弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,Aに対し,1万5800円及びこれに対する平成18年3月16日
から支払済みまで年5分の割合による金員を,白山市に対して支払うよう請求
せよ。
第2事案の概要等
1本件は,白山市長Aが,同市の職員を同行して,B神社御鎮座二千百年式年
大祭奉賛会発会式に出席して祝辞を述べたところ,当該行為は,特定の宗教を
助長,援助,促進する効果があり,政教分離原則に違反し違憲であるとして,
,,出席に伴う公金支出相当額につき原告が白山市の執行機関である被告に対し
地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,Aに対する損害賠償を請求
することの義務付けを求めた住民訴訟である。
2前提事実(争いがないか,証拠(各項末尾記載)及び弁論の全趣旨により明
らかに認められる)。
()当事者等1
ア原告は,白山市の住民である。
イ被告は,白山市の執行機関である。
ウAは,平成17年3月6日から白山市長の職にある。
エB神社は,白山市内に所在する(甲5の5,17の2の1)。
()本件発会式への参加2
Aは,平成17年6月25日,白山市αの「β」で開催されたB神社御鎮
座二千百年式年大祭奉賛会以下大祭奉賛会という発会式以下本(「」。)(「
件発会式」という)に来賓として招かれ,白山市の職員を伴い,同市の公。
用車を使用して参加し,白山市長として祝辞を述べた。
()本件に関する財務会計行為3
ア(ア)白山市の主務課長は,専決により,平成17年6月分の市長ら特別
職の給与として,同年6月15日付けで242万円の支出命令をした。
(イ)白山市の主務課長は,専決により,平成17年6月分の一般職員の
給与として,同年6月15日付けで2億8387万2582円の支出命
令をした。
(ウ)白山市の主務課長は,専決により,平成17年6月分の職員手当等
,。として同年6月15日付けで4372万4265円の支出命令をした
(甲7の1∼3,8の1)
イ白山市の主務課長は,専決により,平成17年7月分の職員手当等とし
て,同年7月14日付けで3828万8490円の支出命令をした(甲。
7の4,8の1)
ウ(ア)白山市の主務課長は,専決により,平成17年12月分の市長ら特
別職の賞与として,同年12月6日付けで727万1600円の支出命
令をした。
(イ)白山市の主務課長は,専決により,平成17年12月分の一般職員
の賞与として,同年12月6日付けで7億1003万5650円の支出
命令をした。
(甲6の1・2,8の1)
エ白山市の主務課長は,専決により,平成17年6月分の市長車のガソリ
ン代として,同年7月8日付けで2万8088円の支出命令をした(甲。
4の2)
(以下,これらの支出命令を併せて「本件各財務会計行為」という)。
()原告による住民監査請求4
原告は,Aの本件発会式出席に伴う白山市の支出が憲法20条1項,3項
及び同89条に違反するとして,平成17年12月13日,白山市監査委員
に対し,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求をしたが,平成18
年2月6日,白山市監査委員は,上記監査請求は理由がないとの判断を原告
に通知した(甲1,2)。
3争点及び当事者の主張
(,()Aの本件発会式出席に関する公金支出が政教分離原則憲法20条1項1
3項,89条)に違反するか。
ア原告の主張
,(),Aが本件発会式に大祭奉賛会の顧問役員として白山市民を代表し
職員を随行し市の公用車を使用して出席し,祝辞を述べたことは,次の理
由から特定の宗教であるB神社の宗教活動を助長,援助,促進する効果が
極めて高いものであり,また,他方において,神道に馴染まない白山市の
住民及び神道以外の信仰をする住民の信仰の自由を圧迫する効果があるか
ら,憲法の定める政教分離原則に違反する。
したがって,本件各財務会計行為のうち,Aの本件発会式出席に関する
公金支出は違憲である。
なお,被告は,本件発会式に参加することが住民福祉に資すると主張す
