弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原判決を取り消す。
2本件訴えのうち,文部科学大臣が被控訴人に対してA高級学校につ
いて平成25年文部科学省令第3号による改正前の公立高等学校に係
る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行
規則1条1項2号ハの規定に基づく指定をすべき旨の義務付けを求め
る部分を却下する。
3被控訴人のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文と同旨。
第2事案の概要
1事案の骨子
本件は,A高級学校を設置及び運営する被控訴人が,公立高等学校に係る授
業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成25年法律
第90号による改正前のもの。同号により法律の題名が「高等学校等就学支援
金の支給に関する法律」と改められた。以下「支給法」という。)2条1項5
号の委任を受けて定められた同法施行規則(平成22年文部科学省令第13号。
ただし,平成25年文部科学省令第3号による改正前のもの。以下「本件規
則」という。)1条1項2号ハの規定(以下「本件規定」という。)に基づく
文部科学大臣の指定を受けるため,当該指定に関する規程(「公立高等学校に
係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第
1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程」。以下「本件規程」と
いう。)14条1項に基づいて申請をしたところ,文部科学大臣から,平成2
5年2月20日,当該指定をしない旨の処分(以下「本件不指定処分」とい
う。)を受けたことから,本件不指定処分の取消し及び当該指定の義務付けを
求める事案である。
原審は,被控訴人の請求を全部認容したため,控訴人は,これを不服として,
本件控訴を提起した。
2関係法令の概要
原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1(原判決3頁23行
目から同6頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3前提となる事実
前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)は,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の
概要」の2(原判決6頁25行目から同9頁10行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
ただし,原判決7頁23行目の「文化啓蒙事業」を「文化啓蒙活動」に,原
判決8頁20行目及び同9頁10行目の「当裁判所に顕著な事実」をいずれも
「記録上明らかな事実」にそれぞれ改める。
4争点及び争点に関する当事者の主張
争点及び争点に関する当事者の主張は,後記5及び6のとおり,当審におけ
る当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2
事案の概要」の3及び4(原判決9頁11行目から同51頁21行目まで)に
記載のとおりであるから,これを引用する。
5当審における控訴人の補充主張
本件不指定処分は,A高級学校が本件規程13条に適合するものと認める
に至らなかったことを主たる理由として行われたものであり,外交的,政治
的理由に基づいて行われたものではない。
学校教育法上,A高級学校は各種学校に該当するところ,そもそも教育基
本法は教育全般について基本的な理念を規定するものであり,教育の目的(
同法1条)や目標(同法2条),教育の機会均等(同法4条)などに係る規
定は,当然,各種学校にも適用があるから,各種学校であるA高級学校にも
適用されるものである。そして,A高級学校が本件規程13条の定める「指
定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な
充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」との支給
要件を満たすには,学校で行われる教育の内容や支給法が前提とするような
金銭の出納を含めた学校運営全般について,教育基本法の定める教育の理念
や基本原則に適合するものであることが求められるものと解されるから,本
件規定にいう「高等学校の課程に類する課程」を有するといえるためには,
申請者において,①当該学校における教育内容が教育基本法の理念に沿った
ものであること,②支給した就学支援金が授業料以外の用途に流用されるお
それがないこと,③外部団体,機関から不当な人的,物的な支配を受けてい
ないこと,④反社会的な活動を行う組織と密接に関連していないことを全て
満たしていることを要するというべきである。
朝鮮高級学校においては,北朝鮮の指導者に敬愛の念を抱き,北朝鮮の国
家理念を賛美する教育が行われている。朝鮮総聯の性質(反社会的組織とし
ての側面を有することが強く疑われる。),朝鮮総聯と朝鮮学校との関係(
人事面で密接)及び教育内容(北朝鮮と国家主席を賛美礼賛,絶対的価値と
して崇める。)は,一般社会における健全な常識を大きく逸脱するものとい
うほかはなく,教育基本法の理念に沿うものではない。A高級学校は同条の
支給要件を満たしていない。
被控訴人は,上記の要件について主張立証しなければならない。
受益者処分の申請に対する却下処分の取消訴訟においては,被処分者(被
控訴人)がその申請の根拠法規に適合する事実について主張立証責任を負う
と解され,かつ,行政事件訴訟法30条は,行政庁の裁量行為については,
裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合に限り,その処分を取り消す
ことができると規定しており,裁量権の範囲を超えていることないしその濫
用があったことを基礎付ける事実については被処分者(被控訴人)に主張立
証責任があると解される。本件にあっては,本件規程13条に適合する事実
及び文部科学大臣の裁量権の範囲を超えていることないしその濫用があった
ことについて被処分者である被控訴人に主張立証責任がある。
この点,被控訴人は,本件規程13条の「法令」に教育基本法の理念的規
定が含まれるとする場合には,申請者は文部科学大臣がいかなる理念的規定
に基づいて判断するのか知りようがないから,文部科学大臣が教育基本法の
理念的規定に基づいて本件規程13条の適合性を判断する場合には,申請者
がこれに適合しないことの主張立証責任は控訴人にあるとするが,本件規程
の趣旨や支給法2条1項5号の趣旨からして誤りである。被控訴人において
上記適合性を主張立証すべきである。
本件不指定処分に当たって,本件規程13条に適合すると認めるに至らな
いとした判断に裁量権の逸脱,濫用はない。支給法等の規定は,「高等学校
の課程に類する課程を置くもの」の判断における文部科学大臣の裁量を何ら
制限しておらず,本件規程13条適合性の判断は文部科学大臣に委ねられて
おり,同判断について同大臣に裁量がある。同条適合性の判断においては上
記のとおり教育基本法16条1項の「不当な支配」の判断をも要するとこ
ろ,同判断についても文部科学大臣に裁量がある。原判決は,本件規程13
条適合性判断に当たって,文部科学大臣の裁量権が認められないとした誤り
がある。
6当審における被控訴人の補充主張
控訴人の補充主張の①ないし④の要件は,いずれも教育基本法及び支給
法の解釈を誤り,就学支援金支給対象校を指定する基準をより一層抽象化す
るものであり,判断枠組みとして採ることができない。憲法26条,14条,
国際人権法の社会権規約2条2項,13条及び教育基本法4条から導かれ,
かつ支給法の目的ともなっている「教育の機会均等」の理念を具体化するこ
とこそが求められるべきであるから,上記のような具体化されていない抽象
的理念規定を持ち込むことは,判断基準を不明確にし,教育の機会均等に反
する事態を招くこととなる。
本件規程13条は,「指定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料に
係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わな
ければならない。」と定め,「確実な」「適正に」などという不確定概念が
用いられているため,上記の観点から本来は基準性を欠くというべきである
が,そこに基準性を求めるとしても,支給法及び同法を受けた本件規定に基
づく就学支援金の支給対象となる各種学校の指定に関する本件規程13条の
解釈からすると,同条における「法令」の範囲はおのずと限定され,学校の
一般的な財務会計や会計事務に係る法令と解するのが妥当である。したがっ
て,就学支援金支給対象校を指定する基準は,①財務諸表等が作成されてい
ること,②理事会が開催されていること,③各種学校を所轄する都道府県知
事により過去5年間に法令違反を理由とする処分がされていないことで足り
るというべきである。
ア控訴人の補充主張①要件について
控訴人は,教育の基本原則や理念を規定する教育基本法が各種学校にも
直接適用されると主張するが,同主張は,上記の抽象的理念規定を判断基
準とすることはできないという理由のほか,次のとおりの理由により,採
用することのできない解釈である。
教育基本法は,日本国民が日本国家を発展させるための法律という建
前になっているから,外国人児童・生徒の教育や,外国人児童・生徒が
主に通う外国人学校に対して全面的に直接適用されることは想定されて
いない。教育基本法の理念的規定を理由に,国が外国人学校の教育活動
や教育内容を問題視することはできない。
私立各種学校についてはその自主性と学問の自由を尊重すべきである
から,教育基本法を含む教育関連法によれば,私立各種学校の教育内容
を基本的に規制することはできない。したがって,私立各種学校である
A高級学校の教育内容が教育基本法の理念に沿ったものであることを求
める解釈は採り得ない。
控訴人の主張は,憲法及び国際人権法に定められた等しく教育を受け
る権利や非差別平等の理念を具現化した教育基本法4条1項が定める教
育の機会均等という重要な立法原理ないし解釈原理を無視するものであ
る。定められた審査基準の解釈において差別があってはならない。本件
規則1条1項2号イ,ロに係る学校においては,「不当な支配」を含め
た関係法令一般との適合性を問題とすることなく,本国政府や国際的な
評価機関の認定といった客観的,制度的な基準により指定している。こ
れとの均衡上,本件規定に基づいて申請した教育施設についても,教育
活動の内容を,高等学校の課程に類する課程であるかどうかの判断基準
とすべきではない。
検討会議においても,上記のとおりの見解が採られていたし,本件
規程13条の学校の適正な「運営」を確認すべき法令として,「不当な
支配」に関する教育基本法16条を考慮することは想定されていなかっ
た。このことは,審査会においても同様であったし,具体的な教育内容
については審査の基準としないことが当然の前提となっていた。
「高等学校の課程に類する課程を置くもの」か否かの基準は,客観的
に判断可能なものに限られ,抽象的な判断を要するものは含まれないか
ら,本件規程13条は上記の基準には含まれない。本件規程13条は本
件規程12条に定める情報提供等の補充的な訓示規定ともいうべきもの
であって,本件規程1条から12条までの客観的要件を満たせば,本件
規程13条適合性も認められるべきである。
イ控訴人の補充主張②要件について
控訴人は,支給した就学支援金が授業料以外の用途に流用されるおそれ
がないことが求められると主張する。
しかし,上記アと同様に,定められた審査基準に差別があってはなら
ない。また,教育機関が流用のおそれがないことについて立証できないこ
とを理由に指定を受けられなくなるのであれば,生徒個人にとってはどう
にもできない事情により助成を受けられないことになるが,これは,より
幅広い支援を可能にするために生徒個人に対する助成として制度設計され
た支給法の趣旨を没却することになるものであって,基準として不適切で
ある。
ウ控訴人の補充主張③要件について
控訴人は,教育基本法16条1項に関連して,外部機関から人的,物的
に不当な支配を受けていないことという枠組みを主張する。
しかし,本件規程13条に基準性を認めるとしても,支給法及び同法を
受けた本件規定に基づく就学支援金の支給対象となる各種学校の指定に関
する本件規程13条の解釈からすると,同条における「法令」の範囲はお
のずと限定され,学校の一般的な財務会計や会計事務に係る法令と解する
のが妥当である。本件規程13条の「法令」は,従来から各種学校が満た
すべきとされてきた具体的な法規範をいう。そして,財務会計や会計事務
に係る法令違反の有無に係る審査は,所轄庁である都道府県に法令違反に
よる処分がないかを問い合わせることにより確認することになっていた。
したがって,下位の法律による具体的な要件や効果が定められておらず,
対象校や都道府県が提出した資料により確認しようがない教育基本法16
条1項は,本件規程13条の「法令」に含まれない。
エ控訴人の補充主張④要件について
控訴人は,反社会的な活動を行う組織と密接な関連を有していないこと
という基準を主張する。
しかし,当該教育施設自体ではなく,関連性がある団体の性質を問う理
由が明らかではない。当該教育施設において,平和教育や他国との友好親
善に関する教育等が行われていることが重要であって,それで足りるとこ
ろ,A高級学校では,「朝・日の友好親善に貢献しうる有能な人材を育成
する」ことや「日本の地域社会の中で豊かな共生社会を築いていく」こと
を教育目標に掲げており,それに沿う教育活動が行われている。また,「
反社会的」とか「密接な関連」などという抽象的文言をもって判断基準と
することは具体的法規範性を欠き許されない。
主張立証責任
仮に,控訴人の主張する教育基本法の理念的規定を本件規程13条の「法
令」に含めて解釈するのでは,申請者は文部科学大臣がいかなる理念的規定
に基づいて判断するのかを知りようがないから,文部科学大臣が教育基本法
の理念的規定に基づいて本件規程13条の適合性を判断する場合には,申請
者がこれに適合しないことの主張立証責任は控訴人が負うべきである。
また,控訴人の補充主張の①ないし④の要件を判断基準として持ち込む
としても,朝鮮総聯や北朝鮮との関係を理由に不指定処分をするのは,本来
尊重されなければならない私立各種学校の自主性を侵害し,教育の機会均等
の理念を損なうこととなるから,それらの要件を「特段の事情」として,そ
の主張立証責任は控訴人が負うべきである。
文部科学大臣の裁量権
学校教育法によれば,文部科学大臣の権限は,高等学校基準や学習指導要
領等の最低限度の基準を設定するにとどまり,学校認可の対象となる教育施
設を選別することができない。支給法においても「高等学校の課程に類する
課程」を置くものとして,「文部科学省令で定める」とされている以上,文
部科学大臣には「高等学校の課程」に「類する」と言える程度の基準設定を
行うことが求められているにすぎない。その基準の設定においても,本件規
則における「専修学校」や本件規則1条1項2号イ及びロにおける「各種学
校」のように,制度的客観的に判断できる基準であることが求められている。
そうすると,「高等学校の課程」にいう「課程」とは,学校が提供し,生
徒が履修すべき体系化された教育そのものであり,高等学校において置かれ
ている「全日制」「定時制」「通信制」という制度的な課程のことであって,
学校が提供している教育活動や学習内容のことを指し,学校の組織や運営体
制は含まない。
また,本件規程でも,審査基準として,「高等学校の課程に類する課程」
を置くかどうかを判断するための基準(2条,3条,5条)及び「高等学
校」に「類する」といえる諸条件についての基準(4条,6条~11条)と
いう客観的な基準を定めている。このことからすると,本件規程13条(指
定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な
充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない)は,その
規程の内容からして「高等学校の課程」に「類する」か否かを判断するため
の基準ではなく,努力義務ないし訓示規定にとどまるものということもでき
る。
そして,本件規程該当性を判断する手続においては,教育制度の専門家に
よって構成される審査会の教育的判断を先行させなければならないとされて
いる。
