弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主     文
      原判決を破棄する。
      被告人を懲役15年に処する。
      原審における未決勾留日数中900日をその刑に算入する。
          理     由
 本件控訴の趣意は,弁護人川上英一(主任)及び同飯島康博共同作成の控訴趣意書
に,これに対する答弁は,検察官村主憲博作成の答弁書にそれぞれ記載のとおりであ
るから,これらを引用する。
 所論は,事実誤認及び量刑不当の主張である。
 第1 事実誤認の主張について
 所論は,要するに,原判決は,原判示第1のA弁護士殺人未遂事件,同第2の新宿青
酸ガス事件及び同第3の東京都庁爆弾事件について,各「罪となる事実」において原判
示の共犯者らとの共謀を認定したが,原判決の「罪となる事実」の認定は,被告人のオ
ウム真理教教団内における地位,オウム真理教の階級組織の実体,オウム真理教に
対する関与の程度,被告人と他の共犯者との上下関係,意思疎通の度合い,被告人の
動機,被告人のなした具体的行為の内容や果たした役割,罪体に対する行為支配性に
ついての綿密な検討を全く欠いており,根本的に誤っているのであって,被告人は,同
第1のA弁護士殺人未遂事件,同第2の新宿青酸ガス事件については,いずれも従犯
(幇助)が,同第3の東京都庁爆弾事件については,爆発物の製造に関与しておらず,
無罪であり,その使用と殺人未遂につき従犯(幇助)が成立するにすぎないのであり,原
判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
 そこで,犯罪組織としてのオウム真理教の特質や被告人のオウム真理教内部におけ
る地位などを考察した上で,各事件における被告人と他の共犯者との共謀の有無につ
いての判断を示すこととする。
 なお,表記は原判決に倣うこととする。
 1 被告人のオウム真理教内部における地位及びオウム真理教の組織犯罪性につい

 (1) 所論は,オウム真理教においては,Bを頂点とする厳格なまでのピラミッド型階級
組織を策定し,恐怖政治の「掟」を貫徹させ,それに従って,日常生活でのあらゆる場面
で,サマナ(師補)と師以上の幹部とを差別し,更に外界との通信を絶って,オウム真理
教独自の価値観を形成させ,教祖及び幹部による絶対的な支配を確立しており,絶対
的な階級格差が厳然たる事実であるところ,被告人は,平成6年1月,オウム真理教の
出家信者となり,本件各犯行当時,オウム真理教でのステージは最下位のサマナであ
り,特にA弁護士殺人未遂事件のときは,出家から約4箇月のオウム真理教最下位の
新兵であったところ,C,D,E,F,Gらといった,オウム真理教創設以来,Bと一心同体
で,今日のオウム真理教を造ってきたオウム真理教の最高幹部らとは,オウム真理教
への関わりの程度,オウム真理教での役割・地位のいずれをとっても比較することがで
きない,新参の最下位の兵隊であり,前記のようなオウム真理教における支配・被支配
の関係のもとで,被告人に正犯の責任を負わせるのは不自然である,などと主張する。
 (2) 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,
 ア オウム真理教は,Bがヨーガの修行等により解脱,悟りに至ることを目的として発
足させた「オウム神仙の会」を母体とする宗教団体を前身とし,その名称を改称したもの
であるが,平成6年6月ころから国家機関を模した省庁制を採用するなど,信者には階
級が与えられ,オウム真理教では,Bを頂点とする上命下服の階層社会が構成され,信
者は自分より階級が上の幹部らの命令や指示には基本的に従わざるを得なかった。
 イ 被告人は,昭和44年2月大阪府泉大津市で出生し,昭和62年3月私立H高等学
校を卒業後,同年4月I大学教養学部理科Ⅲ類に入学し,医学部に進学して臨床医を目
指し始めたが,同大学6年に在学中の平成4年6月30日ころ,高校時代からの友人で
医学部に一緒に進学し既にオウム真理教の出家信者となっていたJや教団幹部のCら
に勧誘されてオウム真理教に入信した。被告人は,在家信者として修行を行い,教団の
ヨーガ道場に通うなどしながら,平成5年3月同大学医学部医学科を卒業し,間もなく医
師免許を取得して,同年6月から同大学医学部附属病院に研修医として勤務し始めた
が,その後,Cから熱心に勧められ,また,修行をする中で,いわゆる「気」の上昇等を
現実に感じるとともに,密教修行者と医師は両立できないと考えるようになって,同年1
2月末に同病院を退職して平成6年1月教団の出家信者となり,その約2箇月後には早
くも出家修行を終えて,教団の出版部に所属して,ワークと称する教団活動に従事する
ようになり,B周辺への立入りを許されてBが教団幹部らと教団の武装化について話す
のを聞いたり,教団内でLSDが製造された際にはBの側近であるJとともにこれを試用
して効果を確かめるなどした。
 ウ A弁護士殺人未遂事件の後の平成6年6月ころ,オウム真理教では,その運営に
必要な各部署を国家機関に模した省庁制と称する組織体制が組まれたところ,被告人
は,当初,Cを長官とする諜報省(CHS)に所属し(地位は次官),その指揮のもとで,ヴ
ァジラヤーナの修行と称して在日米軍の人員,装備,配置等の調査研究などを担当して
いたが,同年9月からは,法皇官房と呼ばれる機関に所属することになり,Jの指揮の下
で,教団で使われる宗教用語集を作成したり,下部組織である学生班のリーダーとして
学生に教団への入信を勧誘したりするなどの活動をしていた。
 なお,法皇官房は,省庁間の調整のほか,在家信者及び出家修行者の教化並びに在
家信者の勧誘などを任務とする部署であるが,ここは,いわゆるエリート等を多く集め,
次代のオウム真理教の中枢となり得るものであり,その下部組織である学生班は,法皇
官房の実質的リーダーだったJが有能な学生を集めることを目的としていた。
 エ オウム真理教では,エリートを優遇しており,前記のとおり,被告人が入信後,修
行の過程で優遇されていることがうかがわれるところ,オウム真理教の幹部の目にも,
被告人は,普通のサマナに比べると,独自の扱いというか,Bからかなり気を遣って育て
られようとしているように映っており,Bも,被告人のことを,「あいつはマンジュシュリー
(教団ナンバー2のNのこと)2世になるだろう。」と言って,とても信頼し期待していた。
 (3) ところで,共謀が成立するためには,共犯者各自が本来の職務上あるいは社会生
活上の対等の地位を有することは必要なく,その地位が対等でない場合でも共謀の成
立には何ら影響しないというべきであるところ,前記認定事実によれば,被告人は,階
級こそサマナではあったものの,短期間で出家修行を終え,ワークと称して様々な調査
業務を課され,A弁護士殺人未遂事件の後は,Bから「ヴェーマチトラ」というホーリーネ
ームを授かり,在家信者及び出家修行者の教化,教団での修行の体系化,信者に対す
る薬物を使用しての修行の実施,大学班のリーダーとしての大学生に対する入信の勧
誘,入信から出家に至るまでの導きなどの重要な任務を遂行するなどし,その結果,B
