弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 申立て
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要等
1 以下のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概
要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁15行目の「Aがいる」を「Aが住む」に,同行の「香川県である」を
「香川県内にある」に,それぞれ改める。
(2) 同5頁2行目の「○をしたもの。」の次に「乙3。」を加える。
2 原審は,本件保険契約の約款の文言上,「承諾」は明示・個別的なものに限定さ
れていないから,意思表示一般の解釈の場合と同様に,「承諾」には黙示・包括的
な承諾も含まれると解すべきである,本件自動車の使用につき「正当な権利を有す
る者」に当たるAは,同人の子であるBが専門学校の友人等に本件自動車を運転
させることについて,黙示に承諾していたと認められる,したがって,本件事故当
時,被控訴人は本件自動車の使用について「正当な権利を有する者の承諾」を得
て運転していたものと認められる,念書の記載は「不実の記載」には当たらない,
被控訴人が,控訴人の調査担当者に対し,Aと電話で話をして同人の承諾を得た
旨の虚偽の説明をし,また,AやB等にも依頼して同様の虚偽の説明をさせたこと
については,自動車保険の知識の乏しい被控訴人が,控訴人の社員の誤導ともい
える説明により,Aと直接交渉して承諾を得たのでなければ保険金が支払われな
いものと誤信したために,そのような行動に出たこと等を考慮すれば,一般条項第
15条1項,4項,第14条9号に該当すると評価するのは相当でないなどとして,被
控訴人の請求を認容する内容の判決を言い渡した。
 控訴人は,原審の判断を不服とし,前記第1記載の判決を求めて本件控訴を提
起した。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の請求は認容すべきものであると判断する。
 その理由は,以下のとおり付加,訂正,削除するほか,原判決の「事実及び理
由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決11頁14行目の「また,」から16行目末尾までを削除する。
(2) 同13頁20行目の「Bが」から22行目の「前提に」までを「Bに使用させる目的
で」に改める。
(3) 同15頁21行目の「その後」を「同月5日」に改める。
(4) 同16頁10行目の「本件事故前に」の次に「直接に」を加え,17行目の「電話し
たところ」を「電話したこと」に改める。
(5) 同頁末行の「窺えず,これに」を「窺えないのに対し,Cは,原審において2度も
証人として採用されたが,いずれも出頭しなかったこと等に鑑みると,前記認定
事実に」に改める。
(6) 同19頁10行目の「考えられることからすれば,」の次に「信義則に照らし,」
を,11行目の「上記虚偽説明」の次に「等」を,それぞれ加える。
2 当審における控訴人の主張に対する判断(補充)
(1) 当審において,控訴人は「他者運転危険担保特約は,1台1契約の原則の例
外であり,担保する範囲を他の自動車の運転が被保険自動車の使用と同視で
きる場合に限定する趣旨のものであるところ,「正当な権利を有する者の承諾」
を得ているか否かは,危険率(事故率)に有意な差異をもたらすものであり,保
険保護の範囲を限定する概念の中核をなすものである。そのため,「正当な権
利を有する者」については,一般的には記名被保険者をいうとして制限的に解
釈されている(最高裁昭和58年2月18日第二小法廷判決・判時1074号141
頁)ところである。それにもかかわらず,「承諾」について,原判決のように黙示・
包括的な承諾も含まれるとの無限定な解釈をしたのでは,保険保護の範囲の予
定外の拡大を防止し,保険保護の無限連鎖を防ぐという趣旨が没却されてしま
う。したがって,「承諾」は具体的・直接・事前・明示のものに限られると解すべき
である。」などと主張する。
 しかしながら,本件保険契約の約款上,「承諾」は明示・個別的なものに限定さ
れていないこと等に鑑みると,意思表示一般の解釈の場合と同様に,「承諾」に
は黙示・包括的な承諾も含まれると解すべきであることは,前記のとおりである。
 そして,黙示的な承諾が肯定される範囲は,記名被保険者と運転者との関係
等の間接事実及び経験則等に照らして自ずと限定されるものであるから,保険
保護の範囲が予定外に拡大されることにはならない。
 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(2) 当審において,控訴人は「本件自動車に付された自動車保険契約には家族限
定特約が付いており,同特約の内容は自動車普通保険約款に明記されている
から,Aは同特約による意思をもって同保険契約を締結したものと推定されると
ころ,本件において同推定を覆すに足りる反証はないから,Aは同特約による意
思をもって同保険契約を締結したことになる。この点の判断を明示していない原
判決は約款の解釈を誤ったものである。そして,一般に,第三者に使用させるこ
とを想定していないがゆえに家族限定特約を付けるのが通常かつ合理的な事
態であるから,同特約による意思をもって保険契約を締結した者が,同保険が
付された自動車の使用について,家族以外の第三者の使用を包括かつ黙示に
承諾することは,経験則上あり得ない。もし特別かつ例外的に第三者の使用を
許す場合には,事前・個別・直接・具体的な承諾が存在するのが通常であり,経
験則である。したがって,Aが第三者による本件自動車の使用を包括かつ黙示
に承諾していたということはあり得ない。なお,上記の諸点については,Aが実際
に家族限定特約が付されていることを知っていたか否かは無関係である。また,
Aは,平成13年6月12日ころ,控訴人が依頼した調査会社の担当者Dに対し,
本件自動車に付された自動車保険契約に家族限定特約が付いていることを知
っており,Bには本件自動車を他人貸してはいけないと言っていた旨を明確に述
べていたこと(乙1),原審における証人A及び同Bの各証言はいずれも曖昧か
