弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)厚生労働大臣が,控訴人らに対し平成18年2月10日付けでしたAグ
ループ規約型企業年金規約変更不承認処分を取り消す。
(3)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2控訴の趣旨に対する被控訴人の答弁
(1)本件各控訴をいずれも棄却する。
(2)控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
本件は,控訴人らが,確定給付企業年金法に基づいて実施している規約型企
業年金について,受給権の内容等に変更を生じさせる年金規約の変更をするた
めに,厚生労働大臣の承認を求める申請をしたところ,厚生労働大臣が,上記
の規約の変更は,受給権者等に対する給付の額を減額する場合に該当し,給付
額を減額する場合に必要とされる要件を満たしていないとして,控訴人らに対
し当該規約の変更を承認しない旨の処分をしたことから,控訴人らが,その取
消しを求めた事案であり,原審は控訴人らの各請求をいずれも棄却したため,
控訴人らにおいて控訴したものである。
その余の事案の概要については,次のとおり訂正し,削除し,又は付加する
ほかは原判決事実及び理由欄の「第2事案の概要」に記載のとおりであるか
ら,ここにこれを引用する。
1原判決2頁15行目冒頭から同20行目末尾までを次のとおり改める。
「ウ予定利率とは,掛金を算出する際に計算の基礎として用いる率の一つで,
年金資産の将来の運用利回りの見込み利率のことをいう。予定利率の引下
げは,将来の運用利回りが低下して運用収益が減少することを見込むもの
であるため,給付に要する費用に充てるため事業主が拠出すべき掛金額が
増加し,予定利率の引上げは,将来の運用利回りが上昇して運用収益が増
加することを見込むものであるため,給付に要する費用に充てるため事業
主が拠出すべき掛金額が減少する。」
2原判決8頁20行目の「その他の」から同21行目末尾までを削る。
3原判決11頁8行目のかぎ括弧部分全体を「厚生年金基金の設立認可につい
て等の一部改正について」に改める。
4原判決13頁8行目の「自社年金の不利益変更法理」を「給付減額の必要性
・相当性ないし合理性の基準」に改める。
5原判決14頁8行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人Cの平成14年度以降の当期利益計上は,あくまで,厳しい経営合
理化策の実施に伴う平成13年度の巨額の特別損失計上によって決算上の数
値が好転したものに過ぎず,控訴人Cの経営状況は全く好転していない。
また,これまでの利益計上のための努力も,これ以上の具体的対応策が尽
きつつあり,経営状況はますます深刻になっている。平成19年度における
控訴人Cの合算では,厚生年金基金の代行返上による特別利益計上の恩恵が
あることから,約400億円の当期利益をかろうじて計上できる見込みであ
るが,こうした特殊なプラス要因がなければ,平成19年度は当期赤字に転
落したに等しい(甲82,83の1・2,84の1・2)。結局,平成12
年以降の減収減益傾向はなお続いており(甲85),控訴人Cの経営状況は,
本件申請時ないし本件処分時において既に悪化していたのであり,これから
先,中長期的にみて増収への転換は容易ではない。
なお,控訴人Cは,平成16年度及び平成17年度に約600億円程度の
配当を実施したが,株式会社にとって,株主の負うリスクに見合ったリター
ンを提供しなければ,市場での自己資本の調達が困難になるなど,配当は資
本コストとして位置付けられており,単なる剰余金の分配ではない(甲9
4)。控訴人Bは,いわゆる純粋持株会社であるため,控訴人Bが資本市場
へ配当を行う原資を拠出するために,その傘下企業である控訴人CもA再編
時に想定された割合での配当を行うことが求められ,再編成前の旧Bが従前
継続していた一株当たり5000円(旧額面に対して10パーセント)の配
当とほぼ同水準の配当を維持することが再編成の前提とされた。しかるに,
控訴人Cは,再編後3年連続で無配となり,このままでは再編成スキームの
前提が崩れかねない状況にあったため,徹底した経営合理化施策を講じるこ
とにより,かろうじて10パーセントの復配を可能にしたものである(乙5
の資料10)。また,控訴人Cが平成19年度において約400億円の当期