からは「あいつはマンジュシュリー2世になるだろう。」と高く評価されて,Bからの信頼も
厚く,将来,教団の中枢を担う幹部となることを期待されており,既に幹部に準じる立場
にあったと理解することが可能であるから,被告人の地位が単なるサマナであったとし
てその正犯性を否定することは誤りであるといわなければならず,結局のところ,各事件
における被告人の地位・立場,果たした役割,そのときの被告人の心情,他にとり得る
手段の有無などを総合的に考慮して,被告人が独自の判断で共謀に加功(事件に加担
することの決定,あるいは自己決定)していたといえるのかどうかを個別に検討すべきで
ある。
 2 A弁護士殺人未遂事件について
 (1) 所論は,① 動機に関し,被告人の関与により経済的利益が約束されておらず,
かといって教団内における地位,階級の上昇が約束されている状況にもないのであっ
て,被告人が何ら積極的な動機を持ち合わせておらず,B,Dから命令されるがままに,
関与させられてしまったこと,② 被告人と他者との意思疎通に関し,被告人がA弁護士
殺人未遂事件への関与を開始したのは,事件前日(平成6年5月8日)の午後であり,そ
のときには,ほぼ100パーセント犯行を実行することの決定と,その準備ができた段階
で(また,事件の2日前(同月7日)にBがDに命じてA弁護士殺人未遂事件の謀議が始
まったとの原判決の認定は非現実的で誤りである。),初めて,犯行計画を知らされ,D
の車の運転手を一方的に命じられ,そして命じられるままに以後同席させられたのであ
って(謀議における受動性・命令従属性),正犯性はないこと,③ 被告人が果たした具
体的加担行為ないし役割に関し,まず,被告人が担当した行為は,極めて代替性の高
い機械的な行為であり,現に,Dは被告人を単なる手足のようにしか認識しておらず,D
に命じられるがまま運転手をし(被告人が具体的指示がないまま自分の判断で行動した
ことはない。),A車両の位置を確認してKらに報告したにすぎず,その役割は極めて従
属的で,Dの犯行の道具であったといわざるを得ない上,サリンの危険に対する注意を
怠っていた(サリン予防薬の飲み忘れ,エアコンの作動により外気注入という不注意が
あった。)ことなどを根拠に被告人には傷害罪の従犯が成立するにすぎないと主張する
(弁護人は,控訴趣意書では,殺人未遂罪の従犯が成立すると主張していたが,当審で
の最終弁論で,被告人には殺意がなく,傷害罪の従犯が成立するにすぎないと主張を
変更した。)。
 そこで,検討する。
 (2) 関係証拠によれば,原判決が,犯行に至る経緯,犯行状況及びその後の状況な
どについて,「争点についての判断」第一の一の1ないし6(原判決24ないし33頁)に認
定したとおりの事実が認められる。
 すなわち,関係証拠によれば,① 被告人は,Bに呼び出されて,平成6年5月8日午
後,第6サティアンに赴いたところ,部屋にいた同人から,「サマナを無理やり下向させて
いるAという弁護士がいる。明日もその関係で甲府で裁判がある。同人に悪業を積むの
をやめさせるために魔法を使ってポアする。君には,Dの車を運転してもらう。詳しくはK
たちに聞いてくれ。」などと命じられたこと,② 被告人がBの部屋を出ると,同建物1階
のリビングにいたD,K及びEは,被告人を交えて具体的な打合せを行い,その結果,女
性信徒が変装して犯行に加わること,被告人がDを乗せた車を運転し,KがE及び女性
信徒を乗せた車を運転して別々に出発し,途中甲府精進湖道路を出た付近で合流し
て,甲府地裁に行くこと,同裁判所では,被告人らの車は正門側駐車場に,Kらの車は
東門側駐車場にそれぞれ駐車すること,被告人がAの車が駐車していることを確認した
上でその位置をKらに知らせること,犯行方法は,女性信徒がAの車に「魔法」をかけ,
気化させた「魔法」を車内に入れて,運転している間に効き目が現れるようにすること,
あらかじめ「魔法」の予防薬を飲むことなどが確認され,被告人にはAの車の車種,ナン
バー等の情報が与えられたこと,③ その打合せの後,第3上九と呼ばれる教団敷地内
の農道で,Eから,「明日,出発前にこの薬を飲んでおいて。」と言われ,「魔法」の予防
薬であるメスチノンの錠剤4錠(Dと被告人の分)を手渡されるとともに,有機リン系中毒
の治療薬であるパムの箱を示され,「『魔法』は,いったん症状が出ると進行を止めるこ
とはできない。ただ,これだったら効果があるかもしれない。」との説明を受けた上,Eあ
るいはその場にいたKから,「もし,自分たちに症状が出て,注射することができない状
態になったときは,君が代わりに私らに注射を打ってくれ。」などと頼まれたこと,④ 被
告人は,翌9日午前10時ころ,Dを乗せて上九一色村から甲府地裁に向けて出発した
が,途中,Dに「薬はどうしたの。飲むのを忘れちゃ駄目だよ。」などと注意されて,Eから
渡されていたメスチノンをDとともに服用した後,K,E及びLの乗った車と合流し,犯行後
の待ち合わせ場所などを決め,再び同人らと別れて別々に甲府地裁に向かったこと,⑤
 被告人は,Dとともに,甲府地裁正門側駐車場に到着し,間もなく,Aの車(三菱ギャラ
ン)が駐車しているのに気付いたDの指示で,車から降りてAの車であることを確認しに
行き,いったん自分の車に戻ってその駐車位置を示す略図を書いた後,甲府地裁の庁
舎内を通って東門側駐車場に行き,同所に駐車していたKらの車に乗り込んで,同人ら
に上記略図を渡して説明し,自分の車に戻ったこと,⑥ 同日午後1時15分ころ,Dが
口頭弁論に出頭するため法廷に出かけたところ,一人車内に残っていた被告人は,間も
なく,変装したLがAの車の方に歩いて行き,いったん視界から消えた後に今度は犯行
を終えて甲府地裁の正門から出ていく姿をバックミラー越しに確認したこと,⑦ その
後,被告人は,甲府地裁の守衛から他の車の邪魔になるから駐車位置を変えるように
言われ,誘導されるままに同裁判所正面玄関付近に移動させ,その結果,Aの車との距
離は13メートル余りにまで接近してしまい,また,しばらくして,車のエアコンを入れた
が,数分後に外気導入にしていたことに気付き,Aの車に仕掛けていた物質が外気吸入
口から自車内に入り込むのをおそれ,慌てて内気循環に切り替えたこと,⑧ 同日午後
1時30分過ぎころ,同裁判所での口頭弁論を終えたDを乗せて同裁判所を出発するこ
とになり,同人が車に乗り込む際,「こんな近くに止めたら危ないじゃない。」などと注意さ
れた上,上九一色村に帰る途中,あらかじめ決めていた待ち合わせ場所でKらの車と落
ち合った際,KとEがLにサリン中毒の症状が出たことから,自分たちも被曝しているお
それがあると考えて互いにパムを注射し合っているのを見て,被告人は自分にも注射し
てくれと頼んだが,「君は大丈夫だよ。」などと言われ,注射してもらえなかったこと,など
の事実が認められる。
 (3) 弁護人は,当審の最終弁論で,被告人に殺意がなかった旨の主張をし,被告人
も,当審公判において,「平成6年5月8日の午後に受けたBの指示等(同第一の一の2
の事実)に関し,BからA弁護士に対し『魔法』を使う旨言われたが(「ポアする」という表
