弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
被告人は無罪。
理由
第1公訴事実
本件公訴事実は「被告人は,Aと共謀の上,平成19年7月4日午後9時,
51分ころから同日午後9時52分ころまでの間,大阪市内のレンタルビデオ
店aにおいて,同店店長B管理に係るDVD2枚(時価合計2万円相当)を窃
取したものである」というものである。。
第2当裁判所の判断
1争点
本件公訴事実記載の日時場所において,Aが窃盗の実行行為(以下「窃取行
為」又は「本件窃取行為」という)に及んだこと,そのときに被告人がその。
そばにいたことについては,関係各証拠により明らかであり,被告人もこれを
認めている。検察官は,被告人とAとの間で窃盗の共謀が成立していた旨主張
するのに対し,被告人は,Aと窃盗の共謀をしたことはなく,Aが窃盗の実行
行為に及んだことには気付かなかったと供述し,弁護人も,被告人とAとの間
には共謀が成立していないのであるから,被告人は無罪であると主張する。
2前提事実
(1)被告人とAの関係
ア被告人は,平成18年中ごろ,バイクに乗って外出した際にバイクが故
障し,そこへ通りがかったAと知り合った。
イ被告人とAは,Aから被告人を誘って数台でのバイクのツーリングに行
ったり,スーパー銭湯に行ったりしたことがあり,知り合って以降,本件
までに会った回数は,10回に満たない程度であった。Aは,本件以前,
被告人にiPodやバイクの部品等を譲ったことがあり,その際に被告人
は,Aが他の人へ物を譲った場合とは程度が異なると感じるほど,非常に
喜んだ態度を示し,Aに礼を述べたことなどから,Aは,被告人に対して,
しっかりと礼を言う,まじめであるといった好印象を持っていた。
(2)本件に至る経緯
ア被告人は,平成19年7月4日(以下,時刻のみを記す場合は同日の時
刻のことであり,日付を記す場合は同月の日付のことである,Aとス。)
ーパー銭湯へ行く約束をしていたので,午後8時40分ころ,Aを迎えに
行くために自動車を運転して自宅を出て,午後9時過ぎにAの自宅に到着
した。その後被告人は,Aを同乗させて,自動車でスーパー銭湯に向かっ
たが,進路前方にaが見えた際,Aが同店に立ち寄ってほしい旨述べたた
め,a店舗前の路上に自動車を駐車して,2人で店内へ入った。
イ被告人は,Aがa店内のCDコーナーへ向かったため,同様にCDコー
ナーに入りCDを見ていたが,その後,店内のDVDなどを見て回った後,
目に付いたアダルトコーナーへと入った。被告人は,aの会員カードを持
っていたが,アダルトDVDをレンタルする意思はなかった。
被告人がアダルトコーナーに入った後,後れてAもアダルトコーナーへ
と入った。
ウaでは,レンタル用のDVDを陳列する際,映写時間,発売時期等を記
載した紙片が貼付されている半透明のプラスチックケース(以下「ケー
ス」という)に,商品であるDVDを盗難防止用タグと共に封緘し,D。
VDの内容,写真等が印画された外箱の中にそのケースを差し入れて商品
棚に陳列し,利用客は外箱を見てDVDの内容を確認し,レンタルする際
は外箱からケースを抜き出して,ケースのみをカウンターへ持参し,カウ
ンターで盗難防止用タグを無効化して貸し出すというシステムが採用され
ていた。また,被告人らがアダルトコーナーへ入った際,同コーナー内で
は音楽が流れていた。
(3)防犯ビデオから判明する本件における被告人とAの行動
アダルトコーナー内の,Aが窃取したDVD2枚が置かれていた商品棚
(以下「棚」という)に面した通路(以下「本件通路」という)には,。。
通路を見渡せる位置に防犯カメラが設置されていて,同通路における被告人
とAの動静が撮影され防犯ビデオに録画されていた。その録画内容(検察官
請求証拠番号甲15)には,編集や改ざんされた形跡がないため,その映像
どおりの事実があったものと認められるところ,これと被告人及びAの両供
述を併せると,本件通路における被告人とAの行動として,以下の事実を認
