弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決中金五万円およびこれに対する昭和二八年一〇
月二二日以降完済に至るまで年六分の割合による金員ならびに金五万円およびこれ
に対する同年一一月一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払を求め
る請求に関する部分を破棄する。
     被上告人は上告人に対し前項の金員を支払え。
     その余の上告を棄却する。
     訴訟の総費用はこれを七分し、その一を被上告人の負担とし、その余を
上告人の負担とする。
         理    由
 上告指定代理人浜本一夫、同舘忠彦の上告理由について。
 旧国税徴収法(昭和三四年法律一四七号による改正前)による債権の差押は強制
執行による債権差押と同じく、債務者に対してはその履行を禁止し、滞納者に対し
ては債権の取立その他の処分を禁止する効力を有するものであつて、差押の結果、
被差押債権の債権者および債務者は右債権につき弁済、取立等一切の処分が禁止さ
れるものと解すべきである。従つて、別段の規定がなければ第三債務者は相殺を以
つて差押債権者に対抗することもできないのである。然るに、民法五一一条は「支
払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債権ニ依リ相殺ヲ以テ差押債権
者ニ対抗スルコトヲ得ス」と規定するが故に、その反対解釈として、差押前に第三
債務者が取得した債権による相殺は例外として差押債権者に対抗し得るものとして
いると解せられる。そして、その理由は、第三債務者が差押前に取得した債権を有
するときは、差押前既にこれを以つて被差押債権と相殺することにより、自己の債
務を免れ得る期待を有していたのであつて、かかる期待利益をその後の差押により
剥奪することは第三債務者に酷であるからである。かかる立法趣旨に徴するときは、
第三債務者が差押前に取得した債権であるからといつて、その弁済期の如何に拘ら
ず、すべて差押債権者に相殺を対抗し得るものと解することは正当ではない。すな
わち、差押当時両債権が既に相殺適状にあるときは勿論、反対債権が差押当時未だ
弁済期に達していない場合でも、被差押債権である受働債権の弁済期より先にその
弁済期が到来するものであるときは、前記民法五一一条の反対解釈により、相殺を
以つて差押債権者に対抗し得るものと解すべきである。けだし、かかる場合に、被
差押債権の弁済期が到来して差押債権者がその履行を請求し得る状態に達した時は、
それ以前に自働債権の弁済期は既に到来しておるのであるから、第三債務者は自働
債権により被差押債権と相殺することができる関係にあり、かかる第三債務者の自
己の反対債権を以つてする将来の相殺に関する期待は正当に保護さるべきであるか
らである。これに反し反対債権の弁済期が被差押債権の弁済期より後に到来する場
合は、相殺を以つて差押債権者に対抗できないものと解するのが相当である。けだ
し、かかる場合に被差押債権の弁済期が到来して第三債務者に対し履行の請求をす
ることができるに至つたときには、第三債務者は自己の反対債権の弁済期が到来し
ていないから、相殺を主張し得ないのであり、従つて差押当時自己の反対債権を以
つて被差押債権と相殺し自己の債務を免れ得るという正当な期待を有していたもの
とはいえないのみならず、既に弁済期の到来した被差押債権の弁済を拒否しつつ、
自己の自働債権の弁済期の到来をまつて相殺を主張するが如きは誠実な債務者とは
いいがたく、かかる第三債務者を特に保護すべき必要がないからである。
 ところで、債権者債務者間に生じた相対立する債権債務につき将来差押を受ける
等の一定の条件が発生した場合に、右双方の債権債務の弁済期如何を問わず、直ち
に相殺適状を生ずるものとし、相殺予約完結の意思表示により相殺を為し得るとい
う原判示の如き相殺の予約は、差押当時現存していた債権につき、差押を契機とし
て、当時相殺適状に達していないのに拘らず、また、両債権の弁済期の前後を問わ
ず、直ちに相殺適状が発生したものとして相殺により被差押債権を消滅せしめんと
するものであるが、かかる特約は前示民法五一一条の反対解釈上相殺の対抗を許さ
れる場合に該当するものに限つてその効力を認むべきである。すなわち、差押前第
三債務者が取得した反対債権につき、その弁済期が受働債権である被差押債権の弁
済期より先に到来する関係にある自働債権と受働債権との間においては、前記の如
き相殺予約は、第三債務者の将来の相殺に関する期待を正当に保護するものである
から、かかる場合に限り、前記相殺予約は有効に差押債権者に対抗し得るものと解
するのが相当であるが、然らざる場合、すなわち、民法五一一条の反対解釈を以つ
てしても相殺の対抗が許されない場合に該当する相殺予約は、差押債権者に対抗し
得ないものといわなければならない。けだし、後者の場合にも右相殺予約の効力を
認めることは、私人間の特約のみによつて差押の効力を排除するものであつて、契
約自由の原則を以つてしても許されないといわねばならない。従つて、自働債権の
弁済期が受働債権のそれと同じであるかまたはその以前に到来する関係にある債権
相互についての右相殺予約は差押債権者に対抗し得るものであるが、然らざる債権
相互についての右相殺予約に基づく相殺は差押債権者に対抗し得ないものといわな
