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最高裁判例


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平成20年5月8日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第12773号損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日平成20年2月1日
判決
原告X
被告株式会社ナナオ
訴訟代理人弁護士阿部隆徳
訴訟代理人弁理士杉谷勉
補佐人弁理士戸高弘幸
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告(原告代表X)に対して特許実施料相当額として少なくとも損
害賠償9600円を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告が製造販売する液晶テレビに使用されている表示装置が,原告が
特許権者である特許権の技術的範囲に属し,被告の同テレビの製造販売行為が原
告の特許権を侵害するとして,原告が,被告に対し,特許権に基づき,特許権侵
害による実施料相当額の損害賠償金の支払を求めた事案である。
第3前提となる事実(次の事実は,当事者間に争いがないか,末尾記載の証拠等に
より認められる。)
1特許権
原告は,次の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許」,その特
許権を「本件特許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件
明細書」という。)。
発明の名称表示装置
出願日平成15年10月2日(特願2003−344634)
原出願日平成7年6月14日(特願平7−147445の分割)
登録日平成16年6月25日
特許番号特許第3569522号
特許請求の範囲別紙特許公報(甲2)のとおり
2構成要件の分説
(1)請求項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」とい
う。)は,次のとおり分説することができる。(以下,その記号に従って「構
成要件A」などという。後記請求項2についても同じ。)
ALCDを備え,
B前記LCDに異なる画像を順次表示する場合において,
C前記LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力す
る毎に,前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入
力することを特徴とする
D表示装置。
(2)請求項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」とい
い,本件発明1と併せて「本件発明」という。)は,次のとおり分説すること
ができる。
E前記LCDにおける前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数
を,前記映像信号のそれよりも高くするようにしたことを特徴とする
F請求項1に記載の表示装置。
3被告の行為
被告は,型式番号VT32XD1及びVT23XD1の各液晶テレビを製造,
販売している(以下,VT32XD1型の液晶テレビを「32型」といい,VT
23XD1型の液晶テレビを「23型」といい,これらを併せて「被告製品」と
いう。)。
第4争点
1被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
2本件特許の無効事由の有無(争点2)
3本件特許権の侵害による損害額(争点3)
第5争点に対する当事者の主張
1被告製品の本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
(1)原告の主張
ア被告製品の構成
(ア)被告製品の構成
aLCDを備え,
b前記LCDに動画像を順次表示する場合において,
c前記LCDに1フレーム分の映像信号を時間軸圧縮(周波数を高く)
して入力する毎に,表示期間の間に黒を挿入することを特徴とする
d表示装置。
e前記LCDにおける画面走査時の入力映像信号を時間軸圧縮して表示
して黒挿入する
f請求項1に記載の表示装置。
(イ)構成c(黒挿入)に関する被告の主張について
被告は,平成19年2月20日付け被告第1準備書面24ページの図5
(別紙1の右側の「イ号」についての図。以下「被告図5」という。)に
おいて,被告製品の黒挿入の方法が,1フレームの間に帯状が上から下に
移動する図を示すが,被告図5は,被告のパンフレット(甲17。以下
「被告パンフレット」という。)の23ページに示されている23型の黒
挿入についての図(別紙2の左上「OCB液晶パネル(VT23XD1)」の右下
「OCBパネル+黒挿入」と題する図。以下「パンフレット図」とい
う。)と,その技術的内容が全面的に矛盾する。
被告図5は23型の図であるところ,被告は,32型について,どのよ
うに黒挿入して,「全画面黒表示」とはどのような関係になるのか一切説
明していない。
被告が被告製品の写真として提出する乙8は,シャッター速度が明示さ
れていないため,技術的証拠としては不足する面があり,23型の写真は,
黒帯挿入というよりは黒画面に近い画面である。
被告は,被告製品の説明において,1フレームのスタート時点で上に黒
帯があって映像表示が完結し,その完結した映像は次のフレームまで継続
しているように見えるが,これは映像表示技術としてどのように説明され
るのか,また,その上に黒帯が走る(1フレームに対応する表示期間内に
行う。)というのはどういう信号処理なのか,また,液晶ディスプレイに
おいては,上から下へ順次表示を進めて映像を完成させるだけのことであ
るから,黒帯が上から下まで順次移動するというのは,どのような技術を
もって可能なのか説明を求める。1フレーム期間内では,黒帯は画面上で
1か所しか表示できないにもかかわらず,どのような信号処理で可能なの
か,映像技術者として明確な説明をいただきたい。
イ本件発明の構成要件充足性
(ア)構成要件の充足
被告製品の構成aないしfは,それぞれ構成要件AないしFを充足する。
(イ)本件発明の技術的範囲に二次元映像表示装置が含まれることについて
(構成要件B,D)
被告は,構成要件B,Dについては,立体映像表示装置であることを前
提として充足性を判断すべきであると主張する。しかし,本件発明は,次
のとおり,二次元映像表示装置も含む。
Ⅰ「特許請求の範囲」の文言等
本件発明の「特許請求の範囲」はもちろん,本件明細書の発明の詳細
な説明にも,「立体」の表示装置に限定する旨の文言はない。
Ⅱ出願経過等
a)原出願についての審査官の認識
本件特許に係る出願(以下「本件出願」という。)は,分割出願さ
れたものであるが,その原出願(特願平7−147445,甲3。以
下「本件原出願」といい,その願書に添付された明細書及び図面を
「本件原出願明細書」という。)は,「産業上の利用分野」を「立体
映像表示装置に関するもの」としていた。
これに対し,特許庁は,本件原出願には2以上の発明が含まれてお
り,発明の単一性を満たさないとして,特許法37条により拒絶理由
の通知をした。その拒絶理由通知書(以下「本件原出願拒絶理由通知
書」という。)には「請求項21に係る発明は,倍速走査によりフリ
ッカーを低減する発明であり」「請求項22∼26に係る発明は,L
CDを用いた(但し,クレーム中では規定されていない)場合にも,
方向像を時間的に分離する発明である。」と記載されていた(同記載
は,対象となる表示装置は立体映像表示装置に限定されない趣旨も含
むものである。)。
このように,審査官は,本件原出願は立体映像表示装置と二次元の
表示装置の双方を含んだ発明であると理解していた。
b)本件原出願の補正
本件原出願の出願人は,本件原出願について「請求項21∼26等
を削除したので,本願は特許法27条の要件を満足するものと思料す
る」旨の意見書を提出したが,特許庁では,何の異論も示されずに適
法であると認められて受理された。
また,本件原出願の請求項15(後に特許査定された特許第351
6774号〔甲11〕の請求項8)に関する記述及び本件原出願明細
書の【0112】では,立体映像表示装置と二次元の表示装置の双方を技
術的範囲に含む旨の記載があるところ,本件原出願の出願人は,請求
項15は,本件原出願に帰属させて,請求項1の従属項とする意見を
出したが,特許庁では,何の異論もなかった。
c)本件出願の名称変更等の意図
本件原出願当時の技術については,NIKKEIMICEODEVICEの1995
年10月号及び11月号で,当時80msec程度であった液晶の応答速
度の向上の必要性が説かれており,2000年4月にようやく「1フ
ィールドの1/3∼2/3の期間黒レベルを挿入する」ことが論文発表され,
本件発明の1フィールド期間すなわち16.5msec以内の応答速度が
実現したとき,黒挿入駆動によりCRTと同等の映像特性を得ること
は,本件原出願当時新規であった。
また,前記のとおり,本件原出願拒絶理由通知書には「請求項22
∼26に係る発明は,LCDを用いた…場合にも,方向像を時間的に
分離する発明である。」「請求項21に係る発明は,倍速走査により
フリッカーを低減する発明であり」と記載され,「方向像を時間的に
分離する」とは,CRTディスプレイと同等な特性を持つ表示装置す
なわち疑似インパルス化技術による面順次走査液晶をいうものと解さ
れるので,本件原出願は,液晶表示装置においてフリッカーの概念を
示した最初の特許であり,フリッカーフリーにするため,黒挿入駆動
を採用して画像と黒を1/120秒ごとに交互に表示してフィールド周波
数60HZの画像を表示しインパルス型の表示に近づけるものであった。
そこで,本件発明が「立体表示装置」に限る課題ではなく,面順次
走査液晶表示器の画像一般に対する課題である疑似インパルス化技術
に関する発明であることを示すため,発明の名称を「立体映像表示装
置」からLCD一般が対象となる「表示装置」に変更し,立体映像表
示と平面映像表示の双方を表示することを包摂した発明の名称「表示
装置」として出願したのである。
d)本件出願についての審査官の認識
分割後の本件出願について作成された書類である早期審査に関する
事情説明書(甲7),先行技術調査報告書(甲8),特許庁審査官の
特許メモ(甲9)において,本件原出願当時,本件発明を技術的範囲
に含む先行技術はなかったことが明らかにされているが,特に,特許
メモにおいては,「左右視差画像等の異なる画像」と記載され,「左
右視差画像」の後に「等」が付されていることから,審査官は,「異
なる画像」は「左右視差画像」に限定されないという認識であった。
本件出願に係る出願情報(甲10)においては,「審査官フリーワ
ード記事」に,「5C082黒画面」が新規に記載されており,こ
れは本件原出願の審査時とは別に,本件出願について新たに設定され
たキーワードであるから,審査官は,本件発明が「全画面黒表示の信
号処理を行う液晶パネルを備えた表示装置」であって立体映像表示装
置には限定されないと認識していたことは明らかである。
e)本件明細書の記載
本件明細書【0014】【0027】において「通常の2次元映像を表示す
る場合でも」「通常の2次元映像表示装置に切り替えた場合に」とい
う記載があることからも,本件発明に二次元映像表示装置が含まれる
ことは明らかである
なお,本件明細書に立体映像表示装置に関する記載が含まれるのは,
本件原出願に立体映像表示装置に関する発明が含まれていたためであ
り,特許法44条1項により,本件原出願に係る明細書を元に,本件
明細書を再構築したことによる。
Ⅲ映像表示の仕組み
両眼視差の原理で立体映像を認識する立体映像表示装置において,映
像を表示する装置は,CRT,LCD,PDPなど,平面映像を表示す
る装置と同一のものであり,表示される画像の内容が異なるにすぎない。
そして,立体映像と平面映像の差異は,立体映像に表示された対象が
奥行き方向に変化すると両眼視差に対応した左右眼用に異なる画像が表
示されるのに対し,平面映像では表示された対象が奥行き方向に変化し
ても大きさや位置が変化するだけで,左右眼用に異なる画像は表示され
ないにすぎない。そのため,立体映像でも表示された対象が平面内でし
か移動しない画像の場合,そこに表示された映像は画像であり,かつ平
面内で移動しているため時間的に「異なる画像」が表示されている。こ
の場合,立体映像表示装置が表示する立体画像は,平面画像で時間的に
「異なる画像」である。このように,立体画像は平面画像を包摂してお
り,立体映像表示装置による発明が平面しか表示しない平面映像表示装
置にも適用されることは自明である。
具体例として,二次元アニメーションでは,背景,動く対象のいずれ
も平面であり,画像上のあらゆる部分で平面画像と全く同一である。こ
のように対象物が平面内を移動する二次元アニメーション画像において
は,本件発明も,被告製品も,同一対象に,同一目的で,同一手段をも
って,同一作用によって,同一効果を得ているのであり,被告製品が二
次元映像装置であっても,本件発明の技術的範囲に属することは明らか
である。逆に,ある平面映像装置が本件発明の技術的範囲に属しないと
いうのであれば,最低限,二次元アニメーションは表示しないように構
成される必要があるが,被告製品にはそのような制限は設けられていな
い。
(ウ)被告製品は立体映像表示装置の機能を有する表示装置であるから,
構成要件B,Dを充足する。
被告製品に立体画像信号を入力して立体映像を表示することは可能で
あり,被告製品にそれを制限する構成は設けられていない。すなわち被
告製品は,外部入力端子を有しており,外部入力端子から表示可能な信
号として,「左右信号」を含んでおり,もし,被告製品が「動画像」の
みを表示するというのであれば,「左右画像」が外部入力から入力され
ても「左右信号」は表示しないことを証明しなければならない。「左右
画像」の信号は通常のVHSテープなどで記録及び再生可能な信号であ
