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最高裁判例


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平成20年4月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第26738号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成20年3月7日
判決
東京都多摩市<以下略>
原告京西クリエイト株式会社
同訴訟代理人弁護士中山徹
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社アドバンサーブ
同訴訟代理人弁護士石嵜信憲
同延増拓郎
同義経百合子
同小森光嘉
東京都中央区<以下略>
被告株式会社ウチダ人材開発センタ
同訴訟代理人弁護士毛受久
主文
1被告株式会社アドバンサーブは,原告に対し,71万3853円及び
これに対する平成18年12月14日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2原告の被告株式会社アドバンサーブに対するその余の請求及び被告株
式会社ウチダ人材開発センタに対する請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告に生じた費用の50分の4及び被告株式会社アドバ
ンサーブに生じた費用の50分の7を被告株式会社アドバンサーブの負
担とし,原告及び被告株式会社アドバンサーブに生じたその余の費用並
びに被告株式会社ウチダ人材開発センタに生じた費用を原告の負担とす
る。
4この判決は,第1,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告株式会社アドバンサーブは,別紙被告教本目録記載の教本を複製し,販
売してはならない。
2被告株式会社アドバンサーブは,原告に対し,326万1542円及びこれ
に対する平成18年12月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
3被告株式会社ウチダ人材開発センタは,別紙被告教本目録記載の教本を販売
してはならない。
4被告株式会社ウチダ人材開発センタは,原告に対し,176万1542円及
びこれに対する平成18年12月13日(訴状送達の日の翌日)から支払済み
まで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告株式会社アドバンサーブ(以下「被告アドバンサーブ」とい
う。)が,原告に無断で,原告が著作者である「ネットワーク基礎」と題する
別紙原告教本目録記載の教本(以下「原告教本」という。)を複製し,著作権
者を被告アドバンサーブ,書名を「LAN・ネットワーク設計コース」とする
別紙被告教本目録記載の教本(以下「被告教本」という。)を作成したことに
ついて,原告が,被告アドバンサーブの上記行為は,原告の著作権(複製権)
及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害し,かつ,今後も侵害
するおそれがあると主張して,被告アドバンサーブに対し,侵害の停止又は予
防として,被告教本の複製,販売の差止めを請求するとともに,著作権侵害及
び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求し,また,被告株式会
社ウチダ人材開発センタ(以下「被告ウチダ」という。)が被告教本を販売し
たことについて,原告が,被告ウチダの上記行為は,原告の著作権(複製権)
を侵害する行為によって作成された被告教本を情を知って頒布することにより
原告の著作権を侵害し(著作権法113条1項2号),かつ,今後も侵害する
おそれがあると主張して,被告ウチダに対し,侵害の停止又は予防として,被
告教本の販売の差止めを請求するとともに,著作権侵害の不法行為に基づく損
害賠償を請求する事案である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
原告は,コンピュータ,ネットワーク,ソフトウェア,計測関連の技術者
養成及び教育事業等を目的とする株式会社である。
被告アドバンサーブは,情報システムの企画,開発,製作及び販売業務等
を目的とする株式会社である。
被告ウチダは,労働者派遣業務,紹介予定派遣業務及び有料職業紹介業務
等を目的とする株式会社である。
(2)被告アドバンサーブの設立の経緯
A,B,C及びD(以下,これらの4名を合わせて「Aら」という。)は,
原告の研修業務を担当する部署であるシステム技術部に所属していた。
Aは,平成17年6月20日に,B及びCは,同年9月20日に,Dは,
同月30日に,それぞれ原告を退社した。(甲4ないし7)
被告アドバンサーブは,平成17年9月7日,設立された。Aは,被告ア
ドバンサーブの代表取締役に就任し,B,C及びDは,同被告の取締役に就
任した。(弁論の全趣旨)
(3)原告と被告ウチダの契約関係等
被告ウチダは,平成14年ころ,NTTラーニングシステムズ株式会社
(以下「NTTラーニング」という。)との間で,NTTラーニングが主催
し,社団法人情報通信設備協会に対して行う,米国シスコ社の認定試験であ
るCCNA(CiscoCertifiedNetworkAssociate)試験の合格に向けた研
修(以下「ネットワーク研修」という。)に関し,被告ウチダが,ネットワ
ーク研修の講師の派遣に関する業務を行い,NTTラーニングが,同業務に
対する報酬を支払うとの契約を締結した。
また,被告ウチダは,同じころ,原告との間で,原告が,その社員をネッ
トワーク研修の講師として派遣し,被告ウチダが,講師派遣に対する報酬を
支払うとの契約を締結した。
被告ウチダは,平成15年及び平成16年においても上記契約と同一の内
容の契約を締結した。
原告は,上記各契約に基づき,平成14年から平成16年までの間に実施
されたネットワーク研修に講師を派遣した。
(丙3,弁論の全趣旨)
(4)原告教本
Aらを含む,原告のシステム技術部に所属していた社員らは,平成16年
2月ころ,ネットワーク研修に用いる教材として,「ネットワーク基礎」と
題する教本(第1版,甲32)を作成し,同年5月ころ,同教本の改訂版
(第2版,甲33)を作成した。これらの教本を一部手直しした教本は,原
告から被告ウチダに販売され,平成16年に行われたネットワーク研修にお
いて使用された。(丙3,弁論の全趣旨)
原告教本は,上記教本の改訂版(第3版)であり,その内容は一部の章を
除き,第1版及び第2版と同一である。原告教本の表紙を除くページの欄外
