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         主    文
       原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
       本件を富山地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人青島明生,同井上善雄,同今村元,同大川隆司,同金川治人,同新穂
正俊,同高橋利明,同谷合周三,同土橋実,同野本夏生,同平井宏和,同深田正人
,同藤森克美,同松葉謙三,同山本直俊の上告受理申立て理由について
 1 本件は,富山県(以下「県」という。)の住民である上告人らが,平成3年
5月21日に和田川について,同5年6月30日に子撫川について,いずれも県と
被上告人B電機株式会社(以下「B電機」という。)との間で締結された水道管理
所の監視制御装置更新工事の請負契約(以下「本件各契約」という。)は,被上告
人らが談合をした結果に基づき受注予定者とされた被上告人B電機において県の実
施した指名競争入札に応札して落札の上締結されたものであり,県は,これにより
談合がなければ形成されたであろう代金額と契約代金額との差額相当の損害を被っ
たから,被上告人らに対し,不法行為等による損害賠償請求権を有しているにもか
かわらず,その行使を違法に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という。)
242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,怠る事実に係る相手方である被
上告人らに対し,損害賠償を求める事案である。
 記録によれば,上告人らは,平成7年11月27日,県の監査委員に対し,被上
告人らは上記談合という共同不法行為により本件各契約の契約金額を不当につり上
げて県に上記差額相当の損害を与えたのであるから,県の地方公営企業の管理者は
,損害賠償請求権を行使して県の被った損害を補てんする措置を講ずべきであるの
に,これを怠っているとして,措置を講ずべきことを勧告することを求める監査請
求をしたというのである。
 2 原審は,次のとおり判断して,本件訴えを不適法として却下した第1審判決
を是認し,上告人らの控訴を棄却した。
 (1) 業者が談合したことのみによって,地方公共団体に損害が発生し,地方公
共団体が業者に対して不法行為による損害賠償請求権を取得するものではない。業
者の談合に基づき不正な入札価格が形成され,その価格で落札した業者が地方公共
団体から工事を受注することにより,地方公共団体に損害が発生するのである。そ
して,業者と地方公共団体との間の請負契約の締結は,当該地方公共団体の財務会
計上の行為にほかならず,その違法性は客観的に判断すべきものである。
 (2) 上告人らの主張を前提とすれば,本件談合は違法であるから,これに基づ
き落札した被上告人B電機との間で県がした本件各契約の締結行為も,客観的に違
法というべきである。したがって,本件監査請求は,財務会計職員の特定の財務会
計上の行為の違法を問題としていることに帰する。そうすると,上告人らのした本
件監査請求は,財務会計上の行為が違法であることに基づき発生する実体法上の請
求権の行使を怠る事実に係るものであるから,最高裁昭和57年(行ツ)第164
号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁の示した法理に従
い,法242条2項の規定が適用されるというべきである。
 (3) 上記法理が適用される監査請求というべきかどうかは,監査請求人の法律
構成によるのではなく,客観的に判断すべきものである。そして,被上告人らの談
合による不法行為は本件各契約締結によって初めて損害が具体化するものであるか
ら,県の被上告人らに対する損害賠償請求権が成立し,その行使を怠っているとす
るには,その前提として本件契約の締結が必要であり,談合による不法行為と本件
契約締結行為とは必然的に結び付いている関係にある。
 (4) 以上によれば,本件監査請求は,財務会計上の行為である本件各契約締結
の日から法242条2項本文の規定(以下「本件規定」という。)が定める1年の
監査請求期間を経過した後にされたものであって,不適法であり,本件訴えも不適
法である。
 3 しかしながら,本件監査請求に本件規定が適用されるとした原審の判断は,
是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 法242条1項は,普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の違
法,不当な財務会計上の行為又は怠る事実につき監査請求をすることができるもの
と規定しているところ,本件規定は,上記の監査請求の対象事項のうち行為につい
ては,これがあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をするこ
とができないものと規定している。これは,財務会計上の行為は,たとえそれが財
務会計法規に違反して違法であるか,又は財務会計法規に照らして不当なものであ
るとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくこと
は,法的安定性を損ない好ましくないことから,監査請求をすることができる期間
を行為が完了した日から1年間に限ることとするものである。これに対し,上記の
対象事項のうち怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず,住民
は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができるものと解される。
これは,本件規定が,継続的行為について,それが存続する限りは監査請求期間を
制限しないこととしているのと同様に,怠る事実が存在する限りはこれを制限しな
いこととするものと解される。
 しかしながら,いかなる場合にも上記の原則を貫かなければならないと解すべき
ものではなく,本件規定の法意に照らして,その例外を認めるべき場合もあると考
えられる。すなわち,監査請求が実質的には財務会計上の行為を違法,不当と主張
してその是正等を求める趣旨のものにほかならないと解されるにもかかわらず,請
求人において怠る事実を対象として監査請求をする形式を採りさえすれば,上記の
期間制限が及ばないことになるとすると,本件規定の趣旨を没却することになるも
のといわざるを得ない。そして,監査請求の対象として何を取り上げるかは,基本
的には請求をする住民の選択に係るものであるが,具体的な監査請求の対象は,当
該監査請求において請求人が何を対象として取り上げたのかを,請求書の記載内容
,添付書面等に照らして客観的,実質的に判断すべきものである。
 このような観点からすると,怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,
特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法で
あって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とす
るものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するので
あるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実
の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば
,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為の
あった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(前掲最高
裁昭和62年2月20日第二小法廷判決参照)。しかし,怠る事実については監査
請求期間の制限がないのが原則であり,上記のようにその制限が及ぶというべき場
合はその例外に当たることにかんがみれば,【要旨1】監査委員が怠る事実の監査
を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなけれ
ばならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断
をしなければならない関係にはない場合には,これをしなければならない関係にあ
った上記第二小法廷判決の場合と異なり,当該怠る事実を対象としてされた監査請
求は,本件規定の趣旨を没却するものとはいえず,これに本件規定を適用すべきも
のではない。
 (2) 本件監査請求の対象事項は,県が被上告人らに対して有する損害賠償請求
権の行使を怠る事実とされているところ,当該損害賠償請求権は,被上告人らが談
合をした結果に基づいて被上告人B電機において県の実施した指名競争入札に応札
して落札の上県と不当に高額の代金で請負契約を締結して県に損害を与える不法行
為により発生したというのである。これによれば,【要旨2】本件監査請求を遂げ
るためには,監査委員は,県が同被上告人と請負契約を締結したことやその代金額
が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないのであるが,県の同契約締
結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初め
て県の被上告人らに対する損害賠償請求権が発生するものではなく,被上告人らの
談合,これに基づく被上告人B電機の入札及び県との契約締結が不法行為法上違法
の評価を受けるものであること,これにより県に損害が発生したことなどを確定し
さえすれば足りるのであるから,本件監査請求は県の契約締結を対象とする監査請
求を含むものとみざるを得ないものではない。したがって,これを認めても,本件
規定の趣旨が没却されるものではなく,本件監査請求には本件規定の適用がないも
のと解するのが相当である。前掲第二小法廷判決の示した法理は,本件に及ぶもの
ではない。
 4 以上によれば,本件監査請求を不適法とし,本件訴えを却下すべきものとし
た原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は
理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消した上で,本
件を第1審に差し戻すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田
豊三)

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