当然です。」と記載した。
原告は,上記説明及びメールを受けた後に送信した同日の日報において
も,①gstreamerやOpenMAX関係の情報をウェブで検索し20
ても,AVコアの知識がないため理解できない,②業務内容が急変して資
料もなく,相談すると「業務妨害」と叱責され,どう進めて良いかわから
ず体調が悪化している等と記載した。
(甲160,乙39,61,147,証人D)
エFは,平成24年10月9日,原告に対し,Android用gstr25
eamerをビルドするためのファイルがGitと呼ばれる方式で公開さ
れているリンク先のURL(上記イのURLとは異なる。)及び具体的作
業手順等の指示を記載したメールを送信した。
原告は,同日,Fに対し,指示された作業を進めたがエラーが発生した
旨のメールを送信したため,Fは,原告に対し,上記エラーへの対応の助
言とともに,エラーログを見て原因を調査することも原告の業務内容であ5
る旨等を記載したメールを返信した。
(乙63,132,147,150,証人D,証人C)
オ原告は,平成24年10月10日,Fに対し,①前日に指示されたこと
をやったがうまくいかなかった,②Android用gstreamer
はこの世に存在しない等と述べて,Fを非難した。10
これに対し,Fが,①指示に従って調査すれば,わかるはずである,②
Android用gstreamerがこの世に存在しないとまで言うが,
どこまで調査したのか,中身をしっかり見ていないのではないか等と反論
し,口論となった。そのため,その場に通りかかったNが,原告とFとを
仲裁した上,原告及びFに対し,時間をおいて翌日の午前中に,プロジェ15
クトの進め方を整理するための打合せを実施することを提案した。
なお,Fは,その後,Android用gstreamerをビルドす
るために必要なファイル(Android.mkを含むgstreame
r)が上記エ記載のURLから入手できることを確認した(当該確認及び
調査は,本来,原告が行うべき業務であった。)。20
(乙150,証人C)
カFは,上記オの口論の後,それまでの原告とのやりとりの結果を整理し
た上で,原告が行うべき業務の範囲や具体的手順等を記載したメールを送
信した(乙43,112)。
平成24年10月11日の食堂での出来事等25
ア原告及びFは,Nの提案に基づき,平成24年10月11日
午前中,食堂において打合せを行い,N及びCがこれに同席した(乙15
0,証人C,原告)。
イ原告は,上記打合せにおいて,gstreamer調査は原告が一人で
行うには高難度,高負荷である旨述べたため,Fは,同チームのPをgs
treamer調査に加えることを提案し,原告も同提案に反対しなかっ5
た(乙41の①)。
ウところで,被告の食堂は,情報セキュリティ規定上,無許可での情報機
器の持込みが禁止される「Bゾーン」と呼ばれる区域であったところ,原
告は,上記打合せの際,被告に無断でICレコーダーを持ち込んでいた。
Cは,打合せが終了する頃,原告が胸ポケットにICレコーダーを入れ10
ているのを発見し,打合せ終了後,Fを退出させた上で,原告に対し,
「情報セキュリティ違反をしていませんか。」,「胸ポケットには何が入
っていますか。」と尋ねたところ,原告は,胸ポケットから目薬の袋を出
してCに示した。そこで,Cは,「ICレコーダーを持っていませんか。」
と更に尋ねたが,原告は,「持ち物検査をするのか。」と述べ,Nからも15
ICレコーダーの所持の有無を答えるよう促されたが,その所持を否定し
た。
そして,Cが,話を続けようとしていたところ,原告は,突然立ち上が
り,その場を立ち去ろうとしたため,Cは,原告の背後から両腕を差し入
れて,原告を制止しようとした(以下,その際のCの原告に対する行為を20
「本件行為」という。)。
原告は,「暴力はやめてくれ。」と言いながら食堂内を歩き,その後,
退出した。
(甲158・89ないし93,97頁,乙150,証人C,原告)
エ原告は,平成24年10月11日午後零時30分頃,被告の健康管理室25
を訪れ,O産業医の診察を受けた。
原告は,O産業医に対し,①Cに背後から抱えるようにされて,その際
筋違いのような状態になったのかもしれない,②職場に戻り昼食をとって
いたら痛みが生じてきた,③寝違いか筋違いのような痛みである,右側腹
部も痛むが左側腹部の方が強い等と説明し,疼痛を訴えた。
O産業医は,診察上,外観上の変化(発赤,腫脹,擦過傷等)や熱感は5
認められなかったので,処置は不要と判断し,経過観察のため休養室での
臥床を勧め,原告の希望に基づき,湿布薬を左側腹部に貼付した。
なお,原告は,同日夕方,再度健康管理室を訪れ,労災指定病院の紹介
を求め,保健師から紹介を受けたが,同日は用事があるから同病院は受診
せず,翌日,近所の整形外科を受診する等と述べた。10
(甲158・64,104ないし106頁)
オ原告は,健康管理室から退出後,Nに対し,「2012年10月11日,
11時30分頃,食堂にて,Nさんの見ている前で,Cから背後からお腹
を強く抱き締められました。昼食中に左脇腹と右腹部に痛みが生じ,12
時30分から健康管理室で処置を受け,1時間程安静にしていました。現15
状,右腹部の痛みは落ち着いていますが,左腹部の痛みは強いです。」と
記載したメールを送信した(乙68)。
カ原告は,平成24年10月12日,Cに対し,「昨日からの左脇腹痛が
治らないため,通院いたします。」,「本日は年休を取得させて頂きま
す。」等と記載したメールを送信した上で,L整形外科を受診した。20
原告は,同病院のQ医師に対し,①前日,上司に後ろから強く羽交い締
めにされ,捻る姿勢で抵抗し,15分ほど経過した後に症状が出現した,
②咳,くしゃみや寝返り時に疼痛がある等と説明した。
Q医師は,原告の左第11,12肋骨の先端部に圧痛があること,レン
トゲン上は明瞭な骨折が認められないこと等を確認した上,左側胸部打撲25
症(本件傷害)と診断し,診断書を発行した。
(甲14,93,158・101ないし103頁)
キ原告は,平成24年10月12日から同月22日まで,年休を取得した
(証人D,弁論の全趣旨)。
平成24年10月23日から3回目の長期休業に至るまでの経緯等
アFは,の打合せを踏まえ,平成24年10月15日以降,gs5
treamer調査の担当者にPを加えることとし,原告に対し,Pと原
告とを同列に設定するか,又は,原告若しくはPのいずれかを主導的立場
とするかについて選択するよう求めたが,原告は,上記選択肢について希
望を示さなかった。
そこで,Fは,同月23日,原告及びPに対し,①Pが主導してgst10
reamer調査の舵取りを行い,原告はその指示に従って作業すること,
②当面の目標として,成果物の全体像をイメージするために,記載予定の
項目一覧の資料(目次)を作成するよう指示した。
原告は,同日,Fに対し,Pから「イメージがまったくない。すべて任
せる。」と言われ,当面の目標を進めることができない旨伝えたため,F15
は,原告に対し,原告の方でイメージを作成して,そのイメージをPに示
すよう指示した。
(甲86,乙41の①②,乙147,証人D)
イ原告は,上記キのとおり,平成24年10月15日に被告から旧PC
の使用を許可され,同月24日から同月30日まで,旧PCのデータを新20
PCに移行する作業を行った(甲257の①,乙42,65の②)。
ウ原告は,平成24年10月24日,「指揮命令系統が不明のため,関係
上位者全員に送らせて頂きます」と記載して,D,C,F及びPらに日報
を送信し,同日報において,「課題」として「指示命令系統・業務指示内
容・業務範囲境界の明確化」と記載した。25
Dは,同日,原告に対し,原告には,同月3日時点でgstreame
rのAndroidでのビルドを含む調査の依頼が行われ,その後の流れ
はFが同月10日にカ)において説明されており,
指示に変更はない旨記載したメールを送信した。
(甲87,257の①)
エ原告は,平成24年10月25日,Pから,目次作成のための調査の進5
捗を尋ねられたが,指揮命令系統が不明であるためペンディングしている
と報告している旨回答した。
また,原告は,同日,Dに対し,①Cから,gstreamer調査に
ついて業務範囲外のことをしていると叱責された,②Pから,業務の進め
方を他の社員に相談したことについて業務妨害であると叱責された等とし10
て,「誰にいつどのように相談すれば良いか具体的にご指導ください。」
等と記載したメールを送信した。
(甲88,乙65の①)
オDは,平成24年10月27日,原告に対し,①まずは,成果物の全体
像をイメージするために,目次を作成すること,②しばらくは,原告主体15
で進め,定期的に報告すること,③技術的な質問や相談は,F又はPに対
してすること,④日報は,D,C,F及びPに対して送信すること等を指
示した(乙42)。
カ原告は,平成24年10月29日,Pに対し,Pから業務に関する注意
を受けたことについて,パワーハラスメントである旨述べて,A社長を引20
き合いに出して謝罪を要求し,また,同月30日にも同様に,Pに対し,
パワーハラスメントに関するパンフレットを示すなどして謝罪を要求した
(甲20,乙147,証人D)。
キDは,平成24年10月30日,原告に対し,①同月31日に目次の作
成をすること,②当面の間,Pと接触せず作業を進めることのほか,上記25
オ②ないし④と同様の指示を再度記載したメールを送信した(乙42)。
ク原告は,平成24年10月31日,Dに対し,同月11日にgstre
amerの業務を白紙丸投げされることは荷が重いことを上位者に伝えた
が,現状は「白紙丸投げ」の状態に戻っており,当時以上に荷が重い等と
して,上記キのメールで指示された業務を進めることはできない旨返信し
た。5
原告は,同日の日報を,「指示命令系統が不明なため,関係上位者全員
に送らせて頂きます」としてD,C,F及びPらに送信した上,同日報の
「1.本日の実績」の欄に,「指揮命令系統・業務指示内容・業務範囲境
界の確認中。現在ペンディング中」,「2.翌日の目標」の欄に,「当面
の対応待機」等と記載した。10
(甲257の②,乙65の②)
ケDは,平成24年11月1日,原告が,目次の作成をできないと述べて
いたことから,gstreamerをAndroid上でビルドする作業
に戻るよう指示をした。
原告は,同月2日の日報も,「指示命令系統が不明なため,関係上位者15
全員に送らせて頂きます」と記載して,上記クの関係者らに送信した。同
日報には,「2
streamerの搭載指揮命令系統・業務指示内容・業務範囲境界の
確認中。現在ペンディング中。Dからの連絡待ち
merビルド調査」については,「Android上のgstreame20
rのビルドの途中でエラーがでる。」「Android.mkは存在しな
い」,「原因を調査していますが,わかりません」等と記載され,③「3.
