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最高裁判例


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平成20年4月24日判決言渡
平成19年(行ケ)第10281号審決取消請求事件
平成20年4月22日口頭弁論終結
判決
原告株式会社島津製作所
同訴訟代理人弁理士喜多俊文
同江口裕之
同阿久津好二
被告特許庁長官肥塚雅博
同指定代理人門田宏
同高橋泰史
同小林和男
同岩崎伸二
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−12817号事件について平成19年6月19日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「フローセンサの製造方法」とする発明につき,平成
11年8月30日,特許を出願したが(以下「本願発明」という。),平成
16年1月23日付けの拒絶理由通知(甲13。以下「本件拒絶理由通知」
という。)を受け,同年5月14日付けの拒絶査定(甲12。以下「本件拒絶
査定」という。)を受けたので,同年6月22日,これに対し不服審判請求(
不服2004−12817号事件)をし,同年7月22日付けの手続補正書(
甲6)を提出した。
特許庁は,平成19年6月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,その謄本は同年7月3日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成16年7月22日付け手続補正書による補正後の本願発明の請求項1
は,下記のとおりである。
【請求項1】感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射してエッチングパター
ンを設ける工程と,次に前記感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上
に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を形成する工程と,次に前記感光性
ガラス板をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し前記の
抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする工
程とからなるフローセンサの製造方法(以下この発明を「本願発明」とい
う。)。
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平7−20
1511号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)の記載及び周知技術(甲
2。以下「刊行物2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすること
ができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることが
できない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」
という。)の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとお
り認定した。
(1)引用発明の内容
感光性ガラス3に紫外線を選択的に照射して潜像4を作り結晶化させる工
程と,次に前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積
し,該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗体6を,その上に
パッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程と,次に前記感光性
ガラス3をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し,前
記のパターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及び
パッシベーション膜7を介して間接的に露出するようにする工程とからなる
熱式気体質量流量計の製造方法。
(2)一致点
感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射してエッチングパターンを設ける
工程と,次に前記感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上に位置す
る細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分を形成する工程と,次に前記感
光性ガラス板をエッチングして前記選択的に紫外線照射された部分を開孔し
