弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,札幌市a区bc条d丁目e番f号所在の共同住宅「G」(木造亜鉛メ
ッキ鋼板葺2階建,床面積合計138.5平方メートル)の1階2号室に居住して
いたものであるが,同共同住宅の居住者等との間で,生活音等を巡ってトラブルが
複数回あり,また,これらの者から嫌がらせを受けていると感じて,いら立ちを募
らせていたところ,平成30年2月11日未明,2階の居住者らが大きな音を立て
ていると思ったことから,煙を立ててこれらの者に嫌がらせをしようと考え,同日
午前2時20分頃から同日午前2時40分頃までの間に,Hら3名が現に住居に使
用し,かつ,前記Hら4名が現在していた前記Gの1階2号室内の当時の被告人方
寝室において,灯油を畳にまいた上,その上に布団を置き,同布団にライターで点
火して放火し,その火を同室内の床及び壁等に燃え移らせ,よって,同室の床及び
壁等を焼損(焼損面積合計約19平方メートル)したものである。
(証拠の標目)略
(累犯前科)
1事実
平成28年11月22日東京簡易裁判所宣告
窃盗の罪により懲役1年
平成29年11月1日刑執行終了
2証拠

(法令の適用)
罰条刑法108条
刑種の選択有期懲役刑を選択
累犯加重刑法56条1項,57条(刑法14条2項の
制限内で再犯の加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(争点に対する判断)
弁護人は,本件犯行当時,被告人は軽度精神遅滞及び飲酒の影響により,物事
の善悪を判断する能力,又はその判断に従って自分の行動を決める能力が著しく
低下していたとして,心神耗弱の状態にあったと主張する。そこで,当裁判所が,
被告人に完全責任能力を認めた理由を説明する。
1前提となる事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
被告人は,平成29年11月に刑務所を出所した後,G(以下「本件アパ
ート」という。)の1階3号室に入居したが,同年末に本件アパートで発
生した火災の影響で1階2号室に転居した。
その後,被告人は,他の居住者等との間で,生活音や除雪時の対応につい
て複数回のトラブルが起きたことなどから,嫌がらせを受けていると感じ
るようになった。そこで,被告人は,上記火災の経験から,火事を起こせ
ば煙によって他の居住者らに嫌がらせをすることができるなどと考えるよ
うになった。
被告人は,平成30年2月10日,自室や外出先で缶チューハイを合計1
0本ほど飲酒し,翌11日午前0時頃に徒歩で帰宅した。被告人は,同日
午前0時過ぎ頃から,2階の居住者らが大きな音を立てていると思い,こ
れを止めさせるために,自室の冷蔵庫等を倒すなどして大きな音を立てた。
しかし,2階からの音が鳴りやまなかったため,被告人は,煙を立てて嫌
がらせをしようと考え,寝室の畳の上に灯油をまいた。その後,被告人は,
部屋を出るために下着等をかばんに詰めたり,部屋を荒らしたことはまず
かったと考えて畳の上に布団を置いたりした。そして,被告人は,ベッド
に腰かけて放火するかどうかをしばらく迷った挙句,結局,ライターで布
団に火をつけることとし,2回点火に失敗したものの,3回目の点火で布
団が燃えた。
被告人は火がついたのを確認してから自室を出て,間もなく帰宅したが,
炎が燃え上がっているのを見て,大変なことをしたと思い,そのまま逃走
した。その後,被告人は,警察署に出頭する踏ん切りがつかなかったもの
の,生活費がなくなったため,同月24日,警察署に出頭した。
2I医師の供述の信用性
被告人の精神鑑定を行ったI医師(以下「I医師」という。)は,被告人に
は,軽度精神遅滞があり,その影響により,他の居住者らとの関係等について
適切に状況が把握できずにストレスをため,本件犯行当時,一時的に被害妄想
及び聴覚過敏の症状が出ていたほか,飲酒により単純酩酊の状態にあったとし,
本件犯行には,軽度精神遅滞を原因とする被害妄想及び聴覚過敏が影響したほ
か,被告人が元来有していた衝動性の高さや反社会的気質等も影響し,飲酒酩
酊により生じる気が大きくなって抑制が効かなくなるという一般的な作用も影
響したと考えられる旨供述している。
I医師の上記供述は,同医師の経験や能力,鑑定の手法や判断内容などに照
らし,十分信用できる。なお,I医師の供述を前提としても,軽度精神遅滞は,
責任能力に影響を与える精神障害に該当すると認められる。
3本件犯行時の被告人の責任能力の程度
I医師の供述によれば,本件犯行には,被告人の軽度精神遅滞が一定の影響
を与えてはいたものの,他方で,被告人が元来有している衝動性の高さなど
も影響していたと認められ,飲酒の程度は単純酩酊にとどまり,気が大きく
なるなどの一般的な影響を超えるものではなかったと認められる。
次に,本件犯行前後の被告人の行動をみると,被告人は2階からの物音をや
めさせるために,以前から考えていた嫌がらせの方法として,自室に火をつ
けて煙を立てようと考えて灯油をまき,布団に3回にわたって点火を試みて
いる。また,被告人は,火をつける前に放火するかどうかを迷ってしばらく
考えたり,自室には住めなくなるものと考え,下着など生活に必要なものを
かばんに詰めて準備するなど,自らの置かれた状況を理解し,放火した後の
ことも考えて行動している。さらに,本件犯行後,長期の服役に怖気づいて
出頭しなかったことも併せ考えると,被告人は,放火という犯罪行為の意味
を十分に理解していたと認められる。
以上によれば,被告人の軽度精神遅滞及び飲酒酩酊の本件犯行への影響は大
きいものではなく,本件犯行時,被告人は,物事の善悪を判断する能力やそ
の判断に従って自分の行動を決める能力が著しく低下していなかったと認め
られる。
(量刑の理由)
被告人は,未明に,4名の居住者らが就寝していた木造の本件アパートにおい
て,自室に灯油をまいて放火に及んでおり,このような行為は,本件アパートを
全焼させ,居住者らの生命や身体を害する危険が高かったといえ,極めて悪質な
ものである。
その結果,被告人の自室だけでなく本件アパートの外壁も燃え,多額の財産的
被害を生じさせた。また,居住者らは身の危険を感じただけでなく,その後の生
活にも影響を受けたのであって,被害結果は重大である。
さらに,被告人は,煙を立てて2階の居住者らへ嫌がらせをするという身勝手
な理由から本件犯行に及んでおり,強く非難される。確かに,被告人は,軽度精
神遅滞の影響により,他の居住者らとの関係等について適切に状況が把握できず
にストレスをため,そのことなどが本件犯行の一因となっている。もっとも,前
記のとおり,その影響はそれほど大きいものではなかったと認められることから
すると,この点を大きく考慮することはできない。
以上に加え,被告人は多数回服役してきており,本件は前刑出所後わずか3か
月半で行われたことも併せて考えると,被告人の刑事責任は重く,長期間の実刑
を科すべきである。
そこで,被告人が本件犯行を認め,居住者らに謝罪の言葉を述べていること,
弁護人により,社会復帰後に被告人が立ち直るための環境が一定程度整えられた
ことなどの事情も踏まえ,主文の刑期を定めた。
(求刑懲役7年)
平成30年10月12日
札幌地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官中桐圭一
裁判官結城真一郎
裁判官川口寧

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