弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主      文
 1 原判決主文第1項を,次のとおり変更する。
  (1) 被控訴人は,控訴人に対し,金1245万円及びこれに対する平成11年
7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は,第1,2審を通じて10分し,その7を控訴人の,その3を被
控訴人の各負担とする。
3 この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。ただし,被控訴人
が金400万円の担保を供するときは,同仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,控訴人に対し,4000万円及びこれに対する平成11年7月
23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(基礎となる事実及び争点)は,次のとおり補正するほか,原判
決2ページ12行目から5ページ25行目までと同じであるから,これを引用
する(なお,引用に係る原判決中の各「グレーチング」を各「グレーチング
蓋」に改める。)。
1 2ページ15行目の次に,改行して,「原審は,国道の設置又は管理の瑕疵
を認めず,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。」を加える。
 2 3ページ末行末尾の「できた」の次に,「ところ,本件集水ますの開口部
は,容易に人がはまり込む大きさで,底部は深く,下流暗渠の径は人を呑む込
むに充分な大きさであり,本件グレーチング蓋が外れれば,人が転落し,流れ
があれば暗渠に吸い込まれることが容易に予測できた」を加える。
 3 4ページ10行目末尾に,「本件側溝の集水域の上流部には,無蓋側溝が存
在し,廃材や木の枝等が入り込むとはいえ,側溝の開渠部については,未供用
区間であり,現在,車両,歩行者等の通行の用に供している箇所ではなく,ガ
ードレール等を設置して進入防止策を講じ,歩行者等の進入を禁止している区
間であり,道路未供用部分については完成前であって予定された道路の高さよ
りも低くなっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対して50センチメ
ートル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混入を阻んでいる構
造となっている。そこで,本件側溝内に廃材や木の枝等が入り込んだとしても
本件グレーチング蓋の網目が目詰まりするほどの量が入ってくる可能性は著し
く低いものと考えられる。」を加える。
 4 同12行目の「認めれなかった」を「認められなかった」に改める。
 5 同18行目末尾に,次を加える。
 「本件集水ますには,北側から南側に流れる本件側溝と東側の歩道から完成
形の側溝(直径30センチメートルの鉄筋コンクリート管。以下「歩道側側
溝」という。)が取り付けられている。歩道側側溝の計画流水量は0.007立
方メートル/秒であるのに対し,本件側溝の計画流水量は0.990立方メート
ル/秒であり,実際の排水能力についても,歩道側側溝が0.118立方メート
ル/秒であるのに対し,本件側溝は,上流部側溝が1.478立方メートル/秒,
下流部円管が1.106立方メートル/秒であり,歩道側側溝の流量は,本件側
溝と比較して極めて小さい。こうした場合,本件側溝から質量の大きい本流が
激しい勢いで流れることとなり,この流れは,力の弱い質量の小さな歩道側側
溝に逆流し,歩道側側溝は,本件側溝の本流の流出エネルギーを削ぐことにな
り,歩道側側溝の排水と本件側溝の排水とが合流して大きな流出エネルギーを
生じることはない。」
 6 5ページ初行の「101メートル」を「101ミリメートル」に改める。
第3 争点(1)(公の営造物の設置又は管理の瑕疵の有無)についての判断