利益を計上できる見込みであることをもって,経営の状況が悪化していない
というのも相当ではなく,それは上記のとおり厚生年金基金の代行返上益と
いう1年限りのプラス要因があったからに過ぎない。」
6原判決14頁12行目の「自社年金の不利益変更法理」を「給付減額の必要
性・相当性ないし合理性の基準」に改める。
7原判決15頁12行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「そもそも厚生年金基金と確定給付企業年金とは,片や公的年金の一部を代
行するものとして公的性格を有し,片やいわゆる自社年金に類似したもので
あって,制度の性格が異なる。生活保障的色彩の強い公的年金たる厚生年金
の一部を代行する厚生年金基金であれば,その公的性格にかんがみ,給付減
額か年金制度の破綻かの二者択一の局面においてのみ給付減額が許されると
する考え方を容れる余地もあるかもしれないが,公的年金を補完する企業年
金として,いわゆる自社年金と同様,3階建ての3階部分に位置する確定給
付企業年金は,企業年金の受給権の保護を図ることのみならず,厚生年金基
金に比し,企業の自主性,労使の合意の尊重による自由な年金制度設計をよ
り可能にするところに大きな特徴があるのであるから,たとえ受給権の保護
を強調するとしても,そのことから直ちに破綻かどうかの二者択一の場面に
おいてのみ給付減額が可能となるとの解釈は導き得ない。むしろ,両年金制
度性格の相違から,たとえ厚生年金基金における給付減額要件を基本的に踏
襲したとしても,全く同一の要件としないこととするのが自然かつ合理的で
ある。」
8原判決15頁23行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「エ原判決によれば,加入者の給付減額と受給権者のそれとでは,求められ
る給付減額のやむを得なさの程度が異なることになるとされている(原判
決29頁)ところ,これはひいては,それぞれの場合において,求められ
る『経営の状況が悪化した』の程度が異なることを意味することになる。
しかし,『経営の状況が悪化した』は,その文理から明らかなように,
専ら実施事業所の属性に係るものであり,原判決のように,これに該当す
るか否かが,給付減額の対象者が受給権者等か加入者かといった,実施事
業所の属性とは関係のない事柄によって左右されるとするのは,文理解釈
として不自然かつ不合理である。『経営の状況が悪化した』の意義は,受
給権者等に係る給付減額の場合と,加入者に係る給付減額との場合とで,
理由要件の文言を書き分けていない以上,受給権者等の場合であれ加入者
の場合であれ,同一でなければならない。
さらに,原判決の立場によれば,受給権者等についての給付減額であれ
ば,例えば,給付利率の減額幅が0.1パーセントであっても5.0パー
セントであっても,また,受給権者等の同意が100パーセントであって
も3分の2にとどまるものであっても,等しく年金制度の維持が困難にな
るほどの著しい経営状況の悪化を求められ,一律に判断されることになる
が,これでは,判断が硬直に過ぎることとなり,企業年金の制度設計につ
き労使の自主的判断に委ねることを基本的性格とする法,ひいては給付減
額規定の趣旨を著しく損ねることになる。控訴人らが主張するように,受
給権者等か加入者かによって影響を受けることのない『経営状況の悪化』
が認められる場合に,同意者の割合や給付減額の程度などの諸事情を総合
考慮して給付減額がやむを得ないかどうかを判断することこそが,文理に
忠実であるのみならず,給付利率の減額幅の程度や受給権者等の同意率の
高さなどの事情が『やむを得ないこと』の判断要素として総合考慮される
ことから,法ないし確定給付企業年金制度の趣旨・目的に沿う柔軟かつ妥
当な実質的判断を可能にさせるものである。
オ原判決は,当期利益のような決算上の損益に関する数値といった財務内
容のみに着目して『経営の状況が悪化』の要件を判断している(原判決2
9頁以下)が,『経営の状況』という文言からして,その悪化の判断要素
を,財務内容に限るのは狭きに失する。施行令66条などをみても,財務
内容は,あくまで『経営の状況』を表す具体的な一例として位置付けられ
ているに過ぎない。
実質的に考えても,経営状況の正確な把握に当たっては,財務内容のみ
ならず,収益構造・市場構造の変化等経営環境の変化,経営改善策の内容
やその実施経緯など,企業年金の実施事業所における経済活動を取り巻く
