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平成19年(行ケ)第10288号審決取消請求事件
平成20年3月25日判決言渡,平成20年3月11日口頭弁論終結
判決
原告ジェーエムエンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁理士安倍逸郎
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人溝渕良一,山岸利治,亀丸広司,高木彰,
大場義則
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−4931号事件について平成19年6月20日にした審
決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成15年12月9日,発明の名称を「ボルト・ナットの緩み止め構
造」とする発明について特許出願(特願2003−410893号。優先権主張:
平成15年6月18日〔以下「本件優先日」という。〕)をしたが,平成17年2
月8日付けで拒絶査定を受けたので,同年3月22日,拒絶査定不服審判を請求し
た。
特許庁は,これを不服2005−4931号事件として審理し,平成19年6月
20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年
7月3日,原告に送達された。
2発明の要旨
平成19年5月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲(甲9)
の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨(請求項2は省
略する。)
「ボルトと,内周面に形成した雌ねじにより,このボルトに螺合するナット部材
と,このナット部材をボルトにロックするロックナットとを備え,
上記ナット部材は,スパナ係止部と,これに連続して設けられ,軸方向の一端に
向かって先細り状またはストレートに形成されたロックナット係止部とを有し,
このロックナット係止部には,その内周面の雌ねじとは逆ねじ方向の雄ねじがそ
の外周面に形成されるとともに,軸方向の一端に向かって延びるスリットを有し,
上記ロックナットがそのテーパー状の内周面に形成された雌ねじを上記ロックナ
ット係止部の上記雄ねじに螺合することにより,ナット部材をボルトにロックする
ボルト・ナットの緩み止め構造であって,
上記ロックナット係止部の内周面の雌ねじは並目ねじであり,上記ロックナット
係止部の雄ねじは細目ねじであるとともに,上記ロックナットの軸方向の厚みを上
記ナット部材のスパナ係止部のそれより大きくしたボルト・ナットの緩み止め構
造。」
3審決の理由
()審決の理由の概要1
審決は,本願発明は,実願昭53−104462号(実開昭55−20776
号)のマイクロフィルム(甲1。以下,「第1引用例」といい,そこに記載された
発明を「引用発明」という。),実願平4−28051号(実開平5−79028
号)のCD−ROM(甲2。以下「第2引用例」という。),特開平8−2471
29号公報(甲3。以下「第3引用例」という。),実願昭58−193194号
(実開昭60−101211号)のマイクロフィルム(甲4。以下「第4引用例」
という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた
ので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした(なお,
本判決においては,審決,引用例の原文を引用する場合も含め,「ナツト」及び
「ナット」については,「ナット」と表記する。)。
()審決が認定した引用発明(3頁第2段落)2
「ボートCと,内周面に形成した螺子穴4の螺子山により,このボートCに螺合
する締付ナット1と,この締付ナット1をボートCにロツクする戻り止ナット7と
を備え,上記締付ナット1は,平面部2を有する部分と,これに連続して設けられ,
円錐形に形成された突出部3とを有し,この突出部3には,外螺子5がその外周面
に形成されるとともに,軸方向の一端に向かって延びる割溝6を有し,上記戻り止
ナット7がそのテーパー状の内周面に形成された螺子穴8の螺子山を上記突出部3
の上記外螺子5に螺合することにより,締付ナット1をボートCにロツクするボー
ト・締付ナットの緩み止め構造。」の発明
()審決が認定した本願発明と引用発明の一致点及び相違点(5頁最終段落∼3
6頁第4段落)
ア一致点
「ボルトと,内周面に形成した雌ねじにより,このボルトに螺合するナット部材
と,このナット部材をボルトにロックするロックナットとを備え,上記ナット部材
は,軸方向の一端に向かって先細り状に形成されたロックナット係止部とを有し,
このロックナット係止部には,雄ねじがその外周面に形成されるとともに,軸方向
の一端に向かって延びるスリットを有し,上記ロックナットがそのテーパー状の内
周面に形成された雌ねじを上記ロックナット係止部の上記雄ねじに螺合することに
