弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 被告が平成7年6月5日付けで平成5年9月24日相続開始に係る亡P1の相
続税についてした更正処分のうち課税価格13億2715万7000円、納付すべ
き税額6億6442万1300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を
取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、被告が平成7年6月5日付けでした亡P2の平成5年9月24日相続開
始に係る亡P1の相続税についてした更正処分(以下「本件更正処分」という。)
について、亡P1が、同処分は①課税価格の算定に当たってした相続財産たる株式
の評価に当たり財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56・直審(資)1
7による国税庁長官通達、平成6年6月27日付け課評2-8・課資2-113に
よる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に定められた評価差額に対す
る法人税額等相当額の控除を行っていないこと、②亡P2が都市計画法に基づく都
市再開発事業により従前建物の敷地として貸し付けた土地との権利変換で所有する
に至った土地の共有持分について、租税特別措置法(平成6年法律22号による改
正前のもの、以下「措置法」という。)69条の3の適用をせず、また貸家建付地
としての減価及び前記権利変換で所有するに至った共有床について貸家としての減
価をいずれもしなかったこと、③更正決定に理由付記がされていないことを違法と
して、本件更正処分の取消しを求め、本件更正処分に伴ってした過少申告加算税賦
課決定処分の取消しを求める事案であり、本件提起後、亡P1が死亡したことによ
り、原告両名がその地位を承継したものである。
2 関係法令等の定め
(1) 相続税法22条は、同法第3章「財産の評価」で特別の定のあるものを除
くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時に
おける時価によると定めている。
 そして、国税庁長官は、課税価額計算の基礎となる財産評価の一般的基準として
評価基本通達を定めており、同通達の定めによって評価した価額により財産の価額
とするものとし(同通達1(2))、同通達の定めによって評価することが著しく
不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価するものとして
いる(同通達6)。
(2) 評価基本通達によれば、株式及び株式に関する権利の価額は、それらの銘
柄の異なるごとに、上場株式、気配相場等のある株式、取引相場のない株式(上場
株式及び気配相場等のある株式以外の株式)等の区分に従い、その1株ごとに評価
するものとされ(168)、取引相場のない株式の価額は、評価しようとする株式
の発行会社の資本金、直前期末における総資産価額及び直前期末以前1年間におけ
る取引金額等に応じて大会社、中会社又は小会社に区分し(178)、小会社の株
式の価額は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)によ
って評価する(純資産価額方式)ものとされる(179(3))。1株当たりの純
資産価額は、課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価
額の合計額から課税時期における各負債の金額の合計額及び後記の評価差額に対す
る法人税額等に相当する金額を控除した金額(課税時期における相続税評価額によ
る純資産価額)を課税時期における発行済み株式数で除して計算した金額とし(1
85)、評価差額に対する法人税額等に相当する金額とは、課税時期における相続
税評価額による総資産価額から課税時期における各資産の帳簿価額の合計額から各
負債の金額の合計額を控除した金額を差し引いた残額がある場合におけるその残額
に51パーセント(清算所得に対する法人税、事業税、道府県民税及び市町村民税
の税率の合計に相当する金額)を乗じて計算した金額をいう(186-2)として
いる。
(3) 措置法69条の3第1項は、個人が相続又は遺贈により取得した財産のう
ちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人若し
くは当該相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の事業の用若しくは居住
の用に供されていた宅地等(土地又は土地上に存する権利)で大蔵省令で定める建
物若しくは構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、当該相続又は遺
贈により財産を取得したものに係る全てのこれらの宅地等の200平方メートルま
での部分のうち、当該個人が取得した宅地等で政令で定めるものについては、相続
税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に同項各号に掲げる場
合の区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とすると定め、同項
1号は、当該小規模宅地等に係る当該200平方メートルまでの部分の全部が当該
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等である場合には、その割合を100分
の30と規定している(第1項、以下「本件特例」という。)。そして、本件特例
は、同規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法27条又
は29条の規定による申告書に本件特例の適用を受けようとする旨を記載し、本件
特例による計算に関する明細書その他の大蔵省令で定める書類の添付がある場合に
限り適用する(第3項)とされるが、税務署長は、相続税の申告書の提出がなかっ
た場合又は前項の記載若しくは添付がない相続税の申告書の提出があった場合にお
いても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについてやむを得ない事情
があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細書及び大蔵省令で定
める書類の提出があった場合に限り、本件特例を適用することができる(第4項)
と規定されている。
 国税庁長官が行った「租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税
猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱いについて」題する通達(平成元年5
月8日、直資2-208、平成6年課資2-115で改正前のもの、以下「措置法
通達」という。)69の3-8においては、本件特例の適用に関し、事業場の移転
又は建て替えのため被相続人等の事業の用に供されていた建物を取り壊し、又は譲
渡し、これらの建物に代わるべき建物で被相続人等の事業の用に供されると認めら
れるものの建築中に、又は当該建物の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被
相続人について相続が開始した場合には、当該建築中又は取得に係る建物の敷地の
用に供されていた宅地が被相続人等の事業用宅地に当たるかどうか及び事業用宅地
等の部分については、同通達69の3-7に準じて取り扱うものと規定し、69の
3-7は、居住用宅地等につき、当該建築中又は取得に係る建物を相続又は遺贈に
より取得した者が、当該相続にかかる相続税の申告書の提出期限までに当該建物を
居住の用に供しているときは、当該建物の敷地の用に供されていた宅地等は、措置
法69条の3第1項に規定する居住用宅地等に当たるものとして取り扱うとし、当
該建築中の建物を相続又は遺贈により取得した者が、当該相続にかかる相続税の申