には「KyosaiCreate,Inc.AllRightsReserved.」との記載があり,末©
尾のページには「著者京西クリエイト株式会社システム技術部」との記
載がある。(甲1,弁論の全趣旨)
(5)被告教本
被告教本の本文及び目次は,別紙被告教本目録記載の第7章「顧客のニー
ズと目標の識別」及び第12章「セキュリティ」が加えられ,第4章に異な
る表題が付されているほかは,原告教本の本文及び目次と同一である。
被告教本には,原告教本と異なる書名が付されているほか,「本書の著作
権は株式会社アドバンサーブにあります。」との記載があり,原告の名称は
表示されていない。
(甲1,2)
(6)被告アドバンサーブと被告ウチダとの契約関係等
被告ウチダは,平成17年8月下旬ころ,NTTラーニングとの間で,被
告ウチダが,ネットワーク研修の講師の派遣に関する業務を行い,NTTラ
ーニングが,同業務に対する報酬を支払うとの契約,また,被告ウチダが,
ネットワーク研修で使用する教本をNTTラーニングに販売し,NTTラー
ニングが,その代金を支払うとの契約を締結した。(丙3,弁論の全趣旨)
また,被告ウチダは,同じころ,被告アドバンサーブとの間で,被告アド
バンサーブが,その社員をネットワーク研修の講師として派遣し,被告ウチ
ダが,講師派遣に対する報酬を支払うとする契約,さらに,被告アドバンサ
ーブが,ネットワーク研修で使用する教本を作成して販売し,被告ウチダが,
教本の作成費用及び代金を支払うとの契約を締結した。(丙3,弁論の全趣
旨)
被告ウチダは,上記契約に基づき,平成17年実施のネットワーク研修へ
の講師派遣並びに教材の作成及び販売を被告アドバンサーブに依頼し,同年
9月以降に実施したネットワーク研修について,原告には依頼しなかった。
被告アドバンサーブは,上記契約に基づき,平成17年に実施されたネッ
トワーク研修用の教本として作成した被告教本79冊を,被告ウチダに対し
て販売した。(乙7の1ないし4,弁論の全趣旨)
被告ウチダは,上記契約に基づき,NTTラーニングに対し,被告アドバ
ンサーブから購入した被告教本を販売した。(丙4の1ないし4,弁論の全
趣旨)
(7)別件訴訟の概要
原告は,本件訴えの提起に先立ち,被告アドバンサーブが,平成17年9
月ころから同年11月ころにかけて,被告教本と内容の類似する教本(以下
「別件被告教本」という。)を作成,販売したことにより,原告教本に係る
原告の著作権及び著作者人格権を侵害したとして,平成18年2月2日,東
京地方裁判所に対し,被告アドバンサーブ等を被告として,損害賠償の支払
等を求める訴訟を提起した(同裁判所平成18年(ワ)第2012号。以下
「別件訴訟」という。)。
別件訴訟においては,平成18年8月3日,被告アドバンサーブ等が原告
の著作権及び著作者人格権を侵害したことを認めるとともに,原告に対し,
連帯して,損害賠償金として100万円を支払うこと等を内容とする訴訟上
の和解が成立した。(乙1)
2争点
(1)原告教本の職務著作性
(2)被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の成否
(3)被告アドバンサーブに対する差止めの必要性
(4)被告アドバンサーブに対する損害賠償請求の可否
ア被告アドバンサーブの故意又は過失の有無
イ損害額
(5)被告ウチダに対する差止請求の可否
アみなし侵害(著作権法113条1項2号)の成否
イ差止めの必要性
(6)被告ウチダに対する損害賠償請求の可否
ア不法行為の成否
イ損害額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(原告教本の職務著作性)について
〔原告の主張〕
原告教本は,原告の発意のもとに企画され,原告の従業員が職務上作成し,
原告の著作名義の下に公表された法人著作であるから,その著作者は原告であ
り,著作権及び著作者人格権は原告に帰属する。
〔被告アドバンサーブの主張〕
Aらが原告のシステム技術部に従事していたときに,Aを中心として同部の
社員が,自ら企画,立案して原告教本を作成したこと,原告教本の著作権及び
著作者人格権が原告に帰属していることは認める。
〔被告ウチダの主張〕
原告の主張は知らない。
2争点(2)(被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の成
否)について
〔原告の主張〕
被告アドバンサーブは,原告に無断で,原告教本に依拠し,これを複製して,
書名を「LAN・ネットワーク設計コース」とし,原告の名称が記載されてい
ない被告教本を作成した。
被告教本が平成15年のネットワーク研修で使用された教本(丙2。以下
「平成15年教本」という。)に基づいて作成されたとする被告ウチダの主張
及び原告が被告ウチダ及び同被告から委託を受けた者に対し平成15年教本の
複製及び改変を許諾したとする被告ウチダの主張は争う。
〔被告アドバンサーブの主張〕
被告アドバンサーブが,原告に無断で,原告教本に依拠し,これを複製して,
原告の名称が記載されていない被告教本を作成したことは認める。しかし,書
名については,原告は,ネットワーク研修で使用する目的で被告ウチダに販売
する教本に関し,被告ウチダの依頼により,「LAN・ネットワーク設計コー
ス」という書名で販売していたのであり,被告アドバンサーブが原告教本の書
名を「LAN・ネットワーク設計コース」と変更したのではない。
〔被告ウチダの主張〕
被告教本は,被告アドバンサーブが平成15年教本に基づいて作成したもの
であり,原告教本を複製,改変したものではない。
すなわち,原告は,平成15年8月ころ,NTTラーニングが独自に作成し
ていた教材と平成14年のネットワーク研修で用いられた資料とに基づいて,
平成15年教本を作成し,その電子データを被告ウチダに交付するとともに,
平成15年教本に関し,被告ウチダとの間で,①原告は,被告ウチダに対し,
NTTラーニングが主催するネットワーク研修で使用する場合に限り,平成1
5年教本を使用し,複製することを許諾すること,②原告は,被告ウチダに対
し,ネットワーク研修の内容等に応じて平成15年教本を改変することを許諾
すること,③原告は,NTTラーニングが主催するネットワーク研修で使用す
る場合に限り,被告ウチダから委託を受けた者に対しても,平成15年教本を
使用し,複製し,改変することを許諾すること,を合意した。
被告教本は,上記③の許諾に基づき,被告アドバンサーブが,平成15年教
本を複製し,これに別紙被告教本目録記載の第12章「セキュリティ部分」を
追加して作成したものである。
3争点(3)(被告アドバンサーブに対する差止めの必要性)について
〔原告の主張〕
被告アドバンサーブは,平成18年8月ころ,被告ウチダから,NTTラー
ニングからの購入の申込みがあったとして,被告教本100冊の購入の申込み