現は出ていなかった。),『魔法』とは,麻薬の一種であるLSD(リゼルギン酸ジエチルア
ミド)だと思い込んでおり,LSDを吸引した場合に意識を失って交通事故を起こす可能性
はあるものの,『魔法』でA弁護士を殺すものとは思わなかった。」などと所論に沿う供述
をする(なお,被告人は,原審公判では,「Bに『魔法』と言われたか明確な記憶はない。
ただ,『魔法使い』は普通に使う言葉ではないので,言われたら違和感を感じるが,そう
した記憶はないのに対し,『魔法』なら違和感はなく,Bから『魔法』と言われてもおかしく
ない。また,A弁護士をポアするという表現も具体的に記憶にないが,言っていると思う。
自分は,自分がとんでもない体験をしたLSDをかけるものと理解していた。」などと供述
している。)。
 しかしながら,原判決も指摘するとおり,被告人は,本件犯行前にBの指示のもと,LS
Dを体験し(飲料に溶かして服用した。),本件当時,教団内で,LSDの隠語としては,
「骨」,「L」,「キリスト」が使われていたことを認識しており,Bがあえて「魔法」ないし「魔
法使い」と表現する必要も考え難いこと,Kらとの打合せで,「魔法」を気化させてA弁護
士の車の送風口から車内に流入させ,運転中に効き目が現れるようにするものであると
聞かされており,LSDの通常の使用方法とは異なっており,被告人もこれを認識してい
たこと,Eから「魔法」の予防薬であるメスチノンの錠剤を渡された際,「有機リン剤中毒
解毒剤パム注射液」などと印字された箱を示されながら,これがなければ「魔法」による
症状の進行を止めることができないなどとの説明を受けているところ,本件以前に被告
人がLSDを使用して中毒症状に陥った際にEから受けた治療は,酸素マスクによる酸
素吸入と水分の摂取だけであって,「魔法」による中毒の場合と治療方法が異なることを
容易に認識し得るはずであることなどに照らすと,被告人が使用される薬物をLSDであ
ったと考えていた旨の被告人の原審及び当審の公判供述はにわかに信用することがで
きない。
 むしろ,被告人は,検察官に対して,Bの指示の内容について,「M君か。君を呼んだ
のは,今,オウム真理教の信徒を無理やり下向させているAという被害対策弁護団の弁
護士がいる。明日,その関係で甲府で裁判があるので,彼に悪業を積むのを止めさせる
ために『魔法』を使ってA弁護士をポアする計画をしているからだ。君にはアパーヤージ
ャハ(D)の運転をしてもらうので,詳しいことはジーヴァカ(K)達と打ち合わせるよう
に。」と言われた旨供述しており(乙B1),この供述は,具体的である上,その前日に「B
がA弁護士にサリンの隠語である『魔法使い』を使う。」あるいは「A弁護士をポアする。」
(E検察官調書謄本・甲B88)とか,「Aの車に『魔法』を使う。」(K検察官調書謄本・甲B
93)とか指示してきたとするE及びKの供述と符合しているのであって,十分信用に値す
るといえる。
 したがって,被告人の検察官調書その他関係証拠によれば,被告人が平成6年5月8
日にBから「サマナを無理やり下向させているAという弁護士がいる。明日もその関係で
甲府で裁判がある。同人に悪業を積むのをやめさせるために魔法を使ってポアする。君
には,Dの車を運転してもらう。詳しくはKたちに聞いてくれ。」などと命じられた旨認定す
ることができる。
 そして,Bの指示命令を受けた後の被告人の認識について見るに,被告人の立場や
被告人の行動などに照らし,サリンの製造をし,あるいは少なくとも幹部としてこれを知り
得る立場にあったE,K及びDとは異なり,被告人においては,「魔法」がサリンを意味す
る隠語であるとまでは認識せず,かつEやKらとの間でこのことを確認するような会話が
交わされていたこともなかったことなどからすると,サリンを用いてA弁護士を殺害しよう
としていたことまで理解していたとはいえないものの,Bが教団内では「殺害する。」とい
う俗語の意味も含めた「ポアする」という表現を用いるのを聞いていたこと,予防薬を事
件前にあらかじめ服用するとともに,被曝した場合に備えて治療薬を準備していること,
犯行方法につき「魔法」をA弁護士の車にかけると聞いていたことなどから,被告人とし
ては,人の殺害の用に供し得る毒物を用いて殺害を実行するという程度の認識を有して
いたものと認められるのであって,被告人が確定的殺意を有していたことを優に認定で
きるとした原判決の事実認定に誤りはない。
 (4) そこで,以上の認定事実を前提に被告人に正犯性があるのか検討する。
 ア まず,動機について見るに,被告人は,犯行に加担することを決意した動機につい
て,検察官に対し,「Bの命令を受け,自分は,真理の探究を阻害する悪業を重ねてい
るA弁護士を殺害する計画に私を参加させる指示であることが分かっただけだった。殺
人に関与するという衝撃はあったものの,教祖に教団の秘密のワークを指示された時に
は,私がそのようなヴァジラヤーナ世界に入るステージにまで達したのを認められ,選
ばれたという誇らしさのような気持ちや教祖の指示に従って功徳を積むことになるという
気持ちも湧き,犯行に関わる決意をして『はい』と答えた。」(乙B1)と供述するところ,オ
ウム真理教を信じて修行を積んできた自分が認められたという思いと,教祖であるBの
指示に従えば,功徳を積むことができ,ステージアップを図りたいという功名心から加功
することにしたという心情は十分理解できるところであって,十分信用に値するといえ
る。
 してみると,動機に関しては,被告人は,Bと教団幹部らが教団の武装化などの話をし
ているのを聞いており,教団が世間や一般信徒に隠れて非合法な活動をしているのを
知っていたことから,自分がBからA殺害を指示されたのは,被告人がBの唱えるヴァジ
ラヤーナ世界に入るステージにまで達したとBから認められ,選ばれたためであると誇り
に感じ,Bの指示に従えば功徳を積むことになるという気持ちからAの殺害に加わること
を了承したものと見るのが相当であって,Bを頂点とする教団だけではなく,被告人自身
の利益も十分計算に入れての加担であると認められる。
 イ 次に,被告人の果たした役割について見るに,被告人は,共犯者との事前の謀議
に加わり,サリンを使用することの認識こそなかったものの,犯行の手順や方法,不測
の事態が発生した場合の対処方法など,犯行計画の全容を把握した上,本件犯行に際
しては,その日甲府地裁で弁論のあるDを車に乗せて送迎したばかりではなく,同裁判
所では,Aの車を確認してその駐車位置をKらに伝えているのであって,もしKらにサリ
ン中毒症状が出て,同人らが自ら治療薬を注射できないときには,被告人が代わって注
射することになっていたことにもかんがみると,被告人は,本件凶器となったサリンの製
造等に全く関わっておらず,また本件で実行行為こそ行っていないものの,犯行に密接
した必要かつ不可欠な役割を果たしたものと評価することができる。
 ウ そうすると,A弁護士殺害未遂事件について,被告人は共同正犯として殺人未遂
罪の罪責を負担するものというべきであって(なお,A弁護士に対する本件犯行が,人を
殺害する具体的危険性のある行為であり,殺人罪の実行行為性が認められることは,
