弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決中,控訴人A,同B及び同Cを除くその余の控訴人らについて,
被控訴人財団法人Dのした各建築確認処分の取消しを求める請求,及び
被控訴人東京都に対する建築工事禁止命令発令の義務付けを求める請求
をそれぞれ棄却した部分を取り消し,これらに係る訴えを却下する。
2控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人らに関する部分を取り消す。
2被控訴人財団法人DがE有限会社及び株式会社Fに対して平成17年10月
11日付けでした確認番号×××××本建確×××の建築確認処分を取り消す。
3被控訴人財団法人DがE有限会社及び株式会社Fに対して平成17年10月
11日付けでした確認番号×××××本建確×××の建築確認処分を取り消す。
4東京都知事は,G特定目的会社及び株式会社Fに対して,原判決別紙土地目
録記載の各土地上に建築中の原判決別紙建築物目録記載の建築物の建築工事禁
止命令をせよ。
5東京都知事は,G特定目的会社及び株式会社Fに対して,上記各土地上に建
築中の上記建築物の撤去命令をせよ。
第2事案の概要
1E有限会社及び株式会社F(以下,この両社を併せて「本件建築主」とい
う)は,原判決別紙土地目録記載の各土地(以下「本件敷地」という)上。。
に原判決別紙建築物目録記載の建築物(以下「本件建築物」という)を建て。
ることを計画し,建築基準法の規定に基づく指定確認検査機関である被控訴人
財団法人D(以下「被控訴人D」という)に対し建築確認の申請をしたとこ。
ろ,被控訴人Dは,平成17年10月11日付けをもって,同法6条の2第1
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項に基づく確認番号×××××本建確×××及び確認番号×××××本建確×
××の各確認処分(以下「本件各確認処分」という)をした。。
本件は,本件敷地の周辺住民である控訴人らが,本件建築物の建築に関して,
建築基準法,東京都建築安全条例及び都市計画法の規定に反する違法事由があ
るなどと主張して,被控訴人Dのした本件各確認処分の取消しを求めるととも
に,建築基準法9条1項に基づく本件建築物の建築工事禁止命令及び撤去命令
(以下,これらを併せて「本件各是正命令」という)を東京都知事が本件建。
築主に対して発令することの義務付けを求めた事案である。
控訴人H,同I,同A及び同Jが原審裁判所平成19年(行ウ)第161号
事件(甲事件)の原告であり,その余の控訴人らが甲事件に追加的に併合され
た原審裁判所同年(行ウ)第301号事件(乙事件)の原告である。なお,乙
事件の原告の1人であったKは,原判決に対して控訴しなかった。
2原審は,控訴人A,同B及び同Cの3名については,本件各確認処分の取消
し及び本件各是正命令発令の義務付けをそれぞれ求める訴えの原告適格を有し
ないとして,この3名の訴えを却下し,その余の控訴人らの請求については,
本件各確認処分及び本件建築物の建築に関し控訴人ら主張に係る違法はないな
どとして,これらを棄却した。
3控訴人らは,この原判決に対して,控訴を申し立てた。また,当審の段階に
なって,本件建築物の建築主がG特定目的会社に変更されたことから(丙9の
1・2。なお,同社を含めて「本件建築主」ということがある,控訴人ら。)
は,被控訴人東京都に対し本件各是正命令を発令すべき名あて人をG特定目的
会社及び株式会社Fに変更した(控訴人らは,株式会社Fについて,本件建築
物の管理者であるから,依然として本件各是正命令の名あて人となる旨主張し
ている。。)
一方で,被控訴人Dは,当審において,本件建築物が完成したことにより,
本件各確認処分の取消しを求める訴えの利益が失われたから,控訴人らの上記
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取消しを求める訴えは却下されるべきである旨主張した。また,被控訴人東京
都は,上記の理由により建築工事の禁止命令発令の義務付けを求める訴えの利
益が失われたから,控訴人らの上記訴えは却下されるべきである旨主張した。
4本件の前提事実(東京都建築安全条例の内容を含む,争点及び争点に関。)
する当事者双方の主張は,次項のとおり当審における主張を付加するほか,原
判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1項ないし4項に記載され
たとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決17頁12行目を「国
土交通大臣は,平成20年3月31日,再審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(甲7,丙12の1・2」に改める。なお,以下,原審乙事件の原告Kに関)
する部分を除く。。)
5当審における主張
(1)控訴人Aらの原告適格について
(控訴人らの主張)
ア控訴人Aは,本件児童室に通う控訴人Bらの母親であるから,同児らが
交通事故に遭遇する危険があり,親として不安になるのは当然であって,
これは法律上保護に値する利益である。
イ控訴人Bらの原告適格に関し,原判決は本件児童室の本件条例27条4
号該当性を否定しているが,本件児童室は,子ども専用の施設であり,大
人の図書館からは機能上も構造上も独立しているものである。また,控訴
人Bの進学予定の中学校のプールが本件建築物からのぞき見されて,同児
が重大な犯罪に巻き込まれる危険があるという点は,本件建築物が建築さ
れることに伴ってほぼ必然的に発生するものというべきである。
(2)訴えの利益の消滅について(当審における新たな主張)
(被控訴人Dの主張)
被控訴人Dは,本件建築主の申し出により,平成20年2月20日,本
件建築物の完了検査を終了し,同月26日,検査済証を交付した。したが
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って,本件建築物が完成したことにより,本件各確認処分の取消しを求め
る訴えの利益はなくなった。
(被控訴人東京都の主張)
被控訴人Dは上記の経緯でG特定目的会社に検査済証を交付し,本件建
築物が完成して工事は終了したので,建築工事の禁止命令発令の義務付け
を求める訴えの利益はなくなった。
(控訴人らの主張)
建築確認処分は,建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防
止することのみを目的とした制度とみるべきではなく,工事が完了した後
であっても,実体的違法があれば取消しを認めるべきである。また,建物
の完成によっておよそ建築確認処分取消しの訴えの利益がないということ
になれば,近隣住民らの利害関係人は,建築審査会に対する審査請求から
訴訟の口頭弁論終結までの手続を,建物が完成する間にすべて終わらせな
い限り救済されないことになり,住民側の救済を事実上拒否するに等しい。
したがって,建物が完成したとの一事をもって,処分の取消しを求める訴
えの利益が失われたと解するのは妥当でない。
また,本件敷地の北側擁壁の工事は未だ盛土作業が終了しておらず,そ
の他,屋上をウッドデッキに変える工事や内装工事が平成20年6月一杯
まで行われることになっているから,建築工事は完了していない。
(3)本件各確認処分の違法性の有無について
ア建築基準法42条1項5号の趣旨違反
(控訴人らの主張)
建築基準法42条1項5号にいう位置指定道路の趣旨は,本来大きな
私有地を細分化してそれぞれの敷地に建築物を建てる場合の便宜のため
に設けられたものであって,本件のような大規模開発の場合に,既存の
位置指定道路を利用して接道義務を満たすとすることは,本来の位置指
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定道路の制度趣旨に反するものである。また,本件敷地に接面している
位置指定道路は,当時の本件敷地の所有者が大規模土地開発目的で指定
を受けたものであって,上記の制度趣旨に違反した指定であり,本件建
築主はその違法を引き継いでいるといえるから,本件各確認処分の取消
事由となる。
イ本件条例4条及び10条の2違反
(控訴人らの主張)
本件敷地の接面道路のみが幅員の規制を満たしているのでは,2車線
による相互通行を可能にし,緊急車両が円滑に入って来ることのできる
状態を確保しようとする本件条例4条及び10条の2の趣旨が満たされ
ない。接面道路の北側に接続し公道に通ずる位置指定道路は,L神社が
設置している遮断機やさお受けポールの存在によって,道路の実効幅は
3.1mから4.4mしかない部分があり,接面道路の西側が閉塞状態
であることも相俟って,上記条例の趣旨に適合しない状況であることは
明らかである。なお,本件敷地内に本件建築主が緊急車両進入のための
出入口や通路を設けたことは,上記の接道状況を合法化する理由にはな
らない。
(被控訴人Dの主張)
仮に遮断機等の存在によって位置指定道路の実効幅が6mに欠ける部
