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平成29年11月28日判決言渡
平成29年(ネ)第10037号損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第13033号)
口頭弁論終結日平成29年10月3日
判決
控訴人(一審原告)株式会社コアアプリ
同補佐人弁理士古志達也
被控訴人(一審被告)KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士辻居幸一
高石秀樹
山本飛翔
同補佐人弁理士鈴木信彦
被控訴人(一審被告)LGElectronics
Japan株式会社
同訴訟代理人弁護士飯村敏明
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して508万0320円及びこれに対す
る平成27年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の経緯等
(1)本件は,発明の名称を「入力支援コンピュータプログラム,入力支援コン
ピュータシステム」とする本件特許権を有する控訴人が,被控訴人らに対し,被控
訴人LGが輸入し,被控訴人KDDIが販売するスマートフォン「LGL21」(被
控訴人製品)にインストールされているソフトウェア(本件ホームアプリ)及び被
控訴人製品が本件特許権を侵害すると主張して,民法709条に基づき,損害賠償
金508万0320円(特許法102条3項により算定される損害額9億6768
万円の一部である483万8400円と弁理士費用24万1920円の合計額)及
びこれに対する不法行為後の日(被控訴人KDDIに対する通知書到達の日の翌日)
である平成27年10月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延
損害金の支払を求める事案である。
(2)原審は,①本件ホームアプリは構成要件Eを充足しないし,本件ホームア
プリの構成は本件発明1と本質的部分において相違するから,本件ホームアプリは,
本件発明1及び3の技術的範囲に属しない,②本件ホームアプリをインストールし
た被控訴人製品は,本件特許の特許請求の範囲請求項3を引用する本件発明4及び
5の技術的範囲に属しないと判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
(3)控訴人は,原判決を不服として控訴した。
2前提事実
本件の前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠により認められる事実)
は,下記(1)~(4)のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の第2の1に記載のとおりである。
(1)原判決2頁20行目の「その特許出願の願書に添付された明細書及び図面」
の後に「〔甲2〕」を挿入する。
(2)原判決6頁3行目~5行目を,次のとおり改める。
「(4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタ
ンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段
へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること,」
(3)原判決6頁7行目~9行目を,次のとおり改める。
「G:(4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令
ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力
手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること,」
(4)原判決6頁12行目に「請求項3」とあるのを「請求項1及び3」と改め
る。
3争点
本件の争点は,原判決「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりである。
4争点に関する当事者の主張
本件の争点に関する当事者の主張は,下記(1)及び(2)のとおり当審における控訴
人の補充主張とそれに対する被控訴人らの主張を加えるほかは,原判決「事実及び
理由」欄の第2の3に記載のとおりである。
(1)当審における控訴人の補充主張
ア争点(1)イ(「ポインタ」〔構成要件B,E,F〕の充足性)について
(ア)本件明細書の記載及び当業者の技術常識(甲22,42~45,49,
乙6)によると,本件発明1において,「カーソル」とは,「出力手段である画面上
に表示され,画面上の特定の位置を指し示す記号等であって,状況によって形状が
変化したり,消えることがあるもの」であり,「ポインタ」とは,「このカーソルに
対応するものであって,単一もしくは複数種類のポインティングデバイスに対応し
たコンピュータプログラムを作成するため,仮想的に存在するポインティングデバ
イスであり,その位置を記憶手段に記憶するもの」である。
(イ)被控訴人製品は,画面上の特定の位置を指し示す記号等である「カー
ソル画像」を3種類表示している(甲41の1・2)。
そして,被控訴人製品を含むコンピュータが出力手段である表示画面に「カーソ
ル画像」を表示するためには,基準となる「ポインタの座標位置」が記憶手段に記
憶されて,情報処理の対象となる必要があるから,被控訴人製品は,「ポインタの座
標位置」を有している。これは,「開発者向けオプション」を選択し,「ポインタの
位置を表示」を有効にした際に表示される,画面左上の「ポインタの座標位置」の
数値が変化すること(甲8の1・2,甲29の1・2)からも,裏付けられる。
また,被控訴人製品の本件ホームアプリにおいて表示された「カーソル画像」は,
マウス,タッチパネルのいずれからも操作することができるから,本件ホームアプ
リは,複数のポインティングデバイスからの入力に対応しており,そのためには,
ハードの違いを吸収するために「ハードウエアの仮想化」による抽象化が必要であ
る。したがって,被控訴人製品の基本ソフトは,ハードウエア抽象化レイヤのコン
ピュータプログラムにおいて,仮想的に存在するポインティングデバイスを有して
いる。
以上によると,被控訴人製品は,本件発明1の「ポインタ」の構成を有する。
(ウ)被控訴人らは,本件発明1は,「ポインタの座標位置によって実行され
る命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する」ものであるとと
もに,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる」ものであり,「操作メニュ
ー情報がポインタにより指定される」ものであると主張するが,「ポインタの座標位
置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示す
る」は,本件特許の特許請求の範囲請求項1においては,「操作メニュー情報」の説
明(修飾詞)であり,「ポインタ」の説明ではない。
また,本件明細書【0004】の「マウスポインタ」は,入力手段がマウス環境
の場合に限定された「カーソル画像」の名称であるから,この「マウスポインタ」
の記載により,マウス以外にもキーボードやタッチパネル等を想定した本件発明1
の「ポインタ」を限定することはできない。
さらに,本件明細書【0012】は,「ポインタの座標位置」と,絵記号である「カ
ーソル(マウスカーソル)」の位置関係を記載したものであり,「ポインタ」自体の
説明ではなく,「ポインタ」自体が「カーソル(マウスカーソル)」であるとは読め
ない。
イ争点(1)オ(「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信
すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」〔構成要件E〕の充足性)につ
いて
本件ホームアプリは,次のとおり,構成要件Eを充足する。
(ア)a構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令を受信する」のは,
構成要件C1の「処理手段」であり,これに該当するCPU(中央演算装置)が受
信したり,処理できるのは,「情報(データ・電気信号)」である。本件明細書【0
020】にも,「『入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する』
とは,入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの
座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することである」と記載
されており,処理手段が入力手段から受信する「ポインタの位置を移動させる命令」
は,「情報(データ・電気信号)」である。
また,本件明細書【0079】には,マウス・キーボード環境において,電気信
号である「ポインタの座標位置を移動させる命令」は,ドラッグ操作等により,入
力手段のマウス・キーボードから処理手段が受信することが記載されている。
そして,本件明細書【0011】には,「『入力手段』とは,例えばキーボード,
