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平成28年9月14日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成28年(行ケ)第10086号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年7月27日
判決
原告オートモビルクラブドル’
ウエスト(アー.セー.オ.)
同訴訟代理人弁理士萼経夫
山田清治
笠松直紀
被告ケントジャパン株式会社
同訴訟代理人弁理士藤沢則昭
藤沢昭太郎
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2014-300901号事件について平成27年12月3日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
⑴被告は,指定商品を第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カ
バー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「洋服,コート,セーター類,
ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,襟巻き,靴下,ショ
ール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,
マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」とす
る「LEMANS」の欧文字を横書きして成る商標(商標登録第0971820
号。以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲19の2)。
⑵被告は,平成26年9月30日,株式会社ヴアンヂヤケツト(以下「ヴアン
社」という。)に対し,指定商品中の第25類「ワイシャツ類」について本件商標
権の通常使用権を許諾した(甲12)。
⑶原告は,平成26年11月7日,本件商標の不使用を理由として本件商標の
指定商品中,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類」についての商
標登録の取消しを求める審判を請求し,同月27日,同審判の請求が登録され(甲
19の2),取消2014-300901号事件として係属した。
特許庁は,平成27年12月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別
紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月11日,そ
の謄本が原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。
⑷原告は,平成28年4月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し
た。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件審判の
請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)である平成26年11月18
日から同月26日までの間に,日本国内において,本件商標の通常使用権者である
ヴアン社が上記請求に係る指定商品のうちの「ワイシャツ類」について,本件商標
と社会通念上同一ということのできる商標を使用していたことを証明したものと認
められるから,本件商標の登録は,商標法50条の規定により取り消すことはでき
ず,また,本件商標の使用は,同条3項本文に規定するいわゆる駆け込み使用と認
めることはできないというものである。
3取消事由
⑴商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り(取消事由1)
ア審判時に被告が提出した証拠から本件商標の使用の事実を認定できないこと
イヴアン社の行為が商標法50条所定の「使用」に該当しないこと
⑵商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り)について
〔原告の主張〕
⑴審判時に被告が提出した証拠から本件商標の使用の事実を認定できないこと
について
ア審判時に被告が提出した証拠(甲13,15の1・2,17,18)から,
