弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1本件訴えのうち,被告太田市教育委員会教育長が賠償命令をすること
を求める部分をいずれも却下する。
2被告太田市長は,P1に対し,1306万2420円及びこのうち1
7万3250円に対する平成12年1月21日から,このうち12万1
275円に対する同年5月11日から,このうち15万5925円に対
する同月20日から,このうち92万2950円に対する同月23日か
ら,このうち136万3320円に対する同月30日から,このうち2
5万6725円に対する同年8月11日から,このうち43万5195
円に対する平成13年5月22日から,このうち343万1430円に
対する平成14年9月21日から,このうち81万6480円に対する
同年11月21日から,このうち32万1300円に対する平成15年
4月11日から,このうち40万0050円に対する同年5月13日か
ら,このうち276万2865円に対する平成16年3月23日から,
このうち190万1655円に対する同年5月21日から,それぞれ支
払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
3原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用中,原告と被告太田市長との間に生じた部分は,これを50
分し,その1を被告太田市長の,その余を原告の各負担とし,原告と被
告太田市教育委員会教育長との間に生じた部分は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告太田市長は,P1に対し,P2と連帯して1億3422万6000円及
びこれに対する平成14年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう請求せよ。
2被告太田市長は,P2に対し,P1と連帯して1億3422万6000円及
びこれに対する平成14年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう賠償命令をせよ。
3被告太田市長は,P1に対し,P3と連帯して9209万5500円及びこ
れに対する平成16年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう請求せよ。
4被告太田市長は,P3に対し,P1と連帯して9209万5500円及びこ
れに対する平成16年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
5被告太田市長は,P1に対し,P4と連帯して6695万8500円及びこ
れに対する平成16年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう請求せよ。
6被告太田市長は,P4に対し,P1と連帯して6695万8500円及びこ
れに対する平成16年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
7被告太田市長は,P1に対し,P5と連帯して4544万4000円及びこ
れに対する平成12年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう請求せよ。
8被告太田市長は,P5に対し,P1と連帯して4544万4000円及びこ
れに対する平成12年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
9被告太田市長は,P1に対し,3076万4500円及びこれに対する平成
12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち1538
万2250円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員
はP6と,うち512万7416円及びこれに対する同日から支払済みまで年
5分の割合による金員はP7と,うち512万7416円及びこれに対する同
日から支払済みまで年5分の割合による金員はP8と,うち512万7416
円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP9と,
それぞれ連帯して支払うよう請求せよ。
10被告太田市長は,P6に対し,P1と連帯して1538万2250円及び
これに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう賠償命令をせよ。
11被告太田市長は,P7に対し,P1と連帯して512万7416円及びこ
れに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
12被告太田市長は,P8に対し,P1と連帯して512万7416円及びこ
れに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
13被告太田市長は,P9に対し,P1と連帯して512万7416円及びこ
れに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払うよう賠償命令をせよ。
14被告太田市長は,P1に対し,P10と連帯して2721万6000円及
びこれに対する平成14年11月21日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払うよう請求せよ。
15被告太田市長は,P10に対し,P1と連帯して2721万6000円及
びこれに対する平成14年11月21日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払うよう賠償命令をせよ。
16被告太田市長は,P1に対し,P11と連帯して1450万6500円及
びこれに対する平成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう請求せよ。
17被告太田市長は,P11に対し,P1と連帯して1450万6500円及
びこれに対する平成13年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう賠償命令をせよ。
18被告太田市長は,P1に対し,P12と連帯して1333万5000円及
びこれに対する平成15年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう請求せよ。
19被告太田市長は,P12に対し,P1と連帯して1333万5000円及
びこれに対する平成15年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払うよう賠償命令をせよ。
20被告太田市長は,P1に対し,P13と連帯して519万7500円及び
これに対する平成12年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう請求せよ。
21被告太田市長は,P13に対し,P1と連帯して519万7500円及び
これに対する平成12年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう賠償命令をせよ。
22被告太田市長は,P1に対し,P14と連帯して472万5000円及び
これに対する平成16年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう請求せよ。
23被告太田市長は,P14に対し,P1と連帯して472万5000円及び
これに対する平成16年5月21日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう賠償命令をせよ。
24被告太田市長は,P1に対し,1071万円及びこれに対する平成15年
4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち535万500
0円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP15
及びP16と,うち267万7500円及びこれに対する同日から支払済みま
で年5分の割合による金員はP15及びP17と,うち267万7500円及
びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP15及びP
18と,それぞれ連帯して支払うよう請求せよ。
25被告らは,P15に対し,1071万円及びこれに対する平成15年4月
11日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち535万5000円
及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP1及びP
16と,うち267万7500円及びこれに対する同日から支払済みまで年5
分の割合による金員はP1及びP17と,うち267万7500円及びこれに
対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP1及びP18と,そ
れぞれ連帯して支払うよう賠償命令をせよ。
26被告らは,P16に対し,P1及びP15と連帯して,535万5000
円及びこれに対する平成15年4月11日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払うよう賠償命令をせよ。
27被告らは,P17に対し,P1及びP15と連帯して,267万7500
円及びこれに対する平成15年4月11日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払うよう賠償命令をせよ。
28被告らは,P18に対し,P1及びP15と連帯して,267万7500
円及びこれに対する平成15年4月11日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払うよう賠償命令をせよ。
29被告太田市長は,P1に対し,P15及びP19と連帯して855万75
00円及びこれに対する平成12年8月11日から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払うよう請求せよ。
30被告らは,P15及びP19に対し,P1と連帯して855万7500円
及びこれに対する平成12年8月11日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払うよう賠償命令をせよ。
31被告太田市長は,P1に対し,P15と連帯して577万5000円及び
これに対する平成12年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう請求せよ。
32被告らは,P15に対し,P1と連帯して577万5000円及びこれに
対する平成12年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
うよう賠償命令をせよ。
33被告らは,P15に対し,P20と連帯して404万2500円及びこれ
に対する平成12年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払うよう賠償命令をせよ。
34被告らは,P20に対し,P15と連帯して404万2500円及びこれ
に対する平成12年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払うよう賠償命令をせよ。
35被告らは,P21に対し,239万4000円及びこれに対する平成16
年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を,うち119万70
00円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員はP1
6と,うち59万8500円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の
割合による金員はP17と,うち59万8500円及びこれに対する同日から
支払済みまで年5分の割合による金員はP18と,それぞれ連帯して支払うよ
う賠償命令をせよ。
36被告らは,P16に対し,P21と連帯して119万7000円及びこれ
に対する平成16年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払うよう賠償命令をせよ。
37被告らは,P17に対し,P21と連帯して59万8500円及びこれに
対する平成16年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
うよう賠償命令をせよ。
38被告らは,P18に対し,P21と連帯して59万8500円及びこれに
対する平成16年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
うよう賠償命令をせよ。
第2事案の概要
1本件は,群馬県太田市(以下「太田市」という)の住民である原告が,太。
田市長(以下「市長」ないし「被告市長」という)及び太田市教育委員会教。
育長(以下「教育長」ないし「被告教育長」という)に対し,太田市の恩賞。
随意契約制度に基づく随意契約の締結ないしこれに基づく公金の支出は違法で
あるとして,地方自治法(以下単に「法」という)243条の2第1項後段。
又は民法709条に基づき,別紙1「請求額合計」欄記載の金額及びこれに対
する民法所定の年5分の割合による遅延損害金について別紙1「賠償義務者」
欄記載の者に対する賠償命令ないし支払の請求をすることを求めた住民訴訟で
ある。
2前提事実(認定事実は末尾に証拠を摘示)
(1)当事者
ア原告は,太田市の住民である。
イ被告市長は,太田市の執行機関であり,損害賠償金又は不当利得返還金
の支払を請求する権限及び賠償命令を発令する権限を有する行政庁であ
る。
,。(,ウP1は平成7年から現在まで太田市長の職にある者である甲11
弁論の全趣旨)