を受けたことがあった。被告アドバンサーブは,上記依頼を断ったものの,今
後,需要に応じて原告教本の複製や被告教本の作成を行う可能性があるため,
被告教本の作成,販売の差止めを求める必要がある。
〔被告アドバンサーブの主張〕
被告アドバンサーブは,被告教本とは全く内容の異なる全く別の教材である
新教本が完成したことにより,被告教本を作成,販売する必要がなくなったた
め,平成17年12月を最後に,被告教本の作成,販売を一切行っておらず,
今後も被告教本を作成,販売することは一切ない。
4争点(4)(被告アドバンサーブに対する損害賠償請求の可否)について
(1)被告アドバンサーブの故意又は過失の有無
〔原告の主張〕
原告教本は,被告アドバンサーブの取締役らが原告に在籍中に職務上作成
されたものであり,原告教本には,同教本の著作者が原告である旨の表示が
あるから,被告アドバンサーブは,原告教本の著作権及び著作者人格権が原
告に属することを当然に知っていた。
仮に,Aらが自らに著作権等の法的権利が帰属していると信じていたとし
ても,それは法律の錯誤にすぎないものであって,故意を阻却するものでは
なく,少なくとも過失が認められる。
〔被告アドバンサーブの主張〕
平成14年からネットワーク研修の講師として派遣された原告の社員らは,
原告代表者らから指示されることなく,各自の判断で,講義を分かりやすく
するための資料を作成し,受講者に提供しており,原告教本はこれらの資料
に基づいて作成されたものである。このため,Aらは,上記資料及び原告教
本の著作権及び著作者人格権が自己に帰属するものと信じていた。したがっ
て,被告アドバンサーブに著作権侵害及び著作者人格権の侵害についての故
意又は過失はない。
(2)損害額
〔原告の主張〕
ア著作権侵害による損害(著作権法114条1項)
(ア)原告は,原告教本を,講師の派遣と一体のものとして被告ウチダに
販売している。これにより得られる原告教本1冊当たりの利益の額は,
2万2298円である。
被告アドバンサーブは,被告教本を79冊作成して,被告ウチダに講
師の派遣と一体のものとして販売しており,この販売数に上記原告教本
1冊当たりの利益の額を乗じると,176万1542円となる。
(イ)仮にそうでないとしても,原告教本を教本単体で販売した場合に得
られる原告教本1冊当たりの利益の額は,原告教本1冊の販売額550
0円(甲9ないし13)から,原告教本1冊にかかる印刷代等の製造原
価2586円(甲16ないし21)を引いた,2914円である。
被告アドバンサーブは,被告教本79冊を被告ウチダに販売しており,
この販売数に教本単体で販売した場合の上記原告教本1冊当たりの利益
の額を乗じると,23万0206円となる。
イ著作者人格権侵害による損害
原告教本は,コンピュータ技術に関する教本であり,技術的正確性が要
求されること,原告教本は,原告のコンピュータ技術教育により蓄積され
た業績に基づいて作成された著作物であること,原告教本は,原告の業務
上の名誉,信用を表象するものであること等を総合すれば,著作者人格権
侵害による損害額は150万円が相当である。
〔被告アドバンサーブの主張〕
ア著作権侵害による損害
(ア)以下のとおり,原告には,原告教本の全部に相当する数量を原告が
販売することができないとする事情があるから,原告に損害はない(著
作権法114条1項ただし書)。
a原告教本を購入する者は,CCNA試験の問題傾向の変更等に伴っ
て原告教本が改訂されていくことを期待している。原告は,原告教本
を作成した社員のほとんどが原告を退社したため,原告教本を改訂す
る能力を失った。また,原告教本は,講義を分かりやすくするための
補助的なものにすぎず,教本単体としての価値はない。原告は,ネッ
トワーク研修の講師を担当していた社員のほとんどが原告を退社した
ため,講義を提供する能力を失った。
原告が原告教本を販売することができなかったのは,被告アドバン
サーブが被告教本を作成し,販売したからではなく,原告に原告教本
を改訂する能力及び販売する能力がなかったからである。
bCCNA試験は年に数回,継続的に変更されること,IT技術の革
新は非常にめまぐるしく,新しい技術が生まれても,すぐにより優れ
た高度な技術が生まれることから,原告教本の価値はない。原告が原
告教本を販売できなかったのは,原告教本の価値がなかったからであ
る。
(イ)仮に,原告に原告教本を販売することができないとする事情があっ
たとはいえないとしても,被告アドバンサーブは,被告ウチダに対し,
被告教本を1冊4000円で販売し(乙7の1ないし3),被告教本1
冊にかかる印刷代等の製造原価は2586円であるから(乙10),被
告アドバンサーブが被告教本を作成し,販売したことによって得た被告
教本1冊当たりの利益の額は,1414円であり,これに販売数79冊
を乗じた利益の額である11万1706円が,原告の被った損害額とい
うべきである。
イ著作者人格権侵害による損害
別件被告教本の作成及び販売による著作者人格権侵害によって生じた原
告の精神的損害と,被告教本の作成及び販売による著作者人格権侵害によ
って生じた原告の精神的損害は,同一の人格権侵害が同一の法人の同一の
行為によって生じたものであるから,別個に観念することはできない。し
たがって,原告の主張する精神的損害は,別件訴訟における和解の成立に
より既に慰謝されている。
5争点(5)(被告ウチダに対する差止請求の可否)について
(1)みなし侵害(著作権法113条1項2号)の成否
〔原告の主張〕
被告ウチダは,平成14年から平成16年まで,原告の社員が講師を担当
するネットワーク研修を継続的に行ってきたにもかかわらず,Aから原告の
教育事業を被告アドバンサーブが承継するとの説明を受けると,Aの説明の
真偽を原告に問い合わせるなどして確認することなく,平成17年のネット
ワーク研修の講師派遣並びに教材の作成及び販売を被告アドバンサーブに依
頼し,同被告から被告教本を購入して販売した。被告ウチダは,原告教本に
著作権者が原告であるとの表示があることを知っており,原告教本とほぼ同
一内容の被告教本には著作権者が被告アドバンサーブであるとの表示がある
から,被告ウチダは,著作権者の表示の変更が不合理であることを容易に認
識することができた。
また,原告は,平成17年10月7日,被告ウチダを訪れ,新しい人材を
採用したので教育事業を継続できる旨伝え,講師派遣の受注を依頼した。こ
れに対し,被告ウチダは,被告アドバンサーブに講師の派遣を依頼した事実
を原告に隠し,顧客からの受注が減少し,講師を独自調達できる状況にもな
っているので,希望には沿えないなどと説明した。被告ウチダは,原告の訪
問により,原告が従前どおり教育事業を継続して行っていることを知り,原
告の教育事業を承継するというAの説明が虚偽であることを知ったにもかか