ければならない。
 翻つて、これを本件について見ると、特に本件各自働債権及び各受働債権のそれ
ぞれにつき当事者により相殺の目的となる債権の指定がなされたことの主張、立証
がないから、民法五一二条、四八九条に則り順次相殺をすれば、受働債権である昭
和二八年四月二二日預入れの二七、〇〇〇円、同じく二三、〇〇〇円および同年五
月一日預入れの五〇、〇〇〇円の各預金債権を除き、その他の預金債権については、
その弁済期が自働債権である貸金債権のうちのいずれかの弁済期と同じであるかま
たはその後に到来する関係にあるから、前記相殺の予約に基づき、その相殺による
消滅を以つて差押債権者である上告人に対抗し得るものと解せられるけれども、右
三口の受働債権については、自働債権のうちこれより先に弁済期の到来する関係に
ある同年八月一四日貸付の一〇〇、〇〇〇円の貸金債権が前同様の理由から受働債
権である同年四月九日預入れの五〇、〇〇〇円および同月一七日預入れの五〇、〇
〇〇円の各預金債権との相殺により消滅に帰する結果、他のすべての自働債権より
先に弁済期が到来する関係にあり、従つて、この三口の預金債権については前記相
殺の予約を援用し、相殺によるその消滅を以つて差押債権者である上告人に対抗し
得ないものといわなければならない。
 なお、被上告人は、原審において、上告人が本件差押の際、被差押債権に対する
被上告人の質権および前記相殺の予約の存在することを知つていたから、これを以
つて上告人に対抗し得る旨主張し、これにつき原審の判断はなされていないけれど
も、前記相殺の予約の効力に関して既に述べたところは、差押債権者においてその
存在を知つていたと否とを問うものでなく、また、右質権につき第三者に対する法
定の対抗要件を具備していなかつたことは被上告人の認めているところであるから、
上告人が右質権設定の事実を知つていたとしても、被上告人はこれを以つて上告人
に対抗し得ないのである。
 従つて、原判決が前記相殺の予約を全画的に差押債権者に対抗し得るものとして、
前記三口の預金債権の相殺による消滅の抗弁を認容している部分に限り、法令の解
釈を誤つた違法を犯すものといわざるを得ず、この部分については、論旨は理由が
あり、原判決は破棄を免れず、その余の部分に対する論旨は理由がない。
 よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、八九条、九六条、九二
条に従い、裁判官奥野健一の補足意見、裁判官石坂修一、同山田作之助、同横田正
俊、同草鹿浅之介、同石田和外、同松田二郎の反対意見があるほか、裁判官全員一
致の意見により、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。
 旧国税徴収法(昭和三四年法律一四七号による改正前のもの、以下同じ)による
債権の差押は民訴五九八条、新国税徴収法六二条二項の場合と同じく、第三債務者
に対してはその債務の履行を禁止し、滞納者に対しては債権の取立その他の処分を
禁止する効力を有し、被差押債権につき債権者及び債務者は弁済、取立等の一切の
処分が禁止されるものと解すべきであつて、かかる差押債権者の地位は当該債権に
つき処分禁止の仮処分をした仮処分債権者の地位に酷似する。従つて、差押債権者
が旧国税徴収法二三条ノ一第二項により納税者に代位して被差押債権を行使する場
合においても前記差押債権者たる地位を失うものではない。これは差押を伴わない
で単に被差押債権の債権者自身がその債権の履行を請求する場合と異り、第三債務
者は債権者自身に対抗し得る事由であつても、差押債権者には対抗し得ない場合の
あることはむしろ当然である。
 そして、民法五一一条の反対解釈として第三債務者は差押前に取得した反対債権
による相殺だけは例外として差押債権者に対抗できることとしているのであるが、
かかる例外規定は差押制度の実効性、信用性を参酌して、第三債務者と差押債権者
の双方の利益を衡平に考慮して解釈すべきである。然るときは、差押当時両債権が
既に相殺適状にある場合は相殺を以つて差押債権者に対抗し得ることは勿論である
が、それに止らず、第三債務者の反対債権の弁済期が被差押債権のそれより先に到
来する場合にも相殺を以つて差押債権者に対抗せしめて然るべきである。けだし、
差押債権者が被差押債権につき弁済期到来して第三債務者に対しその履行を請求し
得るに至つたときは、既に第三債務者の反対債権の弁済期は到来しているのである
から、何時でも相殺を以つて差押債権者に対抗し得る状態にあるのであつて、かか
る第三債務者の有する期待利益を差押によつて奪うことは第三債務者に酷であるか
らである。
 しかし、反対債権の弁済期が被差押債権のそれより後に到来する場合は、被差押
債権の弁済期が到来して差押債権者が第三債務者に対してその履行の請求をするこ
とができるに至つた場合でも、反対債権の弁済期が未到来である限り、第三債務者
はその履行に応ずべき義務があるわけである。然るに何らの理由もなく履行を拒否
しつつ、自己の反対債権の弁済期の到来するのを待つて初めて相殺を主張しようと
する第三債務者の如きは誠実な債務者とはいい難く、これを保護して差押債権者の
利益を犠牲にすることは衡平でないというべきである。従つて、かかる反対債権を
有する第三債務者は相殺を以つて差押債権者に対抗し得ないものと解するのが相当