誰に何を相談し何をどの範囲でやれ
ば良いかわかりません。gstreamerビルド調査は完全に行き詰ま
っています。」と記載されていた。25
これに対し,Dは,同日,上記①及び③の点について,暫定的な体制及
び業務指示は,既に連絡済みであること,上記②の点について,Fに質問
をした点以外で,原告においてどのようなアプローチをして,何に行き詰
まっているかを報告すべきこと等を記載したメールを原告に送信した。
また,Dは,「Android.mkは存在しない」とする点について
は,同日頃,原告を自席に連れてきて,Fが上記エのメールで伝えたU5
RLから数クリックすれば見つかる場所にあることを原告に示して見せた。
(乙65の③,乙114,147,証人D)
コ原告は,平成24年11月5日の日報も,同月2日の日報(上記ケ)と
同様に,「指示命令系統が不明なため,関係上位者全員に送らせて頂きま
す」と記載し,同関係者らに送信した。そして,同日報にも,上記ケと同10
様に,「2
erの搭載指揮命令系統・業務指示内容・業務範囲境界の確認中。現在
ペンディング中。Dからの連絡待ち」,「3.翌日の目標」には,「誰に
何を相談し何をどの範囲でやれば良いかわかりません。gstreame
rビルド調査は完全に行き詰まっています。」と記載されていた。一方,15
「2.本日の実績」のうち,
は,Android上のgstreamerのビルドの途中でエラーが出
る点は解決したが,新たに別のビルドエラーが生じた旨等が記載されてい
た。
(乙65の④)20
サ原告は,平成24年11月6日から年休を取得し,同月13日,被告に
同月14日からの自宅待機を命じられ,同月16日,M医師から,適応障
害により3か月の休業を要する旨の診断を受け,そのまま3回目の長期休
業となった(前記前提事実イ,甲12の⑨,甲16)。
本件労災申請②25
原告は,平成24年11月15日,北大阪労基署長に対し,Cの本件行為
により本件傷害を負ったとして,労災保険法に基づく療養補償給付の支給を
請求した(本件労災申請②)。
これに対し,北大阪労基署長は,平成25年5月2日,原告の負傷に業務
起因性が認められないとして,不支給の決定をし,さらに,大阪労働者災害
補償保険審査官は,平成26年6月20日,原告の審査請求を棄却し,労働5
保険審査会は,平成27年3月11日,原告の再審査請求を棄却した。
(甲48,158,159)
平成25年2月の復職から本件出勤停止処分までの経緯等
アM医師は,平成25年1月25日,原告の抑うつ気分等が軽快し,職場
復帰可能であるとする診断書を発行した。同診断書には,①指示等はでき10
るだけ具体的にすること,②かつてトラブルのあった人物とは離すこと,
③処遇等は本人とよく相談の上決めることの3点について,配慮を要する
旨記載されていた。
(甲12の⑩)
イ原告は,平成25年2月1日,D,N及びO産業医らと面談し,復職し15
た。
被告は,上記ア②のM医師の意見も踏まえ,原告を,同年3月から,ネ
ットワークやクラウド関連の業務を行う開発第二グループ開発第一チーム
に異動させることとし,それまでは暫定的にDが直接業務指示を行うこと
とした。20
そこで,Dは,同年2月1日,原告に対し,「Webアプリケーション
構築入門(第2版)」と題する入門書(以下「本件書籍」という。)を与
え,本件書籍を読解し,LinuxPCで動作確認するなどして,クラウ
ド/IoT関連の技術を習得するよう指示した。
(以上につき,乙147,証人E,証人D)25
ウ原告は,平成25年2月7日,D及びEに対し,「2012年10月
の業務でのFから虚偽説明と情報隠蔽」と題するメール(本件メール)
を送信した。
本件メールには,冒頭に,「2012年10月の担当業務ですで,F
から虚偽説明,情報隠蔽を受けております。」,「②情報隠蔽:プロジ
ェクトにF作成のgstreamer資料がある。①虚偽説明:プロジ5
ェクトにgstreamer資料はない」等と記載されていた。そして,
それぞれの具体的内容として,「①虚偽説明」については,Fから,平
成24年10月5日に,「gstreamerについては未着手で誰も
手をつけていないので,Xさんに調査を依頼しているので,gstre
amerの資料が無くても当然です。」と説明を受けたが,実際には10
「gstreamer調査」と題する資料が存在する,「②情報隠蔽」
については,Fの上記説明に反し,「gstreamer調査」は同年
10月5日時点で存在する等と記載され,最後に「主観ではなく,事実
に基づいた客観的な調査をお願いいたします。」と記載されていた。
そして,本件メールには,「gstreamer調査」と題する資料15
(以下「本件添付ファイル」という。)の電子データが添付されていた。
(乙44の①②)
本件添付ファイルは,原告自身が,平成24年10月5日に作成した
ものである。
同資料は,同年5月22日付けで作成された「AndroidOp20
enMaxILAVD_ss_OMX.soPro4TV移植検討」
と題する資料(以下「別件資料」という。)と4頁目以降の内容が全く
同一であり,別件資料を一部修正して作成されたものであった。
Fは,同年10月3日,原告に対し,別件資料の電子データが存在す
るフォルダの場所を教えた上でアクセス権限を設定し,原告は,同月425
日に同データをコピーした上で,同月5日に本件添付ファイルを作成し
ていた。
また,別件資料は,OpenMAXをAndroidonPro
4TVに移植させるための仕様書であり,別件資料にはgstream
erについての記載は存在しない。
(乙44の②,乙128,129の①ないし④,乙147,証人D)5
エ原告は,上記イの指示に基づいて,本件書籍を用いた独習をしていたが,
平成25年2月7日の日報において,「本日の実績」欄に,本件書籍の
「第5章ウェブの通信方式Twitterのパブリックタイムライン」
について,Twitterをgoogleで検索して調べようとしたがよ
く分からず,周辺知識が不足しているため説明内容を理解できない旨等を10
記載し,同日報をDに送信した。
Dは,同月8日,原告に対し,「もし,業務で本件の対応が必要であっ
たら,と仮定して,解決,もしくは解決ができない理由の特定をお願いし
ます。」,「実業務で対応が必要となるシチュエーションだと思いますの
で,そのつもりで対応をお願いいします。」等と記載し,引き続き本件書15
籍を独習するよう指示した。
原告は,同日,Dの上記指示に対し,①円滑な業務復帰のための段階的
な支援がなされていないこと,②プロジェクトと同様の組織的な活動が許
可されていないこと,③主治医意見書に「トラブルのあった人と離すこと」
と記載され,現状は,それまでの暫定的な体制であること,③同年2月120
日に約束したストレス要因の話をさせてもらえていないこと等を理由とし
て記載した上,「本業務命令は,お断り致します。」,「いきなり,未経
験業務で実業務としての対応を求められるのは合理的な業務命令とは思え
ません。」,「適切な業務命令が示されるまで待機いたします。」等と記
載したメールを送信した。25
なお,原告は,同月8日の日報には,本件書籍の読解を継続している旨
記載し,同月12日の日報で,本件書籍の通読を完了した旨報告した。
(甲259の①ないし⑤,乙66)
オ原告は,平成25年3月1日,大阪開発センター開発第二グループ開発
第一チームに配属された。
当時,Iが開発第二グループのグループマネージャー,Hが開発第一チ5
ームのチームリーダーであった。
(乙5の⑬,乙147,証人D)
カ原告は,平成25年3年11日,午後3時に退社した。
被告の従業員には,原則として,始業時刻や終業時刻を定められない,
いわゆるフレックス勤務が採用されているが,被告は,平成24年4月110
日の原告復職時に,O産業医の意見を踏まえ,原告に対し,始業時刻を午
前8時30分,終業時刻を午後5時とする「通常勤務」とした上,残業や
休日出勤等を禁止する旨の就業制限措置を課しており,同措置は平成25
年3月時点でも撤回されず継続していた。そのため,原告が午後3時に退
社する場合は早退に該当し,所定の手続により勤務管理システムに早退届15
の入力をする必要があったが,原告は当該手続を行わなかった。
(甲158・64頁,260の①②,甲261,乙55,146,148,
証人E,証人H)
キ原告は,平成25年3月12日,被告に無断で,勤務管理システムに登
録する勤務形態を,通常勤務からフレックス勤務に変更した(乙148,20
証人H)。
ク原告は,平成25年3月13日,本件労災申請②に係る審査の過程で,