めることができる(なお,以下で示す時刻は,防犯ビデオ映像の左下に表。
示されているそれを示す)。
ア被告人及びAは,遅くとも午後9時48分ころには本件通路付近に現れ,
同通路を行き来しながら,それぞれがアダルトDVDの外箱を手に取るな
どして,DVDの品定めをしていた。このときから,店員が現れる午後9
時52分20秒ころまで,本件通路付近には被告人とA以外の第三者はい
なかった。
被告人は,午後9時49分50秒ころ,DVDの外箱を手に取って眺め
た後,外箱からケースを抜き出して手に持ち,1枚目のケースを手にした
ままDVDの品定めを再開し,午後9時50分32秒ころ,別のDVDの
外箱を手に取って眺めた後,2枚目のケースを抜き出して手に持った。
被告人及びAが本件通路付近に現れてから,被告人が2枚目のケースを
手に持つまでの間,防犯ビデオ映像からは,被告人とAが会話を交わして
いる様子はうかがえない。
イAは,被告人と同様に本件通路付近を歩きながら,アダルトDVDの品
定めをしていたが,午後9時50分48秒ころ,ケース2枚を手に持った
まま棚のDVDを見ていた被告人に声をかけた。
ウAが被告人に声をかけた午後9時50分48秒ころから,Aが2枚目の
DVDを窃取して空になったケースを棚に戻した午後9時52分09秒こ
ろまでの間の被告人及びAの行動は,別表のとおりである。
その間,当初Aは被告人の左隣にいて,2人とも棚の方向を向いていた
が,別表のとおり,Aは,被告人に背を向ける方向に体を回転させるなど
した後,被告人の後ろを通って被告人の右隣へと移動した。
エ被告人とAは,Aが2枚目のDVDを窃取して空になったケースを棚に
戻した午後9時52分09秒ころ以降も,直ちに本件通路から離れて店外
へ出て行くことなく,その場にとどまってアダルトDVDの外箱を手に取
り眺めるなどしていた。その間,被告人とAとの間では,午後9時52分
15秒ないし同18秒ころ,Aが被告人にアダルトDVDの外箱を見せな
がら話している様子がうかがえるが,午後9時52分20秒ころに店員が
本件通路に現れて以降は,被告人とAが接近して会話が交わされている様
子は乏しく,それぞれが,棚を見たり,DVDの外箱を手に取って眺める
などしていた。
オ午後9時55分12秒ころ,本件通路において,店員がAに声をかけて,
Aは店内の事務室へと連れて行かれた。
(4)Aによる犯行後の被告人の行動
ア被告人は,Aが店員に店内の事務室へと連れて行かれる際,一緒に来る
よう言われたため,事務室の前までついて行ったが,事務室の中には入ら
なかった。その後,被告人は,店外に出て煙草を吸い,自動車をa店舗前
の路上に駐車したままであったので,駐車違反の取締りを避けるため,自
動車を運転してaから離れた。
イ被告人が自動車を運転しているとき,Aから被告人の携帯電話に電話が
あり,店員に万引きの疑いをかけられている,被告人にもaに戻ってきて
ほしいと言われたため,被告人は,自動車をどこかに駐車してすぐにaに
戻る旨応答した。
ウ被告人は,Aからの電話を切った後,近隣のコンビニエンスストアの駐
車場に自動車を駐車してから,aへと戻った。被告人がaに戻ったとき,
aの店舗前にはパトカーが止まっていて,警察官が立っていた。被告人は,
警察官にAと一緒にいた旨話して,aの事務室内に戻った。
エその後Aは,警察官に連れられて事務室から出て行き,被告人も,店員
からAが窃取している場面の防犯ビデオ映像を見せられた後,警察官に連
れられて大阪府東成警察署へ行き,取調べを受け,翌5日に逮捕された。
被告人は,事務室に戻った後である午後10時41分ころから,東成警
察署へ行った後である翌5日午前3時19分ころまで,断続的に,当時交
際していたCとメールのやり取りを行っていた。被告人がCに送信したメ
ールの内容は,一緒にいたAが万引きしたと警察に疑われていて,被告人
はそれが事実かどうかわからない,被告人自身も逮捕されることになるら
しいといった旨のものであった。
被告人は,警察署内で,被告人の携帯電話を操作しようとした際,警察
