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平成30年11月9日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成30年(ネ)第1605号販売差止等請求控訴事件
(原審大阪地方裁判所平成28年(ワ)第5374号)
口頭弁論終結日平成30年9月12日
判決
控訴人(一審原告)株式会社千鳥屋宗家
(以下「控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役
控訴人(一審原告)P1
(以下「控訴人P1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士近藤正昭
同野間督司
同林一弘
同伊藤芳晃
同新藤勇介
同大谷俊彦
被控訴人(一審被告)株式会社千鳥饅頭総本舗
(以下「被控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役
被控訴人(一審被告)P3
(以下「被控訴人P3」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士吉岡隆典
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人P3及び被控訴人会社は,大阪府内,兵庫県内,京都府内,滋賀県
内及び和歌山県内において,千鳥屋という名称を使用して菓子類を販売しては
ならない。
3控訴人P1と被控訴人らとの間において,原判決別紙商標権目録記載の商標
権について,控訴人P1が4分の1の持分権を有することを確認する。
4被控訴人P3及び被控訴人会社は,連帯して控訴人会社に対し,1000万
円及びこれに対する平成27年1月1日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
5訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
6仮執行宣言
第2事案の概要
以下で使用する略称は,特に断らない限り,原判決の例による。
1前提事実(証拠等により認定した事実は証拠番号等を付す。)
(1)当事者等
P4とP5は夫婦であったが,P4は,昭和29年に死亡した。
P4とP5の間には,長男P6,二男P7,三男控訴人P1,五男P8の
子らがいた。
P7は,被控訴人P3と婚姻し,両名の間には,息子P2がいる。
(2)P5及び兄弟によるそれぞれの営業(会社の設立の経緯)
アP5の営業(九州:創業地)
P5は,P4の死亡後,福岡県飯塚市及び福岡市で「千鳥屋」の屋号
で営んでいた家業の菓子製造販売業の事業主となった。その後,北九州
市にも事業(千鳥屋事業)を拡大した。
イP6の営業(東京)
P6は,千鳥屋事業の東京支店が昭和39年に設けられた後,東京地
域で「千鳥屋」の屋号を用いて菓子製造販売業を行った。
ウ控訴人P1の営業(大阪),控訴人会社の設立
控訴人P1は,千鳥屋事業の大阪支店が昭和48年に設けられた後,
関西地域における「千鳥屋」の屋号を用いた菓子製造販売業の差配を任
された。控訴人P1は,昭和61年,控訴人会社を設立して代表取締役
に就任し,以後,控訴人会社において関西地域で「千鳥屋」の屋号を用
いて菓子製造販売業を営むようになった。
エ千鳥屋事業の菓子製造部門と菓子販売部門の法人化
P5は,福岡地域の千鳥屋事業につき,昭和61年8月5日に菓子製
造部門を法人化して,本店所在地を福岡市P9区とする株式会社チロリ
アンを設立し,平成7年3月16日に菓子販売部門を法人化して本店所
在地を福岡県飯塚市とする千鳥屋販売株式会社を設立し,いずれも代表
取締役に就任した(甲28の1,甲38,乙16)。
オP5の死亡,チロリアンと千鳥屋販売の代表者の交代
P5は,平成7年12月1日に死亡し,P6が,平成8年1月27日
にチロリアンの代表取締役に就任し(乙16),P7及びP8が,同年
11月5日に共に千鳥屋販売の代表取締役に就任した(甲28の2)。
その後,P7は,平成10年4月22日,千鳥屋販売の代表取締役を
解任され,以後,P8のみが同社の代表取締役となった(甲28の2)。
カ被控訴人会社の設立とP7の死亡
P7は,平成9年8月1日に被控訴人会社(当時の商号は「株式会社