前記の抵抗金属箔を含む部分の細幅パターン部分がこの孔に露出するように
する工程とからなるフローセンサの製造方法である点。
(3)相違点
エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部
分が,本願発明では「抵抗金属箔」それ自体であって,感光性ガラス板の選
択的に紫外線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部
分の露出が,「前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直
接露出するようにする」ものであるのに対し,引用発明では,抵抗金属箔が
導電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部
分であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分をエッチング
して形成された孔に露出される部分の露出が,該誘電体膜及びパッシベーシ
ョン膜を介して間接的に露出されるものである点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,①引用発明の認定を誤った結果,相違点を看過し(取消事由1),
②相違点に対する容易想到性の判断を誤り(取消事由2),③意見・補正の機
会を原告に与えなかった手続上の瑕疵があるから(取消事由3),取り消され
るべきである。
1取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)
(1)引用発明において,「前記感光性ガラス3をエッチングして前記選択的
に紫外線照射された部分を開孔」する工程は,「誘電体薄膜5からなるブリ
ッジを形成する」ためである。しかし,審決はこれを「前記のパターニング
されたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパッシベーション
膜7を介して間接的に露出するようにする」ためであると認定しているので
誤りである。
(2)上記のとおり,審決は,引用発明の認定を誤った結果,①引用発明は誘
電体薄膜を形成する工程を有するのに対し,本願発明はそのような工程を有
さないこと,②抵抗金属箔を形成する場所が,引用発明では誘電体薄膜5上
であるのに対し,本願発明では感光性ガラス板上であること,③引用発明は
エッチングによってマイクロブリッジを形成するのに対して,本願発明はエ
ッチングによって抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露
出するようにしていることを相違点として看過した誤りがある。
2取消事由2(相違点に対する容易想到性の判断の誤り)
審決は,「刊行物1記載の発明において,フローセンサを構成する抵抗金属
箔それ自体の細幅パターン部分を直接露出させるという上記周知技術を用い
て,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5やパッシベーション膜7を設けることな
く,抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分がエッチングして形成された孔に
直接露出するように構成することは当業者ならば容易に想到し得たものと認め
られる。」と判断した。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
(1)フローセンサには,①加熱用と測温用の抵抗体をブリッジ表面上に並べ
て配置し,マイクロブリッジ表面に沿った気体の流速を測定するマイクロブ
リッジ型フローセンサと②開孔部の両端に直接露出するような電極パターン
を設けて,当該電極パターンの隙間を通って孔を流れる気体の流速を計測す
る露出型フローセンサとがあり,両者は熱式のフローセンサである点では共
通するが,構造及び測定原理が異なる。そして,引用発明はマイクロブリッ
ジ型フローセンサであるのに対し,上記周知技術は露出型フローセンサであ
るから,引用発明と上記周知技術とは構造及び測定原理が異なる。
引用発明においては,誘電体薄膜5の面積を小さくし,ブリッジを形成す
ることなく細幅パターン部分が開孔に直接露出するような構造とすると,感
度低下,測定範囲の狭幅化の問題が顕在化するため,フローセンサとして正
常に機能しなくなる。また,誘電体薄膜は,その面積が流量の検知感度に比
例し,流量の検知に関係がある。
以上のとおり,引用発明のようなマイクロブリッジ型フローセンサにおい
て,マイクロブリッジ部分は,フローセンサーとして機能を奏するための必
須の構成であるから,引用発明に上記周知技術を適用して本願発明を想到す
ることはできない。
(2)刊行物2記載のような露出型フローセンサの製造方法に関して,周知技
術として存在するのは,孔を設けた後に金属膜を配置する方法のみである(
甲9)。したがって,孔を形成するときに金属膜がエッチング液にさらされ
ることがないから,そもそも引用発明のように孔を形成するためのエッチン
