弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人らは、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金三九万五五〇
〇円を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を
求め、被控訴代理人らは、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次に補正、付加するほかは、原判決の事実摘示
と同一であるから、これを引用する。
一 1 原判決二枚目-記録二一丁-表八行目の「原告」を「亡A」に、九行目の
「であり」を「として」に、同裏二行目、四行目、五行目及び一〇行目の各「原
告」をいずれも「亡A」に、それぞれ改め、同八行目と九行目の間に「その後、亡
Aは昭和五〇年一二月二九日死亡し、その妻控訴人、その子B、C及びDが共同相
続したが、亡Aの未支給老齢福祉年金の受給権は、遺産分割協議の結果、控訴人と
Dが各持分二分の一の割合で取得した。なお、Aの死亡当時、控訴人及びDはAと
生計を同じくしていた。」を、同一一行目の「以降」の次に「死亡により受給権が
消滅した昭和五〇年一二月分まで」に改める。
2 原判決三枚目-記録二二丁-表一行目の「有する。」から三行目の「二〇七、
〇〇〇円」までを「有していたものであり、その額は合計三九五、五〇〇円」に改
める。
3 原判決八枚目-記録二七丁-表七行目、一一行目及び同裏五行目の各「原告」
をいずれも「亡A」に改め、同裏四行目の「現に」を削る。
4 原判決九枚目-記録二八丁-裏七行目の「併給限度額」を「併給制限基準額
(以下「併給限度額」という。)」に、同一四枚目-記録三三丁-裏同六行目から
七行目にかけての「原告が受給している」を「亡Aが受給していた」に、それぞれ
改める。
5 原判決一八枚目-記録三七丁-表二行目の「事実」の次に「のうち、控訴人主
張の遺産分割協議がなされたこと及がDが亡Aの死亡当時同人と生計を同じくして
いたことは不知、その余の事実」を加える。
6 原判決三八枚目-記録五七丁-表九行目の「認める」の次に「(第四五号証に
ついては原本の存在も)」を加える。
二 控訴人の主張
1 拠出制の老齢年金と無拠出制の老齢福祉年金とは、形式上同じ国民年金法に規
定されているとはいえ、両者は、同一の性格を有するものではなく、老齢年金は、
現代の世代が積立方式によつて将来の老齢という事故に備えるための制度で、現代
の世代の社会的要請に基づくものであるのに対し、老齢福祉年金は、戦前の絶え間
のない戦争の繰り返しの中で犠牲となり、戦後の日本の復興の礎となりながら、資
力を失い、社会的にも家庭的にも疎外され孤独と貧困との中に生きる現代の老人に
対し、国家がその責任において生活の保障をすべきであるという独自の社会的歴史
的要請に基づくものである。したがつて、単に、拠出制国民年金制度が、国民皆年
金の理想の下に他の公的年金の対象者を除外したという立法経過を理由として、無
拠出制の老齢福祉年金についても、他の公的年金受給者は当然対象者とはなり得な
いということはできない。すなわち、老齢福祉年金は、他の公的年金受給者を被保
険者から除外するという拠出制国民年金制度の建て前をとらず、ひろく一定時期ま
でに満七〇歳に達した者をすべて被保険者ないし受給権者とし、一定限度内の他の
公的年金給付の受給者にも老齢福祉年金を併給しているのであつて、公的年金給付
の受給者も、右の要件を充足することにより当然老齢福祉年金の受給権を取得し、
ただ、併給制限規定に該当する事実があるとき、個別的にその支給の制限を受ける
にすぎないのである。
2 老齢福祉年金は、憲法二五条二項のいわゆる社会保障の措置の一つとして定立
されたもので、同条二項に基く他のすべての施策と同様、同条一項の定める生存権
保障の理念を具体的に実現するための社会的施策であり、同条一項の定める国民の
健康で文化的な最低限度の生活の保障を制度本来の目的とするものであるから、そ
の内容及び運営は右の本来の目的に即したものでなければならない。したがつて、
法七九条の二第六項(本件処分時は第五項)により老齢福祉年金に準用される法六
五条は、他の公的年金給付の受給者に対し、その受給額が一定の基準額を越える場
合、老齢福祉年金の支給を停止し、法七九条の二第一項、第二項に基づく老齢福祉
年金の受給権を制限しているが、最低限度の生活の保障という目的からみて、右制
限に合理的理由がない場合には、右制限は憲法二五条に違反するものといわなけれ
ばならない。そして、現在支給されている老齢福祉年金の額は極めて低額で、老齢
国民の生活を賄うには著しく不足しており、他方、恩給受給者の約八割以上の者が
最低生活を維持することができない状況にあることにかんがみると、高齢恩給受給
者に対し、基準額を極めて低く定め、老齢福祉年金の併給を制限することは、恩給
受給者の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害するものであり、合理的
理由を欠くものである。なお、国の財源に限界のあることをもつて右併給制度の正
当化の理由とすることはできない。すなわち、国の税収入は、国の最高法規である
憲法の趣旨に則してどのように配分するかを決定すべきものであり、国民の健康で
文化的な生活を営む権利は国の諸施策の中で最も優先、尊重されるべきものであ
り、恩給受給者に老齢福祉年金を併給することは、現在の国家財政上不可能でない
