弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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   主    文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
 (1) 被告が平成12年4月10日付けでした原告を戒告する処分を取り消す。
 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 答弁
  主文と同旨
第2 事案の概要
  本件は,原告が,被告が平成12年4月10日付けでした原告を戒告する処分(以
下「本件懲戒処分」という。)の取消しを求めた事件である。
1 事実関係(証拠を引用するほかは,争いがない。)
  (1) 原告は,埼玉弁護士会に所属する弁護士である。
  (2) 原告は,Aの代理人として,平成8年4月9日に,その養子であったB(以下
「B」という。)に対し,「請求通知書」(乙6 以下「本件通知書」という。)を送付
し,同書面は,同年4月11日にBに配達された。(甲5の1,2)
    本件通知書には,Bが,その離縁の届出とCとの婚姻の届出とを同時にした
ために,Aの戸籍簿にCの氏名やBのCとの婚姻の事実が記載されたことを
もって,「戸籍簿を極度に汚濁した」として,Bを「不浄者」あるいは「低級劣悪」
と非難し,さらに,同人の行為を「非人間的所業」と非難した上,その損害賠
償金1000万円を請求するなどと記載されていた。(乙6)
  (3) Aは宗教法人Jの事務長であったが,その住職代務者(平成9年12月10日
代表役員就任)であるDは,平成9年9月2日,埼玉弁護士会(懲戒委員会)
に対し,本件通知書の内容が弁護士の品位を失う非行に当たるとして,原告
に対し懲戒することを求めた(以下「本件懲戒請求」という。)。(乙3)
  (4)・ 埼玉弁護士会の綱紀委員会は,平成9年9月16日,本件懲戒請求につい
て調査を開始し,原告に対し,同日付けの「懲戒請求事件の調査開始のお
知らせ並びに答弁書提出について」と題する書面(乙11)を送付した。
     埼玉弁護士会の綱紀委員会は,平成10年11月5日,本件懲戒請求につい
て,原告を懲戒に付さないことを相当とする旨議決した。(乙5の2)
   ・ 埼玉弁護士会は,上記議決に基き,平成10年12月14日,原告を懲戒に付
さないことを相当とする旨決定した(乙5の1 以下「本件原決定」という。)。
     埼玉弁護士会は,平成11年1月8日,宗教法人J代表役員Dに対し,本件原
決定がされたこと,及び本件原決定については,弁護士法(以下「法」とい
う。)61条1項,46条2項1号,被告会則97条の5第1項により,通知を受
けた日の翌日から起算して60日以内に被告に異議を申し出ることができる
ことを通知した。(乙12,13)
  (5) Dは,法61条1項に基づき,「宗教法人J住職D」名義で,平成11年2月22
日,被告に対し,本件原決定の取消しを求める異議を申し出た(同月24日に
受付)。(乙1の1,2)
  (6)・ 被告は,その懲戒手続規定49条(異議の申出の方法),50条(異議申出書
の記載事項)により,平成11年3月30日,宗教法人J住職D宛に「懲戒異
議申出について(ご連絡)」と題する書面を発送し,異議申出書副本2通及
び法人の代表者の資格を証する書面を提出するよう補正を促した。(乙9
の1,2,20)
     宗教法人J代表役員Dは,平成11年4月9日,被告に対し,同宗教法人の登
記簿謄本及び異議申出書副本2通を提出した。(甲1の1,乙2)
   ・ 被告は,平成11年4月15日,その懲戒委員会に対し,本件異議申出の審査
を請求した。(乙15)
   ・ 被告の懲戒委員会は,平成11年4月22日に本件異議申出について審査を
開始し,同月24日に原告に対しその旨を通知した。(甲1の2,3)
     被告の懲戒委員会は,平成12年4月10日,『本件通知書は,Aの「戸籍簿を
極度に汚濁した」として,Bに対して「不浄者」あるいは「低級劣悪」など不穏
当な人格攻撃を加え,更に「非人間的所業」をなした者と非難したうえ,損
害賠償1000万円を請求したものであるが,戸籍制度の趣旨から見ても,
法律家としてそのような表現をすることは適切でない上,1000万円も請求
する根拠があるかどうか極めて疑わしく,弁護士が守るべき品位を著しく傷
つけたものと言うべきである。』として,本件原決定を取り消し,原告を戒告
することを相当とする旨議決した。(乙7)