エ(ア)P2は,平成11年度の太田市総務部長,平成12年度ないし平成
13年度の太田市都市づくり部長である。
(イ)P3は,平成14年度ないし平成15年度の太田市都市づくり部長
である。
(ウ)P4は,平成13年度ないし平成15年度の太田市産業環境部長で
ある。
(エ)P5は,平成11年度ないし平成12年度の太田市都市開発部長で
ある。
(オ)P22は,平成11年度の太田市建設部長であったが,平成▲年▲
月▲日に死亡した。同人の相続人は,P6(妻)並びにP7,P8及び
P9(いずれも子)である。
(カ)P10は,平成11年度ないし平成14年度の太田市市民生活部長
である。
(キ)P11は,平成11年度ないし平成12年度の太田市健康福祉部長
である。
(ク)P12は,平成14年度ないし平成15年度の太田市行政事務部長
である。
(ケ)P13は,平成11年度ないし平成12年度の太田市企画部長であ
る。
(コ)P14は,平成15年度の太田市健康福祉部長である。
オ(ア)P15は,平成11年度ないし平成14年度の教育長である。
(イ)P23は,平成13年度ないし平成15年度の太田市教育委員会教
育部長であったが,平成▲年▲月▲日に死亡した。その相続人は,P1
6(妻)並びにP17及びP18(いずれも子)である。
(ウ)P19は,平成12年度の太田市教育委員会教育部長である。
(エ)P20は,平成11年度の太田市教育委員会管理部長である。
(オ)P21は,平成15年度の教育長である。
(以下,P2,P3,P4,P5,P22,P10,P11,P12,P
13及びP14の役職を「市の各部長」と総称し,P23,P19の役職
を「教育部長,P20の役職を「管理部長」と略称する)」。
(2)太田市請負優良工事等表彰に伴う恩賞制度(以下「本件恩賞制度」とい
う)。
(。「」。)ア太田市請負優良工事等表彰選定要綱甲8以下本件要綱という
本件要綱には,要旨以下のとおりの規定がある。
(ア)本件要綱9条に定める優良工事等選定委員会において選定された優
良工事を施工した請負人及び同工事の優良主任技術者を表彰し(本件要
綱3条,4条,また,同委員会に過去5年間,連続して優良工事の対)
象として選出された工事の請負人を特別表彰するものとされている(同
5条。)
(イ)優良工事及び優良主任技術者の表彰の件数は各12件以内とされ
(同6条,1件の請負金額が原則100万円以上,工事成績表の評点)
が80点以上の工事が優良工事及び優良主任技術者選定の対象となり得
る(同7条)。
(甲8)
イ太田市請負優良工事等表彰に伴う恩賞制度運用基準甲2の1以下本(。「
件運用基準」という)。
太田市は,本件運用基準を制定し,これに基づくものとして,平成8年
10月31日から本件恩賞制度の運用を開始した。
本件運用基準には,要旨以下のような規定があった。
(ア)本件運用基準は,本件要綱3条の運用に関し必要な事項を定めるこ
とにより,請負人の資質及び技術の向上を図ることを目的とするもので
ある(本件運用基準前文)。
,,(イ)本件要綱3条により表彰された受賞者に対し1度受賞するごとに
金額にして概ね1000万円前後の随意契約の締結権が付与される。た
だし,表彰の対象となった工事の請負金額が1000万円以下の場合,
その請負金額を考慮した金額とされる(同1条)。
(ウ)本件要綱5条により特別表彰をされた受賞者に対し,1度受賞する
ごとに概ね3000万円前後の随意契約の締結権が与えられる(同2。
条)
(エ)上記(イ)及び(ウ)の随意契約の締結権は,特別の理由がある場合を
除いて,表彰を受けた後1年以内に付与される(なお,この1年以内と
の期間の制限は,後に削除された(同1条,2条)。)。
(甲2の1,証人P24)
ウ本件恩賞制度の廃止
平成15年9月に本件運用基準が改正され,本件要綱3条に基づく表彰
者に対しては,指名競争入札及びその他の工事等における業者選定におい
て,指名業者審査委員会等へ優先指名を推奨し,発注の状況に応じ,優良
工事受賞者を対象として指名競争入札を実施し,入札参加機会を与えるこ
ととされ(随意契約の締結権を付与するとの内容は廃止された,また,。)
本件要綱5条に基づく特別表彰者に対する恩賞は廃止され,もって,本件
恩賞制度は廃止された。
(甲2の2,3)
(3)随意契約の締結
本件恩賞制度の運用が開始された平成8年10月31日以後,別紙2「工
事件名」欄記載の各工事についての随意契約(以下総称して「本件各契約」
という)が締結された。。
本件各契約に関する工事施工伺い(甲25の1ないし57,見積徴取伺)
い随意契約開札調書乙33の1ないし56なお別紙2の工事番号以,(。,(
下単に「工事番号」というときは別紙2の工事番号を指すものとする)5。
7に関するものは存在しない,支出負担行為決議書(甲70の1ないし。)
57)について決裁(専決又は代決を含む)を行った者及びその決裁日,。
本件各契約に基づく公金の支出日,本件各契約の相手方並びに本件各契約の
契約価格は,それぞれ,別紙2の「工事施工伺い「見積徴取伺い「随」,」,
意契約開札調書「支出負担行為決議書「支出日「相手方「契約価」,」,」,」,
格」の各欄記載のとおりである。
(甲25の1ないし57,甲70の1ないし57,乙33の1ないし56,
弁論の全趣旨)
(4)住民監査請求
ア原告及び斎藤匠弁護士は,平成16年8月19日,太田市監査委員に対
し,本件各契約に基づく公金の支出について住民監査請求(以下「本件監
査請求」という)を行い,同年9月1日に受理された。。
イ太田市監査委員は,同年10月8日,本件各契約のうち,平成15年7
月以前に締結された工事番号1ないし53についての随意契約(以下,工
事番号1についての随意契約を「本件契約1」といい,他の工事番号につ
いての随意契約についても同様とする)については,随意契約の締結の。
日から法242条2項本文の監査請求期間である1年間が経過していると
して却下し,それ以降に締結された本件契約54ないし57については,
,。請求の理由がないとして棄却する旨を決定し同日原告らに対し通知した
(甲7,弁論の全趣旨)
(5)本件訴えの提起
原告は,平成16年11月4日,本件訴えを提起した。
3争点
(1)訴訟要件
ア監査請求期間の経過についての正当な理由の有無(争点1)
イ請求35ないし38に係る被告市長の被告適格の有無(争点2)
(2)本案
ア本件各契約の適法性(争点3)
イ賠償義務者の適否(争点4)
ウ故意過失の有無(争点5)
エ損害の有無及び額(争点6)
4争点に対する当事者の主張
(1)争点1(監査請求期間の経過についての正当な理由の有無)について
ア被告ら
(ア)監査請求期間の徒過
住民訴訟は,適法な住民監査請求手続を経ていることが要件であり,
住民監査請求は,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過し
た場合は不適法となる。したがって,本件契約1ないし53に係る本件
監査請求は,当該各契約の締結の日から1年を経過してから行われてお
り,適法な住民監査請求がない。
(イ)正当な理由の有無について
a法242条2項ただし書は,上記の期間中に住民監査請求ができな
い正当な理由があった場合,同期間を経過後に行われた住民監査請求
も適法であると規定しているところ,正当な理由とは,普通地方公共
団体の住民が相当の注意力を持って調査したときに客観的にみて当該
行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができ
たと解される時から相当の期間内に住民監査請求をしたかどうかによ
って判断すべきものである。さらに,存在自体は秘密でない行為の不
当性,違法性が1年の経過後争われる場合,それはいかなる不当性,
違法性でもよいわけではなく,不当性,違法性を持つものであること
が当初は容易に明らかではない場合,住民が相当の注意力を払っても
分からない場合に限られ,住民が受け身の立場であってよいというこ
とにはならない。
以上の理由から,正当な理由の判断基準については,当該行為が秘
密裡になされたか否か,一般住民が相当の注意力をもって調査を尽く
しても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に当該行為の存
在及び内容を知ることができたか否か,さらに当該住民監査請求をし
た者が上記の程度に当該行為の存在及び内容を知り得たか否かを検討
する必要がある。
b本件恩賞制度は,建設工事の随意契約の運用基準の一方法を定めた
ものである。したがって,法242条2項ただし書の正当な理由の有
無を判断するためには,本件恩賞制度を知り得たか否かが問題となる
のはもちろんであるが,さらに本件恩賞制度に基づいて締結された随
意契約の存在を知り得たか否かも問題となる。すなわち,仮に,住民
が本件恩賞制度を知らなくとも,本件各契約の存在を知れば,やはり
正当な理由はないことになる。
c(a)本件で問題とされている本件恩賞制度は,秘密裡にされたわけ
ではなく,制度の趣旨を関連業者に周知した後,平成8年10月3
1日から施行したものである。関連業者への周知は,平成7年10
月16日開催の「平成6年度施工優良工事等表彰式及び主任技術者
研修会」において説明をしているほか,同会の準備に当たっても,
本件恩賞制度について秘密裡に説明をしたことはなく,オープンに
行っており,住民に知り得た状態に置かれていたものである。上記
表彰式には,業者130社余りが出席しており,市議会代表者,新
聞記者等が出席している,太田市では,文書で業者に会の開催を通
知しており,特に秘密裡に会を催したものではない,具体的な出席
,,者の氏名は判らないが優良業者として表彰された業者はもちろん
表彰外の業者からも最低各1名は出席しているはずである。このよ
うに,会の参加者には特に制限を設けてなく,参加者の氏名や正確
な人数も把握できないことからも判るように,本件恩賞制度の説明
を行った際に,外部に対し秘密とした趣旨は全くない。
また,本件各契約自体は,普通地方公共団体として秘密裡に契約
することは不可能なものである。
(b)本件恩賞制度が上記のように,各業者や報道機関等に公開され
ており,一般市民にとって,十分な注意力をもってすれば本件恩賞
制度の存在及び内容を知り得る状態であったことは明らかである。
また,本件各契約の存在に関しても,決算において監査を受け,ま
た,行政審査においては,市民からの審査請求があれば,その内容
を公開している。さらに,市民は,いつでも契約内容について情報
公開を求めることができるのであって,相当の注意力を持って調査
すれば,本件各契約の内容が分かったものである。また,随意契約
によることができる場合の判断については,常に論争があり,住民
監査請求も全国的に多数申立てがあることは,一般市民にとっても
承知の事実である。
(c)原告は,地方自治体の行為に深い関心を持ったものであり,一
般市民より深い注意力をもって自治体の行為を監視していたもので
ある。合併前の旧太田市の情報公開条例は,平成11年太田市条例
第5号として施行されており,一般住民にも周知されているが,特
に市民オンブズマンとして活動している原告にとって同条例の活用
により本件各契約の存在及び内容を十分に知ることができた。現に
原告は,平成13年6月6日及び同月13日に,太田市水道局の水
道メーター発注に関して,上記条例を活用して旧太田市に情報公開
を求めている。これに対し,旧太田市は,情報公開に関して透明度
が高いと原告らから評価されていたのである。
dしたがって,少なくとも,原告にとっては,平成13年6月の時点
,,からは本件各契約の存在及び内容を知り得る状況にあったのであり
法234条2項本文の住民監査請求期間を経過したことについて原告
に正当な理由はない。
イ原告
(ア)法242条2項ただし書の正当な理由の有無は,特段の事情のない
限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに
客観的に当該行為を知ることができたかどうか,当該行為を知ることが
できたと解される時から相当な期間内に住民監査請求をしたかどうかに
よって判断すべきである。
そして,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽く
しても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行
為の存在又は内容を知ることができなかった場合とは,当該行為が秘密
裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をも
って調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該
行為の存在又は内容を知ることができなかった場合にも同様であると解
するべきである。
(イ)本件恩賞制度の存在は,以下に示すとおり,住民のみならず太田市
議会にも隠蔽されていた。
a他の制度の積極的な公表と本件恩賞制度の非公表
P1は,平成7年に市長に就任して以来,積極的に入札・契約制度
の改革に取り組んできた。平成10年には入札の透明性を高めるため
に全国に先駆けて予定価格の事前公表制度を導入するとともに,談合
防止の観点から郵便入札制度を採用した。また,平成12年には入札
の競争性を高めるため県内初の受注希望型指名競争入札を本格的に導
入した。そして,これらの新制度の導入に当たっては,常に競争の重
要性,透明性の重要性を唱え,その趣旨や概要を積極的に議会やマス
コミ,一般市民にアピールしてきた。そして,入札・契約改革に取り
組む太田市長P1の名は全国的に知れ渡っていったのである。
本件恩賞制度もこれらの先進的な制度の導入と前後して,平成8年
に制定されたが,これらは,マスコミにも,市の広報誌や市のインタ
ーネットホームページにもどこにも公表されていない。市の広報誌に
優良工事請負業者が表彰されたことが掲載された際も,本件恩賞制度
には一切触れていないのである。
b随意契約の相手方選定理由の非公表
随意契約の相手方選定の理由の公表は,地方自治体の長にとって法
律上の義務であり,公表は,公衆の見やすい場所への掲示,閲覧所又
はインターネットによる閲覧の方法により行うとされている。