ことは勿論、著しく困難なことでもないからである。
三 被控訴人の主張
1 控訴人は、老齢年金は将来の老齢という事故に備える制度であるのに対し、老
齢福祉年金は現代の老人の生活保障という要請に基づくものであると主張するが、
右は、拠出制老齢年金のほかに無拠出制の老齢福祉年金が設けられた理由を述べて
いるにすぎず、両年金の基本的差異を指摘しているものではない。すなわち、老齢
福祉年金は、国民年金制度における拠出制を貫くと、制度実施の時点において既に
老齢、障害又は母子等の状態にある者及び将来保険事故が生じても保険料納付期間
が所定の期間に達しないため拠出制の受給権に結びつかない者に対しては、国民年
金制度の保障する利益を及ぼすことができず、国民皆年金の理想が全うされない結
果となるところから、その欠陥を補うための補完的、経過的な制度として設けられ
たものであるから、両年金の性格が基本的に異るということはできず、他の公的年
金制度の対象外に取り残されていた者に国民年金制度の保護を及ぼすことを目的と
する点において、両者の間にはなんらの差異も存しない。したがつて、公的年金給
付の受給者に老齢福祉年金を支給することは右目的にそわないものであるから、原
則としてこれを支給しないこととし、ただ、公的年金給付を受けていない者との権
衡上、例外として公的年金給付の額が福祉年金の額より低いときはその差額相当額
だけ老齢福祉年金を支給することとしたものである。法は、公的年金給付の受給者
も老齢福祉年金の受給資格者中に含め、一定の場合に老齢福祉年金の全部または一
部の支給を停止するという規定の仕方をしているが、これは、右の原則及び例外を
そのまま規定すると、公的年金給付及び老齢福祉年金の額が変動するたびにその差
額が変動し、老齢福祉年金の受給資格の内容のみならず、受給資格自体が発生した
り消滅したりする事態が生じ、その都度、受給権及び受給金額の裁定手続を経なけ
ればならず、老齢福祉年金給付の事務手続が非常に煩さとなるので、そのような不
都合を避け情勢の変化に即応し得るようにとの立法技術上の考慮によるものであ
る。
2 老齢福祉年金を含め、社会保険制度は、憲法二五条一項にいう健康で文化的な
最低限度の生活の保障を直接の目的として設けられたものではなく、その生活水準
の相対的向上を図る、より積極的な社会保障施策としての意義を有するものである
から、その給付額及び支給要件をどのように定めても憲法二五条一項違反の問題を
生ずる余地はなく、また、憲法二五条二項は、国が国民生活の向上、増進に努めな
ければならない生活水準の程度についてはなんら定めるところがなく、その水準を
憲法二五条一項の最下限以上にどの程度向上、増進させるかはすべて立法政策に委
ねられた問題であるから、社会保険制度における給付額及び支給要件について憲法
二五条二項違反の問題も生じない。
四 証拠関係(省略)
○ 理由
一 訴訟の承継についで
記録に編綴されている戸籍謄本(筆頭者A)によれば、本件控訴を申し立てた原審
原告Aが昭和五〇年一二月二九日死亡し、妻E、長女B、長男C、次男Dがその相
続人であることが認められる。そこで、右Aの死亡による本件訴訟の承継について
判断するが、本件については、控訴代理人として弁護士新井章ほかが亡Aによつて
選任されているから、同人の死亡により訴訟手続が中断するものではなく、したが
つて、訴訟承継人において訴訟手続を受け継ぐ必要のないことは、いうまでもな
い。
本件は、亡Aが、法八〇条二項本文の規定により昭和三九年一月二八目法七九条の
二の老齢福祉年金の受給資格を取得し、岡山県知事から、昭和四四年五月一二日付
で昭和三九年二月分以降の右年金受給権につき裁定を受けるとともに、恩給法によ
る普通恩給を受給していることを理由に、同月分以降の右年金の支給を停止する旨
の本件処分を受けたので、右処分が憲法二五条、一四条に違反し無効であるとし
て、被控訴人に対し、昭和三九年二月分から昭和四八年九月分までの老齢福祉年金
請求権の存在を主張し、その支払いを求めて提起した訴訟であり、老齢福祉年金受
給権に基、、つく請求権を訴訟物とするものである。ところで、右年金受給権は、
法二四条により譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができないとされてお
り、一身専属権と解すべきであるから、民法八九六条但し書により相続の対象とは
なり得ないものであり、したがつて、亡Aの相続人らは、本件の訴訟物である右年
金受給権にかかる亡Aの法律上の地位を承継するに由ないものといわざるを得ない
から、同人の相続人であることの故をもつて、本件訴訟の控訴人たる地位を承継し
た者ということができないことは明らかである。しかし、法一九条は、年金給付の
受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだそ
の者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母
又は兄弟姉妹であつてその者と生計を同じくしていたものは、右順序による順位に
従つて、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができると定めてい
るから、もし、亡Aの主張する老齢福祉年金請求権がその主張どおり存在するとす
れば、右請求権は、同人の死亡により、同人と生計を同じくしていたことに争いが
なく、かつ、法定の第一順位者に当る同人の妻Eが法一九条に基づいて取得すべき
