弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
1原告の主位的請求を却下する。
2豊能町議会議長が原告に対して平成19年3月26日付けでした豊能町議会
議員の辞職許可処分を取り消す。
3訴訟費用はこれを二分し,その一を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
事実及び理由
第1請求
1主位的請求
豊能町議会議長が原告に対して平成19年3月26日付けでした豊能町議会
議員の辞職許可処分は無効であることを確認する。
2予備的請求
豊能町議会議長が原告に対して平成19年3月26日付けでした豊能町議会
議員の辞職許可処分を取り消す。
第2事案の概要
1事案の骨子
本件は,原告が,豊能町議会議長が原告に対して平成19年3月26日付け
でした豊能町議会議員の辞職許可処分(以下「本件処分」という。)は,原告
が議長に対して提出した辞職願が民法93条ただし書により無効であるにもか
かわらずされたものであるから当然無効であり,そうでないとしても取り消さ
れるべき瑕疵があるなどと主張して,主位的に行政事件訴訟法3条4項にいう
「無効等確認の訴え」としてその無効確認を求め,予備的に同条2項にいう
「処分の取消しの訴え」としてその取消しを求めている事案である。
2法令等の定め
地方自治法126条は,普通地方公共団体の議会の議員は,議会の許可を得
て辞職することができる,ただし,閉会中においては,議長の許可を得て辞職
することができると規定する。
そして,豊能町議会会議規則(平成3年豊能町議会規則第1号)99条1項
は,議員が辞職しようとするときは,議長に辞表を提出しなければならないと
規定し,同条2項は,同規則98条2項及び3項の規定は,議員の辞職につい
て準用すると規定し,同規則98条2項は,辞表の提出があったときは,その
旨議会に報告し,討論を用いないで会議にはかってその許否を決めると規定し,
同条3項は,閉会中に辞職を許可した場合は,議長は,その旨を次の議会に報
告しなければならないと規定する。
3前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実。証拠等によ
り認定等した事実については末尾に当該証拠等を記載する(証拠番号による証
拠の摘示には特記しない限り枝番を含む。)。なお,以下,自然人は初出を除
き姓により記載することとし,肩書を付して記載した場合には,その者が肩書
に係る職の職務についてした行為等であることを示す。また,豊能町の機関に
ついては「豊能」ないし「豊能町」の記載を適宜略す。)
(1)当事者等
ア豊能町議会(定数18人(豊能町議会の議員の定数を定める条例(平成
14年豊能町条例第30号)であり,本件処分当時の欠員はなかった。)
では,遅くとも平成18年12月ころには,下記イの汚染物等の処理に係
る問題や,同町が発注した町立中学校の建て替え工事につき工事の監理委
託業務の入札前に予定価格を参加業者に漏らしたとして,同年11月5日,
A助役及びB町議会議員らが競売入札妨害(偽計)の疑いで逮捕された問
題等をめぐって,同年12月20日には,C町長(任期満了は平成20
年)の辞職勧告決議が賛成13名,反対4名で可決され,平成19年1月
15日には同町長の不信任決議案が提案される(採決の結果は賛成10名,
反対7名で否決)など,町政の混乱が続いていた。【甲2,4,6,12,
14】
イ豊能町及び能勢町は,D組合(地方自治法284条1項にいう地方公共
団体の一部事務組合。以下「本件組合」という。)を組織して,大阪府豊
能郡α××番地の1に設置したごみ処理施設の維持管理及び同ごみ処理施
設に起因する環境の汚染への対策等に関する事務を共同処理している。本
件処分当時ころには,上記ごみ処理施設は廃炉となっていたが,平成9年
6月以降,上記施設におけるダイオキシンによる土壌等の汚染が社会問題
化しており,本件組合は,同問題の処理に当たっていた。
本件組合の議会(以下「本件組合議会」という。)の議員の定数は10
人であり,豊能町議会及び能勢町議会でそれぞれの議員から選出された各