である。独逸民法三九二条は正にこの法理を宣明した規定であつて、わが民法五一
一条の解釈に当り参考に値するものというべきである。
 果して然らば、右の如く本来相殺を以つて差押債権者に対抗できない債権につい
て、当事者の特約により相殺を以つて差押債権者に対抗できるような結果を生ぜし
めんとする所謂相殺の予約は差押債権者に対してその効力を対抗できないものと解
すべきは当然である。若しかかる特約に対抗力を認めるとすれば、民法五一一条の
相殺制限に関する規定を免脱するものであるのみならず、差押の効力を排除して差
押債権者に優先して自己の反対債権の満足を得んとするものであつて、私人間の特
約による一種の差押免脱約款を認めるのと等しいことになり、しかも、何らの公示
方法を講ぜずして、被差押債権について、自己の反対債権と相殺することにより優
先的に自己の反対債権の満足を得る一種の質権を設定するのと同様の結果となり、
物権法定主義ないし債権者平等主義の原則にも反することになる。殊にかかる特約
の効力を国税滞納処分に基づく差押債権者に対抗せしめることは旧国税徴収法三条
又は新国税徴収法一五条の厳格な要件を具備せずして国税に優先する債権を作り出
すのと同一の結果となり、強行法規の性質を有する右各規定にも反するものという
べきである。若し当事者間の予めの特約がすべて差押債権者に対抗できるとすれば、
当事者間において予め差押後に取得する債権によつても相殺し得る旨の特約や、差
押を受けたような場合には債権者は債務を免除しようというような予約までも、差
押債権者に対抗できることになり、差押制度の実効性、信用性は破壊されることに
なる。
 破産の場合は、破産法一七条により期限附破産債権は破産宣告の時に弁済期到来
するものと看做され、破産債権者は同法九九条により破産者に対する債務と相殺す
ることが許されているのであつて、法律の明文により相殺適状の到来が擬制されて
いるのである。和議法及び会社更生法の場合もまた同様である。かくの如き特に法
律の明文なくして、当事者の特約だけで差押と同時に相殺適状を生ぜしめ、相殺を
差押債権者に対抗せしめることは許されないものと解すべきである。また、所謂譲
渡担保権は当該権利の移転と同様の登記又は引渡(占有改定)を具備して第三者に
対抗できるものであるが、かかる公示方法を具備せずして当事者の特約だけで実質
的に質権と同様な優先的権利を認めることは許されないものと考える。
 裁判官石坂修一の反対意見は次の通りである。
 債権者が複数である場合における債権者相互間の関係は平等であり、担保物権付
債権について特別の所遇をうける場合を除いては、その間に優劣差等のないのを原
則とする。これ債権平等の原則と称せられるものであつて、現代における取引の秩
序を支へるところの根本理念である。従つて、ある特定の債権者(但し、担保物権
を以つて支払を保障されて居らない債権者)と債務者との合意を以つて当該債権者
のみを優遇しようとする特約は、右債権平等の原則に反するものであつて、無効の
ものと解さなければならない。今、本件についてみるに、原判決によれば、原審は、
「訴外Dの被控訴銀行(被上告人、以下同様)に対する手形貸付債務につき同訴外
人が他より差押を受ける等不履行のおそれあると認められるときは、すべて期限が
到来したものとみなされても異議なく直ちに債務額を弁済する」旨及び「同訴外人
の被控訴銀行に対する預金その他の債権は弁済期の如何にかかわらず何時でも任意
に同訴外人の負担する債務と相殺せられても異議なき」旨、即ち、両当事者間に生
じた相対立する債権債務につき将来一定の条件が発生した場合、右双方の債権債務
の弁済期の如何を問わず、被控訴銀行の相殺予約完結の意思表示により対当額で相
殺し得る趣旨の、所謂、相殺の予約を締結してあつたもので、被控訴銀行は判示滞
納処分による差押のあつたことから、右約旨に基づく予約完結の意思表示として判
示相殺の意思表示に及んだものであり、右相殺の予約は契約自由の原則上その有効
であること勿論であるから、被控訴銀行に対する右訴外人の判示預金債権は右相殺
の意思表示の限度において、判示差押前にすでに消滅に帰していたものであるとい
うのである。かかる契約は、被控訴銀行の主観と恣意とにより貸付を受け同時に預
入を余儀なくせられている銀行との取引人の経済的死活を、全く、被控訴銀行が制
扼し、同時に、同訴外人に対する被控訴銀行以外の善意の債権者が銀行の任意の時
に蹂躪せられる結果を招来する虞がないとはいえない。これは、本来、公共の利益
のためにも存在する銀行のなすべき契約としては、不正義、不公平に近い観がある。
しかしながら、これはしばらく措くとして、右原判決によれば、原審は、債権者で
ある被上告人と債務者である右訴外人との間の合意、即ち、原判決理由に示すとこ
ろの、相殺の予約を以つて他の債権者を排し、被上告人を特に優遇しようとする契
約を有効として是認するものであり、右は少くとも、現代における取引の根本理念
である前示債権平等の原則を無視するものであつて、明らかに違法のものとなさざ
るを得ない。されば本上告論旨は結局理由あるに帰し、原判決はこの点において全
部破棄を免れないものと思料する。
 裁判官山田作之助の反対意見は次のとおりである。
 一、銀行(相互銀行、信用金庫等預金業務を取扱う金融機関を含む)に定期預金
(その他の定期性預金の場合も同様)をしているものが、その預金を担保として、
同一銀行から金員の借入をなすことは、常に行われているところで、銀行側からい