より,ナット部材をボルトにロックするボルト・ナットの緩み止め構造。」
イ相違点
(ア)相違点1
「本願発明では,ナット部材は,『スパナ係止部』を有し,ロックナット係止部
はこの『スパナ係止部』に連続して設けられているのに対し,引用発明では,締付
ナット1は,平面部2を有する部分を有し,突出部3はこの平面部2を有する部分
から連続して設けられており,本願発明のような,スパナ係止部との言及がない
点。」
(イ)相違点2
「本願発明は,『ロックナット係止部には,その内周面の雌ねじとは逆ねじ方向
の雄ねじがその外周面に形成される』としているのに対し,引用発明は,突出部3
には,外螺子5がその外周面に形成されるものの,この外螺子5が突出部3の内周
面の螺子穴4の螺子山とは逆ねじ方向であるか否かは不明である点。」
(ウ)相違点3
「本願発明は,『上記ロックナット係止部の内周面の雌ねじは並目ねじであり,
上記ロックナット係止部の雄ねじは細目ねじであるとともに,上記ロックナットの
軸方向の厚みを上記ナット部材のスパナ係止部のそれより大きくした』としている
のに対し,引用発明は,突出部3の内周面の螺子穴4の螺子山が並目ねじであるか
否か,突出部3の外螺子5が細目ねじであるか否かは不明であり,さらに,本願発
明でいう,『上記ロックナットの軸方向の厚みを上記ナット部材のスパナ係止部の
それより大きくした』との事項を具備しているか否か不明である点。」
()相違点についての審決の判断4
ア相違点1について(6頁第5段落)
「上記(イ)で摘示した如く,締付ナツト1はボートCに螺合されること,及び
引用発明の締付ナツト1の『平面部2を有する部分』は,第1引用例の第2図によ
れば,六角形状を有することは明らかであるので,第1引用例に接した当業者であ
れば,引用発明の『平面部2を有する部分』が六角形状の『スパナ係止部』である
ことは,容易に認識できる事項である。
そして,引用発明においても,本願発明の『ロックナット係止部』に相当する
『突出部3』は,『平面部2を有する部分』に連続して設けられているのであるか
ら,上記相違点1に係る事項は,格別なものではない。」
イ相違点2について(6頁最終段落∼7頁第5段落)
「本願発明では,上記相違点2に係る事項を備えることにより,ナット部材のボ
ルトに対する緩み止めをなすものである(出願当初の明細書の段落番号【000
6】参照。)。
一方,上記した如く,第2引用例には,『ボルト・ナットの緩み止め構造におい
て,ナット1,2がボルト7と螺合する雌ねじ1b,2bと逆向きの雄ねじ2aお
よび雌ねじ1aで相互に螺合する』技術的事項が記載されているものと認める。
そして,この技術的事項によれば,上記(オ)でも摘示した如く,ナットの外周
面と内周面を逆向きのねじとすることにより,確実な緩み止めが行われるのである
から,上記相違点2に係る事項は,この技術的事項に示唆されているといえる。
そして,引用発明と第2引用例に記載された技術的事項は,ともに『ボルト・ナ
ットの緩み止め構造』に関するもので,また,引用発明に第2引用例に記載された
技術的事項を適用することを妨げる特段の事情も窺えない。
したがって,引用発明の突出部3の外周面の外螺子5及び内周面の螺子穴4の螺
子山に関して,第2引用例に記載された技術的事項を適用して,上記相違点2に係
る本願発明の事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものと認める。」
ウ相違点3について(7頁第6段落∼8頁第4段落)
「本願発明では,上記相違点3に係る事項を備えることにより,ナット部材の外
周面とロックナットの内周面との接触面積を大きくし,ボルト・ナットの緩み止め
構造をさらに緩み難くするものである(出願当初の明細書の段落番号【0006】,
及び平成19年5月21日付け意見書第2頁第11行乃至第20行参照。)。
一方,上記した如く,第3引用例には,『ボルト・ナットの緩み止め構造におい
て,メイン・ナット1の突出部12におけるおねじ部120のピッチを,該メイン
・ナット1のねじ孔13のピッチよりも小さく設定する』技術的事項が記載されて
いるものと認める。
同様に,第4引用例には,『弛みを生じにくい締付ナツトの構造において,内ナ
ツト(6)と外ナツト(7)間のネジ(8)は内ナツト(6)と回転軸(2)間の
ネジ(9)に対し,ピツチをより小さく形成する』技術的事項が記載されているも
のと認める。
そして,これらの技術的事項によれば,上記(キ)及び(サ)でも摘示した如く,
ピッチの小さいねじを用いることにより,ナットを容易に緩まないようにさせるも
のであるから,第3引用例及び第4引用例には,『並目ねじ』及び『細目ねじ』と
の記載はないものの,上記相違点3に係る事項の内,「上記ロックナット係止部の
内周面の雌ねじは並目ねじであり,上記ロックナット係止部の雄ねじは細目ねじで
ある」点は示唆されているといえる。
また,引用発明の『平面部2を有する部分』を本願発明でいう『スパナ係止部』
として容易に認識できることは,上記『4−1相違点1に対し』(判決注:上記
ア)において言及したとおりである。