したがって,文部科学大臣が本件規程13条適合性を理由に不指定処分を
行う裁量を有しないことは明らかである。
仮に,本件規程13条が就学支援金の支給対象となる学校指定を受ける基
準になるとしても,文部科学大臣は,自ら当該教育施設が「法令」に適合し
ているかどうかは判断できず,各種学校を所轄する都道府県知事に問い合わ
せても重大な違反が確認できない場合は,これを理由に不指定処分を行うこ
とができないというべきである。
本件規定(ハ規定)は,本件規則1条1項2号イ及びロを包括する不可欠
な規定である。本件規定をより下位の「規程」の一部に問題があるとして削
除することは不合理である。このようなことが行われたのは,上記のとお
りの法の趣旨や生徒の権利よりも,拉致問題等の外交的,政治的判断を優先
させた結果である。朝鮮高級学校を就学支援金の支給対象から将来にわたっ
て排除するためだけに本件規定を削除したものであり,同号による委任の趣
旨を逸脱するものとして違法,無効である。
第3当裁判所の判断
1認定事実
認定事実は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第
3当裁判所の判断」の1(原判決51頁24行目から同76頁10行目ま
で)に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決52頁15行目の「制定され」の次に「,同年4月1日施行され」
を加える。
原判決52頁15行目の次に,行を改めて,次のとおり加える。
「イ支給法案に係る国会審議の状況について
平成22年3月5日の衆議院文部科学委員会における質疑(乙5の
1)において,川端達夫文部科学大臣(以下「川端文科大臣」という。
また,文部科学大臣のことを「文科大臣」ということがある。)は,朝
鮮高校を拉致,ミサイル,核問題があるから外交的に除外するとの方針
なのかという趣旨の質問(馳浩委員)に対し,「(前略)何度も申し上
げますように,その学校が高等学校の課程に類する課程であるかどうか
ということを普遍的,客観的に判断するという立場で決めてまいりたい
と思いますので,今御指摘のような問題は判断の対象ではございませ
ん。」と答弁した(乙5の1・10頁)。
また,川端文科大臣は,支給法案は「高等学校の課程に類する課程を
置く」本邦内の外国人学校の全てに適用するということになるのかとい
う趣旨の質問(宮本岳志委員)に対し,「(前略)文部科学省令におい
て対象を定める際の客観性を保持するために,高等学校の課程に類する
課程として,その位置づけが,学校教育法その他により制度的に担保さ
れているということを規定することと予定をいたしております。そうい
う意味から,自動的に外国人学校の高等課程に類するものすべてが今の
時点で対象になっているということではありません。」と答弁した(乙
5の1・16頁)。
さらに,川端文科大臣は,支給法案で朝鮮学校を除外すべきか否かに
つき現在どのような状況になっているかという趣旨の質問(松本龍委
員)に対し,「(前略)専修学校でどういうものが入れるのか,各種学
校でどういうものが入れるのかという,要するに,まさに高等学校の課
程に類する課程というものをどういう物差しで評価するのかということ
にすべての議論が集約されるのではないかというふうに思っております。
その基準と確認方法についていろいろ検討しているところであります。
加えて,この国会の審議も踏まえながら,最終的に省令として決めたい
というふうに思っております。」(乙5の1・20頁)と答弁した。
平成22年3月12日の衆議院文部科学委員会における質疑(乙5の
3)において,松野頼久内閣官房副長官から,「(前略)就学支援金の
支給対象について,いわゆる高校実質無償化法案は,日本国内に住む高
等学校等の段階の生徒が安心して教育を受けることができるようにする
ものであります。このために,外国人学校の取り扱いに関しましても,
外交上の配慮などにより判断するべきものではなく,教育上の観点から
客観的に判断するべきものであり,政府としては以下のように考えるも
のでございます。本法案においては,外国人学校を含む専修学校等及び
各種学校に係る就学支援金の支援の対象範囲については,高等学校の課
程に類する課程として位置づけられるものを文部科学省令で定めること
としております。これまでの各大臣の発言につきましては,高等学校の
課程に類する課程としての位置づけを判断する基準や方法についてはさ
まざまな論点があることを述べたものでございます。文部科学省令につ
いては,国会における審議も踏まえつつ,文部科学大臣の責任において
判断するものでございます。」との説明がされた(乙5の3・1頁)。
そして,上記のような政府見解ではこれ以上質問をすることができな
いとする下村博文委員の発言に対して,川端文科大臣は,「先ほどの松
野官房副長官の御発言は,当然ながらこの審議の経過,そして私の発言
も踏まえた政府の統一見解でございます。加えて,総理及び関係閣僚が
発言をしてきた経過も,政府として統一的に,これまでの各大臣の発言
は,高等学校の課程に類する課程としての位置づけを判断する基準や方
法については,さまざまな論点があることを述べたものであるというま
さに統一見解を出したところでありまして,最終的に,政府統一見解と
して,文部科学省令については,国会における審議も踏まえつつ,文部
科学大臣の責任において判断するものであるということを改めて政府と
して確認したところでございます。」と述べた(乙5の3・2頁)。
平成22年3月19日の参議院文教科学委員会における質疑(乙5の
4)において,川端文科大臣は,朝鮮高級学校が支給法における支援
金制度の対象となるか否かを問う趣旨の質問(大島九州男委員)に対
し,「(前略)各種学校はまさに任意,自由な学校でありますので,
基本的には対象にならない。ただ,外国人学校だけは制度上専修学校
になれない規定になっておりますので,この学校に関してだけは高校
の課程に類するものとみなせるかどうかを客観的に判断できるように
して判定すべきだというふうに思っておりまして,国会でもいろんな
御議論がありますが,その部分で客観性を担保する仕組みを今議論を
しているところである」旨答弁した(乙5の4・4頁)。
平成22年3月25日の参議院文教科学委員会における質疑(乙5の
5)において,川端文科大臣は,支給法の成立後に定められることが予
定されている支給対象外国人学校の範囲についての省令の内容に関する
質問(水岡俊一委員)に対し,「(前略)外国人学校については,教育
内容等について法令上特段の定めがなく,本国における正規の課程と同
等の教育活動や独自の教育課程に基づく自由な教育活動を行っており,
我が国の学校制度をそのまま当てはめて判断することは適当ではないと
考えられます。このため,外国人学校について高等学校の課程に類する
課程であることを制度的に担保するための要件として,一つは,我が国
の高等学校に対応する本国の学校と同等の課程であると公的に認められ
ること,二番として,国際的に実績のある評価機関による客観的な認定
を受けていることとし,これらの要件を満たすものを支給対象としたい
と考えております。さらに,これらの二つの方法以外にも,客観的に我
が国の高等学校の課程に類する課程であることが認められる基準や方法
について,教育の専門家等による検討の場を設け,関係者の意見も聞き
ながら検討していきたいと考えています。(中略)いわゆる教育専門家
による検討の場で基準と評価方法と判定の仕組みを御議論いただいて,
それに基づいて決めるという第三の道をつくろうと考えております。」
と答弁した。(乙5の5・3頁)」
原判決52頁16行目の「イ」を「ウ」に改める。
原判決54頁3行目の次に行を改めて,次のとおり加える。
「検討会議は,平成22年5月26日から同年8月19日にかけて5回に
わたり会議を開き,「高等学校の課程に類する課程」が満たすべき基準,
「高等学校の課程に類する課程」の審査手続,審査体制,審査方法等,及
び「高等学校の課程に類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準
等」の事項について検討した。
平成22年5月26日に開催された第1回の会議において,委員から「
情報公開・学校運営に関して,財務諸表を毎年徴収するなど各種学校に課
せられた義務に加え,上乗せして求めることが必要な事項もあるのではな
いか。」といった発言がされた。
平成22年6月30日に開催された第2回の会議において,委員から「
判断の客観性を担保する仕組みを組み込んでおくというのであれば,大学
の設置認可などからすれば,第三者の意見を聴くというのが普通のやり方
だろう。」との発言がされた。
平成22年7月16日に開催された第3回の会議において,委員から,
「就学支援金を代理受領する以上は,わが国の法令を遵守することはもち
ろんのこと,学校運営の体制がきちんとしているかどうかという観点が重
要」といった発言や,「文部科学省としては,就学支援金の支給を適正に
行うために必要な限りにおいて学校運営の適切さを確認する必要があるが,
学校運営を全体として見る立場にあるのは所轄庁である都道府県知事であ
る。」との発言がされた。(乙6)」
原判決54頁22行目の末尾に続けて,「そして,「就学支援金の授業料
への確実な充当について」の項目において,就学支援金は,学校への助成金
ではなく,法令に定める学校へ就学する生徒の学習活動を支援するため,受
給権者である生徒個人に対して支給されるものであり,学校は生徒の申請に
基づき,就学支援金を代理受領し,生徒が支払うべき授業料の一部に充当す
るものであるとした上で,各学校においては,就学支援金が確実に生徒の授
業料に充てられるようにするとともに,その原資が貴重な税金であることを
踏まえ,経理の透明化を図るよう求めるものとした。」を加える。
原判決55頁5行目の末尾に続けて,「文部科学大臣(髙木義明)は,同
月25日,参議院予算委員会において,当時,北朝鮮が韓国延坪島に砲撃を
加えたという情勢を踏まえて,「朝鮮学校の指定については,外交上の配慮
より(会議録ママ)判断すべきではなくて教育上の観点から判断すべきもの
であるという,こういう基本的な考え方は変わっておりません。ただ,今般
の朝鮮半島の緊張状況,その中で,総理の指示によってストップをしたとい
うことでございます。今後,北朝鮮における情勢を十分注意をしながら見守
ってまいりたいと,このように思っております。」と述べた。(乙73)」
を加える。
原判決55頁7行目から8行目にかけての「B1」の次に「B2」を加え
る。
原判決56頁13行目の「日本の大学」の次に「・短大」を加える。
原判決57頁2行目の「教科書では,教科書の改訂により」を「教科書(
2006年3月25日初版,2009年3月25日再版)には,「日本当局
は『拉致問題』を極大化し,反共和国・反総聯・反朝鮮人騒動を大々的にく
り広げることによって,日本社会には極端な民族排他主義的な雰囲気が作り
出されていった」と記載されていたが,教科書の改訂(2006年3月25
日初版,2011年3月25日再版)により」に改める。
原判決58頁7行目の末尾に続けて,「なお,これについては,平成29
年4月14日の朝鮮総聯の機関誌であるC新報も,「金日成主席と金正日将
軍,金正恩元帥が在日同胞子弟のために送った教育援助費と奨学金は,これ
までで全163回にわたり,日本円で総額480億0599万0390円に
達する。」と報道した。(乙158の1,2)」を加える。
原判決59頁1行目の「対象となった場合には」の次に「学費免除者も経
理上は学費を支払っている形が取られているため,」を加える。
原判決59頁5行目の「金融機関」の次に「であるD信用組合」を加える。
原判決59頁13行目の「準学校法人」の次に「(学校法人朝鮮学園)」
を加える。
原判決60頁5行目の「功績が含まれる」を「功績が記載され,その回数
が尋常ではない」に改める。
原判決60頁20行目から21行目にかけての「進めている。」の次に「
教育会は,中央,都道府県,学校単位で,父兄を中心に組織されている。教
育会は同胞父兄の愛国心と教育熱意を呼び起こし,学校運営に必要な財政を
まかない,学校の施設や設備,教育資材をととのえている。」を加える。
原判決61頁2行目の末尾に続けて,「「朝鮮総聯は,日本の都道府県ご
とに47の地方本部をおいている。地方本部は中央本部の決定と方針にした
がって管轄地域の諸般の活動を企画,組織,推進し,管下の階層別団体,事
業体,学校を指導する。」,」を加える。
原判決61頁6行目の次に,行を改めて,「朝鮮総聯のホームページ
において,Eは朝鮮総聯の傘下団体と位置づけており(乙85),また,そ
の機関誌において,Eは20代後半から30代の者も多数その構成員となり,
その組織の活動として北朝鮮を訪問し指導者を礼賛するなどしていることが
記載されている(乙160,161)。」を加える。
原判決61頁8行目の「F1」を「F2」に改める。
原判決62頁10行目冒頭から13行目末尾までを,「朝鮮総聯は,組織
離脱者らの取込みによる勢力回復・拡大を目的として「同胞再発掘運動」を
打ち出し…(中略)…。一方,朝鮮総聯は,組織中核層の引締めを図るため,
年頭から活動家に対する思想教育強化の方針を掲げ,「我々は,敬愛する金
正日将軍さえいれば必ず勝利するとの信念を抱き,将軍の望むとおりに愛国
課業を遂行すべき」などとして,金正日総書記への絶対的忠誠心を求める学
習の恒常的実施に努めた。また,北朝鮮建国60周年に際しては,幹部活動
家,若手活動家,商工人など各階層別の代表団を総勢数百人規模で北朝鮮に
派遣し,北朝鮮との一体感扶植に努めた。さらに,これら代表団の一部は,
朝鮮労働党幹部から,思想教育の徹底などを図るよう指導を受けた。(乙4
2)」と改める。
原判決63頁1行目の「朝鮮総聯は,」の次に「後継世代育成の一環とし
て各地で同胞青年祝典を開催し,準備活動や祝典運営などを通じて,若手活
動家・会員に組織活動の経験を蓄積させるとともに,相互の連携・交流の強
化を図った。また,朝鮮総聯中央に」を加える。
原判決63頁15行目の「9月までの間には,」の次に「無償化適用実現
のための3か月集中戦期間に設定し,」を加える。
原判決63頁19行目の「朝鮮総聯の関係につき,」の次に「朝鮮総聯は,
朝鮮高級学校などの朝鮮人学校での民族教育を愛族愛国運動の生命線と位置
付け,北朝鮮,朝鮮総聯に貢献し得る人材の育成に励んでおり,」を加える。
原判決63頁24行目末尾に続けて,「上記平成26年6月13日の参議
院北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会では,公安調査庁次長から,
「朝鮮総聯はそのような北朝鮮の強い影響下にございまして,北朝鮮の指示,
指導を受けつつ,北朝鮮に対する支援活動や我が国に対する働きかけなど,
様々な活動を行っているものと認識しております。」「朝鮮人学校につきま
しては,朝鮮総聯は朝鮮人学校での民族教育を愛族愛国運動の生命線と位置
づけておりまして,北朝鮮,朝鮮総聯に貢献し得る人材の育成に取り組んで
いるところでありまして,朝鮮総聯の影響は朝鮮人学校の教育内容,人事,
財政等に及んでいるものと認識をしております。」との発言がされた(乙5
3の2)。」を加える。
原判決65頁13行目の「B1」の次に「B2」を,同頁16行目の「判
明したとして,」の次に「B3」をそれぞれ加える。
原判決65頁19行目から20行目にかけての「,25」を削除し,同6
6頁3行目の「25」を「24」に改める。
原判決66頁21行目の「審査会は,」を「平成23年11月2日の第4
回審査会では,「朝鮮高級学校の審査に当たっては,これまで審査を行って
きたケースと異なり,時間がかかる可能性がある。懸念される点が多く指摘
されていることもあり,いろいろな点を明らかにしていく必要があるのでは
ないか。」との意見が出され,法令違反について,学校に関係する法令(教
育基本法,学校教育法,私立学校法,その他関係法令)に関する重大な違反
とする考えの下,教育基本法等との適合性が問題とされ,」に改める。
原判決67頁15行目から16行目にかけての「生徒会としての活動を行
う組織である」を「学校活動と切り離して行っている。Eに参加する生徒は,
居住地域などでEが催す文化,スポーツ等のイベントなどに任意で参加する
ことがある」に改める。
原判決67頁17行目の「⑤については,」の次に「学校法人A学園の役
員に朝鮮総聯や関連団体の役職員はいない,」を加える。
原判決69頁3行目の「ことが明らかとなった。」を「という審査の状況
を示した。」に,同頁13行目の「審査したが(第6回審査会),この日も
結論は出ず,」を「審査したが(第6回審査会),法令に基づく学校の運営
が適切にされているかどうかという基準について,教育基本法2条5号の教