グ時間を短くするという課題は存在しない。したがって,引用発明に係る製
造方法を刊行物2記載の露出型フローセンサに適用することの動機付けはな
いといえる。
(3)被告は,本願発明はマイクロブリッジ型フローセンサと露出型フローセ
ンサの両方を含む発明であると主張する。しかし,マイクロブリッジ型フロ
ーセンサを製造するには,感光性ガラス板などの基板と抵抗金属箔との間
に,誘電体薄膜からなるマイクロブリッジが設けることが必要となる。しか
るに,本願発明は,「感光性ガラス板上に,前記エッチングパターン上に位
置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を形成する工程」を有しており,その
他にどのような工程を付加しても,感光性ガラス板などの基板と抵抗金属箔
との間に,誘電体薄膜からなるマイクロブリッジを形成することはできない
はずである。また,本願発明は,「抵抗金属箔それ自体の細幅パターン部分
がこの孔に直接露出するようにする工程」を有していることからみても,本
願発明は,マイクロブリッジ型フローセンサの製造方法の発明ではない。
3取消事由3(手続上の瑕疵)
本願発明は,製造方法の発明であるのに対し,拒絶査定は,引用発明及び周
知技術を物の構造として特定した不明確な事実認定に基づいており,少なくと
も原告主張の相違点②は審査段階では明確にされていない(甲12,13)か
ら,審決の理由は拒絶査定の理由と異なることとなる。したがって,本件審判
手続は,原告に対し意見,補正の機会を与えることなくなされたものであり,
特許法159条2項,50条に反する。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)に対し
(1)刊行物1の記載によると,感光性ガラス3のエッチング工程が,「前記
のパターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記誘電体薄膜5及びパ
ッシベーション膜7を介して間接的に露出するようにする工程」となってい
るから,審決の引用発明の認定に誤りはない。
(2)審決の認定した相違点は,「感光性ガラス板に紫外線を選択的に照射し
てエッチングパターンを設ける工程」の次の工程が,本願発明は,感光性ガ
ラス板上に,「『抵抗金属箔』それ自体」を形成する工程であるのに対し,
引用発明は,感光性ガラス板上に,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在し,
かつ,その上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」を形成する工程
であるというものである。
そして,引用発明の「感光性ガラス板上に,『抵抗金属箔が誘電体薄膜上
に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分』を形成す
る工程」とは,引用発明の「前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘
電体薄膜5を堆積し,該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗
体6を,その上にパッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程」
に対応するものであるから,前記「感光性ガラス板上に,『抵抗金属箔が誘
電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分
』を形成する工程」とは,「感光性ガラス板上に,誘電体薄膜を堆積し,該
誘電体薄膜上に抵抗金属箔を,その上にパッシベーション膜が堆積された状
態で形成する工程」を意味している。よって,原告の主張する相違点①及び
②については,審決において,実質的に相違点として認定している。
また,原告の主張する相違点③は,前記(1)のとおり,引用発明の認定に
誤りがないので,相違点とはならない。
(3)仮に,審決が原告の主張する相違点①及び②を看過し,それらが相違点
となるとしても,フローセンサにおいて,ガラス板上に直接抵抗金属箔を設
けることは,刊行物2(甲2)にみられるように周知であり,刊行物1記載
のフローセンサと,刊行物2にみられる周知のフローセンサとは,基板に支
持された抵抗体に当たる被測定流体により熱が奪われる,あるいは与えられ
ることにより生じる抵抗体の抵抗変化を測定して,被測定流体の流量を測定
するという基本的な構造,測定原理においては同じものであるから,引用発
明において上記周知技術を採用して,誘電体薄膜を形成する工程を有さない
ようにすること及び引用発明における「感光性ガラス板上」に抵抗金属箔を
形成することは,当業者が容易に想到し得たものである。
2取消事由2(容易想到性の判断の誤り)に対し
(1)原告は,引用発明は,マイクロブリッジ型フローセンサの製造方法であ
るのに対し,周知技術は露出型フローセンサの構造に相当するので,両者は