してみると,引用発明においては,本願発明のように「上記ロックナットの軸方
向の厚みを上記ナット部材のスパナ係止部のそれより大きくした」とは言えないも
のの,ボルト・ナットの緩み止め構造において,緩み止め効果を高めることは一般
的な課題であって,しかも,ねじ同士の接触面積を大きくするとより強固な結合が
なされることは,当業者であれば容易に認識できることであるので,引用発明にお
いても,同課題を達成するために,戻し止ナツト7(ロックナット)の軸方向の厚
みを大きくすることは,当業者であれば試みることは当然のことであり,その際,
戻し止ナツト7(ロックナット)の軸方向の厚みを締付ナツト1(ナット部材)の
平面部2を有する部分(スパナ係止部)のそれより大きくすることも,当業者が適
宜実施し得ることであって,格別なものではない。
そして,引用発明と第3引用例及び第4引用例に記載された技術的事項は,とも
に『ボルト・ナットの緩み止め構造』に関するもので,また,引用発明に第3引用
例及び第4引用例に記載された技術的事項を適用することを妨げる特段の事情も窺
えない。
したがって,引用発明の突出部3の外周面の外螺子5及び内周面の螺子穴4の螺
子山に関して,第3引用例及び第4引用例に記載された技術的事項を適用して,そ
の際,戻し止ナツト7の軸方向の厚みを締付ナツト1の平面部2を有する部分のそ
れより大きくするようにして,上記相違点3に係る本願発明の事項とすることは,
当業者が容易に想到し得るものと認める。」
エ効果について(8頁第5段落)
「そして,本願発明の効果は,引用発明,及び第2引用例乃至第4引用例に記載
された技術的事項から,当業者であれば予測できる程度のものであって格別なもの
とはいえない。」
第3原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明の効果を看過し(取消事由),本願発明は,当業者が容易に発
明をすることができるとの誤った結論に至ったものであり,違法であるから,取り
消されるべきである。
1取消事由(本願発明の効果の看過)
()審決は,「本願発明の効果は,引用発明,及び第2引用例乃至第4引用例1
に記載された技術的事項から,当業者であれば予測できる程度のものであって格別
なものとはいえない。」(上記第2の3()エ)としたが,誤りである。4
()第1引用例ないし第4引用例は,いずれも,本願発明に係るロックナット2
及びナット部材を開示するものではない。すなわち,これらの引用例には,いずれ
も,本願発明に係る,ロックナットがテーパー状内周ネジ面を有しており,ロック
ナットがボルトに螺合するのではなくこのテーパー面でスリット入りのナット部材
のロックナット係止部を締め付けること,このときロックナット係止部の雄ねじと
ナット部材の雌ねじとが逆方向のネジであることについて,記載されていないし,
示唆もされていない。
そして,本願発明に係るロックナットでは,ナット部材によって,上記引用例記
載の発明の場合よりも,より強固に螺合される。
すなわち,本願発明のボルト・ナットの緩み止め構造にあっては,まず,ナット
部材に,ボルトを一方向に回転させて螺合し,次いで,ナット部材のロックナット
係止部に,ロックナットを上記とは逆回りに螺合する。これにより,ボルトはナッ
ト部材にねじ込まれるとともに,ナット部材は,ロックナットで締め付けられ,特
に,ロックナット係止部の外周面には,その内周面の雌ねじとは逆ねじ方向の雄ね
じが形成されているため,ナット部材及びロックナットは,ボルトに対して互いに
逆向きにねじ込まれていて,この締結構造に対して,振動や衝撃が付加されたとき,
ナット部材は緩もうとするが,ロックナットがナット部材に対して締め付ける結果,
ナット部材のボルトに対する緩み止めがされる。そして,ナット部材のロックナッ
ト係止部をストレートに形成したため,ロックナットが螺合された場合にその締め
付け力が大きくなって,有効に緩み止め効果を発揮するのであり,この点は,各引
用例のいずれにも示唆されていない。
また,ナット部材のロックナット係止部の外周面に形成されている雄ねじは細目
ねじであり,細目ねじは,並目ねじよりもねじ山のピッチが小さいため,ナット部
材の外周面とロックナットの内周面との接触面積が大きくなり,並目ねじよりも細
目ねじの方が緩み難くなっている。
さらに,このロックナット内周面がテーパー面であって,ロックナット係止部が
ストレートに形成されていても,ロックナットのねじ込みにより,より強固に結合
される。
加えて,ロックナット係止部の厚さをスパナ係止部のそれよりも厚くしているた
め,ロックナットおよびロックナット係止部外周の細目ねじ同士の接触面積がさら
に大きくなって,より強固な結合を確保することができる。
このように,本願発明は,第1引用例ないし第4引用例記載の発明とは,その構
成が明らかに異なり,しかも,この構成の差異によりその作用効果も顕著に異なる。
上記逆ネジ構造を使用することで,戻しトルクが締め付けトルクより大きくなり,
これは,当業者にとって自明の範囲ではないし,本願発明に係る緩み止め構造にあ
っては,メンテナンスにおいて正確なトルク締めが可能であり,取り付け取り外し