様々な要因をも考慮すべきことは当然である。控訴人Cは,直近の実績こ
そ1000億円前後の当期利益を上げてはいるものの,企業の経営状況の
悪化の程度を図る手法として定着している指標の一つである経済的付加価
値法によって,控訴人Cについての1年間に投下した総資本(有利子負債
と純資産の合計)を上回る利益を生み出したか否かの指標上の数値をみる
と,控訴人Cは,両社ともに本件申請時ないし本件処分時において既にマ
イナスの数値を示していたことが認められ(甲102),株主に帰属する
価値を継続して毀損してゆく状態にあり,深刻な経営状況にあると認識す
べき状況であった。」
9原判決16頁16行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「なお,控訴人らは,控訴人Cの平成19年度における業績予想について当
期赤字に転落したに等しいなどと主張するが,そもそも平成19年度の経営
状況は本件処分後の事情であるから,本件処分の適法性に影響を与えるもの
ではない。また,控訴人らは,平成19年度も約400億円の当期利益をか
ろうじて計上できる見込みであるとしているのであるから,本件処分当時に
おける控訴人Cが『経営の状況が悪化した』ものであったと認められないこ
とは明らかである。」
10原判決16頁17行目から18行目及び同22行目の各「自社年金の不利益
変更法理」をいずれも「給付減額の必要性・相当性ないし合理性の基準」に改
める。
11原判決16頁23行目の「法令は,」を次のとおり改める。
「施行令4条2号は,『厚生労働省令で定める理由がある場合において,厚生
労働省令で定める手続を経て行われるものであること。』と規定し,これを受
けて,規則5条が給付減額の理由要件を定め,規則6条が給付減額の手続要件
を定めているのであって」
12原判決17頁1行目末尾に続けて次のとおり加える。
「すなわち,法令の定める要件については,文理に従って解釈すべきで,手
続要件と理由要件が別々に定められているときに,手続要件の充足をもって
理由要件を緩和することはできない。そして,規則5条全体の構造をみれば,
控訴人らが強調する『労使の自主性』,『より柔軟な制度設計』などの要素
については,1号に盛り込まれていることが明瞭である。控訴人らの主張は,
この1号があること,さらに1号並びに2号及び3号とは差別化されている
ことを無視して,2号及び3号にも1号と同様の要素を盛り込むことを主張
しているのであって,著しい誤りである。」
13原判決17頁8行目の「自社年金の不利益変更法理」を「給付減額の必要性
・相当性ないし合理性の基準」に改める。
14原判決17頁25行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人らは,受給権者等への本件キャッシュバランス制度の導入について,
平成17年9月にようやく本件申請を行うにことができるに至ったが,その
際,加入者に対するキャッシュバランス制度の導入により年金資産も国債中
心の資産構成割合とすることにしたことや基本料金見直し等新たな大幅減収
要素が顕在化し,リスク許容度が低下したことから,最もリスクの低い債券
中心の割合に変更するとともに,かかる変更に伴い算出された期待運用収益
率1.3パーセントに合わせるために,予定利率を2.0パーセントから1.
3パーセントに引き下げることにした。その結果,平成17年度から平成1
9年度までの単年度当たりの平均掛金額は1420億円となり,予定利率引
下げ前の平成14年度から平成16年度までの単年度当たりの平均掛金額で
ある約990億円を大幅に上回ることが見込まれ,こうした掛金の拠出を行
うことについては困難が伴うことが見込まれた。
ところで,そもそも予定利率の決定は,『積立金の運用収益の長期の予測
に基づき合理的に定められるものとする。』(規則43条2項1号)と規定
されているように,将来における資産運用の予測値をもって設定するもので
あり,それは各企業自らの求める期待収益率とリスク許容度とを考慮して,
各企業が決定するものである(甲68の19∼21頁)。そして,年金資産
運用に伴う巨額の下振れリスクが市場環境の変化によって,突発的かつ容易
に現実化し,企業実績に影響することについては近時の米国のサブプライム
ローン問題に端を発した株価暴落の例が示すところであるが,平成19年度
の企業年金の運用利回りは,サブプライムローン問題の影響からマイナス9.