育の目標と,16条の不当な支配の禁止に違反しないかどうかが問題とされ,
この日も結論は出ず,「そもそも,この審査会において,指定の可否を議論
し,結論を出すのは限界があるのではないか」という意見も出されたが,」
にそれぞれ改める。
原判決69頁19行目の「肖像を教室内に」を「肖像画を」に改める。
原判決70頁11行目の「出席し。」を「出席。」に,同頁12行目の「
指示した」を「指示した。」にそれぞれ改める。
原判決71頁6行目から7行目にかけての「指示はしていないこと」の次
に,「,朝鮮総聯から訪朝についての報告会を開くとか文書を本国に送るよ
う指示を受けることはなかったこと」を加える。
原判決73頁1行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「髙木文科大臣は,平成23年3月8日の参議院予算委員会において,「昨
年の北朝鮮の砲撃について,(中略)まさに国家の安全にかかわる事態であ
りました。このため,国内において政府を挙げて情報収集に努めておりまし
たし,不測の事態に備えて国民の生命,財産を守ると,こういう見地から一
旦手続は停止したものであります。」「なお,審査や指定に当たっては,外
交上の配慮などにより判断すべきものではなくて,教育上の観点から客観的
に判断すべきものとの考え方については変わっておりません。」と答弁した
(乙22)。」
原判決73頁3行目の「平成24年」を「平成23年」に改める。
原判決75頁4行目の「上記意見に対し,」の次に「同年2月20日付け
で,」を加え,同頁9行目の「意見を述べた。」を「意見,また,「憲法1
4条1項は,国民に対して絶対的な平等を保障したものではなく,相対的,
比例的な平等を保障するものである,つまり,合理的理由のない差別を禁止
するものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の
差異を理由として,その法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理
性を有する限り,同項に違反するものではないと解されている,今回の改正
は,朝鮮学校については,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総聯と密接な関
係にあり教育内容,人事,財政にその影響が及んでいることを踏まえると,
現時点での指定には国民の理解が得られないとの理由には合理性があり,憲
法14条には違反しない」旨の意見を述べた。また,「ハの規定だけではな
くイ,ロの規定も削除するべきである。海外の日本人学校の授業料を無償と
している国があれば,その国の生徒に対してのみ相互主義により支給すべき
である。」との意見に対しては,「現行法では,各種学校となっている外国
人学校についても,日本国籍を持つ生徒も含め多くの生徒たちが,後期中等
教育段階の学びを行っていることから,高等学校等就学支援金制度の対象と
しています。一方,朝鮮学校については,拉致問題の進展がないこと,朝鮮
総聯と密接な関係にあり教育内容,人事,財政にその影響が及んでいること
を踏まえ,現時点での指定には国民の理解を得られないとの観点から,今回
の改正を行うものです。」との見解を示した。」に改める。
原判決75頁22行目の「ためである」の次に「,朝鮮学校が都道府県知
事の認可を受けて学校教育法第1条に定める高校になるなどすれば現行制度
の対象となり,また高校や他の外国人学校に在学する在日朝鮮人等は現行制
度の対象となっているということを踏まえれば,差別に当たらない」を加え
る。
原判決75頁26行目の「しないからであること」の次に,「,朝鮮総聯
は北朝鮮の政治的な組織の一部である,その組織の一部の幹部が校長と学校
の管理をしているということは,我が国の学校管理教育法上,これは我が国
の法制度になじまないこと」を加える。
原判決76頁1行目の次に,行を改めて,次のとおり加える。
「平成22年にA高級学校に対する大阪府授業料支援補助金等の交付の検討
を行うに当たって実施されたA高級学校の教育活動の確認ワーキングによる
調査結果でも,教育内容について,社会科の教材に特定の政治指導者に対す
る敬称があったことから政治的中立性を考慮することが望ましい旨の指摘が
された(乙61)。」
2争点2(文部科学大臣がA高級学校について本件規程13条の適合性が認め
られないと判断したことの違法性の有無)について
本件規定に基づき支給対象外国人学校としての指定がされるための要件
ア本件規定の位置付け(就学支援金制度)
支給法は,公立高等学校について授業料を徴収しないこととするととも
に,私立高等学校等の生徒等が,その授業料に充てるために就学支援金の
支給を受けることができるようにすることにより,高等学校等における教
育に係る経済的負担の軽減を図り,もって教育の機会均等に寄与すること
を目的とするものであるところ(支給法1条,2条2項及び3項参照),
支給法2条1項5号は,就学支援金制度の対象となる「私立高等学校等」
のうち,専修学校及び各種学校については,「高等学校の課程に類する課
程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」に限るとして,就学支援
金制度の対象となるものの要件を文部科学省令に委ねた。これを受けて定
められたのが本件規則であり,本件規則1条1項2号ハ(本件規定)は,
支給法2条1項5号にいう「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に
ついて,「文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する
課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの」
と定めた。そして,本件規則1条1項2号ハ(本件規定)を受けて文部科
学大臣により定められた本件規程は,第1章において「総則」,第2章に
おいて「指定の基準」,第3章において「指定の手続等」をそれぞれ定め
ているところ,上記「指定の基準」においては,修業年限,授業時数,同
時に授業を行う生徒,授業科目,教員数,教員の資格,校地等,校舎等,
校舎の面積,設備に関する基準が定められている(本件規程2条~11
条)ほか,本件規程12条が,学校教育法等の規定による学校運営の状況
に関する自己評価及びその結果の公表並びに情報の積極的な提供や,私立
学校法の規定による財産目録等の備付け及び閲覧,その他の法令に基づく
情報の提供等が適正に行われるべきことを定め,さらに,本件規程13条
が,本件規程12条に規定するもののほか,指定教育施設は,高等学校等
就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学
校の運営を適正に行わなければならない旨を定めている。
イ本件規程13条の趣旨
支給法が,高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り,も
って教育の機会均等に寄与することを目的とし(1条),支給対象高等学
校等(6条)の設置者が,受給権者に代わって就学支援金を受給し,受給
権者の授業料に係る債権の弁済に充てることにしていること(8条)から
すると,支給法は,公的な資金から支出される就学支援金が受給権者であ
る生徒等に対する授業料に係る債権に確実に充当されることを要請してい
るものであって,設置者によって他に流用されるおそれが否定できないに
もかかわらず,就学支援金を支給することを許容するものではないことが
明らかである。
そして,就学支援金制度の対象とされる私立高等学校及び専修学校(高
等課程)については,財務関係を含む学校運営の適正が求められ(学校教
育法14条,42条,43条,62条,133条,学校教育法施行規則6
6条から68条,189条,私立学校法25条1項,47条参照),各種
学校については,学校教育法134条2項,私立学校法64条5項の規定
により,適正な学校運営を求める趣旨,内容の学校教育法の規定や私立学
校法の規定が準用されているところ,支給法2条1項5号が「高等学校の
課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定める」各種学校を就
学支援金の支給対象となる学校とする旨を定めていること,支給法に基づ
く就学支援金が公的な資金から支給されるものであることからすると,支
給法は,学校教育法や私立学校法等の法令に基づく適正な学校運営が行わ
れていない疑いのある各種学校を就学支援金支給の対象とすることを許容
するものではないと解される。
この点については,支給法の立法の過程においても,前記1において原
判決を補正の上引用して認定したとおり(原判決第3の1イ),文部科
学大臣において,支給法案は「高等学校の課程に類する課程を置く」本邦
内の外国人学校の全てに適用するということになるのかという趣旨の質問
に対し,「(前略)文部科学省令において対象を定める際の客観性を保持
するために,高等学校の課程に類する課程として,その位置づけが,学校
教育法その他により制度的に担保されているということを規定することと
予定をいたしております。そういう意味から,自動的に外国人学校の高等
課程に類するものすべてが今の時点で対象になっているということではあ
りません。」と答弁するなど,支給対象外国人学校への指定に際して学校
教育法その他の関係法令に基づく適正な学校運営がされていることを考慮
することが念頭に置かれていたものということができる。
また,本件規程の制定に当たっての検討会議における議論等を見ても,
前記1において,原判決を補正の上引用して認定したとおり,第1回の会
議から「学校運営」が議題に上り,委員からは,「情報公開・学校運営に
関して,財務諸表を毎年徴収するなど各種学校に課せられた義務に加え,
上乗せして求めることが必要な事項もあるのではないか」との発言(第1
回),「就学支援金を代理受領する以上は,わが国の法令を遵守すること
はもちろんのこと,学校運営の体制がきちんとしているかどうかという観
点が重要」との発言(第3回),「文部科学省としては,就学支援金の支
給を適正に行うために必要な限りにおいて学校運営の適切さを確認する必
要がある」という趣旨の発言(第3回)などがされており,適正な学校運
営がされていることの検討の必要性が指摘されていたものといえる。また,
高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議作成の「高等学校の課程に
類する課程を置く外国人学校の指定に関する基準等について(報告)」と
題する平成22年8月30日付け書面(甲3)においても,「Ⅰ基準に
ついて」の「2.基準のポイント」中の「⑶法令に基づく適正な学校の
運営について」の項目において,就学支援金は,支給法において,生徒が
在学する学校が生徒に代理して受領し,生徒の授業料に係る債権の弁済に
充てることとされていること,各種学校の運営については,学校教育法,
私立学校法などにおいて諸規定が設けられていることを挙げた上で,就学
支援金に係る文部科学大臣の指定を受ける各種学校については,各校が就
学支援金の管理を適正に行うとともに,これらの関係法令の諸規定を遵守
していることは当然であり,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」
に求められる基準において,就学支援金の管理その他の法令に基づく学校
の運営が適正に行われることを改めて求めることが適当であるとされてい
る。
以上からすると,本件規程13条は,上記のような支給法の目的や仕組
み,私立高等学校や専修学校(高等課程)に適用される法令の規定並びに
就学支援金が公的な資金から支出されることをも踏まえ,本件規則1条1
項2号ハ(本件規定)を根拠とする指定教育施設(支給対象外国人学校)
の指定を受けるための要件として,就学支援金の授業料に係る債権の弁済
への確実な充当が行われることや,高等学校の教育課程の履修を含む学校
運営が学校教育法,私立学校法等の法令に従った適正なものであると認め
られることを要するとしたものと解される。そして,教育基本法が他の全
ての教育関係法規の基本法たる性質を有し,全ての教育関係法規は教育基
本法に定められた基本的理念を実施するための法律として解釈されるべき
ことなどからすれば,本件規程13条の「法令」から教育基本法を排除す
べき理由はなく,本件規程13条の要件適合性の判断に当たっては,教育
内容が教育基本法の理念に沿ったものであるかどうか,教育に対して教育
基本法16条1項の「不当な支配」がされていないか等に係る事情につい
ても,上記判断の要素として考慮すべきものと解される。
この点,被控訴人は,支給法及び同法を受けた本件規定に基づく就学支
援金の支給対象となる各種学校の指定に関する本件規程13条の解釈から
すると,同条における「法令」の範囲はおのずと限定され,学校の一般的
な財務会計や会計事務に係る法令と解するのが妥当であって,教育基本法
16条のような抽象的な理念規定を上記法令の一つとして基準とするのは
不適切である旨主張する。しかし,上記において説示したとおりであり,
同主張は採用できない。
ウ支給法2条1項5号及び本件規定にいう高等学校の「課程」の意義
以上のように解することは,本件規程13条が支給法2条1項5号及び
本件規定の委任の範囲において定められたものであることに反するもので
はない。すなわち,支給法2条1項5号は,専修学校及び各種学校のうち
「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるも
の」を就学支援金制度の対象とし,同号を受けて定められた本件規則1条
1項2号ハ(本件規定)は,「文部科学大臣が定めるところにより,高等
学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大
臣が指定したもの」を支給対象外国人学校に含まれるものとしているとこ
ろ,これらの規定にいう高等学校の「課程」とは,高等学校学習指導要領
に定める「教育課程」に限らず,広く教育内容,学校の組織及び運営体制
も含むものと解される。詳論すると,①学校教育法66条は「中等教育学
校の課程は,これを前期3年の前期課程及び後期3年の後期課程に区分す
る。」と定め,同条125条2項は「専修学校の高等課程においては,(
中略)中学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて前条の教育
を行うものとする。」と定めており,これらの規定にいう「課程」とは,
学校が提供し,生徒等が履修すべき体系化された教育そのものを指すもの
と解されるところ,同法においても学校運営の適正が求められていること
からすれば,上記の体系化された教育は,法令に従って適正に運営されて
いる学校が提供するものであることが前提とされているものというべきこ
と,②同法128条4号が「目的又は課程の種類に応じた教育課程及び編
制の大綱」と定めて「課程」と「教育課程」とを使い分けており,また,
高等学校に関する規定である同法52条から54条の定めを見ても,「課
程」と「教育課程」とが使い分けられていること,③支給法ないし本件規
則において,学校教育法におけるのと異なる意味内容のものとして「課
程」の語を用いる合理的理由は見当たらないことなどを勘案すれば,支給
法2条1項5号及び本件規則1条1項2号ハ(本件規定)の「高等学校の
課程」とは,高等学校学習指導要領の「教育課程」に限らず,広く教育内
容,学校の組織及び運営体制も含むものと解すべきである。
そうすると,本件規則1条1項2号ハ(本件規定)を根拠とする支給対
象外国人学校としての指定を受けるための要件として,就学支援金の授業
料に係る債権の弁済への確実な充当が行われること,高等学校の教育課程
の履修を含む学校運営が法令に従った適正なものであると認められること
を要するものとした本件規程13条の規定は,支給法2条1項5号及び本
件規則1条1項2号ハ(本件規定)の委任の範囲内において定められたも
のということができる。
この点,被控訴人は,「高等学校の課程」にいう「課程」とは,学校が
提供し,生徒が履修すべき体系化された教育そのものであり,高等学校に
おいて置かれている「全日制」「定時制」「通信制」という制度的な課程
のことであって,学校が提供している教育活動・学習内容のことを指し,
学校の組織や運営体制は含まない旨主張するが,上記のとおりであって,
同主張は採用できない。
エ被控訴人の補充主張アについて
被控訴人は,教育基本法は,日本国民が日本国家を発展させるための
法律という建前になっているから,外国人児童・生徒の教育や,外国人児
童・生徒が主に通う外国人学校に対して全面的に直接適用されることは想
