弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(行ケ)第566号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年8月24日
判決
原     告        日本製紙株式会社
補助参加人          四国化工機株式会社
上記両名訴訟代理人弁理士廣田雅紀
同小澤誠次
同高津一也
被     告        エービー テトラ パック
同訴訟代理人弁理士   三好秀和
同  岩崎幸邦
同鹿又弘子
同原裕子
同清水正三
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用中,参加に関する部分は補助参加人の負担とし,その余は
原告の負担とする。
 事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
(1) 特許庁が平成10年審判第35163号事件及び同年審判第35204号
事件について平成14年9月25日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯
  (1) 被告は,発明の名称を「包装積層品をヒートシールする装置」とする特許
第2501777号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
    本件特許の出願,登録の経過は,次のとおりである。
   ア(ア) 昭和57年10月8日に発明の名称を「包装積層品をヒートシール
する方法と装置」とする特許を出願(優先権主張1981年10月8日,スウェー
デン国。特願昭57-第177486号。以下「原原出願」という。)
    (イ) 原原出願につき平成2年3月12日付け手続補正書により明細書を
補正(甲10)。
(ウ)同出願につき平成5年法律第26号(以下「平成5年改正法」とい
う。)による改正前の特許法51条1項に基づき平成2年9月20日に出願公告
(特公平2-42055号。甲11)。
(エ)同出願につき平成4年1月23日付けで明細書の「特許請求の範
囲」の補正(甲12)。
   イ 平成5年改正法による改正前の特許法44条1項に基づき原原出願の一
部を新たな出願として平成4年9月30日に出願(特願平4-262343号。以
下「原出願」という。)。
   ウ 平成5年改正法による改正前の特許法44条1項に基づき原出願の一部
を新たな出願として平成6年7月26日に本件特許の出願(特願平6-17434
8号。甲15)。
エ 平成7年10月4日付けの手続補正書による補正(以下「本件手続補
正」という。)により本件特許の「特許請求の範囲」を後記2記載のとおりに補正
(甲16)。
   オ 平成8年3月13日に設定登録。
(2) 補助参加人は,平成10年4月14日,本件特許を無効とすることを求め
て,特許庁に審判の請求をし,同請求は平成10年審判第35163号事件として
特許庁に係属した。他方,原告も,同年5月12日,本件特許を無効とすることを
求めて,特許庁に審判の請求をし,同請求は平成10年審判第35204号事件と
して特許庁に係属した。
  (3) 特許庁は,上記の両事件(以下「本件審判請求事件」という。)を併合し
て審理を行い,平成11年8月27日,原出願は,原出願に係る発明と原原出願の
「特許請求の範囲」第3項に記載された発明とが実質的に同一であるから,適法に
分割されたものとは認められないとして,「特許第2501777号発明の特許を
無効とする。」との審決(以下「前審決」という。)をした。
(4) 被告は,前審決を不服として,前審決の取消訴訟を東京高等裁判所に提起
するとともに,平成11年10月19日に原原出願に係る特許(特許第17955
65号)の「特許請求の範囲」第3項を削除することを含む訂正審判の請求をし
た。特許庁は,平成12年3月23日,上記訂正を認容する審決をし,同審決は確
定した。同裁判所は,同年9月26日,上記訂正審決が確定したことにより,前審
決の判断はその前提を欠くことになり,誤りであったことになるとして,前審決を
取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)をした。
(5) 特許庁は,前判決を受けて,再度,本件審判請求事件について審理を行っ
た上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい
う。)をした。
2 本件手続補正後の本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。)の要旨
本件発明は,本件手続補正後の本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」
という。)の「特許請求の範囲」に記載された,次のとおりのものである(アンダ
ーラインは本件手続補正により補正された部分である。)
  【請求項1】 繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ泊等の導電性材料層
(4)を有し,さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料
(10,11)を互いに,その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒート
シールする装置において,前記熱可塑性材料層(3,3)同志を互いに接触させて
該一対の積層材料(10,11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有す
るシールジョー(5)が設けられ,該シールジョー(5)は,非導電性の本体
(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで構成され,該棒
(7)は,該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するとともに,前記一対の積
層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高周波誘導加熱し,
該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記熱可塑性材料層(3,3)を
溶融するべく高周波電源に接続するようになっており,該作用面(8)により,該
熱可塑性材料層(3,3)同志が前記シール帯域で圧接され,さらに前記導電性の
棒(7)には,該シール帯域以内で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料
層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)(判決注:符
号「12」は「13」の誤記と認める。)に「非対称的に位置して設けられている
ことを特徴とする積層材料のヒートシール装置。」
3 本件審決の判断うち原告が取消事由として主張する部分の要旨
(1) 分割の違法と特許法29条1項3号違反の主張について
    原告(請求人)は,①本件特許権の侵害を理由として被告(被請求人)ほ
か1名が補助参加人を相手方として提起した特許権侵害差止等請求訴訟の控訴審
(東京高裁平成11年(ネ)第459号)である東京高等裁判所の判決(補助参加人
は最高裁判所に上告受理の申立てをしたが,上告不受理の決定がされ,同判決は既
に確定している。以下「本件侵害訴訟控訴審判決」という。)の判示するところに
よれば,本件発明は,シール帯域の隣接領域内に熱可塑性材料の堆積部分を形成し
ない構成,シール帯域以外を加熱する構成及び溶融熱可塑性材料をシール帯域の外
にまで押し流す構成をも包含する発明であるが,原出願に添付された当初の明細書
(特開平5-269854号公報の明細書(甲7)。以下「原出願明細書」とい
う。)の「発明の詳細な説明」又は原出願添付の図面には,その要旨とする技術事
項のすべてが当業者においてこれを正確に理解しかつ容易に実施することができる
程度に記載されていないから,本件特許出願は適法に分割されたものではなく,本
件特許出願の出願日は現実の出願日である平成6年7月26日というべきである,
