弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を次のとおり変更する。
2被控訴人らの訴えのうち,控訴人に継続雇用されなかった9名の臨
時職員に対する退職慰労金合計270万2162円の支給に係る損害
(遅延損害金を含む)について補助参加人Aに対する損害賠償請求。
の履行を控訴人に求める部分を却下する。
3控訴人は,補助参加人Aに対し,3048万9042円及びこれに
対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払うよう請求せよ。
4被控訴人らのその余の請求を棄却する。
5訴訟費用(ただし,補助参加に対する異議によって生じた費用を除
く)は,第1審の訴訟費用中,補助参加によって生じた費用を10。
分し,その1を被控訴人らの,その余を控訴人補助参加人らの負担と
し,その余の費用はこれを10分し,その1を被控訴人らの,その余
を控訴人の各負担とし,控訴費用中,控訴人補助参加人らに生じた費
用は同人らの負担とし,その余の費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,長崎県旧西彼杵郡B町(以下「旧B町」という,同C町,同D。)
町,同E町(以下「旧E町」という)及び同F町の5町が合併し(以下「本。
件合併」という,平成17年4月1日に長崎県西海市となった際,旧B町。)
が,同町臨時職員60名に対し,退職慰労金合計3389万9638円を支給
した(以下「本件支出」という)ことが,地方自治法及び地方公務員法に違。
,,,反する違法なものであるとして旧B町の住民である被控訴人らが控訴人に
旧B町の町長であった補助参加人Aに対し,同額の損害賠償及び損害金を請求
するよう求める住民訴訟である。
原判決は,被控訴人らの請求について,補助参加人Aに対し,3119万7
476円及びこれに対する損害金を請求するよう求める限度でこれを認容し,
その余の訴えを却下したところ,控訴人が敗訴部分につきこれを不服として控
訴した。したがって,上記却下部分は当審の審理の対象外であるが,原判決の
変更に当たり,特定のため,主文第2項に改めて記載することとする。
2争いのない事実等
(1)本件の前提となる当事者間に争いのない事実は,(2)のとおり加除訂正す
るほか,原判決の「事実及び理由」の「第2事案の概要等」の「2争い
のない事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決の加除訂正
ア原判決3頁14行目の「60名」を「51名」と,同16行目の「合計
3389万9638円を支給(本件支出)した」を「を支給した。旧。,
B町は,臨時職員の退職慰労金について条例を定めておらず」とそれぞ,
れ改める。
イ同4頁24行目ないし25行目の「支払うよう」を「請求することを」
と改める。
3控訴審における争点及び当事者の主張
(1)本件支出の違法性の有無(争点1)
ア控訴人及び補助参加人A(以下「控訴人ら」という)の主張。
(ア)本件支出に関する事情
以下のような諸事情を考慮すれば,内規に基づく支出は,給与条例主
義に形式的に違反するものであったとしても,実質的に違反するとはい
えない。
a旧B町は,昭和45年の炭鉱閉山によって危機的状況を迎え,これ
を企業誘致等によって克服したが,その際,保育所や病院の充実が条
件とされたものであり,しかも,職員には専門的知識が要求されたこ
と,町の財政状況等から臨時職員の活用は不可欠であった。また,離
島であることから後継者の確保が困難であり,いったん任用された職
員に早期に退職されては困るという事情があった。そのため,臨時職
員の待遇の充実は避けて通れない問題であり,退職慰労金も制度化し
た。こうして内規が制定され,その内容が臨時職員雇用の労働条件と
なった。
bこのように,内規による臨時職員の採用,賃金等の支払は既成事実
となっていた一方,内規を定めた町長も,これを運用する職員も,支
出を承認してきた町議会もこれが給与条例主義に違反していることを
知らなかった。
内規に基づく退職慰労金は,昭和59年度から平成16年度まで毎
年その年度の退職臨時職員に対して支給され,その都度議会はこれを
承認してきた。本件支出はこのような流れの中の最後の1回にすぎな
い。
c上記のような臨時職員の雇用条件の運用は,町民の幅広い理解を得
