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平成九年(ワ)第一二五五七号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成一一年一二月二一日
    判  決
原       告有限会社クリーン・パック
右代表者取締役    【A】
右訴訟代理人弁護士 佐藤泰正
同            阿部泰典
同  飯田 丘
同            鈴木正勇
右補佐人弁理士    【B】
被      告    総合商社ヒラヤ株式会社
右代表者代表取締役    【C】
被       告    株式会社シティーボーイ
右代表者代表取締役    【D】
被       告    【D】
右三名訴訟代理人弁護士横山 弘
右補佐人弁理士    【E】
    主  文
一 被告株式会社シティーボーイは、別紙目録(一)記載の方法を使用してはならな
い。
二 被告株式会社シティーボーイ及び被告【D】は、原告に対し、各自、金一三七
万二六七七円及び別紙遅延損害金目録記載の各金額に対する別紙遅延損害金目録記
載の各年月日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた費用の六分の一と被告株式会社シティーボーイに生
じた費用の二分の一を被告株式会社シティーボーイの負担とし、原告に生じたその
余の費用と被告株式会社シティーボーイに生じた費用の二分の一並びに被告総合商
社ヒラヤ株式会社及び被告【D】に生じた費用の全部を原告の負担とする。
五 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
    事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、別紙目録(一)記載の方法を使用してはならない。
二 被告らは、別紙目録(二)記載の物件を製造し、販売してはならない。
三 被告らは、原告に対し、各自、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年八月
一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、衣類又は寝具の真空パック方法についての特許権を有する原告が、被告
らの行う真空パック方法が右特許権を侵害し、右方法に使用する物件は右特許権の
実施にのみ使用するものであるなどと主張して、被告らに対し、右方法及び右物件
の製造販売の差止め並びに損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その請求項1の発明を「本
件発明」という。)を有している(甲一の二、弁論の全趣旨)。
発明の名称  衣類又は寝具の真空パック方法及び真空パック用収納袋
特許番号  第二一二〇八一三号
出 願 日  平成元年四月二八日
公 告 日  平成八年三月一三日
登 録 日  平成八年一二月二〇日
特許請求の範囲の請求項1
 本判決の末尾に添付した特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載の
とおり
2 本件発明の構成要件は次のように分説することができる(甲一の二。以下「構
成要件A」などという。)。
A 開口2及び排気口を備えた仮袋1内に前記開口2より衣類又は寝具を収納し
B この開口2を封止し
C その後、前記排気口より前記仮袋1内部の空気を排気減圧し
D 前記仮袋全体を開口・及び排気口を備えた保管袋・内に前記開口・より収納し
E 前記開口・を封止し
F 前記保管袋の排気口より排気減圧する
G 右AないしFの工程からなることを特徴とする衣類又は寝具の真空パック方法
3 被告株式会社シティーボーイ(以下「被告シティーボーイ」という。)は、平
成二年ころから、別紙目録(一)記載の方法(以下「イ号方法」という。)を使用し
て、自ら、衣類、寝具等の真空パックを行ってきた。また、被告シティーボーイ
は、同被告と契約した加盟店又はサービス店に対して、衣類、寝具等の真空パック
を実施するのに必要な別紙目録(二)記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を含
む物品を販売し、加盟店又はサービス店は、イ号方法を使用して、衣類、寝具等の