②しかるところ,本件発明は昭和58年8月11日公開の特開昭58-13474
4号公報(以下「本件引用例」という。)に記載された発明であるから,本件特許
は特許法29条1項3号に違反し無効であると主張する。
   そこで検討するに,原告の分割要件違反の主張は,本件侵害訴訟控訴審判
決において,本件発明の技術的範囲が,堆積部分を形成させる構成に限定されず,
シール帯域以外を加熱することやシール帯域の外にまで押し流すことが禁止されて
いないものであると解釈されたことに基づくものである。しかし,当該解釈に含ま
れる事項は,本件発明において,構成要件として規定されるものではないから,分
割要件の適否を左右するものではない。
    したがって,原告の上記主張は採用できない。
(2) 本件手続補正の違法と特許法29条1項3号違反の主張について
    原告(請求人)は,①本件特許出願についてされた本件手続補正により,
本件特許出願に添付された当初の明細書(以下「本件当初明細書」という。)に記
載されていた,「前記一対の積層材料(10,11)の最内層である熱可塑性材料
層(3,3)同士が前記シール帯域およびその両外側帯域で互いに圧接されるよう
にされ」の記載が削除され,当該補正の結果,本件侵害訴訟控訴審判決において
は,原出願明細書及び本件当初明細書に一貫して記載されていた,「シール帯域の
突条に対応しない部分(隣接領域)に熱可塑性材料のたい積部分が形成される構
成」が本件発明の要件ではないと判断されたものであるから,当該記載を削除した
本件手続補正は本件当初明細書の要旨を変更するものであり,したがって,本件特
許出願の出願日は平成7年10月4日とみなされる,②しかるところ,本件発明は
本件引用例に記載された発明であるから,本件特許は特許法29条1項3号に違反
し無効であると主張する。
    原告の上記主張は,本件侵害訴訟控訴審判決において,本件手続補正によ
り補正された「特許請求の範囲」の記載に基づく本件発明の技術的範囲が,堆積部
分を形成させる構成に限定されず,シール帯域以外を加熱することやシール帯域の
外にまで押し流すことが禁止されていないものであると解釈されたことに基づくも
のである。しかし,当該解釈に含まれる事項は,本件発明において,構成要件とし
て規定されるものではないから,本件出願の分割要件(「本件出願の分割要件」は
「本件手続補正」の誤記と認める。)の適否を左右するものではない。
    したがって,原告の上記主張は採用できない。
第3 当事者の主張
(原告ら主張の取消事由)
1 取消事由1(本件審決の第2の3(1)の判断の誤り)
   本件特許出願は,平成6年7月26日,原出願の特願平4-262343号
を基礎とする分割出願として出願されたものであり,本件発明は,本件明細書の
「特許請求の範囲」に記載されたとおりの装置の発明に係るものである。しかる
に,次に述べるとおり,本件発明の装置は,原出願明細書には記載されていないも
のであるから,本件発明は原出願から適法に分割されたものではない。したがっ
て,本件特許出願の出願日は原原出願日に遡及せず,現実の出願日である平成6年
7月26日になるというべきところ,本件引用例には本件発明が記載されているか
ら,本件特許は特許法29条1項3号に違反するものであり無効である。
(1)分割出願が適法にされたといえるためには,分割して新たな出願とする発
明が,①分割出願の基礎となる原出願明細書の「特許請求の範囲」に記載された発
明であるか,②その「発明の詳細な説明」又は原出願添付の図面に,その要旨とす
る技術的事項のすべてが当業者においてこれを正確に理解しかつ容易に実施するこ
とができる程度に記載されている発明であるか,のいずれかでなければならない。
(2)本件発明の構成
    本件発明は,前記第2の2に記載の構成要件からなる積層材料のヒートシ
ール装置である。上記記載から明らかなとおり,本件発明の装置は,「一対の積層
材料(10,11)を外側から押しつけるための作用面(8)を有するシールジョー
(5)が設けられ」,「該作用面(8)により,該熱可塑性材料層(3,3)同志が前記
シール帯域で圧接され,さらに前記導電性の棒(7)に,該シール帯域以内で,高周
波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)が前記シー
ル帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」だけであり,“シール
帯域の外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層を固体の状態に保ち,互
いに対向して押し付ける構成”をその構成要件としておらず,したがって,“シー
ルされた2つの層において,滞留し,混合された接着層を形成すること”のない方
式の積層材料のヒートシール装置である。
 上記の点は,本件侵害訴訟控訴審判決が,本件特許の「特許請求の範囲」
の解釈に関してした判断により明らかにされている。すなわち,同判決は,①シー
ル帯域の突条に対応しない部分(隣接領域)に熱可塑性材料のたい積部分が存する
こと,②互いに対向して置かれた積層材料の熱可塑性材料層を,シール帯域以内の
みで加熱し,その外側は加熱しないものであること,③シール帯域の外側に対向し
て位置する熱可塑性材料層が固体の状態で加圧される領域を設けるという限定のな
いものであって,溶融熱可塑性材料の流れをシール帯域の外側でせき止めること
は,いずれも本件発明の構成要件ではないこと,換言すれば,本件発明は,①シー
ル帯域の隣接領域内に熱可塑性材料の堆積部分を形成しない構成,②シール帯域以
外を加熱する構成及び③溶融熱可塑性材料をシール帯域の外にまで押し流す構成を
も包含するものであることを判示している。
(3) 原出願明細書及び原出願添付の図面(甲7)の記載
    原出願明細書の「特許請求の範囲」には,シール帯域(13,14)のう
ちの突条に対応しない領域である隣接領域(14)に溶融熱可塑性材料の堆積を形
成するための構成を備えた発明のみが記載されている。
    また,原出願明細書の「発明の詳細な説明」及び原出願添付の図面には,
“積層材料のヒートシール装置”についての2つの実施例が記載されている。そこ
に記載されている発明の装置は,基本的構成は本件発明と同じであるが,本件発明
の装置と相違するところは,いずれの発明も「シール帯域(13,14)内で,高
周波加熱により溶融された熱可塑性材料(3,3)をシール帯域(14)へ押し出
し堆積させるための突条(9)」を設けている点(原出願明細書の「特許請求の範
囲【請求項1】」である。その具体的構成は「シール帯域13,14の外方の領域
で互いに対向して位置する熱可塑性の層3は引き続き固体の状態に保ち,互いに対
向して押し付けられるので,溶融熱可塑性材料はそれ以上シール帯域外方に流出で
きずに参照番号14で示される2つの帯域に留まり」ということである(同明細書
4欄下から4行目~5欄1行目)。原出願明細書に記載された,まず1つの装置
は,シールジョー5を電気的に不導性の材料で作製し,該シールジョー5の本体6
の作用面8の中央に導電性の材料からなる棒7を配設した構造としており(同明細
書3欄30~35行目),その導電性の材料の外側の電気的に不導性の材料の作用
面によって固体の状態に保たれた熱可塑性の層3を互いに対向して押し付けること
によって,図3,符号15に示されるような接着滞留域(堆積部分)を形成する
(同明細書4欄下から4行目~5欄2行目)。もう1つの装置は,上記のような装
置において,より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15を得るために(同明細書5
欄17~18行目),加熱区域に対する凸条を非対称な位置に設けたものである
(同明細書5欄35~36行目)。しかし,当該装置においても,導電性の材料の
外側の電気的に不導性の材料の作用面を有しており,該作用面によって固体の状態
に保たれた熱可塑性の層3を互いに対向して押し付けるものである(図4)。
    原出願明細書に記載された第1の実施例に係る装置は,上記のとおり,包
装積層材料(10,11)の溶融した熱可塑性材料を滞留する領域(ふくらみ部分