ものである。そうとすれば、亡Aがその主張する老齢福祉年金の支払いを求めて提
起した本件訴訟における同人の当事者としての資格はEに移転したものと解するの
が相当であり、本件訴訟の控訴人たる地位は、同人において承継したものとすべき
である。
二 亡Aの老齢福祉年金受給権とその支給停止処分亡Aが、昭和三九年一月二八目
満七〇歳に達した日本国民として、法八〇条二項本文の規定により法七九条の二の
老齢福祉年金の受給資格を取得したこと、岡山県知事が、昭和四四年五月一二日付
で亡Aに対し、昭和三九年二月分以降の右受給権の裁定をするとともに、同人が恩
給法による普通恩給を受給していることを理由に、同月分以降の老齢福祉年金の支
給を停止する旨の本件処分をしたことは、当事者間に争いがない。
三 国民年金制度における老齢を支給事由とする年金についての概要
1 国民年金制度は、憲法二五条二項に規定する理念に基づき、老齢、廃疾又は死
亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、
もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とし(法一条)、老
齢、廃疾又は死亡に関して必要な給付を行うものである(法二条)が、その費用に
つき、社会保険の方式により保険料として被保険者が納付する拠出金と国庫の負担
金とをもつて充てるもの(法八五条一項、八七条ないし八九条)及び国庫負担金の
みをもつて充てるもの(法八五条二項)の二種類がある。前者がいわゆる拠出制年
金であり、後者がいわゆる無拠出制(福祉)年金である。
2 社会保険の方式による拠出制年金は、他の公的年金制度の対象から除外された
二〇歳以上六〇歳未満の国民を被保険者とする(法七条)が、昭和三六年四月一日
において五〇歳をこえる者は被保険者から除外され(法七四条)、ただ、右同日に
おいて五五歳をこえていない者は、都道府県知事に申し出て任意に被保険者となる
ことができる(法七五条)。被保険者は保険料を納付しなければならない(法八八
条一項)が、障害者、母子家庭又は一定以上の所得のない者等保険料を納付するこ
とが困難な者は、その納付を免除される(法八九条、九〇条)。拠出制年金のうち
老齢を支給事由とする老齢年金は、保険料納付済期間、保険料納付済期間と保険料
免除期間とを合算した期間又は保険料免除期間が二五年以上である者が六五歳に達
したときに支給する(法二六条)のを原則とするが、特例として、昭和五年四月一
日までに生れた者すなわち拠出制年金制度の発足の日である昭和三六年四月一日に
おいて三一歳をこえる者については、右年金受給資格期間を年齢に応じて二四年な
いし一〇年に短縮し(法七六条)、更に、大正五年四月一日以前に生れた者すなわ
ち前記の昭和三六年四月一日において四五歳をこえる者については、受給資格期間
を年齢に応じて七年ないし四年に短縮している(法七八条)。老齢年金の額は、保
険料納付済期間及び保険料免除期間に応じて定められる(法二七条、七七条、七八
条)。
3 無拠出制年金のうち老齢を支給事由とするものには、拠出制年金の被保険者で
ありながら、同年金の支給要件を充足しないためその支給を受けることができない
者に対し、支給要件を緩和して支給する老齢福祉年金(法七九条の二)と拠出制年
金の対象から除外された明治四四年四月一日以前に生れた者に対して支給する老齢
福祉年金(法八〇条)とがある。その支給額は法定されており(法七九条の二第四
項、但し、昭和三七年法律第九二号による改正前は法五四条)、制度発足当時は年
額一二、〇〇〇円であつたが、その後数次にわたつて改正された。右改正の経過は
別表のとおりである。
ところで、老齢福祉年金については支給を停止される場合があり、そのうち本件と
関連するものは次の二つの場合である。
(一) 老齢福祉年金の受給権者が公的年金給付を受けることができるとき(法七
九条の二第六項、六五条一項)。右の原則には例外があつて、一定の範囲において
公的年金給付の受給者に老齢福祉年金の併給が認められている(法七九条の二第六
項、六五条三項)が、その範囲は制度発足以来変遷している。すなわち、制度発足
当初は、老齢福祉年金の額が公的年金給付の額より多いときは、その差額相当の老
齢福祉年金の支給を停止せず併給することとされていたが、昭和三七年法律第九二
号による改正により、公的年金給付の額が二四、〇〇〇円に満たないときは、右金
額と公的年金給付の額との差額相当の老齢福祉年金(但し、老齢福祉年金額を限度
とする。)を併給することとされ、また、昭和四六年法律第一三号による改正によ
り、老齢福祉年金の額を二七、六〇〇円に増額すると共に、公的年金給付の額が右
老齢福祉年金の額に満たないときは、その差額相当の老齢福祉年金を併給すること
に改められ、ついで、昭和四七年法律第九七号による改正により、公的年金給付の
額が政令で定める額に満たないときは、その差額相当の老齢福祉年金(但し、老齢
福祉年金額を限度とする。)を併給することに改められ、政令で右金額は六〇、〇
〇〇円と定められ(国民年金法施行令五条の二)、その後、右併給限度額は別表の
とおり逐次増額されて来た。ところで、昭和三七年法律第九二号による法の改正の
際、公的年金給付のうち、戦争公務によるものについては、新たに特例が設けら
れ、公的年金給付が戦争公務によるもので、その額が七〇、〇〇〇円に満たないと
きは、その差額相当の老齢福祉年金(但し、老齢福祉年金の額を限度とする。)を
併給することとし(法六五条五項)、その後も右併給限度額は別表のとおり順次引