74パーセントとなり(甲97),企業実績に影響を与え始めていて(甲9
8∼101),本件年金においても,平成19年度の収益率はマイナス8.
60パーセント(速報値)と平成19年11月末の数値であるマイナス0.
65パーセントからみても急激かつ大幅に悪化する結果となった。」
15原判決18頁1行目の「自社年金の不利益変更法理」を「『給付減額の必要
性・相当性ないし合理性の基準』」に改める。
16原判決19頁4行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「なお,控訴人らはキャッシュバランス制度の導入を決定した平成15年再
計算当時の状況において,仮にキャッシュバランス制度を導入しなかった場
合の掛金額の推移から,事業主が掛金を拠出することが困難になるか否かを
判断すべきであると主張するが,取消訴訟は取消処分の違法性の有無,すな
わち処分の瑕疵の存否を審判の対象とするものであり,当該行政処分がされ
た時点が違法性判断の基準時となるところ,本件処分は,あくまでも本件処
分時において,規則5条の理由要件,規則6条の手続要件が満たされている
か否かを判断してされたものであるから,本件申請がされた平成17年9月
よりも以前の平成15年当時に,3号要件を満たす事情があったと主張され
ても,これを理由に本件処分を取り消すことはあり得ない。
また,被控訴人は,控訴人らの主張する予定利率引下げについて必要性な
いし合理性が全くないとか,必ず過去の積立金の運用の実績を踏まえたもの
でなければならないとまで主張しているのではない。被控訴人は,控訴人ら
が平成15年12月に予定利率を2.0パーセントに設定してから(それ以
前は3.0パーセントであった。),本件企業年金における積立金の実際の
運用利回りが2.0パーセントを大きく上回る高利率で推移していることや,
平成22年度以降に拠出する掛金額が激減する見込みであることを踏まえれ
ば,当該予定利率引下げには,それに起因する掛金額の上昇を理由として受
給権者等の給付減額を実施することが『やむを得ない』といえるような,高
い必要性がないと主張しているに過ぎない。」
第3当裁判所の判断
1当裁判所も控訴人らの本件各請求はいずれも理由がないから,棄却すべきも
のと判断する。その理由は,次のとおり付加し,又は訂正するほかは原判決事
実及び理由欄の「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるから,ここ
にこれを引用する。
(1)原判決25頁9行目末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「そもそも,企業年金を運営する企業にとって,企業年金に係る給付,掛
金及び積立金についての所得税法,法人税法等による課税について相応の
措置が講ぜられることを必要とするところ,法は独立の章(第10章確
定給付企業年金についての税制上の措置)を設けて確定給付企業年金に係
る給付,掛金及び積立金については所得税法,法人税法等による課税につ
いて必要な措置を講ずるものとしており(法92条,法附則19∼34
条),こうした税制上の措置は,平成13年5月25日第151回国会衆
議院厚生労働委員会において,厚生労働大臣が法律案の主な内容の一つと
して説明しているもので(乙7の7頁),確定給付企業年金制度の根幹の
をなすものであると考えられ(甲5の29頁10項),これは事業主(企
業)が受給権者等の保護に重点を置く確定給付企業年金を継続することに
よってもたらされる利益であって,確定給付企業年金を終了した場合には
そうした措置の対象とはならないことを考慮すると,上記のように規約変
更の際に求められる要件と企業年金終了の際に求められる要件とに差異が
あることをもって,確定給付企業年金を運営する事業主が安易に企業年金
を終了させることになるとの控訴人らの主張は首肯することができな
い。」
(2)原判決25頁10行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。
「(3)以上によれば,法は,確定給付企業年金について,事業主(企業)
の自主性や労働者の多数決を前提とした労使の合意といった手続的要件
のみに年金の運営を委ねるのではなく,特に受給権者等に対して事業主
が約束した給付の減額については,給付の額を減額することについての
実質的理由をも要件として付加することを予定し,具体的には基金設立
認可基準通知における理由要件を施行令又は規則で定めることを想定し
