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平成20年3月27日判決言渡
平成18年(行ケ)第10536号審決取消請求事件
平成20年1月17日口頭弁論終結
判決
原告株式会社島津製作所
訴訟代理人弁理士喜多俊文
同江口裕之
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人江塚政弘
同森内正明
同小池正彦
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−21256号事件について平成18年10月31日
にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「ポジトロンCT装置」とする発明につき,平成1
(。「」。)2年1月6日に特許出願特願2000−5818号以下本願という
をした。
原告は,本願につき,平成16年9月9日付けで拒絶査定を受けたので,
同年10月14日,これに対して不服審判請求(不服2004−21256
号事件)をするとともに,平成18年4月28日付け手続補正書(甲6)に
(,「」。よる明細書の補正をした以下同補正後の明細書を本願明細書という
補正後の請求項の数は,1である。特許庁は,同年10月31日「本件審。),
判の請求は,成り立たない」との審決をした。。
2特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「リング型検出器を軸方向に多層に重ねた,被検体についてのエミッション
データ収集用の第1のマルチリング型検出器と,被検体についてのトランス
ミッションデータ収集用の第2の検出器と,第2の検出器と同一平面にのみ
配置される外部線源と,該外部線源を挟むように配置されたスライスセプタ
と,被検体を該第1,第2の検出器に対して,第2の検出器側から第1の検
出器側へと各リングの間隔ずつ相対的に移動させる移動装置と,被検体のト
ランスミッションデータ収集の終ったボリュームが各リングの間隔ずつ移動
し,各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われて
いる間に,該トランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正
データを求め,該ボリュームについてのエミッションデータの収集終了後た
だちに吸収補正を行うデータ処理装置とを備えることを特徴とするポジトロ
ンCT装置(以下,この発明を「本願発明」という)。」。
3審決の理由
()別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願1
(。,前に頒布された刊行物である特開平5−240958号公報甲1以下
「刊行物1」という)及び特開平9−318751号公報(甲2。以下,。
「刊行物2」という)に記載された発明並びに周知技術に基づいて容易に。
発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができない,とするものである。
()審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程において,認定し2
た刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」ということがある)の内。
,。容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである
(引用発明の内容)
「放射線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列の右半分の層で,被検
者4の全身についてのエミッションデータの収集にあてる検出器と,放射
線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列の左半分の層で吸収補正用の
トランスミッションデータの収集にあてる検出器と,トランスミッション
データの収集にあてる検出器がカバーされる棒状又は円筒状の吸収補正用
線源8,11と被検者4をトランスミッションデータの収集にあてる検出
器側からエミッションデータの収集にあてる検出器側へと移動させる機構
と,エミッションデータの収集にあてる検出器で得られた被検者4のエミ
ッションデータと,トランスミッションデータの収集にあてる検出器で得
られたトランスミッションデータとを演算することによりエミッションデ
ータの影響を除去したトランスミッションデータを作成するデータ処理装
置とを備えるポジトロンCT装置」
(一致点)
「リング型検出器を軸方向に多層に重ねた,被検体についてのエミッショ