わらず,被告アドバンサーブに講師の派遣を依頼した事実を原告に告げなか
った。
これらの事実によれば,被告ウチダは,被告教本が原告教本を無断で複製
したものであり,原告の著作権及び著作者人格権を侵害するものであること
を知っていたというべきであるから,被告ウチダが被告教本を販売した行為
は,著作権侵害とみなされる行為(著作権法113条1項2号)に該当する。
〔被告ウチダの主張〕
ア被告ウチダは,Aの説明に基づき,被告アドバンサーブが原告の教育事
業を承継したとの認識のもとに,被告アドバンサーブに講師派遣及び教本
の販売を依頼したものである。教本については,講師の裁量で講義が進ん
でいく関係もあって,被告アドバンサーブの講師に任せており,教本の内
容を,逐一確認していなかった。被告ウチダは,原告の教育事業を被告ア
ドバンサーブが承継したとの説明を信じていたものであり,被告教本が著
作権及び著作者人格権を侵害するものであるとの認識は全くなかった。
イ平成17年10月7日,原告の担当者が被告ウチダに来社したことは事
実である。しかし,この時期は,被告教本が使用された研修の2回目が終
了し,まもなく3回目が到来する時期であった。このとき,原告の担当者
からは,新しい人材を採用しており,教育事業は継続できるので,今後と
もよろしくお願いしたい旨の挨拶があり,原告でも教育事業を行うことに
なった程度の話しかなく,被告ウチダの担当者が,新しい講師を連れて来
社してほしい旨の話をしたところ,その後,原告からの連絡は全くなかっ
た。被告ウチダとしては,原告を研修事業の有効なパートナーであると到
底理解することはできなかった。この時点においては,既に被告教本が使
用された研修が行われ,終了間近となっているのであり,原告の担当者の
話も前記のとおりであるから,被告ウチダにおいては,被告教本の著作権
が問題となるなどと認識するはずもない。また,被告ウチダが,原告に対
し,どの会社に何を依頼したかを告知する義務などない。
(2)差止めの必要性
〔原告の主張〕
被告ウチダは,被告アドバンサーブが被告教本に代わる新たな教本を作成
した後も,平成18年8月ころ,NTTラーニングからの購入の申込みを受
けて,被告アドバンサーブに対し,被告教本100冊の購入の申込みをし,
被告アドバンサーブから被告教本の販売を断られると,今度は,原告に対し
て,原告教本100冊の購入の申込みをした。被告ウチダは,NTTラーニ
ングが主催する多くの研修に関して取引があるため,今後も,NTTラーニ
ングの要請に応じるため,原告教本を複製し,販売するおそれがある。
〔被告ウチダの主張〕
被告ウチダは,被告教本に著作権侵害の問題があると知ったからこそ,原
告に対して原告教本の購入の申込みをしたのであり,これは,被告ウチダが,
今後,原告に無断で原告教本及び被告教本を使用し,販売することがないこ
とを意味するものである。実際にも,被告ウチダは,原告から原告教本を購
入することができず,NTTラーニングへの販売を断念し,現在は,被告ウ
チダが独自に作成した教本を使用して研修を実施している(丙3)。また,
ネットワーク研修では,教本は補助的なものにすぎず,原告教本を使用する
必要はない。以上によれば,被告ウチダが,今後,原告教本を複製し,販売
して原告の著作権を侵害するおそれはない。
6争点(6)(被告ウチダに対する損害賠償請求の可否)について
(1)不法行為の成否
〔原告の主張〕
被告ウチダに著作権侵害及び著作者人格権侵害についての故意があるとい
うべきことは,前記5(1)〔原告の主張〕記載のとおりである。
被告ウチダは,原告の社員が講師を担当するネットワーク研修を継続的に
行ってきたのであるから,Aから原告の教育事業を承継するとの説明を受け
た際,Aの説明の真偽を確認する義務があったのに,その義務を怠り,被告
アドバンサーブとの間でネットワーク研修についての契約を締結した過失が
ある。また,被告ウチダは,原告教本に著作権者が原告であるとの表示があ
ることを知っており,被告教本には著作権者が被告アドバンサーブであると
の表示があるから,被告ウチダは,著作権者の表示の変更が不合理であるこ
とを容易に認識することができたのであり,被告ウチダには,著作権者の表
示の変更がいかなる経緯によってされたのかについて確認すべき義務があっ
たのに,その義務を怠った過失がある。さらに,原告が,平成17年10月
7日,被告ウチダを訪れた際,新しい人材を採用したので教育事業を継続で
きる旨伝えており,被告ウチダは,この時点で,少なくとも原告の教育事業
を承継するというAの説明が虚偽であることを知り得たものであるから,被
告ウチダには,被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害
を看過したことについての過失がある。
〔被告ウチダの主張〕
被告ウチダに著作権侵害及び著作者人格権侵害についての故意があったと
いえないことは,前記5(1)〔被告ウチダの主張〕記載のとおりである。
被告ウチダは,原告と被告アドバンサーブ及びAらとの関係について関知
するものではないから,被告ウチダにAの説明の真偽を確認する義務はない。
また,被告ウチダやNTTラーニングにとって関心があるのは,研修の質で
あり,教本は研修を理解させるための補助的なものにすぎないこと,被告ウ
チダは,これまでの実績から原告を高く評価していたこと,研修は,講師の
裁量で進められるものであることから,被告ウチダは,教本の内容を原告の
講師らに一任していた。被告教本は,ネットワーク研修の講義があってこそ
価値のあるものであり,被告ウチダは,被告教本を教本単体で購入すること
を考えていなかったから,被告教本の内容を逐一確認する必要がなかった。
さらに,原告の担当者が被告ウチダに来社した平成17年10月7日の時点
においては,既に被告教本が使用された研修が行われ,終了間近となってお
り,また,原告の担当者の話も挨拶程度のものであったから,被告ウチダに
おいて,被告教本の著作権が問題となるなどと認識できたはずもなく,また,
被告ウチダが,原告に対し,どの会社に何を依頼したかを告知する義務はな
い。これらの事実に照らせば,被告ウチダが著作権者の表示が変更された経
緯を確認しなかったことに過失はない。
(2)損害額(著作権法114条1項)
〔原告の主張〕
ア原告は,原告教本を,講師の派遣と一体のものとして被告ウチダに販売
している。これにより得られる原告教本1冊当たりの利益の額は,2万2
298円である。
被告ウチダは,被告アドバンサーブから購入した被告教本79冊を,N
TTラーニングに対し,講師の派遣と一体のものとして販売しており,こ
の販売数に上記原告教本1冊当たりの利益の額を乗じると,176万15
42円となる。
イ仮にそうでないとしても,原告教本を教本単体で販売した場合に得られ
る原告教本1冊当たりの利益の額は,原告教本1冊の販売額5500円
