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平成15年(ワ)第2910号 実用新案権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年6月15日
判         決
    原         告A
    原         告株式会社ミツギロン
    原告ら訴訟代理人弁護士     石井義人
    同    濱田佳志
    同   安藤誠一郎
    同   林健太郎
    被         告     新日本ケミカル・オーナメント工業株
式会社
訴訟代理人弁護士   山上和則
    同       藤川義人
    同    藤本一郎
補佐人弁理士          中尾真一
主         文
      1 原告らの請求をいずれも棄却する。
      2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙被告物件目録1及び2記載の物品を製造、販売してはならな
い。
2 被告は、その本店及び営業所内に存する別紙被告物件目録1及び2記載の物
品を廃棄せよ。
3 被告は、原告株式会社ミツギロンに対し、金1125万円及びこれに対する
平成15年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 原告A(以下「原告A」という。)は、別紙実用新案目録1記載の実用新案
権を有し、原告株式会社ミツギロン(以下「原告ミツギロン」という。)にその独
占的通常実施権を許諾しており、原告ミツギロンは、別紙原告商品目録1ないし3
記載の包装パック用スペーサ(以下、別紙原告商品目録1記載の商品を「原告商品
1」、同目録2記載の商品を「原告商品2」、同目録3記載の商品を「原告商品
3」といい、原告商品1ないし3を包括して「原告商品」という。)を製造販売し
ている。被告は、別紙被告物件目録1、2記載の物件(以下、別紙被告物件目録1
記載の物件を「イ号物件」、同目録2記載の物件を「ロ号物件」といい、イ号物件
とロ号物件を包括して「被告物件」という。ただし、被告物件の構成については、
後記のとおり一部争いがある。)を製造販売している。
本件は、被告による被告物件の製造販売が原告Aの実用新案権及び原告ミツ
ギロンの独占的通常実施権を侵害するとして、原告Aが実用新案権に基づいて被告
物件の製造販売の差止め及び廃棄を請求し、原告ミツギロンが独占的通常実施権侵
害による損害賠償の一部請求として1125万円及びこれに対する遅延損害金を請
求し、また、被告による被告物件の製造販売が原告ミツギロンの周知商品表示であ
る原告商品の形態を使用する不正競争(不正競争防止法2条1項1号)に該当する
として、原告ミツギロンが不正競争防止法に基づいて被告物件の製造販売の差止め
及び廃棄を請求するとともに、同法に基づき、上記と同額の損害賠償及び遅延損害
金を請求した事案である。
2 基礎となる事実
(1) 実用新案権等
ア 原告Aは、別紙実用新案目録1記載の実用新案権(以下「本件実用新案
権」といい、その考案を「本件考案」、その公告公報(実公平6-43010号。
甲第2号証)を「本件公報」という。)を有している。(当事者間に争いがな
い。)
なお、本件実用新案権は、平成16年2月16日、存続期間満了により
消滅した。
イ 原告Aは、本件実用新案権について、原告ミツギロンに独占的通常実施
権を許諾している。(弁論の全趣旨)
(2) 構成要件
本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書の実用新案登録請
求の範囲(請求項は請求項1のみである。)を構成要件に分説すると、次のとおり
である。(当事者間に争いがない。)
A トレイの側壁に嵌着される側面視で二股状に形成された嵌着支持部と、
B 嵌着支持部の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を
支える弾性変形可能な円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペー
サにおいて、
C 嵌着支持部の分岐上端部を略平行に形成して板状の側壁挟持嵌合部を形
成するとともに、
D その下方に嵌着支持部の少なくとも一方の支持片を外方に曲成してカー
リング及び外広がりの周縁部を収納する抱持嵌合部を形成したことを特徴とする包
装パック用スペーサ。
(3) 作用効果
本件考案の作用効果は次のとおりである。(当事者間に争いがない。)
① 二股の嵌着挟持部を、その上端部に略平行な挟持嵌合部とその下方に抱
持嵌合部とを形成して構成するようにしてあるので、トレイの側壁の上端部が板状
に形成されている場合、トレイの板状の側壁の上端部は支え部の上端の挟持嵌合部
に挿入され、トレイの側壁の上端部が外方に広がったり、外方にカーリングされた
形状である場合、トレイ側壁の上端部は抱持嵌合部に収納され、トレイの側壁の上
端部がいずれの形状であっても実施することができ、その汎用性が広く
② スペーサの支え部は円弧を描いて弾性変形し、このスペーサの支え部で
持ち上げられた透明フィルムシートの下方、即ち食品の上方には大きな空間が確保
される。
(4) 被告物件の製造販売
被告は、平成13年12月ころからイ号物件を「ニューダイヤモンド」の
商品名で製造販売し、平成14年10月ころからロ号物件を「ラップガードM」の
商品名で製造販売している。(イ号物件の製造販売の開始時期について、原告らは
平成10年ころであると主張し、被告は平成13年12月であると主張するが、被
告が同月より前にイ号物件を製造販売していたことを認めるに足りる証拠はないか
ら、イ号物件の製造販売の開始時期は同月であると認められる。被告が平成14年
10月ころからロ号物件を製造販売していることは、当事者間に争いがない。)
(5) 被告物件の構成
ア イ号物件は、別紙被告物件目録1記載のとおりであり、その構成を分説
すると、次のとおりである。(ただし、構成③、⑤については、傍線部分の記述に
争いがあり、括弧外が原告らの主張、括弧内が被告の主張である。)
① トレイの側壁内側に差し込まれる支持脚と、前記側壁外側から前記側
壁を押圧する支持片とから構成される嵌着支持部と、
② 前記支持脚の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面
を支える側面視円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペーサにお
いて、
③ 前記支持片は、前記支え部の長手方向略中央部に架渡された架設板の