本件商標の使用の事実を認めることはできず,したがって,本件審決の認定,判断
は,誤りである。
(ア)甲第13号証(平成26年10月10日付け発注書。以下「本件発注書」
という。)には,ヴアン社社員のAの印が押捺されているが,同人は,原告が本件
商標の使用調査を委託した調査会社から平成26年10月15日に事情聴取を受け
た際に,「何十年も前から,このブランドは取り扱っていない。」旨述べている。し
たがって,本件発注書の記載内容の信用性は疑わしい。
(イ)甲第15号証の1(平成26年11月17日付け受入伝票。以下「本件受
入伝票」という。)には,チョップ名として「VAN」が記載されていることから,
受入商品は,本件商標とは異なる商標のワイシャツ類,すなわち,VANブランド
のワイシャツ類であった可能性がある。現に,VANブランドのワイシャツ類も販
売されており,その定価,色彩,サイズ,BDシャツの形状等は,本件発注書に記
載された内容とほぼ同じである。
(ウ)甲第15号証の2(平成26年11月18日付け移動伝票(控)。以下
「本件移動伝票」という。)は,本件商標が付されたワイシャツの所在場所等の移
動を推認させることはできるとしても,需要者に対する譲渡又は引渡しのために上
記ワイシャツが展示された事実を証明するものではない。
すなわち,本件移動伝票上は,本件商標が付されたワイシャツが,ヴアン社の所
在する東京都台東区蔵前所在のビルの6階から同ビル4階にある同社直営の店舗
「VANBase」(以下「本件店舗」という。)に移されたとされているものの,
本件店舗は,VANブランドの商品の販売に特化しており,同ブランド以外の商品
を展示販売していない。
(エ)甲第17号証(写真)は,要証期間最終日から1か月以上後の平成27年
1月8日に撮影されたものであるから,本件商標が付されたワイシャツが要証期間
内に展示されたことを証明するものではない。
(オ)甲第18号証(棚卸差異表。以下「本件棚卸差異表」という。)の作成日
付は,要証期間最終日から1か月以上後の平成27年1月9日であり,証拠価値が
低いものである。また,本件棚卸差異表は,社内データに係るものであり,このよ
うな棚卸差異表がパソコンで容易に作成可能なものであることを併せ考えると,そ
の信用性は疑わしい。
被告とヴアン社との間で締結された商標使用権契約書(甲12。以下「本件契約
書」という。)によれば,同社は,被告に対し,平成26年11月末日締めの在庫
数量を同年12月10日までに報告する義務を負う。被告が審判時にこの報告義務
に係る報告書ではなく,要証期間経過後に作成された本件棚卸差異表を提出したこ
とからも,本件棚卸差異表の信用性は疑わしい。
イ本件商標が付されたワイシャツの販売について
(ア)本件棚卸差異表には,帳簿在庫数量27と記載されており,本件移動伝票
に記載された数量30から減少している。
しかし,前記ア(ウ)のとおり本件店舗ではVANブランド以外の商品を展示販売
していないのであるから,上記減少は,「LEMANS」ブランドである本件商
標が付されたワイシャツを他店舗に移動したことによるものと考えるのが自然であ
る。よって,上記減少のみをもって,本件商標が付されたワイシャツが平成26年
11月中に3着販売されたと推認することはできない。
(イ)仮に,前記(ア)の数量減少をもって,本件商標が付されたワイシャツ3着
が平成26年11月中に販売されたものと推認できるとしても,本件棚卸差異表の
対象は平成26年11月であるから,要証期間経過後の同月27日から30日まで
の間に販売された可能性もある。
(ウ)以上のとおり,本件商標が付されたワイシャツが要証期間内に販売された
事実は,認められない。被告は,上記販売の事実につき,販売した商品代金の領収
書,納品書,請求書等の具体的・客観的な取引書類を提出しておらず,したがって,
同事実を認めることはできない。
⑵ヴアン社の行為が商標法50条所定の「使用」に該当しないことについて
商標法50条所定の「使用」は,当該商標が出所識別標識として使用されること
を要する。したがって,本件商標が付されたワイシャツがヴアン社に納品され,同
社において同ワイシャツを本件店舗に移動したなどの事実が存在したとしても,本
件商標が出所識別標識として使用されたということはできない。
〔被告の主張〕
⑴審判時に被告が提出した証拠から本件商標の使用の事実を認定できないこと
について
ア要証期間内に本件商標が付されたワイシャツが販売されていなかったとして
も,販売のために展示されていた,又は,少なくとも本件商標がワイシャツに付さ
