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判決 平成14年6月18日 神戸地方裁判所 平成13年(レ)第103号不当利
得金返還請求控訴事件(原審 伊丹簡易裁判所平成11年(ハ)第58号)
主         文
 1 本件控訴を棄却する。
 2 控訴費用は控訴人の負担とする。
             事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人の請求を棄却する。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
 2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被控訴人が,控訴人から,控訴人が事実上の管理をしている水路の
改修工事を強要されたと主張して,控訴人に対し,不当利得又は国家賠償法に基づ
き,上記工事の代金相当の利得金又は損害金の支払を求めるとともに,国家賠償法
に基づき,慰謝料の支払を求める事案である。
 1 争いのない事実等(後掲括弧内に証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に
争いがない。)
  (1) 被控訴人は,原判決添付別紙一物件目録記載の土地(以下「本件土地」と
いう。)を所有している。
(2) 本件土地の西側に隣接して,原判決添付別紙二記載のとおり,北から南へ
流れる地盤国有の水路がある。
(3) 訴外兵庫県知事は,本件当時,機関の長として,国の委任を受けて,上記
水路の財産管理を行っていた。
(4) 控訴人は,上記水路について事実上の管理をしている(弁論の全趣旨)。
(5) 伊丹市宅地開発等指導要綱(以下「本件指導要綱」という。」)5条1項
は,「開発事業者(開発事業を施行する者(同2条2号))は,当該開発事業に伴
う公共施設等の設計,管理,費用負担等この要綱に定める各事項および予定建築物
の用途,形態等について,開発事業承認申請前にあらかじめ,市長と協議しなけれ
ばならない。」と定め,同条2項は,「前項の事前協議が整ったものについては,
建築基準法第6条第1項に定める確認申請または同法第18条第2項に定める計画
通知前に市長の開発事業に関する承認を得なければならない。また計画を変更する
場合も同様とする。」と定め,開発事業者は,道路計画や下水道計画等の種々の事
項について市長と協議し,その指示(公共及び公益的施設の整備促進のための負担
と協力の要請(本件指導要綱1条))に従わなければならないものとし,同26条
は,「この要綱による指導に従わない開発事業者に対しては,市は,必要な協力を
行わない。」と定めている(弁論の全趣旨)。
(6) 被控訴人は,本件土地上に地上3階建のマンション(以下「本件マンショ
ン」という。)を建築するため,平成6年8月19日,訴外大和システム株式会社
神戸支店(以下「大和システム」という。)との間で,設計契約を締結した(甲
4,9,当審証人A)。
(7) 被控訴人は,控訴人代表者市長に対し,本件マンションの建築に関し,開
発事業事前協議申請書を提出し,同市長は,平成6年11月10日付けで,これを
受け付けた(甲5,9,被控訴人本人(原審第1回))。
(8) 被控訴人の代理人である大和システムの従業員A(以下「A」という。)
は,控訴人の担当者と事前協議(以下「本件事前協議」という。)を行った。
(9) 控訴人は,被控訴人に対し,本件事前協議において,本件土地の一部の提
供を求めたことがあるが,被控訴人は,これを拒否した。
(10) 「開発事業事前協議指示事項」の抜粋(甲5)には,控訴人水政課から
の指示事項として,「工事完了後に水路の浚渫を行うこと(西・南側)」,「西側
水路との境界に擁壁を設置すること」等との記載がある(甲5)。
(11) 被控訴人は,住宅金融公庫大阪支店長に対し,農地転用賃貸住宅の融資
を申し込み,同支店長は,同年12月22日付けで,これを受け付けた(甲19,
被控訴人本人(原審第1,2回))。
(12) 同支店長は,被控訴人に対し,本件マンションの建築に関し,事業承認
をし,平成7年3月2日付けで,受託金融機関である三井信託銀行に対し,その旨
