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平成28年9月21日判決言渡
平成27年(行ケ)第10188号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年9月7日
判決
原告ラプトールファーマシューティカル
インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士山本健策
草深充彦
難波早登至
弁理士長谷部真久
被告特許庁長官
指定代理人中島庸子
三原健治
井上猛
田中敬規
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-25515号事件について平成27年5月8日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,実施可能要件(特許法36条4項1号)違反についての判断の当
否である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「環状受容体関連蛋白ペプチド」とする発明につき,平成20年
3月21日を国際出願日(本件出願日)として,特許出願(特願2010-501
126号)をし(パリ条約に基づく優先権主張平成19年3月21日・アメリカ
合衆国)(甲2),平成25年7月19日に手続補正をした(甲7)。
原告は,平成25年12月26日,拒絶査定不服審判請求をし(不服2013-
25515号。甲10),同日,手続補正(本件補正。甲11)をした。
特許庁は,平成27年5月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
をし,同審決謄本は,同月20日,原告に送達された。
2本願発明の要旨
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(本願発明)は,以下のとお
りである(甲11)。
「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,
そして1x10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合する,85アミノ
酸長以下である環状RAPペプチドであって,該CR含有蛋白は,LDLR(P0
1130),LRP1(P98157),LRP1B(Q9NZR2),LRP2(P
98164),LRP3(O75074),LRP4(O75096),LRP5(O
75197),LRP6(O75581),LRP8(Q14114),ソルチリン関
連受容体,SorLA(Q92673),LRP10(Q7Z4F1),LRP11
(Q86VZ4),LRP12(Q9Y561),FDC-8D6(CD320),V
LDLR(P98155),TADG-15(ST14,Q8WVC1),TMPS
3(P57727),TMPS4(Q9NRS4),TMPS6(Q8IU80),Q
6ICC2,Q6PJ72,Q76B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86
YD5,Q8NAN7,Q8NBJ0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE
1,Q9BYE2,Q9NPF0及びcorin(Q8IZR7)よりなる群から
選択される,環状RAPペプチド。」
3審決の理由の要点
本願明細書には,本願発明に包含される環状RAPペプチドとして,5個までの
アミノ酸変異を有する数個のペプチドを製造したことが記載されているにとどま
り,「配列番号97のアミノ酸配列に少なくとも70%同一である50個の連続す
るアミノ酸を含み,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチド」であれば,「1
x10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合し,該CR含有蛋白は列挙
された34個の群から選択される」ことの合理的な説明も記載されていない。
一方,受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1~数個のアミノ酸
を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化することが本件出願日当時の
技術常識であり,そのことは,本願明細書の実施例11(判決注:実施例1の誤記
と思われる。)でも,RAPペプチドの1~5個のアミノ酸を変異させただけで,
各CR含有蛋白との結合親和性が変化したことからもうかがえる。
そうすると,「配列番号97のアミノ酸配列に少なくとも70%同一である50
個の連続するアミノ酸を含み,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチド」で
あって,「1x10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合し,該CR含
有蛋白は列挙された34個の群から選択される」という環状RAPペプチドを製造
するためには,本願明細書【0014】,【0019】,【0021】,【002
2】及び【0239】の記載,並びに,アミノ酸配列から各CR含有蛋白との結合
親和性を予測できないという本願出願日当時の技術常識を考慮すると,本願明細書
の【0019】に示唆された「246,247,249,250,251,256,
257,261,266,267,268,270,273,279,280,2
87,290,294,296,297,298,305,308,311,31
2,313」のいずれかの位置に,1~15個(50個×30%)の変異を行い,
列挙された34個のCR含有蛋白との結合親和性を調べるという,当業者に期待し
得る程度を超える試行錯誤を要することは明らかである。
したがって,本願の発明の詳細な説明には,本願発明を当業者が実施できる程度
に明確かつ十分に記載されていない。
第3原告主張の審決取消事由
1審決は,実施可能要件(特許法36条4項1号)の判断を誤ったものである
から,取り消されるべきである。
2取消事由1(過度の試行錯誤が不要であること)
本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,当業者に期待し得る程度を超える
試行錯誤は必要ではない。
(1)当業者は,変異しても受容体との結合親和性に影響を及ぼさない多数のア
ミノ酸を特定した上で,そのようなアミノ酸を除外してペプチドの製造及びその機
能性の確認を行うことが可能であった。
本件出願日当時において,RAPペプチドの受容体結合部位がどこかという点は,
当業者にとっての技術常識だったから,当業者は,1~数個のアミノ酸を変異させ
ても受容体との結合親和性が変化しないRAPペプチドの領域を容易に特定するこ
とができた。また,当業者は,どのアミノ酸残基が,多種多様な受容体との結合に
おいて重要な役割を担うのかに関する十分な知識を有していた。
そして,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ酸を変異
させた場合には,受容体との結合親和性が変化しない。
よって,当業者は,本願発明に係るペプチドの製造に当たり,変異しても受容体
との結合親和性に影響を及ぼさないアミノ酸を除外してペプチドの製造及びその機
能性の確認の作業をすることが可能である。
したがって,本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,当業者に期待し得る
程度を超える試行錯誤は必要ない。
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項35(請求項35)は,226,2
30,232,239,241,242,246,247,249,250,25
1,256,257,261,266,267,268,270,273,279,
280,287,290,294,296,297,298,305,308,3
11,312,313,314又は315位でのアミノ酸配列の変異を記載してい
る。また,本願明細書【0020】,【0021】,実施例1(【0201】)及び表4
は,アミノ酸残基のうち,改変されることがあり,かつ,LRP1,LRP2,マ
トリプターゼ,VLDLR,及びFDC-8D6に対する選択的結合を与える残基
を記載している。
このことからも,当業者は,過度の試行錯誤をすることなく,請求項に包含され
るペプチドを容易に合成し,受容体であるLRP1,LRP2,マトリプターゼ,
VLDLR,及びFDC-8D6に対する結合親和性について容易に試験すること
ができる。
(3)本願明細書に記載されている本願発明に係るペプチドの製造方法は,当業
者にとって負担となるものではない。
ア本願明細書の実施例1及び【0209】~【0227】に記載されてい
るファージディスプレイ技術及びPCRによるランダム変異誘発を用いるランダム
変異誘発スクリーニングは,本件出願日当時の常套の手法であり,慣用的な実験を
超えるものとは解されていなかった(甲15~17)。したがって,本願発明には,
多数の(例えば,被告が主張するような最大で1031
個の)クローンが包含され得
るが,この数のクローンをスクリーニングするための方法は,当業者が容易に実施
可能であった。
変異の有無にかかわらず環状RAPペプチドを作製する方法は,本願明細書の【0
153】~【0158】に記載されるとおりである。
イ例えば,開発業務受託機関(CRO)に委託すれば,本願発明に包含さ
れるあらゆるペプチドを合成することが可能である。CROは,例えば,2週間程
度の短期間に100個のペプチドを合成することが可能である。そして,個々のC
R含有タンパクとの結合親和性を決定するスクリーニングは,本件出願日当時の技
術常識を参酌して本願明細書の記載を読んだ当業者が,2週間程度で実施すること
ができる試験である。
したがって,本願発明の実施には,長時間も膨大な費用も必要ではない。
ウ仮に,本願発明のペプチドについて網羅的に合成して試験した場合に長
時間及び膨大な費用がかかったとしても,当業者は慣用的手法によって本願発明ペ
プチドの網羅的な合成及び試験を容易に行うことができるのだから,本願発明が実
施可能要件を充足するという結論に変わりはない。
3取消事由2(実施例が十分であること)
本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造例が十分に記載されている。
(1)「パーセント同一」の解釈について
審決は,本願明細書においては本願発明に包含される環状RAPペプチドとして,
5個までのアミノ酸変異を有する数個のペプチドしか製造されていないと認定する
が,誤っている。
アミノ酸の変異には,アミノ酸残基の置換のみならず,アミノ酸残基の欠失も含
まれる。そして,本件出願日当時の当業者は,アミノ酸配列相互の同一性を判断す
るに当たり,長いペプチドを全長として配列同一性を判断するという手法を用いて
いた(甲14)。仮に,短いペプチドを全長として配列同一性を判断すると,長いペ
プチドと,長いペプチドに含まれるわずか数残基の短いペプチドとの間の配列同一
性が常に100%となるにもかかわらず,そのような短いペプチドは長いペプチド
が有する機能を有しない蓋然性が高く,配列同一性が100%であるにもかかわら