ながら運用されてきたもので,内規による人件費の支出に住民の理解
は得られていた。
d旧B町の行政需要を正規の職員で賄ったとすれば,約7億8000
万円の支出超過となったものであり,内規による運用は,人件費を節
約し,財政の健全化に大きく貢献してきた。
e職員の身分保障の観点からみても,内規による給与等の支払は,旧
B町と臨時職員との間の雇用契約の内容となっていたものであり,こ
れを否定することは,臨時職員の身分保障を脆弱にするものである。
f被控訴人らは,旧B町の町議会議員として,内規に基づく支出の議
案に賛成したり,あるいは,その妻が臨時職員として稼働し,退職慰
労金を期待していたという事情があり,本件提訴も地方公共団体の財
務の適正を確保し,住民全体の利益を保護するといった正当な目的に
よるものではなく,制度を濫用するものである。
(イ)長崎県の実情等(補助参加人Aの主張)
長崎県内の合併前の旧71町村中,臨時職員は,全町村において雇用
されていたのに,その給与等に関する条例を制定していたのは39町村
であり,32町では制定していなかった。また,現在でも長崎県内の市
で上記のような条例を制定していない市が3市ある。
また,条例を制定している場合でも,任命権者に内容を委任する規定
のものも多く,これを受ける規則,要綱等を定めていない町もある。
臨時職員についての給与条例主義はこのように空疎な内容のものであ
り,1箇条の委任規定を条例に設けた場合と,本件との間に実質的な違
いがあるとは考え難く,本件支出は違法とはいえない。
イ被控訴人らの主張
(ア)内規の違法性
本件支出は,内規に基づいてなされており,これは旧B町長が専決制
定したものであるから,本件支出は,法律及び条例あるいはそれらの委
任に基づいてなされたものでなく,この支出は給与条例主義(地方自治
法204条の2,地方公務員法24条6項,同25条1項)に違反して
いる。
(イ)臨時職員の雇用方法の違法性
人事委員会を設置していない旧B町は,地方公務員法22条5項によ
って,6か月を超えない限度で臨時職員を雇用できるにすぎず,その期
,。間を延長する場合にも6か月を限度とし再度更新することはできない
しかるに,内規の別表三によると,当初から10年以上の長期雇用を
予定しているなど地方公務員法22条5項を完全に無視しており,この
ような臨時職員に対して,退職慰労金を支払うことは違法であるし,そ
もそも,雇用期間が原則6か月間である臨時職員に退職慰労金制度があ
ること自体おかしく,金額も高い。仮に退職金を支払って臨時職員を再
雇用する場合でも,退職金の支給は条例で定めるべきであって,これを
しないのは違法である。
(ウ)給与条例主義を定めた法律の効力
給与条例主義に関する法令の規定は効力規定であり,事情のいかんを
問わず例外はなく,事情判決の制度の適用もないから,本件支出に関す
る諸事情についての控訴人らの主張は失当である。
(2)補助参加人Aの故意過失の有無(争点2)
ア控訴人らの主張
補助参加人Aには,臨時職員について給与条例主義が適用されることの
認識がなかった。
そのことについては,次のような事情がある。すなわち,上記(1)アの
とおり,旧B町においては,昭和59年以来,臨時職員制度が定着し,そ
れが同町の財政に大いに貢献してきたところ,その給与及び退職慰労金は
内規に基づいて議会の予算議決を経て支給され,決算においても承認され
てきた。また,その内容は労使間の合意内容ともなっていた。補助参加人
Aは,本件合併が決まった後の平成15年5月1日町長に就任し,本件支
出まで2年弱の在任期間しかなく,その間に違法性についての注意を喚起
する出来事もなかった。
また,この点に関する条例は,71町村中32町で制定されておらず,
制定している39町村中でも28町は委任を受けた規則,要綱等が存しな
い実情にあった。
補助参加人Aはこれらの事情の下で合併に際し,控訴人に問題が持ち越
されることのないよう退職慰労金を支払ったものであり,違法性を認識し
なかったとしても過失はない。
イ被控訴人らの主張
補助参加人Aは地方公共団体の首長であり,給与条例主義のような地方
自治の根幹となる大原則を知らなかったとしても,そのことに過失がある
ことは当然である。
また,補助参加人Aは,旧B町の職員を永年務めており,なおさら法律
を知らなかったことに過失がないとはいえない。