が簡単である。
したがって,本願発明は,当業者が上記引用例の記載技術に基づいて容易になし
得る程度のものではない。
()本願発明の効果の優位性は,試験の結果によっても明らかである。3
原告は,ロックナットの内周面に形成されたねじを正ねじとし,かつ,並目ねじ
に形成した試験サンプルを作成した。これは,本願発明の実施品をもとに引用発明
に近づけるようにしたため,ロックナットの大きさがスパナ係止部より大きい点,
ロックナット係止部がテーパー状になっていない点,ロックナットにはボルトが螺
合されていない点において,第1引用例のボルトとナットとは構成が異なる。そし
て,本願発明の実施品と,試験サンプルの緩み止めナットについて,高速ねじ弛み
試験機の加振台の上に加振対象物を固定する筒状の振動バーレルを配設し,この振
動バーレルに,一方向からボルトを略水平に挿入し,振動バーレルの他方向にナッ
ト部材(下ナット)をボルトの軸部の先端に螺合し,ナット部材のロックナット係
止部にロックナット(上ナット)を螺合して,同条件で,緩み構造に対する振動試
験を行った。そして,この試験結果(甲10)によれば,ナット部材の雄ねじのね
じ山を逆ねじに,ねじ山のピッチを細目ねじにすることで,下ナットの戻しトルク
が大きくなり,その条件を欠くと下ナットの戻しトルクが小さくなることは明らか
であり,本願発明のボルト・ナットの緩み止め構造には,緩みに対して優位性があ
ることが明らかである。
()被告は,第2引用例に接した当業者であれば,ナット2の外周面である雄4
ねじ2aと内周面である雌ねじ2bを逆向きのねじとすれば,ナット1がナット2
を制御して,確実な緩み止めが行われることは容易に認識できる事項である旨主張
するが,理由がない。
第2引用例に基づいた緩み止めナットを用いた場合,振動させると,凸型ナット
と凹型ナットとについては緩み止めの役割を果たすが,凸型ナットの雌ねじと凹型
ナットの小径の雌ねじには,同じ方向のねじ山が形成されているから,ボルトとナ
ットについての緩み止めの役割を果たすことができない。これと異なり,本願発明
は,ロックナットの内周面に形成された雌ねじには,ナット部材のロックナット係
止部に形成された雄ねじが螺合されており,ボルトは螺合されていないから,本願
発明に基づいてロックナットを用いた場合において,振動させると,ナットが締め
付けられ,ボルトに対する緩み止めがされる。
本願発明は,第2引用例に記載の発明と比較してもその構成が明らかに異なり,
第2引用例の凸ナットの逆ねじ構造はナット同士の緩み止めのために設けられたも
のにすぎず,第2引用例の逆ねじ構造を目的が異なる第1引用例に適用すべき示唆
はないし,構成の差異によりその作用効果についても顕著に異なる。
()被告は,引用発明に対し,第3引用例及び第4引用例に記載された技術的5
事項の適用を試みることは,当業者であれば当然のことである旨主張するが,理由
がない。
第3引用例に基づいたメインナットとサブナットとの取付構造に振動を与えると,
メインナットとサブナットとについて,細目ねじを形成しているため緩み止め効果
はあるが,ナットとボルトとについては,第2引用例の場合と同様,緩み止めの役
割は果たさない。また,第4引用例に基づいた外ナットと内ナットとの取付構造に
振動を与えると,外ナットと内ナットとは,細目ねじを形成しているため緩みにく
くなっているが,緩み止めの効果はわずかしかないし,内ナットと取付軸とについ
ても緩み止めの効果はない。そして,第3引用例,第4引用例には,第1引用例へ
の組合せへの動機付け,示唆はない。
さらに,本願発明は,ロックナットの厚さがスパナ係止部のそれより厚くなって
いるとの特徴を有する。この特徴は,ボルト・ナットの締結構造に振動や衝撃が与
えられたときの衝撃をロックナットに負わせることを目的としている。衝撃により
ロックナットが緩むと,ロックナットの内周面に形成されたねじは逆ねじになって
いるため,ボルトとナットとが締め付けられ,その結果,ボルト・ナットの緩み止
め効果に優位性を持たせることができ,この点について,第3引用例,第4引用例
ともに記載はない。
したがって,本願発明は,第3引用例,第4引用例に記載の発明とはその構成が
明らかに異なり,しかも,この構成の差異によりその作用効果についても顕著な相
違点を有していて,第1引用例と第3引用例,第4引用例を組み合わせても本願発
明の構成に想到することはできない。
第4被告の反論
1取消事由1(顕著な効果の看過)に対して
()原告は,第1引用例ないし第4引用例は,いずれも,本願発明に係るロッ1
クナット及びナット部材を開示するものではない旨主張する。
しかし,原告が主張する本願発明の構成のうち,ロックナットがテーパー状内周
ネジ面を有しており,ロックナットがボルトに螺合するのではなくこのテーパー面
でスリット入りのナット部材のロックナット係止部を締め付けることについては,
第1引用例に記載されていて,ロックナット係止部の雄ねじとナット部材の雌ねじ
とが逆方向のネジであることについては,審決は,相違点2として挙げて,相違点
