弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人雨宮英明,同安藤信彦の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異
にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,事実誤認の主
張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論にかんがみ,被告人に対する特別背任罪の共同正犯の成否について,職権に
より判断する。
1原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実
関係は,次のとおりである。
(1)本件融資
株式会社B銀行(以下「B銀行」という。)は,平成12年9月22日,株式会
社C(以下「C」という。)に対し,57億円を貸し付けた(以下「本件融資」と
いう。)。本件融資の担保としては,千葉県木更津市内のCが所有するゴルフ場
(以下「本件ゴルフ場」という。)に係る極度額32億円の第1順位の根抵当権,
極度額36億4000万円の第3順位の根抵当権,被告人らによる連帯保証があっ
た。
(2)関係者の概況
ア本件当時,Dが代表取締役頭取を務めていたB銀行の財務状態は芳しくな
く,平成12年3月期には100億円以上の損失を出していた。また,大蔵省等に
よる検査,日本銀行の考査で,財務状況の悪化や審査管理の不十分さが度々指摘さ
れ,平成12年3月17日,金融監督庁は業務改善命令を発出した。
イE株式会社(以下「E」という。)は,被告人が設立した会社であり,本件
当時,被告人が代表取締役会長であった。被告人は,会社を次々と設立,買収する
などし,その結果,Eを中心とする十数社から成るAグループと呼ばれる企業集団
が形成されていた。Cは,平成12年4月,本件ゴルフ場の譲渡先となる会社とし
て被告人が設立した会社であり,本件当時,被告人が実質的な経営者であった。
(3)B銀行とEとの関係等
B銀行はAグループの企業に多額の融資をしていたが,同グループの融資先企業
は,Eを含め経営不振に陥り,元本はおろか利息の支払も満足にできず,慢性的な
資金難状態で実質的に破たんしていた。B銀行は,このような状況の下,返済期限
の延長や利息の追い貸し,利払資金のう回融資等に及び,不良債権であることの表
面化を先送りしてきた。その一方,Aグループの企業を他の不良債権の付け替え先
として利用していた。このようにして,Aグループの企業に対する貸出金残高は,
平成12年3月時点で200億円近くに上っていた。
(4)本件ゴルフ場等
Eは,F銀行やB銀行等から百数十億円の融資を受けて,本件ゴルフ場の開発を
行ったが,会員権の販売が低迷したため,造成工事を受注したG社に工事代金を一
部しか支払えないまま,平成9年9月,本件ゴルフ場を開場した。
しかし,会員権の販売状況は,計画を大幅に下回り,正会員権の価格を当初の約
3分の1にまで引き下げるなどしたものの,販売は伸びず,平成11年8月から平
成12年5月までの10か月間の実績は,約8293万円,年間換算で約9952
万円にとどまった。一方,平成12年9月時点で,会員数は約850名であり,償
還を要する預託金額は約41億円に達し,その償還開始時期も平成14年3月に迫
っていた。
また,Eのゴルフ場部門の経営状態も,赤字続きで,平成12年3月期には数千
万円の損失を出していたが,Eの資産としては,本件ゴルフ場以外にはB銀行の債
権の回収に充てられる見込みのものはなかった。
(5)本件融資に至る経緯等
ア前記(4)のとおり本件ゴルフ場の開発に関してEに融資していたF銀行とB
銀行以外の金融機関は,平成11年3月ころ,Eに対する約100億円の債権を不
良債権として処理すべく,これを極めて低額で外資系の会社に譲渡したことから,
被告人は,株式会社H(以下「H」という。)を経営するIに依頼し,同社を介し
てAグループの企業に,B銀行からの融資金で,同債権を低額で買い取らせた。
被告人は,G社にも同種の方法により債権譲渡を働きかけようと考え,自己の支
配する企業が,B銀行から融資を受けてEから本件ゴルフ場を買い取った上,G社
に相当額を支払ってEに対する債権を譲り受ける形を取るなどして,Eの債務圧縮
を実現する案(以下「再生スキーム」という。)をD及びB銀行の担当者(以下
「Dら」という。)に提案するとともに,IにG社との交渉を依頼した。この再生
スキームは,B銀行が,平成12年9月末を基準として行うこととされていた次回
の金融庁検査に対応する上でも,利点のあるものであった。
イ被告人は,Iから,本件ゴルフ場の評価額を60億円から70億円とする不
動産鑑定評価書を入手することができれば,G社に対する交渉材料として利用でき
る旨言われ,評価額が上記金額となる不動産鑑定評価書を作成させることとし,そ
の旨不動産鑑定士に依頼した。不動産鑑定士は,求めに応じて本件ゴルフ場の価格
を67億5273万円とする不動産鑑定評価書を作成し,Eに提出した。同鑑定評
価書は,Iに提供され,さらに,本件融資の決定に当たってはB銀行にも提供され