ず,機能を保持していないペプチドが多数存在し,不合理である。
下記(2)で述べるとおり,本願明細書に記載されるmRAP-14cは,3個のア
ミノ酸が変化した60アミノ酸の短縮型ペプチドだから,本願明細書には,配列番
号97の71残基に対して57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同
一性を示すペプチドが具体的に記載されている。
(2)本願明細書に記載されている本願発明に係るペプチドの製造例
本願明細書の実施例3及び4は,様々なCR含有蛋白に結合する変異されたRA
Pペプチドの短縮型(mRAPc(75アミノ酸長),mRAPcko(75アミノ
酸),mRAP-8c(67アミノ酸長),ヘプタイド(68アミノ酸長)及びmR
AP-14c(60アミノ酸長))を示し,これらの変異されたRAPペプチドにつ
いて,そのそれぞれの受容体に対する結合親和性を示している。また,本願明細書
は,ペプチドの長さ60~75アミノ酸で変化させ,様々なアミノ酸変異を含めて
も,所望の受容体結合活性を有することを示す例を提供している。例えば,RAP
の残基250-309と変異F250C,L308G及びQ309Cとを含むmR
AP-14cは,配列番号97と比較して14の変化を有し(11アミノ酸残基短
く,かつ,3つの置換変異を含む。),配列番号97に80%の同一性を有する。
また,アミノ酸の変異には,アミノ酸残基の置換のみならず,アミノ酸残基の欠
失も含まれるのであるから,本願明細書には,5残基よりも多くの残基を変異させ
たRAP改変体が記載されているというべきである。例えば,本願明細書に記載さ
れるmRAP-14cは,3個のアミノ酸が変化した60アミノ酸の短縮型ペプチ
ドであるから,合計14アミノ酸残基が異なるため,配列番号97の71残基に対
して57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同一性を示すペプチドで
ある。
さらに,本願明細書の実施例4は,本願発明に係るペプチドであるmRAP-1
4cが受容体LRP1に対して約21nMの結合親和性で結合することを示してい
る。ヘプタイドは,RAPの246番目のアミノ酸残基~313番目のアミノ酸残
基に由来し,5つのアミノ酸置換(E246C,L247G,G280A,L31
1A,及びS312C)を含んでいる。すなわち,mRAP-14cは,配列番号
97と8アミノ酸残基が異なり,約3.5nMの結合親和性で受容体であるLRP
1に結合するペプチドであり,本願発明に係るペプチドである。
この他にも,多数のRAPペプチド変異体(例えば,mRAPc及びmRAPc
koは75アミノ酸長であり,mRAP-8cは67アミノ酸長であり,ヘプタイ
ドは68アミノ酸長であり,mRAP-14cは60アミノ酸長である。)と,種々
のCR含有蛋白との組合せが本願明細書に記載されている。本願明細書の図9にお
いても,RAPペプチド短縮型が結合親和性を増加させることが示されている。
以上のとおり,本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造についての実施
例が数多く記載されており,本願発明は実施可能要件を満たしている。
4取消事由3(審決が指摘する技術常識が存在していなかったこと)
本件出願日において,審決において指摘されている「受容体等に結合するペプチ
ドは,その結合する領域の1~数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との
結合親和性が変化する」との技術常識は存在していなかった。
審決は,本件出願日当時,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域
の1~数個のアミノ酸を変化させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」
との技術常識が存在していたことを前提として,本願発明に係るペプチドを取得す
るに際しては当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要となる旨認定してい
る。
しかし,本願明細書の【0232】に「これら2部位以外では多様な置換パター
ンを有していた」との記載があることなどから明らかなように,受容体との結合親
和性に影響を与えない多数のアミノ酸変異が存在することから,アミノ酸を変化さ
せることによって受容体との結合親和性が変化する蓋然性は高くなく,そのような
技術常識が存在するとはいえない。なお,審決は,そのような技術常識が存在する
ことの根拠として,本願明細書の実施例1を取り上げるが,実施例1は,本願明細
書が受容体との結合親和性に影響を与えるアミノ酸変異の同定に焦点を当てたもの
であるため,結合親和性が変化した変異を同定して記載したにすぎず,これを一般
化して,1~数個のアミノ酸を変化させただけで受容体との結合親和性が変化する
との結論を導くことはできない。
本件出願日当時において,RAPペプチドの受容体結合部位がどこかという点は,
当業者にとっての技術常識であった(甲18,20,21)から,当業者は,1~
数個のアミノ酸を変異させても受容体との結合親和性が変化しないRAPペプチド
の領域を容易に特定することができた。また,当業者は,本件出願日当時,どのア
ミノ酸残基が,多種多様な受容体との結合において重要な役割を担うのかに関する
十分な知識を有していた。
したがって,本件出願日当時,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する
領域の1~数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化す
る」との技術常識は存在していなかったから,本願発明に係るペプチドを取得する
のに際して当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要になるとの結論を導く
ことはできない。
5取消事由4(疾患又は障害の処置のための実施例等が記載されていること)
(1)本願明細書は,環状RAPペプチドをどのように細胞及び動物に投与する
かを教示しており,当該ペプチドがインビトロで細胞に治療剤を送達し,インビボ
で取り込まれることを示している(実施例5【0262】,実施例6【0269】
及び実施例8【0277】等)。
これらの結果は,標的とされた細胞型における受容体に対する環状RAPペプチ
ドが,細胞型が関与する疾患を処置するのに有用であることを示唆している。
(2)また,本願明細書は,疾患におけるCR含有蛋白の関連性を教示している
(【0007】~【0009】,【0079】~【0087】参照)し,治療剤に
結合された環状RAPペプチドによる治療が企図される疾患や,記載されている治
療が有効であろう症状についても記載している(【0088】~【0115】参照)。
そして,本願明細書中で実証された環状RAPペプチドの取り込みと,RAPペ
プチドを含むペプチドの疾患の治療のための投与に関する当該分野の技術常識とに
鑑みれば,本願発明に係るペプチドを用いる疾患の治療については,十分に記載が
なされているというべきである。
さらに,特表2007-526227号公報(甲8の5頁以下)【0011】,
【0242】及び【0289】には,RAP融合蛋白質が酵素を線維芽細胞に送達
することや,モデル血液脳関門系を横切って薬剤を中枢神経系に送達するトランス
サイトーシスが記載されているし,RAPペプチドの投与方法は,本願明細書【0
178】~【0198】に記載されており,中枢神経系への投与は【0185】等
に記載されている。
以上より,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及
び実施例が詳細に記載されている。
第4被告の反論
1取消事由1について
(1)ア原告は,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ
酸を変異させた場合には,受容体との結合親和性が変化しないことを前提に,当業
者は,本件出願日当時,RAP受容体結合部位がどこかということを特定すること
ができ,どのアミノ酸残基がどの受容体との結合に関わるのかを知っていたから,
本願発明に係るペプチドを製造するに当たり,どのアミノ酸残基に変異導入すべき
かを理解していた,と主張する。
イしかし,アミノ酸のうち,受容体に結合する領域以外に存在するアミノ
酸を変異させた場合に,受容体との結合親和性が変化しないとはいえない。本願発
明のペプチドは,配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するア
ミノ酸を含むものであるから,最大15個の変異を包含するものである。そして,
本願発明の変異にはアミノ酸の挿入や欠失も含まれているから,たとえ結合親和性
には直接関連しない部位の変異であるとしても,数個~15個までのアミノ酸が,
連続して,あるいは不連続で,挿入され及び/又は欠失された場合には,ペプチド
の立体構造が変化して,その結果,受容体との結合親和性が変化しないとはいえな
い。また,本願発明には,アミノ酸の15個程度を連続して置換することにより,
その変異させた部位が新たな受容体との結合部位となるような変異も包含されてい
る。
原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
ウさらに,CR含有蛋白がRAPペプチドの受容体結合部位に特異的に結
合する場合であっても,その結合親和性は強い場合と弱い場合とがある(特異的に
結合しない場合は,そもそも結合親和性など関係ない。)。「結合特異性」と「結合親
和性」とは,異なるものである。そして,「結合特異性」と「結合親和性」は,いず
れもRAPペプチドの受容体結合部位のアミノ酸残基が関与するといえるが,「結合
親和性」については,RAPペプチドの受容体結合部位だけでなく蛋白質全体の構
造の影響も受けると考えられる。
そうすると,CR含有蛋白(LRP1)の特異的結合に関与するRAP側の結合
ドメイン(RAPペプチドの受容体結合部位)について解明されたとしても,それ
に基づいて,「当業者は,1~数個のアミノ酸を変異させても受容体との結合親和性
が変化しないRAPペプチドの領域を容易に特定することができた」とはいえない。
(2)原告は,請求項35に変異を導入すべきアミノ酸配列の位置を示し,本願
明細書【0020】,【0021】,実施例1【0201】及び表4に,改変されるこ
とがあり,かつ,特定のCR含有蛋白に選択的結合を与える残基を記載している,
と主張する。
しかし,本願明細書の実施例で製造された9個のペプチドは,いずれも246,
247,249,250,251,256,257,266,270,280,2
96,309,311及び312の14個のいずれかの位置に,2~5個のみの変
異を有するものであり,しかも,結合するCR含有蛋白によってもその変異の位置
が異なるものである。
したがって,本願明細書の上記実施例で製造された特定のペプチドは,「アミノ酸
配列に30%までの変異を行ったRAPペプチド」のごく一部分にすぎない。そし
て,(1)で述べたとおり,「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1
~数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する」こと