り,表示装置に外部入力がありさえすれば,再生表示を行うことは可能
であり,被告製品には外部信号入力が備わっているので,「左右画像」
を表示することが可能である。被告製品のカタログや現物を見る限り,
「左右画像」を入力できないようにする回路上の処理機能も,「左右画
像を入力することは禁じている」との文言もない。
また,ディスプレイとしてCRTを使用し,アタッチメントとして素
子ドライバ及びシャッタメガネを使用して,これにより時分割による左
右画像の交互の表示を行って立体画像を表示する技術が公知であるとこ
ろ,本件発明は,CRTと同等な特性を持つLCDの発明であり,被告
製品もCRTと同等の機能を有している。CRTは,本来面順次の平面
画像を表示する物であるが,それにアタッチメントを追加させることに
より面順次すなわち時分割すなわち左右画像を交互に表示して立体画像
を表示し,可逆的にアタッチメントをはずして平面画像を表示する。
(エ)「異なる画像」には動画像が含まれることについて(構成要件B)
「異なる」とは広辞苑によると「あるものが他のものと同じでない」と
されており,「異なる画像」とは,連続する画像信号が時間的に変化して
いる画像全般,すなわち立体画像,平面画像の両方をいうものである。本
件発明が,立体映像表示装置と二次元映像表示装置の双方を含むものであ
ることは前記のとおりであるが,「異なる画像」という文言も,立体映像
と平面映像の双方を含み,本件明細書【0027】においても,「異なる方向
像とせず…通常の2次元映像を表示する場合でも」という記載があり,
「異なる」は方向像,すなわち立体映像と二次元映像の両方の映像を一体
として説明するものであることが明らかである。
また,動画像とは,異なる画像を順次表示させることで動きを表現する
ものであり,両眼視差によって立体視を表現させる場合,静止画像であっ
ても両眼視差を表現するために異なる画像が順次表示される。
このように,「異なる画像を順次表示させる」とは,動画像を含む上位
概念であり,動画像とは,異なる画像を順次表示させることに含まれる下
位概念であるから,構成bは構成要件Bを充足する。
(オ)「全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力」について(構
成要件C)
Ⅰ被告製品において黒挿入がされていること
被告製品は,パンフレット等(甲15ないし17)において,「クリ
アな動画画像のために「黒挿入技術」を新採用液晶パネルの応答速度
だけでは解決しきれない動画応答性能向上のために,映像の変わり目に
黒い画像を差し込むことで残像を減らす「黒挿入技術」を採用していま
す。」「映像のフレーム間に一旦,黒を挿入することによって,残像感
を抑え,より一層ボケを抑えることに成功しました。」「「黒挿入技
術」につきましては,画面が更新される1フレームごと(1/60秒)に1
回黒帯が挿入されます。(実際には画面の上から下に向かって帯が流れ
ます。高速ビデオで画面を撮ると見えます)これは,フレームとフレー
ムの間の残像効果を低減されるために用いられています。」「黒挿入技
術を理想的なレベルで採用」と説明されている。また,被告のホームペ
ージ(甲16)では,時間経過と輝度変化の関係を示す図面において,
1フレーム分の入力信号の変化のうち後半部分に輝度が著しく低い部分
があり,「映像のフレーム間に一旦黒を挿入」と記載されている。
Ⅱ23型について
被告パンフレットでは,23型について,OCB液晶パネル(製造供
給は東芝・松下ディスプレイテクノロジー)を搭載している旨記載され,
パンフレット図では,入力信号につき,黒信号と白信号の連続を1フレ
ームの信号として表し,信号レベルが著しく低い部分につき「黒挿入」
の文言がある。
パンフレット図において,1目盛りが4msecとされているが,これを前
提とすると,異なる画像のフィールド周波数は60Hzであることと矛盾す
るので,2目盛りを4msecとし,立ち上がり時間4msec(A点からC点),
立ち下がり時間1msec,8目盛りで1フィールド16.8msec(60Hz,A点か
らH点まで)とし,1フィールドの中間点(8.4msec,E点)までに倍速
表示(120Hz駆動)の映像信号を挿入するとすれば,原告の平成19年2
月26日付け準備書面(その9)の4ページの⑤の図(別紙3の図。以
下「原告作成図」という。)のとおり,映像が完成するのは映像信号挿
入スタート(A点)から12.6msec後のG点となり,信号を挿入しない期
間(4.2msec,E点からG点)の次の4.2msec区間(G点∼H点∼A点)
で黒映像信号を挿入するとすれば,少なくともA点では全黒画像となる。
23型は,二筆書きで黒挿入を行っているが,二筆書きの場合は,黒帯
が細いことが特徴である。
Ⅲ32型について
32型については,被告パンフレットでは,IPSモード(液晶パネ
ル製造供給はIPSアルファテクノロジー,日立・松下・東芝の合弁)
を採用したとあり,液晶パネルはパネルメーカーから購入しているが,
液晶パネルには液晶,バックライトが一体化されており,単一の映像信
号源から画像を表示する際に液晶パネル内部の制御回路で黒挿入を行っ
ている(この点は被告が自認している)。
日立のカタログによれば,IPSαパネル搭載液晶テレビでは,「倍
速スーパーインパルス表示技術」が採用されており,「1秒間に60コ
マの元の映像を,2倍の120コマに変換。動画の残像を軽減する黒の
データを挿入することで大幅に動画ぼやけを解消します。」とある。原
告が,日立製W32L−H9000(前記のIPSαパネル搭載液晶テ
レビ)を使用して,横方向に罫線を入れた全白画面のビデオ信号を入力
し,高速写真撮影したところ,シャッター速度1/60秒(開放時間16.8mse
c)では黒挿入は確認できないが,シャッター速度1/2000秒(開放時間0.
5msec)では,全黒画像,全白画像,上方が黒の画像,下方が黒の画像が
確認できた。32型は,一筆書きで黒挿入を行っている。
Ⅳ被告製品において黒挿入を完了するまでに要する時間
パンフレット(甲15)では,「液晶パネルの応答速度5msecを達成し
ました」とあり,液晶1素子の応答速度すなわち立ち上がりと立ち下が
りの時間の和が5msecであると解釈されるので,1フレーム分の画像の表
示を完結するには,10ないし12msec要すると考えられる。
また,被告製品(32型)の画面を1/1000秒の露出によりフィルム撮
影した写真撮影結果(甲16)によると,連続して撮影したので,黒帯
が上から下に移動し,約1/4が黒画面化しており,被告のホームページの
中でメールで問い合わせをした返信メールによると,1/60秒ごとに1回
黒帯が挿入されるとのことなので,1/250秒(4msec)で黒挿入が完了す
る。
これらの和は14ないし16msecであり,16.5msec以内すなわち1フレー
ムごと(1/60秒)であるから,上記の返信メールの文言とも合致する。
パンフレット図からも,画像信号挿入時間は10msec,黒挿入時間は6msec
であることがわかる。
Ⅴ被告製品における黒挿入の効果
前記のとおり,被告製品のパンフレット等においては,「黒い画像を
差し込む」ことの効果として,「残像効果を低減」「残像感を抑え,よ
り一層ボケを抑える」等と記載されており,これは「前後の映像を時間
的に分離」と同じ意味である。
Ⅵまとめ
以上のとおり,構成cは,画像の一部に入力された黒信号を移動させ
ることで全画面に黒信号が入力されるものであり,このように帯状の黒
信号を上から下へ,すなわち時間経過に従って挿入する場合においても,
実質的な差異はないので,構成cは構成要件Cを充足する。
なお,液晶は,ゲート線に信号を入れればそこが表示されるところ,
最初に1本目のゲートに信号を入れて表示させて,次に240本目のゲ
ートに信号を入れて黒信号を入力することもできる。原告は,黒帯の幅
を問題としているのではなく,黒帯が画面の上から下に移動して,黒信
号が全画面にまんべんなく挿入されていること,すなわち目的が黒画面
挿入であり,結果として黒挿入されていることが構成要件Cを充足する
と主張するものである。
ウ均等(構成要件C)
仮に,被告製品について文言侵害が認められないとしても,被告製品は,
本件発明と均等であって,本件発明の技術的範囲に属する。
(ア)本質的部分
本件発明は,LCDが有する次の画像が入力されるまで画像の輝度が一
定に保たれるホールド特性によって生じる画像劣化を疑似インパルス化に
よって軽減するために,次の走査信号が入力されるまで一定に保たれるは
ずの輝度を黒表示とするように,表示画面上の全ての液晶画素にフィール
ド又はフレーム分の映像信号を入力する毎に黒信号を入力させる黒挿入駆
動が最大の特徴である。
(イ)置換可能性
「全画面黒信号を入力」と「画像の一部に入力された黒信号を移動」と
の差違は,画像信号及び黒信号の走査速度や位相差の差違にすぎず,しか
も画面上の全ての画素に対してフレーム期間の一定時間を画像表示によっ
て発光させ,フレーム期間の残りの時間を黒表示によって非発光させると
いう黒挿入駆動に対して同一である。したがって,かかる画像信号及び黒
信号の走査速度や位相差の差違により,作用効果になんらの差違が生じる
ものではない。
被告の「黒挿入技術」に関する資料(甲15)には「映像フレーム間に
一旦,黒を挿入することによって,残像感を抑え,より一層ボケを抑え
る」という本件発明と同様の目的・作用効果が記載されている。よって,
被告製品は,本件発明と同一の目的・作用効果を有する。
(ウ)置換容易性
したがって,当業者が置換することは容易である。
(エ)容易推考性
本件特許の審査経緯から明らかなとおり,本件発明の特徴は「黒挿入駆
動を行うために1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する
毎入力させた全画面黒信号」である。しかも,本件原出願以前には,「疑
似インパルス化を行うために1フィールドあるいは1フレーム分の映像信
号を入力する毎に全画面黒信号を入力させたこと」が記載ないし示唆され
ている文献は存在しない。したがって,被告製品は,本件原出願当時にお
いて,公知資料などにより容易に推考しえたものではない。
(オ)意識的除外
本件特許の審査経過において,全画面を黒表示させるために画像の一部
に入力された黒信号を移動させることを除外する旨の特段の記載はない。
(2)被告の主張
ア被告製品の構成
(ア)認否
被告製品が,原告が主張する構成aを備えることは認め,構成bないし
fは否認する。被告製品は,原告の主張する構成b,c,dについては,
次のとおりの構成を備えている。
b"前記LCDに動画像を表示する場合において,
c"前記LCDに1フレーム分の映像信号を入力する毎に,前記1フレ
ーム分のLCDの画像の表示時間内に,前記LCDに帯状黒表示を行
わせるための帯状黒信号を入力し,この帯状黒表示された領域を画面
の全体にわたって移動させる
d"二次元映像表示装置。
(イ)構成bについて
構成bについては,「動画像」とは内容が1連に変化する一方向の画像
を順次表示されるものを意味するため,「順次表示する」では記載が重複
してしまうので,これを考慮して,構成b"のとおり,「動画像を表示す
る」とすべきである。
(ウ)構成cについて
構成cについては,黒信号が「LCDに全画面黒表示を行わせるための
全画面黒信号」であるか「LCDに帯状黒表示を行わせるための帯状黒信
号」であるかは全く相違し,したがって,入力のタイミングも「1フィー
ルドあるいは1フレーム分の映像信号を入力する毎」であるか「1フレー
ム分に対応する表示期間内」であるかも全く相違し,これにより,「LC
Dに全画面黒表示」がなされるか「帯状黒表示」がなされるかの点におい
て,被告製品は,構成c"のとおり,原告が特定した構成cと大きく異なる。
被告製品が「黒帯」を挿入し,これがテレビ画面上を上から下へ移動し
ていることについては,乙8,14,15の写真に示されているし,原告
自身が,甲16の第6図において,「TV画面内に黒帯が表示されている
ことが撮影され」「黒帯が斜めになっているのは」「黒帯の走査が進むた
め」と主張し,原告が撮影した上記第6図の写真にも黒帯が斜めに写って
いることから,原告が自認しているところでもある。
イ本件発明の構成要件充足性について
(ア)認否
被告製品の構成aが構成要件Aを充足することは認め,その余は否認す
る。
(イ)構成要件Bについて
本件原出願明細書及び本件明細書には,特許請求の範囲の記載はもとよ
り,発明の詳細な説明における発明の説明,実施例の説明,図面において,
「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表
示する」ことを前提とした「立体映像表示装置」のみが記載されている。
仮に,本件発明が,本件原出願明細書に記載した事項の範囲とは技術的
範囲を異にする「二次元映像表示装置」まで含むものと解するならば,本
件特許は,分割出願の適法要件を満たさなくなり,分割の要件を欠いて出
願されたことになるから,出願日遡及は認められず,本件原出願の公開に
よりその出願前公知の出願となり,明白な無効理由が存することになる。
したがって,本件特許の出願人の意思及び特許庁の判断を尊重し,本件
特許に無効事由がないように解するとすれば,本件発明の構成要件Bにお
ける「前記LCDに異なる画像を順次表示する」とは,「異なる映像信号
源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と解され
る。
被告製品は,搭載する液晶パネルに対して,チューナや外部入力端子を
通じて入力されるテレビ放送,DVDビデオなど複数の映像信号源のうち
のいずれか一つの映像信号源から,所定の時間感覚(1フィールド,1/60
秒)毎に連続して入力され経時的に変化する一連の映像信号を,入力順序
そのままに,液晶パネルにおいて,一方向の画像すなわち二次元動画像を
表示するものである。
したがって,被告製品の構成b"の「動画像を表示する」とは,「単一の
映像信号源からの経時に変化する一連の一方向の画像」を表示するもので
あって,バックライトの出射方向は一方向に固定されているので,「方向