るが,住民福祉とは,市民に対する幸福の向上のための満足すべき生活環
,,境に資することであり多様な国籍者を含む住民は多様な信仰をしており
市長が住民の福祉のケアのためと称して,市の公金を使用して,特定の宗
教であり,かつては明治政府以来昭和20年まで国家の管理下にあり,国
民に国家神道を強制的に信仰させて,神札を受けない神道以外の国民は弾
圧を受けた歴史がある国弊神社であったB神社の50年ないし100年に
一回の大祭という歴史的な宗教次式に参加することは,住民にかつての信
仰の自由が制限された恐怖を思い起こさせるものであるから,住民の福祉
に反するものである。
(ア)大祭奉賛会の性質
大祭奉賛会は,祭神鎮座二千百年式年大祭記念事業として,大祭の斎
行,禊場,遊神殿の新増築,社史の編纂等を予定し,その予算5億円の
うち2億円は神社の資金,3億円は会員の奉納する奉賛金によって賄う
というものである。この大祭記念事業は,山岳信仰の修行の場として,
また,日本における神仏習合の草分け的存在として,B神社の祭神大神
を宣揚し,もって来訪する信者その他の人及び青少年に心身修行の信仰
の場を提供しようとするものである。
したがって,本件発会式は純然たる宗教儀式である。
(イ)大祭奉賛会とB神社との関係
大祭奉賛会は,B神社の50年に一度の神事に賛同して金品及び役務
を奉納することを目的とする暫定的な会であるが,一般の奉賛会は氏子
及び信者によって結成されるのに対し,大祭奉賛会は,B神社の神主で
あり筆頭宮司であるCがすべての役員を統括する最高責任者の地位にあ
り,事務局の役割を担う幹事はD宮司以下B神社の職員であり,役員の
委嘱はB神社の宮司の裁量の範囲により行われ,奉賛される奉納金はす
べてB神社に奉納されることから,大祭奉賛会は,事実上B神社と一体
関係にあり,実質的には同神社の特別会計というべきである。
(ウ)白山市長が大祭奉賛会の役員に就任することの効果
Aは,白山市長として,大祭奉賛会の役員に就任し,石川県知事らに
次いで大祭奉賛会入会趣意書に名を連ねた。この趣意書は,大祭奉賛会
の事業に対する新米や金品の奉賛を募るために,白山市内の神社総代か
ら同市内の氏子に配布されている。
,,したがってAが白山市長として大祭奉賛会の役員に就任したことは
大祭奉賛会を主宰する特定の宗教であるB神社を助長,援助,促進する
ものであり,また,同神社を信仰しない市民の信仰の自由を圧迫するも
のである。
国及び地方自治体の首長(総理大臣,県知事,市長,町長,村長)が
公人としてその役員に就任している大祭奉賛会は,50年に一度の一大
宗教儀式の実行委員会であり,その事務局をB神社を代表する宮司が主
宰していることからも,大祭奉賛会は任意団体であっても憲法89条に
いう宗教上の組織に相当するものであり,自治体の長であるAが白山市
民を代表して主要な役員に就任することは,政教分離原則に違反してい
ることは明らかである。
(エ)白山市とB神社との関係
白山市の平成17年度予算に関する説明書(甲11)によれば,財団
法人E協会(以下「E協会」という)に対する負担金として288万。
円が計上されている。また,白山市は,平成17年度の観光推進費から
国立公園等管理費として50万円を,白山観光パンフレット協賛金とし
て66万円をE協会の事業に出捐している。
また,E協会は,大祭奉賛会に500万円以上の奉賛金を納めた名誉
会員とされている。
そうすると,同協会は,白山市からの出捐金を含めた事業運営により
得た収益の中から500万円を大祭奉賛会に支出したのであるから,白
山市が同協会を通じて大祭奉賛会を支援したことになる。
また,白山市長であるAは同協会の副理事長に就任しており,それに
加えて同協会の設立目的が信仰の場として歴史ある白山を多くの人々に
活用してもらうこと等であること,同協会の事務局はB神社の境内にあ
ること及び下界から展望する白山が全てB神社の所有する境内でもあり
白山それ自体が信仰の場であることにかんがみれば,白山市が同協会に
負担金を支出することは,B神社への信仰に繋がるものとして,宗教活