下端から(架設板から)前記円弧状の支え部の内方に向けて「くの字状」に延出し
た屈曲部と、該屈曲部の端部から前記支持脚と略平行に延出する平行部と、該平行
部の端部から外方に曲成する(外方に膨出する)段部とを備え、
④ 前記支持脚と前記平行部との間に板状の側壁を挟持する挟持嵌合部を
形成するとともに、
⑤ 前記段部を略直角状に曲成して(略直角状として)、カーリング及び
外広がりのトレイ周縁端を押圧する押圧嵌合部を形成した包装パック用スペーサ。
イ ロ号物件は、別紙被告物件目録2記載のとおりであり、その構成を分説
すると、次のとおりである。(ただし、構成③′、⑤′については、傍線部分の記
述に争いがあり、括弧外が原告らの主張、括弧内が被告の主張である。)
①′トレイの側壁内側に差し込まれる支持脚と、前記側壁外側から前記側
壁を押圧する支持片とから構成される嵌着支持部と、
②′前記支持脚の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面
を支える側面視円弧状の支え部とを一体に形成してなる包装パック用スペーサにお
いて、
③′前記支持片は、前記支え部の長手方向略中央部に架渡された架設板の
下端から(架設板から)前記円弧状の支え部に沿って延出した延出部と、該延出部
の端部から前記支持脚と略平行に延出する平行部と、該平行部の端部から外方に曲
成する(外方に膨出する)段部とを備え、
④′前記支持脚と前記平行部との間に板状の側壁を挟持する挟持嵌合部を
形成するとともに、
⑤′前記段部を略直角状に曲成して(略直角状として)、カーリング及び
外広がりのトレイ周縁端を押圧する押圧嵌合部を形成した包装パック用スペーサ。
(6) 原告商品の形態
原告商品は、トレイの側壁に嵌着される側面視で二股状に形成された嵌着
支持部と、嵌着支持部の上方にトレイの上面に被蓋されたフィルムシートの下面を
支える弾性変形可能な円弧状の支え部とが一体に形成されており、同嵌着支持部の
分岐上端部を略平行に形成して板状の側壁挟持嵌合部を形成するとともに、その下
方に嵌着支持部の少なくとも一方の支持片を外方に曲成してカーリング及び外広が
りの周縁部を収納する抱持嵌合部を形成している。(当事者間に争いがない。)
3 争点
(1) 実用新案権に基づく請求
ア 被告物件は本件考案の技術的範囲に属するか
イ 明白な無効理由の存否
(2) 不正競争防止法に基づく請求
ア 不正競争防止法2条1項1号該当性
イ 営業上の利益の侵害の有無
ウ 故意過失の存否
エ 先使用の成否
(3) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 実用新案権に基づく請求
(1) 被告物件は本件考案の技術的範囲に属するか
ア 原告らの主張
(ア) イ号物件
a 構成要件充足性
 構成①は構成要件Aを、構成②は構成要件Bを、構成③及び④は構
成要件Cを、構成⑤は構成要件Dを、それぞれ充足する。
b 作用効果
イ号物件は本件考案の作用効果を奏する。
イ号物件が、後記イ(被告の主張)(ア)b①ないし③の作用効果を
奏することは否認する。支持脚と支持片の隙間は押え部を押圧してもほとんど広が
らず、大量流れ作業の中でそのような押圧操作を行うことは極めて非効率的であ
り、被告の主張に係る①、②の点は、新たな作用効果と評価することはできない。
また、「曲成」は「略直角」を含む概念であるが、支持片の略平行部の下方を略直
角状に形成することにより保持性が高まることはない。
(イ) ロ号物件
a 構成要件充足性
構成①′は構成要件Aを、構成②′は構成要件Bを、構成③′及び
④′は構成要件Cを、構成⑤′は構成要件Dを、それぞれ充足する。
b 作用効果
ロ号物件は本件考案の作用効果を奏する。
ロ号物件が、後記イbの作用効果を奏することは否認する。「曲
成」は「略直角」を含む概念であるが、支持片の略平行部の下方を略直角状に形成
することにより保持性が高まることはない。
イ 被告の主張
(ア) イ号物件
a 構成要件充足性
イ号物件の構成が本件考案の構成要件AないしDを充足することは
否認する。
b 作用効果
イ号物件は、本件考案の作用効果をすべて備えているが(ただし、
本件考案にいうほどの弾性変形はない。)、それに加え、次の作用効果を奏する。
① 嵌着支持部の支持片屈曲部内方の押え部を押圧操作することによ
り、スペーサ本体と挿入口部との間に隙間が形成され、良好な操作性が維持され
る。
② 支持片の略平行部を分岐上端部ではなく分岐中間部に形成するこ
とにより、上端部に押え部を設けて押圧操作をすることが可能となる。
③ 支持片の略平行部の下方を外方に「曲成」ではなく「略直角状」
に形成することにより、容器の周縁端を支持脚と支持片とで確実に保持する効果が
生じる。
c 以上のとおり、イ号物件は、構成においても作用効果においても本
件考案と異なるから、その技術的範囲に属さない。
(イ) ロ号物件
a 構成要件充足性
イ号物件の構成が本件考案の構成要件AないしDを充足することは
否認する。
b 作用効果
ロ号物件は、本件考案の作用効果をすべて備えているが(ただし、
本件考案にいうほどの弾性変形はない。)、それに加え、支持片の略平行部の下方
を外方に「曲成」ではなく「略直角状」に形成することにより、容器の周縁端を支
持脚と支持片とで確実に保持する効果を奏する。
c 以上のとおり、ロ号物件は、構成においても作用効果においても本
件考案と異なるから、その技術的範囲に属さない。
(2) 明白な無効理由の存否
ア 被告の主張
(ア) 別件仮処分
a 原告ミツギロンは、昭和63年7月15日、株式会社三和企画(以
下「三和企画」という。)を債務者として、不正競争防止法(昭和9年法律第14
号)に基づく差止請求権を被保全権利とする仮処分を大阪地方裁判所に申し立てた
(以下「別件仮処分」という。)。別件仮処分は、三和企画に対し、原告ミツギロ
ンの製造販売していた包装パック用スペーサ(商品名「ラップガード」)が三和企
画の別紙実用新案目録2記載の実用新案権(以下「三和実用新案権」という。)の
出願中の権利を侵害する旨の文書の頒布の差止めを求めるものであった。
b 原告ミツギロンは、別件仮処分申立書(乙第1号証)の申請の理
由、第一、本件紛争の経緯、四(1)に、「申請人は現在別紙(3)イ号の四及び五の物
件を製造販売している」と記載しているところ、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ
号の四、及び別紙(3)の五、イ号の五の物件は、本件公報の第1図に記載された物件
と非常によく似ており、本件考案に係るものであり、本件考案は、その実用新案登
録出願前に公然知られ、又は公然実施されていたことが明らかである。
(イ) 別件訴訟