よって,市の広報誌などに掲載されていなくても,被告市長がこの
義務を履行していれば,住民が受け身でなく相当の注意力をもって調
査すれば本件恩賞制度によって本件各契約の相手方が選定されていた
ことを知ることができたといえる余地もある。
しかし,被告市長は,この義務をまったく履行していない。太田市
は,平成15年7月に国土交通省が実施した調査に対して,随意契約
の相手方選定理由を今後「公表予定」としたが,その後も公表してい
。,ない太田市のホームページで工事発注予定や指名基準は公表するが
随意契約の相手方選定理由は非公表のままである。これでは,本件恩
賞制度は隠蔽されていたとしかいいようがない。
c市議会での隠蔽答弁
また,本件恩賞制度の存在は,市議会にも一切説明,報告がなされ
ていない。それどころか,市議会では,本件恩賞制度を隠蔽する答弁
が繰り返されてきたのである。
まず,被告市長が平成9年12月の市議会において,入札・契約制
度についてのP25議員の入札制度に関する質問に対して「随契と,
いうのは意外と有効である。本人が出したい値段,私の出来る範囲の
値段,それをいろいろな会社から出していただいて,そして,低位の
2社なら2社を選んで話し合いを行って決めていくのであれば,入札
の競争性と随契のよさとが私は出てくるのではないかとも思う」と。
答弁しているのである。この時既に本件恩賞制度が運用されていたに
もかかわらず,それには一切触れないで随意契約であっても複数社か
ら見積りを徴して競争性を確保することが必要なことを力説していた
のである。本件恩賞制度の存在を隠蔽しようとした答弁としか言いよ
うがない。
また,平成16年6月8日,市議会において優良工事表彰について
議論がされたが,被告市長は,総務部長P26をして「優良工事の,
受賞者に対しては,指名選定の優遇措置を講じる」と答弁させている
のである。つまり,優良工事の受賞者についても指名入札をさせると
いうことである。この期に及んでも,優良工事の受賞者に随意契約の
締結権を与えていることには一切触れていないのである。本件恩賞制
度の存在を隠蔽したとしか言いようがない。
このような答弁の繰り返しの結果,平成16年8月19日に原告が
本件監査請求をするまで,一般住民どころか市議会も本件恩賞制度の
存在を知らなかったのである。それは,原告が本件監査請求をした後
の,同年9月議会の決算特別委員会において,P27議員が「96年
から98年までの3年間の資料はまだ出していただいていないのです
けれども「今回この制度そのものをはじめて知りました。多くの」,
議員諸氏もそうだと思いますが」と述べ,それに対して被告市長が,
否定していないことから明らかである。
d上記aないしcのような状況からすれば,平均的な市民は,相当な
注意力をもってしても,本件恩賞制度の存在を知り得なかったといえ
る。原告は,たまたま本件恩賞制度の存在をうかがわせる資料を入手
し,その上で,平成16年6月30日に契約検査課の課長らを問いた
だした結果,本件運用基準などに関する資料の交付を受け,初めて本
件恩賞制度の存在を知ったものである。
なお,被告らは,原告が一般市民よりも深い注意力をもって自治体
の行為を監視していたものと考えられるから,より早く本件各契約の
存在及び内容を知り得たとも主張するが,原告が参加している「P2
8」は,ボランティアで活動する住民グループであり,一般市民以上
の調査権限を有するものではないから,同団体に参加して地方自治体
を監視することは,一般住民の立場を超えるものではありえない。
また,被告らは本件各契約の存在を知り得れば住民監査請求をする
ことができるというが,そのような主張は,すべての随意契約が違法
又は不当であるという前提に立たなければ成り立たない。しかし,平
成16年11月8日政令第344号による改正前の地方自治法施行令
(以下単に「施行令」という)167条の2第1項各号の要件に該。
当すれば,随意契約を締結することは何ら違法,不当ではないのであ
る。現に太田市に限らず,多くの自治体でこのような随意契約は毎年
何件も行われている。太田市の公共工事がすべて随意契約でなされて
いたというのであればともかく,年間12件程度の公共工事が随意契
約でなされていたこと自体は特別なことではない。まして,本件恩賞
制度は,他の自治体でも例のない制度であり,住民は,本件各契約の
存在を知っただけでは,本件恩賞制度に関する不当性,違法性の疑い
すら持ち得ないのである。
(ウ)したがって,原告には,法242条2項本文に定める期間内に住民
監査請求をすることができない正当な理由があったというべきである。
(2)争点2(請求35ないし38に係る被告市長の被告適格の有無)につい

ア被告ら
被告市長は,独立機関たる教育委員会に対し必要な措置を講ずべきこと
の一般的勧告権を有するにすぎず,指揮監督等の権限を有しない。したが
って,本件訴えのうち,請求35ないし38については,被告市長がP2
1及びP23に対し直接賠償命令をする権限はないので,被告市長に対す
る訴えは不適法であり却下すべきである。
イ原告
争う。
(3)争点3(本件各契約の適法性)について
ア原告
(ア)施行令167条の2第1項各号への該当性
地方自治体の契約事務遂行は,公平性,経済性が求められるので,競
争入札が原則とされ,随意契約による方法は,施行令167条の2第1
(,「」項各号以下施行令167条の2第1項各号については施行令2号
等のように「167条の2第1項」の部分を省略する)の要件に該当。
する場合のみ例外的に認められるにすぎない。
本件各契約のうち本件契約55及び56を除くその余のものは,本件
恩賞制度を理由に随意契約とされたが,本件恩賞制度は施行令2号の要
件に該当しないし,他のいずれの号の要件にも該当しない。また,これ
らの契約には,本件恩賞制度以外に随意契約とする理由も存在しない。
したがって,本件各契約を随意契約としたことは違法である。
(イ)太田市契約規則16条の適合性
契約に公平性,経済性を要求する施行令の趣旨に照らせば,随意契約
の要件に該当する場合でも,可能な限り複数の者から相見積りを徴する
競争的随意契約によるべきである。このような観点から,太田市契約規
則(甲3)16条は,随意契約によろうとする場合は「特別の理由」,
が存在する場合(同条ただし書)を除き,2人以上から見積りを徴する
ことと規定している。ここで「特別の理由」とは,契約の目的物が特,
定の1社でなければ請け負うことができないなどの事情が考えられる
が,本件各契約はいずれも一般的な工事であり,請負能力を有する者が
複数存在したから,太田市契約規則16条ただし書の「特別の理由」は
存在しない。
(ウ)被告らの主張に対する反論
a施行令2号の解釈
(a)施行令167条の2第1項は,随意契約によることができる場
合を列挙し,そのうち施行令2号の「その性質又は目的が競争入札
に適しないものをするとき」について,最高裁判所昭和62年3月
20日判決・民集41巻2号189頁は「当該契約の性質又は目,
的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく
困難というべき場合がこれに該当することは疑いないが,必ずしも
このような場合に限定されるものではない。普通地方公共団体にお
いて当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信用,技
術,経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約を締結する
という方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極
的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体
の利益の増進につながると合理的に判断される場合も該当する。そ
して,該当するか否かは,契約の公正及び価格の有利性を図ること
を目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えてい
る法及び令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の
種類,内容,性質,目的等の諸般の事情を考慮して当該普通地方公
共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定される」と判示
する。
(b)上記最高裁判決のいう「目的」は「随意契約とした主観的目,
的や動機(本件で被告らがいう「工事品質の低下を避けること)」
を指すのではなく,客観的な工事内容(道路改良工事や排水路新設
工事,駐車場整備工事等の給付内容)を指す。上記最高裁判決を全
文読めば明らかなように,具体的当てはめ部分で「そこで,以上の
観点から本件請負契約の締結をみるに,原審の確定した前記事実関
係によると,右の契約の締結はごみ処理施設という複雑かつ大規模
な施設の建設を目的とするものであってと判示しそこでいう目」,「
的」を「工事内容(給付内容」と解している。また,上記最高裁)
判決は「当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信,
用,技術,経験等を有する相手方を選定」として,目的と内容を並
,,「,,,」,列しまたその後の資力信用技術経験とのつながり方
そもそも施行令2号の「その性質又は目的」の目的とは客観的給付
,,「」内容を指すこと更に例えば民法債権総論の講学上債権の目的
「」,,という場合の目的は債権の客観的給付内容を指すことからも
このように解するのが妥当である。
(c)被告らは,仮に,前記(b)のように考えるとしても,当該工事
そのものについて,優良工事の実績のある業者に施工させ,当該工
事の品質向上を目指すものであることが明らかであるとする。
しかし,第1に,本件恩賞制度の目的は「太田市発注の請負工,
事の品質や技術力を,業者間の競争を促すことによって向上させる
ことである。そうすると,当該工事の「品質や技術力を業者間の」
競争を促すことによって向上させる」という目的達成のために,当
該工事の競争を排除したということになるが,そのようなことはあ
り得ない。
第2に「優良工事の実績のある業者に施工させ」るという目的,
は,優良工事の実績のある業者による指名競争入札によって達成で
きる。
第3に,当該工事の品質は向上していない。本件恩賞制度による
平成15年度の契約案件の検査評点は,それぞれ,79.4点,7
9.0点,78.5点,76.0点,76.0点であった。検査評
点80点以上の評価を受け優良工事の実績のある業者に施工させた
ところ,その結果はすべて80点以下だったのである。
b裁量の逸脱の有無
(a)仮に,被告らの主張するように施行令2号の「その性質又は目
的」に一般政策目的が含まれるとしても,本件恩賞制度によって随
意契約としたことに客観的な合理性,必要性がなければ,裁量権の
逸脱として違法となることはいうまでもない。
(b)被告らは,本件恩賞制度は,過当な価格競争を抑制し,品質や
技術力の競争を起こし,もって,工事の品質確保を図る目的で制定
されたと主張する。
しかしながら,平成8年当時の太田市の競争入札の落札率は90
パーセントを割るものが多少出てきた程度であるから,利益を度外
視した過当競争が存在したという事情は存在しない。また,本件恩
賞制度による随意契約を得るには,優良工事として表彰されなくて
はならないところ,そのためには,通常の競争入札による価格競争
を勝ち抜く必要があるから,本件恩賞制度は,過当な価格競争の抑
。,制にはならない過当な価格競争を抑制しようと考えるのであれば
()施行令が用意した最低制限価格制度施行令167条の10第2項
や低入札価格調査制度(同第1項)によるべきであったし,それは
可能かつ有効な方法であった。しかも,本件恩賞制度により随意契
約とした工事については,価格競争だけでなく品質や技術力の競争
も存在し得ないから,本件恩賞制度は,品質や技術力の競争を起こ
すものではない。品質や技術力の競争を起こすのであれば,施行令
が用意した総合評価競争入札制度(施行令167条の10の2)に
よるべきであったし,それは可能かつ,有効な方法であった。さら
には,業者間で品質や技術力を競争させるのであれば,その前提と
して全ての業者が本件恩賞制度を知らなければならないところ,参
加させたいと意図する業者,つまり,本件恩賞制度の恩恵を受ける
業者だけに周知されていたに過ぎないのである。これでは,業者間
での品質競争など起きようがない。
(c)また,被告らは,検査評点からも本件恩賞制度の目的が達せら
れたことも理由の一つとなり,本件恩賞制度は平成15年9月1日
に廃止されたという。
しかし,品質向上という目的は,ある年度に達成されたからとい
って,それで完結するものではなく,毎年継続して掲げられるべき
性質のものである。したがって,本件恩賞制度によって品質が向上
したというならば,今後も継続すべきである。品質向上という目的
,,が達せられたということは本件恩賞制度の継続の理由になっても
廃止の理由にはなり得ないのである。また,被告らは,廃止の理由
として,近年,景気の低迷による発注工事の減少がみられることか
ら,建設業者の受注機会の拡大を図る目的もあるともいう。発注工
事件数が減少すれば,競争は激化し,過当競争の誘因になることは
明らかである。一方,被告らによれば,本件恩賞制度導入の契機は
過当競争のおそれがみられたことであった。つまり,被告らは,過
当競争を理由に本件恩賞制度を導入し,過当競争を理由に本件恩賞
制度を廃止したといっているのである。これでは,全く理由になっ
ていない。
(d)被告らは,本件恩賞制度の導入以後,本件恩賞制度の目的であ
る工事品質は確実に向上したという。
しかし,本件恩賞制度を導入した平成8年には,検査評点が下が
っている。これでは,本件恩賞制度によって品質が顕著に向上した
とはいえない。被告らは,都合の悪いデータを隠して勝手な主張を
していたのである。
また,平成10年度からの検査評点の上昇が見られるとしても,
それは本件恩賞制度の成果ではない。
(e)太田市の公共工事で実際に入札指名される業者だけでも306
社に及ぶが,そのうち実際に本件恩賞制度によって受注をしたもの