を通知した(甲19)。
(13) 本件事前協議が整ったため,被控訴人は,同月17日,控訴人代表者市
長に対し,本件マンションの建築に関し,開発事業承認申請書を提出し,同市長
は,同日付けで,これを受け付けた(甲9,20,被控訴人本人(原審第1回),
弁論の全趣旨)。
(14) 同市長は,同月31日付けで,上記申請にかかる開発事業を承認し,被
控訴人に対し,その旨を通知した。
(15) 被控訴人は,同年11月1日,大和システムとの間で,本件マンション
の建築に関し,工事請負契約を締結した(甲6,9)。
(16) 大和システムは,上記水路のうち本件土地に接する部分(以下「本件水
路」という。)の敷地内に,コンクリートの構造物を設置する工事(以下「本件工
事」という。)を施工した(甲2の1ないし9,甲3の1ないし3,甲9,14,
当審証人A,被控訴人本人(原審第1,2回))。また,大和システムは,本件土
地と本件水路とが接する箇所の本件土地内に,コンクリートの構造物及びネットフ
ェンスを設置する工事を施工した(甲2の1ないし9,甲3の1ないし3,甲7,
9,14,当審証人A,被控訴人本人(原審第1,2回))。
(17) 平成8年5月15日ころ,上記(15)の工事請負契約にかかる工事が完成
した(甲6,9)。
(18) 被控訴人は,同年9月ころまでに,大和システムに対し,請負代金合計
2億4205万円を支払った(甲6,9,被控訴人本人(原審第1回))。
(19) 被控訴人は,平成10年9月10日,本件工事の費用の一部を控訴人に
訴訟外で請求したが,控訴人は,同年11月4日,被控訴人に対し,上記請求に応
じることはできないと回答した。
2 主要な争点
(1) 控訴人が被控訴人に対し,本件工事を事実上強制したか否か。
  (2) 被控訴人の損失又は損害の発生の有無及びその額
3 当事者の主張
(1) 控訴人が被控訴人に対し,本件工事を事実上強制したか否か(争点(1))
について
(被控訴人の主張)
ア 控訴人の担当者は,本件マンションの建築に関し,法律にも条例にも定
められていないにもかかわらず,開発事業事前協議の指示事項と称して,被控訴人
に対し,里道敷への被控訴人所有地の寄付や本件工事の施工等を指示した(上記指
示事項のうちのいくつかは,国の指導(指導要綱の行き過ぎ是正の指導)に違背す
るものであった。)。
このうち,里道敷への被控訴人所有地の寄付については,信じられない
ような長期間の事前協議を要したが,控訴人の担当者は,当該指示を撤回した。
イ 控訴人の開発指導担当主査のB(以下「B」という。)は,被控訴人に
対し,「開発事業事前協議指示事項」の抜粋(甲5)に記載された「工事完了後に
水路の浚渫を行うこと(西・南側)」に引っかけて,本件水路の上流部分の形態,
構造(甲12)に合わせた本件水路の改修工事(三面側溝の築造)を施行すること
を口頭で指示した。
これに対し,被控訴人は,被控訴人の負担で上記改修工事をすることに
同意できないし,本件水路の西側の民有地の工事はできないから,その上流部分に
あるようなU字溝の工事はできないと断ったところ,本件事前協議が凍結された。
控訴人の担当者は,上記改修工事の施工を指示するのみで,いたずらに
日時が経過し,いつ事前協議が終わるのかが分からない,いわゆるエンドレスの状
態が継続した。当該指示は,平成6年10月中旬又は下旬から平成7年3月16日
の直前ころまで(同月31日までという見方もできる。)継続して行われた。
ウ このような状況は,被控訴人にとっては,致命的なダメージであった。
その一つは,被控訴人は,本件マンションの建築に関し,平成6年12
月初めころ,住宅金融公庫に対し,同年度の農地転用賃貸住宅融資を受けるため,
その申込みをしていたので,平成7年3月末までに事業承認その他必要な手続を済
ませて融資を受ける必要があり,時間的に切迫していた。
その二つは,不足する資金については,その全額を都市銀行から借り入
れることにし,その手続に入っており,住宅金融公庫と都市銀行への弁済について
は,本件マンションの家賃を充てることにしていたので,予定どおりの家賃収入が
得られなければ,支払不能になる状態であった。
その三つは,阪神・淡路大震災で,被控訴人所有の居住家屋が半壊し,