a 三和企画は、昭和63年、原告ミツギロン(当時の商号は「ミツギ
ロン工業株式会社」であった。)、原告A及び被告に対し、三和実用新案権に基づ
き、原告ミツギロンによる包装パック用スペーサの製造販売、被告による包装パッ
ク用スペーサの販売が同実用新案権を侵害するとして、包装パック用スペーサの製
造販売の差止め、補償金及び損害賠償の支払などを請求する訴えを大阪地方裁判所
に提起した(同裁判所昭和63年(ワ)第611号。以下「別件訴訟」という。)。
b 別件訴訟については、平成3年11月27日、判決が言い渡された
(以下「別件訴訟判決」という。乙第2号証)。別件訴訟判決の第二事案の概要、
四 被告らの行為、1(同判決9頁)においては、原告ミツギロンが、昭和61年
6月から昭和62年8月ころまで同判決別紙物件目録記載一ないし三の各物件を製
造販売していたが、昭和62年7月ころから同目録記載四ないし六の各物件を製造
販売していることが認定されている。同目録記載四、六の物件(図面は、別件訴訟
判決別紙図面四、六である。)は、いずれも嵌着挟持部aの中に二股の支持片cと
dが存するが、支持片dの側に側面視略平行な部分が存在することは、別件訴訟判
決別紙図面五や同判決別紙実用新案公報(二)の第1図の嵌着挟持部分と比べても明
白であり、同判決別紙図面四、六は、本件公報の第1図とほぼ同一である。したが
って、同判決別紙物件目録記載四、六の物件は、本件考案に係るものであり、本件
考案は、その実用新案登録出願前に公然知られ、又は公然実施されていたことが明
らかである。
別件仮処分及び別件訴訟においては、間隔保持具の下部に平行部分
が存在するか否かが主要な争点となっておらず、嵌着挟持部の分岐上端部の形状に
ついて、本文中で具体的に言及されていなかった。しかし、包装パック用スペーサ
の支え部の形状及び機能のみならず、嵌着挟持部の形状についても争点とされてい
たから(別件訴訟判決第三、二、2、(二)、(1)(38頁)、第四、二、4(60
頁))、別件仮処分申立書や別件訴訟判決において、適当簡略に図面を作成するこ
とは考えられない。
(ウ) 検乙第1、第2号証
被告は、原告ミツギロンが昭和63年当時製造販売していた、別件仮
処分申立書別紙(3)の四、イ号の四、及び別紙(3)の五、イ号の五の物件を保有して
いるので、検乙第1、第2号証として提出する。被告の認識としては、検乙第1、
第2号証は被告の古い在庫の中から発見したものであり、原告ミツギロンが別件仮
処分当時に製造販売していた商品と同一である。原告ミツギロンの商品は、別件仮
処分以後、若干のモデルチェンジがあった模様であるから、可能性として、検乙第
1、第2号証は、同仮処分当時の商品ではなく、モデルチェンジ後の商品であるこ
ともあり得るところであり、検乙第1、第2号証が本件考案の実用新案登録出願前
の商品そのものであることについて直接的な証拠は存在しない。しかし、別件仮処
分申立書及び別件訴訟判決を合わせて検討すれば、検乙第1、第2号証と同一又は
極めて類似する商品が本件考案の実用新案登録出願前に販売されていたことは明ら
かである。
(エ) したがって、本件実用新案登録は、平成11年法律第41号による
改正前の実用新案法3条1項1号、2号に違反してされたものであり、本件実用新
案に平成5年法律第26号による改正前の実用新案法37条1項1号に規定する無
効理由が存在することは明らかであり、本件実用新案権に基づく差止め、損害賠償
等の請求は権利の濫用に当たり、許されない。
被告には、実用新案権の無効理由の存在が明白な場合に特許庁に無効
審判を請求する義務はないし、本件実用新案権の存続期間は満了したから、侵害の
有無と無効理由の存否について、本訴において統一的に解決することが合理的であ
る。
イ 原告らの主張
(ア)a 前記ア(被告の主張)(ア)aの事実は認める。
b 前記ア(ア)bは争う。
別件仮処分申立書においては、間隔保持具上部(支え部)の形状が
主要な争点となっており、下部の形状は具体的に特定されていないから、同申立書
中には、当時原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案の技術的範囲に属
することを根拠づける記載は存在しない。
別件仮処分申立書別紙(3)の三ないし五(イ号の三ないし五)には、
間隔保持具の側面図が記載されているが、同申立書においては、上記のとおり、間
隔保持具下部の形状は具体的に特定されていないから、その部分について厳密な採
寸、作図が行われていたとは考えにくく、各図面から、嵌着支持部の分岐上端部が
略平行に形成されていることを判断するのは、不可能である。したがって、同申立
書別紙(3)の三ないし五の図面をもって、別件仮処分申立当時原告ミツギロンが製造
販売していた商品が本件考案の技術的範囲に属すると判断することはできない。別
件仮処分申立当時に原告ミツギロンが製造販売していた包装パック用スペーサは、
嵌着支持部の分岐上端部に略平行部が存在しない形状のものであり、本件考案とは
構造を異にする。
(イ)a 前記ア(イ)aの事実は争わない。
b 前記ア(イ)bは争う。
別件訴訟判決において、間隔保持具下部の構成は、原告らの主張と
しては、「トレイの側壁の内面部分に当接する二本の受止め部と、トレイの側壁の
外面を押圧するように曲成された一本の挟持部分とからなる三本足構造の嵌着挟持
部」(同判決第二、七、1(二)(12頁12行ないし13頁2行)参照。)と特定
され、裁判所の認定としては、「トレイの側壁の内面部分に当接する二本の受止め
部分と、トレイの側壁の外面を押圧するよう曲成された一本の挟持部分とからなる
クリップ状の構造」(同判決第四、二、4(61頁1行ないし3行))と特定され
ている。これらの特定中には、「嵌着支持部の分岐上端部を略平行に形成し、板状
の側壁挟持嵌合部を形成する」という文言又は同種の意味を有すると解される文言
は存在しない。別件訴訟において問題とされた三和実用新案権の考案においては、
間隔保持具の下部は二股の平行板にすぎなかったので、原告ミツギロンの商品の間
隔保持具下部の構成については、挟持部が曲成されていること、クリップ状になっ
ていることが記載されたにすぎなかった。したがって、別件訴訟判決中には、昭和
62年7月ころから原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案の技術的範
囲に属することを根拠づける記載は存在しない。
別件訴訟判決において問題とされた三和実用新案権の考案におい
て、間隔保持具下部は、「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合させ」と
しか特定されておらず、具体的な争点は、二股部が三本足構造のものを含むか否か