原判決(24ないし38頁)判示のとおりである。),その旨の認定,判示をした原判決に誤
りはなく,被告人には傷害罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用できない。
 3 新宿青酸ガス事件について
 (1) 所論は,① 犯行動機につき,Cらを通じてBから「捜査を攪乱しろ」と言われたか
らにすぎないのであって,「本件犯行を行わなければ,Bが逮捕され,教団も潰されて解
脱ができなくなると思った。」との原判決認定の動機はいかにも不自然である,② 原判
決の謀議の参加状況についての認定は,被告人と他の実行行為者らとの立場の違い,
格・地位の違いを全く考慮しておらず不当である上,被告人の行動は,終始,CやE,F
らから言われ,指示されているだけであり,そこには主体的な行動はほとんど見られな
いのであって,当時の教団内における地位の違いを考えれば当然のことである,③ 被
告人の果たした役割に関し,被告人は,極めて危険な青酸ガス材料の調達,製造,時
限装置の製造ということには全く関与していないところ,実際に被告人の果たした清掃
作業終了確認行為とバス時刻確認行為はいずれも代替可能な行為である上(加えて,
後者は事件の遂行にとって必要な作業か大いに疑問がある。),被告人は,指示された
ことを指示されたとおりにしているだけであるから,被告人の当日の行動を過大評価す
る原判決の認定は不合理である,として被告人には殺人未遂罪の従犯が成立するにす
ぎないと主張する。
 (2) 関係証拠によれば,平成7年3月22日に上九一色村の教団施設が警察の強制
捜査を受けてから,新宿青酸ガス事件が発生した同年5月5日までの事実経過につい
ては,原判決が「争点についての判断」の第二の一の1ないし5(原判決52ないし63
頁)において認定しているとおりの事実が認められる。すなわち,
 ア 謀議の進展状況と被告人の参加状況について
 関係証拠によれば,① 同年4月11日,Cが,教団青山道場に呼び出され,Eととも
に,Nから捜査攪乱のために,空気爆弾等を使って事件を起こすように言われ,翌12
日,西荻アジトに,E,F,G,O,P,Qらを集め,「捜査の攪乱をし,教祖の逮捕を免れる
ようなことをこれから行う。」旨告げて,Nの指示を伝え,その具体的方策を話し合った結
果,ダイオキシンを散布して騒ぎを引き起こす方向で話がまとまり,Nの了解を得たが,
被告人は,この話合いの場にはいなかったものの,後にCからこの経緯を聞かされてい
ること,② 同月16日,Cは,Bの呼出しを受け,被告人運転の車で第6サティアンに赴
いたところ,Bから「4月30日に石油コンビナートを爆破しろ。これから政権交代が起き
るまで,30日ごとにテロをやり続けろ。」などと命じられ(同所からの帰路の車中で,被
告人にもその旨伝えている。),同月18日,八王子アジトにおいて,CがE,G,F,被告
人らにその旨を伝え,ダイオキシン散布計画を更に具体化し,その後,Nが同月23日に
刺されて翌日死亡する事件が起こり,同月25日ころ,Bから新たな指示がなかったこと
から,再度,C,E,G,F,被告人が具体策を検討することになり,案として上っていた捜
査攪乱方法のうち,実現可能なものについて改めて話し合った結果,ダイオキシン散布
については,生成に必要な器具が手に入らないことから断念し,「青酸ガスなら原料が
あるのですぐできる。」とのEの発言で青酸ガスを発生させる事件を起こすことに決まり,
青酸ガスの材料調達,製造等の犯行方法につき詳しい打合せがなされたものの,青酸
ガス発生装置を仕掛ける場所についてはなかなか決まらず,同月29日ころになって,
永福町アジトで,地上では発生した青酸ガスが拡散してしまい不都合になること,新宿
駅には人が多数集まること,監視カメラがないことなどの理由から,ようやく青酸ガスの
発生場所を新宿駅の地下街にある男子便所とすることに決定されたこと,③ 新宿駅の
地下街の男子便所で青酸ガスを発生させることに2度失敗(同月30日にEが中心となっ
て青酸ガス発生装置を完成させ,Fがトイレ個室に仕掛けたが,Eが塩化ナトリウムと間
違えて砂糖を時限装置に使用したため失敗し,同年5月3日にもEが青酸ガス発生装置
を作成してトイレ個室に仕掛けに行ったが,付近に人通りが多いため機会を逃し失敗し
た。)した後,同月4日,C,E,G,F及び被告人は,八王子アジトにおいて,青酸ガス発
生装置を仕掛ける場所について再度検討し,紆余曲折を経て,翌5日新宿駅地下街の
男子便所に仕掛けることに決まったが,清掃が済んだことを確認してから仕掛ければ清
掃作業員によって上記装置が除去されることがないとして,被告人は,Fから,午前10
時ころと午後2時ころの2回,本件便所に行き,清掃終了を確認するとともに,実行役の
Eが逃走する際に利用する路線バスの発車時刻等を調べて報告するように言われて,
これを了承したこと,そして,④ 被告人は,謀議の全部に参加しているわけではない
が,しばしば謀議には参加している上,参加していなくても他から結果を聞くなどしてい
るところ,被告人は,同年4月18日の話合いの際には,「八王子と横浜の間に貨物列車
の線路がある。」,「ダイオキシンを散布する場所は兜町の証券取引所がよいのではな
いか。」と,同月25日ころの話合いの際には,被告人は,青酸ガス発生装置を仕掛ける
場所として,「映画館やディスコなら暗くて騒ぎが大きくなるだろう。」,「フリーメーソンと
いうことを考えるなら,横須賀のディスコがいいんじゃないか。」,あるいは別の機会に
「青酸ガスを新宿アルタ前の路上で発生させればよいのではないか。」などと発言してい
ることなどが認められる。
 以上の認定事実によれば,被告人は,青酸ガス発生装置の仕組み等を具体的に知ら
ないにしても,新宿駅地下街のトイレに青酸ガスを発生させて捜査を攪乱させる旨の計
画のほぼ全容を知っていたと推認される上,謀議の場面で,被告人の発言が採用され
るか否かは別にして適宜意見を述べるなどしており,謀議への参加が消極的であったと
は考えにくい。
 イ 被告人の果たした役割について
 関係証拠によれば,⑤ Cは,同年1月ころになされたBからの石油コンビナート爆破
の指示を思い出し,同年3月25日ころ,かつての部下であった被告人を呼び出し,石油
コンビナートを爆破してそれを過激派の仕業に見せ掛けることの可能性の調査を命じた
ほか,同月末から同年4月初めころにかけて,Cは,Jらを通じて,Bから「社会の対立し
合う勢力をぶつけて混乱を引き起こし,捜査攪乱を行え。」などとの指示を受けたことか
ら,被告人に対し,ガスタンク,東京都庁舎及び東京タワーの爆破や,間近に迫ってい
た東京都知事選挙の有力候補者数名の自宅付近に爆弾を仕掛けることができるかどう
かについて更に調査を命じ,被告人はこれに応じて調査活動をし,さらに,その後,被告
人は,同月3日ころから同月8日ころまでの間に,C,E,F,R,Sほか十数名の信者とと
もに,教団が所持していたけん銃の部品を廃棄したり,薬品等を日光山中に隠匿したり
する作業を行ったこと,⑥ 被告人は,前記のとおり,同年5月4日,本件犯行に際して,
本件トイレの清掃終了時刻や逃走のときに利用する路線バスの発車時刻などの調査を