その修復に追われ,資金の余裕がなかった。
エ そこで,被控訴人は,本件マンションの建築のためには,上記改修工事
を施工する以外に選択の余地がなくなったことから,本件水路の東側に側壁を打
ち,本件水路の底の部分にコンクリートを打つことについて,控訴人の担当者と協
議し,誰が本件工事の費用を負担するかについては後日別途解決することを控訴人
の担当者に伝えたうえ,やむを得ず,上記改修工事を施工することを決意した。
被控訴人は,原判決添付別紙三の上部記載のとおり,本件土地内にL字
型の擁壁を設置することを予定していたが,上記改修工事にかかる擁壁を二重に造
るのは意味がなく,不必要,不経済であることから,原判決添付別紙三の下部記載
のとおり,双方を一体化した擁壁(I字型)を設置することになった。
そして,被控訴人は,本判決添付別紙記載のとおり,本件工事を施工し
た。
オ 本件水路は,ごく狭い農業用水路のようなものであって,周辺の農地が
宅地化された昨今では,降雨のとき以外は,年間を通じ,ほとんど流水がないか
ら,流水が妨げられるということはなかった。
また,被控訴人は,本件土地内に擁壁を造ることを予定していたのであ
るから,本件土地の土砂が本件水路に流失するということは,物理的にあり得な
い。
したがって,本件工事を施工する必要性も意味も全くなかったし,従来
のままであっても,その機能上なんらの支障も生じない状態であった。
仮に,控訴人において,多事考慮して,本件水路の改修を望むのであれ
ば,控訴人の負担においてこれを施工するのが当然であって,被控訴人が控訴人に
代わってこれを施工しなければならない理由はない。
カ 控訴人の担当者が上記改修工事の施工を指示し続け,被控訴人がこれを
承諾しなければ,事前協議を整えない(開発事業承認申請書の受付けをしない)と
いうことは,裁量の範囲を逸脱又は濫用したものであり,優越的な立場で,半強制
的というよりも限りなく強制に近い態様で,害意をもって本件工事を強要したもの
である。
(控訴人の主張)
ア 控訴人は,本件工事の施工を被控訴人(被控訴人の代理人である大和シ
ステムを含む。)に指示したことはない。
被控訴人は,Bが本件工事の施工を口頭で指示したと主張し,その根拠
として,「開発事業事前協議指示事項」の抜粋(甲5)に控訴人水政課からの指示
事項として「工事完了後に水路の浚渫を行うこと(西・南側)」との記載があるこ
とを挙げている。
しかし,Bは,そのような指示をしたことは一切ない。
また,「浚渫」とは,水路の底の土などをさらい,きれいにすることで
あって,被控訴人の主張するような三面側溝を築造することを意味するものではな
い。水政課の「工事完了後に水路の浚渫を行うこと(西・南側)」という指示は,
工事完了後に水路の底の土などをさらい,きれいにすることを指示したものであっ
て,本件工事の施工を指示したものではない。
イ 被控訴人が本件工事を施工したのは,本件土地内に造る擁壁の形状をL
字型からI字型(ローソク型)に変更したうえ,地中に埋まる部分の長さも当初よ
り短くしたため,安定さに欠ける(土圧で擁壁が東から西に傾斜していく)ことと
なったためである。その不安定さを補うために,そのI字型(ローソク型)の擁壁
を西側から支える目的で本件工事を施工したのである(乙1)。
ウ 擁壁の形状をL字型からI字型(ローソク型)に変更することに起因す
る本件工事が発案された時期は,平成7年11月1日より後である。
すなわち,甲第7号証は,甲第6号証の付属書類であるが,甲第6号証
の作成日は平成7年11月1日であるから,少なくとも同日現在では甲第7号証の
添付図面もそのまま生きていたことになる。そうすると,本件土地内に造る擁壁の
形状は,少なくとも同日現在では,甲第7号証b図にあるとおり,L字型で施工す
る予定になっていたのである。
したがって,平成6年12月から平成7年3月ころまでの間に本件工事
の施工を指示された旨の被控訴人の主張が間違っていることは明白である。
(2) 被控訴人の損失又は損害の発生の有無及びその額(争点(2))について
(被控訴人の主張)
ア 被控訴人は,本件工事の費用を負担した。その金額は,見積書(甲1)