   ・ 被告は,法61条2項に基づき,平成12年4月10日付けで原告を戒告する処
分(本件懲戒処分)をし,同月13日に原告に対しその旨通知した。
 2 争点と当事者の主張
  (1) 本件懲戒処分の手続は違法か。
   ア 異議申出期間の経過の有無
    (原告の主張)
本件懲戒請求者は,平成11年1月8日に本件原決定の通知を受けて
いるので,被告に対する異議申出期間は,その翌日から起算して60日以
内(被告会則97条の5第1項)の同年3月9日までである。しかるに,本件
懲戒請求者が異議を申し出たのは同年4月9日であるから,本件異議の
申出は,その申出期間を経過した不適法なものである。
    (被告の主張)
本件異議の申出は,平成11年2月24日にされているから,異議申出
期間を経過していない。
   イ 異議申出人の適格の有無
    (原告の主張)
     本件懲戒請求者は,宗教法人Jであるのに,本件異議申出人は,宗教法
人J住職ことD個人である(異議申出書のDの氏名の右側に押捺されてい
る印影はDの私印である。)。したがって,本件異議申出は,異議申出の適
格を有しない者からされたものであって不適法である。
    (被告の主張)
     本件異議申出書の「住職」という記載は,社会通念上,代表役員の趣旨と
解されるから,本件異議申出は,宗教法人Jからの異議申出と解される。
   ウ 除斥期間の経過の有無
    (原告の主張)
    (ア) 法64条は,「懲戒の事由があったときから3年を経過したときは,懲戒の
手続を開始することができない。」と規定している。しかして,懲戒の手続
に付されると,当該弁護士は登録換又は登録取消の請求を制限される
(法63条)から,法64条にいう「懲戒の手続を開始する」とは,厳格かつ
慎重に解釈すべきである。このことと法58条2項,3項の規定とを併せ
考えると,法64条にいう「懲戒の手続を開始する」とは,所属弁護士会
が,その綱紀委員会の調査により当該弁護士を懲戒にすることを相当と
認めて,懲戒委員会にその審査を請求したときと解すべきである(いわ
ゆる限定説)。したがって,法60条により,被告が自ら弁護士を懲戒する
場合にも,上記と同様に,被告の懲戒委員会がその審査を開始したとき
をもって,法64条にいう「懲戒の手続を開始する」ときと解すべきである。
      本件の場合,本件通知書がBに配達された平成8年4月11日に懲戒事由
が発生しているから,それから3年を経過した平成11年4月12日以降
は,除斥期間の経過により,懲戒の手続を開始することができない。しか
るに,被告の懲戒委員会が審査を開始したのは平成11年4月22日で
ある。そうすると,本件懲戒処分は,上記除斥期間を経過した後にされた
ものであるから,違法である。
    (イ) 被告の主張(いわゆる非限定説)は,・所属弁護士会の綱紀委員会は,
懲戒委員会の審査の前に,懲戒の相当性を含む懲戒事由の有無を調
査する機関であって,懲戒委員会とは別個,独立の機関である(法65
条,70条)こと,・懲戒請求者の異議申出は,懲戒手続の結果に対して
されるものであって,綱紀委員会の調査に対してされるものではない(法
61条1項)ことにかんがみると,失当である。
    (ウ) なお,被告は,いわゆる限定説に立ったとしても,被告に異議の申出がさ
れたとき,あるいは遅くとも被告が異議申出人に補正を求めたときをもっ
て,法64条の「懲戒の手続」が開始されたときとみるべきである旨主張
するが,そのように解すべき根拠はない。
    (被告の主張)
    (ア) 法64条にいう「懲戒の手続を開始する」とは,所属弁護士会に懲戒が申
し立てられ,その綱紀委員会による調査が開始されたときと解すべきで
ある(いわゆる非限定説)。けだし,・法は,第8章「懲戒」において,所属
弁護士会の綱紀委員会による調査と懲戒委員会による審査とを規定し
(法58条2項),両者を区別していないこと,・綱紀委員会は,「法第58
条第2項の調査その他その置かれた弁護士会の会員の綱紀保持に関
する事項をつかさどる」機関であって(法70条2項),懲戒手続のための
機関であること,・法61条1項は,懲戒請求者は所属「弁護士会がその
弁護士を懲戒しないとき又は相当の期間内に懲戒の手続を終えないとき
は,(中略)日本弁護士連合会に異議を申し出ることができる。」と規定し
ているが,同項の異議の申出は,綱紀委員会における調査判定の結果
に対してもされること等からすれば,非限定説の解釈が自然である。
      本件の場合,原告が主張するとおり平成8年4月11日から除斥期間が進