官に制止されたことに憤慨して,自身の携帯電話を折って破壊した。
(5)Aの処分
Aは,本件により,平成19年7月23日,大阪簡易裁判所において,窃
盗罪で罰金30万円の略式命令を受けた。
3A供述の概要
Aは,当公判廷において,本件通路でケースを2枚手に持っていた被告人に
声をかけてから,そのケースを被告人から受け取り,DVDを引き抜いてズボ
ンの右後ろポケットに入れた後,店員に声をかけられるまでの行動について,
概ね,以下のとおり供述している。
(1)被告人に声をかけてから,1枚目のDVDを窃取するまで
本件通路で,被告人が何かを見ていたので「何見てんの」みたいな感,。
じで声をかけたら「これいいんですよ」というような返答をされた。そ,。
こで,被告人の持っていたケースを手に取ったが,このDVDを盗んだら被
告人が喜ぶかなと考え,以前被告人にiPod等をあげたときに被告人がと
ても喜んだことがあり,被告人をまた喜ばせたかったので(なお,Aは,動
,。。),機について「被告人を驚かせたかった」とも供述している,被告人に
被告人のために盗んであげようかという意味で「やったろか」か「取っ,。
たろか」か「ぱくったろか」というようなことを言った(なお,Aは,。。
Aの発言と被告人からAへのケースの移動との先後関係について「この発,
言が被告人からDVDを受け取る前だったか後だったかわからない」とも。
供述している。そうすると,被告人は,ええっと驚き「ほんまですか」。)。
か「いけるんですか」か「できるんですか」などと言った(以下,この。。
とき実際に交わされた被告人とAとのこの会話を「本件会話」という。。)
そして,1枚目のケースからDVDを抜き取ろうとしたが,ケースが硬く
てなかなか抜き取れなかった。そばにいると被告人を巻き込んでしまうかも
しれないということと,被告人に万引きするところを見られるのが恥ずかし
いという気持ちがあったことから,ケースを開けようとするときには,被告
人に背を向ける体勢をとった。被告人に背を向けたときに防犯カメラに気付
いたが,店員が防犯カメラを見ていることは少ないから大丈夫だろうと思い,
気にしなかった。
ケースを指で広げて透き間からDVDを抜き取り,ズボンの右後ろのポケ
ットにDVDを入れて,空になったケースを棚に戻した。ケースをこじ開け
たとき,つめのようなものが壊れて,パキッという小さな音が鳴った。
(2)1枚目のDVDを窃取してから,2枚目のDVDを窃取するまで
被告人から「これもいいやつですよ」と言われて,2枚目のDVDを渡。
された。2枚目も1枚目と同様に,ケースからDVDを抜き取ろうとしたが,
人影があったので,まずいなと思い,いったんケースを棚に戻した。その後,
再びそのケースを手に取って2枚目のDVDを抜き取り,1枚目と同様に右
後ろのポケットに入れて,空になったケースを外箱の中にいれた。
(3)2枚目のDVDを窃取してから,店員に声をかけられるまで
2枚目のDVDを盗んだ後すぐに店員が本件通路に来て,万引きしたこと
が店員にばれているのではないかと思った。早く店から出たかったので,
「もうそろそろ出ようか」と被告人に言ったが,被告人が出て行こうとし。
なかったし,すぐに出るとその場に来ていた店員に怪しまれると思ったので,
出て行かなかった。
被告人にあげるために盗んだDVD2枚は,店外へ出てから被告人に渡す
つもりだった。
本件通路で被告人に声をかけてから,店員に事務室へ連れて行かれるまでの
間の被告人及びAの行動に関するA供述については,防犯ビデオ映像と概ね矛
盾していないこと,記憶している部分については1枚目のDVDを抜き取る際
にケースが壊れる小さな音がしたことなど,具体的かつ詳細に述べ,記憶して
いない部分についてはその旨供述するなど,その供述態度に作為的なところは
見受けられないこと,公判廷で証言する際には,前記2(5)のとおり,既に本
件に関する刑事処分が決まっていて,虚偽の供述をして被告人を罪に陥れる動
機に乏しく,むしろ被告人に対しては,Aが万引きをしたことで被告人を巻き