2に係る本願発明に構成に想到することが容易であるかを検討している。
そして,第2引用例に接した当業者であれば,ナット2の外周面である雄ねじ2
aと内周面である雌ねじ2bを逆向きのねじとすれば,ナット1がナット2を制御
して,確実な緩み止めが行われることは容易に認識できる事項であるから,引用発
明の「締付ナット1」及び「戻り止ナット7」においても,確実な緩み止めを行う
ために,第2引用例に記載された技術的事項の適用を試みることは,当業者であれ
ば当然のことである。
そして,原告が主張する,本願発明に係るロックナットではナット部材によって,
より強固に螺合される点も,第2引用例に記載された「逆向きのねじ」に関する技
術的事項から,当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえ
ない。
また,原告は,本願発明は,ナット部材のロックナット係止部をストレートに形
成したために,有効に緩み止め効果を発揮する旨主張している。
しかし,本願発明は,「上記ナット部材は,・・・軸方向の一端に向かって先細
り状またはストレートに形成されたロックナット係止部」を有するのであるから,
ナット部材のロックナット係止部をストレートに形成したものと限定的に解釈する
のは誤りであり,先細り状に形成されたロックナット係止部が第1引用例に記載さ
れていることは明らかである。
さらに,原告は,本願発明は,ピッチの小さい細目ねじを使用すること,ロック
ナット係止部の厚さをスパナ係止部のそれより厚くすることにより接触面積を大き
くして緩み止め効果を高めている旨主張する。
しかし,第3引用例及び第4引用例に接した当業者であれば,ナットの内周面の
ねじより外周面のねじピッチを小さくすること,すなわち,ナットの内周面を並目
ねじとし,外周面を細目ねじとすることにより,よりナットは緩まないことは容易
に認識できる事項であるから,引用発明の「締付ナット1」においても,確実な緩
み止めを行うために,第3引用例及び第4引用例に記載された技術的事項の適用を
試みることは,当業者であれば当然のことである。また,ロックナット係止部の厚
さをスパナ係止部のそれより厚くすることにより接触面積を大きくして緩み止め効
果を高めている点は,技術常識であって格別なものではない。そして,本願発明が,
上記の構成により,接触面積を大きくして緩み止め効果を高める点も,第3引用例
及び第4引用例に記載された「ピッチ」に関する技術的事項並びに技術常識から,
当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。
()原告は,本願発明は,逆ネジ構造を使用することで,戻しトルクが締め付2
けトルクより大きくなり,これは,当業者にとって自明の範囲ではないとして,本
願発明が顕著な効果を奏する旨主張する。
しかし,原告が主張する本願発明の効果は,引用発明及び第2引用例に記載され
た「逆向きのねじ」に関する技術的事項並びに第3,第4引用例に記載された「ピ
ッチ」に関する技術的事項,さらには技術常識から,当業者であれば予測できる程
度のものであって格別なものとはいえない。
また,明細書において,本願発明の試験結果が示されているが,これは,本願発
明と六角ナット,Uナット等との比較であって,少なくとも公知技術である第1引
用例に記載されたものとの比較ではないので,この試験結果から直ちに,本願発明
に顕著な効果があるとはいえない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(顕著な効果の看過)について
()原告は,「本願発明の効果は,引用発明,及び第2引用例乃至第4引用例1
に記載された技術的事項から,当業者であれば予測できる程度のものであって格別
なものとはいえない。」とした審決の判断を争う。
()原告は,第1引用例ないし第4引用例は,いずれも,本願発明に係るロッ2
クナットおよびナット部材を開示するものではなく,本願発明は,第1引用例ない
し第4引用例記載の発明とは,その構成が明らかに異なって,その効果が顕著に異
なる旨主張する。
ア原告は,本願発明について,まず,ナット部材に,ボルトを一方向に回転
させて螺合し,ついで,ナット部材のロックナット係止部に,ロックナットを上記
とは逆回りに螺合することにより,振動や衝撃が付加されたとき,ナット部材は緩
もうとするが,ロックナットがナット部材に対して締め付ける結果,ナット部材の
ボルトに対する緩み止めがされる旨主張する。
ここで,第2引用例には,以下の記載がある。
「【従来の技術】従来,緩み止ダブルナットとして,例えば特公昭48−257
00号公報に示されるように,凹形ナットと凸形ナットとで構成したものがある。
その一例を図7に示す。すなわち,内周に左右逆向きの大小の雌ねじ51a,51
bを設けた1個の凹形ナット51に,外周に雄ねじ52aを切った1個の凸形ナッ
ト52をねじ込んで構成される。各ナット51,52は,外形を六角ナットあるい
は軸受用ナットタイプとし,次のように締め付けを行う。まず,凹形ナット51と
凸形ナット52とを,互いの内側の雌ねじ51b,52bのつる巻き線が一致する