O産業医が原告の医療情報を漏洩した等として,健康管理室を訪れたが,
その際,健康管理室が「Bゾーン」に該当するにもかかわらず,被告の許
可を得ずに録音機器を持ち込み,保健師との会話の一部を録音した(甲225
0,276,乙146,証人H,弁論の全趣旨)。
ケHは,平成25年3月15日,原告に対し,上記カの点については早退
届の入力を行い,上記キの点については通常勤務に訂正するように指示を
したが,原告は,これらの訂正を行わなかった。
Hは,同月21日,同月26日,同月27日及び同月29日にも,原告
に対し,同様の指示を行ったが,原告は,同指示に従わなかった。5
(甲20,276,乙148,証人H)
コ原告は,平成25年3月22日,上司であるHの許可を得ることなく,
職場を離れて健康管理室を訪れ,延べ約1時間10分間にわたり同室に滞
在し,保健師が同月13日の録音機器の持込み(上記ク)について被告の
人事部門に報告したことを非難し,O産業医に対して,約束違反である,10
個人情報保護法に抵触する等と詰問した。
また,原告は,同日の終業時間後,Hから,早く帰宅するようにとの指
示を受けたが,その後も約1時間にわたり,会社のパソコンを使用してメ
ールを作成した。
(甲263,乙146,148,証人H)15
サ原告は,平成25年3月25日も,Hの許可なく職場を離脱し,健康管
理室を訪れた。
その際,原告は,約1時間にわたり,保健師に対し,保健師が同月13
日の件を人事部門に報告したことが,保健師法違反であり,警察に来ても
らう等と述べて詰問し,同室から出ようとした保健師の前に立ちはだかっ20
て出口を塞ぐなどした。
その後,看護師から連絡を受けたN及びHが,健康管理室を訪れて,原
告を説得し,いったんは原告を食堂に連れて行った。しかし,原告は,も
う一度保健師の話を聞くことを強く希望し,Hと共に,再度,健康管理室
を訪れた。原告は,約30分間にわたり滞在し,保健師に対し,「約束違25
反をしている」,「法律に抵触している」等と大声でまくし立てた。
(乙146,148,証人E,証人H)
シ原告は,平成25年3月26日,再度,健康管理室を訪れ,O産業医が
北大阪労基署長宛ての意見書を提出したことについて,O産業医に対して
盗人である等と述べ,大声を出してカウンターを叩いた(乙146,証人
E)。5
ス原告は,平成25年3月26日,同月27日及び同月29日,職場内で,
延べ約45分にわたり,職場の電話を使用して業務とは関係のない会話を
大声で行った。その際,Hは,原告に対し,業務以外の電話は外で掛ける
べきであることや,声が大きいので周囲の迷惑になっている旨等の注意を
したが,原告は改めなかった。なお,上記の原告の行為について,周囲に10
いた従業員から人事部門へ苦情が述べられることもあった。
(乙148,証人H)
本件出勤停止処分
アEは,平成25年4月9日,原告に対し,平成24年10月から平成2
5年3月までの原告の問題行動に関し,同年4月11日に事情聴取を実施15
するので出席するよう伝えた。
これに対し,原告が,同月10日,時間的猶予を求めたことから,Eは,
同月16日,原告に対し,その時点で被告が把握している事実は,①担当
業務に関する指示命令違反,②その他の指示命令違反,③職場離脱,④他
者を誹謗・中傷したり,激昂して大声を出すなどして,他者に不利益を与20
えるとともに,職場の風紀秩序を乱したこと,⑤情報セキュリティ違反等
であり,詳細については事情聴取の場で説明するとして,同月18日に事
情聴取を行う旨通知した。
(乙67,146)
イEは,平成25年4月18日,原告に対し,本件出勤停止処分事由を説25
明し,それらについての原告の弁解を聴取した(甲20,276,乙14
6,156の①②,証人E,原告)。
ウ被告は,平成25年5月13日,原告に対して,同月20日から同月2
8日まで7日間の出勤停止を命じる懲戒処分(本件出勤停止処分)をし,
本件出勤停止処分事由及び同月17日までに始末書を提出すべき旨を記載
した通知書を交付した。5
原告は,本件出勤停止処分に対して異議を申し出たが,被告は,同月1
7日に懲戒委員会を開催し,同日,同月20日から同月28日までの出勤
停止を決定した。
なお,原告は,上記懲戒委員会において弁明の機会を与えられる旨を事
前に通知されていたが,同月16日,I及びEに対し,同委員会には出席10
しない旨を述べ,同委員会を欠席した。
(前記前提事実,甲24,乙146)
本件被害届の提出
原告は,出勤停止処分中の平成25年5月27日,門真警察署に対し,C
から平成24年10月11日に食堂で暴行を受けて,左側胸部打撲傷(本件15
傷害)の傷害を負った旨の被害届(本件被害届)を提出した。
上記事件を担当した枚方区検察庁検察官は,平成25年10月23日,C
について,暴行(受理罪名:傷害)の被疑事実について不起訴処分(起訴猶
予)とし,平成26年3月3日,その旨Cに告知した。
(甲278,乙1)20
平成25年5月29日から本件解雇までの経緯等
ア原告が所属していた大阪開発センター開発第二グループ開発第一チーム
では,平成25年4月1日,Gが新たに配属され,チームリーダーがHか
らGに交替した。
もっとも,Gは,原告に対し,業務についてHの指示に従うよう指示し25
ており,同月以降もHにより原告に対する業務指示が行われていた。
(乙5の⑪,乙149,証人G)
イ原告は,本件出勤停止処分に係る期間が経過した平成25年5月29日,
出勤を再開した。
Iは,同日,原告に対し,本件出勤停止処分の際に指示されていた始末
書の提出を促したところ,原告は,①反省すべき事実はない,②本件組合5
と相談して,提出する必要はないとの結論に至った,③本件出勤停止処分
事由には,団体交渉事項となっているものも含まれているため,自身の一
存では提出を決めることはできない等として,始末書の提出を拒否した。
Iは,原告に対し,同月31日まで待つので再考するよう伝えたが,原
告は,同日は年休を取得し,同年6月3日,Iに対し,上記①ないし③と10
同様の理由を述べて,始末書を提出しなかった。
(乙146,証人E)
ウ被告は,評価制度の一つとして,「ターゲットプラン」と称する目標管
理制度を導入している。
原告は,平成25年6月14日,I及びGと面談し,平成25年度上期15
ターゲットプランにおいて,半期のチャレンジ目標(総合目標)を,「H
TTP,DNS,DHCPのプロトコルの習得を行うこと」と設定し,さ
らに,①プロジェクト計画立案について,週単位での計画に基づいて作業
を実施すること,②プロジェクト推進管理について,週単位での計画を基
にして,現在の日報を週報へ移行することを,チャレンジ目標に設定した。20
(乙48の①,乙148,149,証人H)
エHは,上記ターゲットプランを踏まえ,原告の平成25年上期の業務と
して,プロジェクトに参加できるようになるために,自立して週単位の計
画を立案し,予実(予定及び実績)管理を実行するよう指示し,その題材
として,「HTTPDの省リソース化」の技術習得を指示した。25
そして,Hは,同年6月24日,原告に対し,日報には各週末までの予
定を記載し,週末の日報には予実及び次週の予定を記載するよう指示する
メールを送信した。
しかしながら,原告は,平成25年6月28日(金曜日)及び同年7月
5日(金曜日),及び同月12日(金曜日)の各日報において,当日の予
実及び次週の予定を記載したが,週間の実績は記載しなかった。5
(乙48の②ないし⑤,乙148,証人H)
オHは,平成25年7月23日,原告に対し,再度,日報に関する指示を
したが,原告が,週間予定はゴール設定できない,指示されていないので
週単位に区切れない等と主張したため,定量的なゴールを設定できないの
であれば,少なくとも週末目標を設定するよう指示した。10
また,Hは,同月25日及び同月31日にも,原告と打合せを行い,原
告に対し,週単位で業務計画を立てて,週報による自己管理ができるよう
になることが,今後の実業務としてのプロジェクト参画の目安になる旨を
説明した上で,少なくとも月曜日の日報に,前週の予実,今週の計画を記
載するよう改めて指示した。15
(乙148,証人H)
カ原告は,平成25年8月5日,Hに対し,マスタースケジュールがない
ので次週の計画が立たない等として,同年7月31日に指示された,月曜
日の日報に前週の予実及び今週の計画を記述することはできない旨述べた。
そこで,Hは,原告との間で,週末の日報に,今週の予定に対する実績20
及び次週の予定を記載することとするが,次週の計画策定に課題があれば
その旨を記載し,月曜日に定例的に行う打合せ(以下「定例会議」とい