行するとしても,本件懲戒請求が平成9年9月2日にされ,同年9月16日
に埼玉弁護士会の綱紀委員会の調査が開始されているから,法64条に
基づく3年の除斥期間は経過していない。
    (イ) 仮に原告の主張(いわゆる限定説)に立つとしても,日本弁護士連合会
は,法61条1項の異議の申出があれば,必ず懲戒委員会を開始するこ
とになっている(同条2項)から,上記の異議の申出をもって「懲戒の手
続」が開始したとみるべきであるし,仮にそうでないとしても,被告が異議
申出人に対し補正を求めたときは,被告の懲戒委員会に必ず付議され
るから,遅くともその時点で法64条の「懲戒の手続」が開始されたとみる
べきである。
      本件の場合,平成11年2月24日に上記の異議の申出が受付けられ,同
年3月30日に異議申出人に補正が求められているから,平成8年4月1
1日から除斥期間が進行するとしても,法64条に基づく3年の除斥期間
は経過していない。
  (2) 本件懲戒処分について懲戒事由があるか。
 (原告の主張)
   ア Bは,平成8年1月上旬ころ,養親であったAに対し,その戸籍簿に「E」姓を
残さないために,婚姻の届出より先に離縁の届出をすることを約束した。し
かるに,Bは,その約束に反して,同時に婚姻の届出と離縁の届出とをした
ため,Aの戸籍簿に「E」姓が記載された。そして,戸籍簿に自己の意に反し
た記載がされることを戸籍の汚れと表現することは社会的に承認されてい
る。
     そうすると,原告が,本件通知書に,Bについて,「戸籍簿の汚濁」を作出した
者として「不浄者」と記載し,そのような約束違反をしたとして「低級劣悪」,
「非人間的所業」と記載したのは,不当な人格攻撃とはいえないし,弁護士
である原告にとって社会的に相当な行為の範囲に属する。
   イ 原告が本件通知書で1000万円の損害賠償請求をしたのは,依頼者である
Aの意思に沿ったものであり,仮に,その請求が過大であったとしても,訴
訟を提起すれば一部棄却となるだけであるから,弁護士の品位を失うべき
非行には当たらない。
   ウ したがって,本件懲戒処分は,懲戒事由を欠いており,取り消されるべきで
ある。
  (被告の主張)
   ア 弁護士は,名誉を重んじ,信用を維持するとともに,常に品位を高め教養を
深めるよう努めなければならない(弁護士倫理5条)。したがって,法56条1
項は,弁護士は,違法行為をしたときに限らず,品位を失うべき非行をした
ときも,懲戒を受ける旨を規定している。
     原告が,本件通知書において,Bの妻の氏名が養親であったAの戸籍簿に
記載された故をもって「戸籍簿の汚濁」と表現したことは,憲法24条の下に
おける現行戸籍制度の理解として適切ではない。
     また,原告が本件通知書にBが「不浄者」であり,その行為について「低級劣
悪」,「非人間的所業」であると記載したのは,弁護士の用いるべき表現とし
て相当な限度を超えており,依頼者のためとはいえ,軽卒の誹りを免れな
い。
   イ 弁護士がいかなる請求をするかは,法律実務家として慎重な判断を要し,こ
とに相手方が法律専門家でない場合は十分な配慮が必要である。本件通
知書に記載した1000万円の損害賠償請求は余りにも過大であり,過大請
求をしても訴訟前であれば弁護士の品位を失うべき非行には当たらないと
いう原告の主張は失当である。
   ウ したがって,本件懲戒処分は,何ら違法とはいえない。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)アについて
   前記第2,1の事実によれば,宗教法人Jの代表役員Dは,平成11年1月8日に
本件原決定の通知を受け,同年2月22日に本件異議の申出をし,同月24日に
受付けられているから,本件異議の申出は,被告会則97条の5第1項所定の
異議申出期間(通知を受けた日の翌日から起算して60日以内)を経過した後に
されたものではない。
   原告の争点(1)アの主張は,被告の補正命令に従い,Dが異議申出書副本2通
を提出した日をもって,本件異議の申出をした日とするものであって,採用する
ことができない。
 2 争点(1)イについて
   前記第2,1の事実によれば,本件異議の申出は,「宗教法人J住職D」の名義
でされているところ,Dは,当時,宗教法人Jの住職であると同時に代表役員で
あり(乙2),「住職」の表示は「代表役員」の表示の誤記ともいうべきものである
から,本件異議の申出は,本件懲戒請求と同様に宗教法人Jによりされたと認
めるのが相当である。
   原告の争点(1)イの主張は,採用することができない。
 3 争点(1)ウについて