ということであった。この争点について、三和企画(別件訴訟原告)の主張の中心
は、二股部が三本足構造であること、及び三本足構造にすることでトレイとの係合
がより確実になるという点のみであり、別件訴訟判決は、考案の詳細な説明を前提
として、「二股部は二本足構造のもののみならず三本足構造のものも含み、トレイ
との安定した係合を図るためにトレイ側壁に対応する構造をとりうるものであると
解せられる。」(同判決第四、二、1(四)(54頁8行ないし10行))と判断し
たにすぎず、足部分の形状について何らの検討も行っていない。したがって、別件
訴訟においては、本件訴訟において争点となっている、間隔保持具下部に平行部分
が存在するか否かということについては何ら争点となっておらず、その部分の特定
又は作図について十分な注意が払われることはなかった。
別件訴訟判決別紙図面四ないし六には、間隔保持具の側面図が記載
されているが、同判決における間隔保持具下部の形状の扱いは上記の程度にすぎな
かったから、その部分について厳密な採寸、作図が行われていたとは考えにくく、
各図面からは、嵌着支持部の分岐上端部が略平行に形成されていることを判断する
のは不可能である。したがって、同判決別紙図面四ないし六をもって、昭和62年
7月ころ以降原告ミツギロンが製造販売していた商品が本件考案の技術的範囲に属
すると判断することはできない。
別件訴訟判決別紙図面四、六の間隔保持具下部は、大小2個の円弧
状の部分を接続したものであり、上端部に平行部分は存在しない。
(ウ) 前記ア(ウ)は争う。
原告ミツギロンが製造販売する間隔保持具の形状は、発売後改良によ
り何度も変更されたが、変更の記録は残っていない。被告は、別件仮処分以前から
現在まで、原告ミツギロンの製造販売する間隔保持具を販売しており、被告の下に
は原告ミツギロンの商品が常時大量に存在する。被告の別紙実用新案目録3記載の
実用新案権(以下「被告実用新案権」という。)の出願は、原告ミツギロンを意識
して行われたものと考えられるが、被告実用新案権の公告公報(実公平7-186
22号公報、乙第5号証)には、従来技術として、「嵌着支持部の分岐上端部が略
平行に形成されている」ことについて何らの記載もなく、図面もない。被告も、検
乙第1、第2号証が別件仮処分後の商品である可能性を認めている。
したがって、検乙第1、第2号証は、本件考案の実用新案登録出願前
の商品であるとはいえない。
(エ) 前記ア(エ)は争う。
実用新案権について、仮に無効理由が存在しても、特許庁における無
効審判が確定しない限り、有効なものとして存続し、侵害訴訟において自由技術の
抗弁を立てることはできない。本件において、被告は無効審判すら提起しておら
ず、その主張は失当である。仮に無効理由の存在が一見して明白であるときに、裁
判所において例外的に権利の無効を前提とする判断を行うことが可能であるとして
も、本件考案についてそのような要件は充足されていないから、被告の無効主張は
理由がない。
2 不正競争防止法に基づく請求
(1) 不正競争防止法2条1項1号該当性
ア 原告らの主張
(ア) 原告商品の製造販売等
原告ミツギロンは、平成4年6月から原告商品1、2の製造販売を開
始し、同年11月から原告商品3の製造販売を開始し、原告商品を包装業者、食料
品業者、スーパーマーケット等に販売している。
原告商品2、3にはプラマークが付されているが、販売開始時からプ
ラマークの表示が義務づけられる前までは、プラマークは付されていなかった。原
告ミツギロンは、プラマークの表示が義務づけられた時点で、原告商品2、3の金
型に変更を加えてプラマークを表示した。プラマークの存在は、原告商品2、3の
形状の特定に影響を及ぼすものではない。
(イ) 商品表示
原告商品は、①支え部の全体を外枠のみで構成するようにデザインさ
れていること、②支え部は全体として湾曲したコの字型を形成すること、③①に関
し、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部分を
通して内容物を直接に見ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないも
のとなっていること、という特徴を有する(以下、これらの特徴を有する形態を
「原告商品の特徴的形態」といい、上記①ないし③を、それぞれ、「原告商品の特
徴的形態①」のように番号により特定して示す。)。原告商品が製造販売される前
の包装パック用スペーサは、支え部が板状だったので、それによりトレイの内容物
が見えにくくなり、間隔保持具の存在が消費者に強く印象づけられていた。それに
比べて、原告商品の特徴的形態は特異であり、スーパーマーケット等で商品が提供
されるときに真っ先に消費者の目に入る部分であるので、原告商品の特徴的形態に
は強い自他識別力がある。
原告ミツギロンは、原告商品を独占的かつ継続的に販売し、その数量
は発売後10年間を通じて一貫して年間平均1800万ないし2500万個に達し
ていたから、原告商品の特徴的形態は、原告ミツギロンの商品であることを示す出
所表示機能を有していた。
(ウ) 周知性
a 原告商品の特徴的形態は、特異かつ顕著なものである。
b トレイ上部においてラップを持ち上げる機能を有する包装パック用
スペーサは、昭和60年に三和企画が、昭和61年に原告ミツギロンが販売を開始
し、昭和63年ころから現在まで、包装パック用スペーサの市場占有率は、三和企
画が約70%、原告ミツギロンが約30%である。
c 三和企画のスペーサは、上部が2枚の板で構成され、下部が嵌着構
造になっていないという特徴があり、原告ミツギロンのスペーサは、上部が円弧状
であり、下部が嵌着構造を採るという特徴があるので、需要者は、従来からスペー
サの基本的な形状によって出所を簡単に判断することができた。更に原告ミツギロ
ンが平成4年から販売を開始した原告商品は、上記特徴に加えて、原告商品の特徴
的形態を備えていた。
d 原告ミツギロンは、原告商品を販売代理店であるキンジヨ株式会社
に販売し、同社が包装業者、食料品業者、スーパーマーケット等に販売している。
原告ミツギロンは、少量ではあるが、原告商品を被告にも販売している。
原告商品の販売数量は、別紙ラップガード販売実績記載のとおりで
あり、平成4年には約1800万個、平成5年度には約3300万個、平成6年に
は約4500万個に達し、平成6年以降は、年間消費総数が約2億個程度に及ぶと
いわれるスペーサの約30%が原告商品となった。
e 原告ミツギロンは、原告商品について積極的に宣伝、広告、営業活
動を行うとともに、展示会等にも積極的に出品して、販売拡張の努力を重ねてい
た。
f このような原告商品の形状、販売実績、市場占有率及び市場の状況