5人の議員で構成される(本件処分当時,欠員はなかった。)。
平成19年3月当時の本件組合議会では,汚染物の処理を本件組合から
請け負った業者が本件組合に提示した見積書に沿った追加費用を,管理者
(当時,Cが本件組合の管理者を兼ねていた。)の提案のとおり,平成1
9年度の本件組合の予算に計上するかどうかが争われており,その審議の
ための臨時会が同月27日に開会される予定となっていた。【甲11,1
3,14,18,19】
ウ原告は,昭和56年ころに初当選して町議会議員となった後,継続して
町議会議員を務め,議長の経験もある古参議員であり,平成16年7月以
降,自由民主党豊能町支部支部長を務めている。原告は,平成17年9月
25日の町議会議員の一般選挙においても当選し(任期は平成21年9月
まで),本件処分当時,C町長と対立する立場で活動していた。
また,原告は,平成13年10月以降,本件処分がされるまで,本件組
合議会の豊能町議会選出の議員をしており,本件処分当時,同組合の管理
者が汚染物処理業者の言いなりに公費を支出しているとして,これを批判
する立場から活動していた。【甲2,4,7,8,13,14,乙1】
(2)本件処分に至る経緯等
ア町議会は,平成19年3月7日,同月23日(最終日の23日は予備
日)までを会期として予定して平成19年度第2回定例会(以下「第2回
定例会」という。)を開会した。開会時の議長はEであり,同定例会では,
平成19年度豊能町一般会計予算(以下,特別会計予算と併せて「平成1
9年度予算」ということがある。)等が審議される予定であった。【甲2,
4,6,乙1】
イ原告は,平成19年3月20日,平成19年度予算の処理等をめぐり,
F町議会議員の同席の下,C町長と会談した。【甲6,乙1】
ウ原告は,同月22日午前9時40分ころ,E議長に対し,同議長あての
同日付け「辞職願」と題する書面(甲5の1。以下「第一辞職願」とい
う。)を提出し,E議長は,これをG議会事務局長に預けた。【甲4,同
5の1,同6】
エ同日午後1時2分,町議会本会議(以下「22日本会議」という。)が
全町議会議員が出席の下,開かれた。
22日本会議の議事進行は遅れ,町議会は会議時間を延長して,議事を
行い,平成19年度予算に係る議案のうち一般会計予算の件を含む数件等
を反対多数で否決した。その後,原告ら4名の議員により,C町長の不信
任決議案(甲3)が提出されたが,賛成10,反対7で地方自治法178
条3項の可決要件に達せず,否決された。そして,予定されたすべての議
事が終了したところで,E議長は,H副議長に対し,議長の辞職願を提出
し,町議会はこれを許可する議決をした後,休けいして古参議員等の間で
協議した結果,町議会は,同月23日の会議を午前0時に繰り上げて開始
することとし(以下では,これも「22日本会議」に含めていう。),再
開してF議員を議長に選出し,翌23日午前3時37分,第2回定例会を
閉会した。【甲2】
オ原告は,F議長が選出された後,町議会閉会前に,第一辞職願のあて名
部分をF議長に改めた「辞職願」と題する書面(甲5の3。以下「第二辞
職願」という。)を作成してF議長に提出したが,同議長はその受理を拒
否して原告に返戻した。【甲5の3,同6,乙1】
カ原告は,同日午前11時ころ,第二辞職願の日付けを同月23日付けに
改めた「辞職願」と題する書面(甲5の4。以下「本件辞職願」という。
また,第一辞職願及び第二辞職願と併せて以下「本件各辞職願」と総称す
る。)をG議会事務局長に手交してF議長に提出した。【甲5の4,同6,
乙1】
キF議長は,同月26日,原告の議員辞職を許可する旨の処分(本件処
分)をし,その旨を同日付けの書面(甲1)により原告に通知した。
(3)C町長が本件処分後,現在までの間,議長に対して退職の申し出をしたこ
とはない。また,本件処分後,後記(5)の執行停止決定までの間,豊能町議会
において欠員が補充されたことはない。【弁論の全趣旨】
(4)本件処分後,町議会は,本件処分の是非を巡って紛糾し,F議長は,町議
会による議長職辞職勧告決議を受けて平成19年6月29日,議長の職の辞
職願を提出し,許可の議決を得て議長の職を辞し,町議会は,同日,I議員