告書の提出期限において当該建物を事業の用に供していない場合であっても、それ
が当該建物の規模等からみて建築に相当の期間を要するため建物が完成していない
ことによるものであるときは、当該建物の完成後速やかに事業の用に供することが
確実であると認められるときに限り、当該建物の敷地の用に供されていた宅地等
は、居住用宅地等に当たるものとして取り扱うものと規定している。
3 前提事実
(1) 当事者
 亡P1は、平成5年9月24日に死亡した亡P2の長男であり、他の相続人5名
(以下、亡P1と他の相続人5名を併せて「本件相続人ら」という。)とともに、
亡P2を相続した。
(2)ア 亡P2は、従前東京都新宿区α30番1、31番、32番1の各宅地
(1595.97平方メートル)の一部を所有し、同土地の貸付を行っていたもの
であるが、同土地を含む約3.1ヘクタールの地域を施行地区としたα東地区第一
種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)の基本計画が昭和61年4月2
4日に権利者に提示され、平成元年11月24日に建設大臣が同事業の施行規程及
び事業計画を認可(平成2年5月15日に変更認可)し、平成2年9月25日に権
利変換計画の認可がされ、同年10月11日に権利変換がされたことにより、本件
事業によって建築される施設建築物(以下「本件施設建築物」という。)のうち住
宅部分である一部及びその施設建築敷地(以下「本件施設建築敷地」という。)の
共有持分並びに事務所部分の一部の共有持分及び施設建築敷地の共有持分(以下、
施設建築物のうち当時亡P2が所有していた共有持分を「本件施設建築物持分」と
いい、その施設建築敷地持分を「本件敷地持分」という。)を有する(平成5年4
月7日に変更された後のもの)に至った。
 本件施設建築物は平成3年2月15日に発注され、平成4年11月までに従前建
物の除却工事を終え、同年11月19日に起工式を行い、平成7年1月31日に工
事完了公告及び引渡しがされ、翌2月1日から使用が開始された。
イ 亡P2は、三井信託銀行(当時)から総額5億2000万円の融資の内諾を得
た上で、平成3年3月22日、資本金を500万円とする有限会社高巳投資(以下
「高巳投資」という。)を設立し、代表取締役に就任した。
 三井信託銀行からの借入れは、連帯保証人を亡P1及びP3とし、返済期限を平
成8年3月末日、利率を年7.5パーセントとするもので、総額5億2000万円
から収入印紙代20万円を差し引いた5億1980万円が平成3年3月25日、三
井信託銀行から同行γ西口支店の亡P2名義の普通預金口座に振り込まれた。
 高巳投資の平成3年3月22日現在の設立時貸借対照表には、資産の部に、現金
預金5億円、負債及び資本の部には、資本金500万円及び資本準備金4億950
0万円と記載されており、同月25日、亡P2は、前記借入金から5億1000万
円を三井信託銀行γ西口支店の高巳投資名義の普通預金口座に入金した。同社の定
款によると、同社の出資口数は5000口に分けられ、1口当たり10万円の引受
価額で、亡P2が4980口、亡P1が10口、P3が10口を引き受けている。
 亡P2は、高巳投資の設立に続き、平成3年3月27日に、高巳投資の自己名義
の出資口数4980口及びP3名義の出資口数10口の合計4990口を現物出資
することにより資本金499万円の株式会社高芳管財(以下「高芳管財」とい
う。)を設立し、代表取締役に就任した。同社の定款によると、同社の出資口数は
4990口に分けられ(出資1口の金額は1000円)、高巳投資の出資口数を現
物出資した亡P2及びP3は、高巳投資の出資口数1口に対し、高芳管財の出資口
数1口(亡P24980口、P310口)を各取得した。高芳管財の、平成3年3
月27日現在の設立時貸借対照表には、資産の部に高巳投資出資金499万円、負
債及び資本の部欄に資本金499万円と記載されている。
(3) 本件更正処分に至る経緯
ア 亡P1は、法定申告期限までに亡P2の相続に係る相続税につき、平成6年4
月25日、課税価格を12億8529万8000円、納付すべき税額を6億398
4万3900円とする申告をした。その後、平成7年3月10日、課税価格を13
億2715万7000円、納付すべき税額を6億6442万1300円とする修正
申告を行い、被告は、平成7年5月12日、亡P1に対し、過少申告加算税を24
5万7000円とする過少申告加算税賦課決定処分を行った。
 亡P1は、修正申告に際し、高芳管財の課税時期現在の純資産価額の評価につ
き、評価差額に対する法人税額等に相当する金額の控除を行い、その総額を2億1
675万9480円とし、1口当たりの純資産価額を4万3526円とした。
イ 被告は、平成7年6月5日付けで、課税価格を15億7574万9000円、
納付すべき税額を8億0257万9900円とする本件更正処分及びこれに係る過
少申告加算税を1381万6000円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下
「本件賦課決定処分」という。)を行い、その旨を亡P1に通知した。
 亡P1は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成7年7月28
日、異議申立てをしたところ、被告は、平成7年10月23日付けでこれを棄却す
る旨の異議決定をし、同決定書謄本は平成7年10月25日に亡P1宛送達され
た。亡P1は、これを不服として、平成7年11月15日国税不服審判所長に対し
審査請求をしたが、同所長は平成9年2月7日付けでこれを棄却する旨の裁決し、
裁決書謄本は、平成9年2月8日に亡P1宛送達された。
(4) 亡P1は、平成11年7月17日に死亡し、妻であるP4、母であるP3
が遺産を相続し、長男P5、次男P6及び三男P7は相続を放棄した。
4 被告の主張する本件更正処分の根拠
(1) 課税価格の合計額 36億0428万1000円
 上記金額は、相続により取得した財産の価額54億4394万3057円から、
控除すべき債務等の額18億4165万8013円を控除した後の金額に、純資産
価額に加算される贈与財産価額200万円を加算した金額(ただし、国税通則法
(以下「通則法」という。)118条1項の規定により、本件相続人らにつき、各
人ごとに課税価格の1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)である。
 これらのうち、相続により取得した財産に含まれる高芳管財への出資の評価を4
億6535万1120円(修正申告においては2億1675万9480円)とした
点以外は、すべて修正申告額と同額である。(なお、取得財産のうち土地の価額
は、30億5311万7498円である。)
(2) 亡P1の納付すべき相続税額 8億0258万9900円
 上記金額は、相続税法15条、16条及び17条(15条及び16上について
は、いずれも平成4年法律16号による改正後のもので平成6年法律23号による
改正前のもの。以下同じ。)の各規定により、次のとおり算定したものである。
ア 本件相続人らの課税価格の合計額 36億0428万1000円
 上記金額は、上記(1)の金額である。
イ 遺産に係る基礎控除額 1億0500万0000円
 上記金額は、相続税の課税価格の合計額から控除すべき基礎控除額であり、相続
税法15条の規定により、4800万円と、950万円に本件相続人らの人数であ
る6を乗じて算出した5700万円との合計額である。
ウ 課税遺産総額 34億9928万1000円
 上記金額は、上記アの金額から上記イの金額を控除した金額である。
エ 法定相続分に応ずる取得金額
(ア) 亡P1分(法定相続分10分の1) 3億4992万8000円
(イ) その他の相続人分(法定相続分10分の9) 31億4935万2000

上記金額は、相続税法16条の規定により、本件相続人らが前記3の金額を法定相
続分に応じて取得したものとした場合の取得金額であり、前記ウの金額に本件相続
人らの法定相続分のそれぞれに乗じて算出した金額(通則法118条1項の規定に
より本件相続人ら各人ごとに1000円未満の端数を切り捨てた後の金額)であ
る。