マウス,タッチパネル等」と記載され,入力手段にはタッチパネルが含まれるとこ
ろ,タッチパネル環境とマウス・キーボード環境とでは,ドラッグ&ドロップ操作
を開始するために行う入力手段の操作が異なっている。
以上によると,構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令」は,「情報(デ
ータ・電気信号)」であって,「(処理手段が)入力手段を介してポインタの位置を移
動させる命令を受信する」には,少なくとも「(処理手段が)ドラッグ&ドロップ操
作を開始させる命令(電気信号)を受信する」ことが含まれる。
なお,原判決は,本件発明1の「ポインタ」とは,出力手段である画面上に表示
され,画面上の特定の位置を指し示す記号等であって,座標位置を有し,入力手段
を用いてその位置を移動させることが可能なものをいうと判断したが,仮に原判決
のように,「ポインタ」が画面上に表示されるものと解釈しても,上記のとおり,本
件明細書【0020】に「ポインタの位置を移動させる命令」の定義が明確に記載
されていることから,「ポインタの位置を移動させる命令」の上記解釈は左右されな
い。
bタッチパネル環境では,ドラッグ&ドロップ操作を開始するために
行う入力手段の操作は,ロングタッチ操作である。
c原判決認定のとおり,被控訴人製品では,「左右スクロールメニュー
表示は,利用者がショートカットアイコンをロングタッチすることにより表示され
るものであり」,これは,タッチパネル環境においてドラッグ&ドロップ操作を開始
するために行う入力手段の操作であるから,被控訴人製品は,構成要件Eの「(処理
手段が)入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」を充足す
る。
(イ)原判決は,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令」とは,
利用者が画面上に表示されているポインタの位置を移動させる操作を行うことを意
味すると判断したが,仮にこの原判決の解釈を前提としても,被控訴人製品は,構
成要件Dの「開始動作命令」を受信した後に,電気信号として「ポインタの位置を
移動させる命令」を受信している。
すなわち,被控訴人製品は,被控訴人製品に触れていないペン(指)が,被控訴
人製品のタッチパネルのアイコン画像に触れると,①このアイコン画像とは画面上
の別の位置にあった「矢印」であったカーソル画像(甲41の1の0分10秒頃の
映像参照)が,その位置を移動することなく,「外枠が白い円形」のカーソル画像(甲
41の1の0分20秒頃の映像参照)に変化し,続いて,②この「外枠が白い円形」
のカーソル画像は消え,先にペン(指)が触れたアイコン画像上に,「全体が白い円
形」のカーソル画像(甲41の1の0分26秒頃の映像参照)が表示される。カー
ソルが状況によって形状が変化することがあることは,当業者の技術常識であるか
ら(甲42,45,乙6),上記①から②のとおり,「カーソル画像」が移動してい
る以上,これが指し示している「ポインタの座標位置」も移動している。
このように,被控訴人製品は,「離れた指がタッチパネルの特定の位置に触れる利
用者の行為」によって,入力手段を介して,甲41の1の0分20秒頃の「開始動
作命令」(構成要件D)と,同0分26秒頃の「ポインタの位置を移動させる命令」
(構成要件E)の二つを続けて受信している。
(ウ)被控訴人製品が,構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令を
受信すると…操作メニュー情報を表示する」構成を充足することを,図1を用いて
説明すると,次のとおりである。
(図1)
被控訴人製品は,図1のとおり,①本件発明1の「開始動作命令」を受信すると,
②円形のカーソル画像に,カーソルの形状を変化させる。
続いて,③「ポインタの位置を移動させる命令」を受信すると,④円形のカーソ
ルの表示位置を変更する。そして,基本ソフトであるAndroidOSは,「タッチイベ
ント」を発生させる。
すると,本件ホームアプリの「onTouchEvent」のコンピュータプログラムが,
「ACTION_DOWN」と呼ばれるデータと,「タッチ位置」,すなわち「ポインタの座標位
置」を取得する。これを「ジェスチャーディテクタ」と呼ばれるコンピュータプロ
グラムに渡すと,0.6秒後に⑤「操作メニュー情報」を表示する構成である。
このように,被控訴人製品の基本ソフトであるAndroidOSと,本件ホームアプリ
の組合せは,本件発明1の「開始動作命令」を受信した後に,「ポインタの位置を移
動させる命令」を受信すると,0.6秒後に「操作メニュー情報」を表示する構成
であるから,構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作
メニュー情報を表示する」を充足する。
(エ)原判決は,操作メニュー情報について,ロングタッチすることにより
表示されるものであり,画面上に表示されているポインタの位置を移動させる操作
により表示されるとは認められないと判断したが,ロングタッチは,操作であって,
命令(電気信号)ではない。また,本件発明1のコンピュータプログラム及び本件
ホームアプリにおいて,処理手段がポインティングデバイスから受信する電気信号
は,「カーソルをどの方向にどれだけ動かせばよいのか」と「クリックされたか(ボ
タンが押された,離された)」といった2種類の情報の元となる電気信号であり(甲
44),処理手段は,「利用者がロングタッチ操作を行ったという電気信号」を受信
するわけではない。「タッチによる電気信号」と「タッチしたままの状態を表す電気
信号」という,入力手段からの複数の電気信号によって,処理手段が「ロングタッ
チ操作である」と判断しているにすぎない。
被控訴人製品の処理手段が実行している,本件ホームアプリなどのアプリケーシ
ョンソフトは,「タッチイベント」と呼ばれる仕組みによって,入力手段から入力さ
れた電気信号から得た「データ」や「情報」を,被控訴人製品の基本ソフトである
「AndroidOS」から取得するが,「タッチイベント」から取得できる利用者の操作は,
「タッチダウン」(タッチパネルから離れている指がタッチパネルに触れたこと),
「タッチアップ」(タッチパネルから指が離れたこと),「ムーブ」(タッチパネルに
触れている指が動いたこと)の3種類である。そして,被控訴人製品を含め,アプ
リケーションソフトの内部に「onTouchEventメソッド」と呼ばれるコンピュータプ
ログラムを用意することにより,入力手段からのデータが含まれる「MotionEvent
クラス」と呼ばれるデータを基本ソフト(AndroidOS)から取得し,「MotionEvent
クラス」に記憶されている「アクション種別」のデータを読み出し,「アクション種
別」が「MotionEvent.ACTION_DOWN」(以下,単に「ACTION_DOWN」ともいう。)であ
れば,利用者の行為が「タッチダウン」であり,「MotionEvent.ACTION_MOVE」(以下,
単に「ACTION_MOVE」ともいう。)であれば,利用者の行為が「ムーブ」であると認
識し,出力手段の表示を変える等の情報処理を実行することができる。また,被控
訴人製品のコンピュータプログラムが取得する「MotionEventクラス」のデータに
は,必ず「タッチ位置」のXY座標が含まれる(以上につき,甲47)。
被控訴人製品のタッチパネルに,離れていた指が触れると,前記のとおり,被控
訴人製品の処理手段は,「開始動作命令」及び「ポインタの位置を移動させる命令」
を受信して,最後にタッチしていた以前のタッチ位置から「カーソル画像」が移動
するが,このときの利用者の行為は「タッチダウン」である。そこで,被控訴人製
品の処理手段が,「開始動作命令」及び「ポインタの位置を移動させる命令」を受信
すると,アプリケーションソフトは,「ACTION_DOWN」及び「タッチ位置」を含む
「MotionEventクラス」のデータを取得する。
また,被控訴人製品では,「ロングタッチ操作」や「タップ操作」,「スライド操作」
といった操作を「ジェスチャー」として分類し,単一又は複数の「タッチダウン」,
「ムーブ」,「タッチアップ」といった,利用者が行った単純な行為と,タッチ位置
の組合せ(を表す電気信号)に基づいて,処理手段が「ジェスチャー」を認識する。
そして,処理手段がジェスチャーを認識すると,それぞれの操作に応じたジェスチ
ャーイベントが発生する(以上につき,甲47)。
被控訴人製品のアプリケーションソフトが「ジェスチャーイベント」を取得する
ためには,「onTouchEventメソッド」のコンピュータプログラムの内部に,「ジェス
チャーディテクタ」のコンピュータプログラムを設置(記述)する。そして,ジェ
スチャーディテクタが「長押し(ロングタッチ操作)」を認識すると,アプリケーシ
ョンソフトの開発者が用意した「onLongPressメソッド」のコンピュータプログラ
ムを処理手段が実行する。本件ホームアプリにおいて,「操作メニュー情報」である
「左右スクロールメニュー表示」は,この「ジェスチャーディテクタ」の「onLongPress
メソッド」を利用して,実現している。
被控訴人製品が搭載しているAndroidOSの一部として開発された「ジェスチャー