は,本件出願日当時の技術常識であるから,当業者は,上記の14個の位置のいず
れかに2~5個の変異を有するペプチド以外のものについても同様に,1×10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するかどうか理解できるとはいえな
い。
また,本願明細書の実施例1,表4には,変異を導入して特定の受容体に対する
結合特異性をもたらす残基を列挙しているが,上記(1)のとおり,結合特異性と結合
親和性とは異なる。
(3)原告は,本願明細書に記載されている,ファージディスプレイ技術及びP
CRによるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングを用いた本
願発明に係るペプチドの製造は,当業者にとって負担となるものではない,と主張
する。
ライブラリーの作製方法やスクリーニング方法が当業者によく知られた手段であ
ること自体は,争わない。しかし,本願発明は,スクリーニング方法に関する発明
ではなく,「環状RAPペプチド」という物の発明に関するものである。そして,実
際に本願発明で特定される「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の
連続するアミノ酸を含み」,「85アミノ酸長以下である」「環状RAPペプチド」で
あって,「1x10-8
M以下の結合親和性Kdで」,列挙された34個の群から選択
される「CR含有蛋白に結合する」という要件を満足する「環状RAPペプチド」
を提供(製造)するためには,候補となる無数ともいえる変異体を作製し,34種
のCR含有蛋白質の種類ごとにスクリーニングを行うことが必要であって,そのよ
うなことを審決では「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要する」と判断
したものである。
したがって,原告の主張にかかわらず,審決が本願明細書の発明の詳細な説明の
記載が実施可能要件を満足しないと判断したことに,誤りはない。
(4)原告は,CROは,例えば,2週間程度の短期間に100個のペプチド
を合成することができるし,結合親和性を決定するスクリーニングも,2週間程度
で実施することができるし,仮に,本願発明のペプチドについて網羅的に合成して
試験した場合に長時間及び膨大な費用がかかったとしても,当業者は慣用的手法に
よって本願発明ペプチドの網羅的な合成及び試験を容易に行うことができるのであ
るから,本願発明が実施可能要件を充足するという結論に変わりがない,と主張す
る。
しかし,本願発明に係るペプチドを製造するためには,100個程度ではなく無
数ともいえるペプチドを網羅的に合成し,その上で,所定の結合親和性Kdで,特
定のCR含有蛋白に結合するかどうかを実際に確認するという,当業者に期待し得
る程度を超える試行錯誤を行わなければならない。長時間及び膨大な費用がかかる
のであれば,なおさら,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤というほかない。
2取消事由2について
(1)原告は,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列
との同一性を比較するアミノ酸配列が,「71個のアミノ酸からなる配列番号97の
全長」であるとの解釈を前提として,本願明細書には,①5残基よりも多くの残基
を変異させたRAP改変体が記載されている,②配列番号97の71残基に対して
57残基が同一であるペプチド,すなわち,80%の同一性を示すペプチドが具体
的に記載されている,と主張する。
しかし,原告の上記主張のように解釈すると,本願発明の「50個の連続するア
ミノ酸」が,たとえ配列番号97の50アミノ酸からなる部分断片である場合であ
っても,それらのアミノ酸配列の同一性は50個/71個×100=70.4%と
なる。そして,両者のアミノ酸が1つ異なっただけでも,本願発明の「50個の連
続するアミノ酸」の配列番号97との同一性は69%となってしまい,本願発明の
「配列番号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸」に相当
するアミノ酸配列は,「71個のアミノ酸からなる配列番号97のアミノ酸配列の5
0アミノ酸からなる部分断片」のみとなってしまう。
また,本願発明の請求項1を引用する本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に
は,「成熟RAPの251,256,257,266,270,279,280,2
96又は305位の何れか1つにおける変異を含む請求項1記載の環状RAPペプ
チド。」と,1つ以上の変異を含むことが記載されているから,本願発明の「50個
の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較する対象が,「71個
のアミノ酸からなる配列番号97の全長」であるという解釈は,合理的でなく,誤
りである。
さらに,「パーセント同一性」について,【0061】には,「ポリヌクレオチド又
はポリペプチド配列の2つ以上に言及する場合の「同一」又は「パーセント同一性」
という用語は後述する配列比較アルゴリズムの1つを用いて,又は目視による検査
により測定した場合に,最大一致となるように比較してアラインした場合に,同じ
であるか,又は同じであるヌクレオチド又はアミノ酸残基の特定のパーセンテージ
を有する配列又はサブ配列の2つ以上を指す。好ましくは,パーセント同一性は少
なくとも約50残基長,少なくとも約100残基,少なくとも約150残基である
配列の領域に渡って,或いは,比較する生体重合体の一方又は両方の全長に渡って,
存在する。」と記載されている。そうすると,本願発明の「50個の連続するアミノ
酸」からなるアミノ酸配列との同一性を比較する対象が「71個のアミノ酸からな
る配列番号97の全長」であるという解釈は,成り立たず,当該同一性を比較する
対象は,本願明細書に記載のとおり,「本願発明の50個の連続するアミノ酸配列と
対応する部分の配列番号97の領域」であると解釈すべきである。
したがって,本願明細書の実施例3及び4におけるヘプタイド及びmRAP-8
cは,配列番号97に対して88%の同一性を有するものではなく,mRAP-1
4cは,配列番号97に対して80%ではなく94%の同一性を有することとなる。
(2)また,原告は,本願明細書には,本願発明に係るペプチドの製造について
の実施例が数多く記載されているから,本願発明は実施可能要件を満たす,と主張
する。
しかし,本願明細書には,本願発明に包含される環状RAPペプチドを3個製造
したことが記載されており,3個は多数とはいえないばかりか,本願発明に包含さ
れる環状RAPペプチドのごく一部にすぎない。そして,「受容体等に結合するペプ
チドは,その結合する領域の1~数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体と
の結合親和性が変化する」ことは,本件出願日当時の技術常識であるから,当業者
は,上記の3個の環状RAPペプチド以外のものについても同様に,1×10-8

以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するかどうかを理解できるとはいえな
い。そうすると,本願発明の環状ペプチドを製造するためには,無数ともいえるペ
プチドを網羅的に合成し,その上で,所定の結合親和性Kdで,特定のCR含有蛋
白に結合するかどうかを実際に確認するという,当業者に期待し得る程度を超える
試行錯誤を行わなければならない。
本願明細書で1~2個のCR含有蛋白に結合したことが確認されているのは,最
大5個のアミノ酸変異を有する(50個-5個)/50個×100=90%の同一
性の環状RAPペプチドであり,90%以下の同一性の環状RAPペプチドで,か
つ,1×10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合するものは,本願明
細書には具体的に記載されていない。
3取消事由3について
原告は,審決が認定した技術常識の内容が,受容体と結合しない領域でのアミノ
酸を1~数個変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化する,というもの
だとして,これに反論する。
しかし,原告の主張は,審決が,1~数個のアミノ酸を変異させる領域を受容体
等に結合する領域と特定していることを無視したものであるから,失当である。
4取消事由4について
原告は,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び
実施例が詳細に記載されていることも,本願発明が実施可能要件を満たすことの根
拠となると主張する。
しかし,本願発明はペプチドに係るものであり,医薬に係るものではないから,
本願発明についての実施可能要件の判断と,本願明細書には,疾患又は障害の処置
のための本願発明の実施方法及び実施例が詳細に記載されていることは,直接には
関係していない事項である。
また,本願発明について,本願明細書の発明の詳細な説明が,当業者が製造でき
るように明確かつ十分に記載されているかが争点であり,当業者が使用できるよう
に記載されているかどうかは争点ではなく,審決でもこの点について言及していな
い。原告の主張は,審決の取消事由と関係しない。
5結語
以上のとおりであるから,本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本願発明
を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず,審決に
は,実施可能要件に違反するという判断についての,原告の主張するような誤りは
ないから,原告主張の取消事由は理由がない。
第5当裁判所の判断
1本願発明について
(1)請求項35及び本願明細書(甲2,4,11)には,以下の記載がある。
【請求項35】成熟RAPの以下の位置,即ち:226,230,232,23
9,241,242,246,247,249,250,251,256,257,
261,266,267,268,270,273,279,280,287,2
90,294,296,297,298,305,308,311,312,31
3,314,または315の3つ以上における変異を含む請求項1~34の何れか
1項に記載の環状RAPペプチド。
【0002】(発明の分野)本発明は低密度リポ蛋白受容体関連蛋白(RAP)の
環状ペプチド,例えばその類縁体,その組成物,およびそのような環状RAPペプ
チドを形成する方法および使用する方法に関する。
【背景技術】【0003】・・・受容体関連蛋白(RAP)は低密度リポ蛋白受
容体(LDLR)ファミリーの殆ど全てのメンバーに結合する独特の39kDの蛋
白である。小胞体およびゴルジ体に局在化することにより(非特許文献1),RAP
はこれらのファミリーメンバーに対するシャペロンとして作用する。例えばRAP
はこれらのコンパートメントないでLRPに堅固に結合することにより同時発現リ
ガンドとの受容体の早期の会合を防止する(非特許文献2)。
【0004】自身のシグナル配列を含む完全長のヒトRAPは357アミノ酸で
ある。成熟RAPは323アミノ酸を含有し,そのうち最後の4アミノ酸(HNE