定されていない,教育基本法の理念的規定を理由に,国が外国人学校の教
育活動や教育内容を問題視することはできない,私立各種学校について
はその自主性と学問の自由を尊重すべきであるから,教育基本法を含む教
育関連法によれば,私立各種学校の教育内容を基本的に規制することはで
きない,したがって,私立各種学校であるA高級学校の教育内容が教育基
本法の理念に沿ったものであることを求める解釈は採り得ない,憲法及
び国際人権法に定められた等しく教育を受ける権利や非差別平等の理念を
具現化した教育基本法4条1項が定める教育の機会均等という重要な立法
原理ないし解釈原理からすれば,定められた審査基準の解釈において差別
があってはならず,控訴人は被控訴人に対し,本件規程14条によって指
定を受けた各種学校たる外国人学校と同様の扱いをしなければならない,
本件規則1条1項2号イ,ロに係る学校においては,「不当な支配」を含
めた関係法令一般との適合性を問題とすることなく,本国政府や国際的な
評価機関の認定といった客観的・制度的な基準により指定しているのであ
り,これとの均衡上,本件規定に基づいて申請した教育施設についても,
教育活動の内容を,高等学校の課程に類する課程であるかどうかの判断基
準とすべきではない,検討会議においても,上記のとおりの見解が採ら
れていたし,本件規程13条の学校の適正な「運営」を確認すべき法令と
して,「不当な支配」に関する教育基本法16条を考慮することは想定さ
れていなかった,また,審査会においても,同様であって,具体的な教育
内容については審査の基準としないことが当然の前提となっていた,本
件規程13条は本件規程12条に定める情報提供等の補充的な訓示規定で
あって,本件規程1条から12条までの客観的要件を満たせば,本件規程
13条適合性も認められるべきである旨主張する。
しかしながら,まず,上記及びの主張については,上記イ及びウ
において述べたとおり,支給法も教育関係法令である以上,教育基本
法の基本原則や理念を実施するものとして解釈されなければならない
から,「高等学校の課程に類する課程」を置くものとして就学支援金
支給対象外国人学校として指定されるには,教育内容が教育基本法の
基本原則や理念に反していてはならないのであって,被控訴人の主張
は採用することができない。各種学校には,その自主性を尊重するた
め教育基本法6条や14条2項が適用されないが,一部適用されない
規定があることをもって,本件規程13条適合性の判断に当たり,当
該学校の教育内容が教育基本法の基本原則や理念に反するか否かも含
めて考慮要素とすることができないと解することはできない。
次に,上記の主張についてみると,本件規則1条1項2号イ又はロ
に係る外国人学校は,外国の大使館を通じ,又は文部科学大臣の指定
する団体の認定により,高等学校の課程に類する課程を置くものであ
ることを,制度的に確認することができるのに対し,本件規則1条1
項2号ハ(本件規定)に係る外国人学校については,そのような制度
的な保障が全くなく,高等学校の課程に類する課程であるか否かを個
別具体的に判断せざるを得ない。このように,両者は,その前提を異
にするものというべきであるから,被控訴人の主張は,教育の機会均
等という原理の下においてもその前提を欠くものであって,採用する
ことができない。
上記の主張については,前記1において原判決を補正の上引用して
認定したとおり(原判決第3の1イ),本件規程の制定過程におい
て,平成22年5月26日に開催された第1回検討会議において,委
員から「情報公開・学校運営に関して,財務諸表を毎年徴収するなど
各種学校に課せられた義務に加え,上乗せして求めることが必要な事
項もあるのではないか」といった発言がされたこと,平成22年7月
16日に開催された第3回検討会議において,委員から,「就学支援
金を代理受領する以上は,わが国の法令を遵守することはもちろんの
こと,学校運営の体制がきちんとしているかどうかという観点が重
要」といった発言や,「文部科学省としては,就学支援金の支給を適
正に行うために必要な限りにおいて学校運営の適切さを確認する必要
がある」との発言がされていたことが認められ,このような検討会議
における議論の過程からみても,また,全ての教育関係法規の基本法
という教育基本法の性質からしても,本件規程13条にいう「法令」
から教育基本法16条1項を含む同法の規定が殊更に排除されている
ものとは解し難い。
また,前記1において原判決を補正の上引用して認定したとおり(原
判決第3の1イ),第4回審査会において,法令違反について,学
校に関係する法令(教育基本法,学校教育法,私立学校法,その他関
係法令)に関する重大な違反とする考えの下,教育基本法等との適合
性が問題とされたこと,第6回審査会において,法令に基づく学校の
運営が適切にされているかどうかという基準で問題となるのが,教育
基本法2条5号の教育の目標と,16条の不当な支配の禁止に違反し
ないかどうかという点であったことが認められ,これらによれば,教
育内容が教育基本法の基本原則や理念に反してはならないことは,審
査会においても当然の前提とされていたといえるのである。
被控訴人の上記主張は採用できない。
上記の主張については,上記イにおいて述べたような本件規程13
条の趣旨に加えて,同条が本件規程「第2章指定の基準」中の他の規
定(2条~12条)とは別個独立に設けられた規定であること,本件
規程13条の表題は「適正な学校運営」であり,本件規程12条の表
題「情報の提供等」とは別個の表題が付されていること,本件規程1
3条においては「前条に規定するもののほか」と本件規程12条に定
める事項とは別個の事項を付け加える趣旨の規定が置かれていること
からすると,本件規程13条をもって,本件規程12条の付加的補足
的規定であると解することはできない。被控訴人の主張は,採用する
ことができない。
オ被控訴人の補充主張イについて
被控訴人は,定められた審査基準に差別があってはならない旨主張す
るが,前記1において原判決を補正の上引用して認定したとおり(原
判決第3の1イ,イ),本件規程の制定過程において,平成22
年5月26日に開催された第1回検討会議において,委員から「情報
公開・学校運営に関して,財務諸表を毎年徴収するなど各種学校に課
せられた義務に加え,上乗せして求めることが必要な事項もあるので
はないか」といった発言がされていたし,また,その審査過程におい
ても,平成23年11月2日の第4回審査会の議論において「朝鮮高
級学校の審査に当たっては,これまで審査を行ってきたケースと異な
り,時間がかかる可能性がある。懸念される点が多く指摘されている
こともあり,いろいろな点を明らかにしていく必要があるのではない
か。」との意見が出された(甲25)ように,朝鮮高級学校に法令に
基づく適正な学校運営が行われていることに疑念が生じていたことか
らすると,審査の方法,程度が異なるのは当然のことであり,そのよ
うな疑念が生じていなかったB及びGと比して,審査が入念になった
ことをもって差別的取扱いとはいえない。
また,被控訴人は,就学支援金の流用のおそれがないことについて教
育機関が立証できないことを理由に指定を受けられなくなるのであれ
ば,生徒個人にとってどうにもできない事情により助成を受けられな
いことになるが,これは,より幅広い支援を可能にするために生徒個
人に対する助成として制度設計された支給法の趣旨を没却することに
なるものであって,基準として不適切である旨主張する。
しかし,支給法は代理受領制度を採用しているところ(同法8条),
この趣旨は,支給した就学支援金が他に流用されることなく個々の生
徒の授業料債権に確実に充当されるようにすることにある。このよう
に,支給した就学支援金が他に流用されるおそれがないことは,支給
法自体から要請されるものというべきである。また,前記1において,
原判決を補正の上認定したとおり(原判決第3の1ウ),検討会議
が公表した平成22年8月30日付け「高等学校の課程に類する課程
を置く外国人学校の指定に関する基準等について(報告)」において
も,就学支援金は,学校への助成金ではなく,法令に定める学校へ就
学する生徒の学習活動を支援するため,受給権者である生徒個人に対
して支給されるものであり,学校は生徒の申請に基づき,就学支援金
を代理受領し,生徒が支払うべき授業料の一部に充当するものである
とした上で,各学校においては,就学支援金が確実に生徒の授業料債
権に充てられるようにするとともに,その原資が貴重な税金であるこ
とを踏まえ,経理の透明化を図るよう求めるものとしたとされており,
上記の趣旨がその制定過程において考慮されていたといえる。
被控訴人の主張は採用できない。
カ被控訴人の補充主張ウについて
前記イ,ウ及びエにおいて説示したとおり,本件規程13条の「法令」
には教育基本法を始めとする教育関係法規が含まれると解されるのであっ
て,被控訴人の主張は採用できない。この点,被控訴人は,財務会計や会
計事務に係る法令違反の有無に係る審査は,所轄庁である都道府県に法令
違反による処分がないかを問い合わせることにより確認することになって
いるのに,下位の法律による具体的な要件や効果が定められていない教育
基本法16条1項を本件規程13条の「法令」に含ませるのでは,対象校
や都道府県が提出した資料により確認しようがないことになるから,教育
基本法16条1項は,本件規程13条の「法令」に含まれない旨を主張す
る。しかし,その主張の前提が正しいといえるか疑問であるし,仮に確認
できない場合があるとしても,そのことが教育基本法16条1項を上記「
法令」に含ませない理由になるものではない。
キ控訴人の補充主張④の要件(被控訴人の補充主張エ)について
控訴人は,反社会的な活動を行う組織と密接に関連する教育施設は,そ
のような密接な関係を有するということのみをもって,平和で民主的な国
家及び社会の形成に資する者を育成するという教育基本法の理念に反する
として,外部の反社会的組織と密接な関連を有していないことという基準
を挙げる。
しかし,当該教育施設において,教育基本法の理念に沿った教育等が行
われているか否かが要件となるのであり,問題とされるべきは,外部の組
織から,教育面において不当な支配が及んでいるかどうかということであ
る。この点については,上記の「不当な支配」の基準で判断すれば足りる
と解されるのであり,この基準以外に,控訴人の主張する上記の「密接な
関連性」を基準とするのであれば,不当な支配性までは認められなくとも,
教育に影響を与え得るような関連性を満たせば事足りることにもなりかね
ず,基準として合理性を欠くというべきである。平成23年11月2日の
第4回審査会から始まった朝鮮高級学校の審査においても,審査(ポイン
ト)として,朝鮮総聯との関係について,「一般論としては,ある団体が
教育に対して影響を及ぼしていることのみをもって,直ちに不当な支配(
教育基本法第16条)があるとはいえないが,不当な支配に当たるかどう
か引き続き検討する必要があるため,過去の報道等に基づき,以下の点を
学校に確認」とされていた(甲25)のであって,ある団体が教育に対し
て影響を及ぼしていることをもって密接な関連性を認めたり,それを要件
として考慮すべきであるとされていない。
⑵本件規程13条適合性についての主張立証責任
ア前記⑴のとおり,本件規程13条は本件規定に基づく指定の要件を定め
たものであり,各種学校が同指定を受けると,その設置者は当該各種学校
の生徒等の授業料に係る債権に応じた就学支援金を収受することができる
地位を取得することとなる。このような同指定の性質に照らすと,本件規
程13条の要件該当性の存在を基礎付ける事実については各種学校の設置
者(被控訴人)が主張立証責任を負うというべきである。
イこの点,原判決は,被控訴人では,私立学校法に基づき財産目録,財務
諸表等が作成されるとともに理事会等も開催されていたこと,また,被控
訴人及びA高級学校の所轄庁である大阪府知事が,平成19年4月から平
成23年9月までの間,3年に1度を基本として必要に応じて随時,立入
検査等を実施し,上記期間の直近では平成22年1月から平成23年7月
に立入検査等を実施しており,大阪府知事の立入検査等では,法人・学校
の運営状況並びに会計処理及び計算書類の作成や,補助金の交付要件とな
っている事項(日本の学習指導要綱に準じた教育活動,財務情報の一般公
開,特定の政治団体と一線を画すこと,特定の政治指導者の肖像画を教室
から外すこと)の有無を検査しているところ,A高級学校について,教育
基本法,学校教育法等の法令に違反することを理由とする行政処分等を行
わなかったことから,A高級学校については,他に本件規程13条適合性
に疑念を生じさせる特段の事情がない限り,同条適合性が認められるとす
る。しかしながら,原判決が本件規程13条適合性を基礎付けるものとし
て挙げる上記各事情は,それらが持つ事実上の推定力の程度に照らすと,
いかなる場合でも,それらの各事情があれば,他に同条適合性に疑念を生
じさせる特段の事情がない限り同条適合性が認められるという規律を採用
するのに十分なものということはできない。
確かに,本件規程13条適合性については,不指定処分を受けた申請者
(被控訴人)としてはいかなる点に疑念が生じているのかを示す具体的な
指摘がなければ同条適合性に係る事情について主張立証することが難しく,
その必要がないこともあるといえるから,訴訟の場面においては,そのよ
うな疑念があるとする事柄について,まず不指定処分をした行政庁の属す
る国(控訴人)の側で主張立証をする必要があり,それから申請者である
被控訴人の側で,上記の事柄について同条適合性の存在を基礎付ける事実
を主張立証することになる場合があるものと考えられる。しかし,この場
合,上記のような主張立証の順序ないしは構造になるとしても,原判決が
挙げる上記各事情があれば,国(控訴人)側で同条適合性に疑念を生じさ
せる特段の事情の立証を要するとの規律を採用することは相当ではないと
考えられ,本件規程13条適合性の存在を基礎付ける事実についての主張
立証責任は,やはり受益処分の申請者(被控訴人)が負担すべきものと解
されるのである。そうすると,国(控訴人)の主張立証により相当な根拠
に基づいて上記事実の存在に疑いが生じたような場合,上記事実が高度の
蓋然性をもって立証されたとはいえないということになる(なお,「不当
な支配に服すること」がないことというような評価的要件とも考えられる
要素については,その評価障害事実を国(控訴人)が主張立証すべきであ
るとしても,その評価根拠事実を申請者たる被控訴人が主張立証すべきこ
とに変わりはない。)。
ウ上記の観点からすると,本件においては,控訴人側が,A高級学校につ
いて本件規程13条適合性に疑念があることの事情として,①教育内容が,
北朝鮮と国家主席を賛美礼賛し絶対的価値として崇めるものであり,教育
基本法の理念に沿ったものでないおそれがあること,②支給された就学支
援金が授業料以外の用途に流用されるおそれがあること,③朝鮮総聯から,
教育内容,人事,財政の面で不当な支配(教育基本法16条1項)を受け
ていて,適正な学校運営が行われていないおそれがあることなどを主張し,
これらの主張に係る具体的事実ないし事情を主張立証しているから,被控
訴人側では,これらについて,本件規程13条適合性の存在を基礎付ける
事実を主張立証すべきものと考えられる。
エこの点について,被控訴人は,本件不指定処分は,同じく高等学校の課
程に類する課程を置く学校との間に著しい不平等をもたらし,生徒の学校
選択や保護者の学費負担にも不平等をもたらすものであって,差別的な侵
害処分というべきであるから,その処分要件について控訴人が主張立証責
任を負う旨主張する。しかし,本件規定に基づく指定処分は,侵害処分で
はなく,その要件に該当する学校(高等学校の課程に類する課程を置く学
校)に対する給付処分であるから,被控訴人の上記主張は,前提を欠き採
用することができない。
本件規程13条適合性の判断及びその中で考慮される教育基本法16条1
項の「不当な支配」の有無の判断に文部科学大臣の裁量が認められるかにつ
いて
ア本件規程13条適合性の判断と文部科学大臣の裁量
まず,本件規定は,「文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の
課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指
定したもの」と定めており,これを受けて定められた本件規程13条適合
性の判断については,文部科学行政に通暁するものとしてこれを所管する
文部科学大臣に委ねられているということができるから,同判断について
同大臣に専門的,技術的見地からする一定の裁量があるということができ
る。
すなわち,支給法2条1項5号が支給法の適用対象となる各種学校を「