 1 当事者間に争いない事実に,証拠〔甲1~3,4の1~24,乙1~18,
19の1・2,20~22,23の1,23の2の1~9,23の3,24,
控訴人本人,証人B〕及び被控訴人の主張を加えれば,次のとおり認められ
る。
(1) 本件事故当日(平成11年7月23日),A(中学3年生)は,中学校
が夏休み中で,本件事故現場南方の学習塾に赴いたが,大雨のため帰宅する
ことになり,午前10時10分ころ,大雨の中,同学年の男子3名とともに
徒歩で歩車道の区別のある本件道路の東側歩道を通って本件事故現場北方に
ある自宅に向かった。
  途中,Aを含む4名は,y交差点東側横断歩道を渡り,本件事故現場付近
に差しかかった際,本件側溝内の流水が本件集水ます(「集水ます」とは,
側溝を流れてきた雨水をいったん集め,配水管へ流し込むための構造物であ
る。道路構造令26条に根拠がある。)の開口部から溢れ出て,本件グレー
チング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮き上
がっているのを認めて,歩道からそこに立ち入り(原判決別紙1参照),A
が浮いている本件グレーチング蓋を足で押したり,他の少年らが開口部から
溢れ出る水を蹴ったりしていた午前10時35分ころ,Aは,突然,本件集
水ますの開口部に足のほうから吸い込まれ,他の少年らが救助しようとした
が奏功せず,本件側溝内に流されて行方不明となり,午後零時5分ころ,本
件事故現場から約1.1キロメートル下流(南方)のz都市下水路で遺体で
発見された。
〔甲1~3,4の1~24,乙6~8,10,証人B,控訴人本人,被
控訴人の平成14年8月29日付け準備書面2ページの1〕
(2) 本件グレーチング蓋が外れたのは,雨水が濁流となって本件側溝を流
れ,樹木の枝や廃材等が本件グレーチング蓋の格子目に詰まって下からの水
圧を受けたためである。本件グレーチング蓋のほか,その上流約22.2メ
ートル地点の集水ますでも同様にグレーチング蓋が外れていた。
                       〔乙8,10,証人B〕
(3) 本件事故当日,午前9時10分過ぎころ,現場付近の道路工事に従事し
ていた建設会社の現場代理人が巡回した際,本件グレーチング蓋より飲み込
みきれない排水が交差点に流れ出しているのを目視したが,その時点では本
件グレーチング蓋が持ち上がるようには出ていなかった(乙17の7月23
日欄参照)。諫早市は,午前9時ころ,市内を流れる本明川の水位が警戒水
位を超え,氾濫のおそれが出たため,午前9時15分,災害対策基本法に基
づき,市内全域の約3万2000世帯に対し避難勧告を発令し,サイレンを
鳴らして市民に周知するなど避難誘導に努めていた。
  本件事故当時の降雨状況は,長崎海洋気象台諫早地域雨量観測所の観測記
録によれば,日降水量342ミリメートル,午前10時の時間降水量101
ミリメートルであって,同観測所における過去約20年間の観測記録中,日
降水量は第2位の,時間降水量は第1位の数値であり(原判決別紙3参
照),本件道路上は雨水が川のように流れていた。
〔甲1,乙4,8,17,18,19の1・2,22,証人B〕
(4) 本件集水ますは,縦横各0.7メートル,深さ1.19メートルのコンク
リート製の構造物であり,本件側溝である上流側(北方)側溝(U型側溝
で,断面0.7メートル×0.7メートル)と下流側(南方)側溝(円管で,
直径0.7メートル)が接続し,さらに,東側の歩道から歩道側側溝(直径
30センチメートルの鉄筋コンクリート管)が取り付けられており,本件道
路南方にあるz都市下水路に排水を行っている。
  本件集水ます並びに上流側側溝及び下流側側溝の上記構造からすれば,本
件グレーチング蓋が外れれば,本件集水ます開口部は,大人であっても身体
が完全に入り込める状況にあり,もし,水流が十分あるとき人が転落すれば
脱出することができず,そのまま暗渠に吸い込まれてしまうおそれがある。
〔乙8,10,14,22,23の1,23の2の1~9,23の3〕