L)が小胞体貯留シグナリングを構成している。RAPは3つの弱い相同性を有す
るドメイン(d1,d2およびd3)よりなることが報告されている。3つのドメ
イン全てがLRPと結合できるが,d3が最高の親和性で結合する。・・・
【0005】RAPのトランケーションおよび/または変異された型が研究され
ている。・・・非特許文献9はLRPの種々のフラグメントへの結合に関してRAP
d3(残基216-323)を試験している。・・・非特許文献12はRAPの残基
206~323内にランダムな変異を有するクローンを含有するライブラリを構築
し,そして,RAPの256位のリジンの変異または270位のリジンがRAPの
LRPへの結合を根絶したことを報告している。
【0006】リポ蛋白受容体関連蛋白(LRP)受容体ファミリーは広範な種類
の生理学的現象を媒介する細胞表面の,膜貫通蛋白のグループを含む。受容体は全
てLDLRに相同であり,そして同様のドメイン機構を共有しており,これにはL
DL受容体クラスAドメインまたは補体型リピート(CR)が包含され,それは保
存された蛋白配列の大型のファミリーの一部である。・・・CR配列はLDLRファ
ミリーおよびII型膜貫通セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ)ファミリーを包
含する種々の異なる型の蛋白において観察されている。
【0009】CR含有蛋白がこれらのファミリーの一部のメンバーの独特の組織
分布プロファイルとともに病態生理学的プロセスにおいて果たしている重要な役割
は,これらの蛋白を有用な薬物標的としている。蛋白選択的薬物はターゲティング
された蛋白の機能に対して直接影響を及ぼすことができ,特定の疾患状態に対して
蛋白が有している作用を裏付けている。或いは,薬物はターゲティングされた蛋白
の組織分布を好都合に利用することにより,疾患を有する特定の組織に対して他の
治療分子を効率的に送達することができる。哺乳類の生理学および病態生理学的特
徴におけるCR含有蛋白の重要性の多大な証拠にも関わらず,LDLRまたはCR
含有蛋白ファミリーの特定のメンバーに対して選択的に作用する薬物の例は殆ど無
い。これらのファミリーの特定のメンバーに結合する分子を創生する能力は,その
ような薬物を開発する手段を提供することになる。
【0011】哺乳類の生理学的特徴の全体に渡ってCR含有蛋白の広範な関与が
あるとすれば,RAPの本来の結合特性を保持しているか,または特定のCR含有
蛋白に対して進歩した結合選択性を有し,かつ他の所望の特性,例えば進歩した安
定性または生産製造の容易さを呈するRAPフラグメントおよび変異体の必要性が
存在する。
【課題を解決する手段】【0014】補体型リピート(CR)は特徴的な折り畳み
構造を採用している保存された蛋白配列の大型のファミリーである。CR含有蛋白
はLDL受容体ファミリー,II型膜貫通セリンプロテアーゼ(マトリプターゼ)
ファミリー,および他の蛋白,例えばFDC-8D6抗原(CD320)のメンバ
ーを包含する。受容体関連蛋白(RAP)は高い親和性でこれらのCR含有蛋白の
多くに結合する。成熟RAPの323アミノ酸配列を配列番号95に示す。123
アミノ酸長の成熟RAPのドメイン3のアミノ酸配列(アミノ酸201~323)
を配列番号96に示す。アミノ酸243~313は配列番号97に示す。RAPの
アミノ酸249~303は配列番号98に示す。
【0015】本発明は高い親和性でCR含有蛋白に結合する環状RAPペプチド
(類縁体または誘導体を包含),そのような環状ペプチドを含むコンジュゲートおよ
び組成物,およびそのようなペプチドの,例えばそのようなCR含有蛋白の阻害剤
または増強剤としての,またはそのようなCR含有蛋白を発現する組織への診断薬
または治療薬のターゲティング送達のための治療上または診断上の使用を提供する。
環状RAPペプチドは所望の特性,例えば進歩した親和性,CR含有蛋白に対する
進歩した結合選択性,進歩した安定性,および/または製造の容易さを示す場合が
ある。
【0016】本発明の環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸配列,好まし
くはドメイン3に基づいており,好ましくは123アミノ酸長未満であり,そして
2つの非隣接アミノ酸の間に共有結合を含有する。一部の実施形態においては,共
有結合はRAPペプチドの3次元構造を安定化させる。一部の実施形態においては,
共有結合は約1×10-8
Mかそれより低いKdでCR含有蛋白に環状RAPペプ
チドが結合するような結合親和性における進歩をもたらす(より低いことがより良
好な親和性を意味する)。・・・例示される実施形態においては,CR蛋白に対する
結合親和性は約1×10-9
,10-10
,10-11
,10-12
,10-13
,10-14

以下である。本発明は種々の大きさ,例えば約103,・・・,約85,約82,・・・,
または56アミノ酸長以下の環状RAPペプチドを提供する。一部の実施形態にお
いては,共有結合は約76,・・・,または56アミノ酸の分だけ分離されたアミノ
酸の間で形成される。
【0017】本発明の環状RAPペプチドは成熟ヒトRAP配列に基づいたアミ
ノ酸配列を含んでよい(配列番号95)。1つの実施形態において,環状RAPペプ
チドのアミノ酸配列は成熟RAPのN末端から少なくとも200から243個まで
のアミノ酸を消失している。即ち,環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸1
~200,・・・または1~248を消失していてよい。関連する実施形態において
は,RAPペプチドアミノ酸配列はさらに,成熟RAPのC末端から少なくとも4
から11個までのアミノ酸を更に消失している。即ち,環状RAPペプチドは成熟
RAPのアミノ酸314~323・・・または312~323を消失していてよい。
別の実施形態においては,RAPペプチドアミノ酸配列は(a)少なくとも71ア
ミノ酸長であり,そして(b)アミノ酸256~270を含む成熟RAPの連続部
分を含む。関連する実施形態においては,RAPペプチドアミノ酸配列は(a)少
なくとも71アミノ酸長であり,そして(b)アミノ酸256~270を含む成熟
RAPドメインの連続部分を含む。環状RAPペプチドのための基本を形成してよ
いRAPの例示される部分は成熟RAP(配列番号95)のアミノ酸200~32
3,・・・または249~303を包含する。
【0018】本明細書に記載する通り,環状RAPペプチドはネイティブのRA
Pのものと同様(例えばネイティブのRAPと比較して約5倍差以下)のCR含有
蛋白に対する親和性および選択性を呈するものとして製造できる。環状RAPペプ
チドは又ネイティブのRAPと比較してCR含有蛋白1つ以上に対して向上した親
和性および/または改変された選択性を呈するものとして製造できる。1つの実施
形態において,環状RAPペプチドは少なくとも約1.5倍,2倍,2.5倍,3
倍,4倍,5倍,7倍,10倍,または20倍の向上した親和性(ネイティブRA
Pと相対比較して)および/またはLDLR(P01130),LRP1(P981
57),LRP1B(Q9NZR2),LRP2(P98164),LRP3(O75
074),LRP4(O75096),LRP5(O75197),LRP6(O75
581),LRP8(Q14114),ソルチリン関連受容体,SorLA(Q92
673),LRP10(Q7Z4F1),LRP11(Q86VZ4),LRP12(Q
9Y561),FDC-8D6(CD320),VLDLR(P98155),TAD
G-15(ST14,Q8WVC1),TMPS3(P57727),TMPS4(Q
9NRS4),TMPS6(Q8IU80),Q6ICC2,Q6PJ72,Q76
B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86YD5,Q8NAN7,Q8NBJ
0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE1,Q9BYE2,Q9NPF0お
よびcorin(Q8IZR7)よりなる群から選択されるCR含有蛋白に対する
進歩した結合選択性を呈する。同様の結合選択性は,例えば特定のCR含有蛋白に
対するペプチドの結合親和性の,少なくとも1つ他のCR含有蛋白に対するペプチ
ドの結合親和性と相対比較した場合の比により計算してよい。ペプチドは他のCR
含有蛋白1,2,3,4,5,6,7,または8つと相対比較した場合のCR含有
蛋白に対する結合選択性を呈してよい。
【0019】本発明の環状RAPペプチドはネイティブのRAP配列を含んでよ
く,或いはネイティブの配列に対する変異を包含してよい。例示される実施形態に
おいては,本発明の環状RAPペプチドは配列番号97または配列番号98の何れ
かと少なくとも60%,65%,70%,75%,80%,85%,90%,91%,
92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%または99%同一であ
るアミノ酸配列を含む。一部の実施形態においては,環状RAPペプチドは約85
アミノ酸長未満であり,配列番号98に少なくとも70%同一である50隣接アミ
ノ酸を含み,そして約1×10-8
M以下の結合親和性KdでCR含有蛋白に結合す
る。一部の実施形態においては,環状RAPペプチドは成熟RAPのアミノ酸20
0~319,300~319,または247~257から選択される領域の何れか
1つの内部の1,2,3,4,5,または6以上の位置において変異を包含する。
例示される実施形態においては,環状RAPペプチドは成熟RAP(配列番号95)
の175,205,213,217,226,230,232,239,241,
242,246,247,249,250,251,256,257,261,2
66,267,268,270,273,279,280,287,290,29
4,296,297,298,305,308,311,312,313,314,
または315よりなる群から選択される1,2,3,4,5,または6以上の位置
において変異を包含する。他の実施形態において,環状RAPペプチドは以下の位
置,即ち:205,217,249,251,256,257,266,270,
294,296,297,305の3つ以上において変異を含む。他の実施形態に
おいて,環状RAPペプチドは成熟RAPの251,256および270位におい
て少なくとも1つの変異を含有する。
【0020】1つの特徴において,環状RAPペプチドはマトリプターゼ蛋白に
選択的に結合する。マトリプターゼ特異的なペプチドは成熟RAP(配列番号95)
のアミノ酸243~313または249~303を含んでよく,そして更に,成熟
RAPの251,256,257,266,270または280位の何れか1つに
おいて変異を含有することを意図している。更に又,マトリプターゼ特異的RAP
ペプチドは成熟RAPの251,256,257,266,270および/または
280位において少なくとも1,2,3,4,5または6つの変異を含有すること
を意図している。
【0021】別の実施形態においては,環状RAPペプチドはVLDLR蛋白に
選択的に結合する。VLDLR特異的なペプチドは成熟RAP(配列番号95)の
アミノ酸243~313または249~303を含んでよく,そして更に,RAP