高等学校の課程に類する課程を置くもの」に限っているのは,国の財政的
負担において教育を実施することが後期中等教育段階における教育の機会
均等の確保の見地から妥当と認められる各種学校のみを支給法の適用対象
とするためであると解されるところ,本件規則1条1項2号は,上記のよ
うな支給法2条1項5号の委任を受け,同号所定の「高等学校の課程に類
する課程を置くもの」と認められる各種学校について,我が国に居住する
外国人を専ら対象とする各種学校のうちイからハまでの各規定に掲げるも
のとした上,イ及びロの各規定において一定の類型の各種学校であって文
部科学大臣が指定したものを定め,ハの規定(本件規定)において「文部
科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する課程を置くもの
と認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの」を定めている。
このような本件規定の内容等からすると,本件規定は,我が国に居住する
外国人を専ら対象とする各種学校のうち,イ及びロの各規定の定める特定
の類型には当たらないものの,なお,当該各種学校の個別具体的な事情か
ら,国の財政的負担において教育を実施することが後期中等教育段階にお
ける教育の機会均等の確保の見地から妥当と認められる各種学校を「高等
学校の課程に類する課程を置くもの」として支給法の適用対象とする包括
的規定であって,いかなる各種学校が上記の「課程を置くもの」に該当す
るかの判断には当該各種学校の個別具体的な事情を踏まえた教育上の観点
からの専門的,技術的検討を要することから,その判断については上記の
検討をすることができる文部科学大臣の指定に基づいて行うものとすると
ともに,その指定の基準を設定すること自体も専門的,技術的な領域に属
するものとしてこれを文部科学大臣に委任したものと解される。
そうすると,文部科学大臣が本件規定に基づく指定の基準としていかな
る基準を定めるかについては,本件規定の委任の趣旨を逸脱しない範囲内
において,文部科学大臣に専門的,技術的な観点からの一定の裁量権が認
められているものと解するのが相当である。
イ「不当な支配」の有無の判断と文部科学大臣の裁量
教育基本法16条1項の「不当な支配」の有無の判断についても文部
科学大臣の裁量が認められるものと解するのが相当である。
教育は,専ら教育本来の目的に従い,国民からの信託に応えて国民全
体に対して直接責任を負うように行われるべきであり,教育基本法1
6条は,教育の自主性尊重の見地から,そのような教育をゆがめるよ
うな支配を排除したものであるが,教育に対する不当,不要な介入は
排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合
理的と認められる介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するもので
あっても必ずしも「不当な支配」に該当しない場合があるとされてい
る(最大判昭和51年5月21日・刑集30巻5号615頁)。そう
すると,行政機関以外の特定の外部機関による介入が人的,物的に「
不当な支配」に該当するか否かの判断,すなわち,教育の自主性の侵
害の有無及び程度,介入の必要性や合理性の有無及び程度に関する判
断は,その性質上,教育上の観点からの専門的,技術的検討を要する
事項といわざるを得ず,したがって,教育行政に通暁し,専門的,技
術的検討をすることのできる文部科学大臣の裁量に委ねているといえ
る。
もっとも,①旧教育基本法及び教育基本法は,戦前の我が国の教育が
国家による強い支配の下で形式的,画一的に流れ,時に軍国主義的又
は極端な国家主義的傾向を帯びる面があったことに対する反省により
制定されたものであり,旧教育基本法10条1項及び教育基本法16
条1項は,教育に対する権力的介入,特に行政権力による介入を警戒
し,これに対して抑制的態度を表明したものと解される(前記昭和5
1年大法廷判決参照)こと,②前記のとおり,各種学校である外国人
学校では,高等学校の課程に類する課程を置くものと,それ以外のも
のとを区別することになるから,外国人学校の民族的徴表と結び付い
た偏見等によって,不合理な差別が行われる危険性の高いことは容易
に想像がつくことであったため,支給法制定当時,外国人学校の取扱
いについては外交上の配慮ではなく,教育上の観点から客観的に判断
すべきという趣旨の政府の統一見解が採られていたものであり,でき
るだけ客観的な審査基準により判断される仕組みを整えようとしてい
たといえること,③教育の自主性尊重の見地から,教育の自主性をゆ
がめるような支配を排除し,教育に対する不当,不要な介入は排除さ
れるべきであるとする教育基本法の趣旨及び支給法が教育における機
会均等の確保と全国的な一定の水準の維持を図るために,全国的に高
校教育についての無償化を図ったものであることからすると,文部科
学大臣の裁量権には一定の限定が課されるのであって,広大な裁量が
あるということはできない。
ウ「不当な支配」の内容
次に,何をもって「不当な支配」であるというかについてであるが,朝
鮮高級学校の教育が北朝鮮の国家理念や政治体制から離れた存在となるこ
とは不可能であるから,朝鮮高級学校が朝鮮語による授業を行い,北朝鮮
の視座から歴史的,社会的,地理的事象を教えるとともに,北朝鮮を建国
し現在まで統治してきた北朝鮮の指導者や北朝鮮の国家理念を肯定的に評
価することも,朝鮮高級学校の教育目的それ自体には沿うものということ
ができるのであって,これだけをもって,朝鮮高級学校が北朝鮮や朝鮮総
聯からの不当な支配により,自主性を失い,上記のような教育を余儀なく
されているとは直ちに認めることはできない。北朝鮮や朝鮮総聯による影
響力の行使が上記教育目的を達するための必要性,合理性の限度を超えて,
朝鮮高級学校での教育の自主性をゆがめるようなものであるときに,同項
の「不当な支配」に当たるというべきであり,この判断において文部科学
大臣の裁量が認められるものである。
エ被控訴人の主張について
支給法,本件規定及び本件規程の解釈によりその枠組みを客観的制限的
にすることに基づいて裁量権がないとする被控訴人の主張については,前
記ア,イにおいて検討したとおりであって,採用できない。
被控訴人は,教育基本法16条1項の「不当な支配」に関し,同項の
「不当な支配」とは我が国の公権力による影響をいうものと解すべき
であり,外国人学校の本国やその在日団体(北朝鮮や朝鮮総聯)はそ
の支配の主体たり得ない旨主張する。
しかし,前記のとおり,同項は,教育が国民から信託されたものであ
ることから,教育が不当な支配によってゆがめられることなく専ら教
育本来の目的に従って行われるべきことを示したものであり,このよ
うな同項の趣旨からすると,同項は,教育が国民の信託に応えて自主
的に行われることをゆがめるような支配を排斥しているものと解され
るのであって,上記のような支配と認められる限り,その主体のいか
んは問うところではないと解するのが相当である(前掲最大判昭和5
1年5月21日参照)。したがって,A高級学校の教育が北朝鮮や朝
鮮総聯から影響を受けていることも,それが教育の自主性をゆがめる
ようなものであれば同項の「不当な支配」に当たり得るというべきで
あり,被控訴人の上記主張は採用することができない。
また,被控訴人は,支給法は,就学支援金を流用する抽象的な可能性
があるにすぎない場合には本件規定に基づく指定を行い,流用の具体
的懸念が生じた場合には事後的措置により対処することを予定してい
るものと解されるから,就学支援金が授業料に係る債権の弁済に充当
されない具体的な可能性又は蓋然性が存在する場合に限り本件規程1
3条適合性が否定されるというべきであると主張する。
しかしながら,既に述べたように,本件規則1条1項2号ハ(本件規
定)を根拠として支給対象外国人学校としての指定を受けるためには,
本件規程13条を含む本件規程の第2章に定める各要件を全て充足し
ているものと認められることを要するところ,本件規程13条の要件
を充足しているというためには,就学支援金の授業料に係る債権の弁
済への確実な充当が行われることや,高等学校の教育課程の履修を含
む学校運営が法令に従った適正なものであると認められることを要す
るものというべきである。そして,支給法,本件規則及び本件規程を
見ても,被控訴人が主張するような場合以外は学校運営が法令に従っ
た適正なものであると認めなければならないとの趣旨を定めた規定は
存しない上,支給法が,公的な資金から支出される就学支援金が受給
権者である生徒等に対する授業料に係る債権に「確実に」充当される
ことを要請しており,学校の設置者によって他に流用されるおそれが
否定できないにもかかわらず,就学支援金を支給することを許容する
ものではないというべきである。これらに照らせば,そのような流用
のおそれを否定することができない場合に,文部科学大臣において支
給対象外国人学校に指定しないとの判断をすることは,上記のような
支給法の要請に沿うものというべきである。被控訴人の上記主張は,
採用することができない。
A高級学校の本件規程13条適合性について
前記1において補正の上で引用した原判決の認定事実に加え,次に述べる
とおりの事情によれば,本件不指定処分がされた平成25年2月20日の時
点において,A高級学校について,朝鮮総聯から教育内容及び人事面等で教
育基本法16条1項にいう「不当な支配」を受けていること,及び財政面で
就学支援金の管理が適正に行われないことをいずれも疑わせるに足りる相当
な根拠があったものであり,適正な学校運営という観点からして,高等学校
の教育課程に類する課程を置くものであることに疑問が残るから,本件規程
13条に適合すると認めるに至らないということができる。
ア北朝鮮及び朝鮮総聯と朝鮮高級学校との関係
前記1において補正の上で引用した原判決の認定事実及び証拠(各項に
掲記のもの)によれば,次の各事実が認められる。
朝鮮総聯と朝鮮学校との組織としての関係
a朝鮮総聯中央常任委員会が平成3年に発行した書籍に,「朝鮮学校
の管理運営は,朝鮮総聯の指導のもとに,教育会が責任をもって進
めている。」との記載があり(乙35),平成24年4月4日付け
朝鮮労働党機関誌「H新聞」においては,朝鮮総聯は北朝鮮の堂々
たる海外同胞組織であり,在日朝鮮学校は朝鮮総聯の組織が運営す
る合法的な民族教育機関である旨が掲載されていた(乙34の1,
2)。
b朝鮮総聯のホームページ上では,平成24年3月1日の時点におい
て,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が
責任をもって進めている。」と記載されていた(乙83。ただし,
この記載は,被控訴人からの申入れにより,平成28年10月14
日までに削除された(乙84))。なお,教育会については,平成
24年3月1日時点の朝鮮総聯のホームページでは,上記のとおり
削除された文言に続いて,「教育会は,中央,都道府県,学校単位
で,専任,学父兄を中心に組織されている。教育会は同胞学父兄の
愛国心と熱意を呼び起こし,学校運営に必要な財政をまかない,学
校の施設や設備,環境を整えている。」と記載されていた(乙8
3)。
また,平成25年5月2日時点の朝鮮総聯のホームページ上では,
「地方本部は,中央本部の決定と方針にしたがって管轄地域の諸般
の活動を企画,組織,推進し,管下の階層別団体,事業体,学校を
指導する。」と記載されていた(乙17)。
cC新報には,朝鮮総聯中央責任副議長が中央教育局長と共に平成2
0年8月7日にI中高級学校を訪れて教員を指導した旨の記事(同
月18日付けのもの)や,朝鮮総聯中央責任副議長が中央教育局長
と共に平成21年11月4日にI1幼初級学校を訪れて教職員を指
導した旨の記事(同月13日付けのもの)が掲載された(乙55)。
d本件不指定処分がされた後のC新報の報道(平成29年4月26日
のもの)ではあるが,教育援助費と奨学金への配慮60周年記念在
日本朝鮮人中央大会で行われた朝鮮総聯中央議長であるJ氏の報告
(要旨)中には,「総聯の各級組織と学校は,在日朝鮮人運動の生
命線である民族教育事業に刻まれた偉大なる金日成大元帥様と金正
日大元帥様,敬愛する元帥様の愛の歴史を永遠に伝え,偉大なる首
領様を衷情で戴き貴い伝統と大いなる業績を成し遂げた先代たちの
志を継ぎ,民族教育を最後まで守り抜き発展させていくことでしょ
う。」「各級学校は,学校内にチュチェの思想体系と領導体系をま
すますしっかりと立て上げ,全教員が偉大なる金日成大元帥様と金
正日大元帥様の遺訓の教示と敬愛する元帥様のお言葉を間違いなく
貫徹することでしょう。」「各級学校の教員は,総聯の教育活動家
を資本主義の異国の地で愛国者を育成する真の愛国者であると高く
評価され,(中略)後代教育の重大な使命と任務を責任をもって果
たすことでしょう。」との記載がある(乙147の1,2)。
朝鮮総聯と朝鮮学校との人事面における関係の例
aK氏は,平成20年6月には朝鮮総聯京都府本部教育部長に,同年
12月にはL中高級学校長に,平成21年5月には朝鮮総聯の傘下
団体であるMの京都府本部委員長に,平成25年11月にはA高級
学校長及びM大阪府本部委員長に,それぞれ就任していた(乙13
7の1~140)。
bN氏は,平成22年3月にはA高級学校長であったが,同年5月に
朝鮮総聯教育局長に就任した(乙141,142)。朝鮮総聯教育
局は,朝鮮学校の指導・支援,教職員の派遣,教科書作成の補助,
教育研究の企画等を行っている部局である(乙143)。
cO氏は,平成13年10月にはA1中級学校長,平成18年12月
には朝鮮総聯の傘下団体である大阪府教育会の会長に,それぞれ就
任していたほか,平成28年5月には,朝鮮労働党第7回大会に際
して朝鮮総聯大阪府本部委員長の立場で「在日本朝鮮人祝賀団」団
長として北朝鮮を訪問した(乙144の1~146の2)。

朝鮮総聯の傘下団体として,Eが組織されており(乙55),朝鮮総
聯のホームページ(平成30年1月30日のもの)には,「Eは,在日
同胞青年と高等学校以上の同胞学生を網羅した中央から本部,支部,班
にいたる組織体系を備えた強力な愛族愛国の在日同胞青年学生団体であ
る。」と記載されている(乙169)。また,Eのホームページに掲載
されている「E規約」5条には,E員の義務として,E員は,共和国政
府の路線と政策,それを具現した総聯の決定を深く学習し,それを先頭
に立って擁護貫徹し,広く解説宣伝しなければならないこと,E員は,
内外の敵の策動から総聯組織を堅固に守らなければならないことなどが
規定され,同じく「E規約」38条には,朝鮮高級学校内には,E中央
委員会の批准を受けて,E朝高委員会を組織する旨が規定されている(
乙55)。
A高級学校においては,学生委員会により,Eの活動の学習会等が行
われている(乙170~173)。

朝鮮総聯の傘下団体としてMが組織されており,朝鮮学校の教員が加
盟している(乙55)。
朝鮮高級学校で使用されている教科書
a朝鮮高級学校では,共通の教科書が使用されており,その編纂者は,
かつては朝鮮総聯中央常任委員会内の教科書編纂委員会とされ(少
なくとも,平成22年までに発行された教科書にはそのような記載
がある。乙89~124の各1,2),その後,P内の教科書編纂
委員会とされた。朝鮮総聯のホームページによれば,Pは朝鮮総聯
の傘下事業体であるとされている(引用に係る原判決第3の1
エ)。
bPが発行する教科書中には,朝鮮学校での教育に対する朝鮮総聯の
関わりについて,次のとおり記載するものがある。
⒜社会(中級部)の教科書では,「総連は,初級学校から大学校に
至る民族教育体系を立派に整え,学校前教育体系と民族学級,午
後夜間学校,土曜児童教室のような準正規教育網も,体系的に整
えて来ている。」と記載されている(乙55)。
⒝社会(高級部)の教科書(乙150の1,2。教科書本文は平成
21年3月のもの)では,「民族教育事業の柱は,総聯が運営し
ている我々の学校教育である。総聯は,幼稚班から,初級,中級,
高級,大学に至る120の各級学校を設置し,同胞子女に対する
民主主義的民族教育を自主的に実施している。」と記載されてい
る。
cPが発行する教科書中には,確固たる意思の下に,北朝鮮の指導者
(金日成氏,金正日氏)を絶対的な存在として礼賛し,朝鮮労働党の
行動を褒め称え,また,朝鮮総聯の組織や活動を賞賛する記載が多く
見受けられる(乙55,乙150ないし156の各1,2,乙166
及び167の各1,2,乙168の1ないし3)。朝鮮高級学校で使
われている教科書の例を挙げると,次のとおりである。
⒜社会の教科書(乙152の1,2。教科書本文は平成21年3月
のもの)では,「敬愛する金正日将軍さまを,総書記として高く仰