ように,外側の雄ねじ52aと雌ねじ51aとを利用して一体化する。この一体化
したものを,ボルト(あるいはねじ付シャフト)53に螺合する。次に,被締結材
54を充分に締め付けた後,凹形ナット51を若干ねじ戻して緩み止めする。この
ダブルナットによると,両ナット51,52がボルト53と逆向きの雄ねじ52a
で螺合しているため,確実な緩み止めが行われる。すなわち,ボルト53が右ねじ
であるとすると,左に回ることにより緩むのであるが,左ねじの雄ねじ52aと雌
ねじ51aとの螺合のために,左回転に強い抵抗を示す。つまり,凹形ナット51
の右ねじの雌ねじ51bと左ねじの雌ねじ51aとが相互に凸形ナット52を制御
して,その戻り回転を阻止する。そのため,振動や衝撃に対して強い緩み止め効果
が得られる。」(段落【0002】∼【0004】)
これによれば,本件優先日より前に,緩み止めダブルナットとして,ボルトに螺
合するナット内周面の雌ねじとは逆ねじ方向のねじにより2個のナットを螺合し,
一方のナットが緩む方向に回転するような振動が与えられたときに他方のナットが
その回転を阻止することにより,振動や衝撃が付加されても,ナット部材がボルト
に対して緩み止め効果を奏することが知られていたと認められる。
そして,このような構成とその効果が知られていたとき,引用発明に対し,互い
に螺合する二つのナット(ナット部材とロックナット)を用いたボルト・ナットの
緩み止め構造を有するものである点で共通性を有する第2引用例記載の技術を適用
して,相違点2に係る本願発明の構成とすれば,その効果として振動や衝撃に対す
る緩み止め効果が得られることは,当業者が当然に予測できるようなものであると
認められる。
イ原告は,ナット部材のロックナット係止部をストレートに形成したため,
ロックナットが螺合された場合にその締め付け力が大きくなって,有効に緩み止め
効果を発揮し,この点は,各引用例のいずれにも示唆されていない旨主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,ナット部材のロックナット係止部につ
いて「軸方向の一端に向かって先細り状またはストレートに形成された」と記載さ
れていて,本願発明のロックナット形成部の形状は,先細状に形成したものとスト
レートに形成したものが含まれることが明らかであるから,ロックナット係止部が
ストレートに形成されるものに限定されることを前提として,本願発明の効果をい
う主張は,採用の限りではない。
ウ原告は,本願発明のナット部材のロックナット係止部の外周面に形成され
ている雄ねじは細目ねじであり,細目ねじは,並目ねじよりもねじ山のピッチが小
さいため,ナット部材の外周面とロックナットの内周面との接触面積が大きくなり,
並目ねじよりも細目ねじの方が緩み難くなっている旨主張する。
本願発明のナット部材のロックナット係止部の外周面に形成されている雄ねじに
細目ねじを用いることにより,並目ねじよりねじ山のピッチが小さくなり,「細目
ねじは,並目ねじよりもねじ山のピッチが小さい。ピッチが小さいと,ナット部材
の外周面とロックナットの内周面との接触面積が大きくなる。」(平成19年5月
21日付け手続補正書による補正後の明細書〔甲9。以下「本件明細書」とい
う。)の段落【0007】)ことにより,並目ねじによる場合よりも緩み難くなる
と認められる。しかし,ねじ山のピッチが小さい細目ねじにおいて,単位面積当た
りの接触面積が大きくなることによって,並目ねじより緩み難くなるという効果が
得られることは技術常識であって,原告が主張する細目ねじを使用することによる
効果も,当業者には本件優先日には自明であったこの技術常識である効果をいうも
のというほかなく,同構成に係る効果について,これを格別顕著なものであるとす
ることはできない。
エ原告は,ロックナット係止部の厚さをスパナ係止部のそれよりも厚くして
いるため,ロックナット及びロックナット係止部外周の細目ねじ同士の接触面積が
さらに大きくなって,より強固な結合を確保することができる旨主張する。
本件明細書には,「ロックナット13の軸方向の厚み(スパナ係止部の幅)を大
きくすると,これが螺合するナット部材12のロックナット係止部14の外周面1
6と,ロックナット13の内周面18との接触面積が大きくなる。よって,ボルト
・ナット緩み止め構造の緩み止めが強固になる。」(段落【0010】)との記載
があり,ロックナットの軸方向の厚みを大きくして,ナット部材とロックナットと
の接触面積が大きくなり,緩み止めが強固になることが記載されている。
しかし,ロックナットの軸方向の厚みを大きくするとロックナットとナット部材
の接触面積が大きくなること,それにより,緩み止めが強固になることは当業者に
は当然に予想される効果である。引用発明において,引用発明のロックナット(戻
り止ナット7)の厚みをどのようなものとするかは,設計上当然決定されるべき事
項であり,その厚みを大きくすることは当業者が設計上の必要に応じて適宜なし得
る程度のことといえることに,上記のように,原告が主張する構成に係る効果は,