真空パックを行ってきた(甲二、三、五、六、甲七の一ないし三、甲八、甲九の一
ないし四、甲一〇の一、二、甲一一の一、二、甲一二の一、二、検甲一、乙七の
一、二、乙一九、乙二五の一、二、弁論の全趣旨)。
4 イ号方法の構成は次のように分説することができる(以下「構成a」などとい
う。)。
a 開口の一部が排気口を兼ねる開口を備えた仮袋内に前記開口より衣類又は寝具
を収納し
b この開口のうち排気口として使用する部分を残し、封止し
c その後、前記排気口より前記仮袋内部の空気を排気減圧し、
d 前記仮袋全体を開口の一部が排気口を兼ねる開口を備えた保管袋内に前記開口
より収納し
e 前記開口のうち排気口として使用する部分を残し、封止し
f 前記保管袋の排気口より排気減圧する
g 右aないしfの工程からなることを特徴とする衣類又は寝具の真空パック方法
5 原告は、本件特許を実施して、衣類、寝具等の真空パックを行う事業を行って
きた(弁論の全趣旨)。
二 争点
1 イ号方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうか
(原告の主張)
(一) イ号方法の構成aと本件発明の構成要件A
 構成aでは、仮袋の開口の一部が排気口を兼ねるのに対して、構成要件Aにはそ
のような記載がないが、その他の点は同じである。
 構成要件Aで仮袋に排気口を備えることが要件になっているのは、仮袋に衣類等
を収納し、開口を封止した後、仮袋内の空気を排気減圧するためであって、仮袋の
一部に空気を排気することができる口があればよい。
 そのような排気口は開口と別個に備えなければならないものではないから、構成
aの仮袋の開口の一部が排気口を兼ねるものも、構成要件Aの排気口から除外する
理由はない。
 したがって、構成aは構成要件Aを充足する。
(二) イ号方法の構成bと本件発明の構成要件B
 構成bは開口の一部を封止していないのに対して、構成要件Bでは開口すべてを
封止している点で異なっているが、イ号方法は開口の一部が排気口を兼ねるもので
あり、構成bで封止しなかった部分は排気口であるから、衣類等を収納するための
開口については、すべて封止したということができる。
 したがって、構成bは構成要件Bを充足する。
(三) イ号方法の構成cと本件発明の構成要件C
 構成cと構成要件Cは同じである。
(四) イ号方法の構成dと本件発明の構成要件D
 構成dでは保管袋の開口の一部が排気口を兼ねるのに対して、構成要件Dではそ
の旨の記載がない点が異なっているが、その他の点は同じである。
 仮袋において前述したのと同様に、構成要件Dの保管袋の排気口は、開口と兼ね
るものを排除するものではないから、構成dの保管袋の開口の一部を排気口とする
場合も含まれる。
 したがって、構成dは構成要件Dを充足する。
(五) イ号方法の構成eと本件発明の構成要件E
 構成eでは、開口の一部を封止していないのに対して、構成要件Eでは開口すべ
てを封止している点で異なっているが、仮袋において前述したように、イ号方法は
開口の一部が排気口を兼ねるものであり、構成eで封止しなかった部分は排気口で
あるから、衣類等を収納するための開口についてはすべて封止したということがで
きる。
 したがって、構成eは構成要件Eを充足する。
(六) イ号方法の構成fと本件発明の構成要件F
 構成fと構成要件Fは同じである。
(七) イ号方法の構成gと本件発明の構成要件G
 構成gと構成要件Gは同じである。
(八) 以上のように、イ号方法は、本件発明の構成要件すべてを充足するから、イ
号方法は本件発明の技術的範囲に属するということができる。
(被告らの主張)
 二重パックを実施すること自体は、本件特許権の出願当時、既に公知であり(実
開昭五一─三五四二〇、特公平七─一一五六八八、実開昭五九─一六八三八七)、
本件発明の構成要件A及び同Dの仮袋及び保管袋は、開口部とは別にチューブ状の
排気口を備えたものに限定される。
 しかるところ、イ号方法は、右のような仮袋や保管袋を使用せず、開口の一部が
排気口を兼ねている袋を使用するパック方法であり、開口と別に排気口を備えたも
のではないから、イ号方法は本件発明の構成要件A、同C、同D及び同Fを充足し
ない。
 したがって、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属するものではない。
2 ロ号物件を販売する行為は、本件特許権を侵害するものとみなされるかどうか