えば、自己への預金を見返り(担保)としての貸出しであり、この種の貸出はおそ
らく、銀行貸出業務の大宗を占めるものというも過言ではないと思われる。
 二、この場合、すなわち、銀行が、自行への預金を見返りとして貸出を為す場合
は、銀行は、予め、預金者より一札(約定書、担保差入証等の形式をもつて)を徴
し、(イ)預金者が銀行に対して負担する借入金、その他の債務(手形等)の支払
を終る迄は、その見返りとして差入れている預金は引出さないこと(期限がきたら
書換継続すること)(ロ)預金者が銀行に対して負担している前示債務の支払を期
日に怠つたときは、銀行は同人の有する銀行への預金を(その預金の期限がすでに
到来している場合は勿論、未到来のものについても)即時差引計算、すなわち、相
殺し得るとの特約をなさしめおき、右特約に基づき、預金者が、銀行に負担してい
る借入金等の債務の支払を怠つたときは、即時、これと同人の預金とを相殺するこ
とにより、貸付金の決済をする方法がとられていることは、今日一般に公知とされ
ているところであり、本件もまたその一例である。
 三、この場合、銀行の貸付金と預金とを相殺するという、銀行と預金者間に予め
締結されている所謂相殺に関する特約は、取引の実際の便宜からするも、契約自由
の原則からするも、はたまた、互に対立関係にある債権者債務者を双方公平に保護
する見地からするも、これを無効とすべき理由は一つもないといわなくてはならな
い。
 四、また、銀行は、平素、貸付金等自己の債権の確実なる回収を計る目的で、自
己の債権の期限がいまだ到来せざるうちでも、債務者側に、破産の申立を受けたと
か、他から差押を受ける等、同人の信用が低下したと認められる事由が発生したと
きは、そのとき限り、同人に対する自己の債権の期限が到来したと見做しその権利
を行使することが出来るとの特約を、債務者との問に取交わし置くことも、常に見
られることで、この特約も、また、民法一三七条が、債務者が破産となつたとき、
又は担保を毀損したときは当然(特約なくとも)、期限の利益を喪失すると規定し
ていることにかんがみ、当事者間の特約をもつて、期限喪失の事由を、前示民法一
三七条所定事項以上、一歩前進または拡大した事項にまで、例えば、同法一三七条
には破産を受けたるときとあるを、破産の申立を受けたるときとし、又は他より差
押を受けたるとき等の事由を加えることは、これまた当然為し得るところといわな
くてはならない。
 五、そして、このように、既に、担保に差入れられている(相殺契約に服してい
る)預金について、銀行以外の第三者が、差押をした場合における差押の効果につ
いて考えてみると(その債権者が、預金者の滞納税金取立の地位にたつ国である場
合も同様である)、差押債権者は、差押えにより債務者が第三債務者に対してもつ
ていた債権以上のものを押えるのではなく、その債権そのものを押えるに過ぎない
ものであるから、右債権につき、差押えられる以前から附着している瑕疵、もしく
は、抗弁等は、右差押債権者にも、当然引継がれ対抗さるべき筋合である。換言す
れば、被差押債権の債務者(銀行預金の場合では銀行)は、第三者が右債権を差押
えたることにより、何等特別に不利益を蒙むるべきでない、従つて、自己が右債務
につき主張し得べき、差押以前からもつている取消権、同時履行の抗弁権、反対債
権との相殺権等は、差押えられたることによりこれを失うものでなく、差押債権者
にも当然対抗し得るものといわなくてはならない。この理は、民法が、五一一条を
もつて、「支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債権ニ依リ相殺ヲ
以テ差押債権者ニ対抗スルヲ得ス」と規定し、差押以前に取得した債権については
当然相殺し得ることを明らかにしているのみならず、債権譲渡の場合についても、
四六八条二項において、「譲渡人カ譲渡ノ通知ヲ為シタルニ止マルトキハ債務者ハ
ソノ通知ヲ受ケルマテニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコト
ヲ得」と規定し居ることにかんがみ、同様に解せられるからである。
 六、本来、債権は、債権者と債務者との相関関係において成立しまた存続してい
るものであるから、債権自体につき、当事者間での種々の制約、抗弁(例えば同時
履行の抗弁、相殺権、取消権等)を伴つている場合が多いのである。従つて、債権
者が、債務者の第三債務者に対して有する債権を差押えたとしても、何時、右差押
債権に附着している抗弁権を第三債務者より対抗されるやも計られざる危険がある
のである。だから、右差押債権者の蒙ることあるべき危険を防ぐために、民事訴訟
法は、六〇九条をもつて、差押債権者は、第三債務者に対し、裁判所を通じ、(イ)
債務を認めるか否か、認めるとしてその限度、(ロ)並びに支払を為す意思ありや
否や、等についての第三債務者の陳述を求めることが出来るとしているのである。
右差押債権者の催告に対して、第三債務者は、差押債権につき、自分は相殺権を有
するとか、同時履行の抗弁権を有するとか、種々対抗し得べき事由を回答すること
により、右債務について有する第三債務者の抗弁権、利益等は保護されることとな
り、同時に、差押債権者においても、空の債権を差押えることの危険をまぬかれる
こととなるのである。されば、銀行と預金者間の前示特約(ことに期限の利益を失