はそのうちの34社である。これらの業者は約1割強の優良業者で
あるから,業者毎の検査評点も平均よりも相当高いはずである。そ
して,本件恩賞制度による発注が行われた平成11年度から平成1
.。,5年度の全工事の検査評点の平均は約7599点であるしかし
実際には,平均以下の業者が9社も存在していたのである。
また,検査評点の平均点で並べたときに,4番のP29株式会社
が6件,8番のP30株式会社が7件の恩賞契約を受注し,2社だ
けで全体の2割以上の契約高を占めているのである。
このように本件恩賞制度によって受注した業者の検査評点が特に
優れているというわけではなく,本件恩賞制度は,特定の業者に恣
意的に発注するための制度であるといわざるを得ない。
(f)被告らは,本件恩賞制度の目的である品質向上は「その性質又
は目的が競争入札に適しないもの」に該当し,それは,専門的知識
を有する契約担当者の合理的な裁量判断により決定されたという。
しかし,ある工事を指名競争入札にするか,それとも本件恩賞制
度による随意契約にするかを区別する基準は存在しなかったのであ
る。契約担当者が随意契約にしたいと思えば,競争入札が可能で競
争入札とすべき工事であっても本件恩賞制度を利用して簡単に随意
契約とすることができたのである。
また,2件の工事(工事番号14,57)は,本件恩賞制度によ
()って緊急の必要により競争入札に付すことができない施行令3号
として,3件の工事(工事番号17,35,49)は本件恩賞制度
によって競争入札に付することが不利(施行令4号)として,19
件の工事(工事番号1,2,4ないし12−2,15,16,18
ないし21,23,24)は有利な価格で契約を締結することがで
きる(施行令5号)として,随意契約とされたのである。さらに,
3件の工事(工事番号3,13,22)は何号に該当するかの検討
すらしないまま,本件恩賞制度を理由に随意契約としたのである。
これでは,各契約担当者が契約ごとに施行令2号の要件であるそ
の性質又は目的が競争入札に適しないものか否かについての合理的
な裁量判断をすることなど不可能である。
,,そして本件恩賞制度が施行令2号に該当する根拠とされたのは
本件恩賞制度が導入されて5年以上経過した平成13年5月10日
の工事番号25についての随意契約以後である。5年間,施行令2
号該当性の検討などなされていなかったのであり,単なる号数の記
載ミスではない。
これでは,品質向上という目的より先に随意契約という結論があ
ったとしかいいようがない。契約担当者にとって,施行令の何号に
。,,該当するかはどうでも良かったのであるただ訴訟になったため
後から理由を付けやすい施行令2号を持ち出し,言い逃れをしてい
るに過ぎない。
(g)被告らは,本件恩賞制度は随意契約とできる場合の業者選定の
制度であるともいう。
しかし,複数の優良業者が恩賞の対象として競合する場合に,具
体的にどの業者に契約を割り当てるかの基準が存在しなかった。本
件恩賞制度が随意契約とできる場合の業者選定の制度ではなかった
ことは明らかである。
(h)以上の理由により,本件恩賞制度によって随意契約としたこと
に客観的な合理性,必要性は認められないのであって,担当者がそ
の裁量を逸脱したものといわざるを得ない。
(エ)上記の他,本件各契約の締結が違法であることの理由は,別紙3の
「原告の主張」欄記載のとおりである。
イ被告ら
(ア)本件恩賞制度の概要
本件恩賞制度とは,太田市発注の請負工事の品質や技術力を,業者間
で競争することにより向上を図ることを目的として,当該年度に工事が
完了し,完了検査が実施され,その検査評点が80点以上の請負業者を
対象とし,この業者のうちから優良工事等選定委員会の決定に基づき,
優良工事業者として表彰された請負業者を次年度の1000万円前後の
随意契約の対象として,太田市の希望価格以下での随意契約を締結する
権限を与える制度である。また,上記委員会に5年間連続して優良工事
の対象として選出された特別優良工事業者に対し,3000万円前後の
随意契約の対象として,太田市の希望価格以下での随意契約を締結する
権利を与える制度である。そして,本件恩賞制度と随意契約の要件との
関係は,本件恩賞制度が施行令2号を基礎付ける制度であり,かつ,施
行令2号ないし5号によることができる場合の業者選定の制度というこ
とになる。
(イ)本件恩賞制度の適法性
a原告は,前記最高裁判決の「目的」について,客観的な工事内容を
指すと主張するが,そのように解するのは妥当ではなく,公共団体の
政策目的のためにも随意契約を選択できるものと解すべきである。
本件恩賞制度の目的は,利益を度外視した過当競争や技術力の停滞
を防止して,工事品質を確保するため,金額の競争だけでなく,品質
や技術力の競争をさせるものであり,前記最高裁判決において示され
た随意契約によれる場合の基準に沿う制度ということができるもので
ある。
本件恩賞制度の特徴は,第1に太田市発注の請負工事の品質や技術
力を,業者間の競争を促すことにより向上させることを目的としたも
のであること,第2に検査評点が80点以上の請負業者の中から,さ
らに優良工事等選定委員会の決定を経ること,第3に随意契約の契約
価格は太田市の希望価格以下であること,などである。
本件恩賞制度は有効に機能し,工事品質は,本件恩賞制度発足前の
平成6年度と比較して,平成14年度まで顕著に向上し,行政目的が
達成されたため,本件恩賞制度は平成15年9月1日の改正により廃
止された。
b施行令3号ないし5号に関しては「緊急の必要性(3号「競,」),
争入札に付することが不利(4号)及び「時価に比して著しく有利」
」(),な価格で契約を締結することができる見込み5号の判断として
本件恩賞制度が直接関連するものではないが,高品質な工事を提供す
る業者,緊急な業者選定等に当たっては,本件恩賞制度によって選ば
れた業者からの選定は,極めて有用であることは明らかである。それ
ばかりではなく,不信用又は不誠実な者が競争に参加し,かえって普
通地方公共団体が損害を被るおそれがある場合(4号関係)や,特定
業者の保有する物品が,他の業者の保有する同一物品よりも有利な価
格提供を受けられることが明らかな場合(5号関係)などは,本件恩
賞制度によって優良業者をストックしておくことは,業者選定にとっ
,。て有用なだけでなく随意契約理由を根拠付ける意味でも有用である
cこのように,本件恩賞制度は,前記最高裁判決の趣旨に添い,行政
目的も達成する等,何ら違法な制度ではない。
(ウ)仮に,前記最高裁判決の「目的」を原告主張のように狭く解したと
しても,施行令2号を根拠付ける制度である本件恩賞制度は,優良工事
業者として表彰された業者に随意契約の資格を与えるという制度であ
り,当該工事そのものについて優良工事の実績のある業者に施工させ,
当該工事の品質向上を目指すものであることが明らかである。その積重
ねによって,太田市の公共工事全般の品質向上が図れるのである。した
がって,前記最高裁判決の「目的」を原告主張のように狭く解したとし
ても,本件恩賞制度が前記最高裁判決の趣旨に則っていることが明らか
である。
(エ)まとめ
このように,本件恩賞制度は,最高裁判決の趣旨に沿い行政目的も達
成する等何ら違法な制度ではなく,これに基づく本件各契約も適法であ
る。
前記の他本件各契約の締結が適法であることの理由は別紙3の被,,「
告らの主張」欄記載のとおりである。
(4)争点4(賠償義務者の適否)について
ア原告
別紙2の「支出負担行為決議書」の「決裁者」欄記載の市の各部長,教
育長,教育部長及び管理部長は,支出負担行為決議書により,本件各契約
の支出負担行為又は支出命令の決裁を行ったのであるから,同人らが賠償
義務者である。
イ被告ら
最終決裁権者は,いずれも太田市事務専決規程(甲4)及び太田市教育
委員会事務専決規程(甲5)により決まるものである。契約締結の流れの
,,,,,概略としては工事施工伺い見積徴取伺い随意契約開札調書そして
支出負担行為決議書の順に決裁がなされていく。このうち,原告は,支出
負担行為決議書の最終決裁印押印者を本件訴訟における賠償義務者として
いるが,間違いである。本来,上記事務専決規程による決裁が必要である
が,被告市長及び副市長については,工事施工伺い,見積徴取伺い及び随
意契約開札調書により決裁を受けているのであるから,省略が可能とされ
ているのである。したがって,上記各決裁書類を総合的に見て,賠償義務
者である決裁者を確定しなければならない。
(5)争点5(故意過失の有無)について
ア原告
(ア)市の各部長,教育長,教育部長及び管理部長の重過失
本件各契約を決裁した各部長は,本件各契約以前に随意契約理由が記
載された工事施工伺いを決裁しているから,本件恩賞制度に基づく随意
契約であることを認識した上で決裁したことは明らかであり,重過失が
認められる。
(イ)P15及びP21の故意又は重過失
教育長であったP15は,本件契約9につき,随意契約理由が記載さ
れた工事施工伺いを決裁した上で,同随意契約を自ら締結したことによ
って,本件恩賞制度による随意契約であることを認識した上で,支出負
担行為を決裁したことは明らかである。
また,教育長自身が決裁をしたことがあるのだから,教育部長及び管
理部長が決裁した随意契約についても,本件恩賞制度による随意契約で
あることを知り得たといえ,それを阻止しなかったことには重過失があ
る。
(ウ)P1の故意又は過失
P1は,市長として,本件恩賞制度によって随意契約がなされたこと
を認識していたことは市議会の答弁からも明らかである。よって,本件
恩賞制度による随意契約を阻止しなかったことには少なくとも過失があ
る。
イ被告ら
否認ないし争う。
(6)争点6(損害の有無及び額)について
ア原告
(ア)主位的主張
本件各契約は,施行令が挙げる随意契約の要件に当たらないことは明
らかである。また,本件各契約の相手方は,優良工事表彰を受けた業者
であるから,太田市との契約は競争入札が原則であることを熟知してお
り,少なくとも本件恩賞制度による随意契約の締結が許されないことを
知り得たといえる。
よって,当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える
法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるから,随意契
約は,私法上も無効である。
本件各契約は無効であるから,太田市には,工事代金支払債務は存在
しなかったところ,職員らは不要な支出命令をし,太田市は支出額と同
額の損害を被った。その額は4億6594万7500円である。
(イ)予備的主張
太田市の被った損害とは,本件各契約の公正な価格と実際の契約価格
の差である。
本件では,随意契約の手続そのものが違法であり,本来は競争入札に
よるべきだったのであるから,本件各契約の公正な価格とは,本来ある
べき「公正な競争入札によって形成されたであろう落札価格」である。
,「」,そして公正な競争入札によって形成されたであろう落札価格は
当該工事の内容,規模等多様な要因が複雑に影響しあって形成されるも
のであるところ,本件各契約の損害を定量的に評価し,算定することは
その性質上極めて困難であるから,本件においては,合理的な方法で定
量的に推定することにより損害額を算定すべきであり,あとは,民事訴
訟法248条で相当な損害額を認定するほかない。
「公正な競争入札によって形成されたであろう落札価格」を推定する
に当たっては,被告らが主張する設計金額ではなく,予定価格を基準と
すべきである。その根拠としては,①指名競争入札において業者間で談
合が行われた事例における損害の算定に際し,予定価格を基準として落
札率の評価がなされていること,②設計金額を基準として損害がないと
いうことはできない旨判示した判決例が存在すること,③設計金額は業
者にとって経費の節減が可能となる事情の有無等をすべて反映したもの
ではないことが挙げられる。
さらに,公正な競争が行われている可能性が高い受注希望型指名競争
入札の平均落札率は約80パーセントであるから,本件各契約も,正当
な契約方法を採用していたならば,予定価格の約80パーセント程度で
契約できたと考えられる。
ちなみに,工事番号27の工事の対予定価格での落札率は,95.2
4パーセントであるが,この工事と同時期,同規模,同種の工事である
α土地区画整理事業・区画道路β線道路改良工事は受注希望型競争入札
によって契約されたが,その落札率は対予定価格で69.57パーセン
トであった。その他,工事番号31,32の工事も,対予定価格での落
.,.,札率が9759パーセント9748パーセントであったのに対し
これらと同時期,同規模,同種の工事は受注希望型競争入札によって最
低制限価格で契約され,その落札率は対予定価格での落札率が78.9
4パーセントであった。
加えて,本件においては,公正な自由競争が阻害されて,契約価格が
形成された点において,多くの談合事件と同じであるが,談合による損
害は,少なくとも契約額の10ないし20パーセント,場合によっては
50パーセントにも及ぶことが経験則上明らかになっている。
以上からすれば,本件においては,本件各契約の契約価格の20パー
セント程度以上が損害となると推定すべきである。
そうすると,少なくとも,太田市は正当な契約方法によった場合との
差額相当額(予定価格の20パーセント程度,すなわち,合計837)
1万2600円を下らない額の損害を受けたといえる。
イ被告ら
(ア)損害の不発生
a設計金額の妥当性
本件各契約における適正な金額は,設計金額というべきである。な
ぜなら,設計金額は,客観的な基準に基づき適正に算出されているか
らである。さらに,本件各契約は,設計金額から企業努力などを求め
た予定価格を設定している。予定価格は,取引の実例価格,需給の状
況,履行の難易,数量の多寡,履行期間の長短等を考慮して,実質的
に設定している。設定率については,設計額が工種や条件より様々で
あるから,一定の基準というものはなく,上記の条件を考慮して実質
的に決めている。
以上のように,設計金額が適正な金額であり,予定価格が上記のよ
うに決定されていることから,本来,設計金額と予定価格とは同じと
なるはずであるが,各自治体の財政事情等から,業者の更なる企業努