ていたものと解するのが相当である。したがって,受給権者等に係る給
付減額を内容とする規約変更を行う場合に,規則5条2号及び3号の要
件を定めることは,法の委任及び施行令の再委任の範囲を超えるもので
はないと解されるから,この点に関する控訴人らの主張は採用すること
ができない。」
(3)原判決29頁23行末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「なお,控訴人らは,2号要件の『給付の額を減額することがやむを得な
いこと』とは,『給付減額の必要性・相当性ないし合理性の基準』の給付
減額の相当性に関する要件を定めたのと解すべきであるとした上で,規則
6条1項が定める手続要件を充足したことは,『給付の額を減額すること
がやむを得ないこと』を判断する際に最大限に尊重すべきであると主張す
るが,施行令4条2号が給付減額の理由要件と手続要件とをそれぞれ独立
した要件として厚生労働省令によって定めるべきこととしていること,そ
して,規則は理由要件(規則5条)と手続要件(規則6条)とを分けて規
定していることに照らすと,理由要件に該当するか否かを判断する上で,
規則6条1項の手続要件をもってこれに換えることは法の趣旨並びに規則
5条と規則6条との関係の独立性を損なうものであって,控訴人らの主張
は採用することができない。」
(4)原判決31頁13行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「また,控訴人らは,控訴人Cは平成16年度及び平成17年度に約60
0億円程度の配当を実施したことについて,株式会社にとって株主の負う
リスクに見合ったリターンを提供しなければ,市場での自己資本の調達が
困難になるなど,配当は資本コストとして位置付けられており,単なる剰
余金の分配ではないとし,さらに,控訴人Bは,いわゆる純粋持株会社で
あるため,控訴人Bが資本市場へ配当を行う原資を拠出するために,その
傘下企業である控訴人CもA再編時に想定された割合での配当を行うこと
が求められ,再編成前の旧Bが従前継続していた一株当たり5000円
(旧額面に対して10パーセント)の配当とほぼ同水準の配当を維持する
ことが再編成の前提とされていたところ,控訴人Cは再編後3年連続で無
配となり,このままでは再編成スキームの前提が崩れかねない状況にあっ
たため,徹底した経営合理化施策を講じることにより,かろうじて10パ
ーセントの復配を可能にしたもので,控訴人Cが平成19年度において約
400億円の当期利益を計上できる見込みであることをもって,経営の状
況が悪化していないというのも相当ではないと主張する。
しかしながら,これまでに検討したように,平成13年5月25日第1
51回国会衆議院厚生労働委員会における厚生労働大臣の『母体企業の経
営状況の悪化などによりまして企業年金を廃止するという事態を避けます
ために,次善の策として,加入者のみならず,受給者の給付水準の引下げ
を行うことも労使合意による選択肢の一つであると考えております。しか
し,この場合,受給権保護の観点から,通常の規約変更の手続と比べてよ
り慎重な手続が必要であると考えており,現在の厚生年金基金におきまし
ても,受給者の3分の2以上の同意等の追加的な要件を課しているところ
でございます。新企業年金においても,このような厚生年金基金おける取
り扱いを基本的に踏襲して,政省令で規定することによりまして受給権の
保護を図っていく考えでございます。』との答弁(乙7の3頁下段)及び
同日付の衆議院厚生労働委員会の『給付額の減額など,受給権者にとって
不利益な変更が行われる場合の手続について,適切な措置を講じるこ
と。』との附帯決議(乙7の7頁上段)がされ,こうした立法経緯を踏ま
えて,施行令4条2号が給付減額を内容とする規約変更について厚生労働
省令で定める各独立した理由要件と手続要件を経るべきこととし,これを
受けて規則5条2号が『実施事業所の経営の状況が悪化したことにより,
給付の額を減額することがやむを得ないこと。』との給付減額の理由要件
を定めたことに照らすと,規則5条2号にいう実施事業所の経営の状況が
悪化したという要件は,企業年金を廃止するという事態を避けるための次
善の策として,約束された給付の額を減額することがやむを得ないものと
いい得る程度に経営の状況が悪化した場合をいうものと解すべきである。
そうすると,控訴人らの主張するように,控訴人Cの経営環境が厳しいも
ので,また,そうした経営上の判断に基づく各種の経営努力を企業として