わせる)による相殺契約は差押債権者の権利を侵害するものであるから無効である
とする論は、債権の本質からいつても、また、前示民訴六〇九条の規定が存在する
こと自体より帰納しても、その理由のないことは明らかであると考える。
 七、本件は、預金者に対する債権者が国であり、国が、滞納税金のため、納税人
の銀行に対して有する預金を押えた事案であるが、その場合をいうも、差押債権者
が普通の債権者である場合と、その効力を異にするものではないと考える。けだし、
現行税法(国税徴収法八条)は、国税はすべての他の公課及び債権に先立ちてこれ
を徴収すると規定されているだけで、納税人の財産上に一定の担保権を有する債権
者がある場合には、その担保権の価格を限度として、その債権に対しては、国税を
先取しないと定めているのであり、この規定の趣旨は、税金は、納税人の有する財
産の限度において納税人より徴収さるべく、第三者の権利を侵害して迄も、換言す
れば第三者の負担において、滞納税金を徴収すべきでないとする精神の現われとみ
るべきであり、したがつて、国が納税人の銀行に対する預金債権を差押えた場合に
おいても、国は、差押えによつて、納税者に代つて、当該預金についての預金者の
立場にたつて、その預金債権を行使し得るに止まり、第三債務者である銀行が、預
金者に対して有する相殺権の行使まで制限すべき筋合ではないと解すべきであるか
らである。したがつて、銀行は、預金者とのかねてよりの特約により、右差押え以
前より有する預金者への貸付金債権その他の債権と、差押後においても相殺するこ
とが出来、相殺の限度で、国に対して差押債権たる預金債権の消滅を主張し得るも
のといわなくてはならない(昭和二六年(オ)第三三六号昭和二七年五月六日最高
裁第三小法廷判決、民集六巻五号五一八頁参照)。このことは、また、税金は、納
税人の有する財産資力の限度において納税人より徴収すべきもので、第三者の権利
を害してまで、すなわち、納税人以外の第三者の負担においてまで(その第三者が
国の有する税金債権を悪意にて詐害する等の事実があるとき、例えば、税金滞納者
が滞納税金の支払をまぬかれるために、納税者が自己の有する預金を担保として銀
行より借入をなしその預金をからにしおくにつき銀行が了解を与えている場合等は
格別)徴税すべきものではないとの原則から考えても、また当然であるといわなく
てはならない。
 八、されば、如上述べたところと反対の見解にたつて、原判決を攻撃する上告理
由は、すべてその理由なく、本件上告はこれを棄却するのを相当とする。裁判官横
田正俊の反対意見は次のとおりである。
 (一) 相殺の制度は、互に同種の債権を有する当事者間において、自己の債務
については相手方に対し履行をする一方、自己の債権については相手方から任意の
履行を受け又はそれがない場合には担保権の実行もしくは強制執行手続により強制
的にその満足をうけるという煩さ、かつ迂遠な手続を履むことを避け、相手方に対
する一片の意思表示により、双方の債権を対当額において決済する(消滅させる)
ことにより、債権、債務の関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的
な制度である。ことに、債務者の資力が不十分な場合においても、債権者は相殺権
を行使することにより、自己の債権については確実かつ十分な弁済を受けたと同様
の利益を受けることができるため、受働債権につきあたかも担保権を有するにも似
た地位が与えられるのである。その結果、相殺の制度は、当事者間の取引を助長す
ることにも役立つものであるから、この制度によつて保護される当事者の地位は、
できうるかぎり尊重されなければならない。
 この相殺権による保護は、当事者の一方の債権につき差押が行われた場合におい
ても、みだりに拒否されるべきではない。当事者の一方の債権が差押えられた場合
においては、差押を受けた者(債務者)は、債権の処分(相殺も含まれる)、こと
にその取立をすることを禁止され(民訴五九八条一項後段)、したがつて、第三債
務者もまた、債務者に対し弁済することを禁止され(同条同項前段、民法四八一条)、
かつ債務者との間に債務の消滅又はその内容の変更を目的とする契約(たとえば、
代物弁済、更改、相殺契約、債権額の減少、弁済期の延長の約定など)をすること
が許されなくなるが、それは、債務者の権能が差押により制限されることによる、
いわば反射的効果に過ぎない。差押の効力は以上に尽きるのであつて、第三債務者
は、右制約に反しないかぎり、債務者に対して有するあらゆる抗弁をもつて差押債
権者に対抗することができるのである。すなわち、差押には、債務者の行為に関係
のない客観的事実又は第三債務者のみの行為によりその債権が消滅し又はその内容
が変更されることを妨ばる効力はなんらないのであつて、たとえば、差押えられた
債権の発生原因となつた契約につき解除条件が成就することにより又は第三債務者
が法定の解除権、取消権、代金減額請求権(民法五六三条、五六五条など)もしく
は、約定の解除権等を行使することにより、差押えられた債権が消滅し又はその内
容が変更されることがありうるのであつて、差押債権者は、当然に、これらの不利
益を甘受しなければならないのである。第三債務者がその一方的意思表示をもつて
する相殺権の行使についても同様であり、相手方の自己に対する債権が差押えられ