等を前提とすると、原告商品の特徴的形態は、遅くとも、製造販売の開始から2年
後の平成6年ころには、原告ミツギロンの商品であることを示す商品表示として、
取引先である包装業者、食料品業者、スーパーマーケット等の需要者において周知
となった。
(エ) 同一又は類似
被告物件は、いずれも支え部の全部又は一部を外枠のみで構成するよ
うデザインされ、支え部は全体として湾曲したコの字型を形成しているという特徴
を有している。したがって、被告物件の形態は、いずれも、原告商品の特徴的形態
と同一又は極めて類似している。
(オ) 混同
原告ミツギロンと被告は、販売形態、営業形態が同一であり、完全な
競業関係にあり、被告物件の形態が、原告ミツギロンの商品表示である原告商品の
特徴的形態と同一又は極めて類似していることから、被告が被告物件を製造販売す
ると、商品の出所について混同を生じさせる具体的危険、又は原告ミツギロンと被
告の間に何らかの経済上、組織上の関係があると誤信させる具体的危険がある。
イ 被告の主張
(ア) 前記ア(原告らの主張)(ア)(原告商品の製造販売等)の事実は否
認する。
原告商品2、3にはプラマークが付されているが、プラマークは平成
13年4月から表示が義務づけられたものであり、原告商品が平成4年から製造販
売されていたということはあり得ない。
(イ) 前記ア(イ)(商品表示)は争う。
a 原告商品の特徴的形態①について
原告ミツギロン、被告及び三和企画は、従前、包装パック用スペー
サの支え部を板状部材で形成してきた。しかし、被告は、被告実用新案権に係る考
案につき実用新案登録出願を行った後、その実施品として、支え部が板状でなく、
全体を外枠のみで構成した初めての包装パック用スペーサ(検乙第3号証、以下
「ハ号物件」という。)の製造販売を開始した。ハ号物件は、支え部の全体が外枠
のみで構成されていたので、外枠の空洞部分を通じて包装パックの内容物を直接見
ることができ、また、間隔保持具の存在を意識させないという作用効果も原告商品
と同様に奏していた。原告が原告商品を製造販売する前から被告が支え部の全体を
外枠のみで構成する包装パック用スペーサを製造販売していたことからすると、支
え部の全部を外枠のみで構成するようにデザインされていること(原告商品の特徴
的形態①)は識別性を有しない。
b 原告商品の特徴的形態②について
支え部が板状部材からなる従前の包装パック用スペーサにも、支え
部が湾曲しているものがあったから、支え部が全体として湾曲したコの字型を形成
すること(原告商品の特徴的形態②)は、識別性を有しない。
c 原告商品の特徴的形態③について
包装パック用スペーサは、食品等を入れたトレイを包装する透明フ
ィルムシートを上方に持ち上げてシートとトレイや食品等が接触しないようにし、
見た目を良くすることに効用がある。一般的なトレイにおいて、トレイに占める包
装パック用スペーサの専有部分はわずかであり、消費者はわざわざスペーサの内部
から中身をのぞき見るようなことはせず、透明フィルムシートから直接トレイの内
部の食品等を確認する。したがって、支え部の全体が外枠のみで構成されているこ
とによって、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ることができ、また、間
隔保持具の存在を意識させないものとなっていること(原告商品の特徴的形態③)
には、何ら特別顕著な特徴があるとはいえない。
d したがって、原告商品の特徴的形態は、客観的に他の同種商品から
識別できるほどの個性的な特徴でないから、特別顕著性はなく、原告商品の特徴的
形態をもって原告ミツギロンの商品表示ということはできない。
(ウ) 前記ア(ウ)(周知性)は争う。
包装パック用スペーサには、業界団体があるわけではなく、個々の取
引額が小さい割に売先が幅広いので、シェアの統計を取ることに余り意味はない。
被告も10年以上にわたり包装パック用スペーサを製造販売しており、平成6年こ
ろの被告のシェアは、得意先の広がりなどから推定して、4ないし5%を超えるも
のと思われる。
(エ) 前記ア(エ)(同一又は類似)は争う。
(オ) 前記ア(オ)(混同)は争う。
(2) 営業上の利益の侵害の存否
ア 原告らの主張
被告が被告物件を製造販売することにより、原告ミツギロンは営業上の
利益を侵害された。
イ 被告の主張
原告らの主張は争う。
(3) 故意過失の存否
ア 原告らの主張
被告は、原告商品の形態を知っていたはずであり、被告物件を製造販売
して不正競争を行うにつき、故意又は過失があった。
イ 被告の主張
原告らの主張は争う。
(4) 先使用の成否
ア 被告の主張
被告は、原告ミツギロンの製造した包装パック用スペーサを購入し販売
していたが、自社で開発した包装パック用スペーサも少量ながら製造販売してい
た。被告は、昭和62年ころには包装パック用スペーサの開発を行っており、平成
2年にハ号物件の製造販売を開始し、ハ号物件は、原告商品の販売が開始されたと
する平成4年6月以前に全国の包装資材の卸問屋に相当数販売されていた。
ハ号物件は、挟持部の上端が支え部の先端から始まっており、支え部の
内部に挟持部が存在するが、支え部の全体は外枠のみで構成されており、原告商品
の特徴的形態①を備える。また、ハ号物件は、支え部が全体として湾曲したコの字
型を形成するので、原告商品の特徴的形態②を備える。さらに、ハ号物件は、支え
部の内部に挟持部が存在するが、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見るこ
とができ、間隔保持具の存在を意識させないから、原告商品の特徴的形態③を備え
る。
したがって、被告は、原告商品の形態的特徴が原告ミツギロンの商品表
示として需要者の間に広く認識される前から、原告商品の形態的特徴を不正の目的
でなく使用しており、被告物件の製造販売に不正競争防止法3条ないし5条は適用
されない(同法12条1項3号)。
イ 原告らの主張
被告の主張は争う。
ハ号物件は、挟持部の上端が支え部の先端から始まっているので、支え
部の内部に挟持部が存在し、支え部の全体を外枠のみで構成するデザインとなって
いないから、原告商品の特徴的形態①を備えない。また、ハ号物件は、支え部が全
体としてコの字型でないから、原告商品の特徴的形態②を備えない。さらに、ハ号
物件は、支え部に空洞はほとんどなく、空洞部分を通して内容物を直接に見ること
ができないので、原告商品の特徴的形態③を備えない。
スーパーマーケットにおけるトレイ入り刺身パックの販売方法は、平成
3年ころまでは多段方式(売場の壁面に前方に若干傾斜した棚を一定の間隔で数段
設置し、棚上にパックを置いて販売する方式)が中心であったが、同年ころ以降、