当業者には当然に予想される効果であることを考慮すると,原告が本願発明の効果
として主張する効果について,これを顕著な効果と認めることはできない。
オ原告は,本願発明は,メンテナンスにおいて正確なトルク締めが可能で,
取り付け取り外しが簡単である旨主張するが,その効果は,本件明細書に記載され
ているものではないし,本願発明の構成をとることにより当業者が予測し得るもの
とは異なる,格別の効果を奏するものと認める根拠はない。
そして,原告は,本願発明は,第1引用例ないし第4引用例記載の発明とは,そ
の構成が明らかに異なって,その効果が顕著に異なる旨主張するところ,本願発明
と第1引用例ないし第4引用例記載の発明とは構成が異なること,それに伴い効果
が異なることは認められるものの,原告が本願発明の効果として主張するところは,
上記のとおり,いずれも当業者に予測できなかったような顕著な効果とはいえない
ものであり,かつ,原告が主張する上記のそれぞれの効果を奏するための構成を組
み合わせたことによって,それら個々の効果を併せることにより予測できる効果と
は異なった,顕著な効果が得られたことも認められず,本願発明が奏する効果につ
いて,これを顕著な効果と認めることはできない。
()原告は,本願発明の効果の優位性は,試験の結果によっても明らかである3
旨主張する。
ア本件明細書及び甲10によれば,本願発明の実施品をもとにして,ロック
ナットの内周面に形成されたねじを正ねじとし,かつ,並目ねじに形成した試験サ
ンプルと,本願発明の実施品について,緩み構造に対する所定の振動試験を行った
ところ,以下の結果を得たことが認められる。
試料名締付ロックナットの雄ねロックナットの雄下ナットの
トルクじのねじ山の向きねじのねじ山のピ戻しトルク
ッチ(N・m)
本願発明40逆ねじ細目ねじ49.3
本願発明50逆ねじ細目ねじ63.8
試験サンプル40正ねじ並ねじ46.8
試験サンプル50正ねじ並ねじ20.0
イ上記アによれば,ナット部材の雄ねじのねじ山を逆ねじとして,ねじ山の
ピッチを細目ねじにした本願発明の実施品は,ナット部材の雄ねじのねじ山を正ね
じとして,ねじ山のピッチを並目ねじとした試験サンプルに対し,緩み止めについ
て,優れた効果を発揮することが認められる。
ウしかし,前記()アのとおり,本件優先日より前に,緩み止めダブルナッ2
トとして,ボルトに螺合するナット内周面の雌ねじとは逆ねじ方向のねじにより2
個のナットを螺合し,一方のナットが緩む方向に回転するような振動が与えられた
ときに他方のナットがその回転を阻止することにより,振動や衝撃が付加されても,
ナット部材がボルトに対して緩み止め効果を奏することが知られていたと認められ
ること,同ウのとおり,ねじ山のピッチが小さい細目ねじにおいて,単位面積当た
りの接触面積が大きくなることによって,並目ねじより緩み難くなるという効果が
得られることは技術常識であることからすると,ナット部材の雄ねじのねじ山を逆
ねじとして,ねじ山のピッチを細目ねじにした本願発明の実施品は,ナット部材の
雄ねじのねじ山を正ねじとして,ねじ山のピッチを並目ねじとした試験サンプルに
対し,緩み止めについて,優れた効果を発揮することが認められるとしても,これ
は,当業者にとって当然予測可能なものというほかなく,このような効果について,
顕著な効果を奏するものであるということはできない。
()原告は,被告が,第2引用例に接した当業者であれば,ナット2の外周面4
である雄ねじ2aと内周面である雌ねじ2bを逆向きのねじとすれば,ナット1が
ナット2を制御して,確実な緩み止めが行われることは容易に認識できる事項であ
る旨主張するのに対し,被告の主張に理由がない旨主張する。
そして,原告は,第2引用例に基づいた緩み止めナットを用いた場合,振動させ
ると,凸型ナットと凹型ナットとについては緩み止めの役割を果たすが,凸型ナッ
トの雌ねじと凹型ナットの小径の雌ねじには,同じ方向のねじ山が形成されている
から,ボルトとナットとについての緩み止めの役割を果たすことができず,第2引
用例の凸ナットの逆ねじ構造はナット同士の緩み止めのために設けられたものにす
ぎず,第2引用例の逆ねじ構造を目的が異なる第1引用例に適用すべき示唆はない
し,構成の差異によりその作用効果についても顕著に異なる旨主張する。
確かに,第2引用例に記載された技術そのものは,本願発明のものと構成が異な
るといえるものである。しかし,引用発明と第2引用例に開示された技術は,とも
に,互いに螺合する二つのナット(ナット部材とロックナット)を用いたボルト・
ナットの緩み止め構造を有するものであるという共通性を有すること,引用発明に
おいても確実な緩み止め効果を得ることは当業者にとって自明の課題であり,その
課題を解決するものとして第2引用例に開示された技術が知られていたといえるこ
とを考慮すると,当業者は,引用発明の構成に対して,上記の共通性を有し,また
引用発明における課題を解決するものといえる第2引用例に開示された技術を適用
して,相違点2に係る本願発明の構成に想到することは容易にできたものと認めら
れる。
()原告は,被告が,引用発明に対し,第3引用例及び第4引用例に記載され5