つ不合理なものであること,本件自動車は,香川県内においてBが乗るために
購入したものであって,神戸で乗ることを予定して購入したものではないこと(原
審における証人A)等によれば,Aは,同特約の存在及び内容を理解しており,
かつ,Bに対し,本件自動車を第三者に貸し出すことを禁止していたというべき
である。以上によれば,Aが,本件自動車を第三者に使用させることについて,
Bに対して包括かつ黙示に承諾を与えていたということはあり得ない。」などと主
張する。
 しかしながら,本件自動車は,Bに使用させる目的でAが購入したものであった
こと,Bが本件自動車を使用するについてAは何ら限定を付しておらず,Bはあ
たかも自己の所有する車両であるかのように自由に本件自動車を使用していた
こと,Aは,Bが専門学校の複数の友人等にときどき本件自動車を運転させてい
ることを知っていたが,そのことについてBに注意することなく容認していたこと,
Aは,本件事故が起こるまで,本件自動車に付された自動車保険契約に家族限
定特約が付いていることや同特約の内容を十分理解していなかったこと等を総
合考慮すれば,Aは,Bが専門学校の友人等に本件自動車を運転させることに
ついて,黙示に承諾していたと認めるのが相当であること,平成13年6月12日
ころのAのDに対する上記の発言は,被控訴人からの口裏合わせの依頼に基づ
いてした虚偽の説明であること,結論として,本件事故当時,被控訴人は本件自
動車の使用について「正当な権利を有する者の承諾」を得て運転していたものと
認められることは,前記のとおりである。
 そして,約款に関する合理的意思解釈の結果,Aが家族限定特約による意思
をもって保険契約を締結したものとされるからといって,必ずしもAが同特約の存
在及び内容を理解していたことにはならないし,約款に関する合理的意思解釈
の結果,同特約による意思をもって保険契約を締結したものとされる者が,同保
険が付された自動車の使用について,家族以外の第三者の使用を包括かつ黙
示に承諾することも,経験則上あり得ないとはいえない。
 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(3) 当審において,控訴人は「家族限定特約付きの車両を家族以外の第三者が運
転することを記名被保険者が認めるようなことは,保険的保護の枠外の事態で
あるから,仮にAが第三者に本件自動車を使用させることを黙示に承諾していた
としても,そのような承諾は「正当な権利を有する者の承諾」には当たらないとい
うべきである。」旨主張する。
 しかしながら,本件保険契約の約款上,「正当な権利を有する者の承諾」の内
容については何らの限定も付されていないこと,他者運転危険担保特約付きの
自動車保険を締結している被保険者又はその同居の親族等にとって,他人所有
の車両をその所有者の承諾を得て運転する場合に,当該車両の自動車保険に
家族限定特約が付いているか否かは,本来関知し難い事由であること等に鑑み
れば,控訴人の上記主張を採用することはできないというべきである。
(4) 当審において,控訴人は「原審における被控訴人の供述は,客観的事実に明
らかに反するものであって,信用性がないこと等に鑑みると,争点(2)(不実記
載,虚偽説明による免責)に関する原判決の事実認定は誤りであり,控訴人の
社員であるCが被控訴人に対して行ったのは,適正な保険金請求の要件と手続
の説明のみであったというべきある(常識的にも,「聞かなかったことにする」等
の悪意に聞こえるような言葉をCが使うはずがない。)。したがって,同争点に関
する原判決の判断は誤りである。」などと主張する。
 しかしながら,本件事故当時,被控訴人は本件自動車の使用について「正当な
権利を有する者の承諾」を得て運転していたものと認められるから,念書の記載
は「不実の記載」には当たらないこと,平成13年6月5日,被控訴人がCに対し
て本件自動車の使用についてAの承諾を得ていなかった旨を告げた際,Cは,
被控訴人に対し,「聞かなかったことにする。」などと述べながら,念書の用紙を
手渡し,同用紙の「貸主の承諾」欄の「有」のところを丸で囲み,貸主欄にAの住
所,氏名等を記載して署名押印してもらった上,控訴人に提出するよう説明し,
念書を提出しなければ保険金が下りず,賠償額も多額で大変なことになるなどと
告げたこと,被控訴人は,Cの話を聞いて,控訴人から保険金の支払を受けるた
めには,Aから本件事故前に直接に承諾を得ていたことにしなければならないも
のと考え,Aに対し,電話で,念書の貸主欄への署名押印を依頼するとともに,A
及びBらに対し,控訴人からの調査があった際には,本件事故前に被控訴人が
Aと話をして本件自動車の使用について承諾を得た旨答えるように依頼したこ
と,上記認定事実に反するCの陳述書(乙5)は採用できないこと,被控訴人が,
控訴人の調査担当者に対し,Aと電話で話をして同人の承諾を得た旨の虚偽の
説明をし,また,AやB等にも依頼して同様の虚偽の説明をさせたことについて
は,自動車保険の知識の乏しい被控訴人が,上記のような控訴人の社員である
Cの誤導ともいえる説明により,Aと直接交渉して承諾を得たのでなければ保険
金が支払われないものと誤信したために,そのような行動に出たこと等を考慮す
ると,信義則に照らし,本件において,控訴人の上記虚偽説明等が,一般条項
第15条1項,4項,第14条9号に該当すると評価するのは相当でないこと,結
論として,本件において,控訴人は,上記各条項により保険金の支払を免れるこ
とはできないことは,前記のとおりである。
 そして,控訴人の上記主張を考慮しても,上記の結論が覆ることはないという
べきである。
 よって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
3 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,主文のとおり
判決する。
大阪高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官   太   田   幸   夫
裁判官   大   西   忠   重
裁判官   細   島   秀   勝

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