き上げられ、昭和四六年法律第一三号による改正後は、前記政令の定めにより、戦
争公務による公的年金給付のうち、准士官以下にかかるものの受給者に対する併給
制限が撤廃され、更に、昭和四七年には中尉又はこれに相当するもの意以下にかか
るものについて、昭和四八年には大尉又はこれに相当するもの以下にかかるものに
ついて、それぞれ政令の改正により、その受給者に対する併給制限が撤廃された。
右に述べた老齢福祉年金及び公的年金給付の各併給限度額の推移は別表のとおりで
ある。
(二) 老齢福祉年金の受給権者、その配偶者又は一定の範囲の扶養義務者の前年
の所得が一定の金額をこえるとき等(法七九条の二第六項により準用される法六六
条一項、但し、昭和四五年法律第一一四号による改正前は六五条六項、昭和三七年
法律第九二号による改正前は同条四項)。右金額の推移は別表のとおりである。
四 法八〇条の老齢福祉年金の趣旨
成立に争いのない甲第九、第一〇号証、乙第一ないし第五号証、第一四号証、第一
六ないし第一八号証、第二二号証によれば、次の事実を認めることができる。
国民年金制度は、厚生年金、恩給、各種共済組合年金、船員保険等在来の公的年金
制度が、一定の条件を備えた被用者のみを対象とし、国民の大半を占める農林漁業
者、自営商工業者、零細企業の被用者などは、右各種年金制度から取り残されてい
たところ、人口の老齢化、家族制度の崩壊、社会保険意識の高揚、戦後の経済復興
等の社会的要因を背景とし、国民皆年金の理念に基づいて、これら年金制度の外に
取り残されたすべての者に年金的保護を及ぼすために制定されたものである。そし
て、その立案に当つては、在来の各種年金制度がすべて拠出制を採用していたこ
と、老齢のような予測される将来の事態についてはもとより、身体の障害や配偶者
の死亡のような予測し難い事態についても、あらかじめ所得能力のあるうちに自ら
の力でできるだけの備えをすることが望ましいこと、無拠出制を建て前とすると財
政支出の急激な膨張が避けられず、将来の国民に過大な税負担を強いる結果となる
こと、拠出制とした場合その積立金の運用によつて生ずる利子をもつて制度の内容
の充実を図ることができることなどを考慮して、拠出制の年金を国民年金制度の基
本とすることとしたが、拠出制年金については、その費用の一部を国庫の負担とす
る仕組みをとることとするので、もし、拠出制年金のみを設けることとすれば、貧
困のため保険料を拠出した期間が不足するなど拠出制年金の支給要件を充足しない
者にはなんらの給付も行われず、保険料を拠出するゆとりがあつて拠出制年金の支
給要件を充足した者だけが、国から国庫負担を通じて援助を受けるという不公平な
結果となるところから、拠出制年金の支給要件を充足することができない者に対し
ても年金を支給し得るようにするため、無拠出制年金を補完的に設ける必要があ
り、また、拠出制年金だけで貫くと、制度発足当時既に老齢、廃疾又は死亡の事態
が発生している者(老齢者、廃疾者、母子家庭等)には年金的保護を及ぼすことが
できなくなるが、その解決策を示さない年金制度では制度創設の意義も半ば失われ
てしまうと考えられる一方、無拠出制年金を一定年齢以上の者に支給するという制
度を恒久的に設けることは、老齢人口の増加に伴う国庫負担の過大化、他の諸制度
との不均衡等の問題があつて事実上不可能であると考えられることから、既に老齢
等の事態が生じている者について、経過的措置として無拠出制年金を支給する必要
があるとの理由で、拠出制年金のほかに、無拠出制年金を補完的及び経過的なもの
として設けることとなつた。右基本的構想に基づき、法は、一般的に拠出可能と認
められる二〇歳以上六〇歳未満の者を拠出制年金の被保険者として強制加入させ、
保険料納付期間を二五年としたうえ、保険料納付義務について所定の要件を満たし
た者が六五歳に達したときに老齢年金を支給することを建て前とし、他方、右支給
要件を満たすに必要な保険料を納付することができなかつた者に支給する老齢福祉
年金を、補完的なものとして法五三条ないし五五条(昭和三七年法律第九二号によ
る改正後は法七九条の二)に定め、また、国民年金制度発足時に、六〇歳未満では
あるが、既に五五歳をこえていて保険料を納付しても老齢年金を受ける資格を取得
することができないため、拠出制年金の被保険者から除外される者に支給する老齢
福祉年金を、経過的なものとして法八〇条に定めた。
五 老齢福祉年金の公的年金給付の受給による支給制度の趣旨及び併給限度額の改
正経緯前掲甲第九号証、乙第一ないし第四号証、成立に争いのない乙第八ないし第
一三号証、第二〇号証、第二六号証、第二七号証の一、二によれば、次の事実が認
められる。
国民年金制度は、在来の公的年金制度の対象外に取り残されていた者に年金的保護
を及ぼすという国民皆年金の理念に基づいて創設されたものであり、老齢福祉年金
は、国民年金制度の基本である拠出制年金の保護の及ばない高齢者に対し、国民皆
年金の実をあげるため支給することにその趣旨があるものであるから、老齢福祉年
金を他の公的年金給付の受給者にも支給することは右趣旨にそわないこと、一般に
他の公的年金制度においても国庫は相当な負担をしているので、他の公的年金給付
の受給者に対し老齢福祉年金を併給するとすれば、国庫が二重の負担をする結果と
なり、殊に、他の公的年金給付の受給者に対し老齢福祉年金等の無拠出制年金を全
部併給するとすれば、国庫の負担が増大することなどの点を考慮し、公的年金給付
の受給者に対しては、老齢福祉年金を支給しないことを原則とし、ただ、例外とし