う。)で解決するという進め方にすることを確認した。
(乙148,証人H)
キHは,平成25年8月19日(月曜日),原告に対し,週の予定として25
「HTTPDの省リソース化」及び「DHCPCプロトコル習得」を示し
ていたが,原告は,平成25年8月23日(金曜日)の日報に,今週の実
績及び次週の予定を記載しなかった。
原告は,同月30日(金曜日)の日報にも,今週の実績を記載せず,次
週の予定について,「HTTPDの省リソース対応・HTTPD省リソ
ース対応完了報告レビュー」と記載しながら,「5.課題」として,「5
次週の予定が立たない。HTTPDの省リソース完了報告レビュー待ち。」
と記載した(なお,Hは,同月29日,原告に対し,作業時間があれば行
うべき業務を指示していた。)。
(乙48の⑥⑦,乙148,証人H)
ク原告は,平成25年9月3日の日報に,①ブランク等の影響もあり品質10
面に不安がある,②開発者とテスト実施者が同じ(原告)であることも危
惧している等と記載したことから,Hは,同月4日,原告と臨時の打合せ
を行い,原告に対し,原告の業務は商品開発を目的としたものではなく,
育成業務としての独習課題(HTTPDの省リソース化)であるので,品
質面に拘らずに作業するよう指示した。15
しかしながら,原告は,同月4日の日報にも,上記不安を記載したため,
Hは,同月5日,同日報に対し,①育成業務の独習課題であるので品質の
確保を前提にしていないこと,②今回は既存のテスト仕様を流用するので
開発者と実施者が同じでも問題はないこと等を記載して返信した。
(乙48の⑧ないし⑩,乙148,証人H)20
ケ原告は,平成25年9月6日(金曜日)の日報において,今週の実績を
記載せず,また,「3.来週の予定」には,
対応課題参照」と記載し,「5.課題作業見通しが立たないリリ
ーステストのためにどのような環境構築をして,どのように進めたら良い
かが入手済み資料だけではわかりません。行き詰っています。」と記載し25
た上,「4.質問」として,「今後の予定IPPFに取り込むための
今後の作業として見込まれることを教えて下さい。」等と記載した。
そこで,Hが,同月9日,状況を確認したところ,Hが渡した資料を原
告がよく読まずに作業が止まっていたことが判明した。
(乙48の⑪,乙148,証人H)
コ原告は,平成25年9月13日,Hと面談し,Hに対し,①品質確保が5
必要なのに何も説明されない,②HTTPD等の修得はレベルが低く研修
になっていない等と述べたので,Hは,①育成業務であって,品質確保を
目的としていないこと,②自己管理を含めて回復するのが目的であり,H
TTPDの修得はその題材であって,修得自体が目的ではないこと等を説
明した。10
また,原告は,上記面談において,マスタースケジュールがないので,
今週の予実と次週の計画を週報に記載することができない旨を再度述べた
ため,Hは,①プロジェクトに入って業務をするためには,自ら予定を決
めて管理をしていく必要があり,現時点では,その管理ができるようにな
るために業務をしてもらっていること,②マスタースケジュールがなくて15
も,今週の予実と次週の計画を週報に記載することはできるし,また,そ
れをやる必要があること等を伝えた。
原告は,同日(金曜日)の日報に,今週の実績及び次週の予定を記載し
なかった。
(乙48の⑫,乙148,証人H)20
サ原告は,平成25年9月17日のHとの定例会議においても,従前と同
様の理由を述べて,週単位の進捗管理は不可能である旨主張し,同月20
日(金曜日)の日報には,「情報が枯渇しており計画を立てることは困難
です」等と記載して,今週の実績及び次週の予定を記載しなかった(乙4
8の⑬,乙148,証人H)。25
シGは,平成25年9月24日,Hから相談を受けて,原告とHとの定例
会議に参加することとした。
Gは,まず,原告に対し,同年6月14日に設定した平成25年度上期
ターゲットプランの目標は,技術習得という面及び業務管理面のトレーニ
ングという面が主体である旨説明し,原告も,それは認識している旨答え
た。5
次に,Gは,上記目標に対して,Hが具体的に業務内容を指示し,原告
の質問にも丁寧に詳しく答えており,原告が週単位の計画ができない理由
としている「マスタースケジュールがないから週単位の計画が立てられな
い」という点については理由にならず,指示している内容で週間の計画を
立てることができる旨指摘した。10
そして,Gが,原告に対し,週単位の計画がこれまでに立てられたこと
があるか否かを確認すると,原告は,「それは偏った評価であり,Gさん,
団体交渉でやらしていただきますけど,出ていただけますか。」等と発言
し,Gが,事実の確認をしているのだと原告に再度質問したところ,原告
は,週単位の計画が立てられたことがないことは認めたが,その理由とし15
ては従前と同様に原告の意見を述べ,Gの指示には納得できない部分があ
るので,団体交渉に出席して欲しい旨述べた。
(乙148,149)
ス原告は,平成25年9月24日,Gに対し,Hから具体的な助言をもら
えずに業務命令を受けて,検討はしているが,ここ2週間程の間に社内で20
強いストレスを受けたこともあり思考停止している等と記載して,相談を
求めるメールを送信した(甲230)。
セGは,上記スのメールを受けて,平成25年9月25日,原告と,約3
0分間にわたり面談をした。
原告は,Gに対し,①同月12日にNから原告が普通でないかのような25
メールを送信されたこと,②Hから交付されたテスト仕様書が7年前(平
成18年)のものであったこと,③就業制限の点等がストレス要因となっ
て,思考停止に陥っている旨を述べ,これに対し,Gが,原告がストレス
要因とする各点について,自己の見解を述べて原告をなだめるなどしてい
た。ところが,上記面談の途中,原告が,組織的な嫌がらせを受けている
と感じている点については「厳秘」として欲しい旨を述べたのに対し,G5
が,厳秘の情報であれば,それ以上聞くことができない旨答えたことから,
原告は,興奮状態となり,ストレス要因に関する健康情報であり,かつ,
パワーハラスメントの内部通報に類するものであるから,厳秘とすべきで
ある旨主張した。これに対し,Gは,自分自身(チーム内)で解決できな
いことは上位者に相談する必要がある,社内通報規定も含めた社内のルー10
ルに従って判断する等と答えた。
その後も,同様のやりとりの末,原告は,「Gさんは,私の心情に対し
ては全然配慮してくれはらないんで,もう私は,Gさんとも対立する形で
出るとこへ出ます。もう既に出るとこへ出てるケースとかもありますし,
警察とかも行ってるいうのはご存じやと思いますし。」と発言した。そし15
て,Gが,「いや,それは知らないです。」と答えたのに対し,原告は,
「Hさんとかもご存じですけど,会社も知ってますけど,社内で暴行を受
けたというのは警察に届けています。」,「届けた後,かなり進展してる
みたい」等と述べ,さらに,Gが,「私もルールに基づいてやりますし,
Xさんもルールに基づいてやってるということ。お互いフェアな立場です20
わね。」と述べたのを受けて,原告は,「私も外でGさん訴えるのはルー
ルに基づいてやってもいいですね。」と発言した。
(甲276,乙45の①,乙149,証人G,原告)
ソG及びHは,平成25年9月26日,別チームの社員であるRを同席さ
せ,原告の業務について打合せを行った。25
Gは,上記打合せにおいて,原告から,不具合が生じている点等につい
て,テスト環境に詳しいRに質問し,一つ一つ解決していくことを提案し
たが,原告は,そのような方式ではなく,根本的なレクチャーを希望する
等と述べた。その後も,業務についての話合いが続けられていたが,原告
は,Hから平成16年のテスト仕様書類を交付された点について非難を始
め,Rは,原告のその時点での到達点からすると自分が立ち会う必要は乏5
しいとして,途中で退席した。
原告は,Rの退席後も,上記テスト使用書類の点についてHを非難し,
これに対して,G及びHが,原告の業務上は支障がない旨説明したところ,
過去にも情報を隠匿された等と述べて,Gらの対応は原告への嫌がらせで
ある等と非難した。その後も,原告とGらとの間で問答が続いた末,打合10
せ開始から約40分が経過した頃,原告は,「外でやった方がええんやっ
たら,外でやりましょう。僕ももう,それなりの覚悟はしてますし。Gさ
んも含めて,Gさんも結局パワハラされてるじゃないですか。」等と発言
した。
原告は,上記打合せ終了後,会議室から席に戻る際にも,Hに対し,こ15
んなことは外に行ってやりましょうよ,警察に入ってもらいますよ等と述