動にあたり,白山市長がそのような団体の役員に就任することは政教分
離の原則に反することになる。
イ被告の主張
Aは,本件発会式に来賓として招かれ,随行職員1名とともに公用車に
て出席し,地元市長として祝辞を述べたが,それは,以下の理由から特定
の宗教を援助,助長及び促進するものではなく,政教分離原則に違反しな
いことは明らかである。
また,市長の職務は,地方自治法149条では「概ね」と規定されてい
るところからして,一般職員のそれとは異なり,一般的に多種多様で広範
囲に亘るものであるところ,地方自治の本旨たる住民福祉の向上に資する
ため,市民や各種団体と接し,地域の状況などを知ることは,適切に行政
を執行する上で欠くことのできないものである。
,,,こうしたことのために市長は自らの裁量により本件発会式に出席し
祝辞を述べたものであり,公用車使用と職員の随行は,職務を遂行する上
で当然のことというべきである。
(ア)大祭奉賛会の性質及び本件発会式について
大祭奉賛会は,B神社御鎮座二千百年式年大祭斎行,青少年育成や滝
行の場として禊場の造成,奉納された絵馬を一堂に掲載するなど施設と
しての遊神殿(仮称)の新築や,B神社史の発刊などを事業目的として
設立された団体であり,特定の宗教の信仰,礼拝又は普及などの宗教活
動を行うものであることは否定できない。
しかし,本件発会式そのものは,その式次第においても,特に宗教的
儀式又は順序作法に則ったものとは認められず,一般によく見られる各
種団体における設立次第と変わるものではなく,淡々と進められ,短時
間で終了したものである。
Aは,本件発会式に来賓の一人として招かれ,地元市長として,社会
的儀礼の範囲内で祝辞を述べたものである。
(イ)大祭奉賛会とB神社との関係
大祭奉賛会は,B神社御鎮座二千百年の祭礼行事を執行すること,こ
の祭礼行事の執行についての記念事業として規約(乙1)第7条に定め
る事業を行うことを目的とすることに奉賛し,この事業に助力するため
に不特定多数の者からの寄附を募ることを目的とする一過性,暫定的な
任意の団体である。また,大祭奉賛会はB神社の外郭団体であり,その
管理運営に関し規約(乙1)を定め,B神社との関係を明らかにしてい
る。
したがって,大祭奉賛会が宗教法人であるB神社と一体の関係にある
とか,B神社の特別会計であるということはない。
(ウ)白山市長が大祭奉賛会の役員に就任することの効果
Aは,白山市を代表して大祭奉賛会の目的に奉賛して役員に就任した
ものではなく,A個人として役員に就任したものであって,就任した当
時の地位が白山市長であったに過ぎない。
また,全国的に見れば,公務員と神社や寺院の代表役員を兼職してい
る例は相当多数にのぼっているはずである。神社や寺院の代表役員を務
める国会議員が閣僚を務めた例もあるが,政教分離は問題とされていな
い。しかして,大祭奉賛会は宗教法人ではなく,任意団体であるから,
白山市長であるAが大祭奉賛会の役員(顧問)に就任しても,憲法上の
政教分離の問題は生じない。
ちなみに,宗教法人は,民法上公益法人の中に含まれるから,知事や
地方自治体の長が慣例上他の公益法人,例えば財団法人,社団法人,学
校法人,社会福祉法人等あるいは任意団体等の要請に応じてその役員に
就任することはままあるが,政教分離の上で何ら問題とはならない。
(エ)白山市とB神社との関係
aE協会は,霊峰白山の優れた観光資源を保護開発するとともに,観
光諸施設の整備を図り,白山観光を通して国民文化及び厚生の向上発
展に寄与し,併せて国際観光の発展に貢献することを目的として設立
された財団である。
このように同協会は,その目的からも明らかなように,B神社とは
直接の関係はなく,また大祭奉賛会とも直接の関係がない別法人であ
るが,事業遂行上の便宜からたまたま事務所をB神社に置いているに
過ぎない。
そして,同協会の事業は,上記目的を達成するため,白山国立公園
の推進,白山における観光資源の保護及び開発,登山及び観光施設の
整備,維持管理及び運営,国内外に対する白山観光の宣伝及び紹介,