オ 相続税の総額 18億3575万0000円
 上記金額は、上記エの各金額に相続税法16条に規定する税率を適用して算出し
た金額(本件相続人ら各人ごとに100円未満の端数を切り捨てた後の金額)の合
計額である。
カ 亡P1の納付すべき相続税額 8億0258万9900円
 上記金額は、相続税法17条の規定により、前記オの金額に、亡P1に係る課税
価格(15億7574万9000円)が本件相続人らに係る課税価格の合計額のう
ちに占める割合を乗じて算出した金額(通則法119条1項の規定により、100
円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。
5 被告の主張する本件賦課決定処分の根拠
 亡P1は、亡P2に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告して
いたものであり、過少に申告したことについて通則法65条4項に規定する正当な
理由も存しない。したがって、通則法65条1項の規定により、本件更正処分によ
って亡P1が新たに納付すべきこととなった相続税額1億3816万円(8億02
58万9900円から本件修正申告に係る納付すべき税額6億6442万1300
円を控除し、通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の
金額)に100分の10の割合を乗じて算出した金額1381万6000円を過少
申告加算税として賦課した。
6 争点
 本件の争点は、①高芳管財の出資の評価の適否(争点1)、②本件敷地持分及び
本件施設建築物持分の評価並びに本件敷地持分に対する本件特例適用の適否(争点
2)、③本件更正処分に理由付記がされていないことの適否(争点3)である。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(高芳管財の出資の評価の適否)
(1) 被告
ア 相続財産の評価方法と評価基本通達
 相続税法22条にいう「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的交換
価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取
引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解される。
 しかし、客観的交換価値といっても必ずしも一義的に確定されるものではないこ
とから、課税実務上は評価基本通達を定め、この通達の定めによって評価すること
とされており、相続、遺贈又は贈与により取得した財産は、評価基本通達に定める
評価方式によらないことが正当として是認され得るような特別な事情がある場合を
除き、原則として評価基本通達に基づいて評価すべきこととなる。
イ 取引相場のない株式の評価方法
 そして、取引相場のない小会社の評価方法につき、評価基本通達は、「純資産価
額方式」により評価するものとし、課税時期における相続税評価額による純資産価
額から、評価差額に対する法人税額等相当額を控除して評価会社の1株当たりの価
額を算定するものとしている。しかし、純資産価額方式によって小会社の株式を評
価する際に、評価会社の純資産価額から評価差額に対する法人税額等相当額として
評価差額の51パーセント相当額を控除することとしている趣旨は、例えば、評価
会社が被相続人の個人的な資質や能力に依存していたいわゆるワンマン会社であっ
て、相続の開始によって事業の継続が不可能になる場合や相続人が会社の資産を自
己のために自由に利用あるいは処分したい場合には、会社を解散、清算することに
より被相続人が所有した株式数に見合う財産を手にするほかないところ、その場合
に、法人に清算所得(いわゆる含み益)があった場合には、その清算所得に対して
法人税等が課されるため、個人事業者が直接に事業用資産を所有している場合に比
して法人税額等相当額分だけ実質的な取り分が減少することになるから、このよう
な株式の評価に当たっては、個人が株式の所有を通じて会社の資産を間接的に所有
している場合と個人事業主として直接に事業用資産を所有する場合とで両者の所有
形態を経済的に同一の条件の下に置き換えた上で評価の均衡を図る必要があるとい
うものであって、評価基本通達が法人税額等相当額を控除することとしていること
を利用して、ことさら評価差額を作出し、それにより相続税の軽減を図ろうとして
いる場合には、評価基本通達を形式的、画一的に適用し法人税額等相当額を控除す
ることは、評価基本通達の趣旨にそぐわないばかりか、評価基本通達の意図する課
税の公平という精神にも反する結果となるものといわなければならない。したがっ
て、そのような場合には、評価基本通達によらないことが相当と認められるような
特別な事情があるものといわなければならない。
 すなわち、①法人に対し時価の2分の1以上の価額で譲渡所得の起因となる資産
を譲渡した場合には、時価によるみなし譲渡課税が行われないこと、②法人の増資
に際し時価よりも低額な価額による現物出資が行われた場合には、当該法人にとっ
て現物出資の受入れは資本取引に該当するため、時価と出資に係る受入価額との差
額は益金に算入されず、法人税の課税対象とはならないこと、及び③評価基本通達
が法人税額等相当額を控除することとしていることを奇貨とし、専ら租税回避を目
的として、実勢価額を著しく下回る価額による現物出資により会社を設立すること
によって、ことさらに評価差額を人為的に作出して、相続税の課税価格を圧縮して
いるような場合にまで、評価基本通達を形式的、画一的に適用し、法人税額等相当
額を控除することは、評価基本通達の趣旨に沿わないのみならず、このような行為
を行わない納税者との間での租税負担の公平を著しく害し、また、富の再分配機能
を通じて経済的平等を実現するという相続税の機能に反する著しく不相当な結果を
もたらすというべきである。
 したがって、専ら租税回避の目的で評価差額を人為的に作出した場合において
は、評価基本通達によらないことが相当と認められる特別な事情があると解するの
が相当であるので、純資産価額方式により株式等を評価するに当たって、法人税額
等相当額を控除しないで計算した価額をもって、当該株式等の「時価」とみるのが
相当である。
ウ 本件における高芳管財の出資の評価
(ア) 亡P2は、三井信託銀行の社員を介して、日本事業承継コンサルタント協
会を知るに至り、当該協会担当者から相続税対策として以下のような方策を提案さ
れた。
a 親が多額の資金を出資して第1法人(A社)を設立する。
b A社の株式(出資)を著しく低い価額で現物出資することにより第2法人(B
社)を設立する。
c 親から子へB社の株式(出資)を相続税評価額で売却する。
d 上記(c)の売却後、B社がA社を帳簿価額で吸収合併する。
e 子はB社を減資して資本の払い戻しを受け、親が出資した資金を子が取得す
る。
 亡P2は、上記提案に従い、平成3年3月に高巳投資を設立し、同社の出資を現
物出資することで高芳管財を設立したが、高巳投資は、①平成6年2月期の事業年
度を除き、平成3年3月の設立から平成10年2月期までの各事業年度の所得金額
はいずれも欠損か零円であり、②平成3年3月の設立から平成6年2月期の事業年
度の途中(本件相続が開始する前)までの間における亡P2に対する役員報酬とし
て総額420万円(うち240万円は平成10年2月期末において未払い)を計上
していたが、その後は全く計上しておらず、また、高芳管財は、①平成3年3月の
設立から平成10年2月期までの各事業年度の所得金額はいずれも欠損か零円であ
り、②設立から平成10年2月期までの間における各事業年度の役員報酬の計上は
ない。
(イ) 以上の事実によれば、亡P2及び亡P1は、将来における相続税の負担を
大幅に減少させることを目的として、高巳投資及び高芳管財を設立したものと認め
られる。すなわち、金融機関からの借入金による高巳投資及び高芳管財の設立は、
評価基本通達が純資産価額方式による出資の評価に当たり、評価差額に対する法人
税額等相当額を控除することに着目して、高巳投資の出資4980口をわずか総額
498万円で現物出資して高芳管財を設立することにより、同社の出資の評価にお