たという一事により、相手方に対する債権による相殺が当然に禁止されるべき本来
のいわれはないのである。
 しかしながら、債権差押の場合においては、差押債権者の利益もある程度におい
て考慮することを相当とするので、第三債務者の相殺権の行使については、相殺制
度の本質を著るしく害しない限度において制約を加えることが考えられるのであり、
民法五一一条は、正に、この差押債権者と第三債務者の間の利益の調節を図るため
に設けられた特別の規定であると解される。この規定の解釈については、前述のご
とき相殺制度の本質のほか、次のことが考慮されなければならない。
 (い) 民法五一一条は、第三債務者は、差押後に取得した債権により相殺をも
つて差押債権者に対抗しえない旨を規定しているに止まる。すなわち、同条は、第
三債務者は、債務者に対して有する債権をもつて差押債権者に対し相殺をなしうる
ということを当然の前提とした上、その例外として、差押後に発生した債権又は差
押後に他から取得した債権を自働債権として相殺をすることをえない旨を明らかに
しているに過ぎない。
 (ろ) 債務者の資力が不十分な場合において第三債務者に許される相殺権の行
使についてみるならば、破産手続、和議手続又は会社更生手続(以下、破産手続等
という。)においても、相殺権は十分に尊重され、破産債権者、和議債権者又は更
生債権者(以下、破産債権者らという。)が、破産宣告、和議開始又は更生手続開
始(以下、破産宣告等という。)の当時、破産者、和議債務者又は更生会社に対し
債務を負担する場合においては、破産債権、和議債権又は更生債権(破産宣告後に
他から取得したものなど特殊のものを除く)を自働債権として、破産手続等によら
ないで相殺することができるものとされており(破産法九八条以下、和議法五条、
会社更生法一六二条)、右によれば、他の一般の債権者にとつては、通常の差押の
場合に比し利害関係のより甚大な右破産等の場合においてすら、破産者らに対し反
対債権を有する破産債権者らに対しては相殺権の行使が広く認められ、他の一般の
債権者に対して優越した地位が与えられていることが知られるのである。
 以上の理由により、民法五一一条は、その文言どおりにこれを解し、第三債務者
は、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、相殺適状に達しさえすれば、
差押後においても、これを自働債権として相殺をなしうるものと解するのが相当で
ある。
 しこうして、国税徴収法による滞納処分としての債権の差押及びこれに伴う法定
取立権の制度は、一般の債権の差押及び取立命令の制度とその実質において異なる
ところはなく(旧法二三条の一、一項、二項、二三条二項、新法六二条二項、六七
条二項)、その差押が第三債務者の相殺権に及ぼす効力についても、国税滞納処分
であるが故に又は国税徴収法に基づく法定取立権であるからといつてこれを別異に
解すべき実定法上の根拠はなんらこれを認めえないので、その差押等については、
単に民法五一一条の問題として、その効力を判定すれば足るのである。されば、所
論中、民法の右規定の解釈ないし差押の効力につき、以上と見解を異にする論旨は
採用しえない。
 (二) つぎに、原審が確定したところによれば、被上告銀行と訴外Dとの間に
は、本件差押がなされた昭和二八年九月二九日より前である昭和二七年三月二二日
に、右訴外人が被上告銀行に対し負担する手形貸付債務につき、同訴外人が差押を
受ける等不履行のおそれがあると認められるときは、すべて期限が到来したものと
みなされても異議なく直ちに債務を弁済する旨及び同訴外人の被上告銀行に対する
預金その他の債権は弁済期のいかんにかかわらず、何時でも任意に同訴外人の負担
する債務と相殺されても異議ない旨、すなわち両当事者間に生じた相対立する債権
債務につき将来一定の条件が発生した場合、右双方の債権債務の弁済期いかんを問
わず、被上告銀行の相殺予約完結の意思表示により対当額で相殺しうる趣旨のいわ
ゆる相殺の予約が締結されており、被上告銀行は、本件差押のあつたことから、昭
和二八年一〇月九日、右約旨に基づく予約完結の意思表示として、被上告銀行が差
押前から有していた債権合計七四万一〇〇〇円と差押にかかる債権合計七四万一〇
〇〇円とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたというのであり、原審の右認定は、
原判決挙示の証拠関係に照し、これを肯認しえないではなく、右認定を非難する論
旨は採用しがたい。
 (三) 所論は、被上告銀行と右訴外人との間の相殺予約を有効とした原審の判
断を非難するが、次の諸点を考慮した上、右契約は有効であり、したがつて右契約
に基づいてなされた被上告銀行の意思表示により、本件差押債権は消滅したものと
解するのが相当である。
 (い) 相対立する債権を有する当事者がその債権(その弁済期のいかん、期限
につき当事者の有する利益のいかんを問わない)を相殺する旨の合意、すなわち相
殺契約は、契約自由の原則上、有効であり、また、相殺契約の一方的予約、すなわ
ち当事者の一方の完結の意思表示により相殺契約を成立させ、相殺の効力が生ずる
旨の合意も同様に有効てあることは論のないところである。もつとも、当事者の一
方の債権が差押えられた後においては、差押債務者の処分権が制限されるため、そ
の債権に関し右のごとき契約を締結することは許されなくなるが、債権差押前に締