て、公的年金給付の受給者が受ける公的年金給付の額が老齢福祉年金より低額のと
きは、公的年金給付を受けない者との権衡上右受給者を保護する必要があるとし
て、前記のように、その者に対し老齢福祉年金との差額相当額の老齢福祉年金を併
給することとした。ところが、公的年金給付の受給者に対する右のような老齢福祉
年金の併給制限については、国民年金制度発足後、恩給法又は遺族援護法により旧
軍関係の扶助料、年金等の支給を受けている戦争犠牲者の側から、公務扶助料、増
加恩給などは、戦争による軍人、軍属の死亡又は傷病に対する国家補償であつて、
社会保障を目的とする老齢福祉年金とは性質を異にするものであるから、両者は当
然併給すべきものであり、また、戦争で息子を失つた父母などの遺族には老齢福祉
年金が支給されず、息子が生還している場合にはその父母に老齢福祉年金が支給さ
れるのは不合理であるとして、強い不満が表明され、恩給関係団体が併給を実現す
るための運動を強力に進めた。このような背景の下に、昭和三五年一〇月国民年金
審議会に併給小委員会が設けられ、同委員会において討議が重ねられた結果、併給
はすべての公的年金を対象として平等に行うものとすること、軍人恩給の公務扶助
料など戦争公務による公的年金給付には、生活保障的要素と精神補償的要素とが含
まれていることは認めるべきであり、他の一般の公的年金と区別した取扱いをする
こと、右区別の割合は普通扶助料と公務扶助料との比率を基準とすること、との結
論が出されたので、老齢福祉年金の公的年金との併給限度額について、戦争公務に
よる公的年金給付の場合と他の一般公的年金給付の場合とを区別し、一般公的年金
給付との併給限度額は二四、〇〇〇円としたのに対して、戦争公務による公的年金
給付との併給限度額は、兵にかかる恩給法による公務扶助料の普通扶助料に対する
倍率を参酌し、右二四、〇〇〇円の約三倍の七〇、〇〇〇円とする昭和三七年法律
第九二号による法の改正を見るに至つた。その後、戦争公務による公的年金給付は
逐次増額され、その都度、主として、従前老齢福祉年金の併給を受けることができ
た者が公務扶助料等の増額の結果老齢福祉年金の併給を受けることができなくなる
事態が生じないようにとの配慮から、老齢福祉年金の戦争公務による公的年金給付
との併給限度額が引き上げられ、昭和四六年一一月以降一部併給制限が撤廃される
までに至つたことは、前記のとおりである。これに対し、一般公的年金給付につい
ては、併給限度額が昭和四七年まで据え置かれたが、これは、併給限度額を引き上
げるよりも、むしろ、公的年金給付自体の充足を図るのが本来の在り方であるとさ
れたからであり、その結果、年金額の増額、最低保障額の引上げ等の措置が講じら
れて来た。
以上の事実によれば、老齢福祉年金は、これを設けた趣旨に財政上の理由も加わつ
て、公的年金給付の受給者にはこれを支給しないことを原則とし、例外として、公
的年金給付の受給者に、少くとも老齢福祉年金なみの金額を最低保障をするため、
一定限度内でその併給をすることとなつたものであることは明らかであり、また、
戦争公務による公的年金給付については、生活保障的要素のほかに、軍の命令によ
り戦地等に駆り出され、強制的に戦争の遂行に協力させられ、酷烈な環境下で生命
の危険にさらされつつ公務に従事し、これに起因して死亡し、又は傷害を受けた戦
争の最大の犠牲者ともいうべき旧軍人、軍属及びその遺家族の精神的損害に対する
国家補償的要素が含まれているとして、その給付額が一般公的年金給付の額より概
して高額に定められて来たこと、老齢福祉年金の併給も、右生活保障的要素との関
係においてのみ制限するとの基本的前提に立つものであることが十分推認される。
なお、老齢福祉年金の受給権者又は一定範囲の扶養義務者の前年の所得が一定の金
額をこえるときにも、その支給が停止されることは前記のとおりであるが、前提各
証拠によれば、これは、右年金の財源が全部国庫の負担となつているところから、
ある程度以上の所得があつて所得保障の必要度が低い者にこれを支給するめは適当
ではない、との理由に基づくものであることが認められる。
六 老齢福祉年金の支給停止と憲法二五条
憲法二五条一項は、すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有
すると定め、いわゆる生存権の保障をしているが、右規定は、個々の国民に対して
具体的、現実的な請求権を付与したものではなく、国が、国民一般に対して、概括
的に、健康で文化的な最低限度の生活を保障する責務を負い、右保障をすることを
国政上の任務とすることを明らかにしたもの、換言すれば、すべての国民が健康で
文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国の責務として宣
言したものである。したがつて、国民は、右規定により直接、国に対し健康で文化
的な最低限度の生活を保障すべきことを請求し得るものではなく、右規定の理念を
実現する立法がなされることによつてはじめて具体的、現実的な請求権を取得する
ものであり、その反面、国は、右規定により当然、国民に対し健康で文化的な最低
限度の生活を保障するため、社会的立法を制定し、社会的施策を実施するよう努め
るべき責務を負うものである。生活保護法は、憲法二五条一項の理念に基づき、国
が生活に困窮するすべての国民に対し健康で文化的な最低限度の生活を保障するこ
とを目的として制定されたもので(同法一条、三条)、生活に困窮する者が、その