ンデータ収集用の第1のマルチリング型検出器と,被検体についてのトラ
ンスミッションデータ収集用の第2の検出器と,第2の検出器に対して特
定な配置関係で配置される外部線源と,被検体を該第1,第2の検出器に
対して,第2の検出器側から第1の検出器側へと相対的に移動させる移動
装置と,被検体のトランスミッションデータを処理して吸収補正データを
求め,エミッションデータの吸収補正を行うデータ処理装置とを備えるこ
とを特徴とするポジトロンCT装置」である点。
(相違点)
1第2の検出器に対して特定な配置関係で配置される外部線源につい
て,本願発明は,第2の検出器と同一平面にのみ配置されるのに対し
て,引用発明は,第2の検出器がカバーされると規定される点(以下
「相違点1」という。。)
2本願発明は,外部線源を挟むように配置されたスライスセプタを備え
ているのに対して,引用発明は,外部線源がスライスセプタを備えてい
るとは規定されていない点(以下「相違点2」という。。)
3被検体を該第1,第2の検出器に対して,第2の検出器側から第1の
検出器側へと相対的に移動させる移動装置の移動の形態について,本願
発明は,各リングの間隔ずつ移動させるのに対して,引用発明は,その
ように規定されていない点(以下「相違点3」という。。)
4被検体のトランスミッションデータを処理して吸収補正データを求
め,エミッションデータの吸収補正を行うデータ処理装置が,本願発明
は,被検体のトランスミッションデータ収集の終ったボリュームが各リ
ングの間隔ずつ移動し,各移動位置のボリュームについてのエミッショ
ンデータ収集が行われている間に,該トランスミッションデータを処理
して同時計数線での吸収補正データを求め,該ボリュームについてのエ
ミッションデータの収集終了後ただちに吸収補正を行うのに対して,引
,(「」。)。用発明はそのように規定されていない点以下相違点4という
第3取消事由に係る原告の主張
審決には,次に述べるとおり,相違点2ないし4についての容易想到性の判
断の誤り(取消事由1ないし3)があるので,違法として取り消されるべきで
ある。
1相違点2についての容易想到性の判断の誤り(取消事由1)
()以下のとおり,本願発明における外部線源を挟むように配置されたスラ1
イスセプタを備えている構成は,引用発明から容易に想到することができる
とはいえない。
ア刊行物1には,エミッションデータに棒状線源8からのガンマ線が含ま
れることに対する課題の記載はない。刊行物1は,棒状線源8からのガン
マ線が検出器2の右半分に入射しないことが示されており,刊行物1のポ
ジトロンCT装置では,棒状線源8から生じた一方のガンマ線がエミッシ
ョンデータが収集される検出器2に斜め方向から入射しても,他方のガン
マ線はトランスミッションデータ収集用の検出器2に入射するため,エミ
ッションデータが収集される検出器2においてエミッションデータとして
収集されることはない(審決書10頁20行∼25行記載参照。また,)
棒状線源8からのガンマ線が,仮に上記検出器2の右側の層に入射した場
合,右半分の検出器2で本来得られるエミッションデータに基づく診断画
像に対して無視できない程度となるか否かは,棒状線源8から照射される
,,ガンマ線の強度に依存することになるが外部線源強度を高くしない限り
常にエミッションデータに対するノイズの関係で撮影に支障を来すわけで
はない。
以上のとおり,刊行物1は,コリメータ等の遮蔽部材を設けなければな
らないことを示唆するものではなく,このことが刊行物1の記載から自明
とする根拠はない。
イ確かに,外部線源強度を高くすれば,散乱線等の影響によりエミッショ
ンデータに対する影響が生じることが考えられる。しかし,刊行物1のポ
ジトロンCT装置では,エミッションデータ収集用のマルチリング型検出
器を用いてトランスミッションデータを収集するため,エミッションデー
タ収集用の検出器の検出性能に制約され,棒状線源の長さ方向の各位置か
ら,しかも,近接距離からリング方向のそれぞれの検出器に放射線が入射
する際,検出データが飽和しないよう吸収補正用外部線源8の強度を極め
て弱いものとする。
したがって,刊行物1のポジトロンCT装置では,本願発明のように外
部線源を挟むスライスセプタを設ける必要性がない。
ウ刊行物2の図1に示された核医学診断装置は,シングルフォトンを検知
することができるガンマカメラ装置の一例であり,シングルフォトン撮影
を行う場合,外部線源のすべてのガンマ線がエミッションデータに直接影
響を与えることになるため,同図4∼同図7にかけて示されるスライスセ
プタを用いることが不可欠となる。
,,,これに対して刊行物1の装置はポジトロン撮影を行なうものであり
その撮影の態様が異なるから,刊行物2の核医学診断装置におけるスライ
