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判決 平成14年6月6日 神戸地方裁判所 平成13年(わ)第1297号 協同
組合による金融事業に関する法律違反被告事件
              主       文
    被告人Xを懲役1年に,被告人Y及び被告人Zをそれぞれ懲役8月に処す
る。
    被告人3名に対し,この裁判確定の日から3年間それぞれその刑の執行を
猶予する。
              理       由
(罪となるべき事実)
 被告人Xは,神戸市O区Pa丁目b番c号に本店を置き,組合員に対する資金の
貸付け,組合員のためにする手形の割引,組合員の預金又は定期積金の受入れ等の
事業を営むQ信用組合の理事長として,同組合の業務全般を統轄していたもの,被
告人Y及び同Zは,いずれも同組合の副理事長として,理事長を補佐して同組合の
業務全般を執行していたものであるが,協同組合による金融事業に関する法律6条
1項,銀行法25条に基づき,近畿財務局長が平成12年5月18日から同年10
月24日までの間に実施した同組合に対する立入検査の際,同局所属の金融証券検
査官(以下「検査官」という。)に対し,同組合の不良債権を隠ぺいしようと企
て,被告人らは,同組合常務理事A,同Bらと共謀の上,
1 検査基準日である同年3月31日の時点で延滞債権であった別表1記載のCほ
か39名に対する貸出金(以下「本件各貸出金」という。)につき,検査を免れよ
うと企て,本件各貸出金が資産査定の対象とされていることを知りながら,同年5
月25日ころから同年6月28日ころまでの間,神戸市O区Pa丁目b番c号所在
の同組合本部において,検査官に対し,本件各貸出金につき,貸出金・債務保証見
返調査表等を提出しないで検査を免れ,もって,検査を忌避し,
2 同検査における資産査定の対象とされたD,E及びFに対する貸出金が分類債
権と査定されることを免れようと企て,担保の預金は真実は存在せず,かつ,同人
らに対する貸出金が返済された事実もないのに,
 (1) 同年6月上旬ころ,同組合本部において,検査官から,前記Dあての貸出金
5億円の貸出状況等に関し質問された際,同検査官に対し,「預金協力者で,貸出
金も預金担保の範囲内で,5月19日と5月26日に返済されている。」などと嘘
をつき,
 (2) 同年6月上旬ころ,同組合本部において,検査官から,前記Eあての貸出金
5億円の貸出状況等に関し質問された際,同検査官に対し,「預金協力者で預金担
保内の貸付であり,現在は返済されている。」などと嘘をつき,
 (3) 同年6月中旬ころ,同組合本部において,検査官から,前記Fあての貸出金
5億円の貸出状況等に関し質問された際,同検査官に対し,「預金担保内の貸出で
ある。」,「5月23日に全額返済されて,現在は貸出金は残っていない。」など
と嘘をつき,
 もって,同組合の資産の状況に関する検査官の質問に対して虚偽の答弁をし,
3 同年10月上旬ころ,同組合本部において,検査官から,前記1の別表1記載
の貸出と同種の延滞債権の有無に関し質問された際,検査基準日である同年3月3
1日の時点で同種の延滞債権であった別表2記載のGほか28名に対する貸出金が
存在していたにもかかわらず,同検査官に対し,同種の延滞債権はない旨嘘をつ
き,もって,同組合の資産の状況に関する検査官の質問に対して虚偽の答弁をし
たものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
1 罰条 
いずれも刑法60条協同組合による金融事業に関する法律10条3号
2 刑種の選択
  いずれも懲役刑選択
3併合罪加重
  刑法45条前段,47条本文,10条により犯情の最も重い判示3の罪の刑に
法定の加重
4 執行猶予
  刑法25条1項
(量刑の理由)
 本件は,Q信用組合の理事長や副理事長であった被告人らが,近畿財務局長が実
施した同組合に対する立入検査の際,同局所属の検査官に対し,同組合の不良債権
を隠ぺいしようと企て,同組合常務理事らと共謀の上,判示のとおり,検査を忌避
し,あるいは,同組合の資産の状況に関する検査官の質問に対して虚偽の答弁をし
た,という協同組合による金融事業に関する法律違反の事案である。この犯行の罪
質,動機,態様及び被告人らの同組合内の地位や本件への関与の程度等,殊に,こ
うした犯行は,単にその時点における同組合の不良債権を隠ぺいするにとどまら
ず,監督行政機関が同組合の経営の健全性を確保する機会を失わせたまま,同組合
の不良債権を増大させて同組合を更に深刻な債務超過状態に陥らせた上,ついには
その経営破綻により預金者保護のために巨額な公的資金の導入を余儀なくさせるこ
とにも結びつくものであることからすると,将来における経済的な実害発生の危険
性を伴う犯行ともいえるのであって,その罪質は決して軽いものとはいえないこ
と,被告人らは,当時,同組合が多額の不良債権を抱えて債務超過状態にあり,実
質的には破綻していることを認識しながら,監督行政機関である近畿財務局から業
務停止命令等を受けることをおそれて,本件犯行に及んだものであって,こうした
動機には格別酌むべき事情が認められないこと,その態様は,被告人らの指示の
下,事前に周到な準備をし,多数の役職員を巻き込んで行われた朝銀近畿による計
画的・組織的なものであり,金融機関に求められる公共性や社会的責任をないがし
ろにしている点でも強い非難に値するものであること,以上を併せ考えると,本件
の犯情は甚だ芳しくなく,被告人らの刑事責任は軽くみることができない。
しかしながら,他方,同組合が発足後約2年半後に行われた本件検査時におい
て,既に多額の不良債権を抱えて債務超過状態に陥っていた主たる原因には,合併
前のR信用組合において,延滞債権を隠ぺいするのみならず,不良債権を小口分散
したり,預金担保があるように仮装することによって約600億円にも上る不良債
権の隠ぺいが行われた上,この不良債権が朝銀近畿に引き継がれたことがあげられ
ることに照らすと,これらのR信用組合における隠ぺい工作に関与していない被告
人らのみを非難しがたい側面があり,本件犯行の経緯には同情の余地があること,
被告人らが本件犯行を深く反省し,現在は社会的活動を控えていること,被告人
X,同Zには前科はなく,同Yにも禁錮刑以上に処せられた前科がないこと,被告
人Yは甲状腺機能亢進症,慢性胃炎に,同Zは胃腺腫にそれぞれり患しているこ
と,その他弁護人が主張する各被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮すると,
被告人らに対しては,社会内において更生の機会を与えるのが相当と思料する。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 被告人Xにつき懲役1年,同Y及び同Zにつきそれぞれ懲役8月)
  平成14年6月6日
    神戸地方裁判所第14刑事係乙
           裁判官   浦島高広

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