力を求めて歩切りを行い,予定価格を決めているのが現状である。歩
切りについては,国土交通事務次官の通達により「設計書金額の一,
部を正当な理由なく控除するいわゆる歩切りについては,厳に慎むこ
と」とされているが,自治体の財政事情等から歩切りを行って予定。
価格を設定している実情である。このような理由から適正な契約価格
は設計金額であり,本件各契約は,いずれも設計金額未満の金額で契
約しており,太田市に損害はない。ちなみに,本件各契約の金額の平
均値は,設計金額の90.86パーセントであり,予定価格(設計金
.).。額の9328パーセントの平均値の9740パーセントである
b実質的な妥当性
.()本件各契約による落札率は平均9085パーセント対設計金額
,()であるのに対し競争入札による契約の落札率いずれも対設計金額
は,以下のとおりであった。
平成11年度95.69パーセント
平成12年度89.22パーセント
平成13年度90.11パーセント
平成14年度89.08パーセント
平成15年度88.28パーセント
,,また本件恩賞制度を廃止した以降である平成16年度の落札率は
86.78パーセントであった。このように,実質的にも本件各契約
による太田市の損害は認められない。
(イ)原告の主張について
a主位的主張
本件における原告の請求は,本件各契約の無効を前提として,契約
価格全額を損害としている。しかし,本件各契約により太田市が得た
利益(工事完成物)は,太田市の不当利益とはならないから,随意契
約を無効とする前提に立っても原告の請求に理由がないことは明らか
である。
b予備的主張
(a)原告は,競争入札によった場合,予定価格の80パーセントで
落札することが証明できるとして,80パーセント相当額の損害を
主張する。
しかし,随意契約によらず,競争入札を実施した場合の落札価格
が80パーセントとなるとの証明はできていない。原告は,談合の
例を基に損害を請求するが,談合があった場合と本件のような随意
,。,契約の場合では全く事情が異なる談合の場合は業者間で談合し
まさに競争を排除して落札価格を高値に保つことが主たる目的であ
る。これに対し,本件各契約は,工事品質の向上を目指し,過度の
競争を排除し,適正な価格で契約することを目的としている。すな
わち,業者間で落札価格を談合する場合と異なり,本件は太田市が
予定価格を決めて,予定価格を上限として契約を締結する制度であ
るからである。そこには,太田市の意思が介入し,太田市が適正価
格とする設計金額以下での契約が行われるのであり,原告が例とす
る談合と本件を同一視することは,適当と考えられない。予定価格
を極めて低額に設定し,さらに業者間の過度の価格競争を行わせる
ことは不合理なものである。
(b)競争入札に付された場合,仮に設計金額より低額の落札がなさ
れたとしても,その落札価格が正当な価格であるということは,必
ずしもいえない。落札者が利益を度外視した落札を行った場合は,
。,かえって工事品質の低下などの重大な問題が生ずる前記のように
国土交通事務次官は,設計金額の一部を正当な理由なく控除する歩
切りについては,厳に慎むこととの通達(乙15の3)を出してい
る。同通達によれば,設計金額から減額した予定価格を設定するこ
と自体についても問題があることになる。しかし,その自治体にお
いても財政事情から,設計金額から歩切りをして予定価格を設定し
ているのが実情である。したがって,設計金額が正当に設定されて
いれば設計金額以下での契約については,太田市の損害はない。
(c)民事訴訟法248条の適用について
民事訴訟法248条が適用される要件としては,第1に太田市に
損害が生じたことが認められる場合,第2に損害の性質上その額を
立証することが極めて困難であることである。
第1の太田市の損害については,その発生がないことは上記のと
おりである。該当する工事に関して,客観的な資料に基づき,設計
金額が設定されるが,さらに契約担当者は「仕様書又は,設計書,
等に基づき,その契約の目的となる物件又は役務についての取引の
実例価格,需給の状況,履行の難易,数量の多寡及び履行期間の長
」(,短を考慮して予定価格を決めている太田市契約規則15条の2
6条。この予定価格は,受注企業の企業努力をも見込んだ価格で)
あり,予定価格より低額での契約であれば,太田市に損害はないと
考える。仮に,競争入札により予定価格よりさらに大幅に下回る落
札がなされたとしても,それは例外であり,落札者が利益を度外視
した落札であって,その価格をもって正当な価格とはいえない。
第2の損害の立証が極めて困難であるとの要件については,損害
は,契約価格と正当な価格との差額であるが,正当な価格は予定価
格と変わらないものと考えるので,立証の困難性もない。競争入札
に付された場合の落札価格を正当な価格と考えることは,落札者が
利益を度外視した落札を行っている場合は基準とならない。
以上の次第で,本件について民事訴訟法248条の適用はない。
第3争点に対する判断
1訴訟要件
(1)争点1(監査請求期間の経過についての正当な理由の有無)について
ア認定事実
前記前提事実,証拠(甲7,8,13ないし15,18の1,2,甲6
9,乙20,22の1,2,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下
の各事実が認められる。
(ア)原告は,10年ほど前からP28という市民オンブズマングループ
に所属している。
(イ)原告は,平成13年6月6日,太田市の平成10年度ないし平成1
2年度における水道局発注の水道メーターに関する入札執行調書等につ
いて,同月13日,太田市の平成元年から平成12年までの水道局発注
の水道メーターの落札者等について,公文書開示請求を行った。
(ウ)平成14年3月1日に太田市が発行した「○○」には,行政審査報
告として,平成12年度の土木工事及び建築工事の随意契約の件数及び
契約価格の合計額が掲載されていた。
(エ)平成15年7月18日付け群馬県総務部地方課長及び群馬県土木部
監理課長による「公共工事の入札及び適正化の促進に関する法律」に基
づく入札・契約手続に関する実態調査に対して,被告市長は,随意契約
の相手方の選定理由の公表について「公表予定」である旨回答した。,
(オ)原告は,平成16年の春ころ,太田市内のα区画整理事業で不正が
行われているとの噂を聞き,太田市に同事業の契約書類の情報公開請求
を行い,同年6月中旬ころ,太田市から入手した同事業についての契約
資料を入手し,調べていたところ,業者選定理由のところに「優良工事
の恩賞による」との記載があることに初めて気が付いた。
(カ)原告は,同月24日,太田市役所に出向き,上記記載の意味を尋ね
たところ,太田市契約検査課のP31から「これは恩賞制度による随意
契約のことだと思う」旨の回答を得た。原告は,直ちに,本件恩賞制度
の内容の説明と資料の提示を求めた。
(キ)原告は,同月30日,太田市契約検査課から本件各契約の契約書の
交付を受け,また,同年7月7日,同課の主任であったP32から,平
成11年度以降に本件恩賞制度に基づき締結された随意契約のリストを
。,,。入手したなおこの時本件各契約の設計金額は非公開とされていた
(ク)原告は,上記各資料の検討を経て,上記オンブズマングループのメ
ンバーと相談の上,住民監査請求をする方針を決定したところ,住民監
査請求をするに当たり太田市の損害額を算出する上で重要な要素となる
設計金額が非公開とされ,入手できていなかった。そこで,原告は,他
の地方自治体での事例を調査し,予定価格であれば公開される可能性が
高いと判明したことから,太田市に予定価格の情報公開請求をし,平成
16年8月13日に予定価格を示した文書の公開を受けた。
(ケ)原告及び斎藤匠弁護士は,同月19日,太田市監査委員に対し,本
件監査請求を行い,同年9月1日に受理された。
(コ)原告は,太田市に対し,平成17年2月18日付けで,本件恩賞制
度の趣旨について太田市議会に対して説明がなされたことがわかる資料
についての公文書開示請求を行ったが,同資料が存在しないとして,同
年3月14日,同請求は却下された。
(サ)原告は,太田市に対し,同月22日付けで,本件恩賞制度に関する
広報の記事について公文書開示請求を行ったが,同月31日,同記事が
存在しないとして,不開示の決定がなされた。
(シ)原告は,太田市に対し,同月30日付けで,平成7年以後の公表を
前提とした随意契約の業者選定理由や随意契約理由を公表したことを示
す文書又はインターネット情報についての公文書開示請求を行ったが,
同年4月7日,同資料が存在しないとして,不開示の決定がなされた。
(ス)太田市請負優良工事等表彰選定要綱(インターネットに公開されて
いる)には,本件恩賞制度についての規定が存在しない。。
イ検討
(ア)住民監査請求は,各随意契約の締結日から1年以内になされなけれ
ばならない(法242条2項本文)ところ,前記のとおり,本件各契約
は平成11年4月19日から平成16年3月25日までの間に締結さ
れ,本件監査請求は,同年8月19日になされており,平成15年8月
19日以後に締結された本件契約54ないし57を除いて,いずれも契
約締結の日から1年を経過して住民監査請求がなされたものであるか
ら,本件監査請求は,本件契約54ないし57についての部分を除き,
法242条2項ただし書に定める正当な理由がない限り不適法となる。
そして,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くし
ても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為
の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記正当な理由の
有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の
注意力をもって調査すれば客観的にみて前記の程度に当該行為の存在及
び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求を
したかどうかによって判断すべきである(平成14年9月12日最高裁
判所第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁。)
以上に基づき本件について検討するに,①太田市では,平成15年7
月18日当時,本件各契約の当時,随意契約の相手方の選定理由及び随
意契約の理由は公開予定とされていたのであるから,その時点では本件
恩賞制度に基づく随意契約である旨は公開されていなかったと認められ
ること,②原告による本件恩賞制度の公表に係る各公文書の公開請求に
対し,太田市が同公文書が不存在であることを理由に非公開と決定等し
ていることからすれば,本件恩賞制度について,広報誌による太田市民
に対する広報,太田市議会に対する説明,随意契約の業者選定理由や随
意契約理由についての公開等は,原告が前記認定の公文書公開請求を行
った平成17年2月ないし3月の当時まで,一切なかったものと推認で
きること,③その他,本件各証拠を精査しても,公開を前提とした本件
恩賞制度に関する文書が存在せず,また,太田市が積極的に本件恩賞制
度を議会又は市民などに知らしめる方策を講じたとも認められないこと
などの事情を併せ考えると,本件恩賞制度の存在は太田市の一般市民に
対しては秘密にされていたと認められる。
(イ)上記のとおり,本件恩賞制度は,太田市の一般市民に対しては秘密
にされていたと認められる上,前記のとおり,原告は平成16年6月中
旬ころ「優良工事の恩賞による」との記載のある公文書を入手し,こ,
れが本件恩賞制度の存在に気付く契機となり,同月24日にP31から
本件恩賞制度の存在について説明を受け,同月30日に本件各契約の契
約書を,同年7月7日に本件恩賞制度に基づく随意契約のリストを入手
することができたのであり,このような経緯も考え合わせれば,原告が
太田市の市民オンブズマンとして太田市の行政に関心を寄せ,情報公開
制度の存在を認識し,実際に利用した経験があることを考慮したとして
も,太田市の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみ
て住民監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為である本件各契
約の締結の事実又は本件各契約の内容を知ることができる状況になった
のは,早くとも原告がP31から本件恩賞制度の存在について説明を受
けた平成16年6月24日の時点であるというべきである。
そして,原告は,同日から約2か月後の同年8月19日に本件監査請
求を行っているところ,その間,原告は,同年6月30日,7月7日に
本件各契約についての資料を入手したこと,本件監査請求を行う上での
重要な事実となる予定価格について初めて情報公開を受けられたのが平
成16年8月13日であることといった情報の入手の経緯に加え,本件
各契約の数が58と多数に上り,調査,検討に相当の期間が必要となる
ことが容易に想定されることなどを併せ考えれば,本件監査請求は相当
な期間内に行われたと認められる。
(ウ)以上説示したところによれば,原告が法242条2項本文に定める
期間を経過してから本件監査請求を行ったことについては同項ただし書
に定める相当な理由があったというべきである。
(2)争点2(請求35ないし38に係る被告市長の被告適格の有無)につい

ア被告らは,被告市長が太田市教育委員会に対し,一般的な勧告権を有す
るに過ぎないから,請求35ないし38については,被告市長に対する訴
えは不適法である旨主張する。
そこで検討するに,本件のような法242条の2第1項4号に基づく訴
えにおいては,普通地方公共団体の執行機関又は職員が被告となるが,こ
の場合の執行機関又は職員とは,当該訴訟で求められている損害賠償等の
請求や賠償命令を行う権限を有する行政庁とその補助機関を指すものと解
される。そして,損害賠償金又は不当利得返還金の支払を請求する権限及
び賠償命令を発令する権限は,いずれも普通地方公共団体の長に与えられ
ているから(法242条の3第1項,243条の2第3項,第4項,ま)
ず,普通地方公共団体の長が執行機関として被告適格を有し,特段の委任