構造及び測定原理において異なると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
本願発明は「フローセンサの製造方法」と記載され,格別の限定はないか
ら,マイクロブリッジ型フローセンサ及び露出型フローセンサを含むフロー
センサの製造方法の発明である。そして,前記1(3)のとおり,引用発明も
周知技術も基本的な構造,測定原理は同じである。
引用発明における「パッシベーション膜7」は抵抗体を保護するものであ
るが,マイクロブリッジ型フローセンサにおいて,抵抗体上に保護膜を設け
ないことは本願出願前に周知であり(乙3,4),刊行物(甲11,乙5)
には,発明の実施例として,マイクロブリッジ型フローセンサと露出型フロ
ーセンサが共に記載されていることに照らすならば,一方の技術的思想を他
方に適用することは容易である。
(2)原告は,引用発明において,誘電体薄膜からなるブリッジを設けること
は必須の構成であり,抵抗体を開孔に直接露出させる構成を採用すると,フ
ローセンサとして正常に機能しなくなると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
シリコンウエハ基板を用いたマイクロブリッジ型のフローセンサにおいて
は,シリコンウエハ基板と抵抗体との間に誘電体薄膜が設けられており,こ
の誘電体薄膜が抵抗体を支持するための梁(マイクロブリッジ)を形成す
る。そして,この誘電体薄膜によりシリコンウエハ基板と抵抗体との絶縁さ
れるけれども,当該フローセンサにおいても流量測定に資するセンサの部分
は抵抗体であって,誘電体薄膜は流量の検知には関係しない。しかも,引用
発明において基板となる感光性ガラスは絶縁性であるから,感光性ガラス基
板の上に誘電体薄膜を設けることなく,感光性ガラス基板の上に直接抵抗体
を載せても,絶縁性の問題は生じ得ない。また,抵抗体自体で抵抗体の形状
を保つことができるものであれば,抵抗体を支持する薄膜は必要とならな
い。さらに,抵抗体のパターンが形成する面に沿った方向に流れる流体の流
速を測定するフローセンサであって,抵抗体部分の熱容量を小さくするため
に,基板に孔を設けたフローセンサにおいて,基板に設けた孔に露出するブ
リッジ部分を抵抗体自体で形成することは,本願出願前に周知である(乙
1,2)。
そうすると,マイクロブリッジ型フローセンサにおいても,誘電体薄膜か
らなるブリッジを設けることは必須の構成ではなく,抵抗体を開孔に直接露
出させる構成を採用したとしても,フローセンサとして正常に機能しなくな
ることはない。
3取消事由3(手続上の瑕疵)に対し
審決は,拒絶査定の理由と異なる新たな拒絶理由を構成するものではないか
ら,審判で拒絶理由通知をしなかったことに手続違背はない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由(相違点の看過,相違点に
関する容易想到性の判断の誤り,手続上の瑕疵)はないものと判断する。その
理由は,以下のとおりである。
1刊行物1の記載
(1)「【特許請求の範囲】【請求項2】機能性薄膜がPt薄膜抵抗体を薄膜
ヒータと測温抵抗体としてパターニングされたものである請求項1記載の薄
膜素子。」
(2)「【発明の詳細な説明】【0001】【技術分野】本発明は,マイクロ
ブリッジ形状を有する薄膜素子に関する。」
(3)「【0002】【従来技術】梁(マイクロブリッジ)形成のためにSi
基板上に誘電体膜を堆積させ,その後Siの異方性エッチングにより梁(マ
イクロブリッジ)を形成する素子においては,熱式センサの各種特性(消費
電力の低電力化,応答速度の高速化,多機能化)を飛躍的に向上させた。マ
イクロブリッジ上に各種センサ素子を薄膜形態で作り込むことにより,特に
熱を媒体として,物性変化を検知させるセンサにとっては,熱絶縁を容易に
実施できるため有効である。これらマイクロセンサの構造を図1に示す。例
えば,特公平3−52028号公報には,Siウエハ基板上にマイクロブリ
ッジを形成し,熱式気体質量流量計を作製している。(…(中略)…)例え
ば,この素子を気体の質量流量計に用いた場合,放熱面積(ブリッジ面積)
の増加と感度には比例の関係が有り,放熱面積を大きくした方が望ましい。
またブリッジ上に発熱素子を,その両端に温度測定素子を対称に配置させた
気体の進行方向検知および質量流量計においては,放熱面積が少ないと高流
量時の熱収支飽和現象により,測定範囲の狭幅化が問題となる。」
(4)「【0004】【目的】本発明の第1の目的は,マイクロブリッジ形態
を有する薄膜素子に於いて,ブリッジ形成にデザイン,及びブリッジ面積に
制約を与えず,素子特性の向上を実現するものである。第2の目的は,薄膜
素子の作製に伴って形成される基板の孔をふさぎ,該素子の接合工程の改良
を画るものである。」
(5)「【0007】【実施例】図4に基づき実施例を説明する。感光性ガラ
ス3〔HOYA感光性ガラスPEG3(商品名)〕を使用した。両面を研磨