分があり,通行の障害になるとしても,それは行政や利害関係者からの
撤去請求等で対応すべきものであって,指定確認検査機関としては,幅
員6mの道路として位置指定されていることを確認すれば足り,現況を
確認するまでの義務はない。また,位置指定道路は私道であるから,所
有者の管理権との関係上,交通に対する合理的な制約も認められるので
あり,上記の遮断機等は違法駐車が跡を絶たないため設置され,かつ,
緊急時の対応措置も用意されている。
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ウ本件条例27条4号違反
(控訴人らの主張)
控訴人Aらを除く控訴人らについても,本件建築物が本件条例27条
4号に違反することによって,本件児童室前の通行に危険が生じるから,
その違法を主張することについて法律上の利害関係がある。
エ都市計画法29条1項違反
(控訴人らの主張)
①都市計画法は,単に公共の利益を目的とするだけでなく,開発区域内
外の個々の住民が通行上の安全性や良好な環境を享受することや,危険
な土地開発による災害発生の防止等も目的としている。そうであるとす
れば,同法の開発許可を受けるべき開発行為について,これに該当しな
いとの誤った判断がされ,その誤った判断を基礎として建築確認処分が
された場合には,生活の安全性や良好な環境が脅かされることになる住
民が,開発許可を受けていないとの事実を理由として,建築確認処分の
取消しを主張することができるというべきである。そして,控訴人らは,
本件建築物の建築により,通行の安全,環境,災害の発生の危険性につ
いて影響を受ける立場にあるから,開発許可逃れは控訴人らにとって自
己の法律上の利益を害することは明らかであり,控訴人らは,都市計画
法29条1項違反の事実を本件各確認処分の取消事由として主張するこ
とができる。
②控訴人らが開発行為に当たると主張した事実は,本件建築物の北側の
工事だけでなく,従来テニスコートとして使用されてきた本件敷地の一
部を宅地として造成すること,また,地下13mに及ぶ深さまで掘削し,
6008㎡を超える本件敷地の全面にわたり大量の土砂を移動させるこ
とも含んでいる。そして,これらの行為は,土地の区画形質の変更に該
当し,開発許可が必要である。さらに,本件建築物の北側地盤に関する
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工事について,原判決は既存の擁壁を造り替える行為であると認定して
いるが,1m以上の盛土や1m以上の切土が計画されているのであって,
開発許可が必要な行為に該当する。
(被控訴人Dの主張)
控訴人らの主張するように,本件敷地が従来テニスコートとして使用
されていたとしても,地目はもともと宅地であるから,宅地以外の土地
を宅地にするわけではなく,開発行為に該当しないことは明らかである。
また,建物の建築と不可分一体の工事と認められる土地の掘削等は開発
許可の対象にならないから,控訴人らの指摘する本件敷地の掘削等も,
開発許可の対象外であるし,既存擁壁を造り替える行為も同様である。
なお,控訴人らの主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法をい
うものにすぎない。
オ一団地認定の違反(当審における新たな主張)
(控訴人らの主張)
本件敷地は2筆の土地に分かれ,本件建築物も外観上明確に2つの棟
に分かれており,それぞれの敷地ごとに建築確認申請や建築確認処分も
されている。ところが,東京都知事が本件敷地につき平成17年9月6
日にした建築基準法86条1項に基づく一団地認定によって,西側の敷
地は本件条例4条及び10条の2の接道規制を回避し,これに接する道
路ははしご車も入れない欠陥道路になっている。したがって,東京都知
事のした一団地認定は,建築基準法や本件条例の規制の趣旨を没却した
ものであり,裁量権の逸脱又は濫用に当たるほか,同法86条1項に違
反するから,本件各確認処分も違法である。
(被控訴人Dの主張)
一団地認定をする権限があるのは特定行政庁であるから,指定確認検
査機関としては,特定行政庁が一団地認定をしたことを前提に確認すれ
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ば足りる。また,本件の一団地認定が適法であり,不可争力が生じてい
ることなどは,被控訴人東京都の後記主張を援用する。
(4)本件各是正命令を発令しないことの違法性について
