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判決 平成14年7月3日 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第2605号 売買
代金請求事件(以下「甲事件」という),同14年(ワ)第563号 売買代金請求
事件(以下「乙事件」という)
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実および理由
第1当事者の求めた裁判
(甲事件)
被告は,原告A会社に対し,25万9200米ドル及びこれに対する平成1
2年12月13日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
被告は,原告Bに対し,25万9200米ドル及びこれに対する平成14年
4月3日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告らが被告に対し,売買契約に基づく代金支払い及びこれに対す
る各訴状送達日の翌日から支払済みまで商事法定利率による遅延損害金の支払いを
求める事案である。
1争いのない事実
(1)当事者
原告A会社は,食料品の輸出入,卸及び販売業等を目的とする株式会社で
ある。原告Bは原告会社の代表者である。
原告Bは,メキシコ在住の日本人であり,同国ロスモチス市及びエルモシ
ーヨ市において農場を経営し,日本向けのカボチャの栽培業に従事している。
被告は国内青果物及び輸入青果物の販売,加工等を目的とする株式会社で
ある。
(2)原告Bと被告間における,平成8ないし10年の3回にわたるカボチャ売

ア平成8年
原告Bは,平成8年6,7月ころ,市場開拓のためにメキシコから帰国
して被告の元を訪れ,エルモシーヨ産のカボチャ10ヘクタール分を1トン当たり
600米ドルで販売する旨の交渉を行い,被告から口頭での了解を得てメキシコに
帰った(なお,この交渉の際に既に売買契約が成立したのか,売買の予約が成立し
たに過ぎないのかについては争いがある)。
原告Bは,同年12月,エルモシーヨ産のカボチャ合計83.925ト
ンを3回に分けて被告に出荷し,被告から代金合計5万0335米ドルの支払いを
受けた。
ところがその後,原告Bは被告から,受け取ったカボチャが当初予定し
ていた目減り率(3パーセント)以上に目減りしている旨のクレームを受けたた
め,4500米ドルを返還した。
イ平成9年
平成9年6月ころ,原告Bは帰国して被告の元を訪れ,エルモシーヨ地区
のカボチャ20ヘクタール分を1トン当たり600米ドルで販売する旨の交渉を行
い,被告から口頭での了解を得た(なお,この際に売買契約が成立したのか,売買
予約が成立したに過ぎないのかについて争いがある点は前年の取引と同様であ
る)。
原告Bは,同年12月,合計143.187トンのカボチャを出荷し,
被告から売買代金8万5912米ドル20セント(ただし,目減り率10パーセン
ト分を控除)の支払いを受けた。
ウ平成10年
平成10年6月ころ,原告Bは帰国して被告の元を訪れ,エルモシーヨ
地区のカボチャ40ヘクタール分を1トン当たり600米ドルで販売する旨の交渉
を行い,被告から口頭での了解を得た(この際に売買契約が成立したのか,売買予
約が成立したに過ぎないのかについて争いがある点は上記各売買と同様である)。
原告Bは,同年12月,合計394.626トンのカボチャを出荷し,
被告から売買代金23万6775米ドル60セント(ただし,目減り率10パーセ
ント分を控除)の支払いを受けた。
なお,同年の取引については,その後,カボチャの品質が悪かったこと
を理由に原告Bが被告に対し4994米ドル65セントを返還したかどうかについ
て争いがある。
(3)本件カボチャ取引
原告Bは,平成11年6月ころ,帰国して被告の元を訪れ,エルモシーヨ
産のカボチャの売買について交渉し,以下の条件でカボチャを栽培し被告に販売す