(原告の主張)
 ロ号物件は、商業的、経済的に実用性がある用途として、イ号方法以外の用途に
使用することは考えられないから、ロ号物件を販売する行為は、本件特許権を侵害
するものとみなされる。
(被告らの主張)
 ロ号物件は、一重パックにも使用できるので、二重パックである本件発明の実施
にのみ使用するものとはいえない。
3 原告の損害
(原告の主張)
(一) 被告らによる実施行為
(1) 本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間にお
けるイ号方法の実施による被告らの売上げは、一二〇〇万円を下ることはなく、利
益率は七〇パーセントを下らないから、イ号方法の実施によって被告らが得た利益
額は、少なくとも八四〇万円であり、これが、被告ら自身によるイ号方法の実施に
よって、原告が被った損害額である。
 仮に右利益額が損害額と認められないとしても、本件特許権の実施料相当額は売
上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料相当
額である三六〇万円の損害を被った。
(2) 右(1)とは別に、被告らは、本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日
から現在に至るまでの間に、イ号方法を使用して、少なくとも四万セットの真空パ
ックセットを製作、販売している。右セットの売上単価は二〇〇〇円であり、利益
率は七〇パーセントを下らないから、利益総額は(二〇〇〇円×○・七×四万セッ
ト=)五六〇〇万円となり、これが右セットの製作において被告らがイ号方法を使
用したことにより原告が被った損害額である。
 仮に右利益額が損害額と認められなかったとしても、本件特許権の実施料相当額
は売上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料
相当額である二四〇〇万円の損害を被った。
(二) サービス店を通じての実施行為
 被告らは、サービス店と一体となってイ号方法を実施しているところ、サービス
店の数は二〇店を下らない。
 本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの、サービ
ス店一店当たりのイ号方法実施による売上金額は、四〇〇万円を下ることはない。
売上総額は(四○○万円×二〇店=)八〇〇〇万円であり、その利益率は七〇パー
セントであるから、利益額は(五六〇〇万円×○・七=)五六〇〇万円である。し
たがって、右金額がサービス店を通じての被告らによるイ号方法の実施によって、
原告が被った損害額である。
 仮に右利益額が損害額と認められなかったとしても、本件特許権の実施料相当額
は売上金額の三〇パーセントを下回ることはないから、原告は、少なくとも実施料
相当額である二四〇〇万円の損害を被った。
(三) 原告は、本件特許権侵害訴訟に関して弁護士に訴訟を委任したものである
が、日本弁護士連合会報酬基準による弁護士報酬額は五〇〇万円を下ることはな
い。右弁護士報酬額は被告らによるイ号方法の実施行為と相当因果関係にある原告
の損害である。
(四) 原告は右(一)ないし(三)の損害賠償請求の内金として金五〇〇〇万円及びこ
れに対する平成九年八月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延
損害金の支払いを求める。
(被告らの主張)
 原告の主張は、いずれも否認する。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲一の二)によると、本件公報には、発明の詳細な説明として、次のよ
うな記載があることが認められる(括弧内には本件公報中の位置を示した。)。
(一) 発明が解決しようとする課題
「本発明の目的は・・・、衣類又は寝具について経済的にこれらの保管スペースを
小さくし、且つ虫、湿気、かび等による損傷の恐れを除いた保管収納方法を提供
し、更には運搬等にあたってその簡便な取扱い方法を提供することにある。」(二
頁左欄三一行目から三五行目)
(二) 課題を解決するための手段及び作用
「衣類又は寝具を収納するための開口2及び前記開口2を封止後内部の空気を排気
減圧するための排気口を備え、衣類又は寝具を収納するに足りる寸法の・・・仮袋
1と、
 衣類又は寝具を収納し、排気減圧した前記仮袋1を収納可能な寸法の袋であり、