込んでしまって申し訳ないと考えていることなどからすると,Aの当公判廷に
おける供述は,記憶を真摯にたどったものとして,以下に述べるような問題点
があるものの,概ねこれを信用することができる。
4被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての積極的な事実
(1)本件会話について
Aは,被告人に声をかけた直後に被告人との間で交わされた本件会話につ
いて,前記3(1)のとおり,Aが「やったろか「取ったろか「ぱくっ。」,。」,
たろか」などと言い,被告人が「ほんまですか「いけるんですか,。。」,。」
「できるんですか」などと応答したと供述し,防犯ビデオにも,午後9時。
50分48秒ないし同53秒ころまでにかけて,被告人とAが笑いながら会
話を交わしている様子が録画されている。
本件会話についての供述は,問い及び答えの双方について3つの言葉の可
能性を述べるあいまいなものではあるが,A供述は,前記3のとおり,全体
として信用性を概ね肯定することができるし,防犯ビデオに見られるとおり,
Aが被告人から1枚目のDVDのケースを受け取るや直ちに窃取行為に及ん
でいることや,A自身に後にDVDを鑑賞するなど窃取にあたり固有の利益
がなかったことに合致しており,発言の性質上,記憶に誤謬が混じることは
考え難く,本件会話中,Aがその述べる3つの発言のうちのどれかあるいは
そのような意味の発言をしたことについては,これを認めることができる。
しかしながら,本件会話中の被告人の応答については慎重な検討を要する。
すなわち,A自身が「僕が言ったことはほんまに言ったんで,ただ,それを
彼がどう受け取ったんかというのは,そこまでちょっと分からないですけ
ど」とも供述しているし,Aの動機についても,前記のとおり「被告人。,
を驚かせたかった」と被告人がAの窃取行為を認識していないことを前提。
としていると捉えることができる供述をもしている。また,AはDVDをケ
ースから抜き取る際,1枚目の午後9時50分57秒ないし同51分09秒
ころ,2枚目の午後9時51分34秒ないし同41秒ころ及び午後9時52
分03秒ないし同09秒ころの間,いずれも被告人に背中を向けて,被告人
に窃取行為を見られない姿勢を取っていて,その理由につき,被告人を巻き
込みたくなかった,被告人に見られたくなかったからである旨供述している。
以上の事情からすると,Aは,窃取行為をする際,被告人のためにDVD
を万引きするというAの真意を被告人が認識しているものと確信していたわ
けではないことが認められる。
さらに,本件会話の際の被告人の応答内容について,Aがその文言を正確
に記憶している訳ではないことも併せ考えると,A供述にある本件会話中の
「ほんまですか「いけるんですか「できるんですか」といった被告。」,。」,。
人の言葉自体について,本当に被告人がそのように述べたのか疑問があり,
被告人がAの真意を認識しないままに何らかの返答をしただけである可能性
を否定することができないし,仮にそのとおりの発言があったとしても,こ
の発言自体からはAの「やったろか「取ったろか「ぱくったろか」。」,。」,。
といった提案に対する驚きや疑問の提起は推認できても,これに対する賛同
ないし承諾の意思があったとまで断定することは困難である。Aが積極的に
虚偽の供述をしているとは認められないことからすると,本件会話において
Aの前記発言に対して,被告人から何らかの応答があったことは認められる
ものの,結局その文言やその意味内容については不明であるといわざるを得
ない。
そこで,被告人とAとの間の共謀の成否については,本件会話の内容にと
らわれることなく,その他の事情を総合的に検討して判断する必要がある。
(2)本件会話とケースの授受の先後関係について
検察官は,防犯ビデオから,Aが1枚目のケースを手に取る前に被告人と
会話していたことが認められるので,本件会話の直後にAが1枚目のケース
を受け取り,DVDの窃取に着手した旨主張し,確かに,本件会話の後に被