る旨,口頭での了解を得た(以下,これを「本件了解事項」という)。この了解が
売買か売買予約かが本件の主たる争点である。
栽培地メキシコ合衆国ソノラ州エルモシーヨ市所在の農場
栽培面積50ヘクタール
播種時期平成11年8月
栽培数量1ヘクタール当り12トン
規格大1個2キログラム以上
中1個1.6キログラム以上
小1個1.2キログラム以上
納品時期日本の「冬至」を基準にした,平成11年11月下旬から12
月中旬にかけた時期
納品場所F・O・Bノガレス(アメリカ合衆国)
売買代金1トン当り600米ドル
目減り率生ものであるため,神戸港通関時点で,ノガレスにおける重量
の10パーセントが目減りすることを見込んで,売買代金を1トン当り540米ド
ルとする。
原告Bは,その後,エルモシーヨの農場においてカボチャを栽培し,被告
に対し,本件了解事項に従った作物の受領及び代金の支払いを求めた。
ところが,平成11年はカボチャの市場価格が暴落したため(甲10,弁
論の全趣旨),被告は原告Bに対して売買契約の未成立を主張して代金の減額を求
め,交渉は決裂した。
2争点
(1)原告Bの取引の効果が原告会社に及ぶか
ア原告会社の主張
原告Bは,原告会社の代表取締役であるところ,株式会社の代表取締役
の行為については,特に会社のためにすることを示さなくてもその効力は会社に及
び,相手方がこのことを知らないときに限り,相手方は代表取締役個人に対しても
履行の請求をすることができるに過ぎない。
そして,被告は,平成11年11月19日には原告会社のもう一人の代
表取締役であるB好雄の訪問を受けて,本件取引について話し合い,そのころ発信
したファックスにおいても,送信先を原告会社にしているのであるから,本件カボ
チャ取引の売買契約の効果は原告会社に及んでいる。
イ被告の認否
原告会社の主張を否認する。本件カボチャ取引の相手方は原告Bであ
る。
原告Bは,平成8ないし10年の各取引の際にも一貫して自分が売り主
であるものとして振る舞っていたのであって,被告は,取引の相手方は当然原告B
と理解していた。
平成11年11月に原告会社宛にファックスを送付したことは認める
が,それは,本件が紛争になりかかったころ,B好雄が被告の元を訪れて原告会社
の名刺を示したため,被告は,原告Bの連絡先として原告会社宛にファックスを送
付したに過ぎない。
(2)売買契約の成否
ア原告らの主張
平成8ないし10年の取引と同様に,平成11年のカボチャ取引におい
も,原告Bと被告の間の6月の交渉の際に,本件了解事項を内容とする売買契約が
口頭で成立している。
そこで,原告Bが,売買契約に従ってカボチャを栽培,収穫し,平成1
1年11月12日ころ,納品場所のノガレスにおいて納品できる旨被告に通知し
て,弁済の提供をしたにもかかわらず,カボチャの価格が低迷するに至ったため
に,被告は,損害を被るのを避けるために,売買契約の成立を否定して,カボチャ
代金の支払いを拒否しているのである。
イ被告の認否
原告Bの主張を否認する。
毎年6月の交渉時点で原告Bと被告の間において口頭でなされるのは売
買の予約に過ぎず,その後,カボチャが生育した後に正式に売買契約が締結される
のである。
平成11年においても,6月の時点では,未だ売買契約は成立していな
かったのであり,その後,原告Bと被告の間で,カボチャの代金や数量について交
渉が続けられたが,売買契約締結に至らないまま交渉が決裂してしまったのであ
る。
第3争点に対する判断
1売り主は原告会社か,原告Bか
証拠(甲1,3,5ないし8,乙1ないし7,9ないし13,証人D,原告
会社代表者C本人,原告B本人)によれば,平成8ないし10年における各取引の
際,売り主として振る舞ったのは専ら原告Bであり,同人が持参した名刺も同人個
人のものであったこと,被告も売り主は原告Bと思っていたこと,被告との間で取
り交わされた書面においても,当事者は原告Bとされ,原告会社の名称は出てこな
いこと,ところが,平成11年の秋,本件カボチャ取引についてトラブルが発生