結された相殺契約の一方的予約に基づき第三債務者が有する完結権の行使は、右差
押により制限されるものでないこと、差押の効力に関し先に((一)の前段)説示
したとおりであるから、第三債務者は、差押債権者の保護に関する前示民法五一一
条に反しない限度において、右完結権行使の結果(差押債権の消滅)をもつて差押
債権者に対抗しうるものといわなければならない。したがつて、本件の場合、被上
告銀行が本件差押前に締結された前示一方的予約に基づき、同銀行が差押前から有
していた前示債権を反対債権としてなした前示予約完結の意思表示は有効であり、
本件差押債権はこれにより消滅したものと解するほかはない。
 (ろ) 所論は、相殺に関する前示契約の内容は、客観性、具体性を欠くもので
あり、かかる約定を有効とすることは、相殺制度の趣旨を逸脱するばかりでなく、
債務者と約定をした相手方にのみ優先弁済権を与える結果となり、他の債権者によ
る執行を免脱させてこれに不測の損害をこうむらせることになり公平の理念に反す
るから許されるべきでないと主張するが、
 (イ) 現に一般に行われている相殺に関する契約の内容をできうるかぎり妥当
なものとし、銀行側の恣意を封じ、取引の安定性と健全性を確保することが望まし
いことはいうまでもないが、債務者につき、その信用を害するごとき法定の事由が
生じたときは、債務者は期限の利益を主張しえないことは民法の規定するところで
もあるから(一三七条)、当事者間において、その一方の単なる恣意によるのでは
なく、相手方たる債務者がその財産につき差押を受けるなど、その信用を害するが
ごとき客観的事実が発生したときは、その一方が、相殺の対象となる債権を特定し
た上、完結の意思表示をすることにより相殺の効力を生ずるものとする相殺契約の
一方的予約は、なんら客観性、具体性を欠くものではないから、本件契約について
も少くとも右の限度においてその効力を肯定することは不当ではない。しこうして、
被上告銀行は、本件差押のあつたことから、右契約に基づく完結の意思表示として、
被上告銀行の有する債権と被上告銀行に対する債権を特定した上対当額で相殺する
旨の意思表示をしたことは、原審の確定したところであるから、客観性、具体性を
欠くとの所論は採用しがたい。
 (ロ) また、商人間の取引においては、取引上の各種の権利関係の間に牽連性
ないし関連性をもたせ、これを一体としては握することが尊ばれていることは、交
互計算(商法五二九条以下)、商事留置権(同法五二一条)、一般に行われている
包括的な根抵当の制度などにもうかがわれるところであり、銀行業者が、その業務
の特質上、その債権の回収を確実にするため、前示のごとき相殺に関する契約を締
結することには相当の理由があるのであつて、民法の規定による相殺の制度のほか
に、右のごとき契約の効力を認めることは、右の観点からもこれを肯認することが
でき、民法の相殺の制度の趣旨になんら反するものではない。
 (ハ) 物権とは異なり、債権については、その存在ならびに内容を第三者に公
示するに適当な一般的な制度は考えられないのであつて(有価証券の制度は、正に
債権のこの本質的欠点を補うために創設された特殊の制度であると解される。)、
第三者を保護するための格別の規定(たとえば、民法についていえば四六六条二項
但書、四六八条一項本文、四七二条、四七三条など)がある場合のほかは、債権関
係の当事者間における約定は、広く第三者に対しても対抗しうるのが本則であり、
したがつて当事者間の債権関係について、前述のごとき相殺に関する契約が存在す
ることを知らないで債権の差押をした者が、第三債務者による予約完結権の対抗に
より不測の損害をこうむることがあるとしても、それは已むをえないことであり(
第三債務者が約定解除権などを行使したため、差押債権が消滅した場合となんら異
るところはない。)そのため、約定をした者のみが優先弁済を受けたと同様の利益
を受ける結果となるとしても、それは、第三者に対抗しうる約定の効力に基因する
ものであり、あえて公平の理念に反するものとは断じえない。また、被上告銀行は、
前示のごとき予約を締結するについては、相当の理由をもつていること右(ロ)で
述べたとおりであるから、右契約をもつて単に執行の免脱を目的としたものとみる
ことも妥当ではない。
 (四) 以上のごとく、被上告銀行と前示訴外人との間の本件相殺に関する契約
は、叙上認定の範囲において有効であり、被上告銀行がした相殺の意思表示は右契
約の趣旨に副うものと認められるから、本件被差押債権が右意思表示により全部消
滅に帰したことは明らかであるとした原審の判断は正当であり、所論は、ひつきよ
う、独自の見解の下に原判決を論難するに帰し、採用のかぎりでない。よつて本件
上告はこれを棄却すべきものと思料する。裁判官草鹿浅之介、同石田和外は、裁判
官横田正俊の右反対意見に同調する。裁判官松田二郎の反対意見は、次のとおりで
ある。
 (一) 本件のごとく、旧国税徴収法(昭和三四年法律一四七号による改正前の
もの)によつて債権が差押えられた場合、第三債務者たる被上告銀行が上告人たる
国に対し、いかなる限度において相殺を以て対抗し得るかは、強制執行による債権
差押の場合と同様に解すべき問題である。
 よつて、強制執行により債権が差押えられた場合を考えるに、その差押当時、被
差押債権と自働債権との両者が既に相殺適状にあるときは勿論、自働債権が差押当