れていたという事実が認められれば,商標法50条所定の「使用」の事実があった
ものと認められるべきである。本件審決が甲第12から17号証によって上記使用
の事実を認めたことに誤りはない。
イ原告の主張について
(ア)原告は,本件店舗がVANブランドの商品の販売に特化しており,同ブラ
ンド以外の商品を展示販売していない旨主張する。
しかし,本件店舗は,主としてVANブランドの商品を販売しているが,一時的
に他のブランドの商品を販売した実績は多くあり,現に,KENTブランドのブレ
ザー等を販売している。
(イ)原告は,本件商標が付されたワイシャツが要証期間内に販売された事実に
つき,被告が領収書,納品書,請求書等の具体的・客観的な取引書類を提出してお
らず,したがって,同事実を認めることはできない旨主張する。
しかし,一般に,店頭において個人の購買者に販売する際,領収書,納品書,請
求書等をその都度発行することはなく,現に,本件店舗においてもそのような取引
書類は発行していない。
⑵ヴアン社の行為が商標法50条所定の「使用」に該当しないことについて
乙第1号証は,ヴアン社が本件商標が付されたワイシャツを発注した会社におい
て同ワイシャツを平成26年11月15日にヴアン社に納品したことの証明書であ
るところ,これによれば,本件商標が商品の識別標識としてワイシャツに付されて
いたことは,明らかである。
2取消事由2(商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り)につい

〔原告の主張〕
商標法50条3項本文所定の「その審判の請求がされることを知った」は,審判
の請求がされることを具体的に知ったことまでを要するものではない。
そして,本件商標については,これまで4回にわたり,原告外1社により,不使
用を理由とする商標登録の取消しを求める審判が請求されており,また,平成21
年には,無効審判も請求された。加えて,本件商標と同一の構成を備え,指定商品
が異なる被告の別の商標(登録番号0837128号商標。以下「別件商標」とい
う。)についても,3回にわたり,原告により,不使用を理由とする商標登録の取
消しを求める審判が請求された。
調査会社は,平成26年10月9日及び同月22日の2回にわたり,被告に対し,
本件商標の使用調査を実施した。ヴアン社は,最初の調査日の翌日である同月10
日付けで本件商標が付されたワイシャツを発注し,被告は,第2回目の調査日の直
後である同月24日,本件商標とほぼ同一の構成を備えた「LeMans」なる
商標の登録出願をした。なお,ヴアン社の代表者が被告の取締役を務め,被告代表
者がヴアン社の株式の49%を保有していることから,使用調査の情報は,直ちに
被告からヴアン社に伝わったものと推認することができる。
以上の事実によれば,被告は,調査会社による本件商標の使用調査を受け,過去
に複数回にわたり不使用を理由とする商標登録の取消しを求める審判等を請求され
た経緯から,本件商標について不使用を理由とする商標登録の取消しを求める審判
が請求されることを察知して,関係会社のヴアン社において第1回目の調査の翌日
に前記発注をし,第2回目の調査の翌々日に,上記審判が請求されて取消しの審決
が出された場合に備え,被告において類似商標の登録出願をしたものと推認するこ
とができる。
したがって,たとえヴアン社による商標法50条所定の使用が認められたとして
も,同使用は,被告が本件商標について不使用を理由とする商標登録の取消しを求
める審判が請求されることを知った後であり,ヴアン社についても同様である。
〔被告の主張〕
被告は,ヴアン社による本件商標の使用当時,本件商標について不使用を理由と
する商標登録の取消しを求める審判が請求されるとの具体的な認識はなかった。
調査会社による本件商標の使用調査については,調査員が一般顧客を装って問合
せをしてきたものと推測され,被告としては単に顧客からの問合せがあったものと
捉えており,使用調査とは認識していなかった。よって,上記使用調査における問
合せの事実によって,被告が上記審判請求を認識することは,不可能である。
その他,原告が掲げる事実を考慮しても,被告において上記具体的な認識を有し
ていたとは認められず,ヴアン社についても同様である。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(商標法50条所定の使用の事実を認定した誤り)について
⑴認定事実
