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判決言渡平成20年3月31日
平成19年(行ケ)第10194号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年3月24日
判決
原告インターナショナル・ビジネス・
マシーンズ・コーポレーション
訴訟代理人弁護士竹田稔
同木村耕太郎
訴訟代理人弁理士上野剛史
同太佐種一
同片岡忠彦
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人相崎裕恒
同桑江晃
同吉岡浩
同山本章裕
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2003−19006号事件について平成19年1月24日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が発明の名称を「ネットワーク・コンピュータに関する汎用の
ユーザ認証方法」とする後記特許につき国際特許出願をしたところ,日本国特
許庁から拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,請求不
成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,1997年(平成10年)2月14日の優先権(米国)を主張し
て,平成10年1月6日,名称を「ネットワーク・コンピュータに関する汎
用のユーザ認証方法」とする発明につき国際特許出願(PCT/US1998/000450,
特願平10−537635号,平成10年9月3日国際公開〔WO98/3875
9)をし,日本国特許庁に平成11年7月14日その翻訳文(平成12年〕
6月27日国内公表〔特表2000−508153。請求項の数43。以〕
下「本願」という。甲5の1∼4)をし,平成14年12月16日付けで手続
補正(請求項の数13。以下「本件補正」という。甲4)をした。これに対
し特許庁は,平成15年6月23日付けで拒絶査定をしたので,原告は,平
成15年9月29日付けで不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003−19006号事件として審理した上,
平成19年1月24日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決,。
(出訴期間として90日を附加)をし,その謄本は平成19年2月6日原告
に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,前記のとおり請求項1∼13から成るが,
このうち請求項1に係る発明の内容は下記のとおりである(以下「本願発
明」という。。)

「ユーザ認証システムを有するネットワークにして,
複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーティング・
システムを有するウェブ・サーバと,
プログラム実行リクエストと共にユーザ情報を前記ウェブ・サーバに処
理依頼する機構を有するウェブ・クライアントと,
最初はデフォルト・ユーザ・モードの下で実行され,前記ユーザ情報を
検査する機能,前記ウェブ・サーバにおける前記オペレーティング・シス
テムに非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを動的に実行さ
せる機能,及び前記ウェブ・クライアントに前記ユーザ情報を戻す機能を
前記ウェブ・サーバに実現させるプログラムと,
を含むネットワーク」。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願
発明は,下記引用例1,2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受
けることができない,というものである。

・引用例1:安東一真「進化するイントラネットアクセス管理で作るセ
キュリティ・インフラパスワード管理から始める」日経コミュニケー
ション・1996年〔平成8年〕9月16日・第230号・100頁∼
103頁(以下この文献を「引用例1」といい,これに記載された発明
を「引用発明」という。甲1)
・引用例2:JonUdell「BYTE誌のInternetプロジェクト第12回
Web会議を成功させる方法」日経バイト,1996年〔平成8年〕7
月22日・第154号・335頁∼339頁(甲2)
イなお,審決が認定した引用発明の内容及び本願発明との一致点と相違点
は,次のとおりである。
(ア)引用発明の内容
「クライアントとなるWWWブラウザと要求されたWebページを送信す
るWWWサーバーからなるシステムにおけるユーザー認証方式であって,
プログラムを実行するオペレーティング・システムを有するWWWサ
ーバーと,
,WWWサーバーにWebページのアクセスを依頼するWWWブラウザと
WWWブラウザがWWWサーバーに対しアクセス制限のあるWebペー
ジにアクセスすると,WWWサーバーはWWWブラウザに対してユーザ
ーIDとパスワードを要求し,WWWブラウザから送信されてくるユー
ザーIDとパスワードに基づく検証機能と,要求されたWebページをW
WWブラウザに送信する機能をWWWサーバーに実現させるプログラム
と,
を含むシステムにおけるユーザー認証方式」。
(イ)一致点
「ユーザ認証システムを有するネットワークにして,
プログラムを実行するオペレーティング・システムを有するウェブ・
サーバと,
プログラム実行リクエストを前記ウェブ・サーバに処理依頼する機構
を有するウェブ・クライアントと,
ユーザ情報を検査する機能,前記ウェブ・サーバにおける前記オペレ
ーティング・システムに該プログラムを動的に実行させる機能を前記ウ
ェブ・クライアント(判決注・後記のとおり「ウェブ・サーバ」の誤記
と認める)に実現させるプログラムと,。
を含むネットワーク」である点。
(ウ)相違点1
本願発明では,プログラムが複数のユーザ・モードの下で実行される
ものであり,最初はデフォルト・ユーザ・モードの下でユーザ情報を検
査する機能と非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを動的
に実行させる機能を有するものであるのに対し,引用発明ではユーザ情
報を検査する機能と該プログラムを動的に実行させる機能がどのような
モードで行われるか不明である点。
(エ)相違点2
本願発明ではプログラム実行リクエストと共にユーザ情報がウェブ・
サーバに送られるものであるのに対し,引用発明ではプログラム実行リ
クエストがアクセス制限のあるWebページへのアクセスである時にWebサ
ーバの要求に基づいてユーザ情報がウェブ・サーバに送られるものであ
る点。
(オ)相違点3
本願発明では,プログラムがウェブ・クライアントにユーザ情報を戻
す機能を有するものであるに対し,引用発明ではユーザ情報を戻してい
るかどうか定かでない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおりの誤りがあり,その誤りは
審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は,以下のとおり,引用発明の認定を誤った結果,一致点の認定を
誤ったものである。
(ア)審決は「本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明における…,
「WWWサーバー」…と,本願発明における…「ウェブ・サーバ」…に
相当する(4頁下8行∼下5行)とするが,誤りである。。」
すなわち,本願発明の「ウェブ・サーバ」は,請求項1のとおり,
「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーティング
・システムを有するウェブ・サーバ」であるところ,引用発明の「WW
Wサーバー」は「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオ
ペレーティング・システムを有する」ものではない「ウェブ・サー。
バ」が「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーテ
ィング・システムを有する」ものであることは,本願発明の本質的特徴
であるところ,引用発明の「WWWサーバー」について,この点につき
何の説明もなく,本願発明の「ウェブ・サーバ」に相当すると認定する
のは誤りである。
(イ)①審決は「引用発明の「Webページのアクセスを依頼」は,本願発,
明の「プログラム実行リクエスト」に相当する(4頁下1行∼5。」
頁1行)とするが,誤りである。
すなわち,本願発明は,①ウェブ・サーバが,権限が異なる複数
のユーザ(ウェブ・クライアント)からのアクセスを受けるシステ
ムに関するものであり,また,②ウェブ・サーバが,ユーザ(ウェ
ブ・クライアント)からの要求に応じて,CGIプログラムを実行
するシステムに関するものであることを前提に,ウェブ・サーバが
CGIプログラム実行リクエストを受けるたびにパスワードを要求
することなく,異なる権限レベルの複数のユーザに対して,ユーザ
の権限レベルに応じたCGIプログラム実行を行うことを技術的課
題とする。
そうすると,本願発明の「プログラム実行リクエスト」とは,
「CGIプログラムの実行リクエスト」の意味であり,それに対し
て引用発明はCGIプログラムの実行についての開示がない以上,
本願発明の「プログラム実行リクエスト」に相当する構成を開示す
るものではない。
②被告は,本願発明の特許請求の範囲の「プログラム」は文言上,
プログラムの種類についての限定がなされていない「プログラム」
であるので,本願発明の「プログラム実行リクエスト」とは文字ど
おり「何らかのプログラムの実行リクエスト」の意味であると主張
する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲を見ると「非デフォルト・,
ユーザ・モードの下で該プログラムを動的に実行させる機能」とい
う記載があるのであるから,本願発明の「該)プログラム」を(
「動的に実行される種類のプログラム」と限定的に解釈するのは当
然のことである。しかも,そのような「プログラム」は,サーバ側
に存するプログラムであって,かつサーバのオペレーティング・シ
ステムを含まない。このことは,特許請求の範囲の「複数のユーザ
・モードの下でプログラムを実行するオペレーティング・システム
を有するウェブ・サーバ」および「前記ウェブ・サーバにおける前