(控訴人らの主張)
原判決の本件建築物が接道義務を満たしているとの判断,本件児童室が
本件条例27条4号に当たらないとの判断は,前記のとおり誤りであるし,
接道義務を満たしているか否かという問題と,本件建築物に火災等が発生
した場合に近隣住民の住居に火災等が拡大する危険があるか否かという問
題とは,全く同一視できない。控訴人Aらを除く控訴人らは,本件建築物
の敷地境界線から30m以内に居住しており,その全員について火災によ
る被害等の重大な損害を被るおそれが生じているのである。また,本件建
築物が違法な開発許可逃れを行っている点についても,控訴人らにおいて,
現に住環境に悪影響が出ている以上,自己の法律上の利益に関係のない事
柄ではなく,防災上も極めて危険であるから,周辺道路の整備からやり直
し,開発許可制度に適合した建築をすべきである。
(被控訴人東京都の主張)
ア本件敷地は,その東部から東南部において幅員6mの位置指定道路に1
02.86mの長さで接しており,かつ,当該道路に面して自動車の出入
口が設けられているから,本件条例4条及び10条の2に何ら違反しない。
控訴人らは位置指定道路内のゲート施設を問題にするが,これは,私道の
ため警察の取締りが及ばず,違法駐車が跡を絶たないため,L神社がその
所有権に基づき道路の管理行為として設置したもので,そのゲート施設に
ついては,長さがわずか7.11mしかなく,緊急車両等の通行を確保す
るため,L神社により24時間の管理体制がとられているほか,遮断機の
さお受けポールは容易に引き抜くことが可能であり,警察署や消防署との
間で,緊急の場合には遮断機のバーを破壊したり持ち上げて進入できるこ
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とが合意されている。位置指定道路の西側に設置された車止めについても,
L神社による道路の24時間管理体制がとられていることなどからして,
緊急車両の円滑な進行に支障がないと評価できるものである。
イ特定行政庁が建築基準法に基づく是正命令をすることができるのは,建
築基準法及びそれに基づく命令や条例の規定に違反した場合に限られるの
であって,都市計画法違反は是正命令の理由とはならない。
また,本件建築物の北側に位置する既存擁壁を造り替える行為は,本件
建築物の一部を築造するために必要な土地の掘削であったり,新たな擁壁
の造替えにすぎないから,開発許可の必要な形質の変更に当たらない。本
件敷地を地下13mに及ぶ深さまで掘削することについても,本件建築物
の一部を築造するために必要な土地の掘削に当たり,テニスコートとして
使用されてきた本件敷地を宅地として造成することについても,地目が宅
地であることに変わりはないから,これらも形質の変更に該当しない。
ウ都市計画法に基づく開発許可に関する権限は都道府県知事や市長にある
から,許可権者が開発許可不要の判断をしているにもかかわらず,建築主
事や指定確認検査機関が確認申請の審査において独自にこの点を検討する
ことができるとすれば,開発許可を受けない限りは建築ができない結果と
なり,開発行為の規制を許可権者の専権に委ねた都市計画法の制度趣旨を
没却することになる。したがって,建築主事又は指定確認検査機関は,確
認申請の審査に当たり,開発行為の許可権者の判断の適法不適法に立ち入
ることなく,当該建築計画が都市計画法29条の規定に適合していると確
認すべきである。本件についても,被控訴人Dは,本件各確認処分に際し,
開発許可権者の渋谷区に対し開発許可の有無について照会したところ,開
発許可は不要であるとの回答を得ているから,その判断の適法不適法に立
ち入ることなく本件各確認処分を行ったことに何ら違法はない。
エ控訴人らは,東京都知事のした一団地認定の違法を主張するが,行政処
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分は無効の場合を除き,一定期間を経過すると私人の側から行政行為の効
力を裁判上争うことができなくなる。一団地認定の取消訴訟は,審査請求
前置が求められ(建築基準法94条,96条,処分のあったことを知っ)
た日の翌日から起算して60日を経過した場合や,処分のあった日の翌日
から起算して1年を経過した場合は,審査請求をすることができなくなる
ところ,本件においては,控訴人らについて審査請求期間が徒過している。
したがって,控訴人らは,本件の一団地認定について,裁判上その効力を
争うことはできない。なお,一団地認定は,東京都知事の専門技術的な裁