ディテクタ」のソースコード(甲48)によると,gestureDetector(ジェスチャー
ディテクタ)のonTouchEventメソッドは,8頁490行~11頁680行に記載さ
れており,8頁490行から1行ずつ実行され,同頁520行からは,アクション
種別ごとに異なった処理となる。アクション種別が「ACTION_DOWN」の場合には,9
頁554行~590行が実行されるが,このうち,9頁586行~587行の
「mHandler.sendEmptyMessageAtTime(LONG_PRESS,mCurrentDownEvent.getDownTime
()+TAP_TIMEOUT+LONGPRESS_TIMEOUT);」が実行されると,本件ホームアプリで利用
される,LGエレクトロニクスが用意した「onLongPressメソッド」が呼び出され,
「左右スクロールメニュー表示」(操作メニュー情報)が表示される。
「mHandler.sendEmptyMessageAtTime」は,次の処理を示すデータを,指定する時
間に他のコンピュータプログラムに送信するメソッドであり,データを送信する時
間は,「mCurrentDownEvent.getDownTime()+TAP_TIMEOUT+LONGPRESS_TIMEOUT」によ
って指定される。「mCurrentDownEvent.getDownTime()」は,タッチダウンによって
指が触れた時間である。「TAP_TIMEOUT」と「LONGPRESS_TIMEOUT」は,あらかじめ定
義されたミリ秒単位の数値であり,「getTapTimeoutメソッド」のソースコード(甲
51)及び映像(甲41の1)によると,その合計は0.6秒と考えられる。
タップ操作及びスライド操作は,「離れていた指が,タッチパネルに触れる行為」
(ACTION_DOWN)によって,「カーソル画像」が移動を終えた後に,追加して,利用
者が指を離したり(ACTION_UP),大幅に動かしたり(ACTION_MOVE)といった別の行
為を行う操作である。これらの利用者の追加の行為によって,甲48の10頁61
3行や11頁668行の「mHandler.removeMessage(LONG_PRESS);」の情報処理が実
行されると,「0.6秒後に『操作メニュー情報』を表示する情報処理」を中止する。
このように,タップ操作やスライド操作においては,一旦開始した「0.6秒後
に『操作メニュー情報』を表示する情報処理」を,利用者が追加の行為を行って中
止しているにすぎない。利用者が追加の行為を行って,「操作メニュー情報」の表示
を中止できることは,ソフトウェア開発上の単なる設計事項である。
また,本件明細書の【図5】には,マイクロソフト社のWindows等の基本ソフト
に見られる「プルダウンメニュー」が示されており,例えば,「ファイル(F)」の
部分にマウスカーソルを移動してから,マウスの左ボタンを押すと,「ファイル(F)」
の直下に,ファイルに関する「プルダウンメニュー」のメニュー画像が表示され,
マウスのボタンを押したまま,マウスカーソルを,所望するメニュー画像の範囲に
移動してから,マウスのボタンを離すと,所望するメニュー画像に関連付いた命令
が実行される。この操作において,処理手段は,まず「マウスの左ボタンを押す」
ことによる「開始動作命令」を受信し,続いて「マウスカーソルを,所望するメニ
ュー画像の範囲に移動」といった,「ポインタの位置を移動させる命令」を受信する
が,「操作メニュー情報」を表示しない。このように,本件明細書の【図5】は,「プ
ルダウンメニュー」を表示している「データ状態」において,「操作メニュー情報」
を表示しないものであるから,本件発明1の技術的範囲に属するコンピュータプロ
グラムが「開始動作命令」を受信した後に「ポインタの位置を移動させる命令」を
受信したときであっても,必ず「操作メニュー情報」を表示しなければならないと
いうものではなく,「データ状態」に基づいて「操作メニュー情報」が表示されない
場合があり得ることを示している。請求項1にも「ポインタの位置を移動させる命
令を受信すると…常に,『操作メニュー情報』を…表示すること」とは記載されてい
ないのであって,ポインタの位置を移動させる命令を受信した場合に,「操作メニュ
ー情報」の表示処理を行う場合もあれば,行わない場合もある製品は,表示処理を
行っているのであるから,構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令を受信
すると…『操作メニュー情報』を…表示すること」を満たしている。
(オ)被控訴人製品は,「ポインタの位置を移動させる命令」を受信した時点
で,左端の頁を表示していると,右側に「操作メニュー情報」が表示されるが,左
側には表示されない。右端の頁を表示していると,左側に「操作メニュー情報」が
表示されるが,右側には表示されない。それ以外であれば,左右両側に「操作メニ
ュー情報」が表示される。
したがって,「ポインタの位置を移動させる命令」を受信した時点の「データ状態」
である「ページ番号」に基づいて,「操作情報」及び「操作メニュー情報」を特定し
て画面に表示していることは,明らかである。
(カ)以上によると,被控訴人製品にインストールされたAndroidOSと,本
件ホームアプリの組合せは,構成要件Eの「(2)前記入力手段を介してポインタの
位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されて
いるデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連
付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情
報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,」を充足する。
ウ争点(1)ウ(「操作メニュー情報」〔構成要件B,E,F〕の充足性)につ
いて
本件ホームアプリは,ロングタッチをすると「左右スクロールメニュー表示」を
表示するが,「左右スクロールメニュー表示」は,画面に表示するページを「隣接し
たページ」に変更するスクロール命令にあたり,その対象となる「隣接したページ」
の一部を表示したものであるから,「実行される命令の…対象を小さな絵…で表現し
た画像データ」(本件明細書【0012】)である。
したがって,本件ホームアプリの「左右スクロールメニュー表示」は,本件発明
1の「操作メニュー情報」を充足する。
エ争点(1)ア(「データ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプ
ログラム」〔構成要件A2,C2〕の充足性)について
文献(甲37,38)によると,当業者は,構成要件A2の「データ入力」とは
電気回路に数値などを与えることを意味するものと理解する。
そして,座標位置は,X軸とY軸の数値の組合せにより,座標における特定の位
置を表すものであるから,「座標データ」であり,「ポインティングデバイス」を入
力手段として「座標データ」を入力することは,「データ入力」に該当する。
本件ホームアプリは,被控訴人製品の入力手段であるタッチパネルから,タッチ
位置のXY座標データを入力して操作するコンピュータプログラムであるから,デ
ータ入力が行われる際に実行されるコンピュータプログラムである。
また,本件ホームアプリは,スクロール命令が実行される座標データの範囲を「操
作メニュー情報」の画像として表示することにより,視覚的に利用者の「タッチ位
置のXY座標」のデータ入力を支援しており,スクロール命令によって画面中央に
表示する「ページ番号」の数値データの入力を支援している。
したがって,本件ホームアプリは,「利用者が…データ入力を行う際に実行される
入力支援コンピュータプログラム」であり,構成要件A2,C2を充足する。
オ争点(1)エ(「命令ボタン」〔構成要件D〕の充足性)について
甲41の1・2によると,被控訴人製品の基本ソフトであるAndroidOSを実行し
ている処理手段が,「命令ボタン」に相当する被控訴人製品のタッチパネルに内包さ
れたタッチセンサから「開始動作命令」の電気信号を受信していることは明らかで
あるから,被控訴人製品は構成要件Dを充足する。
「命令ボタン」は,入力手段における要素であるところ,タッチパネルに内包さ
れたタッチセンサは,押すことを電気信号に変換する入力手段であるから,「命令ボ
タン」に相当する。
(2)被控訴人らの主張
ア争点(1)イ(「ポインタ」〔構成要件B,E,F〕の充足性)について
本件発明1は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解
できるように前記出力手段に表示する」こと(構成要件B),「入力手段を介してポ
インタの位置を移動させる命令を受信」すること(構成要件E),「入力手段を介し
て前記出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定される」こと(構
成要件F)を特徴とする発明である。
特許請求の範囲の文言を自然に解釈する限り,本件発明1は,「ポインタの座標位
置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示」
するものであるとともに,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる」もので