スセプタを,刊行物1のポジトロンCT装置に組み合わせることが容易で
あるということはできない。
()本願発明には,以下のとおり,特有の作用効果がある。2
本願発明では,マルチリング型検出器の各リング位置ごとに,大量のエミ
ッションデータを取得することができ,かつ,外部線源を挟むスライスセプ
タを設けることにより,エミッションデータにおける外部線源からガンマ線
の悪影響を飛躍的に低減させるという,組合せの相乗効果を奏する。
本願発明では,エミッションデータ収集用のマルチリング型検出器とは別
,,立てでトランスミッションデータ収集用のものとして第2の検出器を設け
さらにスライスセプタと組み合わせることによって,第2の検出器幅が小さ
い場合は,長さ方向の各位置から生じる不要な放射線が減る分だけ吸収補正
用の外部線源の強度を強くすることができ,一方,第2の検出器幅を広げ吸
収補正用の外部線源も同じ幅とする場合は,第2の検出器特性の高いものを
採用することにより,吸収補正用の外部線源の強度を強くすることができる
という,特有の作用効果を奏する。
2相違点3についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
審決は,特開平8−313636号公報(甲3)を例示して,ポジトロンC
Tにおいて,被検体をリング型検出器を軸方向に多層に重ねた検出器に対して
各リングの間隔ずつ移動させることは周知技術であると認定し,相違点3に係
る本願発明の構成は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し
得たと判断した。
しかし,審決の甲3記載事項に関する認定は,以下のとおり誤りがある。
すなわち,甲3には「視野幅ごとに被検体を移動させては静止させる」と,
の記載があるのみである(段落【0005。そして「視野幅」とはスライ】),
ス面に直角な方向(層方向)でのデータ収集範囲,すなわち図1における多層
検出器リングの全幅Wを意味するものであって(段落【0018,本願発】)
明におけるリング間隔を意味するものではない。
また,乙1(特開平8−292268号公報)は,リング間隔ごとに移動さ
せる目的が本願発明と異なるし,乙2は米国の一つの文献にすぎず,かかる文
献の存在のみをもって,リング間隔ごとに移動させることが周知技術とするこ
とはできないから,審決の上記判断は誤りである。
3相違点4についての容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
()審決が相違点4の判断に当たって前提とした周知技術の認定(審決書11
2頁14行∼16行)は,上記2に記載したとおり,誤りである。
審決は,本願発明の「ボリューム」について「被検者内のポジトロン放,
出RIが分布する臓器等の内部組織(本願明細書の段落【0001【0】,
014】図1)と思われる」と認定している(審決書12頁17行∼19。
行。しかし「ボリューム」とはエミッション又はトランスミッションデ),
ータが取得される被検体の所定範囲を意味するところ,本願発明の「ボリュ
ーム」は,特許請求の範囲に記載された「各移動位置のトランスミッション
データの収集が終わったボリューム,すなわち,第2の検出器によりトラ」
ンスミッションデータが取得された被検体の範囲を意味するものであって,
審決の上記認定は誤りである。
()本願発明は,被検体をリング間隔ごとに移動させながらボリュームにつ2
いて第2の検出器でトランスミッションデータを取得し,次いでリング間
隔ごとにボリュームについてエミッションデータを収集して吸収補正をす
るものである。本願発明では,リング間隔ごとにエミッションデータの収
集を行なうため,マルチリング検出器の視野幅を超えてエミッションデー
タを取得することができる。
これに対して,刊行物1記載のポジトロンCT装置は,視野幅単位で被検
体を移動させ,視野幅単位でトランスミッションデータを取得した後にエミ
ッションデータを取得して,既に取得したトランスミッションデータにより
これを補正するものである。刊行物1には,視野幅単位で対応関係を持たせ
て吸収補正を行なう構成しか開示していないから,本願発明のような場合に
どのような吸収補正を実施するかについての開示はない。
本願発明のように,マルチリング型検出器のリング間隔ごとに移動させて
エミッションデータを取得する場合,視野幅という概念が存在しないため,
刊行物1のポジトロンCT装置の吸収補正のプロセスを適用することはでき
ない。
()本願発明は,「被検体のトランスミッションデータ収集の終ったボリュー3
ムが移動し,各移動位置のボリュームについてのエミッションデータ収集が
行われている間に,該トランスミッションデータを処理して同時計数線での
吸収補正データを求め,該ボリュームについてのエミッションデータの収集