(5) 本件側溝の計画・設計の際に指針とされた雨水流出量(以下「計画流出
量」という。)は,社団法人日本道路協会が発行した「道路排水工指針」
(乙9)所定の合理式(ラショナル式)により,0.990立方メートル/秒
と計算されたが,本件側溝の実際の排水能力は,上流側側溝(U型側溝)が
1.478立方メートル/秒,下流側側溝(円管)が1.106立方メートル
/秒であった。(なお,各数値は,土砂等の堆積による通水断面の縮小を勘
案し,「道路排水工指針」所定の計算式によって算出された数値の80パー
セントとなっている。)
    〔乙3,9,15,被控訴人の平成13年5月25日付け準備書面〕
(6) 本件集水ますは,諫早市内から大村市に通じる本件道路(国道34号
線)のy交差点の外延部に位置し,本件道路と歩道の間には植込みが植栽さ
れているが,同交差点のガードレールの内側にあるので,本件側溝部分は車
両の通行ができず,したがって,y交差点を通行する者が容易に立ち入るこ
とができる場所(原判決別紙1,2参照)にある。
  本件集水ますがある本件道路の周辺地域は,相当に密集した住宅街(乙8
の現場見取図第2図参照)であり,Aは,本件道路が塾通いの通常のルート
であった。
                    〔乙6~8,10,控訴人本人〕
(7) 本件側溝は,y交差点の北側約2.1キロメートルにわたって本件道路沿
いに設置された側溝により集水される排水系統(乙10参照)にある。本件
集水ます上流部(北側)には,無蓋側溝が多く,本件側溝の開渠部は,ガー
ドレール等を設置して進入防止策を講じるなど歩行者等の進入を禁止してい
る未供用区間にあり,道路未供用部分については完成前であって予定された
道路の高さよりも低くなっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対し
て50センチメートル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混
入を阻んでいる構造となっているが,広範囲の側溝開渠部からゴミ,草,木
枝,葉などが流れ込むのを防げない。しかも,本件集水ますに接続された本
件側溝(U型側溝。断面0.7メートル×0.7メートル)北側(上流)は,
約350メートルの蓋付側溝と暗渠部分(乙10の集水域平面図④参照)か
らなっている。
 歩道側側溝は,y交差点北側の本件道路の歩道に沿った約300メートル
に集水された系統(乙10の集水域平面図④参照)の蓋付き側溝である。歩
道側側溝(円管。直径0.3メートル)の計画流出量は0.007立方メート
ル/秒であるのに対し,本件側溝の計画流出量(下流側側溝は円管。直径0.
7メートル)は0.990立方メートル/秒(乙15)であり,実際の排水能
力も,歩道側側溝が0.118立方メートル/秒,本件側溝の上流部側溝が
1.478立方メートル/秒,下流部円管が1.106立方メートル/秒であ
る。
〔乙10,14,15,23の1,23の2~9,23の3,被控訴人
の平成13年5月25日付け及び平成14年10月31日付け各準備書
面〕
(8) 本件グレーチング蓋は,一般構造用圧延鋼材SS400を材料とし,主
部材5本,横部材7本,補助部材16本,エンドプレート2本,サイドプレ
ート2本によって構成され,その形状は,上面部が1辺約80センチメート
ルの正方形で格子状,高さが約10.5センチメートルであり,総重量は約
62キログラム(この重量は,自動車総重量14トンに耐える設計である。
被控訴人の平成13年3月12日付け準備書面2ページ(4)及び同14年8
月29日付け準備書面5ページ)であった。本件グレーチング蓋は,落とし
蓋方式であり,ボルト等で固定されていなかったが,本件事故当時,関係法
令上,グレーチング蓋をボルト等で固定することを指示する規定はなかっ
た。
 本件事故後,本件事故の重大性にかんがみ,本件グレーチング蓋はボルト
で固定された。同固定に要した費用は,約13万2000円であった。
