弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は,宗教団体アレフの信者である被控訴人らが,控訴人吹田市に転入したと
して,平成12年7月11日,控訴人吹田市長に転入届を提出したのに対し,被控
訴人吹田市長がこれを受理しなかった(以下「本件不受理処分」という。)のは違
法であるとして,控訴人吹田市長に対し,本件不受理処分の取消しを求める(以下
「本件訴え」という。)とともに,控訴人吹田市に対し,国家賠償法1条に基づ
き,損害賠償としてそれぞれ金100万円及びこれに対する平成12年7月11日
(本件不受理処分の日)以降の遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,後記2,3のとおり
付加訂正するほか,原判決の事実及び理由,第2の1ないし3(原判決2頁16行
目から11頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の訂正
(1) 原判決の事実及び理由,第2の1(2)アの4行目から5行目にかけての
「吹田市市民課の担当職員は」を「控訴人吹田市長は,同市市民課の担当職員を通
じて」と改める。
(2) 原判決の事実及び理由,第2の1(3)の2行目から4行目までを,次の
とおり改める。
 「被控訴人らは,大阪府知事に対し,平成12年7月24日,本件不受理処分の
取消しを求める審査請求をしたが,第1審の口頭弁論終結日には,いまだ裁決はさ
れていなかった。」
(3) 原判決の事実及び理由,第2の3-2(1)(被告らの主張)ウの4行目
から5行目にかけての「アレフの地域住民に対する恐怖感や不信感」を「地域住民
のアレフに対する恐怖感や不信感」と改め,同(1)(原告らの主張)オの18行
目の「破壊活動防止法の適用は,平成9年1月,棄却され」を「破壊活動防止法に
定める処分の請求は,平成9年1月,棄却され」と改め,同カの3行目の「転入届
の提出があった場合には,」の後に「これを受理し,」を加え,同カの5行目から
6行目にかけての「この義務を怠っているのであるから」を「この義務を怠ったの
であるから」と改める。
3 控訴人らの主張(控訴の理由)
(1) 本件不受理処分の適法性について
 転入届の受理に関する住民基本台帳法の規定は,制度趣旨だけから解釈するのは
妥当ではなく,特別の事情がある場合には,憲法上の公共の福祉の観点から,地域
の平穏と地域住民の安全確保という重大な要請との利益衡量によって,受理すべき
か否かを判断すべきである。
 住民基本台帳法によれば,転入者の住所の登録と公証を行うことにより,住民基
本台帳に記録した者について,当該地方公共団体の住民として受け入れ,各種行政
サービスを受ける立場が付与されることになるが,法律上明文の要件がないからと
いって,転入届の受理にあたり,居住関係以外の事由を考慮する余地がないと考え
るのは妥当でない。市町村長は,当該地方公共団体の地域の秩序を維持し,住民の
安全,健康及び福祉を保持すべき重大かつ基本的な責務を負っているところ,たと
え転入届を提出した者に当該市町村に居住している実態が認められ,形式的には住
民基本台帳法上の要件を満たしているような場合でも,転入届の受理によって当該
地方公共団体の秩序が破壊され,住民の生命や身体に対する安全が害される危険性
が高度に認められるような特別な事情がある場合にまで,当該市町村長に一律に転
入届の受理が義務づけられていると考えるべきではない。このような特別な事情の
ある場合には,地域の平穏と住民の安全確保のための必要かつ合理的な非常的措置
として,例外的に転入届を不受理とする処分をすることも許容されると考えるべき
であり,その結果,住民基本台帳法が実現しようとしている記録の正確性,統一性
が部分的に損なわれることとなっても,利益衡量上やむを得ないものと考えるべき
である。
 被控訴人らが所属するアレフの前身であるオウム真理教は,少なくとも一時期,
一種の内戦を想定して活動を行い,松本サリン事件や地下鉄サリン事件等の無差別
大量殺人事件を起こした団体であり,アレフ教団と名称が変更された現在において
も,教義の面では依然として実質的な相違はなく,教化活動や修行の面でも基本的
にオウム真理教のころの手法を引き継いでおり,教団の反社会的体質はほとんど変
わっていない。したがって,現在は観察処分に付されているとはいえ,アレフの地
域住民の生命や安全に対する具体的危険性は依然払拭されていない。
 したがって,本件は,上記の特別な事情がある場合に当たるから,本件不受理処
分は適法である。
 ちなみに,大阪府知事は,平成13年8月6日,被控訴人らがした審査請求を棄
却するとの裁決をしたが,その理由中で,住民基本台帳法に基づく転入届に関する
事務も,住民自治を含む地方自治の本旨に基づいて行う必要があり,地域の秩序維
持や住民の安全確保という強い要請がある場合には,転入届を不受理とすることが
あると解すべきであるとし,本件不受理処分は,必要かつ合理的な非常的措置とし
て,住民基本台帳法に反しないと判断している。
(2) 損害賠償について
 上記のように,本件不受理処分は適法であるから,控訴人吹田市が被控訴人らに
対し損害賠償責任を負うことはない。
 仮に,本件不受理処分が違法であるとしても,単に住民基本台帳法の文言や趣旨
から転入届の不受理が許されないことが明白であるとの判断は早計かつ不当であ
り,控訴人吹田市長としては,上記のような特別な事情のもとで,地域住民の生活
の平穏と安全を守るため,非常的措置として本件不受理処分をしたのであるから,
被控訴人吹田市長に過失はなかった。
第3 当裁判所の判断
1 本件訴えの適法性(本案前の争点)について
 当裁判所も,審査請求がされた日から3か月が経過したことにより本件訴えの瑕
疵は治癒されたものと判断するが,その理由は,原判決の事実及び理由,第3-1
に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 本件不受理処分の適法性(本案の争点(1)について)
(1) 当裁判所も,本件不受理処分は違法であると判断するが,その理由は,後