いて多額の評価差額を人為的に作出することによって評価額の大幅な圧縮により相
続税の課税対象額を減少させ、その結果多額の相続税負担を減少させることを目的
として行われたものである。そして、この場合、評価会社の解散を想定しておら
ず、合併・減資をすれば投下資本をいつでも回収可能な状態となる。
 本件では、5億2000万円の借入金を原資とする亡P2の現金は、高巳投資へ
の出資という形を経て、高芳管財への出資に形を変えたにすぎず、その間に実質的
な財産価値の変動はない(両会社の純資産価額は、高巳投資の純資産価額が4億9
239万7000円であり、高芳管財の純資産価額が4億6628万8000円で
ある。)にもかかわらず、評価基本通達を形式的に適用した場合の高芳管財への出
資の評価額(2億2313万3000円)が高巳投資の出資への評価額(4億92
39万7000円)を2億2926万4000円も下回るのは、高巳投資には評価
差額がないのに対し、高芳管財には評価差額があることだけによるものである。
(ウ) このような場合に評価基本通達を形式的、画一的に適用すれば、前記のと
おり税負担の公平を著しく害するとともに、相続税法の立証趣旨に著しく反する結
果をもたらすこととなるから、本件においては評価基本通達を形式的に適用しない
ことが相当と認められるような特別な事情があるというべきであり、株式(出資)
が、会社資産に対する持ち分と考えられることから、株式(出資)の理論的・客観
的な価値は、会社の純資産価額を発行済株式数(出資口数)で除した、すなわち、
純資産価額方式は株式(出資)の評価方法として高い合理性を有するものであるも
のの、法人税額等相当額を控除する必要性が認められない特別な事情のある場合に
は、相続税法22条に規定する時価の概念に沿った純資産価額方式を基本とし、法
人税額等相当額を控除しないという点についてのみ計算方法を変更し、これによっ
て株式(出資)の評価を行うことは十分合理性があるというべきである。
 したがって、本件出資の評価に当たっては、評価基本通達に定める評価方法を形
式的に適用することなく、純資産価額方式を基本としつつ、法人税額等相当額を控
除しないで評価すべきである。
(2) 原告ら
ア 被告は、高芳管財の出資の評価に当たり、一口当たりの純資産価額の計算の
際、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行わなかったが、評価基本通達
は、行政先例法又は行政慣習法と位置付けられるものであり、そうでないとしても
課税当局が納税者に対して公表していることにかんがみれば、評価基本通達の定め
に従い評価を行い、評価差額に対する法人税額等相当額の控除を行うべきであり、
それを行わなかった本件の評価は誤りといわざるを得ない。
 実質的にみても、純資産価額方式における法人税額等相当額の控除は、会社資産
が課税時期において株主に帰属すると仮定した場合の法人税額等相当額を、相続税
等の財産評価上減額しようとするものであり、課税時期において会社の資産が株主
に帰属した場合の価値を考慮するに当たっては、法人税額等相当額の控除を行うの
が合理的なのであるから、本件出資持分は過大に評価されていることになる。すな
わち、評価基本通達は、配当収益の還元や出資議決権における経営参加権としての
価値、さらに、法人の財産分与請求権としての価値等諸々の権利が集約された複合
的な資産価値を持つ出資持分を評価するに当たり、資産を直接所有する場合との差
異にかんがみ、評価法人の総資産額から負債及び法人税額等相当額を控除して時価
を算定するものとし、会社資産の所有形態の差異を評価上斟酌したものであるか
ら、法人税額等相当額の控除は、純資産価額方式による評価の本質というべきもの
であり、それを行わないことはできないのである。
イ 亡P2及び亡P1が、相続税の納付が困難になることを避けるため、現物出資
により会社を設立したことは事実であるが、高巳投資は、当時株式市況が活況を呈
していたことに着眼し、投資顧問会社の専門家に依頼して行う株式投資事業を目的
として設立したものであり、また、高芳管財は、これまで個人事業として行ってい
た不動産の貸付を法人事業として展開することとしたものであり、両者の持分を相
続した相続人が法人としての事業拡大を図り、役員給与や利益分配による資金で相
続税の延納納付に当てるという計画の下で行った意思決定であった。
 そして、高巳投資は、当初約5億円の資金をもって投資顧問会社と株式投資の契
約を締結し、一時は投資利益も発生したが、その設立後の株式の暴落により、高巳
投資は相続前に2億円の契約を解除してその資金を亡P2に貸付け、同人が三井信
託銀行の借入金を返済し、その残額の3億円は、相続発生後に投資顧問会社との契
約を全て解除して、全ての株を売却して全面的に株式投資から撤退した。その後、
この株式売却資金をもって、亡P1が相続した世田谷区δの建物を買い受け、その
建物を取り壊した跡地に新たに賃貸用マンションを建設して不動産貸付業を行って
いる。また、高芳管財は、設立当初から、世田谷区εの土地を亡P1から無償で借
り受け、その土地上に賃貸用マンションを建設して貸し付けている。両法人は、現
に活動しており、法人の設立は合理的なものであったといえるし、将来、高芳管財
が高巳投資の出資持分を譲渡する場合には、譲渡価額と出資による受け入れ価額と
の差額につき、譲渡益課税が行われるし、高芳管財が解散した場合には清算所得課
税が行われるのである。
 当時、本件相続発生後に両者を合併し、減資を実行すれば、法人税額課税も所得
税課税も行われずに会社設立前とほぼ同様の状態になるとの手法の勧誘を受けた
が、亡P1の顧問税理士が税務上の問題の発生する余地があることを懸念して、そ
の勧めを拒絶したものであり、実際に両者は合併が行われていない。
2 争点2(本件敷地持分及び本件施設建築物持分の評価並びに本件敷地持分に対
する本件特例適用の適否)
ア 被告
(ア) 貸家建付地及び貸家の評価方法
 評価基本通達26、93及び94は貸家建付地及び貸家の価額について、貸家の
目的に供されている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その自用
地としての価額にその宅地に係る借地権割合と貸家に係る借家権割合との相乗積を
乗じて計算した価額を控除した価額により評価し、借家権の目的となっている家屋
については、その家屋の価額からその家屋に係る借家権の価額を控除した金額によ
り評価し、借家権価額は、その借家権の目的となっている家屋の借家権が設定され
ていないものとした場合における価額に、借家権割合を乗じて計算した金額によっ
て評価すると定めている。
 このように、貸家建付地及び貸家について評価額の減額が認められている趣旨
は、借家権を消滅させるために立退料の支払いを要したり、あるいは建物に借家権
を付したままで建物ないしその敷地を譲渡する場合、その譲受人は建物ないしその
敷地の利用について制約を受けることにあるから、建物及び敷地の交換価値が、借
家権の目的となっていない建物や土地に比べて低くなることに基づくものであり、
貸家建付地及び貸家に関する評価額の減額は、このような交換価値の低減が生じる
場合に限って認められるべきものであると解される。
 ところで、本件施設建築物が完成したのは、平成7年1月31日であり、また、
平成7年2月1日付けで新宿アイランド共有者組合と株式会社新宿アイランドとの
間で本件建築施設の管理運営に係る業務の事業委託契約書が交わされていることか
ら、平成5年9月24日の本件相続開始日において、本件施設建築物持分に関する
賃貸借契約は存在しておらず、また、テナントの募集すら始まっていない状況であ
ったと認められ、本件施設建築物持分は、本件相続開始日においては、単に貸付用
の建物としての利用が予定されているにすぎないものである。また、本件施設建築
物持分及び本件敷地持分は新宿区西口という位置にあり事務所用建物としての需要
は高く、本件相続開始日において売却も可能であったのであり、新宿アイランド共
有者組合の契約書の第50条1号に組合の解散事由として「出資財産たる全共有床
の売却手続の完了」が規定されていることからも、全共有床の売却が可能であった