がある場合には,その委任を受けたものが職員として被告適格を有するこ
とになるものと解される。
したがって,本件においても,請求35ないし38に係る被告市長の被
告適格の有無については,被告市長の教育委員会に対する指揮監督の権限
ではなく,各賠償義務者に対し損害賠償金又は不当利得返還金の支払を請
求する権限及び賠償命令を発令する権限の有無により判断すべきであると
ころ,甲第6号証及び弁論の全趣旨によれば,上記権限を被告市長が被告
教育長に委任したとの事情は認められないから,被告市長は請求35ない
し38について被告適格を有するというべきである。
よって,被告らの主張は採用できない。
イなお,本件における他の請求に関する被告適格について検討するに,請
求25ないし28,30及び32ないし38においては,被告教育長が賠
償義務者に対して賠償命令を発することを求めている部分が含まれている
が,上記のとおり,被告市長から被告教育長に対して賠償命令を発する権
限を委任したとの事情が認められない以上,被告教育長は被告適格を有し
ないというべきである。したがって,請求25ないし28,30及び32
ないし38のうち,被告教育長が各賠償義務者に対して賠償命令を発する
ことを求める部分は,不適法な訴えというべきである。
2本案
(1)認定事実
証拠(甲25の1ないし57,甲70の1ないし57,乙33の1ないし
56,証人P24)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
ア本件恩賞制度の運用等
(ア)設計担当課等から契約検査課に上がってきた工事の設計内容を見
て,契約検査課が本件恩賞制度の対象となっている12社の中に当該工
事の施工が可能な適当な業者があるか検討し,その上で,設計担当課に
確認して随意契約を締結する。
もし,適当な業者が存在しなければ,当該工事については,競争入札
に付して契約を締結する。
なお,随意契約を締結することになった場合,2つ以上の業者から見
積りを徴収することはない。
(イ)予定価格の設定に当たっては,競争入札に付したときより3パーセ
ント程度価格の上昇が見込まれることから,競争入札の場合は5パーセ
ント程度の歩切りを行うのに対し,本件恩賞制度の場合は8パーセント
程度の歩切りが行われていた。
(ウ)太田市は,平成15年9月に本件運用基準を改正し本件恩賞制度を
廃止したが,これに先立つ同年8月14日ころ,同制度の制度目的を達
成したとする「恩賞制度運用基準の成果実証」と題する書面(乙3)が
作成された。同書面では,本件恩賞制度施行中の工事全体(本件恩賞制
度の対象以外の工事も含む)の検査評点の平均点の変動について,以。
下のとおり記載されている。
土木(舗装・造園を含む)建築(電気・管を含む)。。
平成6年75.32点75.81点
平成7年75.23点76点
平成8年74.09点73.47点
平成9年75.31点75.19点
平成10年75.34点74.81点
平成11年75.93点75.82点
平成12年76.11点75.68点
平成13年76.22点76.40点
平成14年76.82点76.31点
イ本件各契約についての決裁
本件各契約の締結に当たっては,まず,工事施工伺いにより,工事の概
要等とともに,随意契約による場合の随意契約適用条文,業者選択理由等
の決裁が行われ,次に,随意契約見積徴取伺いにより,上記の決裁を受け
た工事につき見積りを徴取することについての決裁が行われる。その後,
徴取した見積りに基づき,随意契約開札調書において,太田市契約規則1
8条に基づき契約を締結することについての決裁が行われ(まだ支出負担
額についての決裁は行われない,この決裁を受けて,支出負担行為決。)
議書において,負担行為額も含めた契約の締結及び支出負担額について,
本件各契約についての決裁が行われる。
(2)争点3(本件各契約の適法性)について
ア被告らは,本件恩賞制度が施行令2号の要件を根拠付けるものである旨
主張するので,以下,検討する。
施行令2号の「その性質または目的が競争入札に適しないものをすると
き」とは,不動産の買入れ又は借入れに関する契約のように,当該契約の
目的物の性質から契約の相手方がおのずから特定の者に限定されてしまう
場合や,契約の締結を秘密にすることが当該契約の目的を達成する上で必
要とされる場合など,当該契約の性質又は目的に照らして,競争入札の方
法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合は勿論のこ
と,それ以外にも,競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困
難とはいえないが,不特定多数の者の参加を求め,競争原理に基づいて契
約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約自体では多
少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方公共団体
において当該契約の目的,内容に照らし,それに相応する資力,信用,技
術,経験等を有する相手方を選定し,その者との間で契約の締結をすると
いう方法をとるのが,当該契約の性質に照らし,又はその目的を究極的に
達成する上で,より妥当であり,ひいては,当該普通地方公共団体の利益
の増進につながると合理的に判断される場合も含まれるものと解すべきで
ある。
そして,上記のような場合に該当するか否かは,契約の公正及び価格の
有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限
を加えている法及び施行令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当
該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,当該普通地方
公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解
するのが相当である(最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決。
・民集41巻2号189頁)
そこで検討するに,前記前提事実及び前記認定事実によれば,本件恩賞
制度は,通常の競争入札案件を落札した業者のうち,工事の検査評点が良
かった業者に対して随意契約の締結権を付与することによって,随意契約
の締結権の付与を受けたいと考える業者に対し,工事の品質の向上を促す
インセンティブを付与し,もって,太田市の工事案件全体における工事品
質の向上を図るものであると認められ,このような制度の趣旨ないし目的
からすれば,本件恩賞制度は,個々の契約における随意契約の締結の必要
性を離れた一般的抽象的な政策的目的を達成するための制度というべきで
あるから,施行令2号の要件を根拠付けるものとはいえない。
これに対し,被告らは,本件恩賞制度には,過当競争の防止等の目的も
存在したと主張するが,本件要綱及び本件運用基準上,過当競争の防止を
目的とする旨の記載が一切ないこと(甲2の1,甲8,本件恩賞制度は)
競争入札後に完成された工事の品質を考慮するものに過ぎないから本件恩
賞制度が存在するからといって競争入札時における過当競争を防止できる
仕組みとはなっていないことなどを併せ考えると,本件恩賞制度の目的に
過当競争の防止等が含まれていたとは認められない。
以上に説示したとおり,本件恩賞制度は,契約の公正及び価格の有利性
を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加え
ている法及び施行令の趣旨に合致するものとは到底いえないから,単に本
件恩賞制度に基づいて随意契約を締結することは太田市の契約担当者の合
理的な裁量判断を逸脱する違法なものといわざるを得ない。
イそうすると,本件恩賞制度の存在を理由として本件各契約の締結を正当
化することはできないから,本件各契約が適法であるというためには,施
行令各号に該当することが必要であるので,以下,施行令各号に該当する
か検討する。
(ア)本件契約1ないし12−2,18ないし20
aまず,被告らは,本件契約1ないし12−2,18ないし20につ
いて,施行令2号に該当すると主張する。
施行令2号に該当するか否かの判断については,前記最高裁判所判
決に示されるとおり,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類等の
諸般の事情を考慮して,契約担当者の合理的な裁量判断により決定さ
れるべきである。
この点について,被告らは,別紙3「被告らの主張」欄記載のとお
り,耐久性の向上に伴う管理費の軽減や利用者の安全確保(本件契約
1ないし5,7,8,10なしい12−2,18ないし20,グラ)
ンドの利用者に与える障害(本件契約6,集会所の既設トイレの利)
用者に与える障害(本件契約9)などの各工事の必要性を挙げて,上
記各契約を競争入札に付することには適しないと主張する。しかし,
仮に,被告らが主張するような上記各工事の必要性が存在したとして
も,そのことから,直ちに,個々具体的な契約の性質又は目的に照ら
し,競争入札に付することが適しない事由があると認められないこと
はいうまでもない。また,上記各契約に係る工事施工伺い(甲25の
1ないし12,18ないし20)上も,上記各契約を競争入札に付す
ることが適しない理由について何らの記載も見あたらず,他の証拠に
よっても,こうした理由の存在を認めるに足りない。
そうすると,施行令2号に基づいて上記各契約を締結することは,
契約担当者の裁量権を逸脱するものといわざるを得ない。
b次に,被告らは,上記各契約について施行令5号に該当すると主張
する。
施行令5号にいう「時価に比して著しく有利な価格で契約を締結す
ることができる見込みがあるとき」に該当するか否かの判断について
は,契約担当者の一定程度の合理的な裁量により決せられるべきであ
るところ,被告らの主張は「良好な品質を確保することにより,維,
持管理費が軽減される」などと,抽象的な将来の歳出の削減の見込み
をいうものにすぎず,時価に比べた具体的な契約価格の削減の見込み
をいうものではない(なお,上記各工事施工伺い上も,価格の有利性
について何らの記載もない。そうすると,被告らの主張する各事。)
由の存在を前提としても,施行令5号に基づき上記各契約を締結する
ことに合理性があるとは認めがたいから,これは契約担当者の裁量権
を逸脱してなされたものであるといわざるを得ない。
,,cよって上記各契約を施行令2号又は5号に基づき締結することは
施行令167条の2に反し,違法であるというべきである。
(イ)本件契約13,22,25ないし34,36ないし48,50ない
し54
被告らは,本件契約13,22,25ないし34,36ないし48,
50ないし54について施行令2号に該当すると主張する。
しかしながら,被告らの上記主張は,いずれも,一般的抽象的に,各
工事の現場に精通する業者と契約を締結することにより,限られた予算
の中で契約の完全な履行を確保することができる,などとするものにす
ぎず,個々具体的な契約の性質又は目的に照らした競争入札に付するこ
とが適しない理由に言及するものではない(なお,上記各契約に係る工
事施工伺い(甲25の13,22,25ないし34,36ないし48,
50ないし54)にも,上記各契約を競争入札に付することが適しない
理由についての記載は存在しない。そうすると,被告らが主張する。)
各事由の存在を前提としても,施行令2号に基づき上記各契約を締結す
ることは,契約担当者の裁量権を逸脱するものといわざるを得ない。
よって,上記各契約を施行令2号に基づき締結することは,施行令1
67条の2に反し,違法であるというべきである。
(ウ)本件契約14
被告らは,本件契約14について施行令3号に該当すると主張すると
ころ,本件契約14に係る工事施工伺い(甲25の14)によれば,本
件契約14は,当時の文化財倉庫を職業安定所に売却するための当該倉
庫の改築工事であり,平成12年3月24日までに完了させる必要があ
ったことが認められるところ,その決裁が行われた同年2月28日の時
点においては,1か月弱の期間しか残されていなかったのであるから,
競争入札に付することができない緊急の必要がある状況であったと一応
認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると,本件契約14を締結した契約担当者の判断がその裁量権
を逸脱したものとまでいうことはできず,本件契約14については施行
令3号に該当するというべきである。
(エ)本件契約15及び16
被告らは,本件契約15及び16について,設計金額を一定の割合で
削減しており,経費を削減できていたから,施行令5号に該当すると主
張する。しかしながら,設計金額は,太田市において算出する競争入札
ないし随意契約における契約価格の前提となる金額に過ぎず,結局,被
告らの主張は,上記各契約を競争入札に付する場合と比較しての価格の
有利性について何ら言及するものではない(なお,工事施工伺い(甲2
5の15,16)上も,価格の有利性について何らの記載もない。。)
また,被告らが設計金額を削減した証拠として提出する乙第28号証
の2,3も,現時点において設計金額の積算の過程で使用したソフトウ
ェアが存在せず上記積算の過程を再現することは不可能であること乙,(
28の1,及び上記各工事施工伺い上,経費が削減できる旨の記載が)
何ら存在しないこと等に照らすと,乙第28号証の2,3によって本件
契約15及び16について著しく経費が削減されたとまでは認められ
ず,他の証拠によっても,被告らの上記主張事実を認めるに足りない。
そうすると,被告らの主張する各事由の存在を前提としても,施行令
5号に基づき上記各契約を締結することは,契約担当者の裁量権を逸脱
したものといわざるを得ず,施行令167条の2に反し,違法であると
いうべきである。
(オ)本件契約17及び49
被告らは,本件契約17及び49について施行令4号に該当すると主
張する。
施行令4号は「競争入札に付することが不利と認められるとき」には