記載のとおり,56万7415円である(なお,これは,本件水路の底の部分の費
用を含まない。)。これは,本件工事を本件土地内のネットフェンスの基礎工事
(土留め工事でもある。)と併せて施工した場合の費用(なお,これは,ネットフ
ェンスの基礎工事の費用を含まない。)を請求時の単価で計算したものであって,
本件工事の施工時よりも安価になっている。
もっとも,本件工事を追加したことにより,請負代金総額を変更するに
は至らなかったが,それは,本件工事の代金額が請負代金総額(2億4205万
円)に対して少額であるので,その分は工事用材料や植木等の明細金額を減額する
ことにより処理したからである。したがって,本件工事の費用は,請負代金総額の
中に含まれている。
イ 被控訴人は,控訴人の担当者の度を過ぎた行政指導により困窮し,ダメ
ージを受けた。被控訴人は,円満に解決しようとしたが,本訴を提起せざるを得な
くなった。よって,被控訴人は,控訴人に対し,慰謝料3万円を請求する。
(控訴人の主張)
被控訴人の主張によれば,本件マンションの建築に関する工事請負契約に
本件工事は含まれていなかったというのであるところ,被控訴人は,その請負代金
のほかに,別途本件工事の代金を支払ったことはないというのであるから,本件工
事を施工したからといって,被控訴人になんらかの追加負担があったわけではな
く,結局,被控訴人には損失又は損害が発生していない。
第3 当裁判所の判断
 1 控訴人が被控訴人に対し,本件工事を事実上強制したか否か(争点(1))につ
いて
(1) 前記争いのない事実等,後掲各証拠(なお,甲第24号証の1は,甲第2
4号証の2により,真正に成立したものと認められ,甲第22号証の1及び甲第2
3号証の1,3は,甲第24号証の1,当審証人A,被控訴人本人(原審第2回)
及び弁論の全趣旨により,いずれも真正に成立したものと認められる。)及び弁論
の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 本件指導要綱5条1項は,「開発事業者(開発事業を施行する者(同2
条2号))は,当該開発事業に伴う公共施設等の設計,管理,費用負担等この要綱
に定める各事項および予定建築物の用途,形態等について,開発事業承認申請前に
あらかじめ,市長と協議しなければならない。」と定め,同条2項は,「前項の事
前協議が整ったものについては,建築基準法第6条第1項に定める確認申請または
同法第18条第2項に定める計画通知前に市長の開発事業に関する承認を得なけれ
ばならない。また計画を変更する場合も同様とする。」と定め,開発事業者は,道
路計画や下水道計画等の種々の事項について市長と協議し,その指示(公共及び公
益的施設の整備促進のための負担と協力の要請(本件指導要綱1条))に従わなけ
ればならないものとし,同26条は,「この要綱による指導に従わない開発事業者
に対しては,市は,必要な協力を行わない。」と定めている。
イ 被控訴人は,本件土地上に本件マンションを建築するため,平成6年8
月19日,大和システムとの間で,設計契約を締結した。
ウ 被控訴人の代理人である大和システムの従業員Aは,同年の初秋ころか
ら,控訴人との間で,本件マンションの建築に関し,折衝を開始した(当審証人
A,被控訴人本人(原審第1回))。
エ 被控訴人は,控訴人代表者市長に対し,本件マンションの建築に関し,
開発事業事前協議申請書を提出し,同市長は,平成6年11月10日付けで,これ
を受け付けた。
オ Aは,控訴人開発指導課のBらと事前協議を行った(原審証人B,当審
証人A)。
カ Bは,被控訴人に対し,本件事前協議において,本件土地の一部の提供
を求めたが,Aは,本件土地は開発にかかっていないのに,なぜそこまでしなけれ
ばならないのかなどと述べて,控訴人の上記要求を拒否し,相当の期間をかけてB
と議論をしたところ,Bは上記要求を撤回した(原審証人B,当審証人A,被控訴
人本人(原審第1回))。
キ 控訴人は,本件マンションの建築に関し,関係各課の指示事項を集約し
て,同年12月初めころ,「開発事業事前協議指示事項」の抜粋(甲5)を含む文
書を作成し,被控訴人は,同月6日,これを受領した(甲5,原審証人B,被控訴
人本人(原審第1,2回))。