の異なる画像」を「順次時間的に交互に表示する」ことすらできない。
よって,被告製品の構成b"の「動画像を表示する」は,本件発明の構成
要件Bの「異なる画像を順次表示する」には含まれない。
(ウ)構成要件Cについて
本件発明の構成要件Cの「全画面黒表示」とは,右眼用映像と左眼用映
像が一部分でも同時に表示されることなく,前後の映像を時間的に分離し
て表示するために,1フィールドもしくは1フレームの表示と次の1フィ
ールドもしくは1フレームの表示の間に,全画面黒信号を入力させるもの
である。
被告製品の「黒表示」は,画面の一部が黒表示(黒帯)となり,この黒
表示された画面の一部である領域(黒帯)が上から下まで順次移動する。
すなわち「黒表示」となる領域は画面の全体ではなく,全画面が黒になる
瞬間はないので,前後の映像を時間的に分離するものではない。そして,
黒信号を入力し黒表示させるタイミングは,構成要件Cのように,1フィ
ールドもしくは1フレームの表示と次の1フィールドもしくは1フレーム
の表示の間に行われるものではなく,1フレームに対応する表示期間内に
行われる。したがって,被告製品の構成c"は,本件発明の構成要件Cを充
足しない。
原告は,被告製品の黒挿入の状況は原告作成図のとおりになると主張す
るが,被告製品では,乙14,15の画像のとおり,黒帯の太さは変わら
ず,画面の上部分に黒ではない部分が残ったままとなっており,1フレー
ム終了時点で全画面黒表示にはなっていない。
また,原告は,日立製W32L−H9000をシャッター速度1/2000秒
で写真撮影したところ,全黒画像が撮影されたと主張するが,日立製W3
2L−H9000は被告製品ではない。仮に,1/500秒で撮影すると全画面
黒表示の瞬間は映らないが,1/2000秒では映るとすると,原告が,原告作
成図において,全白画像(右から3つめの画像)のGから全黒画像(右か
ら1つめの画像)のAまで移行するのに,4.2msかかると記載され,全黒画
像(一番左の画像)のAから全白画像(左から5つめの画像)のEまで移
行するのに8.4msかかると記載されているので,4.2msを要する全白画像か
ら全黒画像への移行及び8.4msを要する全黒画像から全白画像への移行がそ
れぞれ1/500秒(2.0ms)以下で行われたとする原告の主張と矛盾する。し
たがって,被告製品を1/2000秒で撮影したとしても,1フレーム内に全画
面黒表示の瞬間はない。
(エ)構成要件Dについて
前記構成要件Bについて述べたのと同様の理由により,構成要件Dの
「表示装置」とは,「立体映像表示装置」と解するのが相当である。
被告製品の構成d"の「二次元映像表示装置」は,一連に変化する複数の
画像を時間の経過とともに順次表示させて一方向の動画像を表示するもの
である。すなわち,一連に変化する複数の各画像は,両眼に同じように投
影させるための一方向の画像であり,このような画像を連続して表示し,
両眼に投影することによって動きのある映像(動画)が表示されているよ
うに観察者に知覚させる。
被告製品は,方向分離されるバックライト光を生成する構成や,右眼用
光源・左眼用光源・それぞれの光源からの光を右眼と左眼とに集光させる
ような凸レンズを有さず,右眼と左眼とにそれぞれ「異なる画像」を投影
させるようにして「立体」画像を表示する機能を有さず,観察者に立体的
に見えるという視覚効果を引き起こすように画像を表示する機能も有して
いない。このため,仮に,被告製品に,「異なる映像信号源から出力され
る方向の異なる画像」に対応する映像信号を入力しても,立体映像表示す
らできない。このように,被告製品の構成d"の「二次元映像表示装置」は
「立体映像表示装置」とは技術的に全く異なるものである。よって,被告
製品の構成d"は,本件発明の構成要件Dに含まれない。
ウ均等の主張について(構成要件C)
(ア)本質的部分
本件発明の構成要件Cの「全画面黒表示」と被告製品の構成c"の「黒表
示」の相違点,すなわち①「黒表示」となる領域が画面の全体に及ぶか否
か,②前後の映像を時間的に分離するものであるか否かという点は,右眼
用映像と左眼用映像を完全に分離し,同時に表示されている期間を生じさ
せなくするという本件発明の本質的部分に該当するので,均等論の第1要
件を満たさない。
(イ)置換可能性
上記相違点を被告製品におけるものと置き換えた場合,右眼用映像と左
眼用映像を完全に分離し,同時に表示されている期間を生じさせなくする
という本件発明の目的を達成することができなくなり,同一の作用効果を
奏するとはいえない以上,均等論の第2要件を満たさない。
2本件特許の無効理由の有無(争点2)について
(1)被告の主張
本件特許は,次のとおり,特許無効審判により無効にされるべきものである
から,原告はその権利を行使することができない。
ア分割要件違反及び新規性の欠如1
(ア)分割要件違反
仮に,本件発明が,本件原出願明細書に何ら開示されていない二次元映
像表示装置まで含むものと解するなら,本件出願は,分割出願の適法要件
を満たさないので,特許法44条2項の出願日遡及は認められない。そう
すると,本件特許の出願日は,実際に出願された日である平成15年10
月2日となり,本件原出願の公開公報(甲3)は,本件特許の出願日より
前(平成8年12月24日)に頒布された刊行物に該当する。
(イ)本件原出願明細書に記載された発明
本件原出願明細書の記載(実施例22の段落【0119】【0120】,実施例
24の段落【0122】,実施例25の段落【0123】)によれば,本件原出願
には,次の発明が開示されている。
①LCDで構成された透過型映像表示板1を備えた立体映像表示装置で
ある。
②透過型映像表示板1には時分割回路5が透過型映像表示板1に接続さ
れており,時分割回路5には全画面黒表示切換回路41を介して左右映
像信号源4と全画面黒表示信号源42とが並列に接続されている。
③左右映像信号源4は右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lを備えて,
2つの方向像の信号,すなわち映像R,Lを全画面黒表示切換回路41
に出力する。
④全画面黒表示切換回路41によって1フィールドごとに右眼映像,左
眼映像信号源4R,4Lをそれぞれ全画面黒表示信号源42に切り換え
る。時分割回路5は2フィールド分である1フレームごとに右眼映像,
左映像信号源4R,4Lのラインを交互に切り換える。この結果,ある
フレームの前半の1フィールド(以下「先フィールド」という。)にお
いて透過型映像表示板1に映像Rを表示させると,後半の1フィールド
(以下「後フィールド」という。)で全画面黒信号が入力されて全画面
黒表示を行わせる。次のフレームでは,先フィールドで透過型映像表示
板1に映像Lを表示させ,後フィールドで全画面黒信号が入力されて全
画面黒信号を行わせる。続く次のフレーム以降においては,このような
2フレーム分の動作を繰り返す。
⑤時分割回路5が映像R,Lを2フレームごとに切り換えて透過型映像
表示板1に入力する。このとき,全画面黒表示切換回路41は,1フレ
ームごとに映像R又は映像Lをそれぞれ全画面黒信号に切り換えて時分
割回路5に出力している。この結果,ある1フレームにおいて透過型映
像表示板1に映像Rを表示させると,次の1フレームで全画面黒信号が
入力されて全画面黒表示を行わせる。その次の1フレームでは透過型映
像表示板1に映像Lを表示させ,続く1フレームで全画面黒表示を行わ
せる。このような4フレーム分の動作を繰り返す。
⑥さらに,透過型映像表示板1に対する全画面黒信号の入力時の画面走
査時の周波数を高くしている。
⑦図28では,単位時間当たりに映像R,Lから黒表示に変化する映像
表示領域が,黒表示から映像R,Lに変化する映像表示領域に比べて広
い。すなわち,図28には,全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波
数は,映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことが明
示されている。
(ウ)対比
Ⅰ構成要件Aについて
構成要件AのLCDは,実施例22で開示されたLCDそのものであ
り,構成要件Aは,本件原出願明細書に記載された発明の構成と一致す
る。
Ⅱ構成要件B
構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,前述の
とおり,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的
に交互に表示する」を包含する。
実施例22では,右眼映像,左眼映像信号源4R,4Lからそれぞれ
出力される映像Rと映像Lとが1フレームごとに交互に透過型映像表示
板1に表示することが開示されている。したがって,右眼映像,左眼映
像信号源4R,4Lは「異なる映像信号源」に相当し,映像Rと映像L
は「異なる画像」に相当する。よって,構成要件Bは,本件原出願明細
書において実施例22として開示された発明の構成と一致する。
また,実施例25,26では,透過型映像表示板1に対して1フレー
ムごとに〔映像R表示〕〔全画面黒表示〕〔映像L表示〕〔全画面黒表
示〕の順番で繰り返し動作させているので,2フレームごとに映像Rと
映像Lとが交互に透過型映像表示板1に表示することが開示されている。
したがって,実施例25,26でも,映像Rと映像Lは「異なる画像」
に相当し,構成要件Bは,本件原出願明細書において実施例25,26
として開示された発明の構成と一致する。
Ⅲ構成要件C
実施例22には全画面黒表示信号源42から出力され,画素に書き込
まれた映像R,Lを消去する(透過型映像表示板1に黒表示を行わせ
る)全画面黒信号が開示されており,この全画面黒信号は,構成要件C
の「全画面黒信号」そのものである。また,実施例22では,1のフレ
ームの先フィールドで映像Rを表示させ,後フィールドで全画面黒信号
を行わせると,次のフレームの先フィールドで映像Lを表示させ,後フ
ィールドで全画面黒表示を行わせる。したがって,各フレームの先フィ
ールドで表示される映像Rと映像Lは,それぞれ構成要件Cの「1フィ
ールド分の映像信号」に相当し,各フレームの後フィールドではそれぞ
れ透過型映像表示板に全画面黒表示を行わせているので,構成要件Cは,
本件原出願明細書において実施例22として開示された発明の構成と一
致する。
実施例25,26における映像R,映像Lは,それぞれ構成要件Cの
「1フレーム分の映像信号」に相当し,映像R,映像Lを表示する各フ
レームの次のフレームでは,それぞれ透過型映像表示板1に全画面黒表
示を行わせているので,構成要件Cは,本件原出願明細書で実施例25,
26として開示された発明とも一致する。
Ⅳ構成要件D
構成要件Dの「表示装置」は,前述のとおり,立体映像表示装置を包
含するところ,実施例22は立体映像表示装置に係る発明を開示してい
るので,構成要件Dは,本件原出願明細書に記載された発明の構成と一
致する。
Ⅴ構成要件E
実施例25では,全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数は,
映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことが開示され
ており,このように動作させることは,構成要件Dの「前記LCDにお
ける前記全画面黒信号の入力時の画面走査時の周波数を,前記映像信号
のそれよりも高くするようにしたこと」そのものであるから,構成要件
Dは,本件原出願明細書に記載された発明と一致する。
(エ)まとめ
以上より,本件発明の構成要件AないしFは,本件原出願明細書に記載
された発明の構成とすべて一致しているので,本件発明は新規性がなく,
特許法29条1項3号に違反しているので,特許無効審判により無効にさ
れるべきものである。
イ新規性の欠如2
(ア)乙9パンフレットに記載された発明
平成7年1月12日に発行された国際公開95/01701パンフレッ
ト(乙9。以下「乙9パンフレット」という。)の記載によれば,乙9パ
ンフレットには次の発明が開示されている。
①アクティブマトリックスアドレス液晶表示パネル10を備えた表示シ
ステムである。
②ビデオ,例えばTVや画像を表示する表示システムであり,特に動い
ている像を品質よく表示する表示システムである。
③TVディスプレイの場合,液晶パネル10にTVラインの画像情報信
号を表示させる。
④行駆動回路20は,TVフィールドに関するデータ信号の供給に同期
した従来の速度(TV信号のライン速度)の2倍の速度において行導線
を走査する。これにより,1TVフィールドに関するデータを,TV信
号フィールド周期の半分の周期内で表示パネルに表示させる。
⑤列駆動回路22と液晶表示パネル10との間に設けられ,列駆動回路
22から出力されるデータ信号と,画素をほぼ非透過状態に駆動する基
準電圧VBとを切り換える切換回路35を備えている。
⑥そして,1TV信号フィールド周期の半分である表示情報アドレス期
間に1TVフィールドに関する信号データを表示パネル10に書き込み,
TV信号フィールド周期の残りの半分の期間(時間間隔)は基準電圧V
Bを与えて画素をほぼ非透過状態に駆動する。そして,このような1T
V信号フィールドの動作を繰り返す。
⑦上記1TV信号フィールドの動作において,周期信号データの書き込
み,及び,基準電圧VBの印加では,それぞれTV信号のフィールド速
度の2倍の速度で走査する。そして,時間間隔の終了時までには最終行
の画素の駆動を完了させる。
⑧画像表示期間(アドレス期間)と暗期間(時間間隔)を各々フィール
ド期間の半分にするのは,「便利で簡便」のためであって必然性はない。
⑨このため,画像表示期間(アドレス期間)と暗期間とが種々変更実施
できることが開示されている。
⑩例えば,TVフィールド周期の2/3をパネルアドレス期間fとし,
TVフィールド周期の1/3を期間f’とすることが例示されている。
このように期間f’を短くすることは,行駆動回路をより高いクロック
速度によって動作させることで達成できる。
(イ)対比
Ⅰ構成要件A