を議長に選任した。【甲10,17,乙1】
なお,原告は,大阪府知事に対し,同年4月13日,本件処分につき審決
の申請をしていたが,大阪府知事は,同年7月23日,これを棄却する旨の
審決をした。【乙1】
(5)原告は,平成19年8月28日,当裁判所に本件訴訟を提起するとともに,
本件訴訟を本案として本件処分の効力の停止を申し立て(平成19年(行
ク)第54号執行停止申立事件),当裁判所は,同年9月19日,本件処分
の効力を本件訴訟に係る判決の確定まで停止する旨の決定をし,同決定に対
しては,即時抗告の申立てがないまま申立期間が満了した。
なお,本件訴訟及び上記執行停止申立事件において被告を代表して訴訟活
動に当たっているのはI議長である。【顕著な事実】
4争点及び当事者の主張
本件の主たる争点は,本件処分に無効又は取り消されるべき瑕疵があるかで
あり,これについての当事者の主張は以下のとおりである(なお,原告は明示
的には主張しないが,下記(原告の主張)(1)記載の瑕疵の主張は主位的請求の
みならず,予備的請求を基礎付ける原因としても主張しているものと当然に理
解される。)。
(原告の主張)
(1)原告が第一辞職願を提出した時点では,原告の辞職願の提出は,C町長を
辞職に追い込むためのいわゆるパフォーマンスであったところ,結果的に閉
会中に提出されたこととなった本件辞職願を提出した時点においては,同町
長が自ら辞職するという本来の目的が奏功しなかったことが確定していたか
ら,原告が単独では辞職する意思がないことは客観的に明らかとなっていた。
そして,F議長は本件辞職願がその真意に基づくものではないことを熟知し
ていたのであるから,本件辞職願は民法93条ただし書により無効である。
したがって,本件処分は,このような無効の辞職願が形式上残存していたこ
とを奇貨としてされたものであって,当然に無効である。
(2)議員の辞職というのは,ただ単に議員個人の思惑だけで決められるもので
はなく,選挙による町民よりの負託を受けての公益性が強い性質のものであ
って,議会の閉会中に辞職願の提出を受けた議長としては,処分に当たり慎
重を期し,最低限でも議員本人からの事情聴取を経ることが必須の手続とい
うべきであり,このような重要な手続を全く履践することなくされた本件処
分は当然に無効であり,少なくとも取消しを免れない。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1主位的請求について
(1)原告は,本訴において主位的に行政事件訴訟法3条4項にいう「無効等確
認の訴え」として本件処分の無効確認を求めているところ,「無効等確認の
訴え」はいわゆる「確認の訴え」の一類型であり,原告の訴えは,確認の利
益を備えていなければ不適法な訴えとして却下すべきこととなるから,職権
でこの点について検討する。
(2)ところで,「無効等確認の訴え」は,当該処分若しくは裁決(以下「当該
処分等」という。)の存否又は効力の有無について争いがあり,その争いに
より生ずる不利益を避けるために必要があるときに,行政事件訴訟法11条
に規定する被告との間で,当該処分等の存否又は効力の有無を確認すること
を内容とする抗告訴訟の一類型であり,一度確認判決が確定すれば,当該判
決は,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束し,関係行政庁
は当該判決の趣旨に従って行動することが義務付けられることとなる(同法
38条1項の準用する同法33条)。
対して,「処分の取消しの訴え」は,出訴期間(行政事件訴訟法14条)
及び場合によっては審査請求の前置に関する制約(同法8条)等の制限があ
るものの,当該処分にその根拠法令に反し取り消し得べき瑕疵があれば,当
該処分を取り消すことを内容とする抗告訴訟の一類型であり,一度取消判決
が確定すれば,処分時にさかのぼって当該処分の効力は失われる。そして,
取消判決による処分の効力の遡及的喪失は第三者に対しても及ぶ上(同法3
2条1項),当該判決は,処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を