(3)損害の有無(争点3)
ア控訴人らの主張
本件支出は,旧B町と各臨時職員との雇用契約に基づいてなされたもの
であり,これは私法上適法かつ有効なものであり,その契約に基づく支払
によって,旧B町に損害は発生していない。仮に,これが有効な雇用契約
と認められないとしても,旧B町は,現実に臨時職員から労務の提供を受
けてきたものであり,その対価を支払わないことは不当であって,その対
価の一部である退職慰労金を支払ったとしても旧B町に損害が生じたとは
いえない。
イ被控訴人らの主張
本件支出は,給与条例主義や地方公務員法に違反する違法なものである
から,これにより同額の損害が旧B町に発生したものである。
旧B町と各臨時職員の関係は公法上の任用関係であって,これを私法上
の雇用関係と同視することはできず,条例の定めなしに退職慰労金の請求
権が生じることはないから,労務の提供があったとしても,本件支出によ
って旧B町に損害が発生していないとはいえない。
また,上記(1)イ(イ)のとおり,長期間の雇用が許されない臨時職員に
退職慰労金を支払うこと自体が違法であり,この点からも損害がないとは
いえない。
(4)特別養護老人ホームG荘の臨時職員9名に支給した退職慰労金に係る損
害の有無(争点4)
ア控訴人の主張
,()(ア)G荘は控訴人や旧B町とは別の特別地方公共団体一部事務組合
であるH保健福祉組合によって設置され,上記臨時職員は,同組合に雇
用され,退職慰労金も同組合によって支給されたものであって,旧B町
によって支給されたものではない。
(イ)控訴人は,原審において,上記事実に気づかず,これを争わなかっ
,。たがこれは真実に反しかつ錯誤によるものであるから自白を撤回する
イ被控訴人らの主張
(ア)控訴人は,被控訴人らの情報公開請求に対し,上記臨時職員を旧B
町の臨時職員であると回答し,これに基づく監査請求においても,上記
臨時職員は旧B町の臨時職員であるとして監査対象とされ,本件訴訟に
おいても控訴人はこれを争っていなかった。このように控訴人は,上記
臨時職員に対する退職慰労金の支給を旧B町がしたことを自白していた
ものであり,その撤回は,時機に後れたものであって許されない。
(イ)G荘の正規職員は旧B町の正規職員が出向していたものであり,上
記臨時職員についても出向の可能性がある。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件支出の違法性の有無)に対する判断
(1)給与条例主義について
,「,,地方公務員法24条6項は職員の給与勤務時間その他の勤務条件は
条例で定める」とし,同法25条1項は「職員の給与は,前条第6項の。,
規定による給与に関する条例に基いて支給されなければならず,又,これに
基かずには,いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない」と定。
めている。
また,地方自治法204条3項は「給料,手当及び旅費の額並びにその,
支給方法は,条例でこれを定めなければならない」とし,同条の2は「普。,
通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基く条例に
基かずには,これを第203条第1項の職員及び前条第1項の職員に支給す
ることができない」と定めている。。
なお,地方公務員法の上記条項にいう「給与」は,賃金,給料,手当,賞
与その他名称の如何を問わず,労働の対償として支払われるものすべてを意
味し,退職手当も「給与」に含まれるものと解される。また,地方自治法の
上記各条項にいう「手当」の中には退職手当が含まれるものと解される。
上記各法律の規定の趣旨は,普通地方公共団体の職員に対して法定の種類
の給与を権利として保障するとともに,給与の額及びその支給方法の決定を
普通地方公共団体の住民の直接選挙により構成される議事機関である議会が
制定する条例にゆだねることにより,これに対する民主的統制を図ったもの
であると解され,その文理及び趣旨によれば,地方公共団体の職員等の給与
(退職手当を含む)の額及び支給方法は,法律又は条例で定めることを要。
し,これらに基づかなければいかなる給付もなし得ないものであって(給与
条例主義,法律又は条例によらない給与等の支出は直ちに違法となるもの)
と解される。
(2)本件支出等の違法性について
