弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       本件控訴を棄却する。
       原審における未決勾留日数中260日を本刑に算入する。
         理    由
(検察官の事件受理申立て理由について)
 第1 検察官の論旨
 検察官の論旨は,事件受理申立理由書記載のとおりであるが,その骨子は,次の
ようなものである。
 すなわち,刑法47条は,併合罪を構成する個別の罪について暫定的にせよ刑の
量定を行うことなく,併合罪を構成する各罪全体について包括的に1個の処断刑の
枠を決め,その処断刑によって併合罪を構成する各罪を一体として評価し,統一的
な刑の量定を行うこととする趣旨の規定である。同条により併合罪を構成する各罪
全体に対する処断刑が作出された後は,各罪の法定刑は,宣告刑を量定するに際し
て事実上の目安となることはあるとしても,それ自体としては独立の法的意味を失
うに至ると解される。それにもかかわらず,原判決が,同条の併合罪加重に関し,
「併合罪を構成する個別の罪について,その法定刑を超える趣旨のものとすること
は許されない。」旨の解釈を示し,これに基づいて裁判したのは,同条の解釈適用
を誤ったものである。
 第2 当裁判所の判断
1 まず,原判決の第1審判決に関する理解について検討する。
 原判決は,第1審判決の刑法47条に関する解釈について論ずるに当たり,同判
決の説示を次のように引用している。
 「本件のうち,未成年者略取及び逮捕監禁致傷罪の犯情がまれにみる程極めて悪
質なのに対して,窃盗の犯行は,その犯行態様が同種の事案と比べても,非常に悪
質とまではいえず,またその被害額が比較的少額であり,しかもその犯行後被害弁
償がなされ,その被害者の財産的な被害は回復されて実害がない等の事情があり,
このような場合の量刑をどのように判断すべきかが問題になる。(中略)このよう
に本件の処断刑になる逮捕監禁致傷罪の犯情には特段に重いものがあるといわざる
を得ず,その犯情に照らして罪刑の均衡を考慮すると,被告人に対しては,逮捕監
禁致傷罪の法定刑の範囲内では到底その適正妥当な量刑を行うことができないもの
と思料し,同罪の刑に法定の併合罪加重をした刑期の範囲内で被告人を主文掲記の
刑に処することにした。」(原判決4頁,原文は第1審判決29頁以下)
 そして,原判決は,第1審判決について,「要するに,原判決は,併合罪関係に
ある2個以上の罪につき有期懲役に処するに当たっては,併合罪中の最も重い罪の
法定刑の長期が刑法47条により1.5倍に加重され,その罪について法定刑を超
える刑を科する趣旨の量定をすることができる,と解していることが明らかである。
しかしながら,このような原判決の刑法47条に関する解釈は,誤りであるといわ
なければならない。」(原判決4頁),「原判決は,併合罪全体に対する刑を量定
するに当たり,再犯加重の場合のように,刑法47条によって重い逮捕監禁致傷罪
の法定刑が加重されたとして,同罪につき法定刑を超える趣旨のものとしているが
,これは明らかに同条の趣旨に反するといわざるを得ない。」(原判決6頁)と判
示している。
 しかし,第1審判決の上記説示は,措辞がやや不適切であるといわざるを得ない
が,その趣旨は,本件の犯情にかんがみ,逮捕監禁致傷罪と窃盗罪という二つの罪
を併せたものに対する宣告刑は,逮捕監禁致傷罪の法定刑の上限である懲役10年
でもなお不十分であるので,併合罪加重によって10年を超えた刑を使わざるを得
ない旨を述べたものと解される。そのことは,原判決が「中略」として引用を省い
た第1審判決の説示中において,「刑法が併合罪を構成する数罪のうち,有期の懲
役刑に処すべき罪が2個以上含まれる場合の量刑については,加重単一刑主義を採
り,その情状が特に重いときは,その各罪の刑の長期の合計を超えることはできな
いとしつつ,その長期にその半数を加えた刑期の範囲内で最終的には1個の刑を科
すとした趣旨を勘案すると,併合罪関係にある各罪ごとの犯情から導かれるその刑
量を単に合算させて処断刑を決するのではなく,その各罪を総合した全体的な犯情
を考慮してその量刑処断すべき刑を決定すべきものと解される。」と判示されてい
ること(第1審判決29頁)と対比すれば,いっそう明らかである。第1審判決が
,刑法47条による併合罪加重に関し,併合罪中の最も重い罪について法定刑を超
える刑を科する趣旨の量定をすることができると解していることが明らかであるな
どと評するのは,相当でない。
