弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
   1 原判決を取り消す。
   2 被控訴人は,控訴人有限会社百満ボルト福井南に対し,金100万円及びこれ
に対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
   3 被控訴人は,控訴人有限会社百満ボルト小松に対し,金100万円及びこれに
対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
   4 控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
   5 訴訟費用は第1,2審を通じこれを20分し,その1を被控訴人の負担とし,その
余は控訴人らの負担とする。
   6 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人有限会社百満ボルト福井南に対し,金2000万円及びこれ
に対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
  (3) 被控訴人は,控訴人有限会社百満ボルト小松に対し,金2000万円及びこれに
対する平成11年6月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
  (5) 第(2),第(3)項につき仮執行宣言
 2 被控訴人
  (1) 本件控訴をいずれも棄却する。
  (2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
 1本件の事案の概要は,次のとおりである。
  (1) 控訴人有限会社百満ボルト福井南は福井市内で「百満ボルト福井南店」の名称
で,また,控訴人有限会社百満ボルト小松は石川県小松市内で「百満ボルト小
松店」の名称で,それぞれ家庭用電化製品の販売等を業とする会社であり,い
ずれも株式会社サンキュー高島屋及び株式会社百満ボルトを中心とする3Qグ
ループの系列会社である(以下,「百満ボルト福井南店」を「控訴人福井南店」,
「百満ボルト小松店」を「控訴人小松店」という。)。他方,被控訴人は,電化製品
の販売等を目的とする会社であり,家電量販店を全国的に展開し,福井市内で
「ヤマダ電機江守中町店」,小松市内で「ヤマダ電機小松店」の各名称の家電量
販店を経営している。
  (2) 本件は,被控訴人が上記福井市内と小松市内の両店舗において,控訴人らの
販売する商品の店頭価格と被控訴人の販売する同一商品の店頭価格とを比較
表示し,被控訴人の販売価格の方が廉価である旨の広告(比較広告)をしたこと
について,控訴人らが被控訴人に対し,上記比較広告で表示された控訴人らの
商品の店頭価格は虚偽であり,これは不正競争防止法(平成11年法律第33号
による改正前のもの)2条1項11号の不正競争(競争関係にある他人の営業上
の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為)に該当すると主張し
て,同法4条に基づき,それぞれ2000万円の損害賠償とこれに対する訴状送
達の日の翌日である平成11年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 2 原審は,被控訴人が虚偽の店頭価格を表示していたとは認められないとして,控
訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで,これを不服とする控訴人ら(原審原告
ら)が本件控訴に及んだ。なお,控訴人らは,当審において,被控訴人の上記比較
広告は民法上の不法行為を構成すると主張し,これを予備的請求原因として追加
した。
 3 本件の前提となる事実,争点及び争点に関する当事者双方の主張は,次項におい
て,当審における当事者双方の新たな主張を付加するほかは,原判決「第二 事
実及び理由」の二,三に記載のとおりであるから,これを引用する。
 4 当審における新たな主張
  (1) 控訴人ら
  ア 公正取引委員会が比較広告について昭和62年4月21日に発表した「比較広
告に関する景品表示法上の考え方」と題する解釈指針(ガイドライン)によれ
ば,比較広告が妥当と認められるためには,① 内容が客観的に実証されて
いること,② 引用されている数値や事実が正確かつ適正であること,③ 比
較の方法が公正であること,の3要件を充足することが必要であるとされてい
る。
  イ これに対し,被控訴人がした比較広告は,「100満ボルトさん○○円を,ヤマ