乙9パンフレットに記載された「アクティブマトリックスアドレス液
晶表示パネル10」は,構成要件Aに記載される「LCD」の一種であ
り,「LCD」に包含されるので,構成要件Aは,乙9パンフレットに
記載される発明の構成と一致する。
Ⅱ構成要件B
乙9パンフレットに開示される表示システムが表示するものとして
「ビデオ,例えばTVや画像」が開示されており,また,TVディスプ
レイの場合では「TVラインの画像情報信号」を表示すると開示されて
おり,これら「ビデオ,例えばTVや画像」や「TVラインの画像情報
信号」は動画像の下位概念にあたる。このため,構成要件Bに記載され
る「異なる画像」が仮に「動画像」まで含むものと解するならば,構成
要件Bは乙9パンフレットに記載された発明と一致する。
Ⅲ構成要件C
乙9パンフレットのFIG.4は,TV信号VSの連続するTV信号フィ
ールド周期F(A),F(B),F(C),F(D)にわたるタイミングチャートである
が,例えばTV信号のフィールド速度(周波数)が50Hzの場合,TV信
号フィールド周期F(A)∼(D)で示される期間はそれぞれ20ミリ秒とな
る。ここで,TV信号フィールド周期F(B)に注目すると,表示情報アドレ
ス期間f(A)と期間f'に2分されており,例えば10ミリ秒ずつとなる。
前半の表示情報アドレス期間f(A)では,TV信号フィールド周期F(A)に
おいて読み込まれた信号データを表示パネル10に表示する。このとき,
TV信号のフィールド速度(周波数)の倍の走査速度(例えば100Hz)
で表示パネル10に書き込むので,TV信号のTV信号フィールド周期
の半分であっても表示パネル10の全面に映像が表示される。次の期間
f'では,同じ倍の走査速度で画素を非透過(黒い)状態に駆動する。し
たがって,期間f'の終了時においては,表示パネル10の全面が非透過
(黒い)状態になり,TV信号フィールド周期F(A)で表示させた映像は
完全に消去される。このような動作を,以降のTV信号フィールド周期F
(C),(D),…においても繰り返す。この結果,表示パネル10は,表示
情報アドレス期間f(B),f(C)に応じた映像の表示と,期間f'における非
透過(黒い)状態とを交互に繰り返す。
ここで,表示情報アドレス期間f(B),f(C)に表示される各映像は,そ
れぞれ構成要件Cに記載される「1フィールドあるいは1フレーム分の
映像信号」に相当する。また,期間f'の非透過状態は構成要件Cに記載
される「全画面黒表示」に相当する。さらに,このことから画素をほぼ
非透過状態に駆動する基準電圧VBは構成要件Cに記載される「全画面黒
信号」と認められるので,構成要件Cは,乙9パンフレットに記載され
た発明の構成と一致する。
Ⅳ構成要件D
乙9パンフレットに開示される表示システムは,前述のとおり,「ビ
デオ,例えばTVや画像」や「TVラインの画像情報信号」を表示する
ものであるので,二次元映像表示装置ということができる。このため,
構成要件Dの「表示装置」が仮に「二次元映像表示装置」まで含むもの
と解するなら,構成要件Dは,乙9パンフレットに記載された発明に開
示されていることになる。
Ⅴ構成要件E
前述したとおり,期間f’では,TV信号のフィールド速度(周波
数)の倍の走査速度で画素を非透過状態に駆動している。ここで,画素
を非透過状態に駆動する走査速度は,構成要件Eの「前記全画面黒信号
の入力時の画面走査時の周波数」に相当し,TV信号のフィールド速度
(周波数)は,構成要件Eに記載される「映像信号のそれ」に相当する。
そして,乙9パンフレットには画素を非透過状態に駆動する走査速度は
TV信号フィールド速度(周波数)より高いことが開示されているので,
構成要件Eは乙9パンフレットに記載される発明の構成と一致している。
また,乙9パンフレットには,FIG.4において,表示情報アドレス期
間f(A)等をTV信号フィールド周期F(A)等の2/3の期間とし,期間f'
をTV信号フィールド周期F(A)等の1/3の期間として,期間f'を相対
的に短縮することが開示されている。さらに,この場合,期間f'では行
駆動回路がより高いクロック速度で走査して画素を非透過状態に駆動す
ることが開示されている。ここで,上記の行駆動回路のクロック速度は
画素を非透過状態に駆動する走査速度と実質的に同じである。したがっ
て,乙9パンフレットには,構成要件Eの「前記全画面黒信号の入力時
の画面走査時の周波数」をより高くすることが開示されているので,構
成要件Eは乙9パンフレットに記載された発明の構成と一致している。
(ウ)まとめ
以上より,本件発明の構成要件AないしFは,乙9パンフレットに記載
された発明の構成とすべて一致しているので,本件発明は新規性がなく,
特許法29条1項3号に違反しているので,特許無効審判により無効にさ
れるべきものである。
ウ進歩性の欠如
(ア)乙11公報に記載された発明
平成6年7月22日に公開された特開平6−205446号公報(乙1
1。以下「乙11公報」という。)には,次の発明が開示されている。
①LCDを備えた立体映像表示装置である。
②左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時分割的で(交互
に)LCDに表示させる。
(イ)乙12パンフレットに記載された発明
平成6年3月17日に発行された国際公開94/06249パンフレッ
ト(乙12。以下「乙12パンフレット」という。)には,次のような発
明が開示されている。
①画像を表示させるLCD6を備えた立体及び2−Dディスプレイであ
る。
②1フィールドは第1期間(22),休止又は待機期間(23),動作消去期間
(24)の3つの期間に分割されている。
③第1期間(22)は,最上行から最下行までの画素(全画素)を走査し,
印加信号に応答して画素は画像を表示するための状態に変化する。これ
により,LCDに画像を表示させる。
④画像は,画素1列ごとに交互に並んだ左眼画像と左眼画像とによって
構成されている。また,左眼画像と左眼画像の位置は1フィールドごと
に入れ替わる。
⑤なお,画像を表示するための画素の変化が完了すると,フィールドご
とに光源(42)(43)が交互に点灯する。
⑥休止又は待機期間(23)は何も起こらない(LCDは画像を表示し続け
る)。
⑦動作消去期間(24)は,全ての画素を走査してLCDを暗状態とするこ
とが例示されている。これにより,LCDに表示させた画像は完全に消
去される。
⑧LCDの画素は,ターンオンされるとターンオフされるまでオンに滞
在するため,LCD上の画素列間の画像がフリップする際に,二重画像
が見えるという不都合がある。このため,左及び右眼画像の位置をフリ
ップするためにLCD上の画素が変化する短い期間の全体は,ランプを
オフにすることが望ましい。ただし,上述したような動作消去期間(24)
でLCDを暗状態とする場合は,ランプを動作消去期間(22)中点灯させ
ても画質は低下しない。
(ウ)対比
Ⅰ構成要件A
乙11公報に記載される「LCD」は,構成要件Aの「LCD」その
ものであるから,構成要件Aは,乙11公報に記載される発明の構成と
一致する。
Ⅱ構成要件B
乙11公報に,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時
分割的に交互にLCDに表示させることが開示されている。このことは,
乙11公報の図2に「表示映像」が時間の経過とともに「VD1」「V
D2」「VD1」「VD2」と変化していることが図示されていること
からも明らかである。ここで,左眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像
VD2は,構成要件Bの「異なる画像」に相当するので,構成要件Bは
乙11公報に記載された発明の構成と一致する。
Ⅲ構成要件C
乙11公報には,LCDに1フィールドあるいは1フレーム分の映像
信号を入力するごとに,前記LCDに全画面黒表示を行わせるための全
画面黒信号を入力することについての積極的な明示はないので,乙11
公報に記載された発明は構成要件Cを備えていない点で相違する(以下
「本件相違点1」という。)。もっとも,乙11公報の【0010】及び図
2の記載から,この立体映像表示装置では,左眼EYE1用映像VD1と右
眼EYE2用映像VD2とを時間的に映像表示がされない期間を挟んで明確
に区分していることがわかる。
Ⅳ構成要件D
構成要件Dの「表示装置」は,前述のとおり,「立体映像表示装置」
を包含するところ,乙11公報は立体映像表示装置を開示しているので,
構成要件Dは乙11公報に記載された発明と一致する。
Ⅴ構成要件E
乙11公報には,全画面黒表示信号の入力時の画面走査時の周波数は,
映像R,Lの入力時の画面走査時の周波数に比べて高いことについて開
示されていないので,乙11公報に記載された発明は,構成要件Eを備
えていない点で相違する。(以下「本件相違点2」という。)
(エ)本件相違点1について
乙12パンフレットには,LCDを備えた立体及び2−Dディスプレイ
の画フィールドにおいてLCDに画像を表示させると,すべての画素を走
査してLCDを暗状態としてLCDに表示させた画像を完全に消去するこ
とが開示されている。
乙12パンフレットのFIG.3aにおいて図示されるように,時間の経過と
共に第1期間22,休止又は待機期間23,動作消去期間24と移り,これら2
つの期間によって1フィールド期間が構成されている。第1期間22では,
LCDの「最上行」から「最下行」まで走査されることが明示され,これ
により全画素の状態が印加信号に応じてそれぞれ変化し,符号T4で示され
る時刻において完了する。動作消去期間24では再びLCDの「最上行」か
ら「最下行」まで走査されることが明示され,これにより全ての画素がフ
ルオン又はフルオフに状態変化し,LCD全面は暗状態となり,これによ
り第1期間22においてLCDに画像に表示させた画像は完全に消去される。
動作消去期間24が終了すると,次のフィールド期間に移行し,第1期間22
から順に同じ動作を繰り返す。このように,LCD全画面に画像を表示さ
せるために,第1期間22において画素に印加される印加信号は,構成要件
Cの「1フィールドあるいは1フレーム分の映像信号」に相当する。また,
動作消去期間24においてLCD全画面を暗状態とすることは,構成要件C
の「全画面黒表示」に相当する。よって,構成要件Cに相当する構成は乙
12パンフレットに開示されている。
乙12パンフレットでは,LCDの画素はターンオンされるとターンオ
フされるまでオンに滞在するため二重画像が見えるおそれがあることを指
摘し,この不都合を解消するために左及び右眼画像の位置をフリップする
ときはランプをオフにすることが望ましい,動作消去期間24でLCDを暗
状態とする場合にあっては,ランプをオンにしたままでも画質は低下しな
いことが開示されている。
乙11公報では,眼鏡等を使用せずに観察者に立体映像を知覚させる原
理は,右眼用,左眼用の各方向画像をそれぞれ時間的に交互に右眼,左眼
で観察させることにあり,このため,方向像を左右両眼に分離投影できな
ければ,上記原理から外れるので不都合(例えば画質の低下など)が生じ
ることは自明であり,乙11公報に開示される立体映像表示装置では,左
眼EYE1用映像VD1と右眼EYE2用映像VD2とを時間的に映像表示がされ
ない期間を挟んで明確に区分しているので,その分野における当業者が上
記原理から外れないように立体映像表示装置を構成して画質低下等の不都
合が生じないようにすることは極めて当然の事項である。したがって,乙
11公報に記載された発明における時間的な映像の区分の一手法として,
乙12パンフレットに開示された構成要件Cに相当する構成を適用して,
方向像を左右両眼に確実に分離投影するように構成することに格別の困難
性はない。
(オ)本件相違点2について
LCDに画像を表示するたびに全画面黒表示を行わせる場合,全画面黒
表示の時間は短いほど,輝度の低下を防止できて,本来の画像を表示させ
ることができ,好ましいことは明らかである。このことは,表示される画
像が立体映像の場合に限られず,動画等の二次元映像の場合であっても同
様である。前述のとおり,乙9パンフレットには構成要件Eに相当する構
成が開示されているので,乙11公報に記載された発明に,乙9パンフレ
ットに開示された構成を適用して,「前記全画面黒信号の入力時の画面走
査時の周波数を,前記映像信号のそれよりも高くするように」構成するこ
とには格別の困難性はない。
(カ)まとめ
本件発明は,乙11公報ないし乙12パンフレットと乙9パンフレット
に記載された発明に基づいて,本件出願前に,当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けること
ができないものであり,特許無効審判により無効とされるべきである。
(2)原告の主張
争う。特許庁は,本件特許の無効審判請求において,本件審判の請求は成り
立たないと判断し,原告の主張を支持している。
3本件特許権の侵害による損害額(争点3)について
(1)原告の主張
被告製品1台の平均的売価は20万円であるところ,うち本件発明に関する
付加価値を10パーセントと考え,それに対する実施料率を3パーセントとす
ると,被告製品1台あたりの本件特許の実施料相当額は600円である。被告
は,EIZOガレリア大阪において,被告製品を最低16台販売したことを口
頭で認めているので,原告には,少なくとも9600円の損害が生じた。
(2)被告の主張
争う。
第6当裁判所の判断
1本件発明の技術的範囲について(争点1)
(1)はじめに
被告は,本件発明が立体映像表示装置についての発明であることを前提とし
て,構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,「異なる映
像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と限定
して解し,構成要件Dの「表示装置」は,「立体映像表示装置」と限定して解
釈すべきであると主張する。
そこで,まず,本件発明が二次元映像表示装置を含まない,立体映像表示装