べた。
(甲276,乙45の②,乙148,149,証人H,証人G,原告)
タIは,Gから,上記セ及びソの経緯について報告を受け,平成25年9
月27日,原告を会議室に呼び出して事情を聴取した(以下「本件事情聴20
取」という。)。
Iは,まず,原告に対し,Gから,原告と打合せをした際に「警察に訴
える」等と言われた旨の報告を受けている旨伝えたところ,原告は,「そ
んなこと言ってないですけど。」と否定した。
Iは,事実の確認をしたい,それが事実であれば,そういう暴言はやめ25
てもらいたい等と述べ,本件事情聴取の趣旨を説明したが,原告は,それ
は決め付けであるとし,「そんな話してないですよ。」と述べた上で,具
体的には健康情報なので話せない旨返答した。
Iは,さらに,当該健康情報の会話の中で「出るとこへ出る」,「警察」
等の表現をしたか否かを尋ね,Gは原告からそのような発言をされてショ
ックを受けている旨等を述べたところ,原告は,「言ってないという話を5
しましたので」,「私の方がショックを受けています。」等と答え,団体
交渉で対応することを希望した。
その後,原告の方から,「警察へ出る」ということが暴言なのかと尋ね
たところ,Iは,「脅迫もどきの言動」であるとした上で,「まず事実の
確認をしたいんです。させてください。」と告げた。これに対し,原告が,10
再度,「団体交渉でお願いします。」と返答し,Iが,「だから,言った
か言ってないかも認めない,要は明言しないということですか。」と尋ね
たところ,原告は,「上司からそのように言われることが,脅迫のように
感じております。」と述べた。
これらのやりとりを経て,原告は,自らの発言が脅迫に当たるというの15
であれば警察を呼んで欲しい旨述べ,さらに,「このような閉じた場所で
事実確認をされても,どのように嵌められるかわかりません。だから警察
を呼んで下さい。」,「警察を呼んだらわかるじゃないですか。」等と発
言したため,Iは,事情聴取を終えることとし,警察については,「じゃ
あ呼んで下さい。」と告げた上で,事情聴取開始から約13分後,原告に20
仕事に戻るよう指示し,本件事情聴取は終了した。
(乙46,146)
チ原告は,本件事情聴取から戻った後,Gに対し,脅迫されたので警察を
呼ぶ旨告げて,自席付近を歩きながら警察に電話をかけ,周囲に聞こえる
ような大きな声で,約5分間にわたり,上司から脅迫を受けた,以前にも25
脅迫を受けて通報したことがある等と話した。
原告は,上記電話終了後,Gに対し,「IさんにGさんを脅迫しただろ
うということで,脅迫を受けた。」と大きな声を出したため,Gは,会議
室への移動を促したが,原告は会議室への移動を拒否し,「こんなことを
されて落ち着いていられますか。前にも脅迫を受けた。」等と約20秒に
わたり大きな声で話し,Gから声を小さくするように言われたが,「脅迫5
を受けたのですよ。」とさらに大きな声で発言した。また,原告は,Iの
席付近でも,「警察を呼びました。」と発言した。
その後,原告の上記通報により,警察官1名がパトカーで来社し,Nや
Iらがこれに対応した。
(乙149,証人G,証人E)10
ツ原告は,平成25年9月27日,上記チのやりとりの後,J社長に対し,
「本日,2013年9月27日13時30分,Iに呼び付けられ,A会議
室において,脅迫,誹謗中傷を受けましたのでご連絡します。『警察に出
ると言って上司を脅迫した』と脅迫,誹謗中傷されました。これまで,何
度も同じ様なことがあり,昨年は上司から暴行・傷害被害を受け,強い恐15
怖を感じ,警察に通報しました。」等と記載したメールを送信した(乙4
7)。
テEは,平成25年9月30日,原告に対して,事情を聞きたい旨を伝え
たところ,原告は,本件組合を通じるようにとして,事情聴取を拒否した
(乙146)。20
ト被告は,原告に対し,平成25年10月2日から同月18日まで自宅待
機を命じることとした。
Gは,同月2日,上記自宅待機命令を通知するため,午前8時25分頃
に出社した原告に対し,K所長から話がある旨伝えたが,原告は,業務時
間外である旨述べた。Gは,午前8時30分頃,原告に対し,改めてK所25
長から話がある旨伝えたが,原告が,「いやです。」と返答したため,K
所長に状況を報告したところ,K所長は,自ら原告の席に出向き,業務通
知があるので会議室に来るよう指示した。
これに対し,原告は,会議室に行くことを拒否し,その場で,①過去に
8.5時間監禁された,②暴行も受けた,③PCを取り上げられて虚偽の
説明を受けた等と,周囲の従業員にも内容が完全に聞き取れるほどの大声5
で発言した。
その後,原告とK所長との間で,約15分間にわたりやりとりがあった
が,原告は,K所長から,業務通知であることを説明されて会議室へ移動
し,K所長から,自宅待機命令に関する通知書を受領して,午前8時50
分頃に退社した。10
(甲26,乙146,149,証人G)
本件解雇
アEは,平成25年10月15日,原告に対して,本件解雇事由を示して,
原告に対する懲戒処分を検討すること及び同月18日に事情聴取を行うこ
とを通知した。15
本件組合は,同月15日,被告に対し,原告の体調が落ち着いてから事
情聴取に応じるので,同月18日の事情聴取に応じられないと告げ,さら
に,本件組合及び原告は,同月17日,原告の体調が落ち着いたとしても,
弁護士の立ち会いがなければ事情聴取に応じられない旨述べた。
被告は,同月21日,原告に対し,懲戒処分の結論が出るまで自宅待機20
を命じた。
(甲27,乙146,証人E)
イ被告は,平成25年10月25日,原告に対し,本件解雇事由等を記載
した本件通知書を交付し,懲戒委員会を開催する旨通知した。
原告代理人弁護士は,同月30日,被告に対し,本件通知書に対する意25
見等を記載した意見書及びM医師が作成した意見照会回答書を提出し,懲
戒委員会を開催するのであれば,代理人として立ち会うことを求めた。
懲戒委員会は,同月31日,同年11月14日及び20日の3回にわた
り委員会を開催し,第2回委員会において,原告及び原告代理人弁護士1
名の立会いを認めてその弁明等を聴取した上,同月21日,原告について
懲戒解雇が妥当であり,原告の弁明を最大限斟酌するとしても普通解雇が5
相当である旨答申した。
被告は,同月27日,原告に対し,同年12月6日付けで原告を普通解
雇(本件解雇)する旨の意思表示をした。
(前記前提事実,甲30ないし36,乙146,152,証人E)
2争点1(本件解雇に係る客観的合理的理由の存否)について10
被告は,本件解雇事由が懲戒解雇の事由に該当することを前提に,普通解
雇である本件解雇にも客観的合理的理由が存在する旨主張していることから,
本件解雇事由が本件解雇の客観的合理的理由に当たるか否かについて,以下
検討する。
なお,原告は,本件解雇事由は,就業規則64条各号に列挙された事由に15
該当しない旨主張するが,同条1号が懲戒解雇の処分をしたときを挙げてい
ること,同条は解雇の事由を同条各号列挙の事由に限るとは定めていないこ
と()に照らすと,同条の解雇事由には,懲戒解雇処分
に相当する事由がある場合も含まれると解するのが相当であり,原告の上記
主張は採用できない。20
解雇事由①について
ア解雇事由①は,原告が,事実に反する本件被害届を提出したというもの
である。
イ被告は,本件被害届が事実に反する理由として,①Cの行為態様からす
ると,原告が主張する本件傷害を負うことは考えられないこと,②仮に打25
撲傷を負ったとすると,受傷直後から痛みが生じるのが通常であるが,原
告は,職場に戻ってから痛みが生じた旨述べていること,③受傷部位及び
症状,Cによる本件行為の態様に関する原告の供述が不合理に変遷してい
ること,④原告は,受傷したとする当日に被告の健康管理室から紹介され
た病院を受診しなかったこと,⑤検察官がCについて暴行罪で不起訴処分
としたこと,⑥北大阪労基署長らが,本件労災申請②に対し不支給処分と5
したこと,⑦Q医師による診断は信用できないこと等から,原告は本件行
為により本件傷害を負ったものではない旨主張するので,以下,順に検討
する。
上記①の点について
被告は,Cによる本件行為の態様について,Cは,原告が,出入り口10
から遠ざかるように食堂内をぐるぐると歩き回るのを,その後ろから緩
やかに原告の腰あたりに腕を回し,後をついて回ったにすぎない旨主張
し,CやNもこれに沿う証言・供述をしており,これに対し,原告は,
Cに背後から抱えられた旨供述している。
この点,Cは,当時,原告が情報セキュリティ規程に違反してICレ15
コーダーを持ち込んでいることを現認し,その旨を原告に確認していた