記オペレーティング・システムに非デフォルト・ユーザ・モードの
下で該プログラムを動的に実行させる機能」との記載から明らかで
ある。
(ウ)①審決は「プログラムの実行はオペレーテイング・システムの下,
で動的に行われるものであるから,引用発明において「要求されたWe
bページをWWWブラウザに送信する機能」は,本願発明における
「オペレーティング・システムの下で該プログラムを動的に実行させ
る機能」と実質的に同等のものである(5頁1行∼5行)とする。」
が,誤りである。
すなわち,本願発明における「前記オペレーティング・システム…
の下で該プログラムを動的に実行させる機能」の「該プログラム」は,
「動的に実行」される種類のプログラム,すなわちCGIプログラム
に限られる。審決は「プログラムの実行はオペレーティング・シス,
テムの下で動的に行われるものであるから」と,ウェブ・サーバにお
けるすべてのプログラムの実行が「動的に」行われるかのように述べ
ているが,このような解釈は,本願発明の「動的に」のクレーム文言
を無意味に帰するものであって許されない。単にウェブ・サーバに蓄
積されたHTML文書をリクエストに応じて配信すること(静的処「
理」または「静的サービス)を超えて,プログラムの実行(演算)」
結果に応じて情報を配信することが「動的処理」または「動的サービ
ス(小泉修「最新LAN&インターネット図解でわかるサーバの」
すべて」219頁〔日本実業出版社,2007年(平成19年)5月
1日発行,甲6)であって,本願発明におけるプログラムを「動的〕
に実行させる」とは,単にウェブ・サーバに蓄積されたHTML文書
をリクエストに応じて配信することを超えて,プログラムの実行(演
算)結果に応じて情報を配信することである。
そうすると,引用発明の「要求されたWebページをWWWブラウ
ザに送信する機能」は「動的」ではない単純なプログラムの実行,
(静的な実行)にすぎず,本願発明の「プログラムを動的に実行させ
る」ことには相当しない。
②本願発明の「非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを
動的に実行させる」との記載は,その技術的意義が特許請求の範囲の
記載のみから一義的に明確に理解できるものではない。なぜなら,
「非デフォルト・ユーザ・モード」なる用語が本願の出願人による一
種の造語であって一般的な技術用語ではないうえ「非デフォルト・,
ユーザ・モード」の下でプログラムを実行させることと,プログラム
を「動的に実行」させることとの関係も,特許請求の範囲の記載のみ
からは一義的に明確に理解することができないからである。そこで,
本願明細書(甲4,5の1∼4)の発明の詳細な説明の記載を参酌する
と,本願発明の「非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラム
を動的に実行させる」とは「ユーザの特権レベル」ないし「ユーザ,
の権限レベル」に応じて「該プログラム」を動的に実行させることを
いうことが明らかであるから,これが,引用発明の「要求されたWeb
ページをWWWブラウザに送信する機能」と実質的に同等であるとは
いえない。
イ取消事由2(相違点1の認定判断の誤り)
(ア)①前記ア(ア)に記載したとおり,引用発明の「WWWサーバー」は
「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーティ
ング・システムを有する」ものではない。また,前記ア(イ),(ウ)に
記載したとおり,本願発明の「ウェブ・サーバ」は,CGIプログ
ラムを動的に実行させるものであるのに対して,引用発明の「WW
Wサーバー」は,CGIプログラムを実行するものではなく,プロ
グラムの「動的実行」を行うものでもないから「プログラムを動的,
に実行させる機能」を有するものではない。
②また審決は,相違点1の認定において「引用発明ではユーザ情報,
を検査する機能と該プログラムを動的に実行させる機能がどのよう
なモードで行なわれるか不明である(5頁下9行∼下7行)とする」
が,誤りである。
すなわち,引用発明にはこれらを異なるモードで行うことは開示
も示唆もなく,まして,本願発明の構成要件である「複数のユーザ
・モード」の下でプログラムを実行することについては,開示も示
唆もないのはもちろんのこと,審決引用の周知技術(情報処理学会
編「新版情報処理ハンドブック」507頁・株式会社オーム社,平
成7年11月25日発行〔甲3)にも開示がない。そうすると,引〕
用発明は「どのようなモードで行なわれるか不明である」と言うよ,
り,単一のユーザ・モードでプログラムを実行するものと言うべき
である。
(イ)オペレーティング・システムとプログラムー般を同視している誤り
①審決は「相違点1について」の中(6頁16行∼29行)で上記,
甲3から引用した記載は「プログラム」一般の実行モードについて
のものであるかのように述べているが,誤りである。
,(,すなわち「a)特権モード」との見出しで始まる甲3の記載は
「オペレーティング・システムの基礎」の中の「保護とセキュリテ
ィ「アクセス制御機構」に位置付けられ,あくまで「オペレーティ」
ング・システム」の実行モードに関する記載であって「プログラ,
ム」一般の実行モードについての記載ではない。
②審決は「オペレーティングシステム(一種のプログラム)の実行,
においては,核に近いプログラムは特権モードで実行し,そのほか
のプロセスは使用者モードで実行しており,…ユーザ認証はシステ
ムの中核に近い処理であり,WebページのWWWブラウザへの送信は
アプリケーションの実行と言ってよいものであるから,…両者を異
なるモードで行わせることは容易に為し得る…(6頁16行∼25」
行)とするが,誤りである。
すなわち,オペレーティング・システムに関する甲7(清水謙多郎
「情報処理入門コース2オペレーティングシステム」128頁∼1
29頁,株式会社岩波書店,1992年(平成4年)1月30日第1
刷発行,甲8(前川守「岩波講座ソフトウェア科学6オペレーテ)
ィングシステム」24頁∼25頁,194頁∼195頁,株式会社岩
波書店,1988年(昭和63年)9月6日第1刷発行)によれば,
オペレーティング・システムを構成するプログラムには「特権モー,
ド」でなければ実行できないプログラムと,非特権モードで実行され
るプログラムとがある。しかるに,オペレーティング・システムには
コンピュータ・システムの中核を担うプログラムやハードウェアの制
御に関係するプログラムが含まれており,これらのプログラムは,プ
ログラム一般とは同列に論じることができない。なぜなら,オペレー
ティング・システムに対して想定外の実行命令がなされた場合,コン
ピュータ・システム全体がクラッシュしたり,ハードウェアが物理的
に損傷することもあり得るのに対して,例えばアプリケーション・プ
ログラムに違法な実行命令がなされても,当該命令が実行されないだ
けで,違法な実行命令がなされることの意味合いが異なるからである。
,,審決は「ユーザ認証はシステムの中核に近い処理であり」とするが
ユーザ認証に関する実行命令が適法に行われなかったとしても認証が
行われず,当該ユーザがシステムにアクセスできないだけであり,シ
ステム全体がクラッシュする危険性があるわけではない「システム。
の中核に近い」とは,違法な実行命令によってシステム全体が損傷す
るおそれがあるという意味であり,引用発明のユーザ認証に関するプ
ログラムは,かかる「システムの中核に近い」プログラムではない。
③被告のいう,プログラムの種類や状況に応じたモードでプログラム
を実行させることとは「実行するプロセスに応じて」異なるモード,
とすることをいうのであって,本願発明のように,動的サービスの提
供を前提としてユーザの権限レベルに応じて異なるモードとすること
とは関係がない。また,オペレーティング・システム以外のプログラ
ムにおいて実行するプロセスに応じてモードを異ならせることが周知
であることについては,審決は一言も言及しておらず,本件訴訟の審
理対象外である。なお,オペレーティング・システムにおける「特権
モード」と「非特権モード」との区別は,あくまで,上記③に記載し
たように,違法な実行命令によってシステム全体が損傷するおそれが
ある処理又はそれに近い処理と,それ以外の処理との区別に基づいて,
異なるモードとしているものである。
④被告は,マイクロ・カーネルによるオペレーティング・システムで
は「核に近いプロセス」はカーネルではないから,必ずしも特権モ,
ードで実行させる必要はなく,その実例として,ウインドウズNTに
おけるNTエグゼクティブサービスは,カーネル・モードで実行され
る「核に近いプロセス」であると主張する。
しかし,ウインドウズNTにおいて,従来の意味における「カー
ネル」の範囲については,違法な実行命令によってシステム全体が
損傷するおそれがないとはいえない。例えばメモリ管理について見
ると,違法な実行命令によってメモリのオペレーティング・システ
ム使用領域が上書きされた場合には,システム全体がクラッシュす
るおそれがあり,そのようなことを防ぐため,メモリ管理はオペレ
ーティング・システムの機能の一つとされている。しかるに,ウイ
ンドウズNTのエグゼクティブサービスには「メモリ管理」が含ま
れており(乙8の1〔山崎俊一「WindowsNT独断解説」インターフ
ェース第18巻第9号(202頁∼212頁),CQ出版社,199
2年(平成4年)9月発行〕の205頁図2,被告のいう「核に近)
いプロセス」であっても,基本的には違法な実行命令によってシス
テム全体が損傷するおそれがある処理であるために特権モードで実
行することとされているものである。
(ウ)オペレーティング・システムにおける「特権モード「ユーザモー」
ド」の区別と本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォル」
ト・ユーザ・モード」の区別を混同している誤り
審決は「…ユーザ認証の方をデフォルト・ユーザ・モード,Webペ,
ージの送信の方を非デフォルト・ユーザ・モードと称することも格別の
ことではない(6頁27行∼29行)とするが,これは,オペレー。」
ティング・システムにおける「特権モード「非特権モード(ユーザモ」
ード」の区別と,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デ)」
フォルト・ユーザ・モード」の区別を混同するもので,誤りである。
すなわち,本願明細書(甲4,5の1∼4)の記載からすれば,本願発