(甲9ないし13)から,原告教本1冊にかかる印刷代等の製造原価25
86円(甲16ないし21)を引いた,2914円である。
被告ウチダは,被告教本79冊をNTTラーニングに販売しており,こ
の販売数に教本単体で販売した場合の上記原告教本1冊当たりの利益の額
を乗じると,23万0206円となる。
〔被告ウチダの主張〕
ア以下のとおり,原告には,原告教本の全部に相当する数量を原告が販売
することができないとする事情があるから,原告の損害はない(著作権法
114条1項ただし書)。
(ア)ネットワーク研修では,研修の質が重要であり,教本は補助的なも
のにすぎず,原告教本を使用する必要はなかった。また,Aらの退社に
より,原告にはネットワーク研修の講師を担当することのできる者がい
なかった。さらに,平成17年10月7日,原告の担当者が被告ウチダ
に来社した際,被告ウチダの担当者が,原告の担当者に対し,講師を連
れて来社してほしいと伝えたものの,原告からの連絡はなかった。
(イ)被告ウチダは,平成17年度のネットワーク研修に関し,仮に,被
告アドバンサーブとの間で講師の派遣及び教本の作成等に関する契約を
締結しなかったとしても,原告と同契約を締結することはなかった。
イ仮に,原告に原告教本を販売することができないとする事情があったと
はいえないとしても,被告ウチダは,被告アドバンサーブから,被告教本
を1冊4000円で購入し(乙7の1ないし3),NTTラーニングに対
し,1冊5000円で販売したから(丙4の1ないし4),被告ウチダが
被告教本を販売したことによって得た被告教本1冊当たりの利益の額は,
1000円であり,これに販売数79冊を乗じた利益の額である7万90
00円が,原告の被った損害額というべきである。
第4当裁判所の判断
1認定事実
上記争いのない事実等並びに証拠(甲1ないし3,甲31ないし35,乙1,
2,乙3の1,2,乙6ないし10,丙1ないし4の4,丙8,10)及び弁
論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1)被告ウチダは,平成14年ころ,NTTラーニングとの間で,被告ウチ
ダが,ネットワーク研修の講師の派遣に関する業務を行い,NTTラーニン
グが,同業務に対する報酬を支払うとの契約を締結し,また,同じころ,原
告との間で,原告が,その社員をネットワーク研修の講師として派遣し,被
告ウチダが,講師派遣に対する報酬を支払うとの契約を締結した。
平成14年に実施されたネットワーク研修においては,NTTラーニング
の準備した「LANネットワーク設計コース」と題する教本及び副読本とし
て「CCNA認定ガイド」と題する教本が使用された。同研修に派遣された
原告の講師らは,自己が担当する講義を分かりやすくするため,マイクロソ
フト社のパワーポイントを用いて資料(以下「平成14年資料」という。)
を作成し,これを講義の補足資料として使用した。
(2)被告ウチダは,平成15年にも,NTTラーニング及び原告との間で,
上記(1)と同一の内容の契約を締結した。
また,被告ウチダは,NTTラーニングとの間で,被告ウチダが,ネット
ワーク研修で使用する教本をNTTラーニングに販売し,NTTラーニング
が,その代金を支払うとの契約を締結し,さらに,原告との間で,原告が,
上記教本を作成して販売し,被告ウチダが,教本の作成費用及び代金を支払
うとの契約を締結した。
原告は,教本の作成及び販売に関する上記契約に基づき,平成15年教本
(丙2)を作成した。平成15年教本は,平成14年資料に,講師のコメン
トが加筆されるとともに,別紙被告教本目録記載の第7章「顧客のニーズと
目標の識別」と同一の内容の章が追加されたものである。
原告は,平成15年教本の電子データを被告ウチダ及びNTTラーニング
に交付した。NTTラーニングは,この電子データに基づき,受講者の人数
分の平成15年教本の印刷を行った。原告は,平成15年8月22日,被告
ウチダに対し,平成15年教本の作成費用として42万円を請求し(丙1),
同被告から同額の金員の支払を受けた。
(3)原告のシステム技術部に所属していたAらは,CCNA試験の内容が変
更されたことを機に,平成16年2月ころ,平成15年教本の内容を改訂し,
「ネットワーク基礎」と題する教本(第1版,甲32)を作成した。同教本
は,Aが原告教本の製本化にかかる費用等を原告代表者に報告し,その承諾
を得た上で作成された。また,原告から派遣された講師らは,上記教本の印
刷及び使用,取引先への販売等を原告代表者に報告していた。上記教本は,
平成16年5月ころ(第2版,甲33)及び平成17年7月ころ(第3版,
甲1),それぞれ改訂された。原告教本は,上記の第3版に当たるものであ
る。
これらの教本(第1版ないし第3版)の表紙を除くページの欄外には,
「KyosaiCreate,Inc.AllRightsReserved.」との記載があり,末尾の©
ページには「著者京西クリエイト株式会社システム技術部」との記載が
ある。
(4)被告ウチダは,平成16年にも,NTTラーニング及び原告との間で,
上記(2)と同一の内容の契約を締結した。
原告は,教本の作成及び販売に関する上記契約に基づき,平成16年度の
ネットワーク研修で使用する教本として,「LAN・ネットワーク設計コー
ス」と題する教本(以下「平成16年教本」という。)を作成した。
平成16年教本は,上記(3)の各教本(第1版又は第2版)に,第7章
「顧客のニーズと目標の識別」と題する章が追加されたものである。
原告は,平成16年教本の電子データを被告ウチダに交付し,被告ウチダ
は,この電子データに基づき,平成16年教本の印刷を行い,合計100冊
をNTTラーニングに納品した。
原告は,被告ウチダに対し,平成16年教本の作成費用として3万200
0円を請求し,同被告から同額の金員の支払を受けた。
(5)Aは,平成17年6月20日,原告を退社し,同年9月7日,被告アド
バンサーブを設立し,同被告の代表取締役に就任した。また,B,C及びD
は,同被告の取締役に就任し,その後,原告を退社した。
Aは,平成17年8月中旬ころ,被告ウチダを訪れ,同被告の担当者に対
し,原告を退社し,原告の教育事業を承継する新会社を設立し,そこで今後
もネットワーク研修に講師を派遣することは可能である,などと説明した。
被告ウチダは,同じころ,NTTラーニングから,これまでと同様のネッ
トワーク研修を実施したいとの提案を受けていたことから,NTTラーニン
グとの間で,ネットワーク研修の講師の派遣に関し,上記(4)と同一の内容
の契約を締結するとともに,被告アドバンサーブとの間で,被告アドバンサ
ーブが,その社員をネットワーク研修の講師として派遣し,被告ウチダが,
講師派遣に対する報酬を支払うとの契約を締結した。