終了後ただちに吸収補正を行うデータ処理装置」という構成を有するもので
あって,一つのボリュームについてリング間隔ごとの各移動位置でエミッシ
ョンデータを取得し,最も高い感度を示す中心付近のエミッションデータに
ついても,そのまま用いるのではなく,周辺部で得られるすべてのエミッシ
ョンデータと併せて用いる点に特徴を有する。したがって,一つのボリュー
ムについて取得されるエミッションデータ量が大幅に増すため,検出感度が
飛躍的に向上するという格別の作用効果を奏する。
また,本願発明は,リング間隔ごとの移動位置でエミッションデータを取
得するという新たな発想により,第2の検出器の幅をマルチリング型検出器
のリング間隔とすることができるものであり,第2の検出器を小さく出来る
という刊行物1のポジトロンCT装置にない作用効果も奏する。
第4被告の反論
原告の主張する取消事由はいずれも失当であり,審決には,これを取り消す
べき誤りはない。
1相違点2についての容易想到性の判断の誤りに対し
()刊行物1では,外部線源から強度の大きいガンマ線がエミッションデー1
タ収集用検出器に入るので,吸収補正用線源8,11等の外部線源を挟む
「スライスセプタ」等を設けることが必要となる。刊行物1に係る技術と
刊行物2に係る技術は共通する技術分野に属するから,刊行物1に刊行物
2を適用することは容易である。
()刊行物2には,外部線源にガンマ線の放射方向を規制する遮蔽部材,す2
なわちコリメータを設けることにより,エミッションデータにおける外部
線源からのガンマ線の悪影響を低減させるという効果が記載されている。
,,本願発明の相違点2に係る構成による効果は刊行物1又は刊行物2から
当業者が予測し得る範囲内の効果であって,原告のいう「相乗効果」では
ない。
原告は,本願発明において,エミッションデータ収集用のマルチリング型
検出器とは別立てで,トランスミッションデータ収集用のものとして第2の
検出器を設けたと主張する。しかし,原告の主張は,本願明細書の特許請求
の範囲(請求項1)の記載に基づくものではなく,また,本願明細書には,
リング検出器11のうち,1層をトランスミッションデータ収集に用いる実
施例が記載されている(段落【0014)から,根拠を欠く。】
2相違点3についての容易想到性の判断の誤りに対し
引用例2に記載された,ポジトロンCT装置において,各リングの間隔ずつ
移動させることは,本願出願前の周知技術(乙1,乙2)である。特に,乙2
は,当該分野で著名な雑誌に掲載された論文であり,異なる著者による多数の
文献(乙3∼乙8)に引用されていることに照らすならば,周知技術というこ
とができる。
3相違点4についての容易想到性の判断の誤りに対し
上記2のとおり,ポジトロンCT装置において,各リングの間隔ずつ移動さ
せる技術は,周知技術である。また,本願明細書の記載によれば「ボリュー,
ムとはポジトロン放出性RIが分布する臓器等の内部組織原告がいう被」,(「
検体の範囲)を指すと理解するのが相当である。」
刊行物1においても,被検体のエミッションデータの取得する前に,被検体
のトランスミッションデータを取得する点で共通し,吸収補正をする処理をす
るタイミングをいつにするかは当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について
以下のとおり,本願発明における外部線源を挟むように配置されたスライス
セプタを備えているという構成は,刊行物1及び刊行物2により,当業者が容
易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。
()刊行物2(甲2)1
ア刊行物2には,以下の記載がある。
(ア)「請求項1】被検体に投与された放射性同位元素から放射される【
ガンマ線をメイン検出器で検出し,前記メイン検出器の出力に基づいて
前記放射性同位元素の体内分布を画像化する核医学診断装置において,
ガンマ線を放出する線源と,前記線源から放出され,前記被検体を透過
したガンマ線を検出する半導体検出器とを具備したことを特徴とする核
医学診断装置。‥‥‥
【請求項5】前記メイン検出器で検出されるガンマ線の入射方向に対し
て,交差する向きに前記線源からガンマ線が放射されることを特徴とす
る請求項1記載の核医学診断装置。‥‥‥
【請求項7】前記線源にはガンマ線の放射方向を制限するための遮蔽板
が設けられることを特徴とする請求項5記載の核医学診断装置」。
(イ)「0020】【
【発明の実施の形態】以下,本発明による核医学診断装置の一実施形態を
図面を参照して説明する。なお,核医学診断装置には,シングルフォト
ンカメラ,ポジトロンカメラ,SPECT,PET等が含まれる。ここ
では,これらを兼用できる回転型2検出器タイプを一例として説明する