前記仮袋1を収納するための開口・及び前記開口・を封止後内部の空気を排気減圧
するための排気口を備えた・・・保管袋・からなる衣類又は寝具の真空パック用収
納袋。」(二頁左欄最終行から同右欄八行目)
(三) 実施例
「図面を参照しながら本発明に係る真空パック方法の実施例について説明する。
 第1図は本発明に使用する仮袋である熱可塑性樹脂(ポリエチレン)製の補助大
袋1及び保管袋である保管小袋・の構造を示す略図である。補助大袋は厚み0.0
5~0.1㎜の単層のポリエチレン袋から成る本体を有し一辺には開口2が設けら
れ、他の辺に続く隅部にはやはりポリエチレン製のチューブの短管から成る排気口
3が、加熱接着により袋本体に設けられている。」(二頁右欄四〇行目から四八行
目)
(四) 発明の効果
「本発明の方法において、衣類や寝具の保管に際し、一旦安価な仮袋に収納し、こ
れを真空引きし、縮小後全体を長期保管に適する保管袋に収納し、更にこれを真空
引きした後排気口を閉止するとした構成により、衣類や寝具のサイズの縮小のみな
らず、虫、湿気、かび等による損傷のおそれのない真空保管が可能となり、その上
高価な長期保管用の保管袋或いは運搬用の袋のサイズを極めて小さくすることがで
きたので、衣類又は寝具の、経済的で損傷の心配のない長期又は短期の保管及び簡
便な取扱いが可能となった。」(三頁右欄二九行目から三八行目)
2 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)1によると、本件特許権の特
許請求の範囲において、開口及び排気口の位置、大きさ、形状、構造などについて
特定する記載は存在しない。
3 右1及び前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)2によると、本件発
明の構成要件AないしCにいう仮袋の「開口」とは、衣類又は寝具を収納するため
に仮袋に設けられた口であり、構成要件DないしFにいう保管袋の「開口」とは、
衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮袋を収納するために保管袋に設けられた口で
あり、構成要件A、C、D及びFにいう「排気口」とは、開口封止後に仮袋又は保
管袋内部の空気を排気減圧するための口であると認められる。
 このことに右2の事実を総合すると、本件発明の構成要件における「開口」及び
「排気口」は、右のような各目的を達成するために仮袋又は保管袋に設けられた口
であるということができるが、その具体的な構造は何ら限定されていないというこ
とができる。
4 被告らは、公知技術(実開昭五一─三五四二〇、特公平七─一一五六八八、実
開昭五九─一六八三八七)を考慮すると、本件発明の仮袋及び保管袋は、開口部と
は別にチューブ状の排気口を備えたもの(右1(三)記載のようなもの)に限定され
る旨主張するが、証拠(乙一五、乙二二の一、二、乙二三)によると、次のとお
り、被告らの主張は採用できない。
(一) 乙一五について
 同号証(本判決末尾に添付の実開昭五一─三五四二〇参照。)の考案は、種類の
異なる複数枚の合成樹脂シートを積層して一枚の収納袋を形成したことを特徴とす
るものであり、二重に真空パックすることについては何ら開示されていないから、
同号証によって、本件特許の出願当時、二重に真空パックすることが公知であった
とはいえない。
(二) 乙二二の一及び二について
 同号証の発明の公開日は、本件特許の出願日よりも後の平成三年九月二日である
から、被告らの主張は前提を欠き、失当である。
(三) 乙二三について
 同号証(本判決末尾に添付の実開昭五九─一六八三八七参照。)の考案は、「温
風供給装置からの温風の圧力によりふくらむと共に、温風が適度に通過するように
形成された開閉自在の外袋と、該外袋よりも通気性が大きく、座布団等を入れて外
袋内に収納される開閉自在の内袋を具備し、前記外袋と内袋との間に温風の通路と
なる空間部を形成したことを特徴とする座布団等の収納袋」についてのものであ
り、内袋も外袋も温風が通過できるものであることが明らかであるから、右考案の
収納袋によって真空パックを行うことは不可能である。
 したがって、右考案の存在によって、本件特許の出願当時において、二重に真空
パックすることが公知であったとはいえない。
(四) 以上のとおり、本件発明が本件特許の出願当時公知であったとは認められな