の251,256,270または296位の何れか1つにおいて変異を含有するこ
とを意図している。更に又,VLDLR特異的なRAPペプチドは成熟RAPの2
51,256,270および/または296位において少なくとも1,2,3,ま
たは4つの変異を含有することを意図している。
【0022】別の特徴において,環状RAPペプチドはFDC-8D6(CD3
20)蛋白に選択的に結合する。FDC-8D6特異的ペプチドは成熟RAP(配
列番号95)のアミノ酸243~313または249~303を含んでよく,そし
て更に,RAPの251,256,270,279または305位の何れか1つに
おいて変異を含有することを意図している。更に又,FDC-8D6特異的RAP
ペプチドは成熟RAPの251,256,270,279および/または305位
において少なくとも1,2,3,4または5つの変異を含有することを意図してい
る。
【0024】上記した実施形態の何れかにおいて,RAPペプチドはペプチドの
N末端またはその近傍におけるシステインおよびペプチドのC末端またはその近傍
におけるシステインを含有してよく,これにより,2つのシステインの間のジスル
フィド結合形成を介してペプチドの環化およびアルファヘリックスの安定化が可能
となる。場合により,グリシンまたはプロリンがシステインおよびアルファヘリッ
クスの間に介在してよい(例えばN末端におけるCys-GlyおよびC末端にお
けるGly-Cys)。グリシンの導入は隣接する非ネイティブのヘリックス間のジ
スルフィド結合に関するアルファヘリックスの切断を可能にする。
【発明を実施するための形態】【0036】(発明の詳細な説明)RAPは機能的
には2尖端性であり,第1および第3のドメイン(d1およびd3)の両方が低ナ
ノモル親和性においてLDLR内の補体型リピート(CR)の縦列対に結合する。
約110アミノ酸よりなるドメイン3は該当するCR対に対して最高の親和性を有
することがわかっている。免疫原性を最小限とし,生産効率を最大限とし,そして
力価を向上させるためには,受容体結合に直接参加するような配列にまでRAPを
最小限化することが有用である。しかしながら,d3の安定な折り畳みは受容体接
触表面の形成に直接参加しないRAP内の配列を必要とすることがわかっている。
d3のN末端領域およびd2のC末端領域内に存在するこれらの追加的な配列は,
従って,安定な折り畳みおよび高親和性受容体結合を確保するために必要である。
単離されたd3は完全長RAPの範囲内においてはd3ほど堅固には受容体に結合
しない。折り畳み安定化配列を欠いているd3のトランケーションされた型も又,
受容体への結合は不良である。RAPd3およびLDLRCR34の間の複合体か
ら誘導された構造的データは,RAPd3の受容体結合配列は可撓性のループによ
り連結された概ね等しい長さの2つの逆平行アルファヘリックス内に存在すること
を示している。対となったヘリカルアンサンブルは強力な逆時計方向の捻転を有し
ており,そして伸長した捻転「U」に近似している。
【0037】本発明は単一の分子内共有結合,例えばジスルフィド結合で安定化
されたRAPd3の実質的にトランケーションされた型を提供する。分子内共有結
合を有さないトランケーションされた未環化の型は,LRP1に対する低減した結
合親和性を有する。これとは対照的に環状RAPペプチドは完全長RAPd3のも
のとは区別できない進歩した受容体結合親和性を有する。ネイティブRAP中に存
在する大型のペプチド領域の代わりに単一の非ネイティブの共有結合を有するRA
Pd3のフラグメント内の3次元のヘリカルな構造を安定化させる能力は,進歩し
た親和性を与え,そして多くの利点をもたらす。本発明は,例えば固相ペプチド合
成により,組み換え生物を必要とすることなく小型RAPペプチドの迅速な製造を
可能とし,潜在的に低減された免疫原性を可能とし,そして活性剤へのコンジュゲ
ーションの多大な容易性を可能とする。
【0046】「変異」という用語は本明細書においては,ペプチド配列におけるア
ミノ酸の挿入,欠失または置換を意味する。ネイティブまたは野生型のアミノ酸配
列と相対比較して変異1個以上を有するペプチドは「類縁体」とみなされる。
【0049】「CR含有蛋白」とはCR1つ以上を含有する蛋白である。CR含有
蛋白の非限定的な例はLDLR(P01130),LRP1(P98157),LR
P1B(Q9NZR2),LRP2(P98164),LRP3(O75074),L
RP4(O75096),LRP5(O75197),LRP6(O75581),L
RP8(Q14114),ソルチリン関連受容体,SorLA(Q92673),L
RP10(Q7Z4F1),LRP11(Q86VZ4),LRP12(Q9Y56
1),FDC-8D6(CD320),VLDLR(P98155),TADG-15
(ST14/マトリプターゼ/MT-SP1,Q8WVC1),TMPS3(P57
727),TMPS4(Q9NRS4),TMPS6(Q8IU80),Q6ICC2,
Q6PJ72,Q76B61,Q7RTY8,Q7Z7K9,Q86YD5,Q8
NAN7,Q8NBJ0,Q8WW88,Q96NT6,Q9BYE1,Q9BY
E2,Q9NPF0およびcorin(Q8IZR7)を包含する。これらの蛋白
の各を識別するユニプロットアクセッション番号レファレンスを提示する。
【0061】ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の2つ以上に言及する場
合の「同一」または「パーセント同一性」という用語は後述する配列比較アルゴリ
ズムの1つを用いて,または目視による検査により測定した場合に,最大一致とな
るように比較してアラインした場合に,同じであるか,または同じであるヌクレオ
チドまたはアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する配列またはサブ配列の2
つ以上を指す。・・・
【0153】E.環状RAPペプチドを製造する方法
RAPペプチドは好ましくは,当該分野で知られた何れかの方法を用いて形成で
きる共有結合の形成を介して環化する。一部の実施形態においては,共有結合はペ
プチドのN末端におけるアミノ酸とC末端におけるアミノ酸との間で形成され
る。・・・
【0154】天然に環化するRAPペプチドは,2つのシステインを所望の位置
に挿入し,そしてシステインにジスルフィド結合を自然に形成させることにより,
容易に作成できる。グリシンまたはプロリンをシステインに対して内部に(例えば
最もN末端側のシステインに対してC末端側に,そして最もC末端側のシステイン
に対してN末端側に)挿入することによりRAPペプチドのネイティブの3次元構
造の共有結合による構造的ひずみを最小限にすることができる。
【0156】更に又,環状構造は,架橋形成基,ペプチドのアミノ酸残基の側鎖,
またはペプチドの末端アミノ酸残基と形成することができる。・・・
【0158】・・・F.RAPペプチドの製造
i.合成
本発明のペプチドは従来の手法に従って溶液相固相,または液相のペプチド合成
手法により合成できる。種々の自動合成装置が市販されており,そして既知のプロ
トコルに従って使用できる。・・・
【0166】iv.細胞培養法
キメラ蛋白コードDNAまたはRNAを含有する哺乳類細胞は,細胞の生育およ
びDNAまたはRNAの発現のために適切である条件下に培養される。・・・
【0168】v.RAPペプチドの精製
RAPペプチドは当該分野で良く知られている方法を用いながら逆相高速液体ク
ロマトグラフィー(RP-HPLC)により精製できる。・・・・
【0201】(実施例1)
RAP変異体の形成および分析
材料および方法・・・
【0209】RAPファージディスプレイライブラリの製造-・・・
【0212】RAPd3変異体ライブラリの製造-・・・
【0215】ファージの製造-・・・
【0216】ファージパニング-精製され,折り畳まれたCR蛋白を用いて・・・
96穴プレートをコーティングした。・・ファージライブラリをコーティングされた
ウェルに添加し,そして室温で2時間インキュベートした。次にウェルを・・・1
5回洗浄した。結合したファージを・・・溶離させ,・・・回収した。レスキューさ
れたファージは一夜(16時間)30℃で液体培地中細胞を生育せることにより増
幅した。・・・
【0217】RAPd3蛋白の発現-・・・
【0218】変異体RAPd3の配列復帰および野生型RAPd3のフォワード
変異-・・・
【0223】固相結合試験-精製し,再折り畳みしたCR蛋白(1μg)を・・・
96穴プレートに結合させた。・・・次にRAPリガンドを・・・固定化受容体と共
にインキュベートした。・・・ウェルを・・・洗浄し,そして結合したリガンドをポ
リクローナル抗RAP・・・で検出した。・・・ウェルを洗浄した後,二次抗体,H
RPコンジュゲートヤギ抗ウサギIgG・・・と共にインキュベートした。洗浄後,
TMB基質溶液・・・を添加してHRPを検出した。1NHClで発色を停止した。
マイクロプレート分光光度計・・・で450nmにおける吸収を計測した。データ
をプロットし,単一部位結合と仮定して非直線回帰によりKd値を誘導した・・・
【0224】結果・・・
【0231】ファージパニング系が親和性に基づいてRAP配列を単離するため
に使用できるかどうかを試験するために,野生型RAPを発現するファージのプリ
パレーションを,減衰したCR対結合能力を有することが予測される(55)変異
体RAP(K256D,K270D)を発現するファージのプリパレーション中に
1000倍希釈した。・・・
【0232】RAP配列がアフィニティー選択によりファージディスプレイライ
ブラリから単離できると結論したことにより・・・。4クローンの第2のグループ
は256位および270位に同一の置換(K256A,K270R)を有していた
が,これらの2部位以外では多様な置換パターンを有していた。パニングの第5ラ
ウンドの後,8無作為選択クローン中7つが以前に観察されたV175L,S21
3T,E217K,H249Y,E251K,K256A,K270Eの変異セッ
トを有していた。この配列に関する全変異,即ち名称RAPv2AまたはMega
RAP1(配列番号93)は,変異体ライブラリを作成するために特に変異誘発し
た領域にあった。
【0234】次に,RAPd3およびMegaRAP1d3蛋白のLRP1CR
3-5およびLRP2CR89への結合を試験した。親和性における相違への各M
egaRAP1d3変異の相対的寄与度を理解するために,本発明者等は又,多く
のMegaRAP1d3復帰変異株およびRAPd3フォワード変異体を作成し,
それらは全て,MegaRAP1d3と野生型RAPd3の間の中間的な配列変異
体を含んでいた(4アミノ酸C末端保持シグナルを欠失(配列番号92))(図5A
および5B,表2)。…RAPd3は16nMの解離定数でLRP1CR3-5に結
合し,LRP2CR89に対する有意な親和性は示さず,図4に示したデータに合
致していた。逆にMegaRAP1d3は見かけの解離定数38nMでLRP2C
R89に結合したが,LRP1CR3-5には有意な親和性を有していなかった。
従って,野生型RAPd3およびMegaRAP1d3はこれらの2つの受容体フ
ラグメントに対して反転した結合優先性を有している。2つのMegaRAP1d
3復帰変異体であるT213SおよびK217EはLRP2CR89に対して僅か
に向上した親和性を有しており,そしてLRP1CR3-5に検出可能に結合する