記(2),(3)のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由,第3-2の
1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 原判決の訂正
ア 原判決の事実及び理由,第3-2の1(1)アの3行目の「選挙名簿」を「選
挙人名簿」と改め,同アの9行目の「備え」の後に「(同法5条)」を,同アの1
1行目の「とされ」の後に「(同法6条)」をそれぞれ加え,同イの2行目から3
行目にかけての「法の規定」を「同法の規定」と,同イの6行目の「転居」を「転
入」と,同イの11行目の「同法51条」を「同法51条2項」とそれぞれ改め
る。
イ 原判決の事実及び理由,第3-2の1(3)5行目の「住民基本台帳法15条
は,」を削除する。
ウ 原判決の事実及び理由,第3-2の1(6)の2行目から7行目までを,次の
とおり改める。
 「以上検討したとおり,住民基本台帳法上,市町村長は,当該転入者が危険性を
有することを理由として転入届を不受理とする権限を有しないと解すべきところ,
証拠(甲1号証の1ないし3,2号証の1ないし3,9,10)及び弁論の全趣旨
によれば,被控訴人らは,控訴人吹田市長に転入届を提出した当時,この転入届に
記載された住所に転入していたことが認められるから,控訴人吹田市長には,被控
訴人らが提出した転入届を受理し,住民票を編成する義務があったというべきであ
る。したがって,これを不受理とした本件不受理処分は,住民基本台帳法に反し,
違法であるといわざるを得ない。」
(3) 控訴人らは,「転入届の受理については,特別の事情がある場合には,憲
法上の公共の福祉の観点から,地域の平穏と地域住民の安全確保という重大な要請
との利益衡量によって判断すべきであり,法律の明文の要件がないからといって,
転入届の受理にあたり,居住関係以外の事由を考慮する余地がないと考えるのは妥
当ではなく,市町村長には,転入届の受理によって当該地方公共団体の秩序が破壊
され,住民の生命や身体に対する安全が害される危険性が高度に認められるような
特別な事情がある場合にも,一律に転入届の受理が義務づけられているのではな
い。このような特別な事情がある場合には,地域の平穏と住民の安全確保のために
必要かつ合理的な非常的措置として,例外的に転入届を不受理とすることも許容さ
れると考えるべきである。」旨主張する。
 しかしながら,前記引用の原判決説示のとおり(原判決13頁6行目から15頁
9行目まで),住民基本台帳法及び同法施行令の各定め(制度の目的,住民基本台
帳の備付け及び住民票の編成,住民票の記載事項,転入届の記載事項,市町村長等
の責務,正当な理由がなくて届出をしない者に対する過料による制裁等,とりわ
け,同法施行令11条は,「市町村長は,法の規定による届出があったときは,当
該届出の内容が事実であるかどうかを審査して,住民票の記載を行わなければなら
ない。」と定めていること)に照らすと,転入届を受理するか否かは,転入の事実
の有無のみによって決すべきものであり,非常的措置という理由のもとに,転入の
事実以外の事実を考慮して転入届を不受理とする措置を認めることは,住民に関す
る記録を正確かつ統一的に行うという住民基本台帳法の目的(同法1条)に反する
ことになるし,また,転入届を不受理としても,この処分には,届出人が現実に当
該市町村に居住することを止める法的効力はないのであるから,転入届の受理に際
し,地域の平穏や安全を確保するという目的のもとに,届出人の属する団体の危険
性の有無や,転入により当該地方公共団体の秩序が破壊され,住民の生命や身体に
対する安全が害される危険性があるかどうかといった事実を考慮する余地はないも
のというほかない。したがって,控訴人らの上記主張は,住民基本台帳法の趣旨,
目的及びその法律要件に反する独自の見解に基づくものというほかなく,採用の限
りでない。
3 損害賠償(本案の争点(2),(3))について
(1) 当裁判所も,控訴人吹田市は,被控訴人ら各自に対し,国家賠償法1条に
基づく損害賠償として金20万円及びこれに対する民法所定の遅延損害金を支払う
義務があるものと判断するが,その理由は,後記(2)のとおり付加するほか,原
判決の事実及び理由,第3-2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人吹田市は,「単に住民基本台帳法の文言や趣旨から転入届の不受理
が許されないことが明白であるとの判断は早計かつ不当であり,控訴人吹田市長と
しては,前記のような特別な事情のもとで,地域住民の生活の平穏と安全を守るた
め,非常的措置として本件不受理処分をしたのであるから,被控訴人吹田市長に過
失はなかった。」旨主張する。
 しかしながら,転入届が提出された場合に,控訴人吹田市が主張するような事実
を非常的措置として考慮し,転入届を不受理とする余地がないことは,前記説示の
とおりであり,このことは住民基本台帳法及び同法施行令の文言から認識すること
ができたものというべきである。しかも,控訴人吹田市長が,前記のような事実を
考慮して転入届を不受理とすることができると解釈したことに相当の根拠があった
とも認められない。したがって,控訴人吹田市の上記主張は採用することができな
い。
4 結語
 以上のとおり,被控訴人らの控訴人吹田市長に対する各請求はいずれも理由があ
るが,被控訴人らの控訴人吹田市に対する各請求は,損害賠償として被控訴人ら各
自に対し金20万円及びこれに対する平成12年7月11日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でいずれも理由があり,
その余はいずれも理由がない。よって,原判決は相当であって,本件各控訴はいず
れも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 大谷種臣
裁判官 佐藤嘉彦
裁判官 端二三彦

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