〔乙1~3,11,12,20,被控訴人の平成13年3月12日付け
及び同14年8月29日付け各準備書面〕
(9) 被控訴人は,本件事故以前には,降雨による増水の際,本件側溝付近一
帯に設置されたグレーチング蓋が外れたことはもちろん,同開口部から側溝
内に人が転落したという事故の発生の報告を受けたことはなかった。
 しかしながら,次の事情もあった。
ア 本件側溝上流部の無蓋部には,ゴミ,ビニール傘,枯れ草などが散乱し
ており,集水域からゴミ,草,木,特にビニール袋,瓶,空缶等が流れ込
んでいる現状にある。
イ 諫早市土木部は,本件事故以前,大雨のため溢水によりニュータウン地
域のコンクリート製側溝蓋が浮き上って外れたという報告を受けていた
し,市道側溝のグレーチング蓋については,重点的に調査し,車両が走行
して危険な箇所とか排水が溢れてグレーチング蓋が外れそうな箇所を発見
したときは,その都度,これらを固定している。
ウ 平成11年4月20日,首都高速道路で走行中の車両に反対車線の集水
ますの蓋が中央分離帯を越えてフロントガラスを破って車内に飛び込み,
運転手が死亡する事故が発生したのを契機に,建設省(当時)内に設置さ
れた調査委員会は,同年11月22日,事故の第1原因は,蓋が集水ます
から外れたことにあるので,たとえ蓋の上を相当の速度で車両が通過した
としても,集水ますから蓋が外れないような構造とするように提言し,建
設省道路局は,同提言を全国の道路管理者に通知し(乙21),以降,車
道部については,順次グレーチング蓋を固定する取扱いを行っている。
〔甲5,乙13,16,17,21,証人B,被控訴人の平成14年
10月31日付け準備書面6ページ第3の2項〕
(10) 諫早市の気象は,3つの海に囲まれ,夏場には非常に海面が高くなっ
て,背後地の多良岳山系の五ヶ原岳に気流がぶつかり,これが上昇気流に乗
って雨雲が発生し,大雨を降らすという特徴があり,多くの豪雨を経験して
いる。長崎海洋気象台諫早地域雨量観測所の観測記録(昭和54年1月から
平成12年12月まで)によると,日降水量及び時間降水量の第1位から第
10位までは原判決別紙3の表のとおりであり,本件事故当日の日降水量3
42ミリメートルは第2位,本件事故発生時の午前10時台の時間降水量1
01ミリメートルは第1位であった。
〔甲1,乙4,19の1・2,証人B〕
2 国賠法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵についての判断基準は,
原判決7ページ25行目から8ページ3行目までと同じであるから,これを引
用する。
3 本件道路の設置又は管理の瑕疵の有無
  前記認定の事実に基づき,本件事故発生に至る経緯の認定・判断を要約すれ
ば,次のとおりである。
(1) 本件集水ますは,縦横0.7メートル,深さ1.19メートルのコンクリ
ート造りで,流水は,本件側溝上流部から底部に落ち込む構造になってい
る。同ますが開口すれば,容易に人がはまり込む大きさであり,下流暗渠円
管(直径0.7メートル)も人を呑み込むに充分である。もし,水流が十分
あるとき人が転落すれば,水流に呑み込まれて脱出することができず,その
まま暗渠に吸い込まれてしまうおそれのある構造であったし,このことは,
容易に予測できた。
(2) 本件事故当時,本件グレーチング蓋(総重量は約62キログラム)は,
ボルト等で本件集水ますに固定されていなかったところ,雨水が濁流となっ
て本件側溝を流れ,樹木の枝や廃材等が本件グレーチング蓋格子目に詰ま
り,下からの水圧を受けて本件グレーチング蓋が浮き上がる事態になった。
(3) Aは,本件側溝内の流水が本件集水ますの開口部から溢れ出て,本件グ
レーチング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮
き上がっているのを認め,本件グレーチング蓋を足で押したりしていたとこ
ろ,突然,同開口部に足のほうから水流に吸い込まれて行方不明となり,溺