ことは不可能なままであった。3つのMegaRAP1d3復帰変異体,Y249
H,K251EおよびA256Kは何れの受容体フラグメントにも結合できず,M
egaRAP1d3とLRP2CR89との間の相互作用のために変異が重要であ
り,そしてLRP1CR3-5への結合の途絶を個別に担っているわけではないこ
とを示していた。興味深いことに,E270K復帰変異体はMegaRAP1d3
よりも高い親和性で両方の受容体フラグメントに結合し,LRP2CR89に対し
ては8nM,そしてLRP1CR3-5に対しては142nMの見かけの解離定数
を示していた。MegaRAP1d3変異体はLRP2CR89に対する親和性に
基づいて選択されているため,この結果はすべての可能な配列変異体を説明するに
は不十分である出発ライブラリの多様性と合致している。或いは,MegaRAP
1d3とMegaRAP1d3E270Kとの間の親和性の相違は反復パニングに
おいて後者を優勢とするには不十分である場合がある。二重復帰変異体T213S,
E270Kは本発明者等の試験においてはMegaRAP1d3とは区別不可能で
あった結合挙動を有していた。これらの位置における2つの単一部位復帰変異体は
LRP2CR89に対して,そしてE270Kの場合はLRP1CR3-5に対し
ても向上した親和性を示すように観察されたため,この結果はこれらの復帰変異体
に起因する結合作用に関する加法性の欠如,または,本発明者等の試験におけるこ
の親和性の範囲内における正確さの欠如を示している。K251E,E270K二
重復帰変異体の結合挙動はE251K変異に対するLRP2CR89へのMega
RAP1d3の親和性の強力な依存性を示唆している。この復帰変異体と単一部位
E270K復帰変異体との間のLRP2CR89の親和性における相違はほぼ20
倍である。A256K,E270K二重復帰変異体はLRP2CR89への親和性
の2倍の損失をもたらし,このフラグメントへの親和性に対してK256AMeg
aRAP1d3変異が有している中等度の正の作用を示唆している。しかしながら,
この二重復帰変異体とE270K単一部位復帰変異体との間の最も顕著な相違はL
RP1CR3-5への親和性におけるほぼ30倍の向上である。従って,Mega
RAP1d3におけるK256Aの変異は2つの受容体フラグメントの間で区別す
るこの変異体の能力の重要な決定要因であり,LRP2CR89への親和性も同時
に向上させつつLRP1CR3-5への親和性に負の影響を与えることによりその
作用を発揮している。
【0237】スクリーニング法の一般性の試験として,ファージライブラリパニ
ング実験を別のCR蛋白に対して実施した。単離した変異体の配列は表4および図
8に示す通りである。先ず,RAPd3単独の変異体をコードするファージディス
プレイライブラリを用いたパニングのための基質として,ヒトVLDLRの最後の
3つのCRドメインを構成するVLDLRCR6-8を使用した。パニング5ラウ
ンドの後,8無作為選択クローン中5つが同じ変異セット,即ち:R205S,E
251R,K256L,K270E,R296L,G313Dを有していた。この
配列変異体,VRAP1)d3を固相結合試験のために発現させた。VRAP1d
3,MegaRAP1d3およびRAPd3のLRP1CR3-5,LRP2CR
89およびVLDLRCR6-8への結合を比較した。同様の変異体配列,E25
1T,K256I,K270E,R296LをVLDLRCR78上で選択した。
本発明者等は又,同じd3ライブラリを用いながらヒトマトリプターゼ由来の3つ
のCR対,MATCR12,MATCR23およびMATCR34上でパニングを
行った。マトリプターゼ対に対するパニングの第6ラウンドによりファージライブ
ラリを主要な配列に分割した。MATCR23上で選択した主要な配列はE251
G,K256R,K270Wであった。この変異体をMatRAP1(RAPvM
A)と命名した。MATCR34上で選択した主要な配列はS232P,E239
G,E246G,E251L,K256P,I266T,A267V,H268R,
K270P,H273Y,R287H,H290Y,K298R,S312Fであ
った。この変異体をMatRAP2(RAPvMB)と命名した。パニング実験は
又FDC-8D6抗原由来のCR対に対しても実施した。選択した主要な変異体は
K256S,K270S,L271M,D279Y,V283M,K305T,K
306Mであった。この変異体を320RAP1と命名した。
【0238】RAPd3配列変異体の長さを最小限化できる程度を試験するため
に,MatRAP1の逐次的にトランケーションされた切片をPCRにより作成し,
発現させ,精製し,そして上記した通り結合に関して試験した(図9)。・・・最良
のトランケーションされた変異体はアミノ酸243~313(71アミノ酸)より
なるものであった。親和性の向上におけるこの修飾の一般性を試験するために,本
発明者等は320RAP1に対して同一のトランケーションを作成した。この変異
体の得られたトランケーションされた型は完全長変異体と比較してFDC-8D6
抗原対に対する親和性において3.5倍の向上で結合した・・・。
【0239】VLDLRCR78へのVRAP1d3(判決注:VRAP2d3
の誤記。)の結合に関する見かけの解離定数は44±9nMであることが測定された。
次に本発明者等はLRP1CR3-5,LRP2CR89,LRP2CR2728,
LRP2CR3031,LRP2CR34-36,LRP2CR3536,VLD
LRCR78,VLDLRCR6-8,LRP6CR1-3,LRP6CR12,
LRP6CR23,MATCR12,MATCR23およびMATCR34を包含
する14のCR対またはトリプレットへの,各々80nMの濃度における,RAP
d3,MegaRAP1d3,VRAP1d3,MatRAP1d3およびMat
RAP2d3の結合を比較した(図7)。前回と同様,RAPd3はLRP1CR3
-5に結合するのみであった。MegaRAP1d3はLRP2CR89のみに結
合した。VRAP1d3はCR78対を包含するトリプレットであるVLDLRC
R78およびVLDLRCR6-8の両方に結合した。MatRAP1およびMa
tRAP2はMATCR12およびMATCR23の両方に結合したが,他のCR
対にはその傾向は小さかった。
【0240】CR対およびトリプレット上のパニングに加えて,全体のCR対含
有ヒト蛋白をRAPd3変異体ファージパニング操作法のための標的として使用し
た。これらの市販の蛋白はcorin,LRP6,FDC-8D6抗原および補体
因子Iを包含していた。パニングは単離されたCR対およびトリプレットに関して
記載したものと全く同様に実施した。
【0253】(実施例3)
環状RAPペプチドの製造および特性化
環状RAPペプチドを以下の通り製造し,そして結合親和性に関して特性化し
た。・・・
【0254】固相結合試験は以下の通り実施した。・・・
【0255】・・・mRAPc(配列番号99)の最小化型を作成するために,・・・
これらの置換はA242GおよびR314Gである。これらの部位におけるグリシ
ンの導入は隣接する非ネイティブのヘリックス間のジスルフィド結合のためにヘリ
ックス内に中断部をもたらすことを意図していた。次に2つのシステインをそれぞ
れヘリックス1および2におけるG242およびG314の前および後で置換する
ことにより,ジスルフィド結合の形成を可能にした。これらの置換はE241Cお
よびI315Cであった。ヘリックス2のC315に対してC末端側にはそれ以外
の残基は包含させなかった。・・・ペプチドは固相合成中に分子内ジスルフィド結合
形成により環化させた。mRAPcペプチドの線状化対照であるmRAPを得るた
めに,両方のシステインをセリンで置換した。mRAPcの別の対照として,変異
K256AおよびK270Eを有する以外は同一のペプチド,即ちmRAPcko
を作成した。これらの変異はLRP1に対するRAPd3の親和性を有意に低下さ
せることが予めわかっている。
【0257】mRAP(配列番号107)およびmRAPckoはhrLRP1
クラスターIIに対する計測可能な親和性を有していなかったが,mRAPcは1
0±2nMのKdでカルシウム依存的な態様において高親和性で結合した。この結
合親和性はこの系においては完全長のRAPd3のものとは差がなかった(8±1
nM)。更に又,マウスVLDLRの全エクトドメインへのペプチドの結合も計測し
た。結合親和性はやはり同等であり,解離定数はmRAPcでは5±1nMであり,
そして完全長RAPd3では1±0.2であった。
【0258】(実施例4)
別の環状RAPペプチドの特性化
別の環状RAPペプチドを上記した通り開発し,そしてLRP1受容体に結合す
るその能力を試験した。
【0259】mRAP-8cペプチドを形成するために,アミノ酸246~31
2のトランケーションされたRAPペプチド配列を利用し,そして以下のアミノ酸
置換,即ち:E246C,L247GおよびL311GおよびS312Cを作成し
た。mRAP-8cペプチドは配列番号100に示す通りである。別のトランケー
ションされたペプチドmRAP-14cを作成するために,250位で始まり30
9位で終わるトランケーションされたRAPを使用した。以下のアミノ酸置換,即
ち:F250CおよびL308GおよびQ309CをmRAP-14cに対して行
った。ヘリックス1に由来するF250C側鎖は複合体の構造におけるヘリックス
2において既に直接位置付けられているため,mRAP-14cの場合にはシステ
インの後にグリシンを置換させなかった。mRAP-14cの配列を配列番号10
1に示す。別のトランケーションされた環化ペプチドであるヘプタイドを開発した。
ヘプタイドの配列はRAPのアミノ酸246~313から誘導した。以下のアミノ
酸置換,即ち:E246C,L247G,G280A,L311A,およびS31
2Cを行うことによりヘプタイドを形成した。ヘプタイドの配列を配列番号103
に示す。
【0260】LRP1およびVLDLR受容体へのmRAP-8cおよびmRA
P-14cペプチドの結合は上記した通り評価した。mRAP-8cは約4~6n
Mの親和性(2つの別個の試験)でLRP1(クラスターII)受容体に結合した
のに対し,mRAP-14cは約21nMの親和性で結合した。ヘプタイド環状ペ
プチドは約3.5nMの親和性でLRP1に結合した。
【0261】これらの結果は数種の異なる環状RAPペプチドが高親和性でLR
P1受容体に結合できることを示している。
【図5-3】
【図6-3】
【図7】
【図8】
【図9】
(2)前記(1)によれば,請求項1及び本願明細書には,本願発明に関し,次のよ
うな開示があると認められる。
本願発明は,低密度リポ蛋白受容体関連蛋白(RAP)の環状ペプチド及びその
類縁体に関する(【0002】)。
CR含有蛋白は,特徴的な折り畳み構造である「補体型リピート(CR)」を含む
蛋白であり,低密度リポ蛋白(LDL)受容体ファミリー,II型膜貫通セリンプロ
テアーゼ(マトリプターゼ)ファミリー,FDC-8D6抗原(CD320)など
の多数のメンバーを包含するものであるところ,その病態生理学的プロセスにおけ
る重要な役割のため,有用な薬物標的とされている(【0006】,【0009】,【0
014】及び【0049】)。
他方,RAPは,LDL受容体ファミリーを含めたCR含有蛋白の多くに結合す