告人からAへ1枚目のケースが手渡されたとすると,被告人がAの窃取の意
図を認識して手渡したものと見る余地があり,遡って,その文言やその意味
内容を別にして,本件会話の存在自体を共謀を基礎づけるものと解すること
が不可能ではない。
しかし,Aは,本件会話と1枚目のDVDの授受との先後関係について,
前記3(1)のとおりあいまいな供述をしていて,どちらかといえば「僕が取
ってから,やったろか言うて,ええっという感じやったと思います。僕が取
ってからだったと思います」と,本件会話はDVDの授受の後だったよう。
に記憶していること,そのころ交わされた会話の内容は本件会話に限られな
いこと,Aがケースを手にした後に本件会話を行うことも時間的に可能であ
ることなどから,Aがケースを受け取った直後に窃取行為に着手したことは
防犯ビデオ映像から明らかであるものの,1枚目のケースを受け取る前に本
件会話があったとまでは認められない。
(3)防犯ビデオ映像及びA供述から判明するその他の事情
いずれも信用することのできる前記防犯ビデオ映像及びA供述から,共謀
の存在を推認させる事実として,午後9時51分23秒ないし同25秒ころ,
Aが1枚目のDVDを窃取して,空ケースを棚に戻している際に,被告人か
ら「これもいいやつですよ」などと言われたこと,午後9時51分26秒。
ないし同28秒ころ,Aが手を伸ばして被告人から2枚目のケースを受け取
ったこと,被告人は,Aが2枚のDVDを窃取する間,絶えずAのそばにい
て,午後9時50分57秒ころのように,Aのいた方向へ視線を向けている
ように見える場面もあること,被告人はAの窃取行為を一切制止していない
ことなどを認めることができる。
Aは,被告人がケースを渡した直後に窃取行為を開始していて,被告人に
背を向けている時間もあったとはいえ,そのかがみ込むような姿勢はDVD
を吟味しているにしては明らかに不自然であるし,被告人自身,Aがどのよ
うな反応を示すのか気になっていたと供述しているのであるから,被告人が
Aの行動に全く気付いていなかったと断じるには疑問が残る。そうすると,
被告人が,DVDを窃取しているAを制止せず,1枚目のケースの帰趨を気
にとめることもなく「これもいいやつですよ」などと言ってAが2枚目の。
ケースを被告人の手から取るがままにしていたことは,共謀の事実を推認さ
せるものといえなくもない。
(4)小括
以上のとおり,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての積極
的な事実として,①Aが,1枚目のDVDの窃取に着手する直前,被告人に
対して被告人のためにDVDを窃取してあげようかという意味の発言をして,
これに被告人が何らかの応答をしたこと,②Aは,ケースを受け取った直後
に窃取行為に着手したこと,③1枚目のDVDを窃取した直後「これもい,
いやつですよ」などと言った被告人の手元から2枚目のケースを取ったこ。
と,④被告人は,Aが2枚のDVDを窃取する間,絶えずAのそばにいて,
Aの窃取行為を一切制止していないことなどを指摘することができる。
これらの事実からすると,見方によっては被告人とAとの間に窃盗の共謀
があったものと推認する余地がないではない。しかし,前記のとおり,本件
会話の内容から両者の共謀の事実を推認することはできず,本件会話におけ
る被告人の発言を驚きや疑問の提起ととらえると,上記の共謀の存在を推認
させる主な事実として指摘した①ないし④の各事実も被告人の賛同ないし明
確な承諾のないままになされた,Aの一方的な行為と,③の被告人が1枚目
のケースの帰趨に気をとめることもなく「これもいいやつですよ」など,。
と言ってAが2枚目のケースを被告人の手から取るがままにしていたことも
含め,その傍らにいた被告人の傍観行為と見る余地があり,そうすると,こ
れら事実も被告人とAとの間に共謀があることと矛盾しないという程度にと
どまり,強い推認力を有するものと評価することはできない。