ダは更に安くして○○円」とか,「100満ボルトさんの○○円を,さらに安くして
○○円」などと表示して,特定の競争者である控訴人らを名指したうえ,その
商品の価格が高いことを強調して,顧客を勧誘している。これでは,仮にそれ
らの表示価格が正しいものであったとしても,被控訴人の店頭を訪れる一般
客が控訴人らの商品価格は高いという悪印象(イメージダウン)を抱くのは必
至である。そして,このような悪印象(イメージダウン)によって,控訴人ら各店
の売上高に影響が及ぶことも明らかである。
また,被控訴人は,一応,控訴人らの商品価格の調査日時を表示している
が,その表示は,極めて小さな字で,店頭を訪れる一般客には目に入りにくい
大きさである。一般の客は,このような小さな字の調査日時をいちいち確かめ
て商品購入の判断をするとは考えられないから,一般客がこの比較広告によ
って受ける印象は,単にヤマダ電機に比べると百満ボルトの商品は高いとい
うものになってしまう。しかも,控訴人らの商品の店頭価格は頻繁に値下げさ
れるものであるから,値下げされれば,その時点で,比較表示は意味を失い,
一般客に非常な誤解を与えることとなる。
ウ 以上のように,被控訴人の行った比較広告は,公正取引委員会の前記ガイ
ドラインの要件を満たさない不公正,不適切なものであって,違法なものであ
り,不法行為を構成する。
    被控訴人の上記のような違法な比較広告によって,控訴人らは,営業上の信
用を毀損され,売上高の減少に止まらず,顧客らへの悪印象(イメージダウ
ン)という無形の被害も被っている。したがって,仮に不正競争防止法に基づく
請求が認められないとしても,被控訴人は,控訴人らに対して,営業上の信用
毀損による有形・無形の損害を賠償すべき責任がある。
  (2) 被控訴人
  ア いわゆる比較広告は,一般消費者が商品を選択するにあたって,同種の商品
の品質や取引条件などを適切に比較しうるための具体的情報を提供するもの
であり,消費者にとって有益であるから,比較広告それ自体が違法性を帯び
るというものではない。
  イ 家電量販店においては,競合他店の価格調査を踏まえて頻繁に店頭価格が
変更されるから,被控訴人による競合他店の価格調査後,競合店の店頭価
格が変更される可能性が常に存在している。そこで,顧客の誤認を避ける趣
旨で,被控訴人は,その運営する各店舗において競合他店の商品の店頭価
格を表示する際には,価格調査の日時を必ず明示している。
   このような被控訴人の比較表示の方法は,適正妥当なものであり,公正取引
委員会の昭和62年4月21日付け「比較広告に関する景品表示法上の考え
方」と題する解釈指針(ガイドライン)によっても,何ら問題はない。
  ウ したがって,被控訴人の比較価格表示の方法それ自体が,民法上の不法行
為を構成する違法なものであるという控訴人らの主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(被控訴人が,控訴人らの商品の販売価格につき,虚偽の表示をしたか否
か)について
  (1) 以下の事実は,当事者間に争いがない(引用した原判決の前提事実及び弁論
の全趣旨)。
   ア 被控訴人は,平成11年4月23日当時,被控訴人の江守中町店において,
   (あ) 商品①(シャープカラーTV32CFZ20)について,「100満ボルト」の店頭
価格(調査日4月23日2時)を「163,480円」,ポイント差引き価格を「15
5,306円」と,
   (い) 商品②(シャープカラーTV32CFB10)について,同店頭価格(調査日4月
23日2時)を「134,970円」,ポイント差引き価格を「128,222円」と,
   (う) 商品③(東芝カラーTV28Z3S)について,同店頭価格(調査日4月17日1
2時)を「95,780円」,ポイント差引き価格を「90,991円」と,
   (え) 商品④(東芝カラーTV28Z1D)について,同店頭価格(調査日4月23日2
時)を「101,730円」,ポイント差引き価格を「96,644円」と,
   (お) 商品⑤(シャープカラーTV29CBL600)について,同店頭価格(調査日4
月23日2時)を「58,370円」,ポイント差引き価格を「55,452円」と,
   それぞれ表示し,
  イ また,被控訴人の小松店において,
   (か) 商品⑥(ソニーステレオDHC-MD919)について,「100満ボルト」の店
頭価格(調査日不明)を「131,450円」(ただし,同数字は斜線により抹
消)と,
   (き) 商品⑦(日立ビデオ7B-BF300)について,同店頭価格(調査日4月16
日12時)を「30,870円」と,