あり,「操作メニュー情報がポインタにより指定される」ものであるから,本件発明
1の「ポインタ」とは,出力手段である画面上に表示され,何かの位置を指し示す
ものであり,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものである。
このような解釈は,本件明細書の記載(【0003】,【0004】,【0012】,
【0079】,【図5】)や,当該分野の辞典(乙6)の「ポインタ」の定義,本件特
許の出願日以前に頒布された多数の特許公報(乙7~14)の「ポインタ」の理解
とも整合する。
イ争点(1)オ(「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信
すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」〔構成要件E〕の充足性)につ
いて
(ア)本件明細書の記載(【0020】,【0079】)に加え,本件発明1に
おける「ポインタ」が画面上に表示され,画面上の特定の位置を指し示すものをい
うことに鑑みると,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令」とは,利
用者が画面上に表示されているポインタの位置を移動させる操作を行うことを意味
すると解される。
そうであるところ,本件ホームアプリにおいて,控訴人が「操作メニュー情報」
に当たると主張する左右スクロールメニュー表示は,利用者がショートカットアイ
コンをロングタッチすることにより表示されるものであって,画面上に表示されて
いるショートカットアイコン並びに青い線の交点及び白い円形の画像の位置を移動
させる命令を受信すると表示されるものではないから,構成要件E(「入力手段を介
してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手
段に表示する」)を充足しない。
(イ)仮に本件発明1の「ポインタ」は画面上に表示される必要はないとい
う控訴人の主張を前提としても,本件ホームアプリは,タップ操作やスライド操作
の際のポインタの座標位置を書き換える命令を受信すると左右スクロールメニュー
を表示するものではなく,ロングタッチがあったとき(一定時間タッチした状態を
継続したとき)に左右スクロールメニューを表示するものであるから,「ポインタの
座標位置を書き換える命令」が本件発明1の「入力手段を介してポインタの位置を
移動させる命令」に当たるとしても,この「命令を受信すると」左右スクロールメ
ニューを出力手段に表示するものではない。したがって,構成要件Eを充足しない。
ウ争点(1)ウ(「操作メニュー情報」〔構成要件B,E,F〕の充足性)につ
いて
控訴人が「操作メニュー情報」に相当すると主張する「左右スクロールメニュー
表示」は,隣のホーム画面にスクロールするという命令を利用者が理解できるよう
に何らかの表示がされているものではないから,「ポインタの座標位置によって実行
される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像デ
ータ」ではなく,本件発明1の「操作メニュー情報」に相当しない。
エ争点(1)ア(「データ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプ
ログラム」〔構成要件A2,C2〕の充足性)について
本件ホームアプリは,ホーム画面(ホームスクリーン)をカスタマイズするプロ
グラムであり(甲7),控訴人主張の「左右スクロールメニュー表示」が表示される
機能は,ホーム画面に表示されているアイコンを隣のホーム画面に移動する操作を
実現するプログラムであり,何らかの「データ入力」を支援するプログラムではな
いし,「データ入力を行う際に実行される」プログラムでもないから,本件発明1の
「入力支援コンピュータプログラム」に該当しない。
タッチパネルを介して座標を入力する機能は,本件ホームアプリとは別の入力ア
プリケーションによるものであるし,「左右スクロールメニュー表示」が表示される
機能も座標の入力支援とは関係がない。
オ争点(1)エ(「命令ボタン」〔構成要件D〕の充足性)について
特許請求の範囲の文言や本件明細書の記載(【0079】)によると,本件発明1
は,「命令ボタン」を押し続けている間に,画面上の「ポインタ」を移動して所望の
「出力手段に表示した操作メニュー情報」を指定するものであるから,「命令ボタン」
とは,「ポインタ」と別個の構成要素であり,それが画面上に表示されるボタンであ
るとしても,少なくとも「ポインタ」と別個に用意されたものである。
被控訴人製品には,「ポインタ」と別個に用意された「命令ボタン」が存在しない
し,「タッチセンサ」は入力手段自体であることから,この点においても「命令ボタ
ン」に相当しない。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,本件ホームアプリは構成要件Eを充足しないし,本件ホームアプリ
の構成は本件発明1の構成と均等なものとはいえないから,本件ホームアプリは,
本件発明1及び3の技術的範囲に属しないし,これをインストールした被控訴人製
品は,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び3を引用する本件発明4並びに5の
技術的範囲に属しない,したがって,控訴人の請求を棄却した原判決の結論は相当
であり,本件控訴は棄却すべきものと判断する。その理由は,下記1のとおり原判
決を補正し,下記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を示すほ
かは,原判決「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。
1原判決の補正
原判決16頁26行~23頁11行を,次のとおり改める。
「1争点(1)オ(「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する
と…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」〔構成要件E〕の充足性)について
(1)文言侵害の成否
ア本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。
(ア)技術分野
【0001】
本発明は,マウスに代表されるポインティングデバイス等の入力装置を利用して,
コンピュータシステムにおけるシステム利用者の入力行為を支援するためのコンピ
ュータプログラムに関するものである。
(イ)背景技術
【0002】
GUI(GraphicalUserInterface)環境のコンピュータシステムでは,システ
ム利用者の入力行為を支援するために様々な工夫がなされている。例えば,プログ
ラムの実行中にコンピュータの入力装置であるマウスを右クリックすることにより
操作コマンドのメニューが画面上に表示される「コンテキストメニュー」や,マウ
ス操作の一種である「ドラッグ&ドロップ」等が存在する。
【0003】
「コンテキストメニュー」は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指
し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示される
ものであり,必要な場合に操作コマンドのメニューを画面上に表示させるという点
でシステム利用者にとって有益である。しかしながら,「コンテキストメニュー」は,
マウスの右クリックで簡単にコマンドのメニューが表示されるものの,マウスの左
クリックを行う等するまではずっとメニューが画面に表示され続ける。また,利用
者が間違って右クリックを押してしまった場合等は,利用者の意に反してメニュー
が画面上に表示されてしまうので不便である。
【0004】
一方,「ドラッグ&ドロップ」とは,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠や
ファイルのアイコンなどに重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状
態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを離すマウス操作である。こ
の「ドラッグ&ドロップ」は,データ等の「切り取り」と「貼り付け」を同時に行
う操作,例えば,ディスク内でのファイル移動や,アプリケーションソフト間での
データのカット&ペースト操作などに用いられている。しかしながら,「ドラッグ&
ドロップ」は,ドラッグしたポインタ位置からドロップしたポインタ位置まで画面
をスクロールさせるような一時的動作には向いているが,継続的な動作,例えば,
移動させる位置を決めないで徐々に画面をスクロールさせていくような動作に適用
させるのは難しい。
【0005】
また,以下の特許文献1には,コマンドメニュー表示方法に関する技術が開示さ
れている。しかしながら,当該技術も「ドラッグ&ドロップ」の応用技術としての
コマンドメニュー表示方法であり,継続的な動作の実行に適用させるのは難しい。
【特許文献1】特開2000-339482号公報
(ウ)発明が解決しようとする課題
【0006】