が,他のタイプの採用を否定するものではない」。
(ウ)「0025】実際に被検体Pを透過したガンマ線を検出して,吸【
収補正のためのデータ(吸収補正データ)を収集するために,架台11
の回転板13には,スライドアーム27,29を介して,ガンマ線を放
射するための面線源23と,面線源23から放射され,被検体Pを透過
したガンマ線を検出するための半導体検出器25とが,それぞれの放射
面と検出面とがメイン検出器15,17の検出面と垂直なY−Z面と平
行になり,そして放射面と検出面とが被検体Pを挟んで対向した状態を
維持したままでY軸と平行に移動可能に支持される。つまり,面線源2
3からのガンマ線の放射方向が,コリメータを通過してメイン検出器1
5,17で検出されるガンマ線の入射方向に対して,交差する,好まし
くは直交するように,面線源23が設けられ,またこの面線源23に対
峙する向きに半導体検出器25が設けられる」。
(エ)「0029】図5にX−Z断面を示すように,ガンマ線の放射方【
向を放射面に略垂直な方向だけに制限し,面線源23から放射されたガ
,,ンマ線が斜め方向からメイン検出器1517に入射することを防止し
且つ被検体Pの被爆量を極力抑えるために,鉛等の平行スリット41,
または/及び図6に示すように鉛等の方形筒状の遮蔽ウインドウ43が
面線源23の放射面に設けられる。…」
以上のとおり,刊行物2には,PET等に用いられる核医学診断装置に
おいて,吸収補正データ収集のために線源から放射されるガンマ線が,被
検体から放射されるガンマ線を検出するメイン検出器に入射することを防
止し被検体の被爆量を抑えるための遮蔽手段を設ける技術が記載されてお
り,また,刊行物2記載の核医学診断装置は,引用発明と同一の技術分野
に属するものであると認められる。
イそうすると,引用発明において,刊行物2記載の上記技術と同様に,棒
状又は円筒状の吸収補正用線源から放射されるガンマ線がエミッションデ
ータの収集にあてる検出器に入射することを防止し,被検体の被爆量を抑
えるための遮蔽手段,すなわちスライスセプタを吸収補正用線源を挟むよ
うに設け,相違点2に係る本願発明の構成を得ることは,刊行物2記載の
上記技術に基づいて当業者が容易になし得たものというべきである。
()原告の主張について2
ア原告は,刊行物1のポジトロンCT装置においては,吸収補正用外部線
源8の強度を極めて弱いものであり,スライスセプタを設ける必要がない
から,コリメータ等の遮蔽部材を設けるとの技術を示唆するものはないと
主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)刊行物1では,確かに,エミッションデータに外部線源からのガン
マ線が含まれることについての課題は明示されていないが,刊行物1の
ポジトロンCT装置において,外部線源強度が強くなるにつれて散乱線
等がエミッションデータに及ぼす影響が大きくなること点を考慮するな
らば,吸収補正データ収集のために線源から放射されるガンマ線が,被
検体から放射されるガンマ線を検出するメイン検出器に入射することを
防止する目的で遮断手段を設ける刊行物2記載の技術を,引用発明に適
用することは,容易であるといえる。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
(イ)また,刊行物1(甲1)の記載によれば,引用発明において,放射
線検出用の検出器2の円環状配列の多層配列の右半分の層及び左半分の
層が,それぞれ,エミッションデータの収集に係る検出器及び吸収補正
用のトランスミッションデータの収集に係る検出器に相当するものと認
められる。
,,しかし各々の検知器の検出性能が同等のものであるとの記載はなく
かえって「通常,被検者4中のRI5の放射能は吸収補正用棒状線源,
8の放射能に比較して小さいので無視できる場合が多い(段落【0。」
017)との記載によれば,エミッションデータとトランスミッショ】
ンデータとでは,放射能の大きさに違いがあり,各々の検出器に入射す
,,るガンマ線の強度にも違いがあることが認められこのことからすれば
各々の検出器の検出性能を異ならせることも,十分想定し得るところで
ある。
したがって,トランスミッションデータの収集について,エミッショ
ンデータ収集用の検出器の検出性能に制約され,吸収補正用外部線源8
の強度を極めて弱いものとせざるを得ないから,外部線源を挟むスライ
スセプタを設ける必要がないとの原告主張は,失当である。
イ原告は,刊行物2記載の装置は,シングルフォトン撮影のための核医学
診断装置であるから,同装置にスライスセプタが備わっていても,当業者
が,刊行物1のポジトロンCT装置にスライスセプタを設けることを想到
するものではないと主張する。