明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォルト・ユーザ・モー」
ド」の区別は,権限の異なる複数のユーザ(ウェブ・クライアント)か
らのアクセスを前提にして,ユーザの「特権レベル」ないし「権限レベ
ル」に応じた区別,すなわち人による区別に基づく実行モードの区別で
ある。
これに対して,オペレーティング・システムにおける「特権モード」
「非特権モード(ユーザモード」の区別は,実行するプログラムの種)
類(システムの中核に近いか否か)に基づく区別,すなわち対象による
区別に基づく実行モードの区別であって,人による区別に基づく実行モ
ードの区別ではない。本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非」
デフォルト・ユーザ・モード」は,オペレーティング・システムの用語
でいえば,いずれも「非特権モード(ユーザモード」に属するもので)
ある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア原告は,審決が「本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明におけ
る…「WWWサーバー」…と,本願発明における…「ウェブ・サーバ」…
に相当する(4頁下8行∼下5行)としたのは誤りであると主張する。。」
しかし,審決が引用発明の「WWWサーバー」が本願発明の「ウェブ・
サーバ」に相当するとしたのは,文字通り,引用発明の「WWWサーバ
ー」が本願発明の「ウェブ・サーバ」に相当する旨を説示したものであり,
「ウェブ・サーバ」が「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行す
るオペレーティング・システムを有する」という形容まで含めて相当する
としたものではない。そして「プログラムが複数のユーザ・モードの下,
で実行される」点については,相違点1で抽出して検討しているから,審
決の上記認定に誤りはない。
イ原告は,審決が「引用発明の「Webページのアクセスを依頼」は,本願
発明の「プログラム実行リクエスト」に相当する(4頁下1行∼5頁1。」
行)としたのは誤りであると主張する。
(ア)しかし,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものでない。
すなわち,原告は,本願発明の「プログラム」が「CGIプログラム
(又はCGIと同様の機能を提供する他の規格によるプログラム」と)
いう限定された種類のプログラムであるとし「プログラム実行リクエ,
スト」が「CGIプログラム(又はCGIと同様の機能を提供する他の
規格によるプログラム」という限定された種類のプログラムの実行リ)
クエストであると主張するが,特許請求の範囲の請求項1には「CGI
プログラム」という記載は存在しておらず,この主張は,特許請求の範
囲の記載に基づかないものである。
(イ)また,本願発明の「プログラム実行リクエスト」に基づいて実行さ
れるプログラムが「前記ウェブ・サーバにおける前記オペレーティング
・システムに非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを動的
に実行させる」の「該プログラム」であったとしても,後記ウに記載す
るとおり「動的に実行させる」というのはプログラム実行の環境や態,
様を規定しているのであって,そうした環境や態様で実行されるプログ
ラムそのものの種類を限定しているのではない。
(ウ)さらに原告は,本願発明が「権限が異なる複数のユーザ(ウェブ,
・クライアント)からのアクセス」や「CGIプログラム(又はCGI
と同様の機能を提供する他の規格によるプログラム。以下同様」を前)
提とし「異なる権限レベルの複数のユーザに対して,ユーザの権限レベ
ルに応じたCGIプログラム実行を行う」ことを課題とする旨主張する
が,本願の特許請求の範囲の請求項1には「権限レベル「CGIプロ」
グラム」という記載は存在しておらず,これらの主張は,いずれも,特
許請求の範囲の記載に基づく主張ではない。
(エ)なお,動的サービスを提供する仕組みの中には「静的サービス」,
におけるリクエストと同じく,文書を要求するリクエストに応じて動的
サービスを提供するものも存在するものであり「リクエスト」によっ,
て「動的サービス」と「静的サービス」とは区別されないものであるか
ら,これが区別されることを前提とした原告の主張は,技術的にも意味
をなさない。
ウ原告は,審決が「…プログラムの実行はオペレーテイング・システムの
下で動的に行われるものであるから,引用発明において「要求されたWeb
ページをWWWブラウザに送信する機能」は,本願発明における「オペレ
ーティング・システムの下で該プログラムを動的に実行させる機能」と実
質的に同等のものである(5頁1行∼5行)としたのは誤りであると。」
して,本願発明における「前記オペレーティング・システム…の下で該プ
ログラムを動的に実行させる機能」の「該プログラム」は「動的に実,
行」される種類のプログラム,すなわちCGIプログラムに限られ,本願
発明におけるプログラムを「動的に実行させる」とは,単にウェブ・サー
バに蓄積されたHTML文書をリクエストに応じて配信することを超えて,
プログラムの実行(演算)結果に応じて情報を配信することである,そう
すると,引用発明の「要求されたWebページをWWWブラウザに送信す
る機能」は「動的」ではない単純なプログラムの実行(静的な実行)に,
過ぎず,本願発明の「プログラムを動的に実行させる」ことには相当しな
いと主張する。
(ア)しかし,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものでない。
すなわち,特許請求の範囲の請求項1の「動的に」は,文法上「実行さ
せる」に係るものである。そして「動的に実行させる」の文言の意味,
は,特許請求の範囲においても発明の発明の詳細な説明においても明示
的には定義されていないが,これは,定義するまでもなく「動的に実,
行させる」といえば「静的に実行させる」に対する意味であり,あえ,
て定義を必要としない技術常識であるからである。
例えば,乙5の1(特開平6−250835号公報)では,動的リン
クや動的ロードを伴う実行,すなわち,実行時に実行内容が変化するよ
うな態様での実行,という意味で「動的に」実行している。また,乙5
の2(特開平8−249195号公報)では,静的(コンパイル時)に
決められた実行順序と異なる順序である可能性がある実行順序によって
実行させることを動的スケジューリングと称しており,これも,実行時
の実行態様が実行前に決められたものと異なる可能性があることを「動
的」という用語で示している。
これらの例にも示されるように「動的に」実行させるとは,静的に,
決められた態様,すなわち,実行前に決められた態様でそのまま実行さ
せるのではなく,そうした態様とは異なる態様が実行時に決められる可
能性があり,かかる実行時に決められた態様によって実行されることを
示しているものである。そうすると「動的に」実行させるとは,実行時
に実行順序や実行内容を変化しつつ実行させることを示しているもので
あり,プログラム実行の環境や態様を規定しているのであって,そうし
た環境や態様で実行されるプログラムそのものの種類を限定しているの
ではない。
(イ)また,WWWサーバでは,通常,リクエストに応じて生成されたス
レッドが割当実行されるので,動的サービスを提供するプログラムも静
的サービスを提供するプログラムも動的に実行させられているものであ
るから,このことを審決が「プログラムの実行はオペレーティング・シ
ステムの下で動的に行われるものであるから」と表現したことに何らの
誤りもない。
(ウ)さらに,原告による「プログラムを「動的に実行させる」とは,単
にウェブ・サーバに蓄積されたHTML文書をリクエストに応じて配信
することを超えて,プログラムの実行(演算)結果に応じて情報を配信
することをいう」との解釈は,特許請求の範囲の記載に基づくものでは
ない。
すなわち,特許請求の範囲の請求項1の記載は「プログラムを動的に
実行させる」という記載にとどまり,サービスの種別やプログラムの種
別を特定する記載は存在しないのであって,いうなれば「動的サービ,
ス」に係るプログラムも「静的サービス」に係るプログラムも「動的に
実行させ」られるものである。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,引用発明の「WWWサーバー」は「複数のユーザ・モードの下
でプログラムを実行するオペレーティング・システムを有する」ものでは
なく,また,本願発明の「ウェブ・サーバ」は,CGIプログラムを動的
に実行させるものであるのに対して,引用発明の「WWWサーバー」は,
CGIプログラムを実行するものではなく,プログラムの「動的実行」を
行うものでもないから「プログラムを動的に実行させる機能」を有する,
ものではないと主張する。しかし「プログラムを動的に実行させる機,
能」を有する点は,上記(1)ウに記載したとおり,本願発明及び引用発明
の一致点であって相違点ではないのであり,その他の主張も,上記(1)ア
∼ウの記載に照らし失当である。
イ原告は,相違点1の認定において,審決が「引用発明ではユーザ情報を
検査する機能と該プログラムを動的に実行させる機能がどのようなモード
で行われるか不明である(5頁下9行∼下7行)としたのは誤りである」
と主張する。
しかし「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレー,
ティング・システムを有する」点は,引用例1で明示されていないのであ
るから,単一のモードであると認定すべき根拠はない。そして,引用発明
でも,プログラムの実行である以上は,何らかのユーザ・モードの下で実
行されるといってよいが,そのユーザ・モードがどのような区別に基づく
ものか,どのような観点からあるユーザ・モードと他のユーザ・モードと
を区別するのかを含め,どのようなユーザ・モードで行われるかは,認定
した引用発明において不明なのであり,この点に関する相違点1の認定誤
りはない。
ウ原告は,審決は「相違点1について」の中(6頁16行∼29行)で,
甲3(情報処理学会編「新版情報処理ハンドブック」507頁・株式会
社オーム社,平成7年11月25日発行)から引用した記載は「プログラ
ム」一般の実行モードについてのように述べているが誤りである,すなわ
ち「a)特権モード」との見出しで始まる甲3の記載は「オペレーテ,(,
ィング・システムの基礎」の中の「保護とセキュリティ「アクセス制御」