上記認定のとおり,旧B町において,臨時職員の退職慰労金について,条
例の定めがなかったことは当事者間に争いがなく,本件支出のうち,控訴人
に引き続き雇用された旧B町の臨時職員に対して行われた支出(以下「本件
支出部分」という)は,法律又は条例上の根拠を全く有しないものであっ。
て,上記各法律の規定に違反し,その余の点について判断するまでもなく,
違法であることは明らかである。
(3)控訴人らの主張について
ア控訴人らは,本件支出は形式的に違法であるとしても,本件支出に至る
諸事情からすれば実質的に違法であるとはいえないとし,次のような事情
を主張するので,順次検討する。
(ア)控訴人らは,旧B町の行政上の必要を満たすためには,臨時職員の
継続雇用や退職慰労金の支給が必要であった等と主張する。
しかしながら,旧B町において臨時職員を活用する必要性が高かった
ことは証拠上一応これを肯定し得るとしても,そのことから直ちにあえ
て地方自治法や地方公務員法の上記各規定に違反しなければならないよ
うな事情があったということはできないし,上記各規定の文理及び趣旨
からすれば,これらの規定が事情によってはその違反を許容する趣旨で
あるとも考え難い。
また,補助参加人Aも,条例にしかるべき定めを置くことは困難でな
かったと証言しており(当審証人A,臨時職員の給与等について,条)
例が制定できなかったやむを得ない事情があったなどということもでき
ない。
(イ)また,控訴人らは,永年にわたり,旧B町議会も臨時職員に対する
退職慰労金の支出を予算・決算において議決・承認してきたと主張し,
本件支出が旧B町議会が可決した補正予算に基づいてなされたものであ
,,ることは当事者間に争いがなくこれまでの旧B町議会の審議の過程で
内規の存在に触れられたこともあったことはこれを認めることができる
(丙98,証人A。)
しかしながら,条例と予算の議決及び決算の承認とは,その趣旨・目
的が異なり,実質的な審議の在り方も相違しているところ,上記各法律
の文理及び趣旨からすれば,この点を単に議会の意思によることで足り
るとしているものではなく,必要的条例事項として,条例という法形式
を要求しているものであることが明らかである。
したがって,議会が予算の議決や決算の承認をしたことをもって条例
の制定に代えることができると解する余地はないというべきであり,控
訴人ら主張の上記事情をもって,本件支出部分を実質的に違法でないと
することはできない。
(ウ)さらに,控訴人らは,臨時職員に対する支出については住民の理解
,,も得られていたと主張するがこれを認めるに足りる的確な証拠はなく
仮にそうであったとしても上記(イ)に述べたのと同様に給与条例主義違
反の瑕疵を治癒し得るような事情があったとはいえない。
(エ)また,控訴人らは,内規による運用は,人件費の節約となり,財政
の健全化に大きく貢献してきたというが,条例を制定しないことと人件
費の節約となったこととの間に関連性があるとは考え難いし,このこと
が反面臨時職員の権利保障をないがしろにするものであることからすれ
ば,上記違法性を左右するものであるとはいえない。
(オ)控訴人らは,職員の身分保障の観点からみても,内規による給与等
の支払は,旧B町と臨時職員との間の雇用契約の内容となっていたもの
であり,これを否定することは,臨時職員の身分保障を脆弱にするもの
である等と主張する。
しかしながら,上記のとおり,地方公務員法や地方自治法の上記規定
には,普通地方公共団体の職員に対して法定の種類の給与を権利として
保障する趣旨も含まれているのであり,これに違反する運用を正当化す
ることが職員の身分保障につながるものであるとは到底解されない。
(カ)控訴人らは,被控訴人らは,旧B町の町議会議員として,内規に基
づく支出の議案に賛成したり,あるいは,その妻が臨時職員として稼働
し,退職慰労金を期待していたという事情があり,本件提訴は,地方公
共団体の財務の適正を確保し,住民全体の利益を保護するといった目的
によるものではなく,制度を濫用するものである等と主張する。
,,しかしながら被控訴人らが内規に基づく運用にどの程度関与したか
本来の目的以外にどのような目的をもって本件訴訟を提起したかは本件
,,,証拠上明らかでないしそもそも本件支出部分は違法なのであるから
その是正を求めることが制度を濫用するものとも考え難いのであって,