ク 「開発事業事前協議指示事項」の抜粋(甲5)には,控訴人水政課から
の指示事項として,「工事完了後に水路の浚渫を行うこと(西・南側)」,等との
記載があったが,Aは,その意味が分からなかったので,開発指導課に相談をしに
行ったところ,Bは,Aに対し,本件水路にその上流部分と同等のもの(三面側
溝)を造るように指導した(甲22の1,甲23の1,3,当審証人A,被控訴人
本人(原審第1,2回))。
ケ Aは,Bとの間で,なぜ三面側溝を造らなければならないのかについて
議論したが,長年の経験から,上記指導に従わなければ,本件事前協議が前に進ま
ず,開発事業承認や建築確認が得られないし,住宅金融公庫の平成6年度の融資の
期限である平成7年3月末が迫っていたため,このままでは融資の申請をやり直さ
なければならなくなると考え,被控訴人に対し,上記指導に従わない限り,本件事
前協議は前に進まないし,住宅金融公庫の融資の期限があるので,本件水路の改修
工事をする以外にないなどと言ったところ,被控訴人は,平成7年1月又は2月こ
ろ,やむを得ず,上記改修工事をすることを了承した(甲9,当審証人A,被控訴
人本人(原審第1,2回),弁論の全趣旨)。
コ Aは,Bに対し,他人の土地である本件水路の西側に大きな構造物を勝
手に造ることはできないと述べたので,両者が協議した結果,本件水路の東側と底
にコンクリートを打つこととなり,本件水路の東側については,本件土地内に設置
することを予定していたL字形の擁壁(原判決添付別紙三の上部記載のような形
状)の立ち上がり部分を増し打ちすることとなった(甲22の1,甲23の1,
3,当審証人A)。
サ 本件事前協議が整ったため,被控訴人は,平成7年3月17日,控訴人
代表者市長に対し,本件マンションの建築に関し,開発事業承認申請書を提出し,
同市長は,同日付けで,これを受け付けた。
シ 同市長は,同月31日付けで,上記申請にかかる開発事業を承認し,被
控訴人に対し,その旨を通知した。
ス 被控訴人は,同年11月1日,大和システムとの間で,本件マンション
の建築に関し,工事請負契約を締結した。
セ 大和システムは,同月の前後ころ,上記コのとおり,本件工事を施工し
た(当審証人A)。
  (2) 上記(1)クで認定したとおり,Bが,被控訴人の代理人であるAに対し,
本件水路に三面側溝を造るように指導したことにより,被控訴人に対し,本件工事
の施工を事実上強制したものといえるか否かについて検討する。
    本件指導要綱は,法令の根拠に基づくものではなく,控訴人において,開
発事業者に対する行政指導を行うための内部基準であるにもかかわらず,開発事業
者に対し,建築確認申請前に市長の開発事業承認を得ること,開発事業承認申請前
に市長と事前協議をすることや市長の指示に従うことを義務づけるようなものとな
っており,しかも,控訴人は,本件指導要綱による指導に従わない開発事業者に対
しては,必要な協力を行わないものとしていることから,市長との事前協議におい
て,本件指導要綱に基づく行政指導に従わない開発事業者は,市長の開発事業承認
を得ることができず,事実上建築確認申請をすることができなくなる。
    そして,Bは,上記指導の前にも,被控訴人に対し,本件土地の一部の提
供を求め,最終的には上記要求を撤回したものの,相当の期間をかけてAと議論を
したこと,建設会社の従業員であるAは,長年の経験から,上記指導に従わなけれ
ば,本件事前協議が前に進まないと考えたことからすると,Bの上記指導は,これ
に従わなければ,市長の開発事業承認を得ることができないということによる不利
益(本件マンションを建築することができなくなること)を背景として,相当執拗
ないし強硬な態様で行われたものと推認することができる。
    そうすると,Bの上記指導は,本件指導要綱の規定に照らし,被控訴人に
対し,上記指導に従わなければ,いたずらに時間が経過し,本件事前協議が整わ
ず,開発事業承認や建築確認が得られなくなると考えさせるに十分なものであっ
て,本件マンションを建築する以上,上記指導に従うことを余儀なくさせるもので
あるといえるから,Bは,被控訴人に対し,上記指導に従って行われた本件工事の
施工を事実上強制したものということができる。