機構」に位置付けられ,あくまで「オペレーティング・システム」の実行
モードに関する記載であって「プログラム」一般の実行モードについて,
の記載ではないと主張するが,以下に照らし,失当である。
(ア)すなわち,審決が,甲3の記載を引用するに当たって「プログラム
の実行モードについて」としたのは,実行するプロセスに応じてモード
を異ならせる技術,すなわち,プログラムの種類や状況に応じたモード,
すなわち実行の態様,でプログラムを実行させることによって保護や利
便性向上等の所定の効果を得る技術が周知であり,その周知技術の典型
的なものとして,オペレーティング・システム(一種のプログラム)の
実行において,核及び核に近いプロセスを特権モードで実行し,そのほ
かのプロセスを使用者モードで実行する例である甲3を挙げたことを示
しているものである。
こうした実行するプロセスに応じてモードを異ならせる技術の例は,
例えば,乙6の1(特開平8−339466号公報,乙6の2(特開)
平7−295941号公報,乙6の3(特開昭60−37069号公)
報)にも見られるように,オペレーティング・システムに限らずコンピ
ュータの技術分野においてはしばしば見られることである。
そして,そのようなモードによって保護や利便性の向上を図る技術の
典型例が,オペレーティング・システムにおける特権モード(スーパバ
イザ・モード)と使用者モード(ユーザ・モード)であるから,審決が
甲3の記載を引用するに当たって「プログラムの実行モードについて」
としたことに誤りはない。
(イ)原告は,オペレーティング・システムはプログラム一般とは同列に
論じられないという前提で主張する。
しかし,そもそもオペレーティング・システムはプログラムであって,
プログラムとはオペレーティング・システムの上位概念であるから,原
告の主張は論理的に意味をなさないし,仮に,原告のいう「プログラム
一般」が「オペレーティング・システム以外のプログラム」の意味であ
るとしても,実行するプロセスに応じてモードを異ならせて保護や利便
性の向上を図るという考え方がオペレーティング・システムのみならず
それ以外のプログラムにおいてもみられるものであることは上述のとお
りであるから,オペレーティング・システムはプログラム一般とは同列
に論じられないという前提は成り立たない。
そして,モードを用いた保護や利便性の向上の必要性がオペレーティ
ング・システム以外のプログラムに比してオペレーティング・システム
において高いことは否定しないが,そのことは,オペレーティング・シ
ステム以外のプログラムにおいて実行するプロセスに応じてモードを異
ならせることが周知であることを否定する根拠にはならない。
さらに,特別なプログラムであるオペレーティング・システムについ
てプロセスに応じてモードを異ならせる技術の周知性を説明することに
より,オペレーティング・システムを含めたプログラム一般についてプ
ロセスに応じてモードを異ならせる技術の周知性が否定されることはあ
り得ない。
(ウ)なお,後述するとおり,原告は甲3の「核に近いプロセス」につい
て読み違えをしている。すなわち,同「核に近いプロセス」は,違法な
命令によってシステム全体が損傷するおそれがあるという意味ではなく,
その意味でも,オペレーティング・システムが「プログラム一般」と同
列に論じられないというのは根拠がない。
エ原告は,オペレーティング・システムにはコンピュータ・システムの中
核を担うプログラムやハードウェアの制御に関係するプログラムが含まれ,
これらのプログラムは,プログラム一般とは同列に論じることができない,
審決は「ユーザ認証はシステムの中核に近い処理であり」とするところ,
「システムの中核に近い」とは違法な実行命令によってシステム全体が損
傷するおそれがあるという意味であって,引用発明のユーザ認証に関する
プログラムはかかる「システムの中核に近い」プログラムではないと主張
するが,以下に照らし,失当である。
(ア)審決は「引用発明においてWWWサーバがWWWブラウザの要求,
に基づいて実行するアクセス制限のあるWebページへのアクセスでは,
ユーザ認証を行う過程と要求されたWebページをアクセスしてWWW
ブラウザに送信する過程がある。ユーザ認証はシステムの中核に近い処
理であり,WebページのWWWブラウザへの送信はアプリケーション
の実行と言ってよいものであるから,上述したオペレーティングシステ
ムの実行の場合と同様に,両者を異なるモードで行わせることは容易に
為し得ることである(6頁18行∼25行)とする。。」
ここでは,まず,引用発明が「アクセス制限のあるWebページへの
アクセス」であることに鑑みて,引用発明のユーザ認証の処理がWeb
ページの送信の処理に比較して相対的にシステムの中心的な役割を担っ
ている旨を「ユーザ認証はシステムの中核に近い処理であり,Webペ
ージのWWWブラウザへの送信はアプリケーションの実行と言ってよい
ものである」と表現している。そして,これを受けて,引用発明のシス
テムではユーザ認証が「中核に近い処理」であるから「オペレーティ,
ング・システムの実行の場合と同様に,システムの「中核に近い処」
理」であるユーザ認証の処理とそのほかの処理とを区別して「両者を異
なるモードで行わせる」ことが容易に為し得ることであることを示して
いる。すなわち,オペレーティング・システムでは,甲3にあるように,
相対的にシステムの中心的な役割を担っている処理である「核に近いプ
ロセス」を「そのほかのプロセス」と区別して異なるモードで実行させ
ているところ,引用発明においてもそのオペレーティングシステムの例
に倣って両者を異なるモードで行わせることが容易に為し得ることを示
している。
すなわち,審決では,システムの中心的な役割を果たすという意味の
みを示す「中核」という文言を,その意味を超えたオペレーティング・
システムに関する特別な意味をも示す「核」の文言とは区別して用いて
いるものである。したがって,原告が主張するように「システムの中,
核に近い」とは違法な実行命令によってシステム全体が損傷するおそれ
があるという意味であり引用発明のユーザ認証に関するプログラムはか
かる「システムの中核に近い」プログラムではない,ということにはな
らない。
(イ)また原告は,甲3に記載された技術の内容についても読み違えてい
る。すなわち,情報処理関係の総覧的な書籍である甲3では「核およ,
び核に近いプロセスを特権モードで実行し」とし「核(カーネル」,)
のプロセスと区別される「核に近いプロセス」を特権モードで実行する
としている。
この点に関し,原告は,オペレーティング・システムにおいて,シス
テムの中核に近いプログラムを特権モードで実行し,それ以外のプログ
ラムを非特権モードで(ユーザモード)で実行するのは,審決の認定す
るとおりであるが,ここで問題とすべき「システムの中核に近い」とは,
違法な命令によってシステム全体が損傷するおそれがあるという意味で
ある旨主張する。
しかし,この点について,原告は,甲3の記載内容を読み違えている。
すなわち,甲3ではオペレーティング・システムの「核のプロセス」と
「核に近いプロセス」とが特権モードで実行されるとされているが,審
決はここから「核に近いプロセス」についての技術事項を抽出したもの
である。そして「核のプロセス」は,原告の主張するような,違法な,
実行命令によるシステム全体の損傷に関係するものといってよいものの,
以下に示すとおり「核に近いプロセス」は,原告がいうような「違法,
な命令によってシステム全体が損傷するおそれがある」ような処理には
限定されない。
すなわち,甲3では,前述したとおり「核のプロセス」と区別して,
「核に近いプロセス」が特権モードで実行されるとしているが,ここで
いう「核のプロセス」というのはオペレーティング・システムがどのよ
うな設計を取ろうともカーネルとして実行される,オペレーティング・
システムの最も基本的な機能を実現するプロセスを指しているものであ
る。
一方「核に近いプロセス」というのは,オペレーティング・システム
の種類によってはカーネルとして実行される必要がないとされているプ
ロセスである。カーネルの機能を最小化して,オペレーティング・シス
テムの基本的な機能のみをカーネルとし,それ以外の機能をカーネルの
外で実現するように設計されたカーネルを,一般にマイクロ・カーネル
という(乙4〔情報処理学会編「エンサイクロペディア情報処理(改訂
4版」470頁∼473頁,株式会社オーム社,平成6年6月30日)
第1版第1刷,平成14年5月25日改訂4版第1刷発行)が,この〕
ようなマイクロ・カーネルによるオペレーティング・システムでは,
「核に近いプロセス」はカーネルではなく,必ずしも特権モードで実行
させる必要はないものである。
甲3が「核に近いプロセス」を「特権モードで実行する」としている
のは,このようなマイクロ・カーネルのオペレーティング・システムに
おけるカーネルの外で実行される処理,いうなればカーネル・モードで
実行される必要がない処理を,場合によっては,共通モジュールとして
特権モードで実行することを意味しているのである。このことは,同様
に総覧的な文献である上記乙4の473頁左欄17行∼32行の記載に
おいても示されている。
(ウ)さらに,甲7(情報処理入門コース2オペレーティングシステ「
ム」128頁∼129頁,平成4年(1992年)1月30日,株式会
社岩波書店発行,甲8(岩波講座ソフトウェア科学6オペレーティ)「
ングシステム」24頁∼25頁,194頁∼195頁,昭和63年(1
988年)9月6日,株式会社岩波書店発行)に記載されたようなオペ
レーティング・システム,つまり,カーネルとオペレーティングシステ
ムとが同じ意味を指す場合(マイクロカーネル」に対して「モノリシ「
ックカーネル」という。乙4〔情報処理学会編「エンサイクロペディア
情報処理改訂4版」470頁∼473頁,株式会社オーム社,平成14
年5月25日発行〕を参照,カーネル・モードで実行されるものが。)
「核のプロセス」なので「核のプロセス」と区別された「核に近いプ,
ロセス」なる用語が使われることはない。これに対し,上述した乙4で
も示されている,マイクロソフト社の広く知られたシステムであるウイ
ンドウズNTにおけるNTエグゼクティブサービスというシステムサー
ビス(乙8の1〔山崎俊一「WindowsNT独断解説」インターフェース
第18巻第9号(202頁∼212頁),CQ出版社,1992年(平成
4年)9月発行,乙8の2〔NIKKEIBYTE」1993年(平成5年)〕「
10月号の102頁∼113頁,乙8の3〔WindowsNTネットワー〕「
クデザインガイド」の27頁,41頁,ソフトバンク出版,1998年