る蛋白であり,RAPを構成する3つの弱い相同性を有するドメイン(d1,d2
及びd3)のうちd3が最高の親和性でCR含有蛋白に結合する。これまで,RA
Pのトランケーション(短縮型)及び/又は変異された型の結合特性について研究
が行われている。なお,成熟RAPは323個のアミノ酸からなり(配列番号95),
アミノ酸201~323(配列番号96)がd3に相当し,d3のうちアミノ酸2
43~313が配列番号97(71アミノ酸長)である(【0003】~【0005】
及び【0014】)。
従来,特定のCR含有蛋白に対して,選択的に作用する薬物を開発する手段を提
供するために(【0009】),RAP本来の結合特性を保持しているか,又は特定の
CR含有蛋白に対して進歩した結合選択性を有し,かつ,他の所望の特性,例えば,
進歩した安定性又は生産製造の容易さを呈するRAPフラグメント及び変異体の必
要性が存在していた(【0011】)。
そこで,本願発明は,高い結合親和性でCR含有蛋白に結合する環状RAPペプ
チドを提供することを課題としたものであり,その解決手段として,「配列番号97
に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含み,85アミノ酸長
以下である環状RAPペプチド」であって,請求項1に記載された34個の選択肢
を有する群から選択されるCR含有蛋白に1×10-8
M以下の結合親和性Kdで
結合する環状RAPペプチドの構成を採用するものである(請求項1,【0019】)。
そして,本願発明に係る環状RAPぺプチドは,所望の特性,例えば,CR含有
蛋白に対する進歩した結合親和性,結合選択性,安定性,及び/又は製造の容易さ
を示す場合がある。また,本願発明に係る環状RAPペプチドを,診断薬又は治療
薬とコンジュゲートすることにより,CR含有蛋白を発現する組織への診断薬又は
治療薬のターゲティング送達のために用いることができる(【0015】)。
例えば,マトリプターゼ蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチドは,成熟R
APの251,256,257,266,270又は280位において1~6の変
異を含有し(【0020】),VLDLR蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチド
は,成熟RAPの251,256,270又は296位において1~4の変異を含
有し(【0021】),FDC-8D6蛋白に選択的に結合する環状RAPペプチドは,
成熟RAPの251,256,270,279又は305位において1~5の変異
を含有する(【0022】)。
2取消事由1(過度の試行錯誤が不要であること)について
(1)ア原告は,技術常識である「RAPペプチドの受容体結合に関与ない
し影響を与えるアミノ酸残基」を変異させれば,容易に結合親和性の高いペプチ
ドが得られるから,そのようなペプチドを製造し,その機能性の確認を行うため
には過度な試行錯誤を要しない,と主張する。
イ甲18~21には,以下の記載がある。
(ア)甲18(THEJOURNALOFBIOLOGICALCHEMISTRY,Vol.276,No.31)
「短縮型RAPタンパク質からの我々の発見に基づき,我々は,変異解析のた
めに3つの配列モチーフ,R203
LR205
R206
(部位A),R282
VSR285

R287
EK289
(部位B),およびR314
ISR317
AR319
(部位C)を選択し
た。」(29342頁右欄6~9行)
「RAP内の塩基性集合変異の効果は,LRP結合活性に対して,ヘパリン結
合活性と同様の傾向を示すが,それらは一般的に規模についてより厳格であっ
た。・・・ヘパリンへのように,RAP内の部位Bでの変異の全体的な効果は,
そのLRP結合活性を最も減少させるようであった」(29342頁右欄34~
45行)
また,表II(29341頁)には,RAP内の「R282
VSR285
SR287

K289
」のLRP結合への寄与が「++++」であることが記載されている。
(イ)甲19(THEJOURNALOFBIOLOGICALCHEMISTRYVol.278,No.20)
「これらの目的は,RAPのランダム変異によって達成され,これにより,R
APのカルボキシル末端ドメインとLRPおよびヘパリンとの結合に必要であ
る,カルボキシル末端ドメイン内にある2つの重大なリシン残基,リシン256
およびリシン270が同定された。これらの2つのリシン残基のいずれかが変異
したRAP分子は,それでもLRPに結合するが,アフィニテイは減少してい
た。」(17986頁左欄16~23行)
(ウ)甲20(MolecularCell22)
「RAPのドメイン2(D2;残基101-216)および3(D3;206
-323)」(425頁左欄表1)
「D3内の保存されたヒスチジンは,RAPのLRPへの結合に貢献すること
を示す。」(425頁右欄18~19行)
「我々は,いずれの保存されたヒスチジン部位での単一の変異単独では,RA
PのLRPへの結合を変化させないことを見出し,これはヒスチジン残基に起因
するpH依存性は,本質的に集合的なものであることを示唆していた。」(42
6頁左欄13~16行)
(エ)甲21(米国特許第8,236,753B2号)
「いくつかの実施形態において,少なくとも1つのRAPドメイン中のヒスチ
ジン残基の少なくとも1つ(例えば,1つ,2つ,3つ,4つ)は,疎水性残基,
中性残基またはフェニルアラニンに置換される。・・・いくつかの実施形態にお
いて,ヒスチジン257またはヒスチジン259またはヒスチジン268または
ヒスチジン290はフェニルアラニンに置換される。」(2欄25~28,32
~34行)
「我々は次にRAP-D3の耐酸性形態および熱耐性形態は,LDLRのLA
3-4モジュールペアを構成するポリペプチドとなお結合することを,それぞれ
のRAPタンパク質のLDLRについての結合アフィニティを中性pHで等温
滴定型カロリメトリーによって測定することによって確かめた(図3および表
1)。・・・低塩濃度(50mMNaCl)で,野生型RAP-D3とLA3
-4について測定される解離定数は480±40nMであり,150mMのNa
Cl濃度では,値は1.2±0.1マイクロMに上がる。RAP-D3の3つの
フェニルアラニン変異について,アフィニティは850±160nM(H257
F/H259F;50mMNaCl),1.2±0.3nM(判決注:表1の
記載からすれば,「nM」ではなく,「μM」の誤記。)(H269F(判決注:
H268Fの誤記)/H290F;50mMNaCl)および850±160
nM(RAP_D3-quad;技術的な理由のため,この滴定のためには,1
00mMのNaCl濃度が必要である)。」(29欄50~67行)
ウ上記甲18~21の記載によれば,原告主張のとおり,RAPにおけ
る「282~289」(甲18),「256,270」(甲19),「257,
259,268,290のヒスチジン残基」(甲20,21)などのアミノ酸残
基が,RAPペプチドとLRPやLDLRなどのCR含有蛋白との結合に関与な
いし影響与えることが理解できる。しかし,これらのアミノ酸残基を変異させた
場合に,CR含有蛋白への結合親和性が向上することは記載されておらず,むし
ろ低下すること(甲18,19,21)が記載されている。
そうすると,原告が主張するように,RAPペプチドの受容体結合に関与ない
し影響を与えるアミノ酸残基がどこかということが技術常識であったとしても,
そのアミノ酸残基を変異させた場合に,特定のCR含有蛋白との結合親和性の高
いペプチドが得られるとは限らないから,当該ペプチドを得ることが容易である
とは認められない。
したがって,原告の上記主張には,理由がない。
(2)ア原告は,請求項35には,変異導入が可能な30以上のアミノ酸残
基の位置が記載され,本願明細書の【0020】,【0021】,【0201】
(実施例1)及び表4には,特定のCR含有蛋白に結合特異性をもたらす残基が
記載されているから,当業者は,過度の試行錯誤をすることなく,本願発明のペ
プチドを合成して,CR含有蛋白との結合親和性について容易に試験することが
できる,と主張する。
イしかし,上記(1)のとおり,RAPペプチドの受容体結合に関与ない
し影響を与えるアミノ酸残基を変異させれば,容易に結合親和性の高いペプチド
が得られるとは認められない。また,上記1(2)のとおり,【0020】~【0
022】では,特定のCR含有蛋白に結合特異性をもたらすアミノ酸残基の変異
位置が開示されているが,アミノ酸残基の変異位置と結合親和性との関係につい
ては記載されておらず,特定のアミノ酸残基を変異させた場合に結合特異性があ
るからといって,当該残基からなるペプチドの結合親和性が本願発明の要件を満
たすか否かは別の問題であり,この点については,別途,試験によって調査する
必要がある。
ウさらに,実施例1には,ファージパニング法を用い,RAPd3の多数
の未環化の変異体を製造し,そのCR含有蛋白に対するKd値を測定して,短縮型
変異体やアミノ酸を置換した変異体によって,CR含有蛋白に対するKd値や選択
性がどう変化するかを調べた結果が記載されている。しかし,以下のとおり,これ
を参照しても,「85アミノ酸長以下である環状」のペプチドが,「配列番号97に
少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含」んでいれば,所定の
Kd値を満たすことを裏付けているとはいえない。
すなわち,実施例1では,RAPd3,並びに,MegaRAP1,VRAP2,
MatRAP1,MatRAP2及び320RAP1という5つのRAPd3変異
体(RAPd3の249,251,256,257,266,270,279,2
80,296及び305のいずれかの位置に4~5個のアミノ酸置換を有するもの),
あるいは,RAPd3とMegaRAP1の中間の変異を有する各種の変異体(2
13,217,249,251,256,270に1~5個のアミノ酸置換を有す
るもの)を製造し,いくつかのCR含有蛋白に対するKd値などを測定している(【図
5-3】表2,【図6-3】表4,【図7】,【図8】)。これらの変異体は,請求項3
5に例示された位置にアミノ酸変異を有するものであるが,変異前に比べて結合親
和性が向上しKd値が1×10-8
M(10nM)より小さくなる場合があるものの
(例えば,RAPd3E217K,RAPd3E251K(【図5-3】表2)),
CR含有蛋白に対して結合親和性がないものや,Kd値が1×10-8
Mを超えるも
のが多いことが示されている。
また,RAPd3とその変異体は,CR含有蛋白の種類によって結合親和性が顕
著に異なることが示されている(【図7】,【図5-3】表2)。
さらに,MatRAP1は,その短縮型変異体によってCR含有蛋白に対する結
合親和性が変化することから,アミノ酸長(配列番号97のどの範囲のアミノ酸配
列を含むのか。)も結合親和性に影響することが示されている(【図9】)。
そうすると,実施例1の未環化RAPペプチドに関する多数の実験結果を参照す
ることにより当業者が理解できることは,本願明細書に例示されたアミノ酸変異位
置であっても,具体的なアミノ酸変異位置やアミノ酸長(配列番号97のどの範囲
のアミノ酸を含むのか。)によって,CR含有蛋白に対するKd値が低くなり結合親
和性が高くなることもあれば,逆に,Kd値が高くなり結合親和性が低くなったり,