た。しかし,本件当時の本件ゴルフ場の客観的な担保価値は,十数億円程度にすぎ
ないものであった。
ウ被告人とDらとの間での話合いの結果,本件ゴルフ場の売買代金の支払名目
でなされる本件融資金のうち,約25億円をAグループの企業のB銀行に対する債
務の返済に,約17億円をEのG社に対する債務の返済に,約5億円をHへの手数
料等の支払に,約4億5000万円をAグループがB銀行の増資を引き受けた見返
りに行われた融資の返済に,約2億円をCの運転資金及びホテルJに対するB銀行
からのう回融資の返済等に,約3億円をその他諸経費の支払にそれぞれ充てること
とし,本件融資金額を57億円とすることが決まった。その結果,平成12年9月
5日,EとCとの間で,Cが約41億円の預託金返還債務を引き継いだ上,本件ゴ
ルフ場を譲り受けるとの売買契約が締結された。また,同月11日,E,G社及び
Hの間で,①Eは,G社に対する合計約156億円の債務のうち,17億円を支払
う,②G社は,Hに,Eに対する上記債権の残額を300万円で譲渡する,③G社
は,本件ゴルフ場における自社の担保権の抹消に同意するなどの合意が成立した。
エ本件融資については前記(1)のとおり被告人らによる連帯保証があったもの
の,これらの連帯保証人に本件融資金を返済する能力はなく,また,C,更にはE
にも,本件ゴルフ場以外には本件融資金の返済に充てられるべき資産はなかったと
ころ,本件当時の本件ゴルフ場の客観的な担保価値は前記イのとおりであって,本
件融資は担保価値の乏しい不動産を担保に徴求するなどしただけのものであった。
本件当時のEの経営状態は前記(3)のとおり実質的に破たん状態であったところ,
本件ゴルフ場の会員権の販売状況,経営状態も,前記(4)のとおり劣悪な状況にあ
り,会員権の販売や営業収入の増加により本件融資金の返済が可能であったとは到
底いえない。本件融資は,借り主であるC,更にはEが貸付金の返済能力を有さ
ず,その回収が著しく困難であったものである。
そうすると,B銀行における資金の貸付け並びに債権の保全及び回収等の業務を
担当していたDらは,同銀行の資産内容を悪化させることのないよう,貸付けに当
たっては,回収の見込みを十分に吟味し,回収が危ぶまれる貸付けを厳に差し控
え,かつ,十分な担保を徴求するなどして債権の保全及び回収を確実にするとの任
務を有していたところ,本件融資の実行は,同任務に違背するものであった。
(6)関係者の認識等
アDらB銀行の担当者の認識
Dらは,本件融資について,借り主であるC,更にはEが貸付金の返済能力を有
さず,その回収が著しく困難であり,前記の67億余円という不動産鑑定評価額が
大幅な水増しで,本件ゴルフ場の担保価値が乏しく,本件融資の焦げ付きが必至の
ものであると認識していた。しかし,本件融資を実行しない場合,Eは早晩経営が
破たんし,そうなれば,E等とB銀行との間の長年にわたる不正常な取引関係が明
るみに出て,Dらは経営責任を追及されるであろうし,前記のEのG社に対する債
務の処理ができなければ,金融庁からの更に厳しい是正措置の発出も必至の状況に
あったから,Dらは経営責任を追及される状況にあったものというべく,本件融資
はDらの自己保身のためであるとともに,Eの利益を図る目的も有していた。
イ被告人の認識
被告人は,本件融資について,その返済が著しく困難であり,本件ゴルフ場の担
保価値が乏しく,本件融資の焦げ付きが必至のものであることを認識しており,本
件融資の実行がDらの任務に違背するものであること,その実行がB銀行に財産上
の損害を加えるものであることを十分に認識していた。
そして,被告人の経営するE等はB銀行との間で長年にわたって不正常な取引関
係を続けてきたものであるところ,本件融資の実行はEの経営破たんを当面回避さ
せるものであり,それはDらが経営責任を追及される事態の発生を回避させるとい
うDらの自己保身につながる状況にあったもので,被告人はDらが自己の利益を図
る目的も有していたことを認識していた。
2以上の事実関係のとおり,被告人は,特別背任罪の行為主体の身分を有して
いないが,上記認識の下,単に本件融資の申込みをしたにとどまらず,本件融資の
前提となる再生スキームをDらに提案し,G社との債権譲渡の交渉を進めさせ,不
動産鑑定士にいわば指し値で本件ゴルフ場の担保価値を大幅に水増しする不動産鑑
定評価書を作らせ,本件ゴルフ場の譲渡先となるCを新たに設立した上,Dらと融
資の条件について協議するなど,本件融資の実現に積極的に加担したものである。
このような事実からすれば,被告人はDらの特別背任行為について共同加功したも
のと評価することができるのであって,被告人に特別背任罪の共同正犯の成立を認
めた原判断は相当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官才口千晴裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
泉徳治裁判官涌井紀夫)

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