量に委ねられているから,その無効を主張するのであれば,裁量権の逸脱
又は濫用を基礎付ける具体的事実及びその瑕疵が重大かつ明白であること
を主張立証しなければならない。
また,一団地認定における安全上,防火上及び衛生上の支障がないか否
かの審査は,それぞれ建築物と道路との関係で,避難及び通行の機能確保
がされているか,延焼防止等の措置がとられているか,採光,通風,日照
等衛生環境に配慮しているかという,主に対象区域内の観点からされるも
のであって,対象区域外の居住者等である控訴人らについて,自己の法律
上の利益に関係する違法とはいえないから,本件各是正命令発令の是非に
関する違法事由とはならない。
第3当裁判所の判断
1原告適格について
当裁判所も,控訴人Aら(控訴人A,同B及び同C)は,被控訴人Dのした
本件各確認処分の取消しを求める訴えの原告適格,及び被控訴人東京都に対し
本件各是正命令発令の義務付けを求める訴えの原告適格をいずれも有しないも
のであるから,控訴人Aらの本件各訴えはいずれも却下を免れず,これに対し,
控訴人Aらを除くその余の控訴人らは,いずれも上記各訴えを求める原告適格
を有するものと判断する。
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その理由は(控訴人Mの審査請求前置に関する判断を含む,次のとおり。)
付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」
の1項(42頁以下)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決52頁16行目の「危険があるという事情は」を「危険があり,
原告(控訴人)Aが原告Bらの母親であるという事情は」に改める。
(2)原判決53頁1行目から14行目までを,次のとおり改める。
「証拠(甲6,17の1・2,18の1ないし3,19ないし21,41,
49)によると,本件児童室は,渋谷区立α図書館内にあって,児童関係
の図書を1か所に集め,一般の利用者とは別に閲覧場所等を設けたもので
あり,児童用の座席が10人分程度用意されていること,本件児童室は,
図書館の出入口とは別に専用出入口が設けられ,その専用出入口は午後5
時で閉鎖されるが,1階の他の部分とは内部の出入口でつながっており,
図書館の利用者は誰でも自由に行き来することができること,本件児童室
内には,児童用のサンダルが置かれたトイレがあり,また,幼児の遊び場
コーナーがあるなど,児童の利用しやすい設備が備わっていること,他方,
本件児童室は,地下1階,地上4階の図書館の1階部分のうち,その3分
の1足らずの約100㎡のスペースが区画された箇所に設置されているこ
と,以上の事実を認めることができる。そうすると,本件児童室は,児童
が図書に親しみやすいように工夫された施設といえるが,あくまで渋谷区
立α図書館内の一つのスペースにすぎず,しかも,図書館全体の規模と比
較しても,極めて限られた空間を占めるのみであるから,図書館と別個独
立した施設として存在するものではないというべきである。したがって,
本件児童室は,施設全体が専ら又は主として児童が利用することを目的に
設置された児童公園,小学校,幼稚園などとは質的に異なるものであるこ
とは明らかであって,これらの施設と同視することはできないし,類する
ものということもできない」。
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(3)原判決54頁13行目の「原告Bについても」の次に「現実化した危,
険でないことはもちろん,現段階では余りに抽象的な危惧と評価できるもの
であるし」を加える。,
2工事の完了と訴えの利益の消滅について
(1)建築基準法6条,6条の2に基づく建築確認は,6条1項の建築物の建
築等の工事が着手される前に,当該建築物の計画が建築基準関係規定に適合
していることを公権的に判断する行為であって,それを受けなければ工事を
することができないという法的効果が付与されており,建築基準関係規定に
違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものである。しか
し,工事が完了した後における建築主事等による検査は,当該建築物及びそ
の敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかを基準とし,同じく特定
行政庁の違反是正命令は,当該建築物及びその敷地が建築基準法令の規定等
