弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄する。
       被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人関口幸男の上告受理申立て理由について
 1 本件は,埼玉県(以下「県」という。)の住民である被上告人が,平成7年
8月21日から同年9月9日までの日程で実施された県議会欧州行政視察旅行につ
き,その実体は単なる観光旅行であって,その旅費等の支出は地方財政法4条1項
等に違反する違法なものであり,県は支出金相当の損害を被ったとして,地方自治
法242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,議員の旅費等の支出負担行為
兼支出命令をした上告人A1及び随行員の旅費等の支出負担行為兼支出命令をした
上告人A2に対し,各旅費等相当額の損害の賠償を請求する事件である。
 原審の適法に確定したところによれば,上告人らが上記の各支出負担行為兼支出
命令をしたのは平成7年8月9日であり,被上告人がこれらにつき監査請求をした
のは同8年8月13日であったというのである。そこで,第1審は,上記監査請求
は,同法242条2項本文所定の請求期間を経過した後にされたものであって,被
上告人が上記旅費等の支出に係る公文書の開示を受け同支出の存在及び内容を知る
ことができた同年2月13日から6箇月経過後にされたものであり,同項ただし書
所定の正当な理由もないから,不適法であると判断して,本件訴えを却下した。こ
れに対し,原審は,上記各支出負担行為兼支出命令に基づいて現実に旅費等の支出
がされたのは同7年8月18日であるところ,現実の支出は,支出命令を財務会計
上の行為として現実化し,支出命令を外部的に完成させ,その適否及びそれによる
地方公共団体の損害の発生の有無を客観的に判断することを可能にする支出命令と
一体の行為と解すべきであるから,上記監査請求の期間は現実の支出の日から計算
すべきであり,同監査請求は請求期間を遵守した適法なものであって,本件訴えも
適法であると判断し,第1審判決を取り消して,本件を第1審に差し戻した。
 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 住民監査請求は,財務会計上の行為又は怠る事実を対象として行われるも
のであるところ,行為についての監査請求は,当該行為のあった日又は終わった日
から1年を経過したときは,これをすることができないものとされている(地方自
治法242条2項本文)。そして,ここにいう当該行為とは,具体的な個々の財務
会計上の行為をいうものと解される。
 (2) 公金の支出は,具体的には,支出負担行為(支出の原因となるべき契約そ
の他の行為)及び支出命令がされた上で,支出(狭義の支出)がされることによっ
て行われるものである(地方自治法232条の3,232条の4第1項)。これら
のうち支出負担行為及び支出命令は当該地方公共団体の長の権限に属するのに対し
,支出は出納長又は収入役の権限に属するのであり,そのいずれについてもこれら
の者から他の職員に委任等により各別に権限が委譲されることがある。また,これ
らの行為に適用される実体上,手続上の財務会計法規の内容も同一ではない。この
ように,これらは,公金を支出するために行われる一連の行為ではあるが,互いに
独立した財務会計上の行為というべきものである。そして,公金の支出の違法又は
不当を問題とする監査請求においては,これらの行為のいずれを対象とするのかに
より,監査すべき内容が異なることになるのであるから,これらの行為がそれぞれ
監査請求の対象事項となるものである。もっとも,公金の支出を構成するこれらの
行為を併せて監査請求の対象とすることも許され,これらを明確に区別しないでさ
れた監査請求が対象事項の特定を欠き不適法となるものではないが,これらにつき
各別に監査請求をすることができることはいうまでもないところである。
 以上によれば,【要旨】支出負担行為,支出命令及び支出については,地方自治
法242条2項本文所定の監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に
計算すべきものである。
 (3) 本件は前記旅費等につき支出負担行為兼支出命令をした職員である上告人
らに対し損害賠償請求をする住民訴訟であるから,これに前置すべき監査請求は各
支出負担行為兼支出命令のあった日から1年以内にこれをしなければならないとこ
ろ,前記のとおり,被上告人は,その日から1年を経過した後に監査請求をしたと
いうのである。そうすると,本件の監査請求は,請求期間を経過した後にされたも
のというほかはない。そして,被上告人は平成8年2月13日には上記旅費等の存
在及び内容を知ったというのであるから,その日を基準にしても6箇月経過後にさ
れた上記監査請求には,地方自治法242条2項ただし書所定の正当な理由もない
ことが明らかである。
 3 以上のとおりであるから,本件訴えは,適法な監査請求を経たものとはいえ
ず,不適法というべきであり,論旨は理由がある。これと異なる原審の前記判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れな
い。そして,第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 上田
豊三)

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