拘束し,関係行政庁は当該判決の趣旨に従って行動することが義務付けられ
ることとなる(同法33条)ところ,上記取り消し得べき瑕疵を基礎付ける
事実が当該処分の無効の瑕疵を基礎付ける事実を包含し,これよりも広いも
のであることについては争いがない。
してみると,ある処分の無効確認判決により原告が得る利益と,当該処分
の取消判決により原告が得る利益とは結局において異なるところがなく,当
該処分について出訴期間等の観点から取消しを求めることができる状況にあ
るのであれば,原告にとっては処分の取消しの訴えの方が有利であるという
ことができ,特段の事情のない限り,原告には,訴訟手続の面においても,
得ることのできる判決の効力の面においても,当該処分について無効の確認
の訴えにより無効確認判決を得る利益はないものといわなければならない。
(3)しかるところ,本件処分について取消しの訴えが不適法であると認めるべ
き事情は見当たらず,他に無効確認の訴えを適法とすべき事由も特段見当た
らない。
そうであるとすれば,原告の主位的請求は確認の利益を備えていないもの
といわなければならず,不適法であるから,却下すべきである。
2小括
以上によれば,本件において理由があるかどうかを検討すべきなのは,本件
処分の取消しを求める予備的請求のみであるということになるから,以下では,
本件処分に取り消されるべき瑕疵があるかどうかを検討する。
3認定事実
前記前提事実に加え,甲1ないし6,同8,同18,同19,乙1,証人F,
証人E,原告本人及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)各議員の立場等
第2回定例会当時の豊能町議会では,どちらかといえばC町長を支持する
立場であって,平成19年度予算案に賛成することが見込まれていた議員は
F,J,H,I,Kら7名であった。また,E議長,L議員,M議員,N議
員及びO議員がP(最大会派),F議員,原告及びJ議員がQにそれぞれ所
属しており(なお,平成18年11月に逮捕されたB議員も同クラブに所属
していた。),また,政党の所属は,原告が自由民主党豊能町支部支部長,
O議員が民主党豊能・能勢総支部長などとなっていたが,町長を支持するか
どうかは,所属政党や会派とは必ずしも関係がなかった。
なお,原告は,平成16年9月の町長選挙時においてはC町長を支持して
いたが,その後,次第に政策についての見解を異にするようになり,A助役
及びB議員が逮捕された平成18年11月ころ以降は,明確にC町長と対立
する立場を取るようになった。
(2)C町長による予算案成立に向けての働きかけ等
アC町長は,第2回定例会の会期終了が迫る状況下,成立が危ぶまれてい
た平成19年度予算案の可決成立に向けた根回しについてE議長に相談し
たところ,E議長は,自らも所属するPのM及びL両議員と町長との会談
を手配した。会談は,平成19年3月19日,E議長も同席して行われた
が,M,L両議員は,C町長が平成19年度予算案の可決成立に協力して
ほしい旨依頼したのに対し,これまでの責任はどのように取るのか,予算
を通すなら辞職してはどうかと述べ,C町長が辞職については支援者と相
談しなければならないと答えるという状況で,同町長の依頼は奏功しなか
った。そこで,E議長は,C町長が当選した当時は同町長を支持しており,
古参議員として町議会内部での影響力もある原告の意向を聞くことを勧め
た。
イそこで,C町長は,原告との会談の手配をQの代表であったF議員に依
頼し,同議員の同席の下(ただし,F議員は特段の発言はしなかった。),
同年3月20日,原告と会談した。C町長は,原告に対し,平成19年度
予算案に賛成するか,又は採決時に議場から退席することで,その可決成
立に協力してほしい旨を依頼するとともに,予算が成立すれば,私はいつ
辞めてもいい旨の発言をした。これに対し,原告は,議場からの退席はし
ないとした上,C町長が予算等の審議前に辞意を表明するのであればその
可決に協力してもよいとの趣旨で,平成19年度予算案に賛成するかどう
かは,採決を行う本会議(同月22日)において示す旨述べた。
ウE議長は,同月21日,原告から同月20日の会談の結果について話を