前記第2の1,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,ヴアン社が平成26年に行
った取引に関し,以下のとおり認められる。
ア被告は,平成26年9月30日,ヴアン社に対し,使用権の範囲を指定商品
中の第25類「ワイシャツ類」に限定し,販売地域を日本国の範囲として,本件商
標権について通常使用権を許諾した(甲12)。
イヴアン社が有限会社レクサス(以下「レクサス」という。)宛てに作成した
本件発注書(甲13)には,「作成日:2014年10月10日」,「年式14」,
「期FW」,「チョップ名LeMans」,「品目LEN」,「品番9480
2」,「品名B.D」,「生地名オックスフォード」,「反数\SIZE」「M1
0」,「L10」,「LL10」,「TOTAL30」,「製品納期11月15
日」,「上代本体価格¥9,800+税」,「単価@2,795」,「@総計8
3,850」,「上代総計¥294,000」,「原価率28.520%」,「ブラ
ンドネームLeMans」,「下げ札LeMans」と印字されている。また,
「VAN2014/10/10A」との社用印が押捺されている。
ウレクサスがヴアン社宛てに作成した平成26年11月15日付け納品伝票
(甲14。以下「本件納品伝票」という。)には,品番欄に「LEN94802」
(なお,「LEN」の下には,LEMの文字が二重線で抹消されている。),数量
欄に,上から「10」,「10」,「10」,最下段の合計欄に「30」,サイズ
欄に上記各「10」に対応する形で「M」,「L」,「LL」といずれも手書きで
記載されている。
エヴアン社がレクサス宛てに作成した本件受入伝票(甲15の1)には,発行
日欄に「平成26年11月17日」,年式欄に「26」,期欄に「上下」,チョップ
名欄に「VAN」,品目欄に「LEN」(なお,下には,LEMの文字が二重線で抹
消され,訂正印と見られるものが押捺されている。),品番欄に「94802」,S
IZE欄に「M」,「L」,「LL」,「C/♯」欄に上記SIZE欄の記載に対応する
形で「10」,「10」,「10」,「C/♯計」欄に「30」,単価欄に「2795」,
数量欄に「30」,金額欄に「83850」,入庫検収欄に「11/18A」とい
ずれも手書きで記載されている。
オヴアン社が本件店舗宛てに作成した本件移動伝票(甲15の2)には,伝票
日付欄に「2014年11月18日」,商品/カラー/サイズコード欄に,上から
「94802102」,「94802103」,「94802104」,
それぞれに対応するバーコードのサイズ名欄に「M」,「L」,「LL」,各商品名欄,
数量欄,上代単価欄及び上代金額欄には,いずれも「LENLeMansOX
BD」,「10」,「9,800」,「98,000」,数量総合計欄に「30」,上代金
額総合計欄に「294,000」と印字されている。
カレクサスが作成したヴアン社宛ての平成26年11月20日付け請求書(甲
16。以下「本件請求書」という。)には,納品月日欄に「1115」,商品名
(品目・品番)欄に「LEN94802」,数量欄に「30」,単価欄に「279
5」,金額欄に「83,850」といずれも手書きで記載されている。
キ本件棚卸差異表(甲18)には,「対象年月2014年11月」,「処理日
2015/01/09」,「商品コード/名称94802LENLeMan
sOXBD」と印字されており,棚卸後の数量及び金額として,サイズ「M」
につき,「10」,「98,000」,サイズ「L」につき,「8」,「78,400」,
サイズ「LL」につき,「9」,「88,200」と印字されている。
ク平成27年1月8日に撮影された写真(甲17)において,襟下に「LE
MANS」と記された織りネームが付されるとともに,「LEMANS」と記載
された下げ札を付されたワイシャツが,本件店舗に陳列されている状況が写ってい
る。
⑵ヴアン社による本件商標の使用について
ア前記⑴の認定事実によれば,ヴアン社は,平成26年10月10日付けの本
件発注書により,レクサスに対し,「年式14」,「期FW」,「チョップ名L
eMans」,「品目LEN」,「品番94802」,「品名B.D」,「生地名
オックスフォード」のワイシャツの,M,L及びLLの各サイズ10枚ずつ,合計
30枚を,製品納期を同年11月15日までとし,1枚当たりの単価を2795円
(税抜小売価格9800円),単価合計8万3850円(税抜小売価格29万40
00円,原価率28.520%)として発注し,その際,「ブランドネームLe
Mans」及び「下げ札LeMans」を各製品に付する旨の指示をしたものと
