弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
       本件を千葉地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人奥毅,同妹尾佳明,同新保克芳,同石川一成の上告受理申立て理由に
ついて
 1 原審の確定した事実及び記録によって認められる事実関係の概要は,次のと
おりである。
 (1) 被上告人は,いわゆる預託金会員制のゴルフ場であるDカントリー倶楽部
(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営している株式会社である。上告人は,本
件ゴルフ場の特別会員,正会員及び平日会員によって組織され,会員相互の親睦と
クラブライフの向上を期することを目的としている。
 (2) 上告人は,内部的な規約として,Dカントリークラブ規則及び同細則(以
下,単に「規則」,「細則」という。)を有する。
 規則によれば,上告人の総会は特別会員及び正会員をもって組織され,年1回の
定時総会の決議事項は,前年度の重要事項の報告,新年度の運営方針,理事及び監
事の選任並びに予算及び決算であり,出席会員の過半数をもって議決される。上告
人の運営に関する諸事項については,総会において選任された理事をもって構成さ
れる理事会において,過半数の理事が出席し,出席理事の過半数により決定され,
理事会の下に八つの分科委員会を設け,関係事項を分担処理している。また,理事
会において互選された理事長が上告人を代表し,会務を統括処理することとされて
いる。なお,上告人には,固有の事務所はなく,上告人の定時総会や理事会は,そ
の都度適宜の場所を借り受けて開催されている。また,上告人には専属の従業員は
なく,専ら理事らによって運営され,重要事項の報告,収支決算書及び収支予算書
等を記載した事業報告と題する文書は,被上告人が作成している。
 (3) 被上告人の元代表取締役が本件ゴルフ場の会員権を不正に売却し刑事事件
に発展したことをきっかけとして,昭和47年10月ころ,上告人と被上告人との
間で,協約書(以下「本件協約書」という。)が調印された。本件協約書には,本
件ゴルフ場の健全な経営と上告人の明朗な運営を図り,互譲の精神をもって両者の
調和を図り,より一層の発展を期するためとして,(ア) 上告人は被上告人の健全
な経営に協力する義務を負い,被上告人は本件ゴルフ場において上告人が社会通念
上快適なプレーをすることに支障を来さないようにする義務を負うこと,(イ) 上
告人は,(ア)の目的達成に必要な範囲内において,理事会の指示により,分科委員
会の一つである財務委員会又はその補助者に限り,被上告人の経理内容を調査する
ことができること,(ウ) 年会費,使用料その他の収入はすべて被上告人の収入と
し,被上告人はこの収入をもってゴルフ場施設の整備運営に充てるほか,上告人の
運営に要する通常経費を負担すること,(エ) 会員数の増減,施設の著しい増改築
,ゴルフ場の移転,売却及び閉鎖並びに預託金証書の取扱いについては,上告人と
被上告人双方の合意を必要とすること等が定められている。
 本件協約書の調印後,規則について,本件協約書が会員を拘束する旨の条項(4
条)や,本件協約書の履行に関する事項は理事会が決定する旨の条項(31条1号)
,被上告人の一方的事由によって預託金を包括的に返還する場合,会員は本件協約
書の上記(エ)に基づく理事会並びに会員総会の決議に従う旨の条項(10条)が追
加されるなどの改正がされた。
 なお,上告人の会員であったA外5名が,被上告人に対し,商法282条2項に
基づき書類の閲覧を求めた千葉地方裁判所佐倉支部昭和57年(ワ)第38号計算
書類閲覧等請求事件について,昭和57年8月23日,被上告人が本件協約書の上
記(イ)の条項が有効であることを認める旨の訴訟上の和解が成立した。
 (4) 上告人には固定資産はなく,規則又は細則にも上告人が財産を管理する方
法等について具体的に定めた規定はない。
 細則によれば,上告人の会員の負担すべき年会費,使用料その他に関しては理事
会において決定され,会員は年会費を前納するものとされている。他方,規則には
,上告人の会計業務は,すべて被上告人が行い,上告人の総会において選任された
監事の監査承認を受けるものと規定されている。また,協約書には前記(ウ)の定め
があるところ,上告人の運営に要する通常経費は,上告人が年間の活動計画に基づ
き,毎年,予算として一定額を計上するものの,年度当初に一括して支払われるの
ではなく,実際の上告人の活動状況に対応し,その要請に応じる形で被上告人から
逐次支払われていた。
 2 本件訴訟は,上告人が被上告人に対し,主位的には,本件協約書に定められ
た前記(イ)の経理内容調査権に基づき,予備的には,商法282条2項に基づき,
第1審判決別紙書類目録記載の書類等の各謄本の交付を請求する事案である。
 原審は,上記事実関係の下において,概要次のように判示し,本件訴えを却下す
べきものとした。
 上告人は,代表の方法,総会の運営などを定めた規約を有し,会員の入退会にか
かわらず同一性が失われることがないなど,団体としての形式,外観を備えており
,権利能力のない社団の要件を一応満たしているようにも見える。しかしながら,
上告人は,固定資産を有しておらず,他に被上告人の財産から独立して存立の基盤
となり得る上告人固有の財産が存在するとはいえない。その上,上告人が具体的に
財産を管理する方法について定めた規定も存在せず,上告人の会計業務はすべて被
上告人が行っているのであるから,結局,上告人は,被上告人の計算に基づきその
財政的基盤の上に成り立っており,それ自体独立して権利義務の主体たるべき社団
としての財政的基盤を欠く。したがって,上告人は,民訴法29条にいう「法人で
ない社団」に当たるとはいえないから,当事者能力がない。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 民訴法29条にいう「法人でない社団」に当たるというためには,団体としての
組織を備え,多数決の原則が行われ,構成員の変更にかかわらず団体そのものが存
続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての
主要な点が確定していなければならない(最高裁昭和35年(オ)第1029号同
39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照)。これらの
うち,財産的側面についていえば,必ずしも固定資産ないし基本的財産を有するこ
とは不可欠の要件ではなく,そのような資産を有していなくても,団体として,内
部的に運営され,対外的に活動するのに必要な収入を得る仕組みが確保され,かつ
,その収支を管理する体制が備わっているなど,他の諸事情と併せ,総合的に観察
して,同条にいう「法人でない社団」として当事者能力が認められる場合があると
いうべきである。
 これを本件について見ると,前記1の事実関係によれば,上告人は,預託金会員
制の本件ゴルフ場の会員によって組織された団体であり,多数決の原則が行われ,
構成員の変更にかかわらず団体そのものが存続し,規約により代表の方法,総会の
運営等が定められているものと認められる。財産的側面についても,本件協約書の
前記(ウ)の定め等によって,団体として内部的に運営され対外的にも活動するのに
必要な収入の仕組みが確保され,かつ,規約に基づいて収支を管理する体制も備わ
っているということができる。さらに,上告人と被上告人との間で本件協約書が調
印され,それに伴って規則も改正されているところ,その内容にも照らせば,上告
人は,被上告人や会員個人とは別個の独立した存在としての社会的実体を有してい
るというべきである。【要旨】以上を総合すれば,上告人は,民訴法29条にいう
「法人でない社団」に当たると認めるべきものであり,論旨は理由がある。
 4 以上と異なる見解に立って上告人の当事者能力を否定した原審及び第1審の
判断には,いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したが
って,原判決を破棄し,第1審判決を取り消し,本件を第1審裁判所に差し戻すこ
ととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第二小法廷
(裁判長裁判官 亀山継夫 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川
弘治 裁判官 梶谷 玄)

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