5被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極的事実
他方,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極的事実とし
て,関係各証拠から,以下の事実を認めることができる。
(1)Aの窃取行為の際の被告人及びAの行動
被告人とAとの間に共謀があったのであれば,被告人としては,Aが窃取
行為に及んでいる間,周囲に人が来ないか様子をうかがうなどするのが自然
であるところ,被告人は,AがDVDを窃取する間,Aのすぐそばにいて,
目の前にある棚やAに視線を送っていることはあるものの,そのほとんどの
時間を手元のケースや外箱に視線を落としたり,棚の最下段をのぞき込むな
どしていて,周囲の様子を気にしている様子はうかがえない。
また,前記4(1)のとおり,AはDVDをケースから抜き取る際に,あえ
て被告人に背を向ける体勢をとっているところ,Aは,本件会話におけるA
の真意を被告人が理解していたのかは分からないとの趣旨のことを述べたり,
本件窃取行為に及んだ動機について「被告人を驚かせたかった」と述べる。
などしていることからすると,Aは,被告人がAの本件窃取行為に賛同ない
し積極的な承諾を与えているものとは認識していなかったために,被告人に
見られないように,背を向けていたという可能性も否定できない。
(2)Aの窃取後の被告人の行動
被告人は,Aが2枚目のDVDを窃取した午後9時52分09秒以降も,
Aが店員に声をかけられる同55分12秒まで約3分間もの間,Aから出よ
うかと声をかけられることもあったのに,すぐにその場から離れようとしな
かった。
そして,被告人は,Aが店員に連れて行かれた後,1人で自動車を運転し
ていったんaから離れたにもかかわらず,Aからの電話により再度aに戻り,
店舗前に警察官がいたのに,その警察官に声をかけて,aの事務室へと戻っ
ている。また,被告人は,事務室へ戻った後,Cに対して,Aが万引きをし
たのかわからないという旨のメールを送信している。
(3)小括
以上のとおり,被告人とAとの間の共謀の存在を推認するについての消極
的な事実として,被告人が,明確な見張り行為といえるような行動をとって
いないこと,Aの窃取行為後店員が現れたのに本件通路から立ち去ろうとし
なかったこと,いったんaを離れた後,警察官が臨場しているaまで戻って
きたこと,AがDVDを窃取する際,被告人に背を向けるなどし,窃取行為
の様子を被告人に見られないような行動をとっていたことなどを指摘するこ
とができ,いずれの事実も,被告人とAとの間に本件共謀があったとすると
直ちには説明が困難な事実といえる。
6まとめ
以上見てきたところを総合すると,A供述は相当程度の信用性を有している
といえるものの,同供述と防犯ビデオに録画されている内容によっても,被告
人がAの本件DVD窃取行為について,明示又は黙示にも,Aと共にこれを実
行する旨の意思を相通じ合っていたものと認めることができないだけでなく,
被告人とAは,本件窃取行為につき両者共謀の事実があったとすると直ちには
説明が困難な行動をとってもいるといえる。
したがって,捜査段階から一貫して本件公訴事実を否認している被告人供述
の信用性を検討するまでもなく,被告人が,本件窃取行為について,その実行
行為者であるAとの間で共謀を遂げていたとの事実が合理的疑いを容れない程
度にまで立証がされているものと認めることはできない。
以上によれば,結局,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰
するから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることと
する。
よって,主文のとおり判決する(求刑:罰金30万円)。
平成20年4月25日
大阪地方裁判所第6刑事部
裁判長裁判官水島和男
裁判官山崎威
裁判官寺村隼人

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