(平成10年)7月1日発行)は,こうした「核に近いプロセス」の〕
典型例である。
ウィンドウズNTは,基本的にはマイクロカーネルの考え方に沿って
設計されているものの,エグゼクティブサービスと呼ばれる一群のプロ
グラムは,カーネル(マイクロ・カーネル)ではないもののカーネル・
モード(スーパーバイザ・モード)で実行される。つまり「核」では,
ない「核に近いプロセス」をカーネル・モード(スーパーバイザ・モー
ド)で実行させている。そして,エグゼクティブサービスと呼ばれる一
群のプログラムは,必ずしもシステム全体の損傷のおそれがあってカー
ネル・モードで実行させているのではない。例えば,ユーザ認証(ログ
イン)の際,入力されたIDとパスワードをセキュリティアカウント管
理データベースを照会して有効なものであれば所定のアクセストークン
を発行する(乙8の3参照。このセキュリティアカウント管理データ)
ベースは,エグゼクティブサービスの一つであるセキュリティ監視モニ
タで管理される。
システム全体が損傷するおそれはなくともカーネル・モードで実行さ
れる「核に近いプロセス」の例としては,上述したセキュリティ監視モ
ニタの処理が挙げられる。他にも乙4で示されている「ウィンドウ管理
やグラフィックスに関する機能(乙4の473頁左欄27行∼32」
行)も,システム全体が損傷するおそれはなくともカーネル・モードで
実行される「核に近いプロセス」の例である。
すなわち,これらは,カーネル以外の処理のうちのどれをカーネルモ
ードで実行される「核に近いプロセス」とするかを,システム全体が損
傷するおそれがある場合とは直接結びつかないような性能その他の要因
によって決めた設計例である。
(エ)したがって「核に近い」との甲3に表現された技術内容は違法な,
実行命令によってシステム全体が損傷するおそれがある場合の意味であ
るとの限定された意味ではないから,原告は,審決を読み違え正解して
いないものである上に,甲3に開示された内容についても読み違えてい
るものである。
オ原告は,審決は,オペレーティング・システムにおける「特権モード」
「ユーザモード」の区別と,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード」
「非デフォルト・ユーザ・モード」の区別を混同している誤りがある,す
なわち,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォルト・ユ」
ーザ・モード」の区別は,権限の異なる複数のユーザ(ウェブ・クライア
ント)からのアクセスを前提にして,ユーザの「特権レベル」ないし「権
限レベル」に応じた区別,すなわち人による区別に基づく実行モードの区
別である,これに対して,オペレーティング・システムにおける「特権モ
ード「非特権モード(ユーザモード」の区別は,実行するプログラム」)
の種類(システムの中核に近いか否か)に基づく区別,すなわち対象によ
る区別に基づく実行モードの区別であって,人による区別に基づく実行モ
ードの区別ではない,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デ」
フォルト・ユーザ・モード」は,オペレーティング・システムの用語で言
えば,いずれも「非特権モード(ユーザモード」に属するものであると)
主張するが,以下に照らし,失当である。
(ア)すなわち,原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づく主張でなく,
審決には原告が指摘するような誤りはない。
まず,プログラムの実行に係る文脈で「モード」といえば,上記エに
記載したとおり,実行されるプログラムの種類や状況に応じたモード,
すなわちプログラムの実行状態や態様のことである。例えば,前述した
乙6の1(特開平8−339466号公報,乙6の2(特開平7−2)
95941号公報,乙6の3(特開昭60−37069号公報)もこ)
のような用語法で「モード」の用語を用いているし,オペレーティング
・システムの「実行モード」もそうした「モード」の例であることは前
述したとおりである。
さらに「ユーザ」の文言は,計算機のハードウェアやオペレーティ,
ング・システムを含めた計算機資源を利用するプログラムや人,さらに
は企業や組織を,利用する主体であるという側面で捉えた広い意味の文
言として広く使われており,このことは技術常識といってよい。
なお,特許請求の範囲の請求項1の記載によれば「ユーザ情報」,
「ユーザ認証」の文言中のユーザは,ウェブ・サーバを用いて「ユーザ
認証システム」を利用する利用者の意味であることは文脈からして明ら
かであり,これらの文言はそれぞれそのような利用者の情報,利用者の
認証という意味である。しかし「ユーザ情報を検査する機能」を実行,
する前(認証前)にはその利用者は特定されていないのであるから,
「ユーザ情報を検査する機能」を実行する際の「デフォルト・ユーザ・
モード」は認証を経た該利用者のプログラムの実行態様という意味には
なり得ない。つまり「ユーザ・モード」の中の「ユーザ」は,特許請,
求の範囲の請求項1における文脈上「ユーザ情報「ユーザ認証」の,」
中の「ユーザ」と同義にはなり得ない。
つまり「プログラム」をその下で実行させるような「ユーザ・モー,
ド」とは,プログラムの実行状態や実行状態を示す広汎な意味の用語で
あって,特許請求の範囲の請求項1に記載された「ユーザ・モード」は,
文字通り,このような広汎な意味のものである。
(イ)特許請求の範囲の請求項1の文脈からみた「ユーザ・モード」につ
いての発明特定事項を整理すると次のとおりである。
すなわち「ユーザ・モード」が「プログラム」をその下で実行させ,
るものであることは上述したとおりであるが,その他に,そのプログラ
ムが「オペレーティング・システムに「実行させ」られるものである」
こと,及び「デフォルト・ユーザ・モード」とデフォルト・ユーザ・,
モードでない「非デフォルト・ユーザ・モード」があり「複数のユー,
ザ・モード」があることが特定されている。
さらに「最初はデフォルト・ユーザ・モードの下で実行され,前記,
ユーザ情報を検査する機能,前記ウェブ・サーバにおける前記オペレー
ティング・システムに非デフォルト・ユーザ・モードの下でプログラム
を動的に実行させる機能」と記載されている。
ここで「デフォルト」は文字通りの意味,予め設定された,初期値,
となる,という程度の意味であって,最初に実行される「ユーザ情報の
検査」の際のユーザ・モードをデフォルトといっているのは自然な用語
法である。そして「非デフォルト」とは,文字通りデフォルトでない,
という意味であって「デフォルト」と「非デフォルト」という用語に,
よって「デフォルト・ユーザ・モード」と「非デフォルト・ユーザ・,
モード」とが異なるユーザ・モードであることが示されている。その一
方で,この「デフォルト「非デフォルト」との文言から「デフォルト」
・ユーザ・モード」と「非デフォルト・ユーザ・モード」とが異なるユ
ーザ・モードであるということ以上の意味を読み取ることはできない。
以上のことから,特許請求の範囲の請求項1の記載においては,最初
に,オペレーティング・システムの複数のユーザ・モードのうちの一方
の下でユーザ情報を検査する機能を実行し,その後に他のユーザ・モー
ドの下で他の機能を実行することが発明特定事項として特定されており,
その一方で,複数のユーザ・モードのうちの一つが最初に実行されるユ
ーザ情報を検査する機能におけるものであるということ以外の「ユーザ
・モード」の具体的な内容,とりわけ実行状態や実行態様が何に基づい
てどのように決定されるのかが特定されていないものである。
すなわち,特許請求の範囲の請求項1は「ユーザ情報を検査する機,
能」と他の機能との間で実行の態様が変化すること自体を機能的に捉え
て,その機能的な側面を上位概念的に発明特定事項として本願明細書
(甲4,5の1∼4)から抽出したものを記載したものである。
(ウ)また本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォルト・」
ユーザ・モード」の区別が権限の異なる複数のユーザ(ウェブ・クライ
アント)からのアクセスを前提にしたユーザの「特権レベル」ないし
「権限レベル」に応じた区別であるとの原告の主張は,以下のとおり,
特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
すなわち特許請求の範囲の「ユーザ・モード」についての発明特定事
項が実行の態様が変化すること自体を機能的に捉えた上でその機能的な
側面を上位概念的に発明特定事項として本願明細書(甲4,5の1∼4)
から抽出したものを記載したものであることは,上述したとおりである。
つまり「ユーザ・モード」が,人による区別,対象による区別,ユ,
ーザ情報の確認がなされる前後の区別,ユーザ情報の確認に伴うシステ
ム・コールの前後の区別のいずれに基づくものなのかは,特許請求の範
囲では特定していないのであって「ユーザ・モード」との文言は広汎,
な意味のものである。
そして,発明の詳細な説明及び図面では「ユーザ情報を検査する」機
能と区別された「権限を決定する」機能が開示される一方で,特許請求
の範囲ではこの「権限を決定する」機能は記載されておらず「権限を,
決定する」ことは本願の発明特定事項ではないことも上述のとおりであ
る。つまり「ユーザ・モード」がユーザ権限による区別であることを,
特許請求の範囲では特定していないのであって「ユーザ・モード」が,
権限に基づいて設定されるものであるという意味を付加する解釈は,特
許請求の範囲の記載に基づく解釈ではなく許されない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1)原告は,本願発明の「ウェブ・サーバ」は,請求項1のとおり「複数,
のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーティング・システム
を有するウェブ・サーバ」であるところ,引用発明の「WWWサーバー」は
「複数のユーザ・モードの下でプログラムを実行するオペレーティング・シ
ステムを有する」ものではない「ウェブ・サーバ」が「複数のユーザ・モ,
ードの下でプログラムを実行するオペレーティング・システムを有する」も
のであることは,本願発明の本質的特徴であるところ,引用発明の「WWW
サーバー」について,この点につき何の説明もなく,本願発明の「ウェブ・
サーバ」に相当すると認定するのは誤りであると主張する。
しかし,引用発明は,前記第3,1,(3)イ(ア)記載のとおりのものである