15)を形成する構成により,該熱可塑性材料(プラスチック材料)の効果的な混
合が得られ,実用上充分な強さの接着構造が形成されるという効果を奏するもので
ある(同明細書4欄下から4行目~5欄16行目)。また,加熱領域(7)の突条
を非対称に設けた第2の実施例に係る装置における“より幅広く且つ平たんなふく
らみ部分15”も,同じ効果を奏する接着構造を形成するものである。
  (4) 本件発明の構成と原出願明細書の記載の対比
    前記のとおり,原出願明細書の「特許請求の範囲」に記載された“積層材
料のヒートシール装置”,原出願明細書の「発明の詳細な説明」及び原出願添付の
図面に記載された“積層材料のヒートシール装置”は,いずれも包装積層材料を
“接着滞留域”(堆積部分)を形成してヒートシールを行う構造の装置であるのに
対して,本件発明の装置は,該“接着滞留域”(堆積部分)を形成する構造を有し
ておらず(発明の構成要件としておらず),したがって,そのヒートシールの構造
を異にする方式の装置である。そして,原出願明細書には,本件発明のようなヒー
トシールの方式の装置については記載されておらず,何の開示もなされていないか
ら,本件発明は,原出願明細書に記載された発明ではなく,本件特許出願は原出願
から適法に分割されたものではない。
2 取消事由2(本件審決の第2の3(2)の判断の誤り)
本件特許出願においては,本件手続補正により,本件当初明細書の「特許請
求の範囲」の補正がなされたが,次に述べるとおり,本件手続補正後の発明,すな
わち本件発明は,本件当初明細書には記載されていないものであるから,当該補正
は本件当初明細書の要旨を変更するものである。したがって,本件特許出願の出願
日は,本件手続補正がなされた平成7年10月4日に繰り下げられるべきものであ
るところ,本件引用例には本件発明が記載されているから,本件特許は特許法29
条1項3号に違反するものであり無効である。
(1) 本件発明の構成
本件発明の構成は前記1(2)のとおりである。
 (2) 本件当初明細書(甲15)に記載された発明
    本件当初明細書には,原出願明細書に記載された発明の装置と同じ“積層
材料のヒートシール装置”が記載されている。そうすると,本件当初明細書に記載
されている“加熱区域の突条(9)を非対称に設ける”構造は,前記1(2)のとお
り,包装積層材料(10,11)の溶融した熱可塑性材料を滞留する領域(ふくら
み部分15)を“より幅広く且つ平たんなふくらみ部分15”として形成するため
の“ヒートシール装置”の構造である。
  (3) 本件手続補正による補正事項
    本件手続補正により,本件当初明細書の「特許請求の範囲」の記載に「該
シール帯域以内で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し
流す突条(9)が前記シール帯域(12,14)(判決注:符号「12」は「13」の
誤記と認める。)に非対称的に位置して設け」なる構成が挿入された。
    本件発明は,前記1(2)のとおり,“包装積層材料(10,11)の溶融し
た熱可塑性材料を滞留する領域”を形成しない“積層材料のヒートシール装置”で
あることから,上記挿入部分に係る“非対称的に位置して設けられた突条”の機能
は,本件当初明細書に記載された“非対称的に位置して設けられた突条”とは相違
するものである。そして,本件当初明細書には,本件発明の“積層材料のヒートシ
ール装置”の構造の一部としての上記構成については何ら記載されておらず,ま
た,上記構成は本件当初明細書の記載から自明なものでもない。
  (4) 前記のとおり,本件発明は,本件当初明細書に記載されておらず,また,
本件当初明細書の記載から自明なものでもないから,本件手続補正は,本件当初明
細書の要旨を変更するものであり,違法である。
(被告の反論)
1 取消事由1について
(1) 原原出願に添付された当初の明細書(特開昭57-177486号公報の
明細書(甲8)。以下「原原出願明細書」という。)に記載されている発明
   ア 「特許請求の範囲」の記載
    「(1) シール帯域(13),(14)内の熱可塑性材料の外層(2),
(3)を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱する熱可塑性材料の
外層(2),(3)を有する包装積層品をヒートシールする方法において,シール帯
域(13),(14)の限定された線状領域(13)内の熱可塑性の層が互いに強力
に押されるため溶融熱可塑性材料が前記領域(13)からシール帯域の隣接領域
(14)へ流出することを特徴とする包装積層品をヒートシールする方法。」(以
下「原原出願発明1」という)
    「(2) 特許請求の範囲第1項に記載の方法において,シール帯域(1
3),(14)の外層部分における熱可塑性材料の流れが非溶融材料によって阻止
されるため線状領域(13)の側に押し出されたプラスチックのたい積部分(1
5)が形成されることを特徴とするもの。」(以下「原原出願発明2」という)
イ 原原出願明細書の「発明の詳細な説明」に記載されている発明
    (ア) 「本発明は,シール帯域内の熱可塑性材料の外層を互いに接触させ
てこれらを一時的にシール温度に加熱する外側の熱可塑性材料の層を有する包装積
層品をヒートシールする方法に関する。
      本発明はまた,積層品に押し付けることができる作用面を備えた細長
いシールジョーを具備する包装積層品をヒートシールする装置に関する。使い捨て
方式の包装容器は,牛乳,果実飲料等に用いられ,一般に積層包装材料で作られ
る。
      包装材料は,両側を均質のプラスチック材料の薄い層で覆われた,中
央の比較的かたい支持層を具備する。この材料は,アルミニウムはくまたはその他
の材料を具備することもできる。この型の全ての包装積層品に共通の特徴は,これ
らがその外側,少なく共内容物に面する側に熱可塑性材料,通常はポリエチレンの
層を具備し,それによって互いに対向して置かれた積層品の2つの部分を熱と圧力
とによって一緒に液密状態にシールできることである。
      シールが所望の強さと液密度とを得るためには一緒にシールすべき2
つの熱可塑性の層が必ず清浄で不純物の無いことが必要である。このような場合に
は熱可塑性の各層の完全な融合を得ることができ,その結果,強さと密封度の点か
ら見て最適のシールがもたらされる。熱可塑性の層の上には通常,熱可塑性の層の
押出しと共に包装積層品上に形成される薄い酸化物の被膜が存在するために熱可塑
性の各層の完全な融合が往々にして阻害され,従ってシールは理論的には可能な強
さと密封度とを得られない。熱可塑性の層の表面には,例えば,更にシールを阻害
する内容物の残留物のような別の種類の不純物も生ずる可能性がある。これは,内
容物が在る間に積層材料のシールが行われる,即ちシールを行い得る前に互いに対
向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押し出さなければ
ならない,という形式の包装製造に特有の問題である。しかし実際問題として内容
物は完全には絞り出されずに微量の残留物が残り,これがシールを弱める。
      本発明の目的は,前述の全ての難点が回避され且つ得られたシールが
最適の性状を有するように前述の形式の包装積層品をヒートシールすることのでき
る方法を提供することにある。
      本発明の更に目的とするところは,たとえ包装積層品が例えば,酸化
物,包装内容物の残留物,あるいはきょう雑物のような不純物で覆われていても最
適なシールを可能とする包装積層品をヒートシールする方法を提供することにあ
る。
     本発明の以上その他の目的は,シール帯域内の熱可塑性材料の外層を
互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱する外側の熱可塑性材料の層
を有する包装積層品をヒートシールする方法において,シール帯域の限定された線
状領域内の熱可塑性の層が互いに強力に押されるため溶融熱可塑性材料が前記領域
からシール帯域の隣接領域へ流出することを特徴とする本発明によって達成されて