ぐ朝鮮労働党は,今日,共和国の執権党として,主体偉業の教導的
力量として社会主義建設と祖国統一のための朝鮮人民の闘争を賢明
に導いてきている」「我々は同胞社会と朝鮮総聯を愛し,尊さを認
めなければならない」と記載されている。
⒝国語の教科書(乙153の1,2。教科書本文は平成21年3月
のもの)では,「今日の私たちの時代,この労働党時代は,先行す
るどの歴史的時期とも本質的に区別される高度に成熟した幸福の時
代だ。それは何よりも偉大な首領様が,人民全体が一人ひとり一緒
に社会的進歩のための闘争に直接参加し,誰かがすべての幸福を自
覚的・意識的に創造してそれを等しく享有することができる最も先
進的な社会主義制度を私たちにくださったからではないのか。」「
私たちは,抗日烈士たちから譲り受けた偉大な首領様に対する無限
の忠誠心を,幸福に対する革命的な見解とともに責任をもって後代
に譲り渡さなければならない。ここに私たちの時代の責務があり,
幸福がある。」と記載されている。
⒞音楽の教科書(乙154の1,2。教科書本文は平成21年3月
のもの)では,「将軍様を高く頂き歓呼の声響かせる太陽の威厳
輝く人民の領導者万歳万歳金正日将軍」と記載されている。
資金援助
平成22年2月11日のQ新聞において,政府筋による話として,北
朝鮮が昭和30年代前半からほぼ毎年150回以上にわたり朝鮮学校
に合計約460億円の資金提供をし,平成21年には約2億円の資金
提供をした旨の報道がされ,平成29年4月14日のC新報では,「
金日成主席と金正日将軍,金正恩元帥が在日同胞子弟のために送った
教育援助費と奨学金は,これまでで全163回にわたり,日本円で総
額480億0599万0390円に達する。」との報道がされており,
また,平成29年4月26日のC新報でも,教育援助費と奨学金への
配慮60周年記念在日本朝鮮人中央大会で行われた朝鮮総聯中央議長
であるJ氏の報告内容として,上記のとおりの教育援助費と奨学金が
送られたことが報道された。このように,北朝鮮は,昭和32年以降,
日本にある朝鮮学校に対して多額の資金援助をしてきた(甲102,
乙18の1,乙82,147の1,2,乙158の1,2,被控訴人
代表者)。
イ公安調査庁等の調査内容
公安調査庁の調査
a公安調査庁は,破壊活動防止法に基づいて,朝鮮総聯を調査の対象
としており(乙126,128,130),また,朝鮮総聯がこれま
で様々な犯罪に関わってきたと判断している(乙130)。
b公安調査庁の資料(内外情勢の回顧と展望)には,「朝鮮総聯は,
…(中略)…活動家・会員に対する思想教育を強化するとの方針を改
めて打ち出した。」,「朝鮮総聯は,…(中略)…活動家1人が自己
に割り当てられた在日朝鮮人5世帯に対する教育・宣伝普及の責任を
負う『5戸担当宣伝員体系』の再整備に努める」,「朝鮮総聯は,朝
鮮人学校での民族教育を『愛族愛国運動』生命線と位置付けており,
学年に応じた授業や課外活動を通して,北朝鮮・朝鮮総聯に貢献し得
る人材の育成に取り組んでいる」,「朝鮮総聯は,このほか,教職員
や初級部4年生以上の生徒をそれぞれ朝鮮総聯の傘下団体であるMや
Eに所属させ,折に触れ金総書記の「偉大性」を紹介する課外活動を
行うなどの思想教育を行っている」との各記載(乙19,41。平成
22年1月発行),「朝鮮総聯は,…(中略)…年頭から活動家に対
する思想教育強化の方針を掲げ,『我々は,敬愛する金正日将軍さえ
いれば必ず勝利するとの信念を抱き,将軍の望むとおりに愛国課業を
遂行すべき』などとして,金正日総書記への絶対的忠誠心を求める学
習の恒常的実施に努めた」,「朝鮮総聯は,…(中略)…北朝鮮建国
60周年に際しては,幹部活動家,若手活動家,商工人など各階層別
の代表団を総勢数百人規模で北朝鮮に派遣し,…(中略)…これら代
表団の一部は,朝鮮労働党幹部から,思想教育の徹底などを図るよう
指導を受けた」との各記載(乙42。平成21年1月発行)などがあ
る。
cまた,公安調査庁及び警察庁は,国会(平成22年11月17日の
参議院予算委員会,平成24年11月7日の衆議院文部科学委員会,
平成26年6月13日の参議院北朝鮮による拉致問題等に関する特別
委員会など)において,朝鮮学校と朝鮮総聯との関係について,朝鮮
総聯の影響は,朝鮮人学校の教育内容,人事,財政に及んでいる旨の
答弁をしている(乙20,53の1,2,乙131)。
東京都の調査
東京都は,地方自治法232条の2に基づいて,私立外国人学校に対
して教育運営費のために補助金を交付する制度を設けているが(ただ
し,東京都は,朝鮮学校の教育内容,朝鮮総聯との密接な関係性等に
ついて様々な疑義が呈されたことから,平成22年度から,朝鮮学校
を補助対象から除外している。),朝鮮学校への補助金交付の当否を
判断するに当たり,平成23年12月から平成25年10月まで調査
を行い,学校法人I学園からの説明,回答等をも聴取した上,同年1
1月にその調査結果を調査報告書(乙55)としてまとめた。同調査
報告書では,「まとめ」の項目において,①朝鮮学校は朝鮮総聯とⅢ
密接な関係にあり,教育内容や学校運営について,強い影響を受ける
状況にあること,②学校敷地内に教育目的以外に継続的に使用される
施設がある,朝鮮総聯及びその関係団体等に経済的便宜を図るなど,
I学園は準学校法人として不適正な財産管理・運用を行っていること
が指摘された。
上記①の根拠としては,社会の教科書に朝鮮総聯が朝鮮学校を設置・
運営している旨の記述があること,歴史・音楽の教科書は北朝鮮の指
導者を礼賛する特有の内容であり,「現代朝鮮歴史」(高級部)の教
科書には,「敬愛する金日成主席様」「敬愛する金正日将軍様」等の
記述が409頁中に353回登場すること,朝鮮学校の職員室及び高
級部の教室には金日成及び金正日の肖像画が掲示されていること,高
級部の生徒はEに加盟しているが,Eは朝鮮総聯の傘下団体であり,
その組織規約には,「Eは,自己の全ての事業を総聯の指導の下に進
める」などと規定されていること,各朝鮮学校内には朝鮮総聯の傘下
団体である「教育会」や「M」が存在することなどの事情が挙げられ
ており,また,②の根拠としては,I2幼初級学校及びI1幼初級学
校の敷地内に朝鮮総聯支部等の事務所が存在しており,I学園は学校
施設の一部を朝鮮総聯支部等に無償で長期間貸与していること,朝鮮
大学校のグラウンドを朝鮮総聯関連企業の負債のために担保提供して
いることなどの事情が挙げられている。
大阪府の調査
大阪府は,私立外国人学校への補助金の交付要綱において,「特定の
政治団体が主催する行事に,学校の教育活動として参加していないこ
と」を要件として定めているが,全国の朝鮮学校から選抜された児童
・生徒が平成24年1月~2月に北朝鮮を訪れ,故金正日総書記らに
永遠の忠誠を誓う歌劇を披露していたとの報道を受け,朝鮮学校側に
対し,状況を確認し,児童・生徒らに配布した書類の提出を求めたと
ころ,これを拒否されたため,朝鮮学校と朝鮮総聯との関係が清算さ
れたとの確証が得られないと判断して,A学校(初中級部)に対し平
成23年度の補助金を交付しないことを決定した。また,大阪府は,
A学校(高級部)から,補助金の交付要件のうち北朝鮮指導者の肖像
画を教室から外すことという要件について,肖像画の掲示は引き続き
検討するという返答を受けたため,平成22年度及び平成23年度の
補助金をいずれも交付しなかった(甲28)。
ウ朝鮮総聯と朝鮮学校との関係を示す他の朝鮮学校での出来事
広島地裁平成19年4月27日判決では,①学校法人R学園の実印は,
朝鮮学校の日常の管理運営を行っていた教育会の金庫で保管されてお
り,金庫の鍵は経理担当者が持っていた,②S信用組合と学校法人R
学園は,朝鮮総聯広島県本部の強力な指導の下にある傘下組織のよう
になっていた,③学校法人R学園が学校法人の形態をとったのは日本
社会において行政上の便宜等を受けるためであり,学校の日常的な管
理運営は学校単位で設けられている教育会が行っていると学園関係者
は認識していたなどの事実が認定された(乙54)。
また,東京都が平成25年11月にまとめた調査結果では,不適切な
財産管理の例として,①I1幼初級学校の校舎附属棟の一部が「T」
に無償で貸し渡されており,このTについては,平成17年5月10
日付け及び同18年7月29日付けのC新報に,朝鮮総聯町田支部事
務所が使用していることが記載されている事例,②東京都小平市にあ
る朝鮮大学校のグラウンドが朝鮮総聯事業体企業のD信用組合に対す
る負債のために担保提供され,その後,D信用組合の経営破綻により
Uが債権者となり,平成24年8月に当該グラウンドについて競売開
始決定がされたが,学校法人I学園が上記企業の債務の一部を弁済し
たため,平成25年1月に競売申立てが取り下げられた事例などが指
摘されている(乙55)。
平成22年9月26日のVニュースにおいて,朝鮮学校の生徒のうち
朝鮮総聯の幹部等の子弟については朝鮮総聯が学費と同程度の額を教
育手当として拠出し,学校側が会計上で学費と相殺する形で処理する
ことにより実質的に学費が免除されていること,朝鮮高級学校が支給
法の対象となった場合には免除者分も就学支援金が支給され,実質的
に朝鮮総聯側の利益になる可能性があることが報道された(そして,
審査会の調査では,W初中高級学校において朝鮮総聯専従者・学校教
員の子弟の学費を全額免除していることが確認された。甲26)。
神奈川県において,朝鮮総聯と関係が深いとされる教育会が朝鮮学校
の生徒等の保護者に対し生徒等に支給された学費補助金を教育会に納
付させたケースがあり,9割の保護者が応じていた旨の報道(乙75,
78,79)がされた(なお,証拠(乙77)によれば,この事実が
認められる。)。また,X学校では,「教育会会費」(月3000
円)が学則に明記されていた(甲26)。
エ審査会における議論等(平成23年11月2日に開催された第4回審査
会以降の検討状況)
平成23年11月2日の第4回審査会の議論において「朝鮮高級学校の
審査に当たっては,これまで審査を行ってきたケースと異なり,時間がか
かる可能性がある。懸念される点が多く指摘されていることもあり,いろ
いろな点を明らかにしていく必要があるのではないか。」との意見が出さ
れた(甲25)。同年12月16日の第5回審査会の議論において「実地
調査の結果では,授業における生徒の様子など特に懸念されるところは見
当たらなかったようだが,朝鮮高級学校と朝鮮総聯との関係など学校運営
に不透明なことがあれば,疑念がないようクリアにしていく必要があるの
ではないか。」との意見が出された(甲26)。
平成24年3月26日の第6回審査会においては,仮に支給対象外国人
学校として指定する場合の留意事項(素案)等について検討がされ,「総
聯関連団体からの寄付等の割合がわずかであるからといって,直ちに影響
力がないとはいえない。一方,外部からの支援を全て断てというのも難し
い。教育的な影響力が,どの程度生徒に対して及んでいるかを把握してお
く必要があるのではないか。」,「法令違反とまで判断しがたい場合でも,
適正に学校運営が行われているかどうかは慎重に判断すべきではない
か。」,「いくら確認しても,すっきり指定することができるようになら
ない。留意事項の内容について検討すること自体はよいが,学校運営など
の面で適正かどうか判断し難いとも思われる。」,「そもそも,この審査
会において,指定の可否を議論し,結論を出すのは限界があるのではない
か。」といった意見も出された(甲27)。また,同年9月10日の第7
回の審査会においても,仮に支給対象外国人学校として指定する場合の留
意事項(素案)等について検討がされ,「本審査会として,結論として1
つの方向性を示すことが求められているのか。場合によっては,委員の間
にいろいろな意見があってまとまらない,ということもあり得るのか。」
との質問に対し,事務局から「最終的に,どちらかの方向性は示していた
だくことになるが,その際に,少数意見を併記することも考えられる。」
との回答がされたほか,「書面による学校への確認については,報道等で
指摘される事実に関して,学校側が一様に否定する結果になっている。こ
ちらも捜査権があるわけではないので,真偽の確証を得ることについては
限界がある側面もあるが,審査基準に関わることについては,引き続きし
っかり確認してほしい。」との意見も出された(甲28)。
東京地方裁判所平成26年第3662号国家賠償請求事件における証
人であるY(文部科学省の職員で審査会の事務方の一人)は,審査会にお
ける審査について,公安調査庁の見解,国会質問等での答弁,朝鮮総聯の
ホームページ,各種団体からの意見,報道機関等からの情報が寄せられる
中,朝鮮学校の運営が本件規程13条に照らして適正に行われているか確
証を得ることが難しいという状況であったこと,本件規定(ハ規定)を根
拠として審査を行ってきたが,審査を継続して結論を得ることが極めて難
しい,審査会の委員のほうからも同様の意見が多数出ていることについて
新大臣に説明する予定であったことを証言しており,そして,その難しい
という点については,「書面での確認や審査というものをしたり,あるい
は電話等で学校側にお聞きする事実はございましたけれども,いろいろな
情報提供が報道機関等からもございまして,次から次にございまして,文
部科学省のほうでは,実際に立ち入り調査権とか捜査権といった,実際に
そうした具体的に確認をする手だてがない中で確認を確かなものにすると,
確証を得ていくということがなかなか難しいということでございました」
と証言している(乙163)。
その後,平成24年12月の衆議院総選挙で自民党が議席を増やして与
党になり,下村文科大臣になって以降,審査会は開催されず,平成25年
2月20日,本件規則改正,本件不指定処分が行われた。
このように,審査会の議論においても,学校運営の適正性について委員
からいろいろな意見が出され,指定についての慎重論も無視できない状況
であり,結局のところ,支給対象外国人学校として指定するという結論ま
でには至らなかったものである。そして,前記のとおり,平成24年12
月以降審査会が開催されていないことを考慮しても,審査会としては,被
控訴人につき,就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当が行
われることや,学校運営が法令に従った適正なものであることについて,
十分な確証を得ることができなかったものということができる。
オまとめ
ところで,教育基本法16条1項は「教育は,不当な支配に服すること
なく,この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであ
り,」と規定するが,これは,教育が人間の成長と社会の発展において極
めて重要な地位を占めることに照らし,教育の自主性を保持するため,一
部の勢力が教育機関やその教育内容に不当に介入することを排除する趣旨
で定められたものと考えられる。そして,教育は,本来人間の内面的価値
に関する文化的な営みとして,党派的な利害に支配されるべきではないこ
とからすると,子供が自由かつ独立の人格として成長することを妨げるよ
うな介入,例えば,一方的な観念を子供に植え付けるような内容の教育を
施すことを強制するようなことは,「不当な支配」として教育基本法16
条1項に反するものというべきである(前掲最大判昭和51年5月21日
参照)。
本件において,前記アないしウで述べた事情に基づいて朝鮮総聯と朝鮮
高級学校との関係をみると,①朝鮮総聯が組織的に朝鮮学校を指導すると
いう関係が成立していること,②朝鮮総聯と朝鮮学校との間では幹部レベ
ルでの人事交流があり,人事面における関係性が強いこと,③朝鮮学校の
教員が朝鮮総聯の傘下団体であるMに加盟しており,その生徒も朝鮮総聯
の傘下団体であるEに加盟していること,④朝鮮総聯は,その傘下事業体
であるPが発行する教科書(北朝鮮の指導者(金日成氏,金正日氏)を絶
対的な存在として礼賛し,また,朝鮮労働党や朝鮮総聯を褒め称えている
記載が多数見受けられるもの)を朝鮮学校で使用させるなど,特に,教育
内容に対してもかなり強い影響力を行使していること,⑤朝鮮総聯は朝鮮
学校に対して財政的な支援をしてきていることなどの事情を認めることが
できる。これらの事情に照らして考えれば,朝鮮高級学校の教育において
北朝鮮の指導者や国家理念を肯定的に評価することはその教育目的に沿う
ものであり,朝鮮総聯がその教育に一定の援助をすること自体は自然な行
為であるといえること,被控訴人では,私立学校法に基づき,財産目録,
財務諸表等が作成されるとともに理事会等も開催されていたこと,被控訴
人及びその所轄庁である大阪府知事が3年に1度を基本として必要に応じ
て随時,立入検査等を実施したが,A高級学校について教育基本法,学校
教育法等の法令に違反することを理由とする行政処分は行われていないこ