本発明の解決しようとする課題は,システム利用者の入力を支援するための,コ
ンピュータシステムにおける簡易かつ便利な入力の手段を提供することである。特
に,利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示さ
せ,必要である間についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段の提供
を目的とする。
(エ)課題を解決するための手段
【0008】
(1)そこで,上記課題を解決するため,本発明に係る入力支援コンピュータ
プログラムは,情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に
情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコ
ンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,利用者が前記入力
手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム
である。
【0009】
また,当該コンピュータシステムの前記記憶手段は,ポインタの座標位置によっ
て実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための
画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定さ
れた場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶している。
【0010】
そして,当該コンピュータシステムの前記処理手段に,(1)前記入力手段を介し
て,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動
作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離された
ことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行う
こと,(2)前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,
前記操作メニュー情報を前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,
(3)前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポイン
タにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付
いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行すること,(4)前記入力手段を
介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離
されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記操
作メニュー情報の表示を終了すること,を実行させることを特徴とする入力支援コ
ンピュータプログラムである。
【0011】
・・・「入力手段」とは,例えばキーボード,マウス,タッチパネル等のコンピュ
ータシステムにおける入力装置や,通信ネットワークで接続されたコンピュータシ
ステムにおける情報端末としての携帯情報端末やパーソナルコンピュータ等が該当
する。・・・
【0012】
「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す
絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置
である。「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるよ
うに前記出力手段に表示する画像データ」とは,当該ビットマップ形式やベクター
形式の画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのか
をシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味
する。例えば,どのような命令が実行されるのか,を表す文字を含んだ画像データ
であったり,「アイコン」のように実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で
表現した画像データが考えられる。
【0013】
「操作メニュー情報にポインタが指定された場合」とは,前記出力手段における
画面上に表示された画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,
前記ポインタの座標位置が合わさった(入った)こと,をいう。・・・
【0017】
「入力手段における命令ボタン」とは,原則として,入力手段が物理的に備えて
いるボタンを意味し,例えば,キーボードにおける入力キーや,ポインティングデ
バイスであるマウスの左右のクリックボタンやスクロールホイールボタン,などが
考えられる。「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開
始動作命令」とは,原則として,入力手段が物理的に備えているボタンが利用者に
よって押されたことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号
を意味する。「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終
了動作命令」とは,原則として,当該入力手段が物理的に備えているボタンが利用
者によって離されたことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気
信号を意味する。
【0018】
しかしながら,コンピュータシステムの入力手段の多様化により,タッチパネル
等の物理的にボタンを備えていない入力手段も存在しているため,「入力手段におけ
る命令ボタン」には,入力手段が物理的に備えているボタンだけを表すものではな
い。すなわち,入力手段がタッチパネル等の物理的にボタンを備えていない入力手
段である場合は,「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによ
る開始動作命令」とは,入力手段において利用者が押す行為を行ったことを伝える
ために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号(mousedownなど)を意味す
る。また,入力手段がタッチパネル等の物理的にボタンを備えていない入力手段で
ある場合は,「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終
了動作命令」とは,入力手段において利用者が押す行為を止めて離したことを伝え
るために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号(mouseupなど)を意味す
る。
【0020】
「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,入力手
段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの座標位置を移
動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することである。先の「開始動作命令」
が発せられて受信してから,「終了動作命令」が発せられて受信するまでの間に,処
理手段が「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」と,処
理手段は記憶手段に記憶されている操作メニュー情報を読み出して,当該操作メニ
ュー情報を出力手段に表示する。「出力手段へ表示している前記操作メニュー情報の
表示を終了する」とは,ステップ(2)で出力手段に表示した操作メニュー情報を,
処理手段が出力手段に表示しないようにすることをいう。
【0022】
(3)本発明は,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,
離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,画像データ
である操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令が実行さ
れる。特に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離され
るまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタで指定することによ
って,当該命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可能になる。また,入
力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されてい
た操作メニュー情報の表示が終了する。
【0023】