いから、本件発明を被告が主張するように限定して解釈する理由はない。
5 以上述べたところを前提としてイ号方法が本件発明の技術的範囲に属するかど
うかを判断する。
(一) イ号方法の構成aと本件発明の構成要件A
 構成aの仮袋の開口は、衣類又は寝具を収納するために仮袋に設けられた口であ
るから、構成要件Aにいう仮袋の「開口」に当たる。また、構成aの仮袋は、開口
の一部が、後記(二)の開口封止後に仮袋内部の空気を排気減圧するための口を兼ね
ているから、構成要件Aにいう仮袋の「排気口」を備えている。
 構成aのその余の点は、構成要件Aと同じであるから、構成aは構成要件Aを充
足する。
(二) イ号方法の構成bと本件発明の構成要件B
 構成bにおいては、開口のうち排気口として使用する部分を除いた部分が封止さ
れるが、封止された後の状態で、仮袋内に衣類又は寝具を収納することはできない
のであるから、衣類又は寝具を収納するための「開口」は封止されたということが
できる。
 したがって、構成bは構成要件Bを充足する。
(三) イ号方法の構成cと本件発明の構成要件C
 構成cと構成要件Cは同一である。
(四) イ号方法の構成dと本件発明の構成要件D
 構成dにいう保管袋の開口は、衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮袋を収納す
るために保管袋に設けられた口であるから、構成要件Dにいう保管袋の開口に当た
る。また、構成dの保管袋は、開口の一部が、後記(五)の開口封止後に保管袋内部
の空気を排気減圧するための口を兼ねているから、構成要件Dにいう保管袋の「排
気口」を備えている。
 構成dのその余の点は、構成要件Dと同じであるから、構成dは構成要件Dを充
足する。
(五) イ号方法の構成eと本件発明の構成要件E
 構成eにおいては、開口のうち排気口として使用する部分を除いた部分が封止さ
れるが、封止された後の状態で、保管袋内に衣類又は寝具を収納し排気減圧した仮
袋を収納することはできないのであるから、この仮袋を収納するための「開口」は
封止されたということができる。
 したがって、構成eは構成要件Eを充足する。
(六) イ号方法の構成fと本件発明の構成要件F
 構成fと構成要件Fは同一である。
(七) イ号方法の構成gと本件発明の構成要件G
 右(一)ないし(六)によると、構成aないしfはそれぞれ構成要件AないしGを充
足し、イ号方法も本件発明も衣類又は寝具の真空パック方法であるから、構成gは
構成要件Gを充足する。
(八) 以上のとおり、イ号方法の構成は本件発明の構成要件をいずれも充足するか
ら、イ号方法は本件発明の技術的範囲に属する。
6 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実に、証拠(甲六、一
三、一四、甲一五の一ないし六)と弁論の全趣旨を総合すると、被告シティーボー
イは、自ら、イ号方法を用いて衣類及び寝具を真空パックするほか、「防災セッ
ト」と称する防災用品の真空パックセット(以下「防災セット」という。)を製作
販売していること、防災セットは、寝袋、タオル、軍手、下着、ウェットティッシ
ュ、カイロ、三角きん、携帯バケツ等を、イ号方法によって真空パックし、救急セ
ットとともにリュックに収納したものであること、以上の事実が認められる。
 なお、防災セットには、内容物に寝具又は衣類以外のものが含まれているが、内
容物に寝具及び衣類が含まれている以上、その真空パックの方法は、イ号方法に該
当し、本件発明の技術的範囲に属するということができる。
二 争点2について
1 ロ号物件は、真空パック用の仮袋、保管袋及び真空パック装置からなるとこ
ろ、証拠(甲三、乙八ないし一〇、一二、乙三五、乙三六の一、二、乙三七、三
八、検乙一ないし四)と弁論の全趣旨によると、これらの物件のうち、保管袋と真
空パック装置を使用して一重の真空パックが行われることがあること、これらの物
件すべてを使用して、書類について二重の真空パックが行われることがあること、
以上の事実が認められる。
2 右1の各証拠と弁論の全趣旨によると、一重の真空パックであっても、保管条
件等によっては、全く支障がないものと認められる。また、証拠(乙八、九、一
二)によると、書類は、真空パックすることによって体積が小さくなるものと認め
られるから、書類を二重の真空パックにすることにより、大きな保管袋を必要とし