死する本件事故に遭遇した。
(4) 本項のまとめ
 以上によれば,
ア 一応の推定
  本件グレーチング蓋がボルト等で本件集水ますに固定されていれば,本
件事故は起きなかったと認められるから,上記固定されていなかったこと
は,被控訴人の営造物である本件側溝,本件集水ます及び本件グレーチン
グ蓋を含む本件道路(国賠法2条1項にいう公の営造物に当たる。)の設
置又は管理に瑕疵があったものと一応推定するのが相当である。
イ 本件事故当時,行政関係法令上,グレーチング蓋をボルト等で固定する
ことを指示する規定がなかったことは,同法令上違法でなかったことを意
味するが,そのことは,損害賠償法の上でも違法性が阻却されることに直
結するものではなく,アの推定を左右しない。行政法理と損害賠償法理と
は,そもそも法原理が異なるからである(最高裁第1小法廷昭和37年1
1月8日判決・民集16巻11号2216ページ,同第2小法廷昭和46
年4月23日判決・民集25巻3号351ページ参照)。
4 本件グレーチング蓋の浮き上がりと本件集水ます開口の予見可能性
  しかしながら,被控訴人において,本件グレーチング蓋が浮き上がって,本
件集水ますが開口する3(2)(3)の事態を予見することができなければ,3(4)ア
の推定は覆えるので,その点につき検討を進める。
(1) 前記認定の事実によれば,次のとおりである。
ア 本件事故当時の降雨状況は,日降水量342ミリメートル,午前10時
の時間降水量101ミリメートルであって,長崎海洋気象台諫早地域雨量
観測所における過去約20年間の観測記録中,日降水量は第2位,時間降
水量は第1位であった。
イ 被控訴人は,過去,本件側溝の使用が開始されてから本件事故までの
間,降雨による増水の際,本件側溝付近一帯に設置されたグレーチング蓋
が外れたことはもちろん,同開口部から側溝内に人が転落したという事故
の発生の報告を受けたことはなかった。
ウ 本件側溝の実際の排水能力は,合理的な根拠に基づいて算出された計画
流水量を上回っており,通常の降雨量であれば,本件集水ますの開口部か
ら流水があふれ出ることは考えられなかったし,流水があふれた場合で
も,本件グレーチング蓋の形状や重量等からして,これが下方からの水圧
によって浮き上がるとは考えられなかったと判断していたと推測される。
エ 以上によれば,記録的な豪雨のため,本件側溝の流水により本件グレー
チング蓋が外れたもので,このような事態を予測することは困難であった
と考えられないでもない。
(2) 他方,前記認定の事実によれば,次のとおりである。
ア 本件側溝上流部の無蓋部には,ゴミ,ビニール傘,枯れ草などが散乱
し,集水域からゴミ,草,木,特にビニール袋,瓶,空缶等が流れ込んで
いる現状にある。
イ 本件集水ます上流にある側溝開渠部は,ガードレール等を設置して進入
防止策を講じるなど歩行者等の進入を禁止している未供用区間にあり,道
路未供用部分については完成前であって予定された道路の高さよりも低く
なっているため,側溝の側壁が道路未供用部分に対して50センチメート
ル程度の高さの壁となって,未供用部分からの異物の混入を阻んでいる構
造となっているものの,広範囲の側溝開渠部からゴミ,草,木枝,葉など
が流れ込むのを防げない。
ウ 本件集水ますの深さは1.19メートルで,本件側溝上流部から底部に
落ちるように入り込む構造であること,本件側溝である上流側本件側溝は
U型側溝で,断面が0.7メートル×0.7メートル(断面積は0.49平
方メートル)であるのに対し,下流側本件側溝が円管で,直径0.7メー
トル(断面積は0.38平方メートル)と形状が異なり,その断面積も狭
くなることから,ゴミ,草,木枝,葉などが下流円管側溝にスムーズに流
れ込まず,廃材やゴミなどが本件側溝下流部の排水を妨げるようになり,
排水能力の低下を招くおそれが高い。
エ 諫早市は,地域的な特徴から原判決別紙3のとおり,過去多くの豪雨を
経験しているところ,諫早市土木部は,本件事故以前,大雨のため溢水に