いる。この方法によれば,溶融熱可塑性材料は,線状領域からシール帯域の隣接部
分へ押しやられる間に,可能な限りの不純物を混入連行し,一方,互いに対向して
置かれた積層品の二つの熱可塑性の層は,完全な融合が達成される程度にまで効果
的に混合される。線状領域内には不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残
り,これが包装積層品の支持層と密着」する(2頁左上欄末行~3頁左上欄3行)
(以上を「記載事項1」という。)
    (イ) 「一方シール帯域の隣接領域内では双方の熱可塑性の層からの良く
混合された熱可塑性材料のたい積部分によって優れた強さと密封度が保証され
る。」(同3頁左上欄3行~6行)(以上を「記載事項2」という。)
(2) 原出願明細書(甲7)の「発明の詳細な説明」に記載されている発明
   「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,シール帯域内の熱可塑性材料
の外層を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱し,融着するように
して包装積層材料をヒートシールする装置に関する。
   【0002】 【従来の技術】使い捨て方式の包装容器は,牛乳,果実,飲料等
に用いられ,一般に積層包装材料で作られる。包装材料は,両側を均質のプラスチ
ック材料の薄い層で覆われた,比較的剛性の中心支持層を具備する。この材料は,
アルミニウムはくまたはその他の材料を具備することもできる。この型の全ての包
装積層材料に共通の特徴は,これらがその外側,少なく共内容物に面する側に熱可
塑性材料,通常はポリエチレン層を具備し,それによって互いに対向した積層材料
の2つの部分を熱と圧力とによって共に液密状態にシールできることである。
   【0003】 シールが所望の強さと液密性とを有するためには,共にシールす
べき2つの熱可塑性の層が必ず清浄で不純物のないことが必要である。このような
場合には熱可塑性の各層の完全な融合を得ることができ,その結果,強い高密封性
の点から見て最適のシールがもたらされる。熱可塑性の層の上には通常,熱可塑性
の層の押出しと共に包装積層材料上に形成される薄い酸化物の被膜が存在するため
に熱可塑性の各層の完全な融合が往々にして阻害され,従ってシールは理論的には
可能な強さと密封性とを得られない。熱可塑性の層の表面には,例えば,更にシー
ルを阻害する内容物の残留物のような別の種類の不純物も生ずる可能性がある。こ
れは,内容物が在る間に積層材料のシールが行われる,即ちシールを行い得る前に
互いに対向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押し出さ
なければならない,という形式の包装製造に特有の問題である。しかし実際問題と
して内容物は完全には絞り出されずに微量の残留物が残り,これがシールを弱め
る。
   【0004】 【発明が解決しようとしている問題点】本発明の目的は,前述の
全ての難点が回避され且つ得られたシールが最適の性状を有するように前述の形式
の包装積層材料をヒートシールすることのできる装置を提供することを目的とす
る。本件発明の更に目的とするところは,たとえ包装積層材が例えば,酸化物,包
装内容物の残留物,あるいは残渣のような不純物で覆われていても最適なシールを
可能とする包装積層材料をヒートシールする装置を提供することにある。
   【0007】 【作用】シールジョーには突条のみならず隣接領域をも含む積層
材料を加熱する領域が具備されているので,加熱された熱可塑性材料は線状領域か
ら隣接領域へ高速で押しやられ,それにより既述のように効果的な混合と,従って
優れたシールが得られる。溶融熱可塑性材料がシール帯域から隣接部分わきへ押し
やられる間に,溶融熱可塑性材料は可能な限りの不純物を混入連行し,一方,互い
に対向して置かれた積層材料の2つの熱可塑性の層は,完全な融合が達成される程
度にまで効果的に混合される。シール帯域内には不純物の無い非常に薄い熱可塑性
の層のみが残り,これが包装積層材料の支持層と密着」する」(以下,この記載を
「原出願記載事項」という)
(3) 上記(1)と(2)とを比較すると,次のことがいえる。
ア 原原出願の記載事項1と原出願記載事項の内容は実質的に同じである。
この内容の要点を具体的に示すと次のとおり。
    (ア) シールが所望の強さと液密度を得るための要件
      シールすべき2つの熱可塑性の層が必ず一様に清浄で不純物の無いこ
とが必要である。
    (イ) シールを阻害する要因
     a 熱可塑性の層の上には薄い酸化物の被膜(以下「不純物A」とい
う。)が存在するために熱可塑性の各層の完全な融合が阻害される。
     b 内容物が在る間に積層材料のシールが行われることから,シールを
阻害する内容物の残留物のような不純物(以下「不純物B」という。)が生じ,内
容物は完全に絞り出されずに微量の残留物が残り,これがシールを弱める。
    (ウ) 発明の目的
      包装積層品が不純物A及び不純物Bで覆われていても最適なシールを
可能とするシール方法又は装置を提供することである。この目的は,シール帯域の
限定された線状領域内の熱可塑性の層が互いに強力に押されるため溶融熱可塑性材
料が前記領域からシール帯域の隣接領域へ流出することにより達成される。
イ 原原出願発明1は,原原出願記載事項1の内容を発明としており,この
発明が本件特許出願の基本となる発明である。そして,上記のとおり,原原出願記
載事項1と原出願記載事項とはその内容は実質的に同一であるから,原出願にも原
原出願発明1が記載されているということができる。
ウ 原原出願発明2は,「特許請求の範囲第1項に記載の方法におい
て,・・・たい積部分(15)が形成されることを特徴とするもの。」と記載され
ており,原原出願発明1の1つの実施例の発明である。この発明は,原原出願記載
事項2の内容を発明とするものである。
(4) 原告は,原原出願明細書及び原出願明細書に記載されている発明は,”接
着滞留域”(堆積部分)を形成してヒートシールを行う発明である,つまり,原原
出願明細書及び原出願明細書に記載されている発明は,原原出願発明2であって,
原原出願発明1は記載されていないと主張する。
    しかしながら,原原出願明細書及び原出願明細書には,原原出願発明1及
び原原出願発明2の両方が記載されており,原原出願発明2は原原出願発明1の1
つの実施例の発明であることは前述したとおりであるから,原告の主張は失当であ
る。
    また,本件発明は,突条がシール帯域に非対称的に位置して設けられてい
るところに特徴があるが,本件発明も原原出願発明1の実施例としての発明であ
り,これも原原出願明細書及び原出願明細書に記載されているから,原告の「本件
発明は,原出願明細書に記載された発明ではなく,本件出願は適法に分割されたも
のではない」との主張が失当であることは明らかである。
分割できる発明は,元の出願に添付された明細書の「発明の詳細な説明」
及び図面に記載されていることで足りると解されるところ,原告の主張は,実質的
には,分割できる発明が元の出願に添付された明細書の「特許請求の範囲」に記載
されていることを要するとするものであり,この点でも失当というべきである。
2 取消事由2について
   原告は,本件当初明細書に記載された発明は原原出願発明2であり,本件当
初明細書には原原出願発明1は記載されていないとして,本件手続補正は,本件当
初明細書の要旨を変更するものである旨主張をしているが,原原出願発明1を内容
とする原出願記載事項は本件当初明細書に記載されている。
   本件手続補正後の発明,すなわち本件発明は,本件当初明細書又は本件特許
出願添付の図面に記載されており,原告の上記主張は失当である。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件審決の第2の3(1)の判断の誤り)について
   原告は,本件特許出願は原出願を基礎とする分割出願として出願されたもの
であるところ,本件発明の装置は,“シール帯域の外方の領域で互いに対向して位
置する熱可塑性の層を固体の状態に保ち,互いに対向して押し付ける構成”をその