ところ,審決は,引用発明の「WWWサーバー」を「プログラムを実行する
オペレーテイング・システムを有するWWWサーバー」と認定し,その上で,
引用発明の「WWWサーバー」が本願発明の「ウェブ・サーバ」に相当する
と認定したものと認められるから,請求項1において,本願発明の「ウェブ
・サーバ」が有する構成要件として特定された「複数のユーザ・モードの,
下でプログラムを実行するオペレーティング・システムを有する」ことまで
含めた形で,相当関係にあると認定したものとは認められない。そのことは,
審決が,本願発明と引用発明とが「プログラムを実行するオペレーティン,
グ・システムを有するウェブ・サーバ」の点で一致すると認定の上「プロ,
グラムが複数のユーザ・モードの下で実行される」点については,相違点1
として抽出してその検討を行っていることからも裏付けられるものである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(2)アまた原告は,本願発明は①ウェブ・サーバが,権限が異なる複数のユ
ーザ(ウェブ・クライアント)からのアクセスを受けるシステムに関する
ものであり,また,②ウェブ・サーバが,ユーザ(ウェブ・クライアン
ト)からの要求に応じて,CGIプログラムを実行するシステムに関する
ものであることを前提に,ウェブ・サーバがCGIプログラム実行リクエ
ストを受けるたびにパスワードを要求することなく,異なる権限レベルの
複数のユーザに対して,ユーザの権限レベルに応じたCGIプログラム実
行を行うことを技術的課題とするから,本願発明の「プログラム実行リク
エスト」とは「CGIプログラムの実行リクエスト」の意味であり,そ,
れに対して引用発明はCGIプログラムの実行についての開示がない以上,
本願発明の「プログラム実行リクエスト」に相当する構成を開示するもの
ではないと主張する。
しかし,引用発明は,前記第3,1,(3)イ(ア)記載のとおりであり,こ
れによれば,引用発明においては,WWWサーバーが,要求されたWeb
ページをWWWブラウザに送信する機能をWWWサーバーに実現させるプ
ログラムの実行により,WebページをWWWブラウザに送信しているも
のであるところ,WWWサーバーが「Webページのアクセスを依頼」,
されたことに応じて上記プログラムを実行して,その依頼に該当するWe
bページをWWWブラウザに送信するのであるから,この「Webページ
のアクセスを依頼」が,上記プログラムを実行することの要求に相当する
ことは明らかである。したがって,引用発明の「Webページのアクセス
を依頼」は本願発明の「プログラム実行リクエスト」に相当するというべ
きである。
他方,本願発明は,前記第3,1,(2)記載のとおりであり,これによれ
ば,本願発明の「プログラム」については,ウェブ・サーバが有するオペ
レーティング・システムが,複数のユーザ・モードの下で実行するもので
あって,さらに,ウェブ・サーバにおいて,オペレーティング・システム
が非デフォルト・ユーザ・モードの下で動的に実行するものとして,その
プログラムを実行する上での環境や態様を特定しているものの,そのプロ
グラムの種類までを特定しているものでないことは明らかである。そうす
ると,本願発明の「プログラム」が「CGIプログラム(又はCGIと」
同様の機能を提供する他の規格によるプログラム。以下同様)という限定
した種類のプログラムであることを前提として「プログラム実行リクエ,
スト」が「CGIプログラム」という特定された種類のプログラムの実行
リクエストとまで限定されることをいう原告の主張は,その前提を欠くも
のであり失当である。
なお原告は,本願発明が,異なる権限レベルの複数のユーザに対して,
ユーザの権限レベルに応じたCGIプログラム実行を行うことを技術的課
題とする旨の主張をするが,本願発明の特許請求の範囲の文言を見ても,
「ユーザの権限レベル」については何らの特定をされているものではない
から,原告の上記主張も失当である。
イまた原告は,本願発明の特許請求の範囲を見ると「非デフォルト・ユ,
ーザ・モードの下で該プログラムを動的に実行させる機能」という記載が
あるから,本願発明の「該)プログラム」を「動的に実行される種類の(
プログラム」と限定的に解釈するのは当然のことであり,しかも,そのよ
うな「プログラム」は,サーバ側に存するプログラムであって,かつサー
バのオペレーティング・システムを含まないことは,本願発明の特許請求
の範囲の記載から明らかであると主張する。
しかし,上記アに説示したとおり,本願発明の特許請求の範囲の記載か
らは「プログラム」は,ウェブ・サーバが有するオペレーティング・シ,
ステムが複数のユーザ・モードの下で実行するものであって,さらに,ウ
ェブ・サーバにおいて,オペレーティング・システムが非デフォルト・ユ
ーザ・モードの下で動的に実行するものとして,そのプログラムを実行す
る上での環境や態様を特定しているものの,そのプログラムの種類までを
特定しているものでないことは明らかである。このことは,たとえ同「プ
ログラム」がサーバ側に存するプログラムであって,かつサーバのオペレ
ーティング・システムを含まないといえたとしても変わりはない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3)アまた原告は,審決が「プログラムの実行はオペレーテイング・システ
ムの下で動的に行われるものであるから,引用発明において「要求された
WebページをWWWブラウザに送信する機能」は,本願発明における「オ
ペレーティング・システムの下で該プログラムを動的に実行させる機能」
と実質的に同等のものである(5頁1行∼5行)としたのは誤りであ。」
るとして,本願発明における「前記オペレーティング・システム…の下で
該プログラムを動的に実行させる機能」の「該プログラム」は「動的に,
実行」される種類のプログラム,すなわちCGIプログラムに限られ,本
願発明におけるプログラムを「動的に実行させる」とは,単にウェブ・サ
ーバに蓄積されたHTML文書をリクエストに応じて配信することを超え
て,プログラムの実行(演算)結果に応じて情報を配信することである,
そうすると,引用発明の「要求されたWebページをWWWブラウザに送
信する機能」は「動的」ではない単純なプログラムの実行(静的な実,
行)にすぎず,本願発明の「プログラムを動的に実行させる」ことには相
当しないと主張する。
しかし,引用発明は,前記第3,1,(3)イ(ア)記載のとおりであり,こ
れによれば,引用発明においては,WWWサーバーが,要求されたWeb
ページをWWWブラウザに送信する機能をWWWサーバーに実現させるプ
ログラムの実行により,WebページをWWWブラウザに送信しているも
のであって,上記プログラム(要求されたWebページをWWWブラウ「
ザに送信する機能をWWWサーバーに実現させるプログラム)の実行に」
より「要求されたWebページをWWWブラウザに送信する機能」が奏,
されることからすれば「要求されたWebページをWWWブラウザに送,
信する機能」とは,WWWサーバーが有するオペレーティング・システム
の下で実行される上記プログラムの実行により奏される機能といえるもの
である。
一方,本願発明の特許請求の範囲には「前記オペレーティング・シス,
テム…の下で該プログラムを動的に実行させる機能」の「該プログラム」
が「動的に実行」される種類のプログラム,すなわちCGIプログラムに
限られるとの旨の記載はなく,また本願明細書(甲4,5の1∼4)にも,
CGIプログラムの記載はあるが同プログラムに限られるとの記載はない。
また,オペレーティング・システムの下でプログラムを動的に実行させる
ことが格別の技術事項であるとも認められないから,本願発明から,WW
Wサーバーが有するオペレーティング・システムの下で実行されるプログ
ラムを動的に実行することが排除される理由は見当たらない。これらを踏
まえれば,本願発明と引用発明との間に原告が主張するような相違を認め
ることはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,本願発明の「非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プロ
グラムを動的に実行させる」との記載は「非デフォルト・ユーザ・モー,
ド」なる用語が本願の出願人による一種の造語であって一般的な技術用語
ではない上「非デフォルト・ユーザ・モード」の下でプログラムを実行,
させることと,プログラムを「動的に実行」させることとの関係も,特許
請求の範囲の記載のみからは一義的に明確に理解することができないから,
本願明細書(甲4,5の1∼4)の発明の詳細な説明の記載を参酌する必要
があるところ,これによれば,本願発明の「非デフォルト・ユーザ・モー
ドの下で該プログラムを動的に実行させる」とは「ユーザの特権レベ,
ル」ないし「ユーザの権限レベル」に応じて「該プログラム」を動的に実
行させることをいうことが明らかであると主張する。
しかし,後記3(5)イに説示するとおり,本願発明の「デフォルト・ユ
ーザ・モード」は,その特許請求の範囲の記載から,ウェブ・サーバが有
するオペレーティング・システムによって実行されるプログラムが,ユー
ザ情報を検査する機能を実現する際に置かれる実行環境の様式(態様)を
示すものと認められ,また「非デフォルト・ユーザ・モード」は,ウェ,
ブ・サーバが有するオペレーティング・システムによって実行されるプロ
グラムが,それを動的に実行させる機能及びウェブ・クライアントにユー
ザ情報を戻す機能を実現する際に置かれる実行環境の様式(態様)を示す
ものと認められるものであり,また「非デフォルト・ユーザ・モード」,
が「デフォルト・ユーザ・モード」でないユーザ・モードであることも文
言上明らかである。そうすると,原告の指摘する上記事項をもってしても,
本願発明の「非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを動的に
実行させる」との記載について,その技術的意義が特許請求の範囲の記載
のみから一義的に明確に理解できるものではないとはいえない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4)そうすると,原告主張の取消事由1の主張は理由がないことになる。
3取消事由2(相違点1の認定判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明の「WWWサーバー」は「複数のユーザ・モードの下
でプログラムを実行するオペレーティング・システムを有する」ものではな