随意契約を締結することができる旨規定するところ,そのような場合に
該当するかの判断については,契約担当者の一定程度の合理的な裁量判
断が認められるべきである。しかし,被告らの主張は上記各契約を競争
入札に付した場合に随意契約を締結する場合と比べてどのように不利で
あるかについて何ら言及していない。
そうすると,被告らの主張する各事由の存在を前提としても,上記各
契約を施行令4号に基づき締結することは,契約担当者の裁量権を逸脱
したものといわざるを得ず,施行令167条の2に反し,違法である。
(カ)本件契約21
aまず,被告らは,本件契約21について施行令2号に該当すると主
張する。
しかしながら,被告らの上記主張は,市民会館大ホールの階段タイ
ルの破損が激しく早急に改善が必要であることから,直ちに施工可能
な同ホールに近接する業者を選定する必要があり,また,一定程度の
経費の削減ができたなどとするものであって,工事の緊急性や経費の
節減の可能性をいうものにすぎず,個々具体的な契約の性質又は目的
に照らした競争入札に付することが適しない理由に言及するものでは
(,(),ないなお本件契約21に係る工事施工伺い甲25の21上も
同契約を競争入札に付することが適しない理由についての記載は存在
しない。そうすると,被告らが主張する事由の存在を前提として。)
も,本件契約21を施行令2号に基づいて締結することは,契約担当
者の裁量権を逸脱するものである。
b次に,被告らは,本件契約21について施行令3号に該当すると主
張する。
そこで検討すると,工事施工伺い(甲25の21)によれば,工事
番号21の工事は,太田市民会館大ホールの入口のタイルが経年老化
したことによる改修工事であり,一般に,近接の業者によって緊急に
施工しなければならない工事であるとはいいがたいところ,このよう
な工事を近接業者が緊急に施工する必要性については,上記工事施工
伺い上,上記ホールの入口タイルが損傷し,汚れが著しく,施設の保
,,全を図る必要があるという記載しか見あたらず他の証拠によっても
同工事を競争入札に付すると時期を失するか,あるいは,契約の目的
を達することができない工事であると認めるに足りない。
そうすると,本件契約21を施行令3号に基づき締結することは,
契約担当者の裁量権を逸脱するものというべきである。
c次に,被告らは,本件契約21について施行令5号に該当すると主
張する。
そこで検討すると,被告らの主張は,設計金額を一定の割合で削減
しており,経費を削減できていたというものである。しかしながら,
設計金額は,繰り返しになるが,太田市において算出する競争入札な
いし随意契約における契約価格の前提となる金額に過ぎず,結局,被
告らの主張は,本件契約21を競争入札に付する場合と比較しての価
格の有利性について何ら言及するものではない(なお,上記工事施工
伺い上も,価格の有利性について何らの記載もない。。)
また,被告らが設計金額を削減した証拠として提出する乙第28号
証の4については,現時点において乙第28号証の2,3と同様に積
算のソフトウェアが現存せず,削減の過程を再現することは不可能で
あること(乙28の1,上記工事施工伺い上,経費が削減できる旨)
の記載が何ら存在しないこと等に照らすと,乙第28号証の4によっ
て,直ちに経費の削減があったと認めることはできず,他に被告らの
上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告らの主張する各事由の存在を前提としても,施行
令5号に基づき本件契約21を締結することは,契約担当者の裁量権
を逸脱したものといわざるを得ない。
dよって,本件契約21を施行令2号,3号又は5号に基づき締結す
ることは,いずれも施行令167条の2に反し,違法であるというべ
きである。
(キ)本件契約23
aまず,被告らは,本件契約23について施行令2号に該当すると主
張する。
そこで検討すると,被告らの主張は,市民会館西側アプローチのコ
ンクリート平板ブロックの破損が激しく早急に改善が必要であること
から,直ちに施工可能な市民会館に近接する優良業者を選定する必要
があり,また,本件契約23により一定程度の経費の削減ができた,
というものであるところ,これは,工事の緊急性,業者の工事現場へ
の近接性,経費の節減について指摘するものにすぎず,個々具体的な
契約の性質又は目的に照らした競争入札に付することが適しない理由
に言及するものではないなお本件契約23に係る工事施工伺い甲(,(
25の23)上も,同契約を競争入札に付することが適しない理由に
ついての記載は存在しない。そうすると,被告らが主張する事由。)
の存在を前提としても,本件契約23を施行令2号に基づき締結する
ことは,契約担当者の裁量権を逸脱するものといわざるを得ない。
b次に,被告らは,本件契約23について施行令3号に該当すると主
張する。
そこで検討すると,工事番号23の工事施工伺い(甲25の23)
によれば,同工事は,市民会館のアプローチ部分のブロックや舗装の
改修工事であると認められるものの,本件各証拠によっても,上記工
事が施行令3号に該当するほど緊急性を有したものであったとは認め
がたい。
そうすると,本件契約23について施行令3号の事由が存在したと
は認められず,これを同号に基づき締結することは,契約担当者の裁
量権を逸脱するものというべきである。
c次に,被告らは,本件契約23について施行令5号に該当すると主
張する。
しかしながら,被告らの主張は,時価に比べた具体的な契約価格の
削減の見込みについて何ら言及するものではない(なお,前記工事施
工伺い上も,価格の有利性について何らの記載もない。。)
,,,そうすると本件契約23を施行令5号に基づき締結することは
契約担当者の裁量を逸脱したものであるといわざるを得ない。
dよって,本件契約23を,施行令2号,3号及び5号に基づき締結
することは,いずれも施行令167条の2に反し,違法であるという
べきである。
(ク)本件契約24
aまず,被告らは,本件契約24について,施行令2号に該当すると
主張する。
そこで検討すると,被告らは,市民会館の演出効果を向上させるた
め,内装の改修と舞台の床の表面改修等に特殊な技術を要するなどと
主張する。しかしながら,工事施工伺い(甲25の24)上,工事番
号24の工事が特定の業者でなければ施工できないような特殊な技術
を要するものであることを認められるような記載もなく,他にこれを
認めるべき証拠はない。そうすると,被告らが主張するような特殊性
が何ら認められない以上,本件契約24を施行令2号に基づき締結す
ることは,契約担当者の裁量権を逸脱するものといわざるを得ない。
b次に,被告らは,本件契約24について施行令5号に該当すると主
張する。
しかしながら,被告らの主張は,時価に比べた具体的な契約価格の
削減の見込みについて何ら言及するものではない(なお,前記工事施
工伺い上も,価格の有利性について何らの記載もない。そうする。)
と,本件契約24を,施行令5号に基づき締結することは,契約担当
者の裁量権を逸脱したものであるといわざるを得ない。
cよって,本件契約24を施行令2号又は5号に基づき締結すること
は,施行令167条の2に反し違法であるというべきである。
(ケ)本件契約35
被告らは,本件契約35について施行令4号に該当すると主張する。
そこで検討すると,本件契約35の工事施工伺い(甲25の35)に
よれば,工事番号35の工事は,住宅宅地関連公共施設整備促進事業γ
幹線道路改良工事施工箇所の隣接地における同工事に附帯する工事であ
り,前記道路改良工事の施工業者と契約を締結することにより,競争入
札に付した場合より経費の節減(116万5500円)及び工事の連絡
調整を図ることが可能となったことが認められる。そうすると,本件契
約35については,競争入札に付することが随意契約を締結することよ
り不利であると一応いうことができ,本件各証拠に照らしても,これを
覆すような事情は見受けられないから,本件契約35を施行令4号に基
づき締結したことが契約担当者による裁量権の逸脱であるとはいえな
い。
よって,本件契約35については,施行令4号に該当するというべき
である。
(コ)本件契約55
被告らは,本件契約55について施行令4号に該当すると主張する。
そこで検討すると,本件契約55の工事施工伺い(甲25の55)に
よれば,工事番号55の工事は,福祉工場建設に伴い,同工場に隣接す
るδとの整合性と花卉栽培事務所前の外溝工事であるところ,上記工事
について,同工場の建設工事を行っている業者と随意契約を締結するこ
とにより,同工事の工事現場で使用されている重機等の機材の流用が可
能となり,また,上記業者が現場を熟知していることからすれば,工期
の短縮等のメリットが見込まれると認められる。そうすると,本件契約
55について,競争入札に付することが随意契約を締結することより不
利であると一応いうことができ,本件証拠上これを覆すほどの事情は認
められないから,本件契約55を施行令4号に基づき締結することが契
約担当者の裁量権を逸脱するものということはできない。
よって,本件契約55については,施行令4号に該当するというべき
である。
(サ)本件契約56
被告らは,本件契約56について施行令3号に該当すると主張する。
そこで検討すると,工事番号56についての工事施工伺い(甲25の
56)によれば,平成15年夏の長雨や台風の影響等で,同年秋ごろよ
りεの本館と体育館の崖が崩れ始め,他の箇所まで影響を及ぼす危険性
が生じていたと認められるところ,これらの事情からすれば,それに対
応するためにの土留工事を緊急に施工する必要性があったと認められ,
これを覆すに足りる証拠はない。そうすると,上記崖崩れから一定の期
間を経た平成16年3月5日まで決裁が行われなかったことを考慮して
も,直ちに緊急性がないということはできないから,本件契約56を締
結した契約担当者の判断が裁量権を逸脱するものとまでいうことはでき
ない。
よって,本件契約56については,施行令3号に該当するというべき
である。
(シ)本件契約57
被告らは,本件契約57について施行令3号に該当すると主張する。
そこで検討すると,工事番号57についての工事施工伺い(甲25の
57)によれば,工事番号57は,太田市の清掃センターの3号焼却炉
の外壁タイルが一部剥離して崩落したことに伴い,残っているタイルも
安全上撤去したことから,タイルのなくなった上記焼却炉の外壁に塗装
を行う工事であると認められる。そして,外壁タイルがすべてなくなっ
た状況からすれば,こうした外壁タイルの剥離に伴って利用者等に危険
が生じるおそれがある状況が生じていたことを一応認めることができ,
他にこれを覆すに足りる証拠はない。
,,,そうすると本件契約57については緊急性が一応認められるから
本件契約57を施行令3号に基づき締結した契約担当者の判断がその裁
量を逸脱したものとはいえない。
よって,本件契約57については,施行令3号に該当するというべき
である。
ウ以上の次第で,本件契約1ないし13,15ないし34及び36ないし
54は,施行令167条の2に反し,違法であるというべきであるが,本
件契約14,35及び55ないし57は,施行令3号又は4号に該当し,
適法であるというべきである。
エ太田市契約規則16条違反の点について
,,,(ア)前記のとおり本件契約1435及び55ないし57については
随意契約によること自体は施行令に基づくものであるが,原告は,さら
に,太田市契約規則16条に違反していると主張するので,以下検討す
る。
太田市契約規則(甲3)16条では「契約担当者は,随意契約によ,
ろうとするときは,2人以上から見積書を徴さなければならない。ただ
し,一件の金額が工事の請負にあっては100万円未満のもの,工事資
材にあっては10万円未満のもの若しくは価格が確定しているもの又は
特別の理由があるものは,この限りではない」と規定されているとこ。
ろ,上記各契約について,2人以上から見積りが徴されていないから,
同条ただし書に定める「特別の理由」がない限り,これらの契約は,同
条に違反することになる。
ところで,同条において原則として2社以上から見積書を徴すること
とされている趣旨は,競争入札を原則とし,随意契約を例外とする法及
び施行令の趣旨を踏まえて,随意契約を締結する場合においても可能な
限り競争原理を導入しようとしたものであると解されるところ,同条た
だし書の「特別の理由」とは,2社以上から見積りを徴することが不可
能若しくは著しく困難であるか,又はそのように見積りを徴することで
施行令167条の2第1項各号に基づき随意契約を締結することとした
意味を失わせるような合理的な事情が存在する場合をいい,そのような
事情の有無は,契約の種類,内容,性質等の諸般の事情を考慮して契約
担当者の合理的な裁量判断により決定されるものと解するべきである。
(イ)本件契約14,56及び57について
本件契約14,56及び57は,いずれも,上記のような一応の緊急
性があり,施行令3号に該当するとして締結されたものと認められると
ころ,2人以上の者から見積りを徴し,業者を選択する過程を経ること
により手続が遅滞し,緊急性があるとして施行令3号に基づき随意契約
を締結した意味が失われると一応考えられ,他にこれを覆すに足りる証
拠もないから,2人以上の者から見積りを徴することができない特別の
理由があるとの各支出負担行為の専決者の判断に裁量を逸脱した違法が
あるとまでは認められない。
(ウ)本件契約35及び55について
本件契約35及び55は,前記認定のとおり,いずれも,隣地で別の
工事を施工している業者であり経費の節減等を図ることができ,施行令
4号に該当するとして締結されたものであるところ,既に他の業者との
比較において,当該業者と随意契約を締結することの優位性が一応検討
されているのであり,他にこれを覆すに足りる証拠もないから,2人以
上の者から見積りを徴することができない特別の理由があるとの支出負
担行為の専決者の判断に裁量を逸脱した違法があるとは認められない。
(エ)以上より,本件契約14,35及び55ないし57を締結するに当
たって,2人以上の者から見積りを徴しなかったことは,太田市契約規
則16条に違反するものとはいえないというべきである。