となど,被控訴人の主張に有益な事情を考慮しても,A高級学校は,朝鮮
総聯から,教育の目的を達するための必要性,合理性の限度を超えて介入
を受け,教育の自主性をゆがめるような支配を受けている合理的な疑いが
あるというべきである。
また,前記ア及びウで認められる事情は,朝鮮総聯が朝鮮学校に対して
財政面において強力な支配権を行使していることを疑わせるのに十分な根
拠となるものであるが,前記ア及びイのとおり認められる朝鮮総聯と朝鮮
高級学校との関係等にも照らして考えれば,上記ウで対象とされていない
他の朝鮮学校においても,朝鮮総聯が財政面における同様の支配を及ぼし
ていることを疑わせる根拠となるものであって,これによれば,A高級学
校において就学支援金の管理が適正に行われないことを疑わせる相当な根
拠があるということができる。
このように,本件不指定処分がされた平成25年2月20日の時点で,
A高級学校について,朝鮮総聯から教育基本法16条1項にいう「不当な
支配」を受けていること,及び財政面で就学支援金の管理が適正に行われ
ないことを疑わせるに足りる相当な根拠があったものと認められるのであ
り,これによれば,法令に基づく適正な学校運営という観点からして,本
件規程13条適合性があるということはできない。
⑸本件不指定処分について
ア下村文科大臣は,被控訴人に対し,平成25年2月20日付けで,①本
件規定を削除したこと,及び②A高級学校の本件規程に定める指定の基準
への適合性を審査したが本件規程13条に適合すると認めるに至らなかっ
たことを理由に本件不指定処分をしたものである。そして,文部科学省が
本件規定の削除に際して述べた平成25年2月20日付けの意見(パブリ
ックコメントへの応答)では,朝鮮学校については,拉致問題の進展がな
いこと,朝鮮総聯と密接な関係にあり教育内容,人事,財政にその影響が
及んでいることを踏まえると,本件規定に基づく指定には国民の理解が得
られないとの観点から本件規定を削除するとされていることからすると,
本件不指定処分がされた理由として挙げられた「本件規程13条に適合す
ると認めるに至らなかったこと」という点は,下村文科大臣において,A
高級学校が朝鮮総聯と密接な関係にあり,教育内容,人事,財政にその影
響が及んでいることなどから法令に基づく適正な運営が行われているとの
確証が得られなかったことを意味するものと認めることができる(なお,
本件不指定処分を受けた被控訴人においては,それまでに審査会が被控訴
人の設置するA高級学校を含めて朝鮮学校に対して調査,照会を行ってき
た経緯(補正の上で引用した原判決第3の1イ)があるため,本件不指
定処分の通知書の記載によって,朝鮮総聯との関係により適正な学校運営
に疑いがあることがその処分の根拠であると認識することができたといえ
ることは,後記8のとおりである。)。
そして,前記⑷で述べたとおり,A高級学校について,朝鮮総聯から教
育基本法16条1項にいう「不当な支配」を受けていること,及び財政面
で就学支援金の管理が適正に行われないことを疑わせるに足りる相当な根
拠があったものと認められる以上,下村文科大臣が上記の理由(朝鮮総聯
と密接な関係にあり,法令に基づく適正な運営が行われているとの確証が
得られなかったため,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった
こと)に基づいて行った本件不指定処分は,不合理なものということはで
きない。また,本件不指定処分について,文部科学大臣の裁量権の逸脱又
は濫用があるということもできない。
イこれに対し,被控訴人は,下村文科大臣がA高級学校につき本件規程1
3条適合性を否定したのは,外交的又は政治的理由に基づくものであるか
ら,下村文科大臣の上記判断には裁量権の逸脱濫用があると主張する。し
かし,上記のとおり,「不当な支配」があるか否かについて検討した結果
の結論であったものと認められるのであって,上記主張は採用できない。
なお,前記1において原判決を引用して認定したとおり,下村議員(当
時の自民党のシャドウキャビネットの文部科学大臣)は,平成23年9月
13日頃,朝鮮高級学校の高校授業料無償化についてのインタビューにお
いて,朝鮮高級学校に対する本件規定に基づく指定の可否の審査手続を再
開することは,北朝鮮の拉致問題について我が国が軟化したとの誤ったメ
ッセージとなるばかりか,外交問題に発展しかねないなどと述べていたこ
とは認められるが(原判決第3の1ク),同発言は野党議員としての発
言であり,その後の文部科学大臣としての定例記者会見では,朝鮮学校を
朝鮮総聯との密接な関係や朝鮮学校が政治的にも教育的にも朝鮮総聯の影
響下に入っていることを理由に本件不指定処分をした旨の発言をしている
こと等(補正の上引用した原判決第3の1ス,セ)にも鑑みると,前記
の発言をもって,本件不指定処分が外交的又は政治的理由に基づくもので
あったということはできない。
ウこの点,被控訴人は,文部科学大臣は本件規定に基づく指定の申請がさ
れた学校やその学校の所在する都道府県から提供された資料により本件規
定に基づく指定の可否を判断すべきであり,支援室からの質問に対する被
控訴人の回答,朝鮮総聯のホームページ,新聞記事,公安調査庁からの情
報に基づいて本件規程13条適合性を判断することはできない,特に公安
調査庁からの情報は,対立する国家や団体を規制する観点からのものであ
り,教育的観点からの客観的判断をゆがめるものであって,参考にするこ
とは絶対に許されない旨主張する。
しかし,本件規程13条適合性に係る審査について,所轄庁を通じた調
査・確認のみに限定するとの定めはなく,それのみが予定されているもの
とは認め難い上,前記説示のとおり,本件規程13条適合性の判断は,単
に教育内容などの教育的観点から行われるだけでなく,財務管理や学校の
管理運営といった観点からも行われるものであるから,支援室からの質問
に対する被控訴人の回答,朝鮮総聯のホームページ,新聞記事,公安調査
庁等からの情報にも基づいて本件規程13条適合性を正しく判断する必要
があるものというべきである。取り分け,朝鮮高級学校にあっては,本国
政府や国際的な評価機関の認定といった客観的,制度的な基準への適合性
が求められる他の外国人学校とは異なり,信頼するに足りる客観的資料が
決定的に不足しており,指定の申請がされた学校の所在する都道府県から
提供される資料では不十分であること,それゆえに,審査会においても,
「朝鮮高級学校の審査に当たっては,これまで審査を行ってきたケースと
異なり,時間がかかる可能性がある,懸念される点が多く指摘されている
こともあり,いろいろな点を明らかにしていく必要がある」などとの意見
が出され(補正の上引用した原判決第3の1イ),さらには,「そも
そも,この審査会において,指定の可否を議論し,結論を出すのは限界が
あるのではないか」との意見まで出され(甲27),審査会としての結論
に至ることがなかったことも認められるのである。これらの事情からして
も,文部科学大臣において,およそ収集し得る資料は全て俎上に挙げ,そ
の上でその客観性や信用性を十分に考慮して本件規程13条適合性の判断
をすることは何ら差支えないものというべきである(なお,公安調査庁及
び警察庁は,いずれも法によって設置された国家機関であり(法務省設置
法29条及び公安調査庁設置法,内閣府設置法64条,警察法4条及び1
5条参照),一定の調査,分析能力を備えた組織であると考えられること
に照らせば,文部科学大臣において,これらの資料や国会答弁の内容に一
定の信を置くことが不合理とはいえないというべきである。)。
被控訴人の主張は採用できない。
3争点1(本件規定の削除の違法性の有無)について
被控訴人は,本件省令により本件規定を削除することは,支給法2条1項5
号の委任の範囲を逸脱して無効である旨主張する。
しかし,上記認定,説示のとおり,A高級学校が本件規程13条に適合する
ものとは認められないと文部科学大臣が判断したことにおいて,文部科学大臣
に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるものとは認められない。本件不指定
処分と同時に本件省令により本件規定が削除されており,そのことも不指定処
分の根拠の一つとされてはいるが,基本的には,上記のとおり本件規定該当性
がないものと判断された結果であるから,本件規定の削除が支給法2条1項5
号の委任の範囲を逸脱して違法であるか否かは,本件規定に基づいてされた本
件不指定処分についての上記の判断を左右するものではない。
4争点3(本件規程15条違反の有無)について
被控訴人は,文部科学大臣が本件規定に基づく指定をするか否かの判断に
当たって,教育の専門家等で構成された審査会が取りまとめた意見を聴くも
のとする本件規程15条の趣旨からすれば,文部科学大臣は審査会の意見を
尊重すべきであり,文部科学大臣の判断は,審査会の意見と同じであること
が想定されていると主張する。
しかし,支給法は審査会を設けることについて規定しておらず,審査会は
法律の根拠を有するものではなく,また,文部科学大臣が審査会の意見を聴
くことが法令上要請されているものでもなく,文部科学大臣は審査会の意見
が自らの判断に資すると考えたため本件規程15条を設けた(本件規程15
条は,「文部科学大臣は,規則第1条第1項第2号ハの規定による指定を行
おうとするときは,あらかじめ,教育制度に関する専門家その他の学識経験
者で構成される会議で文部科学大臣が別に定めるものの意見を聴くものとす
る。」と規定するだけで,文部科学大臣が審査会の議により判断するとは規
定していない。)のであるから,審査会の意見は文部科学大臣が判断する際
の考慮要素の一つにすぎないというべきである。このことは,本件規定に基
づく指定を受けた学校について指定を取り消す場合に審査会の意見聴取を必
須のものとしていないこと(本件規程17条2項は「意見を聴くことができ
る」とする。),本件規程15条を設ける時に参考にした,大学認可の際に
文部科学大臣が大学設置・学校法人審議会に諮問する制度(学校教育法95
条,同法施行令43条)においても,審議会の意見が文部科学大臣の判断を
拘束するものではないとされていることからも明らかである。
また,前記1において原判決を補正の上引用して認定(原判決第3の1
ア,イ)したとおり,A高級学校を含む朝鮮高級学校について審査した第
7回までの審査会においては,教育基本法16条1項の「不当な支配」がさ
れていることや,適正な学校運営がされていないことが疑われる事情につい
て議論がされたが,結論を出すに至らず,この審査会において指定の可否を
議論し結論を出すのは限界があるのではないかという意見まで出されていた
状況にあり,審査会の最終的な意見の取りまとめがされたとはいえないし,
また,審査会での議論がそのような状況にあったことからすると,審査会の
意見としては,種々の意見が併記されることとなる可能性も高かったものと
考えられる。そうすると,それまでの審査会で出された委員の種々の意見を
考慮することとした上で,更なる審査を継続しないとした文部科学大臣の判
断が不合理なものとまではいえない。
この点,被控訴人は,本件規程15条は,文部科学大臣が本件規定に基づ
く指定をするに当たっては審査会の「意見を聴くものとする。」として審査
会の意見を聴くことを義務付けているのに,下村文科大臣は,本件不指定処
分をするに当たり,審査会の最終的な意見の取りまとめをさせないまま本件
不指定処分をした違法があると主張する。
しかし,上記のとおり,本件規程15条は「意見を聴くものとする。」と
規定するのみであって,文部科学大臣が審査会の「議により」判断するとい
うような規定になっていないこと,また,前記2において説示したとおり,
本件規程13条に定める要件の判断は,その性質及び内容からして専門的,
技術的検討を伴うことから,教育行政に通暁する文部科学大臣の専門的,技
術的判断に委ねられているものと解されることからすると,本件規程15条
は,審査会の意見を聴くことを義務付けているとは解されない。被控訴人の
上記主張は採用できない。
よって,文部科学大臣が審査会の最終的な意見を聴かないで本件不指定処
分をしたことが,本件規程15条に違反し,これにより本件不指定処分が違
法となると解することはできない。
5争点4(民族教育に関する権利を侵害した違法の有無)について
被控訴人は,民族教育を受ける権利は個人がアイデンティティを形成する前
提として必要不可欠の重要な権利であるのに,本件不指定処分がされることに
より,就学支援金の支給を受けられないという経済的不利益を被り,民族教育
を受ける権利の実現に重大な支障が生じるなどと主張する。
しかし,本件不指定処分は,A高級学校が在学する生徒に対し民族教育を行
うことや生徒が同学校に進学,通学することを何ら制限するものではない。な
お,本件不指定処分がされたことにより,A高級学校に在学する生徒を含む世
帯は,当該生徒が支給法2条1項1号ないし4号又は本件規則1条1項2号イ,
ロに該当する学校に在学する場合と比較すると,就学費用の負担が重くなると
いえるが,本件規定に基づく指定を受けるための被控訴人の申請が法律上の要
件を満たすものとはいえないのであるから,この負担があることをもって民族
教育を受ける権利を侵害する違法な処分であるとはいえない。同主張は採用で
きない。
6争点5(憲法14条違反の有無)について
前記2において説示したとおり,本件不指定処分の理由は,A高級学校が本
件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことにある。
そして,本件不指定処分がされた時点において,A高級学校について,朝鮮
総聯から「不当な支配」を受けていること等を疑わせるに足りる相当な根拠が
あったため,適正な学校運営という観点からして,高等学校の教育課程に類す
る課程を置くものであることに疑問が残るのであるから,生徒の思想信条や社
会的身分を理由に差別をしたとする被控訴人の主張は当たらない。
また,本件規程13条に適合するかどうかの審査につき,A高級学校と本件
規定に基づく指定を受けた他の外国人学校(B,G)との間において審査内容
に差異はないものの,A高級学校の審査の方法,程度が特に入念なものになっ
たのは,前記2において認定,説示したとおり,同校が法令に基づく適正な学
校運営を行っているかについて疑義が生じ,調査検討が必要となったためであ
る。したがって,上記の疑義が生じていなかった他の外国人学校との間で審査
の方法・程度に差異が生ずるのは,やむを得ないし,それは合理的な理由に基
づくものというべきである。
本件不指定処分が憲法14条に違反するものということはできない。
7争点6(国際人権法違反の有無)について
社会権規約2条2項及び自由権規約26条について
我が国において,ある条約を独立の裁判基準として用いるためには,条約
の基本的性格,我が国における司法と行政・立法との権力分立及び法的安定
性等の観点から,①私人の権利義務を定め直接に我が国裁判所で執行可能な
内容のものとするという条約締結国の意思が確認でき,②条約の規定におい
て私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定められていて,その内
容を補完し,具体化する法令を待つまでもなく国内的に執行可能であること
が必要であるところ,社会権規約2条2項及び自由権規約26条は,それぞ
れ「この規約の締約国は,この規約に規定する権利が人種,皮膚の色,性,
言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,
出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障するこ
とを約束する。」,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別
もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,
あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見そ
の他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいか
なる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障
する。」と規定するものであり,この文理からすると,上記②の要件を満た
すものとはいえない。
また,社会権規約2条1項は「この規約の各締約国は,立法措置その他の
すべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を
漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いること
により,個々に又は国際的な援助及び協力,特に,経済上及び技術上の援助
及び協力を通じて,行動をとることを約束する。」と規定し,また,「この
規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を
認める。」とする同規約9条については,締約国において,社会保障につい
ての権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負
うことを宣明したものであり,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきこ
とを定めたものではないと解されること(最一小判平成元年3月2日・集民
156号271頁)に照らせば,社会権規約2条2項は,締約国において,
積極的に社会保障政策を推進する施策をとる際,同項に係る要素につき政治
的,社会的,経済的理由により現実には種々の対応をとらざるを得ない面が
あり得ることを当然の前提として,上記権利の平等な実現を積極的に実現す
べき政治的責任を負うことを宣明したものというべきである。
そして,社会権規約2条2項と同趣旨である自由権規約26条も,社会権
との関係では,締約国における政治的責任を示したものと解される。したが
って,社会権規約2条2項及び自由権規約26条は,いずれも自動執行力は
なく,裁判規範性を有するものではないから,本件不指定処分が上記各規定
に違反したものということはできない。
社会権規約13条について
社会権規約13条1項は「この規約の締約国は,教育についてのすべての
者の権利を認める。締約国は,教育が人格の完成及び人格の尊厳についての
意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきこ
とに同意する。更に,締約国は,教育が,すべての者に対し,自由な社会に
効果的に参加すること,諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間
の理解,寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の
活動を助長することを可能にすべきことに同意する。」と定め,同条2項が
「この規約の締約国は,1項の権利の完全な実現を達成するため,次のこと
を認める。」とし,その(b)で「種々の形態の中等教育(技術的及び職業
的中等教育を含む。)は,すべての適当な方法により,特に,無償教育の漸
進的な導入により,一般的に利用可能であり,かつ,すべての者に対して機
会が与えれるものとすること。」,その(c)で「高等教育は,すべての適
当な方法により,特に,無償教育の漸進的な導入により,能力に応じ,すべ
ての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」とする。
上記のような社会権規約13条2項(b)の規定に加え,支給法の内容を
みても,支給法が同規定の効力を日本国内において直接発生させるために制
定された法律であるとはいえないし,また,社会権規約13条2項(b)の
文理からすれば,同項(b)が,前記で述べた条約が自動執行力を有する
ための要件を満たしているとはいえない。また,社会権規約2条1項が締約
国において立法措置その他の全ての適当な方法によりこの規約において認め
られる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることからすれ
ば,社会権規約13条2項(b)も,締約国においてその定める権利の実現
に向けて社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したにすぎ
ないものというべきである。そうすると,本件不指定処分が上記規定に違反
するということはできない。
人種差別撤廃条約2条及び5条について
人種差別撤廃条約2条1項は,「締約国は,人種差別を非難し,また,あ
らゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する
政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため,
(a)各締約国は,個人,集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に
従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に
従って行動するよう確保することを約束する。(b)各締約国は,いかなる
個人又は団体による人種差別も後援せず,擁護せず又は支持しないことを約
束する。(c)各締約国は,政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種
差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し,廃止
し又は無効にするために効果的な措置をとる。(d)各締約国は,すべての
適当な方法(状況により必要とされるときは,立法を含む。)により,いか
なる個人,集団又は団体による人種差別も禁止し,終了させる。(e)各締
約国は,適当なときは,人種間の融和を目的とし,かつ,複数の人種で構成
される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励
すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制すること
を約束する。」と,同条2項は,「締約国は,状況により正当とされる場合
には,特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の
十分かつ平等な享有を保障するため,社会的,経済的,文化的その他の分野
において,当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための
特別かつ具体的な措置をとる。この措置は,いかなる場合においても,その
目的が達成された後,その結果として,異なる人種の集団に対して不平等な
又は別個の権利を維持することとなってはならない。」と定め,同条約5条
は,「第2条に定める基本的義務に従い,締約国は,特に次の権利の享有に
当たり,あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種,皮
膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律
の前に平等であるという権利を保障することを約束する。(a)裁判所その
他のすべての裁判及び審判を行う機関の前での平等な取扱いについての権利,
(b)暴力又は傷害(公務員によって加えられるものであるかいかなる個人,
集団又は団体によって加えられるものであるかを問わない。)に対する身体
の安全及び国家による保護についての権利,(c)政治的権利,特に普通か
つ平等の選挙権に基づく選挙に投票及び立候補によって参加し,国政及びす
べての段階における政治に参与し並びに公務に平等に携わる権利,(d)他
の市民的権利(特に,以下略),(e)経済的,社会的及び文化的権利(特
に,(v)教育及び訓練についての権利,その他の記載((ⅰ)ないし(ⅳ)及
び(ⅵ))略),(f)輸送機関,ホテル,飲食店,喫茶店,劇場,公園等一
般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利」と定
める。
このような人種差別撤廃条約の規定も,その文理からして,条約締結国が
当該権利の実現に向けた積極的施策を推進すべき政治的責任を負うことを定
めたにすぎないものであって,裁判規範性は認められない。その上,本件不
指定処分は,A高級学校には教育基本法16条1項にいう「不当な支配」が
あること等の疑いがあり,本件規程13条適合性を認めることができないこ
とを理由としてされたものであって,国籍や人種に基づいてされたものでは
ないから,上記各規定に違反するとはいえない。
国連人権関連委員会からの懸念及び勧告の無視による社会権規約等違反に
ついて
被控訴人は,社会権規約委員会,人種差別撤廃委員会及び子どもの権利委
員会は,朝鮮高級学校が支給法の対象とされないこと等について懸念を表明
し,控訴人に対してその是正を勧告しているところ,上記各委員会は,日本
が批准するそれぞれの条約に規定された国家報告審査制度(社会権規約16
条及び17条,人種差別撤廃条約9条,児童の権利に関する条約44条)に
よるものであり,控訴人が留保なくこれらの条約を批准している以上,控訴
人が上記の懸念及び勧告を無視することは上記各条約違反となるとともに日
本国憲法98条及び前文に違反するものであり,本件不指定処分も,違法で
ある旨主張する。
しかし,被控訴人が指摘する人種差別撤廃委員会等の所見等は,懸念や勧
告を示すものにすぎない上,支給法の仕組み等を踏まえたものではないし,
朝鮮高級学校,北朝鮮及び朝鮮総聯に対する具体的な事実調査を行った上で
されたものでもないことからすれば,上記の所見等をもって本件不指定処分
が社会権規約等に違反する違憲,違法なものということはできない。
8争点7(行政手続法違反の有無)について
行政手続法6条及び7条について
ア行政手続法7条は,申請に対する処分につき,いわゆる「受理」の概念
を排斥し,申請が到達したときは,行政庁には,遅滞なく審査を開始する
義務があることを定めるとともに,申請が形式上の要件に適合しないとき
は,速やかに補正を求めるか,申請の拒否をしなければならない旨を定め
たもので,申請に対する審査の開始時期と,形式上の要件に適合しない申
請に対する応答時期について規定したものであって,申請の処理期間につ
いては規定していない。したがって,同条が本件規定に基づく指定に関す
る処分までの期間を可及的に迅速にすることを法的に義務付けているとい
うことはできない。
イ前記1において原判決を補正の上引用して認定したとおり,被控訴人は,
平成22年11月27日付けでA高級学校につき本件規定に基づく指定の
申請をしたが,その直前である同月23日に北朝鮮による韓国延坪島砲撃
事件が起きていたため,控訴人は,A高級学校を含む朝鮮高級学校に対す
る本件規定に基づく指定の可否の審査手続を開始しなかったものであり,
その後,菅首相は,北朝鮮が上記事件の砲撃に匹敵するような軍事力を用
いた行動をとっていないことから,平成23年7月には南北間及び米朝間
の対話が行われるなど北朝鮮と各国との対話の動きが生じていることを踏
まえ,事態は上記の砲撃以前の状況に戻ったと総合的に判断できるとして,
平成23年8月29日,髙木文科大臣に対し審査手続を再開するよう指示
した(原判決第3の1エ,カ)。審査手続が再開されてからは,審査会
において,平成23年11月,同年12月,平成24年3月及び同年9月
の4回にわたって審査を行ったほか,支援室において書面による質問や朝
鮮高級学校の授業風景の視察等の実地調査を行った(原判決第3の1
イ)。また,朝鮮高級学校については,法令に基づく適正な学校運営がさ
れているかについて疑義が生じたため,その調査検討が必要となり,他の
学校に比して入念に審査が行われることになったものである(前同)。こ
のような経過からすると,上記の審査に時間を要したことはやむを得ない
ものであったということができる。
また,審査を停止していた理由について,髙木文科大臣は,平成23年
3月8日の参議院予算委員会において,「昨年の北朝鮮の砲撃について,
(中略)まさに国家の安全にかかわる事態でありました。このため,国内
において政府を挙げて情報収集に努めておりましたし,不測の事態に備え
て国民の生命,財産を守ると,こういう見地から一旦手続は停止したもの
であります。」「なお,審査や指定に当たっては,外交上の配慮などによ
り判断すべきものではなくて,教育上の観点から客観的に判断すべきもの
との考え方については変わっておりません。」と答弁した(補正の上引用
した原判決第3の1オ)。不測の事態に備え万全の態勢を整える必要が
あった当時の情勢を踏まえれば,控訴人が指定の可否の審査手続を開始し
なかったことが,殊更に審査を引き延ばすものであったとは認め難い。
以上のことからすれば,本件不指定処分について行政手続法6条及び7
条の違反があるとはいえないというべきである。
ウまた,被控訴人は,行政庁が相当期間内に処理すれば旧法を適用して許
可すべきところを不作為のまま放置し,その間に法令が改廃され,これを
理由に不許可処分とすることは許されないと主張する。しかし,前記2
において説示したとおり,A高級学校は本件規程13条に適合するとは認
められないのであるから,控訴人が相当期間内に処理すれば旧法を適用し
て許可すべき事情が存在したものということはできず,被控訴人の主張は
前提を欠くというべきである。また,本件では,前記イのとおり,A高級
学校については審査会の審査に時間を要したことはやむを得ないのであっ
て,申請から相当期間内に処分がされていないということはできない。
行政手続法8条について
処分において示すべき理由の程度は,処分の性質と理由付記を命じた法律
の規定の趣旨,目的に照らして決すべきであるところ,本件不指定処分の通
知書には本件規定が削除されたこと及び本件規程13条適合性が認められな
いことが明示されている。
本件規程13条は,「前条に規定するもののほか,指定教育施設は,就学
支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運
営を適正に行わなければならない。」と規定しており,就学支援金の授業料
に係る債権の弁済への確実な充当という例示をした上で,法令に基づく学校
の運営が適正に行われていることを要件としているのであるから,本件不指
定処分においては,処分を受けた申請者がその根拠を理解し,これに対する
不服申立てをするために必要な理由は示されているものというべきである。
この点について,被控訴人は,本件不指定処分の実質的理由は,本件規程
13条の「法令」に教育基本法が含まれることを前提とし,同法16条1項
違反に基づくというものであるのに,その旨は示されていない上,同項違反
に当たる具体的事実も示されていないと主張する。しかし,文部科学大臣が
本件不指定処分をするに際し,審査会が被控訴人の設置するA高級学校を含
めて朝鮮学校に対して調査,照会を行ってきた経緯(補正の上で引用した原
判決第3の1イ)によれば,本件不指定処分に関する限り,被控訴人にお
いては,前記通知書の記載によって,朝鮮総聯との関係により適正な学校運
営に疑念が生じていることがその処分の根拠であると認識し得るものという
べきであり,理由の付記を求める行政手続法8条の違反があるということは
できない。
行政手続法違反の取消事由の該当性について
仮に,本件不指定処分が行政手続法6条及び7条に違反するものであると
しても,本件不指定処分における文部科学大臣の判断は不合理なものではな
く,A高級学校は実体的に本件規定に基づく指定を受けることができない外
国人学校であるから,上記事由は本件不指定処分の違法を根拠付ける事由に
なるものではない。
9当審における当事者らの補充主張について
当審における当事者らの補充主張については,前記2において検討したとお
りである。
10義務付けの訴えの適法性について
本件訴えのうち,文部科学大臣が被控訴人に対してA高級学校について本件
規則1条1項2号ハの規定(本件規定)に基づく指定をすべき旨の義務付けを
求める部分は,行政事件訴訟法3条6項2号所定のいわゆる申請型の処分の義
務付けの訴えであるところ,同訴えは,法令に基づく申請を却下し又は棄却す
る旨の処分又は裁決がされた場合において,当該処分又は裁決が取り消される
べきものであり,又は無効若しくは不存在であるときに限り,提起することが
できるとされている(同法37条の3第1項2号)。
しかし,既述のとおり,本件不指定処分は違法とはいえないから,本件訴え
のうち上記義務付けを求める部分は,同法37条の3第1項2号の要件を欠き,
不適法である。
第4結論
以上によれば,本件訴えのうち,本件規定に基づく指定処分の義務付けを求
める部分については却下すべきであり,その余の請求は理由がないから棄却す
べきであって,これをいずれも認容した原判決は不当であるから,本件控訴は
理由がある。
よって,本件控訴に基づき,原判決を取り消して,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官
髙橋譲
裁判官
山本善彦
裁判官
安田大二郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