認められる。
そして,本件納品伝票は,本件発注書記載の製品納期である平成26年11月1
5日付けで作成されており,その品番欄に記載された「LEN94802」,数
量及びサイズは,いずれも本件発注書の記載内容と一致している。
本件受入伝票は,同月17日付けで作成されており,チョップ名欄の「VAN」
の記載は,本件発注書の「チョップ名LeMans」の記載と異なり,期欄の
「上下」の記載は,本件発注書の「期FW」の記載との異同は不明であるものの,
その余の記載,すなわち,年式欄(本件発注書記載の「14」は,「2014年」
の趣旨と解される。),品目欄,品番欄,SIZE欄,サイズごとの数量を示すもの
と見られる「C/♯」欄,単価欄,数量欄及び金額欄の記載は,いずれも本件発注
書の記載内容と一致しており,また,入庫検収欄に「11/18A」と記載され
ている。
本件請求書は,同月20日付けで作成されており,納品月日欄には,本件発注書
記載の製品納期であり,かつ,本件納品伝票の作成日付である「1115」との
記載があり,商品名(品目・品番欄),数量欄,単価欄及び金額欄の各記載内容は,
いずれも本件発注書の記載内容と一致している。
以上の事実によれば,平成26年10月10日付けの本件発注書による製品の発
注は,特段の支障もなく円滑に処理され,ヴアン社に納品されたものと認められる。
したがって,レクサスは,「ブランドネームLeMans」及び「下げ札L
eMans」を各製品に付する旨の指示も含め,本件発注書に従ってワイシャツ3
0枚を製造し,ヴアン社に納品したものと推認することができる。
イ前記⑴のとおり,ヴアン社が本件店舗宛てに作成した本件移動伝票は,本件
受入伝票の入庫検収欄に記載されていた日付と同じ平成26年11月18日付けで
作成されたものであり,商品/カラー/サイズコード欄の「94802」の記載,
サイズ名,各商品名欄,数量欄,上代単価欄,上代金額欄,数量総合計欄及び上代
金額総合計欄の各記載は,いずれも本件発注書の記載内容と一致している。
前記アの事実と併せ考えれば,レクサスが本件発注書に従って製造し,ヴアン社
に納品したワイシャツ30枚は,直ちに同社から本件店舗に移されたことが認めら
れる。
そして,本件棚卸差異表の前記⑴キの記載によれば,レクサスがヴアン社に納品
したワイシャツ30枚は,平成26年11月18日付けで本件店舗に移された後,
同月末日までに,Lサイズのもの2枚及びLLサイズのもの1枚の合計3枚が販売
されたものと認められる。
ウさらに,平成27年1月8日に撮影された写真(甲17)において,襟下に
「LEMANS」と記された織りネームが付されるとともに,「LEMANS」
と記載された下げ札を付されたワイシャツが,本件店舗に陳列されている状況が写
っている。
前記イの事実と併せ考えれば,これらは,レクサスがヴアン社に納品し,本件店
舗に移したワイシャツ30枚のうち,上記撮影の時点でいまだ販売されずに陳列さ
れていたものと認められる。そして,襟下の「LEMANS」と記された織りネ
ーム及び「LEMANS」と記載された下げ札は,前記アのとおり,ヴアン社が
本件発注書によってレクサスに与えた,「ブランドネームLeMans」及び
「下げ札LeMans」を各製品に付する旨の指示に基づいて付されたものと推
認することができる。
エ以上の事実によれば,本件商標の通常使用権者であるヴアン社は,平成26
年11月18日から要証期間末日の同月26日までの間,販売品のワイシャツに,
その襟下に「LEMANS」と記載された織りネームを付するとともに「LE
MANS」と記載された下げ札を付したもの,すなわち,販売品のワイシャツに本
件商標を付したものと認められる。よって,本件審決が同旨の認定をしたことに,
誤りはない。
オ原告の主張について
(ア)原告は,本件発注書には,ヴアン社社員のAの印が押捺されているが,同
人は,調査会社から平成26年10月15日に事情聴取を受けた際に,「何十年も
前から,このブランドは取り扱っていない。」旨述べており,したがって,本件発
注書の記載内容の信用性は疑わしい旨主張する。
確かに,調査会社が作成した調査報告書(甲21の1)には,本件発注書の作成
日付の後である平成26年10月15日の事情聴取において,Aが「確かに,何十
年も前にルマン,LEMANSブランドの衣服類を取り扱っていたが,当社のライ
ンナップからはずれ,何十年も前から,このブランドは取り扱っていない。」と述
べた旨が記載されている。
しかし,この供述には客観的な裏付けもなく,同供述のみをもって,本件発注書