が,原告が,胸ポケットから目薬を取り出すなどして誤魔化そうとした
上,急にその場を立ち去ろうとした(認定事実ウ)というのであるか
ら,Cとしては,原告をその場に止めようとするのが通常の対応という
べきである。そうすると,単に原告の腰に腕を添えて後ろをついて回る20
というのは不自然な動きといわざるを得ず,Cは,原告を力強く制止し
たとまではいえないとしても,原告の背後から腕を回して抱え込むよう
な動作をしたことがうかがわれる。
そして,打撲傷は,一般に,転倒や衝突等の強い衝撃により,皮下組
織や筋肉が損傷される病態を指す(甲158・105頁)が,上記のよ25
うにCから抱え込まれるようにされた原告が,その場を逃れるために身
体を捻るなどした場合に,軽度の打撲傷が生じる程度の圧迫が加わるこ
ともあり得ないとはいえない(甲158・101頁)。
上記②の点について
打撲傷は,一般に受傷後直ちに痛みが生じるものである(甲158・
105頁)ところ,原告は,食堂から職場に戻った後,痛みを感じた旨5
をO産業医に訴えている(認定事実エ)が,本件行為の後,原告が職
場に戻り,健康管理室を訪れるまでさほど長時間を要したものではなく,
本件行為の直後に原告が症状を自覚していなかったからといって,直ち
に軽度の打撲傷自体がなかったとまで認めることはできない。
上記③の点について10
本件傷害の受傷部位について,原告は,平成25年10月11日の時
点で,Nに対しては「左脇腹」に痛みがあるとし,O産業医は,原告が
疼痛を訴えた部位を「左側腹部」と表現している(認定事実エ,オ)
ところ,Q医師は,原告の左第11,12肋骨の先端部に圧痛があるこ
とを根拠に,左側胸部の打撲傷と診断している(同カ)。この点,第115
1,12肋骨は,肋骨のうち最も腹部寄りに位置することからすると,
原告が主張する本件傷害は,左側胸部と左側腹部との境界付近に生じて
いることが認められ,これを「左脇腹」と表現することは不自然でなく,
受傷部位及び症状についての原告の供述に不合理な変遷があるとはいえ
ない。20
一方,本件行為の態様及び受傷原因についてみると,原告は,O産業
医に対しては,背後から抱えるようにされた際に,筋違いのような状態
になった,Nに対しては,お腹を強く抱きしめられた,Q医師に対して
は,強く羽交い締めにされ,捻る姿勢で抵抗したとそれぞれ説明してお
り(同エないしカ),その供述に変遷がないとはいえないが,少なくと25
も背後から両腕を回して抱え込むようにされ,これに対し原告が身を捻
るようにしたという限度において,原告の供述は共通しているというこ
とができるから,その限度で一貫性を欠くものとはいえない。
原告が供述する上記受傷態様が,本件傷害のような軽度の打撲傷の原
因となり得ることは上記のとおりであり,少なくとも上記の限度で原
告の供述の信用性を直ちに否定することはできない。5
上記④の点について
原告は,本件行為があった当日,健康管理室に対し,自ら労災指定病
院の紹介を求めたが,同病院を受診せず,翌日にL整形外科を受診して
いる(認定事実エ,カ)ところ,被告は,かかる原告の対応が不自然
である旨主張するが,本件傷害のように軽度で急を要しない程度の症状10
しか生じていなければ,経過を観察した上で受傷の翌日に医療機関を受
診すること自体は何ら不自然なものとはいえず,被告の上記主張は採用
できない。
上記⑤及び⑥の点について
本件被害届に係る事件を担当した検察官は,Cについて,受理罪名の15
傷害を暴行被疑事件に変更した上で,不起訴処分とし(認定事実),
本件労災申請②について,北大阪労基署長は,本件傷害に業務起因性は
ないとして,不支給の決定をし,大阪労働者災害補償保険審査官及び労
働保険審査会もその判断を支持
しかしながら,これらの事情からは,検察官や北大阪労基署長らにお20
いて,それぞれ担当事件の証拠内容等から,本件行為により本件傷害が
生じたとまでは認めることができない旨判断したということができるに
とどまり,それらの判断をもって,本件行為によっては本件傷害が発生
していないとまで認めることはできない。
上記⑦の点について25
被告は,Q医師が原告の主訴に基づいて診断を行ったにすぎない旨主
張するところ,上記ないしで検討したとおり,本件行為時の状況等
に照らし,本件行為により本件傷害が生じることが不自然とはいえない。
そして,Q医師は,医師として原告に対する診察をし,左第11,12
肋骨の先端部に圧痛があること等の客観的所見を踏まえた上で本件傷害
の診断をしているのであるから,かかる診断が直ちに信用性を欠くとい5
うことはできない。
小括
以上のとおり,被告が主張する点を考慮しても,原告が,本件行為に
よって本件傷害を負ったという事実が存在しなかったとまで認めること
はできない。10
ウそして,原告の行為をきっかけとするものではあるものの,Cによる有
形力の行使(本件行為)自体が存在したことは事実であり,また,原告が
少なくとも主観的には当該行為によって傷害を受けたと認識し,上記イの
とおりその認識自体が不合理又は客観的事実に明白に反するとまではいえ
ないこと,少なくとも暴行の被疑事実については捜査を遂げた上,不起訴15
処分(起訴猶予)がされていることからすると,原告が,捜査機関である
門真警察署に対し,本件被害届を提出することは,それによってCが捜査
機関の取調べを受けることになったなど被告の業務に一定の影響を与えた
としても,直ちに違法ないし不当であると断ずることはできず,これをも
って,被告に対する非違行為であるとか解雇事由として客観的に合理的な20
ものであると評価することはできない。
なお,被告は,原告が,本件労災申請②において有利な判断を得るため
に,本件被害届を提出したとも主張しているが,そのような動機を認定す
るに足りる客観的証拠はない。
エしたがって,解雇事由①は,本件解雇の客観的合理的理由に当たるとは25
いえない。
解雇事由②について
ア解雇事由②は,原告が,D及びEに対し,本件メールを送信したことを
対象とするものである。
この点,本件メールは,その内容(認定事実ウ)に照らすと,Fが,
原告の業務に関し,「情報隠蔽」及び「虚偽説明」をしたというものであ5
るから,Fに対する誹謗・中傷やそれに類する言動であって,Fの被告社
内における社会的評価を低下させるものであり,かつ,Fや被告に,事実
の調査その他の業務上の負担を生じさせ,その業務を阻害するものである
ことが認められる。
イそして,本件メールに添付された本件添付ファイルは,原告自身が作成10
したものであり,Fによる情報隠蔽や虚偽説明を何ら基礎付けるものでは
ない。この点,原告は,本件メールに別件資料を添付しようとしたところ
を,誤って本件添付ファイルを添付したにすぎないと弁解するが,別件資
料については,Fが原告にその所在場所を教えたものであること(同)
から,いずれにせよFが情報隠蔽等をした根拠にはならず,原告の上記弁15
解は不合理というほかない。
また,原告は,gstreamerをAndroid上にビルドするの
は不可能な作業であり,Fは,gstreamerをAndroido
nPro4TVに移植するよう明確に指示すべきで,その意味でもFの
指示が不適切であったとも主張する。しかしながら,①原告が調査業務を20
行っていた平成24年10月時点で,Android用gstreame
rが公開されていたこと(同オ)に照らすと,原告の業務は技術的に可
能なものであったと認められ,②しかも,FやDらは,その旨を原告に対
して繰り返し明確に説明していたことが認められる(同エないしカ,
ケ)のであるから,Fの指示に不適切な点があったとはいえず,原告の上25
記主張は採用できない。
このように,Fが,原告に対し,情報隠蔽や虚偽説明をしたとか,不適
切な指示をしたと認めることはできないことからすると,本件メールの内
容は,客観的事実に反するというべきであり,上記アで認定した内容等を
踏まえると,原告が本件メールを送信したことは不適切な行為であって非
難を免れないというべきである。5
ウ他方,原告は,平成24年10月当時から,Fらの説明にもかかわらず,
DやFらに対し,gstreamerをAndroid上にビルドするこ
とは不可能であるとか,原告が行うには高難度,高負荷である等と繰り返
し述べていた(認定事実オ,イ,ウ,エ,クないしコ)ことが認め
られ,これらの点に照らすと,少なくとも原告の主観において,gstr10
eamer調査についてFから十分な情報を与えられていないと認識して
おり,Dも原告のそのような認識を了知していたことが認められる。