更には結合親和性がなくなることもあり,加えて,CR含有蛋白の種類によっても
Kd値が顕著に異なることがある。
また,下記2に実施例3及び4について述べるとおり,未環化RAPペプチド(m
RAP)がCR含有蛋白に結合親和性がなくても,その両末端をシステインに置換
して環化したもの(mRAPc)は所定のKd値を満たす場合があるから,実施例
1における多数の変異体におけるアミノ酸配列とそのKd値との関係が,そのまま
環状RAPぺプチドにも応用できると推認することは困難である。
(3)原告は,本願明細書に記載されたファージディスプレイ技術及びPCR
によるランダム変異誘発を用いるランダム変異誘発スクリーニングを用いた本願発
明に係るペプチドの製造は,開発業務受託機関を利用することもできるから,当業
者にとって負担となるものではない,と主張する。
しかし,本願明細書には,変異導入が可能なアミノ酸残基の位置が記載されて
いることを考慮しても,本願発明は,「50個の連続するアミノ酸」のうち最大
15個(50個×30%)のアミノ酸の変異までが許容されるものであり,変異
の種類には,挿入,欠失又は置換がある(【0046】)から,なお,これらの
条件を満たすアミノ酸配列は,極めて多数に及ぶものである。そうすると,多数
のペプチドを製造してスクリーニングする方法が確立されており,開発業務受託
機関に委託して時間や手間を短縮することができるとしても,そのような実験を
膨大な回数繰り返して,本願発明に含まれる環状RAPペプチドを製造すること
は,当業者にとって過度な試行錯誤を要するといわざるを得ない。
よって,原告の主張には,理由がない。
3取消事由2(実施例が十分であること)について
(1)原告は,本願発明の「50個の連続するアミノ酸」からなるアミノ酸配列
との同一性を比較するアミノ酸配列が,「71個のアミノ酸からなる配列番号97の
全長」であるとの解釈を前提として,本願明細書には,①5残基よりも多くの残基
を変異させたRAP改変体が記載されている,②配列番号97の71残基に対して
57残基が同一であるペプチド(mRAP-14c),すなわち,80%の同一性を
示すペプチドが具体的に記載されている,と主張し,その根拠として,11アミノ
酸残基短く,3つの置換変異を含んだmRAP-14cの全長(60アミノ酸長)
と,「71個のアミノ酸からなる配列番号97の全長」とを比較し,mRAP-14
cは配列番号97のアミノ酸配列と80%同一であると計算する。
しかし,配列番号97のアミノ酸配列と比較するアミノ酸配列は,本願発明の請
求項1の文言からは,「50個の連続するアミノ酸」としか特定されないから,mR
AP-14cの全長とすることはできない。
また,上記1(1)のとおり,本願明細書【0061】には,「パーセント同一性」
という用語は,2つのアミノ酸配列を最大一致となるように比較してアラインした
場合に,同じであるアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する配列又はサブ配
列の2つ以上を指す,と記載されているから,「配列番号97に少なくとも70%同
一である50個の連続するアミノ酸を含む」とは,環状RAPペプチドにおける「5
0個の連続するアミノ酸」が配列番号97における「対応する配列」と比較して少
なくとも70%同一であることを意味しているといえる。
そうすると,原告の上記主張の前提となるパーセント同一の解釈は誤っており,
原告の主張はその前提を欠くから,失当である。
(2)ア原告は,本願明細書には,本願発明に係るペプチド製造についての実施
例3及び4,並びに図9にRAPペプチド短縮型が結合親和性を増加させることが
記載されているから,本願発明は実施可能要件を満たす,と主張する。
イ本願明細書の実施例3及び4において,mRAPc,mRAPcko,
mRAP-8c,mRAP-14c及びヘプタイドの5つの環状ペプチドが製造さ
れている。
mRAPc(配列番号99,甲1「配列表」38頁)は,成熟RAPペプチドの
241,242,314及び315の位置に,環化のためのシステインの導入を含
めたアミノ酸置換を行った(合計4個)もので,75アミノ酸長の環状ペプチドで
ある(【0255】)。mRAPcは,配列番号97と100%同一である50個の連
続するアミノ酸を含む。
mRAPckoは,成熟RAPペプチドの241,242,256,270,3
14及び315の位置に,環化のためのシステインの導入を含めたアミノ酸置換を
行った(合計6個)もので,75アミノ酸長の環状ペプチドである(【0255】)。
mRAPckoは,配列番号97と98%同一である50個の連続するアミノ酸を
含むものである。
mRAP-8c(配列番号100,甲1「配列表」38頁)は,成熟RAPペプ
チドの246,247,311及び312の位置に,環化のためのシステインの導
入を含めたアミノ酸置換を行った(合計4個)もので,67アミノ酸長の環状ペプ
チドである(【0259】)。mRAP-8cは,配列番号97と100%同一である
50個の連続するアミノ酸を含むものである。
mRAP-14c(配列番号101,甲1「配列表」39頁)は,成熟RAPペ
プチドの250,308及び309の位置に,環化のためのシステインの導入を含
めたアミノ酸置換を行った(合計3個)もので,60アミノ酸長の環状ペプチドで
ある(【0259】)。mRAP-14cは,配列番号97と100%同一である50
個の連続するアミノ酸を含むものである。
ヘプタイド(配列番号103,甲1「配列表」40頁)は,成熟RAPペプチド
の246,247,280,311及び312の位置に,環化のためのシステイン
の導入を含めたアミノ酸置換を行った(合計5個)もので,68アミノ酸長の環状
ペプチドである(【0259】)。ヘプタイドは,配列番号97と98%同一である5
0個の連続するアミノ酸を含むものである。
このうち,hrLRP1クラスターII又はマウスVLDLRに対するKd値が1
×10-8
M以下であることが確認され,本願発明の所定のKd値を満たすと認めら
れるものは,mRAPc,mRAP-8c及びヘプタイドの3つである(【0257】,
【0260】)。また,mRAPcの線状化(未環化)対照であるmRAPは,hr
LRP1クラスターIIに結合親和性を有していないが,環化により,CR含有蛋白
に対する結合親和性が向上することが示されている(【0257】)。
他方,mRAPckoは,mRAPcの256と270のアミノ酸を置換したペ
プチドで,hrLRP1クラスターIIに対する結合親和性を有しておらず(【02
57】),また,mRAP-14c(60アミノ酸長)は,本願発明の所定のKd値
を満たす上記3つのぺプチド(mRAPc,mRAP-8c及びヘプタイド。67
~75アミノ酸長)よりも若干短いペプチドで,hrLRP1クラスターIIに対す
るKd値が21nM(2.1×10-8
M)であり,本願発明の所定のKd値を満た
さないものであった(【0260】)。
そうすると,実施例3及び4の記載から,CR含有蛋白に結合親和性を有しない
未環化RAPペプチドを環化させると,所定のKd値を満たす場合があることが示
されているものの,85アミノ酸長以下である環状RAPペプチドが,配列番号9
7と非常に同一性の高いアミノ酸配列を有していても,アミノ酸の置換位置,アミ
ノ酸長,又は配列番号97のどの範囲のアミノ酸配列を含むのかによって,所定の
Kd値を満たさない場合があることが具体的に示されている。また,実施例に示さ
れた環状RAPペプチドのうち所定のKd値を満たすものは,67~75アミノ酸
長のもののみで,76~85アミノ酸長又は66アミノ酸長以下のものは示されて
いない。さらに,実施例によって示された環状RAPペプチドのうち所定のKd値
を満たすものは,配列番号97に98%~100%という高率で同一である50個
の連続するアミノ酸を含んでいるもののみである。
ウ図9には,未環化RAPペプチドのアミノ酸長及び配列番号97のどの
範囲のアミノ酸配列を含むのかが,CR含有蛋白との結合親和性に影響することが
示されている。しかし,上記2(2)ウのとおり,図9に示されたアミノ酸配列とKd
値との関係が,そのまま環状RAPペプチドにも応用できるというものではない。
エしたがって,「85アミノ酸長以下である環状」のペプチドが,「配列番
号97に少なくとも70%同一である50個の連続するアミノ酸を含」んでいれば,
所定のKd値を満たすことを裏付けるのに十分な実施例が記載されているとはいえ
ない。
4取消事由3(審決が指摘する技術常識が存在していなかったこと)につい

原告は,受容体との結合親和性に影響を与えない多数のアミノ酸変異が存在す
ることから,審決の「受容体等に結合するペプチドは,その結合する領域の1~
数個のアミノ酸を変異させただけでも,受容体との結合親和性が変化することが
本願出願時の技術常識」であるとの指摘は誤りであると主張する。
しかし,審決の上記指摘は,ペプチドが受容体等に「結合する領域」における
変異をいうものであり,当該領域以外に受容体との結合親和性に影響を与えない
多数のアミノ酸変異が存在することを否定するものではない。
よって,原告の主張には理由がない。
5取消事由4(疾患又は障害の処置のための実施例等が記載されていること)
について
原告は,本願明細書には,疾患又は障害の処置のための本願発明の実施方法及び
実施例が詳細に記載されていることも,本願発明が実施可能要件を満たすことの根
拠となると主張する。
しかし,本願発明について,本願明細書の発明の詳細な説明が,当業者が製造で
きるように明確かつ十分に記載されているかを判断するに当たって,発明を実施し
た物を製造した後の使用についての記載は直接関係しないから,疾患又は障害の処
置のための記載によって本願発明の実施可能要件を根拠付けることはできない。
原告の主張には,理由がない。
6小括
以上より,①RAPペプチドの受容体結合に関与ないし影響を与えるアミノ酸残
基がどこかということが本件出願日当時の技術常識であり,その結合する領域のア
ミノ酸残基を変異させれば,受容体との結合親和性が変化することが本件出願日の
技術常識であったとしても,そのアミノ酸残基を変異させた場合に,結合親和性を
向上させる手法は明らかでなく,また,②本願発明で特定されるアミノ酸配列は,
50個の連続するアミノ酸のうち最大15個のアミノ酸の変異(挿入,欠失又は置
換)を許容するものであって極めて多数に及ぶ一方,③本願明細書に記載された本
願発明の実施例はわずか3個であって,その内容も,環化のためのシステインの導
入を含めた4,5個のアミノ酸置換を行った,「67~75アミノ酸長の環状」のぺ
プチドで,「配列番号97に100%または98%(1個の変異)同一である50個
の連続するアミノ酸」を含む,配列番号97と非常に同一性の高いアミノ酸配列を
有しているものにすぎないから,本件出願日当時の当業者は,本願発明の環状RA
Pペプチドを製造するために,膨大な数の環状RAPペプチドを製造して34個の
CR含有蛋白との結合親和性を調べるという,期待し得る程度を超える試行錯誤を
要するものと認められる。
したがって,本願発明は実施可能要件を欠くものであり,原告の取消事由には,
理由がない。
第6結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
片岡早苗
裁判官
古庄研

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