した感光性ガラス3にマイクロパターンを転写する(これはフォトマスク2
を介して紫外線Cを照射することにより,ガラス内に潜像4を作る)(
a)。適切な熱処理により感光した部分(潜像4)を結晶化させる。このこ
とによりふっ酸水溶液に対する溶解速度を速くさせる。熱現像の温度は60
0℃とした。次に熱履歴による変形を取り除くため精密研磨を行い,薄膜作
製用基板3として十分平滑さを確保した後(b),ブリッジ形成用の誘電体
薄膜5を堆積させる(c)。誘電体薄膜5はSi半導体装置などのプロセス
で馴染のある窒化シリコン膜をCVD法で堆積させるほか,五酸化タンタル
膜を反応性スパッタリング法にて堆積させても良い。ブリッジとして自立体
を得るために,この誘電体薄膜の膜厚は,1.5μm以上とした。五酸化タ
ンタルの反応性スパッタ製膜に於いてはスパッタ条件により膜の内部応力が
比較的小さい値になること,さらに堆積後の500℃熱処理により応力がほ
とんど残留しないことを確認している。従って,本実施例ではこの五酸化タ
ンタル膜を堆積し,熱処理を施した。次にPt薄膜抵抗体6を形成し,熱式
気体質量流量計を作製するならば,このPt薄膜抵抗体を薄膜ヒータと測温
抵抗体としてパターニングし,また金属酸化物半導体,該金属酸化物半導体
上に白金(Pt),パラジウム(Pd)等の貴金属を触媒として用いたガス
センサではさらに薄膜機能素子をこのブリッジ上に作製する(d)。基本的
にはこの様に少なくともブリッジ上に薄膜機能素子を作り込む事を意味して
おり,このことで各種マイクロセンサが作製できる。次にパッシベーション
膜7を堆積後,パット,エッチングホールを開口させ(e),8wt%ふっ
酸水溶液,室温にてエッチングを行うことでブリッジを形成した。この工程
から示されるようにSi基板ではその結晶方位,ブリッジ面積などに制約が
あったが,本実施例ではその様なことは生じない。次に基板を貫通する孔は
熱硬化型エポキシ系接着フィルムまたはシート(厚40μm,熱硬化温度1
70℃)を基板裏面に接合(g),以下チップ切り出し,実装を行った。但
し,基板裏面に接合するフィルムまたはシートは,前記熱硬化型エポキシ系
接着フィルムまたはシートに限られるものではなく,例えば熱または接着剤
などにより接合できるフィルムまたはシートであれば任意のものが使用でき
る。」
(6)「【0008】【効果】本発明によれば,ブリッジ幅を拡大させる事に
より,例えば熱式気体質量流量計に於いては感度のダイナミックレンジの拡
大ができ,さらに他のガスセンサ,湿度センサ等のマイクロセンサに於いて
も,複数の機能性薄膜素子を容易に集積化することが可能となり,素子の高
機能化がはかれる。また,基板の貫通孔をシートの接合によりふさぐこと
で,実装工程に不備を与えることなく,作製できる。」
(7)図4には,薄膜素子の構成およびその製造工程を説明した図があり,同
図の(e)と(f)を対比すると,基板をエッチングにより除去することで
貫通孔が形成され,Pt薄膜抵抗体が誘電体薄膜5とパッシベーション膜7
に挟まれた状態で貫通孔に露出している状態となっている。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)について
(1)引用発明の認定の誤りについて
前記1によれば,引用発明の薄膜素子は,感光性ガラス上に誘電体薄膜を
形成し,誘電体薄膜上に抵抗金属箔を形成し,エッチングによって基板を除
去することで貫通孔が形成され,Pt薄膜抵抗体が誘電体薄膜5とパッシベ
ーション膜7に挟まれた状態で貫通孔に露出している状態となり,これらを
もってマイクロブリッジを形成するものと認められる。したがって,審決
が,引用発明につき「パターニングされたPt薄膜抵抗体6がこの孔に前記
誘電体薄膜5及びパッシベーション膜7を介して間接的に露出する工程」と
認定したことに誤りはない。
(2)相違点の認定の誤りについて
原告は,引用発明と本願発明とは,①引用発明は誘電体薄膜を形成する工
程を有するのに対し,本願発明はそのような工程を有さない点,②抵抗金属
箔を形成する場所が,引用発明では誘電体薄膜5上であるのに対し,本願発
明では感光性ガラス板上である点,③引用発明はエッチングによってマイク
ロブリッジを形成するのに対して,本願発明はエッチングによって抵抗金属
箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにしている点が
相違するにもかかわらず,審決は,これらの点を相違点として認定しなかっ
た違法があると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア①,②について
審決は,前記第2,3(3)のとおり,エッチングパターン上に位置する
細幅パターンを含む抵抗金属箔を含む部分が,本願発明では「抵抗金属
箔」それ自体であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線照射された部分
をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出が,「前記の抵抗