白山に関する研究・調査及び資料保存等の何ら宗教的色彩のない事業
を行う財団である。
しかして,E協会は,その目的の達成に資するとして,いろいろの
事業の中から生まれた運用資産から大祭奉賛会に500万円を支出し
ているが,この支出は,白山市という公の団体と直接関係のない別法
人のE協会が同協会の事業遂行のために有益であるとしてなしたもの
であり,その結果により同協会が大祭奉賛会規約第5条に基づき名誉
会員とされているに過ぎない。
したがって,E協会が大祭奉賛会へ出捐した金員が,白山市がE協
会に支出した金員から支出されたという原告の主張は理由がない。
なお,上記500万円の支出は,白山の観光資源の保護開発,観光
諸施設の整備等の財団の目的のためになされたもので,宗教的意図で
なされたものではない。
b白山市は,E協会に原告主張のように毎年288万円を出捐しては
いない。
E協会は,白山市から美化事業費(道路清掃事業の人夫費用)とし
て,平成17年度に45万円を受領しているに過ぎず,平成18年度
は未だ受領していない。
c確かに,B神社は,一宗教団体ではあるが,同神社は,全国的に名
前が広まっている神社であり,その神社の大祭の実行は,一宗教団体
の儀式というにとどまらず,白山市の観光イベントとして,白山市も
その実行に関わりのある立場にある。
白山市は,上記の範囲で関わりがあるに過ぎず,それ以上に一宗教
団体に不当に肩入れをしているというわけではない。
()白山市長は財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反2
したか。
ア原告の主張
白山市長であるAは,白山市の予算を執行する権限を有していた者であ
り,たとえ,その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助
職員に専決させることとしている場合であっても,当該補助職員が財務会
計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務を負う。
Aは,本件発会式に参加することが,政教分離原則に違反することを認
識すべき立場にありながら,B神社から大祭奉賛会役員として本件発会式
への参加の招聘があるやそれに応じ,自ら本件発会式に参加し,かつ補助
職員を随行させた。
このように,Aは,本件各財務会計行為のうち,本件発会式に関する公
金支出が違法であることを認識しえたにもかかわらず,これを阻止しなか
ったものであるから,指揮監督上の責任がある。
イ被告の主張
Aが本件発会式に公用車を使用し,職員を随行して出席した行為は,前
記のとおり,政教分離原則に違反する行為ではないから,自ら参加するこ
とを中止したり,職員に対し,随行させることを阻止すべき義務はなく,
ゆえに,指揮監督上の義務違反も認められない。
()損害3
ア原告の主張
本件各財務会計行為により支出された公金のうち,Aの本件発会式出席
のために支出されたということができる金額は,以下のとおりである。こ
れらの支出については,前記()アのとおり違法性が認められ,白山市が1
被った損害と評価できる。
(ア)白山市長の報酬費の支出8800円
(イ)随行秘書課長給料支出4000円
(ウ)公用車運転職員給料支出2000円
(エ)公用車燃料等の費用1000円
合計1万5800円
イ被告の主張
原告の主張は否認する。また,その損害額を争う。
第3当裁判所の判断
1争点()(Aの本件発会式出席に関する公金支出が政教分離原則(憲法201
条1項,3項,89条)に違反するか)について
()証拠(各項末尾記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ1
る。
ア大祭奉賛会について
(ア)大祭奉賛会の規約には,以下のことが定められている。
a目的(第2条)
大祭奉賛会は,B大神の御神徳を敬仰して,B神社の式年大祭斎行
の諸事業を奉賛することを以て目的とする。
b事務局(第3条)
大祭奉賛会の事務局は石川県白山市γB神社内に置く。
c事業の内容(第7条)
大祭奉賛会は前記aの目的を達成するため,以下の事業を行う。