置についての発明であるか否か,すなわち構成要件Dについて検討する。
(2)構成要件Dについて
ア本件明細書の記載
証拠(甲2)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められる。
(ア)【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】
「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表示装置に関するものであ
る。」
(イ)【技術背景】【0004】
「…図32は例えば特開平6−205446号公開に示された従来の立
体映像表示装置を上方から見た原理図であり,このものは映像表示装置と
して背面照射型の液晶表示板(LCD)などの透過型映像表示板を用い,
このLCDをはさんで観察者とは反対側に複数の線状光源を配置して構成
されている。…」
【0005】
「このような従来の立体映像表示装置では透過型映像表示板1に右眼用
の映像R−1が表示されているときは,線状光源45のうち●で示す右眼
EYE2用の光源LL2のみ点燈し,○で示す左眼EYE1用の光源LL1は消燈するよ
うにする。次の時点で透過型映像表示板1に左眼用の映像L−1が表示さ
れ,線状光源45のうち○で示す左眼EYE1用の光源LL1が点燈し,●で示
す右眼EYE2用の光源LL2は消燈する。」
【0006】
「以上のように,透過型映像表示板1に表示する左眼用の映像と右眼用
の映像,および,線状光源45の左眼用の光源と右眼用の光源を,時分割
的に切り換えるようにしたことで,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影
され,立体映像として観察できる。…」
(ウ)【発明が解決しようとする課題】【0016】
「また,図33(a)に示すようなフィールド毎に時分割した映像入力に
よる映像は,(b)に示すようにCRTに表示した場合,表示面を走査して
いる瞬間だけ走査点が光るだけなので,どの瞬間をとっても映像R−1と
映像L−1は時間的に分離しているが,(c)に示すように透過型映像表示
板としてLCDに表示した場合,表示面上の画素は次にこの画素が走査さ
れるまで表示を続けるので,斜線領域全てで映像R−1と映像L−1の表
示が継続するため時間的に分離されていないという問題点があった。」
【0031】
「また,時分割した方向像を表示する透過型映像表示板にLCDを使用
しても,時分割した方向像を時間的に分離して表示することができる立体
映像表示装置を得るものである。」
(エ)【課題を解決するための手段】【0032】
「この発明の表示装置は,LCDを備え,前記LCDに異なる画像を順
次表示する場合において,前記LCDに1フィールドあるいは1フレーム
分の映像信号を入力する毎に,前記LCDに全画面黒表示を行わせるため
の全画面黒信号を入力する。」
(オ)【発明の効果】【0033】
「この発明の表示装置によれば,どの任意の時間で前後の映像が一部分
でも同時に表示されることが無く,前後の映像を時間的に分離して表示す
ることができる。」
(カ)【発明を実施するための最良の形態】【0066】
「実施例22.図24は本発明の実施例22における立体映像表示装置
を上方から見た原理図であり,いわば,透過型映像表示板1をLCDで構
成した場合の入力信号を,映像信号の片フィールド毎に全画面を黒表示に
するようにしたものを示している。…」
【0068】
「実施例23.図26は本発明の実施例23の動作を説明する表示領域
の時間変化を示す図であり,詳しくは,表示する透過型映像表示板2のL
CDにフィールド2を表示する画素がフィールド1と同じ映像を同時に表
示するようにした場合の表示領域の時間変化を示している。上記実施例2
2では左右映像R,Lの全画面を時間分離できても,LCDの画素を半分
しか使用してないので水平縞になるが,フィールド2の画素も表示するの
でLCDの全画素を用いて水平縞のない表示ができる。」
【0069】
「実施例24.図27は本発明の実施例24の動作を説明する表示領域
の時間変化を示す図であり,透過型映像表示板1をLCDで構成した場合
の入力信号を,映像信号のフレーム表示毎に全画面を黒表示するようにし
ている。図において,(a)は映像R,L,および映像R,Lを1フレーム
毎に全画面を黒表示してから2フレーム単位で切り換えた映像入力,(b)
は(a)の映像入力によって画面上に表示された領域の時間変化を示すもの
である。…この結果,透過型映像表示板1に同一画素に次に信号が来るま
で表示を継続するLCDを用いても,どの任意の時間で両画面が一部分で
も同時に表示されることがなく,映像R,Lの全画面を時間分離すること
ができ,さらに上記実施例22,23のような垂直解像度の低下を招かな
い。」
【0070】
「実施例25.図28は本発明の実施例25の動作を説明する表示領域
の時間変化を示す図であり,上記実施例24における全画面黒表示信号の
入力時の画面走査時の周波数を高くするようにしている。…」
【0071】
「実施例26.図29は本発明の実施例26における立体映像表示装置
の上方から見た原理図であり,…」
【0072】
「実施例27.図31は本発明の実施例27における立体映像表示装置
を上方から見た原理図であり,…」
イ前記認定事実によれば,本件明細書においては,【技術分野】【発明が解
決しようとする課題】のいずれの項目においても,立体映像表示装置につい
てのものであることが明記されている。
また,実施例についても,本件発明の構成要件をすべて備える実施例は実
施例22ないし27であることから,本件発明の実施例は実施例22ないし
27であると理解すべきところ,実施例22ないし24は,左右映像の全画
面を時間的に分離することについての記載があり,前記認定のとおり,本件
明細書の【0006】の記載によれば,左右映像の全画面を時間的に分離して表
示するのは立体映像を表示するためであることが認められるから,実施例2
2ないし24は立体映像表示装置についての実施例である。実施例25は実
施例24を前提とするものであるから,立体映像表示装置についての実施例
であると認められ,実施例26,27は立体映像表示装置である旨明記され
ている。したがって,本件発明の実施例である実施例22ないし27は,い
ずれも立体映像表示装置についてのものであると認められる。
そして,前記に認定した本件明細書の記載からすれば,本件発明は,従来
の技術によれば,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し,左
眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,左右両眼にそれ
ぞれ方向像が分離投影され,立体映像として観察されるところ,前記の透過
型映像表示板にLCDを使用した場合,CRTの場合とは異なり,表示面上
の画素は,次に同一画素に表示信号が来るまで前の表示を続けるので,時分
割で切り換えて投影するはずの左右両眼用の方向像の表示が,走査線による
書き換えが終了するまでの間,書き換えを始めた片方の眼用の新しい方向像
と書き換えにより消される前の他方の眼用の古い方向像とが同時に表示され
てしまい,完全に時間的に分離することができないという問題点があったの
で,片方の眼用の方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前
に,いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することに
より,最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方
の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明であると認め
られる。
以上のとおり,本件明細書においては,技術分野,発明の課題,実施例の
すべてにおいて,立体映像表示装置についての記載しかなく,立体映像の表
示機能を備えない装置の記載はないこと,また,本件発明は,左右両眼に時
分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する表示
装置において,表示板にLCDを使用した場合の問題点を解決しようとする
発明であることからすれば,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用
の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明
であって,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示す
る装置)を含まない発明である。したがって,本件発明の技術的範囲は立体
映像表示装置に限定されるから,構成要件Dは,「立体映像表示装置」と解
すべきである。
(3)本件原出願と構成要件Dの関係
構成要件Dに係る上記の解釈は,次のような本件出願の経過からも裏付けら
れる。
ア本件原出願明細書の記載
証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書には,次の記載があることが認
められる。
(ア)【発明の名称】
「立体映像表示装置」
(イ)【特許請求の範囲】【請求項1】
「透過型映像表示板,該透過型映像表示板の背面に配置した該透過型映
像表示板の表示面より大きい凸レンズ板,前記透過型映像表示板に時分割
して表示された左右2つの方向像を観察者の左右両眼へ選択的に投影して
立体映像を表示するために前記透過型映像表示板を境に観察者のいる空間
から反対側の空間に配置された発光面上の任意の部分領域で発光する分割
光源,前記透過型映像表示板に表示する方向像を時間交互に切り換える時
分割手段,および前記分割光源を前記透過型映像表示板に表示する方向像
の時間交互の切り換えに対応して左右2分割した領域で交互に発光するよ
うに制御する分割制御手段で構成したことを特徴とする立体映像表示装
置。」
【請求項2】
「前記時分割手段を,前記透過型映像表示板に表示された3以上の方向
像を順次切り換える複数時分割手段にして,前記分割制御手段を,3以上
の方向像の順次切り換えに対応して前記分割光源を左右方向に3以上に分
割した領域で順次発光させる複数分割制御手段にしたことを特徴とする請
求項1記載の立体映像表示装置。」
【請求項3】
「前記複数分割制御手段を,左右および上下方向に分割した領域で発光
させる平面分割制御手段にしたことを特徴とする請求項2記載の立体映像
表示装置。」
【請求項4】
「観察者の左右位置検出手段と,前記分割光源の分割位置を移動させて
左右2分割した領域で発光するように制御する分割位置移動手段とを備え
たことを特徴とする請求項1記載の立体映像表示装置。」
【請求項5】
「前記分割位置移動手段を,観察者の位置に応じて左右方向に必要最小
限の領域で分割光源を発光させる発光位置左右移動手段にしたことを特徴
とする請求項4記載の立体映像表示装置。」
【請求項6】
「前記左右位置検出手段を,観察者の左右および上下の平面位置検出手
段にして,前記発光位置左右移動手段を,観察者の位置に応じて左右およ
び上下方向に必要最小限の領域で分割光源を発光させる発光位置平面移動
手段にしたことを特徴とする請求項5記載の立体映像表示装置。」
【請求項7】
「観察者までの距離検出手段と,観察者までの距離に応じて前記分割光
源の左右方向の発光領域範囲を変化させる発光領域左右可変手段を備えた
ことを特徴とする請求項5記載の立体映像表示装置。」
【請求項8】
「前記距離検出手段と,観察者までの距離と上下方向の位置に応じて前
記分割光源の左右および上下方向の発光領域範囲を変化させる発光領域平
面可変手段を備えたことを特徴とする請求項6記載の立体映像表示装
置。」
【請求項9】
「前記透過型映像表示板,前記凸レンズ板,前記分割光源,前記左右位
置検出手段,前記分割光源の分割位置を複数の固定位置のいずれかに移動
させる分割位置切換手段,前記分割光源の2分割領域の交互の発光に対応
して3以上の方向像の隣接2方向像を時間交互に切り換えるように設けら
れた複数の時分割手段,および複数の時分割手段の出力を観察者の左右位
置に応じて選択する信号左右切換手段で構成したことを特徴とする立体映
像表示装置。」
【請求項10】
「前記分割位置切換手段を,3以上に分割された発光領域の隣接した2
領域を交互に発光させるように制御する発光領域切換手段にしたことを特
徴とする請求項9記載の立体映像表示装置。」
【請求項11】
「左右位置検出手段を平面位置検出手段にして,観察者の上下位置毎の
複数の信号左右切換手段の出力を観察者の上下位置に応じて選択する信号
上下切換手段を備えたことを特徴とする請求項9または10記載の立体映
像表示装置。」
【請求項12】
「前記分割光源の発光領域の制御を前記発光位置左右移動手段と発光領
域左右可変手段にして,前記距離検出器と,観察者の距離毎の複数の信号
左右切換手段または信号上下切換手段の出力を観察者の距離に応じて選択
する信号距離切換手段を備えたことを特徴とする請求項11記載の立体映
像表示装置。」
【請求項13】
「前記左右位置検出器または前記平面位置検出器を備えた立体映像表示
装置において,観察者が左右両眼による立体映像を観察不可能な位置にい
ることを検出すると映像表示を行わないようにしたことを特徴とする立体
映像表示装置。」
【請求項14】
「3以上の方向像の隣接2方向像を時間交互に切り換えて表示する立体
映像を,複数の観察者で使用する場合には,2つの左右両眼用方向像を観
察者に追従させて表示する立体映像に切り換えるようにしたことを特徴と
する請求項9∼請求項12のいずれかに記載の立体映像表示装置。」
【請求項15】
「立体映像表示と,前記透過型映像表示板の時分割切換なしと前記分割
光源の常時全面発光によって表示する平面映像を,観察者が任意に切り換
えるように構成したことを特徴とする立体映像表示装置。」
【請求項16】
「前記分割光源を,個別に発光を制御できる複数の部分面光源の組み合
わせで構成したことを特徴とする請求項1∼請求項15のいずれかに記載