これにより,例えば,当該ポインタの指定により実行される命令として,編集対
象データのうち出力手段に表示される画面(ビュー)をスクロールさせるような命
令を採用すると,スムーズな画面操作が可能である。また,利用者によって押され
ていた入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示
されていた操作メニュー情報が表示されなくなるため,普段は画面上に操作メニュ
ー情報を表示せずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表示させることが可能と
なる。
【0048】
(1)また,他の発明に係る入力支援システムは,前記命令ボタンを備えた入
力手段が,1のポインティングデバイスであること,を特徴とする。
【0049】
(2)ここで,「ポインティングデバイス」とは,マウス,ペンデバイス,タブ
レット,ジョイスティック,タッチパネル等の各種ポインティングデバイスが該当
する。
(オ)発明の効果
【0051】
以上のように,本発明を利用すると,入力手段における命令ボタンが利用者によ
って押されてから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信
すると,画像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定
により命令が実行される。特に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押
されてから,離されるまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタ
で指定することによって,当該命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可
能になる。また,入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力
手段に表示されていた操作メニュー情報の表示が終了する。
(カ)発明を実施するための最良の形態
【0078】
図5の画面の状態で,システム利用者が入力手段30としてのマウス・キーボー
ドにおける命令ボタンを押す。例えば,利用者がマウスにおける左ボタンや右ボタ
ンを押すことや,利用者がキーボードにおける特定のキーを押す行為,等が該当す
る。これにより,処理手段20としてのCPUが,入力手段30としてのマウス・
キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令
を,入力手段30としてのマウス・キーボードから受信する(S1)。
【0079】
次に,システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボード
における命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キーボー
ドを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ
1の移動命令を行う。例えば,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したままマ
ウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押し
つつマウスを移動させる行為,等が該当する。処理手段20としてのCPUは,利
用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受
信するまでに,入力手段30としてのマウス・キーボードから,出力手段10とし
てのディスプレイに表示しているポインタ1の位置を移動させる命令を受信したか
否かを判断する(S2)。
【0080】
そして,S2において,終了動作命令を受信する前にポインタ1の位置を移動さ
せる命令を入力手段30としてのマウス・キーボードから受信した場合は,処理手
段20としてのCPUが,当該受信した際の記憶手段40としてのHDDに記憶さ
れているデータの状態を特定する。さらに,処理手段20としてのCPUは,当該
特定したデータ状態を表すデータ状態情報41に関連付いている操作情報42を特
定し,当該特定した操作情報42における操作メニュー情報を,記憶手段40とし
てのHDDから読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する(S3)。・・・
イ前記アの記載によると,本件発明1について,次のとおり認められる。
(ア)本件発明1以前にも,コンピュータシステムにおけるシステム利用者
の入力行為を支援する従来技術として,マウスを右クリックすることにより,マウ
スが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示
される「コンテキストメニュー」や,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠や
ファイルのアイコンなどに重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状
態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを離すマウス操作である「ド
ラッグ&ドロップ」などがあったが,「コンテキストメニュー」には,マウスの左ク
リックを行う等するまではずっとメニューが画面に表示され続けたり,利用者が間
違って右クリックを押してしまった場合等は,利用者の意に反して画面上に表示さ
れてしまうので不便であるという課題があり,「ドラッグ&ドロップ」には,例えば,
移動させる位置を決めないで徐々に画面をスクロールさせていくような継続的な動
作には適用が困難であるという課題があった(【0001】~【0005】)。
本件発明1は,このような課題に鑑み,システム利用者の入力を支援するための,
コンピュータシステムにおける簡易かつ便利な入力の手段を提供すること,特に,
利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ,
必要である間についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段の提供を目
的とする(【0006】)。
(イ)本件発明1は,前記(ア)の課題を解決するために,本件特許の特許請求
の範囲請求項1の構成,すなわち,本件発明1の構成とした(【0008】~【00
10】)。
(ウ)本件発明1の「入力手段」としては,キーボードやマウスのほか,タ
ッチパネルも想定されている(【0011】,【0018】)。
(エ)本件発明1の「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を
受信する」とは,入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上における
ポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することであ
る(【0020】)。実施例では,「システム利用者が入力手段30としてのマウス・
キーボードにおける命令ボタンを押す」には,利用者がマウスにおける左ボタンや
右ボタンを押すことや,利用者がキーボードにおける特定のキーを押す行為が該当
するとされ,「システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボ
ードにおける命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キー
ボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポイ
ンタ1の移動命令を行う」には,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したまま
マウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押
しつつマウスを移動させる行為が該当するとされている(【0078】,【0079】)。
(オ)本件発明1は,入力手段における命令ボタンが利用者によって押され
てから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,画
像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令
が実行されるため,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,
離されるまでの間は,当該命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可能に
なり,例えば,ポインタの指定により実行される命令として,編集対象データのう
ち出力手段に表示される画面(ビュー)をスクロールさせるような命令を採用する
と,スムーズな画面操作が可能であるという効果がある。また,入力手段における
命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されていた操作メニュー
情報の表示が終了するため,普段は画面上に操作メニュー情報を表示せずに,利用