(a)御鎮座二千百年式年大祭斎行
(b)禊場造成及び付帯工事(井戸掘削)
(c)齋館移築及び車道新設工事
(d)手水舎新築工事
(e)仮称遊神殿新築工事
(f)B神社史発刊
(g)その他付帯事業
d事業予算(第8条)
事業の予算は5億円とし,募財3億円及び自己資金2億円をそれに
充てる(内訳は以下のとおり。。)
(a)御鎮座二千百年式年大祭6000万円
(b)禊場造成並びに付帯工事1億円
(c)齋館移築並びに車道新設工事4000万円
(d)手水舎新築工事4000万円
(e)仮称遊神殿新築工事1億5000万円
(f)B神社史発刊6000万円
(g)その他付帯事業5000万円
e顧問に関する定め(第9条及び第11条)
大祭奉賛会には,顧問若干名が置かれ,顧問は会長の諮問に応じ,
又は会長の要請により会議に出席して意見を述べることができる。
f会計(第17条)
大祭奉賛会の会計は,会員の奉賛金及びその他の収入を以てし,必
要経費を支弁の上,前記aの目的達成のため,B神社に奉納するもの
とする。
(イ)上記(ア)c(a)の御鎮座二千百年式年大祭は,平成20年にB神社
の鎮座2100年となることを記念して,同年10月8日から同月12
日まで行われる予定の祭事である。
(ウ)大祭奉賛会の役員名簿には,B神社の宮司であるCが,宮司という
肩書きで挙げられている。また,大祭奉賛会の顧問の一人としてAが就
任している。
(甲5の3,5の4,10の1∼3,乙1∼3)
イ本件発会式の内容
(ア)本件発会式は,平成17年6月25日,白山市α所在の「β」にお
いて,以下の式次第によって行われた。
a開会の辞
b会長(F)挨拶
c来賓(役員)祝辞
d役員紹介
e来賓紹介
f事業計画説明
g宮司(C)御礼の言葉
h乾杯並びに挨拶
i閉会の辞
(イ)本件発会式は,関係者約120名が出席し,約40分ほどで終了し
た。
(甲2,5の2,5の5,乙2,3)
ウE協会について
E協会は,霊峰白山のすぐれた観光資源を保護開発するとともに,観光
諸施設の整備を図り,白山観光をとおして国民文化及び厚生の向上発展に
寄与し,併せて国際観光の発展に貢献することを目的とする財団法人であ
る(乙4・5)。
()原告は,Aが本件発会式に大祭奉賛会の顧問として白山市民を代表して2
出席し,祝辞を述べたことは,憲法の定める政教分離原則に違反する旨主張
するので検討する。
憲法20条1項後段,3項及び89条は,いわゆる政教分離の原則を規定
しているところ,政教分離原則は,国家が宗教的に中立であることを要求す
るものではあるが,国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さない
とするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果
にかんがみ,そのかかわり合いがわが国の社会的文化的諸条件に照らし相当
とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするもので
ある。
よって,憲法20条3項にいう「宗教的活動」とは,国及びその機関の活
動で宗教とのかかわり合いが上記にいう相当とされる限度を超えるもの,す
,,,なわち当該行為の目的が宗教的意義をもちその効果が宗教に対する援助
,,。助長促進又は圧迫干渉等になるような行為をいうものと解すべきである
そして,ある行為が「宗教的活動」に該当するかどうかを検討するにあたっ
ては,当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく,当該行為の行われ
る場所,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行
うについての意図,目的及び宗教的意義の有無,程度,当該行為の一般人に
与える効果,影響等,諸般の事情を考慮し,社会通念に従って,客観的に判
断しなければならない(最高裁昭和52年7月13日大法廷判決・民集31
巻4号533頁参照。)
これを本件についてみるに,前記認定事実によれば,大祭奉賛会は,B大