オ以上のとおり,本件契約1ないし13,15ないし34及び36ないし
54は,違法な随意契約であるというべきであり,本件契約14,35及
び55ないし57は,適法なものであるというべきである。
(3)争点5(故意過失の有無)について
ア争点4についての判断は措き,争点5について判断すると,前記前提事
実,前記認定事実,証拠(甲4ないし6,11,17,25の1ないし5
7,甲27,甲70の1ないし57,乙32の1ないし3,乙33の1な
いし56,証人P24)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
(ア)P1は,本件恩賞制度制定前である平成7年から市長を務め,本件
恩賞制度の制定にも関与していた。
また,本件契約2ないし5,10,11,14,16,22,26な
いし47,49ないし51及び53について,工事施工伺い,見積徴取
伺い及び随意契約開札調書において自ら決裁を行い,本件契約1,6,
7,9,12−1,12−2,13,15,17ないし21,23及び
24につき当時総務部長であったP2又はP33に代決させた。
(イ)P2,P3,P4,P5,P22,P10,P11,P12,P1
3及びP14は市の各部長として,P15は教育長として,P19及び
P23は教育部長として,P20は管理部長として,それぞれ,別紙2
記載のとおり,本件契約1ない13,15ないし34及び36ないし5
4についての支出負担行為について,支出負担行為決議書に基づき専決
をした。
(ウ)P15は,本件契約9,17及び49についての支出負担行為の専
決が行われた当時,P21は本件契約49の支出が行われた当時,それ
ぞれ教育長の立場にあった。
(エ)太田市では,500万円未満の工事請負費の支出負担行為について
は,太田市事務専決規程(甲4)により部長に専決権限が付与され,太
田市教育委員会教育長に対する権限委任等に関する規則(甲6)により
教育長に決裁権限が委任されまた太田市教育委員会事務専決規程甲,,(
5)により教育部長に専決権限が付与されていた。
一方,500万円以上の工事請負費の支出負担行為については,市の
各部長らに専決権限を付与する規則等は存在しないが,慣例として,市
の各部長,教育長,教育部長及び管理部長が専決を行い,市長及び副市
長の決裁を省略できるものとされていた。
(オ)本件恩賞制度は,平成8年10月31日に施行され,平成15年9
,,月の本件運用基準の改正により廃止されたが原告が疑問を抱くまでは
本件恩賞制度の適法性について,太田市の内部で正式に問題を提起する
動きはなかった。
イP2,P3,P4,P5,P22,P10,P11,P12,P13,
P14,P15(本件契約9の支出負担行為に係る責任,P19,P2)
1,P20及びP23について
上記の市の各部長,教育長,教育部長及び管理部長は,工事施工伺いに
おいて被告市長であったP1の決裁又は太田市の総務部長による代決によ
り本件恩賞制度を適用して随意契約を締結することが既に決定されている
各工事について,従来と同様に,その支出負担行為の部分の専決を行って
いたにすぎず,しかも,本件恩賞制度は,上記の市の各部長,教育長,教
育部長及び管理部長が専決を行った当時,適法性について特段の問題提起
もないままに太田市の既定方針として運用されていたものである。そうす
ると,同人らが支出負担行為の専決を行うについて,故意又は重大な過失
があるということはできない。
そうすると,P2,P3,P4,P5,P22,P10,P11,P1
2,P13,P14,P15,P19,P21,P20及びP23は,法
243条の2第1項後段に基づく責任を負うものではない。
ウP15(本件契約9,17及び49の指揮監督義務に係る責任)及びP
21について
前記イと同様,P15及びP21も,本件恩賞制度に基づいて契約を締
結することが既に決定されている各工事について教育部長及び管理部長が
その支出負担行為の部分の専決又は公金の支出を行った当時,教育長であ
ったにすぎず,しかも,その当時まで,本件恩賞制度の適法性については
内部的に特段の問題提起もないまま,太田市の既定方針に基づいて運用さ
れてきていたものであるから,同人らが教育部長及び管理部長による支出
負担行為を阻止しなかったことについて故意又は重大な過失があったとま
では認められない。
そうすると,P15及びP21は,法243条の2第1項後段に基づく
責任を負わない。
エP1について
前記認定のとおり,P1は,①本件恩賞制度の制定にも関与し,その内
容についても熟知していたこと,②本件各契約のうち,前記(2)において
随意契約の制限に違反する契約であると判断された各契約(以下「本件制
限違反契約」という)のほとんどについて,自ら,工事施工伺い,見積。
徴取伺い及び随意契約開札調書の決裁を行い,又は総務部長に代決させて
いたこと,さらに,③本件制限違反契約には契約価格が500万円を超え
ているものが多数含まれているところ,P1は,工事請負費が500万円
以上の案件について,法令上,支出負担行為の決裁権限を有していたこと
が明らかであり,これらの事情からすれば,同人は,市長という職責に鑑
み,本件恩賞制度の適法性について十分に検討し,適宜,本件恩賞制度を
改廃し,又は本件制限違反契約の締結を事前に阻止すべき指揮監督上の義
務を負っていたのにこれを怠った過失があるといわざるをえない。
したがって,P1は,不法行為(民法709条)に基づき,太田市に対
し,本件制限違反契約により太田市が蒙った損害を賠償する責任を負うも
のというべきである。
(4)争点6(損害の有無及び額)について
ア原告は,本件制限違反契約は私法上無効であり,契約価格相当額の損害
が発生すると主張する。
しかしながら,随意契約の制限に関する法令に違反して締結された違法
な契約であっても,私法上当然に無効になるものではなく,随意契約によ
ることができる場合として,施行令の規定の掲げる事由のいずれにも当た
らないことが何人の目にも明らかである場合や,契約の相手方において随
意契約の方法による当該契約の締結が許されないことを知り又は知り得べ
かりし場合のように,当該契約の効力を無効としなければ随意契約の締結
に制限を加える法及び施行令の規定の趣旨を没却する結果となる特段の事
情が認められる場合に限り,私法上無効になるものと解するのが相当であ
る(最高裁判所昭和62年5月19日第三小法廷判決・民集41巻4号6
87頁。)
,,,以上に基づき本件について検討するに前記のとおり本件恩賞制度は
平成8年に運用が開始されてから平成15年に廃止されるまでの長期間,
内部的には適法性について特段の疑念も指摘されないまま運用されてきた
ものであるから,契約担当者及び契約の相手方にとっては,本件制限違反
契約が違法であるとの認識を持ち得ないのが通常であるというべきであ
る。また,本件制限違反契約について,その契約の内容の履行において,
他の契約と異なり,工事の品質の著しい低下があった等の特段の不都合が
あったとの事情も見受けられない。
そうすると,本件制限違反契約について,私法上無効とすべき特段の事
情があるということはできないから,本件制限違反契約は私法上は有効で
,,,ありしたがって契約価格全額が損害となるということはできないから
原告の主張は採用できない。
イ損害の有無
(ア)そこで,本件制限違反契約が私法上無効とはいえないことを前提と
して,まず,太田市に損害が生じているか検討する。
この点,被告らは,設計金額が適正な価格であり,本件各契約がすべ
て設計金額以下で契約が締結されている以上,太田市に損害は生じてい
ないと主張する。
しかしながら,法234条3項は,競争入札においては,予定価格以
下の落札価格で契約が締結されることを予定しているものと解するべき
であるから,競争入札により形成されたであろう落札価格が競争を通し
て得られた公正な価格であるというべきであり,設計金額以下の金額で
契約が締結されているからといって,直ちに損害が生じていないという
ことにはならない。
したがって,本件制限違反契約の契約価格が,仮に同契約を競争入札
に付していた場合に競争により形成されたであろう落札価格(以下「想
定落札価格」という)を上回る場合に損害の発生が認められるという。
べきである。
(イ)そこで,想定落札価格について検討を加えると,証拠(甲55,証
人P24)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
a太田市では,各工事について,設計担当者が公的機関が発行する資
料等を基にして設計金額を定めた上,それに一定程度の歩切り率を乗
じて予定価格(設計金額以下の価格となる)を算出する。。
b競争入札に付する場合と本件恩賞制度による場合では,上記歩切り
率が一定しない運用がなされており,競争入札に付する場合は設計金
額の約95パーセント,本件恩賞制度に基づく随意契約の場合は設計
金額の約92パーセントの金額がそれぞれ予定価格として定められて
いた。
c平成11年度ないし平成17年度の太田市における全入札案件にお
ける年度ごとの平均落札率及び受注希望型指名競争入札(ホームペー
ジに掲載した入札条件を満たしているすべての業者を入札参加資格者
として指名するなどの太田市独自の指名競争入札の運用)案件におけ
る年度ごとの平均落札率,並びにこれらを基に算出した当該期間にお
ける平均落札率は,別紙4のとおりである。
,「」d本件各契約における設計金額及び予定価格は別紙5②設計金額
及び「③予定価格」の各欄記載のとおりである。
(ウ)これらの事情を基に検討すると,太田市における予定価格は,前記
のとおり競争入札に付する場合と本件恩賞制度に基づく随意契約の場合
とで異なることが想定されていたのであるから,想定落札価格の算出に
当たっては,原告の主張するように単純に本件制限違反契約の予定価格
(別紙5「③予定価格」欄記載のもの)に平均落札率を乗じれば足りる
というものではなく,設計金額を基にして競争入札に付した場合に想定
される予定価格を算出し,その数値にさらに予定価格を前提とする平均
落札率を乗じて算出すべきである。
ここで,乗じるべき平均落札率について,全入札案件を基にした平均
落札率である92.77パーセントを用いるべきか,あるいは,受注希
望型指名競争入札案件のみを基にした平均落札率である82.82パー
セントを用いるかは,措くとして,上記のとおり,太田市の競争入札案
件においては,設計金額の約95パーセントが予定価格として設定され
ていたのであるから,設計金額の95パーセントの価格(別紙5の「④
想定予定価格」欄記載の価格)が,本件各契約について競争入札に付す
場合に想定される予定価格となる。そして,これに上記の平均落札率で
ある92.77パーセント又は82.82パーセントを乗じると,それ
ぞれ,別紙5の「⑤想定落札価格Ⅰ「⑦想定落札価格Ⅱ」の各欄の」,
とおりの金額となる。これらの想定落札価格と契約価格との差額は,そ
れぞれ「⑥契約価格との差額Ⅰ「⑧契約価格との差額Ⅱ」の各欄記」,
載のとおりであるところ,全入札案件の平均落札率により算定した想定
落札価格において,一部契約価格を上回るものがある(本件契約18,
),,39及び41ことを除けばほぼすべての本件制限違反契約において
想定落札価格が契約価格を下回ることが認められる。
このような推計ができることにかんがみると,本件においては,本件
制限違反契約を締結することにより太田市に損害が発生したものと認め
られる。
ウ損害額
そこで,具体的な損害額について検討すると,本件における太田市の損
害は,前記のとおり,想定落札価格と実際の契約価格との差額であるとい
うべきであり,本来,本件制限違反契約について,その具体的な額が立証
される必要がある。
この点,上記イの想定落札価格と契約価格の差額が直ちに損害額である
とすることはできない。なぜならば,上記想定落札価格は本件各契約の設
計金額に全入札案件ないし受注希望型指名競争入札案件を基にした平均落
札率を乗じて算出したものにすぎず,ここでは,実際の契約価格の決定を
左右する多種多様な個別的要因が捨象されているからである。
一方,本件制限違反契約がいずれも比較的小規模で,数も多い上,同契
約締結から現在までに4年から9年近くが経過していることからすれば,
それぞれの契約について個別に契約締結時と同一の状況を設定して,競争
入札を行った場合の契約価格を算定するのはもはや困難である。こうした
事情に,上記のとおり,そもそも,競争入札においては実際の落札価格が
多種多様な要因に基づいて形成されることなども考え合わせれば,結局の
ところ,現時点において,太田市が受けた損害額を立証することは極めて
困難であるといわざるを得ない。
したがって,本件では,民事訴訟法248条を適用して,上記損害を認
定するのが相当である。
そこで,さらに検討すると,前記のような本件恩賞制度の運用の実態,
本件制限違反契約の予定価格及び契約価格等本件に顕れた一切の事情を総
合考慮すると,本件恩賞制度により太田市は,本件制限違反契約の各契約
価格の3パーセントの損害を受けたものと認めるのが相当である。
そうすると,本件制限違反契約ごとの損害額は別紙6のとおりとなる。
エしたがって,被告市長は,P1に対し,別紙6の損害額欄記載の各金額
及びこれに対する同人が専決をした本件制限違反契約に係る各公金の支出
日(別紙2の「支出日」欄記載の日)の翌日から支払済みまで民法所定年
5分の割合による遅延損害金の支払を請求すべきことになる。
3結論
以上のとおりであるから,原告の本件訴えのうち,被告教育長に対して賠償
命令をすることを求める部分は不適法であるから,これを却下することとし,
被告市長に対する請求は,主文第2項記載の限度で理由があるから,その限度
で認容し,その余の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判
決する。
前橋地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官小林敬子
裁判官青野卓也
裁判官中野哲美は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官小林敬子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