し,同年11月19日にCが原告会社の代表者として交渉に赴いてきたため,被告
はそれ以降のファックス文書については原告会社宛に送信したに過ぎないこと(甲
7,8,乙11),以上の事実が認められ,これらの事実に,原告B自身が,本人
尋問の際に,原告会社代表者としてではなく原告B個人として本件取引を行った旨
明言していることを併せ考えると,平成8ないし10年の各取引を含めて,被告と
の間におけるカボチャ取引の当事者は一貫して原告Bであったと認めることができ
る。
なお,原告会社は,原告Bが原告会社の代表取締役であることを根拠に,原
告Bの取引の効果は,原告会社のためにする意思を示さなくても原告会社に帰属す
る旨主張するが,本件においては,上記認定のとおり,原告Bが,原告会社代表者
としてではなく,個人として取引を行っていたものと認められる以上,原告会社の
主張はその前提を欠くというべきである。
2売買契約の成否
(1)原告Bは,平成8ないし10年の各取引及び平成11年における本件取引
のいずれも,6月ころにおける交渉の段階で売買契約が成立している旨,したがっ
て,本件とは逆にその後カボチャの価格が高騰したからといって値上げを求めたり
はしない旨,被告以外の買い主であるE商事や株式会社Fとの間におけるカボチャ
取引においては本件のようなトラブルが生じたことはない旨供述する。
そして,株式会社Fの代表取締役Gも,申述書(甲13)において,平成
8年以降,毎年,原告Bとカボチャ取引を行っている旨,毎年6月ころ訪ねてくる
原告Bと口頭で売買契約を締結する旨,口頭で契約を締結するのが業界の慣習であ
る旨,平成11年はカボチャの価格が暴落したが,6月の約束どおりの値段でカボ
チャを購入した旨供述する。
また,証拠(甲17ないし20,原告会社代表者C本人,原告B本人)及
び弁論の全趣旨によれば,原告BはE商事との間でも,平成元年ころから口頭によ
るカボチャの売買契約を続けてきており,平成11年度も,カボチャ価格の暴落に
もかかわらす,1トン当たり580米ドルの単価で100ヘクタール分を売却する
旨の契約に基づいて,731.265トンのカボチャを売却し,45万2559米
ドル50セントの支払いを受けた事実が認められる。
(2)しかしながら,原告Bと株式会社F又はE商事との取引の事実は,カボチ
ャ取引の実情の一端を推認させるものということはできても,これらの事実から直
ちに本件取引における売買契約成立の事実までを推認することはできない。
また,たしかに,平成8ないし10年の各取引においては,原告Bと被告
は6月ころに交渉を行ったのみで,その後,契約書が取り交わされることもないま
まに売買契約が成立し,履行が完了しているため,各年度の6月ころの交渉の段階
で既に売買契約が成立したかのように見えなくもないが,平成8ないし10年にお
いては,カボチャ価格の暴落という事実が発生しなかったため,当事者間において
売買契約がいつ成立したのか意識されることなく履行が完了したものと認められる
から,これらの年度の各取引成立の事実から直ちに平成11年6月の時点で売買契
約が成立したと認めることはできない。
(3)そうすると,結局は,原告Bと被告の間の取引における諸般の事実を総合
的に考慮して,契約成立の有無を推認するしかないというべきである。そこで,以
下,詳細に検討する。
ア平成11年度における取引について
証拠(甲1,5ないし8,10,11,乙9ないし11,13,1
4,証人D,原告会社代表者C本人,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,平
成11年はカボチャの価額が著しく下落し,被告が,6月段階の了解事項に従った
代金の支払い及び商品の受領に対して難色を示したため,原告Bは被告に対し,1
1月4日に,売買の対象となる栽培面積を50ヘクタールから40ヘクタールに変
更する旨申し出たり,同月14日に,10ヘクタール分のカボチャについては他の
業者に売却したい旨の連絡をしたりしていること,被告はこれに対して格別異を唱