  (1) 〈要旨〉弁護士に対する懲戒手続の除斥期間について,法64条は,「懲戒の
事由があったときから3年を経過したときは,懲戒の手続を開始することがで
きない。」と規定しているところ,同条にいう「懲戒の手続を開始する」ときと
は,所属弁護士会の綱紀委員会が,法58条2項に基づき,懲戒事由の調査
を開始したときと解するのが相当である(いわゆる非限定説)。〈/要旨〉
    その理由は,以下のとおりである。
ア 法は,第8章(懲戒)において,「懲戒は,その弁護士の所属弁護士会が,
懲戒委員会の議決に基づいて行う。」(56条2項。なお,60条参照),「弁
護士会は,所属の弁護士について,懲戒の事由があると思料するとき又は
前項の請求(懲戒の請求)があったときは,綱紀委員会にその調査をさせ
なければならない。」(58条2項),「弁護士会は,綱紀委員会が前項の調
査により弁護士を懲戒することを相当と認めたときは,懲戒委員会にその
審査を求めなければならない。」(同条3項)とそれぞれ規定している(なお,
法第9章参照)。
  そうすると,法は,弁護士を懲戒するために,所属弁護士会に綱紀委員会
及び懲戒委員会を設置させた上,まず綱紀委員会に懲戒事由の調査をさ
せ,次いで懲戒委員会に審査をさせることにしている,換言すると,所属弁
護士会は,綱紀委員会の調査を経た後でなければ,懲戒委員会の審査
(議決を含む。)に基づいて,懲戒をすることができないこととしているが,同
時に,綱紀委員会も懲戒委員会も同じ弁護士会の内部的な機関であって,
綱紀委員会の調査は懲戒委員会の審査の不可欠の前提であり,両委員会
がそれぞれの機能を十分に発揮することによってはじめて適正に懲戒制度
を運用できるものとしている(ちなみに,法61条1項にいう「懲戒の手続」に
綱紀委員会の調査が含まれることは明白である。)から,綱紀委員会の調
査が開始されたときは,法64条にいう「懲戒の手続」が開始されたものと解
すべきである。
  なお,法68条は,「懲戒委員会は,同一の事由について刑事訴訟が係属
する間は,懲戒の手続を中止することができる。」と規定しているところ,同
条にいう「懲戒の手続」が懲戒委員会の審査を指すことは文理上明白であ
るが,同条は,懲戒手続のうち懲戒委員会にかかる手続についてのみ規
定しているにすぎないから,この規定をもって,上記判断が左右されるもの
ではない。
イ 実質的に考えても,限定説のように,法64条の「懲戒の手続を開始する」
ときとは,所属弁護士会が懲戒委員会に審査を請求したとき(被告の懲戒
委員会がその審査を開始したとき)と解するならば,懲戒事由のある弁護
士に対し懲戒請求がされたにもかかわらず,所属弁護士会の綱紀委員会
の調査が進展しなかったために除斥期間を徒過するという不当な事態が生
じかねない。
  確かに,所属弁護士会が相当の期間内に懲戒の手続を終えないときは,
懲戒請求者は日本弁護士連合会に対して異議を申し出ることができる(法
61条1項)が,これをもって直ちに上記の不当な事態の発生を防止するこ
とはできない。このことは,日本弁護士連合会が自ら懲戒権を行使すること
ができる(法60条)ことを考慮しても同じである。
ウ もっとも,上記のような非限定説を採ると,「懲戒の手続に付された弁護士
は,その手続が結了するまで登録換又は登録取消の請求をすることができ
ない。」(法63条)から,たとえ懲戒請求が濫用された場合であっても,その
懲戒請求を受けた弁護士は,所属弁護士会の綱紀委員会の調査が開始さ
れたときをもって登録換又は登録取消の請求を制限されるとして,上記の
ような解釈は不当であるという見解もあろう。
  しかし,上記見解は採用することができない。なぜならば,・そもそも懲戒
請求が濫用されるような例外的な場合に,しかも懲戒手続の開始に付随す
る効果が生ずることをもって,上記の解釈(非限定説)の不当をいうこと自
体問題がないではない上,・そのような例外的な場合には,綱紀委員会の
調査(及び懲戒委員会の審査)を迅速にすることによって,当該弁護士を不
当な制限からできる限り早期に解放することができるし,・限定説を採り,綱
紀委員会の調査が進展しないときは,除斥期間の徒過により,本来懲戒を
受けるべき弁護士が不当に懲戒を免れることもやむを得ないとすることは
できないからである。
エ なお,日本弁護士連合会(被告)は,法64条の解釈について,昭和30年
及び昭和35年の理事会決議並びにこれに基づく会長通知によりいわゆる
限定説を採用していたところ,平成11年6月9日付け会長通知(乙10)に
より,いわゆる限定説のような解釈では弁護士自治の根幹をなす弁護士懲