金属箔それ自体の細幅パターン部分がこの孔に直接露出するようにする」
ものであるのに対し,引用発明では,抵抗金属箔が導電体薄膜上に存在し
かつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分であると認定して
いる。
上記の引用発明における「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその
上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」とは,引用発明におけ
る「前記感光性ガラス3上に,ブリッジ形成用の誘電体薄膜5を堆積し,
該誘電体薄膜5上にパターニングされたPt薄膜抵抗体6を,その上にパ
ッシベーション膜7が堆積された状態で形成する工程」によって得られる
構成を指すと理解するのが相当である。そうすると,審決は,相違点とし
て「エッチングパターン上に位置する細幅パターンを含む抵抗金属箔を含
む部分」について,本願発明では「抵抗金属箔」それ自体であると認定し
ているのであるから,原告が相違点であると主張する①及び②は,審決に
おいて,実質的に相違点として認定しているといえる。
したがって,審決には,原告が相違点であると主張する①,②について
看過した違法はない。
イ③について
審決は,前記第2,3(3)のとおり,「感光性ガラス板の選択的に紫外
線照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露
出」について,本願発明では,「前記の抵抗金属箔それ自体の細幅パター
ン部分がこの孔に直接露出するようにする」ものであるのに対し,引用発
明では,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存在しかつその上にパッシベーシ
ョン膜を含む3層状態の部分であって,感光性ガラス板の選択的に紫外線
照射された部分をエッチングして形成された孔に露出される部分の露出
が,該誘電体膜及びパッシベーション膜を介して間接的に露出されるもの
である」と認定している。
そして,前記(1)で認定したとおり,「抵抗金属箔が誘電体薄膜上に存
在しかつその上にパッシベーション膜を含む3層状態の部分」がマイクロ
ブリッジに相当するから,原告主張の相違点③も,実質的に相違点として
認定しているといえる。
ウ以上のとおり,審決は原告主張の相違点①ないし③のいずれも相違点と
して認定しているから,相違点の看過はなく,原告の主張は採用できな
い。
3取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明のようなマイクロブリッジ型フローセンサにおいて
は,マイクロブリッジ部が必須の構成であって,測定用の抵抗金属膜を直接
露出させるとセンサとして機能しなくなるから,引用発明に露出型フローセ
ンサである周知技術を適用して,本願発明を想到することは容易でないと主
張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア実願昭55−146658号(実開昭57−68512号)のマイクロ
フィルム(乙1)には,第2図とともに,次の記載がある。
(ア)「本考案は,温度や気体の流速や成分等を測定する薄膜センサに関
するものである。
従来,この種の薄膜センサとして,金属の細線,抵抗素子が使用され
ている。・・・最近第1図に示すように絶縁基板1上に抵抗素子2等を
スパッタあるいは拡散によって形成し,センサを構成する試みがある。
しかしながら,このようにして構成されるセンサは,絶縁基板1による
影響を受け,その熱容量が大きくなって応答速度が遅くなるという欠点
がある。
本考案は,このような欠点のない薄膜センサを提供しようとするもの
である。」(1頁20行∼2頁15行)
(イ)「第2図および第3図は本考案に係る薄膜センサの構成斜視図であ
る。
本考案に係る薄膜センサは,抵抗薄膜パターンを絶縁基板上に形成
し,抵抗薄膜パターン層に接触する絶縁基板の一部を除去または薄く構
成した点にひとつの特徴がある。
まず,第2図実施例のものは,絶縁基板1上に抵抗薄膜パターン2を
形成し,この抵抗薄膜パターン2の裏側において接触する絶縁基板の一
部3を例えば,(ホトリソグラフィーの技術を利用して)エッチング等
によって,取り除くようにしたものである。ここで,抵抗薄膜パターン
2は,ジグザグ形状で形成されており,このパターンの両端部と,折曲
部とで絶縁基板に保持され,その大部分はいずれの部分とも接触しない
で空間に位置することとなる。
このように構成されたセンサは,・・・また抵抗薄膜パターン2は空
間に位置されるものであるから,絶縁基板1に熱が伝達することはな
く,応答速度を速くすることができる。」(2頁16行∼3頁20行)
(ウ)以上の記載に第1図及び第2図を合わせると,第2図に示されたフ
ローセンサは,絶縁基板中の空間に直接露出して設けられた抵抗薄膜パ
ターンにより,基板表面を流れる気体の流量を測定するものであるとい