行うことは尊重されなければならないものの,控訴人Cが当期利益を計上
し続けることができていることに照らすと,控訴人らの主張はつまるとこ
ろ,企業の経営努力によって計上された利益を配当に充てることを優先す
べきであるという主張であり,これをもって,企業年金制度の廃止という
事態を避けるためには,受給権者等に対する給付減額もやむを得ないとい
うほどに経営の状況が悪化したとは認め難い。
(4)また,控訴人らは,原判決によれば,加入者の給付減額と受給権者の
それとでは,求められる給付減額のやむを得なさの程度が異なることにな
るとされている(原判決29頁)ところ,これはひいては,それぞれの場
合において,求められる『経営の状況が悪化した』の程度が異なることを
意味することになるとか,『経営の状況が悪化した』は,その文理から明
らかなように,専ら実施事業所の属性に係るものであり,原判決のように,
これに該当するか否かが,給付減額の対象者が受給権者等か加入者かとい
った,実施事業所の属性とは関係のない事柄によって左右されるとするの
は,文理解釈として不自然かつ不合理であって,『経営の状況が悪化し
た』の意義は,受給権者等に係る給付減額の場合と,加入者に係る給付減
額との場合とで,理由要件の文言を書き分けていない以上,受給権者等の
場合であれ加入者の場合であれ,同一でなければならないとか,さらに,
原判決の立場によれば,受給権者等についての給付減額であれば,例えば,
給付利率の減額幅が0.1パーセントであっても5.0パーセントであっ
ても,また,受給権者等の同意が100パーセントであっても3分の2に
とどまるものであっても,等しく年金制度の維持が困難になるほどの著し
い経営状況の悪化を求められ,一律に判断されることになるが,これでは,
判断が硬直に過ぎることとなり,企業年金の制度設計につき労使の自主的
判断に委ねることを基本的性格とする法,ひいては給付減額規定の趣旨を
著しく損ねることになるとして,控訴人らが主張するように,受給権者等
か加入者かによって影響を受けることのない『経営状況の悪化』が認めら
れる場合に,同意者の割合や給付減額の程度などの諸事情を総合考慮して
給付減額がやむを得ないかどうかを判断することこそが,文理に忠実であ
るのみならず,給付利率の減額幅の程度や受給権者等の同意率の高さなど
の事情が『やむを得ないこと』の判断要素として総合考慮されることから,
法ないし確定給付企業年金制度の趣旨・目的に沿う柔軟かつ妥当な実質的
判断を可能にさせるものであるなどと主張する。
しかし,上記主張のうち,加入者の給付減額と受給権者のそれとでは,
求められる給付減額のやむを得なさの程度が同一であるべきとする点につ
いては,規則5条2号及び3号がいずれも受給権者等に対する給付の額を
減額する場合に限定した規定であることは,その文理からも明らかなこと
である。したがって,控訴人らの上記の主張は前提を誤るものであって採
用できない。
次に,控訴人らは,原判決の立場によれば,給付利率の減額幅が0.1
パーセントであっても5.0パーセントであっても,また,受給権者等の
同意が100パーセントであっても3分の2にとどまるものであっても,
等しく年金制度の維持が困難になるほどの著しい経営状況の悪化を求めら
れ,これでは,判断が硬直に過ぎることとなるなどと主張するが,それは
本件における事情とはおよそかけ離れた事例を仮定した議論といわざるを
得ず,不相当な主張であるから採用しない。
(5)さらに,控訴人らは,原判決は当期利益のような決算上の損益に関す
る数値といった財務内容のみに着目して『経営の状況が悪化』の要件を判
断している(原判決29頁以下)が,『経営の状況』という文言からして,
その悪化の判断要素を,財務内容に限るのは狭きに失し,施行令66条な
どをみても,財務内容は,あくまで『経営の状況』を表す具体的な一例と
して位置付けられているに過ぎないとし,実質的に考えても,経営状況の
正確な把握に当たっては,財務内容のみならず,収益構造・市場構造の変
化等経営環境の変化,経営改善策の内容やその実施経緯など,企業年金の
実施事業所における経済活動を取り巻く様々な要因をも考慮すべきことは
当然であり,控訴人Cは,直近の実績こそ1000億円前後の当期利益を
上げてはいるものの,企業の経営状況の悪化の程度を図る手法によってみ
ると,両社ともに本件申請時ないし本件処分時において既にマイナスの数
値を示していたことが認められ,株主に帰属する価値を継続して毀損して
ゆく状態にあり,深刻な経営状況にあると認識すべき状況であったとも主