Fから依頼され,翌5日朝,かつら及びスーツを着用して新宿駅に向かい,同日午前10
時ころから午前11時ころまでの間に本件便所に着いたが,ごみがまだ回収されていな
かったことから,その足で同駅西口バスターミナルに行って永福町方面行きの路線バス
の発車時刻や乗り場等を調べて暗記した後,書店で立ち読みをするなどして時間を潰
し,同日午後2時ころ再び本件便所に赴いたところ,ちょうど清掃中であったことから,い
ったんその場を離れ,しばらくして同所に戻り,清掃終了を確認すると,同日午後3時過
ぎころ,同駅東口付近の喫茶店で,Fの代わりに来たSと会って,本件便所の清掃の終
了とバスの発車時刻を伝えたこと,そして,⑦ S及びFを通じて被告人の報告を伝え聞
いたEは,同日午後4時過ぎころ,本件便所に赴き,個室の一つに入ると,備付けのご
み入れ容器内にごみを装って青酸ガス発生装置を設置し,同人を待っていたFとともに
同駅西口のバスターミナルから永福町方面行きの路線バスに乗って逃走したことなどの
事実が認められる。
 以上の認定事実によれば,被告人は,Cの部下として調査活動をして必要な情報を収
集していただけではなく,本件犯行に際しても,トイレの清掃状況や逃走経路となる路線
バスの時刻を調べるなど,実行行為を分担していないとはいえ,これを行いやすい環境
を整えたもので,比較的重要な役割を果たしたのは明らかである。
 ウ 動機に関する被告人の供述について
 被告人は,捜査段階において,「(Cから,コンビナートを炎上させるための調査を命じ
られ,説得を受けたときに,)教団施設に対する大掛かりな強制捜索は,オウム真理教
潰しを目的とした国家的弾圧と考えられるし,このまま警察の捜査が進んでいくといつか
は教団が潰される事態にもなりかねないという危機感を感じていた。」(乙A4),「本件犯
行の前日である平成7年5月4日ころには,マスコミでもBの逮捕が取りざたされており,
私も,オウム真理教の信徒や幹部が次々と逮捕されていく中で,Bの逮捕も間近に迫っ
ていると認識し始めていた。私にしてみれば,信徒が何人逮捕されようともBさえ逮捕さ
れなければ,Bを中心に違法行為に関与しなかった信徒を集めて教団を維持することは
何とか可能ではないかという気持ちもあったが,Bが逮捕されてしまえばオウム真理教
が崩壊してしまうことは目に見えており,そうなれば,オウム真理教の教えを後世に残す
こともできなくなる。その意味でも,私としては,Bの逮捕を何とか遅らせたい,その目的
のためには,手段において,たとえ,非人間的なことであっても必要なことはしなければ
ならないという悲壮な気持ちになっていた。」(乙A5)などと供述し,原審公判において
も,「同年4月20日ころまでには地下鉄サリン事件等が教団の仕業であることを知った。
強制捜査の結果,Bが逮捕されたり教団が潰されるようなことになれば,『解脱・悟り』が
達成できなくなると考えた。」などと供述している。このように,被告人は,本件犯行を行
って捜査を攪乱し,その矛先を他に向けなければ,自己の所属するオウム真理教という
宗教団体を維持すること,ひいては自己の目標とする『解脱・悟り』を得るという自己の
目的を達成できなくなることをおそれていたものであって,被告人自身,教団の信者・修
行者の一人として本件犯行に加担するだけの自分なりの利害を有していたと見ることが
できる。
 (3) これらの認定事実をもとに共謀の成否を検討する。
 以上の検討によれば,本件に加担するだけの動機がないではないこと,被告人は,B
が逮捕されると,オウム真理教の教えが失われたり,教団が潰されてしまうとの強い危
機感を抱き,Bを逮捕させないためには非人間的なことであっても必要なことをしなけれ
ばならないと考えたもので,CやEらと同じ思いであったと考えられるところ,被告人は,
いわゆる無差別テロの準備段階からこれに深く関与し,ほぼ犯行の全容を認識していた
上,話合いの場面で適宜発言するなど,謀議への参加も消極的とはいえない上,Cに命
じられて各種の調査を担当したほか,本件犯行に際しては,犯行場所となるトイレの清
掃状況や実行役のEが逃走する際に利用する路線バスの発車時刻等を調査して共犯
者に報告したりするなど比較的重要な役割を果たしているのは明らかであって,被告人
がサマナとして下位の地位にあったことや,実行行為を分担していないことなどの事情
を考慮しても,被告人は共同正犯としての罪責を負うものというべきである。
 したがって,被告人には殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採用で
きない。
 4 東京都庁爆弾事件について
 (1) 所論は,① 爆発物製造に関しては,爆発物取締罰則3条違反の事実(製造)に
ついては,もとより,被告人は,爆発物製造には何ら関っていないところ,原判決は,爆
発物製造について他の者(Eら)がいかにして被告人の行為を利用したかなどには一切
触れておらず,その後も爆発物使用と一緒にして安易に共謀を認定しているが(被告人
が爆発物製造の場面を見ていることを根拠にしているのも不当である。),爆発物の製
造と使用がそれぞれ別個の構成要件に法定されていることを無視する不当なものであ
って,共謀も幇助も存在しないから,爆発物製造に関しては被告人は無罪である,② 
爆発物使用と殺人未遂については,教団の動機(捜査の攪乱)を共謀認定の根拠にす
ることは不合理である上,被告人が本件計画を聞かされたときには,既に,爆発物を製
造して送り付けること,送る相手はU都知事にすることまでは既に決定されていたところ
(もちろん被告人が決定過程には参加していない。),被告人の発言(Cに歩調を合わせ
たもの)や提案(調査方法や調査の基準など事細かに指示あり)につき,主体性の現れ
と見るのは無理があるし,また,本件郵便物差出封筒の作成人はEであって,被告人は
故意ある幇助道具にすぎず,さらに,ポスト投かん行為も,これが代替可能な行為であ
る上,上位のEが差出人であり,被告人はオウム真理教階級組織絶対命令をもって汚
れ役を押しつけられただけのことであるから,被告人には,爆発物使用と殺人未遂罪の
従犯が成立するにすぎない,と主張する。
 (2) 関係証拠によれば,原判決が,「争点についての判断」第三の一の1ないし3(原
判決76ないし81頁)に認定したとおりの事実が認められる。
 すなわち,関係証拠によれば,① C,E,G,F及び被告人は,新宿青酸ガス事件が未
遂に終わったことを報道で知り,教団やBに対する警察の捜査を攪乱するには至らなか
ったとして,次なる攪乱手段について考えていたが,同年5月8日,八王子アジトに来た
Tから,Bが全出家信者にあてたパソコン通信で「1週間以内に何が起きても動揺しない
ように。」との通知を送ったことや,人づての言葉としてBが「有能神が怒っている。」と言
っていることを聞かされ,Tが帰った後,皆でBの言葉の解釈について議論し,「1週間以
内にBが逮捕されるので,そのことを同人が怒っている。」との意味に理解し,「爆弾なら
すぐ用意できる。」旨のEの発言を受けて,Bの逮捕を免れるために捜査の矛先を他に