者にとって必要な場合に簡便に表示させることが可能となるという効果がある。(【0
022】,【0023】,【0051】)。
ウ前記イを踏まえて,構成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を
移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」を検討
すると,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,タ
ッチパネルを含む入力手段から,画面上におけるポインタの座標位置を移動させる
命令(電気信号)を処理手段が受信することである。そして,利用者がマウスにお
ける左ボタンや右ボタンを押す操作に対応する電気信号ではなく,マウスにおける
左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させる操作(ドラッグ操作)に対応
する電気信号を,入力手段から処理手段が受信することを含むものである。また,
本件発明1は,利用者が入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力
支援コンピュータプログラムであり,利用者が間違ってマウスの右クリックを押し
てしまった場合等に利用者の意に反して画面上に操作コマンドのメニューが表示さ
れてしまう等の従来技術の課題を踏まえて,システム利用者の入力を支援するため,
利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させる
手段を提供することを目的とするものである。
そうすると,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」と
は,タッチパネルを含む入力手段から,画面上におけるポインタの座標位置を,入
力支援が必要なデータ入力に係る座標位置(例えば,ドラッグ操作を開始する座標
位置)からこれとは異なる座標位置に移動させる操作に対応する電気信号を,処理
手段が受信することを意味すると解するのが相当である。
そして,前記第2の1(3)ウのとおり,本件ホームアプリにおいて,控訴人が「操
作メニュー情報」に当たると主張する左右スクロールメニュー表示は,利用者がシ
ョートカットアイコンをロングタッチすることにより表示されるものであるが,ロ
ングタッチは,ドラッグ操作などとは異なり,画面上におけるポインタの座標位置
を移動させる操作ではないから,入力手段であるタッチパネルからロングタッチに
対応する電気信号を処理手段が受信することは,「入力手段を介してポインタの位置
を移動させる命令を受信する」とはいえない。
したがって,ロングタッチにより左右スクロールメニュー表示が表示されるとい
う本件ホームアプリの構成は,構成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を
移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」という
構成を充足するとは認められない。
エ控訴人は,本件ホームアプリでは,タッチパネルに指等が触れると,「ポ
インタの座標位置」の値が変化し,「カーソル画像」もこの位置を指し示すように移
動するところ,ロングタッチは,タッチパネルに指等が触れるといった動作を含む
から,被控訴人製品の処理手段はロングタッチにより「『ポインティングデバイスに
よって最後に指示された画面上の座標』を移動させる命令」を受信するといえ,本
件ホームアプリは,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」
という構成を有していると主張する。
しかし,本件ホームアプリにおいて,ロングタッチに含まれるタッチパネルに指
等が触れることに対応して,ポインタの座標位置を,「ポインティングデバイスによ
って最後に指示された画面上の座標」位置から,指等がタッチパネルに触れた箇所
の座標位置に移動させることを内容とする電気信号が生じる(甲8の1・2)とし
ても,前記ウのとおり,ロングタッチは,画面上におけるポインタの座標位置を移
動させる操作ではないから,上記電気信号は,画面上におけるポインタの座標位置
を移動させる操作に対応する電気信号とはいえない。また,「ポインティングデバイ
スによって最後に指示された画面上の座標位置」は,ロングタッチの直前に行って
いた別の操作に係るものであり,入力支援が必要なデータ入力に係る座標位置では
ないから,上記電気信号は,画面上におけるポインタの座標位置を,入力支援が必
要なデータ入力に係る座標位置からこれとは異なる座標位置に移動させることを内
容とするものでもない。
そうすると,本件ホームアプリのロングタッチ又はこれに含まれるタッチパネル
に指等が触れることに対応して,ポインタの座標位置を,「ポインティングデバイス
によって最後に指示された画面上の座標」位置から,指等がタッチパネルに触れた
箇所の座標位置に移動させることを内容とする電気信号が生じることをもって,構
成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とい
う構成を充足するとはいえない。
オ控訴人は,タッチパネルでは,指等が触れていれば継続的に「ポインタ
の位置を移動させる命令」である「ポインタの位置を算出するためのデータ」を受
信し,「ポインタの位置」が一定時間,一定の範囲内に収まっている場合にはロング
タッチであると判断されるから,ロングタッチを識別するために入力されるデータ
群には「ポインタの位置を移動させる命令」が含まれると主張する。
しかし,前記第2の1(3)ウのとおり,本件ホームアプリは,ロングタッチにより
左右スクロールメニュー表示がされる構成であるところ,ロングタッチは,継続的
に複数回受信するデータにより算出された「ポインタの位置」が一定の範囲内で移
動している場合だけでなく,当初の「ポインタの位置」から全く移動しない場合を
含むことは明らかであり(甲9),ロングタッチであることを識別するまでの間に「ポ
インタの位置」を一定の範囲内で移動させることを内容とする電気信号は,前者に
おいては発生しても,後者においては発生しないのであるから,そのような電気信
号をもって,構成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を
受信する」という構成を充足するとはいえない。
カ以上によると,本件ホームアプリが構成要件Eを充足すると認めること
はできない。
(2)均等侵害の成否
ア控訴人は,本件ホームアプリにおける「利用者がタッチパネル上のショ
ートカットアイコンを指等でロングタッチする操作を行うことによって操作メニュ
ー情報が表示される」という構成は,「利用者がタッチパネル上の指等の位置を動か
して当該ショートカットアイコンを移動させる操作を行うことによって操作メニュ
ー情報が表示される」という本件発明1の構成と均等であると主張する。
そこで検討すると,前記(1)ア及びイによると,本件発明1は,コンピュータシス
テムにおけるシステム利用者の入力行為を支援する従来技術である「コンテキスト
メニュー」には,マウスの左クリックを行う等するまではずっとメニューが画面に
表示され続けたり,利用者が間違って右クリックを押してしまった場合等は,利用
者の意に反して画面上に表示されてしまうので不便であるという課題があり,従来
技術である「ドラッグ&ドロップ」には,例えば,移動させる位置を決めないで徐々
に画面をスクロールさせていくような継続的な動作には適用が困難であるという課
題があったことから,システム利用者の入力を支援するための,コンピュータシス
テムにおける簡易かつ便利な入力の手段を提供すること,特に,①利用者が必要に
なった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ,②必要である間
についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段の提供を目的とするもの
である。
そして,本件発明1は,上記課題を解決するために,本件特許の特許請求の範囲
請求項1の構成,すなわち,本件発明1の構成としたものであるが,特に,上記①
を達成するために,「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことに
よる開始動作命令を受信した後…において」(構成要件D),「入力手段を介してポイ
ンタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示
する」(同E)という構成を採用し,上記②を達成するために,「利用者によって当
該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまで」(同
D),「操作メニュー情報を…出力手段に表示すること」(同E,F)を「行う」(同
D)という構成を採用した点に特徴を有するものと認められる。
そうすると,入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すること
によってではなく,タッチパネル上のショートカットアイコンをロングタッチする
ことによって操作メニュー情報を表示するという,本件ホームアプリの構成は,本