構成要件としておらず,したがって,“シールされた2つの層において,滞留し,
混合された接着層(接着滞留域・堆積部分)を形成すること”のない方式の積層材
料のヒートシール装置であるが,かかる発明は,原出願明細書には記載されていな
いものであるから,本件発明は原出願から適法に分割されたものではない旨主張す
るので,以下判断する。
  (1) 原原出願である特願昭57-177486号は,平成2年9月20日に特
公平2-42055号公報として出願公告され,平成4年1月23日に特許請求の
範囲が補正され,その後に,原原出願から原出願である特願平4-262343号
が分割出願として出願され,また,平成6年7月26日に原出願から本件特許出願
が分割出願として出願されたことは,前記第2の1に記載したとおりである。
  (2)そこで,まず,本件発明の装置が,原告主張のように,“シール帯域の外
方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層を固体の状態に保ち,互いに対向
して押し付ける構成”をその構成要件としておらず,したがって,“シールされた
2つの層において,滞留し,混合された接着層(接着滞留域・堆積部分)を形成す
ること”のない方式の積層材料のヒートシール装置であるか否かについて検討す
る。
   ア 前記第2の2記載にのとおり,本件明細書(甲2)の「特許請求の範
囲」には,「繊維質材料の支持層(1)の内側にアルミ泊等の導電性材料層(4)
を有し,さらにその内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,
11)を互いに,その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールす
る装置において」,「一対の積層材料(10,11)を外側から押しつけるための
作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ」,「該シールジョー(5)は,
非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の棒(7)とで
構成され,該棒(7)は,該一方の側面とで前記作用面(8)を構成するととも
に,前記一対の積層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯域以内で高
周波誘導加熱し,該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記熱可塑性材
料層(3,3)を溶融する」,「該作用面(8)により,該熱可塑性材料層(3,3)
同志が前記シール帯域で圧接され,さらに前記導電性の棒(7)に,該シール帯域以
内で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す突条(9)
が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置して設けられている」と記載され
ている。
 イ 本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本件特許出願添付の図面には,
次のとおりの内容が記載されている。
(ア) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,シール帯域内の熱可
塑 性材料の外層を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱し,融着
するようにして包装積層材料をヒートシールする装置に関する。
  【0002】 【従来の技術】使い捨て方式の包装容器は,牛乳,果実,飲
料等に用いられ,一般に積層包装材料で作られる。包装材料は,両側を均質のプラ
スチック材料の薄い層で覆われた,比較的剛性の中心支持層を具備する。この材料
は,アルミニウムはくまたはその他の材料を具備することもできる。この型の全て
の包装積層材料に共通の特徴は,これらがその外側,少なく共内容物に面する側に
熱可塑性材料,通常はポリエチレン層を具備し,それによって互いに対向した積層
材料の2つの部分を熱と圧力とによって共に液密状態にシールできることである。
  【0003】 シールが所望の強さと液密性とを有するためには,共にシー
ルすべき2つの熱可塑性の層が必ず清浄で不純物のないことが必要である。このよ
うな場合には熱可塑性の各層の完全な融合を得ることができ,その結果,強い高密
封性の点から見て最適のシールがもたらされる。熱可塑性の層の上には通常,熱可
塑性の層の押出しと共に包装積層材料上に形成される薄い酸化物の被膜が存在する
ために熱可塑性の各層の完全な融合が往々にして阻害され,従ってシールは理論的
には可能な強さと密封性とを得られない。熱可塑性の層の表面には,例えば,更に
シールを阻害する内容物の残留物のような別の種類の不純物も生ずる可能性があ
る。これは,内容物が在る間に積層材料のシールが行われる,即ちシールを行い得
る前に互いに対向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押
し出さなければならない,という形式の包装製造に特有の問題である。しかし実際
問題として内容物は完全には絞り出されずに微量の残留物が残り,これがシールを
弱める。
     【0004】 【発明が解決しようとしている問題点】本発明の目的は,前
述の全ての難点が回避され且つ得られたシールが最適の性状を有するように前述の
形式の包装積層材料をヒートシールすることのできる装置を提供することを目的と
する。本件発明の更に目的とするところは,たとえ包装積層材が例えば,酸化物,
包装内容物の残留物,あるいは残渣のような不純物で覆われていても最適なシール
を可能とする包装積層材料をヒートシールする装置を提供することにある。
     【0007】 【作用】シールジョーには突条のみならず隣接領域をも含む
積層材料を加熱する領域が具備されているので,加熱された熱可塑性材料は線状領
域から隣接領域へ高速で押しやられ,それにより既述のように効果的な混合と,従
って優れたシールが得られる。溶融熱可塑性材料がシール帯域から隣接部分わきへ
押しやられる間に,溶融熱可塑性材料は可能な限りの不純物を混入連行し,一方,
互いに対向して置かれた積層材料の2つの熱可塑性の層は,完全な融合が達成され
る程度にまで効果的に混合される。シール帯域内には不純物の無い非常に薄い熱可
塑性の層のみが残り,これが包装積層材料の支持層と密着し,一方シール帯域の隣
接領域内では双方の熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料のたい積部分
によって強みと優れた密封性が保証される。」
(イ) 「【0011】 図3は,本発明による方法と装置によって2つの包装
積層材料を一緒にシールする際のシール順序を示す。・・・生成された熱はアルミ
ニウム層間に位置する熱可塑性の層3に直接伝達され,それによってこれらが溶融
し,流体となる。包装積層材料を突起9と同じ高さで一緒に押しやる高い圧力(約
100kg/cm2
)のために,溶融熱可塑性材料はシール帯域13,14全体の中の高
圧の領域13から隣接部分14に走り,または流れ込む。シール帯域13,14の
外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層3は引き続き固体の状態を保
ち,互いに対向して押し付けられるので,溶融熱可塑性材料はそれ以上シール帯域
外方に流出できずに参照番号14で示される2つの領域に留まり,ここで細長い圧
力領域13と平行に延びるふくらみ部分15を形成し,その中で互いにシールされ
た2つの層が混合される。帯域13内には表面の凹凸等のために絞り出され得ない
微量のプラスチック材料のみが残り,一方,この帯域の両側に形成されたふくらみ
部分15にはよく混合されたプラスチックの余剰分が包含され,実用上充分な強さ
のシールが2つの層の間に得られる。・・・」
【0012】 ある種の充てん物と共に使用するには,より幅広く且つ平た
んなふくらみ部分15を得るために溶融熱可塑性材料の流れを突条部分から更に遠