そうすると,原告が,本件メールにおいて,「情報隠蔽」や「虚偽説明」
といった不穏当な表現を用いたことや,虚偽の添付ファイルを添付したこ
とは,非難されるべき行為であるものの,原告が上記のような被告の認識15
と異なる認識を有していたことは被告において既に把握されており,本件
メールの内容についても,被告が把握している客観的事実と異なることは
被告において容易に想定し得る状況であったことからすれば,本件メール
によって被告やFが受けた影響は限定的なものにとどまるといわざるを得
ない。20
エしたがって,解雇事由②は,本件解雇の客観的合理的理由といえるほど
の非違行為に当たるとはいえない。
解雇事由③について
ア解雇事由③は,原告が,平成25年9月25日及び同月26日に,G及
びHに対し,警察へ出る等の発言をしたというものであるところ,①原告25
が,同月25日のGとの面談において,「出るとこへ出ます。」,「警察
とかも行ってるいうのはご存じやと思いますし。」,「社内で暴行を受け
たというのは警察に届けています。」,「届けた後,かなり進展してるみ
たい」等と発言したこと(認定事実セ),②同月26日にも,G及びH
に対して,「外でやった方がええんやったら,外でやりましょう。」と述
べたり,Hに対して,こんなことは外に行ってやりましょうよ,警察に入5
ってもらいますよ等と述べたりしたこと(同ソ)が,それぞれ認められる。
イしかしながら,①平成25年9月25日の面談におけるやりとりを全体
的にみると,原告が,Gに対し,相談内容を秘密とするよう求めたのに対
し,Gが,社内ルールに基づいて判断するとしてこれを断ったことから,
原告が,興奮気味に自己の主張をし,同主張に基づくやりとりが繰り返さ10
れた後,面談の終盤において原告が上記アの発言をしたこと,②Gが,
「私もルールに基づいてやります」等と発言したのを受けて,原告も,
「ルールに基づいてやってもいいですね」と発言したこと(以上につき,
認定事実セ),③同月26日についてみても,業務打合せにおいて,原
告の業務遂行の可否等について,原告とHやGとの間で,見解が相違して15
議論が平行線をたどり,その終盤において,原告が「外でやりましょう。」
等と発言したこと(同ソ),④原告は,同月24日にも,Gの指示に納得
がいかないとして,団体交渉による解決を求める発言をしたこと(同シ),
以上の事実が認められる。
これらの事実に照らすと,原告の上記アの発言は,いずれも,Gらと原20
告との間で認識や見解が相違し,議論が平行線をたどった末に行われたも
のであることが認められる(上記①,③)。また,原告は,以前から同様
の場面で団体交渉による解決を持ち出したことがあり(上記④),原告が,
「ルールに基づいて」行う旨発言していること(上記②)を踏まえると,
上記アの発言が,社会的ルールを逸脱するような行為を示唆したものとは25
認められない。以上の点に鑑みると,原告による一連の発言は,団体交渉
や警察の介入等も含めた第三者的解決を求める趣旨の発言であると理解す
べきであり,「警察」等の表現において穏当さを欠くことは否定できない
ものの,それ自体がGやHに対する誹謗・中傷に当たるとはいえないし,
GやHを殊更に畏怖させるような発言であったとも認められない。
そうすると,表現方法に不適当な点がないではないが,上記アの発言を5
もって,懲戒処分の対象とするほどの非違行為であるとか,本件解雇の客
観的合理的理由といえるほどの事由があったと評価することはできない。
エしたがって,解雇事由③は,本件解雇の客観的合理的理由に当たるとは
いえない。
解雇事由④について10
ア解雇事由④は,原告が,本件事情聴取において,Iによる事情聴取を拒
否したというものである。
イ認定事実タによれば,①原告は,Iから,Gに対する発言内容を質問
されたのに対し,Gとの会話の内容については,健康情報なので話せない
と返答したこと,②「警察に訴える」等の発言について,原告は,「そん15
なこと言ってないですけど。」,「そんな話してないですよ。」,「言っ
てないという話をしましたので」と再三にわたり否定していること,③原
告の上記回答にもかかわらず,Iが更に質問を続けたことから,原告は,
団体交渉によることを求めたこと,④Iが,Gの報告に基づき原告の発言
は脅迫に類するものである旨の見解を示したところ,原告は,同発言に反20
発し,原告の発言が脅迫に当たるか否かは警察を呼べば分かるとして,警
察を呼ぶことを求めたこと,⑤Iは,原告の上記発言等を受けて,自ら本
件事情聴取を切り上げたこと,以上の事実が認められる。
原告が,Gに対し,当初,精神的ストレスの要因等について相談してい
,Gとの会話が原告の健康情報である25
と述べた点(上記①)は,必ずしも虚偽であるということはできず,また,
Iは,事実を確認したいと繰り返し述べていたが,Iが問題とする発言
(警察へ訴える等の発言)の有無の点について,原告は明確に否定してい
た(上記②)。そうすると,原告による回答がIの期待する内容ではなか
ったとしても,原告は,本件事情聴取に対し,当時の原告の認識に基づい
て回答をしたということができる。そして,原告が団体交渉や警察の介入5
を持ち出したのは,上記のように原告が既に回答しているにもかかわらず,
Iが,Gの言い分を根拠に,原告の暴言があったことを前提とするかのよ
うに同様の質問を繰り返したことにその原因があるといわざるを得ない。
ウしたがって,原告が,本件事情聴取において,Iによる事情聴取を拒否
したとまでは認めることができず,解雇事由④は本件解雇の客観的合理的10
理由に当たるとはいえない。
解雇事由⑤について
ア解雇事由⑤は,原告が,本件事情聴取後,Iに脅迫されたと大声を発し,
大きな声で警察を呼び,J社長にも同旨のメールを送信したというもので
あるところ,原告がこれらの行為をしたことが認められる(認定事実15
ツ)。
この点,Iは,本件事情聴取において,原告に対し,原告が,Gらに対
して暴言に当たる発言をしたか否かを確認していたのであり,その過程で,
又は回答できない旨述べた点を繰り
返し尋ねることはあったものの,原告に対して害悪を告知する等の脅迫行20
為があったとは認められず,Iが原告を脅迫したといえないことは明らか
である。
そうすると,原告が,Iに脅迫されたと大声を発し,警察に通報し,J
社長にも同旨のメールを送信したことは,Iに対する誹謗・中傷又はそれ
に類する言動であり,Iの社会的評価を低下させるものであるとともに,25
I及び被告に,事実の調査その他の業務上の負担を生じさせるものである
ことに加え,職務時間中に職場内で不必要に大きな声を出すということ自
体,周囲の従業員の業務を少なからず阻害し,職場の風紀秩序を乱すもの
であると認められる。
イにおいて,I
は,Gから聴取した事実を前提に,原告が否定した暴言の事実を繰り返し5
尋ねたこと,②原告は,このようなIの態度に対し,「上司からそのよう
に言われることが,脅迫のように感じています。」と発言したこと(認定
について,Iが,「じゃあ呼んで下さい。」と発言し
たこと(同),以上の事実が認められる。これらの点を踏まえると,原告
は,主観的には本件事情聴取においてIから脅迫を受けたと認識し,同認10
識を前提に,上記アの発言やメール送信を行い,また,警察についてはI
の同意を得たという認識の下に通報したということができる。
また,原告が大声を上げていた時間はさほど長いものではないから,被
告の業務への影響は限定的といえる上,上記アのとおり客観的にみるとI
が原告を脅迫していないことが明らかであり,原告の主張する根拠が乏し15
いのであるから,原告の言動によっても,Iの社会的評価が低下される程
度は僅かであり,かつ,容易に回復されるものであるということができる。
ウこのように,解雇事由⑤に該当する原告の言動は,非難されるべきもの
であるが,それが,Iの対応にも起因するものであって,その結果も重大
なものとまではいえないこと等も踏まえると,直ちに本件解雇の客観的合20
理的理由といえるほどの事由であるとまでは認められない。
したがって,解雇事由⑤は,本件解雇の客観的合理的理由といえるほど
の非違行為に当たるとはいえない。
解雇事由⑥について
ア解雇事由⑥は,原告が,平成25年10月2日,自宅待機命令を通知す25
るため原告の席に呼びに来たK所長に対し,大声を発したというものであ
るところ,原告が,同日,K所長に対し,①過去に8.5時間監禁された,
②暴行も受けた,③PCを取り上げられて虚偽の説明を受けた等と,周囲
の従業員にも内容が完全に聞き取れるほどの大声で発言したことが認めら
れる(認定事実)。