利用し得る資産、能力その他あらゆるものを活用したうえでなお最低限度の生活を
維持することができない場合に、必要な保護を行うものであり(同法四条)、した
がつて、保護の実施に当つては、その必要性を確かめるための資力調査を当然の前
提とし、保護の内容も個別的事情に応じて異り(同法一一条ないし一八条)、同法
が、公的扶助制度として、憲法二五条一項の理念を具体化するための施策であるこ
とは明らかである。
次に、憲法二五条二項は、国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及
び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないと定めている。右規定は、ひつ
きよう、国には、国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障する同条一項に基づ
く責務があるのみならず、更に、広く社会的施策を拡充、強化し、国民の社会生活
水準の確保及び向上に努めるべき責務もあることを宣言したものである。すなわ
ち、国は、単に、健康で文化的な最低限度の生活を維持することができない者を救
済するだけにとどまらず、国民がそのような事態に陥ることをあらかじめ防止し、
更に進んで、国民の社会生活水準を確保し、向上させるよう、あらゆる施策を実施
すべき責務を負担しているものである。要するに、憲法二五条は、国が行うこれら
の諸施策が総合されて、結局、すべての国民が、健康で文化的な最低限度の生活を
維持し得るのみならず、更に、その生活水準を向上させて行くことができるような
仕組みとなるように、国政を運用することを要求しているものであつて、同条二項
に基づく諸施策が、それぞれ単独で最低限度の生活の保障を実現するに足りるもの
であることを要求しているものではなく、また、右諸施策については、それが国民
の健康で文化的な最低限度の生活の維持を不可能にするものでない限り、それぞれ
に、いかなる目的を付し、いかなる役割機能を分担させるか、あるいは、いかなる
要件の下にいかなる法的保護を国民に与えるかは、立法政策の問題として立法府の
裁量に委ねられているものと解すべきであり、このような立法政策に属する事項に
ついては、政治上その当否の批判を受けることはあつても、憲法二五条違反の問題
を生ずることはないというべきである。
ところで、前記四で認定した法八〇条の老齢福祉年金が設けられた理由にかんがみ
ると、老齢福祉年金は、憲法二五条二項に基づく施策の一つである国民年金制度の
一環をなすものであつて、健康で文化的な最低限度の生活を保障することにその目
的が存するものでないことは明らかである。もつとも、老齢福祉年金は、無拠出制
でその給付財源のすべてが国庫負担となつている点において、憲法二五条一項の理
念を実現する公的扶助としての生活保護法に基づく生活保護と共通する面がある
が、生活保護が、前記のように、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを
活用したうえでなお最低限度の生活を維持することができない者に対して、必要な
保護を行うものであり、保護の実施に当つては、資力調査を当然の前提とし、保護
の内容も個別的事情に応じて異るのに対し、老齢福祉年金は、前記のように、一定
限度以上の所得による制限はあるものの、明治四四年四月一日以前に生れた者に対
し、七〇歳に達したことのみを要件として一定の金額を一律に支給するもので、そ
の者が自己の所得、資産、能力等のみにより最低限度の生活を維持することができ
るかどうかを問題としない点において、本質的な相違があり、老齢福祉年金の給付
財源を全額国庫負担としたのは、国民皆年金の理念と社会連帯の思想心に基づく社
会保障推進のための政策的配慮による特別の措置にすぎない。すなわち、生活保護
が、貧困者に対する事後的、補足的な救貧施策としての生活保障であるのに対し、
老齢福祉年金は、老齢国民の生活水準の維持、向上を図るため、その所得の一部を
保障し、生活の安定に寄与しようとするもので、事前的な防貧的施策としての所得
保障である。
控訴人は、老齢福祉年金が老齢国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障するこ
とを目的とするものであることの理由の一つとして、法が他の公的年金給付の受給
者にも老齢福祉年金の受給権を認め、一定限度内で他の公的年金との併給を認めて
いることを挙げる。確かに、法は、一定の要件に該当する者すべてに対し老齢福祉
年金の受給権を認めたうえで、受給権者が公的年金給付を受けることができるとき
は、老齢福祉年金の支給を停止することとし、更に、例外として、公的年金給付の
額が一定の金額に満たない場合に、右金額と公的年金給付の額との差額相当額の老
齢福祉年金を併給するという規定の仕方をしている。しかし、前記五で認定した右
支給停止の規定が設けられることになつた理由に照すと、法が右のような規定の仕
方をしたのは、公的年金給付の受給者は、すべて老齢福祉年金の支給対象から除外
し、例外として、公的年金給付の額が老齢福祉年金より低額な者に対しその差額相
当額だけの老齢福祉年金を支給するということをそのまま現定すると、公的年金給
付及び老齢福祉年金の額が変動するたびに差額が変動し、老齢福祉年金の受給資格
の内容のみならず、受給資格自体が発生したり消滅したりする事態が生じ、その都
度、受給権及び受給金額の裁定手続を経なければならず、老齢福祉年金給付の事務
