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平成29年(あ)第44号覚せい剤取締法違反,詐欺未遂,詐欺被告事件
平成30年12月11日第三小法廷判決
主文
原判決を破棄する。
本件控訴を棄却する。
原審における未決勾留日数中60日を本刑に算入する。
理由
検察官の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤
認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決は刑訴法411条
3号により破棄を免れない。その理由は,以下のとおりである。
第1第1審判決及び原判決の要旨
1第1審判決は,覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)のほか,要旨以下の
とおりの(1)及び(3)の詐欺並びに(2)の詐欺未遂の各犯罪事実を認定し,被告人を
懲役4年6月に処した。
(1)被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,A(当時83歳)が,老人ホームの
入居契約に名義を貸した問題を解決するために立替金を交付する必要があり,同立
替金が後に返還されるなどと誤信していたことに乗じて,同立替金名目で同人から
現金をだまし取ろうと考え,平成27年11月17日,氏名不詳者が,山梨県富士
吉田市内のA方に電話をかけてうそを言い,Aに前記問題を解決するために現金を
交付する必要があり,交付した現金は返還される旨誤信させ,よって,同日,同人
をして,埼玉県川口市内のマンションの301号室B宛てに現金150万円を入れ
た荷物を宅配便で発送させ,被告人が,同月18日,前記マンションの305号室
において,荷受人であるBなる人物になりすまして配達業者従業員からこれを受け
取り,もって人を欺いて財物を交付させた。
(2)被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,老人ホームに入居する権利を第三者
に譲渡したことによる問題を解決するための立替金名目で,C(当時80歳)から
現金をだまし取ろうと考え,氏名不詳者が,平成27年11月18日から同月19
日までの間,鹿児島市内のC方に電話をかけてうそを言い,Cをして,東京都足立
区内のマンションの205号D宛てに現金を入れた荷物を宅配便で発送させ,被告
人が,同月21日,前記マンションにおいて,荷受人であるDなる人物になりすま
して配達業者従業員からこれを受け取ってだまし取ろうとしたが,Cがうそを見破
るなどしたため,その目的を遂げなかった。
(3)被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,E(当時87歳)が,老人ホームに
入居する権利を第三者に譲渡したことによる問題を解決するために立替金を交付す
る必要があり,同立替金が後に返還されるなどと誤信していたことに乗じ,同立替
金名目で同人から現金をだまし取ろうと考え,氏名不詳者が,平成27年12月4
日,川崎市内のE方に電話をかけてうそを言い,Eに前記問題を解決するために現
金を交付する必要があり,交付した現金は返還される旨誤信させ,よって,同日,
同人をして,東京都江戸川区内のマンションの405号室F宛てに現金150万円
を入れた荷物を宅配便で発送させ,被告人が,同月5日,前記マンションの405
号室において,荷受人であるFなる人物になりすまして配達業者従業員からこれを
受け取り,もって人を欺いて財物を交付させた。
2被告人は,第1審判決に対して事実誤認を理由に控訴した。原判決は,前記
1(1)から(3)までの各事実につき,以下のとおり判示して詐欺の故意及び共謀は認
められないとして第1審判決を破棄し,無罪を言い渡した。
第1審判決は,かつての職場の同僚であったGから被告人が依頼された,指示し
た場所に行って,そこに宅配便で届く荷物を受け取って,指示した場所まで運ぶと
いう仕事は,正常な経済取引ではなく,違法性を帯びた犯罪行為であることが容易
に認識でき,被告人もそのことを認識していたなどとした上で,①被告人が,1か
月の間に約20回という頻度で,異なるマンションの空室で,異なる名前を使い他
人になりすまして荷物を受け取っていたこと,②詐欺グループによる他人になりす
まして現金を詐取する犯罪が様々な形態で横行しており,ニュース等でも広く報道
されていること,③被告人自身,詐取金の受取方には口座に振り込ませる方法や直
接現金を取りに行く方法という複数の形態があること等を知っていたことを総合す
ると,被告人は,荷物を受け取ることによる犯罪行為の中に詐欺も含まれているか
もしれないことを十分認識していたと推認でき,荷物の中身は詐取金でなく,違法
薬物や拳銃であると認識していたという被告人の弁解に合理的根拠は見いだし難い
とした。
しかし,上記①の事実による推認が働くか否かは②の報道等により社会的にどの
程度空室利用送付型詐欺が周知されていたかにかかってくるところ,本件行為当時
の報道状況に照らせば,通常人がその存在を当然に認識できたはずであるとはいえ
ない。また,被告人が本件前に同様の形態の行為を約1か月間,繰り返し行ってい
た事実から,被告人は,自分が何を受け取っているのか疑問を抱くはずであり,疑
問を抱けば調べるはずであるという第1審判決が前提にしていると思われる経験則
についても,本件の被告人には荷物の中身を知ろうという動機付けが働かず,前記
経験則が適用される場合とはいえない。さらに,被告人が認識していた詐取金の受