の信用性を疑わせるものとまでいうことはできない。
(イ)原告は,本件受入伝票には,チョップ名として「VAN」が記載されてい
ることから,受入商品は,本件商標とは異なるVANブランドのワイシャツ類であ
った可能性がある旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件受入伝票は,本件発注書記載の製品納期の2日後
である平成26年11月17日付けで作成されたものであり,そのチョップ名欄の
「VAN」の記載は,本件発注書の「チョップ名LeMans」の記載と異なり,
期欄の「上下」の記載は,本件発注書の「期FW」の記載との異同は不明である
ものの,その余の記載,すなわち,年式欄,品目欄,品番欄,SIZE欄,サイズ
ごとの数量を示すものと見られる「C/♯」欄,単価欄,数量欄及び金額欄の記載
は,いずれも本件発注書の記載内容と一致しており,特に,品目「LEN」及び品
番「94802」は,製品を一義的に特定するものとみることができる。
以上によれば,本件受入伝票記載の製品は,本件発注書記載の製品に対応するも
のと認められ,原告が指摘する記載の相違の点は,同認定を揺るがすものではない。
(ウ)原告は,本件店舗は,VANブランドの商品の販売に特化しており,同ブ
ランド以外の商品を展示販売していない旨主張する。
この点に関し,調査会社が平成27年12月8日に受託した別件商標の使用につ
いての調査報告書(甲29の1)において,本件店舗の従業員が「この店舗にはV
ANブランド以外の商品は置いていない」と述べた旨が記載されている。しかし,
同供述は,上記受託時以降のものであるから,その約1年前である平成26年11
月当時の状況を示すものではない。しかも,別件商標の指定商品は,本件商標の指
定商品とは異なり,第15類の楽器等,第18類の乗馬用具,第25類の運動用特
殊衣服等,第28類の運動用具等であるところ(甲34),上記従業員の供述は,
これらの別件商標の指定商品を念頭に置いたものである可能性が高い。
また,ヴアン社のショップリスト(甲29の3)には,「VANONLYS
HOP」の筆頭に本件店舗が掲げられているものの,同リストは,平成28年5月
20日に作成されたものであるから,これが直ちに平成26年11月当時の本件店
舗の状況を示すものということはできない。
他に,本件店舗が平成26年11月当時にVANブランドの商品の販売に特化し
ていたことを示す証拠はなく,よって,原告の上記主張は,認めるに足りない。
(エ)原告は,本件棚卸差異表は,社内データに係るものであり,このような棚
卸差異表がパソコンで容易に作成可能なものであること,被告が本件契約書記載の
在庫数量報告義務に係る報告書ではなく,要証期間経過後に作成された本件棚卸差
異表を提出したことから,本件棚卸差異表の信用性は疑わしい旨主張する。
しかし,本件棚卸差異表の記載に不自然な点はなく,原告が主張する点は,本件
棚卸差異表の信用性を疑わせるものということはできない。
(オ)原告は,本件店舗ではVANブランド以外の商品を展示販売していないか
ら,本件移動伝票記載の数量30が本件棚卸差異表記載の帳簿在庫数量27に減少
したのは,「LEMANS」ブランドである本件商標が付されたワイシャツを他
店舗に移動したことによるものと考えるのが自然である旨主張する。
しかし,前記(ウ)のとおり,平成26年11月当時に本件店舗がVANブランド
の商品の販売に特化していたと認めるに足りず,加えて,取り扱うブランドを統一
するために他のブランドの商品を他店舗に移すのであれば,30枚のワイシャツの
うち3枚のみを移すのは,不合理である。
⑶ヴアン社の行為が商標法50条所定の「使用」に該当するか否かについて
ア前記⑵のとおり,ヴアン社は,平成26年11月18日から同月26日まで
の間,販売品のワイシャツに,その襟下に「LEMANS」と記された織りネー
ムを付するとともに「LEMANS」と記載された下げ札を付し,もって,ワイ
シャツに本件商標を付したものと認められる。これは,商標法2条3項1号所定の
「商品に標章を付する行為」であるから,商標法50条所定の「使用」の事実が認
められる。
イ原告の主張について
原告は,商標法50条所定の「使用」は,当該商標が出所識別標識として使用さ
れることを要するとして,本件商標が付されたワイシャツがヴアン社に納品され,
同社において同ワイシャツを本件店舗に移動したなどの事実が存在したとしても,
本件商標が出所識別標識として使用されたということはできない旨主張する。