また,被告ウチダは,ネットワーク研修で使用する教本に関し,NTTラ
ーニングとの間で,上記(4)と同一の内容の契約を締結するとともに,被告
アドバンサーブとの間で,被告アドバンサーブが,上記教本を作成して販売
し,被告ウチダが,教本の作成費用及び代金を支払うとの契約を締結し,同
年9月以降に実施したネットワーク研修については,被告アドバンサーブに
依頼し,原告には依頼しなかった。被告ウチダは,これらの契約の締結に当
たって,Aが原告の教育事業を承継するとの説明の真偽について,原告に問
い合わせをするなどして確認することをしなかった。
(6)被告ウチダは,平成17年度のネットワーク研修では平成16年度のネ
ットワーク研修の内容にセキュリティ分野を加えたいとのNTTラーニング
の要望を受けて,被告アドバンサーブに対し,平成16年教本にセキュリテ
ィ分野に関する記述を加えたものを,平成17年度のネットワーク研修の教
本とするよう,依頼した。
上記依頼を受けて,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役であるA
らは,原告に無断で,原告教本に依拠し,これを複製して被告教本を作成し
た。
被告教本の本文及び目次は,別紙被告教本目録記載の第7章「顧客のニー
ズと目標の識別」及び第12章「セキュリティ」が加えられているほかは,
原告教本の本文及び目次と同一である。被告教本には,原告教本の書名とは
異なる「LAN・ネットワーク設計コース」との書名が付され,「本書の著
作権は株式会社アドバンサーブにあります。」との記載があり,原告の名称
は記載されていない。
被告アドバンサーブは,被告教本の印刷を行い,合計79冊の被告教本を
被告ウチダに販売し,直接,NTTラーニングに納品した。
被告アドバンサーブは,被告ウチダに対し,被告教本の作成費用として2
0万円を,同教本の代金として1冊当たり4000円を請求し(乙7の1な
いし3),同被告から,上記20万円と被告教本57冊分の代金22万80
00円(被告アドバンサーブは,22冊分の代金8万8000円の請求を失
念していたものである。)の支払を受けた。
一方,被告ウチダは,上記(5)の契約に基づき,被告アドバンサーブから
購入した被告教本79冊のうち,受講者の人数と同数の63冊をNTTラー
ニングに販売し,NTTラーニングに対し,被告教本の代金として1冊当た
り5000円の請求を行い(丙4の1ないし4),NTTラーニングから,
31万5000円の支払を受けた。
(7)被告ウチダの担当者は,平成17年10月7日に原告の担当者が被告ウ
チダに来社した際,ネットワーク研修の講師派遣を被告アドバンサーブに依
頼した事実を告げなかった(原告は,被告ウチダが原告の受注の依頼に対し
て虚偽の説明をした旨主張し,甲第3号証等にその旨の記載があるものの,
丙第3号証に照らし,原告の上記主張は採用することができない。)。
(8)原告は,被告アドバンサーブに対し,平成18年1月19日付け書面で,
別件被告教本が原告教本を複製したものであって,原告の著作権及び著作者
人格権を侵害しているとして,別件被告教本の作成,販売を中止することを
求めた。これに対し,被告アドバンサーブは,同月26日付け書面で,別件
被告教本を既に販売しておらず,今後も使用,販売をすることはない旨を回
答した。
原告は,同年2月2日,被告アドバンサーブが別件被告教本を作成,販売
することにより,原告教本に係る著作権及び著作者人格権を侵害したとして,
東京地方裁判所に別件訴訟を提起した。別件訴訟においては,被告アドバン
サーブが原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことを認め,別件被告教
本を作成,販売しないことを約するとともに,慰謝料を含む損害賠償金とし
て100万円を支払うことを内容とする訴訟上の和解が成立した。被告アド
バンサーブは,別件訴訟において,被告教本についても一括して和解による
解決を求めていたものの,この点については合意に至らなかった。
(9)被告アドバンサーブは,被告教本及び別件被告教本を平成17年12月
まで販売していたものの,それ以降は,これらの教本を作成,販売しておら
ず,被告教本とは全く内容の異なる新教本を作成,販売している。
Aは,上記(8)の通知が原告から被告アドバンサーブにされたことから,
平成18年2月下旬ころ,被告ウチダの担当者に対し,被告教本が原告の著
作権を侵害している可能性があるので,今後,被告教本を販売することはで
きないと伝えた。
(10)被告ウチダは,平成18年8月18日,NTTラーニングから,平成1
7年度のネットワーク研修の受講者が講師を担当する研修に使用するためと
して,同年度のネットワーク研修で使用した被告教本100冊の購入の申込
みを受けた。
そこで,被告ウチダが,被告アドバンサーブに対し,被告教本100冊の
購入を申し込んだところ,被告アドバンサーブは,被告教本には著作権侵害
の問題があるという理由で,被告教本の販売を断った。このため,被告ウチ
ダは,原告に対しても,原告教本100冊の購入を申し込んだものの,原告
は,原告教本の販売を拒否した。このため,被告ウチダは,原告教本及び被
告教本の入手を断念し,被告ウチダが作成し市販されている教本をNTTラ
ーニングに販売した。その後,被告ウチダは,原告教本及び被告教本を使用
しておらず,現在は,独自に作成した新教本を使用して研修を実施している。
2争点(1)(原告教本の職務著作性)について
前記争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,原告教本は,原
告のネットワーク研修に関する業務を担当する部署であるシステム技術部に所
属する社員らが,ネットワーク研修に用いる教材として作成したものであり,
同教本には著作者として原告名が表示されているのであるから,原告の発意に
基づき,原告の社員が職務上作成し,原告の名義の下に公表された職務著作で
あると認められる。したがって,原告は,原告教本の著作者として著作権及び
著作者人格権を有する(著作権法15条1項)。
3争点(2)(被告アドバンサーブによる著作権侵害及び著作者人格権侵害の成
否)について
(1)著作権侵害の成否
前記1で認定したとおり,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役で
あるAらは,原告に無断で,原告教本に依拠し,これを複製して被告教本を
作成したものである(このことは,原告と被告アドバンサーブとの間で争い
がない。)から,被告アドバンサーブは,原告の著作権(複製権)を侵害し
たということができる。
これに対し,被告ウチダは,原告から平成15年教本(丙2)の複製,改
変を許諾されており,被告教本は,同許諾に基づき,平成15年教本(丙