ことがうかがえる。そうすると、本件相続開始日において、本件施設建築物持分が
貸し付けられることが決まっていたという原告らの主張は、貸付先が決まっていた
というものではなく、単に貸付用建物として利用されることが確実であったという
ものにすぎず、本件相続開始日において、賃借人が存在するわけではないのである
から、借家権を消滅させるための立退料を必要としたり、本件施設建築物持分及び
本件敷地持分の利用について制約を受けることもなかったものである。
 したがって、本件施設建築物持分及び本件敷地持分については、本件相続開始日
において、そもそも「交換価値が低くなるような事情」は全くなかったのであるか
ら、貸家及び貸家建付地と同様に評価する余地はない。
(イ) 第一種市街地再開発事業における権利変換期日以降の土地等の評価
 第一種市街地再開発事業施行地区内の土地等は、権利変換期日以降は、施設建築
敷地及び施設建築物の一部等の給付を受ける権利となるので、それぞれ次のとおり
評価する。
a 施設建築敷地
 1個の施設建築物の敷地は、1筆の土地となるように定めることとされており、
2人以上の宅地の所有者に所有権が与えられるときは、その施設建築敷地は、これ
らの者の共有とされ、共有財産となる施設建築敷地は、評価基本通達に定めるとこ
ろにより評価した評価額にその共有持分を乗じて計算した価額により評価する。そ
して、市街地開発事業においては、権利返還期日以降に土地の明渡しを受け、施設
建築物の建築工事に着工することから、施設建築物が完成するまでの期間は宅地と
しての利用が制限されることとなり、この状況は土地区画整理事業の造成工事が施
工中のものと同一視できることから、権利変換期日以降施設建築物が完成するまで
の間の施設建築敷地の評価は、評価基本通達24-2のただし書に定める土地区画
整理事業に伴う造成工事が施工中の土地の評価と同様に取り扱うのが合理的であ
る。
 したがって、権利変換期日以降の土地は、施設建築敷地の価額により評価するこ
ととし、施設建築物の工事が完了するまでの期間が1年を超えると見込まれる場合
には、その価額の100分の95に相当する金額により評価することとなる。
b 施設建築物の一部等の給付を受ける権利
 権利変換期日は、施設建築物の完成前に定められるので、同日においてまだ施設
建築物は存在していない。したがって、権利変換期日においては、将来、当該建築
物が完成したならば、その一部等の給付を受けることができるという権利を取得す
るにとどまり、施設建築物が完成した後に、この権利に基づき、当該建築物の一部
等の給付を受けることになる。施設建築物の一部等の給付を受けることができる権
利は、従前の土地、借地権及び建築物の価額を基に関係権利者相互間で不均衡が生
じないように定めることとされており、その価額は権利変換計画で明らかにされて
いる。
 施設建築物の一部を受ける権利は、目的物が貸付金債権等のように元本が確定し
ているものと異なり施設建築物であることから、評価基本通達91に定められてい
る建築中の家屋の評価との均衡を図る観点から、斟酌割合を30パーセントとする
ことが合理的である。
 したがって、施設建築物の一部等の給付を受ける権利は、権利変換計画に定めら
れたその権利の価額の100分の70に相当する金額によって評価すべきである。
(ウ) 本件更正処分における本件敷地持分及び本件施設建築物持分の評価額
 原告らは、本件敷地持分については、本件施設建築物敷地を1画地として、評価
基本通達の定めに従って評価した同敷地の1平方メートル当たりの価額に、同敷地
の面積のうち、亡P2の共有持分に係る面積を乗じたものを自用地の価額とし、土
地区画整理事業施工中の宅地の評価方法に準じて、上記自用地の価額の100分の
95に相当する金額を価格として、また、本件施設建築物については、事業変換計
画に定められた権利の価額に、評価上の安全を考慮して建築中の家屋の評価方法を
準用し、同権利の価額に100分の70の割合を乗じて算出した額に、さらに使用
収益が停止されていることについての斟酌をして、算出金額の100分の95に相
当する金額を本件施設建築物持分の価額として、本件申告書等を提出しているとこ
ろ、被告は、本件更正処分における本件敷地持分の価額及び本件施設建築物持分の
価額を、本件修正申告額と同額としたものであり、前記(イ)の評価方法からする
と、本件敷地持分及び本件施設建築物持分の価額を過大に評価して本件更正処分が
行われたものでないことは明らかである。
(エ) 本件特例適用の適否
a 本件敷地持分への本件特例の適用の適否
 本件相続人らが平成6年4月25日に提出した亡P2の相続に係る申告書には、
本件敷地持分につき本件特例を適用する旨を記載しているものではなく、原告P3
が相続により取得した東京都中央区ζ1801番1号に所在する土地を本件特例を
適用する土地として選択し、当該土地のうち200平方メートル部分について適法
に本件特例を適用しているのであるから、本件敷地持分について本件特例を適用す
る余地は全くない。
 措置法69条の3第1項の文理上、本件敷地持分について本件特例を適用するこ
とができるとは解されず、また、措置法通達69の3-8の適用においても、貸し
付けられている宅地については同通達の「被相続人等の事業の用に供されていた建
物」がそもそも存在していないことから、同通達の適用はなく、したがって、同通
達の文理上も本件敷地持分について本件特例を適用することはできない。
 措置法通達69の3-8の取扱いは、被相続人等の事業用宅地等の判定を相続開
始の一時点で行うのは、本件特例の制度が設けられている趣旨からみて実情に即し
たものとはいえないと考えられているので、事業の継続性に配慮し、被相続人等が
相続開始前に事業を行っていたこと及び建築中又は取得に係る建物を相続又は遺贈
によって取得した者が相続税の申告期限までにその建物を現に事業の用に供してい
ること等を条件に建築中の建物の敷地について本件特例の適用を認めているもので
ある。しかしながら、本件特例は、措置法上の特例であり、みだりに拡張解釈すべ
きものではなく、特に、本件特例のような減免措置は、特例適用者が特別の恩恵を
受けるものであることからして、他の一般の納税者との間の公平、中立の観点から
しても、その運用、適用は厳格になされるべきである。そもそも、措置法通達69
の3-8においては、措置法69条の3第1項の条文の規定を厳格に適用した場合
において、本件特例の適用がない土地について、一定の条件の下に限定的にその適
用を緩和しているのであるから、通達に定められた条件を具備しない場合にまで、
その適用を拡張すべきものではない。したがって、措置法通達69の3-8の取扱
いは、事業用建物の取り壊しに伴う建て替えの場合又は事業用建物を譲渡し、代わ
りの建物を取得する場合に限定して適用があるものと解すべきであり、本件のよう
に被相続人等の事業の用に供されていた建物が存在しない場合については本件特例
の適用はないものと解される。
b やむを得ない事由
 措置法69条の3第4項は、その文言どおり「相続税の申告書の提出がなかった
場合又は前項の記載若しくは添付がない相続税の申告書の提出があった場合」の規
定であり、被告は前記のとおり、当初申告書において、原告P3が相続により取得
した土地の一部について、本件特例の適用を適法に受けているのであって、「相続
税の申告書の提出がなかった場合又は前項の記載若しくは添付がない相続税の申告
書の提出があった場合」に該当しないことは明らかであり、原告らの主張は失当で
ある。
イ 原告ら
(ア) 本件敷地持分及び本件施設建築物持分の評価
 亡P2は、βにおいて、建物の所有を目的とする借地権を設定し、土地を貸し付
けていたが、当該地域が住宅都市整備公団による再開発事業の対象となり、被相続
人は権利変換によって、本件敷地持分及び本件施設建築物持分を取得することとな
った。そして亡P2は権利変換がされ、従前建物が除却された後、本件施設建築物
の供用が開始される前に死亡し、同人に係る相続が開始しているが、本件敷地持分
のうち事業用部分については本件特例の適用及び貸家建付地の評価減が認められる
べきであり、また、本件施設建築物についても貸家用の評価減の適用が容認される