したがって,Bの上記行為は,本来任意の協力を求めるべき行政指導の限
度を超えるものであり,違法な公権力の行使であるといわざるを得ない。
そして,Bは,通常,開発事業承認申請の内容が協議事項(関係各課の指
示事項のうち事前協議が整ったもの)と相違していないかをチェックしてから事業
承認書を出していること(原審証人B),Bの本件指導要綱に基づく上記指導は,
これに従わなければ,市長の開発事業承認を得ることができないということによる
不利益(本件マンションを建築することができなくなること)を背景として,相当
執拗ないし強硬な態様で行われたものであることからすると,Bは,被控訴人に対
し,本件工事の施工を事実上強制しようとしたものであるといえるから,Bに故意
が認められる。
(3)ア これに対し,控訴人は,Bが本件工事の施工を指示したことはない旨主
張し,これに沿う原審証人Bの証言がある。
しかしながら,当審証人Aは,上記(1)クのとおりBから指導を受けた旨
一貫した証言をしているところ,その内容は具体的であるし,同証人がことさら記
憶に反する証言をする理由を見いだすことはできないから,同証人の上記証言の信
用性は高いものというべきである。
したがって,同証人の上記証言に反する原審証人Bの証言は信用するこ
とができないから,控訴人の上記主張は理由がない。
イ 控訴人は,被控訴人が本件工事を施工したのは,本件土地内に造る擁壁
の形状をL字型からI字型(ローソク型)に変更したうえ,地中に埋まる部分の長
さも当初より短くしたため,安定さに欠ける(土圧で擁壁が東から西に傾斜してい
く)こととなったため,その不安定さを補うために,そのI字型(ローソク型)の
擁壁を西側から支える目的で本件工事を施工した旨主張し,これに沿う控訴人訴訟
代理人弁護士C作成の報告書(乙1)及びB作成の電話聴取書(乙2)がある。
しかしながら,上記各証拠(乙1,2)は,いずれもその作成者らがA
から聴取した内容を記載したものであるところ,そのうち,「本件国有水路内構造
物も伊丹市から指示されて設置したものではないのです。」と記載されている部分
については,当審証人Aはこれを言った記憶がない旨証言しているところであり,
上記アのとおり,同証人の証言は信用性が高いことにも照らすと,上記各証拠(乙
1,2)の上記部分はいずれも採用することができない。
また,上記報告書(乙1)には,「擁壁の型をL字形からI字形(ロー
ソク型)に変更した上,地中に埋まる部分の長さも当初より短くした為,安定さに
欠ける(土圧で擁壁が東から西に傾斜していく)こととなりました。それを補う為
に,そのI字形(ローソク型)の擁壁を西側から支える目的で現在の構造物(本件
国有水路内構造物)を施すことになり,併せて底のコンクリート工事も行ったので
あります。」と記載されているところ,同証人は,これは言ったことがあるが,そ
れは水路の構造物を造るという前提での話であるから,上記記載内容は話が前後し
ており,水路の構造物を造るのでなければ,擁壁はL字形のままでよかった旨証言
していることからすると,上記記載内容は,Bが本件水路に三面側溝を造るように
指導したことを前提としたものであるにもかかわらず,その点には触れずに,あた
かも被控訴人が自発的に本件工事を施工したかのように恣意的に取り繕ったものと
いわざるを得ないから,上記報告書(乙1)及び上記電話聴取書(乙2)のうち,
「内容的には,乙第一号証に特に間違っている点はありません。」と記載されてい
る部分は,いずれも控訴人の上記主張を裏付けるものとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ 控訴人は,擁壁の形状をL字型からI字型(ローソク型)に変更するこ
とに起因する本件工事が発案された時期は,平成7年11月1日より後であるか
ら,平成6年12月から平成7年3月ころまでの間に本件工事の施工を指示された
旨の被控訴人の主張が間違っていることは明白である旨主張し,その根拠として,
平成7年11月1日に作成された甲第6号証の付属書類である甲第7号証b図にL
字形の擁壁が記載されていることを挙げる。
しかしながら,当審証人Aは,甲第7号証の添付図面とは別に本件事前