の立体映像表示装置。」
【請求項17】
「前記分割光源を,面光源と,個別に該面光源の遮光,通過を制御でき
る複数の光シャッタの組み合わせで構成したことを特徴とする請求項1∼
請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」
【請求項18】
「前記分割光源を,CRT光源で構成したことを特徴とする請求項1∼
請求項15のいずれかに記載の立体映像表示装置。」
【請求項19】
「前記分割光源を,面光源と,シャッタ用透過型映像表示板の組み合わ
せで構成したことを特徴とする請求項1∼請求項15のいずれかに記載の
立体映像表示装置。」
【請求項20】
「前記凸レンズ板を,直交する断面で曲率が異なるトーリックレンズで
構成したことを特徴とする請求項1∼請求項19のいずれかに記載の立体
映像表示装置。」
【請求項21】
「前記透過型映像表示板および前記分割光源を備えた立体映像表示装置
において,前記透過型映像表示板および前記分割光源の両方を倍またはそ
れ以上で高速走査をするようにしたことを特徴とする立体映像表示装
置。」
【請求項22】
「左眼用および右眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互ま
たは順次に切り換える立体映像表示装置において,前記左眼用および右眼
用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム毎に
交互に切り換えて前記透過型映像表示板に入力するようにしたことを特徴
とする立体映像表示装置。」
【請求項23】
「前記透過型映像表示板を,2ライン同時に走査して表示するようにし
たことを特徴とする請求項22記載の立体映像表示装置。」
【請求項24】
「左眼用および右眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互ま
たは順次に切り換える立体映像表示装置において,前記左眼用および右眼
用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム毎に
交互に切り換えて前記透過型映像表示板に入力するようにしたことを特徴
とする立体映像表示装置。」
【請求項25】
「前記透過型映像表示板における全画面黒表示信号の入力時の画面走査
時の周波数を高くするようにしたことを特徴とする請求項22または24
記載の立体映像表示装置。」
【請求項26】
「前記透過型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の
周波数を高くして,該映像表示信号と前記全画面黒表示信号の間に入力信
号のない期間を設けたことを特徴とする請求項25記載の立体映像表示装
置。」
【請求項27】
「前記透過型映像表示板における映像表示に同期して,前記シャッタ用
透過型映像表示板の制御を行う請求項17記載の立体映像表示装置。」
(ウ)【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】
「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表示装置に関するものであ
る。」
(エ)【従来の技術】【0002】【0004】【0005】【0006】
前記認定に係る本件明細書の【技術背景】【0002】【0004】【0005】
【0006】の記載と同じである。
(オ)【発明が解決しようとする課題】【0007】
「図32について説明した従来の立体映像表示装置は,透過型映像表示
板に照射する線状光源を,透過型映像表示板に使用するLCDの画素より
微細な構造にする必要があるという問題点があった。」
【0015】【0032】
前記認定に係る本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【0016】
【0031】と同じである。
(カ)【課題を解決するための手段】【0033】
「本発明の請求項1に係る立体映像表示装置は,左右両眼用の方向像を
交互に切り換えて時分割表示を行う透過型映像表示板の背面に表示面より
大きい凸レンズ板を密着させるとともに,発光面上の任意の部分領域で発
光する分割光源と,分割光源を左右2分割した領域で交互に発光させる分
割制御手段を設けたものである。」
【0054】
「また,本発明の請求項22に係る立体映像表示装置は,左眼用および
右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム
毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力するように構成したもので
ある。」
【0055】
「また,本発明の請求項23に係る立体映像表示装置は,左眼用および
右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フレーム
毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力する立体映像表示装置にお
いて,透過型映像表示板を,2ライン同時に走査して表示するように構成
したものである。」
【0056】
「また,本発明の請求項24に係る立体映像表示装置は,左眼用および
右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フレーム
毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力するように構成したもので
ある。」
【0057】
「また,本発明の請求項25に係る立体映像表示装置は,全画面黒表示
信号の画面走査時の周波数を高くするように構成したものである。」
【0058】
「また,本発明の請求項26に係る立体映像表示装置は,透過型映像表
示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くして,映
像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設けるように
構成したものである。」
【0059】
「また,本発明の請求項27に係る立体映像表示装置は,映像表示に同
期して前記分割光源の発光を行うように構成したものである。」
(キ)【0060】【作用】
「本発明の請求項1に係る立体映像表示装置においては,透過型映像表
示板に時分割して表示された左右両眼用の方向像を,分割光源の左右2分
割した領域の交互発光による照射によって,観察者の左右両眼へ選択的に
投影することができる。」
【0081】
「また,本発明の請求項22に係る立体映像表示装置においては,左眼
用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1
フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,
LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,時分割した方向像を時間的
に分離して表示することができる。」
【0082】
「また,本発明の請求項23に係る立体映像表示装置においては,左眼
用および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1
フレーム毎に交互に切り換えて入力する透過型映像表示板を2ライン同時
に走査して表示することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示し
ても,全画素を使用して表示したすることができる。」
【0083】
「また,本発明の請求項24に係る立体映像表示装置においては,左眼
用および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2
フレーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,
LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示した
時分割の方向像を時間的に分離することができる。」
【0084】
「また,本発明の請求項25に係る立体映像表示装置においては,全画
面黒表示信号の画面走査時の周波数を高くすることにより,LCD使用の
透過型映像表示板に表示しても,映像表示しない期間を短縮することがで
きる。」
【0085】
「また,本発明の請求項26に係る立体映像表示装置においては,透過
型映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高く
して,映像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設け
ることにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,映像表示す
る効率を向上することができる。」
【0086】
「また,本発明の請求項27に係る立体映像表示装置においては,映像
表示に同期して前記分割光源の発光を行うことにより,シャッタ用透過型
映像表示板を使用して遮光を行う分割光源を使用しても,分割領域の発光
を時間的に分離することができる。」
(ク)【0087】【実施例】
「実施例1.図1は本発明の実施例1における立体映像表示装置を上方
から見た原理図である。図において,1は透過型映像表示板,2は透過型
映像表示板1の背面に配置した透過型映像表示板1の表示面より大きい凸
レンズ板で,oは凸レンズ板中心,FLは焦点である。3は透過型映像表
示板1に時分割して表示された2つの方向像を観察者の左右両眼へ選択的
に照射して立体映像を表示するために透過型映像表示板1を境に観察者の
いる空間から反対側の空間に配置された発光面上の任意の部分領域で発光
する分割光源,4は透過型映像表示板1に表示する2つの方向像の信号を
出力する左右映像信号源で,4R,4Lはそれぞれ映像R,Lを出力する
右眼映像,左眼映像信号源である。5は透過型映像表示板1に表示する左
右両眼用の方向像を時間交互に切り換える時分割回路,6は透過型映像表
示板1に表示する左右両眼用の方向像の時間交互の切り換えに対応して分
割光源3を左右2分割した領域3R,3Lで交互に発光するように制御す
る分割制御回路である。図2は実施例1の動作を説明するための光路図で
あり,観察位置における透過型映像表示板1上の各位置を照らすバックラ
イトの光路を示す。」
【0088】
「次に,図1ないし図2を参照して動作について説明する。図1に示す
ように,分割光源3の領域3Lが発光していると,領域3L上の点3aか
ら凸レンズ板2の2a,2b間方向に発した光は凸レンズ板2によって点
aに結像される。同様に点3aから点3bまでの各点から凸レンズ板2の
2a,2b間方向に発した光は点aからbまでの線L上の位置に結像され
る。また,点3aから2b,点3bから2aに発した光は凸レンズ板2に
よって点cに,点3aから2a,点3bから2bに発した光は凸レンズ板
2によって点dに結像される。逆に,点aから凸レンズ板2を見ると,点
3aが凸レンズ板2全面に拡大されて,凸レンズ板2全面が発光して見え
る。同様に点aから点bまでの線L上の位置から凸レンズ板2を見ると,
点3aから点3bまでの各点を発した光で凸レンズ板2全面が発光して見
える。また,点c,点dから凸レンズ板2を見ると,領域3Lが凸レンズ
板2全面に拡大されて,凸レンズ板2全面が発光して見える。すなわち,
分割光源3の領域3Lが発光しているとき,凸レンズ板2全面が発光して
見える観察位置は,点a,b,c,dの実線で囲まれた線Lを含む斜線範
囲内になり,この範囲外では分割光源3の領域3Lから発っする光は見え
ず,凸レンズ板2は暗い。同様に,分割光源3の領域3Rが発光している
とき,凸レンズ板2全面が発光して見える観察位置は,点線で囲まれた線
Rを含む斜線範囲内になる。透過型映像表示板1はそれ自体発光せず透過
光を制御して映像を表示するので,バックライトがない状態では画像は見
えない。そのため,凸レンズ板2全面が発光して見える状態がバックライ
トのある状態に対応するので,領域3Lが発光しているときは線Lを含む
斜線領域内から見た場合だけ,また領域3Rが発光しているときは線Rを
含む斜線領域内ら見た場合だけ透過型映像表示板1の映像を観察すること
ができる。そこで,映像R,Lを時分割回路5で高速に切り換えて透過型
映像表示板1に表示して,それに対応して分割制御回路6で分割光源3の
左右発光領域3R,3Lを高速に切り換えることで,左眼を線Lを含む斜
線領域内のどの位置からでも,また右眼を線Rを含む斜線領域内のどの位
置からでも透過型映像表示板1を見れば,映像R,Lを左右眼別々に視差
角の異なる方向像として見ることができる。」
【0089】
「また,透過型映像表示板1の映像を観察することができる斜線領域内
での位置による輝度を,図2で説明する。図2(a)は点aから,(b)
は点cから見た場合の,透過型映像表示板1上の各位置を照らすバックラ
イトの光路を示す。(b)では領域3L全体の光が透過型映像表示板1を
通過するので,点3aの光だけが透過型映像表示板1を通過する(a)の
場合より明るいように思える。しかし,(b)の点3aから発する光のう
ち点cに見えるのは点2bを通る光だけでそれ以外は関係ない。すなわち
(a),(b)で点2bを通る光の輝度は同じである。同様に点3b,3
c,3d,3eの発する光も,各点からあらゆる方向に発光しているうち
の点2a,2c,2d,oを通る光だけが点cに見えるだけなので,透過
型映像表示板1は点aからを見ても,点bからを見ても同じ輝度である。
この結果,透過型映像表示板1の映像を観察することができる斜線領域内
での位置に関わらず,同じ輝度の方向像として観察できるので,立体表示
を広い範囲で観察できる。」
【0119】ないし【0125】
本件明細書の【発明を実施するための最良の形態】【0066】ないし【00
72】と同じである。
(ケ)【0126】【本件発明の効果】
