弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成30年9月14日宣告
平成30年刑第1082号自殺幇助被告事件
主文
被告人を懲役2年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,その死生観に基づき自殺することを決意したA(当時78歳)から,
多摩川に入水して自殺する具体的な計画を知らされ,これを幇助しようと考え,
分離前の相被告人Bと共謀の上,平成30年1月21日午前0時頃,Aとの待ち
合わせ場所である東京都新宿区新宿a丁目b番c号付近路上において,Bが運転
し被告人が同乗する普通乗用自動車にAを乗せ,同所から自殺決行場所に近い東
京都大田区田園調布d丁目e番田園調布d丁目バス停留所付近まで同人を送り届
けるとともに,同車内において,被告人が,Bがあらかじめ購入して準備してい
たハーネスをAの身体に装着させ,さらに,同日午前0時50分頃,前記バス停
留所付近で車から降りたAが同区田園調布d丁目多摩川左岸まで歩いていくのに
被告人が同行し,同所において,被告人が,自らがあらかじめ購入して準備して
いたロープを立木に繋いだ上,これをAの身体に装着されている前記ハーネスに
繋ぐとともに,同じく自らがあらかじめ購入して準備していたウェイト及びウェ
イト用ベルトをAの身体に装着させるなどした上,同人が歩いて多摩川に入水し
て溺死するに至らしめ,もって同人の自殺を幇助した。
(争点に対する判断)
弁護人は,被告人が本件で行った外形的行為は争わないとしつつ,被告人の行
為は自殺幇助罪の構成要件には該当せず,被告人は無罪である旨主張し,被告人
もこれに沿う供述をするので検討する。
自殺幇助罪における自殺幇助とは,既に自殺の決意を有する者に対し,自殺の
方法を教え,器具手段を供与する等して,その遂行を容易にすることをいい(大
判大正11年4月27日・刑集1巻4号239頁参照),自殺行為を容易ならし
めた以上,それが積極的手段たると消極的手段たると,また,物理的手段たると
心理的手段たるとを問わないと解される(東京高判・昭和30年6月13日・判
特2巻12号597頁参照)。弁護人は,自殺幇助は,類型的に死亡の結果を物理
的に直接促進する行為に限られる旨主張するが,判例,通説に反する独自の見解
であって,採用できない。
そして,本件における被告人の行為は,自殺の決意をしたAからの依頼を受け,
共犯者であるBと手分けをし,予め,自殺後に遺体が流されたりしないようにす
るためのウェイト及びウェイト用ベルト,ロープ,ハーネス等を購入して準備し
た上,自殺当日は,Bが運転する車に同乗してAを決行場所の近くまで送り届け,
その間,Aの身体に上記ハーネスを装着させるなどした上,Aに同行して現場ま
で赴き,上記ハーネスとつながるロープを立木に繋ぐとともに,Aの身体にウェ
イト及びウェイト用ベルトを装着するなどしたもので,Aの自殺を心理的あるい
は物理的に容易にするものとして自殺幇助に該当することは明らかというべき
である。
この点,弁護人は,被告人らが準備した道具は,死体の発見を容易にするため
のもので,溺死という結果を促進する効果を持たないから自殺を物理的に幇助し
たとはいえないし,Aの自殺の意思は強固であったから,被告人らが道具を準備
する行為は心理的に自殺を幇助したともいえないと主張する。
しかし,被告人の供述によっても,Aは,単に多摩川で入水自殺すればよいと
考えていたのではなく,自殺後はできるだけ早期かつ確実に遺体を発見してもら
い,家族が遺体を見た際にできるだけ嫌な思いをさせたくないと考え,上記のよ
うな道具の準備を頼んできたというのであって,こうした道具の使用は,Aが思
い描くような自殺(Aがいうところの「自裁死」)を遂げるための不可欠の要素と
いうべきである。そうすると,これらの道具を準備し,使用できるようにする行
為は,Aが心置きなく自殺を遂げることができるようにするという意味で,Aの
自殺を心理的に容易にするものといえ,それはAの自殺に対する意思が強固であ