に適合しているかどうかを基準とし,いずれも当該建築物及びその敷地が建
築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上,
違反是正命令を発するかどうかは,特定行政庁の裁量にゆだねられているか
ら,建築確認の存在は,検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する
上において法的障害となるものではなく,また,たとえ建築確認が違法であ
るとして取り消されたとしても,検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令
を発すベき法的拘束力が生ずるものではない。したがって,建築確認は,そ
れを受けなければ工事をすることができないという法的効果を付与されてい
るにすぎないものというべきであるから,当該工事が完了した場合において
は,建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるというべきである(最
高裁昭和59年10月26日判決・民集38巻10号1169頁,同平成1
4年1月22日判決・民集56巻1号46頁参照。)
(2)本件についてこの点を検討すると,証拠(丙7,10の1・2)によれ
ば,本件建築物の工事は既に完了し,指定確認検査機関である被控訴人Dは,
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本件建築主の申し出により,平成20年2月20日,本件建築物の完了検査
を終了し,同月26日,検査済証を交付したことが認められる。そうすると,
控訴人Aらを除くその余の控訴人らの本件各確認処分の取消しを求める請求
については,訴えの利益が失われたことにより,いずれも却下を免れないと
いうべきである。
控訴人らは,本件敷地の北側擁壁の工事が未だ終了していない旨主張する
が,控訴人らのいう都市計画法違反の有無はともかくとしても,証拠(甲4
8,55,丙6,7,11)によれば,北側擁壁の工事自体は終了している
ことが認められるのであって,控訴人らの上記主張は採用できない。また,
甲57号証によれば,本件建築物について,平成20年5月12日から6月
7日にかけて一部屋上のウッドデッキ施工や,同年5月から6月一杯にかけ
て内装の追加変更工事が,施工業者によって予定されていることが認められ
るが,これらはその内容からして,本体工事が既に終了した後になって若干
の手直しが行われるものにすぎないことがうかがわれるから,少なくとも上
記の建築確認の法的効果が残存しているか否かという観点から考えると,本
件建築物の工事が完了したというに妨げないものと解すべきである。したが
って,この点をとらえて,工事が完了していない旨をいう控訴人らの主張も
採用できない。
(3)さらに,控訴人らは,本件訴訟において,被控訴人東京都に対し,東京
都知事をして建築基準法9条1項に基づく本件建築物の建築工事禁止命令を
本件建築主に対して発令することの義務付けを求めている。しかし,前記の
とおり,本件建築物の工事は既に完了しているのであるから,建築工事の禁
止命令を発令する余地は,もはや存しないものというべきである。したがっ
て,控訴人Aらを除くその余の控訴人らの上記義務付けを求める訴えも,訴
えの利益がなくなったことにより,却下を免れないことになる。
(4)以上のとおり,控訴人Aらを除くその余の控訴人らについて,被控訴人
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Dのした本件各確認処分の取消しを求める訴え,及び被控訴人東京都に対し
本件建築物の建築工事禁止命令発令の義務付けを求める訴えは,いずれも訴
えの利益が消滅したことにより,却下されるべきである。
3本件各確認処分の違法性の有無について
前記のとおり,控訴人らの本件各確認処分の取消しを求める訴えは,原告適
格を欠いていたり,又は訴えの利益が消滅したことにより,却下されるべきも
のである。しかしながら,仮にこの点をおくとしても,控訴人らの主張する違
法事由は,その事実が認められないものであったり,自己の法律上の利益と関
係のない事柄をいうものにすぎないため,いずれも失当であるというべきであ
るから,控訴人らの上記請求は棄却を免れない。
その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄の
「第3争点に対する判断」の2項(57頁以下)に記載されたとおりである