千鳥屋ファクトリー」。以下商号変更の前後を問わず「被控訴人会社」
という。)を設立した(乙4)。
P7は,平成20年6月6日に死亡し,その財産は,妻である被控訴
人P3が相続により取得した(乙5,弁論の全趣旨)。
また,被控訴人P3は,P7が死亡する直前に被控訴人会社の代表取
締役に就任した。両名の息子であるP2は,平成23年12月13日に
被控訴人会社の代表取締役に就任し,平成25年9月28日,被控訴人
P3は代表取締役を退任した(乙4)。
(3)本件商標権
本件商標権は,片仮名で「チロリアン」と表記してなる登録商標に係るも
のであり,昭和38年5月23日に和泉製菓株式会社名義で登録されたが,
昭和39年4月2日にP6名義に移転登録され,その後,平成22年4月1
9日にP10(P6の孫)名義に移転登録され,平成26年3月17日に被
控訴人会社名義に移転登録された(甲13,16,弁論の全趣旨)。
2控訴人らの請求と裁判の経過
本件は,P5の三男である控訴人P1と控訴人会社が,P5の二男であるP
7が設立した被控訴人会社と,P7の妻であった被控訴人P3に対し,以下の
請求をしている事案である。
(1)販売行為差止請求(原判決の請求1)
控訴人らは,被控訴人らが控訴人らに対して大阪府,兵庫県,京都府,滋
賀県及び和歌山県(関西地域)で「千鳥屋」の屋号を使用して菓子類を販売
しない旨の競業避止義務を負っているにもかかわらず,これに違反している
と主張して,被控訴人らに対し,関西地域で千鳥屋という名称を使用して菓
子類を販売することの差止めを請求する。
(2)商標権持分権確認請求(原判決の請求2)
控訴人P1は,被控訴人会社が名義人となっている原判決別紙商標権目録
記載の商標権(本件商標権)につき,自己が4分の1の持分権を有している
と主張して,被控訴人らに対し,その旨の確認を請求する。
(3)損害賠償請求(原判決の請求3)
控訴人会社が,被控訴人らが上記競業避止義務に違反して関西地域で千鳥
屋の名称を使用して菓子類を販売している行為が債務不履行又は共同不法行
為を構成すると主張して,被控訴人らに対し,1000万円の損害賠償及び
これに対する平成27年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を請求する。
原判決は,①控訴人P1の被控訴人P3に対する商標権持分権確認請求に
係る訴えについては,そもそも,被控訴人P3が本件商標権の登録名義人でも
登録商標の使用者でもなく,個人として本件商標権に法律上の利害関係を有し
ておらず,確認の利益ないし被告適格を欠き,不適法であるとして却下し,②
控訴人らのその余の請求については,いずれも理由がないとして棄却した。
控訴人らは,これを不服として,控訴を申し立てた。
3争点
(1)販売行為差止請求(原判決の請求1)関係
被控訴人らが控訴人らに対して関西地域において千鳥屋の名称を使用して
菓子類を販売しない義務を負い,被控訴人らが同義務に違反する行為をして
いるか(争点1)
(2)商標権持分権確認請求(原判決の請求2)関係
ア控訴人P1の被控訴人P3に対する商標権持分権確認請求に係る訴え
につき確認の利益又は被告適格があるか(争点2)
イ控訴人P1が本件商標権の持分権を有するか(争点3)
(3)損害賠償請求(原判決の請求3)関係
被控訴人らが関西地域において菓子類を販売する行為が,控訴人会社に対
する債務不履行又は不法行為を構成するか(構成するとして,その損害額)
(争点4)
4争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,後記5のとおり,当審における控訴人らの主
張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3(5頁5行目から10頁5
行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,文中に「競
合避止」とあるのは「競業避止」と読み替える(以下,同じ。)。
5当審における控訴人らの主張
(1)控訴人P1の「独立」の意味(争点1)について
控訴人P1は,昭和49年12月1日から,関西地域での千鳥屋事業につ
いて担当し,関西地域で34店舗を開店し,昭和60年1月1日,P5から