時未だ弁済期に達しないでも、被差押債権である受働債権の弁済期より先にその弁
済期が到来するものであるときは、第三債務者は相殺を以て差押債権者に対抗し得
るものと解すべきである。私はこの限りにおいて、多数説と意見を同じくするもの
である。
 (二) 本件につき原審の認定したところによれば、被上告銀行と訴外Dとの間
に、本件差押がなされた昭和二八年九月二九日より以前である昭和二七年三月二二
日に、右訴外人と被上告銀行との間に次のごとき契約が締結されたこと、すなわち
右訴外人が被上告銀行に対して負担する債務について、同訴外人が他より差押を受
けるなど不履行の虞があると認められるときは、すべて期限が到来したものとみな
されても何等異議なく、直ちにその債務額を弁済する旨及び同訴外人の被上告銀行
に対する預金債権は、弁済期の如何に拘らず、何時にても任意に同訴外人の負担す
る債務と相殺されても異議なき旨の特約、換言すれば、被上告銀行と同訴外人との
間に生ずる相対立する債権債務は、将来一定の条件が発生した場合、右双方の債権
債務の弁済期如何を問わず、被上告銀行の相殺の意思表示により、対当額にて相殺
される旨のいわゆる相殺予約が存在したこと、上告人国による同訴外人の被上告銀
行に対する預金債権の差押があり、次いで被上告銀行は昭和二八年一〇月九日前示
特約に基づき、右訴外人に対して有していた貸付債権合計七四万一〇〇〇円と右差
押にかかる預金債権合計七四万一〇〇〇円とを対当額にて相殺する旨の意思表示を
したことが認められるというのであつて、右原審の認定は挙示の証拠によつて肯認
し得るところである。しかして、債権につき期限の利益は当事者が合意上抛棄し得
るものであり、前示相殺に関する特約は被上告銀行と右訴外人との当事者間におい
ては、契約自由の原則上、有効であることはいうまでもない。
 (三) 翻つて考えるに、およそ銀行とこれを利用する預金者との関係において
は、前者の後者に対する貸付などの各債権は、いわば一体を形成し、後者の前者に
対する預金などの各債権もまた一体を形成し、両者は経済上決して無関係のもので
なく、継続的に発生しつつ、相互に一種の牽連関係に立ち、ことに預金債権は貸付
債権に対して担保的作用を営みつつあるのである。しかして原審の認定したところ
に徴すれば、本件における被上告銀行と右訴外人との関係においても、右と同様の
趣旨が窺われ、前示認定の相殺に関する特約は、被上告銀行がこの担保的作用を法
律上実現せしめる手段と認められるのである。換言すれば、被上告銀行は、この相
殺に関する特約を活用することの期待の下に、右訴外人に対して貸付をなしていた
ものと認め得るのである。
 (四)(1)思うに、本件において上告人国は、いわゆる相殺予約という拘束の
既に附着していた債権を差押えたのである。従つて、上告人国は、かかる相殺予約
を以て対抗されることとなるのである。それは被差押債権に抗弁権の附着している
ときと、趣を同じくする。しかるに、もし反対の見解をとるときは、第三債務者た
る被上告銀行の期待、すなわち、貸付債権を以て預金債権と相殺し得るとの期待は
剥奪されることになるのである。
 (2) 叙上の主張は、銀行との商的取引関係において、前示の相殺に関する特
約が、差押以前に締結されている限り、これに対していわば優位に立つことを承認
するものである。しかして、この点に関連して、商法の交互計算において、一定期
間内に生じた債権債務の総額につき相殺することにより取引関係の決済の簡易化を
図る場合、判例上、これに組み入れられた個々の債権につき、その差押が否定され
ていることも(大審院昭和一〇年(オ)第二五五三号同一元年三月一一日判決民集
一五巻四号三二〇頁以下参照)、想起されるべきである。これらは商的関係におい
ては、当事者間に債権債務が相対立して継続的に発生する場合、その相互間の牽連
関係の緊密性のため、第三者による差押が制約を蒙ることを示すものである。
 (3) 差押債権の場合、第三債務者の相殺権につき、多数説の採り、しかして
私もまた賛成する見解、すなわち「差押当時自働債権が未だ弁済期に到来していな
い場合でも、その弁済期が被差押債権である受働債権のそれより先に到来するもの
であるときは、相殺を以て差押債権者に対抗し得る」との見解は、従来の最高裁判
所の判例の態度を改め、わが民法をドイツ民法第三九二条後段と同趣旨に解そうと
するものである。しからば、ドイツ法上、右条文の下において、第三債務者と債務
者との間に、差押より以前に締結された相殺契約が存在するとき、それは差押によ
つて影響されずとし、あるいはこれに優先するものと解されることは注目に値し、
このことは卑見を確かめるものである。思うに、多数意見はドイツ民法第三九二条
後段と同旨の見解を採る以上、この点の見解も亦採用すべきであると思われる。
 (五) 要するに、被上告銀行と右訴外人との間の本件相殺に関する特約は、上
告人国にも対抗し得るものであり、右特約に基づき被上告銀行のした相殺の意思表
示によつて、本件被差押債権は全部消滅に帰したことは明らかである。従つて、こ
れと同趣旨に出た原判決は正当であつて、本件上告は理由がないから棄却すべきで
ある。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎

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