から,これを引用する。なお,同項中に「原告Aらを除くその余の原告ら」と
あるのを,いずれも「原告(控訴人)ら」に改める。
(1)原判決59頁8行目の末尾に「また,建築基準法42条1項5号の位置
指定道路は,建築基準法上の道路とされているのであるから,本件のような
大規模な建物の建築につき既存の位置指定道路を利用して接道義務を満たす
ものと扱ったからといって,何ら位置指定道路の制度趣旨に反するものでは
ないし,原告(控訴人)らの主張するように,仮に指定当時の本件敷地の所
有者が大規模土地開発を目的として指定を受けていたとしても,その指定が
違法であるなどと解することはできない。したがって,これらの点に関する
原告らの主張も理由がない」を加える。。
(2)原判決61頁下から3行目の「遮断機,車止め等が存在することや」を
「本件敷地に102.86mの長さにわたって接面する位置指定道路が幅員
6mを確保している以上,その西端が車止めによって閉塞状態となっていた
り,上記位置指定道路が北西端で接続する指定第4号の位置指定道路上の公
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道手前にゲート施設が設置されるなどしていて,道幅が狭くなっているから
といって,また」に改める。
(3)原判決63頁1行目から3行目を,次のとおり改める。
「そうすると,原告(控訴人)Bらを除くその余の原告らの関係において
は,本件条例27条4号違反の主張は,自己の法律上の利益に関係のない
違法をいうものであることが明らかであるから,行政事件訴訟法10条1
項により失当というべきである。また,前記のとおり,本件児童室は,本
件条例27条4号所定の児童公園,小学校,幼稚園などはもとより,その
他これらに類するものに当たるということもできないから,本件各確認処
分について同条例違反の違法はないというべきである」。
(4)原判決64頁7行目の次に行を改め,次のとおり加える。
「ウまた,原告(控訴人)らは,本件敷地の一部が従来テニスコートと
して使用されていたから,これを宅地として造成することは,土地の
区画形質の変更に該当し,都市計画法に基づく開発許可が必要である
旨主張する。しかし,証拠(甲26,29,30,39,丙5の1・
2)によれば,本件敷地のうち西側部分(23番12)の土地にはも
と鉄筋コンクリート造り5階建てのマンションが建てられており,東
側部分(23番1)の土地にはテニスコート2面が設けられるととも
に,鉄筋コンクリート造り2階建てのクラブハウスが建てられていた
こと,また,両土地の登記簿上の地目は,いずれも宅地であったこと
が認められ,これらの事実によれば,本件敷地の一部が従前テニスコ
ートとして使用されていたからといって,本件敷地を本件建築物の敷
地として造成することが,その形質の変更に当たるということはでき
ない。
さらに,原告らは,本件建築物の建築に当たっては,地下13mに
及ぶ深さを掘削し,本件敷地の全面にわたって大量の土砂を移動させ
−16−
るから,これも土地の区画形質の変更に該当し,開発許可が必要であ
る旨主張する。しかし,本件敷地の所在する東京都渋谷区においては,
開発許可に関する事務は特別区として同区が処理することとされてい
るところ(地方自治法252条の17の2第1項,特別区における東
京都の事務処理の特例に関する条例2条表中7のイ,同区の定めた)
),開発許可の準則によれば(甲31,許可を必要としない事例として
建築工事と一体の工事と認められる基礎打ち,土地の掘削等の行為が
掲げられている。そして,本件建築物の地下2階の床面は,地表から
12.67mの深さの位置にあるから(甲5,本件建築物の建築に)
当たって13mに及ぶ深さを掘削し,それによって大量の土砂を移動
させることになったとしても,それは本件建築物の築造に必要な行為
であって,建築工事と一体の工事と認められるのである。したがって,
上記の掘削工事は開発許可を必要としない行為であるということがで
きるから,この点からしても,原告らの主張は理由がない。
(5)一団地認定(建築基準法86条1項)の違反の有無について
原告らは,当審において,新たに一団地認定の違反を本件各確認処分
の違法事由として主張した(原告らは,原審の弁論終結時である第4回
口頭弁論期日において,一団地認定については,固有の違法事由として
主張するものではなく,事情として主張するものであると陳述しており,
違法事由として主張しないとの意思を明確に表明していた。。)
しかしながら,本件敷地についての東京都知事の一団地認定は,平成