「本発明は,以上説明したように構成されているので,以下に示すよう
な効果を奏する。」
【0127】
「本発明の請求項1記載の立体映像表示装置によれば,透過型映像表示
板の時分割して表示された左右両眼用の方向像を,分割光源の左右2分割
した領域の交互発光による照射によって,観察者の左右両眼へ選択的に投
影することができ,このため観察者は眼鏡無しで立体映像を観察すること
ができる。」
【0148】
「また,本発明の請求項22記載の立体映像表示装置によれば,左眼用
および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フ
レーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,L
CD使用の透過型映像表示板に表示しても,時分割した方向像を時間的に
分離して表示することができ,観察者に左右両眼毎の方向像を投影でき
る。」
【0149】
「また,本発明の請求項23記載の立体映像表示装置によれば,左眼用
および右眼用の両信号の片フィールドを全画面黒表示信号にしてから1フ
レーム毎に交互に切り換えて入力する透過型映像表示板を2ライン同時に
走査して表示することにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示して
も,全画素を使用して表示したすることができ,観察者に全画素を使用し
て表示した左右両眼毎の方向像を投影できる。」
【0150】
「また,本発明の請求項24記載の立体映像表示装置によれば,左眼用
および右眼用の両信号を1フレーム毎に全画面黒表示信号にしてから2フ
レーム毎に交互に切り換えて透過型映像表示板に入力することにより,L
CD使用の透過型映像表示板に表示しても,全画素を使用して表示した時
分割の方向像を時間的に分離することができ,観察者に垂直解像度の低下
しない左右両眼毎の方向像を投影できる。」
【0151】
「また,本発明の請求項25記載の立体映像表示装置によれば,全画面
黒表示信号の画面走査時の周波数を高くすることにより,LCD使用の透
過型映像表示板に表示しても,映像表示しない期間を短縮することができ,
観察者にフリッカを低減した左右両眼毎の方向像を投影できる。」
【0152】
「また,本発明の請求項26記載の立体映像表示装置によれば,透過型
映像表示板における映像表示信号の入力時の画面走査時の周波数を高くし
て,映像表示信号と全画面黒表示信号の間に入力信号のない期間を設ける
ことにより,LCD使用の透過型映像表示板に表示しても,方向像を表示
する効率を向上することができ,観察者に輝度の向上した左右両眼毎の方
向像を投影できる。」
【0153】
「また,本発明の請求項27記載の立体映像表示装置によれば,映像表
示に同期して前記分割光源の発光を行うことにより,シャッタ用透過型映
像表示板を使用して遮光を行う分割光源を使用しても,分割領域の発光を
時間的に分離することができ,観察者に左右両眼毎の方向像を投影でき
る。」
イ前記認定事実によれば,本件原出願明細書においては,【発明の名称】が
「立体映像表示装置」であり,【特許請求の範囲】の請求項1ないし27の
すべてが,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順
次に切り換える立体映像表示装置であることを構成要件とするものであり,
【産業上の利用分野】においても,立体映像表示装置に関する発明であるこ
とが明記されている。
また,証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書においては,【従来の技
術】【0002】ないし【0032】においても,立体映像表示装置に関する技術の
記載しかなく,【課題を解決するための手段】【0033】ないし【0086】にお
いても,【実施例】【0087】ないし【0125】の実施例1ないし27のすべて
についても,【発明の効果】【0126】ないし【0153】においても,左右各眼
用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体
映像表示装置に関する記載しかなく,平面映像表示装置についての記載はな
いことが認められる(なお,本件原出願の請求項15に係る発明については
後述する。)。
ウ分割出願が行われると,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたも
のとみなされるが,出願日の遡及が認められるためには,分割出願に係る発
明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範
囲内のものであることを要する。
エ本件において,本件出願が分割出願の適法要件を満たすものであるかどう
かについて検討する。
前記認定のとおり,本件原出願明細書には,従来の技術には立体映像表示
装置の記載しかなく,発明の名称,特許請求の範囲,産業上の利用分野,課
題を解決するための手段,実施例,発明の効果のいずれにおいても,左右各
眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立
体映像表示装置のみが記載されており,立体映像の表示機能を備えない装置
(二次元の映像のみを表示する装置)に関する記載は一切なく,明細書又は
図面に記載された事項の範囲内とすることもできない。
したがって,仮に,本件発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の
表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置についての発明では
なく,二次元の映像のみを表示する装置をも含む表示装置についての発明で
あると解釈すると,本件明細書には,本件原出願明細書又は図面に記載した
事項の範囲内ではないものが含まれることになり,本件出願は分割出願の適
法要件を満たさないことになってしまう。
オそして,本件出願が分割出願の適法要件を欠くとすれば,出願日の遡及は
認められず,現実の出願日である平成15年10月2日が本件発明の出願日
となる。
証拠(甲3)によれば,同出願日の前である平成8年12月24日には既
に本件原出願の発明が公開されていることが認められる。また,前記認定事
実によれば,本件発明は,その公開特許公報において,請求項22ないし2
6及びこれに関する【発明が解決しようとする課題】の【0015】【0032】,
【課題を解決するための手段】の【0054】ないし【0058】,【作用】の【00
81】ないし【0086】,【実施例】の【0119】ないし【0125】の記載のとおり,
既に開示されていることが認められる。
とすれば,本件発明は新規性を欠くものであり,特許法29条1項3号の
規定する発明に該当し,同法123条1項2号に基づき,特許無効審判によ
り無効にされるべきものとなってしまう。
他方で,本件発明は,二次元映像のみを表示する装置を含まず,左右各眼
用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体
映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であると解すれば,同発明は,
本件原出願明細書に記載されたものであるから,本件出願が分割出願の適法
要件を欠くことにはならず,上記無効理由があるとはいえない。
この点からみても,本件発明は,その技術的範囲の解釈に当たっては(発
明の要旨の認定は別論である。),左右各眼用に対応して透過型映像表示板
の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された
表示装置の発明であるとすべきである。したがって,構成要件Dは,本件発
明の技術的範囲の解釈としては「立体映像表示装置」と解釈するのが相当で
ある。
(4)原告の主張について
ア特許庁審査官の認識について
原告は,本件原出願拒絶理由通知書の記載からすれば,審査官は,本件原
出願は立体映像表示装置と二次元表示装置の双方を含んだ発明であると理解
していたのであり,本件出願は,立体表示装置に限る課題ではなく,面順次
走査液晶表示器の画像一般に対する課題である疑似インパルス化技術に関す
る発明であることを示すため,発明の名称を本件原出願の「立体映像表示装
置」からLCD一般が対象となる「表示装置」に変更して出願したと主張す
る。
また,原告は,本件出願の特許庁審査官作成の特許メモにおいて,「左右
視差画像等の異なる画像」と記載されていることから,審査官は,「異なる
画像」は「左右視差画像」に限定されないという認識であった,出願情報で
は,本件原出願の審査時にはなかった「黒画面」が新たに審査官フリーワー
ド記事として設定されているので,審査官は,本件発明が立体映像表示装置
には限定されない,全画面黒表示の信号処理を行う液晶パネルを備えた表示
装置であると認識していたと主張する。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づい
て定めるべきものであり,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,
特許請求の範囲に記載された用語を解釈するものとされているのであるから
(特許法70条1項,2項),当該出願を取り扱った特許庁審査官の当該出
願についての認識の内容は,特許発明の技術的範囲の決定に影響を及ぼすも
のではない。したがって,原告の主張は失当である。
なお,証拠(甲4)によれば,本件原出願拒絶理由通知書には,「請求項
22∼26に係る発明は,LCDを用いた(但し,クレーム中では規定され
ていない)場合にも,方向像を時間的に分離する発明である。」という記載
があることが認められ,その中に「立体映像表示装置についての発明」とい
った表現はない。しかし,本件原出願明細書によれば,前記認定のとおり,
本件原出願の特許請求の範囲の請求項22ないし26は,いずれも左右各眼
用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える方法
による「立体映像表示装置」を構成要件とする記載がされているのであるか
ら,本件原出願の請求項22ないし26に係る発明は,いずれも左右各眼用
に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映
像表示装置に関する発明であることは明らかであって,本件原出願拒絶理由
通知書の記載も,請求項22ないし26に係る発明が,左右各眼用に対応し
て透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装
置に限定されないことを意識して敢えて「立体映像表示装置」という文言を
記載しなかったのではなく,同発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示
板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置に関する発明で
あることが明らかであることから,特にその旨を記載しなかったにすぎない
と理解できる。
また,証拠(甲9,10)によれば,原告が指摘する特許メモには,「左
右視差画像等の異なる画像」という記載があること,出願情報には「黒画
面」が審査官フリーワード記事とされていることが認められるが,特許要件
の有無の審査においては,進歩性の判断等も含めて,周辺の技術について調
査することもあるのであって,上記の事実それ自体が本件発明が二次元表示
装置を含むものであることの根拠となるものではない。
イ二次元映像表示装置に関する記載について
(ア)原告は,本件明細書【0014】【0027】において「通常の2次元映像を
表示する場合でも」「通常の2次元映像表示装置に切り替えた場合に」と
いう記載があることからも,本件発明に二次元映像表示装置が含まれると
主張する。
(イ)証拠(甲2)によれば,本件明細書には,次の記載があることが認め
られる。
【発明が解決しようとする課題】【0014】
「また,透過型映像表示板に表示する映像をフィールド毎に異なる方向
像とせず同一映像の繰り返しと線状光源の同時照射によって通常の2次元
映像表示をする場合でも,観察位置が立体表示と同様に1カ所しかないと
いう問題点があった。」
【0027】
「また,通常の2次元映像表示に切り換えた場合に,広い範囲で観察で
きる立体映像表示装置を得るものである。」
【発明を実施するための最良の形態】【0059】
「実施例15.図17は本発明の実施例15における立体映像表示装置
を上方から見た原理図である。図において,26は分割光源3を全面で発
光させる全面発光回路,27は立体(3次元)表示と,2次元表示を切り
換える平面表示変更回路である。図17の例では,映像R,Lを時間交互
に切り換えと分割光源3の分割制御による立体(3次元)表示を,片眼用
映像の表示と分割光源3の全面発光回路26による2次元表示に平面表示
変更回路27によって選択できる。この結果,通常の立体でない映像を広
い範囲で観察できる。」
(ウ)また,証拠(甲3)によれば,本件原出願明細書には,次の記載があ
ることが認められる。
【特許請求の範囲】【請求項1】【請求項15】
前記認定のとおり。
【発明が解決しようとする課題】【0013】【0028】
本件明細書の【0014】【0027】と同じ。
【課題を解決するための手段】【0047】
「また,本発明の請求項15に係る立体映像表示装置は,透過型映像表
示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割光源の全
面発光手段を設けたものである。」
【作用】【0074】
「また,本発明の請求項15に係る立体映像表示装置においては,透過
型映像表示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割
光源の全面発光手段を設けることにより,通常の2次元映像表示を広い範
囲で観察することができる。」
【実施例】【0112】
「実施例15.図17は本発明の実施例15における立体映像表示装置