件発明1と本質的部分において相違すると認められる。
イ控訴人は,利用者がドラッグ&ドロップ操作を所望している場合に操作
メニュー情報を表示することが本質的部分であると主張する。
しかし,前記(1)ア及びイのとおり,マウスが指し示している画面上のポインタ位
置に応じた操作コマンドのメニューを画面上に表示すること自体は,本件発明1以
前から「コンテキストメニュー」という従来技術として知られていたところ,前記
(2)アのとおり,本件発明1は,この「コンテキストメニュー」がマウスを右クリッ
クすることにより上記メニューを表示することに伴う課題を解決することをも目的
として,利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表
示させるために,「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによ
る開始動作命令を受信した後…において」(構成要件D),「入力手段を介してポイン
タの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示す
る」(同E)という構成を採用した点に特徴を有するものと認められる。したがって,
本件発明1において,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部
分は,利用者がドラッグ&ドロップ操作といった特定のデータ入力を所望している
場合にその入力を支援するための操作メニュー情報を表示すること自体ではなく,
従来技術として知られていた操作コマンドのメニューを画面に表示することを,「入
力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受
信した後…において」(構成要件D),「入力手段を介してポインタの位置を移動させ
る命令を受信する」(同E)ことに基づいて行うことにあるというべきである。
そうすると,入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すること
によってではなく,タッチパネル上のショートカットアイコンをロングタッチする
ことによって操作メニュー情報を表示するという,本件ホームアプリの構成は,既
に判示したとおり,本件発明1と本質的部分において相違するというべきである。
なお,仮に控訴人の主張によるとしても,本件ホームアプリにおいてロングタッ
チがされた場合に常にショートカットアイコンをホーム画面の別の位置へ移動させ
るドラッグ&ドロップ操作が行われると認めるに足りる証拠はないから,ロングタ
ッチがされたことをもってドラッグ&ドロップ操作が所望されているとみることは
できず,控訴人の主張はその前提を欠くものでもある。
2結論
以上によると,本件ホームアプリは,構成要件Eを充足しないし,本件ホームア
プリの構成は本件発明1の構成と均等なものとはいえないから,本件ホームアプリ
は,本件発明1及び3の技術的範囲に属しないし,これをインストールした被控訴
人製品は,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び3を引用する本件発明4並びに
5の技術的範囲に属しない。」
2当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1)控訴人は,構成要件Eの「(処理手段が)入力手段を介してポインタの位置
を移動させる命令を受信する」には,少なくとも「(処理手段が)ドラッグ&ドロッ
プ操作を開始させる命令(電気信号)を受信する」ことが含まれるところ,被控訴
人製品は,タッチパネル環境においてドラッグ&ドロップ操作を開始するために行
う入力手段の操作であるロングタッチをすることにより左右スクロールメニュー表
示がされるものであるから,構成要件Eの「(処理手段が)入力手段を介してポイン
タの位置を移動させる命令を受信する」を充足すると主張する(前記第2の4(1)
イ(ア))。
しかし,前記1のとおり補正した原判決のとおり,本件明細書では,マウス・キ
ーボード環境において,「マウスにおける左ボタンや右ボタンを押すこと」が,構成
要件Dの「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたこと(による動
作開始命令)」に該当し(【0078】),「マウスにおける左ボタンや右ボタンを押し
たままマウスを移動すること(ドラッグ操作)」が,構成要件Eの「ポインタの位置
を移動させる命令」に該当する(【0079】)としている。そして,マウス環境に
おけるドラッグ操作は,マウスの移動によるポインタの座標位置の移動を伴うもの
であるから,タッチパネル環境におけるロングタッチ操作は,これに相当するもの
ではなく,マウス環境におけるドラッグ操作の準備行為としてのマウスにおける左
ボタンや右ボタンを押す操作に相当するものである。
そうすると,マウス環境におけるドラッグ操作に対応する電気信号が構成要件E
の「ポインタの位置を移動させる命令」に当たるとしても,タッチパネル環境にお
けるロングタッチ操作は,マウス環境におけるドラッグ操作に相当するものではな
いから,タッチパネル環境におけるロングタッチ操作に対応する電気信号が構成要
件Eの「ポインタの位置を移動させる命令」に当たるということはできない。
(2)控訴人は,構成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を移動させる
命令」とは,利用者が画面上に表示されているポインタの位置を移動させる操作を
行うことを意味するという原判決の解釈を前提としても,被控訴人製品は,被控訴
人製品に触れていないペン(指)が,被控訴人製品のタッチパネルのアイコン画像
に触れると,このアイコン画像とは画面上の別の位置にあった「矢印」のカーソル
画像が,そのままの位置で「外枠が白い円形」のカーソル画像に変化した上で,先
にペン(指)が触れたアイコン画像上に「全体が白い円形」のカーソル画像として
移動しており,これが指し示している「ポインタの座標位置」も移動しているから
(甲41の1),電気信号として「ポインタの位置を移動させる命令」を受信してい
ると主張する(前記第2の4(1)イ(イ)(ウ))。
しかし,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,
タッチパネルを含む入力手段から,画面上におけるポインタの座標位置を,入力支
援が必要なデータ入力に係る座標位置からこれとは異なる座標位置に移動させる操
作に対応する電気信号を,処理手段が受信することを意味すると解すべきものであ
ること,タッチパネルに指等が触れることに対応して,ポインタの座標位置を,「ポ
インティングデバイスによって最後に指示された画面上の座標」位置から,指等が
タッチパネルに触れた箇所の座標位置に移動させることを内容とする電気信号が生
じることをもって,構成要件Eの「入力手段を介してポインタの位置を移動させる
命令を受信する」という構成を充足するとはいえないことは,前記1のとおり補正
した原判決で説示するとおりである。
(3)控訴人は,本件ホームアプリは,被控訴人製品のタッチパネルに,離れて
いた指が触れると,利用者の行為が「タッチダウン」(タッチパネルから離れている
指がタッチパネルに触れたこと)であることを認識可能な「ACTION_DOWN」というア
クション種別と「タッチ位置」を含む「MotionEventクラス」のデータを取得し,
被控訴人製品が搭載しているAndroidOSの一部として開発された「ジェスチャーデ
ィテクタ」のonTouchEventメソッドは,アクション種別が「ACTION_DOWN」の場合
には,「OnLongPressメソッド」を呼び出し,「操作メニュー情報」である「左右ス
クロールメニュー表示」が表示される構成であるから,構成要件Eの「ポインタの
位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を表示する」を充足すると
主張する(前記第2の4(1)イ(ウ)(エ))。
しかし,「左右スクロールメニュー表示」を表示させる電気信号である「MotionEvent
クラス」に含まれる「ACTION_DOWN」というアクション種別は,上記のとおり,利用
者の行為が「タッチダウン」(タッチパネルから離れている指がタッチパネルに触れ
たこと)を認識させるものにすぎないから,これが構成要件Eの「ポインタの位置
を移動させる命令」に当たらないことは,前記1のとおり補正した原判決で説示す
るところと同様である。
(4)その他,控訴人が主張するところによって前記1のとおり補正した原判決
の判断が左右されることがないことは,既に判示したところから明らかである。
第4結論
以上によると,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の請求を棄却した原判
決は結論において相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することと
して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
森岡礼子
裁判官
古庄研

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