方へ移行することが有利であろう。この手法によれば,前述の実施例に比べて更に
円滑且つ柔軟性のあるシールを達成することが可能である。またこれによって,シ
ールをより強め,突出を生じて集中応力がかかる部分のないような,より直線的な
シール・エッジが得られる。前述の利点は,突条9の縦方向の縁の一方が作用面8
の加熱領域の一方の縁と概ね合致し(図4),それによって突条9に隣接する加熱
領域が突条の他の側の作用面8のレベルより高いレベルに置かれる本発明の第2実
施例によって達成される。・・・
 【0013】 本発明による装置の第2実施例が用いられる場合には,加熱
区域に対する突条9の非対称的な位置決めにより,溶融熱可塑性材料の流れの絶対
的に多くの部分が突条の加熱される側に向けて指向される。加熱区域が高い位置
(本発明の第1実施例に比べて)にあることにより,加熱区域の外側に在り従って
固体の状態にある熱可塑性の層に到達する前の熱可塑性材料の流れに,より小さ
く,より細長い空間が残される。従って突条9の直前にある高圧帯域から絞り出さ
れた熱可塑性材料の細長いふくらみ,またはたい積部分15は,ふくらみ部をより
柔軟性のあるものとし,シールを更に強力なものとする,より平たんで細長い断面
形状が与えられる。」
ウ 本件明細書の「特許請求に範囲」には,上記アのとおり「該シール帯域
以内で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す」構成
が記載されているが,熱可塑性の材料層(3,3)が押し流されてどのような状態
になるのかは明示されていない。しかしながら,本件発明の「該シール帯域以内
で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流す」構成がい
かなるものであるかを具体的に想定してみるに,圧縮することによりその体積が顕
著に減少する気体と異なり,固体及び液体においては,圧縮しても,その体積が殆
ど減少しないことは技術常識であるから,本件発明において,シール帯域以内で突
条(9)により「押し流された」ところの溶融された熱可塑性の材料層は,その体
積を減ずることなく,突条直下からその両側あるいは片側へ移動させられることに
なる。すなわち,本件発明における「押し流す」とは,突条直下に位置する溶融さ
れた熱可塑性材料を該直下から少なくとも突条の隣接部分以遠へと移動させること
にほかならない。そして,該移動によって,一対の熱可塑性材料層(3,3)は,
シールされるのであるから,当然に接着されるものであり,そうである以上,少な
くとも界面において,熱可塑性材料層同志は多少とも混合されると解するのが自然
である。
     さらに,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載には,上記アのとお
り,本件発明の装置には,「一対の積層材料(10,11)を外側から押しつける
ための作用面(8)を有するシールジョー(5)が設けられ」ており,「該シールジョ
ー(5)は,非導電性の本体(6)と該本体(6)の一方の側面に設けた導電性の
棒(7)とで構成され,該棒(7)は,該一方の側面とで前記作用面(8)を構成
するとともに,前記一対の積層材料(10,11)の導電性材料(4)をシール帯
域以内で高周波誘導加熱し,該一対の積層材料(10,11)の最内層である前記
熱可塑性材料層(3,3)を溶融する」ものであることが記載されており,本件明
細書の「発明の詳細な説明」の段落【0009】の記載及び本件特許の願書添付の図2
ないし4を参照して,上記の記載をみれば,本体(6)の一方の側面に位置する棒
(7)は,本件(6)の周囲の部分と共にシールジョー(5)の作用面(8)を形
成するものであり,作用面(8)の周辺部は非導電性の本体(6)で形成されてい
るから,加熱されていない部分であるということになる。したがって,同部分に移
動してきた溶融された熱可塑性の材料層は,ここで滞留し,冷却,さらには固化さ
れる,すなわち堆積部分を形成するものと理解される。
上記イ認定の本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本件特許出願の原
書添付の図面の記載によれば,①本件発明は,繊維質材料の支持層(1)の内側に
アルミ泊等の導電性材料層(4)を有し,さらにその内側に熱可塑性材料層(3)
を有する一対の積層材料(10,11)を互いに,その最内層である熱可塑性材料
層(3,3)間でヒートシールする装置において,加熱された熱可塑性材料がシー
ル帯域の突条に対応する部分(線状領域)から突条に対応しない部分(隣接領域)
へ高速で押しやられて,それにより熱可塑性材料が効果的に混合され,シール帯域
の突条に対応する部分(線状領域)には,不純物のない非常に薄い熱可塑性の層の
みが残り,これが包装積層材料の支持層と密着し,一方,シール帯域の突条に対応
しない部分(隣接領域)では,上記のシール帯域の突条に対応する部分から高速で
押しやられた熱可塑性の層からの良く混合された熱可塑性材料が滞留して堆積部分
を形成し,それにより優れたシールが得られるという作用効果を有すること,②,
また,本件発明は,突条(9)が前記シール帯域(12,14)に非対称的に位置
して設けられるところ,このように突条がシール帯域に非対称に位置して設けられ
ることにより,突条が対称的な位置に設けられている場合と比較して,溶融された
熱可塑性材料を更に遠方へ移行することができ,そのため,シール帯域の突条に対
応しない部分(隣接領域)では,その移行させられた熱可塑性材料が滞留して,堆
積部分を形成するが,その堆積部分は上記①の場合と比較して幅広くかつ平坦にな
り,その結果,柔軟性のある強力なシールが得られるという作用効果を有すること
が記載されている。
上記のとおり,上記イ認定の本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本
件特許出願添付の図面には,本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された「該シ
ール帯域以内で,高周波加熱により溶融された熱可塑性の材料層(3,3)を押し流
す」構成についての上記の解釈に沿う説明がされていることが明らかであり,本件
明細書の「特許請求の範囲」には,突条に対応しないシール帯域の外方の領域で互
いに対向して位置する熱可塑性の層を固体の状態に保ち,互いに対向して押し付け
る構成”が採用され,その領域において“シールされた2つの層において,滞留
し,混合された接着層(接着滞留域・堆積部分)を形成する装置が規定されている
ものと認めるのが相当である。
この点に関する原告の主張は,本件侵害訴訟控訴審判決の本件特許の
「特許請求の範囲」の解釈を前提とするものであるが,本件特許を無効とすること
を求める本件審判請求事件において,これを審理する特許庁及び裁判所が上記判決
の解釈に拘束されるとする根拠はなく,上記認定と異なる原告の主張は採用できな
い。
(3) 次に原出願明細書に本件発明が記載されているか否かについて検討する。
   ア 原出願明細書(甲7)の「特許請求の範囲【請求項1】」には,「繊維
質材料の支持層(1)の内側にアルミ箔等の導電性材料層(4)を有しさらにその
内側に熱可塑性材料層(3)を有する一対の積層材料(10,11)を,互いに,
その最内層である熱可塑性材料層(3,3)間でヒートシールする装置におい
て」,「該一対の積層材料(10,11)を押しつけるための作用面(8)を有し
かつ前記導電性材料層(4)を加熱するための高周波電源に接続されたシールジョ
ー(5)を有し」,「該シールジョー(5)の作用面(8)には,シール帯域(1
3,14)内で高周波加熱により溶融された熱可塑性材料層(3,3)をシール帯
域(14)へ押し出し堆積させるための突条(9)が設けられている」と記載され
ている。
イ 原出願明細書の「発明の詳細な説明」及び原出願添付の図面には,前
記(2)イで認定した本件明細書の「発明の詳細な説明」及び本件特許出願添付の図面
の記載と全く同じ内容が記載されており,これらの記載からすれば,原出願明細書
には,前記(2)ウの①,②に記載した発明と同様の発明が記載されているということ