そらす手段として,1週間以内に爆発物を作って当時の東京都知事であるUに書籍に偽
装して郵送することに決定したところ,その話合いの中で,被告人は,「自宅に爆弾を送
れば,U都知事が自分で郵便物に目を通すはずだ。」などと発言した上,Cから差出人を
誰にしたらよいかと尋ねられた際,世界都市博覧会の開催中止に反対していた都議会
議員の一人であった都議会自由民主党幹事長のWの名前を挙げたこと,② それ以
後,Cら5人は全員がそろわなくても,うち二人以上が顔を合わせるたびに犯行の具体
的方法につき話合いを重ね,その場にいなかった者に対しても何らかの方法でその後
に伝えられたこと,③ EやGらが,同月9日ころから,前もって日光山中から掘り起こし
て同アジトに持ち込んでおいた薬品類を利用して爆薬であるRDX(トリメチレントリニトロ
アミン)及び起爆剤であるアジ化鉛の製造に取りかかる一方,起爆装置の材料や書籍を
用意して同アジトにやってきたXは,Eと相談しながら,書籍が開くと爆発する仕組みの
起爆装置の製作を始め,同月11日,EとXが,完成した爆薬であるRDX及びアジ化鉛を
単三乾電池等とともに書籍の中に組み込み,本件爆発物を完成させたが,被告人は,
これまでに,Eらが「爆薬はRDXを使おう。」と言っているのを聞いており,実際に同アジ
トの台所で爆薬製造中のEから「これがRDXで強力な爆薬なんだ。」などと教えられたこ
ともあったこと,④ 同日本件爆発物が完成した後,被告人は,Eの指示に従い,ゴム手
袋をはめて指紋が付かないようにして,ペンと定規を使って茶封筒の表面に名あて人の
住所・氏名として都知事公館の住所及びU都知事の氏名と速達郵便である旨を書き,裏
面に差出人の住所氏名としてWの氏名及びVホテルの住所を書いた上,共犯者らの中
では警察に比較的顔を知られていないという理由から,被告人が本件爆発物を投かん
することに決まり(その際に,被告人は投かんの際に爆発することはないか心配してEに
尋ねたが,同人から「本を開けば爆発するようになっているが,今はゴムでくるんである
から大丈夫だ。」などと言われている。),同日午後4時ころ,かつらとスーツを着用し,指
紋が付かないようにタオルでくるんだ本件爆発物を持って同アジトを出発し,同日午後6
時ころに新宿駅に着いたが,投かんすべき郵便ポストを探すなどして1時間ほど歩き回
った末,同日午後7時ころ,東京都新宿区内の路地にある郵便ポストに本件爆発物を投
かんしたこと,その後,被告人は,永福町のアジトに立ち寄って,本件爆発物を投かんし
たことをFに報告した後,八王子アジトに戻り,Cらに対し,同様の報告をするとともに,
「投かんする際に爆発するかと思って緊張した。」などと述べたこと,などの事実が認め
られる。
 (3) そこで,以上の認定事実を前提に,東京都庁爆弾事件における共謀の成否につ
いて検討する。
 前記認定事実,とりわけ,新宿青酸ガス事件のところで判示したとおり,被告人が本件
犯行に加担するだけの動機が認められるところ,本件の謀議に際し,被告人は,爆発物
を作り,これをU都知事(当時)に送り付けることの犯行の概要を認識した上,その謀議
の中でU都知事が自分で郵便物を開けるだろうなどと言ってこれに異を唱えず,差出人
としてWの名前を挙げ,これが採用されるなど,謀議に主体的に参加していたといえるこ
と,Eらの指示に従ったとはいえ,被告人が本件爆発物のあて名書きをし,更に東京都
新宿区内まで赴き,これを投かんするという重要かつ不可欠な行為に及んでいることな
どに照らせば,被告人が正犯者として責任を負担すべきは明らかである。
 なお,被告人が爆発物の製造に対する共同正犯としての責任まで負担すべきかにつ
いて付言すると,確かに,関係証拠によれば,被告人は,本件爆発物の具体的な仕組
みなどについての知識を有しない上,その製造過程には直接関与していないことが認め
られるが,本件謀議の内容は,前述したとおり,爆発物を製造してこれをU都知事(当
時)あてに郵送するというものであって,その旨の共謀を遂げているのは明らかであり
(この点に関し,被告人は,本件犯行の前に,EやGが爆薬の調合をしている現場を見
たことがあり,また,爆薬製造中のEから「これがRDXで強力な爆薬なんだ。」と教えられ
たことがあったというのであって,その後の謀議の過程で爆発物の製造に疑問を持たな
かったこと自体が,被告人が共犯者が爆発物の製造をすることを認識の上,共犯者が
製造した爆発物を送付するという犯行を共に遂げようという共同意思を有していたことの
証左となるものである。),しかも,本件事案の特質や本件謀議が成立するに至った経
緯などからして,爆発物製造と同使用が併合罪の関係に立つとはいえ,前記謀議に基
づいて遂行された本件爆発物の製造と使用は一連のものであり,これらを分断して評価
することはできないのであるから,被告人は,爆発物製造に関しても共同正犯の責任を
負うというべきである。
 そうすると,被告人に本件爆発物の製造及び使用,殺人未遂罪の成立を認めた原判
決に誤りはなく,爆発物使用と殺人未遂罪の従犯が成立するにすぎないとの所論は採
用できない。
 事実誤認をいう論旨は理由がない。
 第2 量刑不当の主張について
 1 所論は,要するに,被告人を懲役18年の刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不
当である,というのである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。
 2 本件は,オウム真理教の信者であった被告人が,① 教祖であるBや他の信者らと
共謀の上,サリンを吸引させてA弁護士を殺害しようとしたが,同弁護士に軽度のサリン
中毒症を負わせたにとどまり,その目的を遂げなかったという殺人未遂の事案(A弁護
士殺人未遂事件),② 地下鉄サリン事件以降,教団に対する捜査が進み,Bの逮捕が
現実味を帯びてくる中で,教団に対する強制捜査の矛先をそらし,Bの逮捕を免れるた
めに,他の教団信者らと共謀の上,<ア> 多くの死傷者が出ることを認識しながら,新宿
駅地下街の公衆便所に時限式青酸ガス発生装置を仕掛けたが,発火後間もなく消火さ
れるなどして青酸ガスが発生しなかったため,その目的を遂げなかったという殺人未遂
の事案(新宿青酸ガス事件),<イ> さらに,その直後に,同様の目的で,当時の東京都
知事を殺害して治安を妨害しようと企て,書籍をくり抜いた爆発物を製造し,同知事あて
に郵送して,これを開封した知事室知事秘書担当参事に重傷を負わせたが,殺害する
には至らなかったという爆発物取締罰則違反,殺人未遂の事案(東京都庁爆弾事件)で
ある。
 3 本件各犯行の犯情は,原判決が「量刑の理由」で適切に判示しているとおりであっ
て,いずれも非常に悪質である。以下,本件各犯行の犯情につき詳述する。
 (1) A弁護士殺人未遂事件について
 ア オウム真理教被害対策弁護団に所属して,教団を相手方とする民事訴訟の代理
人を務めたり,カウンセリングによって信者らを脱会させようとして,元信者であったオウ
ム真理教被害者の会会長の長男とともにカウンセリングを行ったりするなど教団から見
て障害となる活動をしていたA弁護士に対し,教祖のBが,教団に敵対する者と位置付