2)を複製し,改変したものであって,原告教本を複製したものではないと
主張する。しかしながら,証拠(甲1,丙2)によれば,そもそも,被告教
本と平成15年教本とでは,記述内容が相当に異なっていることが認められ
るのであって,被告教本が平成15年教本に依拠して作成されたものである
と認めることはできない。前記1で認定した原告教本と被告教本との記述内
容の同一性に照らすと,被告教本は,原告教本を複製したものと認めるのが
相当である。被告ウチダの主張は,採用することができない。
(2)著作者人格権侵害の成否
前記争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,被告教本が,
原告に無断で,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役であるAらによ
り原告教本に依拠して複製されたものであり,かつ,被告教本には原告教本
と異なる書名が付されており,被告教本には原告の名称が表示されていない
というのであるから,被告アドバンサーブは,被告教本を作成したことによ
り,原告が原告教本について有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表
示権)を侵害したということができる。
被告アドバンサーブは,原告は,従前,ネットワーク研修で使用する目的
で被告ウチダに販売する教本に関し,被告ウチダの依頼により,「LAN・
ネットワーク設計コース」という書名で販売していたのであり,被告アドバ
ンサーブが原告教本の書名を「LAN・ネットワーク設計コース」と変更し
たのではないと主張する。しかしながら,これまでのネットワーク研修で使
用された教本について,被告ウチダの依頼により「LAN・ネットワーク設
計コース」という書名で販売されてきたとしても,被告アドバンサーブが,
被告教本の作成に関して,原告に無断で,原告教本の書名である「ネットワ
ーク基礎」を「LAN・ネットワーク設計コース」に改変することが許され
ることにはならないというべきである。被告アドバンサーブの上記主張は,
採用することができない。
4争点(3)(被告アドバンサーブに対する差止めの必要性)について
前記1で認定した事実によれば,被告アドバンサーブは,被告教本に代わる
新教本を作成したため,平成17年12月を最後に,被告教本の作成及び販売
を行っておらず,現在は被告教本とは全く異なる内容の上記新教本を使用して
いること,別件訴訟において,被告教本と類似する別件被告教本を作成,販売
しないこと等を内容とする訴訟上の和解をしており,被告教本についても上記
和解と一括しての解決を求めていたこと,平成18年8月に,被告ウチダから
被告教本の購入の申込みを受けたものの,著作権侵害の問題があることを理由
に,被告教本の販売を断っていることが認められる。また,被告ウチダは,同
じころ,原告に対し,原告教本の購入の申込みをし,原告から販売を拒否され
た後は,顧客であるNTTラーニングからの依頼であるにもかかわらず,原告
教本の入手を断念し,市販されている教本をNTTラーニングに販売したこと,
現在では,独自に作成した教本を使用して研修を実施しており,被告教本を使
用していないことが認められる。
以上によれば,被告アドバンサーブは,現在,被告教本を作成,販売してお
らず,同被告において,今後,被告教本を作成及び販売することにより原告の
著作権及び著作者人格権を侵害するおそれがあると認めることはできないから,
原告の被告アドバンサーブに対する差止請求は理由がない。
5争点(4)(被告アドバンサーブに対する損害賠償請求の可否)について
(1)被告アドバンサーブの故意又は過失の有無
上記争いのない事実等及び前記1で認定した事実によれば,原告教本は,
原告のネットワーク研修に関する業務を担当する部署であるシステム技術部
に所属していた原告の社員らが,ネットワーク研修の教材として使用するこ
とを前提として職務上作成したものであり,同教本には著作者として原告名
が表示されているのであり,原告の社員であったAらは,このことを認識し
ていたものと認められる。
そうすると,被告アドバンサーブの代表取締役及び取締役であるAらは,
被告教本の作成当時,原告教本の著作権及び著作者人格権が原告に帰属する
ことを認識していたと推認するのが相当であり,被告アドバンサーブには前
記の著作権侵害及び著作者人格権侵害についての故意が認められるというべ
きである。
被告アドバンサーブは,Aらは,原告教本の著作権及び著作者人格権が自
己に帰属していると信じていたと主張するが,上述したところに照らし,採
用することができない。
(2)損害額
上記(1)で説示したところによれば,被告アドバンサーブが,①原告の許
諾を得ずに原告教本を複製して被告教本を作成し,同教本を販売した行為は,
原告の有する著作権(複製権)を侵害するものであり,②原告教本に原告の
名称を記載しなかった行為は,原告の氏名表示権を侵害するものであり,③
原告教本の書名を「LAN・ネットワーク設計コース」と改変した行為は,
原告の同一性保持権を侵害するものであり,原告は,被告アドバンサーブに
対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求権を有する。
ア著作権侵害による損害(著作権法114条1項)
(ア)証拠(甲8,35)によれば,原告は,平成16年6月ころから平
成17年5月までの1年間に,被告ウチダに対し,原告教本を合計36
5冊販売し,合計193万2000円の支払を受けたことが認められる。
これによれば,原告教本1冊当たりの平均販売価格は,約5293円
(上記販売価格合計193万2000円÷上記販売数合計365冊)と
なる。また,証拠(甲16ないし甲21)によれば,原告教本1冊にか
かる印刷代等の製造原価は2586円であることが認められる。そこで,
上記平均販売価格5293円と上記製造原価2586円との差額270
7円が,原告教本1冊当たりの利益であると認められ,これに被告教本
の販売数79冊を乗じた21万3853円を,原告の受けた損害額とす
るのが相当である(著作権法114条1項)。
(イ)原告は,原告教本を講師の派遣と一体のものとして販売した場合の
原告教本1冊当たりの利益額は2万2298円であり,これに被告教本
の販売数79冊を乗じた176万1542円が,原告の被った損害額で
あると主張する。しかしながら,講義の実施自体は著作権を侵害する行
為とはいえないから,講義実施の対価まで著作権侵害による損害額の算
定の基礎となる利益の額に含めるのは相当ではないというべきである。
原告の上記主張は,採用することはできない。
被告アドバンサーブは,被告ウチダに対し,被告教本を1冊4000
円で販売し,被告教本1冊にかかる印刷代等の製造原価は2586円で