聞いた際,原告に対し,C町長は,同月19日のPとの話合いでは,将来
的には辞めてもいいというようなことは言っていたが,3月中に辞める意
思はないようである旨述べた。また,E議長は,同月21日,C町長から,
電話で原告との話合いは不成立であった旨を伝えられた。
(3)第一辞職願の提出等
原告は,議員の総辞職と引換えにC町長を辞職させようと考え,自ら率先
して辞職するとの意思を明確にすべく,平成19年3月22日午前9時40
分ころ,同日午前10時からの議員全員協議会に先立ち,H副議長も同席の
下,E議長に対し,C町長を辞職させる旨を述べ,「現在の豊能町を考えれ
ば,町長はもちろん議員も住民に対してその信を問う時期であると考えてい
ます。よって,この際議員の職を辞し捲土重来の時期まで精進を重ねてまい
りますので,許可を頂きます様お願い申し上げます。」と記載し原告名義の
記名押印をした「豊能町議会議長E様」あての同日付け第一辞職願(甲5の
1)を提出した(なお,豊能町議会における議員辞職願に付される理由につ
いては「一身上の都合」などとされるのが通例であり,上記のような詳細か
つ政治性の強い理由が記載されているのは異例である。)。E議長は,C町
長には辞職の意思はない旨伝えたが,原告は興奮しており飽くまで辞職願を
撤回しなかったため,時期が経てば原告が冷静になるだろうと考え,第2回
定例会の次の定例会が開かれる6月になっても原告の辞職の意思が変わらな
いのであれば議会で諮る旨を述べて,第一辞職願をG議会事務局長に預けた。
なお,原告は,本件各辞職願の提出に当たり,支持者と相談したり,支持者
にその真意を説明したりしたことはない。
(4)22日本会議が開かれる前の状況等
ア町議会は,同月22日,午前中に議員全員協議会を開催した後,午後か
ら本会議の開催を予定していた。
イ原告は,議員全員協議会後,22日本会議が開かれる前の休けい時間中,
議員控室にいたF及びK両議員に対し,自分は辞職願を提出してきたので
C町長の辞職願を預かってきてほしい,そうすれば平成19年度予算案に
賛成する旨述べたが,両議員は取り合わなかった。
(5)22日本会議及びF議長あて辞職願の提出等
ア22日本会議では,町議会は,まず,町長提出の各議案について委員会
報告,質疑,討論を行った。各議員は,各議案について質問や討論を活発
に行い,原告も各議案について質問や討論を積極的に行った。E議長は,
適宜休けいをとりながら議事を進行したが,R議員が議題と関係しない事
項にわたる質問に及ぶなど,議事は混乱し,進行は遅れた。町長提出の各
議案は,討論を終えた後,採決に付されたが,「平成19年度豊能町一般
会計予算の件」が賛成7名,反対10名で否決されるなど,平成19年度
予算に係る議案のうち数件が否決され,同日午後5時ころ,町長提出の全
議案の採決が終了した。
イ休けいを挟んで,町議会は,議員提出の各議案について提案理由説明,
質疑,討論,採決を行ったが(なお,途中,R議員には退席命令が発せら
れた。),議院運営委員会の委員の選任以外の予定された議事が終了した
同日午後6時50分ころ,原告が,N,S及びTの各議員とともにC町長
の不信任決議案(甲3)を提出し,町議会はこれを議事に追加して直ちに
議題とすることとし,原告による提案理由説明を経て同日午後7時30分
ころ採決した。同議案の可決のためには,13名の議員の賛成が必要であ
ったところ(地方自治法178条3項),同議案には,E議長も賛成した
ものの,賛成議員数は10名とこれに達せず,同議案は否決された。そし
て,町議会は,同日午後7時30分ころ,引き続いて議院運営委員会の委
員を選任し,暫時休けいした。
ウE議長は,上記休憩中,町議会の混乱に責任を感じ,H副議長に対し,
任期を約半年残して議長の辞職願を提出した。同副議長は,同日午後8時
ころ,これを会議で報告し,町議会はこれを許可する旨の議決をした。H
副議長は,本会議を休けいとして,議長経験者等と議長候補の選定につい
て協議したが,難航したため,E前議長に相談した。E前議長は,候補者
として副議長経験者のF議員及びI議員を挙げ,両名,特にE前議長と議
長の座を争ったことのあるF議員に議長職を引き受けるよう強く説得し,