関西地域での独立が認められた。当時,P5の千鳥屋事業は,販売部門につ
いてはP5の個人事業として経営されてきており,昭和60年1月1日より
前の関西地域における千鳥屋事業の事業主はP5であった。このような関西
地域における千鳥屋事業の営業につき,P5が控訴人P1の独立を認めたの
である。これは,P5の控訴人P1に対する営業譲渡にほかならない。
そうすると,控訴人P1の独立は,平成17年法律第87号改正前の商法
(以下「旧商法」という。)24条以下が規定する営業譲渡に該当し,競業
避止義務について定める旧商法25条が適用され,P5側に競業避止義務が
生じる譲渡である。
控訴人P1は,独立当時,個人事業として千鳥屋事業を経営していたが,
その後法人成りして控訴人会社がその権利義務を承継した。
一方,P5は,平成7年3月16日法人成りさせて,千鳥屋販売を設立し,
個人事業としての千鳥屋事業の権利義務を承継させた。
P5は,P6に対して東京地域での千鳥屋事業を,控訴人P1に対して大
阪地域での千鳥屋事業をそれぞれ譲渡し,その残りの,福岡,九州地域での
千鳥屋事業を千鳥屋販売に承継させた。したがって,上記競業避止義務は,
千鳥屋販売に承継されている。
以上のことは,P5が,本件確約書(甲3)で,控訴人P1に,他の兄弟
には関西地域で「千鳥屋」等の屋号で千鳥屋の商品を売ることはさせない,
兄弟で争うことは絶対に許さないとしたことからも明らかである。
(2)「千鳥饅頭」の登録商標の使用権の登録内容(争点1)について
P6,P7,控訴人P1及びP8の間で販売地域限定の合意が成立してい
ることは,千鳥屋事業のメイン商品である「千鳥饅頭」の登録商標に関して
上記4名が,それぞれ地域を限定した使用権の設定を受け,その旨登録して
いる事実からも明らかである。
「千鳥饅頭」の登録商標権者は,三重県津市所在の有限会社清観堂である。
これを,P6は,平成15年12月22日,関東地方における専用使用権の
設定を受け,P7は,同日,九州地方及び山口県における通常使用権の設定
を受け,P8は,同日,九州地方及び山口県における通常使用権の設定を受
け,控訴人P1は,平成18年4月24日,大阪府,京都府,兵庫県,和歌
山県,岡山県及び徳島県における専用使用権の設定を受けている。
そして,上記4名は,個人の立場で合意するとともに,それぞれが千鳥屋
事業を営む会社の代表者の立場でも合意をしたのであって,それぞれの会社
も上記合意に拘束される。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人P1の被控訴人P3に対する本件商標権の持分権の確認
の訴えは確認の利益ないし被告適格がなく,不適法であり,その余の控訴人ら
の請求はいずれも理由がないと判断する。
その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり,当審における控訴人らの
主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4(10頁7
行目から19頁12行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
原判決17頁15行目の「母親としての強い心情」から18行目末尾までを,
次のとおり改める。
「母親としての強い希望を表明したものと解され,このことは『兄弟で地域を
争う事は絶対に許しません。』等の文面からもうかがわれる。そうすると,P
5が本件確約書に記載した文言は,P5が千鳥屋事業の代表者個人として競業
避止義務を負ったり,他の第三者に競業避止義務を課したりすることを約束す
るものとはいえず,相続の対象となる債務がこれにより発生するとは認められ
ない。」
2当審における控訴人らの主張に対する判断
(1)控訴人P1の「独立」の意味(争点1)について
控訴人らは,昭和60年1月1日にP5が控訴人P1の「独立」を認めた
ことが営業譲渡に該当し,旧商法24条以下の営業譲渡に関する規定により,
P5側に競業避止義務が生じると主張する。
営業譲渡とは,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能
する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部又は