ができる。
ウ 上記ア,イのとおり,原出願明細書の「特許請求の範囲」並びに「発明
の詳細な説明」及び原出願添付の図面には,原告も自認するとおり,突条に対応し
ないシール帯域の外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層を固体の状態
に保ち,互いに対向して押し付ける構成”が採用され,その領域において“シール
された2つの層において,滞留し,混合された接着層(接着滞留域・堆積部分)を
形成する装置に係る発明が記載されていることが明らかである。
(4) 前記(2)及び(3)で検討したとおり,本件発明は,前記(2)ウの構成要件を
備えるものであるところ,原出願明細書には,“接着滞留域”(堆積部分)を形成
する構成を有する包装積層品のヒートシールの方式の装置が記載されているほか,
突条を非対称に設け,形成される堆積部分を幅広くかつ平坦にする構成が開示され
ており,同明細書のその他の記載を併せみれば,本件発明の構成要件は,原出願明
細書の「特許請求の範囲」に記載されているか,あるいはその「発明の詳細な説
明」及び原出願添付の図面に,その要旨とする技術的事項のすべてが当業者におい
てこれを正確に理解しかつ容易に実施することができる程度に記載されていると認
められる。
    原告は,本件発明が“接着滞留域”(堆積部分)を形成しない構成を含む
ものであるとの見解に立って,それが原出願明細書に記載された発明ではない旨主
張するが,その前提を誤るもので理由がないというべきである。
   そうすると,本件審決の第2の3(1)の判断は,本件特許出願の原出願から
の分割が違法なものではないとした理由付けにおいて適切を欠くが,その結論に誤
りがあるということはできない。
(5)なお,被告は,本件発明の装置が,“接着滞留域”(堆積部分)を形成す
ることのない方式の積層材料のヒートシール装置であるとことを前提として,当該
発明が原出願明細書及び原原出願明細書にも記載されていると主張しているので,
この点について付言する。
   ア 原原出願明細書(甲8)には,次のとおり記載されている。
 (ア) 「特許請求の範囲」の記載((1)から(11)までのうち,(1)及び(2)の
みを抜粋。)
     「(1) シール帯域(13),(14)内の熱可塑性材料の外層(2),
(3)を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱する熱可塑性材料の
外層(2),(3)を有する包装積層品をヒートシールする方法において,シール帯
域(13),(14)の限定された線状領域(13)内の熱可塑性の層が互いに強力
に押されるため溶融熱可塑性材料が前記領域(13)からシール帯域の隣接領域
(14)へ流出することを特徴とする包装積層品をヒートシールする方法。
      (2) 特許請求の範囲第1項に記載の方法において,シール帯域(1
3),(14)の外層部分における熱可塑性材料の流れが非溶融材料によって阻止
されるため線状領域(13)の側に押し出されたプラスチックのたい積部分(1
5)が形成されることを特徴とするもの。」
 (イ) 原原出願明細書の「発明の詳細な説明」に記載されている発明
     a 「本発明は,シール帯域内の熱可塑性材料の外層を互いに接触させ
てこれらを一時的にシール温度に加熱する外側の熱可塑性材料の層を有する包装積
層品をヒートシールする方法に関する。
       本発明はまた,積層品に押し付けることができる作用面を備えた細
長いシールジョーを具備する包装積層品をヒートシールする装置に関する。
       使い捨て方式の包装容器は,牛乳,果実飲料等に用いられ,一般に
積層包装材料で作られる。
       包装材料は,両側を均質のプラスチック材料の薄い層で覆われた,
中央の比較的かたい支持層を具備する。この材料は,アルミニウムはくまたはその
他の材料を具備することもできる。この型の全ての包装積層品に共通の特徴は,こ
れらがその外側,少なく共内容物に面する側に熱可塑性材料,通常はポリエチレン
の層を具備し,それによって互いに対向して置かれた積層品の2つの部分を熱と圧
力とによって一緒に液密状態にシールできることである。
       シールが所望の強さと液密度とを得るためには一緒にシールすべき
2つの熱可塑性の層が必ず清浄で不純物の無いことが必要である。このような場合
には熱可塑性の各層の完全な融合を得ることができ,その結果,強さと密封度の点
から見て最適のシールがもたらされる。熱可塑性の層の上には通常,熱可塑性の層
の押出しと共に包装積層品上に形成される薄い酸化物の被膜が存在するために熱可
塑性の各層の完全な融合が往々にして阻害され,従ってシールは理論的には可能な
強さと密封度とを得られない。熱可塑性の層の表面には,例えば,更にシールを阻
害する内容物の残留物のような別の種類の不純物も生ずる可能性がある。これは,
内容物が在る間に積層材料のシールが行われる,即ちシールを行い得る前に互いに
対向して置かれた熱可塑性材料の表面間のすきまから内容物を先ず押し出さなけれ
ばならない,という形式の包装製造に特有の問題である。しかし実際問題として内
容物は完全には絞り出されずに微量の残留物が残り,これがシールを弱める。
       本発明の目的は,前述の全ての難点が回避され且つ得られたシール
が最適の性状を有するように前述の形式の包装積層品をヒートシールすることので
きる方法を提供することにある。
       本発明の更に目的とするところは,たとえ包装積層品が例えば,酸
化物,包装内容物の残留物,あるいはきょう雑物のような不純物で覆われていても
最適なシールを可能とする包装積層品をヒートシールする方法を提供することにあ
る。
      本発明の以上その他の目的は,シール帯域内の熱可塑性材料の外層
を互いに接触させてこれらを一時的にシール温度に加熱する外側の熱可塑性材料の
層を有する包装積層品をヒートシールする方法において,シール帯域の限定された
線状領域内の熱可塑性の層が互いに強力に押されるため溶融熱可塑性材料が前記領
域からシール帯域の隣接領域へ流出することを特徴とする本発明によって達成され
ている。この方法によれば,溶融熱可塑性材料は,線状領域からシール帯域の隣接
部分へ押しやられる間に,可能な限りの不純物を混入連行し,一方,互いに対向し
て置かれた積層品の2つの熱可塑性の層は,完全な融合が達成される程度にまで効
果的に混合される。線状領域内には不純物の無い非常に薄い熱可塑性の層のみが残
り,これが包装積層品の支持層と密着」する(2頁左上欄末行~3頁左上欄3行)
     b 「一方シール帯域の隣接領域内では双方の熱可塑性の層からの良く 
混合された熱可塑性材料のたい積部分によって優れた強さと密封度が保証され
る。」(3頁左上欄3行~6行)
イ 上記ア認定の原原出願明細書の記載によれば,原原出願明細書において
は,その「特許請求の範囲」第1項に記載の発明が開示され,同第2項に記載の発
明は,上記第1項に記載の発明の好適な実施例の発明として記載され,「発明の詳
細な説明」においても,上記ア(イ)のa,bのとおり,それぞれの発明に対応する
記載がされていることが認められる。
   ウ(ア) しかしながら,原原出願の出願後の経過をみるに,原原出願明細書
については,平成2年3月12日付けの補正書(甲10)により「特許請求の範
囲」等の補正(「発明の詳細な説明」のうち前記ア(イ)の記載部分については,内
容に関連しない字句の訂正がなされたに止まる。)がされ,また,平成2年9月2
0の出願公告の決定により特公平2-42055号(甲11)として公告され,さ
らに,平成4年1月23日付け補正書(甲12)により「特許請求の範囲」の補正
がされ,原原出願明細書の「特許請求の範囲」は,次のとおりの内容に変更され
た。
     「(1) 積層材料を互いにヒートシールする方法にして,各積層材料は,
その一表面を覆い,かつ該積層材料の融点より低い融点の熱可塑性材料の外層
(3)を有するようになっているものにおいて,前記方法は,前記積層材料を中央
シール帯域(13)とその両側シール帯域(14)に沿って重ね合わせ,前記熱可
塑性材料の外層(3)の表面が前記両シール帯域(13,14)以内で互いに接触
