弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,愛知県の住民である被控訴人が控訴人に対し,α西部地区教科用図書採
択協議会の平成8年度開催分議事録について,愛知県公文書公開条例(平成11年
7月16日改正前のもの,以下「本件条例」という。)に基づき公開請求をしたと
ころ,控訴人が非公開決定(以下「本件処分」という。)をしたため,その一部の
取消しを求めた事案であり,原審が本訴請求を認容したため,これを不服とする控
訴人が控訴したものである。
1 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決4頁17行目の「α
西部地区の」の次に「市及び町の」を加え,同5頁12行目の「α西部地区に所属
する」を「α西部地区の」と改めるほか,原判決の事実及び理由欄の「第2の1な
いし3」に摘示のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の補足的主張
(1) 本件条例8号該当性について
① 平成13年度の中学校の社会科歴史教科書の採択において,「新しい歴史教科
書を作る会」のメンバーが執筆に加わった扶桑社の歴史教科書の採択に関連して,
全国各地で,教育委員会に対して,政治的圧力,抗議あるいは妨害行為がなされ,
その影響を受けて,教科書採択が決定されたといわざるをえない事例が多々あっ
た。このような異例な事態を受け,平成13年7月には,文部科学省は,「市民が
採択に意見を言うこと自体は何の問題もないが,度を過ぎた組織的な働きかけが公
正な判断に影響を与えるようなら問題」と表明し,同月24日には,文部科学大臣
は,全国都道府県教育委員会連合会総会において,委員自らの判断で採択を行うよ
う異例の呼びかけを行った。加えて,東京都国立市においては,教科書採択も終了
した同年11月2日に,「新しい歴史教科書を作る会」の中学歴史教科書を支持し
た教育委員を,事実上更迭してしまった。このように,教科書採択に係る協議会等
での委員の発言については,国民,政治団体,さらには議会等,多数のものが多大
な関心を寄せており,仮に,その協議会での発言が全て明らかになれば,多大な反
響を呼び,ひいては委員の身分にも影響を及ぼしかねない事態となる。
② ところで,教育基本法10条1項は「教育は,不当な支配に服することなく国
民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」と規定し,義務教育
諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法1条は「党派的勢力の
不当な影響又は支配から守り,もって義務教育の政治的中立を確保するとともに,
これに従事する教育職員の自主性を擁護することを目的とする。」と規定し,教育
基本法6条1項において,学校教員が全体の奉仕者であることを規定し,教育公務
員特例法1条は「教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の
特殊性に基づき・・・」と規定するように,教育ひいては教科書の採択に関しては
民主主義の原則である多数の支配になじまない特殊性を有するものであって,教育
公務員といえる本件協議会の委員ないし研究員にあっても,政治的に中立であると
ともに民意からも独立であるべきであり,教科書の採択の公正さ及び合理性の確保
は,委員ないし研究員の自由闊達な意見交換を保障することにより図るべきである
とともに,本件協議会としての最終的な結論に至った合理的な理由を公表すること
により図れば足りることであり,本件公文書を公開する必要性は全くない。
③ しかるに,本件公文書を公開した場合には,本件協議会の平成8年度の委員名
簿及び研究員名簿は既に公開されているから,これに関わる各委員ないし研究員の
意見表明(内容)が明らかになり,当該意見を表明した委員への詮索に始まり,当
該委員への種々の批判等に発展しかねない事態となることは容易に推測される。今
後,本件協議会の議事録がすべて公開されることが予定されるとなれば,各委員な
いし各研究員は前記のような事態を回避すべく,多数意見に迎合したり,差し障り
のない意見に終始したり,表面的,形式的な意見表明に止まったり等することも,
十分あり得ることである。そのような事態になれば,本件協議会の会議は形式化,
形骸化し,真に公正かつ合理的な教科書採択が困難となることは明白であり,本件
公文書を公開することによって,今後の教科書採択事務に多大な支障を生じるもの
である。よって,本件係争情報は本件条例8号に該当する。
(2) 本件条例5号該当性について
 本件協議会の委員に控訴人(α教育事務所)の職員が選任されているが,そのこ
とのみをもって控訴人と本件協議会とが密接な関係が存在するとはいえない。本件