しかし,商標法50条の主な趣旨は,登録された商標には,その使用の有無にか
かわらず,排他独占的な権利が発生することから,長期間にわたり全く使用されて
いない登録商標を存続させることは,当該商標に係る権利者以外の者の商標選択の
余地を狭め,国民一般の利益を不当に侵害するという弊害を招くおそれがあるので,
一定期間使用されていない登録商標の商標登録を取り消すことについて審判を請求
することができるというものである。
上記趣旨に鑑みれば,商標法50条所定の「使用」は,当該商標がその指定商品
又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足
り,出所表示機能を果たす態様に限定されるものではないというべきである。
しかも,前記アのとおり,ヴアン社は,販売品のワイシャツに,その襟下に本件
商標が記された織りネームを付するとともに,本件商標が記載された下げ札を付し
ていたのであるから,本件商標を出所識別標識として使用していたことは,明らか
である。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
⑷小括
以上のとおり,取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(商標法50条3項本文に該当しないとした判断の誤り)につい

⑴認定事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア本件商標についての審判
原告は,平成元年に2回,平成11年に1回,不使用を理由とする本件商標の商
標登録の取消しを求める審判を請求したが(平成1年審判第20377号,同第2
0378号,平成11年審判第30286号),いずれについても審判請求不成立
の審決を受けた(甲19の2,24~26)。
また,株式会社成文社も,平成14年に,不使用を理由とする本件商標の商標登
録の取消しを求める審判を請求したが(取消2002-30122号),審判請求
不成立の審決を受けた(甲19の2,27)。
さらに,原告は,平成20年に,本件商標について無効審判を請求したが(20
08-890047号),審判請求不成立の審決を受けた(甲19の2)。
イ別件商標についての審判
原告は,平成9年及び平成11年に,別件商標の指定商品の一部につき,不使用
を理由とする商標登録の取消しを求める審判を請求し(09-14418号,11
-30284号),いずれも認容された(甲34)。
また,原告は,平成20年に,別件商標について無効審判を請求したが(200
8-890046号),請求不成立の審決を受けた(甲34)。
原告は,平成26年11月7日に,別件商標の指定商品の一部につき,不使用を
理由とする商標登録の取消しを求める審判を請求し(2014-300900号),
平成27年2月18日,認容された(甲34)。
ウ本件商標の使用調査
原告は,調査会社に本件商標の使用調査を委託し,調査会社は,その調査の一環
として,平成26年10月9日及び同月22日の2回にわたり,被告の取締役に対
する事情聴取を行った(甲21の1)。この事情聴取につき,調査会社が作成した
調査報告書(甲21の1)には,「口実を変えての工作内偵聴取」と記載されてい
る。
エ「LeMans」なる商標の登録出願
被告は,平成26年10月24日,指定商品を「第25類被服,ガーター,靴
下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」とする「LeMans」(標準文字)な
る商標の登録出願(商願2014-94060号)をした(甲28)。
⑵商標法50条3項本文所定の「その審判の請求がされることを知った」につ
いて
ア商標法50条3項は,審判請求人に対し,商標権者,専用使用権者又は通常
使用権者のいずれかが当該商標の使用をした場合,同使用が「その審判の請求がさ
れることを知った後であること」の証明を求めており,同規定に照らすと,「その
審判の請求がされることを知った」とは,当該審判請求を行うことを交渉相手から
書面等で通知されるなどの具体的な事実により,当該相手方が審判請求する意思を
有していることを知るなど,客観的にみて審判請求をされる蓋然性が高く,かつ,
上記商標の使用者がこれを認識していると認められる場合をいうと解すべきであり,
上記商標の使用者において単に審判請求を受ける一般的,抽象的な可能性を認識し
ていたのみでは足りないというべきである。
イ前記1のとおり,ヴアン社は,平成26年9月30日に本件商標権について