ないという効果を奏するものと認められる。
3 したがって、ロ号物件には、一重の真空パック、書類の二重の真空パックとい
った他の実用的な用途が存するものと認められるから、ロ号物件は、本件発明の実
施以外に実用的な用途が存するものということができる。
 よって、ロ号物件は本件発明の実施のみに使用されるものとは認められないか
ら、原告の間接侵害の主張は理由がない。
三 争点3について
1(一) 証拠(乙二六の一ないし八、乙二七の一ないし四、乙二八の一ないし四、
乙二九の一ないし五)と弁論の全趣旨によると、被告シティーボーイが、自ら衣類
又は寝具の真空パックを行ったことによる、平成八年八月から同一一年四月までの
間における、防災用品を入れた真空パックセットを除く売上げは、別紙被告売上計
算表(1)記載のとおりであり、右期間における防災用品を入れた真空パックセットの
売上げは、別紙被告売上計算表(2)記載のとおり(単価は、平成八年九月二五日のも
のが八五〇〇円、平成一〇年九月二一日のものが一〇九〇〇円)であると認められ
る。
 なお、被告らは、乙二九の一ないし五は、サービス店が行った真空パックに関す
るものである旨主張するが、いずれも被告シティーボーイ名義の納品書の控えであ
る上、乙二九の二は、被告らが被告シティーボーイが自ら実施した真空パックに関
する証拠として提出した乙二六の八と同じ納品書の控えであるから、被告らの右主
張は信用できない。
(二) 右(一)の各証拠には、一重の真空パックであるか、二重の真空パックである
かの記載がないが、右(一)認定の事実に証拠(甲二、三、八)と弁論の全趣旨を総
合すると、被告シティーボーイは、同被告が行っている真空パックは二重の真空パ
ックである旨の宣伝広告を行っていたこと、被告売上計算表(1)記載の対象物件の多
くは、布団や毛布など、真空パックをすることによって体積が大きく変化するもの
で、二重の真空パックを行うのに適するものであること、以上の事実が認められる
から、被告売上計算表(1)記載のものは、反証がない限り、二重の真空パックを行っ
たものと推認されるところ、反証は存しない。そして、以上述べたところに、前記
第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実を総合すると、被告売上計算
表(1)記載のものは、被告シティーボーイが自らイ号方法を実施したものと認められ
る。
 本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間におい
て、被告シティーボーイが、右認定のもの以外に、自らイ号方法を実施した事実
(防災用品を入れた真空パックセットを除く。)を認めるに足りる証拠はない。
(三)証拠(甲六、一三、一四)と弁論の全趣旨によると、平成一〇年八月二七日
の新聞には、被告シティーボーイは、防災用品を入れた二重の真空パックセットを
製作、販売している旨の記載があること、防災用品を入れた真空パックセットに入
れられるものは、寝袋を初めとして、二重の真空パックに適するものが多くあるこ
と、以上の事実が認められるから、被告売上計算表(2)記載のものは、いずれも、反
証がない限り、二重の真空パックを行ったものと推認されるところ、反証は存しな
い。そして、以上述べたところに、前記一6の事実を総合すると、被告売上計算
表(2)記載のものは、被告シティーボーイがイ号方法を実施して製作、販売したもの
(前記一6の防災セット)であると認められる。
 右新聞には、右の防災用品を入れた二重の真空パックセットが三年間で五万セッ
ト以上売れた旨の記載があるが、それを裏付ける証拠は全くないから、右の記載を
直ちに信用することはできない。
他に、本件特許の出願公告日である平成八年三月一三日から現在に至るまでの間
において、被告シティーボーイが、右認定の二件以外に、イ号方法を実施して、防
災用品の真空パックセット(前記一6の防災セット)を製作し、販売した事実を認
めるに足りる証拠はない。
(四)原告は、被告らは、サービス店と一体となってイ号方法を実施しているとし
て、サービス店がイ号方法を実施したことによる損害について請求している。前記
第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3のとおり、被告シティーボーイと契
約した加盟店又はサービス店が存することが認められるが、それらの加盟店又はサ