神の御神徳を敬仰して,B神社の式年大祭斎行等の諸事業を奉賛することを
目的として設立された団体であり,特定の宗教とかかわり合いを有するもの
であることは否定できない。
しかし,前記認定のとおり,本件発会式は,B神社の境内ではなく,同神
社外の一般施設で行われたこと,また,その式次第は,前記イ(ア)に認定の
とおりであって,同発会式が神道の儀式や祭事の形式に基づいていたとは認
められないことにかんがみると,本件発会式自体の宗教的色彩は希薄であっ
たといえる。
そして,このような本件発会式にB神社の所在する白山市の市長としてA
が出席し,祝辞を述べることは,社会的儀礼の範囲内の行為であると評価で
き,これは一般人から見てもそのように理解されるものということができる
から,Aの上記行為が,一般人に対して,白山市が特定の宗教団体であるB
神社を特別に支援しているという印象を与えることはなく,また,他の宗教
を抑圧するという印象を与えることもないというべきである。
したがって,Aの上記行為は,その目的が宗教的意義をもち,その効果が
B神社あるいは神社神道を援助,助長又は促進するような行為にあたるとは
認められないから,憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたら
ない。
以上の認定判断は,Aが大祭奉賛会の役員である顧問に就任していること
によっても左右されない。
また,上記の判断に照らせば,Aが本件発会式に出席したことは,憲法2
0条1項後段で禁止されている,宗教団体が国から特権を受けることにはあ
たらず,憲法89条で禁止している公金その他の公の財産を宗教上の組織又
は団体の使用,便益又は維持のために支出すること又はその利用に供するこ
とにも該当しない。
なお,原告は,大祭奉賛会はB神社と実質的には一体であり,同神社の特
別会計というべきである旨主張する。
確かに,前記認定事実によれば,大祭奉賛会の活動による終局的利益はB
,,神社に帰属するということはできるものの大祭奉賛会は独自の規約を定め
B神社とは別個の組織を有していることが認められるので,大祭奉賛会をも
って同神社と実質的に一体であるとか,同神社の特別会計であるということ
はできず,原告の主張は採用できない。
()また,原告は,白山市長たるAが大祭奉賛会の顧問に就任すること自体3
が政教分離原則に違反する旨主張する。
しかし,本訴訟で問題となっているのは,Aが本件発会式に出席したこと
,,に関する公金の支出の違憲・違法性であるところAが本件発会式に出席し
祝辞を述べたことは憲法20条1項,同条3項及び同89条に違反せず,こ
の結論はAが大祭奉賛会の顧問であるか否かによって異なるものではないこ
とは前記判断のとおりであり,原告の主張は理由がない。
さらに,原告は,E協会が500万円以上の奉賛金を納めて大祭奉賛会の
名誉会員になっていること及び白山市からE協会に負担金等の名目で公金が
支出されていること等から,実質的には白山市が同協会を通じて大祭奉賛会
に公金を支出したものと評価すべきである旨主張し,また,白山市長がこの
ようなE協会の役員に就任していることは政教分離に反するとも主張する。
しかし,上記主張の当否と,Aが職員を同行して本件発会式に出席し,祝
辞を述べたことに関する白山市の公金支出が政教分離原則に違反するか否か
ということとは関連性があるとは認められず,原告の主張は失当というほか
ない。
()よって,Aが本件発会式に白山市の補助職員を同行して出席し,祝辞を4
述べたこと及びこれらに関してなされた公金支出は政教分離原則に違反しな
い。
2結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がないので,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
金沢地方裁判所第二部
裁判長裁判官倉田慎也
裁判官水野正則
裁判官北川幸代

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