控訴人らの上記主張は採用できない。
(キ)上記のとおり,控訴人ら主張の各事情に関する主張は,いずれも採
用できないし,これらを総合しても本件支出部分の違法性を左右するも
のではないというべきである。
イまた,補助参加人Aは,長崎県内における臨時職員の給与等に関する条
例の制定状況やその内容等について主張する。
しかしながら,臨時職員の給与等について法律又は条例の定めなしにこ
れを支出することが違法であることは明らかであり,仮に他の地方公共団
体において,違法な支出がなされていたようなことがあったとしても,そ
のことによって,本件支出部分の違法性が何ら左右されるものではなく,
むしろ,そのような他の地方公共団体の運用の方が速やかに是正されるべ
きものである。
また,上記法律の規定の文理及び趣旨によれば,職員の給与等の支給要
件及び支給額を条例において具体的に規定することが必要であり,その内
容を他に委任することを一切許容しないものとまではいえないとしても,
少なくとも当該種類の給与の支給要件該当性及び支給額を決定するための
具体的な基準が当該条例自体から読み取れる程度に条例においてこれを具
体的に規定することを要するものと解すべきであり,広汎な委任を内容と
する条例に基づく支出も違法と考えられるのであって,そのような内容の
条例を想定して,本件支出と実質的に差がないと論じ,給与条例主義が空
疎であるとする補助参加人Aの主張はその前提を誤っているものであって
到底採用できない。
2争点2(補助参加人Aの故意過失の有無)に対する判断
(1)故意過失について
補助参加人Aは,地方公共団体の首長を務める者として,地方公共団体の
支出について,法令に従って適正にこれを行う注意義務があったことはいう
までもない。そして,同人は,本件支出部分に係る支出が条例によらず,内
規に基づいてなされるものであることは知っていたが,前掲の地方公務員法
(),及び地方自治法の規定を知らなかった旨の証言をしているところ証人A
これを覆すに足りる証拠はない。
そうすると,同人が地方公務員法及び地方自治法の関係規定を知らなかっ
たことについて過失があるかどうかが問題となるが,地方公共団体の首長が
その支出を行うに当たり,関係法令の規定を調査し,これに従って違法な支
出を行わないようにする義務があることは多言を要しないところであり,同
人にこの義務に違反した過失があることは明らかである。
(2)控訴人らの主張について
控訴人らは,本件支出に至る諸事情からすれば,補助参加人Aには過失が
ない等と主張するところ,控訴人らの主張する諸事情のうち,上記1(3)に
,,おいて判断したのと同様の事情を主張する部分については同様の理由から
補助参加人Aの過失を否定すべき事情にも該当しないというべきである。
なお,法令の解釈について,学説,判例等において見解が分かれ,解釈に
疑義が生じている場合に,そのうち1つの見解を採って公権力の行使に当た
ったときは,公務員の過失が否定されることもあると解されるけれども,本
件のように,法律又は条例に基づかずに,退職慰労金を支払うことが違法で
あることについては,解釈に疑義を生じる余地はなく,そもそも,補助参加
人Aは,地方公務員法及び地方自治法の関係規定を知らなかったというので
あって,その責任が阻却される余地はない。
また,同人は,就任後,本件支出まで2年弱の在任期間しかなく,その間
に違法性についての注意を喚起する出来事もなかったと主張し,合併協議会
でも本件支出に関する指摘はなく,退職慰労金の支給が労使間の合意事項と
なっていたこと等からも支給以外の選択肢は考えられなかった等と証言する
(証人A)が,同人は,旧B町に永年勤めていた者である上,旧B町長とい
,,う地方自治体の首長の選挙に立候補し当選してその職にあった者であって
地方自治法等の規定について知らなかったことは,地方自治に関する基本的
な法令の調査を怠ったものというほかなく,上記の事情によってもそのよう
な調査を行う必要がなかったといえるものではなく,過失がなかったとはい
えない。
3争点3(損害の有無)に対する判断
(1)上記認定判断のとおり,補助参加人Aは,その過失により,違法な本件
支出部分に係る支出を行ったものであるところ,同支出は本来地方自治体が
行い得ないものであるところ,これが行われたことによって支出に相当する
財産を地方公共団体が失ったものであることからすれば,これにより旧B町