戒手続の厳正な運用に十全を期し難いとし,当該懲戒事件が所属弁護士
会の綱紀委員会の調査手続に付されたときに「懲戒の手続」に付されたこ
ととする非限定説を採用することとした。そして,上記通知も,理由のない
懲戒請求を受けた会員の不利益を最小限にするよう綱紀委員会の処理の
迅速化を一層図ることが求められる旨指摘している。
  (2) 本件の場合,平成8年4月11日に本件通知書が配達され,平成9年9月2日
に本件懲戒請求がされて,同年9月16日に埼玉弁護士会の綱紀委員会の調
査が開始されていることは,さきに認定したとおりであるから,同日をもって法
64条にいう「懲戒の手続」が開始されたこととなる。したがって,本件懲戒処
分が法64条の除斥期間が経過したものとして違法であるということはできな
い。
    原告の争点(1)ウについての主張は,採用することができない。
 4 争点(2)について
  (1) 前記認定の事実に加え,証拠(乙2,3,5の2,7)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
   ア 本件異議申出人の宗教法人Jは,主たる事務所を川口市舟戸町に置く眞言
宗智山派の末寺である。
   イ 宗教法人Jは,最近数代にわたりI姓を名乗る者が住職を務めてきたが,住
職Fが禁治産宣告を受けたため,その後見人(姉)であるAが事務長とな
り,K市Lの住職であるGが兼務住職になった。
   ウ Fの子供は,離婚した妻が引き取り,僧籍を継ぐ者がいなかった。そこで,A
は,姉Hの子であるBが僧籍を継ぐことを期待して,同人と縁組をした。
   エ ところが,Bは,Aの意に反して,Cと婚姻して改姓し,僧籍を継がないことに
なったため,AとBとは縁組を解消することになった。
   オ Aは,Bに対し婚姻の届出をする前に離縁の届出をするよう要請し,Bはこれ
を了承したが,婚姻の届出と離縁の届出を同時にしたため,Aの戸籍簿に
BとCとの婚姻に関する事項が記載された。
   カ Aは,上記戸籍簿の記載によって自己の戸籍簿が汚されたと認識し,同人か
ら依頼を受けた弁護士である原告は,Bに対し本件通知書を送付した。
   キ 本件通知書には,前記第2,1,(2)後段の記載があった。
   ク 被告懲戒委員会は,前記第2,1,(6),・後段の議決をし,被告は,原告に対
し,前記第2,1,(6),・のとおり本件懲戒処分(戒告処分)をした。
  (2) 思うに,被告が,弁護士自治の一環として,弁護士に対する懲戒権を有して
いることにかんがみると,弁護士に法に定められた懲戒事由がある場合に,
懲戒処分をするかどうか,懲戒処分をするときにいかなる処分を選ぶかは被
告の裁量に委ねられ,かつ,その裁量権の範囲は相当広いといわざるを得な
いから,被告の裁量権の行使に基づく懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を
欠いて,その裁量権を濫用したと認められる場合に限り,違法としてこれを取
り消すべきものである。
  (3) 本件の場合,上記(1)に認定したところによれば,原告が,本件通知書におい
て,Aの戸籍簿にBの妻の「E」姓が記載された故をもって,「戸籍簿の汚濁」と
表現したことは,Bが離縁の届出を婚姻の届出より先にする旨の約束を守ら
なかったためであるとしても,戸籍制度や憲法14条1項の趣旨に照らすと,
少なくとも弁護士が用いるべき表現としては不適切である。また,原告が,本
件通知書に,Bが「不浄者」であり,その行為について「低級劣悪」,「非人間
的所業」という記載をしたのも,不当な人格攻撃というべきであって,品位を重
んずべき弁護士が用いるべき表現ということはできない。さらに,原告が本件
通知書において損害賠償金1000万円を請求したことも,その根拠となる記
載事実からみて余りにも過大であり,基本的人権の擁護と社会的正義の実現
を使命とする弁護士(法1条1項,2項)の言動として適切さを欠いたものであ
る。
    以上によれば,原告に弁護士としての「品位を失うべき非行」(法56条1項)が
あったことは明らかであり,被告がした本件懲戒処分(戒告処分)が社会観念
上著しく妥当を欠いてその裁量権を濫用したということはできない。
    原告の争点(2)の主張は,採用することができない。
 5 結論
   よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 佐藤武彦 裁判官 揖斐 潔)

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