ったとしても変わらない。また,Aの代わりにこれらの道具を購入した上,重度
の頚椎症性脊髄症のため細かな作業や重量のある物を持つことができないAのた
めにその身体に装着してあげたり,自殺場所近くまで車で送ってあげるなどの行
為は,Aの自殺を物理的に容易にするものともいえる。
したがって,弁護人の主張は理由がなく,上記認定を左右しない。
なお,弁護人は,本件起訴は公訴権の濫用に当たるとも主張するが,そもそも
検察官の公訴提起が公訴権の濫用にわたるとして無効とされるのは,公訴提起自
体が検察官の職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られると解されるので
あって(最決昭和55年12月17日・刑集34巻7号672頁参照),本件起訴
がそのような場合に当たるとはいえないことは明らかである。弁護人は,①Aが
自殺の際に装着していたヘアバンド等を準備した何者かを起訴しないで被告人を
起訴したのは法の下の平等に反するとか,②被告人の行為は何らの犯罪行為を構
成しないから本件起訴は訴追裁量権を著しく逸脱するなどと主張する。しかし,
①のヘアバンド等については,証拠上は,Aの家族が自殺とは関係なくAに持た
せたことがうかがわれるのであって,これを起訴しないことが平等原則に違反す
るなどとはいえないし,②については,前述のとおり,被告人の行為は自殺幇助
罪に該当するから,その前提自体理由がない。よって,この点に関する弁護人の
主張も採用できない。
(量刑の理由)
本件は,著名な評論家であったAが出演するテレビ番組のプロデューサーを務め
るなどして同人と親密な関係にあった被告人が,Aを師と仰ぎ深く尊敬していたB
と共謀の上,Aが自殺するのを幇助したという事案である。
被告人は,平成29年夏頃,Aから自殺についての具体的な計画を知らされ,協
力を求められるや,自分にとって大切な人物からの頼みを断るのは人道に反するな
どと考えてこれを了承し,同年11月,都内のホテルで,Bも含めた3人で自殺の
日時,場所,方法等についての具体的な打合せを行い,その後,自殺に用いるため
のウェイトやロープ等を購入したり,同年12月にはBとともに現場の下見を行う
など入念な準備をした上で本件犯行に及んだものであり,自殺幇助の意思は強固で
計画性も認められる。また,被告人は,車内においてAにハーネスを装着し,現場
では,立木に繋いだロープとこれとを繋いだ上,Aの身体にウェイト及びウェイト
用ベルトを装着するなど,幇助行為の重要部分を担ったもので,その果たした役割
は大きい。さらに,Aの自殺を思いとどまらせようと努力してきた遺族にとっては,
他人が関与する形でそれを果たすことができなかったことによる悲嘆は大きい。し
かるに,被告人は,A自身が自分の意思を貫くために入水したものであって,自分
自身がその死に直接関与したことはない旨述べて本件を否認し,上記のような幇助
行為を行ったことに対する反省の態度は見られない。遺族においても,そうした被
告人に対し,無理のある主張を通そうとしていることに怒りを覚える,処罰感情は
あるとしか言いようがないと公判廷で述べている。これらからすると被告人の刑事
責任は軽視できないというべきである。
しかしながら他方,Aは,その死生観に基づき,かねてから「自裁死」すなわち
自殺することを公言し,その意思は固かったもので,被告人がこれに協力したのは,
確実に自分が思い描くような自殺を遂げたいと考えたAからの働きかけによる面が
大きいこと,被告人は,上記のとおり本件を否認するが,自らが行った外形的行為
については認めていること,被告人にはこれまで前科前歴はないこと等,被告人の
ために酌むべき事情もある。
そこで,以上の事情を総合考慮し,主文のとおりの刑を定めた上,その刑の執行
を猶予することとした。
(求刑・懲役2年)
平成30年9月14日
東京地方裁判所刑事第1部
裁判官守下実

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