17年9月6日にされ,同月26日付の東京都公報によって告示されて
おり(乙7,同処分の取消訴訟を提起するについては審査請求を経る)
ことが求められているところ(建築基準法96条,94条,同処分に)
ついての審査請求期間(行政不服審査法14条1項,3項)が既に経過
していることは明らかである。したがって,原告(控訴人)らは,本件
−17−
各確認処分の違法事由として,上記一団地認定処分の効力を争うことは
できない。
のみならず,原告(控訴人)らが上記一団地認定が違法であるいう具
体理由は必ずしも明らかでない(本件敷地西側部分につき接道義務を免
れたことをいう点は,一団地認定による法律上の効果であり,そのこと
のみをもって同処分が違法であるということはできない)が,前記前。
提事実に加えて,証拠(甲5,39)によれば,本件敷地は一団となっ
た2筆の土地であり,本件建築物は東側の棟と西側の棟の2棟の建物か
ら構成されているが,1階と2階は互いに渡り廊下状の構築物によって
連結されていること,本件建築物は,全体として総合的設計によって建
築されていることが認められる。そうすると,東京都知事は安全上,防
火上及び衛生上支障がないと認めて本件に係る一団地認定をしたことが
うかがえるところ,これについて裁量権の逸脱又は濫用があったことを
認めるに足りる主張も証拠もないから,上記の一団地認定が違法である
ということはできない。したがって,この点からしても,一団地認定に
係る規定の違反を理由に本件各確認処分の違法をいう原告らの主張は理
由がない。
(6)以上の次第であるから,本件各確認処分の違法事由に関する原告ら
の主張は,すべて採用することができない」。
4本件各是正命令を発令しないことの違法性について
前記のとおり,控訴人Aらは,本件各是正命令発令の義務付けを求める訴え
の原告適格を有しないし,また,本件各是正命令のうち本件建築物の建築工事
禁止命令発令の義務付けを求める控訴人らの請求は,訴えの利益が消滅したか
ら,これらの訴えは却下されるべきものである。しかしながら,仮にこの点を
さておくとしても,本件各是正命令発令の義務付けを求める控訴人らの請求は,
その根拠として主張する事由はいずれも失当であるというべきであるから,棄
−18−
却を免れない。
その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄の
「第3争点に対する判断」の3項(2),(3)(64頁以下)に記載されたとお
りであるから,これを引用する。なお,同項(2)中に「原告Aらを除くその余
の原告ら」とあるのを(ただし,原判決66頁4行目及び67頁5行目のもの
を除く,いずれも「原告(控訴人)ら」に改める。。)
(1)原判決66頁11行目の末尾に「なお,原告(控訴人)らは,建築基準
法86条1項(いわゆる一団地認定)違反を主張するが,これも前記のとお
り,原告らは一団地認定の効力を争うことはできないし,そもそも上記違反
の事実は認められないのであるから,この点も本件各是正命令発令を義務付
ける根拠とはならない」を加え,同末行の「同原告ら」を「原告Aらを除。
くその余の原告ら」に改める。
(2)原判決68頁14行目の「べきである」を「べきであるし,本件児童室
は本件条例27条4号所定の施設等に該当しないから,この点も本件各是正
命令発令を義務付ける根拠とはならない」に改める。
第4結論
以上のとおり,控訴人Aらの本件各訴え,並びにその余の控訴人らの被控訴人
Dのした本件各確認処分の取消しを求める訴え及び被控訴人東京都に対する本件
建築物の建築工事禁止命令発令の義務付けを求める訴えは,いずれも不適法であ
るから,却下すべきである。また,控訴人Aらを除くその余の控訴人らの被控訴
人東京都に対する本件建築物の撤去命令発令の義務付けを求める請求は,理由が
ないから棄却すべきである。
よって,本件控訴は理由がないが,原判決後の訴えの利益の消滅により,①原
判決中,控訴人Aらを除くその余の控訴人らについて,被控訴人Dのした本件各
確認処分の取消しを求める請求,及び被控訴人東京都に対する本件建築物の建築
工事禁止命令発令の義務付けを求める請求をそれぞれ棄却した部分を取り消して,
−19−
これらに係る訴えを却下し,②控訴人らのその余の控訴を棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官鈴木健太
裁判官内藤正之
裁判官後藤健

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