けて,その殺害を企て,D,Eら教団幹部らに指示し,これを受けた教団幹部や被告人ら
がその殺害を実行しようとしたという動機は,教団に敵対して目障りとなる人物がいれば
その生命をも奪ってよいとの誠に身勝手な発想に基づき,かつ弁護士としての正当な活
動を圧殺しようとしたものであって,独善的で卑劣な犯行であると断ぜざるを得ない。
 A弁護士の車の運転席側フロントガラスとボンネットの境目付近にサリンを滴下し,走
行中の車内に気化したサリンを流入させ,これを運転中の同弁護士に吸入させて殺害
しようとしたという犯行態様を見ると,サリンは,もともと化学兵器として開発された神経
剤の一種で,ごく少量で多数の人の殺傷を可能とする猛毒ガスであり,殺傷能力が極め
て高く,当時の気候等から気化が早く進んでいたと見られることに加え,同弁護士がす
ぐに車に乗り込まず,かつエアコンを内気循環としていたこととも相まって,幸いなことに
同弁護士の死亡という最悪の結果こそ発生していなかったものの,同弁護士が死亡して
いた可能性は大いにあり,もくろみどおりに事が運んだ場合,交通事故を引き起こすな
どして無関係の車両を巻き込んで惨事を引き起こしたことも十分予想されるところであっ
て,その態様は,危険極まりない凶悪かつ悪質なものである。これに加えて,犯行の実
行行為者であるEら教団幹部は,犯行に先立ち,実行,送迎,医療担当等のきめ細かい
役割分担を決めた上,車の内外の空気の流れを調べる実験をしたり,変装道具や治療
薬等を用意したり,直前には実行役の女性にサリン滴下の予行演習をさせたりするな
ど,周到に準備をして犯行を実行に移しているのであって,組織性や計画性も極めて高
い。
 前述したような事情もあって,幸いA弁護士は死に至らずに済んだが,それでも軽微な
サリン中毒症状を呈し,帰路の車の運転に支障を生じていたのであって,発生した結果
も看過できない。
 イ 被告人は,突然東京から呼び出され,Bに命じられて,甲府地裁での民事裁判に
出廷するDの運転手役をすることになり,詳しい背景事情,具体的な犯行の手段や態様
などを十分把握していたとはいえないものの,少なくとも被告人においては,教団幹部ら
がBの指示を受けて人の殺害の用に供し得る薬物を用いてA弁護士の殺害を実行しよ
うとしていることを認識しながら,無批判に犯行に加担することを承諾したもので,その
態度は軽率かつ短絡的であるとの非難は免れない。しかも,被告人は,犯行当日,同裁
判所に出廷するDを車に乗せて運転した上,犯行前にA弁護士の車の駐車位置を確認
して,別の教団幹部に知らせるという役割を担ったばかりではなく,さらに,医療行為を
分担した共犯者らがサリン中毒症状に陥った場合には被告人が代わりに治療薬を注射
する手はずにもなっており,これらの共犯者らの心理的支えにもなっていたことなども併
せ考えると,A弁護士殺人未遂事件で被告人が果たした役割は大きなものがある。
 (2) 新宿青酸ガス事件について
 ア オウム真理教が地下鉄サリン事件を引き起こしたにもかかわらず,教団施設が警
察の捜索を受け,信者らが次々と逮捕され,教祖のBの逮捕が現実味を帯びてきた中
で,Bや教団幹部等が,Bの逮捕を免れ,教団の存続を図ろうと画策し,社会の耳目を
集める事件を引き起こし,教団に対する捜査の矛先を他に向けるために,Bの意を受け
て,教団幹部や被告人らが共謀の上,新宿駅地下街のトイレに青酸ガス発生装置を設
置するなどしたものであるが,その動機は,多数の死傷者が出ることを予想しながら,教
祖のBの逮捕の回避や教団の存続のみを図ろうとしたもので,誠に身勝手であって,人
命尊重の意思や他者への思いやりなどみじんも感じられず,言語道断の犯行である。
 Eらは,日光山中に埋めておいた薬品類を掘り起こすなどして原料を用意し,試行錯
誤の末,硫酸による腐食作用を利用した時限式青酸ガス発生装置を製作し,2度にわ
たり新宿駅地下街の便所に設置を試みて失敗したにもかかわらず,犯行をあきらめず,
役割分担を決めた上で相互に連携を図って原判示第2の便所に設置をしているのであ
って,誠に用意周到に準備がなされ,計画性も顕著で,何としても犯行を成功させたいと
いう執念もうかがわれる。
 また,幸い青酸ガス発生装置が仕掛けられた後に,何者かによって希硫酸の入ったビ
ニール袋が装置から取り外されてゴミ箱のわきに置かれ,これを発見した清掃作業員に
よって装置が分解された状態のまま,トイレの入口付近に並べられ,やがて時限発火装
置が作動したものの,通行人に発見されて直ちに消火されるという幸運に恵まれて事な
きを得たが,その装置は仕組みこそ単純なものであるものの,正常に作動していれば,
数千人を殺傷できるほどの青酸ガスを生じさせるほどの威力のあるものであって,同装
置の置かれたのが人出の極めて多い新宿駅地下街のトイレであり,同トイレの空気が
隣接する地下コンコースや地下鉄のホームにも流出する可能性があったことも勘案する
と,多数の死傷者を出す大惨事になりかねない非常に危険かつ悪質な犯行であって,
社会に与えた影響も計り知れないものがある。
 イ 被告人は,地下鉄サリン事件がオウム真理教による仕業であり,捜査の矛先が教
団に向けられていることを十分認識しており,捜査の矛先を他に向けなければ,自己の
所属するオウム真理教という宗教団体を維持すること,ひいては自己の目標とする『解
脱・悟り』を得るという自己の目的を達成できなくなることをおそれて犯行に加担している
のであるが,被告人は誠に自己中心的な発想しかできておらず,加担の動機は身勝手
というほかない。被告人は,謀議に参加したり,共犯者から予想される本件の結果を聞
いたりして犯行の全容をほぼ把握した上で,清掃作業員によって青酸ガス発生装置が
片づけられることのないように,事前にトイレの清掃が終わったことを確認し,実行役の
者が逃走に利用する路線バスの発車時刻を調べて共犯者に知らせるという比較的重要
な役割も果たしている。
 (3) 東京都庁爆弾事件について
 ア 新宿青酸ガス事件後,捜査の矛先を他に向けるなどという目的を十分遂げられ
ず,Cや被告人らのもとにBから「有能神が怒っている。」旨のメッセージが届けられたこ
とから,同事件と同様の目的の下に,世界都市博覧会中止等の政策で注目を集めてい
たU都知事(当時)にあてて爆発物を送り付けようと考えてこれを実行に移したもので,
誠に身勝手であり,また,教団や教祖を守るためには要人の暗殺をも辞さないという態
度も卑劣である。
 爆薬の中でも威力が大きいRDXを製造し,これを書籍をくり抜いて埋め込み,表紙を
開けると爆発するという仕掛けを施した上で,同知事と対立していた都議会議員からの
郵便物だと装って都知事公館に郵送したという態様は,仕掛けも巧妙である上,爆発に
より多数の者を巻き込んで殺傷するおそれが極めて高い危険かつ悪質なものであり,
現に,職務として都知事公館に届けられた本件爆発物の中身を確認すべく開けた知事
秘書担当参事の被害者は,一瞬にして爆風に包まれ,辺りに肉片を飛び散らせて血だ
るまになり,左手のすべての指と右手の親指を失ったほか,全身に挫創等の重傷を負
わされており,その肉体的精神的苦痛の大きさは言うに及ばず,日常生活や仕事で多