あるから,被告教本1冊当たりの利益の額は1414円となり,これに
販売数79冊を乗じた利益の額である11万1706円が,原告の被っ
た損害額であると主張する。しかしながら,原告は,著作権法114条
1項に基づく損害を主張しているものであるから,被告アドバンサーブ
の受けた利益の額の主張は,失当である。
(ウ)被告アドバンサーブは,原告には原告教本を改訂又は販売する能力
がないこと,原告教本の価値はないことから,原告が上記数量を販売す
ることができなかった(著作権法114条1項ただし書)と主張する。
しかしながら,原告が原告教本を改訂又は販売する能力がないことにつ
いては,これを認めるに足りる証拠はない。また,原告は,原告教本の
複製物である被告教本の譲渡数量79冊を算定の基礎としているのであ
るから,原告教本に価値がないから販売することができないとの主張が
失当であることは明らかである。
イ著作者人格権侵害による損害
前記認定に係る侵害の態様等,本件に現れた一切の事情を勘案すると,
原告が,被告アドバンサーブの著作者人格権侵害の行為による損害賠償額
は50万円とするのが相当である。
被告アドバンサーブは,本件の精神的苦痛は別件訴訟における訴訟上の
和解に基づく金員の支払によって既に慰謝されていると主張する。しかし,
被告教本と別件被告教本は,内容が類似するものであっても,別個の教本
というべきであるから,被告アドバンサーブによる被告教本の複製及び販
売によって,新たに原告の著作者人格権が侵害されたものと認めることが
できる。被告アドバンサーブの上記主張は,失当である。
6争点(5)(被告ウチダに対する差止請求の可否)について
原告は,被告ウチダが,被告教本が原告の著作権を侵害する行為によって作
成されたものであることを知りながら同教本を販売したものであるから,原告
の著作権を侵害するものであるとみなされる(著作権法113条1項2号)と
主張する。
前記1で認定した事実によれば,被告ウチダは,平成14年から平成16年
まで,原告との契約関係に基づき,原告の社員が講師を担当するネットワーク
研修を行っており,平成15年及び平成16年に実施した研修においては,原
告から購入した教本を使っていたところ,平成17年8月に,Aから,原告を
退社して原告の教育事業を承継する新会社を設立し,そこで今後もネットワー
ク研修に講師を派遣することが可能であるとの説明を受けて,被告アドバンサ
ーブとの間で,平成17年度のネットワーク研修への講師の派遣並びに研修に
使用する教本の作成及び販売に関する契約を締結し,平成17年9月以降に実
施したネットワーク研修について,被告アドバンサーブから講師の派遣を受け
るとともに被告教本を購入したこと,被告ウチダは,Aの上記説明の真偽を原
告に確かめなかったこと,被告教本の内容は原告教本の内容とほぼ同一である
ものの,著作権者の表示が異なっていたこと,原告の担当者が平成17年10
月7日に被告ウチダに来社した際,同被告の担当者が,原告の担当者に対し,
平成17年のネットワーク研修の講師の派遣を被告アドバンサーブに依頼した
ことを言わなかったことが認められる。
しかしながら,上記の事情だけでは,被告ウチダが,原告教本及び被告教本
の著作権の帰属関係について,明確な認識を有していたと認めることはできな
い。また,被告ウチダが,原告に対し,ネットワーク研修についての契約を締
結する義務を負っているとは認められず,同被告において,ネットワーク研修
を原告に依頼するか,被告アドバンサーブに依頼するかは基本的に自由である
といえるから,被告アドバンサーブとの間で契約を締結するに当たり,原告に
Aの説明の真偽を問い合わせたり,他社にネットワーク研修を依頼したことを
告げるべき義務があったということはできない。被告ウチダが原告に上記確認
行為をしなかったからといって,同被告が著作権侵害の事実を認識していたと
認めることはできない。他に,被告ウチダにおいて,被告アドバンサーブが原
告の著作権を侵害して被告教本を作成したことを認識していたことを認めるに
足りる証拠はない。
そうすると,被告ウチダにおいて,被告教本が原告の著作権を侵害する行為
によって作成されたものであることを知りながら同教本を販売したということ
はできず,著作権法113条1項2号により原告の著作権を侵害するものとみ
なすことはできない。
以上のとおりであるから,被告ウチダに対する差止請求は理由がない。
7争点(6)(被告ウチダに対する損害賠償請求の可否)について
原告は,被告ウチダに,故意に被告教本を販売したことによる著作権侵害の
不法行為が成立する旨主張する。しかしながら,上記6で説示したとおり,被
告ウチダにおいて,被告教本が原告の著作権を侵害したことを知りながらこれ
を販売したと認めることはできず,被告ウチダの販売行為を著作権法113条
1項2号により原告の著作権を侵害する行為とみなすことはできないから,み
なし侵害行為であることを根拠とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由が
ない。
原告は,被告ウチダが著作権侵害の事実を看過して被告教本を購入し,販売
したことについて,過失による著作権侵害の不法行為があると主張する。しか
しながら,著作権を侵害する行為によって作成された被告教本を侵害の事実を
知らないまま購入した被告ウチダの行為については,これを著作権侵害行為で
あるとも,幇助行為であるともいうことはできないから,過失による著作権侵
害の不法行為を構成すると認めることはできない。
8結論
以上によれば,原告の本訴請求は,被告アドバンサーブに対し71万385
3円及びこれに対する不法行為の後である平成18年12月14日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が
あるから,これを認容し,被告アドバンサーブに対するその余の請求及び被告
ウチダに対する請求は理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用
の負担につき民事訴訟法64条1項本文,61条,65条1項本文を,仮執行
の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官平田直人
裁判官瀬田浩久

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勤務地 〒105-0003 東京都港区西新橋2-7-4 CJビル6F
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒105-0003 東京都港区西新橋2-7-4 CJビル6階
ITJ法律事務所
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採用担当宛