 2 次に,原判決が示した刑法47条に関する解釈について検討する。
 原判決は,同条がいわゆる加重主義を採った趣旨について述べた上,「以上のよ
うな刑法47条の趣旨からすれば,併合罪全体に対する刑を量定するに当たっては
,併合罪中の最も重い罪につき定めた法定刑(再犯加重や法律上の減軽がなされた
場合はその加重や減軽のなされた刑)の長期を1.5倍の限度で超えることはでき
るが,同法57条による再犯加重の場合とは異なり,併合罪を構成する個別の罪に
ついて,その法定刑(前同)を超える趣旨のものとすることは許されないというべ
きである。これを具体的に説明すると,逮捕監禁致傷罪と窃盗罪の併合罪全体に対
する刑を量定するに当たっては,例えば,逮捕監禁致傷罪につき懲役9年,窃盗罪
につき懲役7年と評価して全体について懲役15年に処することはできるが,逮捕
監禁致傷罪につき懲役14年,窃盗罪につき懲役2年と評価して全体として懲役1
5年に処することは許されず,逮捕監禁致傷罪については最長でも懲役10年の限
度で評価しなければならないというわけである。」(原判決6頁)と判示している。
 しかしながら,【要旨1】刑法47条は,併合罪のうち2個以上の罪について有
期の懲役又は禁錮に処するときは,同条が定めるところに従って併合罪を構成する
各罪全体に対する統一刑を処断刑として形成し,修正された法定刑ともいうべきこ
の処断刑の範囲内で,併合罪を構成する各罪全体に対する具体的な刑を決すること
とした規定であり,処断刑の範囲内で具体的な刑を決するに当たり,併合罪の構成
単位である各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上これを合算するよ
うなことは,法律上予定されていないものと解するのが相当である。また,同条が
いわゆる併科主義による過酷な結果の回避という趣旨を内包した規定であることは
明らかであるが,そうした観点から問題となるのは,法によって形成される制度と
しての刑の枠,特にその上限であると考えられる。同条が,更に不文の法規範とし
て,併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的に刑を量定することを前提に
,その個別的な刑の量定に関して一定の制約を課していると解するのは,相当でな
いといわざるを得ない。
 これを本件に即してみれば,刑法45条前段の併合罪の関係にある第1審判決の
判示第1の罪(未成年者略取罪と逮捕監禁致傷罪が観念的競合の関係にあって後者
の刑で処断されるもの)と同第2の罪(窃盗罪)について,同法47条に従って併
合罪加重を行った場合には,同第1,第2の両罪全体に対する処断刑の範囲は,懲
役3月以上15年以下となるのであって,量刑の当否という問題を別にすれば,上
記の処断刑の範囲内で刑を決するについて,法律上特段の制約は存しないものとい
うべきである。
 したがって,原判決には刑法47条の解釈適用を誤った法令違反があり,本件に
おいては,これが判決に影響を及ぼし,原判決を破棄しなければ著しく正義に反す
ることは明らかである。
(弁護人及び被告人本人の各上告趣意について)
 弁護人渡辺孝の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,
量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認,量刑不当の主張であ
って,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
(結論)
 以上のとおり,検察官の論旨は理由があるから,刑訴法411条1号により原判
決を破棄し,なお,訴訟記録及び関係証拠に基づいて検討すると,第1審判決は,
被告人に対し懲役14年を宣告した量刑判断を含め,首肯するに足りると認められ
,これを維持するのが相当であるから,同法413条ただし書,414条,396
条により第1審判決に対する被告人の控訴を棄却し,【要旨2】原審における未決
勾留日数の算入につき刑法21条,当審及び原審における訴訟費用につき刑訴法1
81条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり
判決する。
 検察官山田弘司,同山本信一 公判出席
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 島田仁郎)

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