   それぞれ表示し,いずれの各店においても,被控訴人の販売する同一商品の価
格の方が安い旨の広告(比較広告)をしていた。
  (2) そこで,被控訴人がした上記商品に関する百満ボルトの店頭価格の表示が虚偽
であるという控訴人らの主張について,判断する。
  ア まず,控訴人らは,被控訴人の江守中町店が比較表示した商品①及び商品
③については,当時控訴人福井南店では販売されていなかった旨主張する。
   (ア) これに対し,被控訴人は,上記両商品の価格は,控訴人福井南店ではな
く,同じグループ会社の百満ボルト福井本店の店頭価格であると主張す
る。なお,控訴人らは,被控訴人が表示した上記価格(前記(1)アの(あ),(う)
の価格)それ自体に誤りがあると主張しているものではなく,乙1号証の1
ないし4,甲13号証からも,上記両商品の百満ボルト福井本店の平成11
年4月17日ないし同月23日ころの店頭価格は,被控訴人が表示した上記
価格のとおりであることが認められる。
   (イ) 控訴人らは,百満ボルト福井本店の商品の価格を,単に「百満ボルト」の商
品の価格として被控訴人の江守中町店の店頭で表示することは,顧客に
対して,その表示が江守中町店と競争関係にある控訴人福井南店の商品
に関するものであると誤解させると主張する。
    なるほど,甲5号証の3,原審証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば,控
訴人福井南店と被控訴人の江守中町店とは近接した位置関係にあるのに
対し,被控訴人の江守中町店と百満ボルト福井本店は,同じ福井市内にあ
るものの,車で30分程度の距離にあることが認められる。しかしながら,所
謂「家電量販店」と呼ばれる控訴人らや被控訴人の店舗は,いずれも自動
車による来店客を販売の主たる対象者としていることは公知の事実であ
り,このことからすると,百満ボルト福井本店は,上記の距離関係にかかわ
らず,控訴人福井南店や被控訴人の江守中町店と同じ商圏に属すると推
認される。しかも,控訴人福井南店と百満ボルト福井本店とは,「百満ボル
ト」という店名を共にし,甲7号証及び弁論の全趣旨によれば,同じ3Qグル
ープの系列会社として,全国で共通のチラシによる宣伝を行っていることが
認められるのであるから,一般の顧客は,両店は同一の企業体の経営す
る店舗であると認識しているとみるのが相当である。そうすると,被控訴人
の江守中町店の店頭において,「100満ボルト」という表示がされたからと
いって,それを見た一般客が同店に近接する控訴人福井南店だけを意識
するとは,通常考え難いことである。そして,乙19号証によれば,被控訴人
の江守中町店では,比較広告をするについては,控訴人福井南店と百満
ボルト福井本店の両方を調査し,1店だけで販売されている商品について
はその店頭価格を,両方の店で販売されている商品については安い店頭
価格を,「百満ボルト」の販売価格として表示していたことが認められるか
ら,被控訴人の江守中町店が,控訴人福井南店では販売していないもの
の,百満ボルト福井本店で販売されていた上記両商品につき,その販売価
格を単に「百満ボルト」の店頭価格として表示しても,そのことをもって控訴
人福井南店に対する関係で,虚偽の価格の表示をしたと認めることはでき
ない。
   (ウ) したがって,この点に関する控訴人らの主張は,採用することができない。
  イ 次に,控訴人福井南店における商品②,④,⑤の平成11年4月23日ころ当
時の店頭価格並びに控訴人小松店における商品⑥,⑦の平成11年4月16
日又は23日ころ当時の店頭価格に関し,被控訴人が比較広告で表示した上
記価格が正確なものであったか否かについて検討する。
   (ア) 乙19号証及び原審証人Aの証言によれば,被控訴人においては,頻繁に
競合他店の価格調査を実施しており,平成11年4月当時,被控訴人の江
守中町店に勤務していたAは,同月23日にも,被控訴人福井南店と百満
ボルト福井本店の商品について,価格調査を行ったこと,Aは,同日正午こ
ろ,一人で控訴人福井南店に行き,15分から20分位の時間をかけて調査
し,その後,車で百満ボルト福井本店に行って,1時間くらい価格調査をし
たこと,その調査の方法は,調査先の店員に気付かれないように,小型の
テープレコーダーに確認した商品の機種と価格を密かに読み上げて録音す
るというものであったこと,被控訴人の江守中町店の従業員は,その日のう
ちにこの録音テープに基づき,録音された商品価格を百満ボルトの店頭価
格として,江守中町店のプライスボードに表示したこと,そして,被控訴人の