させるようにする段階と,前記熱可塑性材料の外層(3)を前記両シール帯域(1
3,14)以内で該熱可塑性材料の融点まで加熱して当該熱可塑性材料の外層
(3)を溶融材料として,同時に前記熱可塑性材料層の外層(3)を互いに前記中
央シール帯域(13)において圧して前記溶融材料を前記両シール帯域(13,1
4)以内の前記積層材料の一表面から流出させて,これが前記熱可塑性材料の外層
(3)の溶融していない部分によりせき止められ,これにより前記両側シール帯域
(14)の端部に前記溶融材料の堆積(15)を形成させるとともに前記中央シー
ル帯域(13)内の前記積層材料(4)の表面同志を密着させる段階と,前記熱可
塑性材料の外層(3)を(「を」は「で」の誤記と認める。)前記溶融材料を冷却
硬化させ,前記両シール帯域(13,14)以内で前記積層材料間に完ぺキきなシ
ール部分を形成させる段階と,を有する積層材料を互いにヒートシールする方法。
      (2) 特許請求の範囲第1項に記載の方法において,前記積層材料は,
前記シール帯域の両側で冷却されるようになっている方法。
      (3) 積層材料をヒートシールするための装置にして,各積層材料は,
その一表面を覆い,かつ該積層材料の融点より低い融点の熱可塑性材料の外層
(3)を有し,前記熱可塑性材料の外層(3)を中央シール帯域(13)およびそ
の両側シール帯域(14)に沿って重ね合わせて該両シール帯域(13,14)以
内で互いに接触させ,さらに該シール帯域(13,14)に沿って前記熱可塑性材
料の外層(3)の1つに押し付けられるようになった作用面(8)を有する細長い
シールジョー(5)を有するようになっている積層材料のヒートシール装置におい
て,前記シールジョー(5)は前記両シール帯域(13,14)に沿って対向ジョ
ー(12)に対して前記熱可塑性材料の外層(3)を押し付けるための平らな表面
を有する本体(6)と,該本体(6)の平らな表面に形成された溝と,該溝内に嵌
合され且つ前記本体(6)の平らな表面と一致するようにされた作用面(8)を有
し,前記熱可塑性材料を溶融材料にするように前記熱可塑性材料の外層(3)を加
熱するための加熱棒(7)とを含み,前記平面(8)には,平らな平面を有する突
条(9)が設けられ,該突条(9)の平らな平面が前記中央シール帯域(13)以
内で前記熱可塑性材料層(3)を互いに押し付けるようになっており,これによ
り,溶融材料が前記積層材料の表面より流出されるが,これが前記熱可塑性材料の
外層(3)の溶融していない部分によりせき止められるようになっていることを特
徴とする積層材料のヒートシール装置。」
     (イ) 前記(1)に記載したとおり,原出願は,原原出願の出願公告後であ
る平成4年9月30日に原原出願からの分割出願として出願されたものであるか
ら,その分割の基準となる明細書は,上記出願公告に係る特公平2-4205号公
報(甲11)(平成4年1月23日付け補正(甲12)により補正された後のも
の。以下同じ。)の明細書であると解されるところ,上記出願公告に係る公報の明
細書には,その「特許請求の範囲」の記載及び「発明の詳細な説明」の記載からし
て,突条に対応しないシール帯域の外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性
の層を固体の状態に保ち,互いに対向して押し付ける構成”が採用され,その領域
において“シールされた2つの層において,滞留し,混合された接着層(接着滞留
域・堆積部分)を形成する包装積層品のヒートシール装置に係る発明のみが記載さ
れている認めるのが相当である。
      そして,原原出願から分割出願として特許出願できる発明は,上記
出願公告に係る公報の明細書に記載された発明に限られる(平成5年改正法による
改正前の特許法64条の規定に照らし,原原出願の出願公告後においては,原原出
願明細書の削除された事項から特定される発明は,もはや原原出願に係る発明とは
なり得ないと解される。)から,上記出願公告及び上記平成4年1月23日付け補
正書による補正前の原原出願明細書の記載に基づき,あるいはこの記載を参照し
て,原出願明細書及び本件明細書に“接着滞留域”(堆積部分)を形成する構成に
限定しない包装積層品のヒートシールの方式の装置が記載されていると解すること
はできない。
       本件明細書の「特許請求の範囲」には,突条に対応しないシール帯
域の外方の領域において“シールされた2つの層において,滞留し,混合された接
着層(接着滞留域・堆積部分)を形成する装置に係る発明が記載されており,原出
願明細書にも,当該発明が記載されているとことは前記(2),(3)に認定したとおり
であり,原原出願明細書の上記記載はこの認定を左右するものではない。
2 取消事由2(本件審決の第2の3(2)の判断の誤り)について
原告は,本件発明は,“包装積層材料(10,11)の溶融した熱可塑性材
料を滞留する領域”(接着滞留域・堆積部分)を形成しない“積層材料のヒートシ
ール装置”であることから,本件手続補正により本件明細書の「特許請求の範囲」
の記載に挿入された部分に係る“非対称的に位置して設けられた突条”の機能は,
本件当初明細書に記載された“非対称的に位置して設けられた突条”のそれとは相
違するというべきところ,本件当初明細書には,本件発明の上記構成については何
ら記載されておらず,また,上記構成は本件当初明細書の記載から自明なものでも
ないから,本件手続補正は本件当初明細書の要旨を変更するものである旨主張す
る。
 しかしながら,本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された本件発明が,
突条に対応しないシール帯域の外方の領域で互いに対向して位置する熱可塑性の層
を固体の状態に保ち,互いに対向して押し付ける構成”を採用し,その領域におい
て“シールされた2つの層において,滞留し,混合された接着層(接着滞留域・堆
積部分)を形成する装置であると認めるべきことは,前記1(2)に説示したとおりで
ある。そして,本件当初明細書(甲15)の「発明の詳細な説明」及び本件特許出
願添付の図面には,前記1(3)イに認定の原出願明細書の「発明の詳細な説明」及び
原出願添付の図面と同様の内容が記載されており,原告の自認するとおり,その記
載によれば,そこには,突条が対称となる位置に設けられる場合と非対称となる位
置に設けらる場合のいずれについても,突条に対応しないシール帯域の外方の領域
において“シールされた2つの層において,滞留し,混合された接着層(接着滞留
域・堆積部分)を形成する包装積層品のヒートシール装置に係る発明が開示されて
いるということができる。
したがって,本件手続補正により本件明細書の「特許請求の範囲」の記載に
挿入された部分に係る“非対称的に位置して設けられた突条”の機能は,本件当初
明細書に記載された“非対称的に位置して設けられた突条”の機能と変わらないと
いうべきである。
   これと異なる見解に立ち,本件明細書の「特許請求の範囲」に記載された非
対称的に位置して設けられた突条”は接着滞留域(堆積部分)を形成しないもので
あるところ,このような機能を有する“非対称的に位置して設けられた突条”は本
件当初明細書には記載されていないから,本件手続補正は要旨変更に当たり違法で
あるとし,このことを前提に本件特許が特許法29条1項3号に違反するとする原
告の主張は,その前提において理由がない。
本件審決の第2の3(2)の判断は,本件手続補正が違法なものではないとした
理由付けにおいて適切を欠くが,その結論に誤りがあるということはできない。
 3 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がな
く,本件審決に他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
  東京高等裁判所知的財産第1部
    裁判長裁判官    北  山  元  章
   裁判官      青  栁     馨
         裁判官   沖  中  康  人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