同議員は最終的には説得に応じた。
そこで,町議会は,同月23日午前3時ころ,再開して議長の選挙をし,
F議員を議長に選出して,再び休けいした。
エ原告は,上記休けい中に,第一辞職願と同じ文面であて名部分のみ改め
た第二辞職願を作成してF議長に提出した。この時点では,原告は,原告
による辞職願の提出を受けて直ちにC町長が辞職する可能性があるとは認
識していなかったが,自らの辞職と引き替えにしてでもC町長を辞職させ
ることを引き続き狙っており,そのような姿勢が口先だけではないことを
C町長及び他の議員に示すために,同一会派で同月20日のC町長との会
談にも同席し,事情をよく知っていたF新議長が処理に当たり原告の真意
をくんでくれるとの期待の下,上記提出をした。
しかし,F議長が第二辞職願の受理を拒否して原告に返戻したため,原
告は,日付けが異なるので受け取ることができないという趣旨と考え,第
二辞職願の日付けを改めるため,一度事務所に帰った。
オ町議会は,同月23日午前3時37分,原告が不在のまま第2回定例会
を閉会した。
E前議長は,町議会閉会後,F新議長に対し,正式な引継ぎを行う前に
伝達すべき事項として,原告の辞職願について性急な判断をすべきでない
こと,原告から辞職願が提出されてもしばらくそのままにしておくべきこ
とを伝達した。もっとも,E前議長は,同年6月に予定されていた次の定
例会まで辞職願に対する判断を保留することを原告に述べた旨,あるいは,
同定例会まで処理を待つべき旨考えていることまでは伝達しなかった。
カO議員から連絡を受けて第2回定例会の閉会を知った原告は一度自宅に
帰り,同日午前11時ころ,第二辞職願と同じ文面で日付けのみ改めた本
件辞職願(甲5の4)を,第二辞職願の差し替えとの趣旨でF議長へ渡す
よう依頼してG議会事務局長に手交した。なお,F議長は,同日午後,同
事務局長から本件辞職願を受け取った後,原告と言葉を交わしたが,同辞
職願について原告の意思を確認したり,原告からその趣旨の説明を受けた
りはしなかった。
(6)本件処分及びその後の経緯等
アF議長は,平成19年3月26日,本件処分をし,「平成19年3月2
3日付けで提出された辞職願は,平成19年3月26日許可したので通知
します。」と記載した書面(甲1)を送付し,原告は同日中にはこれを受
領した。
イ本件組合議会は,同月27日,第2回臨時会(原告は欠席)において,
予定どおり平成18年度D組合一般会計補正予算案及び本件処理施設の処
理過程で新たに発生したダイオキシン汚染土壌の追加処理費用約2億10
00万円を計上した平成19年度D組合一般会計補正予算案を審議の上,
賛成多数で原案どおり可決した。
ウE前議長及び原告は,同月28日,F議長に本件処分をした理由を質し
たが,F議長は答えなかった。
エ原告は,本件各辞職願のいずれを提出した段階においても,原告1人の
みが議員を辞職することを想定していなかったが,C町長が辞職すれば,
自らが議員の職を辞職し,あるいはこれを喪失した状態となることに異存
はなかった。もっとも,原告は,自らが辞職願を提出した旨あるいはこれ
が許可された旨を告げるなどしてC町長に対し辞職を求めたことはない。
4辞職願の瑕疵をいう点について
原告は,本件各辞職願の提出は,C町長を辞職に追い込むためのいわゆるパ
フォーマンスであったところ,本件辞職願を提出した時点においては,上記パ
フォーマンスが奏功しなかったことが確定し,原告が単独では辞職する意思が
なく本件各辞職願が原告の真意でないことは客観的に明らかとなっており,F
議長もこれを熟知していたのであるから,原告が提出した上記辞職願は民法9
3条ただし書により無効であって,このような無効の辞職願が形式上残存して
いたことを奇貨としてされた本件処分は当然に無効であるか,少なくとも取り
消されるべき瑕疵がある旨主張する。
しかし,前記認定事実によれば,原告は,平成19年3月22日,22日本
会議が開会されるに先立って,E議長に対し,第一辞職願を提出したのみなら
ず,22日本会議において,C町長提出に係る平成19年度予算が否決され,
原告らが提案した同町長の不信任決議案も否決されて,議長がE議長からF議