を上方から見た原理図である。図において,26は分割光源3を全面で発
光させる全面発光回路,27は立体(3次元)表示と,2次元表示を切り
換える平面表示変更回路である。図17の例では,映像R,Lを時間交互
の切り換えと分割光源3の分割制御による立体(3次元)表示を,片眼用
映像の表示と分割光源3の全面発光回路26による2次元表示に平面表示
変更回路27によって選択できる。この結果,通常の立体でない映像を広
い範囲で観察できる。」
【発明の効果】【0141】
「また,本発明の請求項15記載の立体映像表示装置によれば,透過型
映像表示板の時分割を通常表示に切り換える平面表示変更手段と,分割光
源の全面発光手段を設けることにより,通常の2次元映像表示を広い範囲
で観察することができ,両表示方式を任意に切り換えることができる。」
(エ)前記認定事実によれば,原告が指摘する本件明細書の記載は,本件原
出願の請求項15に係る発明(以下「請求項15発明」という。)に関す
る記載であることが認められるところ,請求項15発明は,透過型映像表
示板,凸レンズ板,時分割して表示された左右2つの方向像を観察者の左
右両眼へ選択的に投影して立体映像を表示するための分割光源,表示する
方向像を時間交互に切り換える時分割手段,方向像の時間交互の切り換え
に対応して左右2分割した領域で交互に発光するように制御する分割制御
手段で構成したことを特徴とする立体映像表示装置(請求項1の発明)に
おいて,a)立体映像表示と,b)透過型映像表示板への片眼用画像の表示と
分割光源の全面発光による平面映像表示とを,任意に切り換えられるよう
に構成した立体映像表示装置であることが認められる。
言い換えれば,請求項15発明は,立体映像表示装置であって,二次元
映像も表示できる構成としたものにすぎず,立体映像の表示機能を備えな
い装置(二次元の映像のみを表示する装置)ではない。したがって,請求
項15発明があることによって,本件発明の技術的範囲が,立体映像表示
機能を備えない表示装置も含むことになるものではない。
よって,原告の主張は採用できない。
ウ原告は,立体映像でも表示された対象が平面内でしか移動しない画像の場
合,そこに表示された映像は画像であり,かつ平面内で移動しているため時
間的に「異なる画像」が表示され,立体映像表示装置が表示する立体画像は,
平面画像で時間的に「異なる画像」であることから,立体画像は平面画像を
包摂し,立体映像表示装置による発明は,平面しか表示しない平面映像(二
次元映像)表示装置にも適用されると主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件明細書の記載によれば,本件発明は左右
各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える
立体映像表示装置の発明であると解すべきであり,本件原出願明細書の記載
からしても,分割の適法要件を満たしているという前提に立てば,本件発明
は左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り
換える立体映像表示装置の発明であると解さざるをえない。そのような表示
装置が平面画像を表示することも可能であるとしても,そのことにより立体
映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)までも
が本件発明の技術的範囲に含まれるようになるものではない。
(5)構成要件Bの解釈
前記認定のとおり,本件発明は,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各
映像を表示し,左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,
左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影する方法による立体映像表示装置にお
いて,透過型映像表示板にLCDを使用した場合,左眼用と右眼用の各映像
を完全に時間的に分離できないという問題点を解決するため,片方の眼用の
方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前に,いったん全画
面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより,最初に書き
込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を
時間的に完全に分離することを実現した発明である。そして,本件発明は,
左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を
表示する立体映像表示装置の発明である。
したがって,構成要件Bの「異なる画像を順次表示する」は,左眼用と右
眼用の各映像を表示するための左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換
えて,左眼と右眼にそれぞれの異なる方向像が分離投影されるということで
あるから,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示する」と
いう意味と解される。
原告は,「異なる画像」とは,連続する画像信号が時間的に変化している
画像全般,すなわち立体画像と平面画像の両方をいい,動画像は,異なる画
像を順次表示させることで動きを表現するものであるから,二次元動画像も
構成要件Bに含まれると主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼
用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置に関
する発明であって,「異なる画像を順次表示する」について二次元動画像ま
で含めて解釈する余地はないから,原告の主張は採用できない。
2被告製品の本件発明の技術的範囲への属否について(争点1)
(1)被告製品の構成のうち構成要件Dに対応する点について
ア被告製品の構成のうち構成要件Dに対応する点の構成(構成dないし構成
d")について,原告は,被告製品は構成dすなわち「表示装置。」であると
主張し,被告は,被告製品は構成d"すなわち「二次元映像表示装置。」であ
ると主張する。
被告製品が,被告が主張するとおりの「二次元映像表示装置。」(構成d")で
あるとすれば,構成要件Dを満たさないことになるので,まず,この点につ
いて判断する。
イ証拠(各事実の末尾に記載)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
(ア)被告製品はいずれも液晶テレビである(争いがない)。
(イ)被告製品において受信可能な放送/メディアは,地上アナログ放送
(アナログCATVを含む。),地上デジタル放送,BS/110度CS
デジタル放送,デジタルCATVである。被告製品の入力端子は,ビデオ
・Sビデオ入力(前面・後面各1個),D端子入力(種類「D4」×2
個),コンポーネント入力1個,PC入力(映像,音声各1個)である。
(甲17)
これらは,いずれも通常は二次元映像を伝送・入力するものである。
(ウ)立体映像表示をする方法としては,何らかの光学作用で立体映像を構
成する多方向像のうち,各方向像に対応する表示光線を観察者の目の位置
で収束させ,それぞれの収束点が横方向に観察者の左右両眼の間隔になる
ようにすることで,その観察位置に両眼を置くと自律的に左右両眼にそれ
ぞれ左右映像が分離投影され,立体映像として観察できることが知られて
いる(甲3の【発明の詳細な説明】【背景技術】【0002】)。
ウ被告製品は二次元映像表示装置かどうかについて
上記認定事実によれば,被告製品は,家庭等で使用される液晶テレビであ
って,受信可能な放送/メディアも通常,二次元映像を伝送しているもので
あり,入力端子も二次元映像を入力するものであることが認められる。
そして,立体映像表示をする方法としては,立体映像を構成する多方向像
があり,各方向像に対応する表示光線をそれぞれの収束点が観察者の左右両
眼の間隔になるようにして観察者の目の位置で収束させ,観察者の左右両眼
にそれぞれ左右映像が分離投影する方法が知られていることが認められると
ころ,被告製品が,このような方法を用いるために必要とされる,方向分離
されるバックライト光を生成する構成,右眼用光源,左眼用光源,それぞれ
の光源からの光を右眼と左眼に集光するような凸レンズを用いて,右眼と左
眼とにそれぞれ異なる画像を投影させるようにする機能を有していることを
認めるに足りる証拠はない。
よって,被告製品は,立体映像を表示できないから立体映像表示装置では
なく,二次元の映像のみを表示する「二次元映像表示装置」であると認めら
れる。
したがって,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
エ原告の主張について
(ア)原告は,被告製品は,外部入力端子を有し,外部入力端子から左右画
像・左右信号を入力して左右信号・左右画像を表示することが可能であり,
これを制限する回路上の処理機能は,カタログ・現物のいずれにもないの
で,立体画像信号を入力して立体映像を表示することは可能であると主張
する。
確かに,被告パンフレットには,左右画像の入力を禁じる旨の文言はな
い。しかし,前記認定のとおり,被告製品が受信可能な放送/メディアは,
地上アナログ放送(アナログCATVを含む。),地上デジタル放送,B
S/110度CSデジタル放送,デジタルCATVであり,これらの放送/
メディアにおいては,通常,二次元映像の動画像信号が伝送されることは,
一般に広く知られた事実である。
また,仮に,被告製品について,外部入力端子から,左右画像を表示す
るための左右信号を入力したとしても,前記のとおり,立体映像を表示す
るためには,左右画像に対応する表示光線の各収束点が観察者の左眼,右
眼の各位置で収束させて,観察者の左右両眼にそれぞれ左右映像が時間を
隔てて別々に投影されることが必要であるところ,原告は,被告製品に,
このような装置が備わっていることを立証していない。
よって,仮に,被告製品において,左右画像を表示するための左右信号
を外部入力端子から入力可能であったとしても,被告製品が立体映像表示
をする機能を備えていると認めることはできない。
(イ)原告は,本来面順次の平面画像を表示するCRTにおいて,アタッチ
メント(素子ドライバ及びシャッタメガネ)を追加させることにより,時
分割された左右画像を交互に表示して立体画像を表示できる技術が公知で
あるところ,LCDもCRTと同等な特性を持っているので,被告製品に
おいても,アタッチメントの追加により,時分割された左右画像を交互に
表示して立体画像を表示できるはずであると主張する。
しかしながら,本件全証拠によっても被告製品が上記アタッチメントを
備えていると認めることはできない。そして,アタッチメントを追加すれ
ば立体映像を表示できるとしても,被告製品にはアタッチメントがない以
上,これを立体映像表示装置ということはできない。なお,被告製品が上
記アタッチメントとともに販売されているとか,もっぱらアタッチメント
とともに販売されているなどといった事情も認められない。
なお,証拠(甲2)によれば,本件明細書の【発明の詳細な説明】【技
術分野】【0001】において,「本発明は,眼鏡を必要としない立体映像表
示装置に関するものである。」と記載されていることからして,本件発明
は,眼鏡等のアタッチメントを使用しなくても「立体表示装置」である表
示装置についての発明であると理解すべきである。そして,被告製品がア
タッチメントなくして立体映像を表示できる表示装置であることを認める
に足りる証拠はない。
(ウ)原告は,被告製品の構成要件Dに対応する点について,構成dすなわ
ち「表示装置。」であると主張する。しかし,構成要件Dの技術的範囲は
「立体映像表示装置。」であるから,被告製品が「表示装置。」であると
しても,そのことは,被告製品が構成要件Dを充足しないとの前記認定に
反するものではない。
(2)被告製品の構成のうち構成要件Bに対応する点について
ア被告製品の構成
被告製品は,地上アナログ,地上デジタル,衛星放送等のメディアを通じ
て,二次元の動画像に関する信号,すなわち経時に変化する一連の一方向の
画像に関する信号を受信し,経時に変化する一連の一方向の画像を表示する
表示装置であることが認められる。したがって,被告製品の構成のうち構成
要件Bに対応する点は,被告の主張するとおり「前記LCDに動画像を表示
する場合において,」との構成を備えているものと認められる。
イ構成要件Bの充足性
構成要件Bが,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り換えて順次表示す
る」という意味であることは前示のとおりである。他方,被告製品の上記
「動画像」とは,「経時に変化する一連の一方向の画像」であって「左右各
眼用の各画像を時分割的に切り換えたもの」ではないことは前記アのとおり
である。したがって,被告製品は,「左右各眼用の各画像を時分割的に切り
換えて順次表示する」ために必要な表示装置の構成を備えるものとは認めら
れない。
よって,被告製品は構成要件Bを充足しない。
(3)まとめ
以上のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件B,Dを充足し
ないから,本件発明の技術的範囲に属するとはいえない。
3結論
よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない
から棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官村上誠子
裁判官高松宏之は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官山田知司

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