よりニュータウン地域のコンクリート製側溝蓋が浮き上って外れたという
報告を受けていたし,市道側溝のグレーチング蓋については,重点的に調
査し,車両が走行して危険な箇所とか排水が溢れてグレーチング蓋が外れ
そうな箇所を発見したときは,その都度,これらを固定している。
(3) 本項のまとめ
 ア (1)(2)の事実等を併せ考慮すれば,通常の降雨量であれば,本件集水ま
すの開口部から流水が溢れ出ることがなかったとしても,記録的な豪雨の
時に限らず,諫早市における地域的特徴ともいえる豪雨が発生すれば,本
件集水ますに,本件側溝上流部から,ゴミ,草,木枝,葉や廃材等が流入
し,これらが本件側溝下流部の排水を妨げ,排水能力の低下を招き,流水
が本件集水ますから流れ出すようになり,さらに,本件グレーチング蓋の
格子目に詰まって下からの水圧を受けることにより,本件グレーチング蓋
が浮き上って,本件集水ますが開口する事態を予見することは不可能では
なかったと解される。
イ 被控訴人は,本件集水ます等の排水施設は,前掲「道路排水工指針」に
従って設置していること,同指針は,グレーチング蓋が格子の目詰まり状
態によって,浮き上がり状態になるようなことを規定していなかったこと
から,上記事態を想定していなかったし,予見不可能であったと主張する
(被控訴人の平成14年8月29日付け準備書面3~5ページ)。しかし
ながら,同主張は,前記認定の本件事故態様・原因を直視すれば,採用で
きない。
5 Aの行動の予見可能性
  次に,Aの3(3)の行動が,被控訴人にとって予見することができなければ,
3(4)アの推定は覆えるので,その点につき更に検討を進める。
(1) 前記認定の事実によれば,次のとおりである。
ア 本件集水ますがある本件道路の周辺地域は,相当に密集した住宅街であ
り,Aにとっては,本件道路が塾通いの通常のルートであった。
イ 本件集水ますは,y交差点のガードレール内側にあり,車両の通行はな
く,場所的構造上も歩行者が容易に立ち入ることができる場所にある。
ウ Aは,本件当時,前記認定のとおり,浮いている本件グレーチング蓋を
足で押したりしていたというのであるが,中学3年生といえば,好奇心旺
盛であり,成人からみれば危険と思われる行動を試みる年頃である。本件
側溝での水遊びの類は,誘惑的存在であったろう。一緒にいた友人3名が
同様の仕草で遊んでいたと推測されるのは,このことを裏付ける。
(2) 本項のまとめ
 そうであれば,Aが,3(3)のような行動に出たからといって,同行動が
通常予測しうる限度を明らかに逸脱した異常事態であり,設置・管理者であ
る被控訴人にとって予測を超えた行動であったというほどでもない(最高裁
第1小法廷昭和56年7月16日判決・判例タイムス452号93ページ,
同第3小法廷平成5年3月30日判決・民集47巻4号3226ページ参
照)。
6 本件道路の設置又は管理の瑕疵の有無についての結論
  そして,他に3(4)アの推定を動揺させるに足りる証拠はない。
(1) したがって,本件グレーチング蓋がボルト等で本件集水ますに固定され
ていなかったことは,被控訴人の営造物である本件側溝,本件集水ます及び
本件グレーチング蓋を含む本件道路が,通常有すべき安全性を欠いていたと
いうべきであり,国賠法2条1項にいう公の営造物の設置又は管理に瑕疵が
あったものということができる。
(2) 被控訴人は,全国のグレーチング蓋をボルト等で固定するとすれば,莫
大な予算を必要とする(被控訴人の平成14年8月29日付け準備書面)こ
とを考慮すべきであると主張するかのようであるが,本件事実関係のもと
で,同主張は採用できない(最高裁第1小法廷昭和45年8月20日判決・
民集24巻9号1268ページ,前掲第2小法廷昭和46年4月23日判決
参照)。ちなみに,前記認定のとおり,被控訴人は,本件事故後,本件グレ
ーチング蓋を本件集水ますに固定する措置をとったが,その費用は約13万
2000円であった。
7 過失相殺の法理
  以上の認定・判断によれば,更に,次のとおり解される。