長に交代した後にも,改めてF議長に対しあて名を改めた第二辞職願を提出し
たが返戻され,第2回定例会が閉会した後,再度その日付けを改めた本件辞職
願を作成してこれを提出したというのであり,これらの経緯,及び議員の辞職
は議長に辞表を提出することによって行うとする豊能町議会会議規則99条1
項の規定の趣旨にかんがみると,原告は,本件辞職願をもって,議員を辞職す
る旨の最終的かつ確定的な意思表示をしたものとみるほかない。しかも,前記
認定事実のとおり,原告は,C町長が辞職するのであれば自らも辞職する意思
を有していたというのであって,前記認定に係る本件辞職願の文面に照らして
も,原告の本件辞職願に係る辞職の意思表示には何ら真意に反するところはな
いというべきである。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものというほかない。
もっとも,前記認定事実によれば,原告は,C町長の辞職を引き出すための
手段として本件各辞職願を提出したものと認められるところ,原告の上記主張
の趣旨によれば,原告は,C町長が辞職することを条件とする趣旨で本件各辞
職願を提出したものとみる余地もなくはないが,後記のような地方自治法12
6条の規定の趣旨からしても,地方公共団体の議会の議員の辞職の意思表示に
そのような条件を付することは許されないものと解されるから,本件辞職願に
係る原告の辞職の意思表示は,同条の規定の適用においては,そのような条件
の付されていないものとして評価せざるを得ないというべきである。
5本件辞職願が地方自治法126条1項により許可されるべきものかについて
アしかしながら,本件辞職願に係る意思表示が真意によるものであるとして
も,本件処分が直ちに適法であるものということはできず,さらに,本件辞
職願が許可されるべきものであるかどうかが検討されなければならない。
すなわち,そもそも,地方自治法126条が,普通地方公共団体の議会の
議員の辞職を議会の開会中においては議会の,議会の閉会中においては議長
の許可にかからせている趣旨は,住民の直接選挙によって選出された議員が,
自己の恣意に基づいてみだりに辞職することを抑止するとともに,議員の辞
職に正当な理由があるか否かの判断を,選挙権を有する住民に代わって議会
ないしその代表者である議長にゆだねたものと解される。そして,憲法は,
地方公共団体にその住民の直接選挙によって選出された議員により構成され
る議事機関としての議会を設置し,議会が住民の代表機関として意思決定そ
の他の活動を行うことにより長その他の執行機関とともに地方政治を実現す
ることを地方自治の本旨として制度的に保障しているのであり,地方公共団
体の議会の議員は,選挙によって付与された住民の負託にこたえ,法令によ
り付与された権限を適切に行使することにより,地方政治の円滑な推進に寄
与し,ひいては住民の福利を実現すべき職責を負うものであって,議員の地
位は,代表民主主義制度の下における参政権の行使という当該議員自身の憲
法上の重要な権利に基礎を置くものであるにとどまらず,代表民主主義制度
の下においてその権限の適切な行使により選挙人の負託にこたえ,選挙人の
参政権を全うならしめるという重要な職責を伴うものであり,議員の辞職に
正当な理由があるか否かは,このような議員の地位の性格及びその職責の重
要性に照らして判断すべきである。
イしかるところ,前記認定事実によれば,原告は,自らの辞職と引換えにC
町長を辞職させようと考え,C町長の辞職を引き出すための手段として,本
件各辞職願を提出したものであり,第二辞職願の提出の時点では,その辞職
願の提出を受けて直ちにC町長が辞職する可能性があるとは原告も認識して
いなかったが,依然として自らの辞職と引換えにC町長を辞職させようと考
えており,それが口先だけではないことをC町長及び他の議員に示すために,
第二辞職願をF議長に対して提出したが返戻されたことから,第2回定例会
の閉会後,さらに日付けを改めて本件辞職願を提出したというのである。他
方で,前記認定事実のとおり,原告は,C町長との間で,同町長の辞職と自