く,また,本願発明の「ウェブ・サーバ」は,CGIプログラムを動的に実
行させるものであるのに対して,引用発明の「WWWサーバー」は,CGI
プログラムを実行するものではなく,プログラムの「動的実行」を行うもの
でもないから「プログラムを動的に実行させる機能」を有するものではな,
いと主張する。
しかし,上記2(3)に記載したとおり,引用発明において「要求されたWeb
ページをWWWブラウザに送信する機能」は,本願発明における「オペレー
ティング・システムの下で該プログラムを動的に実行させる機能」と実質的
に同等のものというべきであるから「プログラムを動的に実行させる機,
能」を有する点は,本願発明及び引用発明の一致点と認められ相違点とは認
められないものであるし,その他の主張も,上記2(1)∼(3)の説示に照らせ
ば失当である。
(2)原告は,相違点1の認定において,審決が「引用発明ではユーザ情報を
検査する機能と該プログラムを動的に実行させる機能がどのようなモードで
行なわれるか不明である(5頁下9行∼下7行)としたのは誤りであると」
主張する。
しかし,引用例1(甲1)には「複数のユーザ・モードの下でプログラ,
ムを実行するオペレーティング・システムを有する」点について明示はない
ものであるが,そうであるからといって,直ちに,単一のユーザ・モードで
あると認定すべき根拠に繋がるものではない。引用発明においても,プログ
ラムが実行される際には,何らかのユーザ・モードの下で実行されるもので
あることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者)であれば容易に認識し得る技術事項であるところ,そのユーザ・モ
ードがどのような区別に基づくものか,また,どのような観点からその区別
をするのかを含め,どのようなユーザ・モードで行われるかについては,引
用例1には明示はなく不明といえることから,この点につき審決がした相違
点1の認定に誤りは認められない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(3)原告は,審決は「相違点1について」の中(6頁16行∼29行)で,
甲3(情報処理学会編「新版情報処理ハンドブック」507頁・株式会社
オーム社,平成7年11月25日発行)から引用した記載は「プログラム」
一般の実行モードについてのように述べているが誤りである,すなわち,
「a)特権モード」との見出しで始まる甲3の記載は「オペレーティン(,
グ・システムの基礎」の中の「保護とセキュリティ「アクセス制御機構」」
に位置付けられ,あくまで「オペレーティング・システム」の実行モードに
関する記載であって「プログラム」一般の実行モードについての記載では,
ないと主張する。
しかし,一般に,アプリケーション・プログラム(アプリケーションソフ
ト)はオペレーティング・システムの下で実行がなされるところ,そのプロ
セス(処理内容)に応じて適宜システム・コール(スーパーバイザ・コー
ル)を介してカーネル(オペレーティング・システムのプログラムの中で特
権モード(カーネルモード)で動作する部分)を利用するものであることは,
当業者であれば容易に認識し得る技術事項である。そうすると,上記甲3の
記載に接した当業者であれば,上記「特権モード」の記載も「オペレーテ,
ィング・システム」の実行モードに関するものとだけではなく,アプリケー
ション・プログラムを実行する際にシステム・コール(スーパーバイザ・コ
ール)を介してカーネルを利用する動作状態についてもいうものと理解する
ことができ,その場合,それ以外のカーネルを使用しないアプリケーション
・プログラム(アプリケーションソフト)の動作状態が「ユーザモード」と
呼ばれる状態であると理解するというべきである。
一方,本願発明においても「デフォルト・ユーザ・モード」又は「非デ,
フォルト・ユーザ・モード」なる実行モードは,オペレーティング・システ
ムの下でプログラムを実行するに際して区別しているものと認められるから,
オペレーティング・システムと無関係といえるものではない。
以上に照らせば,引用発明及び甲3の記載に接した当業者は,甲3の記載
についての上記の理解を踏まえて,引用発明から,オペレーティング・シス
テムの下でプログラムを実行させるものである本願発明の構成に容易に想到
できるというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
(4)ア原告は,オペレーティング・システムにはコンピュータ・システムの
中核を担うプログラムやハードウェアの制御に関係するプログラムが含ま
れ,これらのプログラムは,プログラム一般とは同列に論じることができ
ない,審決は「ユーザ認証はシステムの中核に近い処理であり」とする,
ところ「システムの中核に近い」とは,違法な実行命令によってシステム
全体が損傷するおそれがあるという意味であって,引用発明のユーザ認証
に関するプログラムは,かかる「システムの中核に近い」プログラムでは
ないと主張する。
しかし,引用発明の内容は,前記第3,1,(3)イ(ア)記載のとおりであ
り,これによれば,引用発明は,WWWブラウザからアクセス制限のある
Webページにアクセスがあると,WWWサーバは,WWWブラウザに対し
てユーザIDとパスワードを要求し,ブラウザから送られたユーザIDと
パスワードによりユーザを認証し,その認証が取得できれば,要求された
WebページをWWWブラウザに送信する機能を奏するものであるところ,
そのユーザ認証機能と要求されたWebページの送信機能とは,そのプロ
セスの実行に際し,目的,処理機能(内容,及び,アクセス先等が明ら)
かに相違するものである。そうすると,当業者であれば,ユーザを認証す
るという処理とWebページをWWWブラウザへ送信するという処理とが,
システム内においてどのような位置付けにあるかについて,ユーザ認証は
相対的に見てシステムの中核に近い処理であるのに対し,Webページの
WWWブラウザへの送信はそうとはいえず単にアプリケーションの実行と
いえるものにすぎないとして,両者を容易に区別することができるという
べきである。したがって,引用発明において,上記の「システムの中核に
近い」ということを,違法な実行命令によってシステム全体が損傷するお
それがあるという意味であると限定解釈しなければならない理由はない。
さらに,乙8の1(山崎俊一「WindowsNT独断解説」インターフェー
ス第18巻第9号(202頁∼212頁),CQ出版社,1992年(平成
4年)9月発行)及び乙8の2(NIKKEIBYTE」1993年(平成5「
年)10月号の102頁∼113頁)によれば,マイクロソフト社のオペ
レーティング・システムであるウインドウズNTの「NTExecutive」が,
セキュリティ参照モニタを備え,ユーザ認証をも含むセキュリティに関す
るプロセスを,ユーザ・モードとは別にカーネル・モードで動作させてい
ることが認められる。
以上に照らせば,システムの中核に近い処理といえるユーザ認証をカー
ネルモードとして,アプリケーションの実行といえるWebページのWW
Wブラウザへの送信をユーザモードとして,両者を異なるモードで実行し,
そのモードを本願発明のように「デフォルト・ユーザ・モード」及び「非
デフォルト・ユーザ・モード」として使い分けるようにすることは,当業
者が適宜に採用し得る設計的事項であると認められる。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,被告のいうプログラムの種類や状況に応じたモードでプロ
グラムを実行させることとは「実行するプロセスに応じて」異なるモー,
ドとすることをいうのであって,本願発明のように,動的サービスの提供
を前提としてユーザの権限レベルに応じて異なるモードとすることとは関
係がないし,また,オペレーティング・システム以外のプログラムにおい
て実行するプロセスに応じてモードを異ならせることが周知であることに
ついては,審決は一言も言及しておらず,本件訴訟の審理対象外であると
主張する。
しかし,後記(5)エに説示するように,本願発明の特許請求の範囲の記
載からは「デフォルト・ユーザ・モード」は,ウェブ・サーバが有する,
オペレーティング・システムによって実行されるプログラムがユーザ情報
を検査する機能を実現する際に置かれる実行環境の様式(態様)を示すも
のと認められるに止まり「非デフォルト・ユーザ・モード」も,ウェブ,
・サーバが有するオペレーティング・システムによって実行されるプログ
ラムがそれを動的に実行させる機能及びウェブ・クライアントにユーザ情
報を戻す機能を実現する際に置かれる実行環境の様式(態様)を示すもの
と認められるに止まるものであって,本願発明を,ユーザの権限レベルに
応じて異なるモードとするものと把握することはできない。また,前記
(3)に説示したとおり,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード」又は
「非デフォルト・ユーザ・モード」なる実行モードは,オペレーティング
・システムの下でプログラムを実行するに際して区別しているものと認め
られる以上,たとえオペレーティング・システム以外のプログラムを実行
するプロセスの場合であるとしても,オペレーティング・システムと無関
係といえるものではない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウまた原告は,オペレーティング・システムにおける「特権モード」と
「非特権モード」との区別は,違法な実行命令によってシステム全体が損
傷するおそれがある処理又はそれに近い処理と,それ以外の処理との区別
に基づいて,異なるモードとしているものであると主張する。
しかし,前記アの説示に照らせば,原告の上記指摘が,引用発明におけ
る「システムの中核に近い」ということを,違法な実行命令によってシス
テム全体が損傷するおそれがあるという意味であると限定解釈すべき理由
となるものではないし,また,前記(3)の説示に照らし,引用発明及び甲
3の記載に接した当業者が,甲3の記載を踏まえて,引用発明から,オペ
レーティング・システムの下でプログラムを実行させるものである本願発
明の構成に容易に想到できることに変わりはない。
エさらに原告は,ウインドウズNTにおいて,従来の意味における「カー
ネル」の範囲については,違法な実行命令によってシステム全体が損傷す
るおそれがないとはいえないとして,メモリ管理を例に挙げて主張する。
しかし,原告の上記指摘を前提としても,前記アの説示に照らし,引用
発明における「システムの中核に近い」ということを,違法な実行命令に