に対し,支出と同額の損害を与え,控訴人が本件合併によりその損害賠償請
求権を承継したものであるというべきである。
(2)この点,控訴人らは,旧B町に損害が発生していないと主張するが,上
記支出によって旧B町がそれに相当する財産を失ったことは明らかであり,
採用できない。
控訴人らの上記主張を,旧B町が本件支出部分の受給者らに対して私法上
の雇用契約に基づく債務又は不当利得等に基づく債務を負っており,本件支
出部分に係る支出によりこれらが消滅したとして,これと上記損害を損益相
殺すべきであるという主張と解するとしても,地方公共団体の職員の任用は
公法上の任用関係であって,これを私法上の雇用契約とみることはできない
し,地方公務員法22条5項は,人事委員会を置かない地方公共団体におい
ては,任命権者は,緊急の場合又は臨時の職に関する場合においては,6月
を超えない期間で臨時的任用を行うことができ,その任用は6月を超えない
期間で更新することができるが,再度更新することはできない旨規定してお
り,この規定に違反する任用を前提とする退職慰労金支給は,給与条例主義
違反の点をおくとしても,上記各法律の規定に照らし,許されないものであ
り,効力を生じる余地がないというべきであって,旧B町が本件支出部分に
係る支出の受給者に公法上の任用関係に基づく債務を負っていたということ
もできない。
また,旧B町が上記受給者らに不当利得等に基づく責任を負うかどうかに
ついてみても,本件支出部分は退職慰労金として支給されたものであり,労
務の提供を損害とみるとしても,退職慰労金の額が当然にその損害額に含ま
れるともいえない。
さらに,これらの点をおくとしても,上記法律の各規定によれば,労務提
供の対価を反対給付として支給するためには,法律又はこれに基づく条例に
よらなければならないのであり,上記のような損益相殺を認めることは上記
の各法律の規定の趣旨を没却するものであって,許されないと解するべきで
ある。
4争点4(G荘の職員に対する支出の主体)に対する判断
(1)自白の撤回の可否について
控訴人は,第1審において,G荘の職員に対する退職慰労金の支出が旧B
町によるものであることを争っていなかったことは当裁判所に顕著である。
控訴人は,当審において,上記自白は真実に反し,かつ,錯誤に基づくも
のであると主張するところ,証拠(乙8ないし13,証人A)及び弁論の全
趣旨によれば,G荘は,旧B町と旧E町によって組織された一部事務組合で
あるH保健福祉組合が運営し,同組合が臨時職員を任用し,平成17年3月
臨時職員9名の退職慰労金として,合計101万6634円を支出したもの
であることが認められる。
そうすると,上記自白は真実に反し,かつ,錯誤に基づくものであると認
,,められるからその撤回はこれを許容すべきものであり結局本件支出部分は
上記のうち,却下部分に係る支給額を除く70万8434円を控除した30
48万9042円となる。
(2)被控訴人らの主張について
被控訴人らは,控訴人の自白の撤回が時機に後れていると主張するが,こ
れによって訴訟の完結を遅延させることとなったとは認められない。
また,被控訴人らは,G荘の臨時職員は旧B町の職員が出向していた可能
性があると主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上のとおり,被控訴人らのこの点に関する主張は採用できない。
なお,当審において原判決の変更を要するに至ったのは,原審において,
控訴人が真実に反する自白をしたことによるものであるから,この点は,訴
訟費用の負担において考慮することとする(民訴法62条。)
5結論
,(。)以上によれば被控訴人らの請求原判決において却下された部分を除く
は,控訴人に補助参加人Aに対し3048万9042円及びこれに対する平成
18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求することを求
める限度で理由があり,その余の請求は理由がないから,原判決を変更するこ
ととして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官牧弘二
裁判官川久保政徳
裁判官増田隆久

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