協議会は控訴人の諮問機関ではなく,α西部地区の一宮市教育委員会,β地方教育
事務協議会及びγ地方教育事務協議会の諮問機関であるから,たまたま控訴人が本
件公文書を所持しているからといって,控訴人独自の判断で公開・非公開を決定で
きるものではない。そして,本件協議会が本件公文書の公開を否定しているにもか
かわらず,控訴人がこれを公開することは,これにより本件協議会との関係で信頼
関係が損われることは明白である。
(3) 本件条例2号該当性について
① 本件公開請求は,条例改正前のものであり,改正後のように「当該個人が公務
員である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該
情報のうち,当該公務員の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分を除
く」旨明記されていないのであるから,本件条例2号を改正後の趣旨に沿うように
解釈するのは妥当ではない。
② しかも,教科書採択に関する委員の意見には,当該委員の主観あるいは個人的
見解が含まれていることは否定できず,公の事務に関する内容と明確に区別するこ
とは不可能であるから,個人識別情報として保護されるべきである。
3 被控訴人の反論
(1) 控訴人の前記主張(1)は否認ないし争う。
① 平成13年度の歴史教科書採択に関して生じた控訴人が主張する事態は,本件
公文書の公開とは全く関係づけられるものではない。
② 義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法が1条で
排除すべきとしている「党派的勢力の不当な影響又は支配」は,同法3条から明ら
かなように,特定の政党その他の政治的勢力を支持させる等の教育の教唆及び扇動
による影響あるいは支配を指している。本件議事録の公開は,いかなる意味でもそ
のような教唆及び扇動と関係があるとは考えられない。教育公務員特例法は,2条
で「教育公務員」を定義しており,本件協議会の委員等全てを教育公務員であると
する控訴人の主張は正当でない。教育基本法10条1項にいう「不当な支配」と
は,国家あるいは戦前の軍国主義的又は国家主義的勢力に相当するような政治的勢
力の支配を指すものと考えるべきであり,控訴人の主張は教育に関わる個々の国民
の声を排除することを正当化し,ひいては本件処分を正当化しようとするものであ
り,かえって教育基本法の趣旨に反するもので,到底認められない。
(2) 控訴人の前記主張(2),(3)も否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の本訴請求は認容すべきものと判断するが,その理由は
次のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第3」に説示のとおり
であるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁18行目の後に行を改めて次のとおり加える。
「(1) 本件条例8号の趣旨は,県又は国等の行う事務事業は,審議,検討,協
議等を繰り返しながら最終的な意思決定がなされるものであり,このような最終的
な意思決定に至る過程における情報の中には,公開することにより県民の誤解と混
乱を招き,又は行政内部の会議等における自由な意見交換が妨げられ,事務事業に
係る適正な意思決定に支障を生ずるものがあるので,これらの情報が記録された公
文書は,非公開とすることを定めたものである(甲4)。そして,本件係争情報
が,α西部地区の市及び町の教育委員会並びに地方教育事務協議会が教科書を採択
する際の意思決定過程における審議,検討に関する情報であることは前記(原判
示)前提事実(3),(6)により明らかである。そこで以下,本件係争情報が公
開されることにより,「当該事務事業又は同種の事務事業に係る意思決定に支障を
生じるおそれのあるもの」かどうかについて検討する。」
(2) 同8頁19行目の「(1)」を「(2)」と,同9頁17行目の
「(2)」を「(3)」とそれぞれ改める。
(3) 同8頁23行目の「平成11年度」から同26行目末尾までを次のとおり
改める。
「平成11年3月31日,文部省初等中等教育局長は,各都道府県教育委員会教育
長宛に,「平成12年度使用教科書の採択について(通知)」(文初教第146
号)と題して,教科書の採択は,教科書発行者の過当な宣伝行為に左右されること
なく,採択権を有する者の責任において,適正かつ公正に行われるように採択関係
者,市町村教育委員会に周知徹底を求める旨の通知を出すとともに,各教科書発行
者宛に,「教科書の採択に関する宣伝行為等について(通知)」(文初教第147
号)と題して,教科書に関する過当な宣伝行為は教科書採択の公正を誤らせる等と