よってシステム全体が損傷するおそれがあるという意味であると限定解釈
すべき理由とならないことに変わりはないし,また,前記アに説示したと
おり,マイクロソフト社のオペレーティング・システムであるウインドウ
ズNTにおける「NTExecutive」が,セキュリティ参照モニタを備え,ユ
ーザ認証をも含むセキュリティに関するプロセスを,ユーザ・モードとは
別にカーネル・モードで動作させていることを左右するものではない。
(5)ア原告は,審決は,オペレーティング・システムにおける「特権モー
ド「ユーザモード」の区別と,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モー」
」,ド「非デフォルト・ユーザ・モード」の区別を混同している誤りがある
すなわち,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォルト・」
ユーザ・モード」の区別は,権限の異なる複数のユーザ(ウェブ・クライ
アント)からのアクセスを前提にして,ユーザの「特権レベル」ないし
「権限レベル」に応じた区別,すなわち人による区別に基づく実行モード
の区別である,これに対して,オペレーティング・システムにおける「特
権モード「非特権モード(ユーザモード」の区別は,実行するプログ」)
ラムの種類(システムの中核に近いか否か)に基づく区別,すなわち対象
による区別に基づく実行モードの区別であって,人による区別に基づく実
行モードの区別ではない,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード」
「非デフォルト・ユーザ・モード」は,オペレーティング・システムの用
語で言えば,いずれも「非特権モード(ユーザモード」に属するもので)
あると主張する。
イそこで検討するに,まず本願発明の特許請求の範囲は,前記第3,1,
(2)のとおりであり,これによれば,文言上「デフォルト・ユーザ・モ,
ード」及び「非デフォルト・ユーザ・モード」の特定事項として「最初,
はデフォルト・ユーザ・モードの下で実行され,前記ユーザ情報を検査す
る機能,前記ウェブ・サーバにおける前記オペレーティング・システムに
非デフォルト・ユーザ・モードの下で該プログラムを動的に実行させる機
能,及び前記ウェブ・クライアントにユーザ情報を戻す機能を前記ウェブ
・サーバに実現させるプログラムと」とされ,また「複数のユーザ・,,
モードの下でプログラムを実行するオペレーティング・システムを有する
ウェブ・サーバ」とされている。これらによれば「デフォルト・ユーザ,
・モード」は,ウェブ・サーバが有するオペレーティング・システムによ
って実行されるプログラムが,ユーザ情報を検査する機能を実現する際に
置かれる実行環境の様式(態様)を示すものと認められ,また「非デフ,
ォルト・ユーザ・モード」は,ウェブ・サーバが有するオペレーティング
・システムによって実行されるプログラムが,それを動的に実行させる機
能及びウェブ・クライアントにユーザ情報を戻す機能を実現する際に置か
れる実行環境の様式(態様)を示すものと認められる。
ウ次に本願明細書(甲4,5の1∼4)には以下の記載がある。
(ア)技術分野
「…本発明はウェブ・クライアントからジョブ・リクエストを処理依頼
するユーザの認証に関するものである(甲5の1〕1頁6行∼8。」〔
行)
(イ)背景技術
「ウェブ・サーバにおけるウェブ・ベースのアプリケーションは,CG
I(共通ゲートウェイ・インターフェース)プログラム…を通して実現
される。…CGIプログラムは,クライアントがそのCGIプログラム
に対応するURL(ユニフォーム・リソース・ロケータ)をリクエスト
する度に実行される。CGIプログラムの実行に伴う制限は,どのユー
ザが所与のCGIプログラムを実行しようとしているかをウェブ・ペー
ジのサーバが必ずしも追跡したり又は知っているわけではないというこ
とである。これは,特に,ユーザの特権レベルに従ってプログラムを種
々に動作させることが望ましい場合,潜在的なセキュリティ問題を起こ
すことがある(2頁7行∼3頁3行)。」
(ウ)発明の開示
「本発明は,ウェブ・ベースのネットワークにおけるユーザの権限レベ
ルを識別し,その権限レベルに応答するためのシステム及び方法を提供
する(4頁下2行∼5頁1行)。」
「第1の局面では,本発明は,HTTPサーバのようなウェブ・サーバ,
CGI実行リクエストと共にユーザ情報をウェブ・サーバに処理依頼す
るための機構を含む少なくとも1つのウェブ・クライアント,及びデフ
ォルト・ユーザ・モード又はユーザIDの下で最初に実行可能である少
なくとも1つの自己認証CGIプログラムを有するネットワークシステ
ムを含む。そのCGIプログラムは,ユーザ情報を検査するための手段
と,ユーザの特権レベルを決定するための手段と,プログラムを非デフ
ォルト・モードで実行させるための手段と,ユーザ情報を記憶し,ユー
ザ情報をウェブ・クライアントに戻すための手段と,CGIプログラム
をデフォルト・ユーザ・モードに戻すための手段とを含む(5頁1。」
行∼13行)
「次に,CGIプログラムの実行がウェブ.サーバにおいてデフォルト
・ユーザ・モード或いはIDの下に開始される。そこで,実行リクエス
トと共に受け取られたユーザ情報が検査され,ユーザの権限レベルが決
定される。ユーザの権限レベルは,セキュリティ・オブジェクトからパ
スワード情報を得ることによっても決定可能である。次に,CGIプロ
グラムは,適切なシステム・コールを行って,CGIプログラムを非デ
フォルト・ユーザ・モード又はIDの下に実行させる。そこで,ユーザ
情報は再びHTML隠し変数に記憶され,CGIプログラム実行の結果
と共にウェブ・クライアントに戻される。最後に,CGIプログラムが
適切なシステム・コールを行って,そのCGIプログラムがそれのデフ
ォルト・ユーザ・モードにおける実行へ戻させる(5頁下1行∼6。」
頁13行)
(エ)発明を実施するための最良の形態
「HTTPサーバがリクエストを受け取る時,それは,デフォルト実行
ファイル又はモード25の下に特定のCGIプログラム20の実行を開
始する。その後デフォルト・モードの下で実行し始めるCGIプログラ
ム20は,ユーザ認証を遂行する一連の新規なプロシージャ・コールを
開始する。そのプロシージャは,ユーザ情報を検査するための機構,ユ
ーザの権限特権レベルを決定するための機構,非デフォルト・ユーザ・
プロファイル23の下にCGIプログラムを実行させるための機構,ユ
ーザ情報をウェブ・クライアントに(一般には,CGI実行の結果と共
に)返送するための機構,及びCGIジョブをそれのデフォルト・モー
ド又はプロファイル25に返送するための機構を含む。これらのジョブ
を実行するためのコードはCGIプログラム20自体に含まれてもよく,
或いはファイル・サーバ16内の又はその近くのどこかに記憶されても
よい(8頁16行∼9頁6行)。」
「HTTPサーバ18は,実行リクエストを受け取った時,CGIプロ
グラムをウェブ・サーバ25においてデフォルト・ユーザ・モードの下
に開始させる。そこで,CGIプログラム20は,実行リクエスト24
と共に受け取ったユーザ情報を,必要なシステム・コールに調べさせる。
この情報29から,CGIプログラム20はユーザの権限レベルを決定
する。しかる後,CGIプログラム20は更なるシステム・コールを行
ってHTTPサーバ18に非デフォルト・ユーザ・モード23の下に,
それが適当である場合,CGIプログラムを実行させる(即ち,それは
ユーザの現ユーザID又はプロファイルの下で実行される。次に,C)
GIプログラム20はユーザ情報29をHTML隠し変数内に再び記憶
させ,実行26の結果と共にウェブ・クライアントに戻させる。最後に,
CGIプログラムは,適切なシステム・コールを行ってHTTPサーバ
にそのCGIプログラムをデフォルト・モード25へ戻させる(16」
頁3行∼19行)
エ上記イ,ウによれば,本願明細書(甲4,5の1∼4)において「デフ,
ォルト・ユーザ・モード」が,ウェブ・サーバ(HTTPサーバ)におい
てCGIプログラムの実行によりユーザ情報を検査するときに置かれる実
行環境の様式(態様)であることや「非デフォルト・ユーザ・モード」,
が,ウェブ・サーバ(HTTPサーバ)においてCGIプログラムを実行
させてその実行の結果と共にユーザ情報をウェブ・クライアントに返送す
るときに置かれる実行環境の様式(態様)であることが記載されているこ
とが認められる。しかし,本願発明の特許請求の範囲においては「デフ,
ォルト・ユーザ・モード」は,ウェブ・サーバが有するオペレーティング
・システムによって実行されるプログラムがユーザ情報を検査する機能を
実現する際に置かれる実行環境の様式(態様)を示すものと認められるに
止まり,ウェブ・サーバが実行するプログラムがCGIプログラムである
ことまで特定されておらず,また同様に「非デフォルト・ユーザ・モー,
ド」は,ウェブ・サーバが有するオペレーティング・システムによって実
行されるプログラムがそれを動的に実行させる機能及びウェブ・クライア
ントにユーザ情報を戻す機能を実現する際に置かれる実行環境の様式(態
様)を示すものと認められるに止まり,ウェブ・サーバで実行されるプロ
グラムがCGIプログラムであることまで特定されていないものである。
オそうすると,本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード「非デフォル」
ト・ユーザ・モード」の区別について,権限の異なる複数のユーザ(ウェ
ブ・クライアント)からのアクセスを前提にユーザの「特権レベル」ない
し「権限レベル」に応じた区別,すなわち人による区別に基づく実行モー
ドの区別であるというのは特許請求の範囲の記載に基づかない主張である
というほかなく,また本願発明の「デフォルト・ユーザ・モード」は,ウ
ェブ・サーバが有するオペレーティング・システムによって実行されるプ
ログラムがユーザ情報を検査する機能を実現する際に置かれる実行環境の
様式(態様)を示すものと認められることからすると,同「デフォルト・
ユーザ・モード」が非特権モード(ユーザモード)に属するものであると
当然にいうこともできないから,原告の上記主張は採用することができな
い。
(6)そうすると,原告主張の取消事由2の主張は理由がないことになる。
4結語
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一

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