手続が非常に煩さになり、情勢の変化に即応し得ないという不都合が生ずるので、
かかる事態を避けるための立法技術上の理由に基づくものと解し得るから、法の規
定の仕方から老齢福祉年金の目的を論ずることは相当でない。
控訴人は、老齢福祉年金について、受給権者が公的年金給付を受けることができる
ときは、その支給を停止する旨定めた法の規定及びこれに基づいてなされた本件処
分は、憲法二五条に違反して無効であると主張する。
しかし、老齢福祉年金は、前記のように、国民年金制度の一環として設けられたも
のであつて、憲法二五条一項にいう健康で文化的な最低限度の生活の保障を直接の
目的とするものではなく、また、国民は右規定により直接国に対し右最低限度の生
活の保障をすべきことを請求すべき権利を有するものではないから、仮に、亡Aの
所得が普通恩給の給付のみで、それだけでは最低限度の生活の維持が不可能であつ
たのにかかわらず、老齢福祉年金の支給が停止されたものであるとしても、老齢福
祉年金の支給停止の本件処分が亡Aの憲法二五条一項に基づく権利を侵害したもの
とはいえず、したがつて、右支給停止を定めた法の規定について憲法二五条一項違
反の問題が生ずることはないというべきであり、更に、国民年金制度は、他の公的
年金制度の対象から除外された者に年金的保護を及ぼすことを目的とし、老齢福祉
年金は、その一環として、同制度の基本である拠出制年金の保護を受けることがで
きない老齢者に支給すべきものとして設けられた補完的、経過的なものであるた
め、公的年金給付を受けることができる者については、一定の場合その支給を停止
し、又は制限することとされたものであることは前記のとおりであるが、年金的保
護をいかなる範囲の者に及ぼすかは立法政策の問題として立法府の裁量権の範囲に
属するものであり、国民年金制度及び老齢福祉年金が設けられた前記認定の趣旨、
経緯に照らせば、右のように、公的年金給付を受けることができる者については、
原則として年金的保護を与えないものとし、老齢福祉年金の支給を停止し、又は制
限することは、右裁量権の行使を著しく誤つたものとは認められないから、右支給
制限に関する法の規定が憲法二五条二項に違反するということはできない。なお、
控訴人は、右規定は、公的年金給付の受給者が一定の要件の充足により一旦取得し
た老齢福祉年金の受給権を制限するものであり、右制限には合理的理由がないから
憲法二五条に違反する旨主張する。しかし、法の規定の仕方は論理上控訴人主張の
とおりではあるが、老齢福祉年金は、それが設けられた当初から、公的年金給伶の
受給者に対しては支給すべきものではないとされ、例外として、一定限度内で公的
年金給付との併給が認められて来たものであり、法の規定の仕方は立法技術上の理
由に基づくものと解されることは、前記のとおりであるから、右支給制限に関する
規定は、当初無条件に付与した受給権を後の立法によつて制限したものではなく、
したがつて、右を前提とする控訴人の右主張は採用できない。
七 老齢福祉年金の支給停止と憲法一四条
1 公的年金給付の受給者とその他の者との取扱いの差別について憲法一四条は、
国民の法の下における平等の原則を宣言しているが、同条といえども、差別を絶対
的に禁止しているものではなく、合理的な理由に基づいて差別をすることが、同条
に違反するものでないことはいうまでもない。
法は、公的年金給付を受けることができる者について、右給付の額が老齢福祉年金
の額に満たない場合にその差額分相当の老齢福祉年金を併給するほかは、老齢福祉
年金の支給を停止することとしているが、その理由が、老齢福福祉年金を公的年金
給付と併給することは、国民年金制度及び老齢福祉年金の趣旨に反すること、一般
に他の公的年金制度においても国庫が相当な負担をしているから、公的年金給付の
受給者に対して老齢福祉年金を併給するとすれば、国庫が二重の負担をする結果と
なり、殊に公的年金給付の受給者に老齢福祉年金等の無拠出制年金を全部併給する
とすれば、国庫の負担が増大することなどの点が考慮され、ただ、公的年金給付を
受けない者との権衡上、公的年金給付の受給者に少くとも老齢福祉年金なみの金額
を最低保障することとされたことにあることは、前記のとおりであり、右によれ
ば、公的年金の受給者に対し、他の者と異なり、老齢福祉年金の支給を制限したこ
とには合理的理由があるものというべきである。そして、また、亡Aが受給してい
た普通恩給は、公務員として法定の年数以上在職した者が退職したときに(恩給法
四五条)、退職時の俸給年額と在職年数に応じて所定の方法で算出される額(同法
六〇条、六三条)を支給する年金(同法二条)であつて、老齢福祉年金と同様、所
得保障としての性格を有するものであることは否定できないところであり、かつ、
恩給を受くべき公務員は恩給納金として若干の拠出をすべきことになつてはいる
(同法五九条)ものの、恩給の財源は全額国庫の負担である(同法一六条)から、
普通恩給の受給者に対し、老齢福祉年金の併給を前記の理由により制限したからと
いつて、不合理であるということはできない。
控訴人は、同一人に対する複数の給付の併給調整が合理性をもつためには、各給付
が、平均化した水準に達しており、かつ、併給を調整されても止むを得ない程度の
水準に達していることが必要であると主張するが、右のとおり、公的年金給付の受
給権者に対し老齢福祉年金の併給を制限することについては一応の合理的理由が認
められ、また、各種年金の給付額は、当該年金の性格、拠出の有無、拠出額、社会