べきである。
(イ) 本件特例の適用
a 本件特例の適用
 相続開始時において事業の用に供している事実が中断している場合においても、
被相続人等の準備行為の状況から判断して、事業の継続性が認められる場合におい
ては、本件特例の適用があるというべきであり、本件においては、住宅都市整備公
団が、当初から、権利変換後の建物を事業用とする計画の下、α東地区第1種市街
地再開発事業を進めており、昭和62年5月中旬ころには、権利者に対して事業用
であることを前提に資産運用のモデルを示し、権利変換後の建物を事業用とする計
画に基づいて個別協議を実施していた。また、亡P2も、同公団の同事業に賛同
し、示された公団の資産運用モデルに従い、権利変換後共有床の共有者となること
に同意しており、事業の継続性の意思は明白である。
b やむを得ない事由
 そして、本件相続開始時において、課税庁は、措置法通達69の3-8で準用す
る69-3-7を解釈指針として、実際の運用としては、建物の建築中に相続の開
始があったとしても、当該相続に係る相続税の申告書の提出期限までに当該建物を
取得し、相続人らが当該建物を現実に事業の用に供しない限り、本件特例を適用し
ておらず、そのことは、当時の税理士にとって一般的な認識であったし、課税庁に
おける税務相談や執行も同様の基準に基づいて行われていたのであるから、亡P1
が、本件特例自体の全面的不適用というリスクを考慮して、本件敷地持分について
課税庁に事前の相談なく本件特例を適用しないで確定申告を行っていることについ
て亡P1に帰責性はなく、他の土地を本件特例の適用対象として相続税申告を行っ
たことには「やむを得ない事情」が認められる。
(ウ) 貸家及び貸家建付地の評価
 また、相続開始時において、公的な規制の下で行われる都市再開発事業による権
利変換に基づいて取得した本件敷地持分は、その認可された事業計画により貸付の
用に供する事業用ビルの敷地として利用されることが確定し、しかも、当該ビルは
現実に建設途上にあり、被相続人が事業用ビルとしての貸付用以外の用途に自由に
利用することは不可能であるから、本件相続開始時に実際に賃貸借が行われていな
かったとしても、本件敷地持分及び本件施設建築物持分を評価するに当たっては、
貸家建付地の評価減や貸家用の評価減を適用すべきである。
 仮に、本件施設建築物が、相続開始時において現実に貸付の用に供されていない
ことから、貸家建付地の評価減の適用は認められていないとしても、本件で亡P1
が相続した「権利変換により本件ビルを取得する権利」は、その評価方法が定めら
れていないのであるから、評価基本通達に定める貸家の評価方法に準じ、また、本
件ビルの敷地は、貸家建付地の評価方法に準じて評価すべきである。
3 争点3(本件更正処分に理由付記がされていないことの適否)
(1) 原告ら
 本件更正の通知書には、理由が十分に付記されていない。
(2) 被告
 税務署長が更正を行う場合において、その更正通知書に記載しなければならない
事項は、通則法28条2項に規定されているところ、同条には更正の理由を付記す
ることは要求されていない。他方、所得税法は155条2項において、法人税法は
130条2項において、それぞれ、青色申告書に係る更正については、「その更正
に係る国税通則法28条2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にそ
の更正の理由を付記しなければならない」と規定しているが、これは通則法28条
2項の例外としての規定であり、相続税法においては、このような理由を付記しな
ければならない旨の規定はないのであるから、相続税の更正通知書には更正理由を
付記する必要はないというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 判断の順序について
 争点1(高芳管財の出資の評価の適否)は、まさに被告が本件更正処分を行うに
当たって考慮した事由の適否に関するものであって、亡P1のした修正申告よりも
課税標準及び税額を増額すべき事由があるか否かに関するものである。これに対
し、争点2(本件敷地持分及び本件施設建築物の評価の適否並びに本件敷地持分に
対する本件特例適用の適否)は、いわば亡P1のした修正申告に内在する問題であ
って、修正申告による課税標準及び税額自体が過大なものであって、これらを減額
すべき事由があるか否かに関するものである。
 そして、当事者双方の主張内容からすると、仮に争点1において被告の主張が認
められて修正申告による課税標準及び税額を増額すべき事由があったとしても、争
点2において原告らの主張が認められると、それによる減額の程度は上記増額の程
度を上回り、結局、本件更正処分は、いわゆる総額主義の帰結として、その根拠を
失うこととなる。
 そこで、争点1に関する判断を留保して、まず争点2についての判断を示すこと
とする。
2 争点2(本件敷地持分及び本件施設建築物持分の評価並びに本件敷地持分に対
する本件特例適用の適否)
(1) 本件特例の解釈
 措置法69条の3は、当該相続開始の直前において事業の用に供されていた宅地
につき、課税価格に算入すべき価額に一定の割合を乗じる旨定めているが、同条が
事業の用に供されていた宅地について、評価額のうちの一定割合分のみを課税価格
として算入する趣旨は、被相続人の事業の用に供されていた宅地のうち面積200
平方メートルまでの小規模宅地については、それが相続人等の生活の基盤の維持の
ために不可欠のものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であ
ることから、その課税価格算入について特別の配慮を加え、個人事業者等の円滑な
事業の承継を可能とするためのものである。
 この点につき、被告は、措置法69条の3第1項は、相続開始時点において対象
土地を事業の用に供していることを要件としており、同条は、措置法上の特例であ
り、みだりに拡張解釈せず厳格に適用すべきであって、措置法通達69の3-8の
規定は、本来本件特例に該当しない事案を例外的に救済したものである旨主張す
る。しかし、事業は、その性質上開始に当たってある程度の準備を要するものであ
るし、その開始後も諸々の事情の変化に応じて、その内容に変更を加える必要が生
じ、そのために事業を一定期間休止して所要の変更を施した後に事業を再開するこ
とも珍しくないと考えられる。このような事業というものの性質と上記のような立
法目的からすると、同条にいう「事業の用に供されていた土地」の解釈に当たって
は、当該土地上において、外形的に明らかな形で特定の事業の準備が開始された時
点以降、当該事業が廃止されるまでの全ての段階を含むものと解するのが相当であ
り、従前事業が行われていなかった土地であっても、相続開始時において当該土地
上で外形上明らかな形で事業の準備が行われている場合はもとより、従来行われて
いた事業が相続開始時に一時中止されているものの、その再開が確実に予定されて
いる場合もまた、当該土地は「事業の用に供されていた土地」に該当すると解する
のが相当である。
(2) 本件における本件特例適用の実体的要件
 これを本件についてみるに、亡P2が権利変換前に建物の敷地として貸し付けて
いた土地については、措置法通達69の3-1に定めるいわゆる「5棟10室基
準」を充たしており、この事業規模での不動産の貸付が行われていたことは被告も
認めるところであるから、権利変換前の土地を建物の敷地として「被相続人等が相
続開始前に事業を行っていた」ことは当事者間に争いがないというべきである。
 また、証拠(甲16、18、26、27、34及び42)によれば、これらの土
地の権利変換後の建物について、以下の事実が認められる。
ア 事業主体である住宅都市整備公団は、当初から、権利変換後の建物を賃貸事業
用とする計画に沿って再開発事業を進めており、昭和62年5月中旬の時点で、権
利者に対し権利変換後の建物を賃貸事業用とした場合の資産運用モデルを示してい
ること
イ 平成2年6月14日に認可された同公団の権利変換計画案は、本件再開発計画
地区に建てられた建物であるθの8階から12階までの1万2460平方メートル