協議用の図面があり,そこにBが造るように指導した三面側溝の形などを書き込ん
だだけで,その図面化はしていない旨証言していることからすると,平成7年11
月1日に作成された甲第6号証の付属書類である甲第7号証b図にL字形の擁壁が
記載されているからといって,同日においても,その図面のとおりL字形の擁壁を
造る予定になっていたということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
2 被控訴人の損失又は損害の発生の有無及びその額(争点(2))について
(1) 本件工事の費用
ア 前記争いのない事実等(18)によれば,被控訴人は,平成8年9月ころま
でに,大和システムに対し,請負代金合計2億4205万円を支払ったところ,前
記争いのない事実等(16)及び証拠(当審証人A)によれば,大和システムは,前記
争いのない事実等(15)の工事請負契約にかかる工事の追加工事として,本件工事を
施工したものと認められるから,上記請負代金には本件工事の費用も含まれている
ものと認められる。
そして,証拠(甲1,17)によれば,本件工事の費用は,56万74
15円と認めるのが相当であるから,同額をもって被控訴人の損害と認める。
イ これに対し,控訴人は,被控訴人は,上記請負代金のほかに,別途本件
工事の代金を支払ったことはないというのであるから,本件工事を施工したからと
いって,被控訴人になんらかの追加負担があったわけではなく,結局,被控訴人に
は損失又は損害が発生していない旨主張する。
しかしながら,証拠(被控訴人本人(原審第1回))によれば,確か
に,被控訴人は,上記請負代金とは別に本件工事の費用を支払ったわけではないの
であるが,上記請負代金の額が変更されるに至らなかったのは,植木や材料の質を
落とすことなどにより本件工事の費用を捻り出すことについて,被控訴人が大和シ
ステム側と話をしたことによるものと認められることからすると,結局,被控訴人
が本件マンション建築材料等の質的低下分に見合う本件工事代金相当の経済的負担
を負っていることになるから,上記請負代金の額が変更されるに至らなかったから
といって,被控訴人が本件工事の費用を負担していないということはできない。
なお,被控訴人は,原審において,本件工事の施工は,甲第6,7号証
の工事請負契約には含まれていない旨供述するが,これは,工事請負契約書(甲
6,7)上,本件工事の施工が明記されていないという趣旨であるから,本件工事
の施工が上記工事請負契約にかかる工事の追加工事として行われた旨の上記認定を
左右するものではない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(2) 慰謝料
被控訴人は,行政指導の名のもとに,いわれのない本件工事の施工を事実
上強制されたことにより,精神的苦痛を被ったものと認められ,これを慰謝するた
めに要する金額は,Bの上記指導の態様やその他本件に顕れた諸般の事情を考慮す
ると,3万円と認めるのが相当であるから,同額をもって被控訴人の損害と認め
る。
3 結論
したがって,被控訴人は,控訴人に対し,国家賠償法に基づき,損害金合計
59万7415円及び違法な公権力の行使が終了した日の後であり,かつ,被控訴
人が本件工事の費用の一部を控訴人に訴訟外で請求した日である平成10年9月1
0日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるこ
とができる。
第4 結語
よって,被控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容すべきであり,
これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却する
こととし,控訴費用の負担について民訴法67条1項,61条を適用して,主文の
とおり判決する。
   神戸地方裁判所第六民事部
       裁 判 長 裁 判 官     松   村   雅   司
   裁 判 官水   野   有   子
   裁 判 官増   田   純   平

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