江守中町店が本件の比較広告で表示した商品①,②,④,⑤の価格は,こ
のときの調査に基づくものであることが認められる。なお,商品③の価格
は,その表示された調査日時から,同月17日の調査に基づくものと認めら
れる。
     また,乙18号証及び原審証人Bの証言によれば,被控訴人の小松店でも,
同様に競合他店の価格調査を行っていたが,平成11年4月16日正午こ
ろ,被控訴人の小松店のBは,控訴人小松店に行き,価格調査を実施した
こと,調査は,40分から50分をかけて,60から70品目の商品について行
ったこと,調査の方法は,前記江守中町店のものと同様であり,小型のテ
ープレコーダーが使用されたこと,本件の被控訴人の小松店が本件の比較
広告で表示した商品⑥と⑦の価格は,このときの調査に基づくものであるこ
とが認められる。
   (イ) これに対し,甲1号証の1ないし5,2号証の1ないし3,3号証の1,2,4号
証の1,2,7号証,乙4号証,原審及び当審証人Cの証言によれば,控訴
人らの会社でも,被控訴人の販売商品の価格調査をしていたが,被控訴人
が行っている比較広告には,控訴人らの販売する商品価格の表示に誤り
があることに気付いていたこと,そして,被控訴人が平成11年4月に株式
会社サンキュー高島屋外3名を被告として前橋地方裁判所に対し,同社の
系列販売会社(控訴人両社を含む。)が虚偽の宣伝を行ったとして,不正競
争防止法に基づく損害賠償請求訴訟を提起したことから,株式会社サンキ
ュー高島屋とともに3Qグループを構成する株式会社百満ボルトは,これに
対抗するため,被控訴人の虚偽の比較広告を理由に損害賠償請求訴訟を
提起することにしたこと,そこで,証拠を入手するため,株式会社百満ボル
トの常務取締役であるCは,平成11年4月23日午後7時ころ,2名の従業
員と共に被控訴人の江守中町店に出掛けて調査を行ったこと,店内では,
多種類の商品について百満ボルトの価格との比較広告がなされていたが,
Cは,自分が仕入れを担当しているテレビ,ビデオなどの中から,明らかに
価格が違っている商品②,④,⑤や,控訴人福井南店では販売していない
商品①,③などをそのプライスボードの部分とともに写真に撮影し,直ぐに
控訴人福井南店に戻って,同店の上記各商品(商品②,④,⑤)の店頭価
格を表示しているプライスボードを当該商品と共に,今度はフラッシュ付き
の写真機で撮影したこと,このことの報告を受けた株式会社百満ボルトのD
社長は,控訴人小松店の店長に,同様の証拠写真を撮るように指示したこ
と,この指示に基づき,控訴人小松店の従業員は,被控訴人の小松店と控
訴人小松店において,商品⑥と⑦をそのプライスボードの部分を含めてカメ
ラで撮影したことが認められる。
(ウ) そして,Cが撮影した写真(甲2号証の1ないし3)によれば,平成11年4
月23日における控訴人福井南店の各商品の店頭価格は,
 (あ) 商品②が129,470円
 (い) 商品④が91,730円
 (う) 商品⑤が57,870円
  また,控訴人小松店の従業員の撮影した写真(甲4号証の1,2)によれ
ば,同日の控訴人小松店の各商品の店頭価格は,
 (え) 商品⑥が124,950円
 (お) 商品⑦が29,870円
 であったことが認められる。
  これに対し,被控訴人が「100満ボルト」の店頭価格として表示していたの
は,江守中町店では,商品②が134,970円,商品④が101,730円,商
品⑤が58,370円であり,小松店では,商品⑥が131,450円(なお,同
価格は斜線により抹消されているが,抹消するまで,この価格が表示され
ていたことには変わりがない。),商品⑦が30,870円であったことは,前
記認定のとおりである。
  以上によれば,被控訴人が比較広告において百満ボルトの上記各商品の
店頭価格として表示した価格は,いずれも競合店である控訴人らの各店舗
の店頭価格よりも高額であることが明らかである。
(エ) これに対し,被控訴人は,控訴人ら各店舗のプライスボードを撮影した
上記各写真(甲2号証の1ないし3,甲4号証の1,2)は,価格を書き替えて
撮影した疑いがあると主張して,原審証人Cが控訴人福井南店で撮影した
フラッシュ付きカメラにつき偽証をしていること,甲2号証の3(商品⑤を撮
影したもの)に写っているテレビ画像は,控訴人福井南店で受信可能なテレ
ビ局が平成11年4月23日午後7時ころには放映していないものであること
を指摘する。
  なるほど,証人Cは,原審における証人尋問において,控訴人福井南店で
撮影に用いたカメラはオートデート機能付きの使い捨てカメラであったと証
言しているが,乙20号証によれば,当時は未だオートデート機能付きの使