を亡P2を含む80名で共有し、賃貸用事務所床として運用することにあり、平成
2年9月25日に同公団東京支社の支店長が亡P2に対してした権利変換計画の認
可についての通知に添付された亡P2に係る権利変換計画の内容一式欄に記載され
た権利変換後の権利の状況は、用途「事務所」と書かれた共有床となっていること
ウ 亡P2は、当初から同公団の本件再開発事業の計画に賛同し、同公団の東京支
社長に対し、平成2年7月6日に与えられるものとされる施設建築物の一部を共有
床とすることに同意していること
 これらの事実に加え、亡P2が権利変換後の権利を他に譲渡するなど、これを用
いた不動産賃貸等を廃することを意図していた形跡がないことからすると、亡P2
は、権利変換後の権利と法的に同一視すべき権利変換前の土地において不動産貸付
業を行っていたが、これにつき、都市再開発事業という公的要請のため、事業用の
建築施設の建設を前提として本件敷地持分及び本件施設建築物持分への権利変換に
合意した後、除却工事及び建築工事が長期間にわたって行われ、その途中でたまた
ま相続が発生したにすぎないものと認められるし、建築中又は取得に係る本件施設
建築物は、相続開始前に被相続人等が現に事業の用に供していた権利変換前の土地
を敷地として存在していた建物の取り壊しに伴う建て替えに係るものであるとみる
べきものである。そして、権利変換前の土地と権利変換後の本件施設建築物敷地及
び本件施設建築物とは、法的には通じて一体のものとみるべきであるから、そのよ
うな観点からすると、これらを建物の敷地に供して、被相続人が相続の開始前に不
動産貸付業を行っており、相続開始時においてはこの事業は建物の建て替えのため
一時中断していたものの、本件施設建築物の完成により建て替えが完了すれば再び
事業を再開することが確実であったと認められるから、実体的には、本件特例適用
の要件を充たしている事案であったと認められる。
(3) 本件における本件特例適用の手続的要件
 前記のとおり本件敷地持分が措置法69条の3第1項にいう事業用建物に該当す
るとしても、同条3項は、同条1項の特例適用の要件として、申告書に同条の規定
の適用を受けようとする旨を記載し、必要書類を添付することを要件としており、
本件においては、亡P1が申告書に同条の規定の適用を受ける旨の記載はしたもの
の、他の土地をその適用の対象土地として選択したことについては争いがなく、本
件敷地持分については同条3項の要件を充たさないことは明らかといわざるを得な
い。他方、同条4項は、同条3項にいう記載若しくは書類の添付のない申告書の提
出があった場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかったことについ
てやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細
書及び大蔵省令で定める書類の提出があった場合に限り、同条1項の規定を適用す
ることができる旨定めているため、本件において、本件特例適用の対象土地を本件
敷地持分に差し替えることについて、前記の「やむを得ない事情」があるといえる
かについて検討する。
 当時の措置法通達は69の3-8において、「事業場の移転又は建て替えのため
被相続人等の事業の用に供されていた建物を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物
に代わるべき建物で被相続人等の事業の用に供されると認められるものの建築中
に、又は当該建物取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続
が開始した場合には、当該建築中又は取得に係る建物の敷地の用に供されていた宅
地等が被相続人等の事業用宅地等に当たるかどうか及び事業用宅地等の部分につい
ては、69の3-7に準じて取り扱う」ものと定め、69の3-7は「被相続人等
の居住の用に供されると認められる建物の建築中に、又は当該建物の取得後被相続
人等が居住の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合において、当該
建築中又は取得に係る建物を相続又は遺贈(中略)により取得した者が、当該相続
に係る相続税の申告書の提出期限までに当該建物を居住の用に供しているときは、
当該建物の敷地の用に供されていた宅地等は、措置法69条の3第1項に規定する
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に当たるものとして取り扱うものとす
る。ただし、当該建築中の建物を相続又は遺贈により取得した者が、当該相続に係
る相続税の申告書の提出期限において当該建物を居住の用に供していない場合であ
っても、それが当該建物の規模等からみて建築に相当の期間を要するため建物が完
成していないことによるものであるときは、当該建物の完成後速やかに居住の用に
供することが確実であると認められるときに限り、当該建物の敷地の用に供されて
いた宅地等は、居住用宅地に当たるものとして取り扱うものとする。」と定めてい
る。上記の文言、特に69の3-7のただし書の記載によれば、必ずしも申告書の
提出期限において完成しておらず、また、完成の予定がなくても、相当の期間後に
建物が完成する場合には本件特例の適用を受けられるように読めないでもないが、
当時、課税当局は、同通達について、原則として、その宅地等が相続税の申告書の
提出期限までに現に相続人等の居住の用に供されている建物の敷地となっているこ
とを要件とし、例外として、(1) 建築中の建物の規模からみて建築工事に相当
の期間を要すること、(2) 法令の規制等により建築工事が遅延していること、
(3) (1)又は(2)に準ずる特別な事情があること、により、やむを得ず相
続税の申告書の提出期限までの建物の完成が遅延しているものである場合は、その
建物の完成後速やかに事業の用に供されることが四囲の状況からみて確実であると
客観的に認められるときに限り、その建物の敷地の用に供されている宅地等も事業
用宅地に該当するものとして取り扱うと解しており(平成元年9月14日発行、
「国税速報」第4199号に登載された当時の国税庁資産税課課長補佐の執筆した
「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて(1)」10頁、平成
5年8月16日発行、当時の国税庁資産税課課長が監修、同課課長補佐が編集した
「相続税贈与税関係租税特別措置法通達解説」26頁以下参照)、当初相続税の申
告書の提出期限までの建物の完成が予定されていたが、特段の事情によってそれが
遅延していた場合にのみ認められるとの運用を行う旨明示的に述べていたと認めら
れ、上記文献等には、いずれもその記載中意見にわたる部分は執筆者の私見である
旨の注記がされているが、執筆者はその当時の官職からして上記通達の立案に関与
したものと考えられ、その執筆の意図も通達の内容を立案の趣旨に従って解説する
ことにより運用の統一を図ることにあり、少なくとも課税庁の部内においては、こ
れらが公定解釈として受け取られていたと認めるのが相当であり、現に被告は、本
訴においても、本件施設建築物敷地上には相続開始時において建物が存在しなかっ
たことを理由に、たとえ申告書において本件敷地持分について本件特例の適用を受
ける旨の書類を添付していたとしても、その適用は認められないと主張している。
これらのことからすると、亡P2の死亡当時、課税当局においては上記文献の見解
が厳格に適用されていたと認めるのが相当である。
 そうすると、前記のとおり、本来、本件敷地持分のうち事業用部分は本件特例の
適用の実体的要件を充足していたにもかかわらず、被告を含む課税当局がそれを充
足しないとの内部的規範を確立し、これを外部にも示していたものと認められると
ころであるから、亡P1がこれに従って本件敷地持分につき上記のような申告を行
ったことも無理からぬところがあり、この点につき措置法69条の3第4項にいう
「やむを得ない事情がある」というべきであり、これを理由に自ら更正の請求がで
きるか否かはともかくとして、課税庁が別個の理由での増額更正を行った場合に