重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上
当然に旧商法25条(現行商法16条,会社法21条に相当する。)に定め
る競業避止義務を負う結果を伴うものをいう(最高裁判所昭和40年9月2
2日大法廷判決・民集19巻6号1600頁参照)。
前記1で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(1)アのとおり,控訴
人P1は,P5が千鳥屋事業の一環として昭和48年に開設した大阪支店で
営業を担当していたが,P5から,昭和62年8月1日付けの本件証明書
(甲1)の交付を受けた。上記証明書には,「大阪千鳥屋(代表者P1)
は昭和60年1月1日に独立致しました。」,「近畿地区に於いて公式的な
交渉は千鳥屋の一代表として認める。」と記載され,「千鳥屋P5」の記
名印と,「千鳥屋P5」の社印が押捺されている。控訴人P1は,昭和61
年に控訴人会社を設立し,控訴人会社が,P5の千鳥屋事業の事業主体とは
異なることは明らかであるが,大阪支店での営業と,昭和60年1月1日時
点以降,控訴人P1が大阪で行っていた営業と,その後設立された控訴人会
社の営業との関係を上記証明書から読み取ることは困難である(P5が事業
主体である千鳥屋事業から,近畿地区における事業を控訴人P1に譲渡し,
完全に独立させるのか,単に,控訴人P1に,近畿地区における事業につい
て代表権を認めるというのに過ぎないのか不明である。)。また,他に,そ
の関係を具体的に明らかにする資料の提出はない。
したがって,昭和60年1月1日にP5が認めた控訴人P1の「独立」が,
上記の営業譲渡であったと認めることはできない。
また,P5と控訴人P1が競業避止義務について何らかの合意をしたとし
ても,前提事実(2)のとおり,P5の行っていた千鳥屋事業は,昭和61年
8月5日に製造部門がチロリアンに,平成7年3月16日に販売部門が千鳥
屋販売に,それぞれ法人化したところ,P7は,平成9年8月1日に,チロ
リアン及び千鳥屋販売とは別に,被控訴人会社を設立しているから,被控訴
人会社が,上記のP5と控訴人P1との合意を承継することはない。
なお,控訴人らは,本件確約書(甲3)からも,競業避止義務についての
合意があったことは明らかであると主張するが,本件確約書に記載されたP
5の文言の意味は,前記1で引用した原判決「事実及び理由」第4の1(2)
ウ(イ)(当審で補正したもの)に記載されたとおり,P5の強い希望を表明
したものに過ぎないとみるべきである。
控訴人らの主張は理由がない。
(2)「千鳥饅頭」の登録商標の使用権の登録内容(争点1)について
控訴人らは,千鳥屋事業のメイン商品である「千鳥饅頭」の登録商標に関
してP6,P7,控訴人P1及びP8がその使用権に関してそれぞれ地域を
限定して登録している事実から,それぞれ地域限定の競業避止義務の合意が
成立していると主張する。
証拠(甲46,47)によれば,「千鳥饅頭」及び「チドリ」の登録商標
の使用については,控訴人らが主張するとおりの地域の定めがされていると
認められる。しかしながら,P6,P7,控訴人P1及びP8は,「千鳥饅
頭」及び「チドリ」の登録商標の使用以外の千鳥屋事業については,商標を
含めて,地域範囲限定の合意についての書面を作成していない。上記事実に
よれば,P6,P7,控訴人P1及びP8の間で,「千鳥饅頭」及び「チド
リ」の登録商標の使用以外の千鳥屋事業につき,法的な競業避止義務を含め
た地域限定の合意がなされたとは認められない。
また,P7が何らかの合意をしたとしても,被控訴人会社の代表者として
合意をしたと認められない以上,被控訴人会社に合意の効果が及ぶことはな
い。
控訴人らの主張は理由がない。
3結論
以上によれば,控訴人P1の被控訴人P3に対する本件商標権の持分権の
確認の訴えは不適法であり却下すべきであり,その余の控訴人らの請求はい
ずれも理由がないから棄却すべきである。これと同旨の原判決は相当であり,
本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官種村好子
裁判官三井教匡

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