平台方式が広まった。原告らは、平台方式(売場の壁面から離した位置に、消費者
の視線よりかなり低い平台の陳列ケースを設置し、ケース内にパックを並べる方
式)に適した存在感のない包装パック用スペーサの開発に努め、支え部を空洞にし
たことで従来品に比べ存在感の少ない原告商品を開発した。ハ号物件は、平台方式
において使用したときは、支え部の中央の挟持部上部が消費者の視線を遮るから、
多段方式を前提とする従来の包装パック用スペーサと変わらない。
したがって、被告がハ号物件を製造販売していたとしても、被告は、不
正競争防止法12条1項3号の「商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使
用する者」には該当しない。
3 損害額
(1) 原告らの主張
被告は、イ号物件を平成10年1月1日から月に100万個以上製造販売
し、ロ号物件を平成14年10月1日から月に150万個以上製造販売しており、
平成15年2月末日までに、少なくともイ号物件を6200万個、ロ号物件を75
0万個製造販売した。
被告は、被告物件各1個につき少なくとも1.5円の純利益を得ている。
したがって、被告は、被告物件の製造販売により、平成15年2月末日ま
でに少なくとも1億0425万円(1.5円×(6200万個+750万個)=1
億0425万円)の利益を上げた。この利益の額が、独占的通常実施権の侵害又は
不正競争による営業上の利益の侵害によって原告ミツギロンが受けた損害の額と推
定される(実用新案法29条2項類推適用、不正競争防止法5条2項)。原告ミツ
ギロンは、被告に対し、このうち、平成14年12月1日から平成15年2月末日
までのイ号物件300万個、ロ号物件450万個の製造販売による損害賠償112
5万円(1.5円×(300万個+450万個)=1125万円)及びこれに対す
る不法行為及び不正競争の後である平成15年4月26日(本件の訴状訂正申立書
送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請
求する。
(2) 被告の主張
原告らの主張のうち、被告物件の製造販売個数は否認し、その余は争う。
第4 当裁判所の判断
1 実用新案権に基づく請求
争点(1)イ(明白な無効理由の存否)について検討する。
(1) 実用新案登録に無効理由が存在することが明らかであるときは、その実用
新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用
に当たり許されないと解するのが相当である(最高裁判所平成10年(オ)第364
号同12年4月11日第三小法廷判決・民集54巻4号1368頁参照)。なお、
原告らは、本件において被告が無効審判すら提起していないから、被告による無効
の主張は失当である旨主張する。しかし、実用新案登録に無効理由が存在すること
が明らかである場合に、そのような実用新案権に基づく侵害訴訟において、まず特
許庁における無効審判を経由して無効審決が確定しなければ、当該登録実用新案に
無効理由の存在することをもって実用新案権の行使に対する防御方法とすることが
許されないとすることは、登録実用新案の対世的な無効まで求める意思のない当事
者に無効審判の手続を強いることになり、また、訴訟経済にも反する(前記最高裁
判決参照)ことからすると、本件において被告が本件実用新案権につき無効審判請
求を行っていないことは、被告が本件実用新案につき明白な無効理由の存在を主張
することの妨げとなるものではないと解するのが相当である。
(2)ア 別件訴訟判決
(ア) 三和企画が、昭和63年、原告ミツギロン、原告A及び被告に対
し、三和実用新案権に基づき、原告ミツギロンによる包装パック用スペーサの製造
販売、被告による包装パック用スペーサの販売が同実用新案権を侵害するとして、
包装パック用スペーサの製造販売の差止め、補償金及び損害賠償の支払などを請求
する別件訴訟を大阪地方裁判所に提起したことは、当事者間に争いがない。
(イ) 乙第2号証(別件訴訟判決)によれば、次の事実が認められる。
a 別件訴訟判決の第二 事案の概要、四 被告らの行為、1(同判決
9頁)において、原告ミツギロンが、昭和61年6月から昭和62年8月ころまで
同判決別紙物件目録記載一ないし三の各物件を製造販売していたが、昭和62年7
月ころから同目録記載四ないし六の各物件を製造販売していることが認定されてい
る。
b 別件訴訟判決別紙物件目録において、同目録記載四の物件は、「別
紙図面四に示すプラスチック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと
一本の挟持部分dとからなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを
連設したもの。」と特定され、同目録記載六の物件は、「別紙図面六に示すプラス
チック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとか
らなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを連設したもの。」と特
定されている。
c 別件訴訟判決別紙図面四、六に示された包装パック用スペーサの嵌
着挟持部aは、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部分dとからなるが、dの上
端部に、c、cと側面視略平行な部分が形成されている。
イ 別件仮処分
(ア)原告ミツギロンが、昭和63年7月15日、三和企画を債務者とし
て、不正競争防止法(昭和9年法律第14号)に基づく差止請求権を被保全権利と
する別件仮処分を大阪地方裁判所に申し立てたこと、別件仮処分は、三和企画に対
し、原告ミツギロンの製造販売していた包装パック用スペーサ(商品名「ラップガ
ード」)が三和実用新案権の出願中の権利を侵害する旨の文書の頒布の差止めを求
めるものであったことは、当事者間に争いがない。
(イ) 乙第1号証(別件仮処分申立書)によれば、次の事実が認められ
る。
a 原告ミツギロンは、別件仮処分申立書の申請の理由、第一、本件紛
争の経緯、四(1)に、「申請人は現在別紙(3)イ号の四及び五の物件を製造販売して
いる」と記載している。
b 別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四に示された包装パック用ス
ペーサの嵌着挟持部の挟持部分の上端部には、嵌着挟持部の二本の受止め部分と側
面視略平行な部分が形成されている。同申立書別紙(3)の五、イ号の五に示された包