ービス店がイ号方法を実施した件数やその売上額を認めるに足りる証拠はない。
2 そこで、右1(二)及び(三)のとおり被告シティーボーイがイ号方法を実施して
得た利益の額について判断する。
(一) 右1(二)の場合(防災セット以外の場合)について 
 証拠(甲三、乙一九)によると、被告シティーボーイが出した、加盟店及びサー
ビス店契約の案内には、七割は利益として計上することができるとの記載があるこ
と、被告シティーボーイ代表者兼被告【D】の陳述書には、真空パック作業による
利益は七割程度であるとの記載があること、以上の事実が認められ、以上の事実に
弁論の全趣旨を総合すると、被告シティーボーイがイ号方法を実施して得る利益の
額は、売上額の七〇パーセントを下回らないものと認められる。
被告は、アルバイトに支払った賃金、交通通信費、書類作成費等を、イ号方法
を実施するための経費とみるべきである旨主張するが、証拠(甲三、乙一九)と弁
論の全趣旨によると、右の七〇パーセントの利益は、これらの経費を考慮した後に
おける利益であると認められるから、売上額の七〇パーセントから、更にこれらの
経費を控除する必要があるとは認められない。
 また、被告は、ロ号物件の開発費や特許取得費もイ号方法を実施するための経費
とみるべきである旨主張するが、同種の事業を営んでいる原告において、自ら行っ
た実施に加えて、右1(二)で認定した実施を行うために、これらの経費が必要であ
るとは認められないから、これらの経費についても控除する必要があるとは認めら
れない。
そうすると、被告シティーボーイが右1(二)のとおりイ号方法を実施して得た利
益の額は、右1(二)認定の売上額一一〇万二三一二円に〇・七を乗じた七七万一六
一八円であると認められる。
(二) 右1(三)の場合(防災セットの場合)について
 証拠(乙六の一、二)によると、被告シティーボーイが、布団一組について二重
の真空パックを行う際の標準的な価格は一セット当たり四〇〇〇円であると認めら
れ、この事実に、前記一6認定に係る防災セットの構成及び右1(一)認定の単価を
総合すると、防災セットの売上げのうち、少なくとも五〇パーセントは、イ号方法
の実施によるものであると認められる。
 イ号方法の実施による利益の額は、右(一)認定のとおり七〇パーセントを下回ら
ないと認められるから、被告が右1(三)のとおりイ号方法を実施して得た利益の額
は、右1(三)認定の売上額二八万八七四〇円に〇・五と〇・七を乗じた一〇万一〇
五九円であると認められる。
(三) 以上の利益の額の合計は、八七万二六七七円となり、これは、原告が本件特
許権の侵害によって被った損害であると推定される。
3 被告シティーボーイは、原告が本件特許権の侵害によって被った右損害を賠償
すべき責任がある。
 被告【D】が個人としてイ号方法を実施していたことを認めるに足りる証拠はな
いが、同被告は、被告シティーボーイの代表者としてイ号方法を実施していたので
あるから、被告シティーボーイとともに、原告が本件特許権の侵害によって被った
損害を賠償すべき責任がある。
被告総合商社ヒラヤ株式会社がイ号方法を実施したことを認めるに足りる証拠は
ない。
4 弁論の全趣旨によると、原告は、本件訴訟を提起するに当たり弁護士に訴訟追
行を委任したものと認められるところ、本件の事案の内容、訴訟の経緯等の事情を
考慮すると、本件特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用として、五〇万
円を認めるのが相当である。
 四 まとめ
以上の次第で、本件請求は、被告株式会社シティーボーイに対する別紙目録(一)記
載の方法の使用の差止め、被告株式会社シティーボーイ及び被告【D】に対する金
一三七万二六七七円及び別紙遅延損害金目録記載の各金額に対する別紙遅延損害金
目録記載の各年月日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で理由があるので、認容し、その余の請求は、いずれも理由がないので棄却
することとする。
 東京地方裁判所民事第四七部
裁判長裁判官 森 義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 杜下弘記
                                   
 

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