して過当な宣伝行為等に関する自粛を求める通知を出していることが認められ
る。」
(4) 同9頁23行目冒頭から同10頁8行目末尾までを次のとおり改める。
「なるほど,教科書の採択は,外部からの不当な影響により採択結果が左右される
ことなく,採択権を有する者の責任において,適正かつ公正に行われる必要があ
り,本件協議会における審議,検討の結果は当該採択地区内の市町村教育委員会が
教科書を採択する際の重要な資料であるから,本件協議会における委員等の自由か
つ素直な意見交換が必要不可欠であると認められる。本件協議会の審議が従来から
非公開とされているのも,その趣旨に基づくものといえる。
 しかしながら,本件協議会の審議が非公開であることが,直ちにその審議の経過
及び結果を記録した議事録の非公開事由に結びつくものではなく,本件公文書の本
件条例8号該当性については個別具体的に判断されるべきものである。
 平成8年度の教科書の採択は,同年度開催の本件協議会における審議,検討を経
た上,同年8月15日に完了しているというのである(甲1,原審証人A)から,
平成9年2月4日付けでされた本件公開請求により,これを公開したとしても,同
年度の教科書の採択事務に支障を生じるものではない。
 次に,本件公文書の公開により,今後の教科書の採択という事務事業の意思決定
に支障を生じるおそれがあるかどうかについてみる。控訴人は,当審において,前
記のとおり平成13年度の中学校の社会科歴史教科書の採択において,「新しい歴
史教科書を作る会」のメンバーが執筆に加わった扶桑社の歴史教科書の採択に関連
して,全国各地で,教育委員会に対して,政治的圧力,抗議あるいは妨害行為がな
され,その影響を受けて,教科書採択が決定されたといわざるをえない事例が多々
あった(乙9の1ないし19,乙10)として,本件公文書が公開されると,本件
協議会における委員等の自由な意見交換が妨げられるおそれがある旨主張する。な
るほど,本件協議会の議事録が後日必ず公開されるということになれば,委員等が
主観的に何らかの精神的負担を感じることもあり得ることは否定できない。しかし
ながら,控訴人が主張する平成13年度の中学校の社会科歴史教科書の採択をめぐ
る状況と同様な状況が,平成8年度の本件協議会及び教科書の採択において存在し
たわけではなく,それ以上に本件係争情報の公開が今後の教科書採択について支障
を生じるおそれがあると認めるに足りる具体的な主張立証もない。」
(5) 同10頁12行目の「行政の公正かつ合理的な」を「教科書の採択という
事務の適正かつ公正な」と改め,同13行目末尾に「なお,控訴人は,当審におい
て,前記のとおり本件公文書を公開する必要性は全くない旨主張するが,本件条例
において8号該当性の他に公文書を公開する必要性の有無を要求した規定は見当た
らないから,同主張を採用することはできない。」を加える。
(6) 同頁15行目冒頭に次のとおり加える。
「前記(原判示)前提事実(3)のとおり,教科書採択地区内の市町村教育委員会
は,都道府県教育委員会の指導,助言又は援助により,教科書を採択することとさ
れているところ,控訴人の職員が本件協議会の委員として参加していたことから本
件公文書の写しを取得したものであることは,控訴人の自認するところであるか
ら,本件係争情報は本件条例5号所定の県と国等との間における協議,依頼,協力
等により実施機関が取得した情報であると認められる。そして,」
(7) 同頁23行目の「認められるから,」を「認められる。したがって,」と
改め,同24行目の「了解を得ないまま」の後に「(なお,乙4,原審証人Aの証
言によるも,本件協議会が,本件公開請求に対して,本件公文書の公開を否定する
態度に出ているとまで認めることはできない。)」を加える。
(8) 同11頁6行目の「個人に関する情報」を「個人に関する情報であって,
特定の個人を識別しうる情報」と改める。
(9) 同頁9行目の「いうべきである。」を「いうべきであり,このように解す
べきことは控訴人主張の本件条例の改正の前後で変わるものではない。」と改め
る。
(10) 同頁13行目の「認め難い。」を「認め難く,教科書の採択に関する委
員の意見に当該委員の主観あるいは個人的見解が含まれているとしても,それ故に
当該委員の意見が本件条例2号で非公開事由と定めた個人識別情報であるとは到底
いえない。」と改める。
2 以上の次第で,本訴請求を認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由が
ないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官 小川克介
裁判官 黒岩巳敏
裁判官 鬼頭清貴

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