大の支障を受けているのであって,生じた結果は重大かつ悲惨である。
 イ 被告人は,本件爆発物の仕組みなどを具体的に理解しているとはいえないが,爆
発物を製造してこれをU都知事(当時)にあてて郵送することを認識しながら,犯行に加
担することとし,実際に,本件爆発物が完成した後,本件爆発物を入れた封筒にあて名
書きをした上,これを投かんするなど,実行行為そのものを行っているのであって,被告
人の果たした役割が不可欠かつ重要であるのは言うまでもない。
 (4) 前述したとおり,被告人は,本件各犯行当時,サマナという最下級の階層にあった
ものの,短期間で出家修行を終え,ワークと称して様々な調査業務を課され,A弁護士
殺人未遂事件後は,Bからホーリーネームを授かり,在家信者及び出家修行者の教
化,教団での修行の体系化,信者に対する薬物を使用しての修行の実施,大学班のリ
ーダーとしての大学生に対する入信の勧誘,入信から出家に至るまでの導きなどの重
要な任務を遂行するなどして,その結果,Bからは「あいつはマンジュシュリー2世になる
だろう。」などと高く評価されるなど,Bからの信頼も厚く,将来教団の中枢を担う幹部と
なることを期待されており,既に幹部に準じる立場にあったと理解することも可能であっ
て,前記各事件において,相応の役割を果たしているのであるから,被告人がサマナの
地位にあったことをもって被告人の立場や役割を過小評価するのは相当ではない。
 4 他方,被告人のために酌むべき事情として次のようなものがある。
 (1) A弁護士殺人未遂事件では,偶然の要素が重なったとはいえ,同弁護士は軽度
のサリン中毒症を負ったにとどまり,新宿青酸ガス事件では,青酸ガス発生装置が設置
されたものの,青酸ガスが発生するには至らなかったため,人身被害が生じておらず,
さらに,東京都庁爆弾事件では,被害者に重篤な傷害を負わせたものの,死の結果が
生じていないのであって,殺人の点はいずれも未遂に終わっている。
 (2) 被告人の立場や役割について,被告人は,各犯行の謀議の場面では,主要な謀
議に参加し,特に新宿青酸ガス事件や東京都庁爆弾事件に至るまでの謀議の場面で
は適宜意見を述べるなどしていたとはいえ,C,E,Kといった教団幹部がいずれも意思
決定を行って具体的な犯行を立案するなどしていたのであって,被告人には最終的な意
思決定権はなかったこと,被告人は,殺人の凶器となるサリン,青酸ガス,書籍をくり抜
いた爆発物の製造過程に全く関与していないし,また,東京都庁爆弾事件で爆発物を投
かんしたこと以外には実行行為をしていない上,前述のとおり,被告人は各事件で重要
な役割を演じているが,教団幹部らの指示・命令を受けて行動したという面が強いことな
どからすると,共犯者らに比べれば従属的立場にあったのは否定し難い。
 また,被告人は,私立H高等学校,I大学医学部を卒業した後,医師となってその職務
に励み,将来を嘱望されていた青年であったところ,Bや教団幹部から出家を巧みに勧
められ,純粋な宗教心から入信したが,教団の修行を通じて人格が変容させられ,健全
な規範意識が希薄化して,教団やB至上主義的な偏向な考えを強くする中で本件各犯
行に関与するに至ったと見る余地もあり,Bや教団幹部に利用された面も否定できな
い。
 (3) 被告人は,指名手配となっていることを認識しながら,平成7年10月8日に自ら警
察に出頭して,事実を供述するに至るとともに,Bの説く教義が誤りであると悟り,教団
を脱退しているところ,被告人の供述状況を見ると,捜査,原審,当審と手続が進むに
連れて反省を深めていることがうかがわれる。
 (4) 被告人は,元来知的能力に秀でており,大学卒業後は医師としての活躍が期待さ
れていたところ,もとより前科がなく,オウム真理教に入信して出家するまではまじめに
社会生活を送っていた上,被告人には,被告人のことを心から心配し,更生を支援する
母親をはじめ家族がいるほか,被告人の恩師(高校時代の数学教師,研修医時代の指
導教官)や友人が当審公判に出廷し,被告人に対する思いを供述するとともに,今後の
被告人の更生に協力する意向を示していることからすると,被告人の更生を支える環境
が整いつつあるということができる。
 5 そこで,以上の事情を総合考慮して被告人を懲役18年に処した原判決の量刑の
当否を検討する。
 本件各犯行は,まれに見る組織的な凶悪事件で,特に,新宿青酸ガス事件や東京都
庁爆弾事件については,幸い殺人の結果こそ発生していないものの,不特定多数人を
対象とした無差別テロであったり,都知事という要人をねらったりしたものであるが,被
告人は,末端のサマナの地位にあったものの,犯行のほぼ全容を知りながら犯行に加
担し,しかも,いずれの犯行においても重要な役割を果たしているのであって,被告人の
刑責は重大であるといわざるを得ないから,前記の被告人のために酌むべき事情や,
他のオウム真理教犯罪者,とりわけ,C,D,Yらの量刑などを十分考慮してもなお,被
告人を懲役18年に処した原判決の量刑は,その言渡しの時点においては,重過ぎて不
当であるということはできない。
 6 しかしながら,当審における事実取調べの結果によると,原判決後,被告人は,現
在まで6年半以上に及ぶ身柄拘束の状態の下において,内省の機会を与えられて,更
に反省・悔悟の情を深めており,二度と他人に迷惑を及ぼすような犯罪は行わないなど
と述べるとともに,被害者らに対する謝罪の意を表明していること,原判決後,A弁護士
に謝罪文を送付するとともに,被害弁償の申出をし,同弁護士の希望により,サリン事
件共助基金に対し100万円の贖罪寄附をしたほか,東京都庁爆弾事件の被害者に対
し,400万円の見舞金を支払って慰謝の措置を講じていることなどの事実が認められ,
これに加え,前記4の被告人のために酌むべき事情を併せて考慮すると,現時点におい
ては原判決の前記量刑は重過ぎるといわざるを得ない。
 よって,刑事訴訟法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被
告事件について更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決が掲げる法令
を適用(科刑上一罪の処理,刑種の選択及び併合罪の処理を含む。)し,その処断刑期
の範囲内で被告人を懲役15年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日
数中900日をその刑に算入し,原審における訴訟費用を被告人に負担させないことに
ついて刑事訴訟法181条1項ただし書を適用することとして,主文のとおり判決する。
  平成14年7月5日
    東京高等裁判所第5刑事部
        裁判長裁判官   高  橋  省  吾
             裁判官   小  原  春  夫
             裁判官   山  田  耕  司

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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