しかし,刊行物2記載の技術は,ポジトロンCT装置(PET)にも用
いられる核医学診断装置に係るものであって,引用発明と技術分野を共通
にするものであるから,この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ原告は,本願発明は,各リング位置ごとにエミッションデータを取得す
る構成と外部線源を挟むスライスセプタを組み合わせたことによって,相
乗効果を発揮すると主張する。
しかし,本願発明が,マルチリング型検出器の各リング位置ごとにエミ
ッションデータを取得するものであるとしても,外部線源を挟むスライス
セプタを設けることによりエミッションデータにおける外部線源からのガ
ンマ線の影響を低減させる効果は,刊行物2記載の技術から当然予測し得
るものであり,スライスセプタとの組合せによって格別の相乗効果が生じ
るものとはいえない。
したがって,原告の主張は失当である。
エ原告は,本願発明は,エミッションデータ収集用のマルチリング型検出
器とは別立てで,トランスミッションデータ収集用のものとして第2の検
出器を設け,さらにスライスセプタと組み合わせることによって,特有の
効果を奏すると主張する。
,,,しかし原告の主張する作用効果は第2の検出器の幅が小さい場合や
第2の検出器特性の高いものを採用する場合について生じる作用効果と認
められるところ,本願明細書の特許請求の範囲(甲6)の請求項1におい
,,,て第2の検出器の幅や特性について何ら特定されるものでもないから
原告の上記主張は,本願発明の内容に基づかないものであって,失当であ
る。
2取消事由2(相違点3についての容易想到性の判断の誤り)について
以下のとおり,ポジトロンCTにおいて,被検体を,リング型検出器を軸方
向に多層に重ねた検出器に対して各リングの間隔ずつ移動させることが周知技
術であるとし,相違点3に係る本願発明の構成は引用発明及び周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得たとした,審決の認定,判断に違法はない。
()周知技術の認定について1
IEEETRANSACTIONSONア乙2(1992年(平成4年)発行の「
」に掲載された外2名NUCLEARSCIENCE,VOL.39,NO.4SimonR.Cherry
HighSensitivity,TotalBodyPETScannnigUsing3DDataAcquisition著の「
」と題する論文。以下「乙2論文」という)には,以andReconstruction。
下の記載がある。
(ア)「標準的な2次元全身撮像プロトコル(手順)では,ベッドはスキ
ャナーの視野幅と等しい幅でスキャナーの中を移動する(図1a。し)
,,かしながら図1bで示されるような準連続収集法が3次元全身測定に
より適しているのにはいくつかの理由がある。
一つのベッド位置で取得される3次元データセットの軸方向の感度
分布は,図2aに示される。もし,図1aのような離散的なデータ収集
プロトコル(手順)を用いた場合,軸方向に強い感度変化があり,コロ
ナルスライスとサジタルスライスにわたって不均一な高いノイズ特性が
生じることがある。ベッドを1回につき1検出器の幅で軸方向に移動す
ることにより(連続的な」データ収集と呼ばれる,軸方向の感度分「)
布は視野幅の大半で完全に均一となり,したがって,データセット全体
で高いかつ一様なS/N比が実現される(図2a「連続的な」サン)。
プリングの別の利点は,視野の大部分で空間的に不変の応答関数が得ら
れることである(1088頁右欄18行∼末行,。」)
ECAT-831/08-12CTI/Siemens,(イ)実験はすべて神経PETスキャナ「,(
)で行った。この直径64cmの断層撮像装置は,8個のKnoxville,TN
(),ビスマスゲルマニウムオキサイドBGO検出器リングで構成され
各々のリングの幅が,1.35cmであり,10.8cmの全視野幅で
ある(1089頁右欄2行∼6行)。」
,()上記においては8個のビスマスゲルマニウムオキサイドBGO
検出器リング,すなわちマルチリング検出器を有するPETスキャナを
用いて,1回につき1検出器の幅でベッドを移動することにより連続的
にデータを収集する技術が記載されているものと認められる。
イ上記乙2論文の掲載誌は,国際的に著名な「米国電気電子学会(略称」
「)が発行したものであること,乙3(1997年(平成9年)にIEEE」
IEEETRANSACTIONSONNUCLEARSCIENCE,VOL.44,発行された「
NO.4J.R.NSymonds-TaylerDesignand」に掲載された外5名著の「
PerformanceofanAcquisitionandControlSystemforaPositronCamerawith