うことができる。
イ特開昭57−28215号公報(乙2)には,図2とともに次の記載が
ある。
(ア)「本発明は上記の点に鑑みてなされたもので,電熱ヒータ並びに第
1及び第2の両温度依存抵抗を,単一もしくは数本の抵抗線(例えば白
金線)からそれぞれ構成し,これらを被測定気体の流れの中に,同流れ
の方向と平行な面上に一列をなして相前後して配置してなる気体流量測
定装置を提供し,もって,抵抗線の使用量を低減し,簡単かつ安価な構
造で確実な流量測定を可能とすることを目的とする。」(1頁右下欄1
7行∼2頁左上欄5行)
(イ)「第2図(a),(b)は上記流量測定装置10のセンサ部の詳細
を示す。図示の如く,このセンサ部は基本的には支持枠11に各抵抗線
12,13,14を支持することによって構成される。
支持枠11は絶縁材例えばセラミック又は樹脂からなり,上辺部11
1,下辺部112及び両側辺部118,114を有する4角形の板状枠
体に形成される。」(2頁左下欄3∼10行)
(ウ)以上の記載と第2図(a),(b)とから,乙2の気体流量測定装
置は,支持枠11の空間に直接露出して設けられた抵抗線により,支持
枠表面を流れる気体の流量を測定するものであるということができる。
ウ判断
前記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明のフローセンサに
おいては,誘電体からなるブリッジを形成し,その上に測定用のPt薄膜
抵抗体を設けたものであり,薄膜抵抗体がセンサとして機能するものであ
るということができる。そして,前記乙1及び乙2の各記載によると,基
板表面を流れる気体の流量を測定するフローセンサにおいては,測定用の
抵抗金属薄膜がマイクロブリッジを有することなく露出している技術が周
知であると認められる。
そうすると,フローセンサとして機能するためにはマイクロブリッジ部
が必須であるということはできない。
したがって,引用発明においては,マイクロブリッジ部が必須の構成で
あるから,引用発明に露出型フローセンサである周知技術を適用すること
は困難であるとする原告の主張は,その主張自体失当であるというべきで
ある。
(2)また,原告は,引用発明に係る製造方法を刊行物2記載の露出型フロー
センサに適用する動機付けはないと主張する。
しかし,前記1で認定した刊行物1の記載によると,感光性ガラスに紫外
線を選択的に照射し,後にこれをエッチングして紫外線を照射された部分を
開孔する技術が開示されている。そして,前記(1)で認定判断したとおり,
マイクロブリッジはフローセンサとして機能するために必須のものではない
こと,周知技術は,ガラス板上に細幅パターンを含む抵抗金属箔と,該抵抗
金属箔それ自体の細幅パターンがガラス板に設けられた開孔に直接露出する
フローセンサであること(当事者間に争いがない。)からすれば,引用発明
も周知技術もフローセンサである点で技術分野は共通であるといえる。そう
すると,引用発明に周知技術を適用するに当たって,引用発明の測定用の抵
抗金属薄膜を直接露出させるようにすることの動機付けがないとすることも
できない。原告の主張は採用できない。
4取消事由3(手続上の瑕疵)について
甲13(本件拒絶理由通知)によれば,審査過程において,審査官は,刊行
物1には,「感光性ガラスに紫外線を選択的に照射することによりマイクロパ
ターンを設ける工程と,感光した部分の上部にPt薄膜抵抗体を形成する工程
と,感光性ガラスをエッチングして開口部を設ける工程とからなるフローセン
サの製造方法が記載されている。」との技術が記載されていることを前提とし
て,刊行物2を示して,「抵抗金属箔の細幅パターンを孔に露出するフローセ
ンサは従来周知である」から,「本願発明は,刊行物1及び2に記載された発
明より当業者が容易に想到し得たものである。」との拒絶理由を通知したこと
が認められる。そうすると,審査過程において,審査官は,刊行物1記載のフ
ローセンサの製造方法において,マイクロパターンを有するフローセンサに代
えて,周知の露出型のフローセンサの製造方法とすることが容易想到であると
の拒絶理由を述べているということができ,同理由は,審決の容易想到性の判
断と同旨であると解される。したがって,拒絶理由通知を改めて発することな
く審理を終結した審判手続に,意見・補正提出の機会を与えなかったとの手続
上の違法は存しない。なお,平成16年4月2日付け意見書(乙6)による
と,原告は,上記2つのフローセンサの構造上及び製造方法上の相違を述べて
いることが認められ,これによれば,反論の機会が実質的に与えられていると
いうことができる。よって,原告の主張は採用できない。
5結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取
り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸

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