い捨てカメラは販売されていなかったことが認められるから,証人Cの上記
証言は誤りであると認められる。しかし,これをもって,C証人が偽証をした
と認めるのは相当でない。けだし,控訴人福井南店での撮影に供されたカ
メラがどのようなものであったのかは,撮影された写真の信用性に何らの
影響を与えるものではなく,この点に関して,C証人が殊更に偽証しなけれ
ばならない理由があるとは認められないからである。したがって,当審にお
いて,C証人が証言したように,上記の点は同証人の単なる記憶違いであ
ったと認めるのが相当である。
  また,写真に写っているテレビ画像が平成11年4月23日午後7時ころに
は放映されていないという点についても,確かに,乙21号証の1ないし4,
22号証によれば,福井市内で受信可能な5社のテレビ局に対する調査嘱
託の結果では,商品⑤を撮影した写真(甲2号証の3)に写っているテレビ
映像が,同時間帯の自社の番組映像であることを否定するテレビ局が4
社,そうであるか識別できないとするテレビ局が1社あることが認められる。
しかし,識別不能とするテレビ局が1社存在することに加え,甲18ないし2
0号証によれば,当時,控訴人福井南店に展示されていたテレビは100以
上のチャンネルを有するスカイパーフェクトTVやディレクTVに接続すること
が可能で,商品⑤に映っている映像はこれらTVの番組である可能性を否
定することができないことが認められる。そうすると,上記テレビ局に対する
調査嘱託の結果から,直ちに甲2号証の3が平成11年4月23日午後7時
ころに撮影された写真ではないと認めることはできない。
(オ) 以上のように,被控訴人が指摘する点は,Cが撮影した控訴人福井南
店の写真の信用性を否定するに足りる事実とまではいえず,したがって,
当該写真が書き替えられたプライスボードを撮影したものであるとは認める
ことはできない。むしろ,控訴人らが当審において提出した株式会社百満ボ
ルトの平成11年5月2日付けのテレビの定番表(甲13号証,15号証,17
号証)並びに広告用のチラシ(甲14号証,16号証,22号証の1,2,23号
証の1,2,25号証,26号証,27号証の1,2,28号証の1,2)などに照
らせば,控訴人らの各店舗における上記各商品の平成11年4月当時の店
頭価格は,甲2号証の1ないし3と甲4号証の1,2に写されたとおりの価格
であったと認めるのが相当である。
(カ) そうすると,被控訴人がした比較広告における表示価格には誤りがあっ
たことになるが,それが生じた原因について考えると,前記認定のとおり,
被控訴人のした価格調査の方法は,控訴人らの店舗の従業員に気付かれ
ないようにしながら,多数の商品の機種と価格を見て,これを密かにテープ
レコーダーに吹き込むというのであるから,そこに見誤りや読み誤りが生じ
たとしても,決して不思議ではない。そして,原審証人Cの証言及び弁論の
全趣旨によれば,被控訴人の比較広告における表示価格の大部分は正確
なものであったことが窺われるから,本件のような誤りは,故意ではなく,過
失によるものと認められる。
  (3) 以上によれば,少なくとも商品②,④ないし⑦については,被控訴人がした比較
広告の表示価格に誤りがあると認められるところ,これは,不正競争防止法(平
成11年法律第33号による改正前のもの)2条1項11号の不正競争(競争関係
にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為)
に該当するというべきであるから,被控訴人は,同法4条に基づいて,この不正
競争によって控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。
 2 争点2(控訴人らの損害の有無ないし額)について
  (1) 控訴人らは,平成9年度から平成10年度にかけて,被控訴人の江守中町店,
同小松店の売上高はそれぞれ約1億円,1億7000万円増加しており,上記各
店の利益率が控訴人らと同じ約14パーセントであると仮定すると,年間でそれ
ぞれ約1400万円,約2400万円の利益の増加があったことになるので,不正
競争防止法5条1項により,これらが控訴人らの受けた損害の額と推定されると
主張する。
    しかしながら,原審証人Aの証言によれば,被控訴人の江守中町店で比較広告
の対象としている商品は,同証人が担当しているものだけでも120から130品
目にのぼり,他の者も数十品目を担当していること,また,原審証人Bの証言に
よれば,被控訴人の小松店での比較広告対象商品は,同証人が担当するもの
だけで60から70品目にのぼり,その他に数十品目を他の者が担当しているこ