装パック用スペーサについて、側面図は、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の
受止め部分と側面視略平行な部分が形成されているように描かれているが、斜視図
には、そのような略平行な部分は示されていない。
ウ 本件公報との比較
本件公報(甲第2号証)の第1図には、本件考案の実施例の包装パック
用スペーサが示されている。
本件公報第1図と別件訴訟判決別紙図面四、六に示された包装パック用
スペーサを比較すると、本件公報第1図の包装パック用スペーサは、嵌着支持部と
支え部の境目付近に屈曲部がないのに対し、同判決別紙図面四、六の包装パック用
スペーサは、嵌着支持部と支え部の境目付近に屈曲部が存在する。しかし、嵌着挟
持部の挟持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されてい
る点は、同一である。
別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四に示された包装パック用スペー
サは、別件訴訟判決別紙図面四に示された包装パック用スペーサと非常によく似て
おり、本件公報第1図に示された包装パック用スペーサと比較すると、嵌着支持部
と支え部の境目付近に屈曲部がある点は異なるが、嵌着挟持部の挟持部分の上端部
に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されている点は、同一である。
エ 別件訴訟判決についての検討等
(ア) 別件訴訟判決(乙第2号証)の別紙図面五には、嵌着挟持部が二本
の受止め部分と一本の挟持部分とからなる包装パック用スペーサが示されている
が、その包装パック用スペーサは、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受止め
部分と側面視略平行な部分が形成されていないように描かれている。
他方、別件訴訟判決別紙物件目録記載五の物件は、「別紙図面五に示
すプラスチック製の間隔保持具であって、二本の受止め部分c、cと一本の挟持部
分dとからなる三本足構造の嵌着挟持部aに円弧状板(支え部)bを連設したも
の。」と特定され、「別紙図面五」という部分以外は、同目録記載四、六の物件と
同じ文言により特定されている。これは、後記のとおり、別件訴訟判決において
は、三和実用新案権の考案の「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁に係合さ
せ」という構成要件との関係で、三本足構造の嵌着挟持部が同構成要件の「二股
部」に該当するか否かが問題となったことにより、上記のような文言により特定さ
れたものと推認されるが、このように同じ文言によって特定されているにもかかわ
らず、別件訴訟判決別紙物件目録記載四、六の物件と同目録記載五の物件の形状が
図面において異なるものとして表示されていることからすると、同判決は、嵌着挟
持部が三本足構造であるかどうかという点だけではなく、そのほかの部分の形状の
相違も考慮して、図面により物件を特定しているものと推認される。そうであると
すると、同判決別紙図面四、六は、同判決別紙図面五と比較して、嵌着挟持部の挟
持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されていることが
明らかであるから、同判決は、同判決別紙物件目録記載四、六の物件を、同目録記
載五の物件と区別して、そのような側面視略平行な部分が形成された物件として特
定しているものと認められる。
(イ) 原告らは、別件訴訟判決別紙図面四、六の間隔保持具下部は、大小
2個の円弧状の部分を接続したものであり、上端部に平行部分は存在しないと主張
するが、同判決(乙第2号証)によれば、同判決別紙図面四、六の嵌着挟持部の挟
持部分の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されていることは
明らかである。
(ウ) 別件訴訟判決によれば、別件訴訟において、包装パック用スペーサ
(間隔保持具)の下部につき、三和企画(別件訴訟原告)は、別紙別件訴訟判決抜
粋の「原告主張」記載のとおり主張し、原告ミツギロン、原告A及び被告(別件訴
訟被告ら)は、同別紙の「被告主張」記載のとおり主張し、同判決は、同別紙の
「裁判所の判断」記載のとおり認定した。同別紙から明らかなように、別件訴訟判
決においては、三和実用新案権の考案の「この間隔保持具の二股部をトレイの側壁
に係合させ」という構成要件との関係で、三本足構造の嵌着挟持部が同構成要件の
「二股部」に該当するか否かが問題となり、三本足構造の嵌着挟持部も「二股部」
に含まれると判断された。しかし、同判決別紙物件目録記載四、六の物件は、その
円弧状板が三和実用新案権の考案の間隔保持具と形状(構造)を異にし、同考案の
間隔保持具にはない作用効果を奏することから、同考案の構成要件の間隔保持具の
傾斜板及び縦部材を具備すると認めることはできないとして、同考案の技術的範囲
に属さないものと判断された。
上記のとおり、別件訴訟判決は、本件のように嵌着挟持部の挟持部分
の上端部に二本の受止め部分と側面視略平行な部分が形成されているか否かが問題
とされたのではないから、本文中に、そのような側面視略平行な部分の存否につい
て具体的な記述はない。しかし、そうであるとはいえ、同判決が、別紙別件訴訟判
決抜粋のとおり、包装パック用スペーサの下部について検討をしていることからす
れば、同下部の形態について相応の注意を払った上で、文言及び図面により各物件
の特定を行ったものと推認される。
オ検乙第1、第2号証
検乙第1、第2号証については、それらが本件考案の実用新案登録出願
前に販売されていたものであることを直接立証する証拠はない。しかし、別件仮処
分申立書(乙第1号証)、別件訴訟判決(乙第2号証)及び検乙第1、第2号証に
よれば、検乙第1号証は、その形状が、別件仮処分申立書別紙(3)の四、イ号の四の
物件、別件訴訟判決別紙図面四の物件と非常によく似ており、検乙第2号証は、別
件訴訟判決別紙図面六の物件と非常によく似ていることが認められ、別件仮処分申
立書別紙(3)の四、イ号の四の物件、別件訴訟判決別紙図面四、六の物件が、別件仮
処分申立時又は別件訴訟判決に認定された昭和62年7月ころ以降、実際に存在し
たことが推認される。
カ 以上によれば、本件考案の実用新案登録出願日である平成元年2月16
日より前に、原告ミツギロンが、別件仮処分別紙(3)の四、イ号の四の物件、別件訴
訟判決別紙図面四、六の物件を製造販売していたことが認められ、この認定を覆す
に足りる証拠はない。これらの物件は、嵌着挟持部の挟持部分の上端部に二本の受
止め部分と側面視略平行な部分が形成されているから、本件考案の構成要件Cを充