(1) 本件事故は,記録的な豪雨の際に起きたものである。いかに好奇心旺盛
とはいえ,中学3年生のAは,一緒にいた友人3名とともに,本件グレーチ
ング蓋がその水圧によって3分の2くらい下流側(南方)に外れて浮き上が
っている異常事態に遭遇し,本件グレーチング蓋を足で押したりすれば,突
発的に本件集水ますの開口部に吸い込まれる危険があることを認識すること
もできたし,認識すべきであった。にもかかわらず,この危険性を十分認識
しないまま,Aは上記行動に出たものと推認される。本件事故発生について
は,Aにも大きな責任(過失)があったといわなければならない。
(2) あまつさえ,記録的な豪雨といういわば自然災害的な事実も競合して発
現した本件道路の瑕疵の内容,本件事故当時,関係法令上,グレーチング蓋
をボルト等で固定することを指示する規定はなかったこと,その他前記認定
の諸般の事情を総合考慮すれば,Aの損害額を最終的に算定するに当たって
は,過失相殺の法理に従って裁量減額するのが相当である。
(3) そして,裁量減額するに当たっての責任の負担割合は,被控訴人25
%,A75%とするのが相当である。
第4 争点(2)(損害額)についての判断
 1 裁量減額前のAの損害額
(1) 慰謝料2000万円
 本件事故によるAの死亡による慰謝料は,控訴人主張の2000万円が相
当である。
 (2) 逸失利益 2440万円
 Aは,本件事故当時中学3年生(14歳)であったから,18歳になる4
年後から67歳になる53年後まで49年間,稼働して収入を得ることがで
きたであろうと推定される。そこで,A死亡による逸失利益を,控訴人主張
(訴状参照)のとおり,18歳男子の平均月収18万5800円を基礎に,
生活費控除を5割とし,中間利息を新ホフマン式により控除して算定する
(なお,控訴人主張と同じく10万円未満を切り捨てる。)と,2440万
円となる。
 185,800×12×(25.5353-3.5643)×0.5=2
4,493,270
(3) 葬儀費用 100万円
 標記費用は,控訴人主張の100万円が相当である。
  (4)(1)ないし(3)の小計は4540万円となる。
 2 被控訴人が負担すべき裁量減額後の損害額(弁護士費用を除く)
 1(4)の4540万円に,第3の7(3)で説示した25%を乗じた1135万
円が,標記損害額である。
3 控訴人本人尋問の結果及び控訴人の主張によれば,控訴人は,Aの損害につ
いて夫のCと協議し,その請求権を単独で承継したことが認められる。
 4弁護士費用
本件訴訟を概観すれば,標記費用は110万円が相当である。
 5 まとめ
   2と4を合計すれば1245万円となる。
第5 結論
 1 したがって,控訴人は,被控訴人に対し,国賠法2条1項に基づき,損害賠
償として1245万円及びこれに対する本件事故日である平成11年7月23
日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるこ
とができるから,この限度で控訴人の本件請求は理由があり,その余は理由が
ない。これと一部異なる原判決は一部不当であり,本件控訴は一部理由があ
る。
 2 よって,
(1) 1の趣旨に従って,原判決主文第1項を,本判決主文第1項(1)(2)のと
おり変更し,
(2) 訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条,64条を,
(3) 仮執行の宣言及びその免脱宣言につき同法259条1項,3項,310
条を
  それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第1民事部
          裁判長裁判官  簑   田   孝   行
             裁判官  駒   谷   孝   雄
             裁判官  藤   本   久   俊

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