事情、国の財政事情等、諸般の事情を総合して決められる立法政策の問題であるか
ら、控訴人の右主張は、併給調整の在り方としての老齢福祉年金の併給制限の当否
についての批判としては格別、右併給制限を違憲と断ずる根拠とはなり得ない。
2 公的年金給付のうち戦争公務によるものとその他のものとの取扱いの差別につ
いて
昭和三七年法律第九二号による法の改正以来公的年金給付のうち戦争公務によるも
のとその他のものとが、老齢福祉年金の併給制限について異なつた取扱いを受けて
来たことは、前記三において判示したとおりである。しかし、老齢福祉年金の支給
制限の趣旨、公的年金給付との併給限度額の推移及び戦争公務による公的年金給付
と一般公的年金給付の間に老齢福祉年金の併給について取扱いを区別することとな
つた経緯は、前記五において認定したところであり、これらによれば、戦争公務に
よる公的年金給付の額が一般の公的年金給付の額より概して高額に定められている
のは、前者が生活保障的要素と精神的損害に対する国家補償的要素とを含んでいる
ことによるものであるから、右のように給付額に差を設けたことには相当の理由が
あるものというべく、老齢福祉年金の併給制限に関し、戦争公務による公的年金給
付につき特別な取扱いがなされて来たのは、右公的年金給付のうち生活保障的要素
部分についてのみ老齢福祉年金の併給を制限するとの基本的前提によるものであつ
て、老齢福祉年金の併給制限の趣旨にかんがみ相当の措置というべきであり、ま
た、戦争公務による公的年金給付のうち生活保障的要素部分と国家補償的要素部分
との比率をどのようにするかは、立法政策にすぎず、立法府は、例えば、生活保障
的要素部分を零とし、この部分を他の年金制度に代替させることも裁量をもつて定
めることができるものであり、戦争公務による公的年金給付について、老齢福祉年
金との併給限度額が漸次引き上げられ、一般公的年金給付の場合の併給限度額との
間の差が次第に開いたのは、時勢の推移によつて戦争公務による公的年金給付の受
給者の特別な立場に対する理解、評価が変化したため、立法府が、その裁量権にづ
き、国民感情及び財政事情を考慮のうえ、右公的年金給付のうちの国家補償的要素
部分の生活保障的要素部分に対する比率を次第により大きく評価した結果によるも
ので、大尉又はこれに相当するもの以下にかかる公的年金給付について、老齢福祉
年金の併給制限が撤廃されたのも、右公的年金給付を国家補償的なものとし、生許
保障的要素部分はすべて老齢福祉年金に代替させることとした結果によるものであ
ると解することができるから、右措置をもつて、立法府の裁量権の範囲を逸脱した
ものとは認めることはできない。
3 公的年金給付の受給者と一般所得者との取扱いの差別について
前記のとおり、法は、老齢福祉年金の受給権者が公的年金給付を受けることのでき
るときに、老齢福祉年金の併給を制限しているほかに、老齢福祉年金の受給権者の
前年の所得が一定の金額をこえるときにも、老齢福祉年金の支給を制限することと
しており、そして、前者の併給制限基準額と後者の支給制限基準額は別表のとおり
であり、その間にはかなりの相違がある。
ところで、法は、一般所得による老齢福祉年金の支給制限の事由となる所得の範囲
及びその額の計算については、公的年金給付も他の所得となんら区別せず所得とし
て取り扱つているのであるが、控訴人は、右基準額に相違を設けるのは、所得の一
部に公的年金給付のある者とそうでない者との間で取扱いを異にするものであり、
不合理な差別であると主張する。しかし、公的年金給付の受給者に対して老齢福祉
年金の併給を制限したのは、前記のとおり、国民年金制度が、在来の公的年金制度
の対象外に取り残されていた者に年金制度の保護を及ぼすという国民皆年金の理念
に基づいて創設されたものであるため、現に他の公的年金によつて保護を受けてい
る者に重ねて老齢福祉年金を支給することは、国民年金制度の本来の趣旨に反する
ことと国家財政上の理由とに基づくものであるのに対し、一般所得による老齢福祉
年金の支給制限は、前記のとおり、右年金の財源が全部国庫の負担となつていると
ころから、ある程度以上の所得があつて所得保障の必要度が低い者にこれを支給す
るのは適当でないとの理由によるものであつて、それぞれその趣旨、目的を異にす
るものである。したがつて、右各制限基準額に差異があるからといつて、なんら不
合理な差別ということはできず、また、右差異が著しく不合理で立法府の裁量権の
範囲を逸脱したものとも認められないから、控訴人の右主張は理由がない。
4 結局、老齢福祉年金の受給権者が公的年金給付を受けることができるときは、
その支給を停止する旨定めた法の規定及びこれに基づいてなされた本件処分は、憲
法一四条に違反して無効であるとの控訴人の主張は、すべて理由がないことに帰す
る。
八 以上の次第で、老齢福祉年金の支給停止を定めた法の規定が憲法二五条及び一
四条に違反し無効であることを前提とし、右規定に基づく本件処分の無効を理由と
する控訴人の本訴請求は、その前提である憲法違反の主張が認められない以上、理
由のないことは明らかであり、棄却を免れない。
よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すること
とし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決
する。
(裁判官 田宮重男 新田圭一 真榮田 哲)
別表

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