た技術的事項の適用を試みることは,当業者であれば当然のことである旨主張する
のに対し,被告の主張に理由がない旨主張する。
ア原告は,第3引用例に基づいたメインナットとサブナットとの取付構造に
振動を与えると,メインナットとサブナットとについて,細目ねじを形成している
ため緩み止め効果はあるが,ナットとボルトとについて,第2引用例の場合と同様
緩み止めの役割は果たさず,また,第4引用例に基づいた外ナットと内ナットとの
取付構造に振動を与えると,外ナットと内ナットとについて,細目ねじを形成して
いるため,緩みにくくなっているが,緩み止めの効果はわずかしかないし,内ナッ
トと取付軸とについても緩み止めの効果はなく,そして,第3引用例,第4引用例
には,第1引用例への組合せへの動機付け,示唆はない旨主張する。
しかし,第3引用例及び第4引用例について,細目ねじを採用したことによる緩
み止めの効果は原告主張のとおりの関係において生じるとしても,前記のとおり,
ねじ山のピッチが小さい細目ねじにおいて,単位面積当たりの接触面積が大きくな
ることによって,並目ねじより緩み難くなるという効果が得られることは技術常識
であること,第3引用例及び第4引用例は,互いに螺合する二つのナット(ナット
部材とロックナット)を用いたボルト・ナットの締結構造を有する点においては引
用発明と共通すること,引用発明においても確実な緩み止め効果を得ることは当業
者にとって自明の課題であったことを考慮すると,当業者は,第3引用例及び第4
引用例において開示されているような細目ねじについての技術的事項を,引用発明
の突出部3の外螺子5のねじについて適用することを容易になし得たということが
できる。
イ原告は,本願発明は,ロックナットの厚さがスパナ係止部のそれより厚く
なっているとの特徴を有し,この特徴は,ボルト・ナットの締結構造に振動や衝撃
が与えられたときの衝撃をロックナットに負わせることを目的としていて,衝撃に
よりロックナットが緩むと,ロックナットの内周面に形成されたねじは逆ねじにな
っているため,ボルトとナットとが締め付けられる結果,ボルト・ナットの緩み止
め効果に優位性を持たせることができ,この点について,第3引用例,第4引用例
ともに記載はない旨主張する。
しかし,本件明細書(甲9)には,「ロックナット13の軸方向の厚み(スパナ
係止部の幅)を大きくすると,これが螺合するナット部材12のロックナット係止
部14の外周面16と,ロックナット13の内周面18との接触面積が大きくなる。
よって,ボルト・ナット緩み止め構造の緩み止めが強固になる。」(段落【001
0】)との記載があり,ロックナットの軸方向の厚みを大きくすることにより,ナ
ット部材とロックナットとの接触面積が大きくなり緩み止めが強固になることが記
載されているが,ロックナットの軸方向の厚みとナット部材のスパナ係止部の厚み
との関係やその関係に基づく効果が記載された部分は存在しない。他方,本件明細
書には,上記記載に続いて,「ボルト11,ナット部材12,ロックナット13の
材質,寸法(厚さ,長さ,幅)などは適宜に構成することができることはいうまで
もない。」(段落【0010】)との記載がある。
このことにも照らすと,ロックナットの軸方向の厚さは,ロックナットとナット
部材との接触面積にかかわるものであるから,当業者はそのような観点などを考慮
して最適な設計を行うものであるが,その結果,スパナ係止部のそれより厚くなる
ことも当然にあり得るところであって,ロックナットの軸方向の厚みとナット部材
のスパナ係止部の厚みとの関係は,当業者が適宜なし得る設計事項といえるもので
ある。したがって,ロックナットの軸方向の厚みとナット部材のスパナ係止部の厚
みの点について,第3引用例及び第4引用例に記載そのものがないことは,相違点
3に係る本願発明の構成に当業者が容易に想到できたとの結論を左右するものでは
ない。
ウ原告は,本願発明は,第3引用例,第4引用例に記載の発明とはその構成
が明らかに異なり,しかも,この構成の差異によりその作用効果についても顕著な
相違点を有していて,第1引用例と第3引用例,第4引用例を組み合わせても本願
発明の構成に想到することはできない旨主張する。
しかし,本願発明と第3引用例及び第4引用例に記載の発明との構成が異なり,
また,構成の差異によりその作用効果についても相違するとしても,本願発明の効
果を当業者が予測できない格別顕著なものとまではいうことはできないなど,前示
したところによれば,原告の主張は採用の限りではない。
()したがって,原告主張の取消事由は採用できない。6
2以上によれば,原告主張の取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却す
ることとする。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官塚原朋一
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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