とが認められ,前記のとおり,その大部分は正確な価格表示であったと認められ
るのであるから,被控訴人の江守中町店と小松店の利益の増加の全てが不正
競争行為(虚偽の比較広告)によってもたらされたということはできない。したが
って,不当競争防止法5条の規定に基づき,被控訴人の江守中町店と小松店の
利益の増加の全てが損害と推定されるという控訴人らの主張は失当である。
  (2) 次に,控訴人らは,① 控訴人福井南店,同小松店の平成9年,10年当時の売
上高はいずれも20億円余りであるところ,被控訴人の不正競争行為(虚偽の比
較広告)によりその10パーセント程度に影響があったとみるべきであるから,利
益率の約14パーセントを乗じると,控訴人らはいずれも約2800万円の損害を
受けている,或いは,② 被控訴人の不正競争行為(虚偽の比較広告)により控
訴人ら各店のイメージダウンが引き起こされ,商品の売れ残りが多くなり,これを
安く処分せざるを得なくなって,利益率が約2パーセントは減少しているので,こ
れを上記売上高に乗じると,いずれも年間約4000万円の損害を被ったことにな
る,などと主張する。
しかし,上記主張の事実は,甲7号証によっても認めるに足りず,他にこれを
認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人らの上記主張は,採用すること
ができない。
  (3) 更に,控訴人らは,仮に営業利益の減少による損害の立証が不十分であったと
しても,被控訴人の不正競争行為(虚偽の比較広告)によって,控訴人らが営業
上の信用を毀損され,損害を被っていることは明らかであり,その損害の額は,
控訴人らそれぞれにつき2800万円程度であると主張する。
    確かに,家電製品販売について競争関係にある量販店の一方が他方の店の商
品の店頭価格につき虚偽の比較広告をすれば,当該他店の営業上の信用が毀
損され,その売上高にも影響が及ぶであろうことは,容易に推測できることであ
る。しかし,その具体的損害額の算定は,極めて困難であり,本件においても,
それが立証されているということはできない。したがって,本件においては,民事
訴訟法248条の規定により,裁判所が,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結
果に基づき,相当な損害額を認定すべきである。
    そこで,これについて判断する。原審における主張によれば,控訴人らの主張す
る損害の範囲と原因事実は,本件の虚偽の比較広告の対象となった商品やそ
の広告時期に限定されるものではないが,損害の期間は1年間に限定するとい
うものである。もっとも,その期間が何時から何時までの1年間なのかについて
の具体的主張はないが,その主張の趣旨からすると,本件訴えが提起された平
成11年5月26日までの1年間を主張しているものと解される。そして,甲7号証
によれば,被控訴人の比較広告は,平成11年の5年前ころから行われていたこ
とが認められるところ,これまで認定した事実によれば,比較広告において誤っ
た価格が表示された商品が本件の商品②,④ないし⑦に限らないであろうこと
は,推測するに難くないところである。しかしながら,被控訴人がした比較広告の
商品表示価格の大部分が正確なものであったことも,既に認定したところであ
る。したがって,かかる事情並びに控訴人らがいずれも年商20億円程度の企業
であること(甲7号証),その他弁論の全趣旨や証拠調べの結果によって認めら
れる一切の事情を斟酌すれば,控訴人らの平成11年5月26日に至るまでの1
年間の損害の額は,それぞれにつき100万円と認めるのが相当である。
  (4) 以上の次第であるから,控訴人らの本訴請求は,被控訴人に対し,不正競争防
止法4条に基づいて,それぞれ100万円の損害賠償とこれに対する訴状送達の
日の翌日である平成11年6月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 3 よって,これと結論を異にする原判決を取り消すことして,主文のとおり判決する。
         名古屋高等裁判所金沢支部第1部
              裁判長裁判官   川   崎   和   夫
                 裁判官   榊   原   信   次
                 裁判官   渡   邉   和   義

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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