」と題する論文,乙7(1994年(平成6年)に発行NovelDetectors)
「」されたIEEETRANSACTIONSONNUCLEARSCIENCE,VOL.41,NO.4
MDahlbomCharactrizationOfSamplingSchemesに掲載された外4名著の「
」と題する論文,乙8(1996年(平成ForWholeBodyPETImaging)
1996IEEENUCLEARSCIENCESYMPOSIUM8年)に発行された「
ConferenceRecordScottF.SchubertWholeBody」「に掲載された外2名著の
」と題PETUsingOverlapped3DAcquisitionandWeightedImageSummation
する論文)において,上記技術に言及しつつ,乙2論文が引用されている
ほか(乙3の1531頁右欄28行∼33行,乙7の1574頁下から5
行∼1575頁3行,乙8の1285頁26行∼40行,乙4(199)
IEEETRANSACTIONSONMEDICAL7年(平成9年)に発行された「
」に掲載された外3名著のIMAGING,VOL.16,NO.2JeffreyA.Fessler
Grouped-coordinateascentalgorithmsforpenalized-likelihoodtransmission「
」と題する論文,乙5(1996年(平成8年)に発imagereconstruction)
「」行されたIEEETRANSACTIONSONNUCLEARSCIENCE,VOL.43,NO.4
RobinJ.SmithPost-injectionTransmissionScansに掲載された外1名著の「
inaPETCameraOperatingwithoutSeptawithSimultaneousMeasurementof
」と題する論文,乙6(1995年(平EmissionActivityContamination.)
成7年)に発行された「」TheJournalofNeuclearMedecine,Vol.36,No.12
P.DuffyCutlerDosiemetryofCopper-64-labeledに掲載された外6名著の「
」と題するMonoclonalAntibody1A3asDeterminedbyPETImagingofTorso
論文)においても乙2論文が引用され,また乙3ないし乙8はすべて著者
,(),の異なる論文であることに照らせば本件出願時平成12年において
乙2論文記載の上記技術は,当業者に広く知られた周知のものであったと
認めることができる。
ウそうすると,ポジトロンCTにおいて,被検体を,リング型検出器を軸
方向に多層に重ねた検出器に対して各リングの間隔ずつ移動させることを
周知技術であるとした審決の認定に誤りはないというべきである。
したがって,審決における周知技術についての認定の誤りをいう,原告
の上記主張は,採用できない。
()容易想到性について2
刊行物1には,被検者の移動に関し「被検者を移動させなければならな,
いような広範囲の撮像を行なう場合に,1度の移動でエミッションデータと
吸収補正用のトランスミッションデータとを収集することができて,被検者
の負担を軽減できる(2頁2欄下から5行∼同2行,段落【0010,。」】)
「ベッド装置6によりテーブル7を右方向に移動させて,被検者4が体軸に
沿って頭部から脚部へとトンネル部3に順次挿入するようにする(3頁。」
3欄下から8行∼同6行,段落【0015「被検者4を1度だけ左から】),
右へと移動させるだけで,被検者4の全身についてのエミッションデータと
トランスミッションデータとを同時に収集できることになる(3頁4欄。」
20行∼23行,段落【0018)との記載があるが,同記載以外に具体】
的な説明はなく,引用発明において,被検者の移動がどのように行われるの
か具体的な説明はないが,上記周知技術に基づけば,被検体をリング型検出
器の各リングの間隔ずつ移動させるようにし,相違点3に係る本願発明の構
成に到ることは,当業者が容易になし得たものというべきである。
これと同旨の,審決の判断に誤りはない。
3取消事由3(相違点4についての容易想到性の判断の誤り)について
以下のとおり,本願発明における相違点4の構成は,刊行物1により,当業
者が容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。
()引用発明の「吸収補正」が,本願発明における,同時計数線における吸1
収補正であること(審決12頁,エ,引用発明においても,各移動位置の)
ボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に,トラン
スミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求めること
が可能であること(審決12頁,オ)は,当事者間に争いがない。
刊行物1においては,トランスミッションデータを用いる吸収補正自体を
どのようなタイミングで行うか具体的に開示されていないが,吸収補正をど
のようなタイミングで行うかは,当業者が設計上適宜決定し得る程度の事項
というべきである。
そして,引用発明において,被検体をリング型検出器の各リングの間隔ず
つ移動させるとの,相違点3に係る本願発明の構成を採ることは,当業者が
容易に想到し得たものというべきところ,引用発明においても,各移動位置
のボリュームについてのエミッションデータ収集が行われている間に,トラ
ンスミッションデータを処理して同時計数線での吸収補正データを求めるこ
とが可能であって,吸収補正のタイミングを遅らせなければならないような
特段の事情も見当たらないことからすれば,上記構成を採る際に,速やかに
吸収補正データが得られるよう,各移動位置のボリュームについてのエミッ
ションデータ収集が行われている間に,トランスミッションデータ収集の終
ったボリュームのトランスミッションデータを処理して同時計数線での吸収
補正データを求め,該ボリュームについてのエミッションデータの収集終了
後直ちに吸収補正を行うようにすることは,当業者が設計上適宜採用し得る
程度の事項というべきである。
したがって,相違点4に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易
になし得たものである。これと同旨の,審決の判断に誤りはない。
()原告の主張に対し2
ア原告は,刊行物1のポジトロンCT装置は,本願発明などのように,マ
ルチリング型検出器のリング間隔ごとに移動させてエミッションデータを
取得する場合,視野幅という概念が存在しないため,刊行物1のポジトロ
ンCT装置の吸収補正のプロセスを適用することはできないと主張する。
しかし,上記2()に述べたとおり,刊行物1においては,被検者の移2
動に関し,視野幅単位で移動するといったような具体的な説明はなく,刊
行物1のポジトロンCT装置について,視野幅単位で被検体を移動させる
ことを前提とする原告の上記主張は,根拠を欠くものである。
イ原告は,本願発明は,一つのボリュームについてリング間隔ごとの各移
動位置でエミッションデータを取得し,特に,最も高い感度を示す中心付
近のエミッションデータについても,そのまま用いるのではなく,周辺部
で得られるすべてのエミッションデータと併せて用いる点に特徴を有し,
一つのボリュームについて取得されるエミッションデータ量が大幅に増す
ため,検出感度が飛躍的に向上するという作用効果を奏するものであると
主張する。
しかし,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1においては,エミッシ
ョンデータに関し,一つのボリュームについてリング間隔ごとの各移動位
置で収集されるエミッションデータを併せて用いるものであるといった点
は記載されていないから,原告の上記主張は,本願発明の内容に基づかな
いものであって,失当である。
ウ原告は,刊行物1のポジトロンCT装置では,視野幅単位の移動を前提
とすることから,トランスミッションデータ検出用の検出器は必然的に視
野幅となるのに対して,本願発明では,リング間隔ごとの移動位置でエミ
ッションデータを取得するという新たな発想により,第2の検出器の幅を
マルチリング型検出器のリング間隔とすることができ,第2の検出器を小
さくすることができるという刊行物1のポジトロンCT装置にない作用効
果を奏すると主張する。
しかし,刊行物1のポジトロンCT装置が,視野幅単位で被検体を移動
させるものであるとの原告の主張が,根拠を欠くことは,上記アに判示し
たとおりである。そして,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1におい
ては,第2の検出器の幅について,何ら特定されていないから,本願発明
が,原告の主張する上記作用効果を奏するものとはいえない。原告の上記
主張は,本願発明の内容に基づかないものであって,失当である。
4結論
その他,原告は縷々主張するが,いずれも,採用の限りでない。以上のとお
り,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決にこれを取り消すべ
きその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官三村量一
裁判官上田洋幸

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