は、この事由に基づき、元の申告に係る課税標準及び税額自体が実体的に過大なも
のであって、たとえ他に増額事由があったとしても、これを考慮した減額がされる
べきことを主張し得ると解するのが相当である。
 この点につき、通達があったとしても、当事者は必ずしも通達に拘束されるもの
ではないのであるから、とりあえず最も有利な本件特例の適用を前提とした申告を
行い、それが否認された時点で、別の土地の特例適用を前提とした修正申告を行え
ばいいのであって、それを怠った以上、「やむを得ない事情」があるとはいえない
との考え方もないではない。そして、措置法69条の3第3項において、申告書に
修正申告書を含むとされていることによれば、当初申告においてある物件に本件特
例を適用したが、税務調査等により当該物件について本件特例の要件に該当しない
ことを指摘された場合に、別の物件の本件特例の申請を前提に修正申告を行うこと
は可能であると解すべきである(それが不可能であるとの原告らの主張は採用し得
ない。)が、その場合においても、修正申告時の納税額の増加分に応じた過少申告
加算税の負担を負うべきことは否定できないところであって、上記のとおり、課税
当局の運用は、客観的には誤っていたとはいえ、一貫して厳格なものであったこと
にかんがみれば、過少申告加算税の負担を負う危険を冒してまで最も有利な物件で
の申告を行うべきであるというのは納税者に難きを強いるものというほかなく、い
わば安全策を採ったことから直ちに「やむを得ない事情」の存在が否定されるもの
ではないし、当事者として当初申告においてした本件特例の申告が否認された場合
に、別の土地の本件特例適用を前提とした申告を行うことが認められないと誤解し
ても無理からぬところであるから、状況のいかんを問わず、とりあえず、最も納税
者に有利な物件について本件特例を適用した申請を行わなかったからといって、や
むを得ない事情が認められないということはできない。
 また、亡P1は、平成7年3月10日に修正申告を行っており、その際に本件特
例の適用を受けようとする旨記載することができたとして、やむを得ない事情の存
在を否定する意見も考えられないでもない。しかし、平成6年において措置法通達
が改正されてはいるものの、その内容は本件相続時、又は当初申告時のその内容と
さほど変わっていないし、また、本件特例の適用によって軽減される課税価格及び
相続税額は、修正申告により増加する課税価格及び相続税額を大きく上回るもので
あり、そのような場合、本件特例の適用の主張を修正申告によって行うことはでき
ないのであるから、いずれにしても、修正申告の時点をもって「やむを得ない事
情」があったとはいえない。
 さらに、一般に同条の定めるような「やむを得ない事情」の判断に当たって、法
の不知は「やむを得ない事情」には該当しないとする考え方もみられるところであ
るが、本件は、前記のとおり、単に亡P1が法を知らなかったとか法の適用を誤っ
たというものではなく、客観的には誤りといわざるを得ない法解釈が公的解釈とし
て流布され、課税当局がそれに添った厳格な運用を一貫して行っているという状況
の下で行われたものであるから、単なる法の不知や法の誤解であるとは認められな
いから、そのような考え方は、本件事案に関する結論を左右するものではない。
 被告は、亡P1がした当初申告において、中央区ηに所在する土地について本件
特例の適用を受ける旨の申告を行っていることを指摘し、措置法69条の3第4項
の文言からみて本件敷地持分についてその適用はない旨主張する。確かに、同条の
文言は、「相続税の申告書の提出がなかった場合又は前項(第3項)の記載若しく
は添付がない相続税の申告書の提出があった場合」とされており、形式的にみれ
ば、被告の主張のとおり、本件特例の適用を受けようとする旨記載した申告書の提
出を行った場合は同条の適用がないように読めないこともない。しかし、同条がや
むを得ない事情により同条の適用を受けるための申告書の提出等をし得なかった者
について本件特例の適用を認め、その救済を図った趣旨にかんがみれば、やむを得
ない事情により本件特例の対象土地を誤った者との間においてその救済の必要性に
さほど差異があるとは考えられず(類型的には本件特例の適用対象土地の誤りにつ
いての方が救済の必要性が低いともいえようが、単に各事案ごとの救済の必要性に
差異があるにすぎず、適用対象土地の選択の誤りについて一切本件特例の適用がな
いとすべき理由にはならず、適用を認めた上で、個別の事情に応じて、やむを得な
い事情の存否を判断すれば足りるものである。)、同条の前記文言を限定的に解す
る理由もないといえるし、仮に、被告の主張を徹底した場合、そもそも申告書の提
出を行わなかった者については本件特例の適用の余地があるのに、申告書の提出を
行った者については一切本件特例の適用がないという結論を招くことにもなりかね
ない。また、措置法69条の3第3項が申告に期限後申告・修正申告を含んでいる
ことにかんがみれば、同条の適用において、実体要件について同様の事実関係であ
るにもかかわらず、いかなる手続を採ってきたかによって適用の可否が異なる場面
が生じることが考えられ、それにより生じる不公平を解消するためには、第4項の
適用によるほかないが、同条の要件を一律に限定的に解するとすれば、そのような
不公平を解消し得る場面が限定され、不当な結論を招くこととなる。
(4) 本件敷地持分につき課税価格に算入すべき価額
 以上によれば、本件特例を適用すべきこととなるが、その場合の本件敷地持分の
課税価格に算入すべき価額を算定する。
 本件敷地持分の住宅用部分(1-1街区A棟501)の評価額(評価基本通達2
4-2に定めた土地区画整理事業施工中の宅地の評価未適用の価額)が、1平方メ
ートル当たり1086万3480円であり、本件施設建築敷地(9.26平方メー
トル)が1億0059万5824円であること、本件敷地持分の事務所用部分(評
価基本通達24-2未適用の価額)が、1平方メートル当たり1086万3480
円であり、土地全体が13億9095万9979円であることは当事者間に争いが
なく、本件特例によれば、100分の30を乗じて課税価格に算入すべき価額を算
定することになるため、本件敷地持分のうち事務所用部分について算入すべき価格
は、4億1728万7993円となり、本件敷地持分の評価額は評価基本通達24
-2の適用による減額をしなくても、5億1788万3817円となる。
3 小括
 前記1を前提として、本件相続により相続人らが取得した土地の価額を計算する
に、前記本件敷地持分に本件特例の適用を行うことによる減額分8億9909万4
196円とηの土地に本件特例を適用しないことによる増加分2億7689万70
009円を差し引きすると、相続により取得した土地の価額は修正申告における額
より6億2219万7187円少ない24億3092万0311円となり、取得財
産の価額は、争点1につき被告の主張を採用して高芳管財への出資の評価を2億4
859万1640円増額したとしても48億2174万5870円となって、修正
申告における51億1902万0014円を下回ることとなる。そして、更正処分
と同様に控除及び税額計算を行うと、課税価格は12億2934万6000円、納
付すべき税額は5億9646万5600円となり、これらもまた亡P1のした修正
申告価額を下回ると認められる。よって、争点2のその余の部分並びに争点1及び
争点3について判断するまでもなく、本件更正処分のうち亡P1のした修正申告額
を上回る部分及び本件賦課決定処分は違法といわざるを得ない。
第5 結論
 以上によれば、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく理由があるか
らこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴
訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 藤山雅行
裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 廣澤諭

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