えなかったこと,原告Bは,同月15日にも,被告に対し再交渉を申し入れている
こと,同月19日には原告Bの父で原告会社の代表取締役の一人であるCが被告の
元を訪れ,カボチャの数量,価格及び納品場所に関して再交渉を申し入れているこ
とが認められる。
以上のとおり,原告Bは,カボチャの代金支払い及び引取りを渋る被
告に対して,契約の成立を主張してその履行を迫るどころか,むしろ,再交渉を何
度も試み,6月段階の了解事項の変更まで申し出ているのであって,これらの原告
Bの行為は,平成11年6月においては売買契約はまだ成立していないことを推認
させるものである。
イ平成8ないし10年における各取引について
証拠(乙2,3,証人D,原告B本人)及び弁論の全趣旨によれば,原
告Bと被告の間では,同8年夏,エルモシーヨ産のカボチャだけではなく,ロスモ
チス産のカボチャについても売買する旨の了解をみたものの,その後原告Bはロス
モチスにおけるカボチャの栽培に失敗したため,エルモシーヨ産のカボチャのみ売
買されたことが認められる。平成8年夏の段階でロスモチス産のカボチャについて
も売買契約が成立していたとするならば,原告Bの債務不履行責任の問題が発生す
るはずである
にもかかわらず,原告Bと被告の間において,ロスモチス産のカボチャ
売買の不履行が問題にされた形跡はないのであって,このことは,同年夏において
は未だ売買が成立していなかったことを推認させる事情ということができる。
また,証拠(甲1,乙5,6,13,証人D,原告B本人)によれば,
平成8年,被告にカボチャが入荷された後,被告から原告Bに対し目減り率にクレ
ームが付き,原告Bと被告の交渉の結果,原告Bが被告に対して4500米ドルを
返還したことが認められるところ,6月において売買契約が成立していたとするな
らば,原告Bが被告にこれほど譲歩するとは考え難いことである。
さらに,証拠(甲1,原告B本人)によれば,平成10年の取引におい
ても,6月の交渉の後に,作付け面積が20ヘクタールから40ヘクタールに増加
されていることが認められ,このことも,6月における了解事項が確定的な売買の
成立ではなく,一応の了解に過ぎないことを推認させるものということができる。
そうすると,平成8ないし10年においては,平成11年におけるカボ
チャ価格の大幅下落のような重大な事情変更が発生しなかったため,上記認定のと
おり,6月段階での了解事項を多少修正変更する内容で最終的に売買契約が締結さ
れ,いつの時点で契約が成立したのかについて当事者間においても格別意識される
ことのないまま履行が完了したものと認められるから,平成8ないし10年におけ
る取引を根拠に,平成11年の6月の段階で売買契約が成立したと推認することは
できない。
ウむしろ,平成11年の本件取引における原告Bと被告の間の交渉の経緯
に関する前記認定の事実に,平成8ないし10年の各取引における上記認定の各事
実を併せ考えると,原告Bと被告は,毎年,6月ころその年のカボチャ売買につい
ての交渉を開始するものの,そこでの了解事項は,確定的な売買契約の合意ではな
く,その後の交渉を経て最終的に締結されることになる売買契約に関する一応の予
定ないし目安のようなものに過ぎず,その後,この了解事項を元に交渉を続け,最
終的に売買契約の締結に至るという形態での取引を行っていたところが,平成11
年においては,カボチャの価格の下落という事情が発生し,被告が6月時点におけ
る了解事項のままでの売買契約の締結を拒んだため,原告Bと被告の間で交渉が続
けられたが,結局,契約締結に至らなかったものと推認することができる。
(4)したがって,平成11年6月の時点で,本件了解事項を内容とする売買契
約が成立したという事実を認めることはできない。
3結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判官太田敬司

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