の通常使用権の許諾を受け,同年10月10日付けの本件発注書により,レクサス
に対して本件商標が付されたワイシャツの製造を発注し,同月11月15日の納期
のとおりに納品された上記ワイシャツを直ちに本件店舗に移し,販売に供したもの
である。これらの一連の事実経過は,それ自体自然なものということができ,同事
実経過自体からは,本件不使用取消審判請求がされることを知って殊更に本件商標
を要証期間内に使用した実績を作出したことはうかがわれない。
ウ前記⑴のとおり,原告は,本件商標について,過去3回にわたり,不使用を
理由とする商標登録の取消しを求める審判を請求し,また,無効審判も請求した。
加えて,第三者も,不使用を理由とする商標登録の取消しを求める審判を請求した。
しかし,原告による取消審判の請求は,3回目のものが平成11年に請求したもの,
無効審判の請求は,平成20年に請求したものであり,第三者による取消審判の請
求も,平成14年に請求したもので,いずれもヴアン社が本件商標を使用した平成
26年11月の5年以上前の請求に係るものである上,全て請求不成立の審決を受
けた。
また,原告は,本件商標と指定商品が異なり,本件商標と同一の構成から成る別
件商標についても,複数回にわたる不使用を理由とする商標登録の取消しを求める
審判の請求や,無効審判の請求をしており,特に,直近の取消審判請求は,平成2
6年11月に請求されたものである。しかし,別件商標の指定商品は,第15類の
楽器等,第18類の乗馬用具,第25類の運動用特殊衣服等,第28類の運動用具
等であり(甲34),本件商標の指定商品とは異なるものである。
以上によれば,上記の本件商標及び別件商標についての審判に係る経緯をもって,
客観的にみて審判請求をされる蓋然性が高いものということはできず,ヴアン社あ
るいは被告において本件不使用取消審判が請求されることを認識していたというこ
とはできない。
エ前記⑴のとおり,調査会社は,平成26年10月9日及び同月22日の2回
にわたり,被告の取締役に対する事情聴取を行ったが,これは,「口実を変えての
工作内偵聴取」として本件商標に関する調査であることを被聴取者に悟られないよ
うに実施されたものと推認することができる。
よって,ヴアン社あるいは被告において,本件不使用取消審判が請求されること
を認識するとは考え難い。
オそして,前記イからエに鑑みると,被告による「LeMans」(標準文
字)なる商標の登録出願についても,原告の主張するように,本件不使用取消審判
が請求されて取消しの審決が出された場合に備えたものということはできない。
証拠上,平成26年11月当時,本件商標について,原告とヴアン社又は商標権
者である被告との間で交渉がされていたことは認められず,他に,ヴアン社あるい
は被告に本件不使用取消審判が請求されることを具体的に認識させる事実の存在も,
認められない。
カ以上によれば,ヴアン社による本件商標の使用が同社において本件不使用取
消審判請求がされることを知った後であることを原告において証明したとはいえな
い。
なお,前記1のとおり,本件において要証期間内に本件商標を使用したのは,通
常使用権者のヴアン社であるから,商標法50条3項本文に該当するか否かは,同
使用が本件商標を使用したヴアン社において本件不使用取消審判が請求されること
を知った後か否かという問題である。したがって,本件審決が,商標法50条3項
本文に該当するか否かの判断に当たって専ら被告の認識を検討し,本件商標の使用
は,被告において本件不使用取消審判が請求されることを知った後のものであると
は認められないとして,商標法50条3項本文に該当しない旨を判断したことは,
誤りといわざるを得ない。
もっとも,ヴアン社による本件商標の使用が同社において本件不使用取消審判請
求がされることを知った後であることを原告において証明したといえないことは,
前記のとおりであり,被告についても同様であるから,商標法50条3項本文に該
当しないという本件審決の結論自体は誤りがない。
⑶小括
以上のとおり,取消事由2は,理由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の審決取消事由にはいずれも理由がなく,したがって,
原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官古河謙一
裁判官鈴木わかな

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