張するが,そもそも施行令66条は,事業主等が法93条の規定に基づい
て受託業務を委託する場合の委託先選定の要件についての規定であって,
引用が適切でないのみならず,原判決が当期利益のような決算上の損益に
関する数値といった財務内容のみに着目して経営の状況が悪化していたか
否かの要件を判断しているものではないことは明らかであるから,この点
についての控訴人らの主張も理由がない。
(6)加えて,控訴人らは,控訴人Cの平成19年度における業績予想につ
いて当期赤字に転落したに等しいなどと主張するが,そもそも平成19年
度の経営状況は本件処分後の事情であるから,本件処分の適法性に影響を
与えるものではない。また,控訴人らは,平成19年度も約400億円の
当期利益をかろうじて計上できる見込みであるとしているのであるから,
本件処分当時における控訴人Cが『経営の状況が悪化した』ものであった
とは認められない。
すなわち,上記(3)においても検討したように,控訴人Cの経営環境が
厳しいもので,そうした経営上の判断に基づく各種の経営努力を企業とし
て行うことは尊重されなければならないものの,控訴人Cが当期利益を計
上し続けることができている以上,控訴人らの主張はつまるところ,企業
の経営努力によって計上された利益を配当に充てることを優先すべきであ
るという主張であり,これまでに検討してきた『経営の状況が悪化した』
という要件及び給付減額が『やむを得ない』との要件を満たすものとは解
し得ない。」
(5)原判決31頁14行目の「(4)」を「(7)」に改める。
(6)原判決34頁22行目の「本件企業年金における」から同24行目の
「であって,」までを次のとおり改める。
「本件適格退職年金を実施していた平成15年度の運用実績が時価利回り
で9.3パーセントであり,本件企業年金に移行した平成16年度の運用
実績が時価利回りで5.2パーセントで(乙5の資料12),平成17年
度の運用実績が時価利回りで17.12パーセントであって(乙12の1
2頁),」
(7)原判決35頁5行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「控訴人らは,予定利率について,それが事業主である企業が独自に定め
ることのできるものである旨主張するところ,各事業主がそれぞれの経営
判断に基づいて予定利率を定め得ることについて格別の異論はないものの,
本件において問われているのは,繰り返し説示しているとおり控訴人らの
本件申請時において受給権者等に対する給付の額を減額することがやむを
得ないものといえるか否か,その前提となる控訴人らの積立金運用利益の
予測が客観的にみて合理的なものであったのか,また,予定利率の引下げ
によって増加する掛金を負担することが困難であるのかといったことがら
なのであるから,そうしたことが問題となっている本件において,控訴人
らが予測した予定利率の合理性を検討する必要性を否定することはできな
い。そして,本件において問題となっている理由要件の充足性を判断する
上で,控訴人らの予測する予定利率を検討対象から除外されるべき所与の
ものとして取り扱うことについては,確定給付企業年金の運用から事業主
の恣意を排除しようとする法の趣旨を損なうものであって,到底採用でき
ない。
すなわち,予定利率の引下げは,給付に要する費用に充てるため事業主
が拠出すべき掛金額を増加させるものであることは前記第2事案の概要の
1(2)ウ記載のとおりであるから,事業主が予定利率の引下げによって増
加した掛金を負担することが困難であるとして給付水準を下げる(給付減
額)という場合には,予定利率を引き下げること自体についての客観的な
合理性や相当性が問われなければならないのであって,ことに本件の場合
のように,本件申請時及び本件処分時ころの本件企業年金における実際の
運用利回りが前記のとおり平成16年度が5.2パーセントで平成17年
度が17.12パーセントであったことに照らすと,予定利率を従前の2.
0パーセントからさらに1.3パーセントにまで引き下げることの合理性
や相当性についての疑問があるというべきであり,こうした予定利率の引
下げの合理性や相当性を認めるに足りる証拠はない。」
2よって,控訴人らの請求はいずれも理由がないとしてこれらを棄却した原判
決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部
裁判長裁判官宮崎公男
裁判官山本博
裁判官森邦明

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