らの辞職を関連付けた明確なやりとりをしたことすらないのみならず,E議
長にはC町長に辞職の意思がないことを告げられて辞職願の提出を制止され
ているのであって,C町長が原告の辞職願の提出ないし辞職により自らも辞
職することが見込まれる状況があったとは到底認め難い上,原告自身,第二
辞職願の提出は軽い気持ちによるものであった旨供述するなどしている。
以上によれば,本件辞職願に係る原告の辞職の意思表示は,C町長と政治
的立場を異にする原告が,法令により規定された不信任決議等の手続ではな
く,自らの議員の地位を政治的ないわゆるパフォーマンスの手段とすること
によって,自己の意図する同町長の辞職という政治目的の実現を図ろうとし
たものと評価せざるを得ない上,原告の企図するところは実現可能性が極め
て乏しく,政治的手段としても未熟かつ不合理なものであったといわざるを
得ないものであり,当該辞職の意思表示が選挙民により負託された自己の職
責を全うすることができなかったことについての責任をとるなどといった真
摯な動機に基づくものであることをうかがわせるに足りる証拠もない。そう
であるとすれば,本件辞職願は,地方公共団体の議員としての職責を放棄し,
その地位を政治的目的によりいたずらにもてあそぶものであって,原告に負
託された職責に反するというほかないことは明らかである。
他方,前記認定の事実経過にかんがみると,本件処分をしたF議長は,原
告が本件辞職願を提出するに至った経緯を熟知していたものと容易に推認さ
れるのであり,本件辞職願に係る原告の議員の辞職の意思表示が上記のよう
ないわゆるパフォーマンスとして行われたものであることを少なくとも容易
に認識し得たものというべきである。上記のような事実関係の下においては,
原告による議員の辞職は,選挙人により負託された重要な地位を自己のいわ
ゆるパフォーマンスの一手段とするものである点において,その職責にもと
るものということができ,このような辞職をその経緯を知り又は容易に知る
ことができながら許可することは,地方自治法126条の規定の趣旨を没却
し,ひいては憲法が地方自治の本旨として保障する地方公共団体における代
表制民主主義(住民自治)の趣旨に反するものということができる。そうで
あるとすれば,本件処分は,正当な理由を欠くものとして,地方自治法12
6条の規定により議長に付与された裁量権の範囲を超え,又はこれを濫用し
たものといわざるを得ない。原告の本件処分の瑕疵をいう主張には,以上説
示したような趣旨の主張が含まれていることは,本件審理の経過に照らして
明らかであるところ,以上説示した議員の地位の性格及びその職責の重要性
並びに同条の規定の趣旨等にかんがみると,原告においてその旨の主張をす
ることが直ちに信義に反し許されないとすることはできない。
これに対し,Fは,本件辞職願の提出における上記のような原告の動機に
ついては知らなかった,原告による辞職の申出は,平成18年11月に発覚
した町立中学校の建て替え工事に係る競売入札妨害事件に関係があるのかと
感じた旨供述している。しかしながら,前記認定事実のとおり,本件辞職願
の辞職理由が異例の文言となっていたことに加え,Fは平成19年3月20
日のC町長と原告との会談に同席した際,予算が成立すれば私はいつ辞めて
もいい旨のC町長の発言を聞き,同月22日には,22日本会議の開始に先
立ち,原告から,自分は辞職願を提出してきたので,C町長の辞職願を預か
ってきてほしい旨を言われていたこと,原告とは同一会派の議員として長年
活動してきていたこと,E前議長からも原告から提出されている辞職願の処
理は慎重にするよう伝達されていたこと等に照らし,上記供述を直ちに採用
することはできない。
したがって,本件処分には取り消されるべき瑕疵がある。
6結論
以上によれば,原告の主位的請求は不適法であるから,これを却下すべきで
あり,原告の予備的請求は理由があるから,これを認容すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西川知一郎
裁判官岡田幸人
裁判官石川慧子

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