この点,①原告がK所長に監禁されたと主張する平成24年4月24日5
の面談において,面談が長時間に及んだ主たる原因は原告にあると認めら
。また,②暴
行を受けたとする点が,Cによる本件行為のことを指すのであれば
のとおり原告の発言に根拠がないではなく,③旧PCの使用の可否をめぐ
って,原告と被告との間で見解の相違が生じていたことも事実である(同10
イないしオ,キ。ただし,旧PCは被告が原告に貸与していたものであっ
て,被告が原告から取り上げたものではない。)が,K所長は,単に,原
告に対して通知書を交付するため,会議室に来るよう原告を呼びに来てい
ただけであって,そのような場面で上記のような発言をすることに合理的
理由があったと認めることはできない。15
このように,原告の上記各発言は,その内容及び場面等に照らして相当
性を欠くものであり,K所長らに対する誹謗・中傷やそれに類する言動に
当たり,また,周囲の従業員の業務を阻害し,職場の風紀秩序を乱すもの
であると認められる。
イしかしながら,原告が,K所長とやりとりをしていたのは約15分間で20
あって,原告は,その後,会議室へ移動し通知書を受領したこと(認定事
原告の言動による影響は一時的なものであって,こ
れにより被告の業務に重大な支障が生じたとまでは認められず,上記言動
が,直ちに本件解雇の客観的合理的理由といえるほどの事由であるとまで
は認められない。25
したがって,解雇事由⑥は,本件解雇の客観的合理的理由といえるほど
の非違行為に当たるとはいえない。
解雇事由⑦について
ア解雇事由⑦は,原告が,Hから,管理面のトレーニングのために週間計
画を立てるように繰り返し指示されたにもかかわらず,根拠のない理由を
並べ立て,これに従わなかったというものである。5
イGから原告への業務指示を任されていたHは,平成25年6月以降,原
告に対し,再三にわたり,週間計画を立てること,具体的には,金曜日の
日報にその週の実績と次週の予定を記載することを指示し,かつ,それが
可能であることを説明していたが,原告は,同月28日から同年9月20
日にかけて提出した日報に,これらを記載しなかったことが認められる10
サ)。
したがって,原告が提出した日報は,Hの指示に合致せず,Hが期待す
る水準に満たないものであったということができる。
ウ他方において,原告は,各日報や打合せ等の機会に,Hに対し,マスタ
ースケジュールを渡されていないため週間のゴール設定ができない,作業15
見通しが立たない,品質面での不安がある,情報が枯渇している等と,原
告の業務が行き詰まっている状況を伝えていたことが認められる(認定事
この点,当時の原告の業務は,実際の商品開発ではなく,原告自身の技
術習得を目的とするものであったことからすると,品質面は問題にならず,20
マスタースケジュールがなくても,原告自身がターゲットプランにおいて
設定した技術習得目標を踏まえて週間計画を立てることも可能であったと
認められ,かつ,Hは,再三にわたり原告に対しその旨説明していたので
あるから,原告が訴えた上記事情は,Hの指示に従わないことの正当な理
由とは認められない。25
しかしながら,①原告自身は,Hの指示に従って業務遂行することは困
難又は不可能であると認識し,その旨を明確に伝えていたこと,②上述の
とおり,当時の原告の業務は,原告自身の技術習得を目的とするものであ
り,Hが週間計画を立てるように指示したのも,管理面のトレーニングの
ためであったことからすると,原告が次週の予定等を記載した日報を提出
しなかったことにより被告の業務に具体的な支障が生じたとは認められな5
いこと,以上の点を踏まえると,原告が上記指示に従わなかったことによ
って,原告の業務遂行能力に疑念を抱かせる余地があるとしても,これを
もって,直ちに本件解雇の客観的合理的理由といえるほどの業務命令違反
に当たると評価することは相当でない。
エしたがって,解雇事由⑦は,本件解雇の客観的合理的理由といえるほど10
の非違行為に当たるとはいえない。
総合評価(解雇事由⑧を含む。)について
ア以上のとおり,本件解雇事由は,原告の非違行為と認められるものであ
っても,それぞれ個別にみる限りにおいて,本件解雇の客観的合理的理由
ということはできない。15
イ原告については,本件解雇事由のほか,本件出勤停止処分事由のうち,
平成25年3月25日及び26日に,健康管理室において,O産業医及び
保健師に対し,法律違反をしている等と述べたり,カウンターを叩いて大
声を出したりしたこと等
れらの行為と解雇事由②,⑤及び⑥は,誹謗・中傷やそれに類する言動に20
より職場の風紀を乱した点や,故意又は過失により他人の業務を阻害した
点で,性質が共通する面があるといえる。
しかしながら,そのような類似の行為が複数回行われていることを考慮
しても,原告が本件出勤停止処分事由については既に懲戒処分を受けてい
ること,本件解雇事由による被告の業務への影響が限定的であること等を25
踏まえると,本件解雇事由は,過去の経緯を踏まえた上それを全体として
みたとしても,本件解雇の客観的合理的理由といえるほどの事由があった
とまで認めることはできない。
小括
したがって,本件解雇について,客観的合理的理由があるとは認められず,
本件解雇は,その余の点(争点2,3)について判断するまでもなく,無効5
といわざるを得ない。
3原告の被告に対する未払賃金請求権の内容等
上記2において認定説示したとおり,本件解雇は無効であるから,原告と
被告との雇用契約は継続しており,原告は,平成25年12月7日以降も,
被告に対する賃金請求権を失わない(民法536条2項)。10
証拠(甲2,22)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,従業員に対し,
毎月1日から末日までを賃金計算期間とし,当月25日に基準内賃金を支払
っていること,②原告は,本件解雇の直前において,被告から基本給33万
円及び育英補助給付金9000円を賃金として支給されていたこと,以上の
事実が認められる。15
そうすると,原告は,被告に対し,平成25年12月以降,毎月25日限
り,33万9000円(平成25年12月分については,同月7日から同月
31日までの25日分を日割り計算した27万3387円)の賃金請求権を
有することが認められ,各支払日及び遅延損害金の起算日については原告が
請求する範囲内で,主文第2項記載の請求を認容すべきである。20
4争点4(本件解雇に係る不法行為の成否及び損害額)について
ア上記2で認定説示したとおり,本件解雇は客観的合理的理由を欠き無効
であると認められる。
しかしながら,上記2で認定説示したとおり,原告について,非難され
てもやむを得ないといえる行為(解雇事由②,⑤,⑥)はもとより,非違25
行為とまではいえないまでも穏当ではないといえる行為(解雇事由③)や,
その業務遂行能力に疑念を抱かせる行為(解雇事由⑦)があったと認めら
れ,これらによって被告の業務に一定の支障が生じたことは否定できない。
これらの点に加えて,被告は,本件和解後,原告に対して,その配置や個
別の業務指示等も含め全体的には相当の配慮をもって対応してきたといえ
るのに対し,原告は,本人尋問において自認するように,個々の事象を被5
害的に受け止めたり過敏な反応を示したりする傾向があり,それが本件解
雇事由のような様々なトラブルの発端となったことは否定できないことも
併せ考慮すると,本件解雇がおよそ根拠を欠いているとはいえず,被告が
客観的合理的理由を欠いていることを認識しながら本件解雇を行ったと認
めることもできない。10
イまた,原告は,本件解雇が,原告が本件組合に加入したことを理由とし
たものであり,不当労働行為に該当する旨主張するが,被告は,当初より,
本件解雇事由を懲戒事由として主張し,原告の事情聴取や懲戒委員会の手
続を経て本件解雇に至っていることからすると,原告が本件組合に加入し
たことの故をもって原告を解雇したとは認められず,他にこれを認めるに15
足りる証拠はないから,本件解雇が不当労働行為であると認めることはで
きない。
したがって,本件解雇は,それ自体としては無効であるが,不法行為を基
礎付けるほどの違法性があったとまでは認められない。
5結論20
以上によれば,原告の本件請求は,主文第1項及び第2項記載の限度で理由
があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官大森直哉
裁判官松本武人
裁判官池上裕康

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