足し、その余の構成要件A、B、Dも充足する。
したがって、本件考案は、その実用新案登録出願前に公然実施され、公
然知られていたものと認められ、本件実用新案登録は、平成11年法律第41号に
よる改正前の実用新案法3条1項1号、2号に違反してされたものであり、本件実
用新案に平成5年法律第26号による改正前の実用新案法37条1項1号に規定す
る無効理由が存在することは明らかであり、本件実用新案権に基づく差止め、廃棄
及び損害賠償の請求は権利の濫用に当たり、許されないというべきである。
なお、本件実用新案権は、前記第2、2(1)記載のとおり、平成16年2
月16日、存続期間満了により消滅したから、本件実用新案権に基づく差止め及び
廃棄の請求は、この点からしても理由がない。
2 不正競争防止法に基づく請求について
争点(2)ア(不正競争防止法2条1項1号該当性)について検討する。
(1) 商品の形態は、通常、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるため
に選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択さ
れるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、か
つ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっ
ても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形
態が商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得ると解される。
(2)ア 検甲第1ないし第3号証及び弁論の全趣旨によれば、原告商品は、①支
え部の全体を外枠のみで構成するようにデザインされていること、②支え部は全体
として湾曲したコの字型を形成すること、③①に関し、支え部の全体が外枠のみで
構成されていることによって、支え部の空洞部分を通じて内容物を直接に見ること
ができ、また、間隔保持具の存在を意識させないものとなっていること、という原
告商品の特徴的形態を備えることが認められる。弁論の全趣旨によれば、原告商品
は、平成3年ころ、スーパーマーケットにおけるトレイ入り刺身パックの販売方法
が多段方式から平台方式に変更されたことに伴い、上方から見たときに包装パック
用スペーサができるだけ目立たないようにするために開発されたものと推認され
る。そして、原告商品の特徴的形態をすべて備えた包装パック用スペーサが、原告
商品の製造販売が開始される前に存在したことをうかがわせる証拠はない。
イ しかし、原告商品は、本件公報(甲第2号証)の第1図に示されるよう
な従前の包装パック用スペーサの板状の支え部を、全体が外枠のみで構成されるよ
うに置き換えたものということができ、弁論の全趣旨によれば、原告商品の特徴的
形態を開発するために工夫が必要であったことは推認されるが、原告商品の特徴的
形態又は原告商品の形態自体は、特別顕著な形態であるとは認められない。
また、乙第5号証、第7ないし第9号証、第10号証の1ないし4、第
12号証、検乙第3号証によれば、被告が平成3年当時、ハ号物件(商品名「ダイ
ヤモンドブリッジ」)を製造販売していたことが認められ、ハ号物件は、原告商品
の特徴的形態①を備え、原告商品の特徴的形態③に関して、原告商品ほどでないに
しても、支え部の全体が外枠のみで構成されていることによって、支え部の空洞部
分を通じて内容物を直接に見ることができるという効果を有していたものと認めら
れる。原告商品は、ハ号物件と比べて、支え部が全体として湾曲したコの字型を形
成する点、支え部の途中から挟持部が始まっている点が異なるが、それらの差異
は、ハ号物件と比べた場合に、改良、変形と言い得るものの、顕著な特徴であると
は認められない。
ウ 弁論の全趣旨によれば、原告商品1は平成4年6月ころ以降、原告商品
2、3は同年11月ころ以降(平成13年4月にプラマークの表示が義務づけられ
る前、原告商品2、3にはプラマークが付されていなかったものと推認され
る。)、相当数が製造販売されていたものと認められるが、原告らの主張によって
も、トレイ向け包装パック用スペーサにおける原告商品のシェアは30%であり、
長期間独占的に原告商品の特徴的形態が使用されたとは認められないし、原告商品
の形態について強力な宣伝が行われたことを認めるに足りる証拠もない。
原告らは、原告商品の形態が周知の商品表示であることなどを立証する
ために原告商品を扱っている会社等の作成に係る陳述書(甲第6ないし第21号
証)を提出するが、これらの陳述書は、原告らが用意した同一の不動文字及び写真
が印刷された書面に各作成者が日付と記名押印等をしたものであると推認され、各
作成者が原告商品の形態の周知性等について明確に意識した上で作成したかどうか
という点について必ずしも信用性が高いとは認められない上、これらの作成者が、
包装パック用スペーサや原告商品をどの程度の数量扱っているかが明らかでないか
ら、これらの陳述書の存在を考慮したとしても、原告商品の形態が原告の商品表示
として周知であるとは認められない。
エ 以上によれば、原告商品の特徴的形態又は原告商品の形態は、過去にお
いて原告の周知の商品表示であったとは認められないし、現在においても原告の周
知の商品表示であるとは認められない。
したがって、原告らの不正競争防止法に基づく請求は、その余の点につ
き判断するまでもなく、理由がない。
3 結論
よって、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
   大阪地方裁判所第21民事部
 
        裁判長裁判官     小  松  一  雄
   裁判官     中  平     健
    裁判官     大  濱  寿  美
(別紙)
被告物件目録1被告物件目録2原告商品目録1原告商品目録2原告商品目録3実用
新案目録1実用新案目録2実用新案目録3ラップガード販売実績別件訴訟判決抜粋

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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

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独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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