取方法は,口座振込みによる方法と直接被害者から受取りに行く方法であり,マン
ションの空室で宅配便を受け取るという行為はこれらと比較すると相当に異質で,
両者を結び付けるには相当高度の抽象能力と連想能力が必要であって,本件の宅配
便の箱は外形上も現金送付のイメージと結び付きにくい。以上からすれば,第1審
判決は,被告人が自らの加担する犯罪行為に詐欺を含むかもしれないとの認識を有
していたとの点及び氏名不詳者らとの詐欺の共謀を認定した点について,その推認
過程に飛躍があり,あるいは証拠の証明力や間接事実の推認力の評価を誤ったもの
であるから,論理則,経験則等に照らし不合理であって,これを是認することはで
きない。
第2当裁判所の判断
しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,以下
のとおりである。
1第1審判決及び原判決の認定並びに記録によると,本件の事実関係は以下の
とおりである。
被告人は,平成27年9月頃,かつての同僚であったGから,同人らが指示した
マンションの空室に行き,そこに宅配便で届く荷物を部屋の住人を装って受け取
り,別の指示した場所まで運ぶという「仕事」を依頼された。被告人は,Gから,
他に荷物を回収する者や警察がいないか見張りをする者がいること,報酬は1回1
0万円ないし15万円で,逮捕される可能性があることを説明され,受取場所や空
室の鍵のある場所,配達時間等は受取りの前日に伝えられた。被告人は,同年10
月半ばから約20回,埼玉県,千葉県,神奈川県及び東京都内のマンションの空室
に行き,マンションごとに異なる名宛人になりすまして荷物の箱を受け取ると,そ
のままかばんに入れ又は箱を開けて中の小さい箱を取り出して,指示された場所に
置くか,毎回異なる回収役に手渡した。実際の報酬は1回1万円と交通費二,三千
円であった。
2被告人は,Gの指示を受けてマンションの空室に赴き,そこに配達される荷
物を名宛人になりすまして受け取り,回収役に渡すなどしている。加えて,被告人
は,異なる場所で異なる名宛人になりすまして同様の受領行為を多数回繰り返し,
1回につき約1万円の報酬等を受け取っており,被告人自身,犯罪行為に加担して
いると認識していたことを自認している。以上の事実は,荷物が詐欺を含む犯罪に
基づき送付されたことを十分に想起させるものであり,本件の手口が報道等により
広く社会に周知されている状況の有無にかかわらず,それ自体から,被告人は自己
の行為が詐欺に当たる可能性を認識していたことを強く推認させるものというべき
である。この点に関し,原判決は,上記と同様の形態の受領行為を繰り返していた
だけでは,受け取った荷物の中身が詐取金である可能性を認識していたと推認する
根拠にはならず,この推認を成り立たせる前提として,空室利用送付型詐欺の横行
が広く周知されていることが必要であるなどというが,その指摘が当を得ないこと
は上記のとおりである。また,原判決は,従来型の詐欺の手口を知っていたからと
いって,新しい詐欺の手口に気付けたはずとはいえないとした上,本件のように宅
配便を利用して空室に送付させる詐欺の手口と,被告人が認識していた直接財物を
受け取るなどの手口は異質であり,被告人にとって,相当高度な抽象能力と連想能
力がないと自己の行為が詐欺に当たる可能性を想起できないとするが,上記両手口
は,多数の者が役割分担する中で,他人になりすまして財物を受け取るという行為
を担当する点で共通しているのであり,原判決のいうような能力がなければ詐欺の
可能性を想起できないとするのは不合理であって是認できない。原判決が第1審判
決を不当とする理由として指摘する論理則,経験則等は,いずれも本件詐欺の故意
を推認するについて必要なものとはいえず,また,適切なものともいい難い。
3そして,被告人は,荷物の中身が拳銃や薬物だと思っていた旨供述するが,
荷物の中身が拳銃や薬物であることを確認したわけでもなく,詐欺の可能性がある
との認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらない。
4このような事実関係の下においては,被告人は,自己の行為が詐欺に当たる
かもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ,詐欺の故意に欠けるとこ
ろはなく,共犯者らとの共謀も認められる。原判決が第1審判決の故意の推認過程
に飛躍があり,被告人の詐欺の故意を認定することができないとした点には,第1
審判決が摘示した間接事実相互の関係や故意の推認過程に関する判断を誤ったこと
による事実誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって,原判決
を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
5よって,刑訴法411条3号により原判決を破棄することとし,上記の検討
によれば,第1審判決の事実誤認を主張する被告人の控訴は理由がないことに帰す
るから,同法413条ただし書,414条,396条によりこれを棄却し,原審に
おける未決勾留日数の算入につき刑法21条,当審及び原審における訴訟費用につ
き刑訴法181条1項ただし書を適用することとし,裁判官全員一致の意見で主文
のとおり判決する。
検察官宇川春彦,同大久保和征公判出席
(裁判長裁判官宮崎裕子裁判官岡部喜代子裁判官山崎敏充裁判官
戸倉三郎裁判官林景一)

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